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特開2023-184278アルカリ金属イオン伝導体、アルカリ金属イオン電池、及び、アルカリ金属イオン伝導体の製造方法
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  • 特開-アルカリ金属イオン伝導体、アルカリ金属イオン電池、及び、アルカリ金属イオン伝導体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184278
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】アルカリ金属イオン伝導体、アルカリ金属イオン電池、及び、アルカリ金属イオン伝導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20231221BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20231221BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231221BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231221BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/056
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01B1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098343
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA16
5G301CD01
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H029DJ08
5H029EJ11
5H029HJ02
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA11
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】アルカリ金属イオン伝導体であって、低い温度で液体としての挙動を示すものを開示する。
【解決手段】本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、塩を含み、前記塩が、第1カチオン、第2カチオン及び第1アニオンを有し、前記第1カチオンが、5以上のアルキル鎖長を有するテトラアルキルアンモニウムイオンであり、前記第2カチオンが、アルカリ金属イオンであり、前記第1アニオンが、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンであるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオン伝導体であって、塩を含み、
前記塩が、第1カチオン、第2カチオン及び第1アニオンを有し、
前記第1カチオンが、5以上のアルキル鎖長を有するテトラアルキルアンモニウムイオンであり、
前記第2カチオンが、アルカリ金属イオンであり、
前記第1アニオンが、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンである、
アルカリ金属イオン伝導体。
【請求項2】
前記アルカリ金属イオンが、リチウムイオンである、
請求項1に記載のアルカリ金属イオン伝導体。
【請求項3】
前記塩が、第2アニオンを有し、
前記第2アニオンが、スルホニルアミドアニオン及びHを含む錯イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンである、
請求項1に記載のアルカリ金属イオン伝導体。
【請求項4】
アルカリ金属イオン電池であって、正極、電解質層及び負極を有し、
前記正極、前記電解質層及び前記負極のうちの少なくとも1つが、請求項1~3のいずれか1項に記載のアルカリ金属イオン伝導体を含む、
アルカリ金属イオン電池。
【請求項5】
アルカリ金属イオン伝導体の製造方法であって、
少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウム塩と、少なくとも1種のアルカリ金属塩とを混合すること、を含み、
前記テトラアルキルアンモニウム塩は、5以上のアルキル鎖長を有し、且つ、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1アニオンを有する、
製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属塩が、リチウム塩である、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ金属塩が、スルホニルアミドアニオン及びHを含む錯イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2アニオンを有する、
請求項5又は6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、アルカリ金属イオン伝導体、アルカリ金属イオン電池、及び、アルカリ金属イオン伝導体の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次電池の固体電解質層を構成する固体電解質として、リチウム塩と、硫化物固体電解質と、所定の弾性率比を備えた有機電解質と、を含むものが開示されている。特許文献1に開示された有機電解質は、加熱した場合に、損失弾性率に対する貯蔵弾性率の比が1未満まで低下する性質を有する。特許文献1においては、リチウム塩と、硫化物固体電解質と、有機電解質とを含む固体電解質層を加熱することで、温度の上昇に伴って当該有機電解質が固体としての挙動から液体としての挙動を示すようになり、当該有機電解質が硫化物固体電解質と馴染むことで、イオン伝導度が向上する。一方で、特許文献2~4には、電解液に対する添加剤としての各種塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-198270号公報
【特許文献2】特開2018-133285号公報
【特許文献3】特開2004-103558号公報
【特許文献4】特開平2-114464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された有機電解質は、液体としての挙動を示す温度が高い。このような有機電解質を各種電気化学デバイスに使用した場合、デバイスの加熱のために製造コストが高くなったり、デバイスの加熱によってデバイスの性能が下がったりする虞がある。このような問題に鑑み、本願は、アルカリ金属イオン伝導体であって、液体としての挙動を示す温度が低いものを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
アルカリ金属イオン伝導体であって、塩を含み、
前記塩が、第1カチオン、第2カチオン及び第1アニオンを有し、
前記第1カチオンが、5以上のアルキル鎖長を有するテトラアルキルアンモニウムイオンであり、
前記第2カチオンが、アルカリ金属イオンであり、
前記第1アニオンが、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンである、
アルカリ金属イオン伝導体。
<態様2>
前記アルカリ金属イオンが、リチウムイオンである、
態様1のアルカリ金属イオン伝導体。
<態様3>
前記塩が、第2アニオンを有し、
前記第2アニオンが、スルホニルアミドアニオン及びHを含む錯イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンである、
態様1又は2のアルカリ金属イオン伝導体。
<態様4>
アルカリ金属イオン電池であって、正極、電解質層及び負極を有し、
前記正極、前記電解質層及び前記負極のうちの少なくとも1つが、態様1~3のいずれかのアルカリ金属イオン伝導体を含む、
アルカリ金属イオン電池。
<態様5>
アルカリ金属イオン伝導体の製造方法であって、
少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウム塩と、少なくとも1種のアルカリ金属塩とを混合すること、を含み、
前記テトラアルキルアンモニウム塩は、5以上のアルキル鎖長を有し、且つ、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1アニオンを有する、
製造方法。
<態様6>
前記アルカリ金属塩が、リチウム塩である、
態様5の製造方法。
<態様7>
前記アルカリ金属塩が、スルホニルアミドアニオン及びHを含む錯イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2アニオンを有する、
態様5又は6の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、アルカリ金属イオン伝導性を有し、且つ、低い温度で液体としての挙動を示す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】アルカリ金属イオン電池の構成を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.アルカリ金属イオン伝導体
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、塩を含む。前記塩は、第1カチオン、第2カチオン及び第1アニオンを有する。前記第1カチオンは、5以上のアルキル鎖長を有するテトラアルキルアンモニウムイオンである。前記第2カチオンは、アルカリ金属イオンである。前記第1アニオンは、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンである。
【0009】
1.1 カチオン及びアニオン
塩は、上記のカチオン及びアニオンを有するものであればよい。塩は、上記のカチオン及びアニオンを有する混合塩であってよい。混合塩とは、複数種類の塩が混合されたものをいい、複数種類のカチオン及び/又は複数種類のアニオンが組み合わされた塩をいう。
【0010】
1.1.1 第1カチオン
本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩は、第1カチオンとして、5以上のアルキル鎖長を有するテトラアルキルアンモニウムイオンを有する。第1カチオンは、以下の化学式(1)で示される構造を有する。本発明者の新たな知見によれば、第1カチオンが、5以上のアルキル鎖長を有し、且つ、後述の第2カチオン及び第1アニオンとともに塩を構成した場合、当該塩の融解温度が大きく低下する。
【0011】
【化1】
ここで、R、R、R及びRは、各々独立して、5以上のアルキル鎖長を有するアルキル基である。R、R、R及びRは、互いに同じアルキル基であってもよい。
【0012】
「アルキル鎖長」とは、アルキル基の炭素鎖の最大長さをいう。すなわち、第1カチオンを構成するアルキル基は、その最も長い鎖(長鎖)の炭素数が5以上であればよい。第1カチオンを構成するアルキル基は、5以上のアルキル鎖長を有する直鎖のアルキル基であってもよいし、5以上のアルキル鎖長を有する長鎖と、当該長鎖に連結した分岐鎖とを有するアルキル基であってもよい。
【0013】
第1カチオンのアルキル鎖長は、5以上であり、6以上、7以上又は8以上であってもよい。当該アルキル鎖長の上限は特に限定されるものではなく、カチオンとして存在し得るアルカリ鎖長であればよい。当該アルキル鎖長は、例えば、20以下、15以下又は10以下であってもよい。直鎖のアルキル基を有する第1カチオンの具体例としては、例えば、テトラペンチルアンモニウムイオン(テトラアミルアンモニウムイオン)、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、テトラノニルアンモニウムイオン、及び、テトラデシルアンモニウムイオンなどが挙げられる。第1カチオンは1種のみであってもよいし、2種以上が組み合わされてもよい。
【0014】
1.1.2 第2カチオン
本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩は、第2カチオンとして、アルカリ金属イオンを有する。アルカリ金属イオンの種類は、伝導させるキャリアイオンの種類に応じて決定されればよい。例えば、本開示のアルカリ金属イオン伝導体がリチウムイオン電池に用いられるものである場合、第2カチオンとしてのアルカリ金属イオンはリチウムイオンであってもよい。すなわち、アルカリ金属塩が、アルカリ金属イオン電池におけるキャリアイオンと同種のカチオンを含むことで、アルカリ金属イオン電池の性能が一層高まり易い。第2カチオンは1種のみであってもよいし、2種以上が組み合わされてもよい。
【0015】
1.1.3 その他のカチオン
塩を構成するカチオンは、上記の第1カチオン及び第2カチオンのみからなるものであってもよいし、所望の効果が発揮される範囲内で、その他のカチオンを含むものであってもよい。その他のカチオンとしては、例えば、貧金属元素を含むイオンが挙げられる。貧金属としては、例えば、AlやGaなどが挙げられる。本開示のアルカリ金属イオン伝導体による効果が一層高まる観点からは、塩を構成するカチオン全体に占める上記の第1カチオン及び第2カチオンの合計の割合が、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上又は100モル%であってもよい。
【0016】
1.1.4 カチオンについてのモル比
塩を構成する第1カチオンと第2カチオンとのモル比は特に限定されるものではない。塩が、第1カチオンと第2カチオンとを含む場合、各々を単独で含む場合と比較して、塩の融点が低下する。塩の融点を大きく低下させる観点、及び、アルカリ金属イオン伝導性を一層高める観点などから、第1カチオンに対する第2カチオンのモル比(第2カチオン/第1カチオン)は、0.05以上19.0以下であってもよい。当該モル比は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、又は、1.0以上であってもよく、10.0以下、9.5以下、9.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.5以下、6.0以下、5.5以下、又は、5.0以下であってもよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体においては、塩を構成する第1カチオンに対する第2カチオンのモル比が1.0以上(例えば、全カチオンに占めるアルカリ金属イオンの濃度が50モル%以上)と高濃度であったとしても、当該塩の融解温度が室温付近となり得る。
【0017】
1.1.5 第1アニオン
本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩は、第1アニオンとして、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを有する。本発明者の新たな知見によると、アルカリ金属イオン伝導体を構成する塩が上記の第1アニオンを有する場合、当該塩の融解温度が特異的に低下する。すなわち、当該塩は、低い温度で液体としての挙動を示すものとなる。
【0018】
1.1.6 第2アニオン
本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩は、第2アニオンを有していてもよい。第2アニオンは、第1アニオンとは異なる種類のアニオンである。第2アニオンは、例えば、スルホニルアミドアニオン及びHを含む錯イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンであってもよい。
【0019】
スルホニルアミドアニオンとしては、例えば、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン(TFSAアニオン、(CFSO)、フルオロスルホニルアミドアニオン(FSAアニオン、(FSO)といった左右対称アニオンや、フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(FTAアニオン、FSO(CFSO)N)といった左右非対称アニオン等が挙げられる。スルホニルアミドアニオンは、1種のみであってもよいし、2種以上が組み合わされてもよい。尚、上記のスルホニルアミドアニオンのうち、TFSAアニオンは、極性が低く、他の材料との反応性が特に低い。例えば、本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩がスルホニルアミドアニオンを有する場合、当該スルホニルアミドアニオンがTFSAアニオンであると、塩と後述の硫化物固体電解質との反応が一層抑制され易い。
【0020】
Hを含む錯イオンは、例えば、非金属元素及び金属元素のうちの少なくとも一方を含む元素Mと、当該元素Mに結合したHと、を有するものであってもよい。また、Hを含む錯イオンは、中心元素としての元素Mと、当該元素Mを取り巻くHとが共有結合を介して互いに結合していてもよい。また、Hを含む錯イオンは、(Mα-で表されるものであってもよい。この場合のmは任意の正の数字であり、nやαはmや元素Mの価数等に応じて任意の正の数字を採り得る。元素Mは錯イオンを形成し得る非金属元素や金属元素であればよい。例えば、元素Mは、非金属元素としてB、C及びNのうちの少なくとも1つを含んでいてもよく、Bを含んでいてもよい。また、例えば、元素Mは、金属元素として、Al、Ni及びFeのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。特に錯イオンがBを含む場合や、C及びBを含む場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。Hを含む錯イオンの具体例としては、(CB10、(CB1112、(B10102-、(B12122-、(BH、(NH、(AlH、及び、これらの組み合わせが挙げられる。特に、(CB10、(CB1112、又は、これらの組み合わせを用いた場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。
【0021】
1.1.7 その他のアニオン
塩を構成するアニオンは、上記の第1アニオンのみであってもよいし、上記の第1アニオン及び第2アニオンのみであってもよいし、所望の効果が発揮される範囲内で、その他のアニオンを含むものであってもよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体による効果が一層高まる観点からは、塩を構成するアニオン全体に占める第1アニオン及び第2アニオンの合計割合が50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上又は100モル%であってもよい。
【0022】
1.1.8 アニオンについてのモル比
第1アニオンと第2アニオンとのモル比は特に限定されるものではない。第1アニオンに対する第2アニオンのモル比(第2アニオン/第1アニオン)は、0.05以上19.0以下であってもよい。当該モル比は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、又は、0.5以上であってもよく、10.0以下、9.5以下、9.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.5以下、6.0以下、5.5以下、又は、5.0以下であってもよい。
【0023】
1.2 塩の融解温度
上述の第1カチオン及び第2カチオンと、第1アニオンとを有する塩は、低い温度で液体としての挙動を示し、すなわち、低い温度で融解する。言い換えれば、当該塩は、イオン液体のような挙動を示す。本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩の融解温度は、例えば、40℃以下、30℃以下、又は、20℃以下であってもよい。
【0024】
1.3 塩の粘度
本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩は、上述の通り、低い温度で融解する。融解した塩は、高い粘度を有することが好ましい。例えば、当該塩の25℃における粘度は、10000mPa・s以上であってもよい。塩がこのような粘度を有する場合、塩が電池に適用された際に、電極や電解質層の内部に塩が留まり易い。
【0025】
1.4 塩以外の成分
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、上記の塩のみによって構成されていてもよいし、上記の塩とともにその他の電解質などが組み合わされたものであってもよい。例えば、本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、上記の塩と固体電解質との組み合わせであってもよい。例えば、固体電解質の隙間や割れ部分に塩が充填されることで、優れたイオン伝導性が確保され得る。固体電解質は、例えば、電池の固体電解質として用いられるものをいずれも採用可能である。固体電解質は、構成元素として少なくともアルカリ金属とSとを含む硫化物固体電解質であってもよい。この場合、固体電解質を構成するアルカリ金属は、伝導させるキャリアイオンの種類に応じて決定されればよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体がリチウムイオン電池に適用されるものである場合、硫化物固体電解質はアルカリ金属としてリチウムを含み得る。特に、構成元素として、少なくとも、Li、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高く、LiPS骨格をベースとし、少なくとも1種類以上のハロゲンを含む硫化物固体電解質の性能も高い。硫化物固体電解質の一例としては、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等が挙げられる。硫化物固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。硫化物固体電解質は例えば粒子状であってもよい。硫化物固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0026】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体が、上記の塩とともに硫化物固体電解質を含む場合、硫化物固体電解質と塩との質量比は特に限定されるものではない。例えば、硫化物固体電解質と塩との合計を100質量%として、硫化物固体電解質の割合が40質量%以上100質量%未満、50質量%以上100質量%未満、60質量%以上100質量%未満、70質量%以上100質量%未満、又は、80質量%以上100質量%未満であってもよく、塩の割合が0質量%超60質量%以下、0質量%超50質量%以下、0質量%超40質量%以下、0質量%超30質量%以下、又は、0質量%超20質量%以下であってもよい。
【0027】
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、上記の塩と、任意の硫化物固体電解質と、その他の成分とが組み合わされてもよい。その他の成分としては、アルカリ金属イオン伝導体の具体的な用途に応じて適宜決定され得る。例えば、アルカリ金属イオン伝導体がアルカリ金属イオン電池の電極材料として用いられる場合、アルカリ金属イオン伝導体とともに、活物質、導電助剤及びバインダー等が組み合わされてもよい。また、アルカリ金属イオン伝導体がアルカリ金属イオン電池の電解質層を構成する材料として用いられる場合、アルカリ金属イオン伝導体とともにバインダー等が組み合わされてもよい。アルカリ金属イオン伝導体は、上記の塩と、任意の硫化物固体電解質と、その他の電解質(硫化物固体電解質以外の固体電解質や液体電解質)とを含んでいてもよい。さらに、本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
1.5 用途
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、各種の電解化学デバイスにおけるアルカリ金属イオン伝導材料として採用され得る。本開示のアルカリ金属イオン伝導体によれば、例えば、従来においてイオン液体とはなり得なかった成分組成に対して、上記の塩が添加剤として添加された場合、低融点化により室温で液体状態が保たれる可能性がある。また、電解液等に対して上記の塩が添加されることで、電解液中のアルカリ金属塩濃度を高めることができ、電解液の電気化学安定性やアルカリイオンの輸送特性が向上する可能性がある。以下、本開示のアルカリ金属イオン伝導体が適用される電気化学デバイスの一例として、アルカリ金属イオン電池について詳述する。
【0029】
2.アルカリ金属イオン電池
図1に示されるように、一実施形態に係るアルカリ金属イオン電池100は、正極10、電解質層20及び負極30を有する。ここで、正極10、電解質層20及び負極30のうちの少なくとも1つが、上記の本開示のアルカリ金属イオン伝導体を含む。上述の通り、本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩は、液体としての挙動を示す温度(融解温度)が低い。そのため、例えば、電池の製造時に、当該塩が電極や電解質層の隙間を埋めることから、電極や電解質層における充填率が高まり易い。また、電池の使用時等において電極や電解質層に割れや剥離等が生じたとしても、割れ部分や剥離部分に塩が充填されることで、割れや剥離による隙間を解消することができ、イオン伝導パスの途切れ等が生じ難い。この点、アルカリ金属イオン電池100の正極10、電解質層20及び負極30のうちの少なくとも1つに本開示のアルカリ金属イオン伝導体が含まれることで、アルカリ金属イオン電池100の性能が高まり易い。尚、アルカリ金属イオン電池100には、上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体が液体として含まれ得るが、これとともに、固体電解質、その他の液体電解質或いは液体添加剤が併用されてもよい。アルカリ金属イオン電池100は、例えば、固体電解質と液体とを含むものであってもよく、固体電解質と当該固体電解質の周囲に存在する本開示のアルカリ金属イオン伝導体とを含むものであってもよい。
【0030】
2.1 正極
図1に示されるように、一実施形態に係る正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってよく、この場合、正極活物質層11が上記のアルカリ金属イオン伝導体を含み得る。
【0031】
2.1.1 正極活物質層
正極活物質層11は、正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、正極活物質層11はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層11が上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体を電解質として含むものである場合、正極活物質層11は、当該アルカリ金属イオン伝導体に加えて、正極活物質を含み、さらに任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー、各種の添加剤を含み得る。正極活物質層11における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層11全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0032】
正極活物質としてはアルカリ金属イオン電池の正極活物質として公知のものを用いればよい。公知の活物質のうち、所定のイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が、後述の負極活物質のそれよりも貴な電位を示す物質を正極活物質として用いることができる。例えば、リチウムイオン電池を構成する場合は、正極活物質としてコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、マンガンニッケルコバルト酸リチウム、スピネル系リチウム化合物等の各種のリチウム含有複合酸化物を用いてもよいし、リチウム含有複合酸化物以外の酸化物系活物質を用いてもよいし、或いは、単体硫黄や硫黄化合物などの硫黄系活物質を用いてもよい。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。正極活物質の粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよく、空隙を有する粒子であってもよい。正極活物質の粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質の粒子の平均粒子径は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。
【0033】
正極活物質の表面は、イオン伝導性酸化物を含有する保護層によって被覆されていてもよい。すなわち、正極活物質層11には、上記の正極活物質と、その表面に設けられた保護層と、を備える複合体が含まれていてもよい。これにより、正極物活物質と硫化物(例えば、上述の硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。電池がリチウムイオン電池である場合、正極活物質の表面を被覆・保護するイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiBO、LiBO、LiCO、LiAlO、LiSiO、LiSiO、LiPO、LiSO、LiTiO、LiTi12、LiTi、LiZrO、LiNbO、LiMoO、LiWOが挙げられる。保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0034】
正極活物質層11に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0035】
固体電解質は、アルカリ金属イオン電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、上述の硫化物固体電解質のほか、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlGe2-X(PO、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質を例示することができる。特に、硫化物固体電解質、中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0036】
電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのアルカリ金属イオンを含み得る。電解液は、例えば、非水系電解液であってもよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にアルカリ金属塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、六フッ化リン酸塩等が挙げられる。
【0037】
正極活物質層11に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0038】
正極活物質層11に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、ポリアクリル酸系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0039】
2.1.2 正極集電体
図1に示されるように、正極10は、上記の正極活物質層11と接触する正極集電体12を備えていてもよい。正極集電体12は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体12は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体12は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体12は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体12を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体12がAlを含むものであってもよい。正極集電体12は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体12は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体12が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体12の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0040】
正極10は、上記構成に加えて、アルカリ金属イオン電池の正極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。正極10は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む正極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層11を容易に形成可能である。正極活物質層11は、正極集電体12とともに成形されてもよいし、正極集電体12とは別に成形されてもよい。
【0041】
2.2 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。電解質層20は、固体電解質を含んでいてもよく、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。電解質層20が上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体を電解質として含むものである場合、電解質層20は、当該アルカリ金属イオン伝導体に加えて、その他の電解質、バインダー及び各種添加剤をさらに含んでいてもよい。この場合、電解質層20における電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。或いは、電解質層20は、電解液を含むものであってもよく、さらに、当該電解液を保持するとともに、正極活物質層11と負極活物質層31との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0042】
電解質層20に含まれる電解質としては、上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体や、上述の正極活物質層に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。アルカリ金属イオン電池が電解液電池である場合、当該電解液を保持するためのセパレータは、アルカリ金属イオン電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0043】
2.3 負極
図1に示されるように、一実施形態に係る負極30は、負極活物質層31と負極集電体32とを備えるものであってよく、この場合、負極活物質層31が上記のアルカリ金属イオン伝導体を含み得る。
【0044】
2.3.1 負極活物質層
負極活物質層31は、負極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤、バインダー等を含んでいてもよい。さらに、負極活物質層31はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質層31が上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体を電解質として含むものである場合、負極活物質層31は、当該アルカリ金属イオン伝導体に加えて、負極活物質を含み、さらに任意に、その他の電解質、導電助剤、バインダー、各種の添加剤を含み得る。負極活物質層31における負極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層31全体(固形分全体)を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%未満又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層31の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。負極活物質層31の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0045】
負極活物質としては、所定のイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記の正極活物質と比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が採用され得る。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。負極活物質の形状は、アルカリ金属イオン電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質はリチウム箔等のシート状(箔状、膜状)であってもよい。すなわち、負極活物質層31が負極活物質のシートからなるものであってもよい。
【0046】
負極活物質層31に含まれ得る電解質としては、上記本開示のアルカリ金属イオン伝導体、上述の固体電解質、電解液又はこれらの組み合わせが挙げられる。負極活物質層31に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料が挙げられる。負極活物質層31に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層11に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0047】
2.3.2 負極集電体
図1に示されるように、負極30は、上記の負極活物質層31と接触する負極集電体32を備えていてもよい。負極集電体32は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体32は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体32は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体32は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体32を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びアルカリ金属と合金化し難い観点から、負極集電体32がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体32は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体32は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体32が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体32の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0048】
負極30は、上記構成に加えて、アルカリ金属イオン電池の負極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。負極30は、公知の方法を応用することにより製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む負極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって負極活物質層31を容易に形成可能である。負極活物質層31は、負極集電体32とともに成形されてもよいし、負極集電体32とは別に成形されてもよい。
【0049】
2.4 その他の事項
アルカリ金属イオン電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数のアルカリ金属イオン電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。アルカリ金属イオン電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。アルカリ金属イオン電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0050】
アルカリ金属イオン電池100は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、アルカリ金属イオン電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて正極層用スラリーを正極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。
(2)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。ドクターブレード等を用いて負極層用スラリーを負極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。
(3)負極と正極とで電解質層(固体電解質層又はセパレータ)を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容し、電解液電池の場合は電池ケース内に電解液を充填し、積層体を電解液に浸漬するようにして、電池ケース内に積層体を密封することで、アルカリ金属イオン電池とする。尚、電解液を含む電池の場合に上記(3)の段階で負極活物質層、セパレータ及び正極活物質層に電解液を含ませてもよい。電解液として本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩が用いられてもよい。
【0051】
3.アルカリ金属イオン伝導体の製造方法
本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、例えば、複数種類の塩を混合することによって製造することができる。具体的には、本開示のアルカリ金属イオン伝導体の製造方法は、少なくとも1種のテトラアルキルアンモニウム塩と、少なくとも1種のアルカリ金属塩とを混合すること、を含むものであってよく、この場合、前記テトラアルキルアンモニウム塩が、5以上のアルキル鎖長を有し、且つ、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンのうちの少なくとも1種の第1アニオンを有するものであってよい。本開示のアルカリ金属イオン伝導体は、固体であるテトラアルキルアンモニウム塩と固体であるリチウム塩との混合物であって、混合直後に融解するようなものであってよい。
【0052】
3.1 テトラアルキルアンモニウム塩
テトラアルキルアンモニウム塩は、上述の第1カチオンとしてのテトラアルキルアンモニウムイオンと、第1アニオンとしての臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンのうちの少なくとも1種とを有する。第1カチオン及び第1アニオンの詳細については、上述した通りである。
【0053】
3.2 アルカリ金属塩
アルカリ金属塩は、上述の第2カチオンとしてのアルカリ金属イオンを有する。アルカリ金属塩は、例えば、リチウム塩であってもよい。アルカリ金属塩を構成するアニオンは、上述の第1アニオンであってもよいし、第1アニオンとは異なる第2アニオンであってもよい。例えば、アルカリ金属塩は、スルホニルアミドアニオン及びHを含む錯イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2アニオンを有していてもよい。第2アニオンの詳細については、上述した通りである。
【0054】
3.3 混合比
テトラアルキルアンモニウム塩とアルカリ金属塩との混合比は、特に限定されるものではない。例えば、混合後において、第1カチオンに対する第2カチオンのモル比(第2カチオン/第1カチオン)が、0.05以上19.0以下となるような混合比で混合してもよい。当該モル比は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、又は、1.0以上であってもよく、10.0以下、9.5以下、9.0以下、8.5以下、8.0以下、7.5以下、7.0以下、6.5以下、6.0以下、5.5以下、又は、5.0以下であってもよい。
【0055】
3.4 混合手段
本開示のアルカリ金属イオン伝導体を構成する塩は、上記のテトラアルキルアンモニウム塩とアルカリ金属塩とを接触させるだけで、混合塩となって融解し得る。接触温度は40℃以下、30℃以下又は20℃以下であってもよい。混合手段は特に限定されるものではなく、各種の機械的混合手段等が採用され得る。
【実施例0056】
以上の通り、本開示のアルカリ金属イオン伝導体、アルカリ金属イオン電池及びアルカリ金属イオン伝導体の製造方法の一実施形態について説明したが、本開示のアルカリ金属イオン伝導体、アルカリ金属イオン電池及びアルカリ金属イオン伝導体の製造方法は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
1.混合塩の作製
下記表1に示される有機塩と、下記表1に示されるアルカリ金属塩としてのリチウム塩とを、有機カチオンとリチウムイオンとのモル比(有機カチオン:リチウムイオン)が下記表1に示されるモル比となるように、乳鉢で混合して混合塩を得た。
【0058】
2.融解温度の確認
得られた混合塩をガラススクリュー瓶に入れ、瓶の周囲を金属製の保温カバーで覆った状態で、ホットプレート上に乗せた。ホットプレートの温度を10℃ずつ上昇させ、各温度で15分保持しながら、混合塩が完全に溶ける温度になるまで温度上昇を続けた。混合塩が完全に溶けた温度を、混合塩の融解温度として特定した。結果を下記表1に示す。尚、乳鉢で混合した時点で融解したものについては、融解温度は20℃未満である。
【0059】
3.リチウムイオン伝導度の測定
一部の混合塩について、25℃におけるイオン伝導度を測定した。具体的には、PEEK製の電解液伝導度測定セルに、混合塩を流し込み、両端SUS電極の状態で室温インピーダンスから求まった抵抗値と、形状係数とからイオン伝導度を算出した。結果を下記表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示される各カチオン及びアニオンの詳細については以下の通りである。尚、実施例11のリチウム塩は、カチオンとしてリチウムイオン及びガリウムイオンを有し、アニオンとして塩素イオン及びヨウ素イオンを有するものである。また、実施例12~14のリチウム塩は、カチオンとしてリチウムイオンを有し、アニオンとしてHを含む錯イオンである(CB10や(CB1112を有するものである。また、実施例15のリチウム塩は、カチオンとしてリチウムイオン及びアルミニウムイオンを有し、アニオンとして塩素イオン及びヨウ素イオンを有するものである。
【0062】
(カチオン)
THA:テトラヘキシルアンモニウムイオン、N(C13
TOA:テトラオクチルアンモニウムイオン、N(C17
TBA:テトラブチルアンモニウムイオン、N(C
TEA:テトラエチルアンモニウムイオン、N(C
TAmA:テトラアミルアンモニウムイオン、N(C11
TDcA:テトラデシルアンモニウムイオン、N(C1021
EDMPhE:エチルジメチルフェニルエチルイオン、N(CH(C)(C
PP13 :1-メチル-1-プロピルピペリジニウムイオン、(CH)(C)N(C10
AmTEA:アミルトリエチルアンモニウムイオン、N(C(C11
MTOA:メチルトリオクチルアンモニウムイオン、N(CH)(C17
【0063】
(アニオン)
TFSA:トリフルオロメタンスルホニルアミドイオン、(CFSO
Br:臭素イオン
:ヨウ素イオン
Cl:塩素イオン
HSO :硫酸水素イオン
【0064】
尚、上記の実施例では、アルカリ金属塩としてリチウム塩を採用した場合を例示したが、アルカリ金属塩の種類はこれに限定されない。テトラアルキルアンモニウム塩による融点低下の効果は、アルカリ金属種によらず発揮されるものと考えられる。すなわち、本開示の技術は、リチウム塩を含むリチウムイオン伝導体のほか、ナトリウム塩を含むナトリウムイオン伝導体やカリウム塩を含むカリウムイオン伝導体といった、各種のアルカリ金属イオン伝導体しても適用可能と考えられる。
【0065】
4.評価結果
以上の結果から、以下の要件を満たす塩(混合塩)を含むアルカリ金属イオン伝導体は、リチウムイオン伝導性を有し、且つ、液体としての挙動を示す温度(融解温度)が低いものといえる。
【0066】
(1)前記塩が、第1カチオン、第2カチオン及び第1アニオンを有すること。
(2)前記第1カチオンが、5以上のアルキル鎖長を有するテトラアルキルアンモニウムイオンであること。
(3)前記第2カチオンが、アルカリ金属イオンであること。
(4)前記第1アニオンが、臭素イオン、塩素イオン及び硫酸水素イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンであること。
【符号の説明】
【0067】
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 アルカリ金属イオン電池
図1