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  • 特開-チューブポンプ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184169
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】チューブポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04C 5/00 20060101AFI20231221BHJP
   F04C 15/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F04C5/00 341C
F04C15/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098158
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】吉元 健史
(72)【発明者】
【氏名】松崎 光正
【テーマコード(参考)】
3H044
【Fターム(参考)】
3H044CC11
3H044DD03
3H044DD05
(57)【要約】
【課題】 弾性チューブ内で発生する脈動を抑制する。
【解決手段】 略馬蹄形に形成された側壁11aに沿って大径チューブ1a(弾性チューブ)が配設されるハウジング11と、上記ハウジング11の側壁11aに沿って移動するローラ13とを備えたチューブポンプ2に関する。
上記側壁11aに、大径チューブ1aを圧迫して閉塞させる閉塞区間Aと、上記回転中心より徐々に離隔する形状を有した離脱区間Bとの間に、上記閉塞区間よりも大きな半径の円弧を有した圧力逃がし区間Cを設けた。
上記ローラ13が上記圧力逃がし区間Cを移動する間、上記ローラ13によって圧迫された大径チューブ1aには当該ローラ13の上流側の部分と下流側の部分とを連通させる連通口が形成され、かつ当該連通口の大きさが一定に維持されるようにした。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
略馬蹄形に形成された側壁に沿って弾性チューブが配設されるハウジングと、上記ハウジングの側壁の内側に回転可能に設けられたロータと、上記ロータに設けられて上記側壁に沿って移動するローラとを備え、
上記側壁は、上記ロータの回転中心を中心とする所定半径の円弧を有し、上記ローラと上記側壁との間で弾性チューブを圧迫して閉塞させる閉塞区間と、上記閉塞区間の下流側に設けられて上記回転中心より徐々に離隔する形状を有した離脱区間とを備えたチューブポンプにおいて、
上記側壁は、上記閉塞区間と上記離脱区間との間に、ロータの回転中心を中心とする、上記閉塞区間よりも大きな半径の円弧を有した圧力逃がし区間を備え、
上記ローラが上記圧力逃がし区間を移動する間、上記ローラによって圧迫された弾性チューブには当該ローラの上流側の部分と下流側の部分とを連通させる連通口が形成されるとともに、当該連通口の大きさが一定に維持されることを特徴とするチューブポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチューブポンプに関し、詳しくは弾性チューブをローラによって押圧しながら移動させて送液を行うチューブポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば透析治療に用いる透析装置には、患者の血液を送液する血液ポンプとしてチューブポンプを用いており、このようなチューブポンプは、略馬蹄形に形成された側壁に沿って弾性チューブが配設されるハウジングと、上記ハウジングの側壁の内側に回転可能に設けられたロータと、上記ロータに設けられて上記側壁に沿って移動するローラとを備えている。
上記ロータを回転させると、上記ローラが弾性チューブを圧迫した状態で移動することで、弾性チューブ内の液体が送液されるようになっている(特許文献1)。
このようなチューブポンプの上記ハウジングの側壁には、上記ローラと側壁との間で弾性チューブを圧迫して完全に閉塞させる閉塞区間と、上記閉塞区間の下流側に連続して設けられて上記ロータの回転中心より徐々に離隔する形状を有した離脱区間とが形成されている。
上記離脱区間では上記ローラによるチューブの圧迫が解消されることから、弾性チューブが弾性力によって元の形状に復帰しようとし、ローラに圧迫されていた部分の容積が拡大することとなる。
この時、上記ローラが側壁から急激に離脱すると、上記圧迫されていた部分の容積が急激に拡大して付近の液体が引き込まれるが、特にロータの下流側に位置していた液体が引き込まれると、液体の逆流により回路内に脈動を生じさせるという問題があった。
このような問題に対処するため、特許文献2に記載されたチューブポンプでは、上記離脱区間において上記ローラを側壁から徐々に離隔させることで、ロータに圧迫されていた部分の容積が急拡大しないようにし、液体の逆流を抑制しようとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5397747号公報
【特許文献2】特開平6-17769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなチューブポンプにおいても、チューブポンプの下流側に例えばダイアライザなどの液体の流通の抵抗となるような器具が設けられている場合、チューブポンプと上記器具との間を流通する液体には、チューブポンプによる送液圧力と、上記器具の抵抗による圧力とが作用する。
その結果、上記閉塞区間を移動するローラよりも下流側に位置する液体の圧力が、ローラの上流側に位置する液体の圧力よりも高くなって、これらの間に差圧が生じることとなる。
その結果、上記離脱区間においてロータが側壁から離隔して、上記弾性チューブにロータの上流側と下流側とを連通させる連通口が形成されると、差圧を解消しようとして連通口を通過する液体の逆流が発生し、脈動を発生させてしまうという問題があった。
このような問題に鑑み、本発明は弾性チューブ内における液体の脈動をより効果的に抑制することが可能なチューブポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかるチューブポンプは、略馬蹄形に形成された側壁に沿って弾性チューブが配設されるハウジングと、上記ハウジングの側壁の内側に回転可能に設けられたロータと、上記ロータに設けられて上記側壁に沿って移動するローラとを備え、
側壁は、上記ロータの回転中心を中心とする所定半径の円弧を有し、上記ローラと側壁との間で弾性チューブを圧迫して閉塞させる閉塞区間と、上記閉塞区間の下流側に設けられて上記回転中心より徐々に離隔する形状を有した離脱区間とを備えたチューブポンプにおいて、
上記側壁は、上記閉塞区間と上記離脱区間との間に、ロータの回転中心を中心とする、上記閉塞区間よりも大きな半径の円弧を有した圧力逃がし区間を備え、
上記ローラが上記圧力逃がし区間を移動する間、上記ローラによって圧迫された弾性チューブには当該ローラの上流側の部分と下流側の部分とを連通させる連通口が形成されるとともに、当該連通口の大きさが一定に維持されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、上記閉塞区間と上記離脱区間との間に圧力逃がし区間を設けたことで、圧迫された弾性チューブにおけるローラの上流側と下流側との間に微小な連通口を形成するとともに、ローラが当該圧力逃がし区間を通過する間、当該連通口の大きさを一定に保つようになっている。
これにより、連通口を介してローラの下流側から上流側に向かう小さな流れを形成して、ローラの上流側の空間と下流側の空間との差圧を解消させることができる。従って、その後ローラが上記離脱区間に移動して弾性チューブより離脱しても、差圧による液体の逆流が抑制されることから、脈動の発生を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】チューブポンプの平面図
図2】ローラの移動を説明する図
図3図1図2におけるIII部の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図示実施例について説明すると、図1は透析装置を構成する血液回路1に設けられたチューブポンプ2を示しており、上記血液回路1には血液透析を行うためのダイアライザ3と、ドリップチャンバ4とが設けられている。
上記血液回路1は弾性を有した弾性チューブによって動脈側血液回路および静脈側血液回路を含んで構成されており、動脈側血液回路の端部および静脈側血液回路の端部がそれぞれ患者の血管に接続されるようになっている。そして動脈側から流入した血液は上記ダイアライザ3において透析液との間で透析された後、静脈側に排出されるようになっている。
そして本実施例のチューブポンプ2は上記ダイアライザ3よりも上流側、すなわち動脈側に設けられており、また上記ドリップチャンバ4はチューブポンプ2とダイアライザ3との間に設けられている。
上記ドリップチャンバ4は、中央にチューブポンプ2側の弾性チューブが装着されたキャップ4aと、下端部にダイアライザ3側の弾性チューブが装着されたケース4bとを備えており、上記キャップ4aとケース4bとは気密を保った状態で密閉されている。
上記キャップ4aに装着された弾性チューブはその先端部が上記ケース4bの内側に位置しており、上記チューブポンプ2より送液された血液はドリップチャンバ4の上方に接続された弾性チューブの先端からケース4b内に落下し、その後、ケース4bの下方に接続された弾性チューブからダイアライザ3へと送液されるようになっている。
【0009】
上記チューブポンプ2は、略馬蹄形に形成された側壁11aに沿って弾性チューブが配設されるハウジング11と、上記ハウジング11の側壁11aの内側に回転可能に設けられたロータ12と、上記ロータ12に設けられて上記側壁11aに沿って移動するローラ13とを備え、上記ロータ12は図示しないモータによって駆動されるようになっている。
上記血液回路1を構成する弾性チューブのうち、チューブポンプ2に装着される部分には、他の部分よりも大径の大径チューブ1aが用いられ、当該大径チューブ1aの両端部にはそれぞれ小径チューブ1bがコネクタ1cを介して連結されている。
本実施例において、上記大径チューブ1aの図示下方側の端部に接続された小径チューブ1bは患者の動脈側に装着され、図示上方側の端部に接続された小径チューブ1bは患者の静脈側、すなわち上記ダイアライザ3に接続されるようになっている。
本実施例では、上記大径チューブ1aとして、外径12mm、内径が8mmのものを使用し、また小径チューブ1bとして、外径6.6mm、内径が4.4mmのものを使用した。
【0010】
図2に示すように、上記ハウジング11に形成された略馬蹄形の側壁11aは、上記ロータ12の回転中心C1を中心とする半径r1の円弧を有した閉塞区間Aと、上記閉塞区間Aに対して上記ロータ12の回転方向の上流側および下流側に隣接して設けられた離脱区間Bとを有している。
上記離脱区間Bの形状については後に詳述するが、その一部は離脱区間Bを構成する側壁11a同士が平行に相対した支持区間B2を備えており、上記ハウジング11に大径チューブ1aを装着する際には、これら支持区間B2に上記大径チューブ1aの上流側および下流側の端部を位置させるようになっている。
【0011】
また図1に示すように、支持区間B2を構成する2つの側壁11aの間には、上記大径チューブ1aをハウジング11に保持するための保持ブロック14と、当該保持ブロック14に設けられた把持片14aとが設けられている。
そして上記ハウジング11における上記離脱区間Bの端部と、上記保持ブロック14の端部には、それぞれ大径チューブ1aの両端の上記コネクタ1cを係合するための係合部が形成されている。
このような構成により、大径チューブ1aをチューブポンプ2に装着する際には、最初に上記コネクタ1cを上記係合部に係合させた状態で、大径チューブ1aを側壁11aに沿って配設し、その後上記保持ブロック14をハウジング11に固定することにより、大径チューブ1aの端部を把持片14aによって保持するようになっている。
【0012】
本実施例において、上記ロータ12は図示時計回りに回転するようになっており、当該ロータ12の回転中心C1を挟んで対向する位置には2つのローラ13が設けられている。各ローラ13は図示しないバネによってロータ12の外側に向けて付勢された状態を維持するようになっている。
また上記ロータ12における上記ローラ13を挟んで回転方向上流側および下流側に隣接した位置にはそれぞれガイドピン12aが設けられており、ロータ12の回転中における上記大径チューブ1aの脱落を阻止するようになっている。
本実施例では、各ローラ13の直径を18mmとし、また上記ローラ13の中心は、上記バネによって外側に付勢されることにより、ロータ12の回転中心C1に対して半径30.3mmの位置を移動するようになっている。
一方、上記ローラ12によって大径チューブ1aを圧迫すると、バネの力に抗してローラ13が回転中心C1に向けて移動し、ローラ13の中心はロータ12の回転中心C1に対して半径30mmの位置を移動するようになっている。つまり上記ローラ13は半径方向に0.3mm移動可能となっている。
【0013】
次に、上記ハウジング11の側壁11aに設定された上記閉塞区間Aは、ロータ12の回転中心C1を中心とする半径r1の円弧状を有しており、本実施例では上記半径r1を42.5mmに設定している。
上記ローラ13がこの閉塞区間Aを移動する間、上記ローラ13は側壁11aとの間で大径チューブ1aを圧迫して、ローラ13の位置に対して上流側に位置する空間と下流側に隣接する空間とを遮断するようになっている。
これにより、ローラ13が閉塞区間Aを移動すると、ローラ13によって圧迫された部分も移動するため、圧迫された部分の下流側に位置する液体が下流側のダイアライザ3に向けて送液されるようになっている。
また本実施例において、上記閉塞区間Aは図2に示すように少なくとも180°の範囲で形成されており、これにより、2つのローラ13が同時に閉塞区間Aに位置している場合(図示Xの状態)には、両ローラ13の間の大径チューブ1aは2つのロータ12によって密閉された状態となる。
【0014】
図3図1図2におけるIII部の拡大図を示しており、上記閉塞区間Aに対してロータ12の回転方向下流側には上記離脱区間Bが設けられているが、本実施例のチューブポンプ2は閉塞区間Aと離脱区間Bとの間に圧力逃がし区間Cを備えることを特徴としている。
最初に上記圧力逃がし区間Cから説明すると、当該圧力逃がし区間Cは半径r2からなる円弧面21によって構成されており、上記閉塞区間Aと圧力逃がし区間Cとの間には傾斜面22からなる接続区間Dが形成されている。
上記円弧面21は上記閉塞区間Aを構成する側壁11aの半径よりも大きな半径r2を有しており、本実施例では上記円弧面21の半径r2を43.1mmに設定している。
ここで、閉塞区間Aの半径r1を100とした場合における円弧面21の半径r2の割合は、以下に説明する大径チューブ1aに形成される開口部の大きさを考慮しつつ、101.4~101.7%の範囲で設定することが望ましい。
上記傾斜面22は、上記閉塞区間Aと円弧面21との間に形成されており、閉塞区間Aと傾斜面22との境界部分、並びに傾斜面22と円弧面21との境界部分はそれぞれ滑らかに接続されている。
【0015】
このような構成により、上記圧力逃がし区間Cの円弧面21にローラ13が移動すると、ローラ13による大径チューブ1aの圧迫が弱まることとなる。
すると、大径チューブ1aは弾性力によって元の形状に復帰しようとし、それまでローラ13によって閉塞されていた部分に、ローラ13の上流側の空間と下流側の空間とを連通させる連通口が形成されるようになる。
上記連通口の大きさは、0.1~0.2mmの範囲、もしくは大径チューブ1aの内径に対して1.3~2.5%の範囲で形成されることが望ましい。
上記連通口の大きさが大径チューブ1aの内径に対して1.3%未満であると、ローラ13の上流側の空間と下流側の空間との間で液体がほとんど流通しないため、以下に説明する効果が十分に得られない恐れがある。
一方、連通口の大きさが大径チューブ1aの内径に対して2.5%を超えると、上記連通口が大きくなりすぎ、ローラ13の上流側の空間と下流側の空間との間で液体が大量に流通可能となることから、脈動を抑制できなくなる。
また上記大径チューブ1aに形成される連通口の大きさは、上記閉塞区間Aの半径r1と、圧力逃がし区間Cの円弧面21の半径r2との差や、上記ローラ13を付勢しているバネの付勢力、ローラ13の半径方向の移動量によっても調整することができる。
【0016】
上記離脱区間Bは、上記側壁11aがロータ12の回転中心C1より徐々に離隔するように形成された潰し量変化区間B1と、上記ロータ12が弾性チューブより離脱している上記大径チューブ1aの端部を支持するための図示水平方向に形成された上記支持区間B2とを備えている。
上記潰し量変化区間B1の側壁11aの形状は、上記ローラ13が移動するにつれて大径チューブ1aへの圧迫が漸減するように設定されており、具体的には、ローラ13によって送液される液体の容積Vinが、ローラ13が大径チューブ1aから離脱して当該大径チューブ1aが復元することにより増加する容積Voutを下回らない(容積Vin-容積Vout>0)ように設定したものとなっている。
まず、上記容積Voutとは、上記ローラ13が上記潰し量変化区間B1を移動する間に、上記ローラ13による大径チューブ1aの圧迫が解消されて、大径チューブ1aが弾性力によって復帰することによる、当該大径チューブ1aの内部の容積の拡大量を示している。
これに対し、容積Vinとは、上記ローラ13が上記潰し量変化区間B1を移動するのと同じ距離だけ、上記ローラ13が上記閉塞区間Aを移動した場合における、ローラ13によって圧迫された部分の下流側に位置する液体の送液量となっている。
このように、上記潰し量変化区間B1の側壁11aは、容積Vin-容積Vout>0という関係式が成立するようにローラ12から離隔するよう設定されているが、本実施例では、図2に示すように、潰し量変化区間B1は上記ロータ12の回転中心C1に対して偏倚した中心C2とする半径r3の円弧状を有したものとなっている。
【0017】
以下、上記構成を有するチューブポンプ2の動作について説明する。まず上記透析装置の血液回路1にチューブポンプ2を装着し、上記大径チューブ1aを図1に示すように上記ハウジング11に装着する。
その後、血液回路1のプライミングの準備が完了し、透析装置による透析治療が開始されると、チューブポンプ2のロータ12が回転して、チューブポンプ2は患者の血管(動脈)から血液を引き抜き、当該血液を上記ダイアライザ3に向けて送液する。
そしてダイアライザ3では、血液はダイアライザ3に形成された血液室を通過しながら、透析液室を流通する透析液との間で透析が行われ、その後血液室を通過した血液は患者の血管(静脈)に戻されるようになっている。
【0018】
チューブポンプ2では、上記ロータ12の回転に伴ってローラ13が閉塞区間Aを移動すると、大径チューブ1aにおけるローラ13によって圧迫されている部分が移動し、ローラ13の下流側に位置する血液が上記ダイアライザ3に向けて押し出だされるように送液される。
ここで、上記チューブポンプ2がダイアライザ3に向けて血液を送液すると、血液がダイアライザ3を通過する際に抵抗が生じることから、上記チューブポンプ2によって送液される圧力と、上記ダイアライザ3を通過する際の抵抗とによって、チューブポンプ2とダイアライザ3との間の弾性チューブの内圧が陽圧となる。
一方、上記閉塞区間Aにおいて、上記大径チューブ1aはローラ13によって圧迫されていることから、ローラ13の上流側および下流側に位置する空間は遮断されており、これによりローラ13の上流側の空間と下流側の空間との間に差圧が生じることとなる。
【0019】
続いて、上記ローラ13が上記閉塞区間Aから上記圧力逃がし区間Cに移動すると、側壁11aがロータ12の回転中心C1に対して離隔していることから、ローラ13による大径チューブ1aへの圧力が低下し、大径チューブ1aにはローラ13の上流側の空間と下流側の空間とを連通させる小さな連通口が形成される。
すると、ローラ13の上流側の空間よりも下流側の空間の圧力が高くなっているため、それまでローラ13の下流側に位置していた血液が上流側の空間に向けて逆流しようとする。
しかしながら本実施例では、上記圧力逃がし区間Cは上述した範囲でロータ12の回転中心C1より離隔した円弧状を有しているため、上記連通口は大径チューブ1aの本来の内径に比べて小さいものとなっており、かつ当該連通口の大きさが上記ロータ12が圧力逃がし区間Cを通過するまで一定に保たれるようになっている。
これにより、上記ローラ13が圧力逃がし区間Cを通過するまでの間に、ローラ13の上流側の空間から下流側の空間へと血液が少量ずつ流入するようにでき、ローラ13の上流側の空間と下流側の空間との差圧が徐々に解消もしくは低減されるようになっている。
換言すると、ローラ13の下流側に位置していた血液が急激に上流側の空間に向けて逆流しないようにすることができるため、チューブポンプ2の下流側において血液の脈動が生じないようにすることができる。
【0020】
続いて、上記ローラ13が上記圧力逃がし区間Cから離脱区間Bの潰し量変化区間B1に移動すると、側壁11aがロータ12の回転中心C1に対して徐々に離隔し、ローラ13の上流側の空間と下流側の空間とを連通させる連通口が拡大する。
このように連通口が拡大すると、ローラ13によって圧迫されていた部分の大径チューブ1aが弾性力によって元の形状に復帰しようとし、ローラ13によって圧迫されていた部分の容積が徐々に拡大することとなる。
容積が拡大すると、拡大した部分にローラ13によって圧迫されていた部分の近傍に位置していた血液が引き込まれ、特に、それまでローラ13よりも下流側に位置していた血液が逆流しようとする。
しかしながら、上述したように本実施例の潰し量変化区間B1は、ローラ13によって送液される液体の送液容積Vinが、弾性チューブの復元により増加する容積Voutを下回らないように設定されている。
その結果、ローラ13が潰し量変化区間B1を移動する間、大径チューブ1aのローラ13によって圧迫されていた部分の容積Voutは徐々に拡大してゆくものの、送液される液体の容積Vinの方が大きいことから、ローラ13の下流側に位置していた血液の逆流を抑制することができ、血液回路1における血液の脈動が抑制されるようになっている。
【0021】
そして、本実施例にかかる上記圧力逃がし区間Cを設けたチューブポンプ2について、血液の逆流が抑制される効果について評価を行った。当該評価では、比較対象として、上記圧力逃がし区間Cの形成されている位置を閉塞区間Aとし、それ以外は同じ寸法で作成したチューブポンプ2を使用した。
まず透析治療を行う場合と同様、上記チューブポンプ2に血液回路1を構成する弾性チューブを装着し、当該弾性チューブに上記ダイアライザ3およびドリップチャンバ4を接続した。
そして透析治療と同じようにチューブポンプ2を作動させ、チューブポンプ2からドリップチャンバ4を介してダイアライザ3へと血液(ここでは水)の送液を行い、ドリップチャンバ4の内部に臨んでいる弾性チューブ内の先端部の観察を行った。
上述したように、上記チューブポンプ2側に設けられた弾性チューブの先端は上記ドリップチャンバ4のキャップ4aからケース4b内に設けられていることから、上記チューブポンプ2において液体の逆流が生じると、一度弾性チューブの先端まで送液された液体が後退し、チューブの先端に上記ドリップチャンバ4内の空気が入り込むようになっている。
そこで本評価では、上記チューブポンプ2によって液体を送液した際に、上記弾性チューブの先端まで到達した液体が逆流したときの、弾性チューブの先端から液体の先端部分までの最大の距離(最大後退量)を計測することにより、逆流の大小を評価した。
実験の結果、本実施例にかかるチューブポンプ2を用いた場合の最大後退量は平均して14mmであったのに対し、圧力逃がし区間Cを有さない従来のチューブポンプ2を用いた場合の最大後退量は平均して43mmであった。
以上のことから、本実施例のように圧力逃がし区間Cを設けたチューブポンプ2を用いることで、血液の逆流が可及的に抑制されることが確認された。
そしてこのような血液の逆流を抑制することで、逆流に伴う血液の脈動が抑制されることから、上述したようなドリップチャンバ4に発生する気泡や、抗凝固剤の効果低減といった問題を解消することができる。
【0022】
なお上記実施例では、チューブポンプ2の下流側にダイアライザ3が設けられている構成について説明したが、本発明にかかるチューブポンプ2は、ダイアライザ3に限らず、チューブポンプ2の下流側に液体の流通の抵抗となる器具が設けられている場合に好適なものとなっている。
【符号の説明】
【0023】
1a 大径チューブ(弾性チューブ) 2 チューブポンプ
3 ダイアライザ 4 ドリップチャンバ
11 ハウジング 11a 側壁
12 ロータ 13 ローラ
A 閉塞区間 B 離脱区間
B1 潰し量変化区間 B2 支持区間
図1
図2
図3