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特開2023-184177ろう付用単層アルミニウム合金材、その製造方法、アルミニウム構造体及び熱交換器
<図1>
  • 特開-ろう付用単層アルミニウム合金材、その製造方法、アルミニウム構造体及び熱交換器 図1
  • 特開-ろう付用単層アルミニウム合金材、その製造方法、アルミニウム構造体及び熱交換器 図2
  • 特開-ろう付用単層アルミニウム合金材、その製造方法、アルミニウム構造体及び熱交換器 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184177
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ろう付用単層アルミニウム合金材、その製造方法、アルミニウム構造体及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20231221BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C22C21/00 D
C22C21/00 J
B23K35/28 310A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098173
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 友貴
(72)【発明者】
【氏名】土公 武宜
(57)【要約】
【課題】優れたろう付性を有し、高温における強度が高く、アルミニウム構造体の耐食性を高めることができるろう付用単層アルミニウム合金材を提供する。
【解決手段】ろう付用単層アルミニウム合金材1は、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、Cu:0.05質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.8質量%以上1.6質量%以下、Zn:1.0質量%以上3.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、Cuの含有量に対するFeの含有量の比Fe/Cuが1.2以上5.0以下であり、Feの含有量とCuの含有量との合計が0.25質量%以上0.65質量%以下であり、Znの含有量に対するCuの含有量の比Cu/Znが0.02以上0.40以下である化学成分を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、Cu:0.05質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.8質量%以上1.6質量%以下、Zn:1.0質量%以上3.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、
Cuの含有量に対するFeの含有量の比が1.2以上5.0以下であり、
Feの含有量とCuの含有量との合計が0.25質量%以上0.65質量%以下であり、
Znの含有量に対するCuの含有量の比が0.02以上0.40以下である化学成分を有する、ろう付用単層アルミニウム合金材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金材は、さらにMg:0質量%超え2.0質量%以下を含有している、請求項1に記載のろう付用単層アルミニウム合金材。
【請求項3】
前記アルミニウム合金材は、さらにCr:0質量%超え0.3質量%以下、Ti:0質量%超え0.3質量%以下及びZr:0質量%超え0.3質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含有している、請求項1に記載のろう付用単層アルミニウム合金材。
【請求項4】
前記アルミニウム合金材は、さらにIn:0質量%超え0.3質量%以下、Sn:0質量%超え0.3質量%以下、V:0質量%超え0.3質量%以下、Ni:0質量%超え2.0質量%以下、Be:0質量%超え0.3質量%以下、Sr:0質量%超え0.3質量%以下、Bi:0質量%超え0.3質量%以下及びNa:0質量%超え0.3質量%以下からなる群より選択される1種または2種以上の元素を含有している、請求項1に記載のろう付用単層アルミニウム合金材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のろう付用単層アルミニウム合金材と、前記ろう付用単層アルミニウム合金材に接合された相手材と、
前記ろう付用単層アルミニウム合金材と前記相手材との間に形成されたろう付接合とを有するアルミニウム構造体。
【請求項6】
請求項5に記載のアルミニウム構造体からなる熱交換器。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載のろう付用単層アルミニウム合金材の製造方法であって、
鋳造原料の少なくとも一部にアルミニウム廃材を使用する、ろう付用単層アルミニウム合金材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付用単層アルミニウム合金材、その製造方法、アルミニウム構造体及び熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、熱交換器などのアルミニウム製品は、アルミニウムやアルミニウム合金からなる多数の部材を有している。これらの部材は、ろう付接合を介して互いに接合されていることがある。従来、アルミニウム製品の構成部材同士をろう付する方法としては、ろう付接合を形成しようとする部分にろう材を配置する方法や、ろう付接合を形成しようとする部分にSi粉末を含むろう付用ペーストを塗布し、ろう付用ペーストによって構成部材からろうを生じさせる方法、心材と、心材の少なくとも一方の面上に設けられたろう材とを有するブレージングシートを用いてろう付を行う方法等が知られている。
【0003】
また、近年では、加熱によって微量の融液を生成し、相手材とろう付できるように構成された単層のアルミニウム合金材が提案されている。この種のアルミニウム合金材として、例えば特許文献1には、Si:1.0質量%~5.0質量%、Fe:0.01質量%~2.0質量%を含有し、Mg:2.0質量%以下、Cu:1.5質量%以下及びMn:2.0質量%以下から選択される1種または2種以上を更に含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる単層のアルミニウム合金材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5337326号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のアルミニウム合金材には、ろう付性を確保しつつ高温における強度を高める点、及び、当該アルミニウム合金材を含むアルミニウム構造体の耐食性をより高める点で、いまだ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れたろう付性を有し、高温における強度が高く、アルミニウム構造体の耐食性を高めることができるろう付用単層アルミニウム合金材、その製造方法、このろう付用単層アルミニウム合金材を有するアルミニウム構造体及び熱交換器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、Si(シリコン):2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe(鉄):0.05質量%以上0.40質量%以下、Cu(銅):0.05質量%以上0.25質量%以下、Mn(マンガン):0.8質量%以上1.6質量%以下、Zn(亜鉛):1.0質量%以上3.0質量%以下を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなり、
Cuの含有量に対するFeの含有量の比が1.2以上5.0以下であり、
Feの含有量とCuの含有量との合計が0.25質量%以上0.65質量%以下であり、
Znの含有量に対するCuの含有量の比が0.02以上0.40以下である化学成分を有する、ろう付用単層アルミニウム合金材にある。
【発明の効果】
【0008】
前記ろう付用単層アルミニウム合金材(以下、「アルミニウム材」または「アルミニウム合金材」という。)は、Si、Fe、Cu、Mn及びZnの含有量がそれぞれ前記特定の範囲内であることに加え、Feの含有量とCuの含有量との比、Feの含有量とCuの含有量との合計及びCuの含有量とZnの含有量との比がそれぞれ前記特定の範囲内となる化学成分を有している。これにより、前記アルミニウム材は、ろう付性と、高温における強度と、アルミニウム構造体の耐食性とをバランスよく高めることができる。
【0009】
従って、前記の態様によれば、優れたろう付性を有し、高温における強度が高く、アルミニウム構造体の耐食性を高めることができるろう付用単層アルミニウム合金材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例におけるろう付用アルミニウム合金単層材の断面図である。
図2図2は、実施例におけるミニコア試験体の斜視図である。
図3図3は、実施例における自然電極電位の測定装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ろう付用単層アルミニウム合金材)
前記ろう付用単層アルミニウム合金材は、前記化学成分を備えたアルミニウム合金の単一の層から構成されている。前記アルミニウム材の化学成分及びその限定理由について説明する。
【0012】
・Si
前記アルミニウム材中には、必須成分として、2.0質量%以上3.0質量%以下のSiが含まれている。前記アルミニウム材中のSiの含有量を2.0質量%以上とすることにより、ろう付加熱によってAl及びSiを含む融液を生成し、前記アルミニウム材と相手材とを接合することができる。Siの含有量は、2.2質量%以上であることが好ましく、2.3質量%以上であることがより好ましい。この場合には、ろう付加熱によって生じる融液の量をより多くし、ろう付性をより向上させることができる。Siの含有量が2.0質量%未満の場合は、ろう付加熱によって生じる融液の量が不足するため、ろう付性の悪化を招くおそれがある。
【0013】
一方、Siの含有量が過度に多くなると、ろう付加熱の際にアルミニウム材の融解量が多くなり、アルミニウム材の強度の低下を招くおそれがある。その結果、ろう付中に、前記アルミニウム材を含む構造体の形状が維持できなくなるおそれがある。かかる問題を回避する観点から、Siの含有量は3.0質量%以下とする。同様の観点から、Siの含有量は2.8質量%以下とすることが好ましく、2.6質量%以下とすることがより好ましい。
【0014】
また、ろう付中における前記アルミニウム材の強度を確保しつつろう付性を向上させる観点からは、Siの含有量は2.2質量%以上2.8質量%以下であることが好ましく、2.3質量%以上2.6質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
・Fe、Cu、Zn
前記アルミニウム材中には、必須成分として、0.05質量%以上0.40質量%以下のFe、0.05質量%以上0.25質量%以下のCu及び1.0質量%以上3.0質量%以下のZnが含まれている。また、Fe、Cu及びZnの含有量は、(1)Cuの含有量に対するFeの含有量の比(つまり、Fe/Cuの値)が1.2以上5.0以下である、(2)Feの含有量とCuの含有量との合計(つまり、Fe+Cuの値)が0.25質量%以上0.65質量%以下である、及び(3)Znの含有量に対するCuの含有量の比(つまり、Cu/Znの値)が0.02以上0.40以下である、の3つの関係を満たしている。
【0016】
Feの一部は、Alマトリクス中に固溶してアルミニウム材の強度を向上させる作用を有している。また、Feの残部は、晶出物としてAlマトリクス中に分散しており、常温及び高温におけるアルミニウム材の強度を向上させる作用を有している。さらに、Feは、前記アルミニウム材の結晶粒を微細化させる作用を有している。前記アルミニウム材の結晶粒を微細化させることにより、ろう付加熱中に結晶粒界から融液が染み出しやすくなり、ろう付性を向上させることができる。しかし、Feの含有量が過度に多くなると、鋳造時に粗大な金属間化合物が形成されやすくなり、アルミニウム材の製造性の低下を招くおそれがある。
【0017】
一方、Cuも、Alマトリクス中に固溶してアルミニウム材の強度を向上させる作用を有している。また、Cuは、Feと同様に、前記アルミニウム材の結晶粒を微細化させる作用を有している。しかし、Cuの含有量が過度に多くなると、ろう付加熱中に前記アルミニウム材から生じる融液の量が過度に多くなり、高温における強度の低下を招くおそれがある。また、この場合には、アルミニウム材の電位が貴化し、アルミニウム材を含むアルミニウム構造体の耐食性の低下を招くおそれもある。
【0018】
それ故、Feの含有量及びCuの含有量をそれぞれ前記特定の範囲とした上で、さらに、Cuの含有量に対するFeの含有量の比及びFeの含有量とCuの含有量との合計を前記特定の範囲とすることにより、アルミニウム材の製造性の低下やアルミニウム構造体の耐食性の低下を回避しつつ高温におけるアルミニウム材の強度を向上させることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、Cuの含有量に対するFeの含有量の比は1.2以上4.0以下であることが好ましい。
【0019】
一方、例えば前記アルミニウム材を熱交換器用フィンとして使用する場合には、ろう付後のフィンを加工することがある。しかし、前記アルミニウム材のろう付後の強度が過度に高くなると、成形性の低下を招くおそれがある。かかる問題をより容易に回避する観点から、Feの含有量とCuの含有量との合計は、0.25質量%以上0.60質量%以下であることが好ましく、0.25質量%以上0.55質量%以下であることがより好ましく、0.25質量%以上0.50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
また、Cuは、前述したようにろう付性の向上やアルミニウム材の強度の向上に有効である一方で、アルミニウム材の電位を貴化させる作用を有している。そのため、Cuの含有量が過度に多くなると、前記アルミニウム材が犠牲陽極として機能しなくなり、アルミニウム構造体の耐食性が低下したり、前記アルミニウム材と相手材との間に形成されるろう付接合が腐食されやすくなるなどの問題が生じるおそれがある。
【0021】
一方、Znも、前記アルミニウム材から生じる融液の量を多くする作用を有している。さらに、Znは、アルミニウム材の電位を卑化させる作用を有しているため、CuとともにZnを添加することにより、アルミニウム材の電位が過度に貴化することを回避しつつ、ろう付性を向上させることができる。しかし、Znの含有量が過度に多くなると、アルミニウム材の電位が過度に卑化し、アルミニウム材自身が腐食されやすくなるおそれがある。
【0022】
それ故、Cuの含有量及びZnの含有量をそれぞれ前記特定の範囲とした上で、さらに、Znの含有量に対するCuの含有量の比を前記特定の範囲とすることにより、アルミニウム構造体の耐食性の低下や自己耐食性の低下を回避しつつろう付性を向上させることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、Znの含有量に対するCuの含有量の比は、0.02以上0.10以下であることが好ましく、0.02以上0.08以下であることがより好ましい。
【0023】
以上のように、Fe、Cu及びZnの含有量をそれぞれ前記特定の範囲内とした上で、さらにFe、Cu及びZnの含有量が前記(1)~(3)の関係を満たすことにより、前記アルミニウム材のろう付性、高温における強度及びアルミニウム構造体の耐食性をバランスよく高めることができる。
【0024】
・Mn
前記アルミニウム材中には、必須成分として、0.8質量%以上1.6質量%以下のMnが含まれている。Mnの一部は、前記アルミニウム材中にAl-Mn-Si系の金属間化合物を形成し、分散強化によって前記アルミニウム材の強度を向上させる作用を有する。また、Mnの残部は、Alマトリクス中に固溶し、固溶強化によって前記アルミニウム材の強度を向上させる作用を有する。
【0025】
前記アルミニウム材中のMnの含有量を0.8質量%以上とすることにより、分散強化及び固溶強化によって前記アルミニウム材の強度を向上させることができる。更に、前記アルミニウム材は、前述した分散強化及び固溶強化により、ろう付加熱中の強度の低下を抑制し、アルミニウム材の変形や座屈の発生を抑制することができる。Mnの含有量が0.8質量%未満の場合には、Mnによる強度向上の効果が低くなり、前記アルミニウム材の変形や座屈が発生しやすくなるおそれがある。
【0026】
一方、Mnの含有量が過度に多い場合には、前記アルミニウム材の製造過程において粗大な金属間化合物が形成されやすくなる。この粗大な金属間化合物を包含したまま圧延を行うと、ピンホールが発生しやすくなるおそれがある。かかる問題を容易に回避する観点から、Mnの含有量は1.6質量%以下とする。
【0027】
前記アルミニウム材中には、前述した必須成分、Al及び不可避的不純物の他に、任意成分として、Mg(マグネシウム)、Cr(クロム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、V(バナジウム)、Ni(ニッケル)、Be(ベリリウム)、Sr(ストロンチウム)、Bi(ビスマス)及びNa(ナトリウム)等の元素が含まれていてもよい。
【0028】
・Mg
前記アルミニウム材には、任意成分として、0質量%超え2.0質量%以下のMgが含まれていてもよい。Mgは、ろう付後の前記アルミニウム材中にMgSiを形成し、時効硬化によりアルミニウム材の強度を向上させる作用を有している。一方、Mgの含有量が過度に多くなると、フラックスを用いてろう付を行う場合にMgとフラックスとが反応し、ろう付性の低下を招くおそれがある。Mgの含有量を0質量%超え2.0質量%以下とすることにより、かかる問題を容易に回避しつつアルミニウム材の強度を向上させることができる。
【0029】
・Cr
前記アルミニウム材には、任意成分として、0質量%超え0.3質量%以下のCrが含まれていてもよい。Crの一部は、前記アルミニウム材中にAl-Cr系の金属間化合物を形成し、分散強化によって前記アルミニウム材の強度を向上させる作用を有する。また、Crの残部は、Alマトリクス中に固溶し、固溶強化によって前記アルミニウム材の強度を向上させる作用を有する。一方、Crの含有量が過度に多くなると、前記アルミニウム材の製造過程において粗大な金属間化合物が形成されやすくなり、塑性加工性の低下を招くおそれがある。
【0030】
前記アルミニウム材中のCrの含有量を前記特定の範囲とすることにより、粗大なAl-Cr系金属間化合物の形成を回避しつつ、分散強化及び固溶強化によって前記アルミニウム材の強度をより向上させることができる。
【0031】
・Ti、V
前記アルミニウム材には、任意成分として、0質量%超え0.3質量%以下のTi及び0質量%超え0.3質量%以下のVのうち1種または2種の元素が含まれていてもよい。Ti及びVは、Alマトリクス中に固溶して前記アルミニウム材の強度を向上させる作用を有している。また、Ti及びVは、前記アルミニウム材中に層状に分布し、前記アルミニウム材の厚み方向への腐食の進展を抑制する作用を有している。一方、Tiの含有量またはVの含有量が過度に多くなると、前記アルミニウム材の製造過程において巨大な晶出物が形成されやすくなり、塑性加工性の低下を招くおそれがある。
【0032】
前記アルミニウム材中のTiの含有量及びVの含有量を前記特定の範囲とすることにより、巨大な晶出物の形成を回避しつつ、前記アルミニウム材の強度及び自己耐食性をより向上させることができる。
【0033】
・Zr
前記アルミニウム材には、任意成分として、0質量%超え0.3質量%以下のZrが含まれていてもよい。Zrは、前記アルミニウム材中にAl-Zr系の金属間化合物を形成し、分散強化によって前記アルミニウム材の強度を向上させる作用を有する。また、Al-Zr系の金属間化合物はろう付加熱中に前記アルミニウム材の結晶粒を粗大化させる作用を有している。一方、Zrの含有量が過度に多くなると、前記アルミニウム材の製造過程において粗大な金属間化合物が形成されやすくなり、塑性加工性の低下を招くおそれがある。
【0034】
前記アルミニウム材中のZrの含有量を前記特定の範囲とすることにより、粗大な金属間化合物の形成を回避しつつ、前述した効果を得ることができる。
【0035】
・Sn、In
前記アルミニウム材には、任意成分として、0質量%超え0.3質量%以下のSn及び0質量%超え0.3質量%以下のInのうち1種または2種の元素が含まれていてもよい。Sn及びInは、Znと同様に前記アルミニウム材の電位を卑化させる作用を有している。前記アルミニウム材中のSnの含有量及びInの含有量を前記特定の範囲とすることにより、自己耐食性の低下を回避しつつ前記アルミニウム材の電位を調整し、アルミニウム構造体の耐食性をより高めることができる。
【0036】
・Ni
前記アルミニウム材には、任意成分として、0質量%超え2.0質量%以下のNiが含まれていてもよい。Niは、前記アルミニウム材中に金属間化合物を形成し、分散強化によって前記アルミニウム材のろう付後の強度を向上させる作用を有する。一方、Niの含有量が過度に多くなると、前記アルミニウム材の製造過程において粗大な金属間化合物が形成されやすくなり、塑性加工性の低下を招くおそれがある。また、この場合には、前記アルミニウム材の自己耐食性の低下を招くおそれもある。前記アルミニウム材中のNiの含有量を0質量%超え2.0質量%以下、好ましくは0.05質量%以上2.0質量%以下とすることにより、前述した問題を容易に回避しつつ前記アルミニウム材の強度をより向上させることができる。
【0037】
・Be、Sr、Bi、Na
前記アルミニウム材には、0質量%超え0.3質量%以下のBe、0質量%超え0.3質量%以下のSr、0質量%超え0.3質量%以下のBi及び0質量%超え0.3質量%以下のNaのうち1種または2種以上の元素が含まれていてもよい。これらの元素は、前記アルミニウム材中のSi粒子を微細化し、また、ろう付加熱中に前記アルミニウム材から生じる融液の流動性を改善することにより、ろう付性を向上させる作用を有している。一方、これらの元素の含有量が過度に多い場合には、前記アルミニウム材の耐食性の低下を招くおそれがある。
【0038】
Beの含有量、Srの含有量、Biの含有量及びNaの含有量をそれぞれ前記特定の範囲とすることにより、耐食性の低下を回避しつつ前記アルミニウム材のろう付性をより向上させることができる。
【0039】
・金属組織
前記アルミニウム材は、非繊維状組織からなる金属組織を有している。なお、非繊維状組織とは、繊維状組織(つまり、展伸加工によって形成される、加工方向に延在する繊維状の結晶粒からなる組織)以外の組織をいう。非繊維状組織には、例えば、粒状の結晶粒からなる組織が含まれる。前記アルミニウム材の金属組織が非繊維状組織であるか否かは、当業者であれば容易に判断することができる。
【0040】
前記アルミニウム材の平均結晶粒径は、100μm以上1000μm以下であることが好ましく、200μm以上900μm以下であることがより好ましい。この場合には、前記アルミニウム材における結晶粒界の数密度を適度に多くすることができる。前記アルミニウム材と相手材とを接合する際、アルミニウム材から生じる融液は、主に結晶粒界を介して前記アルミニウム材内部を移動し、アルミニウム材の表面に供給される。そのため、前記アルミニウム材における結晶粒界の数密度を適度に多くすることにより、前記アルミニウム材のろう付性をより向上させることができる。
【0041】
(製造方法)
前記アルミニウム材の製造方法は種々の態様を取り得る。例えば、前記アルミニウム材は、展伸加工が施されてなる展伸材であってもよく、鍛造加工が施されてなる鍛造材であってもよい。また、前記アルミニウム材は、鋳造により得られる鋳物であってもよい。
【0042】
ろう付性及び強度の向上の観点からは、前記アルミニウム材は、展伸材であることが好ましい。展伸材は、その製造過程における加工度が鍛造材や鋳物等に比べて大きいため、製造過程において第二相粒子が分断されやすい。そのため、展伸材からなる前記アルミニウム材は、Alマトリクス中に分散したSi粒子やSi系金属間化合物、Al系金属間化合物等の数をより多くすることができる。その結果、ろう付性及び強度をバランスよく向上させることができる。
【0043】
展伸材からなる前記アルミニウム材を作製する場合、例えば、双ロール式連続鋳造圧延法や双ベルト式連続鋳造法などの連続鋳造法を採用することができる。連続鋳造法は、DC鋳造法に比べて鋳造時の冷却速度を高くすることができる。そのため、前記アルミニウム材中に、多数の微細なSi粒子等の第二相粒子を形成することができる。そして、前記アルミニウム材中に多数の微細な第二相粒子を分散させることにより、ろう付加熱中に形成される融液の量を多くし、ろう付性を向上させることができる。
【0044】
双ロール式連続鋳造圧延法により前記アルミニウム材を作製する場合、鋳造速度を0.5m/分以上3m/分以下とすることが好ましい。双ロール式連続鋳造圧延法において、鋳造速度を0.5m/分以上とすることにより、鋳造時の冷却速度を十分に高くし、前記アルミニウム材中の第二相粒子を容易に微細化することができる。また、鋳造速度を3m/分以下とすることにより、鋳造中に溶湯を十分に冷却して凝固させることができる。
【0045】
また、鋳造時の溶湯の温度は、650℃以上800℃以下であることが好ましく、680℃以上750℃以下であることがより好ましい。溶湯の温度を好ましくは650℃以上、より好ましくは680℃以上とすることにより、溶湯中への巨大な晶出物の形成を回避することができる。また、溶湯の温度を好ましくは800℃以下、より好ましくは750℃以下とすることにより、鋳造中に溶湯を十分に冷却して凝固させることができる。
【0046】
鋳造により得られる圧延板の厚みは、2mm以上10mm以下であることが好ましく、4mm以上8mm以下であることがより好ましい。圧延板の厚みを好ましくは2mm以上、より好ましくは4mm以上とすることにより、健全な圧延板を安定して製造することができる。また、圧延板の厚みを好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下とすることにより、鋳造後の圧延板をロールに巻き取りやすくなる。
【0047】
連続鋳造法により得られる圧延板は、そのまま前記アルミニウム材として使用されてもよい。また、圧延板に冷間圧延や熱処理等を施して厚み及び質別を調整することにより、所望の厚み及び質別を備えた前記アルミニウム材を得ることもできる。前記アルミニウム材は、例えば、質別記号O、H1nまたはH2nで表される質別を有していてもよい。ろう付時のエロージョンを抑制する観点からは、前記アルミニウム材は、質別記号H1nまたはH2nで表される質別を有していることが好ましい。
【0048】
また、展伸材からなる前記アルミニウム材は、例えば、DC鋳造により鋳塊を作製した後、鋳塊に展伸加工を施す方法により作製されていてもよい。DC鋳造により鋳塊を作製する場合、鋳造速度は20mm/分以上100mm/分以下であることが好ましく、30mm/分以上80mm/分以下であることがより好ましい。DC鋳造において、鋳造速度を好ましくは20mm/分以上、より好ましくは30mm/分以上とすることにより、鋳造時の冷却速度を十分に高くし、前記アルミニウム材中の第二相粒子を容易に微細化することができる。また、鋳造速度を好ましくは100mm/分以下、より好ましくは80mm/分以下とすることにより、鋳造中に溶湯を十分に冷却して凝固させることができる。
【0049】
DC鋳造によりスラブを作製する場合、スラブの厚みは600mm以下であることが好ましく、500mm以下であることがより好ましい。この場合には、鋳造時の冷却速度を十分に高くし、前記アルミニウム材中の第二相粒子を容易に微細化することができる。
【0050】
DC鋳造により鋳塊を作製した後、鋳塊に展伸加工を行うことにより、所望の形状を備えたアルミニウム材を得ることができる。例えば、DC鋳造においてスラブを作製した後、スラブに圧延加工を行うことにより、所望の厚みを有する圧延板からなる前記アルミニウム材を得ることができる。圧延加工としては、熱間圧延及び冷間圧延を適宜組み合わせて行えばよい。また、圧延加工を行う前から圧延加工が完了した後までの間に、必要に応じて、均質化処理や焼鈍処理などの熱処理を行い、前記アルミニウム材の質別を調整することもできる。前記アルミニウム材は、例えば、質別記号O、H1nまたはH2nで表される質別を有していてもよい。ろう付時のエロージョンを抑制する観点からは、前記アルミニウム材は、質別記号H1nまたはH2nで表される質別を有していることが好ましい。
【0051】
また、DC鋳造においてビレットを作製した後、ビレットに熱間押出加工を行うことにより所望の断面形状を備えた押出材からなる前記アルミニウム材を得ることができる。熱間押出加工を行う前に、必要に応じてビレットに均質化処理を施してもよい。ビレットの鋳造は、ホットトップ鋳造法またはGDC鋳造法等の鋳造法より行われる。
【0052】
前記製造方法において、鋳造時の鋳造原料としては、アルミニウム新地金、中間合金及びアルミニウム廃材を使用することができる。鋳造原料として使用されるアルミニウム廃材には、例えば、廃棄されたアルミニウム製品、廃棄された製品から分離されたアルミニウム製部品、アルミニウム製品やアルミニウム製部品の製造過程で発生する端材及び切りくず等が含まれる。アルミニウム廃材を鋳造原料として用いる場合には、アルミニウム廃材をそのまま溶解してもよい。また、アルミニウム廃材を切断したり、圧縮したりすることによりアルミニウム廃材のサイズを調整した後に溶解してもよい。さらに、アルミニウム廃材から一旦アルミニウム再生地金を作製した後、アルミニウム再生地金を鋳造原料として使用してもよい。
【0053】
(アルミニウム構造体)
前記アルミニウム材と相手材とをろう付することにより、アルミニウム構造体を得ることができる。すなわち、アルミニウム構造体は、前記アルミニウム材と、前記アルミニウム材に接合された相手材と、前記アルミニウム材と相手材との間に形成されたろう付接合とを有している。
【0054】
前記アルミニウム材に接合される相手材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されていればよい。例えば、相手材は、それ自体ではろう付接合を形成することができないアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる単層材であってもよい。また、相手材として前記ろう付用単層アルミニウム合金材を用いることもできる。
【0055】
アルミニウム構造体の用途は特に限定されることはない。例えば、アルミニウム構造体は、熱交換器として構成されていてもよい。熱交換器は、例えば、空気調和装置に組み込まれ、伝熱媒体と外気との熱交換を行うためのコンデンサやエバポレータであってもよい。また、熱交換器は、例えば、自動車に組み込まれるラジエータやオイルクーラ等であってもよい。
【0056】
熱交換器は、その用途及び使用条件等に応じて、伝熱媒体を流通させるチューブ、熱交換面積を拡大するフィン、複数のチューブに伝熱媒体を分配し、あるいはチューブから導出される伝熱媒体を集めるタンク及びプレートなどの種々の構成部材を有している。そして、これらの構成部材のうち少なくとも1種の構成部材が前記アルミニウム材から構成されていればよい。
【0057】
例えば、前記アルミニウム材からなるチューブと、前記アルミニウム材からなるコルゲートフィンと、を交互に積層するとともに、積層方向における最も外方に前記アルミニウム材からなるプレートを配置することにより、熱交換器コアを作製する。次に、熱交換器コアにおける複数の前記チューブの両端に前記アルミニウム材からなるタンクを取り付けることにより組立体を作製する。この組立体を加熱してろう付を行うことにより、いわゆるパラレルフロー型の熱交換器を得ることができる。
【0058】
また、前述したパラレルフロー型の熱交換器においては、例えばチューブとして、前記アルミニウム材からなるチューブに替えて、ろう付接合を形成する機能を有しないアルミニウム合金からなるチューブを用いることもできる。この場合、チューブは、押出加工によって形成される押出材であってもよく、板材に電縫加工を施してなる電縫管であってもよい。
【0059】
また、例えば、前記アルミニウム材からなり凹部を有する2枚のプレートを、2枚のプレートの間に伝熱媒体の流路が形成されるようにして重ね合わせた後にろう付を行うことにより、いわゆるラミネートタイプの熱交換器を得ることができる。
【0060】
また、例えば、前記アルミニウム材からなり、ベース板に複数のフィンが立設されたヒートシンクと、前記アルミニウム材からなり、中空部を有するジャケットとを準備し、ジャケットの中空部にヒートシンクを接合することにより、熱交換器を得ることができる。さらに、ヒートシンクとジャケットとを積層することにより、オイルクーラ等を得ることもできる。
【0061】
前記アルミニウム材を含むアルミニウム構造体を作製するに当たっては、まず、前記アルミニウム材を含むアルミニウム構造体の構成部材を準備し、これらの構成部材を組み立てて組立体を作製する。この組立体を加熱し、前記アルミニウム材から融液を発生させる。そして、前記アルミニウム材と相手材との間にろう付接合を形成することにより、アルミニウム構造体を得ることができる。
【0062】
前記アルミニウム材と相手材とを接合する際の加熱温度は、前記アルミニウム材の液相率、つまり、ろう付加熱前の前記アルミニウム材の質量に対する前記アルミニウム材から生じる融液の質量の比が5質量%を超え35質量%以下となるように設定することが好ましく、7質量%以上25質量%以下となるように設定することがより好ましい。加熱時におけるアルミニウム材の液相率を前記特定の範囲内とすることにより、加熱中のアルミニウム材の強度の低下を抑制しつつ、アルミニウム材から十分な量の融液を生じさせ、相手材との間にろう付接合を容易に形成することができる。
【0063】
また、前記アルミニウム材と相手材とを接合する際の加熱温度の保持時間は、前記アルミニウム材の液相率が5質量%以上となる時間が30秒以上3600秒以下となるように設定することが好ましく、60秒以上1800秒以下となるように設定することがより好ましい。アルミニウム材の加熱温度の保持時間を前記特定の範囲内とすることにより、加熱中のアルミニウム材の強度の低下を抑制しつつ、アルミニウム材から生じた融液を、アルミニウム材と相手材との間に十分に充填することができる。なお、前記アルミニウム材と相手材との接合においては、アルミニウム材の全面から融液が生じるため、アルミニウム材と相手材との間に形成されるろう付接合の面積とは無関係に保持時間の長さを設定することができる。
【0064】
より具体的には、例えば、前記アルミニウム材と相手材とを接合する際の加熱温度は、580℃以上620℃以下の範囲から適宜設定することができる。また、前記加熱温度の保持時間は、例えば0分以上10分以下、好ましくは30秒以上5分以下の範囲から適宜設定することができる。ここで、保持時間とは、加熱温度が所望の温度に達した時点からの経過時間をいう。加熱温度の保持時間が0分の場合には、加熱温度が所望の時間に達した後、直ちに加熱を終了してアルミニウム構造体の冷却を開始すればよい。
【0065】
前述したアルミニウム材の液相率は、所望の温度における平衡状態図に基づき、てこの原理(lever rule)に基づいて決定することができる。液相率の算出に用いる平衡状態図としては、すでに公知となっている平衡状態図を用いてもよく、平衡状態図を算出するためのソフトウェアにより作成された平衡状態図を用いてもよい。この種のソフトウェアとしては、例えば、Thermo-CalcSoftwareAB社製の熱力学計算システム「Thremo-Calc(登録商標)」等を使用することができる。
【0066】
前記アルミニウム材と相手材とを接合する際の雰囲気は特に限定されることはないが、アルミニウム構造体の不要な酸化を抑制する観点から、窒素やアルゴンなどの非酸化性雰囲気であることが好ましい。また、組立体を減圧雰囲気中で加熱することにより、前記アルミニウム材と相手材とを接合することも可能である。
【0067】
前記アルミニウム材と相手材とのろう付性をより高める観点からは、組立体におけるろう付接合を形成しようとする部分に予めフラックスを配置し、その後に組立体を加熱してろう付を行ってもよい。フラックスとしては、例えば、KAlF、KAlF、KAlF・HO、KAlF、AlF、KZnF及びKSiF等のフッ化物系フラックスや、CsAlF、CsAlF・2HO、CsAlF・HO等のセシウム系フラックス、塩化物系フラックス等のアルミニウムのろう付用フラックスとして用いられる化合物を使用することができる。
【0068】
また、アルミニウム構造体の構成部材のうち1つ以上の構成部材の表面に、予めZn溶射皮膜やZn原子を含むフラックス、Zn粉末、Znめっき膜などを形成した後に加熱を行い、前記アルミニウム材と相手材とを接合することもできる。この場合には、アルミニウム構造体の耐食性をより向上させることができる。同様の観点から、加熱後のアルミニウム構造体にクロメート処理やノンクロメート処理などの表面処理を実施してもよい。
【実施例0069】
前記ろう付用単層アルミニウム合金材の実施例を以下に説明する。前記アルミニウム合金材は、Si:2.0質量%以上3.0質量%以下、Fe:0.05質量%以上0.40質量%以下、Cu:0.05質量%以上0.25質量%以下、Mn:0.8質量%以上1.6質量%以下、Zn:1.0質量%以上3.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、Cuの含有量に対するFeの含有量の比が1.2以上5.0以下であり、Feの含有量とCuの含有量との合計が0.25質量%以上0.65質量%以下であり、Znの含有量に対するCuの含有量の比が0.02以上0.40以下である化学成分を有している。以下、アルミニウム材のより具体的な構成を、製造方法と共に説明する。
【0070】
図1に示すように、本例のアルミニウム材1は、ろう付接合を形成する機能を有するアルミニウム合金からなる単層構造の板材である。また、本例のアルミニウム材1は、非繊維状組織からなる金属組織を有している。アルミニウム材1は、例えば、双ロール式連続鋳造圧延法により作製した鋳造板を圧延することにより作製することができる。具体的には、まず、双ロール式連続鋳造圧延法により、表1に示す化学成分を備えた鋳造板を作製する。鋳造時の溶湯の温度は、例えば650~800℃の範囲内から適宜設定すればよい。鋳造板の寸法は特に限定されないが、例えば、厚さ6mmである。
【0071】
なお、記号「Bal.」は残部であることを示す。また、表1における「Fe/Cu」欄にはCuの含有量に対するFeの含有量の比を記載し、「Fe+Cu」欄にはFeの含有量とCuの含有量との合計を記載し、「Cu/Zn」欄にはZnの含有量に対するCuの含有量の比を記載した。
【0072】
その後、鋳造板に冷間圧延を行い、厚み0.100mmの圧延板を作製する。この圧延板を380℃の温度に3時間保持して中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延を行って圧延板の厚みを0.070mmまで減少させる。以上により、表1に示す試験材S1及び試験材S2を得ることができる。なお、表1に示す試験材R1及び試験材R2は、試験材S1及び試験材S2との比較のための試験材である。試験材R1及び試験材R2の構成は、表1に示す化学成分を有している以外は試験材S1及び試験材S2と同様である。
【0073】
次に、前記アルミニウム材の諸特性の評価方法を説明する。
【0074】
・平均結晶粒径
平均結晶粒径の評価においては、以下のようにして、ろう付加熱前の試験片及びろう付加熱後の試験片を準備する。まず、試験材を切断して長さ300mm、幅150mmの平板を採取する。この平板から長さ20mm、幅15mmの小片を採取し、この小片をろう付加熱前の試験片として用いる。
【0075】
これとは別に、長さ300mm、幅150mmの平板を準備し、この平板を窒素雰囲気中において580℃以上600℃以下の温度に3分間保持する。加熱後の平板から長さ20mm、幅15mmの小片を採取し、この小片をろう付加熱後の試験片として用いる。
【0076】
以上のようにして準備した試験片を厚み方向に研削し、次いで鏡面研磨を施すことにより試験片の厚み方向における中心面を露出させる。その後、中心面にエッチングを行って結晶粒界を顕在化させた後、偏光顕微鏡を用いて中心面を観察する。そして、中心面上における試験片の金属組織を代表する部分に3か所の評価領域を設定し、これらの領域の偏光顕微鏡像を取得する。なお、偏光顕微鏡の倍率は50倍とする。
【0077】
このようにして得られた偏光顕微鏡像を用い、JIS G0551(2020)に規定された切断法に準じた方法により、試験材の平均結晶粒径を算出する。具体的には、偏光顕微鏡像上に、共通の中心を有する直径79.58mmの円、直径53.05mmの円及び直径26.53mmの円を描き、これらの円と交差する結晶粒の数を数える。そして、前述した3つの円の円周の長さの合計を結晶粒の数で除した値を平均結晶粒径とする。すなわち、平均結晶粒径d(単位:μm)は、円と交差する結晶粒の数n(単位:個)と、偏光顕微鏡の観察倍率X(単位:倍)とを用い、下記式により表される。
d=1000π(79.58+53.05+26.53)/nX
【0078】
表2に、ろう付加熱前の試験片及びろう付加熱後の試験片の平均結晶粒径を示す。
【0079】
・ろう付前のアルミニウム材の引張強さ
各試験材を用い、JIS Z2241:2011に準拠した方法により引張試験を行う。なお、引張試験における引張速度は10mm/分とし、ゲージ長は50mmとする。引張試験により得られる応力-ひずみ曲線に基づいて試験材の引張強さを決定する。表2に、ろう付加熱前の試験材の引張強さを示す。
【0080】
・ろう付後のアルミニウム材の引張強さ
窒素雰囲気中において580℃以上600℃以下の温度に3分間保持し、ろう付に相当する加熱を行った後の試験材を用い、JIS Z2241:2011に準拠した方法により引張試験を行う。なお、引張試験における引張速度は10mm/分とし、ゲージ長は50mmとする。引張試験により得られる応力-ひずみ曲線に基づいて試験材の引張強さを決定する。表2に、ろう付加熱後の試験材の引張強さを示す。
【0081】
・ろう付性
ろう付性の評価には、図2に示すミニコア試験体2を用いる。ミニコア試験体2は、2本のチューブ21と、チューブ21同士の間に介在するコルゲートフィン22とを有している。また、チューブ21とコルゲートフィン22とは、ろう付接合23を介して接合されている。本例のチューブ21は、具体的にはアルミニウム合金から構成されており、チューブ21の表面には約8g/mのZn溶射皮膜が設けられている。また、チューブ21の幅は16mmであり、長さは40mmである。
【0082】
コルゲートフィン22は、表1に示す試験材S1、S2、R1またはR4のいずれかから構成されている。コルゲートフィン22の幅は16mmであり、山高さは10mmであり、ピッチは3.0mmである。
【0083】
ミニコア試験体2を作製するに当たっては、まず、2本のチューブ21の間にコルゲートフィン22を配置して組立体(図示略)を作製する。この組立体をステンレス鋼製の治具を用いて拘束した後、組立体をフッ化物系フラックスの10%懸濁液に浸漬する。その後、組立体を乾燥させることにより、組立体の表面にフッ化物系フラックスを付着させる。フッ化物系フラックスが付着した組立体をろう付炉内に入れ、窒素雰囲気中において580℃以上600℃以下の温度に3分間保持することにより、チューブ21とコルゲートフィン22との間にろう付接合23を形成する。
【0084】
ろう付後のミニコア試験体2をチューブ21の長手方向における中央で切断した後、さらにチューブ21の幅方向における中央で切断することにより、ろう付接合23の断面を露出させる。そして、2本のチューブ21(21a、21b)のうち第1のチューブ21aとコルゲートフィン12との間に形成される複数のろう付接合23から無作為に3か所のろう付接合23を選択し、これらのろう付接合23の断面積を測定する。同様に、2本のチューブ21のうち第2のチューブ21bとコルゲートフィン22との間に形成される複数のろう付接合23から3か所のろう付接合23を選択し、これらのろう付接合23の断面積を測定する。以上により得られた6か所のろう付接合23の断面積の算術平均値を、表2の「平均フィレット面積」欄に示す。
【0085】
・ろう付後の自然電極電位
前述したろう付性の評価と同様にしてミニコア試験体2から、以下のようにしてチューブ21の内部の自然電極電位を測定するためのチューブ内部試験体、チューブ21の表面の自然電極電位を測定するためのチューブ表面試験体、コルゲートフィン22の自然電極電位を測定するためのフィン試験体及びろう付接合23の自然電極電位を測定するためのフィレット試験体を準備する。
【0086】
チューブ内部試験体を作製するに当たっては、まず、ミニコア試験体2からコルゲートフィン22を切除して第1のチューブ21aを取り外す。このチューブ21aの表面を研磨してZn溶射皮膜を除去した後、アセトンによりチューブ21aの脱脂洗浄を行う。その後、Zn溶射皮膜を除去した後のチューブ21aの表面に一辺10mmの正方形状の電位測定部を設定し、電位測定部及びチューブ21aの一方の端面以外の部分をシリコーンシーラントで被覆する。以上により、チューブ内部試験体を得ることができる。
【0087】
チューブ表面試験体を作製するに当たっては、まず、ミニコア試験体2からコルゲートフィン22を切除して第1のチューブ21aを取り外す。アセトンによりチューブ21aの脱脂洗浄を行った後、チューブ21aの表面に設けられたZn溶射皮膜のうち、いずれか1か所のろう付接合23から当該ろう付接合23の隣に位置するろう付接合23までの間の部分を特定し、この部分を電位測定部とする。すなわち、チューブ表面試験体の電位測定部は、チューブ21aの表面における、コルゲートフィン22の1ピッチに相当する部分である。このように設定した電位測定部及びチューブ21aの一方の端面以外の部分をシリコーンシーラントで被覆する。以上により、チューブ表面試験体を得ることができる。
【0088】
フィン試験体を作製するに当たっては、まず、コルゲートフィン22における、チューブ21aとチューブ21bとの間のフィン一般部221のうちいずれか1か所のフィン一般部221を特定し、この部分を電位測定部とする。次に、ミニコア試験体2におけるコルゲートフィン22を、電位測定部を含む1ピッチ分の部分をミニコア試験体2に残すようにして切除する。そして、アセトンによりミニコア試験体2の脱脂洗浄を行った後、電位測定部及びチューブ21のいずれか1つの端面以外の部分をシリコーンシーラントで被覆する。以上により、フィン試験体を得ることができる。
【0089】
フィレット試験体を作製するに当たっては、まず、ミニコア試験体2からコルゲートフィン22を切除して第1のチューブ21aを取り外す。その後、チューブ21aを研磨してろう付接合23を露出させ、これらのろう付接合23を電位測定部とする。そして、アセトンによりチューブ21aの脱脂洗浄を行った後、ろう付接合23及びチューブ21aの一方の端面以外の部分をシリコーンシーラントで被覆する。以上により、フィレット試験体を得ることができる。
【0090】
自然電極電位の測定には、図3に示す測定装置3を使用する。測定装置3は、試験体4を浸漬するための溶液を入れる第1の容器31と、参照電極5を浸漬するための溶液を入れる第2の容器32と、第1の容器31内の溶液と第2の容器32内の溶液とを電気的に接続するための塩橋33と、参照電極5に対する試験体4の電位を測定するためのポテンシオスタット34と、測定した電位を記録するための記録装置35と、を有している。なお、図3においては、試験体4の形状を模式的に示した。
【0091】
自然電極電位の測定は、以下のようにして行われる。まず、第1の容器31内に酢酸を用いてpHを3に調整した5%NaCl水溶液を準備するとともに、第2の容器32内に飽和NaCl水溶液を準備する。そして、第1の容器31内の溶液と第2の容器32内の溶液とを塩橋33を介して電気的に接続する。なお、各溶液の温度は室温とする。
【0092】
次に、試験体4における、シリコーンシーラントで被覆されていないチューブ21の端面41及び参照電極5をそれぞれポテンシオスタット34に接続する。なお、参照電極5としては、例えば、飽和カロメル電極(いわゆるSCE)を使用することができる。
【0093】
この状態で第1の容器31内の溶液を攪拌しながら試験体4の電位測定部42を浸漬するととともに、第2の容器32内の飽和NaCl水溶液に参照電極5を浸漬することにより、参照電極5を基準としたときの試験体4の電位測定部42の自然電極電位を測定することができる。そして、測定開始から10時間経過した時点から15時間経過した時点までの各試験体の自然電極電位の算術平均値を、フィン、フィレット、チューブ表面及びチューブ内部の自然電極電位とする。表3に、各部の自然電極電位を示す。また、表3の「電位差」欄に、フィレットに対するチューブ表面の電位差を示す。
【0094】
・耐食性
前述した方法により得られたミニコア試験体2を用い、ASTM-G85-A3に準拠した方法によりSWAAT試験を実施する。なお、試験期間は40日または55日のいずれかとする。酸を用いて試験終了後のミニコア試験体を洗浄した後、チューブ21からのコルゲートフィン22の剥離の有無に基づいて耐食性を評価することができる。
【0095】
表3の「耐食性」欄には、SWAAT試験を55日継続した際にコルゲートフィン22の剥離が起こらない場合には記号「A」、40日継続した際にコルゲートフィン22の剥離が起こらず、55日継続した際にコルゲートフィン22の剥離が起こる場合には記号「B」、40日継続した際にコルゲートフィン22の剥離が起こる場合に記号「C」を記載した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
表1に示したように、試験材S1及び試験材S2は、前記特定の化学成分を有している。そのため、試験材S1及び試験材S2は、表2に示すように優れたろう付性を有し、ろう付前及びろう付後において高い強度を有している。また、試験材S1及び試験材S2は、表3に示すように長期間にわたってアルミニウム構造体の耐食性を維持することができる。これらの試験材の中でも、試験材S1は、試験材S2よりもFeの含有量とCuの含有量との合計が少ないため、ろう付加熱後の成形性に優れている。
【0100】
一方、試験材R1は、Cuの含有量が前記特定の範囲よりも少ないため、ろう付加熱時の液相率が低くなる。そのため、試験材R1は、表2に示すように試験材S1及び試験材S2に比べてろう付性に劣っている。また、試験材R1は、Cuの含有量及びFeの含有量とCuの含有量との合計が前記特定の範囲よりも少ないため、表2に示すように試験材S1及び試験材S2に比べて強度が低い。さらに、試験材R1は、Cu/Znの値が前記特定の範囲よりも小さいため、表3に示すようにろう付接合の電位が過度に卑化しやすい。そのため、試験材R1を含むアルミニウム構造体は耐食性に劣っている。
【0101】
試験材R2も、試験材R1と同様にCuの含有量が前記特定の範囲よりも少ないため、表2に示すように試験材S1及び試験材S2に比べてろう付性に劣っている。また、試験材R1は、Cuの含有量が前記特定の範囲よりも少ないため、表2に示すように試験材S1及び試験材S2に比べて強度が低い。さらに、試験材R1は、Cu/Znの値が前記特定の範囲よりも小さいため、表3に示すようにろう付接合の電位が過度に卑化しやすい。そのため、試験材R1を含むアルミニウム構造体は耐食性に劣っている。
【0102】
以上、実施例に基づいて本発明にかかるろう付用単層アルミニウム合金材及びこのろう付用単層アルミニウム合金材を含むアルミニウム構造体の態様を説明したが、本発明にかかるろう付用単層アルミニウム合金材及びこのろう付用単層アルミニウム合金材を含むアルミニウム構造体の具体的な態様は、実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 ろう付用単層アルミニウム合金材
図1
図2
図3