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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184195
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20231221BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20231221BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20231221BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20231221BHJP
   F02D 17/02 20060101ALI20231221BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20231221BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20231221BHJP
   F16H 61/14 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B60W10/00 102
B60W10/06
B60W10/02
F02D29/00 G
F02D29/02 321C
F02D17/02 S
F02D17/02 R
F02D17/00 P
F01N3/023 A
F16H61/14 601F
F16H61/14 601J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098208
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】永田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓太
【テーマコード(参考)】
3D241
3G092
3G093
3G190
3J053
【Fターム(参考)】
3D241AA33
3D241AB01
3D241AC01
3D241AC09
3D241AD02
3D241AD04
3D241AD05
3D241AD10
3D241AD51
3D241AE08
3D241AE20
3D241AF01
3G092BA01
3G092BA04
3G092BB10
3G092CB05
3G092FA34
3G092GB08
3G092HA01Z
3G092HD02Z
3G092HE01Z
3G092HE03Z
3G092HE08Z
3G092HF08Z
3G092HF15Z
3G093AA01
3G093BA22
3G093CB07
3G093DA01
3G093DA05
3G093DA06
3G093DA09
3G093DB05
3G093DB10
3G093DB21
3G093EA05
3G190AA02
3G190BA22
3G190BA50
3G190CA01
3G190CB18
3G190DB05
3G190EA32
3G190EA42
3J053CA03
3J053CB08
3J053CB14
3J053DA03
3J053DA24
(57)【要約】
【課題】減速時燃料カットの中止に伴う車両減速度の変化を抑える。
【解決手段】電子制御ユニット26は、車両の減速時に、エンジン10の燃料噴射を停止する減速時燃料カットと、ロックアップクラッチ15を係合状態とする減速時ロックアップと、を実施する。そして、電子制御ユニット26は、復帰条件の成立に応じて減速時燃料カット及び減速時ロックアップを終了する。一方、電子制御ユニット26は、復帰条件の成立前にフィルタ装置25の昇温抑制が要求された場合には、減速時燃料カットを中止するが、減速時ロックアップは継続する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速機とを機械的に連結するロックアップクラッチを有する車両を制御する装置であって、
車両の減速中に前記エンジンの燃料カットを実施する処理であって、既定の復帰条件が成立した場合に前記燃料カットを終了して前記エンジンの燃焼を再開する減速時燃料カット処理と、
前記減速時燃料カット処理による前記燃料カットの実施中に、前記ロックアップクラッチを係合状態とする減速時ロックアップ処理と、
前記減速時燃料カット処理による前記燃料カットを前記復帰条件の成立前に中止する場合には、前記エンジンの燃焼の再開後も前記ロックアップクラッチの係合状態を継続させる継続処理と、
を行う車両制御装置。
【請求項2】
前記エンジンは、排気中の微粒子物質を捕集するフィルタ装置を備えるものであり、
前記復帰条件の成立前の前記燃料カットの中止は、前記フィルタ装置の温度が既定の温度以上であると推定された場合に行われる
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記ロックアップクラッチのスリップ量を目標スリップ量とすべく、同ロックアップクラッチの係合力のフィードバック制御を行うスリップ制御を実行するとともに、
前記継続処理による前記ロックアップクラッチの係合状態の継続中に前記スリップ制御を実行する場合には、前記燃料カットの実施中に前記スリップ制御を実行する場合よりも大きい値を前記目標スリップ量の値として前記スリップ制御を実行する
請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記ロックアップクラッチのスリップ量を目標スリップ量とすべく、同ロックアップクラッチの係合力のフィードバック制御を行うスリップ制御を実行するとともに、
前記継続処理による前記ロックアップクラッチの係合状態の継続中に前記スリップ制御を実行する場合には、前記燃料カットの実施中に前記スリップ制御を実行する場合よりも小さい値を前記目標スリップ量の値として前記スリップ制御を実行する
請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記ロックアップクラッチのスリップ量を目標スリップ量とすべく、同ロックアップクラッチの係合力のフィードバック制御を行うスリップ制御を実行するとともに、
前記継続処理による前記ロックアップクラッチの係合状態の継続中に前記スリップ制御を実行する場合に、前記燃料カットが中止されずに実施されているとした場合と同じ値を前記目標スリップ量の値として同スリップ制御を実行する
請求項1又は請求項2に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ところで、エンジンと変速機とを機械的に係合するロックアップクラッチを備える車両がある。こうした車両では、減速中の燃料カット時間を延長するため、減速時にロックアップクラッチを係合状態とする減速時ロックアップを実施することがある。
【0003】
こうした減速時ロックアップを実施する車両制御装置として、特許文献1に記載の装置が知られている。同文献の車両制御装置が制御対象とする車両のエンジンは、排気中の微粒子物質(PM:Particulate Matter)を捕集するフィルタ装置を備えている。そして、同車両制御装置は、燃料カットの実施中に、フィルタ装置の温度上昇を抑える必要が生じた場合に、燃料カットを中止してエンジンの燃焼を再開している。さらに、同車両制御装置は、燃料カットの中止とともに、ロックアップクラッチを解放している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-118095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの燃料カットを実施するとともにロックアップクラッチを係合した状態から、エンジンを燃焼運転するとともにロックアップクラッチを解放した状態に移行すると、エンジンブレーキの効きが弱くなる。そのため、減速時ロックアップの実施中に燃料カットを中止した場合には、車両の減速感が変化して、乗員が違和を感じる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する車両制御装置は、エンジンと変速機とを機械的に連結するロックアップクラッチを有する車両を制御する装置である。同車両制御装置は、車両の減速中にエンジンの燃料カットを実施する減速時燃料カット処理と、減速時燃料カット処理による燃料カットの実施中に、ロックアップクラッチを係合状態とする減速時ロックアップ処理と、を行う。燃料カットの実施中にロックアップクラッチを係合状態とすることで、エンジン回転数の低下が抑えられる。そして、これにより、燃料カット期間を延長できる。なお、減速時燃料カット処理では、既定の復帰条件が成立した場合に燃料カットを終了してエンジンの燃焼を再開している。
【0007】
また、同車両制御装置は、減速時燃料カット処理による燃料カットを復帰条件の成立前に中止する場合には、エンジンの燃焼の再開後もロックアップクラッチの係合状態を継続させる継続処理と、を行う。燃料カットの中止と共にロックアップクラッチの係合状態を解除すると、車両の減速度が大きく減少する。これに対して上記車両制御装置では、燃料カットの中止後もロックアップクラッチの係合状態が維持されるため、燃料カットの中止後の車両の減速度の減少が抑えられる。したがって、上記車両制御装置には、減速時燃料カットの中止に伴う車両減速度の変化を抑える効果がある。
【0008】
上記エンジンが、排気中の微粒子物質を捕集するフィルタ装置を備えるものである場合の復帰条件成立前の燃料カットの中止は、例えばフィルタ装置の温度が既定値以上であると推定された場合に行われる。
【0009】
上記車両制御装置を、ロックアップクラッチのスリップ量を目標スリップ量とすべく、同ロックアップクラッチの係合力のフィードバック制御を行うスリップ制御を実行する構成としてもよい。そうした場合の車両制御装置は、継続処理によるロックアップクラッチの係合状態の継続中に前記スリップ制御を実行する場合には、燃料カットの実施中にスリップ制御を実行する場合よりも大きい値を目標スリップ量の値としてスリップ制御を実行する構成としてもよい。また、上記スリップ制御を実行する車両制御装置は、継続処理によるロックアップクラッチの係合状態の継続中にスリップ制御を実行する場合には、燃料カットの実施中にスリップ制御を実行する場合よりも小さい値を目標スリップ量の値としてスリップ制御を実行する構成としてもよい。さらに、上記スリップ制御を実行する車両制御装置は、継続処理によるロックアップクラッチの係合状態の継続中にスリップ制御を実行する場合に、燃料カットが中止されずに実施されているとした場合と同じ値を目標スリップ量の値として同スリップ制御を実行する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両制御装置の一実施形態の構成を模式的に示す図である。
図2】同車両制御装置が実行する要求判定ルーチンのフローチャートである。
図3】同車両制御装置が実行する減速時制御ルーチンのフローチャートである。
図4】同車両制御装置における減速時制御中の、(A)はアクセル開度の推移を、(B)はフィルタ装置の昇温抑制要求の有無の推移を、(C)はF/Cフラグの推移を、(D)はLUフラグの推移を、(E)はエンジン回転数の推移を、(F)は車両加速度の推移を、それぞれ示すタイムチャートである。
図5】目標スリップ量の設定態様を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両制御装置の一実施形態を、図1図4を参照して詳細に説明する。
<車両の駆動系の構成>
まず、図1を参照して、本実施形態の車両制御装置が適用される車両の駆動系の構成を説明する。車両には、エンジン10が搭載されている。エンジン10の出力軸であるクランク軸11は、トルク増幅作用を有した流体継手であるトルクコンバータ12を介して自動変速機13の入力軸である変速機入力軸14に連結されている。トルクコンバータ12には、エンジン10と自動変速機13とを機械的に連結するロックアップクラッチ15が設けられている。ロックアップクラッチ15は、作動油の供給に応じて係合状態となってクランク軸11と変速機入力軸14とを機械的に連結する。一方、自動変速機13の出力軸である変速機出力軸16は、ディファレンシャル17を介して左右の車輪18に連結されている。なお、車両には、ロックアップクラッチ15及び自動変速機13の作動油圧を制御する油圧制御回路29が設置されている。
【0012】
エンジン10は、燃焼を行う複数の気筒19と、各気筒19への吸気の導入路である吸気通路20と、各気筒19からの排気の排出路である排気通路23と、を備えている。また、エンジン10には、吸気中に燃料を噴射するインジェクタ22が気筒19毎にそれぞれ設けられている。吸気通路20には、内部を流れる吸気の流量を調整するためのスロットルバルブ21が設置されている。排気通路23には、排気浄化用の触媒装置24が設置されている。また、排気通路23における触媒装置24よりも下流側の部分には、排気中の微粒子物質(PM)を捕集するフィルタ装置25が設置されている。
【0013】
<車両制御装置の構成>
車両には、車両制御装置としての電子制御ユニット26が設置されている。電子制御ユニット26は、演算処理装置27と記憶装置28とを有する電子制御ユニットとして構成されている。記憶装置28には、車両制御用のプログラムやデータが記憶されている。演算処理装置27は、記憶装置28からプログラムを読み込んで実行することで、車両制御のための各種の処理を実施する。
【0014】
電子制御ユニット26には、クランク角センサ30、入力回転数センサ31、車速センサ32、アクセルペダルセンサ33等の、車両各部に設置されたセンサの検出信号が入力されている。クランク角センサ30は、クランク軸11の回転位相を検出するセンサである。なお、電子制御ユニット26は、クランク角センサ30の検出結果に基づき、エンジン回転数NE、すなわちクランク軸11の回転速度を演算している。入力回転数センサ31は、入力回転数NI、すなわち変速機入力軸14の回転速度を検出するセンサである。車速センサ32は、車速V、すなわち車両の走行速度を検出するセンサである。アクセルペダルセンサ33を、アクセル開度ACC、すなわち運転者のアクセルペダル操作量を検出するセンサである。
【0015】
電子制御ユニット26は、これらセンサの検出結果に基づき、エンジン10、ロックアップクラッチ15、自動変速機13等の動作を制御している。具体的には電子制御ユニット26は、スロットルバルブ21の開度やインジェクタ22の燃料噴射量等の操作を通じて、エンジン10の動作を制御している。また、電子制御ユニット26は、油圧制御回路29の操作を通じて、ロックアップクラッチ15及び自動変速機13の動作を制御している。
【0016】
<フィルタ装置25の昇温抑制>
電子制御ユニット26は、車両減速時にエンジン10の燃料噴射を一時的に停止する、減速時燃料カットを実施する。また、車両減速時に電子制御ユニット26は、燃料カット時間を延長するため、ロックアップクラッチ15を係合状態とする減速時ロックアップを実施する。
【0017】
一方、上述のようにエンジン10は、排気中のPMを捕集するフィルタ装置25を備えている。燃料カットを実施すると、排気通路23を流れる排気が新気に置き換わって、フィルタ装置25に酸素が供給される。そして、供給された酸素により、フィルタ装置25に堆積したPMが燃焼される。フィルタ装置25に多量のPMが堆積した状態で燃料カットが長時間継続されると、PMの燃焼により発熱でフィルタ装置25の過熱が発生する虞がある。これに対して、電子制御ユニット26は、燃料カットを継続するとフィルタ装置25の過熱が発生する可能性がある場合には、フィルタ装置25の昇温抑制を要求する。そして、電子制御ユニット26は、その要求に応じて燃料カットを中止することで、フィルタ装置25の過熱を抑制している。
【0018】
図2に、フィルタ装置25の昇温抑制を要求するか否かを判定するために電子制御ユニット26が実行する要求判定ルーチンのフローチャートを示す。フィルタ装置25は、車両の走行中に本ルーチンを、既定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0019】
本ルーチンを開始すると電子制御ユニット26はまずステップS100において、フィルタ装置25のPM捕集量に基づき、最大F/C時間を演算する。電子制御ユニット26は、エンジン10の運転状態、例えば吸入空気量、空燃比等に基づき、フィルタ装置25のPM捕集量を推定している。最大F/C時間は、フィルタ装置25の過熱を発生させずに実施可能な燃料カットの継続時間の最大値を表わしている。そして、電子制御ユニット26は、PM捕集量が多いときには、少ないときよりも短い時間を最大F/C時間の値として演算している。
【0020】
続いて、電子制御ユニット26はステップS110において、F/C時間が最大F/C時間以上であるか否かを判定する。F/C時間は、現在までの燃料カットの継続時間を表わしている。燃料カットの実施中でない場合には、F/C時間は「0」となる。そして、電子制御ユニット26は、F/C時間が最大F/C時間以上の場合(YES)には、ステップS120において、フィルタ装置25の昇温抑制要求有りと判定して今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。一方、電子制御ユニット26は、F/C時間が最大F/C時間未満の場合(NO)には、ステップS130において、フィルタ装置25の昇温抑制要求無しと判定して今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。なお、上記のように最大F/C時間は、フィルタ装置25の過熱を発生させずに実施可能な燃料カットの継続時間の最大値として演算されている。よって、F/C時間が最大F/C時間以上となった場合とは、フィルタ装置25の温度が、過熱と見做す温度以上であると推定される場合である。
【0021】
<減速時制御>
次に、図3を参照して、減速時燃料カットや減速時ロックアップ等の車両減速時の制御について説明する。図3は、車両減速時の制御のために電子制御ユニット26が実行する減速時制御ルーチンのフローチャートを示している。電子制御ユニット26は、車両の走行中、本ルーチンを既定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0022】
本ルーチンを開始すると、電子制御ユニット26はまずステップS200において、アクセル開度ACCが「0%」であるか否かを判定する。すなわち、ステップS200において電子制御ユニット26は、運転者がアクセルペダルを踏み離しているか否かを判定する。そして、アクセル開度ACCが「0%」で無い場合(NO)には、電子制御ユニット26は、ステップS210において、F/Cフラグ、LUフラグ、及びF/C中止フラグをそれぞれオフとして、今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。
【0023】
なお、F/Cフラグは、減速時燃料カットの実施中であるか否かを示すフラグである。電子制御ユニット26は、F/Cフラグがオフからオンに切り替わったときに減速時燃料カットを開始する。また、電子制御ユニット26は、F/Cフラグがオンからオフに切り替わったときに減速時燃料カットを終了して、エンジン10の燃焼を再開する。一方、LUフラグは、減速時ロックアップの実施中であるか否かを示すフラグである。電子制御ユニット26は、LUフラグがオフからオンに切り替わったときに減速時ロックアップを開始する。また、電子制御ユニット26は、LUフラグがオンからオフに切り替わったときに減速時ロックアップを終了する。上記のように、アクセル開度ACCが「0%」で無い場合(S200:NO)には、ステップS210において、F/Cフラグ及びLUフラグがオフとされる。よって、減速時燃料カット及び減速時ロックアップは、運転者のアクセルペダルの踏込みに応じて終了される。
【0024】
一方、アクセル開度ACCが「0%」の場合(S200:YES)には、電子制御ユニット26はステップS220において、LUフラグがオンであるか否かを判定する。そして、電子制御ユニット26は、LUフラグがオンの場合(YES)にはステップS250に、オフの場合(NO)にはステップS230に、それぞれ処理を進める。
【0025】
LUフラグがオフであってステップS230に処理を進めた場合、電子制御ユニット26はそのステップS230において、エンジン回転数NEが「N1」以上、かつ車速Vが「V1」以上であるか否かを判定する。「N1」は、減速時燃料カットを開始するエンジン回転数NEの下限値であるF/C開始回転数を表わしている。また、「V1」は、減速時燃料カットを開始する車速Vの下限値であるF/C開始車速を表わしている。エンジン回転数NEが「N1」以上、かつ車速Vが「V1」以上の場合(S230:YES)には、電子制御ユニット26は、ステップS240に処理を進める。そして、電子制御ユニット26はそのステップS240において、F/Cフラグ及びLUフラグをそれぞれオンとして、今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。また、電子制御ユニット26は、エンジン回転数NEが「N1」未満、又は車速Vが「V1」未満の場合(S230:NO)には、そのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。このように、電子制御ユニット26は、エンジン回転数NEが「N1」以上、かつ車速Vが「V1」以上の状態でアクセル開度ACCが「0%」となった場合に、減速時燃料カット及び減速時ロックアップを開始している。
【0026】
これに対して、LUフラグがオンであってステップS250に処理を進めた場合の電子制御ユニット26は、そのステップS250において、エンジン回転数NEが「N2」以下、又は車速Vが「V2」以下であるか否かを判定する。「N2」は、減速時燃料カットを実施するエンジン回転数NEの下限値であるF/C復帰回転数を表わしている。「N2」には、上述の「N1」よりも小さい正の値が設定されている。一方、「V2」は、減速時燃料カットを実施する車速Vの下限値であるF/C復帰車速を表わしている。「V2」には、上述の「V1」よりも小さい正の値が設定されている。そして、電子制御ユニット26は、エンジン回転数NEが「N2」以下、又は車速Vが「V2」以下の場合(S250:YES)には、上述のステップS210に処理を進める。すなわち、電子制御ユニット26は、エンジン回転数NEが「N2」以下となるか、又は車速Vが「V2」以下となるかのいずれかの場合に、減速時ロックアップを終了する。また、このとき、F/Cフラグがオンとされていて減速時燃料カットを実施中である場合には、電子制御ユニット26は、減速時燃料カットも併せ終了する。
【0027】
一方、エンジン回転数NEが「N2」を超えており、かつ車速Vが「V2」を超えている場合(S250:NO)には、電子制御ユニット26がステップS260に処理を進める。そして、電子制御ユニット26はそのステップS260において、フィルタ装置25の昇温抑制要求の有無を判定する。昇温抑制要求が無い場合(NO)には、電子制御ユニット26はそのまま今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。この場合の電子制御ユニット26は、減速時ロックアップを継続する。また、この場合の電子制御ユニット26は、減速時燃料カットの実施中であれば、減速時燃料カットも継続する。
【0028】
これに対して、昇温抑制要求がある場合(S250:YES)には、電子制御ユニット26はステップS270において、F/Cフラグをオフとした後、今回の制御周期における本ルーチンの処理を終了する。このように、電子制御ユニット26は、フィルタ装置25の昇温抑制が要求されると、減速時燃料カットを終了する。ただし、このときには、LUフラグはオンに維持される。すなわち、電子制御ユニット26は、フィルタ装置25の昇温抑制が要求されても、減速時ロックアップは継続している。
【0029】
なお、本実施形態では、図3のステップS240においてF/Cフラグをオンとすることで、車両の減速中にエンジン10の燃料カットを実施する減速時燃料カット処理が開始される。また、同ステップS240においてLUフラグをオンとすることで、減速時燃料カット処理による燃料カットの実施中にロックアップクラッチ15を係合状態とする減速時ロックアップ処理が開始される。さらに、図3のステップS270においてF/Cフラグをオフとすることで、減速時燃料カット処理による燃料カットの実施中に同燃料カットの中止が要求された場合に、エンジン10の燃焼を再開する。そして、同ステップS270においてLUフラグを操作しないことで、エンジン10の燃焼の再開後もロックアップクラッチ15の係合状態を継続させる継続処理が実施されている。
【0030】
<実施形態の作用効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
図4(A)~(F)は、車両減速時における下記パラメータの推移を示している。なお、図4(A)はアクセル開度ACCの、図4(B)は昇温抑制要求の、図4(C)はF/Cフラグの、図4(D)はLUフラグの、図4(E)はエンジン回転数NEの、図4(F)は車両加速度の、それぞれの推移を示している。図4の場合、車両走行中の時刻t1にアクセル開度ACCが「0%」となることで、F/Cフラグ及びLUフラグがオフからオンに切替えられている。すなわち、時刻t1に、減速時燃料カット及び減速時ロックアップが開始されている。
【0031】
上記のようにフィルタ装置25の昇温抑制要求が無い場合には、F/Cフラグのオンからオフへの切替えは、次の状況(イ)~(ハ)のいずれかが生じたときに行われる。状況(イ)は、エンジン回転数NEが「N2」以下となった場合である。状況(ロ)は、車速Vが「V2」以下となった場合である。状況(ハ)は、アクセル開度ACCが「0%」以外となった場合、すなわちアクセルペダルが踏み込まれた場合である。減速時燃料カット処理では、上記状況(イ)~(ハ)のいずれかの成立を、減速時燃料カットの復帰条件としている。一方、フィルタ装置25の温度が既定の温度以上であると推定される場合には、図2の要求判定ルーチンにおいて、フィルタ装置25の昇温抑制が要求される。この場合には、上記復帰条件の成立前に減速時燃料カット処理が中止される。
【0032】
図4(B)に破線で示すように、時刻t1以降、フィルタ装置25の昇温抑制が要求されない状態が続いた場合には、減速時燃料カット及び減速時ロックアップは双方とも、復帰条件が成立するまで続けられる。図4(C)にはこの場合のF/Cフラグの推移が、図4(F)にはこの場合の車両加速度の推移が、それぞれ破線で示されている。
【0033】
ここで、図4(B)に実線で示すように、減速時燃料カット及び減速時ロックアップの実施中の時刻t2に、フィルタ装置25の昇温抑制が要求された場合を考える。電子制御ユニット26は、時刻t2に復帰条件の成立前にフィルタ装置25の昇温抑制が要求された場合には、図4(C)に実線で示すように、F/Cフラグをオフとして減速時燃料カットを中止している。減速時燃料カットを終了してエンジン10の燃焼を再開すると、フィルタ装置25への酸素の供給が途絶えて、堆積したPMの燃焼が滞る。そのため、フィルタ装置25の更なる昇温が抑えられる。
【0034】
一方、電子制御ユニット26は、減速時燃料カットと併せて減速時ロックアップを実施してエンジン回転数NEの低下を抑えることで、燃料カット期間を延長している。フィルタ装置25の昇温抑制の要求に応じて減速時燃料カットを中止した場合、燃料カット期間の延長という目的についていえば、減速時ロックアップの継続は不要となる。
【0035】
ここで、図4(D)に二点鎖線で示すように、F/Cフラグをオフとした時刻t2にLUフラグもオフとして、減速時ロックアップも中止した場合を考える。なお、図4(E)にはこの場合のエンジン回転数NEの推移が、図4(F)にはこの場合の車両減速度の推移が、それぞれ二点鎖線で示されている。時刻t2以降もアクセル開度ACCは「0%」であるため、燃焼再開後のエンジン10は、アイドル運転を行う。そのため、減速時燃料カットの中止と共に減速時ロックアップも中止すると、エンジン回転数NEはアイドル回転数近傍まで急低下する。そして、ロックアップクラッチ15を開放すると、エンジンブレーキの効きが弱くなるため、車両の減速度が大きく減少する。
【0036】
これに対して、本実施形態の車両制御装置は、復帰条件の成立前に減速時燃料カットを中止した場合には、減速時ロックアップを継続している。図4(D)には本実施形態の場合のLUフラグの推移が、図4(F)には本実施形態の場合の車両加速度の推移が、それぞれ実線で示されている。この場合の減速時燃料カットの中止後の車両の減速度は、減速時燃料カットを継続した場合に比べてば減少する。しかしながら、減速時ロックアップは継続されるため、減速時燃料カットと共に減速時ロックアップも中止した場合と比べれば、車両の減速度の減少は限定的となる。
【0037】
以上の本実施形態の車両制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、復帰条件の成立前に減速時燃料カットを中止してエンジン10の燃焼を再開した場合には、減速時ロックアップを継続している。これにより、減速時燃料カットの中止前後の車両減速度の変化が小さくなる。そしてその結果、車両減速度の変化によるドライバビリティの悪化が抑えられる。
【0038】
(2)本実施形態では、フィルタ装置25の温度が既定の温度以上であると推定される場合に減速時燃料カットを中止している。よって、フィルタ装置25の過熱を防止できる。
【0039】
(他の実施形態)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0040】
<ロックアップクラッチ15のスリップ制御>
減速時ロックアップのためのロックアップクラッチ15の係合に際して、スリップ制御を行うようにしてもよい。スリップ制御では、ロックアップクラッチ15を若干の滑りが生じるスリップ状態とする制御である。スリップ制御に際して電子制御ユニット26は、クランク軸11及び変速機入力軸14の回転差であるスリップ量の目標値である目標スリップ量を設定する。また、電子制御ユニット26は、クランク角センサ30及び入力回転数センサ31の検出結果に基づき、上記スリップ量の実値を求めている。そして、電子制御ユニット26は、スリップ量の実値が目標スリップ量に近づくようにロックアップクラッチ15の係合力のフィードバック制御を行う。なお、より厳密には、このときの電子制御ユニット26は、油圧制御回路29がロックアップクラッチ15に供給する作動油圧のフィードバック制御を行っている。以下に、減速時ロックアップに際してスリップ制御を行う場合の車両制御装置の構成態様を示す。
【0041】
図5の線L1は、スリップ制御における目標スリップ量の設定態様の一例を示している。ここでは、車速Vに基づき目標スリップ量を設定している。また、ここでは、既定の車速Vが「V3」以下の範囲でスリップ制御を行うこととしている。そして、車速Vが「V3」を超える範囲では、ロックアップクラッチ15は、クランク軸11及び変速機入力軸14が同期回転するように完全に係合される。
【0042】
さて、上記のように電子制御ユニット26は、減速時燃料カットの中止の要求によりエンジン10の燃焼を再開した後も、ロックアップクラッチ15の係合状態を継続させる継続処理を行っている。すなわち、燃焼再開後の継続処理による減速時ロックアップの継続中にスリップ制御を実行する場合と、減速時燃料カットの実施中にスリップ制御を実行する場合と、がある。以下の説明では、前者の場合のスリップ制御をF/C中止後スリップ制御と記載する。また、後者の場合のスリップ制御をF/C中スリップ制御と記載する。F/C中スリップ制御、及びF/C中止後スリップ制御のそれぞれにおける目標スリップ量は、下記の設定態様1~設定態様3のいずれかにより設定するとよい。
【0043】
[設定態様1]F/C中止後スリップ制御を実行する場合には、F/C中スリップ制御を実行する場合よりも大きい値を目標スリップ量の値として設定する。例えば、F/C中スリップ制御では、図5の線L1で示される態様で目標スリップ量を設定する。そして、F/C中止後スリップ制御では、図5の線L2で示される態様で目標スリップ量を設定する。エンジン10の燃焼再開の直後は、エンジン10の回転変動が生じ易い。エンジン10の回転変動は、ロックアップクラッチ15の係合が強いほど、車両の動力伝達系統に伝わり易くなる。そして、回転変動が動力伝達系統に伝わると、車体に振動や騒音が発生する虞がある。一方、目標スリップ量に大きい値を設定すると、ロックアップクラッチ15の係合が弱くなる。よって、上記のように目標スリップ量を設定すれば、燃焼再開直後のエンジン10の回転変動による車体の振動や騒音が抑えられる。
【0044】
[設定態様2]F/C中止後スリップ制御を実行する場合には、F/C中スリップ制御を実行する場合よりも小さい値を目標スリップ量の値として設定する。例えば、F/C中スリップ制御では、図5の線L1で示す態様で目標スリップ量を設定する一方で、F/C中止後スリップ制御では、図5の線L3で示す態様で目標スリップ量を設定する。こうした場合には、減速時燃料カットの中止前後の車両減速度の減少が少なくなる。
【0045】
[設定態様3]F/C中止後スリップ制御、及びF/C中スリップ制御のいずれにおいても、同様の態様で目標スリップ量を設定する。すなわち、F/C中止後スリップ制御を実行する場合にも、F/C中スリップ制御を実行しているとした場合と同じ値を目標スリップ量の値として設定するようにしてもよい。例えばF/C中スリップ制御、F/C中止後スリップ制御のいずれにおいても、図5の線L1で示す態様で目標スリップ量を設定する。こうした場合には、減速時燃料カットの実施中と、減速時燃料カットの中止後とで、スリップ制御の内容を切替える必要がないため、スリップ制御の制御設計が容易となる。
【0046】
なお、減速時ロックアップの実施中、スリップ制御を行わずに、ロックアップクラッチ15を完全係合した状態を維持するようにしてもよい。
<減速時燃料カットの中止について>
上記実施形態では、フィルタ装置25の昇温の抑制が要求された場合には、復帰条件の成立前に減速時燃料カットを中止していた。それ以外の条件で減速時燃料カットを中止するようにしてもよい。例えばエンジン水温が閾値以下となった場合に減速時燃料カットの中止を要求してエンジン10の燃焼を再開するようにしてもよい。極低温環境下では、減速時燃料カットが長時間続くと、円滑に再始動できない程度にエンジン10の温度が低下したり、触媒が未活性となるまで触媒装置24の温度が低下したり、することがある。よって、減速時燃料カットの実施中にエンジン水温が閾値以下となった場合に減速時燃料カットの中止を要求すれば、燃料カット終了後のエンジン10の再始動性や排気性能の悪化が抑えられる。いずれにせよ、復帰条件の成立前に減速時燃料カットを中止した場合には、燃焼再開後も減速時ロックアップを継続することで、車両減速度の変化によるドライバビリティの悪化が抑えられる。
【0047】
<目標スリップ量の設定について>
上記実施形態では、車速Vに基づき目標スリップ量を設定していたが、それ以外のパラメータ、例えばエンジン回転数NEに基づき、目標スリップ量を設定するようにしてもよい。また、目標スリップ量を固定した値としてもよい。その場合にも、F/C中スリップ制御時とF/C中止後スリップ制御時とではそれぞれ異なる値を目標スリップ量の値として設定してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10…エンジン
11…クランク軸
12…トルクコンバータ
13…自動変速機
14…変速機入力軸
15…ロックアップクラッチ
16…変速機出力軸
17…ディファレンシャル
18…車輪
19…気筒
20…吸気通路
21…スロットルバルブ
22…インジェクタ
23…排気通路
24…触媒装置
25…フィルタ装置
26…電子制御ユニット
27…演算処理装置
28…記憶装置
29…油圧制御回路
30…クランク角センサ
31…入力回転数センサ
32…車速センサ
33…アクセルペダルセンサ
図1
図2
図3
図4
図5