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特開2023-184316解析システム、解析方法、および解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184316
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】解析システム、解析方法、および解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01N21/88 J
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098386
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】森 勇二
(72)【発明者】
【氏名】須合 健一
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB02
2G051AC01
2G051AC16
2G051AC21
2G051CA04
(57)【要約】
【課題】異なる時期に取得された構造物の壁面情報を用いた解析に必要となる時間および費用の縮小を図ることができる解析システムを得ること。
【解決手段】同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析システム1であって、取得された時期に応じて、壁面の特定の範囲について壁面情報を解析する第1の処理と、特定の範囲よりも広い範囲について壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行う解析部31を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析システムであって、
取得された時期に応じて、前記壁面の特定の範囲について前記壁面情報を解析する第1の処理と、前記特定の範囲よりも広い範囲について前記壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行う解析部を備えることを特徴とする解析システム。
【請求項2】
前記解析部による解析結果に基づいて前記変状の健全度を判定する第1の判定部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の解析システム。
【請求項3】
前記解析部は、前記第1の判定部によって判定された前記健全度が第1の健全度である範囲に対して、以前に取得されて前記第1の処理が行われた前記壁面情報に遡って前記壁面情報を解析することを特徴とする請求項2に記載の解析システム。
【請求項4】
前記特定の範囲は、以前に前記第1の判定部によって判定された前記健全度が前記第1の健全度より健全である第2の健全度となる範囲であることを特徴とする請求項3に記載の解析システム。
【請求項5】
前記第1の処理および前記第2の処理を行う前の前記壁面情報に基づいて前記壁面の状態を判定する第2の判定部をさらに備え、
前記特定の範囲には、前記第2の判定部によって要解析と判定された範囲が含まれることを特徴とする請求項4に記載の解析システム。
【請求項6】
同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析方法であって、
取得された時期に応じて、前記壁面の特定の範囲について前記壁面情報を解析する第1の処理と、前記特定の範囲よりも広い範囲について前記壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行うステップを備えることを特徴とする解析方法。
【請求項7】
同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析プログラムであって、
取得された時期に応じて、前記壁面の特定の範囲について前記壁面情報を解析する第1の処理と、前記特定の範囲よりも広い範囲について前記壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行うステップを、コンピュータに実行させることを特徴とする解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造物の壁面情報を解析する解析システム、解析方法、および解析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル、道路、または橋などの構造物の検査では、構造物の壁面を目視して壁面に発生している変状を検出することが行われていた。近年、構造物の検査の効率化のために計測装置を用いて構造物の壁面情報を取得し、取得した壁面情報を解析して構造物の変状を検出することが行われている。計測装置には、MMS(Mobile Mapping System)、ドローンなどの移動型計測装置、および人によって計測される計測装置が例示される。
【0003】
また、検出された変状の健全度を判定し、健全度に応じて経過観察、修理といった措置が取られていた。なお、計測装置を用いて得られる構造物の壁面情報には、レーザスキャナを用いて取得された3次元点群データ、撮像装置を用いて取得された画像データなどが例示される。また、構造物の変状には、ひび割れ、浮き、剥落、エフロレッセンス、鉄筋露出、腐食、漏水、滴水、欠損、コールドジョイント、析出物、ジャンカなどが例示される。
【0004】
特許文献1には、異なる時期に取得された壁面情報を解析して得られた変状同士の差分を求めることにより、変状の進行の度合いを算出する解析システムが開示されている。変状の進行の度合いを把握することで、変状に対する修理といった措置の緊急度を把握することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-56085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術によれば、構造物全体の変状の進行の度合いを把握するためには異なる時期に取得された壁面情報の全体を解析する必要がある。トンネル、道路、または橋といった大型の構造物全体の解析をするためには解析する情報が大きくなるため、解析にかかる時間、費用が増大してしまうという問題があった。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、異なる時期に取得された構造物の壁面情報を用いた解析に必要となる時間および費用の縮小を図ることができる解析システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示は、同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析システムであって、取得された時期に応じて、壁面の特定の範囲について壁面情報を解析する第1の処理と、特定の範囲よりも広い範囲について壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行う解析部を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、異なる時期に取得された構造物の壁面情報を用いた解析に必要となる時間および費用の縮小を図ることができる解析システムを得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1にかかる解析システムの機能構成を示す図
図2】実施の形態1における計測装置がトンネル内の壁面を計測している状態の一例を模式的に示す図
図3】実施の形態1における計測装置によって生成された3次元点群データを示す図
図4】実施の形態1における記憶部に記憶された検査種別テーブルの一例を示す図
図5】実施の形態1における変状の健全度と、健全度に対する処置の対応関係を示す図
図6】変状展開図の一例を示す図
図7】変状展開図の一例を示す図
図8】変状展開図の一例を示す図
図9】コンター図の一例を示す図
図10】コンター図の一例を示す図
図11】コンター図の一例を示す図
図12】実施の形態1にかかる解析システムによる検査手順を説明するフローチャート
図13】実施の形態1にかかる解析システムのハードウェア構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態にかかる解析システム、解析方法、および解析プログラムを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる解析システムの機能構成を示す図である。実施の形態1では、解析システム1によって解析される構造物は道路または線路の途中に設けられるトンネルである場合を例示する。トンネルに例示される構造物は、定期的に検査が行われる。例えば、2年ごとに検査が行われ、検査で検出された変状の健全度が判定される。健全度に応じて経過観察するまたは修理するといった変状箇所への措置が決定される。実施の形態1にかかる解析システム1は、上述した構造物の検査に用いられる。
【0013】
解析システム1は、計測装置10と、記憶部20と、処理部30と、表示部40と、入力部50とを備える。計測装置10は、構造物の壁面情報を取得する装置である。例えば、道路上のトンネルの壁面情報を走行しながら取得するのであれば計測装置10には自動車、軌陸車が例示される。また、線路上のトンネルの壁面情報を走行しながら取得するのであれば計測装置10には鉄道車両、軌陸車が例示される。
【0014】
計測装置10は、レーザスキャナ装置11、撮像装置12、姿勢・位置計測装置13を有している。
【0015】
図2は、実施の形態1における計測装置がトンネル内の壁面を計測している状態の一例を模式的に示す図である。計測装置10は、図2に示すように、トンネルの壁面の3次元点群データを取得するレーザスキャナ装置11を有する。取得された3次元点群データは記憶部20に向けて送信される。図3は、実施の形態1における計測装置によって生成された3次元点群データを示す図である。3次元点群データは、計測装置10によって取得される壁面情報の1つである。
【0016】
計測装置10は、トンネル内を走行しながらトンネルの壁面を撮影して画像データを取得する撮像装置12を有する。撮像装置12は、例えば8Kカメラである。画像データは記憶部20に向けて送信される。画像データは、計測装置10によって取得される壁面情報の1つである。
【0017】
姿勢・位置計測装置13は、例えばGPS(Grobal Positioning System)レシーバ、レーザードップラー速度計、パルス速度計、IMU(慣性計測装置:Inertial Measurement Unit)である。姿勢・位置計測装置13によって計測された計測装置10の姿勢を示す姿勢情報と計測装置10の位置を示す位置情報は、記憶部20に向けて送信される。
【0018】
記憶部20は、各種情報を記憶する記憶装置である。記憶部20には、計測装置10から送信された3次元点群データと画像データとが、両データの取得時期および取得位置と関連付けて記憶される。取得時期は、例えば計測装置10によって取得された年度である。両データの取得時期は、トンネルの検査が実施された時期を示す情報となる。実施の形態1では、検査が実施された時期を、検査年度とも称する。また、3次元点群データと画像データとをまとめて壁面情報とも称する。
【0019】
記憶部20には、検査の種別を示す検査種別と検査年度とが関連付けられた検査種別テーブルが記憶されている。検査種別には詳細検査と簡易検査とが含まれる。後に詳説するが、処理部30において壁面情報への処理が検査種別によって異なる。
【0020】
図4は、実施の形態1における記憶部に記憶された検査種別テーブルの一例を示す図である。図4に示す検査種別テーブルによれば、例えば、2022年に実施される検査は詳細検査(鉄道の場合、特別全般検査に相当)であり、2024年に実施される検査は簡易検査(鉄道の場合、通常全般検査に相当)である。また、図4に示す検査種別テーブルでは、2022年の詳細検査の後は、2年ごとに簡易検査が行われ、20年ごとに詳細検査が行われる。なお、検査年度と検査種別との関係はテーブル情報として予め記憶されていてもよいが、検査実施時に検査の実施者が都度入力するようにしてもよい。
【0021】
記憶部20には、第1の判定結果が記憶される。第1の判定結果は、トンネルの健全度を示す情報である。第1の判定結果の取得手順などは後に詳説する。記憶部20には、第2の判定結果が記憶される。第2の判定結果は、簡易検査で得られる情報であり、壁面情報を詳細に解析する必要がある範囲を示す情報である。第2の判定結果の取得手順などは後に詳説する。
【0022】
記憶部20には、壁面情報を解析した解析結果が記憶される。解析結果は例えば変状展開図およびコンター図である。なお、以下の説明では変状展開図およびコンター図の両方を解析結果として作成する例を挙げているが、いずれか一方のみが解析結果として作成されてもよい。
【0023】
処理部30は、解析部31、第1の判定部32、第2の判定部33、分析部34、表示処理部35を備える。解析部31は、計測装置10によって取得された壁面情報を解析する。解析部31は、処理種類判別部311、を有する。
【0024】
処理種類判別部311は、記憶部20に記憶された検査種別テーブルを参照して、壁面情報に行う処理の種類を判別する。具体的には、詳細検査では広範囲解析処理(第2の処理)が行われ、簡易検査では部分解析処理(第1の処理)が行われる。次に、広範囲解析処理および部分解析処理の手順等について説明する。
【0025】
<広範囲解析処理について>
広範囲解析処理では、部分解析処理よりも広い範囲で壁面情報の詳細な解析が行われる。実施の形態1では、取得された壁面情報の全体で詳細な解析が行われる。広範囲解析処理では、解析処理部312は、記憶部20に記憶された壁面情報を取得する。解析処理部312は、取得した構造物全体の壁面情報を解析して変状を検出する。変状は、例えばひび割れ、浮き、剥落、エフロレッセンス、鉄筋露出、腐食、漏水、滴水、欠損、コールドジョイント、析出物、ジャンカなどが例示される。
【0026】
解析処理部312は、検出した変状に基づいて変状展開図を作成する。変状展開図とは、壁面情報を取得した壁面を平面状に展開した展開図を作成し、検出された変状を展開図上でその変状が検出された位置に表した図である。実施の形態1のように構造物がトンネルであれば、半円筒形状であるトンネルの壁面を平面状に展開した展開図を作成し、展開図上に検出された変状を反映させた図となる。作成された変状展開図は記憶部20に向けて送信される。
【0027】
解析処理部312は、取得した構造物全体の壁面情報を解析して壁面のひずみを算出する。解析処理部312は、異なる年度に取得された壁面情報同士の比較または基準となる壁面形状との比較によってひずみを算出する。解析処理部312は、算出されたひずみに基づいてコンター図を作成する。コンター図は、算出されたひずみを等高線(等値線)で示した図である。作成されたコンター図は記憶部20に向けて送信される。
【0028】
<部分解析処理について>
部分解析処理では、トンネルの特定の範囲で壁面情報の詳細な解析が行われる。部分解析処理では、解析処理部312は、前回の検査で取得された壁面情報に対する第1の判定部32による判定の結果で、健全度が中健全度(第2の健全度)であると判定された範囲を上述した特定の範囲に含める。なお、第1の判定部32による判定の結果が第1の判定結果であり、判定の手順などについては後に詳説する。また、前回の検査で中健全度と判定された範囲を前回中健全度範囲と称する。
【0029】
また、部分解析処理では今回の検査で取得した壁面情報について第2の判定部による判定が行われる。解析処理部312は、第2の判定部33による判定の結果で、要解析と判定された範囲を上述した特定の範囲に含める。なお、以下の説明において、要解析と判定された範囲を要解析範囲とも称する。また、第2の判定部33による判定の結果が第2の判定結果であり、判定の手順などについては後に詳説する。
【0030】
このように、部分解析処理では、構造物全体ではなく特定の範囲、すなわち広範囲解析処理よりも狭い範囲で壁面情報の解析が解析処理部312によって行われる。なお、部分解析処理での特定の範囲に対する解析は、広範囲解析処理と同様の解析が行われる。すなわち、特定の範囲で壁面情報を解析し、変状展開図およびコンター図が作成される。
【0031】
次に、第1の判定部32および第2の判定部33による判定について説明する。
【0032】
<第1の判定部32による判定について>
第1の判定部32は、今回の検査で取得された壁面情報に対して広範囲解析処理が行われた場合、すなわち今回の検査が詳細検査である場合には、広範囲解析処理によって作成された変状展開図およびコンター図を用いて変状の健全度の判定を行う。すなわち、構造物の全体に対して変状の健全度の判定が行われる。
【0033】
第1の判定部32は、今回の検査で取得された壁面情報に対して部分解析処理が行われた場合、すなわち今回の検査が簡易検査である場合には、部分解析処理によって作成された変状展開図およびコンター図を用いて変状の健全度の判定を行う。すなわち、構造物の特定の範囲で変状の健全度の判定が行われる。
【0034】
図5は、実施の形態1における変状の健全度と、健全度に対する処置の対応関係を示す図である。健全度は、変状の進行度合いおよび程度などに基づいて定められる指標である。健全度が低健全度(第1の健全度)と判定された場合には、当該箇所について過去の検査結果に遡って壁面情報の解析が行われる。また、健全度が中健全度と判定された場合には、将来的に低健全度になるおそれがあるものとして記録される。また、高健全度と判定された場合には、トンネルの機能に支障が生じていない状態であり、特別の措置は取られない。
【0035】
第1の判定部32は、判定された範囲と健全度とを対応付けた情報を記憶部20に送信する。判定された範囲と健全度とを対応付けた情報が第1の判定結果として記憶部20に記憶される。図5に示した例では健全度が3つに区分されて設定されているが、2つに区分されて設定されていてもよいし、より細かく区分されて設定されていてもよい。
【0036】
ここで、変状展開図と健全度の判定例およびコンター図と健全度の判定例を示す。図6から図8は、変状展開図の一例を示す図である。
【0037】
図6に示す例では、変状は存在するものの、低健全度および中健全度と判定されるような変状は存在していない。図7に示す例では、変状として漏水、剥落が発生している範囲Aが中健全度と判定される。図8に示す例では、変状として漏水、ひび割れ、剥落が同時に発生している範囲Bが低健全度と判定される。
【0038】
図9から図11は、コンター図の一例を示す図である。図9に示す例では、大きなひずみは見られず、低健全度および中健全度と判定されるひずみは存在していない。図10に示す例では、ひずみはあるもののその範囲は限定的である範囲Cが中健全度と判定される。図11に示す例では、ひずみのある範囲が大きく、その範囲Dが低健全度と判定される。
【0039】
<第2の判定部33による判定について>
第2の判定部33は、今回の検査で取得された壁面情報に対して部分解析処理が行われる場合、すなわち今回の検査が簡易検査である場合には、解析処理部312による部分解析処理が必要となる要解析範囲を抽出する判定を行う。第2の判定部33による判定は部分解析処理の前に行われる。要解析範囲は、例えば、健全度が中健全度となる変状および低健全度となる変状が存在すると予想される範囲である。
【0040】
第2の判定部33による判定は、解析処理部312による解析が行われる前の壁面情報に基づいて行われる。そのため、解析処理部312による解析に基づいて行われる第1の判定部32による判定に比べて、その精度は低いものとなる。
【0041】
そのため、部分解析処理では、要解析範囲に対して解析処理部312による解析を行い、その解析結果に対して第1の判定部32による判定を行うことで、解析を行う範囲を限定しつつ、その限定された範囲ではより正確な健全度の判定を行っている。
【0042】
<分析部34による分析処理について>
分析部34は、広範囲解析処理および部分解析処理における第1の判定部33による判定結果で低健全度となった範囲があった場合、過去の検査において未解析の壁面情報があるかを確認する。ここで、詳細検査で行われる広範囲解析処理では、構造物全体の壁面情報が解析されるので未解析の壁面情報はない。一方、簡易検査で行われる部分解析処理では特定の範囲のみ壁面情報が解析されるので、未解析の壁面情報が存在する。したがって、今回の検査と前回の詳細検査との間に簡易検査が行われていれば過去の検査において未解析の壁面情報があると判定される。
【0043】
分析部34は、部分解析処理において第1の判定部33による判定結果が低健全度となった範囲について、過去の未解析となった壁面情報を解析処理部312に解析させる。すなわち、部分解析処理において第1の判定部33による判定結果が低健全度となった範囲について過去の検査時の変状展開図およびコンター図が作成される。また、ここで作成された変状展開図およびコンター図は、解析結果として記憶部20に記憶される。
【0044】
過去の部分解析処理では第2の判定部33による判定では要解析範囲として抽出されなかったものの、実際には変状がすでに発生している場合がある。つまり、過去の部分解析処理では検出されなかった変状が存在している場合がある。このような変状がその後に低健全度と判定される状態に進行し、今回の検査で検出される場合がある。このような場合、従来であれば今回の検査で検出された変状の状態は把握できるものの、その進行の度合いまでは把握することが難しかった。一方、実施の形態1にかかる解析システムでは、変状が低健全度と判定された範囲について過去に遡って変状の検出が行われるので、変状の進行の度合いを把握することができる。
【0045】
例えば、図6に示した変状展開図が2024年の簡易検査で行われた部分解析処理の解析結果であり、図7に示した変状展開図が2026年の簡易検査で行われた部分解析処理の解析結果であり、図8に示した変状展開図が2028年の簡易検査で行われた部分解析処理の解析結果であるとする。そして、図7で示した範囲Aの変状が部分解析処理では要解析範囲として検出されず解析処理部312による解析は行われておらず、図8で示した範囲Bの変状が部分解析処理で要解析範囲と判定されて解析の結果で低健全度と判定されたとする。この場合、分析部34の指示で、2024年に取得された壁面情報の範囲Bに相当する範囲が解析処理部312によって解析される。また、2026年に取得された壁面情報の範囲Aが解析処理部312によって解析される。2024年の壁面情報の解析結果では変状は検出されないが、2026年の壁面情報の解析結果では範囲Aの変状が検出される。
【0046】
表示処理部35は、解析結果を表示部40に表示させる。表示部40は、LCD(Liquid Crystal Display:液晶表示パネル)などで構成され、解析システム1のユーザに対して各種画面を表示する。表示部40はタッチパネルであってもよい。
【0047】
例えば、表示処理部35は、図7から図8に示した変状展開図を並べて表示部40に表示させる。これにより、解析システム1の使用者は、変状の進行度合いを把握することが可能となる。また、変状の進行度合いを把握することで、同じ低健全度と判定される変状であっても、修理などの必要な措置の緊急の度合いをより適切に判断しやすくなる。
【0048】
入力部50は、ユーザが操作して情報を入力可能な装置であり、例えばキーボードである。表示部40がタッチパネルであれば表示部40を入力部50として機能させることができる。
【0049】
次に、解析システム1による検査手順を、フローチャートを用いて説明する。図12は、実施の形態1にかかる解析システムによる検査手順を説明するフローチャートである。なお、図12に示す検査が行われる前にも検査が行われており、その結果が記憶部20に記憶されているものとする。
【0050】
まず、計測装置10によって壁面情報が取得される(ステップS1)。取得される壁面情報は、詳細検査であっても簡易検査であっても差異はない。次に、取得された壁面情報が記憶部20に記憶される(ステップS2)。次に、今回の検査が、詳細検査であるか、簡易検査であるかが判別される(ステップS3)。
【0051】
今回の検査が詳細検査である場合には(ステップS3,Yes)、検査区間のすべての壁面情報に基づいた解析が行われ、変状展開図およびコンター図が作成され(ステップS4)、解析結果が記憶部20に記憶される(ステップS5)。
【0052】
今回の検査が簡易検査である場合には(ステップS3,No)、壁面情報に基づいて第2の判定部33による判定が行われる(ステップS6)。第2の判定部による判定の結果で要解析範囲と判定された範囲、または前回の検査において中健全度と判定された前回中健全度範囲があった場合には(ステップS7,Yes)、その範囲に対して壁面情報の解析が行われ(ステップS8)、解析結果が記憶部20に記憶される(ステップS9)。なお、要解析範囲および前回中健全度範囲がなかった場合には(ステップS7,No)、処理が終了する。
【0053】
ステップS5の次に、またはステップS9の次に、解析結果に基づいて第1の判定部32による健全度の判定が行われる(ステップS10)。ここで、低健全度と判定された範囲がある場合には(ステップS11,Yes)、過去の検査において未解析であった壁面情報の有無が判別される(ステップS12)。なお、詳細検査では広範囲解析処理が行われるので壁面情報の全体に対して解析が行われる。したがって、広範囲解析処理が行われる検査では過去の未解析の壁面情報はない。そのため、未解析であった壁面情報の有無の判別は、第2の処理が行われる過去の検査と今回の検査との間に第1の処理が行われる検査の有無によって判別される。
【0054】
ここで、未解析であった壁面情報があった場合には(ステップS13,Yes)、未解析の壁面情報について、今回の検査で低健全度と判定された範囲について解析処理部312による解析が行われ(ステップS14)、解析結果が記憶部20に記憶される(ステップS15)。
【0055】
未解析であった壁面情報が無かった場合(ステップS13,No)、およびステップS15の後には、解析結果を表示部40に表示させ(ステップS16)、処理が終了する。表示部40に表示される内容は、例えば今回の検査における解析結果と以前の検査における解析結果である。なお、ステップS11において低健全度と判定された範囲が無かった場合にも(ステップS11,No)処理が終了する。
【0056】
図13は、実施の形態1にかかる解析システムのハードウェア構成を示す図である。解析システム1は、図13に示したプロセッサ301およびメモリ302により実現することができる。プロセッサ301の例は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ302の例は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)である。
【0057】
解析システム1は、プロセッサ301が、メモリ302で記憶されている解析システム1の動作を実行するためのプログラムを読み出して実行することにより実現される。また、このプログラムは、解析システム1の手順または方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。メモリ302は、プロセッサ301が各種処理を実行する際の一時メモリにも使用される。
【0058】
プロセッサ301が実行するプログラムは、コンピュータで実行可能な、データ処理を行うための複数の命令を含むコンピュータ読取り可能かつ非遷移的な(non-transitory)記録媒体を有するコンピュータプログラムプロダクトであってもよい。プロセッサ301が実行するプログラムは、複数の命令がデータ処理を行うことをコンピュータに実行させる。
【0059】
また、解析システム1を専用のハードウェアで実現してもよい。また、解析システム1の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0060】
以上説明した解析システム1によれば、簡易検査では取得した壁面情報の一部のみ解析しているので、解析に必要となる時間および費用の縮小を図ることができる。また、低健全度と判定された範囲については過去に遡って壁面情報の解析をするので、変状の進行度合いなどもより正確に把握することができる。したがって、変状の修理など必要な措置を実施する緊急度もより正確かつより細やかに把握することが可能となる。また、過去に遡っての壁面情報の解析は、壁面情報の全体を解析するものではないので、解析に必要となる時間および費用の増大も防ぐことができる。ここで、詳細検査であっても簡易検査であっても取得する壁面情報について大きな差を設けていないため、過去に遡っての詳細な解析が可能となっている。
【0061】
なお、記憶部20は解析システム1の外部に設けられていてもよく、例えば解析システム1とネットワークで接続されたクラウドであってもよい。
【0062】
また、簡易検査において第2の判定部33によって判定される要解析範囲は、第2の判定部33による判定に代えて、利用者が入力部50を操作して入力するように構成されていてもよい。例えば、変状展開図およびコンター図に変換される前の3次元点群データおよび画像データを利用者が目視して要解析範囲を抽出し、入力部50を操作してその範囲を入力してもよい。
【0063】
また、実施の形態1にかかる解析システム1では、解析結果を表示部40に表示させて利用者が変状の進行度合いを把握しやすいようにしているが、解析システム1が解析結果に基づいて変状の進行度合いを判別し、判別した進行度を利用者に提示するようにしてもよい。例えば、健全度と同様に進行の度合いも指標で表して表示部40に表示させてもよい。
【0064】
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 解析システム、10 計測装置、11 レーザスキャナ装置、12 撮像装置、13 姿勢・位置計測装置、20 記憶部、30 処理部、31 解析部、32 第1の判定部、33 第2の判定部、34 分析部、35 表示処理部、40 表示部、50 入力部、301 プロセッサ、302 メモリ、311 処理種類判別部、312 解析処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-10-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析システムであって、
前記壁面情報が取得された時期に対応づけられた検査種別に応じて、前記壁面の特定の範囲について前記壁面情報を解析する第1の処理と、前記特定の範囲よりも広い範囲について前記壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行う解析部を備えることを特徴とする解析システム。
【請求項2】
前記解析部による解析結果に基づいて前記変状の健全度を判定する第1の判定部と、
前記解析部が前記第1の処理および前記第2の処理を行う前の前記壁面情報に基づいて前記壁面の状態を判定する第2の判定部と、
をさらに備え
前記解析部は、今回の検査について前記第1の処理を行う場合、今回の検査以前に前記第1の判定部によって判定された前記健全度に基づいて抽出される範囲と、前記第2の判定部によって今回の検査の前記壁面情報で要解析と判定された範囲とを含む前記特定の範囲について前記第1の処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の解析システム。
【請求項3】
前記解析部による解析結果に基づいて前記変状の健全度を判定する第1の判定部と、
記第1の判定部によって判定された前記健全度が第1の健全度である範囲に対して、以前に取得されて前記第1の処理が行われた前記壁面情報に遡って過去の未解析となった前記壁面情報を前記解析部に解析させる分析部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項に記載の解析システム。
【請求項4】
前記分析部は、前記第2の処理が行われる過去の検査と今回の検査との間に前記第1の処理が行われた検査が存在する場合、前記過去の未解析となった壁面情報が存在すると判断し、前記第2の処理が行われる過去の検査と今回の検査との間に第1の処理が行われた検査の前記壁面情報を前記解析部に解析させることを特徴とする請求項3に記載の解析システム。
【請求項5】
同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析方法であって、
前記壁面情報が取得された時期に対応づけられた検査種別に応じて、前記壁面の特定の範囲について前記壁面情報を解析する第1の処理と、前記特定の範囲よりも広い範囲について前記壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行うステップを備えることを特徴とする解析方法。
【請求項6】
同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析プログラムであって、
前記壁面情報が取得された時期に対応づけられた検査種別に応じて、前記壁面の特定の範囲について前記壁面情報を解析する第1の処理と、前記特定の範囲よりも広い範囲について前記壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行うステップを、コンピュータに実行させることを特徴とする解析プログラム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示は、同一の構造物の壁面から異なる時期に取得された壁面情報を解析して変状を検出する解析システムであって、壁面情報が取得された時期に対応づけられた検査種別に応じて、壁面の特定の範囲について壁面情報を解析する第1の処理と、特定の範囲よりも広い範囲について壁面情報を解析する第2の処理とのいずれか一方を行う解析部を備える。