(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184241
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/26 20060101AFI20231221BHJP
C04B 12/04 20060101ALI20231221BHJP
C04B 14/02 20060101ALI20231221BHJP
C04B 14/26 20060101ALI20231221BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20231221BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20231221BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C04B28/26 ZAB
C04B12/04
C04B14/02 B
C04B14/26
C04B18/16
C04B18/14 A
C04B18/14 Z
C04B22/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098281
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】佐川 桂一郎
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112PA04
4G112PA10
4G112PA28
4G112PA30
4G112PB08
(57)【要約】
【課題】流動性と硬化体の強度に優れたジオポリマー型の水硬性組成物を提供する。
【解決手段】(A)細骨材、(B)メタケイ酸塩〔以下、(B)成分という〕、(C)アルミナシリカ微粉末、(D)炭酸水素塩〔以下、(D)成分という〕、及び(E)水を含有する水硬性組成物であって、(D)成分の含有量が、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下である、水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)細骨材〔以下、(A)成分という〕、(B)メタケイ酸塩〔以下、(B)成分という〕、(C)アルミナシリカ微粉末〔以下、(C)成分という〕、(D)炭酸水素塩〔以下、(D)成分という〕、及び(E)水を含有する水硬性組成物であって、(D)成分の含有量が、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下である、水硬性組成物。
【請求項2】
(A)成分が、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、人工軽量細骨材、天然軽量細骨材及び再生細骨材から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
(C)成分が、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、メタカオリン、もみ殻焼却灰、やし殻焼却灰、都市ゴミ焼却灰及び下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
(B)成分が、水ガラス、メタケイ酸ナトリウム5水和物及びメタケイ酸ナトリウム9水和物から選ばれる1種以上である、請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
セメントを任意に含有し、セメントの含有量が、(C)成分100質量部に対して、30質量部未満である、請求項1~4の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
(D)成分の含有量が、水硬性組成物100質量部に対して、0.1質量部以上4.0質量部以下である、請求項1~5の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
(A)細骨材、(B)メタケイ酸塩〔以下、(B)成分という〕、(C)アルミナシリカ微粉末、(D)炭酸水素塩〔以下、(D)成分という〕、及び(E)水を含む成分を混合する、水硬性組成物の製造方法であって、(D)成分を、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下で混合する、水硬性組成物の製造方法。
【請求項8】
(A)細骨材、(B)メタケイ酸塩〔以下、(B)成分という〕、(C)アルミナシリカ微粉末、(D)炭酸水素塩〔以下、(D)成分という〕、及び(E)水を含む成分を混合して水硬性組成物を得る工程であって、(D)成分を、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下で混合する、工程(I)と、
該水硬性組成物を養生して硬化体を得る工程(II)と、
を含む、硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、及び硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs実現のため、ESG観点から環境に配慮したインフラ整備が目指されており、炭酸カルシウムの焼成に伴いCO2を排出するセメントを低減した、環境調和型の水硬性組成物に関する技術開発が進んでいる。
【0003】
その一例として、ケイ酸アルミニウムのようなケイ酸塩を含む高炉スラグ微粉末等を、アルカリ溶液を用いて硬化させる、ジオポリマーと称される水硬性組成物が注目を集めている。
【0004】
ジオポリマーは、ケイ酸アルミニウムのアルカリによる溶解、水和生成物の形成により硬化するため、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等、強塩基性のアルカリ刺激剤を併用するほど、優れた強度発現性を示す。
【0005】
特許文献1には、アルミナシリカ微粉末を用いたジオポリマーの硬化促進剤として、ケイ酸ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合物を用いることが開示されている。
【0006】
特許文献2には、a成分:重炭酸ナトリウム、b成分:重炭酸カリウム、c成分:形態が粉末状のナフタレンスルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、オキシポリカルボン酸系化合物及びメラミンスルホン酸系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも一種並びにd成分:炭酸アルカリ金属塩を、所定の割合で含有する、珪酸塩系土質安定用薬液における重炭酸塩系硬化剤が開示されている。
【0007】
特許文献3には、特定のリン酸エステル化合物を含有するジオポリマー用減粘剤、これを含有するジオポリマー用混和剤、及びジオポリマー形成組成物が開示されている。
【0008】
特許文献4には、裏込材であって、(a)スラグ又はフライアッシュ、(b)アルミンソ酸ソーダ、及び(c)けい酸ソーダを含み、前記けい酸ソーダにおけるNa2Oに対するSiO2のモル比が0.9~2.7の範囲にあり、前記裏込材における前記(a)成分の濃度が5~50質量%の範囲にあり、前記裏込材における前記(b)成分の濃度が10~45質量%の範囲にあり、前記裏込材における前記けい酸ソーダの濃度が10~28質量%の範囲にある裏込材が開示されている。
【0009】
また、非特許文献1には、ジオポリマーの定義、材料、メカニズム、課題、可能性が開示されている。
非特許文献2には、アルカリ溶液を用いずに、アルミナシリカ微粉末と、粉体のアルカリ化合物と、骨材を配合して成る一剤型のジオポリマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0321954号明細書
【特許文献2】特開2002-88365号公報
【特許文献3】特開2020-138899号公報
【特許文献4】特開2019-77798号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】コンクリート工学、56巻、5号、409-414頁、公益社団法人 日本コンクリート工学会、2018年5月発行
【非特許文献2】Cement and Concrete Research、103巻、21-34頁、Elsevier B.V.、2017年11月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ジオポリマー用組成物にセメント分散剤を適用しても、セメントを用いたスラリー、例えばコンクリートなどに比して、流動性は向上しない。一方、ジオポリマー用組成物の流動性を向上させるために水の量を増やすと、硬化後のジオポリマーの強度は低下する。
【0013】
本発明は、流動性と硬化体の強度に優れたジオポリマー型の水硬性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、(A)細骨材〔以下、(A)成分という〕、(B)メタケイ酸塩〔以下、(B)成分という〕、(C)アルミナシリカ微粉末〔以下、(C)成分という〕、(D)炭酸水素塩〔以下、(D)成分という〕、及び(E)水〔以下、(E)成分という〕を含有する水硬性組成物であって、(D)成分の含有量が、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下である、水硬性組成物に関する。
【0015】
また、本発明は、(A)細骨材、(B)メタケイ酸塩〔以下、(B)成分という〕、(C)アルミナシリカ微粉末、(D)炭酸水素塩〔以下、(D)成分という〕、及び(E)水を含む成分を混合する、水硬性組成物の製造方法であって、(D)成分を、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下で混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、(A)細骨材、(B)メタケイ酸塩〔以下、(B)成分という〕、(C)アルミナシリカ微粉末〔以下、(C)成分という〕、(D)炭酸水素塩〔以下、(D)成分という〕、及び(E)水〔以下、(E)成分という〕を含む成分を混合して水硬性組成物を得る工程であって、(D)成分を、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下で混合する、工程(I)と、
該水硬性組成物を養生して硬化体を得る工程(II)と、
を含む、硬化体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、流動性と硬化体の強度に優れたジオポリマー型の水硬性組成物が提供される。
本発明は、産業副産物や廃棄物の有効活用、CO2排出量低減などに寄与することから、近年、持続的な社会実現のために提唱されているSDGsの、例えば、No.7、9、11、12、13などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、細骨材、メタケイ酸塩、アルミナシリカ微粉末及び水を含有する水硬性組成物に、(D)成分の炭酸水素塩を所定量添加することで、水硬性組成物の流動性が向上するとともに、かかる水硬性組成物の硬化体が十分な強度を発現することを見出した。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
前述の通りジオポリマーは、ケイ酸アルミニウムのアルカリによる溶解、次ぐ水和生成物の形成により形成される。強度発現に寄与する代表的な水和生成物としては、C-S(A)-Hと呼ばれる、カルシウム、アルミニウム、ケイ素の酸化物の複合体が挙げられる。この水和生成物は、高pH下かつカルシウムイオンが溶存する環境下で急速に成長し、(D)成分は、カルシウムイオンを比較的溶解度が高い炭酸水素カルシウムとして可逆的に固定化・放出することにより、水和初期の急速なC-S(A)-Hの成長に伴う水硬性スラリーとしての流動性低下を抑制しながら、材齢の経過に伴って断続的にカルシウムイオンを放出して水和反応を促進するものと考えられる。本発明では、(D)成分の含有量が所定範囲であることで、これらの作用が効果的に発現し、流動性と硬化体の強度発現性を両立せしめたものと考察される。
【0019】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、(A)成分の細骨材と、(B)成分のメタケイ酸塩と、(C)成分のアルミナシリカ微粉末と、所定量の(D)成分の炭酸水素塩と、(E)成分の水とを含有する。
【0020】
(A)成分は、細骨材である。(A)成分は、天然砂であってもよく、人工砂であってもよい。
天然砂としては、天然砂としては、例えば、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、天然軽量細骨材、及びこれらの砕砂等が挙げられる。
人工砂としては、例えば、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、人工軽量細骨材、再生細骨材、合成ムライト砂、SiO2を主成分とするSiO2系の人工砂、Al2O3を主成分とするAl2O3系の人工砂、SiO2/Al2O3系の人工砂、SiO2/MgO系の人工砂、SiO2/Al2O3/ZrO2系の人工砂、SiO2/Al2O3/Fe2O3系の人工砂等が挙げられる。ここで、主成分とは、砂の含有成分の中で最も多い成分をいう。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(A)成分は、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、人工軽量細骨材、天然軽量細骨材及び再生細骨材から選ばれる1種以上が好ましい。これらは、砕砂であってよい。
【0022】
細骨材の非晶化度は、水硬性組成物(水硬性スラリー)のワーカビリティーの観点から、30%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、10%以下が更に好ましく、5%以下がより更に好ましい。
細骨材の非晶化度の下限は限定されないが、例えば、0%以上であり、1%以上であってもよい。
【0023】
(A)成分の非晶化度の制御方法には様々な手法があるが、一般には溶融物を急冷させるような製造方法を用いることが好ましい。例えば、原料を溶融させ、エアーで風砕させ急冷する方法や、火炎中において処理し、急冷させる方法がある。いずれにおいても、冷却方法は材質、粒径によって様々な速度で適宜選択されればよい。また、一旦結晶化したものを熱処理と冷却処理にて非晶化させる方法も考えられる。これらの中でも、加熱と冷却が容易に制御できる火炎溶融法を用いたものが好ましい。
【0024】
(A)成分の非晶化度は、下記に示されるX線回折法によって求めることができる。
細骨材を乳鉢で粉砕し、粉末X線回折装置のX線ガラスホルダーに圧着して測定する。粉末X線回折装置は、理学電機社製MultiFlex(光源CuKα線、管電圧40kV、管電流40mA)を用い、2θ=5~90°の範囲で走査間隔0.01°、走査速度2°/min、スリット DS1、SS1、RS0.3mmにて行う。2θ=10°~50°の範囲で、低角度側及び高角度側のX線強度を直線で結び、直線下の面積をバックグラウンドとし、機器付属のソフトを用いて結晶化度を求め、100から引いて非晶化度とする。具体的には、バックグラウンドより上の面積について、非晶質ピーク(ハロー)と各結晶性成分をカーブフィッティングにより分離し、それぞれの面積を求め、下記式にて非晶化度(%)を計算する。
非晶化度(%)=ハローの面積/(結晶性成分面積+ハロー面積)×100
【0025】
(A)成分は、水硬性組成物の流動性を良好にさせる観点から、球状であることが好ましい。ここで、本実施形態に係る球状とはボールのような丸い形状をしたものをいい、より具体的には、球形度が好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上、更に好ましくは0.90以上、更により好ましくは0.95以上、より更に好ましくは0.97以上のものをいう。本実施形態に係る細骨材の球形度が上記下限値以上であると、流動性の観点から好ましい。更に、本実施形態に係る細骨材の球形度が上記下限値以上であると、表面がより平滑になる点からも好ましい。
また、球形度の上限値については、具体的には1以下である。
【0026】
(A)成分の球形度は、光学顕微鏡又はデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により得られた粒子の像(写真)を画像解析することにより、粒子の粒子投影断面の面積及び該断面の周囲長を求め、次いで、〔粒子投影断面の面積(mm2)と同じ面積の真円の円周長(mm)〕/〔粒子投影断面の周囲長(mm)〕を計算し、任意の50個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して求めることができる。
【0027】
(A)成分の平均粒子径は、水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、そして、水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、5.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下が更に好ましい。
(A)成分の平均粒子径は、下記方法により測定することができる。
【0028】
(平均粒子径の測定方法)
粒子の粒子投影断面からの球形度=1の場合は直径(mm)を測定し、一方、球形度<1の場合はランダムに配向させた粒子の長軸径(mm)と短軸径(mm)を測定して(長軸径+短軸径)/2を求め、任意の100個の粒子につき、それぞれ得られた値を平均して平均粒径(mm)とする。長軸径と短軸径は、以下のように定義される。粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最小となる粒子の幅を短軸径といい、一方、この平行線に直角な方向の2本の平行線で粒子をはさむときの距離を長軸径という。
粒子の長軸径と短軸径は、光学顕微鏡又はデジタルスコープ(例えば、キーエンス社製、VH-8000型)により該粒子の像(写真)を撮影し、得られた像を画像解析することにより求めることができる。
【0029】
本発明の水硬性組成物は、該組成物100質量部に対して、(A)成分を、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、例えば10質量部以上、更に20質量部以上、更に30質量部以上、そして、水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、90質量部以下、更に80質量部以下、更に70質量部以下含有することができる。
【0030】
次に、(B)成分のメタケイ酸塩について説明する。
メタケイ酸塩としては、メタケイ酸ナトリウムの濃厚水溶液、いわゆる水ガラス(例えば組成式Na2SiO3・nH2O、n=1.3~4.0)を例示することができる。また、メタケイ酸ナトリウム5水和物、メタケイ酸ナトリウム9水和物、メタケイ酸カリウム5水和物、メタケイ酸カリウム9水和物及びメタケイ酸マグネシウム5水和物等の固体のメタケイ酸塩水和物を例示することができる。(B)成分は、水ガラス、メタケイ酸ナトリウム5水和物及びメタケイ酸ナトリウム9水和物から選ばれる1種以上が好ましい。
【0031】
本発明の水硬性組成物は、該組成物100質量部に対して、(B)成分を、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、例えば0.1質量部以上、更に0.5質量部以上、更に1.0質量部以上、そして、20質量部以下、更に15質量部以下、更に10質量部以下含有することができる。
【0032】
本発明の水硬性組成物は、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2質量部以上、更に好ましくは2.5質量部以上、より更に好ましくは5質量部以上、そして、例えば50質量部以下、好ましくは35質量部以下、より好ましくは20質量部以下であってよい。
【0033】
次に、(C)成分のアルミナシリカ微粉末について説明する。
(C)成分としては、アルミノシリケート(xM2O・yAl2O3・zSiO2・nH2O、Mはアルカリ金属)を含有する微粉末が挙げられる。
(C)成分は、アルカリ化合物及び/又はその水溶液との接触により、アルミニウムやケイ素等の陽イオンを溶出し、それらの供給源となる作用を有する。
【0034】
(C)成分は、アルミナ(Al2O3)とシリカ(SiO2)のモル比が、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、アルミナ/シリカで、例えば、0.05以上、更に0.10以上、そして、1.00以下、更に0.50以下であってよい。
【0035】
(C)成分のアルミナシリカ微粉末の好適な例として、1)高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、クリンカアッシュ、流動床石炭灰、都市ごみ焼却灰溶融スラグ微粉末、赤泥、及び下水汚泥焼却灰溶融スラグ微粉末などの産業廃棄物・副産物、2)メタカオリンなどの天然アルミノシリケート鉱物及び粘土とその焼物、3)火山灰などを挙げることが出来る。これらのうち、上記1)の産業廃棄物は、他の成分と比較して、産地制限がなく、かつ産業廃棄物資源の有効利用にもつながり、特に好適である。
【0036】
(C)成分は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、メタカオリン、もみ殻焼却灰、やし殻焼却灰、都市ゴミ焼却灰及び下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上が挙げられる。(C)成分は、高炉スラグ微粉末及びフライアッシュから選ばれる1種以上が好ましい。
【0037】
本発明では、(C)成分を2種以上使用することができる。本発明において、(C)成分を2種以上使用する場合、例えば、(C)成分として、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、メタカオリン、もみ殻焼却灰、やし殻焼却灰、都市ゴミ焼却灰及び下水汚泥焼却灰から選ばれる2種以上を使用する場合、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、本発明の水硬性組成物は(C)成分として高炉スラグ微粉末を含有することが好ましい。
【0038】
本発明の水硬性組成物が(C)成分を2種以上含有し、(C)成分として高炉スラグ微粉末を含有する場合、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、(C)成分中の高炉スラグ微粉末の割合は、(C)成分100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、そして、例えば90質量部以下であり、好ましくは70質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。本発明の水硬性組成物は、(C)成分として、(C1)高炉スラグ微粉末と、(C2)フライアッシュ、メタカオリン、もみ殻焼却灰、やし殻焼却灰、都市ゴミ焼却灰及び下水汚泥焼却灰から選ばれる1種以上と、を含有することが好ましい。
【0039】
高炉スラグ微粉末は、高炉で鉄を精製する際の副産物で、酸化カルシウム(CaO)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)を主成分とし、JIS A 6206に規格が規定されている。本発明において、特に使用する高炉スラグ微粉末は、CaOの含有率が30質量%以上60質量%以下の範囲にあるものが好ましい。
フライアッシュは、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)を主成分とし、JIS A 6201において、粒度やフロー値に基づきI~IV種(JIS A6201)に規格が規定されている。その粒度が細かく反応性に富むJIS I種、II種が適している。フライアッシュ中のCaOの含有率は、10.1質量%以下であってよい。
【0040】
(C)成分は、ブレーン比表面積(cm2/g)が、水硬性スラリーの硬化体の強度発現性の観点から、例えば1,500以上、好ましくは2,000以上、より好ましくは2,500以上、更に好ましくは3,000以上、より更に好ましくは、3,500以上、そして、粉末状水硬性組成物のハンドリング性の観点から、例えば8,000以下、好ましくは7,500以下、より好ましくは7,000以下、更に好ましくは6,500以下、より更に好ましくは6,000以下である。(C)成分のブレーン比表面積は、JIS R 5201に規定されるブレーン空気透過装置を用いて測定、算出される。
【0041】
本発明の水硬性組成物は、該組成物100質量部に対して、(C)成分を、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、例えば5質量部以上、更に10質量部以上、更に20質量部以上、そして、60質量部以下、更に50質量部以下、更に40質量部以下含有することができる。
【0042】
(D)成分は炭酸水素塩である。
(D)成分としては、例えば、炭酸水素塩、更に炭酸水素アルカリ金属塩が挙げられる。炭酸水素塩としては、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムが例示できる。炭酸塩は、固体が好ましい。
【0043】
本発明の水硬性組成物は、水硬性組成物スラリーの流動性の観点から、(D)成分の含有量が、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは5.0質量部以上、そして、50質量部以下、好ましくは45質量部以下、より好ましくは35質量部以下、更に好ましくは25質量部以下である。
【0044】
本発明の水硬性組成物は、該組成物100質量部に対して、(D)成分を、水硬性組成物スラリーの流動性の観点から、例えば0.1質量部以上、更に0.2質量部以上、更に0.4質量部以上、そして、4.0質量部以下、更に2.0質量部以下、更に1.0質量部以下含有することができる。
【0045】
(E)成分は水である。本発明の水硬性組成物は、該組成物100質量部に対して、(E)成分を、水硬性組成物のワーカビリティーの観点から、例えば1.0質量部以上、更に3.0質量部以上、更に5.0質量部以上、そして、水硬性組成物の硬化体の強度発現性の観点から、45.0質量部以下、更に30.0質量部以下、更に15.0質量部以下含有することができる。
【0046】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び(E)以外の任意成分を含有することができる。任意成分としては、例えば、減水剤、空気連行剤、流動化剤、硬化促進剤(アルカリ刺激剤)、消泡剤、急結剤、収縮低減剤、硬化遅延剤、防錆剤などが挙げられる。本発明の水硬性組成物は、これら任意成分の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の水硬性組成物は、セメントを任意に含有することができるが、セメントは初期の硬化速度に影響を及ぼすのでその含有量には注意を要する。また、セメント量を低減した水硬性組成物を提供するという観点で、セメントの含有量は少ない方が好ましい。本発明の水硬性組成物は、セメントを任意に含有し、セメントの含有量が、(C)成分100質量部に対して、30質量部未満、更に20質量部以下、更に10以下、更に1質量部以下であってよく、0質量部、つまりセメントを含有しなくてもよい。ここで、セメントは、例えば、ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、混合セメント、エコセメント、アルミナセメント、超速硬セメント、グラウト用セメント、油井セメント等が挙げられる。本発明の水硬性組成物は、ポルトランドセメントの含有量が、(C)成分に対して前記範囲であってよい。
【0048】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、所定量の(D)成分及び(E)成分を配合してなる水硬性組成物であってよい。この場合、各成分の配合量は、該組成物の配合成分の全量を100質量部として、それぞれの成分で示した含有量の範囲から選択できる。本発明の水硬性組成物は、ジオポリマー用組成物であってよい。
【0049】
本発明の水硬性組成物は、(A)~(E)成分を混合することで製造できる。各成分の混合順序には特に限定はない。本発明により、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び(E)を含む成分を混合する、水硬性組成物の製造方法であって、(D)成分を、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下で混合する、水硬性組成物の製造方法が提供される。この製造方法における(A)~(E)成分の混合量は、それぞれ、本発明の水硬性組成物で述べた含有量から選択できる。
【0050】
<硬化体の製造方法>
本発明は、前記本発明の水硬性組成物を養生し硬化体を得る、硬化体の製造方法に関する。
本発明の硬化体の製造方法には、本発明の水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。本発明の硬化体の製造方法における(A)~(E)成分の具体例や好ましい例なども本発明の水硬性組成物と同じである。
【0051】
本発明の硬化体の製造方法としては、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び(E)成分を含む成分を混合して水硬性組成物を得る工程であって、(D)成分を、(B)成分100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下で混合する、工程(I)と、
該水硬性組成物を養生して硬化体を得る工程(II)と、
を含む、硬化体の製造方法が挙げられる。(A)~(E)成分は、本発明の水硬性組成物と同じである。
【0052】
工程(1)における(A)~(E)成分の混合量は、それぞれ、本発明の水硬性組成物で述べた含有量から選択できる。
工程(I)で得られる水硬性組成物は、本発明の水硬性組成物であってよい。
工程(I)で、(A)~(E)成分を含む成分を混合する方法、装置、条件などは特に限定されず、スラリーの調製に適したものを適宜選定できる。
【0053】
工程(II)では、工程(I)で得られた水硬性組成物を養生して硬化体を得る。工程(II)の養生は、ジオポリマーの硬化体を得る一般的な条件で行うことができる。工程(II)では、養生温度は、例えば、20℃以上、更に30℃以上、更に40℃以上、そして、80℃以下、更に70℃以下とすることができる。また、工程(II)では、養生時間は、例えば、1時間以上8日以下とすることができる。
【実施例0054】
実施例、比較例に用いた成分を以下に示す。
(A)成分:山砂(京都市城陽産、表乾比重2.54、粗粒率2.73、非晶化度1.1%、球形度0.86、平均粒径0.6mm、絶乾状態)
(B)成分:メタケイ酸ナトリウム9水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(C)成分
(C-1):高炉スラグ微粉末(ブレーン比表面積:4,200cm2/g、アルミナ/シリカモル比=0.25)
(C-2):フライアッシュ(JIS II種、ブレーン比表面積:3,500cm2/g、アルミナ/シリカモル比=0.26)
(D)成分
(D-1):炭酸水素カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(D-2):炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(D’)成分((D)成分の比較成分)
(D’-1):水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(D’-2):炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(E)成分:上水道水(和歌山市上水)
【0055】
<実施例及び比較例>
(1)水硬性組成物及びその硬化体の調製
(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、(D’)成分、(E)成分を、表1の質量部で、JIS R 5201記載のホバート式ミキサーに添加し、140rpmで180秒間混合することで、実施例及び比較例の水硬性組成物を調製した。
【0056】
(2)流動性の評価
(1)の通り調製した水硬性組成物の調製直後のモルタルフローを、JIS R 5201に準じて測定、記録した。結果を表1に示す。
【0057】
(3)強度の評価
(1)の通り調製した調製直後の水硬性組成物を用い、JSCE-F 506に準じてφ5×10cmのモルタル供試体を作成し、20℃、7日の封緘養生の後脱型し、JSCE-G 505に準じて圧縮強度試験を実施し、n=2の平均値として一軸圧縮強度(N/mm2)を記録した。結果を表1に示す。表中、(D)/[(B)100]は、(B)成分100質量部に対する(B)成分の質量部である。
【0058】
【0059】
表1からわかるように、実施例1~4は、比較例1~4に比して、優れた流動性及び強度発現性を示した。比較例2および3のように、アルカリ刺激剤として機能し得る成分を用いても、本発明の(D)成分の炭酸水素塩のように流動性と強度を両立できないことがわかる。これは、前述の通り、本発明で用いる所定量の(D)成分が、カルシウムイオンを比較的溶解度が高い炭酸水素カルシウムとして可逆的に固定化・放出することにより、水和初期の急速なC-S(A)-Hの成長に伴う水硬性スラリーとしての流動性低下を抑制しながら、材齢の経過に伴って断続的にカルシウムイオンを放出して水和反応を促進し、硬化体の強度発現性を両立させたことで得られる効果であると考察される。また、本発明の(D)成分を用いる場合でも、比較例4のように(D)/[(B)100]が本発明の範囲外であると、流動性が低下し、且つ水硬性組成物の硬化が不十分となることわかる。