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  • 特開-NQO1発現促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184311
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】NQO1発現促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/88 20060101AFI20231221BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K36/88
A61P39/02
A61P39/06
A61P35/00
A61P29/00
A61P25/00
A61P43/00 111
A61P43/00 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098381
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】古俣 麻希子
(72)【発明者】
【氏名】宮井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】川本 宗孝
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB71
4C088AC04
4C088BA07
4C088BA08
4C088CA02
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA01
4C088ZB11
4C088ZB26
4C088ZC19
4C088ZC21
4C088ZC37
(57)【要約】
【課題】新規NQO1発現促進剤の提供。
【解決手段】本発明は、ホオウを有効成分として含有するNQO1発現促進剤を提供する。また、本発明は、ホオウを有効成分として含有し、NQO1発現促進を介して酸化を抑制する抗酸化剤及び炎症を抑制する抗炎症剤も提供する。NQO1遺伝子発現を促進することにより、酸化又は炎症の抑制、解毒、神経疾患又は癌の治療に有効である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホオウを有効成分として含有するNQO1発現促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNQO1発現促進剤に関する。更に詳しくは、ホオウを有効成分として含有するNQO1発現促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
NQO1(NAD(P)Hキノンオキシドレダクターゼ1)はキノン還元酵素であり、抗酸化、抗炎症、解毒、神経疾患や癌治療に有用であること等が報告されている(特許文献1~3、非特許文献1)。
【0003】
したがって、NQO1の発現を促進することにより上記活性を亢進する物質の探索が望まれる。特許文献1はリン脂質を有効成分として含むことを特徴とするNQO1発現増強剤を開示する。特許文献2はアナカーディム・オシデンタール・L.(Anacardium occidentale L.)の種子の外種皮の植物抽出物がNQO1発現を増加させることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-260743号公報
【特許文献2】特表2021-536450号公報
【特許文献3】特表2022-525476号公報
【特許文献4】特開2015-157773号公報
【特許文献5】特開2010-189287号公報
【特許文献6】特開2005-336114号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sara K. Beaver et.al., Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Proteins and Proteomics, Volume 1867, Issues 7-8, July-August 2019, Pages 663-676, https://doi.org/10.1016/j.bbapap.2019.05.002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規なNQO1発現促進剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、様々な成分についてNQO1発現促進剤としての効果について鋭意研究の結果、ホオウが、NQO1発現促進剤として特に高い効果を有することを見出し、以下の発明を完成するに至った:
(1)ホオウを有効成分として含有するNQO1発現促進剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のNQO1発現促進剤の投与により、NQO1発現を促進することができる。本発明によれば、NQO1発現促進剤を含有する組成物を提供することができる。NQO1発現を促進することにより抗酸化、抗炎症、解毒、神経疾患や癌治療等の効果を亢進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ホオウによるNQO1発現促進効果をホオウ無添加の対照と比較した結果である。ホオウ添加の場合のGAPDH発現量に対するNQO1発現量(NQO1/GAPDH)を、対照のNQO1/GAPDHを1とした比較として示す(n=4、スチューデントのt検定、*:p<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ホオウを有効成分として含有するNQO1発現促進剤を提供する。
【0011】
本発明のNQO1発現促進剤の投与により、NQO1発現を促進することができる。上述のように、NQO1は、抗酸化、抗炎症、解毒、神経疾患や癌の治療に有用であること等が報告されている。(特許文献1~3、非特許文献1)。したがって、本発明者らにより発見されたホオウによりNQO1発現を促進することができれば、上述の作用が亢進されることが期待される。
【0012】
NQO1発現の促進とは、例えば、NQO1発現促進剤を付与していない状態(コントロール)に比べて、NQO1発現促進剤を付与した場合に、NQO1遺伝子の発現量が、例えば有意水準を5%とした統計学的有意差(例えばスチューデントのt検定)をもって亢進していることを意味し得る。または、NQO1発現の促進とは、例えばNQO1発現促進剤を付与していない状態(コントロール)に比べて、NQO1発現促進剤を付与した場合に、NQO1遺伝子の発現量が、例えば10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、又は500%以上亢進していることを意味し得る。NQO1遺伝子の発現量は、任意の公知技術により求めることができる。
【0013】
また、本発明は、ホオウを有効成分として含有し、NQO1発現促進を介して酸化を抑制する抗酸化剤、並びにホオウを有効成分として含有し、NQO1発現促進を介して炎症を抑制する抗炎症剤を提供する。また、本発明は、ホオウを有効成分として含有するNQO1発現促進剤又は抗酸化剤又は抗炎症剤を含む組成物も提供する。また、本発明の組成物は、NQO1発現促進を介して酸化又は炎症の抑制、解毒、神経疾患又は癌の治療をするための組成物であってもよい。
【0014】
ホオウ(蒲黄)とは、ヒメガマ(Typha angustifolia L.)、ガマ(Typha latifolia L.)、コガマ(Typha orientalis Presl.)等のガマ科(Typhaceae)植物の穂の部分を指す。ホオウは、ケラチノサイト増殖抑制、抗酸化、抗炎症、止血、利尿などの作用が知られている(特許文献4~6)。しかしながら、ホオウが、高いNQO1発現促進作用を有することはこれまでに報告されていない。
【0015】
ホオウは公知の生薬であり、公知の方法によりガマ科植物の穂より容易に搾汁、乾燥、精製、抽出等ができ、また市販品を容易に入手可能である。生のままでも乾燥したものでも使用することができるが、使用性、製剤化等の観点から、抽出物、乾燥物、乾燥粉末、原料の粉末物、搾汁液等として用いることもできる。使用態様に応じていずれの形態を用いるかは適宜選択することができ、必要に応じて殺菌等の処理を施してもよい。
【0016】
抽出物として用いる場合、その抽出物の抽出方法は例えば溶媒抽出により行うことができる。溶媒抽出の場合には、ガマ科植物の穂を必要に応じて乾燥させ、更に必要に応じて細断又は粉砕した後、水性抽出剤、水、例えば冷水、温水、又は沸点若しくはそれより低温の熱水、あるいは含水有機溶媒、例えば含水エタノール、含水メタノール、含水エーテル、含水1,3-ブチレングリコール等、有機溶媒、例えばエタノール、メタノール、エーテル、1,3-ブチレングリコール等を原料の性質や組成物の用途等により好ましい溶媒を適宜選択して常温で又は加熱して用いることにより抽出される。しかしながら、抽出方法は溶媒抽出に限定されず、当業界で知られている常用の手法によってもよく、本発明で用いる抽出物の抽出方法や抽出物の形態は、本発明の効果を損なわない限り任意である。上記抽出物の形態は、抽出液自体だけでなく、常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよく、更に、抽出液を乾燥することによって得られる粉状あるいは塊状の固体であってもよいし、搾汁液を常用の手法により適宜希釈又は濃縮したものであってもよい。
【0017】
含水有機溶媒の例として、含水1,3-ブチレングリコール等の含水低級アルコール(例えば、C1~C4)を用いてもよく、その場合の含水率は、例えば0~10v/v%、10~40v/v%、20~30v/v%、30~40v/v%、30~50v/v%、60~70v/v%、50~80v/v%、80~99.5v/v%等であってもよい。
【0018】
本発明のNQO1発現促進剤、抗酸化剤、抗炎症剤(以下、包括的に「本発明の剤」と称することがある)は、化粧品、医薬品、医薬部外品等の組成物に配合してヒト等の動物に外用投与してもよく、各種の食品、飲食品、サプリメントなどの栄養補助食品等の組成物に配合してヒト等の動物に経口投与してもよいし、或いは医薬製剤としてヒト等の動物に投与してもよい。外用投与の形態としては、例えば、クリーム、乳液、液体、シート、スプレー、ゲルなど任意に選択することができる。経口投与の形態としては、例えば、錠剤、飲料、粉末など任意に選択することができる。しかしながら、投与形態は上述のものに限定されない。
【0019】
本発明の化粧品組成物は、乳液、クリーム、美容液、ローション、パック、洗顔料、石鹸、ボディソープ、シャンプー等の各種化粧品であってもよく、液状、乳液状、クリーム状、固形状、シート状、スプレー状、ゲル状、泡状、パウダー状等の様々な形態であり得る。また、本発明の食品組成物は、粉末、飲料、または錠剤であってもよく、粉末状、液状、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状等の様々な形態であり得る。
【0020】
投与頻度は、4週間に1回、2週間に1回、1週間に1回、3日に1回、2日に1回、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、都度投与等任意に選択できるがこれらに限定されない。
【0021】
本発明の剤又は組成物は、ホオウをNQO1発現促進の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましく、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができる。例えば、本発明の剤又は組成物の総重量当たりのホオウの配合量(乾燥重量)を0.0001~0.0005重量%、0.0005~0.001重量%、0.001~0.005重量%、0.005~0.01重量%、0.01~0.05重量%、0.05~0.1重量%、0.1~0.5重量%、0.5~1.0重量%、1.0~5.0重量%、5.0~10.0重量%、10.0~50.0重量%、50.0~100.0重量%とすることができる。また、ある実施形態では、本発明の剤は有効成分としてホオウを、例えば、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上、又は99重量%以上含有するものであってもよい。ある実施形態では、本発明のNQO1発現促進剤はホオウからなることもある。
【0022】
本発明の剤又は組成物は、必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤等を含ませることができる。
【0023】
賦形剤としては、所望の剤型としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
その他の添加剤として、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、界面活性剤、保存剤、pH調整剤、油分、水、アルコール類、キレート剤、シリコーン類、紫外線吸収剤、保湿剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、中和剤等の公知のものを適宜選択して使用できる。
【0025】
また、本発明は、ホオウを投与することによりNQO1発現促進を介して酸化又は炎症の抑制、解毒、神経疾患又は癌の治療をするための方法も提供する。本発明は、ホオウを投与することによりNQO1発現促進を介して酸化又は炎症の抑制、解毒、神経疾患又は癌の治療をするための方法も提供する。本発明の酸化又は炎症の抑制をするための方法は、美容を目的とする方法であり、医師や医療従事者による治療ではないことがある。
【0026】
さらに、本発明は、酸化又は炎症の抑制、解毒、神経疾患又は癌の治療のための医薬の製造におけるホオウの使用も提供する。本発明は、NQO1発現を促進することにより、酸化又は炎症の抑制、解毒、神経疾患又は癌の治療に使用するためのホオウも提供する。酸化又は炎症の抑制は皮膚の酸化又は炎症を抑制するものであってもよい。
【実施例0027】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0028】
1.試料の調製
ホオウは、香栄興業株式会社製のホオウ抽出液(ヒメガマ穂を含水1,3-ブチレングリコールで抽出した抽出物)を用いた。
【0029】
2.正常ヒト表皮角化細胞の培養
正常ヒト表皮角化細胞(倉敷紡績株式会社)をHumedia-KG2培地(倉敷紡績株式会社、製品番号KK-2150S)にて培養し、12穴プレートに0.6×105 cells/mlになるように播種し、37℃で24時間培養した。24時間培養後に培地あたり0.1重量%のホオウを含む培地に交換した。培地交換後更に24時間培養してから細胞を回収した。対照として、ホオウを添加しない以外は同じ組成の培地にて同条件で培養を行った。
【0030】
3.RNAの抽出
ホオウを添加してから24時間後に培地を除去し、市販のRNA抽出試薬(ニッポンジーン社製ISOGEN)を用い正常ヒト表皮角化細胞からTotal RNAを抽出した。抽出したRNAは市販のRNA精製キット(QIAGEN社製 RNeasy mini kit)を用い精製した。RNAの濃度は蛍光光度計(ThermoFisher SCIENTIFIC社製 nano drop)を用いて測定した。
【0031】
4.定量PCR法によるNQO1発現量の測定
上述の方法により抽出・精製した500ngのTotal RNAは、市販の逆転写酵素(TAKARA社製、PrimeScript(商標)RT reagent Kit)を用い、cDNAに逆転写した。得られたcDNAをそれぞれ2ng用い市販の定量PCR試薬(日本ジェネティクス社製、KAPA SYBR Fast qPCR Kit)と定量PCR装置(ThermoFisher SCIENTIFIC社製、Applied Biosystems(登録商標) StepOnePlus(商標))を用いて定量PCRを実施し、NQO1遺伝子の発現量を測定した。内部標準としてGAPDH遺伝子の発現量も同時に測定した。PCR用プライマーには各遺伝子に特異的な以下の配列を有するプライマーを用いた。
【0032】
NQO1 Forward primer:CCTGCCATTCTGAAAGGCTGGT
NQO1 Reverse primer:GTGGTGATGGAAAGCACTGCCT
GAPDH Forward primer:GTCTCCTCTGACTTCAACAGCG
GAPDH Reverse primer:ACCACCCTGTTGCTGTAGCCAA
【0033】
結果を図1に示す。ホオウ添加の場合のGAPDH発現量に対するNQO1発現量(NQO1/GAPDH)を、対照のNQO1/GAPDHを1とした比較として示す。ホオウは、対照と比較して有意に高いNQO1発現促進作用があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ホオウを有効成分として含有するNQO1発現促進剤の投与により、NQO1遺伝子の発現を促進することができ、NQO1遺伝子発現の促進を介して、酸化又は炎症の抑制、解毒、神経疾患又は癌の治療に有効である。
図1
【配列表】
2023184311000001.app