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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184329
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/32 20060101AFI20231221BHJP
   F16H 1/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F16H61/32
F16H1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098404
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 真也
【テーマコード(参考)】
3J009
3J067
【Fターム(参考)】
3J009EA04
3J009EA11
3J009EA21
3J009EB01
3J009ED08
3J009FA03
3J067AA21
3J067AB23
3J067DB32
3J067FA04
3J067FA05
3J067FA27
3J067FA57
3J067FB78
3J067GA01
(57)【要約】
【課題】シフトレンジの切り替えに際して出力機構の出力軸を安定して回動させることが可能なシフト装置を提供する。
【解決手段】シフト装置100は、モータ10と、ドライブギア22と、出力軸20aが設けられ、ドライブギア22により回転されるドリブンギア23とを含み、モータ10の駆動力を減速して出力する出力機構60と、シフトレンジを切り替えるシフト切替機構70と、を備え、ドライブギア22は、ドリブンギア23に噛み合うことにより所定のシフトレンジ(Pレンジ)となる第1ギア部220と、ドリブンギア23に噛み合うことにより所定のシフトレンジとは異なる他のシフトレンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)となる第2ギア部221とを含み、出力機構60は、ドリブンギア23との噛み合いが第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わった場合に、減速比が非連続となるように構成されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、前記モータにより回転されるドライブギアと、出力軸が設けられ、前記ドライブギアに噛み合うように構成され、前記ドライブギアにより前記出力軸とともに回転されるドリブンギアとを含み、前記モータの駆動力を減速して出力する出力機構と、
前記出力軸の回転に伴い駆動されて、シフトレンジを切り替えるシフト切替機構と、を備え、
前記ドライブギアは、前記ドリブンギアに噛み合うことにより所定のシフトレンジとなる第1ギア部と、前記ドリブンギアに噛み合うことにより前記所定のシフトレンジとは異なる他のシフトレンジとなる第2ギア部とを含み、
前記出力機構は、前記ドリブンギアとの噛み合いが前記第1ギア部と前記第2ギア部との間で切り替わった場合に、減速比が非連続となるように構成されている、シフト装置。
【請求項2】
前記所定のシフトレンジは、Pレンジを含み、
前記出力機構は、前記ドリブンギアとの噛み合いが前記第1ギア部と前記第2ギア部との間で切り替わった場合に、前記Pレンジから前記他のシフトレンジに切り替わり、減速比が、非連続で、かつ、小さくなるように構成されている、請求項1に記載のシフト装置。
【請求項3】
前記第1ギア部および前記第2ギア部は、それぞれ、互いに異なる大きさの第1半径および第2半径の円弧形状を有し、
前記ドライブギアには、前記第1半径を有する前記第1ギア部と前記第2半径を有する前記第2ギア部とが接続されて、噛み合いが前記第1ギア部と前記第2ギア部との間で切り替わる境界に、段差部が設けられている、請求項1に記載のシフト装置。
【請求項4】
前記出力機構は、前記第1ギア部が前記ドリブンギアに噛み合った状態、および、前記第2ギア部が前記ドリブンギアに噛み合った状態の各状態で、減速比が略一定になるように構成されている、請求項1に記載のシフト装置。
【請求項5】
前記シフト切替機構は、
前記シフトレンジに対応する複数の谷部を有するディテントプレートと、
前記ディテントプレートに向けて付勢されるころを有し、付勢力により前記ころが前記谷部に吸い込まれることにより前記ディテントプレートの回動を規制して、前記シフトレンジを保持するディテントスプリングとを含み、
前記ディテントプレートは、前記谷部ごとに、前記ディテントスプリングを吸い込むことが可能な吸い込み角度範囲が設定されており、
前記出力機構は、前記シフトレンジに対応する前記谷部の前記吸い込み角度範囲が大きい程、減速比が大きくなるように構成されており、
前記Pレンジの減速比は、前記他のシフトレンジの減速比よりも大きい、請求項2に記載のシフト装置。
【請求項6】
前記出力機構には、前記モータのモータ軸に対して、前記出力軸の所定範囲の回動を許容するガタが設けられており、
前記出力機構は、前記Pレンジから前記他のシフトレンジに切り替わる際に、前記ころの前記谷部への吸い込みによる前記ガタ内における前記出力軸側の構成部品の移動量が、前記ガタ内での移動が許容されるガタ角度未満の移動量となるように構成されている、請求項5に記載のシフト装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるシフト装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、アクチュエータと、アクチュエータの出力軸により回動されるディテントプレートおよびディテントスプリングを含むシフト切替機構とを備えるシフトバイワイヤ用レンジ切替装置が開示されている。上記アクチュエータは、モータと、モータにより回転されるドライブギアと、ドライブギアに噛み合い回転されるドリブンギアとを含んでいる。上記シフトバイワイヤ用レンジ切替装置は、出力軸からトルクを出力することにより、出力軸に設けられたディテントプレートを回転させる。ここで、上記特許文献1にも記載されているように、一般的に、シフトレンジを切り替える際にアクチュエータに要求されるトルクが各レンジごとに異なる。
【0004】
そこで、上記特許文献1のシフトバイワイヤ用レンジ切替装置では、シフトレンジを切り替える際にアクチュエータに要求されるトルクが各レンジごとに異なることを考慮して、ドライブギア(ドリブンギア)の半径を徐々に連続的に変化させている。なお、出力軸から出力されるトルクが変化する場合、減速比の関係より出力軸(ディテントプレート)の回転速度も変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-151210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のシフトバイワイヤ用レンジ切替装置では、ドライブギアの半径を徐々に連続的に変化させていることから、シフトレンジを切り替える際に各レンジ内においても出力軸から出力されるトルクが変動するとともに、出力軸(ディテントプレート)の回転速度も変動する。このため、シフトレンジの切り替えに際して出力軸を安定して回動させることができないという問題がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、シフトレンジの切り替えに際して出力機構の出力軸を安定して回動させることが可能なシフト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるシフト装置は、モータと、モータにより回転されるドライブギアと、出力軸が設けられ、ドライブギアに噛み合うように構成され、ドライブギアにより出力軸とともに回転されるドリブンギアとを含み、モータの駆動力を減速して出力する出力機構と、出力軸の回転に伴い駆動されて、シフトレンジを切り替えるシフト切替機構と、を備え、ドライブギアは、ドリブンギアに噛み合うことにより所定のシフトレンジとなる第1ギア部と、ドリブンギアに噛み合うことにより所定のシフトレンジとは異なる他のシフトレンジとなる第2ギア部とを含み、出力機構は、ドリブンギアとの噛み合いが第1ギア部と第2ギア部との間で切り替わった場合に、減速比が非連続となるように構成されている。
【0009】
この発明の一の局面によるシフト装置では、上記のように、ドライブギアとドリブンギアとを含む出力機構を設け、ドリブンギアに噛み合うことにより所定のシフトレンジとなる第1ギア部と、ドリブンギアに噛み合うことにより所定のシフトレンジとは異なる他のシフトレンジとなる第2ギア部とをドライブギアに設け、出力機構を、ドリブンギアとの噛み合いが第1ギア部と第2ギア部との間で切り替わった場合に、減速比が非連続となるように構成する。これによって、隣接するシフトレンジの間で、減速比が非連続となるように、ドリブンギアに噛み合う第1ギア部と第2ギア部とを切り替えることができる。したがって、従来のように所定のシフトレンジから他のシフトレンジに向けてドライブギアの半径を徐々に変化させる(減速比を徐々に変化させる)必要性がなくなり、各シフトレンジにおいて出力軸から出力されるトルクの変動、および、各シフトレンジにおける出力軸の回転速度の変動を抑制することができる。その結果、シフトレンジの切り替えに際して出力機構の出力軸を安定して回動させることができる。
【0010】
上記一の局面によるシフト装置において、好ましくは、所定のシフトレンジは、Pレンジを含み、出力機構は、ドリブンギアとの噛み合いが第1ギア部と第2ギア部との間で切り替わった場合に、Pレンジから他のシフトレンジに切り替わり、減速比が、非連続で、かつ、小さくなるように構成されている。
【0011】
このように構成すれば、Pレンジにおいて大きなトルクを出力することができるとともに、Pレンジを除く他のシフトレンジにおいて減速比をPレンジとは非連続にすることができるので、Pレンジのトルクと比較して特にトルクを小さくすることができる。
【0012】
上記一の局面によるシフト装置において、好ましくは、第1ギア部および第2ギア部は、それぞれ、互いに異なる大きさの第1半径および第2半径の円弧形状を有し、ドライブギアには、第1半径を有する第1ギア部と第2半径を有する第2ギア部とが接続されて、噛み合いが第1ギア部と第2ギア部との間で切り替わる境界に、段差部が設けられている。
【0013】
このように構成すれば、いわゆるギア比が変わる箇所に段差を設けた段階変速ギアにより、ドリブンギアとの噛み合いが第1ギア部と第2ギア部との間で切り替わった場合に減速比が非連続となるように、容易にドライブギアを形成することができる。
【0014】
上記一の局面によるシフト装置において、好ましくは、出力機構は、第1ギア部がドリブンギアに噛み合った状態、および、第2ギア部がドリブンギアに噛み合った状態の各状態で、減速比が略一定になるように構成されている。
【0015】
このように構成すれば、減速比が非連続となる第1ギア部がドリブンギアに噛み合った状態、および、第2ギア部がドリブンギアに噛み合った状態の各状態で、出力を略一定に保つことができるので、上記各状態で、シフトレンジの切り替えに際して過剰なトルクが出力機構から出力されるのを効果的に抑制することができる。
【0016】
上記所定のシフトレンジがPレンジを含む構成において、好ましくは、シフト切替機構は、シフトレンジに対応する複数の谷部を有するディテントプレートと、ディテントプレートに向けて付勢されるころを有し、付勢力によりころが谷部に吸い込まれることによりディテントプレートの回動を規制して、シフトレンジを保持するディテントスプリングとを含み、ディテントプレートは、谷部ごとに、ディテントスプリングを吸い込むことが可能な吸い込み角度範囲が設定されており、出力機構は、シフトレンジに対応する谷部の吸い込み角度範囲が大きい程、減速比が大きくなるように構成されており、Pレンジの減速比は、他のシフトレンジの減速比よりも大きい。
【0017】
このように構成すれば、吸い込み角度範囲が大きくシフトレンジから抜ける際に大きなトルクが必要とされるPレンジの減速比を大きくすることができるので、安定してPレンジから他のシフトレンジに切り替えることができる。
【0018】
この場合、好ましくは、出力機構には、モータのモータ軸に対して、出力軸の所定範囲の回動を許容するガタが設けられており、出力機構は、Pレンジから他のシフトレンジに切り替わる際に、ころの谷部への吸い込みによるガタ内における出力軸側の構成部品の移動量が、ガタ内での移動が許容されるガタ角度未満の移動量となるように構成されている。
【0019】
このように構成すれば、ガタによって、ディテントプレートに対するころの位置決めを精度よくかつ容易に行うことができるとともに、ころの谷部への吸い込みに伴ってディテントプレート側からのトルクにより出力軸が回動される際にガタ内での出力軸側の構成部品の移動量を小さくして、ガタが詰まることによって衝撃が発生することを回避することができる。
【0020】
なお、本出願では、上記一の局面によるシフト装置において、以下のような構成も考えられる。
【0021】
(付記項1)
すなわち、ドリブンギアは、ドライブギアの第1ギア部に噛み合う第1従動ギア部と、ドライブギアの第2ギア部に噛み合う第2従動ギア部とを含み、第1ギア部の第1半径と第1従動ギア部の第2半径との合計は、第2ギア部の第3半径と第2従動ギア部の第4半径との合計に等しい。
【0022】
このように構成すれば、ドライブギアおよびドリブンギアの互いに噛み合う位置における各々の半径の合計を常に一定に保つ構成によって、所定のシフトレンジおよび他のシフトレンジを含む各シフトレンジにおいて出力機構から出力されるトルクを、各々のシフトレンジからのシフトレンジの切り替えに必要とされるトルクに近づけることができる。このため、ドライブギアおよびドリブンギアの互いに噛み合う位置における各々の半径の合計を常に一定に保つ構成によって、シフトレンジの切り替えに際して出力機構の出力軸を安定して回動させることを実現することができる。
【0023】
(付記項2)
上記出力機構にモータのモータ軸に対して、出力軸の所定範囲の回動を許容するガタが設けられている構成において、好ましくは、モータ軸の出力をドライブギアに伝達する伝達ギアをさらに備え、伝達ギアおよびドライブギアには、それぞれ、円弧状の長孔および長孔に嵌り込む突出部が設けられ、ガタは、長孔と突出部との隙間により形成され、突出部は、減速比が小さくなるようにPレンジから他のシフトレンジに切り替わる際に、第1ギア部から第2ギア部にドリブンギアへの噛み合いが切り替わった状態で、ガタを利用して、長孔の内部において長孔の一方面に接触する位置から長孔の一方面および他方面の両方から離間する位置に移動するように構成されている。
【0024】
このように構成すれば、ころが谷部に吸い込まれて谷底に到達した際に、長孔の内部において突出部を長孔の一方面に接触する位置から長孔の一方面および他方面の両方から離間する位置に移動させることができる。これにより、シフトレンジの切り替えの際に、突出部が長孔に接触して(ガタが詰まって)衝撃が発生することをより確実に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態によるシフト装置の制御構成を示したブロック図である。
図2】第1実施形態によるシフト装置の全体構成を概略的に示した斜視図である。
図3】第1実施形態によるシフト装置を構成するディテントプレートの構造を示した図である。
図4】第1実施形態によるシフト装置を構成する出力機構を示した断面図である。
図5】第1実施形態によるシフト装置の伝達ギア、ドライブギアおよびドリブンギアを示した斜視図である。
図6】第1実施形態によるシフト装置のPレンジにおけるドライブギアおよびドリブンギアを示した平面図である。
図7】第1実施形態によるシフト装置のPレンジからRレンジに切り替わる際におけるドライブギアおよびドリブンギアを示した平面図である。
図8】第1実施形態によるシフト装置のころがRレンジの谷部の谷底に到達した際におけるドライブギアおよびドリブンギアを示した平面図である。
図9】第2実施形態によるシフト装置のRレンジからPレンジに切り替わる際におけるドライブギアおよびドリブンギアを示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
(第1実施形態)
図1図8を参照して、第1実施形態によるシフト装置100の構成について説明する。
【0028】
(シフト装置の全体構成)
図1に示すように、シフト装置100は、自動車などの車両110に搭載されている。車両110では、運転者がシフトレバーなどの操作部111を介してシフトの切替操作を行った場合に、変速機構部120に対する電気的なシフト切替制御が行われる。すなわち、操作部111に設けられたシフトセンサ112を介してシフトレバーの位置がシフト装置100側に入力される。
【0029】
そして、シフト装置100に設けられた専用のECU50から送信される制御信号に基づいて、乗員のシフト操作に対応したP(パーキング)レンジ、R(リバース)レンジ、N(ニュートラル)レンジおよびD(ドライブ)レンジのいずれかのシフトレンジに変速機構部120が切り替えられる(Pレンジは、特許請求の範囲の「所定のレンジ」の一例)(Rレンジ、NレンジおよびDレンジは、特許請求の範囲の「他のレンジ」の一例)。このようなシフト切替制御は、シフトバイワイヤ(SBW)と呼ばれる。
【0030】
図1および図2に示すように、シフト装置100は、出力機構60と、出力機構60により駆動されるシフト切替機構70とを備えている。
【0031】
シフト切替機構70は、変速機構部120内の油圧制御回路部130における油圧バルブボディのマニュアルスプール弁(図示せず)とパーキング機構部140とに機械的に接続されている。そして、シフト切替機構70が駆動されることによって変速機構部120のシフトレンジ(Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジ)が機械的に切り替えられるように構成されている。
【0032】
出力機構60は、モータ軸10aを含む駆動源であるモータ10と、減速機構部20と、減速機構部20により減速されたモータ10の駆動力を出力する出力軸20aと、モータ10の回転角度を検出するモータ回転角度センサ30と、ディテントプレート71(出力軸20a)の回転角度を検出する出力軸回転角度センサ40(絶対角センサ)と、ECU50とを備えている。ECU50は、基板に電子部品が実装された基板部品である。出力機構60は、出力軸20aの一端側を除いて筐体60aに覆われている。
【0033】
なお、各図では、モータ軸10aの延びる方向をZ方向により示す。また、シフト切替機構70から出力機構60を向く方向をZ1方向により示し、その反対方向をZ2方向により示す。
【0034】
各図では、モータ軸10aの回転中心を回転中心軸線αにより示す。また、減速機構部20の後述するドライブギア22および伝達ギア21の駆動軸210の回転中心を回転中心軸線βにより示す。また、出力軸20aの回転中心を回転中心軸線γにより示す。回転中心軸線α、回転中心軸線β、および、回転中心軸線γは、互いに平行な軸線である。
【0035】
(シフト切替機構部の構成)
図2に示すシフト切替機構70は、出力軸20aの回転に伴い駆動されて、シフトレンジを切り替えるように構成されている。シフト切替機構70は、出力軸20aの一端側に取り付けられたディテントプレート71と、ディテントプレート71に向けて付勢されるころ(ローラ)73を有するディテントスプリング72とを備えている。
【0036】
ディテントスプリング72は、Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジのそれぞれに対応する回動角度位置でディテントプレート71(ころ72a)を保持するように構成されている。
【0037】
図3に示すように、ディテントプレート71は、シフトレンジ(Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジ)に対応する複数(4つ)の谷部80(谷部81~84)を有している。詳細には、複数(4つ)の谷部81~84(谷部80)は、シフトレンジとしてのPレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジを、複数(4つ)の谷部81~84のうちの一方の端部から他方の端部に向けて、Pレンジ、Rレンジ、NレンジおよびDレンジの順に含んでいる。
【0038】
谷部81~84によって、ディテントプレート71には連続的な起伏形状を有するカム面71aが形成されている。また、互いに隣接する谷部80同士(たとえば、谷部81および谷部82、谷部82および谷部83など)は、頂部を有する山部85により隔てられている。
【0039】
ディテントスプリング72は、片持ち梁状に形成されており、自由端側にころ72aが取り付けられている。ディテントスプリング72は、ころ72aがカム面71a(谷部81~84または山部85のいずれかの位置)に向けて常時付勢されている。ディテントスプリング72は、複数の谷部81~84のいずれかに嵌まり込んだ状態でシフトレンジを成立させる。ディテントスプリング72は、付勢力によりころ72aが谷部80に吸い込まれることによりディテントプレート71の回動を規制して、成立したシフトレンジを保持するように構成されている。
【0040】
出力機構60は、後述するガタG(長孔Hと突出部Eとの間の隙間)(図5参照)が設けられているため、シフトレンジを成立させる際に、出力機構60のモータ10の駆動力によりころ72aを谷部80の谷底まで精度よく移動させる必要がない。すなわち、出力機構60は、ガタGによる谷部80の谷底へのころ72aの吸い込みを利用して、ころ72aを谷部80の谷底まで精度よくかつ容易に移動させている。
【0041】
ここで、ディテントプレート71は、谷部80(谷部81~84)ごとに、ディテントスプリング72を吸い込むことが可能な吸い込み角度範囲θ1~θ4が設定されている。出力機構60は、シフトレンジに対応する谷部80の吸い込み角度範囲θが大きい程、減速比が大きくなるように構成されている。
【0042】
すなわち、Pレンジの吸い込み角度範囲θ1が、他のレンジの吸い込み角度範囲θ(Rレンジの吸い込み角度範囲θ2、Nレンジの吸い込み角度範囲θ3、Dレンジの吸い込み角度範囲θ4)よりも大きいため、Pレンジの減速比は、他のシフトレンジの減速比よりも大きい。Pレンジの減速比を他のレンジの減速比よりも大きくするための出力機構60(後述するドライブギア22およびドリブンギア23)の構成については後述する。ドライブギア22は、後述する伝達ギア21を介して、モータ10により回転されるギアであり、ドリブンギア23は、出力軸20aが設けられ、ドライブギア22に直接噛み合い回転されるギアである。なお、一例ではあるが、吸い込み角度範囲θ2~θ4は、互いに略同じ大きさである。
【0043】
図3に示すように、ディテントプレート71は、出力軸20aと一体的に回転中心軸線γ周りに回動される。これにより、ディテントスプリング72は、ディテントプレート71の矢印A方向または矢印B方向への正逆回動(揺動)に伴ってころ72aがカム面71aに沿って摺動することにより、ディテントスプリング72の付勢力によりころ72aが谷部81~84のいずれかに嵌合する(吸い込まれる)ように構成されている。
【0044】
また、ディテントスプリング72は、ころ72aがディテントプレート71の谷部81~84のいずれかに選択的に嵌合する(吸い込まれる)ことにより、それぞれ、Pレンジ、Rレンジ、NレンジまたはDレンジに対応する回動角度(吸い込み角度範囲θ(θ1~θ4))でディテントプレート71が保持されるように構成されている。これにより、Pレンジ、Rレンジ、NレンジまたはDレンジが個々に成立される。
【0045】
ディテントプレート71は、腕部86および腕部87を有している。腕部86にはパークロッド73が連結され、腕部87にはマニュアルバルブロッド74が連結される。ディテントプレート71がRレンジに対応する回動角度に回動された場合、マニュアルバルブロッド74の先端部のマニュアルスプール弁が油圧バルブボディ内のRレンジに対応する位置に移動されることにより、油圧制御回路部130(図1参照)内にはRレンジ用の油圧回路が形成される。
【0046】
他のシフトレンジについてもRレンジと同様に、ディテントプレート71の回動に伴ってマニュアルバルブロッド74(マニュアルスプール弁)がいずれかのシフトレンジに対応する位置に移動されることによって、油圧制御回路部130内に各シフトレンジに対応する油圧回路が形成される。
【0047】
(パーキング機構部の構成)
図2に示すパーキング機構部140は、エンジン150(図1参照)のクランク軸に連結されたパーキングギア141と、パーキングギア141に係合するロックポール142とを含んでいる。
【0048】
ロックポール142は、パークロッド73の移動に伴ってロック位置および非ロック位置に移動される。ディテントプレート71がPレンジに対応した回動角度位置に回動された場合に、ロックポール142は、回転中心軸線δを回動中心としてロック位置まで回動されて突起部142aがパーキングギア141の歯底部141aに係合する。これにより、パーキングギア141の自由な回動が規制されてクランク軸の回転が規制される。また、ディテントプレート71がPレンジからRレンジに対応した回動角度位置に回動された場合(P抜きの操作が行われた場合)には、ロックポール142は、非ロック位置に回動されて、ロックポール142とパーキングギア141との係合が解除される。
【0049】
ここで、パーキング機構部140は、PレンジからRレンジに切り替える場合(P抜きの操作を行う場合)、パーキングギア141とロックポール142との係合を解除する必要があり、シフトレンジの切り替えの中で最も出力軸20aに大きなトルクが要求される。特に、車両110(図1参照)が坂道に位置する場合などでは、車両110の重量がロックポール142およびパーキングギア141に掛かるため、PレンジからRレンジに切り替える場合(Pレンジ抜きの操作を行う場合)、出力軸20aに極めて大きなトルクが要求される。
【0050】
そこで、一般的に、シフトレンジの切り替えに伴って減速比が変わらない車両では、PレンジからRレンジに切り替える場合(Pレンジ抜きの操作を行う場合)を考慮して、出力軸から大きなトルクを出力可能なように出力機構が設計されている。すなわち、一般的に、シフトレンジの切り替えに伴って減速比が変わらない車両では、Pレンジ抜きの操作以外のシフトレンジの切り替え操作時には、出力軸から比較的小さなトルクの出力が要求されるだけではあるが、出力軸から過剰なトルクが出力されるように出力機構が設計されている。
【0051】
(出力機構の構成)
図4に示す出力機構60は、モータ10の駆動力を減速して出力するように構成されている。モータ10は、ディテントプレート71(図2参照)を駆動するための駆動源である。モータ10は、モータ軸10aと、モータ室内に固定されたステータ11と、モータ軸10aとともに回転するロータ12とを含んでいる。
【0052】
減速機構部20は、モータ10側から伝達される回転速度を減速した状態で出力軸20aを回転させることにより、出力軸20aに取り付けられたディテントプレート71を回動させるように構成されている。
【0053】
減速機構部20は、モータギア部10bを有するモータ軸10aと、モータギア部10bに噛み合う伝達ギア部21aを有する伝達ギア21と、伝達ギア21により回転されるドライブギア22と、ドライブギア22により出力軸20aとともに回転されるドリブンギア23とを備えている。モータ10の駆動力は、モータ軸10a、伝達ギア21、ドライブギア22、ドリブンギア23の順に伝わり、最終的には、出力軸20aを介してディテントプレート71に伝わる。
【0054】
減速機構部20は、モータ軸10aと伝達ギア21とにより第1の減速を行うように構成されている。モータ軸10aと伝達ギア21とにより行われる第1の減速では、減速比の比率が変動することはない。
【0055】
また、減速機構部20は、ドライブギア22とドリブンギア23とにより第2の減速を行うように構成されている。ドライブギア22とドリブンギア23とにより行われる第2の減速では、減速比の比率が2段階で変動する。
【0056】
伝達ギア21は、モータ軸10aの駆動力をドライブギア22に伝達するように構成されている。回転中心軸線β周りに回転するように構成されている。伝達ギア21は、円形状に形成されている。
【0057】
ここで、出力機構60には、モータ10のモータ軸10aに対して、出力軸20aの所定範囲の回動を許容するガタG(図5参照)が設けられている。詳細には、伝達ギア21およびドライブギア22には、それぞれ、円弧状の長孔H(図5参照)および長孔Hに嵌り込む突出部E(図5参照)が設けられている。ガタGは、長孔Hと突出部Eとの間の隙間により形成されている。
【0058】
長孔Hは、伝達ギア21の回転中心位置(β)と外周部(伝達ギア部21a)との間に、長径が伝達ギア21の周方向に沿って延びるように複数(たとえば2つ)設けられている。複数の長孔Hは、伝達ギア21の周方向に等角度間隔で配置されている。
【0059】
伝達ギア21は、長孔Hの周方向の一方面H1に突出部Eを接触させた状態で、一方面H1により突出部Eを周方向の一方に押すことにより、モータ10の駆動力をドライブギア22に伝達するように構成されている。
【0060】
なお、一方面H1により突出部Eを周方向の一方に押す場合とは、Pレンジ側からDレンジ側にシフトレンジが切り替えられる場合(Pレンジ抜きを含む)である。すなわち、一方面H1により突出部Eを周方向の一方に押す場合には、ディテントプレート71は矢印A方向に回動する。一方、長孔Hの他方面H2により突出部Eを周方向の他方に押す場合、Dレンジ側からPレンジ側にシフトレンジが切り替えられる。すなわち、長孔Hの他方面H2により突出部Eを周方向の他方に押す場合には、ディテントプレート71は矢印B方向に回動する。
【0061】
なお、ドライブギア22は、ディテントスプリング72のころ72aが谷部80に吸い込まれて、谷底に到達するまでは、長孔Hの一方面H1および他方面H2から離間する。
【0062】
図5図8に示すドライブギア22は、ドリブンギア23に噛み合うことによりPレンジとなる第1ギア部220と、ドリブンギア23に噛み合うことによりPレンジとは異なる他のシフトレンジ(Nレンジ、Rレンジ、Dレンジ)となる第2ギア部221とを含んでいる。
【0063】
一例ではあるが、第1ギア部220とドリブンギア23とが噛み合う場合の出力機構60の最終の減速比は、13:66である(モータ軸10aが66回転する間に出力軸20aが13回転する)。また、第2ギア部221とドリブンギア23とが噛み合う場合の出力機構60の最終の減速比は、39:40である(モータ軸10aが40回転する間に出力軸20aが39回転する)。
【0064】
ドリブンギア23は、ドライブギア22の第1ギア部220に噛み合う第1従動ギア部230と、ドライブギア22の第2ギア部221に噛み合う第2従動ギア部231とを含んでいる。第1ギア部220の第1半径R10(ピッチ円の半径)と第1従動ギア部230の第3半径R20(ピッチ円の半径)との合計は、第2ギア部221の第2半径R11(ピッチ円の半径)と第2従動ギア部231の第4半径R21(ピッチ円の半径)との合計(回転中心軸線βと回転中心軸線γとの間の距離)に等しい。
【0065】
第1ギア部220および第2ギア部221は、それぞれ、互いに異なる大きさの第1半径R10および第2半径R11の円弧形状を有している。すなわち、第1ギア部220の第1半径R10は、略一定である。また、第2ギア部221の第2半径R11は、略一定である。また、出力機構60は、第1ギア部220がドリブンギア23に噛み合った状態、および、第2ギア部221がドリブンギア23に噛み合った状態の各状態で、減速比が略一定になるように構成されている。
【0066】
また、出力機構60は、ドリブンギア23との噛み合いが、ドライブギア22の第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わった場合に、減速比が非連続となるように構成されている。すなわち、ドライブギア22には、第1半径R10を有する第1ギア部220と第2半径R11を有する第2ギア部221とが接続されて、ドリブンギア23に対する噛み合いが第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わる境界に、段差部22aが設けられている。
【0067】
さらに、出力機構60は、ドリブンギア23との噛み合いが第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わった場合に、Pレンジから他のシフトレンジに切り替わり、減速比が、非連続で、かつ、小さくなるように構成されている。
【0068】
一例ではあるが、ドライブギア22およびドリブンギア23は、上記の通り、段差部22aを有するいわゆる段階変速ギアにより構成されている。
【0069】
ここで、図6図8に示すように、出力機構60は、Pレンジから他のシフトレンジ(Rレンジ)に切り替わる際に、ころ72aの谷部82への吸い込みによるガタG内における(長孔Hが設けられた伝達ギア21よりも)出力軸20a側の構成部品(突出部E)の移動量が、ガタG内での移動が許容されるガタ角度θ10(図6参照)未満の移動量となるように構成されている。
【0070】
すなわち、突出部Eは、減速比が小さくなるようにPレンジから他のシフトレンジに切り替わる際に、第1ギア部220から、第1ギア部220よりも半径が大きい第2ギア部221にドリブンギア23への噛み合いが切り替わった状態で、ガタGを利用して、長孔Hの内部において長孔Hの一方面H1に接触する位置から長孔Hの一方面H1および他方面H2の両方から離間する位置に移動するように構成されている(図8参照)。
【0071】
すなわち、突出部Eは、ころ72aが谷部81に吸い込まれ始めてから谷底に到達するまでの間において、突出部Eが長孔Hに接触することがない。このため、出力機構60は、突出部Eが長孔Hに接触することによって発生する衝撃音は発生することがない。
【0072】
なお、比較例として説明するが、ドライブギアのすべてのギア部が上記第1実施形態のドライブギア22の第1ギア部220の第1半径R10と同じ大きさに形成されている場合、突出部は、ころがPレンジに隣接するRレンジの谷部に吸い込まれ始めてからRレンジの谷底に到達するまでの間において、第1実施形態の場合よりも長孔の内部で大きく移動することになる。したがって、この場合には、突出部は、長孔の内部で一方面から他方面まで移動して長孔に接触してしまい、衝撃音が発生する。
【0073】
要するに、比較例では、ころがPレンジに隣接するRレンジの谷部に吸い込まれ始めてからRレンジの谷底に到達するまでの間において、第1実施形態の構成よりも長い半径のドライブギア(減速比が小さくなるドライブギア)を介してドリブンギアと噛み合っていることから、第1実施形態の構成よりも長孔の内部における突出部の移動量が大きくなる。
【0074】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0075】
第1実施形態では、上記のように、ドライブギア22とドリブンギア23とを含む出力機構60を設け、ドリブンギア23に噛み合うことにより所定のシフトレンジとなる第1ギア部220と、ドリブンギア23に噛み合うことにより所定のシフトレンジとは異なる他のシフトレンジとなる第2ギア部221とをドライブギア22に設け、出力機構60を、ドリブンギア23との噛み合いが第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わった場合に、減速比が非連続となるように構成する。これによって、隣接するシフトレンジの間で、減速比が非連続となるように、ドリブンギア23に噛み合う第1ギア部220と第2ギア部221とを切り替えることができる。したがって、従来のように所定のシフトレンジから他のシフトレンジに向けてドライブギアの半径を徐々に変化させる(減速比を徐々に変化させる)必要性がなくなり、各シフトレンジにおいて出力軸20aから出力されるトルクの変動、および、各シフトレンジにおける出力軸20aの回転速度の変動を抑制することができる。その結果、シフトレンジの切り替えに際して出力機構60の出力軸20aを安定して回動させることができる。また、減速比が非連続となる第1ギア部220と第2ギア部221とにより、各シフトレンジに要求される好ましい(最適な)大きさのトルクを出力軸20aから出力することができる。
【0076】
第1実施形態では、上記のように、所定のシフトレンジは、Pレンジを含み、出力機構60は、ドリブンギア23との噛み合いが第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わった場合に、Pレンジから他のシフトレンジに切り替わり、減速比が、非連続で、かつ、小さくなるように構成されている。これによって、Pレンジにおいて大きなトルクを出力することができるとともに、Pレンジを除く他のシフトレンジにおいて減速比をPレンジとは非連続にすることができるので、Pレンジのトルクと比較して特にトルクを小さくすることができる。
【0077】
第1実施形態では、上記のように、第1ギア部220および第2ギア部221は、それぞれ、互いに異なる大きさの第1半径R10および第2半径R11の円弧形状を有し、ドライブギア22には、第1半径R10を有する第1ギア部220と第2半径R11を有する第2ギア部221とが接続されて、噛み合いが第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わる境界に、段差部22aが設けられている。これによって、いわゆるギア比が変わる箇所に段差を設けた段階変速ギアにより、ドリブンギア23との噛み合いが第1ギア部220と第2ギア部221との間で切り替わった場合に減速比が非連続となるように、容易にドライブギア22を形成することができる。
【0078】
第1実施形態では、上記のように、出力機構60は、第1ギア部220がドリブンギア23に噛み合った状態、および、第2ギア部221がドリブンギア23に噛み合った状態の各状態で、減速比が略一定になるように構成されている。これによって、減速比が非連続となる第1ギア部220がドリブンギア23に噛み合った状態、および、第2ギア部221がドリブンギア23に噛み合った状態の各状態で、出力を略一定に保つことができるので、上記各状態で、シフトレンジの切り替えに際して過剰なトルクが出力機構60から出力されるのを効果的に抑制することができる。
【0079】
第1実施形態では、上記のように、シフト切替機構70は、シフトレンジに対応する複数の谷部80(81~84)を有するディテントプレート71と、ディテントプレート71に向けて付勢されるころ72aを有し、付勢力によりころ72aが谷部80(81~84)に吸い込まれることによりディテントプレート71の回動を規制して、シフトレンジを保持するディテントスプリング72とを含み、ディテントプレート71は、谷部80(81~84)ごとに、ディテントスプリング72を吸い込むことが可能な吸い込み角度範囲θ(θ1~θ4)が設定されており、出力機構60は、シフトレンジに対応する谷部80(81~84)の吸い込み角度範囲θ(θ1~θ4)が大きい程、減速比が大きくなるように構成されており、Pレンジの減速比は、他のシフトレンジの減速比よりも大きい。これによって、吸い込み角度範囲θ1が大きくシフトレンジから抜ける際に大きなトルクが必要とされるPレンジの減速比を大きくすることができるので、安定してPレンジから他のシフトレンジに切り替えることができる。
【0080】
第1実施形態では、上記のように、出力機構60には、モータ10のモータ軸10aに対して、出力軸20aの所定範囲の回動を許容するガタGが設けられており、出力機構60は、Pレンジから他のシフトレンジに切り替わる際に、ころ72aの谷部81への吸い込みによるガタG内における出力軸20a側の構成部品(突出部E)の移動量が、ガタG内での移動が許容されるガタ角度θ10未満の移動量となるように構成されている。これによって、ガタGによって、ディテントプレート71に対するころ72aの位置決めを精度よくかつ容易に行うことができるとともに、ころ72aの谷部81への吸い込みに伴ってディテントプレート71側からのトルクにより出力軸20aが回動される際にガタG内での出力軸20a側の構成部品(突出部E)の移動量を小さくして、ガタGが詰まることによって衝撃が発生することを回避することができる。
【0081】
第1実施形態では、上記のように、ドリブンギア23は、ドライブギア22の第1ギア部220に噛み合う第1従動ギア部230と、ドライブギア22の第2ギア部221に噛み合う第2従動ギア部231とを含み、第1ギア部220の第1半径R10と第1従動ギア部230の第3半径R20との合計は、第2ギア部221の第2半径R11と第2従動ギア部231の第4半径R21との合計に等しい。これによって、ドライブギア22およびドリブンギア23の互いに噛み合う位置における各々の半径の合計を常に一定に保つ構成によって、所定のシフトレンジおよび他のシフトレンジを含む各シフトレンジにおいて出力機構60から出力されるトルクを、各々のシフトレンジからのシフトレンジの切り替えに必要とされるトルクに近づけることができる。このため、ドライブギア22およびドリブンギア23の互いに噛み合う位置における各々の半径の合計を常に一定に保つ構成によって、シフトレンジの切り替えに際して出力機構60の出力軸20aを安定して回動させることを実現することができる。
【0082】
第1実施形態では、上記のように、モータ軸10aの出力をドライブギア22に伝達する伝達ギア21をさらに備え、伝達ギア21およびドライブギア22には、それぞれ、円弧状の長孔Hおよび長孔Hに嵌り込む突出部Eが設けられ、ガタGは、長孔Hと突出部Eとの隙間により形成され、突出部Eは、減速比が小さくなるようにPレンジから他のシフトレンジに切り替わる際に、第1ギア部220から第2ギア部221にドリブンギア23への噛み合いが切り替わった状態で、ガタGを利用して、長孔Hの内部において長孔Hの一方面H1に接触する位置から長孔Hの一方面H1および他方面H2の両方から離間する位置に移動するように構成されている。これによって、ころ72aが谷部81に吸い込まれて谷底に到達した際に、長孔Hの内部において突出部Eを長孔Hの一方面H1に接触する位置から長孔Hの一方面H1および他方面H2の両方から離間する位置に移動させることができる。これにより、シフトレンジの切り替えの際に、突出部Eが長孔Hに接触して(ガタGが詰まって)衝撃が発生することをより確実に回避することができる。
【0083】
(第2実施形態)
次に、図9を参照して、第2実施形態によるシフト装置200の構成について説明する。第2実施形態では、Pレンジにおいて噛み合うドライブギア22のギア部(第1ギア部220)の半径(R10)がドリブンギア23のギア部(第1従動ギア部230)の半径(R20)よりも小さくなる上記第1実施形態とは異なり、Pレンジにおいて噛み合うドライブギア222のギア部220aの半径がドリブンギア223の従動ギア部230aの半径よりも大きくなる例について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して、説明を省略する。
【0084】
シフト装置200は、出力機構260を備えている。出力機構260は、ドライブギア222と、ドリブンギア223とを備えている。
【0085】
ドライブギア222は、Pレンジにおいてドリブンギア223と噛み合うギア部220aと、その他のレンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)においてドリブンギア223と噛み合うギア部221aとを有している。
【0086】
ドリブンギア223は、Pレンジにおいてドライブギア222(ギア部220a)と噛み合う従動ギア部230aと、その他のレンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)においてドライブギア222(ギア部221a)と噛み合う従動ギア部231aとを有している。
【0087】
ドライブギア222において、ギア部220aの半径R10a(ピッチ円の半径)は、ギア部221aの半径R11a(ピッチ円の半径)よりも大きい。また、ドリブンギア223において、従動ギア部230aの半径R20a(ピッチ円の半径)は、従動ギア部231aの半径R21a(ピッチ円の半径)よりも小さい。
【0088】
また、Pレンジにおいて噛み合うドライブギア222のギア部220aの半径R10aは、ドリブンギア223の従動ギア部230aの半径R20aよりも大きい。その他のレンジ(Rレンジ、Nレンジ、Dレンジ)において噛み合うドライブギア222のギア部221aの半径R11aは、ドリブンギア223の従動ギア部231aの半径R21aよりも小さい。
【0089】
第2実施形態のシフト装置200は、PレンジからRレンジにシフトレンジが切り替えられる場合(Pレンジ抜きの場合)に必要とされるトルクを出力可能に構成されている。また、第2実施形態のシフト装置200は、第1実施形態のシフト装置100とは異なり、シフトレンジの切り替えの際に突出部Eが長孔Hに衝突する程度の大きさに長孔Hが形成されている。
【0090】
ここで、シフト装置200により、シフトレンジをRレンジからPレンジに切り替わる場合について説明する。
【0091】
シフトレンジをRレンジからPレンジに切り替わる場合、モータ10が駆動して長孔Hが設けられた伝達ギア21が回転することによって、ドライブギア222の突出部Eに長孔Hの他方面H2が接触した状態で、他方面H2が突出部Eを周方向に押すことにより、出力軸20aを介してディテントプレート71(図3参照)が矢印A方向(図3参照)に回動する。そして、ころ72a(図3参照)が、山部85(図3参照)を越えてPレンジの谷部80(図3参照)に吸い込まれる。
【0092】
その結果、モータ10の駆動(長孔Hの回転)に先行して、長孔H内で突出部Eが一方面H1に向けて移動する。そして、ころ72aがPレンジの谷部80の谷底に到達する前に、突出部Eが一方面H1(モータ10により回転している長孔H)に追いつく形で衝突する。
【0093】
このRレンジからPレンジへのシフトレンジの切り替えの際、ドライブギア222のドリブンギア223に対して噛み合う部分のギアの半径は、大きくなる(半径R11aから半径R10aに変わる)。したがって、RレンジからPレンジへのシフトレンジの切り替えの結果、ころ72aがPレンジの谷部80の谷底に吸い込まれて、ディテントプレート71、出力軸20a、ドリブンギア223およびドライブギア222を介して移動される突出部Eの移動速度が小さくなる。
【0094】
その結果、シフト装置200は、突出部Eが一方面H1(モータ10により回転している長孔H)に追いつく形で衝突した際の突出部Eと長孔Hとの相対速度を小さくすることができるので、衝突時の衝撃を小さくすることができる。
【0095】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0096】
第2実施形態では、上記第1実施形態と同様に、ドライブギア222とドリブンギア223とを含む出力機構260を設け、ドリブンギア23に噛み合うことにより所定のシフトレンジとなるギア部220aと、ドリブンギア223に噛み合うことにより所定のシフトレンジとは異なる他のシフトレンジとなるギア部221aとをドライブギア222に設け、出力機構260を、ドリブンギア223との噛み合いがギア部220aとギア部221aとの間で切り替わった場合に、減速比が非連続となるように構成する。これによって、シフトレンジの切り替えに際して出力機構260の出力軸20aを安定して回動させることができる。
【0097】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0098】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、シフト装置が、4つのシフトレンジを有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、シフト装置が、2つ、3つまたは5つ以上のシフトレンジを有していてもよい。
【0099】
また、上記第1および第2実施形態では、ドライブギア(ドリブンギア)が2つの異なる半径のギア部を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ドライブギア(ドリブンギア)が3つ以上の異なる半径のギア部を有していてもよい。
【0100】
また、上記第1および第2実施形態では、出力機構において、2段階で減速を行った例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、出力機構において、1段階または3段階以上で減速を行ってもよい。
【0101】
また、上記第1および第2実施形態では、ドライブギアが突出部を有し、伝達ギアが長孔を有する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ドライブギアが長孔を有し、伝達ギアが突出部を有していてもよい。
【符号の説明】
【0102】
10 モータ
10a モータ軸
20a 出力軸
22、222 ドライブギア
22a 段差部
23、223 ドリブンギア
60、260 出力機構
70 シフト切替機構
71 ディテントプレート
72 ディテントスプリング
72a ころ
80、81、82、83、84 谷部
100、200 シフト装置
220 (ドライブギアの)第1ギア部
221 (ドライブギアの)第2ギア部
G ガタ
R10 (ドライブギアの第1ギア部の)第1半径
R11 (ドライブギアの第2ギア部の)第2半径
θ、θ1、θ2、θ3、θ4 吸い込み角度範囲
θ10 ガタ角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9