(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184337
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】非破壊検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/83 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01N27/83
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098422
(22)【出願日】2022-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100144509
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋三
(72)【発明者】
【氏名】内田 徹
(72)【発明者】
【氏名】白石 浩造
(72)【発明者】
【氏名】中西 美一
【テーマコード(参考)】
2G053
【Fターム(参考)】
2G053AA11
2G053AB22
2G053BA02
2G053CA18
2G053DA01
2G053DB02
2G053DB03
2G053DB14
2G053DB19
(57)【要約】
【課題】コンクリート構造物内に設けられた鉄筋等の損傷の有無を精度よく推定することができる非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物Cの表面CFと平行かつ検査対象Pの第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で第一方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第一方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第一方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向変動曲線を一階微分した第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差ΔdBx、および/または、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxをそれぞれ算出し、差ΔdBxおよび/または差ΔdXxに基づいて検査対象Pの破断の有無を判断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に埋設された第一方向に延びる検査対象の磁束密度を、該検査対象の第一方向に沿ってコンクリート構造物の外側で測定し、測定した磁束密度の変動に基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する方法であって、
コンクリート構造物の表面と平行かつ前記検査対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で第一方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第一方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第一方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、
各測定位置の第一方向変動曲線を一階微分した第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差ΔdBx、および/または、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxをそれぞれ算出し、
該差ΔdBxおよび/または差ΔdXxに基づいて検査対象の破断の有無を判断する
ことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項2】
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxとの関係を表す一次近似式、および/または、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxとの関係を表す一次近似式を作成し、
各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxおよび/または各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxが一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断する
ことを特徴とする請求項1記載の非破壊検査方法。
【請求項3】
前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、
該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第一方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第一方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第一方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、
各測定位置の第一方向変動曲線を一階微分した第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差ΔdBx、および/または、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxをそれぞれ算出し、
各測定位置から前記試験対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxとの関係を表す判断一次近似式、および/または、各測定位置から前記試験対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxとの関係を表す判断一次近似式を作成し、
コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差ΔdBxおよび/または差ΔdXxが前記判断一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断する
ことを特徴とする請求項1記載の非破壊検査方法。
【請求項4】
前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、
該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第一方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第一方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第一方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、
各測定位置の第一方向変動曲線を一階微分した第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差ΔdBx、および/または、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxをそれぞれ算出し、
差ΔdBxを第一軸とし差ΔdXxを第二軸とする、前記検査対象の破断を推定する破断領域を有する診断マップを形成し、
コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差ΔdBxおよび差ΔdXxが前記診断マップの破断領域に位置するか否かに基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の非破壊検査方法。
【請求項5】
コンクリート構造物に検査対象以外の埋設鉄筋が無い場合において、
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxとの関係を表す一次近似式を作成し、
第二方向における検査対象から測定位置までの位置の差を位置の差Y、検査対象から位置の差Yの測定位置までの距離を距離R(Y)とし、位置の差Yの場合における差ΔdXxを前記一次近似式により推定した値ΔdXx(Y)とし、
ΔdXx(Y)/ΔdXx(0)と(R(Y)/R(0))1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成し、
該相対値一次近似式の傾きに基づいて検査対象の破断ギャップを推定する
ことを特徴とする請求項1記載の非破壊検査方法。
R(0):第一方向および第二方向と直交する第三方向線上における検査対象からの距離が測定位置と同じ距離かつ検査対象の第三方向線上に測定位置があるとした場合における測定位置から検査対象までの距離
【請求項6】
コンクリート構造物に埋設された第一方向に延びる検査対象の磁束密度を、該検査対象の第一方向に沿ってコンクリート構造物の外側で測定し、測定した磁束密度の変動に基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する方法であって、
コンクリート構造物の表面と平行かつ前記検査対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で第二方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第二方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第二方向変動曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置における第二方向変動曲線を二階微分した第二方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2By、および/または、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyをそれぞれ算出し、
差Δd2Byおよび/または差Δd2Xyに基づいて検査対象の破断の有無を判断する
ことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項7】
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Byを補正係数βで除した値Δd2By/βとの関係を表す一次近似式、および/または、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Xyの正負の符号を補正した値Δd2Xy・αとの関係を表す一次近似式を作成し、
各測定位置の第二方向微分曲線から算出される値Δd2By/βおよび/または各測定位置の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・αが一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断する
ことを特徴とする請求項6記載の非破壊検査方法。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
【請求項8】
前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、
該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第二方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第二方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第二方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、
各測定位置の第二方向変動曲線を二階微分した第二方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2By、および/または、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyをそれぞれ算出し、
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Byを補正係数β1で除した値Δd2By/β1との関係を表す判断一次近似式、および/または、各測定位置から前記試験対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Xyの正負の符号を補正した値Δd2Xy・α1との関係を表す判断一次近似式を作成し、
コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される値Δd2By/βおよび/または値Δd2Xy・αが前記判断一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断する
ことを特徴とする請求項6記載の非破壊検査方法。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
α1:SIGN(Y1)
β1:Y1/Za1・SIGN(Δd2Xy)
Y1:試験対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za1:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から試験対象までの距離
【請求項9】
前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、
該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第二方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第二方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第二方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、
各測定位置の第二方向変動曲線を二階微分した第二方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2Byを補正係数β1で除した値Δd2By/β1、および/または、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyの正負の符号を補正した値Δd2Xy・α1をそれぞれ算出し、
値Δd2By/β1を第一軸とし値Δd2Xy・α1を第二軸とする、前記検査対象の破断を推定する破断領域を有する診断マップを形成し、
コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される値Δd2By/βおよび値Δd2Xy・αが前記診断マップの破断領域に位置するか否かに基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する
ことを特徴とする請求項6記載の非破壊検査方法。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
α1:SIGN(Y1)
β1:Y1/Za1・SIGN(Δd2Xy)
Y1:試験対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za1:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から試験対象までの距離
【請求項10】
コンクリート構造物に検査対象以外の埋設鉄筋が無い場合において、
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・αとの関係を表す一次近似式を作成し、
第二方向における検査対象から測定位置までの位置の差を位置の差Y、検査対象から測定位置までの距離を距離R(Y)とし、位置の差Yの場合における値Δd2Xy・αを前記一次近似式により推定した値Δd2Xy(Y)・α(Y)とし、
(Δd2Xy(Y)・α(Y))/(Δd2Xy(0)・α(0))と(R(Y)/R(0))1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成し、
該相対値一次近似式の傾きに基づいて検査対象の破断ギャップを推定する
ことを特徴とする請求項6記載の非破壊検査方法。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数のまたは0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
R(0):第一方向および第二方向と直交する第三方向線上における検査対象からの距離が測定位置と同じ距離かつ検査対象の第三方向線上に測定位置があるとした場合における測定位置から検査対象までの距離
【請求項11】
コンクリート構造物に埋設された第一方向に延びる検査対象の磁束密度を、該検査対象の第一方向に沿ってコンクリート構造物の外側で測定し、測定した磁束密度の変動に基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する方法であって、
コンクリート構造物の表面と平行かつ前記検査対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で第三方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第三方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第三方向変動曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置における第三方向変動曲線を二階微分した第三方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2Bz、および/または、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzをそれぞれ算出し、
差Δd2Bzおよび/または差Δd2Xzに基づいて検査対象の破断の有無を判断する
ことを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項12】
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzとの関係を表す一次近似式、および/または、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzとの関係を表す一次近似式を作成し、
各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzおよび/または各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzが一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断する
ことを特徴とする請求項11記載の非破壊検査方法。
【請求項13】
前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、
該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第三方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第三方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第三方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、
各測定位置の第三方向変動曲線を二階微分した第三方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2Bz、および/または、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzをそれぞれ算出し、
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzとの関係を表す判断一次近似式、および/または、各測定位置から前記試験対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzとの関係を表す判断一次近似式を作成し、
コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差Δd2Bzおよび/または差Δd2Xzが前記判断一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断する
ことを特徴とする請求項11記載の非破壊検査方法。
【請求項14】
前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、
該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第三方向の磁束密度を測定し、
複数の測定位置において測定された第三方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第三方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、
各測定位置の第三方向変動曲線を二階微分した第三方向微分曲線をそれぞれ形成し、
各測定位置の第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2Bz、および/または、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzをそれぞれ算出し、
差Δd2Bzを第一軸とし差Δd2Xzを第二軸とする、前記検査対象の破断を推定する破断領域を有する診断マップを形成し、
コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差Δd2Bzおよび差Δd2Xzが前記診断マップの破断領域に位置するか否かに基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する
ことを特徴とする請求項11記載の非破壊検査方法。
【請求項15】
コンクリート構造物に検査対象以外の埋設鉄筋が無い場合において、
各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される値Δd2Xzとの関係を表す一次近似式を作成し、
第二方向における検査対象から測定位置までの位置の差を位置の差Y、検査対象から測定位置までの距離を距離R(Y)とし、位置の差Yの場合における差Δd2Xzを前記一次近似式により推定した値Δd2Xz(Y)とし、
Δd2Xz(Y)/Δd2Xz(0)と(R(Y)/R(0))1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成し、
該相対値一次近似式の傾きに基づいて検査対象の破断ギャップを推定する
ことを特徴とする請求項11記載の非破壊検査方法。
R(0):第一方向および第二方向と直交する第三方向線上における検査対象からの距離が測定位置と同じ距離かつ検査対象の第三方向線上測定位置があるとした場合における測定位置から検査対象までの距離
【請求項16】
第二方向における検査対象から測定位置までの距離Yaとコンクリート構造物の表面から検査対象までの距離Zaとの関係を示すYa/Zaが0~1.5となる測定位置において測定した磁束密度の変動から得られる微分曲線の極大値と極小値の差および/または微分曲線の極大値の位置と極小値の位置の差を用いて前記検査対象の破断の有無を推定する
ことを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の非破壊検査方法。
【請求項17】
距離Zaが100mmである場合において、距離Yaが0~150mmである
ことを特徴とする請求項16記載の非破壊検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、非破壊検査方法に関する。さらに詳しくは、漏洩磁束法を使用してコンクリート構造物内に設けられている鉄筋や鋼棒、鋼線等の破断を検出する非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物内に設けられた鉄筋や鋼棒、鋼線等(以下鉄筋等という)の損傷部を検出する非破壊検査方法として漏洩磁束法がある。この漏洩磁束法では、永久磁石等の磁石をコンクリートの表面に沿って移動させることにより鉄筋等を磁化させ、その後、コンクリートの表面から漏れる磁束密度を測定する。そして、磁束密度の測定結果に基づいて、鉄筋等の損傷の有無を検出する。この漏洩磁束法を利用した鉄筋等の損傷部を検出する技術が特許文献1~6に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3734822号公報
【特許文献2】特許第5946638号公報
【特許文献3】WO2020/027028号公報
【特許文献4】WO2020/027043号公報
【特許文献5】特許第6305860号公報
【特許文献6】特開2020-148565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~6に開示されている技術を使用することによって、ある程度の精度で鉄筋等の損傷部を検出することができるが、損傷部をより精度よく判断できる方法が求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、コンクリート構造物内に設けられた鉄筋等の破断の有無を精度よく推定することができる非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<X軸方向>
第1発明の非破壊検査方法は、コンクリート構造物に埋設された第一方向に延びる検査対象の磁束密度を、該検査対象の第一方向に沿ってコンクリート構造物の外側で測定し、測定した磁束密度の変動に基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する方法であって、コンクリート構造物の表面と平行かつ前記検査対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で第一方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第一方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第一方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向変動曲線を一階微分した第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差ΔdBx、および/または、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxをそれぞれ算出し、該差ΔdBxおよび/または差ΔdXxに基づいて検査対象の破断の有無を判断することを特徴とする非破壊検査方法。
第2発明の非破壊検査方法は、第1発明において、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxとの関係を表す一次近似式、および/または、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxとの関係を表す一次近似式を作成し、各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxおよび/または各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxが一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断することを特徴とする。
第3発明の非破壊検査方法は、第1発明において、前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第一方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第一方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第一方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向変動曲線を一階微分した第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差ΔdBx、および/または、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxをそれぞれ算出し、各測定位置から前記試験対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxとの関係を表す判断一次近似式、および/または、各測定位置から前記試験対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxとの関係を表す判断一次近似式を作成し、コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差ΔdBxおよび/または差ΔdXxが前記判断一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断することを特徴とする。
第4発明の非破壊検査方法は、第1発明において、前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第一方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第一方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第一方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向変動曲線を一階微分した第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差ΔdBx、および/または、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxをそれぞれ算出し、差ΔdBxを第一軸とし差ΔdXxを第二軸とする、前記検査対象の破断を推定する破断領域を有する診断マップを形成し、コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差ΔdBxおよび差ΔdXxが前記診断マップの破断領域に位置するか否かに基づいて前記検査対象の破断の有無を推定することを特徴とする。
第5発明の非破壊検査方法は、第1発明において、コンクリート構造物に検査対象以外の埋設鉄筋が無い場合において、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxとの関係を表す一次近似式を作成し、第二方向における検査対象から測定位置までの位置の差を位置の差Y、検査対象から測定位置までの距離を距離R(Y)とし、位置の差Yの場合における差ΔdXxを前記一次近似式により推定した値ΔdXx(Y)とし、ΔdXx(Y)/ΔdXx(0)と(R(Y)/R(0))1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成し、該相対値一次近似式の傾きに基づいて検査対象の破断ギャップを推定することを特徴とする。
R(0):第一方向および第二方向と直交する第三方向線上における検査対象からの距離が測定位置と同じ距離かつ検査対象の第三方向線上に測定位置があるとした場合における測定位置から検査対象までの距離
<Y軸方向>
第6発明の非破壊検査方法は、コンクリート構造物に埋設された第一方向に延びる検査対象の磁束密度を、該検査対象の第一方向に沿ってコンクリート構造物の外側で測定し、測定した磁束密度の変動に基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する方法であって、コンクリート構造物の表面と平行かつ前記検査対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で第二方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第二方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第二方向変動曲線をそれぞれ形成し、各測定位置における第二方向変動曲線を二階微分した第二方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2By、および/または、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyをそれぞれ算出し、差Δd2Byおよび/または差Δd2Xyに基づいて検査対象の破断の有無を判断することを特徴とする。
第7発明の非破壊検査方法は、第6発明において、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Byを補正係数βで除した値Δd2By/βとの関係を表す一次近似式、および/または、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Xyの正負の符号を補正した値Δd2Xy・αとの関係を表す一次近似式を作成し、各測定位置の第二方向微分曲線から算出される値Δd2By/βおよび/または各測定位置の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・αが一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断することを特徴とする。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
第8発明の非破壊検査方法は、第6発明において、前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第二方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第二方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第二方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第二方向変動曲線を二階微分した第二方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2By、および/または、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyをそれぞれ算出し、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Byを補正係数β1で除した値Δd2By/β1との関係を表す判断一次近似式、および/または、各測定位置から前記試験対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Xyの正負の符号を補正した値Δd2Xy・α1との関係を表す判断一次近似式を作成し、コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される値Δd2By/βおよび/または値Δd2Xy・αが前記判断一次近似式上に分布する場合に検査対象に破断が生じていると判断することを特徴とする。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
α1:SIGN(Y1)
β1:Y1/Za1・SIGN(Δd2Xy)
Y1:試験対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za1:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から試験対象までの距離
第9発明の非破壊検査方法は、第6発明において、前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第二方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第二方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第二方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第二方向変動曲線を二階微分した第二方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を補正係数β1で除した値Δd2By/β1、および/または、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyの正負の符号を補正した値Δd2Xy・α1をそれぞれ算出し、値Δd2By/β1を第一軸とし値Δd2Xy・α1を第二軸とする、前記検査対象の破断を推定する破断領域を有する診断マップを形成し、コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される値Δd2By/βおよび値Δd2Xy・αが前記診断マップの破断領域に位置するか否かに基づいて前記検査対象の破断の有無を推定することを特徴とする。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
α1:SIGN(Y1)
β1:Y1/Za1・SIGN(Δd2Xy)
Y1:試験対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする
Za1:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から試験対象までの距離
第10発明の非破壊検査方法は、第6発明において、コンクリート構造物に検査対象以外の埋設鉄筋が無い場合において、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・αとの関係を表す一次近似式を作成し、第二方向における検査対象から測定位置までの位置の差を位置の差Y、検査対象から測定位置までの距離を距離R(Y)とし、位置の差Yにおける値Δd2Xy・αを前記一次近似式により推定した値Δd2Xy(Y)・α(Y)とし、(Δd2Xy(Y)・α(Y))/(Δd2Xy(0)・α(0))と(R(Y)/R(0))1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成し、該相対値一次近似式の傾きに基づいて検査対象の破断ギャップを推定することを特徴とする。
α:SIGN(Y)
β:Y/Za・SIGN(Δd2Xy)
Y:検査対象から各測定位置までの第二方向の位置の差
SIGN(A):Aの正負の符号により、正の数または0の場合「+1」、負の数の場合「-1」の値とする
Za:第一方向および第二方向と直交する第三方向における各測定位置から検査対象までの距離
R(0):第一方向および第二方向と直交する第三方向線上における検査対象からの距離が測定位置と同じ距離かつ検査対象の第三方向線上に測定位置があるとした場合における測定位置から検査対象までの距離
<Z軸方向>
第11発明の非破壊検査方法は、コンクリート構造物に埋設された第一方向に延びる検査対象の磁束密度を、該検査対象の第一方向に沿ってコンクリート構造物の外側で測定し、測定した磁束密度の変動に基づいて前記検査対象の破断の有無を推定する方法であって、コンクリート構造物の表面と平行かつ前記検査対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で第三方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第三方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第三方向変動曲線をそれぞれ形成し、各測定位置における第三方向変動曲線を二階微分した第三方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2Bz、および/または、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzをそれぞれ算出し、差Δd2Bzおよび/または差Δd2Xzに基づいて検査対象の破断の有無を判断することを特徴とする。
第12発明の非破壊検査方法は、第11発明において、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzとの関係を表す一次近似式、および/または、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzとの関係を表す一次近似式を作成し、各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzおよび/または各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzが一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断することを特徴とする。
第13発明の非破壊検査方法は、第11発明において、前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第三方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第三方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第三方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第三方向変動曲線を二階微分した第三方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2Bz、および/または、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzをそれぞれ算出し、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの逆3乗であるR-3と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzとの関係を表す判断一次近似式、および/または、各測定位置から前記試験対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzとの関係を表す判断一次近似式を作成し、コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差Δd2Bzおよび/または差Δd2Xzが前記判断一次近似式を満たす場合に検査対象に破断が生じていると判断することを特徴とする。
第14発明の非破壊検査方法は、第11発明において、前記検査対象と同等の部材である破断を有する試験対象を有する、コンクリート構造物を模した試験構造物において、該試験構造物の表面と平行かつ前記試験対象の第一方向と直交する第二方向に沿って並んだ複数の測定位置で前記試験対象の第一方向に沿って第三方向の磁束密度を測定し、複数の測定位置において測定された第三方向の磁束密度の第一方向に沿った変動を示す第三方向変動曲線を各測定位置についてそれぞれ形成し、各測定位置の第三方向変動曲線を二階微分した第三方向微分曲線をそれぞれ形成し、各測定位置の第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値の差Δd2Bz、および/または、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzをそれぞれ算出し、差Δd2Bzを第一軸とし差Δd2Xzを第二軸とする、前記検査対象の破断を推定する破断領域を有する診断マップを形成し、コンクリート構造物において測定された磁束密度から算出される差Δd2Bzおよび差Δd2Xzが前記診断マップの破断領域に位置するか否かに基づいて前記検査対象の破断の有無を推定することを特徴とする。
第15発明の非破壊検査方法は、第11発明において、コンクリート構造物に検査対象以外の埋設鉄筋が無い場合において、各測定位置から前記検査対象までの距離Rの1/2乗であるR1/2と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される値Δd2Xzとの関係を表す一次近似式を作成し、第二方向における検査対象から測定位置までの位置の差を位置の差Y、検査対象から測定位置までの距離を距離R(Y)とし、位置の差Yの場合における差Δd2Xzを前記一次近似式により推定した値Δd2Xz(Y)とし、Δd2Xz(Y)/Δd2Xz(0)と(R(Y)/R(0))1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成し、該相対値一次近似式の傾きに基づいて検査対象の破断ギャップを推定することを特徴とする。
R(0):第一方向および第二方向と直交する第三方向線上における検査対象からの距離が測定位置と同じ距離かつ検査対象の第三方向線上測定位置があるとした場合における測定位置から検査対象までの距離
第16発明の非破壊検査方法は、第1~第15発明において、第二方向における検査対象から測定位置までの距離Yaとコンクリート構造物の表面から検査対象までの距離Zaとの関係を示すYa/Zaが0~1.5となる測定位置において測定した磁束密度の変動から得られる微分曲線の極大値と極小値の差および/または微分曲線の極大値の位置と極小値の位置の差を用いて前記検査対象の破断の有無を推定することを特徴とする。
第17発明の非破壊検査方法は、第16発明において、距離Zaが100mmである場合において、距離Yaが0~150mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
<X軸方向>
第1、第2発明によれば、測定した磁束密度に基づいて、コンクリート構造物に埋設された検査対象の破断を検出することができる。
第3、第4発明によれば、コンクリート構造物と検査対象との間に障害物があっても、測定した磁束密度に基づく検査対象の破断を検出する精度を高くできる。
第5発明によれば、コンクリート構造物と検査対象との間に障害物がない場合に、
検査対象の破断ギャップを推定することができる。
<Y軸方向>
第6、第7発明によれば、測定した磁束密度に基づいて、コンクリート構造物に埋設された検査対象の破断を検出することができる。
第8、第9発明によれば、コンクリート構造物と検査対象との間に障害物があっても、測定した磁束密度に基づく検査対象の破断を検出する精度を高くできる。
第10発明によれば、コンクリート構造物と検査対象との間に障害物がない場合に検査対象の破断ギャップを推定することができる。
<Z軸方向>
第11、第12発明によれば、測定した磁束密度に基づいて、コンクリート構造物に埋設された検査対象の破断を検出することができる。
第13、第14発明によれば、コンクリート構造物と検査対象との間に障害物があっても、測定した磁束密度に基づく検査対象の破断を検出する精度を高くできる。
第15発明によれば、コンクリート構造物と検査対象との間に障害物がない場合に、検査対象の破断ギャップを推定することができる。
第16および第17発明によれば、検査対象の破断評価の精度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の非破壊検査方法に使用される非破壊検査装置1の概略説明図であって、(A)は側面図であり、(B)は平面図である。
【
図2】
図1(A)のII-II線断面の概略説明図である。
【
図3】本実施形態の非破壊検査方法に使用される非破壊検査装置1の概略ブロック図である。
【
図4】試験構造物TMの概略説明図であり、(A)は(B)のA-A線概略断面矢視図であり、(B)は(A)のB-B線概略断面矢視図である。
【
図5】(A)は第一方向変動曲線を示したグラフであり、(B)は第一方向微分曲線を示したグラフである。
【
図6】(A)は差ΔdBxとR
-3との関係を表す一次近似式のグラフであり、(B)は差ΔdXxとR
1/2との関係を表す一次近似式のグラフである。
【
図7】(A)は検査対象がPC撚り線の場合において、コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合における差ΔdXxとR
1/2との関係を表す一次近似式を比較したグラフであり、(B)は検査対象がPC鋼棒の場合において、コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合における差ΔdXxとR
1/2との関係を表す一次近似式を比較したグラフである。
【
図8】(A)は第二方向変動曲線を示したグラフであり、(B)は第二方向微分曲線を示したグラフである。
【
図9】(A)は値Δd2By/βとR
-3との関係を表す一次近似式のグラフであり、(B)は値Δd2Xy・αと算出されたR
1/2との関係を表す一次近似式のグラフである。
【
図10】(A)は検査対象がPC撚り線の場合において、コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合における値Δd2Xy・αとR
1/2との関係を表す一次近似式を比較したグラフであり、(B)は検査対象がPC鋼棒の場合において、コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合における値Δd2Xy・αとR
1/2との関係を表す一次近似式を比較したグラフである。
【
図11】(A)は第三方向変動曲線を示したグラフであり、(B)は第三方向微分曲線を示したグラフである。
【
図12】(A)は差Δd2BzとR
-3との関係を表す一次近似式のグラフであり、(B)は差Δd2XzとR
1/2との関係を表す一次近似式のグラフである。
【
図13】(A)は検査対象がPC撚り線の場合において、コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合における差Δd2XzとR
1/2との関係を表す一次近似式を比較したグラフであり、(B)は検査対象がPC鋼棒の場合において、コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合における差Δd2XzとR
1/2との関係を表す一次近似式を比較したグラフである。
【
図14】診断マップMPの概略説明図であり、(A)は差ΔdBxと差ΔdXxを用いた診断マップMPであり、(B)は値Δd2By/βと値Δd2Xy・αを用いた診断マップMPであり、(C)は差Δd2Bzと差Δd2Xzを用いた診断マップMPである。
【
図15】破断GAの破断ギャップGapと一次近似式の傾きとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態の非破壊検査方法は、漏洩磁束法を用いてコンクリート構造物の内部に埋設されている検査対象の破断を推定する方法であって、鉄筋や鋼棒、鋼線等のように一方向に沿って延びる検査対象であって、検査対象の破断の検出精度を向上できるものである。
【0010】
本実施形態の非破壊検査方法によって検査される検査対象が埋設されているコンクリート構造物(以下単に検査されるコンクリート構造物という場合がある)は、とくに限定されない。例えば、道路や鉄道などの橋桁や橋脚、床版等を、本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるコンクリート構造物として挙げることができる。
【0011】
本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるコンクリート構造物は、その表面が平面であるものに限られず、表面が円筒状の面であるものも含まれる。例えば、表面が円筒状の面を有する柱状体等も本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるコンクリート構造物として挙げることができる。
【0012】
本実施形態の非破壊検査方法によって検査される検査対象もとくに限定されず、検査されるコンクリート構造物の表面と平行に一方向に沿って延びる検査対象であって、破断等の損傷が生じる可能性があるものであればよい。例えば、PC鋼棒(直径10mm以上の高強度鋼)や、PC鋼線(直径8mm以下の高強度鋼製の線材)、PC撚り線(PC鋼線をより合わせたもの)等のPC鋼材や鉄筋コンクリート用棒鋼等の鋼材を検査対象とすることができる。
【0013】
以下では、本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるコンクリート構造物の表面が平面である場合を代表として説明する。
【0014】
なお、以下の説明で、検査されるコンクリート構造物の表面は、表面が円筒状の面である構造物(曲面コンクリート構造物)における接平面を含む概念である。円筒状の曲面コンクリート構造物の場合、検査対象となる鉄筋等は、曲面コンクリート構造物の表面の軸方向(円筒状面の中心軸方向)に沿って延びている。このため、本実施形態の非破壊検査方法に使用される装置は、曲面コンクリート構造物の表面の軸方向に沿って移動しながら磁束密度を測定することになる。そして、磁束密度を測定する後述する磁気センサは、装置が曲面コンクリート構造物の表面の軸方向に沿って移動すると、曲面コンクリート構造物の表面の接平面と平行な状態を保って移動しながら磁束密度を測定することになる。したがって、以下の説明において、コンクリート構造物の表面を基準とする場合には、曲面コンクリート構造物では、コンクリート構造物の表面の接平面を基準とすることを意味する。
【0015】
<コンクリート構造物C>
まず、本実施形態の非破壊検査方法によって検査されるコンクリート構造物Cについて簡単に説明する。
【0016】
検査されるコンクリート構造物Cは、例えば、橋桁や橋脚、床版等の構造物であり、構造物の内部に鉄筋や鋼棒、鋼線等の検査対象Pが埋設されたものである(
図1参照)。具体的には、検査されるコンクリート構造物Cは平面状の表面CFを有しており、この表面CFと平行に検査対象Pが一方向に沿って延びるように埋設されている。この検査対象Pが延びる方向、つまり、検査対象Pの軸方向(
図1では左右方向)を、以下では検査対象Pの第一方向という。
【0017】
なお、以下では、検査対象Pの第一方向をX軸方向、コンクリート構造物Cの表面CFと平行かつX軸方向と直交する方向をY軸方向、コンクリート構造物Cの表面CFの法線方向をZ軸方向、という場合がある(
図1参照)。このY軸方向が特許請求の範囲にいう第二方向、Z軸方向が特許請求の範囲にいう第三方向になる。
【0018】
なお、検査されるコンクリート構造物Cには、配筋等の鉄筋やスペーサ等のような検査対象P以外の部材が埋設されている場合がある。
【0019】
また、コンクリート構造物Cの表面CFと検査対象Pが平行とは、検査対象Pの全体に渡って両者が完全に平行である場合だけでなく、検査対象Pの一部に検査するコンクリート構造物Cの表面CFに対して若干の傾きがある場合を含む概念である。
【0020】
<本実施形態の非破壊検査装置1>
つぎに、本実施形態の非破壊検査方法を説明する前に、本実施形態の非破壊検査方法に使用される非破壊検査装置1を説明する。
【0021】
<移動体2>
図1に示すように、非破壊検査装置1は移動体2を有している。この移動体2は、検査するコンクリート構造物Cの表面CFに沿って、一方向にスムースに移動できるような構造を有している。より詳しく言えば、移動体2は、その中心軸B(
図1(B)参照)の方向に沿って直線的に移動できる構造を有している。しかも、移動体2は、検査するコンクリート構造物Cの表面CFと、後述する磁束測定部5との距離Hを一定に維持した状態で移動することができる機能を有している。なお、以下では、移動体2の中心軸B方向(つまり移動体2の移動方向)をx軸方向という場合がある(
図1参照)。
【0022】
具体的には、移動体2は、その本体2aと、本体2aに回転可能に取り付けられた複数の車輪2rと、を備えている(
図1(A)参照)。この複数の車輪2rは、その回転軸が移動体2の中心軸Bと直交するように設けられている。しかも、複数の車輪2rは、移動体2を検査するコンクリート構造物Cの表面CFに配置した状態において、その回転軸が検査するコンクリート構造物Cの表面CFと平行になるように設けられている。なお、以下では、複数の車輪2rの回転軸と平行な方向をy軸方向、x軸方向およびy軸方向と直交する方向をz軸方向という場合がある(
図1参照)。z軸方向は、移動体2をコンクリート構造物Cの表面CFに配置した状態において、コンクリート構造物Cの表面CFの法線方向(上述したZ軸方向)と平行になる。
【0023】
また、複数の車輪2rは、磁束測定部5(より具体的には磁気センサ6)と検査するコンクリート構造物Cの表面CFとの距離H(Z軸方向の距離)を一定に維持した状態で移動できるように設けられている。つまり、検査するコンクリート構造物Cの表面CFに複数の車輪2rを接触させた状態で複数の車輪2rを転動させれば、磁束測定部5と検査するコンクリート構造物Cの表面CFとのZ軸方向の距離を一定の距離Hに保ったままで、検査するコンクリート構造物Cの表面CFをX軸方向に沿って移動体2を移動させることができる。以下では、移動体2を移動させる場合、その移動方向がX軸方向に沿った方向であることを前提に説明する。
【0024】
なお、移動体2に設ける車輪2rの数はとくに限定されない。上述したように、磁束測定部5と検査するコンクリート構造物Cの表面CFとのZ軸方向の距離を一定に維持したままで移動体2をX軸方向に移動させることができるのであれば、車輪2rの数は3つでもよいし、4つ以上でもよい。
【0025】
また、移動体2は、磁束測定部5と検査するコンクリート構造物Cの表面CFとのZ軸方向の距離Hを一定に維持でき、かつ、検査するコンクリート構造物Cの表面CFをX軸方向に沿ってスムースに移動できるようになっていればよく、その構造はとくに限定されない。上記例では、移動体2が車輪2rを有する場合を説明したが、検査するコンクリート構造物Cの表面CFと平行かつX軸方向に沿ってガイドレール等を敷設して、このガイドレール等に沿って移動体2を移動させるようにしても上記機能を発揮させることができる。なお、磁束測定部5と検査するコンクリート構造物Cの表面CFとのZ軸方向の距離Hを一定に維持するとは、移動体2がコンクリート構造物Cの表面CFに沿って移動した際に、両者間の距離Hに約20mm程度の変動がある場合を含んでいる。
【0026】
また、検査するコンクリート構造物Cの表面CFに凹凸がある場合には、磁束測定部5において磁気センサ6を設けられる領域の幅と対応する領域(
図1(B)の幅Wの領域)の表面の凹凸を平均化した仮想平面が検査するコンクリート構造物Cの表面CFに相当する。したがって、検査するコンクリート構造物Cの表面CFに凹凸がある場合には、磁束測定部5と検査するコンクリート構造物Cの表面CFのZ軸方向における距離Hとは、Z軸方向における仮想平面から磁束測定部5までの距離になる。なお、以下では、検査するコンクリート構造物Cの表面CFという場合には、磁束測定部5と対応する領域の表面の凹凸を平均化した仮想平面も含む。
【0027】
また、表面が円筒状の面を有する柱状体を検査するコンクリート構造物(上述した曲面コンクリート構造物に相当する)とした場合には、柱状体の軸方向と直交する方向では、位置によって磁束測定部5とコンクリート構造物の表面との距離が異なる状態となる。しかし、非破壊検査装置1の移動体2は、移動体2を柱状体の軸方向(つまり検査対象の軸方向、特許請求の範囲にいう検査対象の第一方向に相当する)に移動させた場合、磁束測定部5の各磁気センサ6とコンクリート構造物Cの表面CFとの距離を一定に保った状態で移動できる機能を有している。例えば、移動体2の中心軸Bと柱状体の中心軸とを通過する面と柱状体の表面との交線に接する接平面を設定すると、非破壊検査装置1の移動体2は、この接平面と磁束測定部5の各磁気センサ6との距離を一定に維持した状態で移動することができる機能を有している。
【0028】
<磁束測定部5>
磁束測定部5は、検査するコンクリート構造物Cの表面CFの磁束密度を測定するものであり、磁気センサ6を備えている。磁気センサ6は、3軸方向の磁束密度を測定できるものであり、磁束測定部5のベース部材5aに配設されている(
図1(B)参照)。なお、磁気センサ6には、3軸方向の磁束密度を測定できるものであればよく、公知の種々の磁気センサを使用することができる。例えば、ホール素子センサやMRセンサ、MIセンサ、TMRセンサなどを磁気センサ6として用いることができる。
【0029】
磁気センサ6は、y軸方向に沿って間隔を空けて並ぶように、磁束測定部5のベース部材5aに複数(
図1(B)では8つ)設けられている。具体的には、検査するコンクリート構造物Cの表面CFに移動体2を配置した状態において、検査対象PのX軸、Y軸、Z軸方向の磁束密度をそれぞれ測定できるように、y軸方向に沿って間隔を空けて並ぶように各磁気センサ6は配設されている。
【0030】
複数の磁気センサ6は、全ての磁気センサ6の各軸方向の測定軸が同一面内に位置するように設けることが望ましい。ここでいう、全ての磁気センサ6の各軸方向の測定軸が同一面内に位置するとは、全ての磁気センサ6の各軸方向の測定軸が完全に同一面内に位置する場合と、各磁気センサ6の各軸方向の測定軸同士で若干のズレがある場合とを含んでいる。各磁気センサ6の各軸方向の測定軸同士のズレとは、各磁気センサ6の測定軸同士が、各測定軸と直交する方向において、±20mm程度以内の位置のズレがある場合と、各測定軸の測定軸同士で若干の傾きがある場合の両方を含んでいる。例えば、x軸方向の測定軸の場合であれば、各磁気センサ6のx軸方向の測定軸同士において、y軸方向および/またはz軸方向において±20mm程度以内の位置のズレがある場合や、x軸方向とy軸方向の両方に平行な面に対する傾きが異なる場合、x軸方向とz軸方向の両方に平行な面に対する傾きが異なる場合を含んでいる。
【0031】
複数の磁気センサ6を設ける場合、磁気センサ6同士の間隔や磁気センサ6を設ける領域の幅Wはとくに限定されない。検査対象Pが埋設されている深さや間隔等に応じて適切な間隔、領域の幅Wとすればよい。例えば、検査対象Pから検査するコンクリート構造物Cの表面CFまでの第三方向(Z軸方向)の距離が約100~200mmであれば、磁気センサ6のy軸方向の間隔は50~100mm程度、磁気センサ6を設ける領域の幅Wは300~1000mm程度が望ましい。
【0032】
なお、
図1(B)では磁気センサ6を8つ設けているが、磁気センサ6を設ける数は3つ以上であればよく、磁気センサ6を設ける数はとくに限定されない。
【0033】
また、複数の磁気センサ6は、いずれかの磁気センサ6が移動体2の中心線B上に位置するように設けることが望ましい。例えば、
図1(B)であれば、Y03の磁気センサ6を移動体2の中心線B上に配設し、他の7つの磁気センサ6は移動体2の中心線Bの一方の側に3つ、他方に4つ設ければよい。とくに、磁気センサ6の数が奇数の場合であれば、一つの磁気センサ6は、移動体2の中心線B上に設け、かつ、他の磁気センサ6は、移動体2の中心線Bに対して対称となるように配設することが望ましい。つまり、移動体2の中心線Bを挟んで両側に同じ数の磁気センサ6が配置されるように複数の磁気センサ6を設けることが望ましい。例えば、移動体2の中心線Bを含みy軸方向と直交する面を基準面SAとすると、複数の磁気センサ6はこの基準面SAに対して対称になるように設けることが望ましい。
【0034】
また、複数の磁気センサ6は、必ずしも移動体2の中心線Bに対して対称となるように配置されていなくてもよい。移動体2の中心線Bの両側に少なくとも1つ以上、好ましくは、2つ以上の磁気センサ6が設けられていればよい。
【0035】
さらに、複数の磁気センサ6は、どの磁気センサ6も移動体2の中心線B上に位置しないように配設されていてもよい。この場合も、移動体2の中心線Bの両側に少なくとも1つ以上、好ましくは、2つ以上の磁気センサ6が設けられていればよい。とくに、移動体2の中心線Bに対して対称となるように複数の磁気センサ6が配置されていることが望ましい。
【0036】
<制御部4>
図3に示すように、制御部4は、磁束測定部5の複数の磁気センサ6の位置を算出する位置算出機能と、磁束測定部5の複数の磁気センサ6の作動を制御する作動制御機能と、を有している。また、制御部4は、磁束測定部5の複数の磁気センサ6が測定した磁束密度の測定値のデータと、位置算出機能が算出する磁束測定部5の複数の磁気センサ6の位置と、をそれぞれ関連づけてメモリー等の記憶部に記憶させる記憶機能を有している。
【0037】
さらに、制御部4は、記憶部に記憶されているデータを使用して、磁束密度の測定値の変動を示すグラフやマップを作成する解析機能を有している。
【0038】
なお、制御部4にデータ通信機能を設けて、外部のパソコン、クラウドコンピュータとの間で測定データ等を送受信するようにすれば、制御部4の記憶機能、解析機能等を外部のパソコン等と協働させることも可能である。
【0039】
<位置算出機能>
制御部4は、移動体2の移動量、言い換えれば、磁束測定部5の複数の磁気センサ6の移動量を算出する位置算出機能を有している。この位置算出機能は、初期位置(移動体2を検査するコンクリート構造物Cの表面CFに配置した位置)から現在位置までの磁束測定部5の複数の磁気センサ6の移動距離、言い換えれば、初期位置を基準とした磁束測定部5の複数の磁気センサ6の現在位置を算出するものである。例えば、移動体2の基準位置(例えば、車輪2rの位置)に対する複数の磁気センサ6の相対的な位置が記憶部に記憶されていれば、位置算出機能は、初期位置における基準位置を元にして、移動体2のx軸方向の初期位置からの移動量と基準位置に対する複数の磁気センサ6の相対的な位置とに基づいて、複数の磁気センサ6のX軸方向の移動距離および上記移動後の複数の磁気センサ6の位置(X軸方向の位置)を算出することができる。
【0040】
なお、X軸方向における初期位置からの現在位置までの磁束測定部5の複数の磁気センサ6の移動距離を求める方法はとくに限定されない。
図3に示すように、移動体2の初期位置からの移動距離を検出する検出器4cを移動体2に設けてもよい。例えば、検出器4cとして、車輪2rの回転量(回転角度)を検出することができるエンコーダを設けてもよい。この場合、位置算出機能は、検出器4cが検出する車輪2rの回転角度と車輪2rの直径とに基づいて、初期位置に対する磁束測定部5の複数の磁気センサ6のX軸方向の移動距離および、上記移動後の初期位置に対する磁束測定部5の複数の磁気センサ6の位置(X軸方向の位置)を算出することができる。
【0041】
また、上述した移動体2の初期位置からの移動距離を検出する検出器4cは、上述したエンコーダのように車輪2rの回転数に基づいてX軸方向の移動距離を検出するものに限られない。光学マウスや加速度計等をX軸方向の移動距離を把握する検出器4cとして使用してもよい。
【0042】
さらに、複数の磁気センサ6の現在位置(言い換えれば複数の磁気センサ6が磁束密度を測定している位置)を把握する方法も上述した方法に限られない。例えば、コンクリート構造物Cやその近傍に位置標識を設けておき、この位置標識に対する磁束密度を測定したタイミングにおける磁束測定部5の相対的な位置を測定して磁束測定部5が磁束密度を測定した位置(X軸方向の位置)を把握してもよい。
【0043】
<作動制御機能>
制御部4は、磁束測定部5の複数の磁気センサ6の作動を制御する作動制御機能を有している。この作動制御機能は、磁束測定部5の複数の磁気センサ6が磁束密度を測定するタイミングを決定し、そのタイミングで磁束測定部5の複数の磁気センサ6に磁束密度を測定させる機能と、測定した測定値を記憶機能に送信する機能と、を有している。例えば、操作ボタン等によって測定開始信号が入力されると、その後、所定の時間間隔(例えば、10ミリ秒毎)で複数の磁気センサ6に磁束密度を測定させてその測定値を記憶機能に送信したり(以下、複数の磁気センサ6に磁束密度を測定させてその測定値を記憶機能に送信することを測定等という場合がある)、位置算出機能が算出する移動体2のx軸方向の移動量に基づいて所定の距離ごとに複数の磁気センサ6に磁束密度を測定等させたりする機能を作動制御機能は有している。もちろん、制御部4は、操作ボタン等によって測定開始信号が入力されると複数の磁気センサ6に連続して磁束密度を測定させて測定値を連続して記憶機能に送信するようになっていてもよい。なお、制御部4は、全ての磁気センサ6が同じタイミングで磁束密度を測定等するように制御してもよいし、磁気センサ6毎に適切なタイミングで測定等するように制御してもよい。例えば、各磁気センサの移動量がそれぞれ所定の移動量になったタイミングで、各磁気センサ6にそれぞれ測定等するように制御してもよい。
【0044】
なお、位置算出機能が上述したような検出器4cを有している場合には、検出器4cが発信する信号を直接作動制御機能に供給して、検出器4cが発信する信号に基づいて作動制御機能が複数の磁気センサ6に磁束密度を測定等させるようにしてもよい。例えば、検出器4cがエンコーダであれば、検出器4cが検出する車輪2rの回転角度に応じて(つまり所定の角度だけ車輪2rが回転すると)作動制御機能が複数の磁気センサ6に磁束密度を測定等させるようにしてもよい。また、複数の磁気センサ6に磁束密度の測定を開始させるタイミングも検出器4cが発信する信号に基づいて決定してもよい。例えば、車輪2rが回転していない状態から車輪2rが回転を開始したことを検出器4cが検出し信号を発信すると、その信号に基づいて複数の磁気センサ6に磁束密度の測定を開始させるようにしてもよい。
【0045】
また、磁束測定部5の複数の磁気センサ6は、作動制御機能の指令に係らず、常時、磁束密度を測定する状態となっていてもよい。この場合は、作動制御機能は、測定開始信号が入力された後、上述した時間間隔や所定の移動距離ごとに複数の磁気センサ6からの信号を記憶機能に送信する機能を有していればよい。
【0046】
<記憶機能>
記憶機能は、位置算出機能が算出した磁束測定部5の移動距離(つまり複数の磁気センサ6の移動距離)と、磁束測定部5の複数の磁気センサ6が測定した磁束密度の測定値とを関連付けて記憶させる機能である。具体的には、記憶機能は、磁束測定部5の複数の磁気センサ6が測定した磁束密度の測定値と、複数の磁気センサ6が磁束密度を測定した時間と、その時間における磁束測定部5の複数の磁気センサ6の位置(移動体2のx軸方向の移動量や検出器4cの信号等)と、をそれぞれ関連付けて記憶部に記憶させる機能を有している。
【0047】
また、記憶部には、各磁気センサ6が測定を開始した位置(例えば初期位置)とその開始時間に関する情報が、各磁気センサ6と対応付けて記憶される。
【0048】
したがって、記憶部に記憶されている情報を取得すれば、各磁気センサ6が測定した磁束密度がどの位置で測定されたものであるかをそれぞれ特定することができる。
【0049】
<解析機能>
制御部4は、記憶部に記憶されているデータを解析する解析機能も有している。この解析機能は、記憶部に記憶されているデータを使用して、検査対象Pの破断の有無を判断したり、検査対象Pの破断長さGap等を推定したりする機能を有している。なお、解析機能の詳細については後述する。
【0050】
なお、制御部4は、上述したような解析機能を有していなくてもよく、上述した位置算出機能と、作動制御機能と、記憶機能と、だけを有していてもよい。この場合には、制御部4に記憶されているデータを外部に供給する機能を設けて、非破壊検査装置1と別に設けられている解析装置でデータを解析するようにしてもよい。その場合、有線や無線で制御部から解析装置にデータを供給するようにしてもよいし、USB等の記憶装置にデータを記憶させて制御部から解析装置にデータを供給するようにしてもよい。
【0051】
また、解析機能は、解析の精度を高めるために、必要に応じてデータの平滑化、平坦化等の前処理を行うようにしてもよい。つまり、後述するような磁束密度の変動曲線を形成する場合に、データの平滑化、平坦化等の前処理を行って、磁束密度の変動曲線に基づく解析精度を高める機能を解析機能は有していてもよい。データの平滑化、平坦化等を行う方法はとくに限定されず、周知の方法(例えば移動平均法やフィルタリング、近似直線による傾き補正等)を使用することができる。
【0052】
<本実施形態の非破壊検査方法>
上述した本実施形態の非破壊検査装置1によって、検査するコンクリート構造物Cに埋設されている検査対象Pの破断を検査する方法を説明する。なお、以下では、検査するコンクリート構造物Cの表面CFが水平面であることを前提に説明する。もちろん、検査するコンクリート構造物Cの表面CFが鉛直面や傾斜した面であっても、本実施形態の非破壊検査装置1を用いて同様の方法で検査を行うことができる。
【0053】
まず、検査するコンクリート構造物Cの表面に沿って磁石を移動させて、検査するコンクリート構造物Cに埋設されている検査対象Pを着磁する。なお、検査対象Pを着磁する方法はとくに限定されない。以下の説明では、磁石のN極とS極が検査対象Pの第一方向(
図1のX軸方向)に並んだ状態で磁石を検査対象Pの第一方向に沿って移動させた場合を説明する。また、検査対象Pを着磁した後で整磁することが望ましい。検査対象Pを整磁する方法もとくに限定されない。
【0054】
検査対象Pを着磁した後、検査するコンクリート構造物Cの表面CFに非破壊検査装置1の移動体2を配置する(
図1(A)参照)。このとき、移動体2は、検査対象Pの中心軸が基準面SAに含まれるように配置する。すると、検査するコンクリート構造物Cの表面CFおよび検査対象Pの第一方向に沿って移動体2を移動させたときに、一つの磁気センサ6(
図1(B)ではY03の磁気センサ6)を検査対象Pの鉛直上方に配置し、かつ、複数の磁気センサ6(Y00~Y07)と検査対象Pとの相対的な位置を一定の状態に維持したまま、移動体2を移動させることができる(
図1(B)参照)。
【0055】
なお、移動体2は、検査対象Pの中心軸が基準面SAから若干ずれた状態で配置されていてもよい。例えば、Y軸方向において、移動体2の基準面SAと検査対象Pの中心軸とが、0~10mm程度ずれていてもよい。
【0056】
また、移動体2は、検査対象Pの中心軸が基準面SAと平行になるように配置されていれば、必ずしも検査対象Pの中心軸が基準面SAに含まれるように配置しなくてもよい。この場合には、複数の磁気センサ6のうち、いずれかの磁気センサ6が検査対象Pの中心軸を含みかつコンクリート構造物Cの表面CFと直交する面上に位置し、かつ、この面の両側に少なくとも1つ以上の磁気センサ6が配置されるようにすることが望ましい。
【0057】
移動体2を配置すると、操作ボタン等によって測定開始信号を入力し、移動体2を検査対象Pの第一方向(X軸方向)に沿って移動させる。すると、磁束測定部5の複数の磁気センサ6によって、複数の磁気センサ6の移動経路に沿った磁束密度がそれぞれ測定される。つまり、複数の磁気センサ6の位置における、検査対象Pの第一方向に沿った磁束密度が測定される。そして、複数の磁気センサ6によって測定された磁束密度の測定値は、その測定位置と測定時間と測定した磁気センサ6とを関連付けて、記憶機能に記憶される。
【0058】
検査対象Pを検査する領域、つまり、検査対象Pを検査する距離だけ移動体2を移動させると検査が終了する。
【0059】
測定が終了すれば、制御部4の解析機能によって検査対象Pの破断の有無が判断される。また、必要に応じて、破断長さGapを推定することができる。
【0060】
<磁気センサ6について>
上記例では、複数の磁気センサ6として、3軸方向の磁束密度を測定できるものを使用したが、3軸方向の磁束密度を測定する場合には、1軸方向の磁束密度を測定することができる磁気センサを複数使用して、3軸方向の磁束密度を測定するようにしてもよい。例えば、各測定位置(
図1(B)であればY00~Y07)において1軸方向の磁束密度を測定する磁気センサを3つ隣接するように並べて配置して、3軸方向の磁束密度を測定してもよい。
また、磁気センサ6によって3軸方向の磁束密度を測定してもよいが、1軸方向だけ、または、2軸方向だけの磁束密度を測定してもよい。2軸方向の磁束密度を測定する場合には、1軸方向の磁束密度を測定する磁気センサを各測定位置(
図1(B)であればY00~Y07)において2つ隣接するように並べて配置して、2軸方向の磁束密度を測定してもよい。
【0061】
<解析機能の詳細な説明>
上述したように、本実施形態の非破壊検査装置1では、磁束測定部5の複数の磁気センサ6によって測定された磁束密度を利用して、検査対象Pの破断の有無を判断できる。また、磁束測定部5の複数の磁気センサ6によって測定された磁束密度を利用して、破断長さGapを推定することができるようにしてもよい。
【0062】
以下、制御部4の解析機能が、検査対象Pの破断の有無を判断する方法および破断長さGapを推定する方法を説明する。
【0063】
<検査対象Pの破断の有無を判断する方法>
解析機能は、複数の磁気センサ6によって測定された磁束密度の第一方向(
図1のX軸方向)に沿った変動を解析することによって、検査対象Pに破断が生じていると推定する機能を有している。検査対象Pの破断は、磁束密度の第一方向に沿ったx軸方向の磁束密度の変動、磁束密度の第一方向に沿ったy軸方向の磁束密度の変動、磁束密度の第一方向に沿ったz軸方向の磁束密度の変動、に基づいてそれぞれ推定することができる。
【0064】
なお、以下の説明で使用するデータは、検査対象P以外に縦筋と横筋が埋設されているコンクリート構造物Cにおいて、8つの3軸磁気センサ6(Y00~Y07、
図1(B)参照)を使用し、かつ、Y03の磁気センサ6(移動体2の中心線B上に配設されている磁気センサ6)が検査対象Pの中心軸を含みかつコンクリート構造物Cの表面CFと直交する面(直交面)上に位置する状態で磁束密度を測定したデータである。なお、この状態では、基準面SAと直交面とは同一面になる。
【0065】
<X軸方向>
検査対象Pの破断は、磁束密度の第一方向に沿ったx軸方向の磁束密度の変動に基づいて以下のような方法で推定することができる。
【0066】
まず、コンクリート構造物Cの検査対象Pの第一方向(X軸方向)に沿ってx軸方向の磁束密度を測定すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と第一方向の測定位置との関係を示す第一方向変動曲線を形成する(
図5(A)参照)。
【0067】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第一方向変動曲線を形成すると、この第一方向変動曲線を一階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの一階微分値と、一階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第一方向微分曲線を形成する(
図5(B)参照)。
【0068】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第一方向微分曲線を形成すると、極大値と極小値の差ΔdBxと極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxとを算出する(
図5(B)参照)。具体的には、各第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、この極大値と極小値の差ΔdBxを算出する。また、各第一方向微分曲線について、極大値となる位置と極小値となる位置の差ΔdXxを算出する。
【0069】
極大値と極小値の差ΔdBxと極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxとを算出すると、以下の方法で破断の有無を推定する。
【0070】
<差ΔdBxを使用する例>
まず、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の逆3乗であるR
-3を算出する。そして、各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxと算出されたR
-3との関係を表す一次近似式を算出する(
図6(A)参照)。一次近似式を算出すると、各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxが一次近似式を満たすか否かを判断する。例えば、差ΔdBxを第一軸としR
-3を第二軸とするグラフ上に各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxをグラフ上にプロットし、プロットした点が一次近似式近傍に分布するか否かを判断する(
図6(A)参照)。
【0071】
そして、プロットした点が一次近似式近傍に分布する場合、つまり差ΔdBxとR-3との関係が一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断する。
【0072】
なお、差ΔdBxとR-3との関係が一次近似式を満たす場合とは、R-3が同じ場合において、そのR-3における一次近似式の値と差ΔdBxとの相対誤差が±30%以内の場合を意味している。
相対誤差=[{(実測値)/(一次近似式の値)}-1]×100%
【0073】
<差ΔdXxを使用する例>
上記例では、差ΔdBxを使用して検査対象Pの破断を判断する場合を説明したが、差ΔdXxを使用して検査対象Pの破断の判断を行ってもよい。
【0074】
この場合、まず、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の1/2乗であるR
1/2を算出する。そして、各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxと算出されたR
1/2との関係を表す一次近似式を算出する(
図6(B)参照)。一次近似式を算出すると、各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxが一次近似式を満たすか否かを判断する。例えば、差ΔdXxを第一軸としR
1/2を第二軸とするグラフ上に各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxをプロットし、プロットした点が一次近似式近傍に分布するか否かを判断する(
図6(B)参照)。
【0075】
そして、プロットした点が一次近似式近傍に分布する場合、つまり差ΔdXxとR1/2との関係が一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断する。
【0076】
なお、差ΔdXxとR1/2との関係が一次近似式を満たす場合とは、R1/2が同じ場合において、そのR1/2における一次近似式の値と差ΔdXxとの相対誤差が±30%以内の場合を意味している。
相対誤差=[{(実測値)/(一次近似式の値)}-1]×100%
【0077】
<試験構造物TMの一次近似式を使用する例>
上述した方法では、本実施形態の非破壊検査装置1が備える複数の磁気センサ6によって検査するコンクリート構造物Cの磁束密度を測定した場合に、測定された磁束密度を利用して、一次近似式を算出するようにした。しかし、本実施形態の非破壊検査装置1によって検査するコンクリート構造物Cを模した試験構造物TMの磁束密度を測定し、この磁束密度に基づいて一次近似式(判断一次近似式)を予め算出しておいてもよい。そして、コンクリート構造物Cの検査対象Pにおいて各磁気センサ6が測定した各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxや差ΔdXxが、判断一次近似式を満たすか否かによって、破断を判断してもよい。
【0078】
この場合、使用する試験構造物TMは、コンクリートに検査対象と同等の部材である試験対象Q(好ましくは検査対象Pと同じ材料)が埋設されたものを使用する。つまり、試験対象Qを、かぶり深さ(試験構造物TMの表面から試験対象Qまでの距離)がコンクリート構造物Cにおける検査対象Pと同じかぶり深さ(コンクリート構造物Cの表面から検査対象Pまでの距離)となるようにコンクリートに埋設した試験構造物TMにおいて、検査と同じ方法で試験対象Qを着磁・整磁した後、非破壊検査装置1の磁気センサ6によって試験構造物TMを測定して得られる磁束密度を用いて、判断一次近似式を算出する。
【0079】
なお、一般に乾燥したコンクリートの透磁率は空気とほぼ同じであることから、試験構造物TMは必ずしも試験対象TMをコンクリートに埋設した構造としなくてもよく、疑似コンクリート埋設構造物を試験構造物TMとしてもよい。疑似コンクリート埋設構造物とは、例えば、試験構造物TMとして、試験対象Qやその他の構造物(例えば交差鉄筋CR等)を所定の構造や形状となるように設置しただけのもの、つまり、試験対象Qやその他の構造物が露出した状態で設置された構造物や、試験対象Qやその他の構造物を所定の構造や形状となるように設置しこの試験対象Qやその他の構造物を覆う部材(例えば板状部材など)を設けた構造物等が該当する。試験対象Qやその他の構造物を覆う部材を設けた構造物の場合、試験対象Qやその他の構造物を覆う部材の表面が、試験対象Qをコンクリートに埋設した構造を有する試験構造物TMにおけるコンクリートの表面に相当する面になる。以下では、試験構造物TMにおけるコンクリートの表面や試験構造物における試験対象Qを覆う部材の表面を、試験構造物TMの表面CFという場合がある。
【0080】
なお、以下において試験構造物TMという場合には、試験対象Qやその他の構造物(例えば交差鉄筋CR等)をコンクリートに埋設した構造を有する構造物と、試験対象Qやその他の構造物を有する疑似コンクリート埋設構造物の両方を含んでいる。
【0081】
試験構造物TMから判断一次近似式を作成する方法は、上述したコンクリート構造物Cにおいて一次近似式を作成する方法と同様の方法で実施する。
【0082】
つまり、
図4に示すような縦筋R2と横筋R1とを有する交差鉄筋CRを有する試験構造物TMを形成し、試験対象Qの第一方向(
図4の左右方向、X軸方向)に沿って本実施形態の非破壊検査装置1を試験構造物TMの表面CF上を移動させて、x軸方向の磁束密度を測定する。すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と試験対象Qの第一方向の測定位置との関係を示す第一方向変動曲線を形成する(
図5(A)参照)。
【0083】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第一方向変動曲線を形成すると、この第一方向変動曲線を一階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの一階微分値と、一階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第一方向微分曲線を形成する(
図5(B)参照)。
【0084】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第一方向微分曲線を形成すると、極大値と極小値の差ΔdBxと極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxとを算出する(
図5(B)参照)。具体的には、各第一方向微分曲線について、第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、この極大値と極小値の差ΔdBxを算出する。また、各第一方向微分曲線について、極大値となる位置と極小値となる位置の差ΔdXxを算出する。
【0085】
そして、複数の磁気センサ6から試験対象Qまでの距離R(
図2参照)の逆3乗であるR
-3を算出する。そして、各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdBxと算出されたR
-3との関係を表す判断一次近似式を算出する(
図6(A)参照)。
【0086】
また、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の1/2乗であるR
1/2を算出する。そして、各磁気センサ6の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxと算出されたR
1/2との関係を表す判断一次近似式を算出する(
図6(B)参照)。
【0087】
このようにして算出された判断一次近似式近傍に、本実施形態の非破壊検査装置1の磁束密度の測定値から得られる差ΔdBxや差ΔdXxが分布する場合には、検査対象Pに破断が生じていると判断することができる。
【0088】
<診断マップMPを使用する方法>
試験構造物TMを用いて判断一次近似式を作成する場合には、試験構造物TMを用いて診断マップMPを形成することが望ましい(
図14(A)参照)。この診断マップMPにおいて試験対象Qに破断が生じている場合に差ΔdBxや差ΔdXxが分布する領域(破断領域BA)を設定すれば、実際のコンクリート構造物Cの磁束密度の測定値から得られる差ΔdBxや差ΔdXxが破断領域BAに位置するか否かによって、検査対象Pに破断が生じているか否かを判断することができる。
【0089】
診断マップMPは、Y軸方向における試験対象Qから磁気センサ6までの距離Ya(
図2参照)毎に作成し、試験構造物TMを使用して得られた差ΔdBxを第一軸、差ΔdXxを第二軸としたものとする。この診断マップMPに、磁気センサ6からZ軸方向における試験対象Qまでの距離Za(
図2参照)およびその他の構造物を変化させた試験構造物TMを使用して得られた結果をプロットする。つまり、試験対象Qに破断が生じている場合の差ΔdBxと差ΔdXxを診断マップMPにプロットして、破断領域BAを設定する(
図14(A)参照)。つまり、距離Yaの場合において、距離Zaに対応する破断領域BAを設定する。すると、距離Zaとなるコンクリート構造物Cにおいて本実施形態の非破壊検査装置1の距離Yaとなる磁気センサ6で測定された磁束密度に基づいて得られる差ΔdBxおよび差ΔdXxの組み合わせを、距離Yaの診断マップMPにプロットすれば、検査対象Pに破断が生じているか否かを判断することができる。つまり、診断マップMPの破断領域BAに差ΔdBxおよび差ΔdXxの組み合わせが位置すれば検査対象Pに破断が生じており、破断領域BAから差ΔdBxおよび差ΔdXxの組み合わせが外れていれば検査対象Pに破断が生じていないと判断することができる。
【0090】
例えば、
図14(A)に示すように、検査対象PがPC撚り線であり、距離Ya=100mmであり、距離Za=100、150mmであれば、診断マップMPにおいて、距離Za=100mmの場合の破断領域BA1は
図14(A)に示すようになり、距離Za=150mmの場合の破断領域BA2は
図14(A)に示すようになる。したがって、本実施形態の非破壊検査装置1によってコンクリート構造物Cの磁束密度を測定する場合において、距離Ya=100mm、距離Za=100mmの場合であれば、差ΔdBxおよび差ΔdXxの組み合わせが破断領域BA1に入れば破断が生じていると判断できる。また、距離Ya=100mm、距離Za=150mmの場合であれば、差ΔdBxおよび差ΔdXxの組み合わせが破断領域BA2に入れば破断が生じていると判断できる。
【0091】
<特定の磁気センサ6の測定値を使用する方法>
検査対象Pの破断を判断する際に、複数の磁気センサ6によって測定した磁束密度から得られる差ΔdXxのうち、一定以上の差ΔdXxが一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断してもよい。例えば、検査対象Pから特定の位置関係にある磁気センサ6の測定値から得られる差ΔdXxだけを用いて検査対象Pに破断が生じているか否かを判断してもよい。
【0092】
この場合、診断マップMPの破断領域を絞り込めるという点で好ましい。とくに、試験構造物TMを用いて判断一次近似式を作成している場合には、検査対象Pから特定の位置関係にある磁気センサ6を設けるだけでも破断の判断をすることができる。すると、本実施形態の非破壊検査装置1が備える磁気センサ6の数を少なくできるので、本実施形態の非破壊検査装置1の構成を簡素化できるし、測定後のデータ処理も早くなる。
【0093】
上記のようにできる理由は、以下のとおりである。
【0094】
コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合では、その条件によって一次近似式の傾きが異なり、R
1/2が同じでも差ΔdXxが異なる値になる(
図7参照)。また、検査対象Pの種類が異なっても、一次近似式の傾きが異なり、R
1/2が同じでも差ΔdXxが異なる値になる(
図7参照)。このため、検査対象Pの破断を検出する精度を高くするためには、複数の磁気センサ6で測定された磁束密度を用いて得られる複数の差ΔdXxを用いて、複数の差ΔdXxが一次近似式を満たすか否かを判断することが望ましい。
【0095】
しかし、Y軸方向における検査対象Pから磁気センサ6までの距離Ya(
図2参照)とZ軸方向における検査対象Pまでの距離Za(
図2参照)との関係を示すYa/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる差ΔdXxは、検査対象Pの種類が同じであれば、交差鉄筋の有無や交差鉄筋の種類によらず、ほぼ同じ値になる。したがって、検査対象Pの種類ごとに判断一次近似式を作成しておき、Ya/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6を設け、その位置で磁束密度を測定すれば、検査対象Pの破断を検出する精度を維持しつつ、本実施形態の非破壊検査装置1の構成を簡素化できる。
【0096】
例えば、
図7(A)に示すように、検査対象PがPC撚り線の場合であれば、距離Zaが100mmであれば、距離Yaが100mmとなる位置の磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる差ΔdXxが試験構造物TMを用いて得られる判断一次近似式を満たせば、検査対象Pが破断していると判断することができる。
【0097】
同様に、
図7(B)に示すように、検査対象PがPC鋼棒の場合でも、距離Zaが100mmであれば、距離Yaが100mmとなる位置の磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる差ΔdXxが試験構造物TMを用いて得られる判断一次近似式を満たせば、検査対象Pが破断していると判断することができる。
【0098】
なお、判断一次近似式を作成していない場合、つまり、複数の磁気センサ6によってコンクリート構造物Cの磁束密度を測定して一次近似式を作成する場合でも同様に判断できる。つまり、コンクリート構造物Cの磁束密度を測定して作成した一次近似式について、Ya/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6で測定した磁束密度から得られる差ΔdXxだけを使用し、この差ΔdXxが一次近似式を満たすか否かによって検査対象Pが破断しているか否かを判断してもよい。
【0099】
<検査対象Pの破断GAのギャップGapを推定する方法>
検査対象P以外の埋設鉄筋が無い場合には、検査対象Pの破断GAのギャップGapを推定することも可能である。
【0100】
まず、コンクリート構造物Cの検査対象Pの第一方向に沿ってx軸方向の磁束密度を測定すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と第一方向の測定位置との関係を示す第一方向変動曲線を形成する(
図5(A)参照)。
【0101】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第一方向変動曲線を形成すると、この第一方向変動曲線を一階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの一階微分値と、一階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第一方向微分曲線をそれぞれ形成し、極大値の位置と極小値の位置の差ΔdXxを算出する。具体的には、各第一方向微分曲線について、各第一方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、極大値となる位置と極小値となる位置の差ΔdXxを算出する。
【0102】
そして、位置の差Yの位置における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離を距離R(Y)とし、距離Rの1/2乗であるR
1/2と各測定位置の第一方向微分曲線から算出される差ΔdXxとの関係を表す一次近似式により推定した値を値ΔdXx(Y)とする。そして、ΔdXx(Y)/ΔdXx(0)と(R(Y)/R(0))
1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成する。すると、Z軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離ZaがGap≧Zaの場合には、一次近似式の傾きに基づいて検査対象Pの破断GAの破断ギャップGapを推定することができる(
図15参照)。
【0103】
なお、位置の差Yとは、Y軸方向における検査対象Pから各磁気センサ6までの距離であって、Y軸方向における正負を含む値である。以下、本明細書における位置の差Yとは、この値を意味する。
【0104】
また、R(0)は、移動体2の中心線B上、つまり、基準面SAと交差する位置に設けられた磁気センサ6(
図1(B)ではY03の磁気センサ)のZ軸方向における検査対象Pまでの距離を意味している。つまり、複数の磁気センサ6について、磁気センサ6からZ軸方向における検査対象Pまでの距離Zaが同じであれば、実質的に、R(0)は距離Zaと同じになる。以下、本明細書におけるR(0)とは、この値を意味する。
【0105】
また、一次近似式の傾きと検査対象Pの破断GAの破断ギャップGapとの関係は、試験構造物TMにおいてZ軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離Zaおよび破断ギャップGapを変更してあらかじめ求めておけばよい。
【0106】
<Y軸方向>
上記例では、検査対象Pの破断を磁束密度の第一方向に沿ったx軸方向の磁束密度の変動に基づいて判断する場合を説明したが、検査対象Pの破断は、磁束密度の第一方向に沿ったy軸方向の磁束密度の変動に基づいて以下のような方法で判断してもよい。
【0107】
まず、コンクリート構造物Cの検査対象Pの第一方向(X軸方向)に沿ってy軸方向の磁束密度を測定すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と第一方向の測定位置との関係を示す第二方向変動曲線を形成する(
図8(A)参照)。
【0108】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第二方向変動曲線を形成すると、この第二方向変動曲線を二階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの二階微分値と、二階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第二方向微分曲線を形成する(
図8(B)参照)。
【0109】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第二方向微分曲線を形成すると、各磁気センサ6の第二方向微分曲線について、極大値と極小値の差Δd2Byと極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyとを算出する(
図8(B)参照)。具体的には、各第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、この極大値と極小値の差Δd2Byを算出する。また、極大値となる位置と極小値となる位置の差Δd2Xyを算出する。
【0110】
極大値と極小値の差Δd2Byと極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyとを算出すると、以下の方法で破断の有無を推定する。
【0111】
<差Δd2Byを使用する例>
まず、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の逆3乗であるR
-3を算出する。また、検査対象Pから各磁気センサ6までのY軸方向の位置の差YとZ軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離Zaから、補正係数β=(Y/Za)・SIGN(Δd2Xy)を算出する。そして、各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Byを補正係数βで除した値Δd2By/βと算出されたR
-3との関係を表す一次近似式を算出する(
図9(A)参照)。
【0112】
なお、SIGN(A)はAの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする。例えば、
図8(B)において、磁気センサ6がY00~Y02の場合は差Δd2Xyは負の数になるのでSIGN(Δd2Xy)は「-1」となり、磁気センサ6がY03~Y07の場合は差Δd2Xyは正の数または0になるのでSIGN(Δd2Xy)は「+1」となる。
【0113】
なお、位置の差Yとは、Y軸方向における検査対象Pから各磁気センサ6までの距離であって、Y軸方向における正負を含む値である。例えば、
図1において、磁気センサ6がY00~Y02の場合、Yは負の値になり、磁気センサ6がY04~Y07の場合、Yは正の値になる。また、磁気センサ6がY03の場合、Y=0となる。したがって、Y03の磁気センサ6が測定した磁束密度からは値Δd2By/βが算出できないので、データから除外することとする。
【0114】
一次近似式を算出すると、各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される値Δd2By/βが一次近似式を満たすか否かを判断する。例えば、値Δd2By/βを第一軸としR
-3を第二軸とするグラフ上に各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される値Δd2By/βをプロットし、プロットした点が一次近似式を満たすか否かを判断する(
図9(A)参照)。
【0115】
そして、プロットした点が一次近似式近傍に分布する場合、つまり値Δd2By/βとR-3との関係が一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断する。
【0116】
なお、値Δd2By/βとR-3との関係が一次近似式を満たす場合とは、R-3が同じ場合において、そのR-3における一次近似式の値と値Δd2By/βとの相対誤差が±30%以内の場合を意味している。
相対誤差=[{(実測値)/(一次近似式の値)}-1]×100%
【0117】
なお、差Δd2Byではなく、値Δd2By/βを使用する理由は差Δd2Byが破断箇所直上(Y03の位置、Y=0)で不連続的に変化するが、検査対象Pの破断に起因する差Δd2Byと差Δd2Bzの幾何学的関係、つまり、Δd2By/Δd2Bz=(Y/Za)・SIGN(Δd2Xy)=βにより補正すれば、後述するz軸方向の磁束密度の変動から得られる差Δd2Bzと同様に扱えるからである。
【0118】
<差Δd2Xyを使用する例>
上記例では、値Δd2By/βを使用して検査対象Pの破断を判断する場合を説明したが、差Δd2Xyを使用して検査対象Pの破断の判断を行ってもよい。
【0119】
この場合、まず、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の1/2乗であるR
1/2を算出する。そして、各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される差Δd2Xyの正負の符号を、検査対象Pから各磁気センサ6までのY軸方向の位置の差Yの正負の符号で補正した値Δd2Xy・αと、算出されたR
1/2との関係を表す一次近似式を算出する(
図9(B)参照)。一次近似式を算出すると、各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・αが一次近似式を満たすか否かを判断する。例えば、値Δd2Xy・αを第一軸としR
1/2を第二軸とするグラフ上に各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・αをプロットし、プロットした点が一次近似式を満たすか否かを判断する(
図9(B)参照)。
【0120】
なお、αは、α=SIGN(Y)とする。
SIGN(A)はAの正負の符号により、Aが正の数または0の場合「+1」、Aが負の数の場合「-1」の値とする。例えば、
図1において、磁気センサ6がY00~Y02の場合、Yは負の数になるのでα=SIGN(Y)は「-1」となり、磁気センサ6がY03~Y07の場合,Yは正の数または0になるのでα=SIGN(Y)は「+1」となる。
【0121】
そして、プロットした点が一次近似式を満たす場合、つまり値Δd2Xy・αとR1/2との関係が一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断する。
【0122】
なお、値Δd2Xy・αとR1/2との関係が一次近似式を満たす場合とは、R1/2が同じ場合において、そのR1/2における一次近似式の値と値Δd2Xy・αとの相対誤差が±30%以内の場合を意味している。
相対誤差=[{(実測値)/(一次近似式の値)}-1]×100%
【0123】
<試験構造物TMの一次近似式を使用する例>
上述した方法では、本実施形態の非破壊検査装置1が備える複数の磁気センサ6によって検査するコンクリート構造物Cの磁束密度を測定した場合に、測定された磁束密度を利用して、一次近似式を算出するようにした。しかし、磁束密度の第一方向に沿ったy軸方向の磁束密度の変動に基づいて検査対象Pの破断を判断する方法と同様に、本実施形態の非破壊検査装置1によって検査するコンクリート構造物Cを模した試験構造物TMの磁束密度を測定し、この磁束密度に基づいて一次近似式(判断一次近似式)を予め算出しておいてもよい。そして、コンクリート構造物Cの検査対象Pにおいて各磁気センサ6が測定した各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される値Δd2By/βや値Δd2Xy・αが、判断一次近似式を満たすか否かによって、破断を判断してもよい。
【0124】
試験構造物TMから判断一次近似式を作成する方法は、上述したコンクリート構造物Cにおいて一次近似式を作成する方法と同様の方法で実施する。
【0125】
つまり、
図4に示すような縦筋R2と横筋R1とを有する交差鉄筋CRを有する試験構造物TMを形成し、試験対象Qの第一方向(
図4の左右方向、X軸方向)に沿って本実施形態の非破壊検査装置1を試験構造物TMの表面CF上を移動させて、y軸方向の磁束密度を測定する。すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と試験対象Qの第一方向の測定位置との関係を示す第二方向変動曲線を形成する(
図8(A)参照)。
【0126】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第二方向変動曲線を形成すると、この第二方向変動曲線を二階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの二階微分値と、二階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第二方向微分曲線を形成する(
図8(B)参照)。
【0127】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第二方向微分曲線を形成すると、極大値と極小値の差Δd2Byと極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyとを算出する(
図8(B)参照)。具体的には、各第二方向微分曲線について、第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、この極大値と極小値の差Δd2Byを補正係数β1で除した値Δd2By/β1を算出する。また、極大値となる位置と極小値となる位置の差Δd2Xyを算出し、差Δd2Xyの正負の符号を補正した値Δd2Xy・α1を算出する。
【0128】
そして、複数の磁気センサ6から試験対象Qまでの距離R(
図2参照)の逆3乗であるR
-3を算出する。そして、各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される値Δd2By/β1と算出されたR
-3との関係を表す判断一次近似式を算出する(
図9(A)参照)。
【0129】
また、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の1/2乗であるR
1/2を算出する。そして、各磁気センサ6の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・α1と算出されたR
1/2との関係を表す判断一次近似式を算出する(
図9(B)参照)。
【0130】
このようにして算出された判断一次近似式近傍に、本実施形態の非破壊検査装置1の磁束密度の測定値から得られる値Δd2By/βや値Δd2Xy・αが分布する場合には、検査対象Pに破断が生じていると判断することができる。
【0131】
なお、試験構造物TMでは、補正係数β1=(Y1/Za)・SIGN(Δd2Xy)となりα1=SIGN(Y1)となる。また、位置の差Y1は、試験構造物TMのY軸方向における試験対象Qから各磁気センサ6までの距離であって、Y軸方向における正負を含む値である。
【0132】
<診断マップMPを使用する方法>
試験構造物TMを用いて判断一次近似式を作成する場合には、試験構造物TMを用いて診断マップMPを形成することが望ましい(
図14(B)参照)。この診断マップMPにおいて試験対象Qに破断が生じている場合に値Δd2By/β1や値Δd2Xy・α1が分布する領域(破断領域BA)を設定すれば、実際のコンクリート構造物Cの磁束密度の測定値から得られる値Δd2By/βや値Δd2Xy・αが破断領域BAに位置するか否かによって、検査対象Pに破断が生じているか否かを判断することができる。
【0133】
診断マップMPは、Y軸方向における試験対象Qから磁気センサ6までの距離Ya(
図2参照)毎に作成し、試験構造物TMを使用して得られた値Δd2By/β1を第一軸、値Δd2Xy・α1を第二軸としたものとする。この診断マップMPに、磁気センサ6からZ軸方向における試験対象Qまでの距離Za(
図2参照)およびその他の構造物を変化させた試験構造物TMを使用して得られた結果をプロットする。つまり、試験対象Qに破断が生じている場合の値Δd2By/β1と値Δd2Xy・α1を診断マップMPにプロットして、破断領域BAを設定する(
図14(B)参照)。つまり、距離Yaの場合において、および距離Zaに対応する破断領域BAを設定する。すると、距離Zaとなるコンクリート構造物Cにおいて本実施形態の非破壊検査装置1で測定された磁束密度に基づいて得られる値Δd2By/βおよび値Δd2Xy・αの組み合わせを、距離Yaの診断マップMPにプロットすれば、検査対象Pに破断が生じているか否かを判断することができる。つまり、診断マップMPの破断領域BAに値Δd2By/βおよび値Δd2Xy・αの組み合わせが位置すれば検査対象Pに破断が生じており、破断領域BAから値Δd2By/βおよび値Δd2Xy・αの組み合わせが外れていれば検査対象Pに破断が生じていないと判断することができる。
【0134】
例えば、
図14(B)に示すように、検査対象PがPC撚り線であり、距離Ya=100mmであり、距離Za=100、150mmであれば、診断マップMPにおいて、距離Za=100mmの場合の破断領域BA1は
図14(B)に示すようになり、距離Za=150mmの場合の破断領域BA2は
図14(B)に示すようになる。したがって、本実施形態の非破壊検査装置1によってコンクリート構造物Cの磁束密度を測定する場合において、距離Ya=100mm、距離Za=100mmの場合であれば、値Δd2By/βおよび値Δd2Xy・αの組み合わせが破断領域BA1に入れば破断が生じていると判断できる。また、距離Ya=100mm、距離Za=150mmの場合であれば、値Δd2By/βおよび値Δd2Xy・αの組み合わせが破断領域BA2に入れば破断が生じていると判断できる。
【0135】
<特定の磁気センサ6の測定値を使用する方法>
検査対象Pの破断を判断する際に、複数の磁気センサ6によって測定した磁束密度から得られる値Δd2Xy・αのうち、一定以上の値Δd2Xy・αが一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断してもよい。例えば、検査対象Pから特定の位置関係にある磁気センサ6の測定値から得られる値Δd2Xy・αだけを用いて検査対象Pに破断が生じているか否かを判断してもよい。
【0136】
この場合、診断マップMPの破断領域を絞り込めるという点で好ましい。とくに、試験構造物TMを用いて判断一次近似式を作成している場合には、検査対象Pから特定の位置関係にある磁気センサ6だけを設けるだけでも破断の判断をすることができる。すると、本実施形態の非破壊検査装置1が備える磁気センサ6の数を少なくできるので、本実施形態の非破壊検査装置1の構成を簡素化できるし、測定後のデータ処理も早くなる。
【0137】
上記のようにできる理由は、以下のとおりである。
【0138】
コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合では、その条件によって一次近似式の傾きが異なり、R
1/2が同じでも値Δd2Xy・αが異なる値になる(
図10参照)。また、検査対象Pの種類が異なっても、一次近似式の傾きが異なり、R
1/2が同じでも値Δd2Xy・αが異なる値になる(
図10参照)。このため、検査対象Pの破断を検出する精度を高くするためには、複数の磁気センサ6で測定された磁束密度を用いて得られる複数の値Δd2Xy・αを用いて、複数の値Δd2Xy・αが一次近似式を満たすか否かを判断することが望ましい。
【0139】
しかし、Y軸方向における検査対象Pから磁気センサ6までの距離Ya(
図2参照)とZ軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離Za(
図2参照)との関係を示すYa/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる値Δd2Xy・αは、検査対象Pの種類が同じであれば、交差鉄筋の有無や交差鉄筋の種類によらず、ほぼ同じ値になる。したがって、検査対象Pの種類ごとに判断一次近似式を作成しておき、Ya/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6を設け、その位置で磁束密度を測定すれば、検査対象Pの破断を検出する精度を維持しつつ、本実施形態の非破壊検査装置1の構成を簡素化できる。
【0140】
例えば、
図10(A)に示すように、検査対象PがPC撚り線の場合であれば、距離Zaが100mmであれば、距離Yaが100mmとなる位置の磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる値Δd2Xy・αが試験構造物TMを用いて得られる判断一次近似式を満たせば、検査対象Pが破断していると判断することができる。
【0141】
同様に、
図10(B)に示すように、検査対象PがPC鋼棒の場合でも、距離Zaが100mmであれば、距離Yaが100mmとなる位置の磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる値Δd2Xy・αが試験構造物TMを用いて得られる判断一次近似式を満たせば、検査対象Pが破断していると判断することができる。
【0142】
なお、判断一次近似式を作成していない場合、つまり、複数の磁気センサ6によってコンクリート構造物Cの磁束密度を測定して一次近似式を作成する場合でも同様に判断できる。つまり、コンクリート構造物Cの磁束密度を測定して作成した一次近似式について、Ya/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6で測定した磁束密度から得られる値Δd2Xy・αだけを使用し、この値Δd2Xy・αが一次近似式を満たすか否かによって検査対象Pが破断しているか否かを判断してもよい。
【0143】
<検査対象Pの破断GAのギャップGapを推定する方法>
検査対象P以外の埋設鉄筋が無い場合には、検査対象Pの破断GAのギャップGapを推定することも可能である。
【0144】
まず、コンクリート構造物Cの検査対象Pの第一方向に沿ってy軸方向の磁束密度を測定すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と第一方向の測定位置との関係を示す第二方向変動曲線を形成する(
図8(A)参照)。
【0145】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第二方向変動曲線を形成すると、この第二方向変動曲線を二階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの二階微分値と、二階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第二方向微分曲線をそれぞれ形成し、極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xyを算出する。具体的には、各第二方向微分曲線について、各第二方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、極大値となる位置と極小値となる位置の値Δd2Xy・αを算出する。
【0146】
そして、位置の差Yの位置における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離を距離R(Y)とし、距離Rの1/2乗であるR
1/2と各測定位置の第二方向微分曲線から算出される値Δd2Xy・αとの関係を表す一次近似式により推定した値を値Δd2Xy(Y)・α(Y)とする。そして、(Δd2Xy(Y)・α(Y))/(Δd2Xy(0)・α(0))と(R(Y)/R(0))
1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成する。すると、Z軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離ZaがGap≧Zaの場合には、相対値一次近似式の傾きに基づいて検査対象Pの破断GAの破断ギャップGapを推定することができる(
図15参照)。
【0147】
なお、一次近似式の傾きと検査対象Pの破断GAの破断ギャップGapとの関係は、試験構造物TMにおいてZ軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離Zaおよび破断ギャップGapを変更してあらかじめ求めておけばよい。
【0148】
<Z軸方向>
上記例では、検査対象Pの破断を磁束密度の第一方向に沿ったx軸方向およびy軸方向の磁束密度の変動に基づいて判断する場合を説明したが、検査対象Pの破断は、磁束密度の第一方向に沿ったz軸方向の磁束密度の変動に基づいて以下のような方法で判断してもよい。
【0149】
まず、コンクリート構造物Cの検査対象Pの第一方向(X軸方向)に沿ってz軸方向の磁束密度を測定すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と第一方向の測定位置との関係を示す第三方向変動曲線を形成する(
図11(A)参照)。
【0150】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第三方向変動曲線を形成すると、この第三方向変動曲線を二階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの二階微分値と、二階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第三方向微分曲線を形成する(
図11(B)参照)。
【0151】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第三方向微分曲線を形成すると、各磁気センサ6の第三方向微分曲線について、極大値と極小値の差Δd2Bzと極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzとを算出する(
図11(B)参照)。具体的には、各第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、この極大値と極小値の差Δd2Bzを算出する。また、極大値となる位置と極小値となる位置の差Δd2Xzを算出する。
【0152】
極大値と極小値の差Δd2Bzと極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzとを算出すると、以下の方法で破断の有無を推定する。
【0153】
<差Δd2Bzを使用する例>
まず、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の逆3乗であるR
-3を算出する。そして、各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzと算出されたR
-3との関係を表す一次近似式を算出する(
図12(A)参照)。一次近似式を算出すると、各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzが一次近似式を満たすか否かを判断する。例えば、差Δd2Bzを第一軸としR
-3を第二軸とするグラフ上に各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzをプロットし、プロットした点が一次近似式を満たすか否かを判断する(
図12(A)参照)。
【0154】
そして、プロットした点が一次近似式を満たす場合、つまり差Δd2BzとR-3との関係が一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断する。
【0155】
なお、差Δd2BzとR-3との関係が一次近似式を満たす場合とは、R-3が同じ場合において、そのR-3における一次近似式の値と差Δd2Bzとの相対誤差が±30%以内の場合を意味している。
相対誤差=[{(実測値)/(一次近似式の値)}-1]×100%
【0156】
<差Δd2Xzを使用する例>
上記例では、差Δd2Bzを使用して検査対象Pの破断を判断する場合を説明したが、差Δd2Xzを使用して検査対象Pの破断の判断を行ってもよい。
【0157】
この場合、まず、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の1/2乗であるR
1/2を算出する。そして、各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzと算出されたR
1/2との関係を表す一次近似式を算出する(
図12(B)参照)。一次近似式を算出すると、各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzが一次近似式を満たすか否かを判断する。例えば、差Δd2Xzを第一軸としR
1/2を第二軸とするグラフ上に各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzをプロットし、プロットした点が一次近似式を満たすか否かを判断する(
図12(B)参照)。
【0158】
そして、プロットした点が一次近似式近傍に分布する場合、つまり差Δd2XzとR1/2との関係が一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断する。
【0159】
なお、差Δd2XzとR1/2との関係が一次近似式を満たす場合とは、R1/2が同じ場合において、そのR1/2における一次近似式の値と差Δd2Xzとの相対誤差が±30%以内の場合を意味している。
相対誤差=[{(実測値)/(一次近似式の値)}-1]×100%
【0160】
<試験構造物TMの一次近似式を使用する例>
上述した方法では、本実施形態の非破壊検査装置1が備える複数の磁気センサ6によって検査するコンクリート構造物Cの磁束密度を測定した場合に、測定された磁束密度を利用して、一次近似式を算出するようにした。しかし、磁束密度の第一方向に沿ったz軸方向の磁束密度の変動に基づいて検査対象Pの破断を判断する方法と同様に、本実施形態の非破壊検査装置1によって検査するコンクリート構造物Cを模した試験構造物TMの磁束密度を測定し、この磁束密度に基づいて一次近似式(判断一次近似式)を予め算出しておいてもよい。そして、各磁気センサ6が測定した各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzや差Δd2Xzが、判断一次近似式を満たすか否かによって、破断を判断してもよい。
【0161】
試験構造物TMから判断一次近似式を作成する方法は、上述したコンクリート構造物Cにおいて一次近似式を作成する方法と同様の方法で実施する。
【0162】
つまり、
図4に示すような縦筋R2と横筋R1とを有する交差鉄筋CRを有する試験構造物TMを形成し、試験対象Qの第一方向に沿って本実施形態の非破壊検査装置1を試験構造物TMの表面CF上を移動させて、z軸方向の磁束密度を測定する。すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と試験対象Qの第一方向の測定位置との関係を示す第三方向変動曲線を形成する(
図11(A)参照)。
【0163】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第三方向変動曲線を形成すると、この第三方向変動曲線を二階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの二階微分値と、二階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第三方向微分曲線を形成する(
図11(B)参照)。
【0164】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第三方向微分曲線を形成すると、極大値と極小値の差Δd2Bzと極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzとを算出する(
図11(B)参照)。具体的には、各第三方向微分曲線について、第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、この極大値と極小値の差Δd2Bzを算出する。また、各第三方向微分曲線について、極大値となる位置と極小値となる位置の差Δd2Xzを算出する。
【0165】
そして、複数の磁気センサ6から試験対象Qまでの距離R(
図2参照)の逆3乗であるR
-3を算出する。そして、各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Bzと算出されたR
-3との関係を表す判断一次近似式を算出する(
図12(A)参照)。
【0166】
また、複数の磁気センサ6から検査対象Pまでの距離R(
図2参照)の1/2乗であるR
1/2を算出する。そして、各磁気センサ6の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzと算出されたR
1/2との関係を表す判断一次近似式を算出する(
図12(B)参照)。
【0167】
このようにして算出された判断一次近似式上に、本実施形態の非破壊検査装置1の磁束密度の測定値から得られる差Δd2Bzや差Δd2Xzが分布する場合には、検査対象Pに破断が生じていると判断することができる。
【0168】
<診断マップMPを使用する方法>
試験構造物TMを用いて判断一次近似式を作成する場合には、試験構造物TMを用いて診断マップMPを形成することが望ましい(
図14(C)参照)。この診断マップMPにおいて試験対象Qに破断が生じている場合に差Δd2Bzや差Δd2Xzが分布する領域(破断領域BA)を設定すれば、実際のコンクリート構造物Cの磁束密度の測定値から得られる差Δd2Bzや差Δd2Xzが破断領域BAに位置するか否かによって、検査対象Pに破断が生じているか否かを判断することができる。
【0169】
診断マップMPは、Y軸方向における試験対象Qから磁気センサ6までの距離Ya(
図2参照)毎に作成し、試験構造物TMを使用して得られた差Δd2Bzを第一軸、差Δd2Xzを第二軸としたものとする。この診断マップMPに、磁気センサ6からZ軸方向における試験対象Qまでの距離Za(
図2参照)およびその他の構造物を変化させた試験構造物TMを使用して得られた結果をプロットする。つまり、試験対象Qに破断が生じている場合の差Δd2Bzと差Δd2Xzを診断マップMPにプロットして、破断領域BAを設定する(
図14(C)参照)。つまり、距離Yaの場合において、距離Zaに対応する破断領域BAを設定する。すると、距離Zaとなるコンクリート構造物Cにおいて本実施形態の非破壊検査装置1の距離Yaとなる磁気センサ6で測定された磁束密度に基づいて得られる差Δd2Bzおよび差Δd2Xzの組み合わせを、距離Yaの診断マップMPにプロットすれば、検査対象Pに破断が生じているか否かを判断することができる。つまり、診断マップMPの破断領域BAに差Δd2Bzおよび差Δd2Xzの組み合わせが位置すれば検査対象Pに破断が生じており、破断領域BAから差Δd2Bzおよび差Δd2Xzの組み合わせが外れていれば検査対象Pに破断が生じていないと判断することができる。
【0170】
例えば、
図14(C)に示すように、検査対象PがPC撚り線であり、距離Ya=100mmであり、距離Za=100、150mmであれば、診断マップMPにおいて、距離Za=100mmの場合の破断領域BA1は
図14(C)に示すようになり、距離Za=150mmの場合の破断領域BA2は
図14(C)に示すようになる。したがって、本実施形態の非破壊検査装置1によってコンクリート構造物Cの磁束密度を測定する場合において、距離Ya=100mm、距離Za=100mmの場合であれば、差Δd2Bzおよび差Δd2Xzの組み合わせが破断領域BA1に入れば破断が生じていると判断できる。また、距離Ya=100mm、距離Za=150mmの場合であれば、差Δd2Bzおよび差Δd2Xzの組み合わせが破断領域BA2に入れば破断が生じていると判断できる。
【0171】
<特定の磁気センサ6の測定値を使用する方法>
検査対象Pの破断を判断する際に、複数の磁気センサ6によって測定した磁束密度から得られる差Δd2Xzのうち、一定以上の差Δd2Xzが一次近似式を満たす場合に、検査対象Pに破断が生じていると判断してもよい。例えば、検査対象Pから特定の位置関係にある磁気センサ6の測定値から得られる差Δd2Xzだけを用いて検査対象Pに破断が生じているか否かを判断してもよい。
【0172】
この場合、診断マップMPの破断領域を絞り込めるという点で好ましい。とくに、試験構造物TMを用いて判断一次近似式を作成している場合には、検査対象Pから特定の位置関係にある磁気センサ6だけを設けるだけでも破断の判断をすることができる。すると、本実施形態の非破壊検査装置1が備える磁気センサ6の数を少なくできるので、本実施形態の非破壊検査装置1の構成を簡素化できるし、測定後のデータ処理も早くなる。
【0173】
上記のようにできる理由は、以下のとおりである。
【0174】
コンクリート構造物Cに横筋や縦筋等の交差鉄筋が存在する場合や交差鉄筋が無い場合では、その条件によって一次近似式の傾きが異なり、R
1/2が同じでも差Δd2Xzが異なる値になる(
図13参照)。また、検査対象Pの種類が異なっても、一次近似式の傾きが異なり、R
1/2が同じでも差Δd2Xzが異なる値になる(
図13参照)。このため、検査対象Pの破断を検出する精度を高くするためには、複数の磁気センサ6で測定された磁束密度を用いて得られる複数の差Δd2Xzを用いて、複数の差Δd2Xzが一次近似式を満たすか否かを判断することが望ましい。
【0175】
しかし、Y軸方向における検査対象Pから磁気センサ6までの距離Ya(
図2参照)とZ軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離Za(
図2参照)との関係を示すYa/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる差Δd2Xzは、検査対象Pの種類が同じであれば、交差鉄筋の有無や交差鉄筋の種類によらず、ほぼ同じ値になる。したがって、検査対象Pの種類ごとに判断一次近似式を作成しておき、Ya/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6を設け、その位置で磁束密度を測定すれば、検査対象Pの破断を検出する精度を維持しつつ、本実施形態の非破壊検査装置1の構成を簡素化できる。
【0176】
例えば、
図13(A)に示すように、検査対象PがPC撚り線の場合であれば、距離Zaが100mmであれば、距離Yaが100mmとなる位置の磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる差Δd2Xzが試験構造物TMを用いて得られる判断一次近似式を満たせば、検査対象Pが破断していると判断することができる。
【0177】
同様に、
図13(B)に示すように、検査対象PがPC鋼棒の場合でも、距離Zaが100mmであれば、距離Yaが50mmとなる位置の磁気センサ6で測定した磁束密度の変動から得られる差Δd2Xzが試験構造物TMを用いて得られる判断一次近似式を満たせば、検査対象Pが破断していると判断することができる。
【0178】
なお、判断一次近似式を作成していない場合、つまり、複数の磁気センサ6によってコンクリート構造物Cの磁束密度を測定して一次近似式を作成する場合でも同様に判断できる。つまり、コンクリート構造物Cの磁束密度を測定して作成した一次近似式について、Ya/Zaが0.5~1.0となる磁気センサ6で測定した磁束密度から得られる差Δd2Xzだけを使用し、この差Δd2Xzが一次近似式を満たすか否かによって検査対象Pが破断しているか否かを判断してもよい。
【0179】
<検査対象Pの破断GAのギャップGapを推定する方法>
検査対象P以外の埋設鉄筋が無い場合には、検査対象Pの破断GAのギャップGapを推定することも可能である。
【0180】
まず、コンクリート構造物Cの検査対象Pの第一方向に沿ってz軸方向の磁束密度を測定すると、複数の磁気センサ6のそれぞれの測定値と第一方向の測定位置との関係を示す第三方向変動曲線を形成する(
図11(A)参照)。
【0181】
複数の磁気センサ6についてそれぞれ第三方向変動曲線を形成すると、この第三方向変動曲線を二階微分する。そして、複数の磁気センサ6のそれぞれの二階微分値と、二階微分値に対応する第一方向の測定位置との関係を示す第三方向微分曲線をそれぞれ形成し、極大値の位置と極小値の位置の差Δd2Xzを算出する。具体的には、各第三方向微分曲線ついて、各第三方向微分曲線が0となる位置を挟む極大値と極小値を算出し、極大値となる位置と極小値となる位置の差Δd2Xzを算出する。
【0182】
そして、位置の差Yの位置における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離を距離R(Y)とし、距離Rの1/2乗であるR
1/2と各測定位置の第三方向微分曲線から算出される差Δd2Xzとの関係を表す一次近似式により推定した差を差Δd2Xz(Y)とする。そして、Δd2Xz(Y)/Δd2Xz(0)と(R(Y)/R(0))
1/2との関係を表す相対値一次近似式を作成する。Z軸方向における磁気センサ6から検査対象Pまでの距離ZaがGap≧Zaの場合には、一次近似式の傾きに基づいて検査対象Pの破断GAの破断ギャップGapを推定することができる(
図15参照)。
【0183】
なお、一次近似式の傾きと検査対象Pの破断GAの破断ギャップGapとの関係は、試験構造物TMにおいてZ軸方向における磁気センサから検査対象Pまでの距離Zaおよび破断ギャップGapを変更してあらかじめ求めておけばよい。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の非破壊検査方法は、コンクリート構造物内に設けられている鉄筋や鋼棒、鋼線等の破断を検出する方法として適している。
【符号の説明】
【0185】
1 非破壊検査装置
2 移動体
5 磁束測定部
6 磁気センサ
A 第二測定方向
B 移動体2の中心軸
SA 基準面
C コンクリート構造物
CF コンクリート構造物Cの表面
CR 交差鉄筋
P 検査対象
TM 試験構造物
Q 試験対象
R1 交差鉄筋(横筋)
R2 交差鉄筋(縦筋)
GA 破断
Gap 破断ギャップ