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特開2023-184315斜張橋の架設方法、揚重機および斜張橋
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184315
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】斜張橋の架設方法、揚重機および斜張橋
(51)【国際特許分類】
   E01D 21/00 20060101AFI20231221BHJP
   E01D 11/04 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E01D21/00 B
E01D11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098385
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】桜井 淳
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕明
(72)【発明者】
【氏名】柿市 拓巳
(72)【発明者】
【氏名】小川 高誉
(72)【発明者】
【氏名】小野尾 貴士
(72)【発明者】
【氏名】村上 和也
(72)【発明者】
【氏名】伯川 眞司
(72)【発明者】
【氏名】船水 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】福島 道人
(72)【発明者】
【氏名】小川 祐介
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智史
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA08
2D059BB08
2D059CC06
2D059CC17
2D059CC25
2D059DD02
(57)【要約】
【課題】斜張橋の架設工事において従来よりも工期を短縮する。
【解決手段】主塔102から上向きの力を受ける第1のケーブル104で、鉛直方向上向きの成分を有する力を主桁106に与えて支持する主桁支持工程と、主桁106上の所定の位置に揚重機20を配置する揚重機配置工程と、前記所定の位置に配置された揚重機20の先端側部位と主塔102との間を連結する第2のケーブル30に、鉛直方向上向きの成分を有する力が揚重機20に加わるように張力を導入する張力導入工程と、前記張力導入工程後、主桁ブロック80を揚重機20で所定の高さまで吊り上げる吊り上げ工程と、主桁ブロック80を主桁106の先端側に接合するとともに、主塔102から上向きの力を受ける第3のケーブル104で、鉛直方向上向きの成分を有する力を主桁ブロック80に与えて支持する主桁ブロック支持工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主塔と主桁を有する斜張橋の架設方法であって、
前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第1のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記主桁に与えて前記主桁を支持する主桁支持工程と、
前記主桁上の所定の位置に揚重機を配置する揚重機配置工程と、
前記所定の位置に配置された揚重機の先端側部位と前記主塔との間を連結する第2のケーブルに、鉛直方向上向きの成分を有する力が前記揚重機に加わるように張力を導入する張力導入工程と、
前記張力導入工程後、前記主桁の前記主塔から離れる方向の先端側に架設する主桁ブロックを、前記揚重機で所定の高さまで吊り上げる吊り上げ工程と、
前記吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックを前記主桁の先端側に接合するとともに、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第3のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックに与えて、当該主桁ブロックを新たな主桁の一部として支持する主桁ブロック支持工程と、
を備えることを特徴とする斜張橋の架設方法。
【請求項2】
前記第2のケーブルが連結する前記揚重機の前記先端側部位の位置は、前記揚重機の鉛直方向下向きの荷重が加わる前記主桁の部位よりも前記主塔から離れた位置であることを特徴とする請求項1に記載の斜張橋の架設方法。
【請求項3】
前記張力導入工程において、前記第2のケーブルは、その延びる方向が、前記揚重機の前記先端側部位への定着部位と前記揚重機以外への定着部位とを結ぶ直線の延びる方向とは異なる方向に、前記揚重機の前記先端側部位への前記定着部位と前記揚重機以外への前記定着部位との間で変更されて前記張力が導入されることを特徴とする請求項1に記載の斜張橋の架設方法。
【請求項4】
前記張力導入工程における前記第2のケーブルの前記延びる方向の変更は、前記主塔に設けられた角度変更部材で行われることを特徴とする請求項3に記載の斜張橋の架設方法。
【請求項5】
前記張力導入工程における前記第2のケーブルの前記延びる方向の変更は、前記揚重機に設けられた角度変更部材で行われることを特徴とする請求項3に記載の斜張橋の架設方法。
【請求項6】
前記張力導入工程における前記第2のケーブルの前記延びる方向の変更は、前記主塔に設けられた角度変更部材で行われるとともに、前記揚重機に設けられた角度変更部材で行われることを特徴とする請求項3に記載の斜張橋の架設方法。
【請求項7】
前記第2のケーブルに張力を導入する揚重機側張力導入部と、前記第2のケーブルの前記揚重機の前記先端側部位への前記定着部位が、前記揚重機に設けられた前記角度変更部材に接する前記第2のケーブルの部位よりも前記第2のケーブルの前記揚重機側の端部に近い側にあり、
前記張力導入工程において前記揚重機側張力導入部により前記第2のケーブルの張力の最終調整を行った後に、前記吊り上げ工程を行うことを特徴とする請求項6に記載の斜張橋の架設方法。
【請求項8】
前記張力導入工程での前記第2のケーブルは、前記斜張橋の前記主塔に設けられた前記角度変更部材によって前記延びる方向が変更され、前記角度変更部材よりも下側の位置に定着されて張力が導入されることを特徴とする請求項4、6、7のいずれかに記載の斜張橋の架設方法。
【請求項9】
前記主桁ブロック支持工程後、前記第2のケーブルの張力を解除する張力解除工程と、
前記張力解除工程後、前記第2のケーブルを中途で分離するケーブル分離工程と、
前記ケーブル分離工程後、前記主桁ブロック支持工程で前記主桁ブロックを接合および支持してなる前記新たな主桁上の所定の位置に前記揚重機を再配置する揚重機再配置工程と、
前記ケーブル分離工程で中途で分離した前記第2のケーブルにケーブルを継ぎ足して、全長を長くした延長後の第2のケーブルにするケーブル継ぎ足し工程と、
前記ケーブル継ぎ足し工程で全長を長くした前記延長後の第2のケーブルに張力を導入する張力再導入工程と、
前記張力再導入工程後、前記斜張橋の主桁部材として架設する主桁ブロックを、前記揚重機再配置工程で再配置された前記揚重機で所定の高さまで吊り上げる第2吊り上げ工程と、
前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックを、前記新たな主桁に接合するとともに、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第4のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックに与えて、当該主桁ブロックを新たな主桁の一部として支持する第2主桁ブロック支持工程と、
を備えることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の斜張橋の架設方法。
【請求項10】
前記主桁ブロック支持工程後、前記第2のケーブルの張力を解除する張力解除工程と、
前記張力解除工程後、前記第2のケーブルを中途で分離するケーブル分離工程と、
前記ケーブル分離工程後、前記主桁ブロック支持工程で前記主桁ブロックを接合および支持してなる前記新たな主桁上の所定の位置に前記揚重機を再配置する揚重機再配置工程と、
前記ケーブル分離工程で中途で分離した前記第2のケーブルにケーブルを継ぎ足して、全長を長くした延長後の第2のケーブルにするケーブル継ぎ足し工程と、
前記ケーブル継ぎ足し工程で全長を長くした前記延長後の第2のケーブルに張力を導入する張力再導入工程と、
前記張力再導入工程後、前記斜張橋の主桁部材として架設する主桁ブロックを、前記揚重機再配置工程で再配置された前記揚重機で所定の高さまで吊り上げる第2吊り上げ工程と、
前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックを、前記新たな主桁に接合するとともに、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第4のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックに与えて、当該主桁ブロックを新たな主桁の一部として支持する第2主桁ブロック支持工程と、
を備え、前記張力再導入工程で張力を導入された前記延長後の第2のケーブルは、前記主塔に設けられた前記角度変更部材によって前記延びる方向が変更され、前記角度変更部材よりも下側の位置に定着されて張力が導入されることを特徴とする請求項8に記載の斜張橋の架設方法。
【請求項11】
主塔を有する斜張橋の主桁架設に用いられ、主桁上を移動可能な揚重機であって、
前記斜張橋の主桁部材として架設される主桁ブロックを、前記主桁の先端側の所定位置で下方から吊り上げる吊り上げ部と、
前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受けて、鉛直方向上向きの成分を有する力を当該揚重機に加えることができるケーブルを定着できる、当該揚重機の先端側部位であるケーブル接続部位と、
を備えることを特徴とする揚重機。
【請求項12】
前記ケーブル接続部位と、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける前記ケーブルの部位とを結ぶ直線の延びる方向とは異なる方向に、前記ケーブルの延びる方向を変更する角度変更部材を有することを特徴とする請求項11に記載の揚重機。
【請求項13】
主塔を有する斜張橋であって、前記主塔には、
一端側が前記斜張橋の主桁の所定位置に定着し、当該主桁に鉛直方向上向きの成分を有する力を加える第1のケーブルに鉛直方向上向きの成分を有する力を加えることができる第1連結部と、
前記主桁上の所定位置に配置されていて、前記主桁よりも先端側に新たに架設される主桁部材を上方に吊り上げる揚重機に定着し、前記揚重機に鉛直方向上向きの成分を有する力を加える第2のケーブルに鉛直方向上向きの成分を有する力を加えることができる第2連結部と、
が備えられていることを特徴とする斜張橋。
【請求項14】
前記主塔には、前記第2のケーブルの前記揚重機への定着部位と、前記第2のケーブルの前記揚重機以外への定着部位とを結ぶ直線の延びる方向とは異なる方向に、前記第2のケーブルの延びる方向を変更する角度変更部材が備えられていることを特徴とする請求項13に記載の斜張橋。
【請求項15】
前記主塔には、前記角度変更部材の配置位置よりも下側の位置にブラケットが設けられており、前記角度変更部材により延びる方向が変更された前記第2のケーブルを前記ブラケットに定着することができることを特徴とする請求項14に記載の斜張橋。
【請求項16】
前記主塔には、前記角度変更部材の配置位置よりも下側の位置に上下に間隔を空けて上ブラケットと下ブラケットが設けられており、前記下ブラケットには前記第2のケーブルを引き込むウインチが設けられており、前記上ブラケットには前記第2のケーブルに鉛直方向に張力を導入するジャッキおよび前記第2のケーブルを定着する定着部が設けられていることを特徴とする請求項14に記載の斜張橋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜張橋の架設方法、揚重機および斜張橋に関し、詳細には、従来よりも工期を短縮することができる斜張橋の架設方法、揚重機および斜張橋に関する。なお、本願において、斜張橋には、エクストラドーズド橋も含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
斜張橋の主桁の架設においては、従来はバランシング架設工法により、片側ずつ1ブロックごとに架設およびケーブル定着を行って工事を進めている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
斜張橋をバランシング架設工法により水域に構築する場合、台船等で架設箇所の下方に運搬してきた主桁ブロックを、すでに架設した主桁上に設置した吊り上げ装置により吊り上げ、すでに架設した主桁の先端に接合し、当該主桁ブロックにケーブルを定着して該ケーブルに張力を導入して架設を行う。これらの工程は、1つの主桁ブロックごとに行って架設を進めていく必要があるため、工期の短縮は難しく、主桁架設時の水域の航路規制が長期間必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“バランシング片持ち式工法”、一般社団法人日本橋梁建設協会、[online]、[令和4年4月11日検索]、インターネット <URL:https://www.jasbc.or.jp/flowchart/07.php>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、斜張橋の架設工事において従来よりも工期を短縮することができる斜張橋の架設方法、揚重機および斜張橋を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記課題を解決する発明であり、以下のような斜張橋の架設方法、揚重機および斜張橋である。
【0007】
即ち、本発明に係る斜張橋の架設方法の第1の態様は、主塔と主桁を有する斜張橋の架設方法であって、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第1のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記主桁に与えて前記主桁を支持する主桁支持工程と、前記主桁上の所定の位置に揚重機を配置する揚重機配置工程と、前記所定の位置に配置された揚重機の先端側部位と前記主塔との間を連結する第2のケーブルに、鉛直方向上向きの成分を有する力が前記揚重機に加わるように張力を導入する張力導入工程と、前記張力導入工程後、前記主桁の前記主塔から離れる方向の先端側に架設する主桁ブロックを、前記揚重機で所定の高さまで吊り上げる吊り上げ工程と、前記吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックを前記主桁の先端側に接合するとともに、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第3のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックに与えて、当該主桁ブロックを新たな主桁の一部として支持する主桁ブロック支持工程と、を備えることを特徴とする斜張橋の架設方法である。
【0008】
ここで、前記第1のケーブルが、「前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける」とは、前記第1のケーブルが前記斜張橋の前記主塔に定着されていて、前記第1のケーブルが前記主塔への定着部から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける場合だけでなく、前記第1のケーブルが挿通する貫通サドル部を前記主塔に形成し、該貫通サドル部を挿通させた前記第1のケーブルを、前記主塔を中心にして左右に配置された前記主桁ブロックの定着部で緊張・定着させ、前記第1のケーブルが前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける場合も含む。前記第3のケーブルについても前記第1のケーブルの場合と同様であり、また、本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0009】
また、前記第2のケーブルが「前記所定の位置に配置された揚重機の先端側部位と前記主塔との間を連結する」とは、前記第2のケーブルの一端側を前記主塔に定着して連結する場合だけでなく、前記第2のケーブルの一端側を架設済み主桁や地上などに定着する構成にし、前記第2のケーブルの中途の部分が、主塔または主塔に設けられた部材から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける場合も含む。
【0010】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第2の態様は、斜張橋の架設方法の前記第1の態様において、前記第2のケーブルが連結する前記揚重機の前記先端側部位の位置は、前記揚重機の鉛直方向下向きの荷重が加わる前記主桁の部位よりも前記主塔から離れた位置であることを特徴とする態様である。
【0011】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第3の態様は、斜張橋の架設方法の前記第1の態様または前記第2の態様において、前記張力導入工程において、前記第2のケーブルは、その延びる方向が、前記揚重機の前記先端側部位への定着部位と前記揚重機以外への定着部位とを結ぶ直線の延びる方向とは異なる方向に、前記揚重機の前記先端側部位への前記定着部位と前記揚重機以外への前記定着部位との間で変更されて前記張力が導入されることを特徴とする態様である。
【0012】
ここで、前記第2のケーブルの「前記揚重機以外への定着部位」としては、具体的には例えば、前記主塔の部位や前記主桁の部位を挙げることができ、また、当該斜張橋以外の地上の構造物の部位等を挙げることができる。
【0013】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第4の態様は、斜張橋の架設方法の前記第3の態様において、前記張力導入工程における前記第2のケーブルの前記延びる方向の変更は、前記主塔に設けられた角度変更部材で行われることを特徴とする態様である。
【0014】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第5の態様は、斜張橋の架設方法の前記第3の態様において、前記張力導入工程における前記第2のケーブルの前記延びる方向の変更は、前記揚重機に設けられた角度変更部材で行われることを特徴とする態様である。
【0015】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第6の態様は、斜張橋の架設方法の前記第3の態様において、前記張力導入工程における前記第2のケーブルの前記延びる方向の変更は、前記主塔に設けられた角度変更部材で行われるとともに、前記揚重機に設けられた角度変更部材で行われることを特徴とする態様である。
【0016】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第7の態様は、斜張橋の架設方法の前記第6の態様において、前記第2のケーブルに張力を導入する揚重機側張力導入部と、前記第2のケーブルの前記揚重機の前記先端側部位への前記定着部位が、前記揚重機に設けられた前記角度変更部材に接する前記第2のケーブルの部位よりも前記第2のケーブルの前記揚重機側の端部に近い側にあり、前記張力導入工程において前記揚重機側張力導入部により前記第2のケーブルの張力の最終調整を行った後に、前記吊り上げ工程を行うことを特徴とする態様である。
【0017】
ここで、「前記第2のケーブルの前記揚重機の前記先端側部位への前記定着部位」とは、前記第2のケーブルが前記揚重機の前記先端側部位に直接的に定着される部位だけでなく、他の部材を介して前記第2のケーブルが前記揚重機の前記先端側部位に間接的に定着される部位も含む。本願の他の箇所の同様の記載も同様に解釈するものとする。
【0018】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第8の態様は、斜張橋の架設方法の前記第4、前記第6、前記第7の態様のいずれかの態様において、前記張力導入工程での前記第2のケーブルは、前記斜張橋の前記主塔に設けられた前記角度変更部材によって前記延びる方向が変更され、前記角度変更部材よりも下側の位置に定着されて張力が導入されることを特徴とする態様である。
【0019】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第9の態様は、斜張橋の架設方法の前記第1~前記第7の態様のいずれかの態様において、前記主桁ブロック支持工程後、前記第2のケーブルの張力を解除する張力解除工程と、前記張力解除工程後、前記第2のケーブルを中途で分離するケーブル分離工程と、前記ケーブル分離工程後、前記主桁ブロック支持工程で前記主桁ブロックを接合および支持してなる前記新たな主桁上の所定の位置に前記揚重機を再配置する揚重機再配置工程と、前記ケーブル分離工程で中途で分離した前記第2のケーブルにケーブルを継ぎ足して、全長を長くした延長後の第2のケーブルにするケーブル継ぎ足し工程と、前記ケーブル継ぎ足し工程で全長を長くした前記延長後の第2のケーブルに張力を導入する張力再導入工程と、前記張力再導入工程後、前記斜張橋の主桁部材として架設する主桁ブロックを、前記揚重機再配置工程で再配置された前記揚重機で所定の高さまで吊り上げる第2吊り上げ工程と、前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックを、前記新たな主桁に接合するとともに、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第4のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックに与えて、当該主桁ブロックを新たな主桁の一部として支持する第2主桁ブロック支持工程と、を備えることを特徴とする態様である。
【0020】
本発明に係る斜張橋の架設方法の第10の態様は、斜張橋の架設方法の前記第8の態様において、前記主桁ブロック支持工程後、前記第2のケーブルの張力を解除する張力解除工程と、前記張力解除工程後、前記第2のケーブルを中途で分離するケーブル分離工程と、前記ケーブル分離工程後、前記主桁ブロック支持工程で前記主桁ブロックを接合および支持してなる前記新たな主桁上の所定の位置に前記揚重機を再配置する揚重機再配置工程と、前記ケーブル分離工程で中途で分離した前記第2のケーブルにケーブルを継ぎ足して、全長を長くした延長後の第2のケーブルにするケーブル継ぎ足し工程と、前記ケーブル継ぎ足し工程で全長を長くした前記延長後の第2のケーブルに張力を導入する張力再導入工程と、前記張力再導入工程後、前記斜張橋の主桁部材として架設する主桁ブロックを、前記揚重機再配置工程で再配置された前記揚重機で所定の高さまで吊り上げる第2吊り上げ工程と、前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックを、前記新たな主桁に接合するとともに、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける第4のケーブルで、鉛直方向上向きの成分を有する力を前記第2吊り上げ工程で前記所定の高さまで吊り上げた前記主桁ブロックに与えて、当該主桁ブロックを新たな主桁の一部として支持する第2主桁ブロック支持工程と、を備え、前記張力再導入工程で張力を導入された前記延長後の第2のケーブルは、前記主塔に設けられた前記角度変更部材によって前記延びる方向が変更され、前記角度変更部材よりも下側の位置に定着されて張力が導入されることを特徴とする態様である。
【0021】
本発明に係る揚重機の第1の態様は、主塔を有する斜張橋の主桁架設に用いられ、主桁上を移動可能な揚重機であって、前記斜張橋の主桁部材として架設される主桁ブロックを、前記主桁の先端側の所定位置で下方から吊り上げる吊り上げ部と、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受けて、鉛直方向上向きの成分を有する力を当該揚重機に加えることができるケーブルを定着できる、当該揚重機の先端側部位であるケーブル接続部位と、を備えることを特徴とする揚重機である。
【0022】
本発明に係る揚重機の第2の態様は、揚重機の前記第1の態様において、前記ケーブル接続部位と、前記主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受ける前記ケーブルの部位とを結ぶ直線の延びる方向とは異なる方向に、前記ケーブルの延びる方向を変更する角度変更部材を有することを特徴とする態様である。
【0023】
本発明に係る斜張橋の第1の態様は、主塔を有する斜張橋であって、前記主塔には、一端側が前記斜張橋の主桁の所定位置に定着し、当該主桁に鉛直方向上向きの成分を有する力を加える第1のケーブルに鉛直方向上向きの成分を有する力を加えることができる第1連結部と、前記主桁上の所定位置に配置されていて、前記主桁よりも先端側に新たに架設される主桁部材を上方に吊り上げる揚重機に定着し、前記揚重機に鉛直方向上向きの成分を有する力を加える第2のケーブルに鉛直方向上向きの成分を有する力を加えることができる第2連結部と、が備えられていることを特徴とする斜張橋である。
【0024】
本発明に係る斜張橋の第2の態様は、斜張橋の前記第1の態様において、前記主塔には、前記第2のケーブルの前記揚重機への定着部位と、前記第2のケーブルの前記揚重機以外への定着部位とを結ぶ直線の延びる方向とは異なる方向に、前記第2のケーブルの延びる方向を変更する角度変更部材が備えられていることを特徴とする態様である。
【0025】
本発明に係る斜張橋の第3の態様は、斜張橋の前記第2の態様において、前記主塔には、前記角度変更部材の配置位置よりも下側の位置にブラケットが設けられており、前記角度変更部材により延びる方向が変更された前記第2のケーブルを前記ブラケットに定着することができることを特徴とする態様である。
【0026】
本発明に係る斜張橋の第4の態様は、斜張橋の前記第2の態様において、前記主塔には、前記角度変更部材の配置位置よりも下側の位置に上下に間隔を空けて上ブラケットと下ブラケットが設けられており、前記下ブラケットには前記第2のケーブルを引き込むウインチが設けられており、前記上ブラケットには前記第2のケーブルに鉛直方向に張力を導入するジャッキおよび前記第2のケーブルを定着する定着部が設けられていることを特徴とする態様である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、斜張橋の架設工事において従来よりも工期を短縮することができる斜張橋の架設方法、揚重機および斜張橋を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10を用いて主桁ブロック80を架設している状態を橋軸直角方向から見た側面図
図2図1の状態を上方から見た平面図
図3図1の状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸直角方向から見た側面図
図4図1の状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸方向から見た正面図
図5】主桁ブロック80を吊り上げた状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、揚重機20およびその近傍の部位を橋軸直角方向から見た側面図
図6図5の状態を上方から見た平面図
図7】吊り上げた主桁ブロック80の斜張橋100への連結後(架設済み主桁106への接合、および本設ケーブル104による主塔102への連結が完了した後)に仮ケーブル30を中途で分離した状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、揚重機20およびその近傍の部位を橋軸直角方向から見た側面図
図8図7の状態を上方から見た平面図
図9】揚重機20を拡大して示す側面図
図10】定着部20Eおよびその近傍の部位を拡大して示す側面図
図11】定着部20Eおよびその近傍の部位を拡大して示す上方から見た平面図
図12】主塔側定着部40を拡大して示す、橋軸方向から見た正面図
図13】主塔側定着部40を拡大して示す、橋軸直角方向から見た側面図
図14】仮ケーブル30に張力を導入する前の弛緩した状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸直角方向から見た側面図
図15】仮ケーブル30に張力を導入する前の弛緩した状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸方向から見た正面図
図16】仮ケーブル30に張力を導入している途中の段階における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸直角方向から見た側面図
図17】仮ケーブル30に張力を導入している途中の段階における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸方向から見た正面図
図18】斜張橋100の施工において、いくつかの主桁ブロック80の架設が終了して、架設済み主桁106が架設された状態を示す側面図
図19】本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10を用いて主桁ブロック80を架設する手順の1つのステップ(ステップS1)を模式的に示す側面図
図20】本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10を用いて主桁ブロック80を架設する手順の1つのステップ(ステップS2)を模式的に示す側面図
図21】本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10を用いて主桁ブロック80を架設する手順の1つのステップ(ステップS3)を模式的に示す側面図
図22】本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10を用いて主桁ブロック80を架設する手順の1つのステップ(ステップS4)を模式的に示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明の実施形態の説明においては、斜張橋の主桁ブロックが鋼製であることを念頭に置いているが、本発明を適用可能な斜張橋の主桁ブロックは鋼製に限定されるわけではなく主桁ブロックがコンクリート製の場合にも適用可能である。また、本発明は、エクストラドーズド橋にも適用可能である。
【0030】
(1)斜張橋の架設装置の実施形態
図1は本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10を用いて主桁ブロック80を架設している状態を橋軸直角方向から見た側面図であり、図2図1の状態を上方から見た平面図であり、図3は、図1の状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸直角方向から見た側面図であり、図4は、図1の状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、斜張橋100の主塔102に近接した部位を橋軸方向から見た正面図であり、図5は、主桁ブロック80を吊り上げた状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、揚重機20およびその近傍の部位を橋軸直角方向から見た側面図であり、図6は、図5の状態を上方から見た平面図であり、図7は、吊り上げた主桁ブロック80の斜張橋100への連結後(架設済み主桁106への接合、および本設ケーブル104による主塔102への連結が完了した後)に仮ケーブル30を中途で分離した状態における、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10の部位のうち、揚重機20およびその近傍の部位を橋軸直角方向から見た側面図であり、図8は、図7の状態を上方から見た平面図であり、図9は揚重機20を拡大して示す側面図である。図1図4では、図1における左側の揚重機20に連結する仮ケーブル30を実線で記載し、図1における右側の揚重機20に連結する仮ケーブル30を破線で記載している。図1において、符号110は橋脚を示し、符号112は斜ベントを示している。図2では、揚重機20で吊った状態で架設施工中の主桁ブロック80に斜線のハッチングを付している。また、図2図6および図8では、図示の都合上、本設ケーブル104及びワイヤー20Dは描いていない。なお、図1図8に示す状態において斜張橋100は架設施工中であるが、本願において「斜張橋」と記した場合、架設施工中の斜張橋も含むものとする。
【0031】
本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10(以下、単に「架設装置10」と記すことがある。)は、主桁ブロック80を斜張橋100に連結して架設する装置であり、揚重機20と、仮ケーブル30と、主塔頂部偏向具32と、主塔側定着部40と、を有してなり、揚重機20の先端側(主塔102とは反対側)の部位を仮ケーブル30で鉛直方向上向きの成分を有する力で上方に引っ張りながら主桁ブロック80の架設を行う装置である。このため、従来のバランシング架設工法により架設する場合よりも、重量の大きい主桁ブロックを架設することができ、本実施形態に係る架設装置10で架設する主桁ブロック80は、従来のバランシング架設工法により架設する主桁ブロックに相当する大きさの主桁ブロックを長手方向に2つ予め連結して構成している。
【0032】
揚重機20は、架設する主桁ブロック80を、架設済み主桁106の先端106Aよりも主塔102から離れた位置において吊り上げる装置であり、図1に示すように、架設済み主桁106の先端側(主塔102とは反対側)の領域上に配置されている。
【0033】
揚重機20は、本体部20Aと、吊り部20Bと、ウインチ20Cと、ワイヤー20Dと、定着部20Eと、偏向具20Fと、固定設備20Gと、を有してなり、仮ケーブル30が、定着部20Eに向かう方向の水平面に対する角度を偏向具20Fによってやや大きくする方向に変えた状態で定着部20Eに定着されており、仮ケーブル30によって、本体部20Aの先端近傍の部位(吊り部20B近傍の部位)が、鉛直方向上向きの成分を有する力により上方に引っ張られている。このため、揚重機20が揚重可能な重量は、従来のバランシング架設工法における揚重機が揚重可能な重量よりも大きくなっており、前述したように、本実施形態に係る架設装置10で架設する主桁ブロック80は、従来のバランシング架設工法により架設する主桁ブロックに相当する大きさの主桁ブロックを長手方向に2つ予め連結して構成されている。
【0034】
揚重機20は、図5に示すように、本体部20Aの先端側の部位が架設済み主桁106の先端106Aよりも主塔102から離れる方向に突出するように配置されている(架設する主桁ブロック80の吊り上げ時に、架設済み主桁106の先端106Aよりも主塔102から離れる方向に突出した部位となる、本体部20Aの先端側の部位を、以下、先端側部位20A3と称することとする。)。本体部20Aの先端側部位20A3には吊り部20Bおよび定着部20Eが設けられている。したがって、定着部20Eの位置は、揚重機20の鉛直方向下向きの荷重が加わる架設済み主桁106の部位よりも主塔102から離れた位置である。
【0035】
また、本体部20Aの主塔102寄りの部位には、ワイヤー20Dの引き込みと引き出しを行うウインチ20Cが設けられている。吊り部20Bは、図9に示すように、定滑車20B1、20B2および動滑車20B3を備えており、ウインチ20Cがワイヤー20Dの引き込み又は引き出しを行うことにより、動滑車20B3が上昇又は下降するように構成されており、主桁ブロック80を昇降させることができるようになっている。
【0036】
本体部20Aは、図6に示すように、並行に配置された2つの長尺梁部材20A1と、それら2つの長尺梁部材20A1を連結する横梁20A2と、を有して構成されている。横梁20A2は、図5に示すように、本体部20Aの先端側部位20A3に位置している。また、図10および図11に示すように、横梁20A2には、定着部20Eと、偏向具20Fと、が設けられている。図10は定着部20Eおよびその近傍の部位を拡大して示す側面図であり、図11は定着部20Eおよびその近傍の部位を拡大して示す上方から見た平面図である。
【0037】
図10および図11に示すように、定着部20Eは横梁20A2に固定されており、仮ケーブル30の張力は定着部20Eを介して横梁20A2に伝達され、上方に引き上げる力が本体部20Aに伝達される。図10に示すように、仮ケーブル30は、定着部20Eに定着される直前の位置で、横梁20A2に設けられた偏向具20Fによって、水平面とのなす角度が大きくなるように変更されており、仮ケーブル30の張力が、上向きの力として効果的に揚重機20に加えられるように構成されており、揚重機20を上方向に効果的に引き上げることができるように構成されている。
【0038】
また、主塔頂部偏向具32から揚重機20側に延びる仮ケーブル30の水平面に対する角度は、主桁ブロック80を引き上げる地点の主塔102からの距離によって変わるが、偏向具20Fを設けることで、主桁ブロック80を引き上げる地点の主塔102からの距離にかかわらず、仮ケーブル30の水平面に対する角度を常に一定の角度に保持した状態で定着部20Eに定着することができる。このため、主桁ブロック80を引き上げる地点の主塔102からの距離が変わっても、仮ケーブル30の定着角度に応じて定着部20Eの定着具(センターホールジャッキ20E1、ラムチェア20E2)の水平面に対する角度を調整することが不要になっている。
【0039】
また、揚重機20は、本体部20Aの下方に固定設備20Gを備えており、架設済み主桁106に自身を固定することができるようになっている一方、本体部20Aの下方に移動装置(図示せず)も備えており、主桁ブロック80の架設の進展に合わせて移動することができるようになっている。
【0040】
仮ケーブル30は、図1に示すように、一端部が揚重機20の定着部20Eに定着されており、他端部が主塔102に設けられた主塔側定着部40に定着されており、主桁ブロック80を吊り上げる揚重機20に、鉛直方向上向きの成分を有する力を加えて、揚重機20が従来の主桁ブロックよりも重量の大きい主桁ブロック80を吊り上げることができるようにする役割を有する。
【0041】
仮ケーブル30は、中途で切り離して、延長用仮ケーブル30A(図5参照)を継ぎ足すことができるようになっている。本実施形態に係る架設装置10で斜張橋100に主桁ブロック80の架設を行う場合、主桁ブロック80の架設が進むにつれて、主桁ブロック80の架設位置が主塔102から離れていくので、仮ケーブル30に必要な長さが長くなっていくが、延長用仮ケーブル30Aを継ぎ足すことで、仮ケーブル30の長さを長くすることができる。仮ケーブル30を中途で切り離し可能な連結部の構成、および仮ケーブル30に延長用仮ケーブル30Aを継ぎ足す際に必要となる連結部の構成は、ケーブル同士の連結で一般的に用いられている構成を用いることができる。また、仮ケーブル30は、必要な機械的特性や耐久性能等を有しているものであれば、特に制限なく用いることができる。また、仮ケーブル30は、本設ケーブル104と同様の機械的特性や耐久性能等を有しているケーブルを用いることもできる。
【0042】
仮ケーブル30は、主塔頂部偏向具32によって、延びる方向が中途で大きく変更されており、揚重機20側から延びてきた仮ケーブル30は、主塔頂部偏向具32によって、延びる方向が鉛直方向下向き方向に変更されており、延びる方向が鉛直方向下向き方向の状態で、斜張橋100の主塔102に設けられた主塔側定着部40に定着されている。
【0043】
主塔頂部偏向具32は、図3に示すように半円形の部材であり、図3および図4に示すように、主塔102の頂部の側面に取り付けられている。主塔頂部偏向具32の半円形の直径は、図3に示すように、主塔102の橋軸直角方向の幅よりも大きくなっている。
【0044】
図12は主塔側定着部40を拡大して示す、橋軸方向から見た正面図であり、図13は主塔側定着部40を拡大して示す、橋軸直角方向から見た側面図である。図12および図13に示すように、主塔側定着部40は、下ブラケット42と、下ブラケット42の補強部材42Aと、ウインチ44と、上ブラケット46と、上ブラケット46の補強部材46Aと、センターホールジャッキ48と、ラムチェア50と、を有して構成されている。
【0045】
下ブラケット42と上ブラケット46は角筒状の鋼材であり、上下に間隔(具体的には例えば5m程度)を空けて設けられており、下ブラケット42と上ブラケット46は、主塔102の橋軸方向に向いた面に取り付けられている。仮ケーブル30が定着される上ブラケット46には仮ケーブル30からの力を上ブラケット46に伝達できるように補強部材46A、46Bが配置されており、ウインチ44が定着される下ブラケット42にはウインチ44からの力を下ブラケット42に伝達できるように補強部材42A、42Bが配置されている。仮ケーブル30が定着される上ブラケット46の補強部材46A、46Bは、上方から見て上ブラケット46に対して井形状になるように配置してもよい。ウインチ44が定着される下ブラケット42の補強部材42A、42Bは、上方から見て下ブラケット42に対して井形状になるように配置してもよい。仮ケーブル30が定着される上ブラケット46には、仮ケーブル30の張力を導入するためのセンターホールジャッキ48とラムチェア50が配置されている。
【0046】
また、下ブラケット42の上面および下面ならびに上ブラケット46の上面および下面には、仮ケーブル30が挿通する貫通孔が設けられており、仮ケーブル30は上下方向に下ブラケット42および上ブラケット46を挿通している。また、仮ケーブル30が挿通する部位の近傍には、図12および図13に示すように、下ブラケット42においては補強部材42Bが設けられ、上ブラケット46においては補強部材46Bが設けられている。
【0047】
仮ケーブル30に張力を導入して、揚重機20に鉛直方向上向きの成分を有する力を加えて上方に引っ張る際の手順a~dを、図14図17図3および図4を用いて説明する。図14(側面図)および図15(正面図)は仮ケーブル30に張力を導入する前の弛緩した状態を示し、図16(側面図)および図17(正面図)は仮ケーブル30に張力を導入している途中の段階を示し、図3(側面図)および図4(正面図)は仮ケーブル30への必要な張力の導入が完了した状態を示す。図14図17に示すように、仮ケーブル30には、主塔102側の端部から所定の長さの位置に、張力を導入する際に用いるテンションロッド30Bおよびケーブルソケット30Cが設けられている。ケーブルソケット30Cはテンションロッド30Bの後端(主塔頂部偏向具32側の端部)に設けられており、仮ケーブル30とテンションロッド30Bとを連結する。
【0048】
仮ケーブル30に張力を導入して、揚重機20に鉛直方向上向きの成分を有する力を加える際の手順a~dは、以下の通りである。
【0049】
(a)仮ケーブル30に張力を導入する前の弛緩した状態(図13および図14の状態)において、主塔側定着部40のウインチ44で仮ケーブル30を引き込み、仮ケーブル30のテンションロッド30Bの下部が上ブラケット46に設けられたセンターホールジャッキ48に達するまで仮ケーブル30を引き込む。
【0050】
(b)次に、テンションロッド30Bの後端に設けられたケーブルソケット30Cがラムチェア50内に入り切るまで、主塔側定着部40のセンターホールジャッキ48でテンションロッド30Bを下方に引き込む操作を繰り返し行う。図15および図16はこの操作の途中の段階を示す。テンションロッド30Bの長さは、ケーブルソケット30Cがラムチェア50内に入り切ったときに、テンションロッド30Bの下端が下ブラケット42に達するような長さにしておく。
【0051】
(c)テンションロッド30Bの後端に設けられたケーブルソケット30Cがラムチェア50内に入り切ったら、ラムチェア50内のケーブルソケット30Cを上ブラケット46に固定して、仮ケーブル30を定着する。
【0052】
(d)前記した(a)~(c)の操作は、主塔側定着部40のみで行う操作であったが、前記した(a)~(c)の操作が終了した段階で、ある程度の張力が仮ケーブル30に導入されている。しかしながら、前記した(a)~(c)の操作の終了後、さらに、揚重機20の定着部20Eのセンターホールジャッキ20E1で仮ケーブル30を引き込んで仮ケーブル30の張力を最終調整して、仮ケーブル30の張力を主桁ブロック80の吊り上げに適した張力にする。仮ケーブル30の張力によって鉛直方向上向きの成分を有する力を揚重機20に直接的に加える部位は、揚重機20の定着部20Eであるが、張力が導入された仮ケーブル30において揚重機20の定着部20Eと主塔側定着部40との間には、主塔頂部偏向具32と揚重機20の偏向具20Fが存在しており、主塔頂部偏向具32および揚重機20の偏向具20Fとの接触により、仮ケーブル30は摩擦力を受けるため、主塔側定着部40で仮ケーブル30の張力を調整したとしても、その調整した仮ケーブル30の張力が、揚重機20の定着部20Eに作用するわけではなく、前記摩擦力の影響の分だけ減じられた張力が揚重機20の定着部20Eに作用する。このため、仮ケーブル30の張力の最終調整は、揚重機20の定着部20Eで行うことが好ましい。図3および図4は、仮ケーブル30への必要な張力の導入が完了した状態を示す。
【0053】
(2)斜張橋の架設方法の実施形態
本発明の実施形態に係る斜張橋の架設方法は、先に説明した斜張橋の架設装置10を用いて行う架設方法である。以下、図18図22を参照しつつ、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設方法について説明する。ここでは、斜張橋100の施工において、主桁ブロック80を架設する場合について説明する。
【0054】
図18は、斜張橋100の施工において、いくつかの主桁ブロック80の架設が終了して、架設済み主桁106が架設された状態を示す側面図である。図18において最後に架設された主桁ブロック80(主塔102から最も離れた主桁ブロック80)は、架設済み主桁106に接合されるとともに、本設ケーブル104によって主塔102に連結されることにより、新たに架設済み主桁106の一部となる。架設済み主桁106が設けられた図18の状態において、さらに次の主桁ブロック80を架設する場合について説明する。
【0055】
(ステップS1)
直前の主桁ブロック80の架設が完了した後(架設済み主桁106への接合、および本設ケーブル104による主塔102への連結が完了した後)、仮ケーブル30の張力を解除する。仮ケーブル30の張力を解除する際には、主塔側定着部40において、仮ケーブル30の張力による荷重を主塔側定着部40のセンターホールジャッキ48に盛り替えた後、ラムチェア50内のケーブルソケット30Cの下ブラケット42への固定を解除する。そして、その後、センターホールジャッキ48を開放して、仮ケーブル30の張力を完全に解除する。仮ケーブル30の張力を完全に解除した後、図19に示すように、仮ケーブル30を中途で切り離して、揚重機20を次の架設地点である架設済み主桁106の先端側(主塔102から離れた方向の側)に、固定設備20Gにより移動させる。揚重機20を、次の架設地点である架設済み主桁106の先端側(主塔102から最も離れた側)の領域に移動させたら、中途で切り離した仮ケーブル30に延長用仮ケーブル30Aを継ぎ足して、仮ケーブル30の長さを長くする。
【0056】
(ステップS2)
延長用仮ケーブル30Aが継ぎ足された仮ケーブル30に張力を導入して、図20に示すように、揚重機20に鉛直方向上向きの成分を有する力を加えて、揚重機20を上方に引っ張る。仮ケーブル30に張力を導入する際の手順は、図14図17図3および図4を用いて先に説明した手順a~dのように行い、最終調整された目標とする張力を仮ケーブル30に導入する。
【0057】
(ステップS3)
仮ケーブル30に最終調整された目標とする張力を導入したら、図21に示すように、架設位置の下方へ運搬された主桁ブロック80を揚重機20で吊り上げる。架設位置の下方への主桁ブロック80の運搬は、架設位置の下方が水域の場合には台船で行うのが一般的である。架設位置の下方が陸域の場合であって、主桁ブロック80の大きさが通常のトレーラーで運搬を行うことが困難な大きさの場合には、分割して運搬した主桁ブロックを架設位置の下方において連結して、主桁ブロック80を組み立てるようにしてもよい。
【0058】
(ステップS4)
図22に示すように、主桁ブロック80を架設済み主桁106と同じ高さまで吊り上げる。吊り上げた主桁ブロック80を、架設済み主桁106に接合するとともに、本設ケーブル104で主塔102に連結する。
【0059】
1つの主桁ブロック80の架設をステップS4まで行ってその主桁ブロック80の架設を完了したら、ステップS1に戻って、次の主桁ブロック80の架設を行う。
【0060】
本実施形態に係る斜張橋の架設方法においては、仮ケーブル30が揚重機20に鉛直方向上向きの成分を有する力を加えて、揚重機20を上方に引っ張る。このため、従来の架設方法において用いられてきた主桁ブロックに相当する大きさの主桁ブロックを予め2つ連結してなる主桁ブロック80を架設することができ、従来よりも全体の工期を大幅に短縮することができる。また、本実施形態に係る斜張橋の架設方法は、図18図22に示すように、斜張橋100の両方の側で同時に施工を進めることが可能であり、この点でも全体の工期を短くすることができる。
【0061】
したがって、本実施形態に係る斜張橋の架設方法を用いることにより、斜張橋建設の全体の工期を短くすることができ、また、水域に建設する斜張橋においては、航路規制回数を少なくすることもできる。
【0062】
(3)補足
本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10において、仮ケーブル30に張力を導入する方法や定着する方法について具体的に説明したが、仮ケーブル30に張力を導入する方法や定着する方法は、説明した具体例に限定されるわけではない。
【0063】
例えば、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10において、仮ケーブル30の一端側を主塔側定着部40に定着するように構成したが、仮ケーブル30の一端側を架設済み主桁106や地上などに定着する構成にしてもよい。
【0064】
また、斜張橋100において、主桁ブロック80および架設済み主桁106は本設ケーブル104によって主塔102に定着されることを前提に本発明の実施形態の説明をしたが、本設ケーブルが挿通する貫通サドル部を主塔に形成し、該貫通サドル部を挿通させた本設ケーブルを、主塔を中心にして左右に配置された主桁ブロックの定着部で緊張・定着させ、本設ケーブルが主塔から鉛直方向上向きの成分を有する力を受けるようにして、主桁ブロックを主塔に支持させるように構成するタイプの斜張橋においても本発明は適用可能である。
【0065】
また、偏向具20Fおよび主塔頂部偏向具32は、本発明の実施形態に係る斜張橋の架設装置10を説明する中で説明した通り、仮ケーブル30の延びる方向を変更する機能を有しており、仮ケーブル30の延びる方向を変更する角度変更部材であるということができる。
【0066】
また、偏向具20Fおよび主塔頂部偏向具32は、図面(図3図4図10図11等)においては、端部に半円板状の板材が付いており、仮ケーブル30が、偏向具20Fおよび主塔頂部偏向具32から脱落しないようにしているが、偏向具20Fおよび主塔頂部偏向具32はこのような形状に限定されるわけではなく、例えば、ある程度の長さのあるピンを有する構造にして半円板状の板材を削除するようにしてもよい。偏向具20Fおよび主塔頂部偏向具32をこのようなピンを有する構造にした場合、仮ケーブル30は当該ピンの外周面の長手方向に沿ってある程度スライド移動できるようになり、仮ケーブル30が半円板状の板材と接触して、仮ケーブル30に局部的な屈曲や応力集中が生じることを防止することができる。
【符号の説明】
【0067】
10…斜張橋の架設装置
20…揚重機
20A…本体部
20A1…長尺梁部材
20A2…横梁
20A3…先端側部位
20B…吊り部
20B1、20B2…定滑車
20B3…動滑車
20C…ウインチ
20D…ワイヤー
20E…定着部
20E1…センターホールジャッキ
20E2…ラムチェア
20F…偏向具
20G…固定設備
30…仮ケーブル
30A…延長用仮ケーブル
30B…テンションロッド
30C…ケーブルソケット
32…主塔頂部偏向具
40…主塔側定着部
42…下ブラケット
42A、42B、46A、46B…補強部材
44…ウインチ
46…上ブラケット
48…センターホールジャッキ
50…ラムチェア
80…主桁ブロック
100…斜張橋
102…主塔
104…本設ケーブル
106…架設済み主桁
106A…先端
110…橋脚
112…斜ベント
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