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特開2023-184197リチウムイオン2次電池の製造方法、および組電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184197
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】リチウムイオン2次電池の製造方法、および組電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231221BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20231221BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231221BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098211
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】中藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】西 弘貴
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ06
5H029BJ14
5H029CJ08
5H029HJ20
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA03
5H050FA05
5H050GA10
5H050GA28
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】負極の公差にかかわらず、負極の抵抗と電解液の抵抗との比を、リチウムイオンの析出がしにくい値に調整できるようにしたリチウムイオン2次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】電池セルの負極集電体を形成する工程が終了する場合(S10)、負極集電体の抵抗値を計測する工程が実行される(S12)。次に、負極集電体の表面に負極合材層を形成する工程が実行される(S14)。そして、負極合材層が形成された負極の抵抗を計測する工程が実行される(S16)。次に、負極の抵抗値から負極集電体の抵抗値を減算することによって、負極合材層の抵抗値を算出する工程が実行される(S18)。負極合材層の抵抗値の基準値からのずれに応じて、電解液の添加剤の添加量が決定される(S20)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極、正極、および電解液を備えるリチウムイオン2次電池の製造方法において、
前記電解液は、溶媒を含み、
前記負極の電気抵抗を示す変数である負極抵抗変数の値を計測する計測工程と、
前記負極抵抗変数の値の基準値と前記計測工程によって計測された前記負極抵抗変数の値との差に応じて前記溶媒に添加する添加剤の添加量を調整する調整工程と、を有するリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項2】
前記負極は、負極集電体に負極活物質層が形成されたものであり、
前記負極抵抗変数は、前記負極活物質層の抵抗を示す変数であり、
前記負極集電体に前記負極活物質層を形成する形成工程を有し、
前記計測工程は、集電体抵抗値計測工程、負極抵抗値計測工程および抵抗変数値算出工程を含み、
前記集電体抵抗値計測工程は、前記形成工程に先立って前記負極集電体の抵抗値を計測する工程であり、
前記負極抵抗値計測工程は、前記形成工程の後に前記負極の抵抗値を計測する工程であり、
前記抵抗変数値算出工程は、前記負極の抵抗値から前記負極集電体の抵抗値を減算することによって、前記負極抵抗変数の値を算出する工程である請求項1記載のリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項3】
前記電解液は、前記溶媒に加えて、支持電解質を含み、
前記添加剤は、前記溶媒および前記支持電解質を含んだ溶液に対して添加される請求項1記載のリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項4】
前記添加剤は、添加量を増量することによって前記電解液の電気抵抗を下げる機能を有し、
前記調整工程は、前記計測工程によって計測された前記負極抵抗変数の値が前記基準値よりも大きい場合、前記負極抵抗変数の値が前記基準値である場合と比較して、前記添加剤の添加量を減量する工程を含む請求項1記載のリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項5】
前記添加剤は、添加量を増量することによって前記電解液の電気抵抗を上げる機能を有し、
前記調整工程は、前記計測工程によって計測された前記負極抵抗変数の値が前記基準値よりも大きい場合、前記負極抵抗変数の値が前記基準値である場合と比較して、前記添加剤の添加量を増量する工程を含む請求項1記載のリチウムイオン2次電池の製造方法。
【請求項6】
複数の電池セルを備える組電池であって、
前記電池セルは、リチウムイオン2次電池であって且つ、負極、正極、および電解液を備え、
前記電解液は、溶媒を含み、
前記複数の電池セルのうちの第1の電池セルと第2の電池セルとで、前記溶媒に添加されている添加剤の量が異なっている組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン2次電池の製造方法、および組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、リチウムイオン2次電池が記載されている。この2次電池は、リチウムの析出を抑制すべく、負極活物質に所定の分布を持たせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-33824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2次電池を量産する場合、負極活物質の分布等の物理量に公差が生じる。そしてその公差ゆえに、リチウムの析出を抑制するうえで適切な物理量からずれが生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.負極、正極、および電解液を備えるリチウムイオン2次電池の製造方法において、前記電解液は、溶媒を含み、前記負極の電気抵抗を示す変数である負極抵抗変数の値を計測する計測工程と、前記負極抵抗変数の値の基準値と前記計測工程によって計測された前記負極抵抗変数の値との差に応じて前記溶媒に添加する添加剤の添加量を調整する調整工程と、を有するリチウムイオン2次電池の製造方法である。
【0006】
負極抵抗変数の値と電解液の抵抗との比に応じて、リチウムイオンの析出のしやすさが異なる。また、溶媒に添加する添加剤の添加量に応じて電解液の抵抗が変化する。そこで上記方法では、負極抵抗変数の値に応じて添加剤の添加量を調整する。これにより、負極抵抗変数の値に公差によるばらつきがあったとしても、負極抵抗変数の値と電解液の抵抗との比を、リチウムイオンの析出がしにくい値に調整できる。
【0007】
2.前記負極は、負極集電体に負極活物質層が形成されたものであり、前記負極抵抗変数は、前記負極活物質層の抵抗を示す変数であり、前記負極集電体に前記負極活物質層を形成する形成工程を有し、前記計測工程は、集電体抵抗値計測工程、負極抵抗値計測工程および抵抗変数値算出工程を含み、前記集電体抵抗値計測工程は、前記形成工程に先立って前記負極集電体の抵抗値を計測する工程であり、前記負極抵抗値計測工程は、前記形成工程の後に前記負極の抵抗値を計測する工程であり、前記抵抗変数値算出工程は、前記負極の抵抗値から前記負極集電体の抵抗値を減算することによって、前記負極抵抗変数の値を算出する工程である上記1記載のリチウムイオン2次電池の製造方法である。
【0008】
負極活物質層の抵抗が大きい場合、負極活物質層内に含まれる電解液を介して電流が流れる傾向がある。その場合、負極集電体と負極活物質層との境界付近において反応が集中する。一方、負極活物質層の抵抗が小さい場合、負極活物質層を電流が流れる傾向がある。その場合、負極活物質層の表面において反応が集中する。そして反応の集中が顕著となると、リチウムが析出しやすくなる。
【0009】
そこで上記方法では、負極活物質層の抵抗に応じて添加剤の添加量を調整する。これにより、負極活物質層の抵抗と電解液の抵抗との比をリチウムの析出がしにくい値に調整できる。
【0010】
3.前記電解液は、前記溶媒に加えて、支持電解質を含み、前記添加剤は、前記溶媒および前記支持電解質を含んだ溶液に対して添加される上記1または2記載のリチウムイオン2次電池の製造方法である。
【0011】
上記方法によれば、支持電解質とは別の添加剤の添加量を調整することにより、溶媒および支持電解質については、負極の公差の影響を補償する要求によってその量を調整する必要が生じない。
【0012】
4.前記添加剤は、添加量を増量することによって前記電解液の電気抵抗を下げる機能を有し、前記調整工程は、前記計測工程によって計測された前記負極抵抗変数の値が前記基準値よりも大きい場合、前記負極抵抗変数の値が前記基準値である場合と比較して、前記添加剤の添加量を減量する工程を含む上記1~3のいずれか1つに記載のリチウムイオン2次電池の製造方法である。
【0013】
上記構成では、負極抵抗変数の値が基準値よりも大きい場合には、添加量を減量することによって、電解液の電気抵抗を増大させる。これにより、電解液の電気抵抗を負極抵抗変数の値に見合った値に近づけることができる。
【0014】
5.前記添加剤は、添加量を増量することによって前記電解液の電気抵抗を上げる機能を有し、前記調整工程は、前記計測工程によって計測された前記負極抵抗変数の値が前記基準値よりも大きい場合、前記負極抵抗変数の値が前記基準値である場合と比較して、前記添加剤の添加量を増量する工程を含む上記1~3のいずれか1つに記載のリチウムイオン2次電池の製造方法である。
【0015】
上記構成では、負極抵抗変数の値が基準値よりも大きい場合には、添加量を増量することによって、電解液の電気抵抗を増大させる。これにより、電解液の電気抵抗を負極抵抗変数の値に見合った値に近づけることができる。
【0016】
6.複数の電池セルを備える組電池であって、前記電池セルは、リチウムイオン2次電池であって且つ、負極、正極、および電解液を備え、前記電解液は、溶媒を含み、前記複数の電池セルのうちの第1の電池セルと第2の電池セルとで、前記溶媒に添加されている添加剤の量が異なっている組電池である。
【0017】
電池セルにおいてリチウムが析出することを抑制するうえでは、負極の抵抗と電解液の抵抗との比率を適切な比率とすることが望ましい。一方、組電池を構成する各電池セルにおける負極の抵抗の大きさには、公差によるばらつきが生じうる。ここで、電解液の抵抗の大きさは、添加剤の添加量によって調整可能である。そのため、上記構成では、溶媒に添加されている添加剤の添加量を電池セルごとに設定する。これにより、負極の抵抗に公差が生じる場合であっても、各電池セルにおいて負極の抵抗と電解液の抵抗との比率を適切な比率とすることができる。
【0018】
なお、添加剤が、添加量を増量することによって電解液の電気抵抗を下げる機能を有する場合、電気抵抗が大きい電池セルにおける添加剤の添加量を電気抵抗が小さい電池セルの添加剤の添加量と比較して、少なくしてもよい。また、添加剤が、添加量を増量することによって電解液の電気抵抗を上げる機能を有する場合、電気抵抗が大きい電池セルにおける添加剤の添加量を電気抵抗が小さい電池セルの添加剤の添加量と比較して、多くしてもよい。
【0019】
また、電解液は、溶媒に加えて、支持電解質を含み、前記添加剤は、前記溶媒および前記支持電解質を含んだ溶液に対して添加される物質であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、組電池の斜視図である。
図2図2は、図1の組電池を構成する電池セルを示す斜視図である。
図3図3は、電極体を展開した状態を示す斜視図である。
図4図4(a)~図4(d)は、負極シートの等価回路を示す図である。
図5図5は、電池セルの製造工程の一部を示す流れ図である。
図6図6(a)および図6(b)は、添加剤の添加量の調整例を示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、組電池を構成する電池セルの添加剤の添加量の分布を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
[組電池、および電池セルの構成]
図1に、組電池1を示す。組電池1は、複数の電池セル10(1),10(2),…の直列接続体である。なお、以下では、電池セル10(1),10(2),…を総括する場合、電池セル10と記載する。
【0022】
図2に示すように、電池セル10は、一例としてリチウムイオン2次電池である。電池セル10は、ケース12と、蓋体14と、を備えている。ケース12は、電極体20を収容する。ケース12は、上側に開口を有した偏平な有底角型(直方体形状)の外形を有する。蓋体14は、ケース12の開口を閉塞する。ケース12および蓋体14は、アルミニウム、若しくはアルミニウム合金等の金属で構成される。
【0023】
蓋体14には、2つの外部端子16A,16Bが設けられる。外部端子16A,16Bは、電力の充放電に用いられる。電極体20における正極側の端部である正極側未塗工部32Aは、正極側集電部材18Aを介して正極の外部端子16Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側未塗工部42Aは、負極側集電部材18Bを介して負極の外部端子16Bに電気的に接続される。正極側集電部材18Aおよび負極側集電部材18Bは、蓋体14を貫通して外部端子16A,16Bと接続される。正極側集電部材18Aおよび負極側集電部材18Bと蓋体14の間には、絶縁性を有したガスケットが配置される。ガスケットは、正極側集電部材18Aおよび負極側集電部材18Bと蓋体14とを電気的に絶縁するとともに、正極側集電部材18Aおよび負極側集電部材18Bと蓋体14との間をシールする。また、ケース12内には、注入口15から非水電解液が注入される。なお、外部端子16A,16Bの形状は、図2に示す形状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0024】
[電極体]
図3に示すように、電極体20は、長尺の正極シート30と負極シート40とがセパレータ50を介して積層した積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極シート30、負極シート40、およびセパレータ50は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。捲回前の積層体は、正極シート30、セパレータ50、負極シート40、セパレータ50の順に、厚さ方向に積層される。電極体20は、セパレータ50を挟んで積層された正極シート30および負極シート40が、その帯形状の幅方向D2に延びる捲回軸L1周りに捲回された構造を有している。
【0025】
正極シート30は、正極集電体32と、正極合材層34と、を備える。正極集電体32は、電極基材である。正極集電体32は、長尺状に形成された箔状の部材である。正極合材層34は、正極集電体32の相対する2つの面の各々に設けられる。正極集電体32は、幅方向D2の一端に、正極合材層34が形成されずに正極集電体32が露出した正極側未塗工部32Aを備える。
【0026】
正極集電体32は、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。正極集電体32は、正極における集電体として機能する。正極合材層34は、液状体の正極合材ペーストの硬化体である。正極合材ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、および、正極結着材を含む。正極合材層34は、正極合材ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで形成される。したがって、正極合材層34は、正極活物質、正極導電材、および、正極結着材を含む。
【0027】
正極活物質は、電池セル10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵および放出可能なリチウム含有複合金属酸化物が用いられる。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。
【0028】
正極溶媒は、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液が用いられる。正極導電材としては、たとえば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバ等の炭素繊維、黒鉛が用いられる。正極結着材は、正極合材ペーストに含まれる樹脂成分の一例である。正極結着材は、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が用いられる。
【0029】
なお、正極シート30は、正極側未塗工部32Aと正極合材層34との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、およびアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0030】
[負極シート]
負極シート40は、負極集電体42と、負極合材層44と、を備える。負極集電体42は、電極基材である。負極集電体42は、長尺状に形成された箔状の物質である。負極合材層44は、負極集電体42の相対する2つの面の各々に設けられる。負極集電体42は、幅方向D2の一端であって、正極側未塗工部32Aと反対に位置する端部において、負極合材層44が形成されずに負極集電体42が露出した負極側未塗工部42Aを備える。
【0031】
負極集電体42は、銅または銅を主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。負極集電体42は、負極における集電体として機能する。
負極合材層44は、液状体の負極合材ペーストの硬化体である。負極合材ペーストは、負極活物質、負極溶媒、負極増粘材、および、負極結着材を含む。負極合材層44は、負極合材ペーストが乾燥されて負極溶媒が気化することで形成される。したがって、負極合材層44は、負極活物質、さらに、添加剤として、負極増粘材および負極結着材を含む。なお、負極合材層44は、導電材のような添加剤をさらに含んでもよい。
【0032】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な材料である。負極活物質は、たとえば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極溶媒は、一例として、水である。負極分散材は、一例として、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。負極結着材は、正極結着材と同様のものを用いることができる。負極結着材は、一例としてSBRである。
【0033】
[セパレータ]
セパレータ50は、正極シート30と負極シート40との接触を防ぐとともに、正極シート30および負極シート40の間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ50の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0034】
セパレータ50は、ポリプロピレン製等の不織布であってよい。セパレータ50は、たとえば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、およびイオン導電性ポリマー電解質膜等を用いてもよい。
【0035】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持電解質が含有された組成物である。非水溶媒としては、たとえば、エチレンカーボネートを採用してもよい。もっとも、非水溶媒としては、エチレンカーボネートに限らず、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持電解質としては、一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。リチウム化合物としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等がある。
【0036】
非水溶媒および支持電解質からなる溶液には、リチウム塩としてのリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)が添加される。たとえば、上記溶液におけるLiBOBの濃度が0.001以上0.1以下[mol/L]となるように、上記溶液にLiBOBを添加する。LiBOBは、SEI(Solid Electrolyte Interface)被膜の成長を抑制することなどを狙った添加剤である。すなわち、LiBOBは、安定的な被膜を負極活物質粒子の粒子表面に形成することによってSEI被膜の成長を抑制する。
【0037】
なお、こうした添加剤としては、LiBOBに限らない。たとえば、プロピオネート系の化合物であってもよい。またたとえば、VC(ビニレンカーボネート)であってもよい。またたとえば、PS(プロパンスルトン)であってもよい。またたとえば、BP(ビフェニル)であってもよい。またたとえば、メチレンビススルホナート誘導体であってもよい。なお、添加剤の狙いは、SEI被膜の成長を抑制することに限らない。また、添加剤を1種類とすることも必須ではない。なお、添加剤の添加量は、非水溶溶媒中の支持電解質の量よりも少なくてもよい。
【0038】
[リチウムの析出]
図4(a)に、負極シート40における等価回路を示す。
図4(a)には、負極シート40において、負極集電体42上に形成されている負極合材層44を構成する負極活物質44aが記載されている。そして負極合材層44の抵抗である合材抵抗Reが記載されている。合材抵抗Reは、負極合材層44内の電流の流れに対する抵抗を定量化したものである。また、図4(a)には、非水電解液60の抵抗である電解液抵抗Rionが記載されている。電解液抵抗Rionは、非水電解液60内のイオンの移動において生じる抵抗を定量化したものである。
【0039】
図4(b)に、電池セル10の充電時における電流分布を示す。図4(b)に示すように、電流は、合材抵抗Reを通過する経路と、電解液抵抗Rionを通過する経路との双方を介して流れる。
【0040】
図4(c)に、図4(b)に示した場合と比較して合材抵抗Reの値が大きい場合を示す。合材抵抗Reの値が大きい場合には、電解液抵抗Rionを介して流れる電流の量が多くなる。そのため、負極集電体42と負極合材層44との境界付近において反応が集中しやすい。
【0041】
図4(d)に、図4(b)に示した場合と比較して電解液抵抗Rionの値が大きい場合を示す。電解液抵抗Rionの値が大きい場合には、合材抵抗Reを介して流れる電流の量が多くなる。そのため、負極合材層44の表面付近において反応が集中しやすい。
【0042】
反応が局所的に集中する場合、その付近にリチウムが析出しやすい。
そのため、合材抵抗Reの値および電解液抵抗Rionの値の比を調整することによって、リチウムの析出を抑制する。具体的には、電池セル10の使用時において想定される最大の充電電流においてリチウムが析出しない条件を探索する。この条件は、非水電解液60の溶媒に添加される、支持電解質の濃度、および添加剤の濃度を含む。この条件は、負極合材層44の厚さ等を含む。
【0043】
このように、リチウムの析出を抑制するうえで最適な条件を探索した後、その条件に沿って電池セル10を製造する。ただし、電池セル10の量産工程においては、負極合材層44の厚さ等にばらつきが生じる。そして、これが最適な条件からのずれを生じさせる要因となる。そこで、電池セル10の個体毎に、製造工程において非水電解液60の溶媒および支持電解質を含んだ溶液中の添加剤の量を調整する。
【0044】
「電池セルの製造工程」
図5に、電池セル10の製造工程のうちの一部を示す。
図5に示す一連の工程においては、まず、負極集電体42を形成する(S10)。次に、負極集電体42の抵抗値である集電体抵抗値Rgを計測する(S12)。これは、シート状の負極集電体42の一対の面の双方に電極を充てることによって、行われる。集電体抵抗値Rgは、負極集電体42の厚さ方向における抵抗値である。換言すれば、負極集電体42および正極集電体32が互いに対向する方向における負極集電体42の抵抗値である。
【0045】
次に、集電体抵抗値Rgが計測された負極集電体42の両面に負極合材層44を形成する(S14)。そして、負極合材層44が形成された負極集電体42である負極シート40の抵抗値である負極抵抗値Rnを計測する(S16)。これは、2個の負極合材層44のそれぞれの面のうちの負極合材層44に対向する面とは逆側の面に電極を充てることによって、行われる。すなわち、電極によって、負極集電体42の両面に形成された負極合材層44を挟むことで行われる。これにより、負極抵抗値Rnは、負極集電体42および一対の負極合材層44の合計の抵抗値となる。換言すれば、負極抵抗値Rnは、負極シート40の厚さ方向における抵抗値である。
【0046】
そして、負極抵抗値Rnから集電体抵抗値Rgを減算することによって、負極合材層44の抵抗値である、合材抵抗Reの値を算出する(S18)。合材抵抗Reの値は、1つの負極合材層44の厚さ方向における抵抗値の2倍の値となっている。
【0047】
次に、合材抵抗Reの値に基づき、添加剤の添加量を決定する(S20)。ここで、リチウムの析出を抑制するうえで最適な条件が探索された時点において、合材抵抗Reの値については、予め計測しておくこととする。こうして計測された合材抵抗Reの値を以下、基準値と称する。なお、最適な条件の探索工程のみならず、基準値の設定工程は、電池セル10の量産工程に先立って行われることとしてもよい。
【0048】
S18の工程によって算出された合材抵抗Reの値と、基準値との差は、電池セル10の個体差を示す。S20の工程では、合材抵抗Reの値が示す電池セル10の個体差情報に応じて、添加剤の量を調整する。以下の2つのケースの場合について、添加剤の量を調整する手法を示す。
【0049】
ケース1.S18の工程によって算出された合材抵抗Reの値の方が基準値よりも小さい場合。この場合、図4(b)に示した状態が基準値によって実現されるものであるとすると、添加剤の添加量を基準値に応じたものとするなら、電池セル10によって図4(d)の状態が実現される。こうした事態となることを抑制すべく、添加剤の量が調整される。
【0050】
ここで、増量することによって非水電解液の導電性が低下するタイプの添加剤の場合、添加剤の量を基準値に応じた量に対して減量する。ここで、増量することによって非水電解液の導電性が高まるタイプの添加剤とは、たとえば、溶媒に支持電解質が添加された溶液の導電性よりも導電性が低い添加剤である。またたとえば、溶媒の導電性よりも導電性が低い添加剤である。
【0051】
図6にこの場合を例示する。図6(a)は、負極合材層44中の活物質の密度と合材抵抗Reの値との関係を示す。図6(a)では、合材抵抗Reの基準値を100としている。基準値と比較して、密度が高い場合には、合材抵抗Reの値が小さくなる。図6(a)には、基準値Re0と比較して、合材抵抗Reの値が20%低い値Re1を例示した。こうした値を有する負極シート40を用いる場合、図6(b)に示すように、添加剤の量を減少させることによって、電解液抵抗Rionを所定量低下させる。
【0052】
一方、増量することによって非水電解液の導電性が高まるタイプの添加剤の場合、添加剤の量を基準値に応じた量に対して増量する。なお、増量することによって非水電解液の導電性が高まるタイプの添加剤とは、たとえば、溶媒に支持電解質が添加された溶液の導電性よりも導電性が高い添加剤である。またたとえば溶媒の導電性よりも導電性が高い添加剤である。
【0053】
ケース2.S18の工程によって算出された合材抵抗Reの値の方が基準値よりも大きい場合。この場合、図4(b)に示した状態が基準値によって実現されるものであるとすると、添加剤の添加量を基準値に応じたものとするなら、電池セル10によって図4(c)の状態が実現される。こうした事態となることを抑制すべく、添加剤の量が調整される。
【0054】
ここで、増量することによって非水電解液の導電性が低下するタイプの添加剤の場合、添加剤の量を基準値に応じた量に対して増量する。一方、増量することによって非水電解液の導電性が高まるタイプの添加剤の場合、添加剤の量を基準値に応じた量に対して減量する。
【0055】
図5に戻り、決定された添加剤の添加量となるように、その負極シート40が備えられる電池セル10に注入する非水電解液中の添加剤の量を調整する(S22)。
図7図5に示した工程を有して製造された電池セル10を複数備えた組電池1のうちの電池セル10(1)および電池セル10(2)の合材抵抗Reの値と添加剤の添加量との関係を示す。なお、図7には、電池セル10(1)を「セル1」と記載して且つ、電池セル10(2)を「セル2」と記載している。また、図7には、電池セル(1)の合材抵抗Reの値の方が電池セル(2)の合材抵抗Reの値よりも大きい場合を示す。
【0056】
図7(a)は、増量することによって非水電解液の導電性が高まるタイプの添加剤を用いた場合を示す。その場合、電池セル(1)における添加剤の添加量の方が電池セル10(2)における添加剤の添加量よりも少なくなっている。
【0057】
図7(b)は、増量することによって非水電解液の導電性が低下するタイプの添加剤を用いた場合を示す。その場合、電池セル(1)における添加剤の添加量の方が電池セル10(2)における添加剤の添加量よりも多くなっている。
【0058】
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
電池セル10の製造工程において、負極集電体42が形成されると集電体抵抗値Rgが計測される。また負極集電体42に負極合材層44が形成されると、負極抵抗値Rnが計測される。そして、負極抵抗値Rnから集電体抵抗値Rgが減算されることによって、合材抵抗Reの値が算出される。非水電解液の溶媒および支持電解質を含む溶液中の添加剤の添加量は、合材抵抗Reの値に応じて個別に調整される。
【0059】
これにより、各電池セル10を構成する負極シート40の個体差に応じて添加剤の添加量が最適化される。したがって、リチウムの析出を抑制できる。
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,3,4,5]負極は、負極シート40に対応する。正極は、正極シート30に対応する。負極活物質層は、負極合材層44に対応する。計測工程は、S12,S16,S18の工程に対応する。調整工程は、S20,S22の工程に対応する。負極抵抗変数の値は、合材抵抗Reの値に対応する。[2]形成工程は、S14の工程に対応する。集電体抵抗値計測工程は、S12の工程に対応する。負極抵抗値計測工程は、S16の工程に対応する。抵抗変数値算出工程は、S18の工程に対応する。[6]図7(a)および図7(b)に対応する。
【0060】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0061】
「調整工程について」
・調整工程としては、溶媒および支持電解質からなる溶液に添加する1種類の添加剤の添加量を調整する工程に限らない。たとえば、複数種類の添加剤を添加することとし、それらのうちの2種類以上の添加剤の添加量を調整する工程であってもよい。なお、複数種類の添加剤を添加する場合であっても、調整工程において添加量の調整対象となる添加剤を1種類とすることも可能である。
【0062】
・調整工程としては、溶媒および支持電解質からなる溶液に添加する添加剤の量を調整する工程に限らない。たとえば、支持電解質の量を調整する工程であってもよい。
・調整工程において添加量の調整対象は、溶媒および支持電解質からなる溶液に対する添加剤と、支持電解質とのいずれか一方に限らない。たとえば溶媒および支持電解質からなる溶液に対する添加剤と支持電解質との双方が調整対象であってもよい。
【0063】
「その他」
・電極体20は、捲回体ではなく、正極シート30と負極シート40とをセパレータ50を介して積層した積層体をケース12に収容したものであってもよい。
【0064】
・リチウムイオン2次電池である電池セル10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。たとえば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して2次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【0065】
<備考>
・本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現またはこれに類似する表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」または「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現またはこれに類似する表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」または「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【符号の説明】
【0066】
1…組電池
10…電池セル
12…ケース
14…蓋体
15…注入口
16A,16B…外部端子
18A…正極側集電部材
18B…負極側集電部材
20…電極体
30…正極シート
32…正極集電体
32A…正極側未塗工部
34…正極合材層
40…負極シート
42…負極集電体
42A…負極側未塗工部
44…負極合材層
44a…負極活物質
50…セパレータ
60…非水電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7