(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184260
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ステータコイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/085 20060101AFI20231221BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H02K15/085
H02K3/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098312
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾沼 篤
(72)【発明者】
【氏名】水島 大介
【テーマコード(参考)】
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA09
5H603BB05
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB02
5H603CC03
5H603CD02
5H603CD05
5H603CD11
5H603CD22
5H603EE01
5H615AA01
5H615BB05
5H615PP01
5H615PP13
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS08
5H615SS09
5H615SS17
(57)【要約】
【課題】セグメントコイルと連結部材との接合強度を容易に確保することが可能なステータコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ステータコイル20の製造方法は、端部21c,22cの導体21a,22aが露出したセグメントコイル21,22を準備すること(ステップS1)と、露出した導体21a,22aの側面21d,22dの一部に対して、側面21d,22dの他の部分よりも表面粗さが大きい粗化領域31を形成すること(ステップS2)と、露出した導体21a,22aを連結部材24に圧入することによって、複数のセグメントコイル21,22を連結すること(ステップS5)と、を有する。粗化領域31を形成すること(ステップS2)は、露出した導体21a,22aが連結部材24に圧入されることにより連結部材24と接触する側面21d,22dの一部に対して、粗化領域31を形成することである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセグメントコイルと前記複数のセグメントコイルを連結する筒状の連結部材とを備え、回転電機のステータコアに巻回されるステータコイルの製造方法であって、
前記セグメントコイルの端部の絶縁被膜が剥離されて前記端部の導体が露出した前記セグメントコイルを準備することと、
露出した前記導体の側面の一部に対して、前記側面の他の部分よりも表面粗さが大きい粗化領域を形成することと、
露出した前記導体を前記連結部材に圧入することによって、前記複数のセグメントコイルを連結することと、を有し、
前記粗化領域を形成することは、露出した前記導体が前記連結部材に圧入されることにより前記連結部材と接触する前記側面の一部に対して、前記粗化領域を形成することである
ことを特徴とするステータコイルの製造方法。
【請求項2】
前記粗化領域を形成することは、前記連結部材と接触する前記側面の一部に対してレーザを照射することによって、前記粗化領域を形成することである
ことを特徴とする請求項1に記載のステータコイルの製造方法。
【請求項3】
前記セグメントコイルの前記導体は、断面形状が矩形の角線であり、
前記粗化領域は、前記角線の前記側面が成す角部に形成される
ことを特徴とする請求項2に記載のステータコイルの製造方法。
【請求項4】
前記セグメントコイルの前記導体は、断面形状が円形の丸線であり、
前記粗化領域は、前記丸線の前記側面において前記丸線の周方向に沿って間隔を空けて形成される
ことを特徴とする請求項2に記載のステータコイルの製造方法。
【請求項5】
前記側面の他の部分である非粗化領域に対して接着剤を塗布すること、を更に有する
ことを特徴とする請求項2に記載のステータコイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のステータコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ又はジェネレータ等の回転電機は、ステータコアと、ステータコアに巻回されるステータコイルとを備える。ステータコイルは、複数のセグメントコイルを連結して構成される(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、複数のセグメントコイルと、その両端に嵌合凹部が形成された連結部材であって、前記両端の嵌合凹部それぞれに前記セグメントコイルが嵌合されることで、前記セグメントコイルを連結する連結部材と、を備えるステータコイルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたステータコイルは、連結部材の篏合凹部とセグメントコイルとの真実接触面積が小さいと、両者の接触面の摩擦係数が小さくなる。これにより、特許文献1に開示されたステータコイルは、連結部材からセグメントコイルを引く抜くための抜け荷重が小さくなり、セグメントコイルと連結部材との接合強度が低下する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、セグメントコイルと連結部材との接合強度を容易に確保することが可能なステータコイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のステータコイルの製造方法は、複数のセグメントコイルと前記複数のセグメントコイルを連結する筒状の連結部材とを備え、回転電機のステータコアに巻回されるステータコイルの製造方法であって、前記セグメントコイルの端部の絶縁被膜が剥離されて前記端部の導体が露出した前記セグメントコイルを準備することと、露出した前記導体の側面の一部に対して、前記側面の他の部分よりも表面粗さが大きい粗化領域を形成することと、露出した前記導体を前記連結部材に圧入することによって、前記複数のセグメントコイルを連結することと、を有し、前記粗化領域を形成することは、露出した前記導体が前記連結部材に圧入されることにより前記連結部材と接触する前記側面の一部に対して、前記粗化領域を形成することであることを特徴とする。
【0008】
この構成により、ステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との真実接触面積を増加させることができる。したがって、ステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との接合強度を確保することができると共に、ステータコイルの電気抵抗を抑制することができる。加えて、ステータコイルの製造方法は、当該真実接触面積の増加に寄与しない部分には粗化領域を形成しないので、実効性の高い粗化領域だけに限定して粗化領域を短時間で形成することができる。よって、本発明のステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との接合強度を容易に確保することができる。
【0009】
更に好ましい態様として、前記粗化領域を形成することは、前記連結部材と接触する前記側面の一部に対してレーザを照射することによって、前記粗化領域を形成することである。
【0010】
この態様により、ステータコイルの製造方法は、連結部材と接触する導体の側面の一部を、焼きなましによって軟化させ、連結部材と凝着させ易くすることができる。したがって、ステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との真実接触面積を更に増加させることができる。加えて、レーザ照射は照射範囲を精細に制御し易いことから、ステータコイルの製造方法は、粗化領域を正確に形成することが容易となる。よって、本発明のステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との接合強度を更に容易に確保することができる。
【0011】
更に好ましい態様として、前記セグメントコイルの前記導体は、断面形状が矩形の角線であり、前記粗化領域は、前記角線の前記側面が成す角部に形成される。
【0012】
この態様により、ステータコイルの製造方法は、露出した導体の側面のうち、連結部材への圧入によって連結部材と確実に接触する部分に対して、粗化領域を形成することができる。したがって、ステータコイルの製造方法は、実効性の高い粗化領域だけに確実に限定して粗化領域を形成することができる。よって、本発明のステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との接合強度を更に容易に確保することができる。
【0013】
更に好ましい態様として、前記セグメントコイルの前記導体は、断面形状が円形の丸線であり、前記粗化領域は、前記丸線の前記側面において前記丸線の周方向に沿って間隔を空けて形成される。
【0014】
この態様により、ステータコイルの製造方法は、露出した導体の側面のうち、連結部材への圧入によって連結部材と接触する部分に対して粗化領域を形成しながら、当該粗化領域の形成に要する時間を短時間にすることができる。よって、本発明のステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との接合強度を更に容易に確保することができる。
【0015】
更に好ましい態様として、前記ステータコイルの製造方法は、前記側面の他の部分である非粗化領域に対して接着剤を塗布すること、を更に有する。
【0016】
この態様により、ステータコイルの製造方法は、セグメントコイルと連結部材との隙間が接着剤で埋まり得るので、両者の接合強度の更なる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、セグメントコイルと連結部材との接合強度を容易に確保することが可能なステータコイルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】セグメントコイルを連結する様子を説明する図。
【
図3】本実施形態のステータコイルの製造方法を示すフローチャート。
【
図4】連結部材に圧入されたセグメントコイルの導体に加わる面圧の解析結果を示す図。
【
図5】セグメントコイルに形成される粗化領域を示す図。
【
図6】セグメントコイルに形成される粗化領域の他の例を示す図。
【
図7】セグメントコイルと連結部材との接合状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。各実施形態において同一の符号を付された構成については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の機能を有し、その説明を省略する。
【0020】
[ステータの基本構成]
図1は、回転電機のステータ10の分解斜視図である。
図2は、セグメントコイル21,22を連結する様子を説明する図である。
【0021】
ステータ10は、ロータと組み合わされて回転電機を構成する。本実施形態のステータ10は、電動車両に搭載される回転電機に適用され得る。
【0022】
ステータ10は、ステータコア12と、ステータコア12に巻回されるステータコイル20と、を有する。ステータコア12は略円環状のコアバック14と、コアバック14の内周面から径方向内側に突出する複数のティース16と、に大別される。周方向に隣接するティース16間には、ステータコイル20の一部が収容される空間であるスロット18が形成されている。ステータコア12は、例えば、複数の電磁鋼板(例えばケイ素鋼板)を厚み方向に積層して形成される積層鋼板であってもよい。ステータコア12は、絶縁膜に被覆された磁性粒子をプレス成形することによって形成される圧粉磁芯であってもよい。
【0023】
ステータコイル20は、ステータコア12のティース16に巻回される。ステータコイル20の結線態様及び巻回態様は、回転電機の仕様に応じて、適宜選択され得る。ステータコイル20は、U相、V相、W相のコイルをスター結線又はデルタ結線によって結線されていてもよい。ステータコイル20は、分布巻で巻回されてもよいし、集中巻で巻回されてもよい。
【0024】
ステータコイル20は、複数のセグメントコイル21,22と、複数のセグメントコイル21,22を連結する筒状の連結部材24と、を備える。
図1では、セグメントコイル21及びセグメントコイル22だけを図示しているが、ステータコイル20は、実際にはセグメントコイル21及びセグメントコイル22以外のセグメントコイルを備える。
【0025】
セグメントコイル21,22は、ステータコイル20を取り扱いやすい長さで分けたものである。
図1に示すセグメントコイル21は、略U字状に延びる。
図1に示すセグメントコイル22は、略C字状又は略コ字状に延びる。しかしながら、セグメントコイル21,22の軸線形状は、特に限定されない。
【0026】
セグメントコイル21,22の導体21a,22aは、その軸線に直交する断面形状が矩形の角線である。特に、セグメントコイル21,22の導体21a,22aが、その軸線に直交する断面形状が長方形の平角線であってもよい。これにより、セグメントコイル21,22は、スロット18におけるステータコイル20の占積率を向上させることができると共に、ねじれ等の変形が生じ難くなり得る。
【0027】
セグメントコイル21,22は、
図2に示すように、導体21a,22aと、導体21a,22aを被覆する絶縁被膜21b,22bと、を含む。導体21a,22aは、銅(好ましくは無酸素銅)等の金属材料によって形成される。絶縁被膜21b,22bは、エナメル等の絶縁材料によって形成される。
【0028】
セグメントコイル21,22の端部21c,22cは、絶縁被膜21b,22bが剥離されて導体21a,22aが露出している。複数のセグメントコイル21,22は、各端部21c,22cがそれぞれ連結部材24に圧入されることによって連結される。すなわち、複数のセグメントコイル21,22は、露出した導体21a,22aを連結部材24の一端部又は他端部から連結部材24の内部にそれぞれ圧入することによって連結される。露出した導体21a,22aの側面21d,22dは、連結部材24の内面に接触する。露出した導体21a,22aは、先細りのテーパー形状に形成される。
【0029】
連結部材24は、その軸線方向に延びる貫通孔を有する筒部材である。連結部材24は、銅(好ましくは無酸素銅)等の金属材料によって形成される。連結部材24は、その軸線に直交する断面形状が矩形の角筒である。特に、連結部材24は、その軸線に直交する断面形状が長方形の平角筒であってもよい。連結部材24の内面の周長は、締め代を考慮して、露出した導体21a,22aの側面21d,22dの周長以下であってもよい。
【0030】
上記のように、セグメントコイル21,22を連結部材24に圧入することによって構成されたステータコイル20では、セグメントコイル21,22と連結部材24との真実接触面積が小さいと、両者の接触面の摩擦係数が小さくなる。これにより、ステータコイル20では、連結部材24からセグメントコイル21,22を引く抜くための抜け荷重が小さくなり、セグメントコイル21,22と連結部材24との接合強度が低下する可能性がある。更に、セグメントコイル21,22と連結部材24との真実接触面積が小さいと、両者の接触抵抗が大きくなる。これにより、ステータコイル20は、電気抵抗が大きくなり、電流損失が大きくなる可能性がある。
【0031】
そこで、本実施形態では、セグメントコイル21,22と連結部材24との真実接触面積を増加させるべく、
図3に示すような方法によってステータコイル20を製造する。
【0032】
[ステータコイルの製造方法]
図3は、本実施形態のステータコイル20の製造方法を示すフローチャートである。
【0033】
まず、本実施形態のステータコイル20の製造方法では、端部21c,22cの導体21a,22aが露出したセグメントコイル21,22を準備する準備工程を行う(ステップS1)。具体的には、長尺なコイル材料を所望の長さに切断し、セグメントコイル21,22を形成する。そして、セグメントコイル21,22の端部21c,22cの絶縁被膜21b,22bを、レーザ等を用いて剥離する。
【0034】
続いて、本実施形態のステータコイル20の製造方法では、導体21a,22aが露出したセグメントコイル21,22の端部21c,22cに対して、粗化領域31を形成する形成工程を行う(ステップS2)。具体的には、露出した導体21a,22aの側面21d,22dの一部に対して、側面21d,22dの他の部分よりも表面粗さが大きい粗化領域31を形成する。これにより、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、セグメントコイル21,22と連結部材24との真実接触面積を増加させることができる。粗化領域31の形成工程の詳細については、
図4~
図8を用いて後述する。
【0035】
続いて、本実施形態のステータコイル20の製造方法では、セグメントコイル21,22を屈曲又は湾曲させて所望形状に成形する成形工程を行う(ステップS3)。この成形工程は、例えば、セグメントコイル21,22を専用の金型に押しつけたり、専用のローラで曲げたりして行われる。なお、この成形工程は、ステップS1とステップS2との間に行われてもよい。
【0036】
続いて、本実施形態のステータコイル20の製造方法では、所望形状に成形されたセグメントコイル21を、スロット18に挿入してステータコア12に組み付ける組付け工程を行う(ステップS4)。スロット18に挿入されたセグメントコイル21は、その組付け状態を維持するように専用の治具によって保持される。
【0037】
続いて、本実施形態のステータコイル20の製造方法では、複数のセグメントコイル21,22を連結する連結工程を行う(ステップS5)。具体的には、セグメントコイル21の端部21cの露出した導体21aに、連結部材24に圧入する。そして、セグメントコイル22の端部22cの露出した導体22aを、連結部材24に圧入する。複数のセグメントコイル21,22が機械的及び電気的に連結される。これにより、本実施形態のステータコイル20の製造方法が終了する。
【0038】
[粗化領域の形成工程]
図4は、連結部材24に圧入されたセグメントコイル21の導体21aに加わる面圧の解析結果を示す図である。
図5は、セグメントコイル21に形成される粗化領域31を示す図である。
【0039】
上記のように、粗化領域31の形成工程では、露出した導体21a,22aの側面21d,22dの一部に対して、粗化領域31を形成する。具体的には、粗化領域31の形成工程では、露出した導体21a,22aが連結部材24に圧入されることにより連結部材24と接触する側面21d,22dの一部に対して、粗化領域31を形成する。粗化領域31は、露出した導体21a,22aの側面21d,22dの他の部分よりも表面粗さが大きい領域である。本実施形態では、粗化領域31が形成されない導体21a,22aの側面21d,22dの他の部分を、非粗化領域32とも称する。
【0040】
粗化領域31を形成する手法としては、機械加工により表面粗さを大きくしたり、エッチング等の化学的手法により表面粗さを大きくしたりする手法を採用することができる。本実施形態の粗化領域31の形成工程では、連結部材24と接触する側面21d,22dの一部に対してレーザを照射する手法を採用する。レーザ照射を採用する理由は、次の通りである。すなわち、連結部材24と接触する導体21a,22aの側面21d,22dの一部にレーザが照射されると、レーザが照射された部分の表面粗さが大きくなるだけなく、レーザが照射された部分が発熱する。すると、レーザが照射された部分は、焼きなましによって軟化し、連結部材24に圧入された際に連結部材24との密着性が向上して、連結部材24と凝着し易くなる。これにより、セグメントコイル21,22と連結部材24との真実接触面積を更に増加させることができる。加えて、レーザ照射は、その照射範囲を精細に制御し易いので、機械加工及び化学的手法に比べて、粗化領域31を正確に形成することが容易である。このような理由から、本実施形態の粗化領域31の形成工程では、連結部材24と接触する側面21d,22dの一部に対してレーザを照射することにより、粗化領域31を形成する。
【0041】
粗化領域31の表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで1.9μm以上であってもよい。非粗化領域32の表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで0.63μm以下であってもよい。粗化領域31の硬さは、例えば、ビッカース硬さで60HV以上80HV以下であってもよい。非粗化領域32の硬さは、例えば、ビッカース硬さで120HV程度であってもよい。このような表面粗さ及び硬さを有する粗化領域31を形成することにより、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、セグメントコイル21,22と連結部材24とを凝着させ易くすることができるので、両者の真実接触面積を確実に増加させることができる。
【0042】
粗化領域31の形成工程において、露出した導体21a,22aの側面21d,22dの全体に対して、粗化領域31を形成することも考えられる。しかしながら、この場合、粗化領域31の形成工程に要する時間が増加する。特に、粗化領域31の形成工程にレーザ照射を採用する場合には、レーザの照射時間及び照射エネルギが増加するので、ステータコイル20の製造方法における工数及び消費電力が大幅に増加してしまう可能性が高い。また、露出した導体21a,22aが連結部材24に圧入されることにより連結部材24と接触する側面21d,22dの部分は、
図4に示すように、側面21d,22dの全体ではなく、側面21d,22dの一部である。よって、側面21d,22dの全体に粗化領域31を形成しても、連結部材24と接触しない側面21d,22dの他の部分に形成された粗化領域31が、セグメントコイル21,22と連結部材24との真実接触面積の増加に寄与せず、無駄となる。このようなことから、本実施形態の粗化領域31の形成工程では、露出した導体21a,22aが連結部材24に圧入されることにより連結部材24と接触する側面21d,22dの一部に対して、粗化領域31を形成する。
【0043】
図5には、セグメントコイル21の端部21cにおいて露出した導体21aを、その側面21dのフラットワイズ面(面積が広い面)に正対して視た図(
図5の左図)と、その側面21dのエッジワイズ面(面積が狭い面)に正対して視た図(
図5の右図)とが示されている。セグメントコイル21の導体21aは、その軸線に直交する断面形状が矩形の角線である。この場合、粗化領域31は、
図5に示すように、角線の側面21dが成す角部21eに形成される。角部21eは、側面21dの角部21e以外の平面部と比べて、導体21aの中心軸線からの距離が長い。角部21eは、露出した導体21aが連結部材24に圧入されることにより連結部材24と接触する側面21dの一部である。粗化領域31を角部21eに形成することにより、本実施形態の粗化領域31の形成工程は、露出した導体21aの側面21dのうち、連結部材24への圧入によって連結部材24と確実に接触する部分に対して、粗化領域31を形成することができる。したがって、本実施形態の粗化領域31の形成工程は、実効性の高い粗化領域31だけに確実に限定して粗化領域31を形成することができる。
【0044】
粗化領域31の面積は、導体21aの側面21dの全面積に対して50%以下の面積であってもよい。粗化領域31の形状は、露出した導体21aの軸線方向を長手方向とし、露出した導体21aの周方向を短手方向とする長方形又は楕円形等の形状であってもよい。
【0045】
図6は、セグメントコイル21に形成される粗化領域31の他の例を示す図である。
【0046】
図6には、セグメントコイル21の端部21cにおいて露出した導体21aを、その側面21dに正対して視た図(
図6の左図)と、その先端面に正対して視た図(
図6の右図)とが示されている。
図6に示すように、セグメントコイル21の導体21aは、その軸線に直交する断面形状が円形の丸線であってもよい。この場合、粗化領域31は、導体21aである丸線の側面21dにおいて丸線の周方向に沿って間隔を空けて形成される。
図6に示すように、粗化領域31は、導体21aである丸線の周方向において互いに等間隔に離隔して配置されるように複数形成されてもよい。導体21aが丸線である場合、導体21aの側面21dの全体が連結部材24への圧入によって連結部材24と接触する可能性がある。しかしながら、本実施形態の粗化領域31の形成工程では、導体21aである丸線の側面21dの一部に粗化領域31を形成する。これにより、本実施形態の粗化領域31の形成工程は、露出した導体21aの側面21dのうち、連結部材24への圧入によって連結部材24と接触する部分に対して粗化領域31を形成しながら、当該工程に要する時間を短時間にすることができる。
【0047】
図6に示す粗化領域31の面積は、
図5に示す粗化領域31と同様に、導体21aの側面21dの全面積に対して50%以下の面積であってもよい。
図6に示す粗化領域31の形状は、
図5に示す粗化領域31と同様に、露出した導体21aの軸線方向を長手方向とし、露出した導体21aの周方向を短手方向とする長方形又は楕円形等の形状であってもよい。
【0048】
なお、
図5及び
図6を用いた上記の説明では、セグメントコイル21を例に挙げて説明したが、セグメントコイル22も同様である。
【0049】
図7は、セグメントコイル21,22と連結部材24との接合状態を示す図である。
図8は、
図7に示す要部Aの拡大図である。
【0050】
図7及び
図8は、本実施形態のステータコイル20の製造方法によって製造されたステータコイル20の連結部材24付近の断面写真である。
図8には、セグメントコイル21,22と連結部材24とが凝着している部位である凝着部位Bの一例が示されている。本実施形態のステータコイル20の製造方法は、
図8に示すような凝着部位Bを生成することができるので、セグメントコイル21と連結部材24との十分な接合強度を確保可能であることが分かる。
【0051】
以上のように、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、複数のセグメントコイル21,22と、複数のセグメントコイル21,22を連結する筒状の連結部材24とを備え、回転電機のステータコア12に巻回されるステータコイルの製造方法である。本実施形態のステータコイル20の製造方法は、セグメントコイル21,22の端部21c,22cの絶縁被膜21b,22bが剥離されて端部21c,22cの導体21a,22aが露出したセグメントコイル21,22を準備すること(ステップS1)と、露出した導体21a,22aの側面21d,22dの一部に対して、側面21d,22dの他の部分よりも表面粗さが大きい粗化領域31を形成すること(ステップS2)と、露出した導体21a,22aを連結部材24に圧入することによって、複数のセグメントコイル21,22を連結すること(ステップS5)と、を有する。粗化領域31を形成すること(ステップS2)は、露出した導体21a,22aが連結部材24に圧入されることにより連結部材24と接触する側面21d,22dの一部に対して、粗化領域31を形成することである。
【0052】
これにより、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、セグメントコイル21,22と連結部材24との真実接触面積を増加させることができる。したがって、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、セグメントコイル21,22と連結部材24との接合強度を確保することができると共に、ステータコイル20の電気抵抗を抑制することができる。加えて、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、当該真実接触面積の増加に寄与しない部分には粗化領域31を形成しないので、実効性の高い粗化領域31だけに限定して粗化領域31を短時間で形成することができる。よって、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、セグメントコイル21,22と連結部材24との接合強度を容易に確保することができる。
【0053】
なお、ステータコイル20の非粗化領域32には、接着剤が塗布されていてもよい。すなわち、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、非粗化領域32に対して接着剤を塗布する塗布工程を有していてもよい。これにより、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、セグメントコイル21,22と連結部材24との隙間が接着剤で埋まり得るので、両者の接合強度の更なる向上を図ることができる。
【0054】
接着剤の塗布工程は、
図3に示すステップS4とステップS5との間に行われてもよい。接着剤は、導電性の接着剤でもよいし、非導電性の接着剤でもよい。接着剤は、例えば、エポキシ樹脂系の接着剤であってもよい。この場合、本実施形態のステータコイル20の製造方法は、
図3に示すステップS5の後に、少なくともステータコイル20の連結部材24付近を加熱して接着剤を硬化させる硬化工程を有していてもよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更を行うことができる。本発明は、或る実施形態の構成を他の実施形態の構成に追加したり、或る実施形態の構成を他の実施形態と置換したり、或る実施形態の構成の一部を削除したりすることができる。
【符号の説明】
【0056】
10…ステータ、12…ステータコア、20…ステータコイル、21,22…セグメントコイル、21a,22a…導体、21b,22b…絶縁被膜、21c,22c…端部、21d,22d…側面、21e…角部、31…粗化領域、32…非粗化領域、24…連結部材