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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184207
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】成形体の製造方法及び成形体
(51)【国際特許分類】
   G10D 3/22 20200101AFI20231221BHJP
   B27M 3/18 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G10D3/22
B27M3/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098231
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591140813
【氏名又は名称】株式会社カテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】曽我 一樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 泰人
(72)【発明者】
【氏名】福田 一秋
【テーマコード(参考)】
2B250
5D002
【Fターム(参考)】
2B250AA21
2B250BA01
2B250CA11
2B250DA03
2B250FA03
2B250FA09
2B250FA37
2B250FA55
2B250GA01
5D002DD07
(57)【要約】
【課題】本発明は、高剛性、耐摩耗性などの機械的強度に優れると共に、木材と同等の質感、吸湿性を有する成形体と、この成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、木片を水蒸気処理するステップと、水蒸気処理をした前記木片をフェノール樹脂に浸漬けするステップと、フェノール樹脂に浸漬けした前記木片を160℃以上かつ25MPa以上の圧力で流動成形するステップとを備える。本発明の一態様に係る成形体は、水蒸気処理した複数の木片をフェノール樹脂に浸付して流動成形することにより前記複数の木片が界面溶着している成形体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系材料の成形体の製造方法であって、
木片を水蒸気処理するステップと、
水蒸気処理をした前記木片をフェノール樹脂に浸漬けするステップと、
フェノール樹脂に浸漬けした前記木片を160℃以上かつ25MPa以上の圧力で成形するステップと
を備える成形体の製造方法。
【請求項2】
前記水蒸気処理における前記木片が、厚さが1mm以上2mm以下の単板である請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記浸付するステップ後の前記木片における前記フェノール樹脂の含有率が5質量%以上15質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記成形体が、弦楽器用部品である請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
水蒸気処理した複数の木片をフェノール樹脂に浸付して流動成形することにより前記複数の木片が界面溶着している成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
弦楽器は天然木材で製作されるものが多い。この弦楽器を構成している木材は、パーツによって適したものが用いられている。例えば、バイオリン属の指板を形成している木材は、高音域側の部分がボディから離間しているため、高い剛性が求められる。また、前記指板の木材は、弦との擦れによる疵の発生を抑制するための耐摩耗性、温度や湿度の変化などに対応できる環境耐久性なども求められる。このような要求を満たす木材は、品種が限定されるため、容易に入手できないことがある。また、前記指板の木材は、外見の美しさ、演奏者が繊細な演奏をするために必要な触感、吸湿性などの質感が求められる。このため、前記指板を樹脂などで形成したものに置換することも容易ではない。
【0003】
水溶性フェノール樹脂を含浸させた木質系材料の切片を加圧することで流動成形した音響用振動板が知られている(特許第6312122号公報)。このようにすることで、原料としての木材を薄肉化、高密度化した音響用振動板が形成できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6312122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記公報所載の音響用振動板は、薄肉化及び高密度化を図る観点から、高い比弾性率、好適な音の伝搬速度など、振動板として要求される仕様を満たすことができるとされている。しかしながら、前記音響用振動板は、薄肉化の観点から、前記指板が求める十分な機械的強度を有するとは考えにくい。また、振動板は、カバー等で覆われることが多く、人が視認し、触れるものではない。このため、前記音響用振動板は、木材に近い外見、触感などの質感を得ることを目的として形成されていない。
【0006】
上述のような事情に鑑み、本発明は、機械的強度が十分得られると共に、木材と同等の質感を有する成形体を提供すること、及びこの成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、木片を水蒸気処理するステップと、水蒸気処理をした前記木片をフェノール樹脂に浸漬けするステップと、フェノール樹脂に浸漬けした前記木片を160℃以上かつ25MPa以上の圧力で流動成形するステップとを備える。
【0008】
前記水蒸気処理における前記木片が、厚さが1mm以上2mm以下の単板であることが好ましい。
【0009】
前記浸付するステップ後の前記木片における前記フェノール樹脂の含有率が5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0010】
前記成形体が、弦楽器用部品であることが好ましい。
【0011】
本発明の一態様に係る成形体は、水蒸気処理した複数の木片をフェノール樹脂に浸付して流動成形することにより前記複数の木片が界面溶着している成形体である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る成形体の製造方法は、水蒸気処理をした木片にフェノール樹脂を含侵させて流動成形しているため、高剛性、耐摩耗性などの機械的強度に優れると共に、木材と同等の質感を有する成形体を得ることができる。本発明の一態様に係る成形体は、高剛性、耐摩耗性などの機械的強度に優れると共に、木材と同等の質感を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0014】
<成形体の製造方法>
当該成形体の製造方法は、木片を水蒸気処理するステップと、水蒸気処理をした前記木片をフェノール樹脂に浸漬けするステップと、フェノール樹脂に浸漬けした前記木片を高温下で加圧することにより流動成形するステップとを備える。
【0015】
〔水蒸気処理ステップ〕
水蒸気処理ステップでは、木片に水蒸気を接触させる。木片に水蒸気を接触させることで、木片中のヘミセルロース、リグニン等が分解される。このようにすることで、後述する流動成形における前記木片の流動性が向上する。
【0016】
木片を水蒸気に接触させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、容器内に木片を投入し、この容器内にボイラー等によって発生させた水蒸気を供給する方法などが挙げられる。木片に水蒸気を接触させる条件としては、木材の種類などによっても異なるが、例えば、前記容器内の温度を160℃以上200℃以下、前記容器内の圧力を1MPa以上1.5MPa以下として、10分以上60分以下で木片に水蒸気を接触させる。このような条件で水蒸気処理をすることにより、木片の木質成分が化学的に可塑化分解されると共に、細胞壁及び壁間が物理的に破壊される。
【0017】
水蒸気に接触させる木片は、天然木材の切片であり、厚さが1mm以上2mm以下の単板であることが好ましい。木材を粉末状にしたもの(木粉)を用いることもできるが、内部に繊維を有する単板を用いることで高剛性の成形体を得ることができる。また、単板の厚さを前記範囲とすることで、後述する侵漬けにおいてフェノール樹脂を均一に含浸処理することができ、品質安定性及び前記流動成形における流動性が向上する。単板の長さ及び幅としては、特に限定されるものではないが、得られる最終形状(製品)の半分以上であることが好ましい。このようにすることで、最終形状における強度を向上することができる。単板の長さ、幅のいずれか一方が最終形状の半分以上であってもよく、単板の厚さ、長さ及び幅は、得られる最終形状から適宜設定されてもよい。
【0018】
前記木片を得るための木材としては、天然木であれば特に限定されるものではない。前記木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹のいずれも用いることができるが、広葉樹を用いることが好ましい。広葉樹と針葉樹とでは、セルロースの構造により流動性が異なるため、高耐久性の成形体を得るには、糖類などの水溶性抽出成分が少ない広葉樹を用いることが好ましい。また、木材は、伐採、製材などによって生じる端材、廃材、間伐材、植林木などを用いることが好ましい。このようにすることで、低コストで成形体を得ることができると共に、環境負荷を低減することができる。
【0019】
なお、「木材」とは、リグニン、ヘミセルロース及びセルロースを含有するリグのセルロース系材料であり、木本類を意味する。
【0020】
〔浸漬けステップ〕
浸漬けステップでは、水蒸気処理をした前記木片をフェノール樹脂に浸漬けする。水蒸気処理をした木片にフェノール樹脂を含浸させることにより、後述する流動成形における前記木片の流動性が向上する。木片に含浸したフェノール樹脂は、成形品における木片同士のバインダとしても機能する。このため、水蒸気処理をした木片にフェノール樹脂を含浸させて流動成形することにより、得られる成形体の耐摩耗性及び環境耐久性を向上することができる。また、フェノール樹脂を用いることで、当該成型体からの臭気の発生を抑制することができる。
【0021】
前記浸付ステップでは、侵付け後の前記木片における前記フェノール樹脂の含有率が、固形分換算値で5質量%以上15質量%以下になるように前記木片を浸漬けする。前記木片における前記フェノール樹脂の含有率が前記下限に満たないと、前記流動成形を容易に行うことができないおそれがある。また、得られる成形体の耐摩耗性及び環境耐久性が向上できないおそれがある。前記含有率が前記上限を超えると、得られる成形体の木材としての質感が損なわれ、樹脂の質感に近くなるおそれがある。
【0022】
木片をフェノール樹脂に浸漬けする方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、水溶性フェノール樹脂を貯留している槽に木片を浸漬けする方法が挙げられる。浸漬けする条件としては、前記フェノール樹脂の含有率が好適に調整できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、常温、常圧で30分以上2時間以内で浸漬けする等の条件にすることができる。
【0023】
〔流動成形ステップ〕
流動成形ステップでは、フェノール樹脂に浸漬けした前記木片を高温下で加圧することにより流動成形して成形体を得る。具体的には、フェノール樹脂が含浸した木片を金型に投入し、この金型内で前記木片を加熱して高温にしつつ油圧プレス等の方法により加圧成形する。加圧状態を維持して前記木片を冷却することで、反り等が抑制され、所望する寸法で成形された成形体を得ることができる。
【0024】
金型に投入された木片の加熱及び冷却は、前記金型を加熱及び冷却することで行ってもよい。水蒸気処理がされることでフェノール樹脂が含浸した木片は、木材の種類などによっても異なるが、例えば、160℃以上の金型に投入し、この温度を維持して25MPa以上の圧力を加えることで流動性を発現する。このようにすることで、前記木片の金型による成形が可能となる。
【0025】
木片を高温かつ高圧の下で成形することにより、金型に投入された複数の木片は、順に弾性変形、圧密変形、塑性流動変形を起こし、個々の木片が界面溶着すると共に、それぞれの木片が隣接する木片と界面溶着することで成形体となる。
【0026】
<利点>
当該成形体の製造方法は、木片を水蒸気処理するステップと、水蒸気処理をした前記木片をフェノール樹脂に浸漬けするステップと、フェノール樹脂に浸漬けした前記木片から流動成形するステップを有するので、剛性、耐摩耗性、環境耐久性に優れ、かつ外見、吸湿性、触感などの質感が木材に近い成形体を得ることができる。また、得られた成形体は、複数の木片が界面溶着することで構成されているため、機械的強度に優れ、かつ質感が木材に近い。このため、当該成形体は、弦楽器用部品として好適である。
【0027】
[実施例]
木材としてカバを準備し、このカバを厚さが1mmから2mm程度の厚さを有する単板に加工し、水蒸気処理を行った。水蒸気処理をした前記単板をフェノール樹脂の含有率が15質量%になるように水溶性フェノール樹脂に侵漬けした後、流動成形によって成形体を得た。この成形体の特性と複数の木材の特性との比較を表1に示す。
【0028】
密度は、各試料の気乾状態の体積と密度から算出した。
曲げ弾性率は、各試料の気乾状態におけるISO178(JIS K7171:2008)に準拠した応力-ひずみ測定から算出した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1より、得られた成形体は、密度及び曲げ弾性率の値が他の木材より大きく、剛性に優れていることが分かる。
【0031】
[その他の実施形態]
前記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、前記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて前記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0032】
上述の実施形態では、出発原料として天然木材を用いていたが、合板などの加工材を用いてもよい。また、出発原料としては、木本類に限定されず、ケナフ、トウモロコシ、サトウキビ等の草本類を用いてもよく、木本類と草本類とを混合して用いてもよい。
【0033】
水蒸気処理をした木片に含浸させる樹脂としては、フェノール樹脂以外のものとして、エポキシ、ポリイミド等の他の熱硬化性樹脂、又はアクリル、ポリオレフィン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
当該成形体の製造方法で得られる成形体は、機械的強度に優れ、木材に近い質感を有するため、弦楽器などの木製の楽器などに好適に用いられる。