(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184306
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】E-カドヘリンの発現の制御による美容方法、及びE-カドヘリン発現に基づきシミを予測する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/96 20060101AFI20231221BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20231221BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20231221BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20231221BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231221BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231221BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231221BHJP
A61K 36/738 20060101ALI20231221BHJP
A61K 36/73 20060101ALI20231221BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20231221BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K8/96
C12Q1/6876 Z ZNA
A61Q19/02
A61K8/9789
A61P43/00 105
A61P17/00
A61K45/00
A61K36/738
A61K36/73
A61K36/28
A61P43/00 111
G01N33/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098376
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】矢野(成田) 智美
(72)【発明者】
【氏名】井上 大悟
(72)【発明者】
【氏名】石川 景子
(72)【発明者】
【氏名】小野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】青木 宏文
【テーマコード(参考)】
4B063
4C083
4C084
4C088
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS34
4B063QX01
4C083AA111
4C083AA112
4C083BB51
4C083CC03
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC11
4C083CC25
4C083DD08
4C083DD11
4C083DD17
4C083DD21
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD31
4C083EE12
4C083EE13
4C083EE16
4C084AA17
4C084MA13
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA27
4C084MA28
4C084MA34
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC021
4C084ZC022
4C088AB26
4C088AB51
4C088AC03
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA13
4C088MA16
4C088MA17
4C088MA22
4C088MA27
4C088MA28
4C088MA34
4C088MA43
4C088MA52
4C088MA55
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
4C088ZC02
(57)【要約】
【課題】E-カドヘリンと皮膚色との関係を解明し、皮膚における新たな美容方法の確立を目的とする。
【解決手段】シミとE-カドヘリン発現との関連性を見出し、皮膚ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を制御することを含む美容方法、ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を指標としたメラノサイト鎮静化剤のスクリーニング方法、及びE-カドヘリン発現を指標とした将来のシミ形成の予測方法を確立した。さらに、エイジツエキス、トウキンセンカエキス、キイチゴエキスが、E-カドヘリン発現を促進することを見出し、これらの成分を含むE-カドヘリン発現促進剤及びシミ改善剤を発明した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を制御することを含む、美容方法。
【請求項2】
前記美容方法が、シミの改善を含む、請求項1に記載の美容方法。
【請求項3】
シミ部位において、E-カドヘリン発現を促進することを含む、請求項1又は2に記載の美容方法。
【請求項4】
E-カドヘリン発現の促進により、メラノサイトの停滞抑制、メラニン取り込み正常化、及びメラノサイト活性化の抑制からなる群から選ばれる少なくとも1の作用を発揮する、請求項1~3のいずれか一項に記載の美容方法。
【請求項5】
E-カドヘリン発現の促進が、E-カドヘリン発現促進剤を皮膚に適用することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の美容方法。
【請求項6】
E-カドヘリン発現促進剤は、エイジツエキス、トウキンセンカエキス、キイチゴエキスからなる群から選ばれる少なくとも1のエキスを含む、請求項5に記載の美容方法。
【請求項7】
ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を指標としたメラノサイト鎮静化剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
以下の:
候補成分を含む培地でケラチノサイトを培養する工程、
培養後のケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を測定する工程、及び
測定されたE-カドヘリン発現を、対照のE-カドヘリン発現と比較する工程
を含み、E-カドヘリン発現が促進した場合に、候補成分をメラノサイト鎮静化剤としてスクリーニングする、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
メラノサイト鎮静化剤が、シミ改善剤である、請求項7又は8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
エイジツエキス、トウキンセンカエキス、キイチゴエキスからなる群から選ばれる少なくとも1のエキスを含む、E-カドヘリン発現促進剤。
【請求項11】
前記E-カドヘリン発現促進剤が、メラノサイト停滞抑制剤、メラノサイト活性化抑制剤、メラニン取り込み正常化剤からなる群から選ばれる、請求項10に記載のE-カドヘリン発現促進剤。
【請求項12】
E-カドヘリン発現促進剤が、シミ改善剤である、請求項10又は11に記載のE-カドヘリン発現促進剤。
【請求項13】
E-カドヘリン発現を指標とした将来のシミ形成の予測方法。
【請求項14】
採取されたケラチノサイトにおいて、E-カドヘリンの発現を測定する工程;及び
E-カドヘリンの発現を、閾値と比較することで、将来のシミ形成を予測する工程
を含む、請求項13に記載の予測方法。
【請求項15】
E-カドヘリン発現が、タンパク量又はmRNA量である、請求項13又は14に記載の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にシミの制御に関わる美容の技術分野に関する。より具体的に皮膚におけるE-カドヘリン発現を促進することによるシミの改善方法、皮膚におけるE-カドヘリンの発現に基づきシミを予測する方法、さらには皮膚細胞におけるE-カドヘリンの発現に基づく、シミ改善剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮を構成する細胞であるケラチノサイトでは、アドヘレンスジャンクション、タイトジャンクション、及びデスモソームの3つの細胞間接着機構により、強固に細胞間が接着することで、細胞外液の漏出や、微生物や生体外物質の侵入から生体を守っている。これらの細胞間接着機構のうち、アドヘレンスジャンクションとデスモソームに関与するタンパク質としてカドヘリンが知られている。カドヘリンは、細胞接着に関わる膜タンパク質である。カドヘリンはカドヘリンスーパーファミリーを構成し、現在まで約100種類以上が知られている。カドヘリンスーパーファミリーは、クラシカルカドヘリンと、非クラシカルカドヘリンに大別されており、クラシカルカドヘリンは、さらにタイプIとタイプIIに分けられる。デスモソームを構成するデスモソーマルカドヘリンは非クラシカルカドヘリンに分類されている。細胞の種類によって発現するカドヘリンの種類は異なっており、ケラチノサイトにおいて発現するカドヘリンとしてはE-カドヘリン及びP-カドヘリンが知られている。細胞接着は、細胞の増殖、分化、移動等に関与し、細胞の生理機能にも影響することが知られており、カドヘリンの発現変化と、皮膚の生理機能との関係が研究されている(特許文献1:特開2004-359632号公報)。一方で細胞接着と皮膚色との関連についての報告は限られている。表皮に存在するメラノサイトは、メラニンを産生し、皮膚の色に関与する。紫外線照射により、メラノサイトが活性化し、皮膚の色が黒くなるとともに、シミの形成にも寄与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
E-カドヘリンと皮膚色との関係を解明し、皮膚における新たな美容方法の確立を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが、E-カドヘリンと皮膚色との関係に着目し、鋭意研究を行った結果、シミとE-カドヘリン発現との関連性を見出し、本発明に至った。
そこで、本発明は以下に関する:
[1] 皮膚ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を制御することを含む、美容方法。
[2] 前記美容方法が、シミの改善を含む、項目1に記載の美容方法。
[3] シミ部位において、E-カドヘリン発現を促進することを含む、項目1又は2に記載の美容方法。
[4] E-カドヘリン発現の促進により、メラノサイトの停滞抑制、メラニン取り込み正常化、及びメラノサイト鎮静化からなる群から選ばれる少なくとも1の作用を発揮する、項目1~3のいずれか一項に記載の美容方法。
[5] E-カドヘリン発現の促進が、E-カドヘリン発現促進剤を皮膚に適用することを含む、項目1~3のいずれか一項に記載の美容方法。
[6] E-カドヘリン発現促進剤は、エイジツエキス、トウキンセンカエキス、キイチゴエキスからなる群から選ばれる少なくとも1のエキスを含む、項目5に記載の美容方法。
[7] ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を指標としたメラノサイト鎮静化剤のスクリーニング方法。
[8]以下の:
候補成分を含む培地でケラチノサイトを培養する工程、
培養後のケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を測定する工程、及び
測定されたE-カドヘリン発現を、対照のE-カドヘリン発現と比較する工程
を含み、E-カドヘリン発現が促進した場合に、候補成分をメラノサイト鎮静化剤としてスクリーニングする、項目7に記載のスクリーニング方法。
[9] メラノサイト鎮静化剤が、シミ改善剤である、項目7又は8に記載のスクリーニング方法。
[10] エイジツエキス、トウキンセンカエキス、キイチゴエキスからなる群から選ばれる少なくとも1のエキスを含む、E-カドヘリン発現促進剤。
[11] 前記E-カドヘリン発現促進剤が、メラノサイト停滞抑制剤、メラノサイト鎮静化剤、メラニン取り込み正常化からなる群から選ばれる、項目10に記載のE-カドヘリン発現促進剤。
[12] E-カドヘリン発現促進剤が、シミ改善剤である、項目10又は11に記載のE-カドヘリン発現促進剤。
[13] E-カドヘリン発現を指標とした将来のシミ形成の予測方法。
[14] 採取されたケラチノサイトにおいて、E-カドヘリンの発現を測定する工程;及び
E-カドヘリンの発現を、閾値と比較することで、将来のシミ形成を予測する工程
を含む、項目13に記載の予測方法。
[15] E-カドヘリン発現が、タンパク量又はmRNA量である、項目13又は14に記載の予測方法。
【発明の効果】
【0006】
シミとケラチノサイトにおいて発現されるE-カドヘリンとの関連が見出され、E-カドヘリンの発現を増大することにより、シミ改善効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1Aは、正常皮膚及び色素沈着の認められる皮膚(色素沈着皮膚)におけるE-カドヘリンを免疫組織化学染色により示す。
図1Bは、
図1Aの画像から測定された蛍光強度を比較したグラフである。
【
図2】
図2Aは、ケラチノサイトの野生株とE-カドヘリンノックダウン株を用い、ケラチノサイトとメラノサイトを共培養した場合におけるメラノサイトの移動を示す動画から得られた静止画像を示す。
図2Bは、
図2Aの動画からメラノサイトの移動距離を測定して比較したグラフである。
【
図3】
図3は、ケラチノサイトの野生株(Cont)とE-カドヘリンノックダウン株(ΔE-Cad)を培養して得た培養上清を、メラノサイト培養物に添加した場合におけるチロシナーゼ、TRP1及びMITFの発現量を示す(A:チロシナーゼ、B:TRP1、C:MITF)。
【
図4】
図4は、ケラチノサイトの野生株(Contol)とE-カドヘリンノックダウン株(ΔE-Cad)をそれぞれメラノサイトと共培養した場合におけるメラニンの生成を示す。
【
図5】
図5は、ケラチノサイトの野生株(Contol)とE-カドヘリンノックダウン株(ΔE-Cad)を培養した場合におけるケラチノサイトによるメラニンの取り込みを示す。
【
図6】
図6は、(A)エイジツエキス、(B)トウキンセンカエキス、及び(C)キイチゴエキスをケラチノサイト培養物に添加した場合の、E-カドヘリン発現量の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、一の態様において、皮膚ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を制御することを含む、美容方法に関する。より具体的に、E-カドヘリン発現を増大させることにより、メラノサイトの活性を抑制(以下、メラノサイトの鎮静化ともいう)し、美白作用、特にシミの改善、軽減、治療作用を発揮する。さらに本発明の美容方法により、シミ形成を未然に防ぐこともでき、シミ予防作用を発揮する。
【0009】
本発明の美容方法において、美白作用、特にシミの改善、軽減、治療作用は、メラノサイトの活性を抑制することにより改善される。シミの改善とは、シミ部位の色味がシミ部位以外の皮膚色に近づくことをいい、シミ軽減、メラニン産生抑制、メラノサイト活性化抑制、メラノサイト鎮静化ともいうことができる。本発明の美容方法は、シミを有している対象、又はシミの発生を危惧する対象に適用することができる。
【0010】
理論に限定されることを意図するものではないが、ケラチノサイトにおいてE-カドヘリンの発現が減少すると、E-カドヘリンを足場とするメラノサイトの移動が滞る(
図2)。メラノサイトが停滞すると、停滞している箇所において分泌されたメラニンがケラチノサイトに取り込まれて、シミを形成する。なお、色素沈着部位と正常部位とを比較すると、色素沈着部位においてE-カドヘリンの発現が低下しており(
図1)、E-カドヘリンがシミ形成に関わることの証左となる。また、E-カドヘリンの発現が減少したケラチノサイトからは、メラノサイトを活性化する液性因子が分泌され、かかる液性因子(本明細書中で、メラノサイト活性化因子とも呼ぶ)の作用によりメラノサイトが活性化する(
図3)。活性化したメラノサイトは、メラニンの生成量を増大し(
図4)、分泌されたメラニンはケラチノサイトにより取り込まれて皮膚の着色、特にシミを形成する(
図5)。ケラチノサイトへの取り込みが抑制されることで、メラニンの色素沈着が抑制され、シミの形成を予防し、又はシミを改善することができる。メラニン色素のケラチノサイトへの取り込みの増加抑制を、メラニン色素取り込み正常化ということができる。
【0011】
E-カドヘリンの発現の制御は、特にE-カドヘリンの発現促進と発現抑制のいずれかであってもよいが、美白作用、特にシミ改善作用を発揮する観点からは、E-カドヘリンの発現促進が好ましい。E-カドヘリンの発現を促進することで、メラノサイト活性化因子の分泌が抑制され、メラノサイトが鎮静化するとともに、メラノサイトの移動を促す。メラノサイトの鎮静化とメラノサイトの移動の促進のうちの一方、又は両方の作用により、シミが改善する。しかしながら、メラノサイトから分泌され、ケラチノサイトに取り込まれたメラニンは消失するわけではない。メラノサイトの鎮静化及び移動の促進による効果が発揮され、その後表皮のターンオーバーにより、表皮が更新されることで、シミの改善効果が発揮される。
【0012】
皮膚、特にシミ部位において、E-カドヘリン発現を促進するためには、E-カドヘリン発現促進剤が投与される。本実施例においてE-カドヘリン発現促進効果を発揮することが示されたエイジツエキス、トウキンセンカエキス、キイチゴエキスをE-カドヘリン発現促進剤として使用することができる(
図6)。さらに本技術分野に周知のE-カドヘリン発現促進剤である、トルメンチラエキス、セイヨウバラエキス、ゼニアオイエキス、ハイアオイエキス、ハイビスカスエキスを使用することもできる(特許文献1)。ケラチノサイトにおけるE-カドヘリン発現を指標として、E-カドヘリン発現促進剤をスクリーニングすることができ、かかるスクリーニング方法によりスクリーニングされた成分を、E-カドヘリン発現促進剤として使用することもできる。E-カドヘリン発現促進剤は、経皮、経口、経粘膜、皮下、筋中、静脈内、動脈内等に任意の経路で投与されてもよいが、皮膚ケラチノサイトにおいて作用させる観点から、経皮的に適用することが好ましく、特にシミを含む領域に直接適用することがさらに好ましい。
【0013】
本発明の更なる態様では、本発明は、ケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を指標としたメラノサイト鎮静化剤のスクリーニング方法にも関する。本発明のスクリーニング方法は、より具体的に以下の:
候補成分を含む培地でケラチノサイトを培養する工程、
培養後のケラチノサイトにおいてE-カドヘリン発現を測定する工程、及び
測定されたE-カドヘリン発現量を、対照のE-カドヘリン発現と比較する工程
を含み、E-カドヘリン発現が亢進した場合に、候補成分をメラノサイト鎮静化剤としてスクリーニングすることができる。スクリーニング方法は、E-カドヘリン発現が亢進した場合に、候補成分をメラノサイト鎮静化剤として選択する工程を含んでもよい。こうしてスクリーニングされたメラノサイト鎮静化剤は、E-カドヘリン発現を亢進することにより、メラノサイトを鎮静化することができる。メラノサイト鎮静化剤は、シミ改善剤ともいうことができる。
【0014】
対照のE-カドヘリン発現は、候補成分を含まない点でのみ異なる培養ケラチノサイトにおけるE-カドヘリンの発現を使用することができる。対照群は、予め実験が行われて、対照群のE-カドヘリンの発現に基づいて閾値を設定してもよいし、並行して培養及び測定工程が行われてもよい。E-カドヘリンの発現は、培養ケラチノサイトにおけるE-カドヘリンのタンパク質量又はmRNA量であってもよく、それぞれ免疫学的手法又は定量的PCR等の本技術分野に周知の手法を用いて測定することができる。
【0015】
本発明のスクリーニング方法に用いる候補成分は、化粧品素材、食品素材、医薬品素材などの任意のライブラリーを使用することができる。かかるライブラリーとしては、化合物ライブラリー、エキスライブラリーなどを使用してもよい。各ライブラリーに含まれる化合物及びエキスは、市販の化合物及びエキスを使用してもよいし、合成された化合物及び調製されたエキスを使用してもよい。
【0016】
本明細書に記載される植物のエキスは常法により得ることができ、例えばその起源となる植物を抽出溶媒とともに常温又は加熱して浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水性溶媒、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、あるいは有機溶媒、例えばエタノール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン等を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。好ましくは、溶媒として水とアルコール、例えば1,3-ブチレングリコールの混合溶媒が使用される。上記溶媒で抽出して得られた抽出物をそのまま、あるいは例えば凍結乾燥などにより濃縮したエキスを使用でき、また必要であれば吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD-2)のカラムにて吸着させた後、所望の溶媒で溶出し、さらに濃縮したものも使用することができる。
【0017】
エイジツエキスとは、ノイバラ(Rosa multiflora)果実から抽出されたエキスをいう。エイジツ(営実)とは、ノイバラの成熟果実を言う。ノイバラは日本の山地に自生し、朝鮮半島や中国にも分布する。エイジツエキスは、ノイバラの果実を乾燥させ、水、アルコール又はそれらの混合溶液で抽出することで調製することができる。アルコールとしては、エタノール、プロピレングリコール、又はブチレングリコールが用いられる。より好ましくは、水とエタノール又は水と1,3-ブチレングリコールの任意の割合の混合液、例えば10:90~90:10の混合液、好ましく30:70~70:30、さらに好ましくは50:50の混合液により抽出されうる。エイジツエキスは、0.001%~0.05%の濃度で配合され、0.005%~0.01%がより好ましい。
【0018】
トウキンセンカ(学名Calendula officinalis Linne)エキスは、キク科の一種であるトウキンセンカの花の抽出物である。トウキンセンカは、南ヨーロッパ原産のキク科の植物である。トウキンセンカの頭花を、水、エタノール、アルコール又はこれらの混合溶液で抽出することで調製することができる。アルコールとしては、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコールが用いられる。より好ましくは、水と1,3-ブチレングリコールの任意の割合の混合液、例えば10:90~90:10の混合液、好ましく30:70~70:30、さらに好ましくは50:50の混合液により抽出されうる。トウキンセンカエキスは、0.05%~5%で配合され、0.1%~1%がより好ましい。
【0019】
キイチゴエキスとは、バラ科のキイチゴ属(Rubus)に属する植物の果実から抽出されたエキスをいう。キイチゴ属の植物体は北半球の寒帯から温帯にかけて広く分布している。キイチゴの果実を、水、エタノール、アルコール又はこれらの混合溶液で抽出することで調製することができる。アルコールとしては、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコールが用いられる。より好ましくは、水と1,3-ブチレングリコールの任意の割合の混合液、例えば10:90~90:10の混合液、好ましく30:70~70:30、さらに好ましくは50:50の混合液により抽出されうる。キイチゴエキスは、0.01%~0.5%で配合され、0.05~0.1%がより好ましい。
【0020】
本発明のE-カドヘリン発現促進剤、メラノサイト鎮静化剤、シミ改善剤、メラノサイト停滞抑制剤、及びメラニン取り込み正常化剤は互換的に用いることができ、それぞれ化粧料、医薬品又は医薬部外品に配合されてもよく、また、食品、例えばサプリメントなどの栄養補助食品に配合されてもよい。これらの薬剤は、経口、又は非経口、例えば経皮投与されてもよい。経皮投与される場合、皮膚外用剤に剤形することができる。皮膚外用剤は、皮膚に適用可能であれば特に限定されず、例えば、溶液状、乳化状、固形状、半固形状、粉末状、粉末分散状、水-油二層分離状、水-油-粉末三層分離状、軟膏状、ゲル状、エアゾール状、ムース状、スティック状等、任意の剤型が適用できる。皮膚外用剤に剤形される場合には、皮膚外用剤に通常用いられる基剤、及び賦形剤、例えば保存剤、乳化剤、pH調整剤などが用いられてもよい。化粧料に配合する場合、化粧水、乳液、美容液、クリーム、ローション、パック、エッセンス、ジェル等の顔用又は体用の化粧料や、ファンデーション、化粧下地、コンシーラー等のメーキャップ化粧料、さらには浴用剤などに配合することができる。本発明の成分を含む化粧品、医薬品及び医薬部外品を用いることにより、E-カドヘリンの発現促進を介して、メラノサイトを鎮静化し、美白作用を発揮するとともに、シミを改善、軽減、予防、又は治療することができる。
【0021】
本発明のE-カドヘリン発現促進剤、メラノサイト鎮静化剤、シミ改善剤、メラノサイト停滞抑制剤、及びメラニン取り込み正常化剤は、所望の効果、例えば美白効果及び/又はシミ改善効果を発揮させる観点で任意に濃度を選択することができる。皮膚外用剤として配合する観点からは、本発明に係るエキスは、0.0005%~0.5%で配合することができる。効果を十分に発揮させる観点から、好ましくは0.001%以上で配合でき、さらに好ましくは0.005%以上で配合することができる。強いにおいを避ける観点から、好ましくは0.1%以下で配合することができ、さらに好ましくは0.05%以下で配合することができる。
【0022】
本発明のさらに別の態様では、本発明はE-カドヘリン発現を指標とした将来のシミ形成を予測する方法にも関する。より具体的に、シミ形成の予測方法は、以下の:
生体から採取されたケラチノサイトにおいて、E-カドヘリンの発現量を測定する工程、及び
E-カドヘリン発現量を閾値と比較することで、将来のシミ形成を予測する工程を含む。ケラチノサイトにおけるE-カドヘリン発現量が、所定の閾値よりも低い場合に、現在のシミが形成していない場合であっても、シミが形成する蓋然性が高い。閾値は、生体におけるE-カドヘリン発現量の大規模調査により適宜決定することができる。VISIAなどの本技術分野に周知のシミ判定手法を用いてシミと皮膚のE-カドヘリン量との関係に基づいて、閾値を設定することができる。さらに所定の期間を空けて追跡調査を行うことで、より正確に閾値を設定することが可能になる。
【0023】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0024】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0025】
実施例1:E-カドヘリンの染色
色素沈着部位あるいはシミを含む顔の皮膚試料(入手先会社;Obio, LLC. およびKAC)を入手した。皮膚試料において正常部位と色素沈着部位をそれぞれ細胞組織学的にH&E染色にてシミに特徴的なrate ridge様の基底層の凹凸構造、表皮肥厚、基底ケラチノサイトにおける著しいメラニン沈着の3つの基準で鑑別し、正常皮膚試料と色素沈着皮膚試料として選別した。各皮膚試料を4%パラホルムアルデヒドを含む固定溶液で固定し、その後PBSで洗浄した。次いでパラフィン包埋を行い、7umの厚さの皮膚切片を取得した。通常の脱パラフィン処理の後、賦活化処理液中(Antigen Retrieval Buffer, abcam, ab93684)にパラフィン切片を浸し、90℃の湯浴にて熱による賦活化処理を20分間おこなった。その後室温になるまでパラフィン切片を自然冷却した。皮膚切片をブロッキング溶液(2.5%ヤギ血清及び0.1%TritonX―100を含むPBS)で1時間インキュベートした後に、1次抗体として200倍希釈の抗E-カドヘリン抗体(Dako)で4℃、O/Nでインキュベートした。その後洗浄液PBS-T(0.1%TritonX―100を含むPBS)で抗体を洗浄した。次いで二次抗体として200倍希釈のヤギ抗マウスIgG抗体コンジュゲート(Alexa Fluor647(Thermo Fisher Scientific))で1時間、室温でインキュベートを行った。PBS-Tにて二次抗体を洗浄した。最後に、DAPI入りの封入剤Vectashield(Vector Laboratories)を添加しカバーガラスでスライドサンプルを封入後、共焦点レーザー顕微鏡にて観察を行った(
図1)。E-カドヘリンの発現量はImageJを用いて定量した。基底層、有棘層、および顆粒層においてE-カドヘリンが発現していることが示された。また、色素沈着部位の皮膚と比較して、正常皮膚においてカドヘリンの発現が高いことが示された。
【0026】
実施例2:培養ケラチノサイトにおけるE-カドヘリンのノックダウン
培養ヒトケラチノサイト(クラボウ)の培養培地には、EpiLife(Thermo Fisher Scientific)に60uMのカルシウムとHuMedia-KG増殖添加剤セット(クラボウ)を添加して用いた。ケラチノサイトを4x104Cells/1mLで12well plateに播種し、37℃5%CO2雰囲気下で48時間培養した。E-カドヘリンに対するsiRNA(ON―TARGETplus CDH1 SiRNA, Horizon Discovery)およびネガティブコントロールsiRNA(ON-TARGETplus Non-targeting Pool, Horizon Discovery)を終濃度10nMで、Lipofectamine RNAiMAX(Thermo Fisher Scientific)を用いて培養ケラチノサイトに導入し、24時間培養をして、ノックダウン株を取得した。
【0027】
培養ヒトメラノサイト(Thermo Fisher Scientific)の培養培地には、medium254(Thermo Fisher Scientific)にHMGS特注増殖添加剤セット(クラボウ)を添加して用いた。メラノサイトを、終濃度0.5uMになるようCellTracker(登録商標)Green CMFDA Dye(Thermo Fisher)を添加した培地に懸濁し、37℃25分間インキュベートした後、観察用のガラスベースディッシュ(27φ、IWAKI)に播種した。メラノサイトの定着を確認後、ケラチノサイトとメラノサイトの比率が5:1となるよう、ケラチノサイトを上から播種し、37℃5%CO
2雰囲気下で共培養をした。ケラチノサイトの定着を確認後、37℃5%CO
2雰囲気下で6時間、5分間隔で共焦点レーザー顕微鏡を用いて撮影を行った。ImageJを用いてメラノサイトの細胞中心をトラッキングし、移動距離の合計を比較した。E-カドヘリンノックダウン株のケラチノサイトとメラノサイトを培養した場合に、メラノサイトの移動が抑制され、動きが停滞した(
図2)。
【0028】
実施例3:ケラチノサイトにより分泌される液性因子の作用
ケラチノサイトを4x10
4cells/1mLで12well plateに播種し、37℃5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。PBSでケラチノサイトを洗浄後、培地をCnT-PRIME KM(CELLnTEC advanced cell systems AG)1mLに置換し、さらに24時間培養した。実施例2に記載の方法でノックダウン試薬を添加した後、48時間後に培養上清を回収した。メラノサイトは5x10
4cells/1mLで12well plateに播種し、37℃5%CO
2雰囲気下で72時間培養した。メラノサイトをPBSで洗浄後、回収したケラチノサイトの上清をメラノサイトに添加し、48時間培養した。メラノサイトをPBSで洗浄後、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いてRNAを抽出し、PrimeScript(登録商標)RT reagent Kit(TaKaRa)を用いて逆転写反応を行った。逆転写後の核酸は、以下のプライマーセットとKAPA SYBR(登録商標)FAST qPCR Kit Master Mix (2x) Universal(KAPABIOSYSTEMS)、およびStepOne(登録商標)plus (Applied Biosystems)を用いて定量PCRを行った。結果を
図3に示す。E-カドヘリンノックダウン株が分泌する液性因子の作用により、メラノサイトが活性化し、メラニン生成に関与するチロシナーゼ、TRP1の発現量、並びにこれらの発現量を調整するMITFの発現量が増大した。
【表1】
【0029】
実施例4:メラニン産生への影響
メラノサイトを2x10
4cells/1mLでガラスベースディッシュ(27φ、IWAKI)に播種し、37℃5%CO
2雰囲気下で24時間培養した。実施例2に記載の方法で調製されたE-カドヘリンノックダウン(ΔE-Cad)株および野生(Control)株をそれぞれ回収してメラノサイトに添加し、CnT-PR KM培地で7日間、37℃5%CO
2雰囲気下で共培養した。PBSで洗浄後、4%パラホルムアルデヒドを含む固定溶液で固定し、共焦点レーザー顕微鏡を用いてメラニンの観察を行った。E-カドヘリンノックダウン(ΔE-Cad)株との共培養時にメラノサイトにおけるメラニン産生量が増大した(
図4)。実施例3と併せて、E―カドヘリンノックダウン株が分泌する液性因子によってメラノサイトは活性化され、メラニンの産生が増大することが示された。
【0030】
実施例5:メラニン取り込みへの影響
合成メラニン(Sigma)をPBSに懸濁し、1%溶液(W/V)を調製した。ソニケーションをかけてメラニンの凝集を破砕した後、実施例2に記載の方法で得たE-カドヘリンノックダウン(ΔE-Cad)株及び野生(Control)株に、終濃度0.002%(W/V)となるようメラニン溶液を添加した。添加直後より、BioStation CT(Nikon)を用いて37℃5%CO
2雰囲気下で12時間、15分間隔でメラニンの取り込みを撮影した。得られたデータはImageJを用いて二値化をした(
図5)。E-カドヘリンノックダウン株(ΔE-Cad)株においてメラニンの取り込み量が増加していた。
【0031】
実施例6:E-カドヘリン発現を増大させる候補薬物のスクリーニング
ケラチノサイトを3x10
4cells/1mLで12well plateに播種し、37℃5%CO
2雰囲気下で48時間培養した。候補薬物として、0.01%及び0.005%エイジツエキス(水/エタノール抽出)、1%及び0.1%トウキンセンカエキス(水/ブチレングリコール抽出)、及び0.1%及び0.05%キイチゴエキス(水/ブチレングリコール抽出)を添加して、37℃5%CO
2雰囲気下で24時間培養後、細胞を回収した。候補薬物の希釈にはDMSOを用いた。対照群には、同量のDMSOを添加し、37℃5%CO
2雰囲気下で24時間培養後、細胞を回収した。回収した細胞について、実施例3に記載の方法でRNAを抽出し、逆転写後、以下のプライマーセットを用いて定量PCRを行った。結果を
図6に示す。エイジツエキス、トウキンセンカエキス、及びキイチゴエキスは、E-カドヘリン発現促進作用を有した。
【表2】