(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184181
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】身体指標推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20231221BHJP
【FI】
G01N21/3563
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098177
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】清水 教男
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA06
2G059BB10
2G059BB12
2G059EE01
2G059EE12
2G059EE13
2G059FF10
2G059HH01
2G059HH06
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】角層の赤外吸収スペクトル情報を用いて角層の性状等とは異なる他の身体指標を推定可能な技術を提供する。
【解決手段】身体指標推定方法では、一以上のプロセッサが、被評価者の皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報を取得する工程と、複数のサンプル提供者における皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報と既知の目的指標値との複数のデータセットを用いて得られた推定モデルに、当該赤外吸収スペクトル情報を入力することにより、被評価者の目的指標値を推定する工程とを実行し、当該赤外吸収スペクトル情報は、所定の波数領域における複数の強度値を含み、当該目的指標値は、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態、年齢体格特性、血液血管特性又は皮膚内部特性に関する指標値である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上のプロセッサが、
被評価者の皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報を取得する取得工程と、
複数のサンプル提供者における皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報と既知の目的指標値との複数のデータセットを用いて得られた推定モデルに、前記取得された赤外吸収スペクトル情報を入力することにより、前記被評価者の目的指標値を推定する推定工程と、
を実行し、
前記赤外吸収スペクトル情報は、所定の波数領域における複数の強度値を含み、
前記目的指標値は、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態、年齢体格特性、血液血管特性又は皮膚内部特性に関する指標値である、
身体指標推定方法。
【請求項2】
前記赤外吸収スペクトル情報は、600cm-1以上1800cm-1以下の第一波数領域における複数の強度値及び2800cm-1以上3700cm-1以下の第二波数領域における複数の強度値を少なくとも含む、
請求項1に記載の身体指標推定方法。
【請求項3】
前記赤外吸収スペクトル情報は、前記第一波数領域及び前記第二波数領域の非ピーク領域における複数の強度値を少なくとも含む、
請求項2に記載の身体指標推定方法。
【請求項4】
前記赤外吸収スペクトル情報は、前記第一波数領域から一定波数間隔及び前記第二波数領域から一定波数間隔でそれぞれサンプリングされた複数の強度値を含む、
請求項2又は3に記載の身体指標推定方法。
【請求項5】
前記目的指標値は、顔の黄色み状態、顔のシミ状態、顔の赤みムラ状態、目周りの色ムラ状態、顔全体の赤み状態、顔の鱗屑状態、顔の艶状態、頬のキメジワ状態、顔のクマ状態、目の下のたるみ状態、口角のたるみ状態、若しくは顔のニキビ及び吹き出物の状態に関する目視評価値、又は、頬のざらつき状態若しくは顔のしっとり状態に関する触覚評価値である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の身体指標推定方法。
【請求項6】
前記目的指標値は、年齢、BMI(Body Mass Index)、又は体脂肪率である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の身体指標推定方法。
【請求項7】
前記目的指標値は、血流調節機能の指標値、炭酸水負荷に伴う毛細血管変化の指標値、又は血液検査で得られる血液指標値である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の身体指標推定方法。
【請求項8】
前記目的指標値は、皮膚の粘弾性測定により得られる指標値、皮膚若しくは皮下の血管壁に蓄積される最終糖化生成物に関する指標値、皮膚の分光反射率計測により得られるメラニン量、紅斑、L*a*b*色空間におけるクロマティックネス指数b*(SCE-b*、及びSCI-b*)に関する指標値である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の身体指標推定方法。
【請求項9】
一以上のプロセッサ及びメモリを少なくとも備える身体指標推定装置であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載の身体指標推定方法を実行可能な身体指標推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外吸収スペクトル情報を用いて身体指標を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、皮膚の角層の赤外吸収スペクトルから1610~1570cm‐1の波数領域における信号強度A及び蛋白質由来の信号強度Bを観測し、信号強度Aから抽出されたカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A'と信号強度Bとの比から角層中の天然保湿因子NMF量を測定する方法が開示されている。
下記特許文献2には、ヒトの皮膚の角層を対象として赤外分光法によって赤外吸収スペクトルを測定し、この赤外吸収スペクトルにおける蛋白質二次構造に由来するアミドI吸収帯のピークから、αへリックスとランダムコイルの重畳したピーク及びβシートのピークを分割し、αへリックスとランダムコイルの重畳したピークの面積及びβシートのピーク面積を算出して、〔βシートのピーク面積〕/〔αへリックスとランダムコイルの重畳したピークの面積〕で定義されるピーク面積比β/αを算出し、算出された比β/αの値を指標として皮膚の角層の性状を医療行為以外の目的で評価する方法が開示されている。
下記特許文献3から5には、テープ剥離により取得された角層を対象にして得られた赤外吸収スペクトルを用いて角層の性状等を簡便かつ安定的に評価可能とする手法が開示されております。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-210567号公報
【特許文献2】特開2013-44525号公報
【特許文献3】特開2018-105783号公報
【特許文献4】特開2020-193948号公報
【特許文献5】特開2021-181987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の各種手法は、角層の赤外吸収スペクトルにおける特定波数領域のピークの信号強度、ピーク形状等に基づいて角層の性状等を評価している。
これに対して、本発明者らは、角層の赤外吸収スペクトル情報を用いることでより、角層の性状等とは異なる他の身体指標を推定可能であり、更に、その推定精度を向上させることができることを見出した。
【0005】
本発明は、このような観点からなされたものであり、角層の赤外吸収スペクトル情報を用いて角層の性状等とは異なる他の身体指標を推定可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、一以上のプロセッサが、被評価者の皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報を取得する取得工程と、複数のサンプル提供者における皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報と既知の目的指標値との複数のデータセットを用いて得られた推定モデルに、前記取得された赤外吸収スペクトル情報を入力することにより、前記被評価者の目的指標値を推定する推定工程とを実行し、前記赤外吸収スペクトル情報は、所定の波数領域における複数の強度値を含み、前記目的指標値は、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態、年齢体格特性、血液血管特性又は皮膚内部特性に関する指標値である身体指標推定方法が提供され得る。
また、一以上のプロセッサ及びメモリを少なくとも備える身体指標推定装置であって上述の身体指標推定方法を実行可能な身体指標推定装置なども提供され得る。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、角層の赤外吸収スペクトル情報を用いて角層の性状等とは異なる他の身体指標を推定可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る身体指標推定方法(本方法)を実行可能な情報処理装置のハードウェア構成例を概念的に示す図である。
【
図2】本実施形態に係る身体指標推定方法(本方法)のフローチャートである。
【
図3】皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図4】実施例1の推定モデルにおける視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
【
図5】実施例1の推定モデルにおける年齢体格特性に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
【
図6】実施例1の推定モデルにおける血液血管特性に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
【
図7】実施例1の推定モデルにおける皮膚内部特性に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
【
図8】毛細血管応答性を目的指標値とする推定モデル(推定式)における各波数成分(各説明変数)の吸光度に対する重み(回帰係数)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態の例(以降、本実施形態と表記する)について説明する。以下に挙げる実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0010】
本実施形態に係る身体指標推定方法(以下、本方法と表記する)は、一台以上の情報処理装置が備える一以上のプロセッサにより実行される。
図1は、本方法を実行可能な情報処理装置10のハードウェア構成例を概念的に示す図である。
情報処理装置10は、いわゆるコンピュータであり、CPU11、メモリ12、入出力インタフェース(I/F)13、通信ユニット14等を有する。情報処理装置10は、据え置き型のPC(Personal Computer)であってもよいし、携帯型のPC、スマートフォン、タブレット等のような携帯端末であってもよいし、専用コンピュータであってもよい。
【0011】
CPU11は、いわゆるプロセッサであり、一般的なCPU(Central Processing Unit)に加えて、特定用途向け集積回路(ASIC)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等も含まれ得る。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置(ハードディスク等)である。
入出力I/F13は、表示装置15、入力装置16等のユーザインタフェース装置と接続可能である。表示装置15は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイのような、CPU11等により処理された描画データに対応する画面を表示する装置である。入力装置16は、キーボード、マウス等のようなユーザ操作の入力を受け付ける装置である。表示装置15及び入力装置16は一体化され、タッチパネルとして実現されてもよい。
通信ユニット14は、通信網を介した他のコンピュータとの通信や、プリンタ等の他の機器との信号のやりとり等を行う。通信ユニット14には、可搬型記録媒体等も接続され得る。
【0012】
情報処理装置10のハードウェア構成は、
図1の例に制限されない。情報処理装置10は、図示されていない他のハードウェア要素を含んでもよい。また、各ハードウェア要素の数も、
図1の例に制限されない。例えば、情報処理装置10は、複数のCPU11を有していてもよい。また、情報処理装置10は、複数の筐体からなる複数台のコンピュータにより実現されていてもよい。
【0013】
情報処理装置10は、CPU11によりメモリ12に格納されたコンピュータプログラムが実行されることにより、本方法を実行することができる。このコンピュータプログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F13又は通信ユニット14を介してインストールされ、メモリ12に格納される。
【0014】
情報処理装置10(CPU11)は、推定モデルを利用可能であり、更に、その推定モデルを生成することもできる。但し、当該推定モデルは、他のコンピュータで生成されてもよい。当該推定モデルは、情報処理装置10内のメモリ12に格納されていてもよいし、情報処理装置10が通信でアクセス可能な他のコンピュータのメモリに格納されていてもよい。
このように情報処理装置10は、当該推定モデルを利用可能な装置であって本方法を実行可能な身体指標推定装置と表記可能である。なお、推定モデルの詳細については後述する。
【0015】
ここで、本方法について
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態に係る身体指標推定方法(本方法)のフローチャートである。
本方法は、
図2に示されるように、被評価者の皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報を取得する取得工程(S11)と、上述の推定モデルに、取得工程(S11)で取得された赤外吸収スペクトル情報を入力する(S12)ことにより、被評価者の目的指標値を推定する推定工程(S13)とを少なくとも含む。
図2の例において、本方法は、推定工程(S13)で取得された被評価者の目的指標値を出力する工程(S14)を更に含んでいる。
本方法は、
図1に例示されるような情報処理装置10(CPU11)により実行される。以降、本方法の各工程についてその実行主体をCPU11としてそれぞれ詳述する。
【0016】
取得工程(S11)で取得される赤外吸収スペクトル情報は、皮膚から剥離された角層を少なくとも含む検体の赤外分光測定により得られる赤外吸収スペクトル(赤外吸光スペクトル、赤外透過スペクトル等とも呼ばれる)の情報であって、当該赤外吸収スペクトルの所定の波数領域における複数の強度値を含む。
【0017】
「皮膚から剥離された角層」には、手や粘着テープ、何らかの道具等を用いて皮膚から採取された或いは剥離された角層のみでなく、自然に剥がれ落ちた角層も含む。当該赤外吸収スペクトル情報は、このような角層に関して得られる赤外吸収スペクトルのみを示してもよいし、その角層に加えてテープや水分、埃のような他の成分を含んだ状態の赤外吸収スペクトルを示してもよい。
「強度値」とは、赤外吸収スペクトルにおける各波数の強度を示す値であり、例えば、吸光度、透過率若しくは反射率である。
【0018】
図3は、皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトルの例を示すグラフである。
図3において、横軸は波数を示し、縦軸は吸光度(強度値)を示している。
取得工程(S11)で取得される赤外吸収スペクトル情報は、
図3に例示されるような赤外吸収スペクトルの所定の波数領域の強度値群の中から抽出された複数の強度値を含む。
赤外吸収スペクトルの「所定の波数領域」は、予め決められた波数領域であって、赤外分光測定を行う装置の仕様に応じた測定限界となる波数範囲であってもよいし、そのような測定限界の波数範囲の中の一以上の部分的な波数領域であってもよい。例えば、
図3の例に示されるように、所定の波数領域は、測定限界となる600cm
-1以上4000cm
-1以下の波数範囲とされてもよい。
【0019】
但し、赤外吸収スペクトル情報は、600cm-1以上1800cm-1以下の第一波数領域における複数の強度値及び2800cm-1以上3700cm-1以下の第二波数領域における複数の強度値を少なくとも含むことが好ましい。実施例として後述するとおり、当該第一波数領域及び当該第二波数領域における強度値の、目的指標値に対する寄与率(回帰係数)が、それ以外の波数領域の強度値よりも高く、推定モデルの推定精度を高くすることができるからである。
【0020】
また、当該赤外吸収スペクトル情報は、600cm
-1以上1800cm
-1以下の第一波数領域および2800cm
-1以上3700cm
-1以下の第二波数領域の非ピーク領域における複数の強度値を少なくとも含むことが好ましい。
ここでの「非ピーク領域」とは、
図3に示すような赤外吸収スペクトルのグラフにおいてピークではない波数領域を示し、具体的には、所定の波数分解能(例えば0.5cm
-1)の赤外吸収スペクトルにおいてピーク領域を除いた波数領域を意味する。「ピーク領域」とは、当該赤外吸収スペクトルにおいて凸状を示す波数領域であって、例えば、その波数領域内のピーク強度を示す波数を中心にして所定の波数範囲(例えば100cm
-1)、或いは当該ピーク強度を示す波数を中心にしてそのピーク強度の8割から5割程度の強度を示す波数までの波数範囲を意味する。
図3の例では、第一波数領域の非ピーク領域には、700から800cm
-1付近、1000から1100cm
-1付近、1400cm
-1付近の波数範囲等が該当し、第二波数領域の非ピーク領域には、3000から3100cm
-1付近、3400から3700cm
-1付近の波数領域等が該当する。
本発明者らにより、このように当該赤外吸収スペクトル情報としてピーク強度値だけではなく非ピーク領域の複数の強度値を用いることで推定モデルの推定精度を高くすることが見出されている。
【0021】
また、当該赤外吸収スペクトル情報に含まれる強度値は、赤外吸収スペクトルのピーク強度値か否かに関わらず抽出されたものであってもよい。例えば、当該赤外吸収スペクトル情報は、ピーク強度値か否かに関わらず、600cm-1以上1800cm-1以下の第一波数領域の中から一定波数間隔(第一波数間隔)及び2800cm-1以上3700cm-1以下の第二波数領域の中から一定波数間隔(第二波数間隔)でそれぞれサンプリングされた複数の強度値を含むようにしてもよい。この場合、第一波数間隔と第二波数間隔は同一にされてもよいし、異なる間隔とされてもよい。また、当該赤外吸収スペクトル情報は、所定の波数領域(例えば600cm-1以上4000cm-1以下)の中から一定波数間隔でサンプリングされた複数の強度値を含むようにしてもよい。
このように赤外吸収スペクトルのピーク強度値か否かに関わらず抽出された複数の強度値を用いることで推定モデルの推定精度を高くすることができることは実施例で後述するとおり実証されている。
【0022】
また、当該赤外吸収スペクトル情報に含まれる強度値の数は、推定モデルの推定精度を高くするためには、実施例として後述するとおり、10以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましい。
【0023】
CPU11は、取得工程(S11)において、赤外分光測定装置若しくは他のコンピュータから通信或いは可搬型記録媒体を介して当該赤外吸収スペクトル情報を取得してもよいし、その測定装置若しくは他のコンピュータから取得された情報を加工することで当該赤外吸収スペクトル情報を取得してもよい。
【0024】
上述したとおり本実施形態では赤外吸収スペクトル情報の取得手法には様々な手法が採用可能である。例えば、シリコーン粘着層又は他の成分の粘着層を有する粘着テープで皮膚表面から角層を採取し、少なくとも角層が付着したその粘着テープに対する赤外分光測定の結果から当該赤外吸収スペクトル情報が抽出されてもよい。この場合、CPU11は、赤外分光測定装置若しくは他のコンピュータから赤外分光測定の結果情報を取得し、その結果情報から必要となる赤外吸収スペクトル情報を取得してもよい。
また、上述の特許文献3から5の開示手法を用いて当該赤外吸収スペクトル情報が取得されてもよい。具体的には、粘着テープT1で皮膚表面から角層を採取し、採取された角層をその粘着テープT1からシリコーン粘着層を有するテープT2に転写して、そのテープT2の粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルAとシリコーン粘着層を有する未使用のテープT3の粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルBとの差スペクトルを求めて、その差スペクトルから当該赤外吸収スペクトル情報を抽出する手法が行われてもよい。この手法において当該差スペクトルは、シリコーン粘着層に由来する主要な吸収帯である1260cm-1付近の吸収帯若しくは1000~1100cm-1付近の吸収帯又はそれら両方に由来するピーク強度が一致するように、赤外吸収スペクトルA又は赤外吸収スペクトルBを定数倍してから差し引いて得られる。なお、実施例の項においてこの手法は開示手法と表記される。
【0025】
工程(S12)で用いられる推定モデルは、複数のサンプル提供者に関する複数のデータセットを用いて得られたモデルである。
各データセットは、サンプル提供者の皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報とそのサンプル提供者に関する既知の目的指標値との組合せデータである。
赤外吸収スペクトル情報は、推定モデルの入力となる説明変数の値として用いられる。赤外吸収スペクトル情報については工程(S11)に関して述べたとおりである。但し、推定モデルの構築に用いられる赤外吸収スペクトル情報は、サンプル提供者の角層に関して得られたものとなる。但し、サンプル提供者の中に当該被評価者が含まれていてもよい。
【0026】
目的指標値は、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態、年齢体格特性、血液血管特性又は皮膚内部特性に関する指標値であり、推定モデルの出力となる目的変数の値として用いられる。上述のデータセットに含まれる既知の目的指標値は、各サンプル提供者を対象にして評価、計測等を行うことで予め取得される。
【0027】
視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態に関する指標値は、評価者が視覚又は触覚で人顔の状態を官能評価することで得られる官能評価値であり、例えば、顔の黄色み状態、顔のシミ状態、顔の赤みムラ状態、目周りの色ムラ状態、顔全体の赤み状態、顔の鱗屑状態、顔の艶状態、頬のキメジワ状態、顔のクマ状態、目の下のたるみ状態、口角のたるみ状態、若しくは顔のニキビ及び吹き出物の状態に関する目視評価値であり、或いは、頬のざらつき状態若しくは顔のしっとり状態に関する触覚評価値である。
年齢体格特性に関する指標値は、年齢又は体格を示し得る指標値であり、例えば、年齢、年齢層を示す識別子(30代、40代、30~40歳代など)、BMI(Body Mass Index)値、又は体脂肪率である。
【0028】
血液血管特性に関する指標値は、血流調節機能の指標値、炭酸水負荷に伴う毛細血管変化の指標値、又は血液検査で得られる血液指標値である。
血流調節機能の指標値は、以下の式で算出される冷水負荷(例えば15℃の冷水に1分間手を浸漬)後の皮膚温回復率であってもよい。以下の式において、TbIは冷水負荷直前の皮膚温であり、T0は冷水負荷直後の皮膚温であり、T10は冷水負荷後10分の皮膚温である。皮膚温は様々な方法で取得可能である。例えば、サーモグラフィー画像により、皮膚温を取得することができる。
皮膚温回復率(%)=(T10-T0)/(TbI-T0)×100
炭酸水負荷に伴う毛細血管変化の指標値は、皮膚に局所的に炭酸を含む温水(例えば32度)を所定時間接触させた後の毛細血管領域面積(炭酸負荷後の毛細血管領域面積と表記)を示す値であってもよいし、定常状態における毛細血管領域面積と炭酸負荷後の毛細血管領域面積との差或いは比率(毛細血管応答性と表記)を示す値であってもよい。
毛細血管領域面積は、既知の様々な画像処理を用いることで取得可能である。例えば、マイクロスコープで撮像された肌画像に対して独立成分分析を適用することで得られるヘモグロビン画像と陰影画像とのマスク処理により毛細血管領域を示す画像が取得され、その画像から毛細血管領域を特定することで毛細血管領域面積を取得することができる。
血液検査で得られる血液指標値は、身体から採取された血液を分析することで得られる血液検査値であり、例えば、ALT又はGPT値、ALP、LD又はLDH(乳酸脱水素酵素)値、γ-GTP値、総蛋白(TP)値、総コレステロール値、中性脂肪又はTG値、アルブミン(ALB)値、赤血球恒数(MCV(赤血球体積)、MCH(赤血球に含まれるヘモグロビン量)、ヘモグロビンA1c(HbA1c)(NGSP)(JDS)値、d-ROMs(生体の酸化ストレス度)値、BAP(生体の抗酸化力)値、それらの比率(BAP/d-ROMs)、エストラジオール値等である。
【0029】
皮膚内部特性に関する指標値は、主に表皮より内部の皮膚組織の特性を示す指標値であり、例えば、皮膚の粘弾性測定により得られる指標値、皮膚若しくは皮下の血管壁に蓄積される最終糖化生成物(AGEs(Advanced Glycation End products))に関する指標値、皮膚の分光反射率計測により得られるメラニン量、紅斑、黄味に関する指標値である。
皮膚の粘弾性測定は、Cutometerのような測定装置を用いて行われ、当該装置のプローブ先端の開口部から皮膚を一定時間吸引しその後解除し、その間の皮膚の変位が測定される。この測定で得られる指標値には、R0(=Uf)、R1(=Uf-Ua)、R2(=Ua/Uf)、R3からR10等のようなパラメータがある。
AGEsは、AGEs測定装置により計測可能であり、AGEs測定装置としては例えば、蛍光分光方式で皮膚及び皮下の血管壁に蓄積されるAGEsを自己蛍光量(Autofluorescence)として検出し、その積分データをAGEs値として算出する装置が知られている。このような測定装置で測定されたAGEs値が当該AGEsに関する指標値として用いられる。
皮膚の分光反射率計測により得られるメラニン量、紅斑、黄味に関する指標値は、分光反射率測定装置で皮膚の色を高い精度で計測することにより得られるメラニン量指数(Melanin Index)、紅斑指数(Erythema index)、L*a*b*色空間におけるクロマティックネス指数b*(SCE-b*及びSCI-b*)を数値化した値である。
【0030】
複数のサンプル提供者に関するこのような既知の目的指標値と赤外吸収スペクトル情報とのデータセット群を用いて当該推定モデルが構築される。本実施形態では多変量解析を用いて構築された推定モデルが例示される。即ち、本実施形態における推定モデルは、複数のサンプル提供者に関する複数のデータセットに対して多変量解析を行うことにより得られる。
多変量解析手法としては、例えば、重回帰分析、主成分分析、部分的最小二乗回帰(PLS)、主成分回帰分析(PCR)等がよく知られている。本実施形態では、赤外吸収スペクトル情報を説明変数とし、目的指標値を目的変数とする推定モデルを構築可能であれば、利用される多変量解析の具体的手法は限定されない。本実施形態における推定モデルは推定式とも表記可能である。
【0031】
また、当該推定モデルは、ディープニューラルネットワークを含む畳み込みニューラルネットワークで構成されていてもよく、コンピュータプログラムとパラメータとの組合せ、複数の関数とパラメータとの組合せなどにより実現される。また、当該推定モデルは、ニューラルネットワークで構築される場合で、かつ、入力層、中間層及び出力層を一つのニューラルネットワークの単位と捉えた場合に、一つのニューラルネットワークを指してもよいし、複数のニューラルネットワークの組合せを指してもよい。また、当該モデルは、複数の推定式の組合せで構成されてもよいし、一つの推定式で構成されてもよい。また、推定モデルは、ニューラルネットワークと回帰式や判別式等のような他のモデルとの組合せで構成され、ニューラルネットワークの出力として得られた値を当該他のモデルに入力して得られる値を出力とするものであってもよい。
【0032】
本実施形態において推定モデルは、複数の強度値を含む赤外吸収スペクトル情報を説明変数とし一つの目的指標値を目的変数とする一つの推定式であってもよいし、相互に異なる目的指標値をそれぞれ目的変数とする二以上の推定式の集合であってもよい。後者の場合には、工程(S13)において、二以上の目的指標値が取得される。
また、当該推定モデルがニューラルネットワークで構成されるAIモデルとして構築されている場合には、複数の強度値を含む赤外吸収スペクトル情報を入力として、一つ又は複数の目的指標値が出力される。
【0033】
工程(S14)においてCPU11は、工程(S13)で取得された目的指標値を出力する。CPU11は、目的指標値を表示装置15に表示させることもできるし、入出力I/F13又は通信ユニット14を介して接続されるプリンタ装置に目的指標値を出力させることもできるし、入出力I/F13又は通信ユニット14を介して可搬型記録媒体若しくは他のコンピュータに当該目的指標値を記録或いは送信することもできる。このように目的評価値の出力先及び出力方法は何ら限定されない。
また、CPU11は、工程(S13)で取得された目的指標値を数値としてそのまま出力してもよいし、取得された目的指標値に対して桁合わせ等の正規化を行ったうえで出力してもよい。本実施形態は目的指標値の出力形式についても限定しない。
【0034】
以上のように本実施形態では、被評価者の皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報であって600cm-1以上1800cm-1以下の第一波数領域及び2800cm-1以上3700cm-1以下の第二波数領域を少なくとも含む比較的広い所定の波数領域における複数の強度値を含む赤外吸収スペクトル情報が推定モデルに入力されることで、被評価者の目的指標値が推定される。角層に関する赤外吸収スペクトル情報から推定されるその目的指標値は、角層自体及び角層を含む皮膚表面の性状等とは異なる、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態、年齢体格特性、血液血管特性又は皮膚内部特性に関する指標値である。
本実施形態によれば、本発明者らにより新たに見出された、皮膚から剥離された状態の角層に関する赤外吸収スペクトル情報と、一見、角層とは無関係と思われるような身体指標との相関性に基づいて、当該赤外吸収スペクトル情報を用いて角層の性状等とは異なる他の身体指標を高精度に推定することができる。
更に言えば、血液採取、皮膚の粘弾性測定や画像撮影、専門評価者による肌の官能評価等といった各身体指標を得るための個々の処理を行うことなく、当該赤外吸収スペクトル情報を得さえすれば、容易にそのような身体指標を推定することができる。
【0035】
上記の実施形態及び変形例の一部又は全部は、次のようにも特定され得る。但し、上述の実施形態及び変形例が以下の記載に制限されるものではない。
【0036】
<1> 一以上のプロセッサが、
被評価者の皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報を取得する取得工程と、
複数のサンプル提供者における皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報と既知の目的指標値との複数のデータセットを用いて得られた推定モデルに、前記取得された赤外吸収スペクトル情報を入力することにより、前記被評価者の目的指標値を推定する推定工程と、
を実行し、
前記赤外吸収スペクトル情報は、所定の波数領域における複数の強度値を含み、
前記目的指標値は、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態、年齢体格特性、血液血管特性又は皮膚内部特性に関する指標値である、
身体指標推定方法。
【0037】
<2> 前記赤外吸収スペクトル情報は、600cm-1以上1800cm-1以下の第一波数領域における複数の強度値及び2800cm-1以上3700cm-1以下の第二波数領域における複数の強度値を少なくとも含む、
<1>に記載の身体指標推定方法。
<3> 前記赤外吸収スペクトル情報は、前記第一波数領域及び前記第二波数領域の非ピーク領域における複数の強度値を少なくとも含む、
<2>に記載の身体指標推定方法。
<4> 前記赤外吸収スペクトル情報は、前記第一波数領域から一定波数間隔及び前記第二波数領域から一定波数間隔でそれぞれサンプリングされた複数の強度値を含む、
<2>又は<3>に記載の身体指標推定方法。
<5> 前記目的指標値は、顔の黄色み状態、顔のシミ状態、顔の赤みムラ状態、目周りの色ムラ状態、顔全体の赤み状態、顔の鱗屑状態、顔の艶状態、頬のキメジワ状態、顔のクマ状態、目の下のたるみ状態、口角のたるみ状態、若しくは顔のニキビ及び吹き出物の状態に関する目視評価値、又は、頬のざらつき状態若しくは顔のしっとり状態に関する触覚評価値である、
<1>から<4>のいずれか一つに記載の身体指標推定方法。
<6> 前記目的指標値は、年齢、BMI(Body Mass Index)、又は体脂肪率である、
<1>から<4>のいずれか一つに記載の身体指標推定方法。
<7> 前記目的指標値は、血流調節機能の指標値、炭酸水負荷に伴う毛細血管変化の指標値、又は血液検査で得られる血液指標値である、
<1>から<4>のいずれか一つに記載の身体指標推定方法。
<8> 前記目的指標値は、皮膚の粘弾性測定により得られる指標値、皮膚若しくは皮下の血管壁に蓄積される最終糖化生成物に関する指標値、皮膚の分光反射率計測により得られるメラニン量、紅斑、L*a*b*色空間におけるクロマティックネス指数b*(SCE-b*、及びSCI-b*)に関する指標値である、
<1>から<4>のいずれか一つに記載の身体指標推定方法。
【0038】
<9> 一以上のプロセッサ及びメモリを少なくとも備える身体指標推定装置であって、
<1>から<8>のいずれか一つに記載の身体指標推定方法を実行可能な身体指標推定装置。
【0039】
以下に複数の実施例を挙げ、上述の内容を更に詳細に説明する。但し、以下の各実施例の記載は、上述の内容に何ら限定を加えるものではない。
【実施例0040】
実施例1では、20歳代から50歳代の女性390名をサンプル提供者として、各サンプル提供者に関する赤外吸収スペクトル情報及び目的指標値のデータセットが取得された。
赤外吸収スペクトル情報は、上述した開示手法によって取得された。
また、赤外吸収スペクトル情報としては、赤外分光測定装置から出力される600cm-1から4000cm-1の波数領域(波数分解能0.5cm-1)の全て(6950個)の吸光度が用いられた。
目的指標値については、各サンプル提供者から各目的指標値に応じた取得方法を用いて複数種の目的指標値がそれぞれ取得された。目的指標値の種類については後述する。
【0041】
収集されたデータセット群は7対3に分割され、前者(7割)が推定モデル構築用とされ、後者(3割)が推定モデルの検証用とされた。
推定モデルは、推定モデル構築用の複数のデータセットに対して部分的最小二乗法(PLS)を適用して構築され、K-分割交差検証(K=5)でPRESS(Predicted Residual Sum of Squares)が最小になるモデル(推定式)が選択された。
そして、構築された推定モデルが検証用の複数のデータセットを用いて検証された。具体的には、検証用のデータセットの赤外吸収スペクトル情報を推定モデルに入力することで得られる目的指標値(推定指標値)とそのデータセットの既知の目的指標値との相関が検証された。
【0042】
図4から
図7は、推定モデルの目的指標値ごとの推定精度を示す表であり、推定精度を示す相関係数(R値)及びP値が目的指標値ごとに示されている。
図4は、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
図4に示される目的指標値は、顔の黄色み状態、顔のシミ状態、顔の赤みムラ状態、目周りの色ムラ状態、顔全体の赤み状態、顔の鱗屑状態、顔の艶状態、頬のキメジワ状態、顔のクマ状態、目の下のたるみ状態、口角のたるみ状態、顔のニキビ及び吹き出物の状態に関する目視評価値、並びに、頬のざらつき状態及び顔のしっとり状態に関する触覚評価値である。
図4に示されるように、顔の赤みムラ状態、頬のキメジワ状態、目の下のたるみ状態を除く他の目的指標値についての相関は相関係数0.2以上を示す。顔の赤みムラ状態、頬のキメジワ状態及び目の下のたるみ状態の目的指標値についての相関は10%有意を示す。
【0043】
図5は、年齢体格特性に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
図5に示される目的指標値は、年齢、BMI及び体脂肪率である。
図5に示されるように、年齢、BMI及び体脂肪率に関する推定指標値についての相関は、1%有意かつ相関係数0.3以上を示している。
【0044】
図6は、血液血管特性に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
図6に示される目的指標値は、血流調節機能の指標値である冷水負荷後の皮膚温回復率、炭酸水負荷に伴う毛細血管変化の指標値である、炭酸負荷前後の毛細血管領域面積(炭酸負荷前毛細血管量、炭酸負荷後毛細血管量と表記)及び毛細血管応答性、並びに、血液検査で得られる血液指標値である、ALT又はGPT値、ALP値、LD又はLDH(乳酸脱水素酵素)値、γ-GTP値、総蛋白(TP)値、総コレステロール値、中性脂肪又はTG値、アルブミン(ALB)値、MCV(赤血球体積)値、MCH(赤血球ヘモグロビン量)値、ヘモグロビンA1c(HbA1c)(NGSP)値、BAP(生体の抗酸化力)値、BAP値とd-ROMs(生体の酸化ストレス度)値との比率(BAP/d-ROMs)(抗酸化酸化ストレス比)、及びエストラジオール値である。
図6に示されるように、炭酸水負荷に伴う毛細血管変化を示す目的指標値についての相関は1%有意かつ相関係数0.5以上を示しており、冷水負荷後皮膚温回復率及び血液検査で得られる目的指標値についての相関は相関係数0.2以上を示している。
【0045】
図7は、皮膚内部特性に関する目的指標値ごとの推定精度を示す表である。
図7に示される目的指標値は、皮膚の粘弾性測定により得られるR0値からR8値、皮膚の分光反射率計測により得られる紅斑指数(EI)、メラニン量指数(MI)及びL
*a
*b
*色空間におけるクロマティックネス指数b
*(SCE-b
*及びSCI-b
*)、並びに、皮膚若しくは皮下の血管壁に蓄積されるAGEs値である。
図7に示されるように、皮膚の粘弾性測定により得られる目的指標値及びAGEsの目的指標値については既知の目的指標値との相関が5%有意かつ相関係数0.2以上を示しており、皮膚の分光反射率計測により得られる目的指標値についての当該相関は1%有意かつ相関係数0.2以上を示している。
【0046】
このように実施例1によれば、皮膚から剥離された角層に関する赤外吸収スペクトル情報を用いることで、視覚若しくは触覚で官能評価された顔の状態、年齢体格特性、血液血管特性又は皮膚内部特性に関する指標値を高精度に推定できることが実証されている。
【0047】
図8は、毛細血管応答性を目的指標値とする推定モデル(推定式)における各波数成分(各説明変数)の吸光度に対する重み(回帰係数)を示すグラフである。
図8では、グラフの縦軸の値の絶対値が大きい波数成分は、毛細血管応答性を示す目的指標値に対する寄与率が高いことを示している。
図8によれば、600cm
-1以上1800cm
-1以下の第一波数領域及び2800cm-1以上3700cm-1以下の第二波数領域において複数のピークが存在していることから、当該第一波数領域及び当該第二波数領域における強度値の、目的指標値に対する寄与率が、それ以外の波数領域の強度値よりも高いことが分かる。
従って、本実施形態のように、600cm
-1以上1800cm
-1以下の第一波数領域における複数の強度値及び2800cm
-1以上3700cm
-1以下の第二波数領域における複数の強度値を少なくとも含む赤外吸収スペクトル情報を用いることで、推定モデルによる目的指標値の推定精度を向上させることができることが実証されている。
上述の実施例1では、赤外吸収スペクトル情報が上述した開示手法、即ち粘着テープT1からシリコーン粘着層を有するテープT2に角層を転写して、そのテープT2の粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルAとシリコーン粘着層を有する未使用のテープT3の粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルBとの差スペクトルを求めて、その差スペクトルから当該赤外吸収スペクトル情報を抽出する手法によって取得される例が示された。
実施例2では、実施例1で採用された開示手法とは異なる手法で赤外吸収スペクトル情報が取得された。即ち、実施例2において赤外吸収スペクトル情報は、粘着テープT1で皮膚表面から角層を採取し、採取された角層をその粘着テープT1からシリコーン粘着層を有するテープT2に転写して、そのテープT2の粘着面を赤外分光測定装置で計測することで得られた。このため、実施例2における赤外吸収スペクトル情報には、粘着テープT2の成分、角層成分及び水分に係るスペクトル情報が少なくとも含まれているといえる。
実施例2においても、実施例1と同様に推定モデルが構築され、検証用のデータセット(3割のデータセット)の赤外吸収スペクトル情報をその推定モデルに入力することで得られる目的指標値(推定指標値)とそのデータセットの既知の目的指標値との相関が検証された。そして、実施例1で検証された相関と実施例2で検証された相関とが比較された。