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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184202
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】印刷方法および印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20231221BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231221BHJP
   B41J 29/38 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B41J2/17
B41J2/01 401
B41J29/38 204
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098219
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】北村 紗也加
【テーマコード(参考)】
2C056
2C061
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB03
2C056EB15
2C056EB30
2C056EC03
2C056EC15
2C056EC29
2C056EC45
2C056FA04
2C056HA58
2C056KB37
2C056KC02
2C061AQ05
2C061HH03
2C061HJ10
2C061HK11
(57)【要約】
【課題】インクの流量が変動する場合でも、ヒータのフィードフォワード制御によってインクを容易に温調することができる技術を提供する。
【解決手段】
FF制御部911は、ヒータ351に加熱される前のインクの第1温度Tt1に基づいて、FF制御値CV1を生成する。ゲイン推論器914は、吐出ヘッド21から吐出されるインクの量に応じた相当量に基づいて、FF制御値CV1の補正に用いられるゲインG1を推論するための強化学習を行う。制御値補正部913は、ゲイン推論器914が推論したゲインG1に基づいて、FF制御値CV1を補正する。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷方法であって、
a) 長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って搬送しながら、前記基材の表面に吐出ヘッドからインクを吐出する工程と、
b) 前記ヘッドから吐出される前記インクの量に応じた相当量の前記インクを、前記インクを貯留可能なインクタンクから前記吐出ヘッドに供給する工程と、
c) 前記インクを加熱するヒータを制御する工程と、
を含み、
前記工程c)は、
c-1)前記ヒータによって加熱される前のインクの第1温度を測定する工程と、
c-2)前記第1温度に基づいて、フィードフォワード制御値を生成する工程と、
c-3)前記相当量に基づいて、前記フィードフォワード制御値を補正するゲインを推論する推論器の強化学習を行う工程と、
c-4)前記工程c-3)によって補正された前記フィードフォワード制御値に基づいて、前記ヒータを制御する工程と、
を含む、印刷方法。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷方法であって、
前記ゲイン推論器は、さらに前記第1温度に基づいて前記ゲインを推論する、印刷方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷方法であって、
前記第1温度は、前記ヒータの入口における前記インクの温度である、印刷方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の印刷方法であって、
前記第1温度は、前記インクタンク内におけるインクの温度である、印刷方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の印刷方法であって、
前記工程c)は、
c-5)前記ヒータによって加熱された前記インクの第2温度を測定する工程と、
c-6)前記第2温度に基づいて、前記ヒータをフィードバック制御する工程と、
を有する、印刷方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の印刷方法であって、
前記第2温度は、前記ヒータの出口における前記インクの温度である、印刷方法。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の印刷方法であって、
前記第2温度センサは、前記吐出ヘッドが有するリザーバ内の前記インクの温度である、印刷方法。
【請求項8】
印刷装置であって、
インクを吐出する吐出ヘッドと、
前記インクを貯蔵可能なインクタンクと、
前記吐出ヘッドから吐出される前記インクの量に応じた相当量の前記インクを、前記インクタンクから前記吐出ヘッドへ供給する供給部と、
前記インクを加熱するヒータと、
前記ヒータに加熱される前の前記インクの第1温度を測定する第1温度センサと、
前記ヒータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記第1温度に基づいて、前記ヒータをフィードフォワード制御するためのフィードフォワード制御値を生成するフィードフォワード制御部と、
前記相当量に基づいて、前記フィードフォワード制御値の補正に用いられるゲインを推論するための強化学習を行うゲイン推論器と、
前記ゲイン推論器が推論した前記ゲインに基づいて、前記フィードフォワード制御値を補正する制御値補正部と、
を有する、印刷装置。
【請求項9】
請求項8に記載の印刷装置であって、
前記ヒータによって加熱された前記インクの第2温度を測定する第2温度センサ、
をさらに備え、
前記制御部は、前記第2温度に基づいて、前記ヒータをフィードバック制御するためのフィードバック制御値を生成するフィードバック制御部、をさらに有し、
前記制御部は、前記フィードバック制御部が出力するフィードバック制御値に基づいて、前記ヒータを制御する、印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法および印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連帳の基材をロールtoロール方式で搬送しつつ、吐出ヘッドから基材の表面にインクを吐出することによって、基材に画像を形成する印刷装置が知られている。この種の印刷装置では、一般的に、インクの粘度管理が重要となっている。
【0003】
例えば、インクの温度が低下した場合、粘度が増大することによって、吐出ムラが発生することで、インクの着弾位置のずれ、または、スジの発生などの不具合が発生する。このため、インク温度を一定にする目的で、インクを加熱する機構が設けられる場合がある。
【0004】
例えば、特許文献1では、吐出ヘッドに接続された循環経路内でインクが循環されるとともに、当該循環経路を流れるインクが温水ユニットで加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-055501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、吐出ヘッドにおけるインクの消費量は、基材に印刷される印刷パターンに応じて随時変動し得る。このため、未使用のインクを貯蔵するインクタンクから吐出ヘッドへ送られるインクの温度は、インクの流量に応じて、不規則に変動し得る。このため、吐出ヘッド内のインクを一様に加熱するだけでは、インクの温度変動幅が大きくなる。このため、ヒータの電力制御を適切に行うことが求められる。
【0007】
ヒータの制御方法としてフィードバック(FB)制御が多用されているが、FB制御では流量変化を検知してから温調を行うため、温度変化に迅速に対応することが困難な場合がある。このため、フィードフォワード(FF)制御を適用することが考えられる。
【0008】
FF制御においては、ヒータを制御するFF制御値を補正するため、ゲインが設定される。しかしながら、環境変化が生じる度にゲインを再調整する必要があり、その作業に多くの工数が必要となってしまう。このため、FF制御によりインクの温調を行うことは容易ではなかった。
【0009】
本発明の目的は、インクの流量が変動する場合でも、ヒータのフィードフォワード制御によってインクを容易に温調することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、第1態様は、印刷方法であって、a)長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って搬送しながら、前記基材の表面に吐出ヘッドからインクを吐出する工程と、b)前記ヘッドから吐出される前記インクの量に応じた相当量の前記インクを、前記インクを貯留可能なインクタンクから前記吐出ヘッドに供給する工程と、c)前記インクを加熱するヒータを制御する工程と、を含み、前記工程c)は、c-1)前記ヒータによって加熱される前のインクの第1温度を測定する工程と、c-2)前記第1温度に基づいて、フィードフォワード制御値を生成する工程と、c-3)前記相当量に基づいて、前記フィードフォワード制御値を補正するゲインを推論する推論器の強化学習を行う工程と、c-4)前記工程c-3)によって補正された前記フィードフォワード制御値に基づいて、前記ヒータを制御する工程とを含む。
【0011】
第2態様は、第1態様の印刷方法であって、前記ゲイン推論器は、さらに前記第1温度に基づいて前記ゲインを推論する。
【0012】
第3態様は、第1態様または第2態様の印刷方法であって、前記第1温度は、前記ヒータの入口における前記インクの温度である。
【0013】
第4態様は、第1態様または第2態様の印刷方法であって、前記第1温度は、前記インクタンク内におけるインクの温度である。
【0014】
第5態様は、第1態様から第4態様のいずれか1つの印刷方法であって、前記工程c)は、c-5)前記ヒータによって加熱された前記インクの第2温度を測定する工程と、c-6)前記第2温度に基づいて、前記ヒータをフィードバック制御する工程とをさらに備える。
【0015】
第6態様は、第1態様から第5態様のいずれか1つの印刷方法であって、前記第2温度は、前記ヒータの出口における前記インクの温度である。
【0016】
第7態様は、第1態様から第6態様のいずれか1つの印刷方法であって、前記第2温度センサは、前記吐出ヘッドが有するリザーバ内の前記インクの温度である。
【0017】
第8態様は、印刷装置であって、インクを吐出する吐出ヘッドと、前記インクを貯蔵可能なインクタンクと、前記吐出ヘッドから吐出される前記インクの量に応じた相当量の前記インクを、前記インクタンクから前記吐出ヘッドへ供給する供給部と、前記インクを加熱するヒータと、前記ヒータに加熱される前の前記インクの第1温度を測定する第1温度センサと、前記ヒータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第1温度に基づいて、前記ヒータをフィードフォワード制御するためのフィードフォワード制御値を生成するフィードフォワード制御部と、前記相当量に基づいて、前記フィードフォワード制御値の補正に用いられるゲインを推論するための強化学習を行うゲイン推論器と、前記ゲイン推論器が推論した前記ゲインに基づいて、前記フィードフォワード制御値を補正する制御値補正部とを有する。
【0018】
第9態様は、第8態様の印刷装置であって、前記ヒータによって加熱された前記インクの第2温度を測定する第2温度センサ、をさらに備え、前記制御部は、前記第2温度に基づいて、前記ヒータをフィードバック制御するためのフィードバック制御値を生成するフィードバック制御部、をさらに有し、前記制御部は、前記フィードバック制御部が出力するフィードバック制御値に基づいて、前記ヒータを制御する。
【発明の効果】
【0019】
第1態様の印刷方法によれば、インクの流量に変化が生じても、流量に応じたゲインでフィードフォワード制御値が補正される。このため、実態を反映したフィードフォワード制御が可能となる。これにより、インクを適切に温調できるため、印刷時の不具合を低減でき、インクおよび基材の無駄な消費を抑制できる。
【0020】
第2態様の印刷方法によれば、ヒータで加熱される前のインクの温度を、フィードフォワード制御に反映できる。
【0021】
第3態様の印刷装置によれば、ヒータで加熱される直前のインクの温度を、フィードフォワード制御に反映できる。
【0022】
第4態様の印刷装置によれば、インクタンクに貯留されているインクの温度を、ゲインに反映できる。
【0023】
第5態様の印刷方法によれば、さらにヒータをフィードバック制御することによって、インクの温度を目標温度に近づけることができる。
【0024】
第6態様の印刷方法によれば、ヒータの出口におけるインクの温度を、フィードバック制御に反映できる。
【0025】
第7態様の印刷方法によれば、吐出位置でのインクの温度を、フィードバック制御に反映できる。
【0026】
第8態様の印刷装置によれば、インクの流量に変化が生じても、流量に応じたゲインでフィードフォワード制御値が補正される。このため、実態を反映したフィードフォワード制御が可能となる。これにより、インクを適切に温調できるため、印刷時の不具合を低減でき、インクおよび基材の無駄な消費を抑制できる。
【0027】
第9態様の印刷装置によれば、フィードバック制御によりインクをさらに適切に温調できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係る印刷装置の構成を示す図である。
図2】制御部と印刷装置の各部との接続を示すブロック図である。
図3】ヒータを制御するための制御ブロックを示す図である。
図4】ゲインの調整前後における出口温度の経時変化を示す図である。
図5】ゲイン推論器が実行する第1の強化学習の流れを示す図である。
図6】ゲイン推論器が実行する第2の強化学習を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0030】
<1. 実施形態>
図1は、実施形態に係る印刷装置1の構成を示す図である。印刷装置1は、インクジェット方式で印刷を行う装置である。より詳細には、印刷装置1は、複数の搬送ローラ12で長尺帯状の基材Wを搬送しつつ、複数の吐出ヘッド21―24から基材Wへインクを吐出することにより、基材Wの表面に画像を記録する。基材Wは、例えば柔軟性を有する媒体であって、例えば、印刷用紙、樹脂製フィルム、段ボールまたは金属薄膜である。
【0031】
図1に示すように、印刷装置1は、搬送機構10と、印刷部20と、供給部30と、エンコーダ60と、カメラ70と、複数の各種センサ80と、制御部9とを備えている。
【0032】
搬送機構10は、所定の搬送経路に沿って、基材Wの長手方向に沿う搬送方向に、基材Wを搬送する。搬送機構10は、巻出ローラ11、複数の搬送ローラ12および巻取ローラ13を有する。基材Wは、これらのローラに掛け渡される。また、基材Wは、巻出ローラ11から繰り出され、複数の搬送ローラ12に支持されつつ、所定の搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、搬送方向に対して垂直な方向に延びる軸を中心として回転することにより、基材Wを搬送経路の下流側へ案内する。複数の搬送ローラ12によって搬送された基材Wは、巻取ローラ13に巻き取られる。基材Wには、搬送方向の張力が掛けられている。これにより、搬送中における基材Wの弛みや皺が抑制される。
【0033】
搬送機構10は、一部のローラ(以下、「駆動ローラ」と称する)を回転させるモータ14をさらに有する。搬送機構10は、複数のモータ14を備えていてもよい。モータ14は、制御部9と電気的に接続されている。モータ14の駆動時には、制御部9から、モータ14を回転駆動させるための指令値が各モータ14へ入力される。そうすると、モータ14が、指令値に応じて駆動し、駆動ローラが回転する。この結果、巻出ローラ11から巻取ローラ13へ向けて、基材Wが搬送される。
【0034】
印刷部20は、搬送機構10により搬送される基材Wに対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する処理部である。印刷部20は、複数(本例では、4つ)吐出ヘッド21―24を有する。吐出ヘッド21―24は、互いに同じ構造を有する。また、吐出ヘッド21―24は、基材Wの搬送方向に沿って、間隔をあけて配列されている。なお、基材Wは、複数の吐出ヘッド21―24の下方において、複数の吐出ヘッド21―24の配列方向と略平行に移動する。このとき、基材Wの表面(印刷面)は、上方(各吐出ヘッド21―24側)に向いている。
【0035】
また、吐出ヘッド21―24はそれぞれ、インクを貯蔵可能な内部空間と、複数のノズル(不図示)とを有する。複数のノズルは、各吐出ヘッド21―24の下面において、基材Wの幅方向と平行に配列されている。また、複数のノズルはそれぞれ、図示を省略した圧力発生素子としてのピエゾ素子と、各吐出ヘッド21―24の内部空間に連通する吐出口とを有する。インク吐出時には、上記内部空間から吐出口付近へインクが流下する。そして、ピエゾ素子の作用により、吐出口付近のインクが加圧されることにより、吐出口から液滴状のインクが吐出される。なお、インクの吐出方式は、圧力発生素子としてヒータを用いることにより、吐出口付近のインクを加熱して泡を発生させる、いわゆるサーマル方式であってもよい。
【0036】
各吐出ヘッド21―24は、複数のノズルから基材Wの上面へ向けて、多色画像の色成分となるK(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。すなわち、吐出ヘッド21は、搬送経路上の処理位置である第1印刷位置P1において、基材Wの上面に、処理物質としてのK色のインク滴を吐出する。吐出ヘッド22は、第1印刷位置P1よりも下流側の処理位置である第2印刷位置P2において、基材Wの上面に、処理物質としてのC色のインク滴を吐出する。吐出ヘッド23は、第2印刷位置P2よりも下流側の処理位置である第3印刷位置P3において、基材Wの上面に、処理物質としてのM色のインク滴を吐出する。吐出ヘッド24は、第3印刷位置P3よりも下流側の処理位置である第4印刷位置P4において、基材Wの上面に、処理物質としてのY色のインク滴を吐出する。
【0037】
本実施形態では、第1印刷位置P1、第2印刷位置P2、第3印刷位置P3、および第4印刷位置P4は、基材Wの搬送方向に沿って、等間隔に配列されている。吐出ヘッド21―24は、インク滴を吐出することによって、基材Wの上面に、それぞれ単色画像を記録する。そして、4つの単色画像の重ね合わせにより、基材Wの上面に、多色画像が形成される。また、各吐出ヘッド21―24は、インク滴を吐出することによって、基材Wの上面に、印字を行うこともできる。
【0038】
供給部30は、インクを吐出ヘッド21―24に供給するユニットである。供給部30は、複数(本例では、4つ)のインク供給系統31を有する。複数のインク供給系統31は、吐出ヘッド21―24にそれぞれ接続されており、対応する色のインクを吐出ヘッド21―24にそれぞれ供給する。以下、吐出ヘッド21にインクを供給するインク供給系統31について説明する。
【0039】
インク供給系統31は、インクタンク311と、配管321と、ポンプ331と、流量計341と、ヒータ351と、入口温度センサ361と、出口温度センサ371と、液面センサ381を有する。
【0040】
インクタンク311は、未使用のインクを貯留可能である。配管321の一端は、吐出ヘッド21の内部空間に接続されている。配管321の他端は、インクタンク311に接続されている。ポンプ331は、配管321に設置されている。ポンプ331は、制御部9から入力される駆動値に基づいて、動作する。インクタンク311から吐出ヘッド21へと向かうインクの流れを発生させる。ポンプ331は、例えばブラシレスモータが搭載されたポンプである。配管320およびポンプ331は、インクタンク311から吐出ヘッド21へインクを供給する「供給部」の一例である。なお、インクタンク311内を加圧する加圧機構によって、インクタンク311のインクが吐出ヘッド21へ送られてもよい。この場合、加圧機構が「供給部」として機能する。
【0041】
なお、インクタンク311よりも上流側に、インクタンク311に対してインクを供給する一次タンクが設けられていてもよい。インクタンク311における貯蔵インク量の低下等に応じて、一次タンクからインクが供給されるようにしてもよい。
【0042】
流量計341は、配管321に設置されている。流量計341は、配管321内を流れるインクの流量を測定する。流量計341は、測定した流量値を示す信号を、制御部9へ送信する。
【0043】
吐出ヘッド21から基材Wへ向けてインク滴が吐出されると、吐出ヘッド21内のインク量が減少する。制御部9は、吐出ヘッド21内のインク量の減少に応じて、ポンプ331に対して駆動値が入力される。これにより、ポンプ331が駆動値に応じて駆動し、吐出ヘッド21内のインクの減少量に応じた量(相当量)のインクが、インクタンク311から吐出ヘッド21へ供給される。他の吐出ヘッド22―24についても、吐出ヘッド21と同様に、対応するインク供給系統31からインクがそれぞれ供給される。
【0044】
ヒータ351は、ポンプ331によってインクタンク311から吐出ヘッド21に供給されるインクを加熱する。ヒータ351は、配管321に設置されている。ヒータ351は、ポンプ331と流量計341との間に位置する。ヒータ351は、配管321を流れるインクを加熱する。
【0045】
入口温度センサ361は、配管321のうち、インクタンク311とヒータ351との間の配管部分に位置する。入口温度センサ361は、ヒータ351の入口に配置されている。入口温度センサ361は、計測した温度を示す信号を制御部9へ送信する。入口温度センサ361は、インクタンク311からヒータ351へ流れるインクの温度を測定する「第1温度センサ」の一例である。
【0046】
出口温度センサ371は、配管321に設置されている。出口温度センサ371は、ヒータ351と吐出ヘッド21との間に位置する。出口温度センサ371は、ヒータ351から配管321を介して吐出ヘッド21に流れるインクの温度を計測する。本例では、出口温度センサ371は、ヒータ351の出口近傍に設けられている。このため、出口温度センサ371は、ヒータ351を通過した直後のインクの温度を計測する。ただし、出口温度センサ371は、ヒータ351よりも吐出ヘッド21の近くに位置していてもよい。出口温度センサ371は、計測した温度を示す信号を制御部9へ送信する。出口温度センサ371は、ヒータ351から吐出ヘッド21,22,23または24へ流れるインクの温度(第2温度)を測定する「第2温度センサ」の一例である。
【0047】
液面センサ381は、吐出ヘッド21内のインク量を計測するためのセンサであり、吐出ヘッド21内におけるインクの液面の高さを計測する。液面センサ381は、例えば、超音波を用いて液面の高さを検出する非接触式のセンサである。液面センサ381は、計測した液面の高さを示す信号を、制御部9に送信する。
【0048】
供給部30は、外気温度センサ39を有する。外気温度センサ39は、インクタンク311外に位置し、インクタンク311外の外気温度を計測する。
【0049】
エンコーダ60は、複数の搬送ローラ12のうちの1つ(図1の例では、搬送ローラ121)の軸芯に取り付けられる。エンコーダ60は、搬送ローラ121の回転を検出し、搬送ローラ121の回転に同期した連続パルス信号を、制御部9へ出力する。連続パルス信号は、搬送ローラ121を含む複数の搬送ローラ12によって搬送される基材Wの搬送速度の経時変化を反映したデータである。
【0050】
カメラ70は、印刷部20を通過した基材Wの印刷面(表面)を撮影する撮像装置である。カメラ70は、4つの吐出ヘッド21―24よりも搬送経路の下流側の撮影位置P5において、基材Wの印刷面に対向して配置される。カメラ70は、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が、幅方向に複数配列されたラインセンサを有する。搬送機構10により基材Wが搬送されている間、カメラ70は、基材Wの印刷面を所定周期で撮影することにより、印刷済みの基材Wの画像データを取得する。カメラ70は、得られた画像データを、制御部9へ送信する。
【0051】
複数の各種センサ80は、上記に挙げられたものの他に、基材Wの搬送状態を計測する計測器である。複数の各種センサ80は、基材Wの搬送経路上の複数の計測箇所に設けられている。各種センサ80は、各計測箇所において、それぞれ計測値を取得する。各種センサ80の計測項目には、例えば、基材Wの上下変位(基材Wに対して垂直な方向の変位量)、基材Wに掛かる張力、基材Wのエッジの幅方向の位置、等を含めることができる。なお、同一の項目を計測する各種センサ80が、搬送経路の複数の位置に配置されていてもよい。搬送機構10により基材Wが搬送されている間、複数の各種センサ80は、各計測箇所の状態を、常に計測する。そして、各種センサ80は、得られた計測値を示す信号を、制御部9へ送信する。
【0052】
図2は、制御部9と印刷装置1の各部との接続を示すブロック図である。制御部9は、印刷装置1の動作を制御する。制御部9は、CPUなどで構成されるプロセッサ91と、RAMまたはハードディスクなどで構成される記憶部93と、を有する。記憶部93は、プログラム90Pおよび各種データを記憶する。
【0053】
プログラム90Pは、記録媒体Mによって提供される。プログラム90Pは、記録媒体Mに、コンピュータである制御部9によって読取可能に記録されている。記録媒体Mは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)などの光学ディスク、または、磁気ディスクである。
【0054】
制御部9は、搬送機構10のモータ14と、印刷部20の吐出ヘッド21―24と、供給部30のポンプ331、流量計341、ヒータ351、入口温度センサ361、出口温度センサ371、液面センサ381および外気温度センサ39と、通信可能に接続されている。また、制御部9は、エンコーダ60と、カメラ70と、各種センサ80と、通信可能に接続されている。
【0055】
制御部9は、吐出ヘッド21―24に供給されるインクの温度が所定の目標温度となるように、ヒータ351を制御する。図2に示される吐出制御部910と、フィードフォワード(FF)制御部911と、フィードバック(FB)制御部912と、制御値補正部913と、ゲイン推論器914とは、プロセッサ91がプログラム90Pを実行することによって実現される機能である。
【0056】
吐出制御部910は、基材Wに印刷するべき画像を示す印刷パターンに基づいて、吐出ヘッド21―24からのインクの吐出を制御する。FF制御部911およびFB制御部912は、ヒータ351を制御するための制御値を生成する。FF制御部911、FB制御部912、制御値補正部913およびゲイン推論器914の各機能については、図3を参照しつつ説明する。
【0057】
<ヒータ制御>
図3は、ヒータ351を制御するための制御ブロックを示す図である。以下の説明では、吐出ヘッド21に接続されているインク供給系統31のヒータ351を制御する場合について主に説明する。吐出ヘッド22―24に接続されるインク供給系統31においても、図3と同様の制御が行われる。
【0058】
FF制御部911は、ヒータ351をFF制御する。FF制御部911は、FF制御値CV1を生成する。FF制御値CV1は、例えば、ヒータ351における熱源(例えば、電熱線)に付与される電力値を示す値である。FF制御部911は、目標温度Ttgと、入口温度センサ361によって計測される入口温度Tt1との差分値(温度差ΔT1)、および、流量計341によって計測される流量FR1に基づいて、FF制御値CV1を出力する。FF制御部911が出力したFF制御値CV1は、制御値補正部913に入力される。なお、上述したように、ポンプ331は、吐出ヘッド21において吐出されたインクの量に応じた相当量のインクを、吐出ヘッド21に供給するように制御される。このため、流量計341によって測定される流量FR1は、上記インクの相当量に対応している。
【0059】
FB制御部912は、出口温度センサ371によって計測されるインクの温度が、予め設定された目標温度Ttgとなるように、ヒータ351をFB制御する。FB制御は、好ましくはPID制御、または、PI制御である。FB制御部912は、FB制御値CV2を生成する。FB制御値CV2は、例えば、ヒータ351における熱源(例えば、電熱線)に付与される電力値を示す値である。FB制御部912は、目標温度Ttgと、出口温度センサ371によって計測される出口温度Tt2との差分値(温度差ΔT2)に基づいて、FB制御値CV2を出力する。
【0060】
制御値補正部913は、FF制御値CV1にゲインG1を乗じることにより、補正されたFF制御値CV1(修正FF制御値CV1a)を算出する。
【0061】
図3に示されるように、制御部9は、修正FF制御値CV1aと、FB制御値CV2とを足し合わせたヒータ指令値CV3をヒータ351に入力する。これにより、ヒータ351が制御される。
【0062】
図4は、ゲインG1の調整前後における出口温度Tt2の経時変化を示す図である。図4中、横軸は時刻を示しており、縦軸は出口温度Tt2を示している。また、図4中、グラフgr1は、ゲインG1調整前の温度変化を示しており、グラフGr2は、ゲインG1調整後の温度変化を示している。グラフGr1が示すように、ゲインG1が未調整の場合、出口温度Tt2が目標温度目安(ここでは、32℃)よりも大きく、かつ、時間の経過とともに、出口温度Tt2が下がっている。これに対して、ゲインG1が調整されることによって、グラフgr2が示すように、出口温度Tt2が目標温度目安付近で維持することが可能となる。
【0063】
図3に戻って、ゲイン推論器914は、強化学習を実行することによって、適切なゲインG1を推論する機能を有する。ゲイン推論器914は、具体的には、温度差ΔT1、温度差ΔT2、流量FR1、および、制御値補正部913が現在使用しているゲインG1を入力変数とし、新たなゲインG1を出力変数とする。
【0064】
ゲイン推論器914が出力する新たなゲインG1は、制御値補正部913に入力される。これにより、制御値補正部913において使用される制御値補正部913が新たなゲインG1に入れ替えられる。
【0065】
図5は、ゲイン推論器914が実行する第1の強化学習の流れを示す図である。第1の強化学習は、印刷装置1における印刷処理の開始とともに、開始される。この強化学習において、ゲイン推論器914は、制御値補正部913が保持しているゲインG1の性能を評価する(評価工程S11)。ゲインG1の性能評価は、例えば、所定の評価区間内における温度変動幅を用いて行われる。温度変動幅は、例えば、ヒータ351における加熱オンオフの1サイクルの期間中における出口温度Tt2の最大値と最小値の差分である。なお、評価工程S11では、温度変動幅を標準偏差に基づいて評価されてもよい。
【0066】
評価工程S11の後、ゲイン推論器914は、印刷処理が終了したか判定する(判定処理S12)。印刷処理が終了していない場合(判定処理S12においてNo)、ゲイン推論器914は、評価工程S11の評価に基づいた強化学習によって算出される新たなゲインG1を、制御値補正部913に出力する。これにより、制御値補正部913のゲインG1が、新たなゲインG1に入れ替えられる(入替工程S13)。そして、ゲイン推論器914は、再び評価工程S11を実行する。印刷処理が終了した場合(判定処理S12においてYes)、ゲイン推論器914は、強化学習を終了する。このように、印刷処理が開始されてから印刷処理が終了するまで、ゲイン推論器914は、強化学習によって制御値補正部913のゲインG1を、繰り返し入れ替える(更新する)。
【0067】
なお、ゲインG1の初期値は、事前に予備実験を行って決定された値であってもよいし、ランダムに与えた値であってもよい。いずれの場合であっても、強化学習がすすむにつれて、ゲインG1が自動的に適切な値に調整される。
【0068】
図6は、ゲイン推論器914が実行する第2の強化学習を示す図である。図6に示す第2の強化学習は、温度変動幅を基準にして実行される。具体的には、印刷処理中に温度変動幅が大きくなることによって所定の許容値を越えた場合、図6に示される第2の強化学習が開始される。第2の強化学習では、評価工程S11の評価結果に基づいて、ゲイン推論器914は、ゲインG1が所定の性能を満たすかを判定する(判定工程S21)。所定の性能を満たす場合(判定工程S21においてYes)、ゲイン推論器914は、処理を終了する。所定の性能を満たさない場合(判定工程S21においてNo)、ゲイン推論器914は、入替工程S13を実行する。そして、入替工程S13が完了すると、ゲイン推論器914は、再び評価工程S11を実行する。このように、温度変動幅が所定の許容値を越えるたびに、温度変動幅が所定の許容値以下となるまで、強化学習に基づいて、制御値補正部913が保持するゲインG1の入れ替えが繰り返し行われる。
【0069】
以上のように、本実施形態の印刷装置1では、ゲイン推論器914は、各センサが検出するセンサ情報に基づき、ゲインG1を強化学習によって更新する。このため、実際の動作環境に基づいて、ゲインG1を適切な値へ自動で調整できる。したがって、装置の環境変化が起きても、ゲインG1を再調整する手間を省くことができる。これにより、ヒータ351のFF制御によるインクの温調を、適切かつ容易に行うことができる。
【0070】
また、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせてヒータ351を制御することによって、インクの温度変動幅を小さくしつつ、インクを目標温度に近づけることができる。
【0071】
<2.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0072】
例えば、上記実施形態では、ゲイン推論器914は強化学習を行うように構成されている。しかしながら、学習アルゴリズムは、強化学習に深層学習を組み合わせた深層強化学習であってもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、FF制御部911およびゲイン推論器914の入力として、流量計341が測定した流量値FR1が使用されている。しかしながら、流量値FR1の代わりに、ポンプ331の駆動制御値(例えば、ポンプの駆動電圧)が使用されてもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、制御部9は、修正FF制御値CV1aとFB制御値CV2とを足し合わせたヒータ指令値CV3をもって、1つのヒータ351を制御している。しかしながら、修正FF制御値CV1aとFB制御値CV2とを分離し、それぞれをもって2つのヒータを制御してもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、FF制御部911およびゲイン推論器914の入力として、ヒータ351入口近傍の入口温度Tt1が使用されている。しかしながら、入口温度Tt1の代わりに、例えば、インクタンク311内のインク温度が使用されてもよい。また、インクタンク311内のインクの温度を測定する温度センサが設けられてもよい。この場合、インクタンク311内に貯留されているインクの温度をFF制御に反映できる。
【0076】
また、上記実施形態では、FB制御部912の入力として、ヒータ351出口付近の出口温度Tt2が使用されている。しかしながら、出口温度Tt2の代わりに、吐出ヘッド21―24内のインク温度、もしくは、吐出ヘッド21―24に設けられたリザーバ(不図示)内のインク温度が使用されてもよい。この場合、インク吐出位置におけるインクの温度を、FB制御に反映できる。
【0077】
また、上記実施形態では、供給部30から各吐出ヘッド21―24へ、インクが一方向に供給されている。しかしながら、供給部30と各吐出ヘッド21―24との間でインクを循環させる循環経路が設けられていてもよい。また、吐出ヘッド21―24内においてインクを循環させる循環経路が設けられていてもよい。また、循環経路上にインクを加熱するヒータが設けられ、制御部9が当該ヒータを制御してもよい。
【0078】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 印刷装置
9 制御部
21 吐出ヘッド
910 吐出制御部
911 FF制御部
912 FB制御部
913 制御値補正部
914 ゲイン推論器
311 インクタンク
331 ポンプ(供給部)
341 流量計
351 ヒータ
361 入口温度センサ(第1温度センサ)
371 出口温度センサ(第2温度センサ)
W 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6