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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184326
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】地下構造物用蓋受枠セット
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/14 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
E02D29/14 D
E02D29/14 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098399
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】大波 豊明
(72)【発明者】
【氏名】増田 智也
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴久
【テーマコード(参考)】
2D147
【Fターム(参考)】
2D147BB12
2D147BB17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】防食用シートによって蓋体の外周面の腐食を防止しつつ、防食用シートの上端部分の折れ曲がりを効果的に抑え、受枠の内周面の腐食も安定して防止する工夫がなされた地下構造物用蓋受枠セットを提供する。
【解決手段】受枠3は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面311と、内周面311に設けられた防食用シートSと、内周面311の下側において内側に突出した停止部312と、を有するものであり、蓋体2は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜したテーパ状の外周面221と、閉蓋状態からずり下がると停止部312の上面312aに当接する水平な当接面223と、を有するものであり、外周面221と当接面223はR面によって接続されたものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、該受枠に支持されることで該開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記受枠は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面と、該内周面に設けられた防食用シートと、該内周面の下側において内側に突出し水平な上面を備えた停止部と、を有するものであり、
前記蓋体は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜したテーパ状の外周面と、前記受枠の上端面の高さ位置に該蓋体の上面の高さ位置が一致した閉蓋状態からずり下がると前記停止部の上面に当接する水平な当接面と、を有するものであり、
前記外周面と前記当接面はR面によって接続されたものであることを特徴とする地下構造物用蓋受枠セット。
【請求項2】
前記R面は、高さ方向の寸法が、前記外周面の高さ方向の寸法に対して、1/9以上1/5以下のものであることを特徴とする請求項1記載の地下構造物用蓋受枠セット。
【請求項3】
前記当接面は、前記停止部の上面における先端から20%以上の部分に当接するものであることを特徴とする請求項1または2記載の地下構造物用蓋受枠セット。
【請求項4】
前記R面は、半径が前記防食用シートの厚みの3倍以上6倍以下のものであることを特徴とする請求項1または2記載の地下構造物用蓋受枠セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットに関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や上水道、あるいは電力、ガス、通信等における地下埋設物や地下施設等の地下構造物が地上につながる箇所には、地下構造物につながる開口を画定する受枠と、この受枠に支持されることで開口を塞ぐ蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットが設置される場合がある。本明細書では、地下構造物用蓋受枠セットを蓋受枠セットと略称する場合がある。また、蓋体が受枠に支持され、開口が塞がれた状態(蓋体が受枠に嵌め込まれ、受枠の上端面の高さ位置に蓋体の上面の高さ位置が一致した状態)を閉蓋状態と称することがある。
【0003】
前述した地下構造物内は、下水道管路施設など、特に下水が滞留するような箇所で硫化水素等が発生し、腐食雰囲気となりやすい。蓋体や受枠は、一般的に鋳鉄等の金属製のものであり、蓋体の裏面や、閉蓋状態において受枠の露出する箇所は、腐食雰囲気に曝される厳しい環境となるため、それに耐えうる防食性能が要求される。このため、蓋体の裏面や受枠の露出する箇所に、エポキシ樹脂系粉末塗料等を静電塗装して防食塗膜を設ける等の対策が施される場合がある。
【0004】
また、閉蓋状態で面接触する、蓋体の外周面と受枠の内周面(蓋体と受枠の嵌合部分)は、防食皮膜を均一に設けることが困難なうえに、たとえ防食皮膜を設けたとしても蓋体の開閉動作等で干渉(接触)し剥がれてしまい、発錆が生じやすい(腐食しやすい)。このため、本出願人は、受枠の内周面に、合成ゴム等からなる防食用シートを設けた蓋受枠セットを提案している(例えば、特許文献1等参照)。特許文献1記載の蓋受枠セットによれば、防食用シートによって受枠の内周面を保護するとともに、蓋体の外周面と防食用シートとの間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、蓋体の外周面の腐食をも防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-159113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、蓋体を閉める際に、受枠の防食用シートを不用意に損傷してしまう虞がある。具体的には、蓋体の外周面がテーパ状に構成されているため、上方からは蓋体の外周面は天板部で隠れてしまう。このため、受枠の内周面に対し、蓋体の外周面の位置を一致させて蓋体を閉めることが難しい。さらに、詳しくは後述するように、蓋体の開閉構造として蝶番構造を採用する場合には、斜め上方に引き出した蓋体を戻すようにして蓋体を閉めることになる。このため、蓋体の外周面の下端部分等が防食用シートに接触して、特に、防食用シートの上端部分に折れ曲がり(捲れ)が生じ、受枠の内周面の腐食を長期間にわたり安定して防止することが難しい場合がある。
【0007】
本発明は前記事情に鑑み、防食用シートによって蓋体の外周面の腐食を防止しつつ、防食用シートの上端部分の折れ曲がりを効果的に抑え、受枠の内周面の腐食も安定して防止する工夫がなされた地下構造物用蓋受枠セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を解決する本発明の地下構造物用蓋受枠セットは、地下構造物につながる開口を画定する金属製の受枠と、該受枠に支持されることで該開口を塞ぐ金属製の蓋体とを備えた地下構造物用蓋受枠セットにおいて、
前記受枠は、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面と、該内周面に設けられた防食用シートと、該内周面の下側において内側に突出し水平な上面を備えた停止部と、を有するものであり、
前記蓋体は、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜したテーパ状の外周面と、前記受枠の上端面の高さ位置に該蓋体の上面の高さ位置が一致した閉蓋状態からずり下がると前記停止部の上面に当接する水平な当接面と、を有するものであり、
前記外周面と前記当接面はR面によって接続されたものであることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記受枠および前記蓋体は、例えば鋳鉄製の鋳物からなるものであってもよい。また、前記内周面と前記外周面は、その傾斜角度が特に限定されるものではない。例えば8°~12°程度の範囲の中で、同じ傾斜角度であってもよいし、前記内周面の傾斜角度を前記外周面の傾斜角度よりも僅かに大きくする等、該内周面の傾斜角度と該外周面の傾斜角度とを異ならせてもよい。傾斜角度とは、受枠の上端面に対して水平な蓋体の上面に直交する方向を基準にして、この方向に対して傾斜する角度をいう。前記外周面は、縦断面において、直線状に傾斜したテーパ状の面である。
【0010】
また、前記防食用シートは、前記蓋体に荷重が掛かると、弾性変形によって、前記枠体が拡径または前記蓋体が縮径、あるいは該枠体が拡径および該蓋体が縮径するように、材料、硬度および厚さ等を設定する。具体的には、前記防食用シートは、合成ゴム、プラスチック、展伸材または溶射皮膜のいずれかまたは複数を材料とするものであってもよい。合成ゴムとしては、NBR(ニトリルゴム)、CR(クロロプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)が好ましく、プラスチックとしては、PP(ポリプロピレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)が好ましい。展伸材および溶射皮膜は、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、ニッケル、クロム、またはこれらいずれかを主材料とする合金からなるものが好ましい。なお、弾性変形によって、前記枠体が拡径するか、前記蓋体が縮径するか、あるいは該枠体が拡径するとともに該蓋体が縮径するかは、該枠体と該蓋体の弾性率によって異なる。一般的には前記枠体が拡径する場合が多いが、該枠体を剛性仕様にした場合には前記蓋体が縮径する場合もある。
【0011】
本発明の地下構造物用蓋受枠セットによれば、閉蓋状態において、前記蓋体に荷重が掛かると、前記防食用シートによって、前記受枠の拡径または前記蓋体の縮径、あるいは該受枠の拡径および該蓋体の縮径が促進される。この結果、弾性変形して拡径した前記受枠が縮径しようとする力や、弾性変形して縮径した前記蓋体が拡径しようとする力によって、いわゆるくさび効果が強まり、前記防食用シートと、前記外周面との面接触の密着性が高まる。これにより、長期間の使用によっても、前記外周面と前記防食用シートとの間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、該外周面の腐食を長期間にわたり安定して防止することができる。
【0012】
さらに、前記蓋体は、前記外周面と前記当接面とを接続する前記R面(曲率のついた丸まった面)を有しており、該外周面から該当接面にかけて角部もない。このため、前記蓋体を閉める際に前記R面が前記防食用シートに接触した場合の衝撃や、特に、該防食用シートの上端部分との擦れ等を緩和することができる。その結果、前記防食用シートの上端部分の折れ曲がりも抑えることができ、該内周面の腐食も安定して防止することが可能となる。
【0013】
また、本発明の地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記R面は、高さ方向の寸法が、前記外周面の高さ方向の寸法に対して、1/9以上1/5以下のものであってもよい。すなわち、前記外周面と前記R面は、高さ方向の比率が、5:1~9:1の範囲に設定されたものであってもよい。なお、前記R面の高さ方向の寸法は、前記外周面の高さ方向の寸法に対して、1/8以上1/6以下がより好ましく、特に1/7程度が好ましい。
【0014】
前記R面の高さ方向の寸法が、前記外周面の高さ方向の寸法に対して1/9未満であると、前記蓋体を閉める際の前記防食用シートの上端部分との擦れ等を緩和する効果が不十分となる虞がある。一方、前記R面の高さ方向の寸法が、前記外周面の高さ方向の寸法に対して1/5を超えると、該外周面の面積の減少によって前述したくさび効果が弱まり、前記防食用シートと、前記外周面との面接触の密着性が不十分となる虞がある。
【0015】
さらに、本発明の地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記当接面は、前記停止部の上面における先端から20%以上の部分に当接するものであってもよい。
【0016】
こうすることで、前記蓋体がずり下がった場合でも、前記停止部の上面への前記当接面の当接が安定するとともに、鋳物製造や機械加工で生じる製造誤差も吸収することが可能となる。また、前記当接面が当接する部分が前記停止部の上面の先端に偏りすぎると、該停止部の先端に荷重が集中して破損の原因となる虞があるが、こういった不具合も回避することができる。
【0017】
また、本発明の地下構造物用蓋受枠セットにおいて、前記R面は、半径が前記防食用シートの厚みの3倍以上6倍以下のものであってもよい。
【0018】
前記R面の半径を前記防食用シートの厚みの3倍以上とすれば、前記蓋体を閉める際に該蓋体が該防食用シートの上端部分に接触しても、該上端部分に該R面が接触しやすくなり、かつ、該R面が該上端部分に接触しつつ該蓋体が閉まっていく確率が高まる。これにより、擦れ等を緩和する効果をより安定して発揮することができる。一方、前記R面の半径が前記防食用シートの厚みの6倍を超えると、前記外周面の面積の減少によって前述したくさび効果が弱まり、前記防食用シートと、前記外周面との面接触の密着性が不十分となる虞がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、防食用シートによって蓋体の外周面の腐食を防止しつつ、防食用シートの上端部分の折れ曲がりを効果的に抑え、受枠の内周面の腐食も安定して防止する工夫がなされた地下構造物用蓋受枠セットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は、受枠と蓋体とからなる蓋受枠セットの平面図であり、(b)は、(a)に示す蓋受枠セットのA-A線断面図である。
図2図1(b)における破線の円で囲んだC部を拡大して示す端面図である。
図3図2に示す蓋体を抜き出して拡大して示す図である。
図4】(a)は、図1(a)に示す蓋受枠セットのB-B線断面図である。(b)は、(a)に示す蓋体を開閉工具を用いて開ける動作を説明するための図である。(c)は、(b)を用いて開ける動作を説明した蓋体について、閉める動作を説明するための図である。
図5】蓋体が防食用シートの上端部分に接触しながら受枠に閉まっていく様子を説明するための図である。
図6図2に示す蓋体が、ずり落ちた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
図1(a)は、受枠3と蓋体2とからなる蓋受枠セット10の平面図であり、同図(b)は、同図(a)に示す蓋受枠セット10のA-A線断面図である。なお、図1(a)では、地面Gを省略している。
【0023】
図1には、蓋体2と、その蓋体2を支持する受枠3とを備えた蓋受枠セット(地下構造物用蓋受枠セット)10を示している。地下埋設物である下水道用排水管は地表から所定の深さの位置に埋設されており、その下水道用排水管の途中に、地下施設として、マンホールが設けられている。下水道用排水管もマンホールも地下構造物に相当する。マンホールは、既製のコンクリート成型品を積み上げた躯体によって、下水道用排水管から地表へ向かう縦穴として形成されている。受枠3はその躯体の上に設けられたものであり、地下構造物であるマンホールにつながる開口Hを画定している。この地下構造物内は、発生した硫化水素等によって腐食雰囲気になっている。
【0024】
蓋体2は、地下構造物であるマンホールにつながる開口Hを開閉自在に塞ぐ平面視で円形のものであり、図1に示す蓋体2は、開口Hを塞いでいる。図1に示す、蓋体2および受枠3は、鋳造によって成形された、例えば材質がFCD700からなる鋳鉄製のものである。なお、蓋体2および受枠3は、鋳鉄以外の鉄製であってもよく、鉄以外の金属製であってもよい。蓋体2は、円盤状の天板部21と、その天板部21の外周部分に設けられ天板部21を囲む環状壁部22と、天板部21の裏面から下方に突出した蓋リブ23とを備えている。天板部21の裏面と蓋リブ23には、電着塗装による防食被膜が形成されている。
【0025】
受枠3は、平面視で環状に形成された筒状の枠本体31と、枠本体31の下端部分から外側に張り出したフランジ部32と、フランジ部32の上面に設けられた枠リブ33とを有している。枠本体31の内周部分には、受枠3の内側にリング状に突出した停止部312が設けられている。この停止部312は、長期間の使用により蓋体2のずり下がりが進行していくと、蓋体2の環状壁部22の下端(当接面223,図3参照)が、その上面312a(図2参照)に当接し、これ以上のずり下がりを阻止するものである。
【0026】
図2は、図1(b)における破線の円で囲んだC部を拡大して示す端面図である。
【0027】
図2に示すように、受枠3は、枠本体31の内側部分における、停止部312よりも上側に、下方に向けて内径が狭くなる方向に傾斜した内周面311を有している。また、蓋体2は、環状壁部22の外周に、下方に向けて外径が狭くなる方向に傾斜した外周面221を有している。受枠3の内周面311の傾斜角度と、蓋体2の外周面221の傾斜角度は、同じ(例えば8°~9°)に設定されている。また、受枠3の内周面311の表面には、内周面311の腐食を防止する防食用シートSが全周にわたって接着等により設けられている。この防食用シートSは、受枠3の内周面311全面の保護と、ズレにくさや作業性等の観点から、枠本体31の上端面31aから、停止部312の上面312aまで設けられている。
【0028】
防食用シートSは、本実施形態では、合成ゴムのNBRによって構成され、硬度は60°~100°に設定されている。ここで、防食用シートSの硬度が60°未満であると、パッキンと同様に蓋体2に掛かった荷重の力が吸収されてしまい、受枠3の拡径や蓋体2の縮径を促進することが難しい。なお、防食用シートSの厚さは、1.0mm~2.0mmに設定することが好ましく、本実施形態では、1.5mm程度の厚さT(図5参照)の防食用シートSを採用している。
【0029】
また、防食用シートSは、NBRを材料とするものに限定されず、CRやIIR等の他の合成ゴムを材料とするものであってもよいし、PP、PVC等のプラスチックを材料とするものであってもよい。さらに、これらの材料を複合したものであってもよい。なお、これら合成ゴムやプラスチックを材料とした防食用シートSは、NBRを材料とした場合と同様に、硬度60°~100°、厚さ1.0~2.0mmに設定することが好ましい。
【0030】
さらに、防食用シートSとして、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、ニッケル、クロム、またはこれらいずれかを主材料とする合金からなる、展伸材や溶射皮膜を採用することもできる。これら展伸材や溶射皮膜を採用した場合の防食用シートSの厚さは、0.1~2.0mmが好ましい。
【0031】
図2に示すように、受枠3の上端面31aの高さ位置に蓋体2(天板部21)の上面の高さ位置が一致した閉蓋状態では、蓋体2の外周面221と、受枠3の内周面311に設けられた防食用シートSとが面接触して蓋体2が受枠3に支持される。この閉蓋状態において蓋体2に上方から荷重がかかると、防食用シートSによって、弾性変形による、受枠3の拡径(白抜きの矢印)または蓋体2の縮径(塗りつぶした矢印)、あるいは、弾性変形による、受枠3の拡径および蓋体2の縮径が促進される。この結果、弾性変形して拡径した受枠3が縮径しようとする力や、弾性変形して縮径した蓋体2が拡径しようとする力によって、いわゆるくさび効果が強まり、防食用シートSと、蓋体2の外周面221との面接触の密着性が高まる。これにより、長期間の使用によっても、防食用シートSと蓋体2の外周面221との間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、蓋体2の外周面221の腐食を長期間にわたり安定して防止することができる。また、受枠3の内周面311は、表面に設けられた防食用シートSによって腐食が防止される。
【0032】
図3は、図2に示す蓋体2を抜き出して拡大して示す図である。
【0033】
図3に示すように、環状壁部22の下端には、水平な当接面223が形成されている。この当接面223は、前述したように、長期間の使用により蓋体2のずり下がりが進行していくと、受枠3における停止部312の上面312a(図2参照)に当接し、これ以上のずり下がりを阻止するものである。また、外周面221と当接面223は、R面222によって接続されている。このR面222は、曲率のついた丸まった面である。
【0034】
外周面221の高さ(高さ方向の寸法)H1と、R面222の高さ(高さ方向の寸法)H2は、前述した、防食用シートSと蓋体2の外周面221との面接触の密着性(くさび効果)と、詳しくは後述する、防食用シートSの上端部分との擦れ等を緩和する効果とのバランスによって設定することが好ましい。具体的には、R面222の高さH2は、外周面221の高さH1に対して、1/9以上1/5以下に設定することが好ましい。R面222の高さH2が、外周面221の高さH1に対して1/9未満であると、蓋体2を閉める際の防食用シートSの上端部分との擦れ等を緩和する効果が不十分となる虞がある。一方、R面222の高さH2が、外周面221の高さH1に対して1/5を超えると、外周面221の面積の減少によって前述したくさび効果が弱まり、防食用シートSと、外周面221との面接触の密着性が不十分となる虞がある。
【0035】
ここで、R面222の高さH2と外周面221の高さH1との合計高さHは、受枠3の停止部312(図2参照)との関係等から制限があり、変更できる範囲が限定される。このため、外周面221の高さH1とR面222の高さH2の比率を、5:1~9:1の範囲で調整することが好ましい。例えば、合計高さHが40mmと仮定すると、R面222の高さH2は4mm~6.7mm程度、外周面221の高さH1は33.3mm程度~36mmに設定される。
【0036】
本実施形態では、蓋体2の開閉に蝶番構造を採用している。具体的には、図1に示すように、天板部21における、図1(a)では下側に位置する周縁部分には、開閉工具を挿入するための鍵穴211が形成され、この鍵穴211の裏面側には、蓋体2が開口Hを塞いだ状態を維持するロック部材5(図4参照)が設けられている。一方、ロック部材5とは180度反対側の位置(図1(a)における上側)には、蓋体2を受枠3に回動自在に連結する蝶番部材6(図4参照)が設けられている。
【0037】
図4(a)は、図1(a)に示す蓋受枠セット10のB-B線断面図である。
【0038】
図4(a)に示すように、蓋体2における他端側(図4では右側)の周縁部には、蝶番部材6が回動自在に連結されている。この蝶番部材6は、その中間部分に形成された鉤状突起61と、その下端部分に形成された抜止突起62とを備えている。受枠3の内周に形成された蝶番座314には、蝶番部材6が上下方向に貫通する貫通孔3141と、被係止部3142とが設けられている。この被係止部3142は、蝶番部材6の鉤状突起61が係止する部分である。なお、抜止突起62は、蓋体2を持ち上げると蝶番座314に当接する部分である。
【0039】
一方、蓋体2の他端側(図4では左側)の周縁部には、鍵穴211の下側にロック部材5が回動軸52を中心に回動可能に設けられている。ロック部材5は、弁体51と係止爪53を有する。受枠3には、係止片313が設けられている。ロック部材5は、蓋体2が浮き上がると、係止爪53が係止片313に係止する姿勢にスプリングSによって付勢されている。図4(a)には、その姿勢のロック部材5が示されている。また、図4(a)に示すロック部材5の姿勢では、弁体51が鍵穴211内に入り込み、鍵穴211を塞いでいる。
【0040】
なお、集中豪雨などにより流下能力以上の水が下水管渠に流入し、マンホール内の空気圧や水圧(内圧)が上昇すると、蓋体2が浮上して、蝶番部材6の鉤状突起61が、蝶番座314の被係止部3142に係止し、ロック部材5の係止爪53が、受枠3の係止片313に係止する。これにより、蓋体2と受枠3との間に隙間が生じ、この隙間から上方に向けて流体(気体や液体)を排出して内圧を解放することができる。
【0041】
図4(b)は、同図(a)に示す蓋体2を開閉工具TOを用いて開ける動作を説明するための図である。
【0042】
蓋体2を開けるには、開閉工具TOのT字状の先端部分を鍵穴211に挿入する。すると、開閉工具TOの先端部分によって弁体51が押され、スプリングSの付勢力に抗してロック部材5は、係止爪53が係止片313から離れる方向(図4(b)では反時計回りの方向)に回動軸52を中心に回動する。次いで、開閉工具TOを軸周りに回転させ、T字状の先端部分を、蓋体2の下面における、鍵穴211の縁部分に係合させ、開閉工具T0を、白抜きの矢印で示すように、蓋体2を斜め上方(図4(b)では左斜め上方)に引き上げる。すると、蝶番部材6の鉤状突起61が、蝶番座314の被係止部3142に係止することなく、また、ロック部材5の係止爪53が係止片313に係止することなく、蓋体2は斜め上方に持ち上げられ、蝶番部材6を支点にして蝶番部材6とともに回転可能になる。すなわち、蓋体2は蝶番部材6を支点にして略水平方向に旋回可能になる。なお、蓋体2は、蝶番部材6の抜止突起62が蝶番座314に係合するまで持ち上げることが可能である。そして、蓋体2を旋回させることで、開口Hが開放される。
【0043】
図4(c)は、同図(b)を用いて開ける動作を説明した蓋体2について、閉める動作を説明するための図である。図4(c)では、蓋体2を閉める様子を段階的に示している。なお、図4(c)では、図面を簡略化するため、ロック部材5、蝶番部材6および開閉工具TOは省略している。
【0044】
前述したように旋回させた蓋体2を、開閉工具TOを用いて、図4(c)において一点鎖線で示す状態(図4(b)に示す状態)に戻し、次いで、実線で示すように、他端側(塗りつぶした矢印の方向)に押し込んだ後、二点鎖線で示すように、蓋体2を受枠3に支持させる。このように、蓋体2を揺動させながら閉める動作になる上、蓋体2の外周面221がテーパ状に構成されているため、上方からは蓋体2の外周面221が見えにくい。これらのため、受枠3の内周面311に対し、蓋体2の外周面221の位置がずれて、蓋体2を閉める際に、受枠3における内周面311の360°のうちいずれかの箇所において、防食用シートSの特に上端部分Sa(図5参照)に接触しやすい。
【0045】
図5は、蓋体2が防食用シートSの上端部分Saに接触しながら受枠3に閉まっていく様子を説明するための図である。
【0046】
図4を用いて前述したように、蓋体2を閉める際に防食用シートSの特に上端部分Saに接触しやすいが、蓋体2の外周面221と当接面223は、R面222によって接続されている。このため、図5において実線で示すように、蓋体2が防食用シートSの上端部分Saに接触した際に、R面222によってその衝撃が緩和される。次に、蓋体2が一点鎖線で示す状態になり、さらに、外周面221が防食用シートSに揃った(外周面221が防食用シートSの表面に重なった)二点鎖線で示す状態に閉まっていく間も、R面222によって、擦れ等を緩和することができる。この結果、防食用シートTの特に上端部分Saの折れ曲がりを抑えることができる。
【0047】
本実施形態では、R面222の半径R(例えば6.0mm)を、防食用シートSの厚みT(例えば1.5mm)の4倍に設定している。R面222は、半径Rが防食用シートSの厚みTの3倍以上6倍以下に設定することが好ましい。R面222の半径Rを防食用シートSの厚みTの3倍以上とすれば、蓋体2を閉める際に蓋体2が防食用シートSの上端部分Saに接触しても、上端部分SaにR面222が接触しやすくなり、かつ、R面222が上端部分Saに接触しつつ蓋体2が閉まっていく確率が高まる。これにより、擦れ等を緩和する効果をより安定して発揮することができる。一方、R面222の半径Rが防食用シートSの厚みTの6倍を超えると、外周面221の面積の減少によって前述したくさび効果が弱まり、防食用シートSと、外周面221との面接触の密着性が不十分となる虞がある。
【0048】
図6は、図2に示す蓋体2が、ずり落ちた状態を示す図である。図6では、蓋体2の当接面223が、受枠3における停止部312の上面312aに当接した部分を拡大して一点鎖線の円で囲んで示している。
【0049】
図6において拡大して示すように、本実施形態では、当接面223は、停止部312の上面312aにおける先端から20%以上の部分に当接するように設定している。すなわち、停止部312の上面312aにおいて、当接する部分の長さL1(例えば1.5mm)を、突出長L(例えば6.5mm)の20%以上に設定している。こうすることで、蓋体2がずり下がった場合でも、当接面223の停止部312への当接が安定するとともに、鋳物製造や機械加工で生じる製造誤差も吸収することが可能となる。また、当接面223が当接する部分が停止部312の先端に偏りすぎると、先端部分に荷重が集中して破損の原因となる虞があるが、こういった不具合も回避することができる。
【0050】
以上説明した蓋受枠セット10によれば、防食用シートSによって蓋体2の外周面221の腐食を防止しつつ、防食用シートSの上端部分の折れ曲がりを効果的に抑え、受枠3の内周面311の腐食も安定して防止することが可能となる。
【0051】
本発明は前述した実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、図3において一点鎖線で示すように、蓋体2の環状壁部22におけるR面222を構成する部分を、防食用シートSの素材(例えばNBR)に対する摩擦係数の小さい素材で構成してもよい。また、R面222を構成する部分に凹部等を設け、この凹部に摩擦係数の小さい素材からなる部材を嵌め込み、R面222を形成してもよい。さらに、R面222を、摩擦係数の小さい素材からなるシート等で被覆してもよい。またさらに、R面222のみ、あるいは外周面221を除く蓋体2全体を、ナイロン樹脂系塗料やフッ素樹脂系塗料によって被覆し、すべり性(潤滑性)を向上させることも可能である。またさらに、蓋体2を閉める際に、R面222にオイル等の潤滑剤を塗布してもよい。
【符号の説明】
【0052】
10 蓋受枠セット
2 蓋体
22 環状壁部
221 外周面
222 R面
223 当接面
3 受枠
31 枠本体
311 内周面
312 停止部
312a 上面
G 地面
H 開口
S 防食用シート
Sa 上端部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6