(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184239
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】粉末状水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20231221BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20231221BHJP
C04B 20/10 20060101ALI20231221BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20231221BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20231221BHJP
C04B 41/68 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B28/02
C04B20/10
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B41/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098279
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】石山 翔午
【テーマコード(参考)】
4G028
4G112
【Fターム(参考)】
4G028DA01
4G028DB06
4G112LA02
4G112PA27
4G112PA29
(57)【要約】
【課題】ハンドリング性に優れ、硬化体が良好な強度を示す粉末状水硬性組成物を提供する。
【解決手段】(A)細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材、及び(B)アルミナシリカ微粉末を含む、粉末状水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材〔以下、(A)成分という〕、及び(B)アルミナシリカ微粉末〔以下、(B)成分という〕を含む、粉末状水硬性組成物。
【請求項2】
前記メタケイ酸塩水和物が、メタケイ酸ナトリウム5水和物及びメタケイ酸ナトリウム9水和物から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の粉末状水硬性組成物。
【請求項3】
セメントを任意に含有し、セメントの含有量が、(B)成分100質量部に対して、30質量部未満である、請求項1又は2に記載の粉末状水硬性組成物。
【請求項4】
メタケイ酸塩水和物と細骨材とを、前記メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度で混合して混合物を得る工程(1)と、
該混合物を前記メタケイ酸塩水和物の融点未満の温度に冷却して、(A)細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材〔以下、(A)成分という〕を得る工程(2)と、
(A)成分と(B)アルミナシリカ微粉末とを混合する工程(3)と、
を含む、粉末状水硬性組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載の粉末状水硬性組成物と水とを配合してなる、水硬性スラリー。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載の粉末状水硬性組成物と水とを混合して水硬性スラリーを得る工程(I)と、
該水硬性スラリーを養生して硬化体を得る工程(II)と、
を含む、硬化体の製造方法。
【請求項7】
細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材を含む、粉末状水硬性組成用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状水硬性組成物、水硬性スラリー、粉末状水硬性組成物の製造方法、及び硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs実現のため、ESG観点から環境に配慮したインフラ整備が目指されており、炭酸カルシウムの焼成に伴いCO2を排出するセメントを低減した、環境調和型の水硬性組成物に関する技術開発が進んでいる。
【0003】
その一例として、ケイ酸アルミニウムのようなケイ酸塩を含む高炉スラグ微粉末等を、アルカリ溶液を用いて硬化させる、ジオポリマーと称される水硬性組成物が注目を集めている。
【0004】
特許文献1には、フィラーとアルカリ活性剤と骨材を原料としたジオポリマー組成物が開示されている。
特許文献2には、粉体原料としての高炉スラグ微粉末及びフライアッシュと、細骨材と、シリカフュームと、アルカリ源としての水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムと、水と、を含み、高炉スラグ微粉末の粉体原料に対する容量比:BFS/Pが35~80%であり、シリカフュームに含まれるケイ素のアルカリ源に対するモル比:Si/Aが0.05~0.35であり、アルカリ源の水に対するモル比:A/Wが0.1~0.3である、ジオポリマー組成物が開示されている。
【0005】
非特許文献1には、ジオポリマーの定義、材料、メカニズム、課題、可能性が開示されている。
非特許文献2には、アルカリ溶液を用いずに、アルミナシリカ微粉末と、粉体のアルカリ化合物と、骨材を配合して成る一剤型のジオポリマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-239446号公報
【特許文献2】特開2021-66613号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】コンクリート工学、56巻、5号、409-414頁、公益社団法人 日本コンクリート工学会、2018年5月発行
【非特許文献2】Cement and Concrete Research、103巻、21-34頁、Elsevier B.V.、2017年11月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ジオポリマーのための水硬性組成物を粉末状で得られれば、取り扱い性などの点で自由度が向上できる。そのためには、配合原料、例えばアルカリ化合物なども粉末状であることが望ましい。
しかしながら、粉末状のアルカリ化合物としてメタケイ酸塩水和物を配合すると、水溶液として添加した場合に比して硬化体の強度が低下したり、粉末状のメタケイ酸塩水和物の低い流動性のためハンドリング性が損なわれたりするという課題があった。
本発明は、ハンドリング性に優れ、硬化体が良好な強度を示す粉末状水硬性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材〔以下、(A)成分という〕、及び(B)アルミナシリカ微粉末〔以下、(B)成分という〕を含む、粉末状水硬性組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、メタケイ酸塩水和物と細骨材とを、前記メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度で混合して混合物を得る工程(1)と、
該混合物を前記メタケイ酸塩水和物の融点未満の温度に冷却して、(A)細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材〔以下、(A)成分という〕を得る工程(2)と、
(A)成分と(B)アルミナシリカ微粉末とを混合する工程(3)と、
を含む、粉末状水硬性組成物の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、前記本発明の粉末状水硬性組成物と水とを配合してなる、水硬性スラリーに関する。
【0012】
また、本発明は、前記本発明の粉末状水硬性組成物と水とを混合して水硬性スラリーを得る工程(I)と、
該水硬性スラリーを養生して硬化体を得る工程(II)と、
を含む、硬化体の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材を含む、粉末状水硬性組成用添加剤に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、本発明は、ハンドリング性に優れ、硬化体が良好な強度を示す粉末状水硬性組成物が提供される。
本発明は、産業副産物や廃棄物の有効活用、CO2排出量低減など寄与することから、近年、持続的な社会実現のために提唱されているSDGsの、例えば、No.7、9、11、12、13などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、(A)成分と(B)成分とを組み合わせることにより、1剤型の粉末状水硬性組成物のハンドリング性が向上するとともに、かかる粉末状水硬性組成物から調製した水硬性スラリーを硬化体とした際の強度発現性が向上することを見出した。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
(A)成分に用いられる細骨材は、一般に、ケイ酸化合物を主成分とする多孔質構造を有するが、多孔質構造中には気体(空気、水蒸気)が存在し、無機系粘結剤の表面張力や多孔質構造中の気圧により、多孔質構造中への無機系粘結剤の浸潤は限定的であると考えられる。本発明では、多孔質構造を有する細骨材にメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層を形成する過程で該多孔質構造中にメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤が浸潤することで、粉末の流動性が向上するとともに、該無機系粘結剤と細骨材の接触表面積が増大し、硬化の過程で該無機系粘結剤と細骨材がより強固に結合することで、硬化体の強度発現性を向上するものと考察される。
また、(B)成分のアルミナシリカ微粉末は、メタケイ酸塩水和物と液架橋力等の粒子間力によって凝集し粉末の流動性を損なう傾向にあるが、上記(A)成分に用いられる細骨材への無機系粘結剤の浸潤によって、メタケイ酸塩水和物とアルミナシリカ微粉末との接触面積が低減し、粉末の流動性の低下が抑制されて良好な流動性が得られるものと考えられる。本発明の粉末状水硬性組成物に水を添加して調製した水硬性スラリーを調製する際には、上記(A)成分に用いられる細骨材へ浸潤したメタケイ酸塩水和物が速やかに水溶するため、(B)成分のアルミナシリカ微粉末との反応も円滑に進行し、硬化体強度の発現に寄与するものと考察される。
なお、本発明の作用機構はこれに限定されるものではない。
【0016】
<粉末状水硬性組成物>
本発明の粉末状水硬性組成物は、(A)成分の所定の被覆細骨材と(B)成分のアルミナシリカ微粉末とを含む。
【0017】
(A)成分は、細骨材と、細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する。
【0018】
(A)成分の安息角は、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、好ましくは35°以下である。(A)成分の安息角は、安息角測定器ASK-01(アズワン株式会社製)を用いて測定される。
【0019】
粉末状水硬性組成物のハンドリング性を良好にし、水硬性スラリーのワーカビリティーの観点から、(A)成分は球状であることが好ましい。ここで、本実施形態に係る(A)成分が球状とはボールのような丸い形状をしたものをいい、より具体的には、球形度が好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上、更により好ましくは0.95以上、より更に好ましくは0.97以上のものをいう。本実施形態に係る(A)成分の球形度が上記下限値以上であると、水硬性スラリーのワーカビリティーの観点から好ましい。
また、球形度の上限値については、具体的には1以下である。
【0020】
(A)成分の球形度は、光学顕微鏡又はデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により得られた粒子の像(写真)を画像解析することにより、粒子の粒子投影断面の面積及び該断面の周囲長を求め、次いで、〔粒子投影断面の面積(mm2)と同じ面積の真円の円周長(mm)〕/〔粒子投影断面の周囲長(mm)〕を計算し、任意の50個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して求めることができる。
【0021】
(A)成分の平均粒子径は、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、そして、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、5.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下が更に好ましい。
本実施形態において、(A)成分の平均粒子径は、下記方法により測定することができる。
【0022】
(平均粒子径の測定方法)
粒子の粒子投影断面からの球形度=1の場合は直径(mm)を測定し、一方、球形度<1の場合はランダムに配向させた粒子の長軸径(mm)と短軸径(mm)を測定して(長軸径+短軸径)/2を求め、任意の100個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して平均粒径(mm)とする。長軸径と短軸径は、以下のように定義される。粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最小となる粒子の幅を短軸径といい、一方、この平行線に直角な方向の2本の平行線で粒子をはさむときの距離を長軸径という。
粒子の長軸径と短軸径は、光学顕微鏡又はデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により該粒子の像(写真)を撮影し、得られた像を画像解析することにより求めることができる。
【0023】
(A)成分に用いる細骨材は、天然砂であってもよく、人工砂であってもよい。
天然砂としては、例えば、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、天然軽量細骨材、及びこれらの砕砂等が挙げられる。
人工砂としては、例えば、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、人工軽量細骨材、再生細骨材、合成ムライト砂、SiO2を主成分とするSiO2系の人工砂、Al2O3を主成分とするAl2O3系の人工砂、SiO2/Al2O3系の人工砂、SiO2/MgO系の人工砂、SiO2/Al2O3/ZrO2系の人工砂、SiO2/Al2O3/Fe2O3系の人工砂等が挙げられる。ここで、主成分とは、砂の含有成分の中で最も多い成分をいう。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
細骨材の非晶化度は、水硬性スラリーのワーカビリティーの観点から、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましく、5%以下がより更に好ましい。
細骨材の非晶化度の下限は限定されないが、例えば、0%以上であり、1%以上であってもよい。
【0025】
細骨材の非晶化度の制御方法には様々な手法があるが、一般には溶融物を急冷させるような製造方法を用いることが好ましい。例えば、原料を溶融させ、エアーで風砕させ急冷する方法や、火炎中において処理し、急冷させる方法がある。いずれにおいても、冷却方法は材質、粒径によって様々な速度で適宜選択されればよい。また、一旦結晶化したものを熱処理と冷却処理にて非晶化させる方法も考えられる。これらの中でも、加熱と冷却が容易に制御できる火炎溶融法を用いたものが好ましい。
【0026】
細骨材の非晶化度は、下記に示されるX線回折法によって求めることができる。
細骨材を乳鉢で粉砕し、粉末X線回折装置のX線ガラスホルダーに圧着して測定する。粉末X線回折装置は、理学電機社製MultiFlex(光源CuKα線、管電圧40kV、管電流40mA)を用い、2θ=5~90°の範囲で走査間隔0.01°、走査速度2°/min、スリット DS1、SS1、RS0.3mmにて行う。2θ=10°~50°の範囲で、低角度側及び高角度側のX線強度を直線で結び、直線下の面積をバックグラウンドとし、機器付属のソフトを用いて結晶化度を求め、100から引いて非晶化度とする。具体的には、バックグラウンドより上の面積について、非晶質ピーク(ハロー)と各結晶性成分をカーブフィッティングにより分離し、それぞれの面積を求め、下記式にて非晶化度(%)を計算する。
非晶化度(%)=ハローの面積/(結晶性成分面積+ハロー面積)×100
【0027】
細骨材は、(A)成分の流動性を良好にさせる観点から、球状であることが好ましい。ここで、本実施形態に係る球状とはボールのような丸い形状をしたものをいい、より具体的には、球形度が好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上、更により好ましくは0.95以上、より更に好ましくは0.97以上のものをいう。本実施形態に係る細骨材の球形度が上記下限値以上であると、粉末状水硬性組成物の流動性の観点から、好ましい。更に、本実施形態に係る細骨材の球形度が上記下限値以上であると、表面がより平滑になり、その結果、無機系粘結剤層の被覆状態が良好になる点からも好ましい。
また、球形度の上限値については、具体的には1以下である。
細骨材の球形度は、(A)成分の球形度と同様の方法で測定することができる。
【0028】
細骨材の平均粒子径は、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、そして、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、5.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下が更に好ましい。
細骨材の平均粒子径は、(A)成分の平均粒子径と同様の方法で測定することができる。
【0029】
次に、(A)成分の無機系粘結剤層について説明する。無機系粘結剤層が含有するメタケイ酸塩水和物は無機系粘結剤である。メタケイ酸塩水和物を用いると、無機系粘結剤層の結晶性が向上し、更に(A)成分が乾態となり、常温流動性に優れるため好ましい。また、融点の低いメタケイ酸塩水和物を用いることにより、水に溶かさない状態で細骨材の表面に無機系粘結剤層を形成することができる。すなわち、(A)成分を製造する工程において、メタケイ酸塩水和物の水溶液を用いる必要がないために水を除去する工程を省くことができ、製造方法が簡略できる。
【0030】
メタケイ酸塩水和物としては、上記の観点から、メタケイ酸ナトリウム5水和物、メタケイ酸ナトリウム9水和物、メタケイ酸カリウム5水和物、メタケイ酸カリウム9水和物及びメタケイ酸マグネシウム5水和物から選択される少なくとも一種が好ましく、メタケイ酸ナトリウム5水和物及びメタケイ酸ナトリウム9水和物から選択される少なくとも一種がより好ましい。なお、メタケイ酸ナトリウム5水和物の融点は72℃、メタケイ酸ナトリウム9水和物の融点は47℃である。
【0031】
(A)成分における無機系粘結剤層の被覆量は、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、細骨材100質量部に対して、例えば0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、更により好ましくは2質量部以上、そして、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、細骨材(A)100質量部に対して、例えば10質量部以下であり、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下である。
【0032】
本発明の粉末状水硬性組成物は、該組成物100質量部に対して、(A)成分を、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、例えば10質量部以上、更に20質量部以上、更に30質量部以上、そして、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、90質量部以下、更に80質量部以下、更に70質量部以下含有することができる。
【0033】
次に、(B)成分のアルミナシリカ微粉末について説明する。
(B)成分のアルミナシリカ微粉末としては、例えば、アルミノシリケート(xM2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O、Mはアルカリ金属)を含有する微粉末が挙げられる。
(B)成分は、アルカリ化合物及び/又はその水溶液との接触により、アルミニウムやケイ素等の陽イオンを溶出し、それらの供給源となる作用を有する。
【0034】
(B)成分は、アルミナ(Al2O3)とシリカ(SiO2)のモル比が、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、アルミナ/シリカで、例えば、0.05以上、更に0.10以上、そして、1.00以下、更に0.50以下であってよい。
【0035】
(B)成分のアルミナシリカ微粉末の好適な例として、1)高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、クリンカアッシュ、流動床石炭灰、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末、赤泥、及び下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末などの産業廃棄物・副産物、2)メタカオリンなどの天然アルミノシリケート鉱物及び粘土とその焼物、3)火山灰などを挙げることが出来る。これらのうち、上記1)の産業廃棄物は、他の成分と比較して、産地制限がなく、かつ産業廃棄物資源の有効利用にもつながり、特に好適である。
【0036】
(B)成分は、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、高炉スラグ微粉末及びフライアッシュから選ばれる1種以上が好ましい。
高炉スラグ微粉末は、高炉で鉄を精製する際の副産物で、酸化カルシウム(CaO)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)を主成分とし、JIS A 6206に規格が規定されている。本発明において、特に使用する高炉スラグ微粉末は、CaOの含有率が30質量%以上60質量%以下の範囲にあるものが好ましい。
フライアッシュは、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)を主成分とし、JIS A 6201において、粒度やフロー値に基づきI~IV種(JIS A6201)に規格が規定されている。その粒度が細かく反応性に富むJIS I種、II種が適している。フライアッシュ中のCaOの含有率は、10.1質量%以下であってよい。
【0037】
(B)成分は、ブレーン比表面積(cm2/g)が、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、例えば1,500以上、好ましくは2,000以上、より好ましくは2,500以上、更に好ましくは3,000以上、より更に好ましくは、3,500以上、そして、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、例えば8,000以下、好ましくは7,500以下、より好ましくは7,000以下、更に好ましくは6,500以下、より更に好ましくは6,000以下である。(B)成分のブレーン比表面積は、JIS R 5201に規定されるブレーン空気透過装置を用いて測定、算出される。
【0038】
本発明の粉末状水硬性組成物は、該組成物100質量部に対して、(B)成分を、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、例えば5質量部以上、更に10質量部以上、更に20質量部以上、そして、60質量部以下、更に50質量部以下、更に40質量部以下含有することができる。
【0039】
本発明の粉末状水硬性組成物は、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量の質量比である(A)/(B)は、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、例えば、0.17以上、更に0.50以上、更に1.0以上、そして、18以下、更に10以下、更に5以下であってよい。
【0040】
本発明の粉末状水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分とを合計で、該組成物100質量部に対して、90質量部以上、更に95質量部以上、そして、100質量部以下含有することが好ましく、前記合計は100質量部、すなわち本発明の粉末状水硬性組成物は(A)成分と(B)成分とからなるものであってもよい。
【0041】
本発明の粉末状水硬性組成物は、(A)成分及び(B)成分以外の任意成分を含有することができる。任意成分としては、例えば、減水剤、空気連行剤、流動化剤、硬化促進剤(アルカリ刺激剤)、消泡剤、急結剤、収縮低減剤、硬化遅延剤、防錆剤などが挙げられる。本発明の粉末状水硬性組成物は、これら任意成分の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0042】
本発明の粉末状水硬性組成物は、セメントを任意に含有することができるが、セメントは初期の硬化速度に影響を及ぼすのでその含有量には注意を要する。また、セメント量を低減した粉末状水硬性組成物を提供するという観点で、セメントの含有量は少ない方が好ましい。本発明の粉末状水硬性組成物は、セメントを任意に含有し、セメントの含有量が、(B)成分100質量部に対して、30質量部未満、更に20質量部以下、更に10以下、更に1質量部以下であってよく、0質量部、つまりセメントを含有しなくてもよい。ここで、セメントは、例えば、ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、混合セメント、エコセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、グラウト用セメント、油井セメント等が挙げられる。本発明の粉末状水硬性組成物は、ポルトランドセメントの含有量が、(B)成分に対して前記範囲であってよい。
【0043】
本発明の粉末状水硬性組成物は、ジオポリマー形成のための組成物として好適である。例えば、本発明の粉末状水硬性組成物を水と混合することで水硬性スラリーを得てこの水硬性スラリーを硬化させることでジオポリマーが形成され硬化体となる。本発明の粉末状水硬性組成物は、いわゆるプレミックスであってよく、更にジオポリマー用プレミックスであってよい。
【0044】
<粉末状水硬性組成物の製造方法>
本発明は、メタケイ酸塩水和物と細骨材とを、前記メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度で混合して混合物を得る工程(1)と、
該混合物を前記メタケイ酸塩水和物の融点未満の温度に冷却して、(A)細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材〔以下、(A)成分という〕を得る工程(2)と、
(A)成分と(B)アルミナシリカ微粉末〔以下、(B)成分という〕とを混合する工程(3)と、
を含む、粉末状水硬性組成物の製造方法に関する。
【0045】
本発明の粉末状水硬性組成物の製造方法には、本発明の粉末状水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。本発明の粉末状水硬性組成物の製造方法における(A)成分、(B)成分の具体例や好ましい例なども、本発明の粉末状水硬性組成物と同じである。本発明の粉末状水硬性組成物の製造方法は、本発明の粉末状水硬性組成物を製造する方法として好適である。
【0046】
工程(1)では、メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度にてメタケイ酸塩水和物と細骨材とを混合することで、細骨材の表面が、流動化したメタケイ酸塩水和物で被覆される。
メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度にてメタケイ酸塩水和物を混合する方法としては、例えば、メタケイ酸塩水和物の融点以上の温度に加熱した細骨材にメタケイ酸塩水和物を投入し、メタケイ酸塩水和物を融解させながら細骨材とメタケイ酸塩水和物とを混合する方法[工程(1A)]、加熱融解させたメタケイ酸塩水和物を細骨材に投入し、混合する方法[工程(1B)]が挙げられる。被覆に要する時間を短くできる観点から、工程(1B)が好ましい。
【0047】
同様の観点から、工程(1)において、メタケイ酸塩水和物を予め水溶液にしないで混合することが好ましい。また、工程(1)が、水を意図的に添加する工程を含まないことが好ましい。
【0048】
細骨材とメタケイ酸塩水和物とを混合するときの攪拌速度や処理時間等の混合条件は、混合物の処理量によって適宜決定することができる。
【0049】
工程(2)では、工程(1)で得られた混合物をメタケイ酸塩水和物の融点未満の温度に冷却することにより、メタケイ酸塩水和物の流動性を低減させて細骨材の表面にメタケイ酸塩水和物を定着させることによって、メタケイ酸塩水和物層すなわち無機系粘結剤層が形成される。これにより、細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材〔(A)成分〕が得られる。
【0050】
工程(3)では、工程(2)で得られた(A)成分と、(B)成分のアルミナシリカ微粉末とを混合する。(A)成分と(B)成分とを混合する方法、装置、条件などは特に限定されず、粉末成分の混合に適したものを適宜選定できる。
【0051】
<水硬性スラリー>
本発明は、前記本発明の粉末状水硬性組成物と水とを配合してなる、水硬性スラリーに関する。
水は、水硬性スラリーの硬化体の流動性の観点から、本発明の粉末状水硬性組成物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、更に5質量部以上、更に10質量部以上、そして、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、50質量部以下、更に35質量部以下、更に20質量部以下の量で配合することができる。
【0052】
本発明の水硬性スラリーは、ジオポリマー形成のためのスラリーとして好適である。本発明の水硬性スラリーを硬化させることでジオポリマーが形成され硬化体となる。本発明の水硬性スラリーは、ジオポリマー用スラリーであってよい。
【0053】
<硬化体の製造方法>
本発明は、前記本発明の粉末状水硬性組成物と水とを混合して水硬性スラリーを得る工程(I)と、
該水硬性スラリーを養生して硬化体を得る工程(II)と、
を含む、硬化体の製造方法に関する。
【0054】
工程(I)では、水は、水硬性スラリーの硬化体の流動性の観点から、本発明の粉末状水硬性組成物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、更に5質量部以上、更に10質量部以上、そして、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、50質量部以下、更に35質量部以下、更に20質量部以下の量で混合することができる。
【0055】
工程(1)で本発明の粉末状水硬性組成物と水とを混合する方法、装置、条件などは特に限定されず、スラリーの調製に適したものを適宜選定できる。
【0056】
工程(II)では、工程(I)で得られた水硬性スラリーを養生して硬化体を得る。工程(II)の養生は、ジオポリマーの硬化体を得る一般的な条件で行うことができる。工程(II)では、養生温度は、例えば、20℃以上、更に30℃以上、更に40℃以上、そして、80℃以下、更に70℃以下とすることができる。また、工程(II)では、養生時間は、例えば、1時間以上28日以下とすることができる。
【0057】
<粉末状水硬性組成用添加剤>
本発明は、細骨材と該細骨材の表面に形成されたメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤層とを有する被覆細骨材〔(A)成分〕を含む、粉末状水硬性組成用添加剤に関する。
本発明の粉末状水硬性組成用添加剤には、本発明の粉末状水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。本発明の粉末状水硬性組成用添加剤における(A)成分の具体例や好ましい例なども、本発明の粉末状水硬性組成物と同じである。
本発明の粉末状水硬性組成用添加剤は、粉末状の水硬性組成物に用いられる添加剤である。本発明の粉末状水硬性組成用添加剤は、ジオポリマーの形成のための粉末組成物に用いられる添加剤であってよい。
本発明の粉末状水硬性組成用添加剤は、(A)成分からなる添加剤であってよい。
【実施例0058】
実施例、比較例に用いた成分を以下に示す。
・細骨材:山砂(京都市城陽産、表乾比重2.54、粗粒率2.73、非晶化度1.1%、球形度0.86、平均粒径0.6mm、絶乾状態)
・無機系粘結剤1:メタケイ酸ナトリウム9水和物(融点48℃、富士フイルム和光純薬株式会社製)
・無機系粘結剤2:メタケイ酸ナトリウム5水和物(融点72℃、Sodium metasilicate pentahydrate、Sigma-Aldrich Co. LLC製)
・アルミナシリカ微粉末1:高炉スラグ微粉末(ブレーン比表面積:4,200cm2/g、アルミナ/シリカモル比=0.25)
・アルミナシリカ微粉末2:フライアッシュ(JIS II種、ブレーン比表面積:3,500cm2/g、アルミナ/シリカモル比=0.26)
・上水道水(和歌山市上水)
【0059】
<実施例1及び比較例1>
(1)被覆細骨材の調製(実施例)
上記無機系粘結剤をウォーターバスで加熱(80℃・1時間)し、融液を得た。次いで、JIS R 5201記載のホバート式ミキサーに、加熱して絶乾状態に調整した細骨材(80℃)を投入し、140rpmで撹拌を開始した。そこに無機系粘結剤の融液を、水硬性スラリー中の組成が表1記載の質量部となるように添加し、140rpmで5分間混練した。その後、室温(20℃)まで自然放熱し、本発明の無機系粘結剤層が表面に形成された被覆細骨材を、収率99.3%で得た。この際、得られた無機系粘結剤層が表面に形成された被覆細骨材は、安息角33.6°、球形度0.88、平均粒径0.6mmであった。
【0060】
(2)粉末水硬性組成物(プレミックス)の調製
(1)で得た被覆細骨材とアルミナシリカ微粉末を、JIS R 5201記載のホバート式ミキサーに、水硬性スラリー中の組成が表1記載の質量部となるように添加し、140rpmで20秒間混合することで、実施例の粉末水硬性組成物(プレミックス)を調製した。
比較例では、被覆細骨材を用いずに、絶乾状態に調整した細骨材、無機系粘結剤及びアルミナシリカ微粉末を、それぞれ独立して、水硬性スラリー中の組成が表1記載の質量部となるように添加し、140rpmで20秒間混合することで、粉末水硬性組成物(プレミックス)を調製した。
【0061】
(3)水硬性スラリー及びその硬化体の調製
(2)で調製した粉末水硬性組成物(プレミックス)及び上水道水を、表1の質量部で、JIS R 5201記載のホバート式ミキサーに添加し、140rpmで180秒間混合することで水硬性スラリーを調製した。
次いで、調製直後の水硬性スラリーを用い、JSCE-F 506に準じてφ5×10cmのモルタル供試体を作製し、20℃、7日の封緘養生の後脱型し、JSCE-G 505に準じて圧縮強度試験を実施して、n=2の平均値として一軸圧縮強度(N/mm2)を記録した。結果を表1に示す。
【0062】
<実施例2及び比較例2>
実施例1及び比較例1と同様に、ただし、配合成分及び質量部を表1のように変更して、粉末水硬性組成物(プレミックス)を調製し、一軸圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1中、実施例1、2は比較例1、2に比して、優れた強度発現性を示した。これは、細骨材の多孔質構造中にメタケイ酸塩水和物を含む無機系粘結剤が浸潤することで、該無機系粘結剤と細骨材の接触表面積が増大し、硬化の過程で該無機系粘結剤と細骨材がより強固に結合して硬化体強度が向上したものと考察される。
【0065】
<実施例3、比較例3及び参考例3>
(1)安息角の測定
実施例1及び比較例1の粉末水硬性組成物とその調製に用いた成分などについて安息角を測定した。すなわち、(イ)実施例1の粉末水硬性組成物(プレミックス)、(ロ)比較例1の粉末水硬性組成物(プレミックス)、(ハ)細骨材(未被覆)、(ニ)無機系粘結剤1を用いて得た被覆細骨材、(ホ)無機系粘結剤1、(ヘ)アルミナシリカ微粉末1、及び(ト)アルミナシリカ微粉末2の安息角を、それぞれ、安息角測定器ASK-01(アズワン株式会社製)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0066】
【0067】
表2中、実施例1の粉末水硬性組成物(実施例3-1)は、比較例1の粉末水硬性組成物(比較例3-1)に比して、小さい安息角、すなわち優れた粉体の流動性を示した。これは、結合水を有する無機系粘結剤が細骨材の多孔質構造中に浸潤したことで、粉体間の液架橋による流動性の低下を抑制したためであると考察される。このことは、未被覆の細骨材のみ(参考例3-1)の安息角が、実施例1に用いた無機系粘結剤1の層が表面に形成された被覆細骨材(参考例3-2)の安息角と同等程度であり、無機系粘結剤1(参考例3-3)の安息角がこれら細骨材に比して大きいことからも示唆される。実施例3-1も比較例3-1も、参考例3-1、3-3、3-5の成分を同じ量で用いて製造した粉末水硬性組成物で評価したものであるが、安息角は実施例3-1の方が小さくなっており、被覆細骨材(参考例3-2)の形態で配合することで流動性の向上につながることがわかる。