(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184232
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】衛生陶器
(51)【国際特許分類】
C04B 41/86 20060101AFI20231221BHJP
E03D 11/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C04B41/86 R
E03D11/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098270
(22)【出願日】2022-06-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】笠原 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亜希
(72)【発明者】
【氏名】新崎 朝規
(72)【発明者】
【氏名】小林 知貴
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA01
2D039AA04
(57)【要約】
【課題】上記課題を解決するためになされたものであり、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、衛生陶器の美観を向上させること。
【解決手段】陶器素地と、表面に釉薬層を含む表面層とを備えてなる衛生陶器であって、
異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、
測色用標準イルミナントD65である第1照明と測色用標準イルミナントAである第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下であり、
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下であることを特徴とする衛生陶器。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器であって、
異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、
測色用標準イルミナントD65である第1照明と測色用標準イルミナントAである第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下であり、
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下であることを特徴とする衛生陶器。
【請求項2】
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項3】
陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器であって、
異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、
第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下であり、
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であることを特徴とする衛生陶器。
【請求項4】
第1の部分の表面層は、着色性の表面釉薬からなる釉薬層を有するとともに、第2の部分の表面層は、着色性の釉薬層と、その上に形成される透明性の釉薬層を有していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の衛生陶器。
【請求項5】
第1の部分と第2の部分において、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第1-2MI値とし、第2照明と第3照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第2-3MI値としたときに、第1-2MI値から第2-3MI値を引いた絶対値が0.15以下であり、前記第3照明は、イルミナントF6であることを特徴とする請求項4に記載の衛生陶器。
【請求項6】
陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、
第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が、0.24以下であり、
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下であるように、所定の陶器素地に、所定の釉薬層を適用することを特徴とする製造方法。
【請求項7】
陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、
第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が、0.24以下であり、
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であるように、所定の陶器素地に、所定の釉薬層を適用することを特徴とする製造方法。
【請求項8】
陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、
第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下であり、
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下であることを確認する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項9】
陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器の製造方法であって、
異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、
第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下であり、
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であることを確認する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設置された環境による陶器表面の色合いの変化を抑え、様々な環境下でも安定した美観を備える衛生陶器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器において、素地の色の影響を抑えるために上層釉薬と素地の色の色差を調整する技術が知られている(特開2019-52062号公報)。
近年、衛生陶器の設置される空間は、デザイン性が求められており、様々な種類の照明下に設置されることがある。特定の照明の下では、色差がないように見えたとしても、別の照明の下では、色差があるように見えることがあり、様々な照明が設置された環境に衛生陶器を設置した場合に、照明によって色のばらつきが生じてしまい見栄えが悪化してしまうことがある。
さらに、衛生陶器表面に形成される表面層として、陶器素地表面に形成された着色性の第一の釉薬層と、さらにその上に形成された透明性の第二の釉薬層とからなる表面層や、着色性の第一の釉薬層のみの表面層などが知られている。この時、第一の釉薬層と第二の釉薬層を備えた表面層は、第一の釉薬層のみを備える表面層よりも製造費用が掛かるため、コスト削減のために、例えば水栓大便器におけるボウル面、トラップ部、リム裏などの汚れやすい一部分へのみ適用するとともに、例えば水洗大便器における袴部、リム、洗浄タンクなどの汚れにくい部分については着色性の第一の釉薬層のみを適用することがある。つまり、これらの衛生陶器は部分により異なる積層構造の表面層を有している場合があり、それによって、照明による色のばらつきが大きくなり、より見栄えが悪化することがある。
同様に、衛生陶器は、性能向上のためにコーティングを施すことも知られており、そのような衛生陶器では、釉薬層と、その上に形成されたコーティング層を備えた表面層や、釉薬層のみを備えた表面層を有している。このような場合でも、部分的に表面層が異なることで、照明のばらつきが大きくなり、より見栄えが悪化することがある。
このような見栄えの悪化は、衛生陶器が異なる積層構造の表面層を有することで生じるため、同一製品における複数の異なる場所や、複数の製品間において共通して起こり得る現象であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、衛生陶器の美観を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、衛生陶器の表面層のメタメリズムインデックス(MI)値を制御することにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明の衛生陶器は、陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなり、第1の部分と第2の部分において、第1の部分と第2の部分は異なる表面層を有し、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下であり、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下であることを特徴とするものである。また、別の態様として、本発明の衛生陶器は、陶器素地と、表面に釉薬層を含む表面層とを備えてなり、表面釉薬が施された第1の部分と第2の部分において、第1の部分と第2の部分は異なる表面層を有し、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下であり、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、衛生陶器の美観を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】表4に示されたメタメリズムインデックス(MI)値と、釉薬のΔEとの関係を示すグラフである。
【
図2】表4に示されたメタメリズムインデックス(MI)値と、釉薬のΔLの絶対値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の衛生陶器の素地には、以下に例示するものを使用することができるが、本発明において素地はこれらに限定されるものではない。
(1)素地は、焼成時の全体の化学組成として、SiO2:50~75wt%、Al2O3:17~40wt%、K2O+Na2O:1~10wt%を含む。ガラス相25~70wt%、結晶相75~30wt%であることが好ましい。ガラス相を構成する主成分の化学組成は、ガラス相全体を100%として、SiO2:50~80wt%、Al2O3:10~40wt%、K2O+Na2O:4~12wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、素地全体を100%としてα-アルミナ0~60wt%、石英0~20wt%、ムライト2~20wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、α-アルミナを含まない素地材料(例えば、熔化質素地)であってよい。素地材料におけるSiO2/Al2O3比が1より大きいことが好ましい。
(2)焼成時の全体の化学組成として、素地を構成する主成分の組成は、SiO2:45~70重量%、Al2O3:25~50重量%である。前記素地中には、さらにアルカリ金属酸化物及びCaO、MgO、BaO、BeOからなる群から選ばれた少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物が併せて6重量%以下含有されている。さらに素地の色を調整するステインを添加してもよい。ステインとしては、例えば、Fe-Cr系の黒顔料、Fe-Zr系の茶顔料、Pr-Zr系の黄顔料、Co系の青顔料、Ni-Zr-Co系の灰顔料等を添加する。
(3)素地材料は、(1)の素地材料及び(4)の素地材料を混合して所望の組成とすることができる。例えば、焼成時の全体の化学組成、ガラス相、結晶相、ガラス相を構成する主成分の化学組成、結晶相を構成する主成分の鉱物組成について、それぞれを、上述した(1)の素地材料の各値と、(4)の素地材料の各値との間の範囲内の値に自在に制御することが可能である。
(4)素地は、焼成時の全体の化学組成として、SiO2:20~45wt%、Al2O3:50~75wt%、K2O+Na2O:1~10wt%を含む。ガラス相25~70wt%、結晶相75~30wt%であることが好ましい。ガラス相を構成する主成分の化学組成は、ガラス相全体を100%として、SiO2:50~80wt%、Al2O3:10~40wt%、K2O+Na2O:4~12wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、素地全体を100%としてα-アルミナ10~60wt%、石英0~20wt%、ムライト2~20wt%であることが好ましい。素地材料におけるAl2O3/SiO2比が1より大きいことが好ましい。さらに素地の色を調整するステインを添加してもよい。
【0009】
(1)及び(2)の素地材料は、原料として陶石を用いて作製されることが好ましい。陶石を構成する石英、セリサイト、カオリンなどの鉱物は、素地材料の成形体に着肉性を付与し、また成形体の主骨格となる。着肉性の向上は生産性を向上させる。陶石として、セリサイト陶石、カオリン陶石などを用いることができる。
また、(1)及び(2)の素地材料は、主として石系原料を用いて作製されることが好ましい。石系原料としては、陶石、長石、ドロマイトなどが挙げられる。長石、ドロマイトは素地材料の焼成体に焼締りを付与する。また、ドロマイトは焼成温度を下げることができるため、エネルギー費が低減され陶器製品を経済的に生産することができ、工業的生産(量産)にも適している。
長石類としては、カリ長石、ソーダ長石、灰長石の様な長石質鉱物やネフェライト、及び天然ガラス、フリットなどが挙げられる。これらの原料は各種の長石質原料やネフェリンサイアナイト、コーニッシューストーン、さば、ガラス質火山岩、及び各種陶石中に豊富に含まれており、粘土質原料中にも含まれている。これらの長石類としては特にアルカリ成分としてK2O及びNa2Oを豊富に含むものが好ましい。長石類としては、カリ長石、ソーダ長石、及びネフェライトが好ましい。また、素地原料中の石英の量をなるべく減らしたい場合には、その組成中に石英を実質的に全く含んでいないネフェリンサイアナイトを用いるのが好ましい。これらの長石類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存していてもよい。
粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイト、メタハロイサイト、ディッカイト、パイロフィライトなどの粘土質鉱物、セリサイト、イライトなどの粘土状雲母などが挙げられる。これらの鉱物は、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、ボールクレー、チャイナクレーなどの粘土質原料や各種陶石中に豊富に含まれており、長石質原料中にも含まれている。これらの粘土類としては、カオリナイト、ハロイサイトが特に成形時の可塑性を向上させるのに優れており、セリサイトは素地の焼成温度を低下させることに効果が大きい。これらの粘土類の鉱物は焼成中に熔融してガラス相を形成するものであるが、一部未熔融のまま結晶として残存していてもよい。
(1)及び(2)の素地材料には、α-アルミナが含まれていてもよい。例えば、α-アルミナとして別途粉砕したものを上記した素地原料に添加し、これらを粉砕混合して素地材料とすることができる。
【0010】
(1)及び(2)の素地材料は、原料を粉砕混合して作製する。(1)及び(2)の素地原料は石系原料を主成分として含むため、これら原料を粉砕混合することで所望の平均粒子径を有する素地材料を得ることができる。(1)及び(2)の素地材料の平均粒子径は、3μm~15μmであることが好ましく、5μm~12μmであることがより好ましい。特に、(1)及び(2)の素地原料が陶石を構成する石英またはα-アルミナを含む場合、平均粒子径を上記範囲内とすることで、良好な強度、耐熱衝撃性が得られる。素地材料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えば、Malvern社製マスターサイザー3000や、日機装(株)製マイクロトラックMT-3000など)で測定することができ、累積体積50%の粒径(D50)として示すことができる。
【0011】
(1)及び(2)の素地原料の粉砕混合方法としては、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミルなどを用いた公知の方法を使用することができる。また、粉砕後、必要に応じて、篩等の分級機を用いて粗粒部分を除去してもよい。分級の方法としては、振動篩、音波篩、各種スクリーナー、遠心分離機などを用いた公知の方法を使用することができる。
【0012】
(4)の素地材料は、原料として珪石及びα―アルミナを用いて作製されることが好ましい。珪石を構成する石英及びα―アルミナは、(4)の素地材料の成形体の主骨格となるため、低変形と強度が期待できる。
(4)の素地材料は、主として粉体原料を用いて作製されることが好ましい。粉体原料としては、珪石、α―アルミナ、長石、チャイナクレー、ボールクレーなどの粉体が挙げられる。長石の粉体は(4)の素地材料の焼成体に焼締りを付与する。なお、長石類については、先に説明したとおりである。
(4)の素地材料を作製するための原料は、珪石(粉体)、α―アルミナ(粉体)、粘土(粉体)および長石(粉体)を主成分として含むことが好ましい。なお、粘土類については、先に説明したとおりである。
【0013】
(4)の素地材料は、上記した原料を攪拌混合して作製することが好ましい。(4)の素地原料は粉体原料を主成分として含むため、これら粉体原料が所望の平均粒子径を有している場合は攪拌混合するだけで素地材料を得ることができる。攪拌混合方法は各原料の粒径分布を独立してコントロールできるため、最も簡便な方法である。粉体原料が所望の平均粒子径を有していない場合は、ボールミルなどを用いた原料の粉砕工程を設けるなど適宜調整すればよい。(4)の素地材料の平均粒子径は、1μm~13μmであることが好ましく、3μm~10μmであることがより好ましい。特に、第2の素地原料が珪石を構成する石英またはα-アルミナを含む場合、平均粒子径を上記範囲内とすることで、良好な強度、耐熱衝撃性が得られる。
【0014】
(4)の素地原料の攪拌混合方法としては、公知の方法を使用することができ、例えばアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)を用いて攪拌混合することができる。また、攪拌後、必要に応じて、篩等の分級機を用いて粗粒部分を除去してもよい。
【0015】
本発明の衛生陶器の表面層には、以下に例示するものを使用することができるが、本発明において表面層はこれらに限定されるものではない。
表面層として、陶器素地表面に形成された着色性の第一の釉薬層と、さらにその上に形成された透明性の第二の釉薬層とからなる表面層や、着色性の第一の釉薬層のみの表面層などを使用することができる。
着色性の第一の釉薬層を形成するための釉薬には、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物及び/又は非晶質釉薬に顔料及び/又は乳濁剤を添加したものが使用できる。第一の釉薬の固形分の基本的組成は、SiO2:52~80重量部、Al2O3:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:3~11重量部、K2O:1~5重量部、Na2O:0.5~2.5重量部、乳濁剤:0.1~15重量部、顔料:0.001~20重量部である。第一の釉薬中には、その他に糊剤、分散剤、防腐剤、抗菌剤などが含有されていてもよい。
顔料としては、コバルト化合物、鉄化合物などが挙げられる。乳濁剤としては、ジルコン、酸化錫などが挙げられる。また、非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子などの混合物からなる釉薬原料を高温で溶融し、ガラス化させた釉薬をいい、例えばフリット釉薬が好適に利用可能である。
透明性の第二の釉薬層を形成するための釉薬には、上記第一の釉薬層を形成するための釉薬中に含有される顔料及び/又は乳濁剤以外の全金属成分に対するSi成分の重量比及びAl成分の重量比よりも、釉薬中に含有される全金属成分に対するSi成分の重量比及びAl成分の重量比の大きな非晶質釉薬、或いはこの非晶質釉薬に、(a)微粒化された珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物、及び/又は(b)珪砂、長石、石灰石等の天然鉱物粒子の混合物を加えたものが使用できる。
着色性の第一の釉薬は、ボールミルなどで混合し、必要に応じて粉砕することによって調製してもよい。また、顔料及び/又は乳濁剤が添加されている市販品の着色性釉薬を使用してもよい。
透明性の第二の釉薬は、例えば、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物と、非晶質釉薬とを、両者の合計和に対する非晶質釉薬の割合が望ましくは50~99重量%、より望ましくは60~90%になるように混合し、これをボールミルなどで混合し、必要に応じて粉砕して調製してもよい。
【0016】
着色性の第一の釉薬層を陶器素地成形体の表面に被覆し、さらに透明性の第二の釉薬を少なくともその一部分に施釉することにより、表面層を形成する。ここで着色性の第一の釉薬層の少なくとも一部分とは、例えば大便器におけるボウル面、トラップ部、リム裏などの汚れやすい一部分への適用、および大便器等の全体への適用の双方をさす。また適用方法は、スプレーコート、フローコート、印刷等の周知の方法が利用できる。
その後、800~1300℃の温度で焼成することにより、成形素地が焼結するとともに、2つの釉薬層が固着し衛生陶器となる。
着色性の第一の釉薬層のみを用いる場合は、着色性の第一の釉薬層を陶器素地成形体の表面に被覆した後、800~1300℃の温度で焼成する。
着色性の第一の釉薬層を形成するための釉薬の塗布を安定させるために泥漿スプレーなどを素地の上に塗布した後に、着色性の第一の釉薬層を形成するための釉薬を塗布しても良い。
【0017】
本発明の衛生陶器は、表面に釉薬が施された衛生陶器の、異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、第1照明と第2照明で測定したL*a*b*表色系におけるメタメリズムインデックス(MI)値が0.24以下である。この時、第1の部分と第2の部分は、異なる表面層を有するものであって、例えば、水洗大便器のボウルと袴部といった同一製品の異なる部位や、洗面器のボウルや水洗大便器の袴部といった複数製品の部位に適用される。メタメリズムインデックス(MI)値は、次式で求めることができる。
ここで、ΔL
*
1は、第1照明下での第1の部分と第2の部分におけるL*の差であり、ΔL
*
2は、第2照明下での第1の部分と第2の部分におけるL*の差であり、Δa
*
1は、第1照明下での第1の部分と第2の部分におけるa*の差であり、Δa
*
2は、第2照明下での第1の部分と第2の部分におけるa*の差であり、Δb
*
1は、第1照明下での第1の部分と第2の部分におけるb*の差であり、Δb
*
2は、第2照明下での第1の部分と第2の部分におけるb*の差である。特定の照明下で色差が所定の範囲に制御されていたとしても、異なる照明下では色差があるように見えることがあり、例えば展示場と実際の設置場所の照明の違いによる色の変化や設置場所の照明を変更した際の色の変化、間接照明などの複数の照明の違いによる色の変化などが生じ、使用者に違和感やトイレ空間全体の美観を損なう場合がある。本発明者らは、衛生陶器の陶器表面のメタメリズムインデックス(MI)値を制御することにより、照明の違いによる色の変化などを抑制することができることを見出した。衛生陶器においてメタメリズムインデックス(MI)値を制御することは、これまで知られていなかった。メタメリズムインデックス(MI)値は、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.16以下である。
【0018】
本発明の衛生陶器は、メタメリズムインデックス(MI)値が所定の範囲内であることに加えて、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下である。このΔEが1.5以下であることにより、色差を感じにくくなる。前記ΔEは、好ましくは1.3以下であり、より好ましくは1.1以下である。好ましくは、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔL(第1の部分と第2の部分におけるL*の差)の絶対値は1.5以下である。このΔLの絶対値が1.5以下であることにより、色差を感じにくくなる。前記ΔLの絶対値は、好ましくは1.3以下であり、より好ましくは1.1以下である。
あるいは、本発明の衛生陶器は、メタメリズムインデックス(MI)値が所定の範囲内であることに加えて、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値は1.5以下である。このΔLの絶対値が1.5以下であることにより、色差を感じにくくなる。前記ΔLの絶対値は、好ましくは1.3以下であり、より好ましくは1.1以下である。好ましくは、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下である。このΔEが1.5以下であることにより、色差を感じにくくなる。前記ΔEは、好ましくは1.3以下であり、より好ましくは1.1以下である。
【0019】
好ましくは、本発明の衛生陶器は、第1の部分の表面層は、着色性の釉薬層を有するとともに、第2の部分の表面層は、着色性の釉薬層と、その上に形成される透明性の釉薬層を有している。衛生陶器は、部位ごとに釉薬の種類を使い分けることで、異なる表面層を形成することが考えられ、この異なる表面層が形成される部分の間でメタメリズムインデックス(MI)値を制御することにより、より一層の見栄えの悪化を抑制することができる。
ここで、第1の部分とは、例えば水栓大便器におけるボウル面、トラップ部、リム裏などの汚れやすい部位であり、第2の部分とは、水洗大便器における袴部、リム、洗浄タンクなどの汚れにくい部位である。
【0020】
好ましくは、本発明の衛生陶器は、第1の部分と第2の部分において、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第1-2MI値とし、第2照明と第3照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第2-3MI値としたときに、第1-2MI値から第2-3MI値を引いた絶対値が0.15以下である。メタメリズムインデックス(MI)値が所定値以下であったとしても、照明の組み合わせによるメタメリズムインデックス(MI)値の差が大きいと微妙な見栄えの変化が生じる可能性がある。3つの照明におけるメタメリズムインデックス(MI)値の差を制御することで、微妙な見栄えの変化を抑制することでより一層の見栄えの悪化を抑制することができる。前記絶対値は、好ましくは0.13以下であり、より好ましくは0.1以下である。
なお、衛生陶器の色は、分光測色計(CM-3700A、コニカミノルタ)により求められる。例えば、観察光源には、第1照明として測色用標準イルミナントD65、第2照明として測色用標準イルミナントA、第3照明としてイルミナントF6、測定回数3回、視野角10°、測定径25.4mmとし、平坦な面にセットして正反射光を除去したSCE方式によりL*、a*、b*を測定する。
分光測色計の構成は以下のとおりであるが、これに限定されるものではなく、設置された衛生陶器などを測定する際には、ハンディタイプの分光測色計CM-600d(コニカミノルタ製)などを使用してもよい。
装置:分光測色計CM-3700A(コニカミノルタ製)
バージョン:2.06
測定パラメータ:SCE
表色系:L*a*b*
UV設定:UV100%
光源:第1照明として測色用標準イルミナントD65、第2照明として測色用標準イルミナントA、第3照明としてイルミナントF6
観察視野角:10°
測定径:LAV(φ25.4mm)
測定波長間隔:10nm
測定回数:3回
測定前待ち時間:0秒
校正:ゼロ校正後、白色校正(ゼロ校正:遠方の空間で校正、白色校正:校正用の白色板で校正)
【0021】
陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器であって、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、美観を向上させた衛生陶器は、異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が、0.24以下であり、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下であるように、所定の陶器素地に、所定の表面層を適用することによって製造することができる。
また、陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器であって、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、美観を向上させた衛生陶器は、異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が、0.24以下であり、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔEが1.5以下であることを確認する工程を含むことによって製造することができる。
また、陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器であって、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、美観を向上させた衛生陶器は、異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が、0.24以下であり、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であるように、所定の陶器素地に、所定の表面層を適用することによって製造することができる。
また、陶器素地と、陶器素地に設けられる表面層とを備えてなる衛生陶器であって、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、美観を向上させた衛生陶器は、異なる表面層を有する第1の部分と第2の部分における、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値が、0.24以下であり、第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であることを確認する工程を含むことによって製造することができる。
ここで、様々な照明下でも見栄えの悪化を抑制し、美観を向上させた衛生陶器とは、同一製品における複数の異なる場所において、色差が抑えられた(感じられない)衛生陶器、及び複数の製品間において(例えば、同じ色品番を用いた場合)、色差が抑えられた(感じられない)複数の衛生陶器群の両方を含むものである。ここで、同じ色品番とは、釉薬層により着色された衛生陶器の外観の色をいい、衛生陶器の販売時に記載される同一の色名であったり、色を示す番号などの分類を指す。また、使用者から見て同一の色として認識されているものも含む。
【実施例0022】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(素地A)
原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石を約48重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約35重量%、主焼結助剤である長石を約15重量%、およびドロマイトを約2重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が58%、50%平均粒径(D50)が8.0μm程度になるまで湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
得られた成形体を電気炉により焼成して焼成体を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0024】
(素地B)
原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石等を約54重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約42重量%、焼結助剤である長石を約4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダ、さらに素地の色を調整するステインを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が70%、50%平均粒径(D50)が5.5μm程度になるまで湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
成形体を、40℃で24時間乾燥した後、電気炉で1000℃まで4時間、1200℃まで2時間で昇温し、1200℃で1時間保持後、自然冷却するヒートカーブにより焼成した。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0025】
(素地C)
原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石を約48重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約35重量%、主焼結助剤である長石を約15重量%、およびドロマイトを約2重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が58%、50%平均粒径(D50)が8.0μm程度になるまで湿式粉砕し、第1の素地材料を得た。
原料として、骨格形成材料である珪石およびα-アルミナを約64重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約32重量%、および焼結助剤である長石を約4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダ、さらに素地の色を調整するステインを適量添加したものを一括してアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)に入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた攪拌混合の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が75%、50%平均粒径(D50)が5.0μm程度になる第2の素地材料を得た。
第1の素地材料および第2の素地材料を50:50の混合比で混合し、陶器素地材料を得た。混合は攪拌混合を用いて行った。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
得られた成形体を電気炉により焼成して焼成体を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【0026】
(素地D)
原料として、骨格形成材料である珪石およびα-アルミナを約64重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を約32重量%、および焼結助剤である長石を約4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダ、さらに素地の色を調整するステインを適量添加したものを一括してアイリッヒ インテンシブ ミキサー(マシーネンファブリーク グスタフ アイリッヒ社)に入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた攪拌混合の素地スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が75%、50%平均粒径(D50)が5.0μm程度になる陶器素地材料を得た。
得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得た。
得られた成形体を電気炉により焼成して焼成体を得た。ヒートカーブの最高温度は約1200℃とした。
焼成後の化学組成は表1に示すとおりであった。
【表1】
【0027】
(釉薬)
表2の組成からなる釉薬原料2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の着色性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が6.0μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬Aを得た。釉薬Aの色は、Fe-Zr系の茶顔料、Pr-Zr系の黄顔料、Co系の青顔料、Ni-Zr-Co系の灰顔料を組み合わせて調整することで、焼成後の釉薬層の色が、ホワイト、アイボリー、ピンク、ブラウン、グレーの5色になるよう調整した。釉薬層の色は、ここで上げた色以外の色でも良く、釉薬層の形成に影響しない顔料などを適宜調整することができる。
【表2】
【0028】
天然鉱物粒子の混合物からなる原料と、非晶質釉薬とを、両者の合計和に対する非晶質釉薬の割合が50~99重量%になるように調製した釉薬原料(表3の組成からなるもの)2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器性ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の透明性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が67%、50%平均粒径(D50)が5.8μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬Bを得た。
【表3】
【0029】
(衛生陶器)
各陶器素地に、上記の釉薬Aをスプレーコーティング法により塗布した後、1100~1200℃で焼成することにより衛生陶器を得た。得られた衛生陶器について、釉薬層が形成された部分の色の測定を行い、メタメリズムインデックス(MI)値、ΔE及びΔLの絶対値を求めた。測定結果のメタメリズムインデックス(MI)値と、釉薬のΔEとΔLの絶対値の関係を
図1及び
図2に示す。また、
図1及び2の結果の一部を表4に示す。
図1及び
図2の点線で囲んだ範囲に含まれる衛生陶器では、異なる照明下でも色差がないように見えた。
なお、素地Aに各色の釉薬Aを塗布した衛生陶器を第1の部分とし、素地A~Dに各色の釉薬Aと釉薬Bを塗布した衛生陶器(表4において、AB-A ホワイトのようにAB-A 色、AB-B ホワイトのようにAB-B 色、AB-C ホワイトのようにAB-C 色、AB-D ホワイトのようにAB-D 色と表示される)のそれぞれを第2の部分とした。また、素地Aに各色の釉薬Aと異なる調合で同じ色品番の釉薬A2、A3と釉薬Bを塗布した衛生陶器(表4において、AB2-A ホワイトのようにAB2-A 色、AB3-A ホワイトのようにAB3-A 色)を第2の部分とした。
なお、第1の部分と第2の部分は、同じ色同士のサンプルでMI値、ΔE及びΔLの絶対値を求めた。得られたMI値、測色用標準イルミナントD65(第1照明)におけるΔE及びΔLの絶対値を表4に示している。なお、第1の部分と第2の部分において、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第1-2MI値とし、第2照明と第3照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第2-3MI値とし、第1照明と第3照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第1-3MI値とした。
【表4】
【0030】
(色の測定)
各衛生陶器の色を、分光測色計(CM-3700A、コニカミノルタ)を用いて測定した。測定前に校正板を用いて白色校正を行った。その後、各衛生陶器に対し目視でも明らかな傷や汚れを避けて色の測定を行った。なお、使用した分光測色計の構成は以下のとおりである。
装置:分光測色計CM-3700A(コニカミノルタ製)
バージョン:2.06
測定パラメータ:SCE
表色系:L*a*b*
UV設定:UV100%
光源:第1照明として測色用標準イルミナントA、第2照明として測色用標準イルミナントD65、第3照明としてイルミナントF6
観察視野角:10°
測定径:LAV(φ25.4mm)
測定波長間隔:10nm
測定回数:3回
測定前待ち時間:0秒
校正:ゼロ校正後、白色校正(ゼロ校正:遠方の空間で校正、白色校正:校正用の白色板で校正)
【0031】
トイレ空間には、水洗大便器と洗面器などの衛生陶器が設置されている。同一の空間に設置された衛生陶器は、同じ色品番の釉薬が施されており、色合いを合わせて設置している。
第1の組み合わせとして、アイボリーの釉薬Aが施釉された素地Aの水洗大便器とアイボリーの釉薬A2と釉薬Bが施釉された素地Aの洗面器を同一空間に設置した。素地Aの水洗大便器のリム部を第1の部分とし、素地Aの洗面器のボウル面を第2の部分とし、釉薬部分の色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出し、釉薬部分のΔEとΔLの絶対値、第1―2MI値、第2―3MI値を算出した。第1の組み合わせの釉薬層のΔEは、0.31であり、ΔLの絶対値は、0.16であり、第1―2MI値は0.04、第2―3MI値は0.06であった。
第2の組み合わせとして、アイボリーの釉薬Aが施釉された素地Aの水洗大便器とアイボリーの釉薬A3と釉薬Bが施釉された素地Aの洗面器を同一空間に設置した。素地Aの水洗大便器のリム部(施釉部分)を第1の部分とし、素地Aの洗面器のボウル面(施釉部分)を第2の部分とし、色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出し、釉薬層のΔEとΔLの絶対値、第1―2MI値、第2―3MI値を算出した。第2の組み合わせの釉薬層のΔEは、1.14であり、ΔLの絶対値は、0.26であり、第1―2MI値は0.34、第2―3MI値は0.30であった。
第1の組み合わせのように第1の部位と第2の部位の釉薬層のMI値を0.24以下、ΔEを1.5以下及び/又はΔLの絶対値を1.5以下に調整することで、照明の違いによる釉薬の色合いの変化を抑えることができるため、同一空間に設置された衛生陶器の違和感を減らし、トイレ空間の美観を安定させることができた。
第2の組み合わせのように第1の部位と第2の部位の釉薬層のMI値を0.24以下になるよう調整しなかった場合は、釉薬のΔE及び/又はΔLの絶対値が1.5以下としても、同一空間に設置された衛生陶器の色合いに違和感を与え、照明の違いによる色合いの変化が生じ、トイレ空間の美観に違和感が生じた。
【0032】
第1の部位と第2の部位の表面層のMI値を0.24以下、ΔEを1.5以下及び/又はΔLの絶対値を1.5以下に調整する方法として、顔料(コバルト化合物、鉄化合物など)の割合を調整することで、制御する方法も使用することができる。例えば、第一の釉薬A-ホワイトは、Fe-Zr系の茶顔料とCo系の青顔料の割合を調整して作成したが、同じ色品番である釉薬A2-ホワイトは、Co系の青顔料の割合を、同じ色品番である釉薬A3―ホワイトは、Fe-Zr系の茶顔料の割合を調整して作製した。また、第一の釉薬の固形分の基本的組成は、SiO2:52~80重量部、Al2O3:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:3~11重量部、K2O:1~5重量部、Na2O:0.5~2.5重量部、乳濁剤:0.1~15重量部、顔料:0.001~20重量部の範囲内で、Al2O3やMgO、ZnOの割合や乳濁剤などを調整することで、顔料の使用量を減らして同じ色品番の色を調整することができる。例えば、アイボリーは、Pr-Zr系の黄顔料とFe-Zr系の茶顔料の割合を調整することで同じ色品番である第一の釉薬を複数種類調整することができる。例えば、ピンクは、Fe-Zr系の茶顔料とCo系の青顔料、Sn-Cr系ピンクのうちから2つを組み合わせたり、組み合わせの割合を調整することで同じ色品番である第一の釉薬を複数種類調整することができる。例えば、ブラウンは、Fe-Zr系の茶顔料とNi-Zr-Co系の灰顔料や、Fe-Zr系の茶顔料やV-Zr系の黄顔料、Pr-Zr系の黄顔料、Cr-Fe-Co-Ni系の黒顔料のうちから3つを組み合わせたり、組み合わせの割合を調整することで同じ色品番である第一の釉薬を複数種類調整することができる。例えば、グレーは、Fe-Zr系の茶顔料とPr-Zr系の黄顔料、Co系の青顔料、Ni-Zr-Co系の灰顔料や、Fe-Zr系の茶顔料とSn-Cr系ピンク、Cr-Co系の緑顔料の組み合わせの割合を調整することで同じ色品番である第一の釉薬を複数種類調整することができる。
【0033】
釉薬材料は、鉱石などの天然材料を使用するため、材料の入手元や入手時期によって、組成や割合が異なる。そのため、社内や規格で定められた同じ色品番であっても、使用されている釉薬材料(または顔料材料)の組成は、微妙に異なる場合がある。同じ色品番であっても、第1の部位と第2の部位の表面層のMI値を0.24以下になるよう調整しなかった場合は、同一空間に設置された衛生陶器の色合いに違和感を与え、照明の違いによる色合いの変化が生じ、トイレ空間の美観に違和感が生じる。
本発明は、同じ色品番であっても第1の部位と第2の部位の釉薬層のMI値を0.24以下になるよう調整することで、同一空間に設置された衛生陶器の色合いの違和感を抑制し、照明の違いによる色合いの変化が防ぎ、トイレ空間の美観を向上させることができる。
【0034】
衛生陶器の製造において、調整した釉薬Aの釉薬部分のΔEとΔLの絶対値、第1―2MI値、第2―3MI値を算出し、確認することで、検査を行うことができる。
ブラウンの釉薬Aを塗布した色見本の衛生陶器(例えば陶器片)を第1の部分とし、ブラウンの色品番をV-Zr系の黄顔料とNi-Zr-Co系の灰顔料で調整した釉薬A(
図1及び
図2に示す釉薬A4(表4に示さず))と釉薬Bを塗布した衛生陶器(例えば水洗大便器)を第2の部分とし、釉薬部分の色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出し、釉薬部分のΔEとΔLの絶対値、第1―2MI値、第2―3MI値を算出した。ΔEは、1.13、ΔLの絶対値は、0.98、第1―2MI値は、0.14、第2―3MI値は、0.12であり、色見本の衛生陶器と作成した衛生陶器(釉薬A4)は、衛生陶器の色合いの違和感がなく、照明の違いによる色合いの変化がないため、合格となる。
ブラウンの釉薬Aを塗布した色見本の衛生陶器(例えば陶器片)を第1の部分とし、ブラウンの色品番を別のPr-Zr系の黄顔料とCr-Fe-Co-Ni系の黒顔料で調整した釉薬A(
図1及び
図2に示す釉薬A5(表4に示さず))と釉薬Bを塗布した衛生陶器(例えば水洗大便器)を第2の部分とし、釉薬部分の色の測定を行い、測定パラメータL*、a*、b*を算出し、釉薬部分のΔEとΔLの絶対値、第1―2MI値、第2―3MI値を算出した。ΔEは、1.87、ΔLの絶対値は、0.41、第1―2MI値は、0.47、第2―3MI値は、0.51であり、色見本の衛生陶器と作成した衛生陶器(釉薬A5)は、衛生陶器の色合いの違和感があり、照明の違いによる色合いの変化があるため、不合格となる。
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の衛生陶器。
第1の部分の表面層は、着色性の表面釉薬からなる釉薬層を有するとともに、第2の部分の表面層は、着色性の釉薬層と、その上に形成される透明性の釉薬層を有していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の衛生陶器。
第1の部分と第2の部分において、第1照明と第2照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第1-2MI値とし、第2照明と第3照明で測定したメタメリズムインデックス(MI)値を第2-3MI値としたときに、第1-2MI値から第2-3MI値を引いた絶対値が0.15以下であり、前記第3照明は、イルミナントF6であることを特徴とする請求項4に記載の衛生陶器。
第1照明下および/または第2照明下での、L*a*b*表色系で表した第1の部分と第2の部分におけるΔLの絶対値が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の衛生陶器。
第1の部分の表面層は、着色性の表面釉薬からなる釉薬層を有するとともに、第2の部分の表面層は、着色性の釉薬層と、その上に形成される透明性の釉薬層を有していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の衛生陶器。