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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018436
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 13/74 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
B60T13/74 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122571
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堀 哲生
(72)【発明者】
【氏名】粟根 成
(72)【発明者】
【氏名】三輪 正一
【テーマコード(参考)】
3D048
【Fターム(参考)】
3D048BB02
3D048BB59
3D048CC41
3D048HH18
3D048QQ07
3D048RR11
3D048RR35
(57)【要約】
【課題】失陥時に入力部材を初期状態の位置に早期に復帰させることができるとともに、失陥時のブレーキ操作を行い易くする。
【解決手段】ブレーキ操作子に接続された入力部材40と、電力の供給によって駆動力を発生する電動アクチュエータと、を備えている。また、電動アクチュエータの駆動力をマスタシリンダに出力する出力部材60と、入力部材40への入力により出力部材60側に移動して入力部材40への入力を出力部材60に伝達する伝達部材50とを備えている。さらに、出力部材60側に移動した伝達部材50を初期位置に押し戻すコイルばね3を備えている。コイルばね3は、第一コイルばね3aと、第一コイルばね3aの最大径よりも大きな最大径を有する第二コイルばね3bと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダへの出力を制御するブレーキ制御装置であって、
ブレーキ操作子に接続された入力部材と、
電力の供給によって駆動力を発生する電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの駆動力を前記マスタシリンダに出力する出力部材と、
前記入力部材への入力により前記出力部材側に移動して前記入力部材への入力を前記出力部材に伝達する伝達部材と、
前記出力部材側に移動した前記伝達部材を初期位置に押し戻すコイルばねと、を備え、
前記コイルばねは、第一コイルばねと、前記第一コイルばねの最大径よりも大きな最大径を有する第二コイルばねと、を有することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記第一コイルばねおよび前記第二コイルばねのうち、一方のコイルばねは、前記電動アクチュエータの駆動力を受ける側に配置されており、他方のコイルばねは、前記入力部材からの入力を受ける側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載にブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記第二コイルばねのばね定数は、前記第一コイルばねのばね定数よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記第一コイルばねの外側に前記第二コイルばねが配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記第一コイルばねおよび前記第二コイルばねは同軸に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
ブレーキ制御の途中でシステムオフされた場合には、
前記第一コイルばねおよび前記第二コイルばねが、前記伝達部材を前記初期位置に押し戻すことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスタシリンダへの出力を制御する車両用のブレーキ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。ブレーキ制御装置は、ブレーキペダルの操作量に応じて電動モータを駆動させ、電動モータの駆動力をマスタシリンダに出力することでマスタシリンダへの出力を制御している。
【0003】
このブレーキ制御装置は、ブレーキペダルに接続された入力部材と、電力の供給によって駆動力を発生する電動モータと、を備えている。また、ブレーキ制御装置は、電動モータの駆動力をマスタシリンダに出力する出力部材と、この入力部材への入力を出力部材に伝達する伝達部材と、を備えている。また、ブレーキ制御装置は、出力部材側に移動した伝達部材を初期位置に押し戻すコイルばねを備えている。
【0004】
このブレーキ制御装置では、ブレーキペダルの踏み込みが解除されると、コイルばねの付勢力によって伝達部材が初期位置に戻される。これにより、入力部材が初期状態の位置に復帰する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-193637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のブレーキ制御装置では、車両のシステムが非作動状態(オフ状態)となる失陥時にも、コイルばねの付勢力によって伝達部材が初期位置に戻されることで入力部材が初期状態の位置に復帰する。この場合、入力部材が初期状態の位置に早期に復帰することが好ましく、コイルばねは、比較的大きな付勢力を備えることが望ましい。
しかしながら、コイルばねの付勢力を比較的大きなものに設定すると、失陥時のブレーキペダルの踏み込みに大きな踏力が必要となるとともにコイルばねが大きくなる。
【0007】
本発明は、失陥時に入力部材を初期状態の位置に早期に復帰させることができるとともに、失陥時のブレーキ操作が行い易く装置の小型化が可能なブレーキ制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために創案された本発明のブレーキ制御装置は、マスタシリンダへの出力を制御するブレーキ制御装置である。ブレーキ制御装置は、ブレーキ操作子に接続された入力部材と、電力の供給によって駆動力を発生する電動アクチュエータと、を備えている。また、ブレーキ制御装置は、前記電動アクチュエータの駆動力を前記マスタシリンダに出力する出力部材を備えている。また、ブレーキ制御装置は、前記入力部材への入力により前記出力部材側に移動して前記入力部材への入力を前記出力部材に伝達する伝達部材を備えている。さらに、ブレーキ制御装置は、前記出力部材側に移動した前記伝達部材を初期位置に押し戻すコイルばねを備えている。前記コイルばねは、第一コイルばねと、前記第一コイルばねの最大径よりも大きな最大径を有する第二コイルばねと、を有する。
【0009】
かかるブレーキ制御装置では、第一コイルばねおよび第二コイルばねの二つのばねの付勢力で伝達部材が初期位置に押し戻される。したがって、車両のシステムが非作動状態(システムオフ状態)となる失陥時に伝達部材を初期位置に早期に戻すことができる。つまり、必要な戻し荷重を発生することができ、入力部材を初期状態の位置に早期に復帰させることができる。
また、コイルばねを二本のばねで構成すると、一本あたりのコイルばねの大きさを小さくすることができるので、ブレーキ制御装置を小型化することができる。また、ブレーキ制御装置の小型化が可能となるので、コストが低減する。
【0010】
また、失陥時に第一コイルばねおよび第二コイルばねの一方のばねが入力部材の入力を受けるように構成することで、失陥時のブレーキ操作で受ける付勢力を低減することができる。したがって、失陥時のブレーキ操作が行い易くなる。
さらに、装置を構成している直動要素の摩擦が仮に大きいものであっても、二つのばねで戻し荷重を大きくすることができるので、直動要素の構成(ボールねじ、送りねじ)を安価にできる。
また、第二コイルばねは、第一コイルばねの最大径よりも大きな最大径を有するので、第一コイルばねの径方向外側に第二コイルばねを配置することができる。これにより、コイルばねの配置スペースを省スペース化できる。
【0011】
また、本発明に係る他のブレーキ制御装置は、前記第一コイルばねおよび前記第二コイルばねのうち、一方のコイルばねは、前記電動アクチュエータの駆動力を受ける側に配置されることが好ましい。また、他方のコイルばねは、前記入力部材からの入力を受ける側に配置されていることが好ましい。この構成では、失陥時に他方のコイルばねのみが入力部材の入力を受けるようになり、失陥時のブレーキ操作で受ける付勢力を低減することができる。したがって、失陥時のブレーキ操作が行い易くなる。
【0012】
また、前記第二コイルばねのばね定数は、前記第一コイルばねのばね定数よりも大きく設定されていることが好ましい。この構成では、失陥時に第一コイルばねに入力部材からの入力がなされるようにすることで、失陥時のブレーキ操作で受ける付勢力を低減することができる。したがって、失陥時のブレーキ操作が行い易くなる。
【0013】
また、前記第一コイルばねの外側に前記第二コイルばねが配置されていることが好ましい。この構成では、ばねをスペース効率よく配置することができ、装置の小型化を図ることができる。
【0014】
また、前記第一コイルばねおよび前記第二コイルばねは同軸に配置されていることが好ましい。この構成では、安定した付勢力を発生させることができる。
【0015】
また、ブレーキ制御の途中でシステムオフされた場合(失陥状態となった場合)には、前記第一コイルばねおよび前記第二コイルばねが、前記伝達部材を前記初期位置に押し戻すことが好ましい。この構成では、システムオフ時に早期に伝達部材を初期位置に押し戻すことができ、レスポンスのよいブレーキ操作を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、失陥時に入力部材を初期状態の位置に早期に復帰させることができるとともに、失陥時のブレーキ操作が行い易く装置の小型化が可能なブレーキ制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るブレーキ制御装置を示す平断面図(一部断面)である。
図2】同じくブレーキ制御装置を示す側断面図(一部断面)である。
図3】伝達部材および入力部材の押圧部材の斜視図である。
図4】(a)(b)はブレーキ制御装置の作用説明図である。
図5】失陥時のブレーキ操作時の様子を示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。また、以下の説明において、ブレーキ制御装置「前後」「左右」「上下」を言うときは、図1等に示す方向を基準とする。各方向は、ブレーキ制御装置を車両に搭載したときの方向である。
【0019】
本実施形態のブレーキ制御装置1は、図1に示すように、マスタシリンダ2(ブレーキシステム)への出力を制御する制動倍力装置(ブレーキブースタ)である。
【0020】
本実施形態のブレーキ制御装置1は、モータを併用するハイブリッド自動車やモータのみを動力源とする電気自動車・燃料電池自動車等のほか、エンジン(内燃機関)のみを動力源とする自動車にも搭載することができる。
【0021】
ブレーキ制御装置1は、ボディプレート(ボディ)10と、ブースタボディ20と、ボディハウジング30と、を備えている。また、ブレーキ制御装置1は、入力部材40と、伝達部材50と、出力部材60と、電動モータ70と、駆動伝達機構80と、電子制御装置90と、を備えている。
【0022】
ブレーキ制御装置1は、通常のブレーキ操作時においては電動モータ70の駆動力をマスタシリンダ2に出力することで、ブレーキペダルに対する操作力(踏力)を軽減する。また、ブレーキ制御装置1は、自動ブレーキ制御時においては電動モータ70の駆動力をマスタシリンダ2に出力することで、ブレーキ装置に制動力を発生させる。
【0023】
ブレーキ制御装置1は、マスタシリンダ2の後端部に取り付けられる。マスタシリンダ2は、図示しないシリンダ本体内に形成されたシリンダ穴内を前後二つのピストンが摺動することでブレーキシステムの液圧路にブレーキ液圧を発生させる。
【0024】
ボディプレート10は、金属製の板である。ボディプレート10は、例えば、鉄にアルミニウムを含有させた鉄アルミニウム合金によって形成されている。
【0025】
ボディプレート10の前面10aには、ブースタボディ20および電動モータ70が取り付けられている。ボディプレート10の後面10bには、駆動伝達機構80およびボディハウジング30が取り付けられている。
【0026】
ボディプレート10の右側領域は、電動モータ70が取り付けられる領域である。ボディプレート10の右側領域には、取付孔11が前後方向に貫通している。ボディプレート10の右側領域の前面10aに電動モータ70が取り付けられている。取付孔11には、電動モータ70の出力軸71が挿通されている。
【0027】
ボディプレート10の左側領域は、ブースタボディ20、伝達部材50、駆動伝達機構80および変換機構85が取り付けられる領域である。また、ボディプレート10の左側領域は、ボディハウジング30を介して車体フレーム等に支持可能である。
【0028】
ブースタボディ20は、金属製の筒体である。ブースタボディ20は、図示しないボルトを介してボディプレート10の前面10aに固定され、前方へ向けて突出している。ブースタボディ20の内部空間20aは、軸断面が略円形の内部空間20aを備えている。ブースタボディ20は前後方向に延在している。ブースタボディ20の前端部には、前壁部21が形成されている。前壁部21には、開口部21aが形成されている。
内部空間20aには、入力部材40の先端部(図1参照、押圧部材43)、伝達部材50、出力部材60、およびコイルばね3が収容されている。
【0029】
ブースタボディ20の前端部には、図示しないボルトを介してマスタシリンダ2が取り付けられている。マスタシリンダ2に備わるピストン2aは、ブースタボディ20の開口部21aを通じて内部空間20aに突出している。
【0030】
入力部材40は、ブレーキペダル(図示せず)に入力された踏力を伝達部材50を介して出力部材60に伝達するための部材である。入力部材40は、ブレーキペダルのプッシュロッドRが連結される連結ロッド41と、連結ロッド41の前端部に取り付けられる分岐ロッド42と、を備えている。分岐ロッド42は、図2に示すように、上下方向に延在する分岐部42aと、分岐部42aの上端および下端から前方へ延在する一対の延在部42b、42bと、を備えている。各延在部42bの前端部には、側面視凹形状の押圧部材43が取り付けられている。押圧部材43は、前部43aと、上部43bと、下部43cと、を備えている。押圧部材43は、ボディプレート10の左側領域に設けられた挿通穴12に挿通されている。押圧部材43の前部43aは、内部空間20aに位置している。
【0031】
出力部材60は、ブレーキペダルに入力された踏力および電動モータ70の駆動力をマスタシリンダ2のピストン2aに伝達するための部材である。出力部材60は前後方向に延在する部材であり、外径が段差円筒状の基部61と、基部61の前端部から前方へ向けて延在する軸部62と、を備えている。
【0032】
基部61は、円板状を呈している。基部61には円柱状の内部空間63aが形成されている。内部空間63aには、ゴム製の弾性部材63が収容されている。基部61の後部には、挿通孔61bが形成されている。挿通孔61bは、基部61の後端面から内部空間63aに至る孔であり、基部61の後部において前後方向に延びている。挿通孔61bには、金属製の円柱状部材64が前後方向に移動可能に配置されている。円柱状部材64の前端面は、弾性部材63に当接する平らな面に成形されている。円柱状部材64の後端面は、基部61の後方へ向けて突出する湾曲面に成形されている。円柱状部材64の後端面には、入力部材40の押圧部材43の前面が当接している。
基部61の外側面には、径方向外側に突出し周方向に延在するフランジ部65が形成されている。
出力部材60の軸部62の前端部は、マスタシリンダ2のピストン2aの後端面(図示せず)に当接している。
【0033】
伝達部材50は、電動モータ70の駆動力を出力部材60に伝達するための部材である。
伝達部材50は、ブースタボディ20の内部空間20aに配置されている。図3に示すように、伝達部材50は、円板状を呈している。伝達部材50は、板部51と、押圧部材配置穴52と、ばね受部53と、を備えている。
【0034】
板部51は、図2に示すように、出力部材60の基部61の後面に当接している。
押圧部材配置穴52は、図3に示すように、板部51の中央に形成された縦長四角形状の穴である。押圧部材配置穴52は、押圧部材43の前部43aを配置可能な大きさに形成されている。つまり、押圧部材配置穴52は、押圧部材43の前部43aおよびこれに連続する上部43b、下部43cの一部を配置可能とする大きさを有している。
【0035】
ばね受部53は、図3に示すように、延在部53aと、延在部53aに連続するリブ53bと、を備えている。延在部53aは、板部51の外縁から軸方向後側に延在している。リブ53bは、延在部53aの後側端部から径方向外側に屈曲するように延設されたリブである。リブ53bは、図1図2に示すように、出力部材60のフランジ部65よりも径方向外側に位置するように大径に形成されている。
【0036】
押圧部材配置穴52には、架橋部55が形成されている。架橋部55は、押圧部材配置穴52の左右の縦縁部から後方へ屈曲するようにそれぞれ延設された側部56,56と、側部56,56の後端部同士を左右方向に繋ぐ後壁部57と、を備えている。架橋部55は、押圧部材配置穴52の上下方向の中央に形成されている。これにより、架橋部55の上下には、空隙部58,58が形成されている。上下の空隙部58,58には、押圧部材43の上部43b、下部43cが挿通される(図2参照)。押圧部材43は、押圧部材配置穴52に配置された状態から前方へ移動可能であり、また、前方へ移動した状態から後方へ移動可能である。
【0037】
図2に示すように、押圧部材配置穴52に押圧部材43が配置された状態で、押圧部材43の前部43aの前面は、押圧部材配置穴52内に位置している。出力部材60に組み付けられる円柱状部材64の後端面は、押圧部材配置穴52内に進入して押圧部材43の前部43aの前面に当接している。
伝達部材50とブースタボディ20の前壁部21との間、および出力部材60と前壁部21との間には、コイルばね3が縮設されている。コイルばね3の詳細は後記する。
【0038】
電動モータ70は、ボディプレート10の右側領域の前面10aに図示しないボルトによって取り付けられている。電動モータ70は、ボディプレート10の前面10aから前方へ向けて突出している。電動モータ70とブースタボディ20とは、左右方向に並設されている。
【0039】
電動モータ70は、電子制御装置90によって制御される電動アクチュエータ(電動サーボモータ)である。電動モータ70の出力軸71は、図1に示すように、ボディプレート10の取付孔11を通じてボディプレート10の後面10b側に突出している。
【0040】
変換機構85は、出力部材60の軸回りの回転力を出力部材60の軸方向の力に変換して、出力部材60を軸方向(前後方向)に移動させるものである。変換機構85は、公知のボールねじ機構を含んで構成されている。変換機構85は、軸回りに回転自在な回転筒体86と、出力部材60の軸方向に移動自在な直動体85aと、回転筒体86と直動体85aとの間に設けられたボールねじ機構85bと、を備えている。
【0041】
回転筒体86は、前後方向に中央穴が貫通している円筒状の部材である。回転筒体86は、ベアリング(図示せず)を介してボディプレート10に対して回転自在に支持されている。回転筒体86は従動プーリ82に連結82されている。
【0042】
直動体85aは、回転筒体86に挿入された円筒状の部材である。直動体85aの前端部は、伝達部材50の架橋部55の後壁部57の後面に当接している。直動体85aの後端部は支持部材85cで支持されている。支持部材85cは、ボディハウジング30に支持されている(図示せず)。
【0043】
ボールねじ機構85bは、回転筒体86の回転運動を直動体85aの直線運動に変換する回転直動変換機構である。ボールねじ機構85bは、回転筒体86の内周面に形成された保持溝(図示せず)と、直動体85aの外周面に形成されたねじ溝と、保持溝とねじ溝との間に挿入された複数のボール(図示せず)と、を備えている。
【0044】
変換機構85では、回転筒体86が出力部材60の軸回りに正回転すると、ボールねじ機構85bによって直動体85aが前方に押し出されて直動体85aが前方に移動する。また、回転筒体86が出力部材60の軸回りに逆回転すると、ボールねじ機構85bによって直動体85aが後方に押し出されて直動体85aが後方に移動する。
【0045】
駆動伝達機構80は、駆動プーリ81と、従動プーリ82と、無端状のベルト83と、を備えて構成されている。駆動プーリ81は、電動モータ70の出力軸71に取り付けられている。従動プーリ82は、回転筒体86に連結されてボディプレート10の後方に配置されている。ベルト83は、駆動プーリ81と従動プーリ82とに架け渡されている。
【0046】
駆動プーリ81は、電動モータ70の出力軸71回りに回転する円筒状の歯車である。従動プーリ82は、出力部材60の軸回りに回転する円筒状の歯車である。従動プーリ82の回転中心と出力部材60の軸心とは同心位置となっている。
【0047】
電動モータ70を駆動させて出力軸71を回転させると、駆動プーリ81の回転がベルト83を介して従動プーリ82に伝達され、従動プーリ82が出力部材60の軸回りに回転する。
【0048】
次に、コイルばねについて説明する。コイルばね3は、第一コイルばね3aと、第一コイルばね3aの最大径よりも大きな最大径を有する第二コイルばね3bと、を備えて構成されている。第二コイルばね3bは、第一コイルばね3aの外側に配置されている。第一コイルばね3aと第二コイルばね3bとは出力部材60の軸心を中心として同軸に配置されている。
【0049】
第一コイルばね3aは、図1図2に示すように、出力部材60のフランジ部65とブースタボディ20の前壁部21との間に配設されている。第一コイルばね3aは、これらの間に圧縮された状態で配設されている。第一コイルばね3aの前端部は、ブースタボディ20の前壁部21に当接している。また、第一コイルばね3aの後端部は、出力部材60のフランジ部65に当接している。
【0050】
第二コイルばね3bは、伝達部材50のばね受部53とブースタボディ20の前壁部21との間に配設されている。第二コイルばね3bは、これらの間に圧縮された状態で配設されている。第二コイルばね3bの前端部は、ブースタボディ20の前壁部21に当接している、また、第二コイルばね3bの後端部は、伝達部材50のばね受部53に当接している。第二コイルばね3bは、電動モータ70の駆動力を受ける側に配置されている。
第二コイルばね3bは、第一コイルばね3aに比べて線径が太径とされることで、第一コイルばね3aに比べてばね定数が大きく設定されている。
【0051】
ボディハウジング30は、図示しない複数のボルトによってボディプレート10の後面10bに取り付けられている。ボディハウジング30は、駆動伝達機構80、変換機構85、入力部材40の分岐ロッド42、および押圧部材43の一部を覆う金属製のカバーである。ボディハウジング30は、例えば、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュボードに取り付けられる。
【0052】
電子制御装置90は、入力部材40の移動量に応じて電動モータ70の駆動を制御するものである。電子制御装置90は、ハウジング91と、回路基板92、ギャップセンサ93とを備え、ハウジング91内に回路基板92およびギャップセンサ93が収容されている。
【0053】
ハウジング91は、合成樹脂製の箱体である。ハウジング91の前端開口部は、蓋部材94によって閉塞されている。ハウジング91と電動モータ70との間は、液密にシールされている。
【0054】
回路基板92は、ギャップセンサ93から得られた情報や予め記憶させておいたプログラムなどに基づいて電動モータ70の駆動を制御する。回路基板92は、ハウジング91内の前側の領域に収容されている。回路基板92と電動モータ70とは、ハウジング91内にて電気的に接続されている。
【0055】
ギャップセンサ93は、入力部材40の移動量を検出するためのセンサである。ギャップセンサ93は、ブースタボディ20内に配置された図示しない被検出部材との前後方向の相対位置(ギャップ)の変化を検出するように構成されている。ギャップセンサ93は、前後方向に延びている。ギャップセンサ93は、ハウジング91内において回路基板92と電気的に接続されている。
【0056】
次に、ブレーキ制御装置1の動作について説明する。
車両の非制動時には、図1図2図3(a)に示すように、ブレーキ制御装置1の伝達部材50は、第二コイルばね3bの付勢力によって後方に向けて押し出されている。また、伝達部材50は、第一コイルばね3aの付勢力によって、出力部材60の円柱状部材64と入力部材40の押圧部材43とを介して後方に向けて押し出されている。これにより、伝達部材50および直動体85aは、初期位置に保持されている。
【0057】
車両の制動時に、ブレーキペダルが踏み込まれると、プッシュロッドRおよび入力部材40が前方に向けて押し出される。そうすると、分岐ロッド42を介して押圧部材43が前方へ向けて押し出され、出力部材60の円柱状部材64が弾性部材63を押圧する。これにより、ブレーキペダルに弾性部材63の反力が作用する。
【0058】
そして、ブレーキペダルがさらに踏み込まれると、入力部材40の押圧部材43が出力部材60を押圧し、押圧部材配置穴52に保持されている押圧部材43のみが前方に向けて押し出される。
【0059】
入力部材40が前方に移動すると、ギャップセンサ93によりその移動量が検出される。ギャップセンサ93は、移動量を示した検出信号を回路基板92に出力する。
【0060】
電子制御装置90は、ギャップセンサ93の検出結果に応じて電動モータ70を駆動させ、出力軸71を正回転させる。出力軸71の回転力は、駆動伝達機構80によって回転筒体86に伝達され、回転筒体86が正回転する。回転筒体86の回転力は、変換機構85のボールねじ機構85bを介して直動体85aに伝達され、直動体85aが前方に向けて直進移動する。
【0061】
そして、直動体85aの前端部が伝達部材50の後壁部57の後面を押圧する。これにより、図3(b)に示すように、伝達部材50および入力部材40の押圧部材43(前部43a)が前方に向けて押し出される。
【0062】
そして、出力部材60によってマスタシリンダ2のピストン2aが前方に押し出され、マスタシリンダ2内にブレーキ液圧が発生する。
このように、通常時のブレーキ操作時には、ブレーキペダルの踏力および電動モータ70の駆動力によってマスタシリンダ2内にブレーキ液圧が発生する。つまり、通常時のブレーキ操作時には、電動モータ70の駆動力によってマスタシリンダ2への出力がアシストされる。
【0063】
ここで、コイルばね3の付勢力のうち、ブレーキペダルが踏み込まれることで生じる付勢力は、第一コイルばね3aの付勢力だけである。したがって、第一コイルばね3aの付勢力を比較的小さく設定することにより、ブレーキペダルの踏み込みを比較的小さい踏力で行うことができる。
【0064】
ブレーキペダルの踏み込みが解除されると、第一コイルばね3aの付勢力によって、入力部材40が後方に押し戻される。入力部材40が後方に移動すると、その移動量がギャップセンサ93によって検出され、移動量を示した検出信号がギャップセンサ93から回路基板92に出力される。
【0065】
電子制御装置90は、ギャップセンサ93の検出結果に応じて、電動モータ70の出力軸71を逆回転させる。
出力軸71の回転力は駆動伝達機構80および変換機構85によって直動体85aに伝達され、直動体85aが後方に向けて押し戻される。
これとともに、第二コイルばね3bの付勢力によって、伝達部材50が後方に移動する。また、この移動に追従して、第一コイルばね3aの付勢力によって出力部材60が後方に移動する。
なお、マスタシリンダ2のピストン2aは、シリンダ穴内の図示しないコイルばねの付勢力によって後方に押し戻される。これにより、出力部材60は、ピストン2aによっても押し戻されて後方に移動することとなる。
【0066】
電子制御装置90は、ギャップセンサ93の検出結果に基づいて、入力部材40および伝達部材50が初期の位置関係となるように、電動モータ70を駆動させて、出力部材60を後方に移動させる。
【0067】
このようにして、入力部材40および伝達部材50が初期状態の位置に復帰すると、電子制御装置90は、電動モータ70を停止する。
なお、ブレーキペダルの踏み込み解除時に、電動モータ70の駆動によらず、第一コイルばね3aおよび第二コイルばね3bの付勢力によって伝達部材50および直動体85aを後方に押し戻すように構成してもよい。
【0068】
車両に備わる液圧制御装置等によって自動ブレーキ制御が作動した場合には、電子制御装置90は、液圧制御装置からの信号に基づいて、電動モータ70を駆動させ、出力軸71を正回転させる。
【0069】
前記した通常時のブレーキ操作と同様に、出力軸71の回転力は、駆動伝達機構80および変換機構85によって直動体85aに伝達され、直動体85aが前方に向けて直線移動する。そして、直動体85aが伝達部材50を前方に向けて押圧する。
【0070】
このように、自動ブレーキ制御時には、電動モータ70の駆動力のみによって伝達部材50および出力部材60が前方に向けて押し出され、マスタシリンダ2内にブレーキ液圧が発生する。
【0071】
車両のシステムが非作動状態(オフ状態)となる失陥時にブレーキペダルを踏み込んだ場合(例えば、電力が得られていない失陥状態の場合等)は、ブレーキペダルの踏力によって、入力部材40が前方に移動する。
この場合、図5に示すように、伝達部材50の押圧部材配置穴52に保持されている入力部材40の押圧部材43のみが前方に向けて押し出され、出力部材60を押圧する。つまり、伝達部材50を介さずに押圧部材43によって出力部材60を押し出すことができ、入力部材40から出力部材60に力を伝達することができる。
【0072】
ここで、ブレーキペダルを踏み込む踏力は、第一コイルばね3aの付勢力に抗するものであり通常のブレーキ操作時と同様のものであるので、違和感なくブレーキ操作を実行することができる。また、ブレーキペダルを踏み込む踏力は、第一コイルばね3aの付勢力に抗するものであり比較的小さい踏力で済む。したがって、失陥時においてもブレーキ操作が行い易い。
【0073】
ブレーキペダルの踏み込みが解除されると、第一コイルばね3aの付勢力によって、入力部材40が後方に押し戻される。
【0074】
通常のブレーキ操作時において、車両のシステムが非作動(オフ状態)となった場合の入力部材40の戻りは、第一コイルばね3aおよび第二コイルばね3bの2つのばねの付勢力によって行われる。
【0075】
通常のブレーキ操作により伝達部材50が押し込まれている状態では、図3(b)に示すように、伝達部材50および入力部材40の押圧部材43(前部43a)が前方に向けて押し出された状態となっている。
この状態で、車両のシステムが非作動(オフ状態)になり、さらにブレーキペダルの踏み込みを解除すると、第一コイルばね3a側では、その付勢力によって出力部材60が後方に向けて押し戻される状態となる。また、第二コイルばね3b側では、その付勢力によって伝達部材50が後方に向けて押し戻される状態となる。つまり、第一コイルばね3aおよび第二コイルばね3bの2つのばねによって、入力部材40が迅速に押し戻されることとなる。したがって、システム内に残るブレーキ液圧を好適に低減してブレーキの解除を行うことができる。
また、入力部材40が迅速に押し戻されるので、システムの非作動状態における次回のブレーキ操作に好適に対処することができる。
【0076】
以上説明した本実施形態では、第一コイルばね3aおよび第二コイルばね3bの二つのばねの付勢力で伝達部材50が初期位置に押し戻される。したがって、失陥時に伝達部材50を初期位置に早期に戻すことができる。つまり、必要な戻し荷重を発生することができ、入力部材40を初期状態の位置に早期に復帰させることができる。
【0077】
また、コイルばね3を二本のばねで構成することにより、一本あたりのコイルばねの大きさを小さくすることができる。これにより、ブレーキ制御装置1を小型化することができる。また、ブレーキ制御装置の小型化が可能となるので、コストが低減する。
【0078】
また、失陥時に第一コイルばね3aが入力部材40の入力を受けるように構成されているので、第二コイルばね3bとした場合に比べて失陥時のブレーキ操作で受ける付勢力を低減することができる。したがって、失陥時のブレーキ操作が行い易くなる。
【0079】
さらに、装置を構成している直動要素(ボールねじ機構)の摩擦が仮に大きいものであっても、二つのばねで戻し荷重を大きくすることができるので、変換機構85を安価にできる。
【0080】
また、第二コイルばね3bは、第一コイルばね3aの最大径よりも大きな最大径を有するので、第一コイルばね3aの径方向外側に第二コイルばね3bを配置することができる。これにより、コイルばね3の配置スペースを省スペース化できる。
【0081】
また、第一コイルばね3aが入力部材40側の入力を受ける側に配置され、第二コイルばね3bが電動モータ70の駆動力を受ける側に配置される構成である。したがって、失陥時に第一コイルばね3aのみが入力部材40の入力を受けるようになり、失陥時のブレーキ操作で受ける付勢力を低減することができる。したがって、失陥時のブレーキ操作が行い易くなる。
【0082】
また、第二コイルばね3bのばね定数が、第一コイルばね3aのばね定数よりも大きく設定されているので、失陥時のブレーキ操作で受ける付勢力を低減することができる。したがって、失陥時のブレーキ操作が行い易くなる。
【0083】
また、第一コイルばね3aの外側に第二コイルばね3bが配置されているので、ばねをスペース効率よく配置することができ、装置の小型化を図ることができる。
【0084】
また、第一コイルばね3aおよび第二コイルばね3bは同軸に配置されているので、安定した付勢力を発生させることができる。
【0085】
また、ブレーキ制御の途中で失陥した場合(システムオフの状態とされた場合)には、第一コイルばね3aおよび第二コイルばね3bが協働して、伝達部材50を初期位置に押し戻す。したがって、失陥時に早期に伝達部材50を初期位置に押し戻すことができ、レスポンスのよいブレーキ操作を実現することができる。
特に、失陥時には第一コイルばね3aよりもばね定数の大きい第二コイルばね3bが戻しばねとして加わるので、伝達部材50および入力部材40をより一層迅速に初期位置に戻すことができる。
【0086】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではない。例えば、前記実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。また、前記実施形態の構成の一部について、追加、削除、置換をすることができる。
【0087】
例えば、前記実施形態では、第一コイルばね3aと第二コイルばね3bとを同軸に配置したが、これに限られることはなく、並列に配置してもよい。
【0088】
また、第一コイルばね3aおよび第二コイルばね3bは、一定の線径を有するものを用いたが、線径が変化するコイルばねを用いてもよい。
【0089】
また、第二コイルばね3bのばね定数を第一コイルばね3aのばね定数よりも大きく設定したが、これとは逆に、第一コイルばね3aのばね定数を第二コイルばね3bのばね定数よりも大きく設定してもよい。この場合には、第一コイルばね3aが電動モータ70の駆動力を受ける側に配置され、第二コイルばね3bが入力部材40の入力を受ける側に配置されるように構成すればよい。
【0090】
また、駆動伝達機構80は、ベルト機構を用いて出力軸71の回転力を変換機構85に伝達しているが、駆動伝達機構80の構成は限定されるものではなく、例えば、歯車機構を用いてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 ブレーキ制御装置
3 コイルばね
3a 第一コイルばね
3b 第二コイルばね
40 入力部材
50 伝達部材
60 出力部材
70 電動モータ(電動アクチュエータ)
図1
図2
図3
図4
図5