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特開2023-184381吸収済二酸化炭素の脱離回収方法及び吸収済二酸化炭素の脱離回収システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184381
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】吸収済二酸化炭素の脱離回収方法及び吸収済二酸化炭素の脱離回収システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20231221BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20231221BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20231221BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20231221BHJP
【FI】
B01D53/14 220
B01D53/96 ZAB
B01D53/62
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022123555
(22)【出願日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2022097744
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】大岩 正人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優一
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC10
4D002BA02
4D002BA09
4D002CA06
4D002DA01
4D002DA11
4D002DA21
4D002DA31
4D002DA32
4D002EA01
4D002EA04
4D002EA08
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB11
4D002HA03
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA03
4D020BA08
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BB04
4D020BC01
4D020CB03
4D020CC01
4D020CC14
4D020DA03
4D020DB06
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC21
4G146JC28
4G146JD02
(57)【要約】
【課題】より少ないエネルギーで吸収済の二酸化炭素を吸収材から脱離できる、吸収済二酸化炭素の脱離回収方法及びその方法の利用に適したシステムを提供する。
【解決手段】吸収済二酸化炭素の脱離回収方法は、二酸化炭素が吸収された吸収液に対して光を照射する工程(a)と、前記吸収液に対して熱を供給する工程(b)と、前記工程(a)及び前記工程(b)を経て前記吸収液から脱離した二酸化炭素を回収する工程(c)とを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素が吸収された吸収液に対して光を照射する工程(a)と、
前記吸収液に対して熱を供給する工程(b)と、
前記工程(a)及び前記工程(b)を経て前記吸収液から脱離した二酸化炭素を回収する工程(c)とを含むことを特徴とする、吸収済二酸化炭素の脱離回収方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、光源から前記吸収液に対して前記光を照射する工程であり、
前記工程(b)は、前記光源が発する前記熱を前記吸収液に供給する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収方法。
【請求項3】
前記工程(a)及び前記工程(b)は、同時に実行されることを特徴とする、請求項2に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収方法。
【請求項4】
前記工程(a)は、光源から前記吸収液に対して前記光を照射する工程を含み、
前記工程(b)は、太陽光が照射可能な態様で、前記吸収液が内部に位置する反応槽に対して直接又は他の部材を介して接触する状態で配置された太陽光集熱部材が、前記太陽光を前記熱に変換し、前記熱を前記吸収液に供給する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収方法。
【請求項5】
前記吸収液は、塩基性材料からなる二酸化炭素吸収材と溶媒とを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収方法。
【請求項6】
前記二酸化炭素吸収材は、アミン系材料からなることを特徴とする、請求項5に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収方法。
【請求項7】
二酸化炭素が吸収された吸収液が内部に位置する反応槽と、
前記反応槽に対して直接又は他の部材を介して固定された状態で配置され、前記反応槽内の前記吸収液に対して光を照射する光源と、
前記吸収液から脱離した二酸化炭素を回収する回収ポートとを備えたことを特徴とする、吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項8】
前記光源は、前記反応槽の内部に配置されていることを特徴とする、請求項7に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項9】
前記反応槽内に前記吸収液を導入する導入口と、
前記光源からの前記光が照射された後の前記吸収液を排出する排出口とを備え、
前記反応槽には、前記導入口から前記排出口に向かって通流中の前記吸収液が位置することを特徴とする、請求項7又は8に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項10】
前記回収ポートは、前記吸収液の通流方向に関して、前記導入口よりも前記排出口に近い側に位置していることを特徴とする、請求項9に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項11】
前記反応槽は、底壁部と、前記底壁部に対して鉛直上方に離間した上壁部とを有し、
前記反応槽は、前記導入口から前記排出口に近づくに連れて、前記底壁部と前記上壁部との間の鉛直方向に係る離間距離が上昇する構造であることを特徴とする、請求項9に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項12】
前記光源は、前記底壁部に対して固定して配置され、
前記上壁部は、前記底壁部に対して傾斜しており、
前記回収ポートは、前記導入口よりも前記排出口に近い側の前記上壁部に設けられていることを特徴とする、請求項11に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項13】
前記吸収液は、塩基性材料からなる二酸化炭素吸収材と溶媒とを含むことを特徴とする、請求項7又は8に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項14】
前記二酸化炭素吸収材は、アミン系材料からなることを特徴とする、請求項13に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項15】
二酸化炭素が吸収された吸収液が内部に位置する反応槽と、
前記反応槽内の前記吸収液に対して光を照射する光源と、
前記反応槽内の前記吸収液に対して熱を供給する熱源と、
前記吸収液から脱離した二酸化炭素を回収する回収ポートとを備えたことを特徴とする、吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【請求項16】
前記熱源は、太陽光が照射可能な態様で、前記反応槽に対して直接又は他の部材を介して固定された状態で配置された、太陽光集熱部材を含むことを特徴とする、請求項15に記載の吸収済二酸化炭素の脱離回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収液に吸収された状態(吸収済)の二酸化炭素を脱離して回収する方法及びその方法の利用に適したシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素濃度を低下させるために、大気中の二酸化炭素を直接吸収したり、化石燃料の燃焼排ガス等に含有される二酸化炭素を分離して回収する技術が検討されている。
【0003】
二酸化炭素の回収においては、二酸化炭素を吸収材に吸収させ、吸収済の二酸化炭素を当該吸収材から脱離させる方法が提案されている。例えば、下記、特許文献1には、アミンを吸収材として含む溶液を用いて、燃焼排ガスから二酸化炭素を分離し、その後、当該溶液を加熱することで、二酸化炭素を脱離させて回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-245339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、二酸化炭素の吸収材から、吸収済の二酸化炭素を脱離させるには、加熱などのエネルギーの投入が必要とされている。この脱離のためのエネルギーが大きいと、二酸化炭素回収のコストが大きくなる。吸収材で二酸化炭素を吸収した後、当該吸収材で吸収された二酸化炭素を低エネルギーで脱離することができなければ、二酸化炭素の排出量を総合的に削減することが困難となる。例えば、二酸化炭素の脱離に多大な電力を消費すると、この電力を生成するために二酸化炭素を放出することになるためである。また、二酸化炭素が吸収された後の吸収材の取扱いの問題も生じ得る。
【0006】
一方で、上述したように、二酸化炭素を吸収済の吸収材から二酸化炭素を脱離回収する際に高いエネルギーが必要である場合には、システムの運転に伴うランニングコストが懸念となる。この点は、二酸化炭素を回収するシステムの導入及び普及にとって足かせとなる。現時点において、地球温暖化問題は世界的に解決すべき問題の一つとされている。地球温暖化の主要因の一つとされている二酸化炭素の排出量を低下させ、ひいては大気中の二酸化炭素濃度を低下させることは、喫緊の課題といえる。
【0007】
以上を踏まえると、二酸化炭素を吸収材で吸収した後に、低コスト、低エネルギーの下で吸収材から二酸化炭素を脱離・回収させることのできるシステムを実現することは、大気中の二酸化炭素濃度を低下させる動きを促進する上で、重要であると考えられる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、より少ないエネルギーで吸収済みの二酸化炭素を吸収材から脱離できる、吸収済二酸化炭素の脱離回収方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、吸収済二酸化炭素の脱離回収方法は、
二酸化炭素が吸収された吸収液に対して光を照射する工程(a)と、
前記吸収液に対して熱を供給する工程(b)と、
前記工程(a)及び前記工程(b)を経て前記吸収液から脱離した二酸化炭素を回収する工程(c)とを含むことを特徴とする。
【0010】
詳細は後述するが、本発明者らは、鋭意研究の結果、二酸化炭素が吸収された吸収液に対して光を照射することで、当該吸収液からの吸収済二酸化炭素の脱離が増大することを見出した。すなわち、当該吸収液に対して熱を供給すると共に光を照射することで、単に熱を加える場合と比較して、加える熱エネルギーを従来よりも低下させながら、吸収済の二酸化炭素を脱離させることができる。また、加える熱エネルギーが低下することで、従来、二酸化炭素の脱離に必要とされていた吸収液の温度より、低い温度で二酸化炭素の脱離が可能となる。さらに、当該吸収液に対して加えられる熱エネルギーを従来と同一とすると、光の照射を行うことでより多くの二酸化炭素を脱離させることもできる。
【0011】
吸収済二酸化炭素を脱離すべく、熱を供給して吸収液の温度を上昇させる場合は、二酸化炭素吸収材を含む溶液全体を加熱することを要する。一方で、吸収液に光を照射する場合は、二酸化炭素吸収材に吸収されやすい波長を選択することができる。すなわち、光の照射によれば、二酸化炭素吸収材に対して選択的にエネルギーを与えることができる。したがって、二酸化炭素を脱離するためのエネルギーを熱と光照射によって供給することで、単に熱を加える場合と比較して、より少ないエネルギーで吸収済の二酸化炭素を吸収液から脱離することができる。
【0012】
本明細書において「回収」とは、吸収液から脱離した二酸化炭素を、吸収液が配置されている領域から他の領域に移送することを意味する。例えば、ボンベ等の貯留槽に二酸化炭素を貯留しても構わないし、配管を介して二酸化炭素の利用施設に送り込むものとしても構わない。前記利用施設としては、例えば植物工場等が挙げられる。
【0013】
前記工程(a)は、光源から前記吸収液に対して前記光を照射する工程であり、
前記工程(b)は、前記光源が発する前記熱を前記吸収液に供給する工程であっても構わない。
【0014】
光源は、発光時に熱を発するため、吸収液に対して光を照射するに際し、前記光源が発する熱を吸収液に供給すれば、エネルギーを効率的に利用できる。したがって、さらに少ないエネルギーで吸収済の二酸化炭素を吸収液から脱離することができる。
【0015】
前記工程(a)及び前記工程(b)は、同時に実行されても構わない。
【0016】
また、前記工程(a)は、光源から前記吸収液に対して前記光を照射する工程を含み、
前記工程(b)は、太陽光が照射可能な態様で、前記吸収液が内部に位置する反応槽に対して直接又は他の部材を介して接触する状態で配置された太陽光集熱部材が、前記太陽光を前記熱に変換し、前記熱を前記吸収液に供給する工程を含んでも構わない。
【0017】
詳細は後述するが、太陽光のエネルギーを利用して、吸収液に対して熱を供給することにより、より少ないエネルギーで吸収済の二酸化炭素を吸収液から脱離することができる。
【0018】
前記吸収液は、塩基性材料からなる二酸化炭素吸収材と溶媒とを含んでもよい。
【0019】
前記二酸化炭素吸収材は、アミン系材料であってもよい。アミン系材料とは、一級又は二級のアミノ基を1つ以上有するアミン化合物をいう。アミン化合物は、二酸化炭素吸収性能を有するものであれば特に制限はなく、一種又は混合物として使用することが可能である。
【0020】
アミン系材料に含有させることが可能なアミン化合物として、例えば、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、フェニルエチルアミン等の一級アミン類、ジエタノールアミン、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール等の二級アミン類、エチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、オルト-キシリレンジアミン、メタ-キシリレンジアミン、パラ-キシリレンジアミン等のポリアミン類、ベンジルアミン、パラ-メトキシベンジルアミン、パラ-トリフルオロメチルベンジルアミン等のベンジルアミン類が挙げられる。
【0021】
二酸化炭素吸収材を、水又はジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に分散させることで、二酸化炭素の吸収液を調整することができる。また、溶媒として例えばエタノール等のアルコールを用いてもよい。これらの溶媒は複数種類を組み合わせても構わない。
【0022】
以下、アミン系材料(R12NH)の水溶液を例にとり、二酸化炭素の吸収及び脱離について説明する。ここで、R1はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。また、R2は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。これらの官能基は置換基を有していてもよい。
【0023】
アミン系材料が二酸化炭素を吸収する反応として、主に下記(1)~(3)式が存在する。
12NH + CO2 + H2O → R12NH2 + + HCO3 - ・・・・(1)
2(R12NH)aq + CO2 → R12NH2 + + R12NCOO- ・・・・(2)
12NH + CO2 → R12NCOOH ・・・・(3)
【0024】
さらに、溶媒が水である場合、液相の表面に水酸化物イオン(OH- )が存在することが想定されるため、下記(4)式の吸収反応も想定される。
CO2 + OH- → HCO3 - ・・・・(4)
【0025】
なお、上記(4)式に限られないが、二酸化炭素を溶液が吸収する際、二酸化炭素を含む気相と溶液の液相が接触(「気液接触」ともいわれる。)する面積が大きいことが好ましい。気液接触する面積が大きいと、例えば、(4)式においては、液相の表面近傍の水酸化物イオンが反応に寄与しやすくなり好適である。また、水酸化物イオンを増加させる観点から、溶液は強アルカリであることが好ましい。ここで、「溶液が強アルカリである」とは、溶液のpHが10以上であることを意味する。
【0026】
つまり二酸化炭素は、吸収液中にバイカーボネートイオン(HCO3 - )、カルバメートイオン(R12NCOO- )又はカルバミン酸(R12NCOOH)の態様で存在しており、これらが混在している。
【0027】
このように二酸化炭素を吸収した吸収液に対し、熱供給及び光照射によってエネルギーを与え、(1)~(4)式の逆反応を起こすことによって、吸収済の二酸化炭素を脱離することができる。
【0028】
二酸化炭素の吸収及び脱離についてアミン系材料を例に説明した。一方で、他の二酸化炭素吸収材として、例えば、塩基性を示す、アルカリ金属を含む酸化物及びニオブ又はタンタルを含む酸化物等も知られている。
【0029】
二酸化炭素を吸収した後、光の吸収によって二酸化炭素の脱離反応を起こす二酸化炭素吸収材であれば、上記と同様の議論が可能である。つまり、二酸化炭素吸収材はアミン系材料に限定されるものではない。
【0030】
本発明に係る、吸収済二酸化炭素の脱離回収システムは、
二酸化炭素が吸収された吸収液が内部に位置する反応槽と、
前記反応槽に対して直接又は他の部材を介して固定された状態で配置され、前記反応槽内の前記吸収液に対して光を照射する光源と、
前記吸収液から脱離した二酸化炭素を回収する回収ポートとを備えたことを特徴とする。
【0031】
吸収済二酸化炭素を吸収液から脱離する点については、上述した脱離回収方法と同様の議論が可能である。ここで、吸収済二酸化炭素を脱離させるための光を出射する光源が、反応槽に直接又は他の部材を介して固定されることで、当該光源が発する熱を反応槽内の吸収液に供給することができる。この場合、脱離のためのエネルギーを効率良く利用できるため、少ないエネルギーで吸収済の二酸化炭素を吸収液から脱離することが可能となる。
【0032】
前記光源は、前記反応槽の内部に配置されても構わない。
【0033】
光源が反応槽の内部に配置されることにより、当該光源が発する熱を効率良く反応槽内の吸収液に供給できる。したがって、より少ないエネルギーで吸収済の二酸化炭素を吸収液から脱離することが可能となる。
【0034】
前記吸収済二酸化炭素の脱離回収システムは、
前記反応槽内に前記吸収液を導入する導入口と、
前記光源からの前記光が照射された後の前記吸収液を排出する排出口とを備え、
前記反応槽には、前記導入口から前記排出口に向かって通流中の前記吸収液が位置しても構わない。
【0035】
吸収済二酸化炭素の脱離は、吸収液を通流させながら行ってもよい。吸収液を通流させながら吸収済二酸化炭素を脱離することで、例えば、脱離後の吸収液をそのまま二酸化炭素の吸収システム(吸収槽)に送出することが可能となる。この場合、二酸化炭素が脱離した吸収液を連続的に二酸化炭素の吸収に使用することができる。
【0036】
前記回収ポートは、前記吸収液の通流方向に関して、前記導入口よりも前記排出口に近い側に位置しても構わない。
【0037】
吸収液を通流させながら二酸化炭素の脱離を行う場合、吸収液は反応槽に導入された後、光の照射が開始される。その後、吸収液は、排出口に向かって通流中に、引き続き光が照射される。ここで、特定箇所の吸収液に着目するために、流れに対する抵抗、熱に対する抵抗、及び光に対する遮蔽効果がいずれもゼロの仮想容器内に囲まれた吸収液を想定し、この仮想容器ごと吸収液の流れに沿って流れる場面を想定する。この仮想容器内の吸収液は、排出口に向かって流れている間にわたって光の照射が行われることになる。つまり、この仮想容器内の吸収液は、導入口から排出口に近づくに連れて、照射された光の量(照射線量)が増大する。同様に、光源が発する熱によって吸収液が加熱され、導入口から排出口に近づくに連れて、吸収液の温度が上昇する。この結果、二酸化炭素の脱離が増加する方向に平衡条件が移動するため、脱離する二酸化炭素の量も排出口に近づくに連れて増加する。
【0038】
以上を踏まえると、反応槽内に流入される吸収液の全体を見た場合においても、導入口に近い側よりも排出口に近い側の方が、二酸化炭素の脱離が大きいと想定される。したがって、二酸化炭素の回収ポートが排出口に近い側に配置されることで、効率的に二酸化炭素を回収することができる。
【0039】
前記吸収済二酸化炭素の脱離回収システムにおいて、
前記反応槽は、底壁部と、前記底壁部に対して鉛直上方に離間した上壁部とを有し、
前記反応槽は、前記導入口から前記排出口に近づくに連れて、前記底壁部と前記上壁部との間の鉛直方向に係る離間距離が上昇する構造であっても構わない。
【0040】
前述した通り、導入口に近い側よりも排出口に近い側の方が、二酸化炭素の脱離が大きいと想定される。上記構成によれば、排出口に近づく程、底壁部と上壁部との離間距離が増大するため、反応槽内において吸収液から脱離した二酸化炭素を一時的に位置させるための空間を十分に確保できる。よって、この構成の下で、例えば排出口に近い側の上壁部を貫通するように回収ポートを設けることで、多くの二酸化炭素を効率的に回収できる。
【0041】
また、前記光源は、前記底壁部に対して固定して配置され、
前記上壁部は、前記底壁部に対して傾斜しており、
前記回収ポートは、前記導入口よりも前記排出口に近い側の前記上壁部に設けられても構わない。
【0042】
上記構成によれば、吸収液から脱離した二酸化炭素は、上壁部の傾斜によって排出口に近い側へと導かれる。さらに、回収ポートが排出口に近い側に配置されることで、二酸化炭素を効率良く回収することができる。
【0043】
前記吸収液は、塩基性材料からなる二酸化炭素吸収材と溶媒とを含んでもよい。
【0044】
前記二酸化炭素吸収材は、アミン系材料であってもよい。
【0045】
二酸化炭素吸収材及び溶媒については、前述した議論と同様である。
【0046】
また、本発明に係る吸収済二酸化炭素の脱離回収システムは、
二酸化炭素が吸収された吸収液が内部に位置する反応槽と、
前記反応槽内の前記吸収液に対して光を照射する光源と、
前記反応槽内の前記吸収液に対して熱を供給する熱源と、
前記吸収液から脱離した二酸化炭素を回収する回収ポートとを備えることを別の特徴とする。
【0047】
吸収液に対して熱源からの熱を供給すると共に、光源からの光を照射することで、上記と同様に、加える熱エネルギーを従来よりも低下させながらも、吸収液から二酸化炭素を効率的に脱離させることができる。
【0048】
なお、前記熱源は、前記光源とは別のデバイスとして配置されていても構わないし、前記光源が前記熱源を兼ねても構わない。
【0049】
前記熱源は、太陽光が照射可能な態様で、前記反応槽に対して直接又は他の部材を介して固定された状態で配置された、太陽光集熱部材を含んでもよい。
【0050】
上記構成によれば、吸収液に対して熱を供給する太陽光集熱部材は、太陽光によって加熱される。太陽光を利用するため、より少ないエネルギーで吸収液に対して熱を供給することができ、好適に吸収済の二酸化炭素を脱離できる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、より少ないエネルギーで吸収済の二酸化炭素を吸収材から脱離できる、吸収済二酸化炭素の脱離回収方法及びシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明に係る吸収済二酸化炭素の脱離回収システムの実施形態の一例を示す概念図である。
図2A図1における反応槽部分を拡大した図である。
図2B】反応槽に光源が他の部材を介して固定された場合の拡大図である。
図3A】実施例1の検証で用いた実験系の概念図である。
図3B】比較例1の検証で用いた実験系の概念図である。
図4】検証時における、経過時間に対する反応槽の温度をプロットしたグラフである。
図5A】アミン系材料が二酸化炭素を吸収又は脱離する反応を示す際の反応エネルギー準位を示す模式図である。
図5B図5Aに倣って、吸収液に対して供給されるエネルギーを示した模式図である。
図6】第一変形例に係る反応槽における、光源の設置部分の拡大図である。
図7A】第二変形例に係る反応槽の概念図である。
図7B図7Aに係る反応槽を+Z方向から見た時の概念図である。
図8】第三変形例に係る反応槽の概念図である。
図9】第三変形例に係る反応槽をZ方向に複数積み重ねた概念図である。
図10】第四変形例に係る反応槽の概念図である。
図11】第五変形例に係る反応槽の概念図である。
図12A】第六変形例に係る反応槽の斜視図である。
図12B図12Aの反応槽を+Y方向から見た時の模式図である。
図13A】第七変形例に係る反応槽の斜視図である。
図13B図13Aの反応槽を+X方向から見た時の模式図である。
図13C図13Aの反応槽を+Y方向から見た時の模式図である。
図14A図14Aは、第八変形例に係る反応槽の斜視図である。
図14B図14Aの反応槽を+X方向から見た時の模式図である。
図14C図14Aの反応槽を、反応槽が設置された傾斜面の法線方向に見たときの模式図である。
図15】集熱部材の内部構造の一例を示す模式図である。
図16A】第九変形例に係る反応槽の設置態様の一例を示す概念図である。
図16B】温水生成器を+X方向に見たときの模式図である。
図16C】熱交換器において行われる熱交換の態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明に係る吸収済二酸化炭素の脱離回収方法及び脱離回収システムの実施形態について、以下において図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0054】
図1は本発明に係る吸収済二酸化炭素の脱離回収システム(以下、単に「脱離回収システム」という。)の実施形態の一例を示す概念図である。図1を参照して、脱離回収システム1の構成について説明した後、脱離回収システム1によって実行される吸収済二酸化炭素の脱離回収方法について説明する。
【0055】
以下の各図では、互いに直交するX方向、Y方向及びZ方向からなる、X-Y-Z座標系が適宜併記されている。典型的には、Z方向は鉛直方向である。
【0056】
なお、以下の説明では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+X方向」、「-X方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「X方向」と記載される。すなわち、本明細書において、単に「X方向」と記載されている場合には、「+X方向」と「-X方向」の双方が含まれる。Y方向及びZ方向についても同様である。
【0057】
図1に示すように、脱離回収システム1は、処理対象ガス20が含む二酸化炭素を吸収液10に吸収させる吸収槽2と、二酸化炭素を吸収した吸収液10から吸収済二酸化炭素を脱離する反応槽3と、反応槽3において吸収液10に対して光L1を照射する光源6を有する。処理対象ガス20とは、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を分離回収させる対象となるガスである。一例として、処理対象ガス20は、排ガス、大気等が挙げられる。吸収液10としては、例えば、水に二酸化炭素吸収材としてアミン系材料を分散させた水溶液が使用できる。
【0058】
この吸収液10によって、処理対象ガス20に含まれる二酸化炭素が吸収される。処理対象ガス20に含まれる二酸化炭素が吸収された後のガス(以下、「処理後ガス21」という。)は、吸収槽2から排出される。図1において、処理後ガス21は一点鎖線で示されている。
【0059】
吸収槽2において二酸化炭素を吸収した吸収液10は、例えば送液ポンプ(不図示)を用いて流路4を通じて反応槽3に送り込まれる。そして、後述するように、吸収液10に対する光L1の照射及び熱H1の供給が行われ、吸収液10から吸収済二酸化炭素が脱離される。反応槽3において、吸収液10から脱離された吸収済二酸化炭素を含むガス(以下、「脱離ガス22」という。)は、反応槽3が備える回収ポート7から回収される。図1において、脱離ガス22は二点鎖線で示されている。
【0060】
また、反応槽3において、吸収済二酸化炭素が脱離された吸収液10は、送液ポンプ等(不図示)によって流路5を通じて吸収槽2に送り込まれる。そして、再び処理対象ガス20が含む二酸化炭素の吸収に供される。なお、例えば熱交換器(不図示)によって、流路4及び流路5を通流する吸収液10において熱交換がされても構わない。この熱交換によって、反応槽3に流入する吸収液10の温度を上げることができ、好適である。吸収液10の通流方向は、図1において、二重矢印で示されており、以下の図面でも同様である。吸収槽2、流路4及び流路5については、従来公知の脱離回収システムの構成が利用できる。
【0061】
次に、図1を参照しつつ、脱離回収システム1によって実行可能な、吸収済二酸化炭素の脱離回収方法(以下、単に「脱離回収方法」という。)の一例について説明する。
【0062】
この脱離回収方法は、処理対象ガス20から二酸化炭素を吸収する前工程S100と、二酸化炭素を吸収した吸収液10に対して光を照射する工程S101と、二酸化炭素を吸収した吸収液10に対して熱を供給する工程S102と、吸収液10から脱離した二酸化炭素を回収する工程S103を含む。
【0063】
(前工程S100)
吸収槽2において、典型的には処理対象ガス20と吸収液10とを気液接触させることにより、処理対象ガス20が含む二酸化炭素を吸収液10に吸収させる。なお、前工程のさらに前段において、例えば処理対象ガス20を冷却したり、処理対象ガス20に含まれる、二酸化炭素の吸収を阻害する物質をスクリーニングする等の前処理が行われても構わない。
【0064】
(光照射工程S101)
前述した通り、吸収済二酸化炭素を吸収液10から脱離させるためにはエネルギーが必要である。したがって、この脱離回収方法では、二酸化炭素を吸収した吸収液10に対し、光源6を用いた光L1の照射と、熱H1の供給が行われる。まず、吸収液10に対する光L1の照射について説明する。
【0065】
図2Aは、理解を容易にするために、図1における反応槽3部分を拡大した図である。図2Aでは、光源6が反応槽3の-Z方向に係る面に直接固定される例が示されている。また、図2Aでは、光源6は基板9に実装された複数のLED素子8で構成される場合が例示されているが、光源6としてランプを採用することも可能である。
【0066】
本発明において、光源6から出射される光L1の波長は限定されないが、一例として、光源6からは波長250nm~600nmの範囲に含まれる光が出射される。光源6が出射する光L1の波長は、好ましくは、アミン系材料等の二酸化炭素吸収材の吸収スペクトルに応じて選択される。光L1の照射によるエネルギーを吸収液10が含む二酸化炭素吸収材に効率的に与える観点から、二酸化炭素吸収材に吸収されやすく、溶媒に吸収されにくい波長がより好ましい。
【0067】
図2Aに示すように、光源6が反応槽3の外側に配置される場合には、反応槽3を、光源6が出射する光L1を透過する部材で構成することで、反応槽3の内部に位置する吸収液10に対して光L1を照射することができる。図2Aでは、光L1が実線の矢印で示されており、以下の図面でも同様である。光L1を透過する部材としては、例えば、ガラスが採用できる。このような構成を採用することで、特に反応槽3を屋外又は非暗室に設置する場合には、昼間時間帯であれば太陽光を反応槽3内の吸収液10に対して照射させる作用も得られる。
【0068】
なお、図2Aに示すように、光源6が反応槽3の底部側にのみ配置される場合には、反応槽3のうち、底部の材料のみを光L1を透過する部材で構成してもよい。この態様については、図6を参照して後述される。
【0069】
また、反応槽3が光L1を透過する部材で構成される場合、図2Aに示すように、反応槽3の外表面の一部に反射膜11を形成しても構わない。光L1の波長によっては、吸収液10に照射された光L1の一部は、吸収液10に吸収されずに吸収液10を透過することが想定される。よって、反射膜11を形成することで、吸収液10を一旦透過した光を再度吸収液10に向かわせることができ、効率的に吸収液10に対して光L1を照射することができる。このような反射膜11としては、アルミニウムのコーティング等が利用できる。
【0070】
なお、図2Aでは、光源6が反応槽3の-Z方向に係る面に設置され、+Z方向に出射された光L1が照射されるものとして説明した。しかし、光源6は吸収液10に対して光を照射できる範囲で、反応槽3の任意の場所に設置が可能である。すなわち、例えば、X方向及びY方向から、吸収液10に対して光L1を照射するように光源6を設置しても構わない。この場合、反射膜11の形成範囲は適宜調整される。
【0071】
また、上記においては、反応槽3の外表面に反射膜11が形成されるものとして説明したが、反射膜11が吸収液10と接触しても劣化しない材料で構成される場合には、反射膜11を反応槽3の内表面に形成しても構わない。
【0072】
この光照射工程S101が、工程(a)に対応する。
【0073】
(熱供給工程S102)
また、吸収済二酸化炭素を吸収液10から脱離させるために、吸収液10に対して熱H1が供給される(図2A参照)。図1及び図2Aに示す例では、光源6は反応槽3に対して直接固定される。したがって、光源6の発光時に放出される熱H1が、反応槽3の内部に位置する吸収液10に供給される。すなわち、この例では、光照射工程S101及び熱供給工程S102は同時に実行される。なお、図2Aでは、熱H1が破線の矢印で示されており、以下の図面でも同様である。
【0074】
なお、一般的に熱は、鉛直上方に伝わりやすい。したがって、図2Aを例にとると、+Z方向が鉛直上向き方向に対応するように、言い換えれば光源6を反応槽3の底部側に配置するのが好ましい。これによって、光源6が発する熱H1を、効率的に吸収液10に供給することができる。
【0075】
また、図2Bは、図2Aに倣って、反応槽3に光源6が他の部材(以下、「伝熱部材」という。)を介して固定された場合の拡大図である。図2Bに示すように、伝熱部材13を介して、反応槽3に光源6を固定してもよい。伝熱部材13は、光源6が発する熱H1を吸収液10に供給する目的で設けられる。熱H1を吸収液10に効率的に供給する観点から、伝熱部材13は熱伝導率が高い金属部材であることが好ましい。例えば、伝熱部材13として、銅又はアルミニウム等が利用できる。
【0076】
念のため付言すると、熱供給工程S102は、吸収液10の温度を周囲の環境温度より高くする目的で行われる。典型的には、熱供給工程S102によって、吸収液10は35℃~120℃の温度に昇温される。なお、二酸化炭素の脱離に使われる熱エネルギーを低くする観点からは、吸収液10の昇温後の温度は60℃以下であることが好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下が特に好ましい。50℃以下程度の温度に加熱する態様とすることで、火傷の懸念が抑制されるため、本システムの一般家庭への設置が可能となる。この結果、大気中の二酸化炭素濃度を大きく低下させる効果が期待される。
【0077】
この熱供給工程S102が、工程(b)に対応する。
【0078】
(回収工程S103)
脱離された吸収済二酸化炭素を含む脱離ガス22は、典型的にはボンベ等の貯留槽(図示せず)に貯留される。また、例えば、配管を介して植物工場等の二酸化炭素利用施設に送り込んでもよい。
【0079】
この回収工程S103が、工程(c)に対応する。
【0080】
[検証]
二酸化炭素を吸収した吸収液に対して光を照射する効果について、以下、より詳細に説明する。
【0081】
(実施例1)
図3Aは、本検証で用いた実験系の概念図である。本実験系では、図3Aに示すように、反応槽33の内部に吸収液30が配置された。反応槽33はガラス製である。また、吸収液30は、20質量%濃度の二級アミン水溶液である。この吸収液30には、予め実験用の二酸化炭素ガスを用いて、二酸化炭素を吸収させた。より詳細には、吸収液30は、追加の二酸化炭素の吸収を示さなくなるまで二酸化炭素を吸収させた後、平衡状態とするために、大気雰囲気で1時間程度静置することで調整された。
【0082】
この吸収液30に対し、図3Aに示すように、光源36を用いて光L1を照射した。光源36には、ピーク波長が365nmのLED素子38が実装されている。
【0083】
また、光源36が放出する熱H1を吸収液30に供給するために、光源36を反応槽33に近接するように配置した。すなわち、光源36が光L1を出射することにより、反応槽33内部の吸収液30に対して、光L1の照射及び熱H1の供給が同時に行われた。光源36の点灯時間は50分間とし、その間、反応槽33の温度を、反応槽33に装着された熱電対39によって測定した。なお、実施例1と後述する比較例1において、両者の反応槽33の温度を同程度とするために、光源36に接続された電源37の出力を手動で調整しながら、実験を行った。
【0084】
光源36を点灯させた後、脱離した吸収済二酸化炭素を捕集するために、窒素ガスが充填されたシリンジ35aを押し込むことで、反応槽33に窒素ガスを送気した(図3A参照)。反応槽33は栓34によって密封されているため、シリンジ35aで送気を行うことにより、気体捕集用のシリンジ35bのピストンが引き出され、反応槽33内の気体を捕集することができる。このように捕集した反応槽33内の気体の二酸化炭素濃度を測定することで、吸収液30から脱離した二酸化炭素のガス量を測定した。
【0085】
(比較例1)
図3Bは、図3Aに倣って、比較例1の検証で用いた実験系を示した概念図である。比較例1の検証では、図3Bに示すように、光源36と反応槽33の間に、光源36が出射する光L1を遮るように、銅製の遮光板40を配置した。
【0086】
この時、光源36が放出する熱H1は遮光板40を介して反応槽33に供給される。また、光源36が出射する光L1は遮光板40に遮られるが、光L1の一部は、遮光板40に吸収されて遮光板40の温度上昇に寄与し、熱H1として反応槽33に供給される。すなわち、この比較例1では、反応槽33内部の吸収液30に対して、熱H1の供給のみが行われた。その他の構成及び操作手順は実施例1と同様である。
【0087】
(結果の検証)
図4は、横軸を光源36の点灯時から経過した時間とし、縦軸に熱電対39が計測した温度をプロットしたグラフである。図4においては、実施例1の結果が実線で、比較例1の結果が破線で示されている。前述した通り、実施例1及び比較例1における反応槽33の温度を同程度とするために、電源37の出力を調整しながら実験を行った。結果として、図4に示すように、反応槽33の温度は、20分程経過した時点から、実施例1よりも比較例1の方が1℃~2℃高くなっている。これは、電源37の出力を手動で操作したことによる誤差と考えられ、実施例1と比較例1において、反応槽33の温度は同程度であったといえる。
【0088】
実施例1において、シリンジ35bによって捕集されたガスは118mLであった。そして、このガスの二酸化炭素濃度は16%であった。つまり、光源36からの光の照射及び熱の供給によって、吸収液30から18.9mLの二酸化炭素が脱離した。
【0089】
一方で、比較例1では、シリンジ35bによって捕集されたガスは110mLであった。そして、このガスの二酸化炭素濃度は14%であった。つまり、光源36からの熱の供給によって、吸収液30から15.4mLの二酸化炭素が脱離した。
【0090】
前述したように、比較例1の反応槽33の温度は、実施例1の場合と同程度か、詳細には1℃~2℃高かったにもかかわらず、実施例1の場合の方が多くの二酸化炭素が脱離する結果となった。このことから、吸収液30に対して光の照射及び熱の供給を行うことによって、単に熱を供給するよりも多くの二酸化炭素を脱離できることが示された。
【0091】
吸収液30に対して、熱の供給に加えて光の照射を行うことで、より多くの二酸化炭素が脱離した理由について、本発明者は以下のように推察している。
【0092】
図5Aは、アミン系材料が二酸化炭素を吸収又は脱離する反応を示す際のエネルギー準位を示す模式図である。前述した通り、アミン系材料が二酸化炭素を吸収すると、バイカーボネートイオン、カルバメートイオン又はカルバミン酸が生成される。図5Aでは、バイカーボネートイオンのエネルギー準位を示すラインが破線で示され、カルバメートイオン及びカルバミン酸のエネルギー準位を示すラインが実線で示されている。
【0093】
アミン系材料と二酸化炭素と溶媒がそれぞれ独立で存在するエネルギー準位、言い換えれば二酸化炭素が脱離している状態から、アミン系材料が二酸化炭素を吸収して、バイカーボネートイオンに移行するには活性化エネルギーE1が必要である。同様に、アミン系材料が二酸化炭素を吸収して、カルバメートイオン又はカルバミン酸に移行するには活性化エネルギーE2が必要である。
【0094】
また、これらの逆反応では、それぞれの活性化エネルギー(E1,E2)以上のエネルギーが必要である。これは、アミン系材料が二酸化炭素を吸収して、バイカーボネートイオン、カルバメートイオン又はカルバミン酸を生成する反応は発熱反応であり、吸収時にエネルギーが放出されることに起因する。このとき、カルバメートイオン又はカルバミン酸を生成する際に放出されるエネルギーE4は、バイカーボネートイオンを生成する際に放出されるエネルギーE3より大きいことが知られている。これは、カルバメートイオン及びカルバミン酸が、バイカーボネートイオンよりもエネルギー的に安定であることを意味しており、図5Aにおいて、カルバメートイオン及びカルバミン酸のエネルギー準位がバイカーボネートイオンのそれよりも低く示されていることに対応する。
【0095】
二酸化炭素の脱離に注目すると、バイカーボネートイオンから二酸化炭素を脱離するためには、エネルギーE3に加えて活性化エネルギーE1に相当するエネルギーが必要である。また、カルバメートイオン及びカルバミン酸から二酸化炭素を脱離するためには、エネルギーE4に加えて活性化エネルギーE2に相当するエネルギーが必要である。
【0096】
ここで、二酸化炭素を脱離するために、吸収液に対して供給された熱によるエネルギーEHと、光の照射によるエネルギーELを想定する(図5B参照)。図5Bは、図5Aに倣って、吸収液に対して供給されるエネルギーを示した模式図である。図5Bにおいて、エネルギーEHは一点鎖線で、エネルギーELは二点鎖線で示されている。図5Bに示すように、熱によるエネルギーEHによって、バイカーボネートイオンから二酸化炭素を脱離する反応を起こすことができても、カルバメートイオン及びカルバミン酸から二酸化炭素を脱離する反応を起こすことができない場合が想定される。一方で、光の照射によるエネルギーELを考慮すると、脱離に必要な、エネルギーE4と活性化エネルギーE2との和以上のエネルギーとなり、カルバメートイオン及びカルバミン酸から二酸化炭素を脱離することができる。
【0097】
上記議論は、バイカーボネートイオンは光の吸収作用が小さく、カルバメートイオン及びカルバミン酸は光の吸収作用が大きいこととも整合する。言い換えれば、バイカーボネートイオンからの二酸化炭素の脱離においては熱エネルギーが支配的であり、光照射によるエネルギーの貢献は少ない。一方で、カルバメートイオン及びカルバミン酸からの二酸化炭素の脱離に対しては、光照射によるエネルギーの供給が効果的である。
【0098】
このように、二酸化炭素を吸収した吸収液に対して、熱の供給のみでなく、光を照射することによって、より多くの二酸化炭素を脱離させることができると考えられる。また、吸収液に供給される熱エネルギーが少ない低温での脱離条件であっても、吸収液に光を照射することによって、多くの二酸化炭素を脱離させることができるともいえる。
【0099】
物質に対して、原子が分離できる程度の熱エネルギーが供給されると、分子の乖離が発生する。二酸化炭素を脱離するために、二酸化炭素を吸収済の吸収液に対して熱エネルギーを供給する従来の方法は、上記の現象を利用したものである。
【0100】
一方で、多くの物質は、近紫外から可視域の範囲内において、光の吸収帯域を有している。物質に対して光が照射されると、物質を構成する分子が、光エネルギーによって励起された後、基底状態に移行する。また、光エネルギーの大きさによっては、物質を構成する原子核の位置が変化して化学結合が変化する場合がある。光励起により高いエネルギーを示す電子軌道に移ることで、共有結合が不安定になり、原子核どうしの反発が大きくなり、励起された状態で結合が乖離する。
【0101】
以上のように、熱エネルギーを利用した分子の乖離と、光エネルギーを利用した分子の乖離とでは、作用メカニズムが相違している。光エネルギーを起因として分子が乖離した直後は、ラジカル状態を示す中間体が存在しやすくなる。この中間体が次の反応を誘発することで、乖離反応が進みやすい方向に働く。
【0102】
つまり、本発明の方法は、熱エネルギーと光エネルギーの双方を利用することで、異なるメカニズムに由来する分子の乖離現象を生じさせるものであり、これによって、従来の方法と比較して、投入エネルギー量を低下させながらも二酸化炭素の脱離効率を高めることが可能となる。また、従来より低温環境での二酸化炭素の脱離も可能となり、二酸化炭素を回収するシステムの導入及び普及に大きく貢献する。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」にも大きく貢献するものである。
【0103】
一例として、光源36の放射照度を150mW/cm2とし、光源36の発光面が均一に100cm2であるとする。この場合、光源36から放射される単位時間あたりのエネルギーは、15Wである。光子(フォトン)1個あたりのエネルギーEは、プランク定数h、光速c、波長λを用いて、E=(h・c)/λで規定される。
【0104】
光源36から出射される光L1のピーク波長を365nmとすると、光源36から出射される光L1に含まれる光子1個あたりのエネルギーEは、
E = (6.626 × 10-34) × (2.998 × 108) / (365 × 10-9) = 5.442 × 10-19 [J]
と算定される。
【0105】
よって、この光源36から出射される光L1の光子数Nは、
N = 15 / (5.442 × 10-19) = 2.756 × 1019
と算定される。
【0106】
吸収液30内に含まれる、光吸収性を示すカルバメートイオン及びカルバミン酸の合計が0.1モルと仮定した場合、アボガドロ定数をNAとすると、カルバメートイオン及びカルバミン酸の分子数Kは、K=0.1×NAと算定される。よって、これらの分子を全て乖離させるのに必要な、光L1の基準照射時間τは、
τ = K / N = 0.1 × (6.022 × 1023) / (2.756 × 1019) =2185(秒)
と算定される。
【0107】
上記はあくまで基準照射時間τを算出する際の設計基準の一例である。例えば、図1に示すシステム1のように、反応槽3内で吸収液10を一時的に貯留した状態で光源6から光L1を照射する場合には、例えば上記の方法で算出された基準照射時間τに基づいて、実際に光L1を照射させる時間を設定することができる。また、図7Aを参照して後述するように、吸収液10を通流させながら光L1を照射する場合においては、上記の方法で算出された基準照射時間τに基づいて、吸収液10の流速を調整することができる。
【0108】
[変形例]
以下、本発明に係る吸収済二酸化炭素の脱離回収システムの変形例について、上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0109】
(第一変形例)
上記実施形態においては、反応槽3が光L1を透過する部材で構成される例を説明した。しかし、反応槽3がこのような部材で構成されない場合でも、図6に示すように、例えば、反応槽3において、光源6が設置される部分に光照射用の窓12を構成することで、反応槽3の内部に位置する吸収液10に対して光L1を照射することもできる。図6は、第一変形例に係る反応槽における、光源の設置部分の拡大図である。光照射用の窓12は、例えばガラス等で構成することができる。
【0110】
(第二変形例)
上記実施形態においては、反応槽3の外部に光源6が配置される例を示したが(図1等参照)、光源6は反応槽3の内部に配置されてもよい。図7Aは、第二変形例に係る反応槽の概念図である。また、図7Bは、図7Aを+Z方向から見た際の概念図である。なお、図7Bでは、光源46が二体設置される例が示されているが、二体以上設置しても構わない。また、光源46が設置される場所及び範囲は適宜調整が可能である。
【0111】
図7A及び図7Bに示すように、光源46は反応槽43の内部に配置され、通流する吸収液10と接触する。このように、光源46が反応槽43の内部に配置されることにより、光源46が発光時に発する熱H1を効率良く吸収液10に供給できる。例えば、光源46と電気的に接触される通電部材41を反応槽43の外部に設けることで、光源46を駆動するための電源と、反応槽43内部の光源46を通電できる。
【0112】
また、上記実施形態においては、吸収済二酸化炭素を脱離する際、吸収液10が反応槽3に留まるものとして説明したが(図1参照)、吸収液10を通流させながら二酸化炭素の脱離を行ってもよい。図7Aに示すように、反応槽43は吸収液10を導入する導入口44と、二酸化炭素を脱離した後の吸収液10を排出する排出口45を備える。この構成によれば、吸収液10を通流させながら吸収済二酸化炭素を脱離することができる。つまり、この例では、吸収液10はX方向に通流される。
【0113】
前述した通り、導入口44に近い側よりも排出口45に近い側の方が、二酸化炭素の脱離が大きいと想定される。このため、図7A及び図7Bに示すように、脱離ガス22を回収する回収ポート47は、導入口44よりも排出口45に近い側に配置するのが好ましい。
【0114】
(第三変形例)
吸収液10に対してなるべく効率的に光を吸収させる観点からは、光の進行方向に関して、吸収液10の幅が狭い方が好ましい。かかる観点から、図8に示すように、反応槽53内において、吸収液10が位置する内部空間を、正面視において扁平形状とするのが効果的である。図8は、第三変形例に係る反応槽の概念図である。
【0115】
図8では、光源56は反応槽53に直接固定される例が示されている。光源56が発する光L1は、反応槽53の-Z方向に係る面に設けられた窓12を介して吸収液10に照射される。また、光源56が発する熱H1は、窓12を含む反応槽53を介して吸収液10に供給される。
【0116】
このとき、図8に示すように、反応槽53の上壁部58を底壁部59に対して傾斜させるのが好適である。すなわち、反応槽53は、X方向に関して、導入口54から排出口55に近づくに連れて、底壁部59と上壁部58との間のZ方向に係る離間距離D1が増大する構造である。
【0117】
このように構成されることで、反応槽53内において、吸収液10から脱離した二酸化炭素を含む脱離ガス22を一時的に位置させるための空間(以下、「脱離空間60」という。)を十分に確保できる。また、上壁部58の傾斜によって、脱離空間60に存在する脱離ガス22を回収ポート57へと導くことができる。
【0118】
また、反応槽は複数設置されても構わない。図9は、第三変形例に係る反応槽を、Z方向に複数積み重ねた際の概念図である。前述した通り、反応槽53内において、吸収液10が位置する内部空間を、正面視において扁平形状とするのが好ましい(図8参照)。この場合、X-Y平面に係る反応槽53の設置面積が比較的大きくなることが想定される。
【0119】
また、処理対象ガス20に含まれる二酸化炭素ガスの量によっては、吸収液10の体積を大きくする必要があり、脱離回収システムの設置面積が大きくなることも想定される。したがって、図9を例にとると、+Z方向が鉛直上向き方向に対応するように、言い換えれば反応槽53bを反応槽53aの頂部側に配置するのが好ましい。このように配置することで、反応槽(53a,53b)の設置面積を有効に活用できる。
【0120】
なお、図9では、二基の反応槽(53a,53b)が並列に接続される場合について説明したが、反応槽(53a,53b)が直列に接続されても構わない。また、反応槽は二基以上積み重ねられても構わない。
【0121】
(第四変形例)
また、上記実施形態においては、吸収液10に対して、光源6が発する熱を供給する例を説明した。しかし、本発明は、吸収液10に対して光を照射する光源とは別の熱源を備える構成を排除しない。図10は、第四変形例に係る反応槽の概念図である。図10においては、吸収槽は省略されて示されている。図10に示すように、反応槽63は、吸収液10に対して熱供給する熱源68を備えてもよい。熱源68としては、例えば、ヒータやボイラー等を採用することができる。
【0122】
また、上記実施形態において、光源6は反応槽3に直接又は他の部材を介して固定されるものとして説明した。しかし、吸収液10に対する熱供給が可能であれば、図10に示すように、光源66は、反応槽63と互いに離間して配置されても構わない。なお、反応槽63が熱源68を備える場合でも、光源66を反応槽63に直接又は他の部材を介して固定して、光源66が発する熱を吸収液10に供給することもできる。
【0123】
(第五変形例)
また、いわゆるバッチ式の形態をとれば、例えば図1で示した吸収槽2を必要とせず、反応槽のみで二酸化炭素の吸収及び脱離が可能である。図11は、第五変形例に係る反応槽の概念図である。
【0124】
この構成による、二酸化炭素の吸収及び脱離の流れについて説明する。図11に示すように、反応槽73は、処理対象ガス20を流入させる流入口74と、処理後ガス21及び脱離ガス22を回収できる回収ポート77を有する。二酸化炭素の吸収においては、流入口74につながる流路に備えられたバルブ79a及び回収ポート77の後段のバルブ79bを開状態とし、回収ポート77の後段のもう一方のバルブ79cは閉状態とされる。そして、例えば送液ポンプ等で流路78から吸収液10をポンプアップし、吸収液10と処理対象ガス20とを気液接触させる。その際、処理後ガス21は回収ポート77のバルブ79bが備えられた流路から排出される。
【0125】
二酸化炭素の脱離においては、バルブ79a及びバルブ79bは閉状態とされ、バルブ79cは開状態とされる。そして、例えば光源76を用いて、吸収液10に対して光の照射及び熱の供給を行い、吸収済二酸化炭素の脱離が行われる。その際、脱離ガス22は回収ポート77のバルブ79cが備えられた流路から回収される。なお、光源76に加えて、吸収液10に対して熱を供給する熱源をさらに備えてもよい。
【0126】
この構成によれば、システムの構成に要する設置面積が少ないという利点がある。例えば、処理対象ガス20の発生量及び処理対象ガス20が含む二酸化炭素濃度に応じて、本変形例を採用してもよい。
【0127】
(第六変形例)
上記第四変形例において、反応槽63が、吸収液10に対して熱供給する熱源68を備える例について説明した。この熱源68の一態様として、太陽光を吸収して熱に変換する部材(以下、便宜上「太陽光集熱部材」、又は単に「集熱部材」という。)を利用してもよい。本変形例について、図12A及び図12Bを参照して説明する。
【0128】
図12Aは反応槽の斜視図に対応する。図12Bは、図12Aの反応槽83を+Y側から見たときの図面であり、説明の都合上、反応槽83の内部については透過して図示されている。図12A及び図12Bにおいて、+Z方向が鉛直上向きに対応する。
【0129】
本変形例の反応槽83は、例えば+Z方向から見た際に円形を呈する円柱形状である。図12Aに示すように、反応槽83の周方向に関して、互いに離間するように光源86が配置される。光源86が発する光L1が、光照射用の窓12を介して吸収液10に対して照射される(図12B参照)。また、光源86は反応槽83に対して直接固定されている。つまり、光源86が発する熱H1が吸収液10に対して供給される。
【0130】
さらに、反応槽83は、+Z側の面に窓14を有する。本変形例の反応槽83が屋外に配置されることで、窓14を介して太陽C1が発する太陽光C2が、反応槽83内の吸収液10に照射される。窓14は例えば石英ガラスで構成される。
【0131】
太陽光C2に含まれる光の内訳は、概して、紫外光が7%、可視光が43%、赤外光が50%といわれている。太陽光C2に含まれる光の一部(典型的には紫外光)は、吸収液10が含む二酸化炭素吸収材に吸収され、二酸化炭素の脱離に寄与する。この点については、上述した議論と同様である。また、吸収液10が含む溶媒が太陽光C2に含まれる光の一部(典型的には赤外光)を吸収して、吸収液10が昇温することで、二酸化炭素の脱離が促進される効果も期待できる。この点に関し、二酸化炭素吸収材として典型的に用いられるアミン系材料は紫外光の吸収を示すため、利用可能な光の波長範囲は広域にわたり、太陽光C2を有効に利用することができる。
【0132】
また、反応槽83は、内部に集熱部材15を備える(図12B参照)。本変形例においては、集熱部材15が反応槽83の底壁部59に配置される例が示されている。つまり、集熱部材15は、反応槽83に対して直接固定される。なお、集熱部材15は、ステンレス等の金属で構成できる。また、太陽光C2を効率的に吸収する観点から、典型的には黒色のコーティングが施されることが好ましい。
【0133】
太陽光C2の一部の光は、吸収液10を透過して、反応槽83の底壁部59に到達することも考えられる。図12Bに示すように、集熱部材15を底壁部59に配置することで、この光のエネルギーを好適に利用できる。集熱部材15は、太陽光C2(典型的には赤外光)を吸収して加熱され、吸収液10に対して熱H1を供給する。このように、太陽光C2で加熱される集熱部材15を利用することで、ヒータやボイラー等と比べて、加熱に必要なエネルギーを低減しつつ、吸収液10に対して熱H1を供給することができる。
【0134】
加熱に必要なエネルギーを低減するという観点から、当該ヒータ等をいわゆる太陽光発電システムによって駆動することも想定される。しかし、太陽光発電システムにおいて、太陽光C2を吸収する太陽光パネルが利用可能な光の波長範囲には課題がある。一方で、本変形例においては、特に赤外光を有効に利用できるため、利用可能な光の波長範囲は広域にわたり、太陽光発電システムと比較して、効率的に太陽光C2を利用できるという特徴がある。
【0135】
(第七変形例)
図13A図13Cを参照して、第七変形例の反応槽について説明する。図13Aは、反応槽の斜視図に対応する。図13Bは、図13Aの反応槽83を+X側から見たときの図面であり、説明の都合上、反応槽83の内部については透過して図示されている。図13Cは、図13Aの反応槽83を+Y側から見たときの図面であり、図13Bと同様に、反応槽83の内部については透過して図示されている。更に、図13Cでは、伝熱部材13の図示が省略されている。
【0136】
本変形例の反応槽83は、丸棒形状の集熱部材16を備える。より詳細には、集熱部材16は複数本からなる丸棒形状の部材で構成されており、反応槽83に対して+Z方向に離間した位置に配置されている。図13Aに示すように、この集熱部材16は、伝熱部材13を介して反応槽83に固定されている。
【0137】
本変形例の反応槽83が屋外に配置されることで、太陽C1からの太陽光C2が集熱部材16に照射され、集熱部材16において太陽光C2が吸収されて加熱される。集熱部材16で発生した熱は、集熱部材16に連結された伝熱部材13を介して、吸収液10に対して熱H1として供給される。
【0138】
本変形例では、反応槽83の+Z側の位置に配置された集熱部材16が、複数の丸棒形状の部材で構成されていた。これに対し、集熱部材16に代えて、平板状の集熱部材15を配置すると、例えば朝方時間帯や夕方時間帯のように、太陽C1が比較的低い位置にある場合には、集熱部材15の面に対する太陽光C2の入射角が大きくなり、集熱部材15の面における太陽光C2の反射率が高まることが想定される。図13Cに示すような複数本の丸棒形状の部材で構成された集熱部材16とすることで、太陽C1の高さ位置にかかわらず、太陽光C2の吸収効率を高めることができる。
【0139】
なお、反応槽83内部に、平板状の集熱部材15が追加的に備えられても構わない。図13B図13Cに示す例では、第六変形例と同様に、反応槽83の底壁部59に平板状の集熱部材15が追加的に配置されている。集熱部材15からの熱が吸収液10に供給される点については、第六変形例の箇所と共通するため、説明を割愛する。
【0140】
なお、この変形例では、反応槽83の+Z側に配置された集熱部材16が、丸棒状の部材であるものとして説明したが、あくまで一例である。集熱部材16の形状が、矩形柱状等の丸棒状以外である場合にも、本発明の射程範囲に含まれる。
【0141】
(第八変形例)
図14A図14Cを参照して、第八変形例の反応槽について説明する。図14Aは、反応槽の斜視図に対応する。図14Bは、図14Aの反応槽83を+X方向に見たときの図面であり、説明の都合上、反応槽83の内部については透過して図示されている。
【0142】
図14Cは、図14Aの反応槽83を、後述する架台87が備える傾斜面の法線方向に見たときの図面であり、説明の都合上、反応槽83の内部については透過して図示されている。なお、図14Cでは、架台87の図示が省略されている。
【0143】
図14A図14Cにおいて、+Z方向が鉛直上向きに対応する。
【0144】
第七変形例では、集熱部材16が、伝熱部材13を介して反応槽83に固定される例を示した。これに対し、本変形例では、集熱部材16が反応槽83に直接固定されている。
【0145】
本変形例では、反応槽83は、傾斜面87aを有する架台87に設置されている。反応槽83を傾斜面87aに設置することで、反応槽83に固定されていた集熱部材16も、傾斜面87aに沿って配置される。このような配置態様とすることで、太陽C1からの太陽光C2を効率的に集熱部材16に取り込むことが可能となる。
【0146】
なお、本変形例においては、図14B及び図14Cに示すように、反応槽83の外壁の一部に、凹部84が設けられていても構わない。この凹部84は、集熱部材16の端部16aの形状に対応した形状を呈し、端部16aが凹部84の箇所に当接して配置される。この結果、集熱部材16と反応槽83が接触する面積が増大するため、吸収液10に対して集熱部材16からの熱H1を、効率的に供給できる。
【0147】
また、集熱部材16の一例として、図15に示すような構造も利用できる。図15は、集熱部材の内部構造の一例を示す模式図である。図15に示すように、集熱部材16が備える外側管161及び内側管162は、それぞれの一方の端部が封止部163によって封止され、空間(以下、便宜上「封止空間164」という。)を形成する。封止空間164は真空状態とされるため、後述する集熱部165が発する熱H1が外部に漏れにくく、好適である。例えば、外側管161と内側管162は石英ガラス等のガラス材料で構成できる。
【0148】
また、例えばシリコーンで構成された密閉部169で密閉される内側管162の内部には、集熱部165、伝熱フィン166、及び、一方の端部167aが外部に露出するヒートパイプ167が配置される。ヒートパイプ167の内部は真空状態であり、純水等の作動液168が配置される。典型的には、集熱部165はステンレス等の金属からなり、伝熱フィン166はアルミニウム等の金属からなる。
【0149】
集熱部材16は、例えば図14A図14Cを用いて説明した態様で、反応槽83に設置できる。つまり、図14Cにおける集熱部材16の端部16aが、ヒートパイプ167の端部167aに対応する。集熱部材16に対して太陽光C2が照射されることで、集熱部165が加熱され、伝熱フィン166を介して作動液168に熱H1が供給される。加熱されて蒸発した作動液168は、ヒートパイプ167の一方の端部167aに向かって移動する。端部167aにおいて、高温の作動液168の蒸気から、反応槽83を介して、吸収液10に熱H1が供給される(図14C参照)。吸収液10に熱H1を供給して低温となった作動液168の蒸気は液化し、ヒートパイプ167のもう一方の端部167bに移動する。この一連の動作が繰り返されることで、太陽光C2をエネルギー源とする吸収液10の加熱が行われる。
【0150】
(第九変形例)
吸収液10に対して熱供給する熱源68(図10参照)の一態様として、加熱されて高温となった熱媒体を用いても構わない。つまり、高温の熱媒体と吸収液10との間で行われる熱交換によって、吸収液10に熱H1が供給される。この熱H1の供給に要するエネルギーを低減する観点から、熱媒体は太陽光C2を用いて加熱されることが好ましい。この点について、図16A図16Cを参照して説明する。
【0151】
図16Aは、第九変形例に係る反応槽89の設置態様の一例を示す概念図であり、後述するように、屋根94に設置された温水生成器90から熱交換器91に対して温水が供給され、熱交換器91内において反応槽89内の吸収液10が加熱される。図16Bは、屋根94に設置された温水生成器90を+X方向に見たときの模式的な図面であり、説明の都合上、温水生成器90の内部が透過して図示されている。図16Cは、熱交換器91において行われる熱交換の態様を示す概念図である。図16A図16Cにおいて、+Z方向が鉛直上向きに対応する。
【0152】
図16Aに示すように、反応槽89は、流路92を介して熱交換器91と接続される。また、熱交換器91は、流路93を介して温水生成器90と接続される。
【0153】
反応槽89については、上記した実施形態及び各変形例に係る反応槽の構成が利用できる。また、反応槽の形状は、設置環境に合わせた設計が可能である。その一例として、図16Aでは、X方向に係る辺が比較的短く設計され、-X側に複数の光源86が直接固定された反応槽89が図示されている。反応槽89には、熱交換器91に接続される流路92が設けられ、吸収液10は流路92を介して熱交換器91に導かれる。
【0154】
温水生成器90は、例えば図16Bに示すようにL字型の断面形状を有し、その内部に熱媒体としての水95が収容されている。温水生成器90は、外壁面の一部に平板状の集熱部材15を有する。集熱部材15が太陽光C2を吸収することで加熱され、水95の温度が高温となる(以下、「温水95」と記載する)。この温水95は、流路93を介して熱交換器91に導かれる。
【0155】
図16Cに模式的に示すように、熱交換器91内において、流路92を介して流れてきた吸収液10と、流路93を介して流れてきた温水95との間で、熱交換が行われる。これにより、温水95から吸収液10に対する熱H1の供給が行われる。
【0156】
なお、太陽C1の日射条件や時間帯によっては、温水95の温度が比較的低温であることも想定される。このため、熱交換器91による熱交換は、温水95の温度が吸収液10よりも高温である場合に行われることが好適である。
【0157】
また、図16Aでは、集熱部材15に対して太陽光C2を効率的に照射する観点から、温水生成器90を建造物の屋根94に設置する例が示されている。このとき、当該建造物に対する荷重を軽減する観点から、図16Aに示すように、反応槽89及び熱交換器91を屋根94以外の場所(地面等)に設置することが好ましい。反応槽89の内部には、例えばアミン系材料を含む吸収液10が位置するため、安全上の観点から、反応槽89は地面に設置されることが特に好ましい。
【0158】
なお、本変形例では、温水生成器90が建造物の屋根94に設置される例について説明したが、これに限定されない。温水生成器90は、第七変形例及び第八変形例で上述した反応槽83と、実質的に近似した構造を採用することができるため、その設置態様も、第七変形例及び第八変形例で上述した内容が適宜参照され得る。
【0159】
また、本変形例では、熱交換器91に対して流路93を介して供給される媒体が「温水95」であるものとしたが、比較的昇温しやすい流体(熱媒体)であれば、水には限定されない。この場合、「温水生成器90」は、「流体昇温器」と読み替えることができる。
【0160】
上記実施形態、及び各変形例は、適宜組み合わせて実現することが可能である。
【0161】
冒頭の課題において前述した通り、二酸化炭素の脱離回収システムにおいては、二酸化炭素の脱離に必要なエネルギーを低減させることはもちろん、システムの運転を低コストで行うことが求められる場合が多い。上記の変形例で例示した通り、太陽光を利用することによって、二酸化炭素の脱離に係るコストを更に低減することができる。
【符号の説明】
【0162】
1 : 脱離回収システム
2 : 吸収槽
3,33,43,53,63,73,83,89 : 反応槽
4,5,52,78,92,93 : 流路
6,36,46,56,66、76,86 : 光源
7,47,57,77 : 回収ポート
8,38 : LED素子
9 : 基板
10,30 : 吸収液
11 : 反射膜
12,14 : 窓
13 : 伝熱部材
15,16 : 集熱部材
16a,167a,167b : 端部
20 : 処理対象ガス
21 : 処理後ガス
22 : 脱離ガス
34 : 栓
35a,35b : シリンジ
37 : 電源
39 : 熱電対
40 : 遮光板
41 : 通電部材
44,54 : 導入口
45,55 : 排出口
58 : 上壁部
59 : 底壁部
60 : 脱離空間
68 : 熱源
74 : 流入口
79a,79b,79c : バルブ
84 : 凹部
87 : 架台
87a : 傾斜面
90 : 温水生成器
91 : 熱交換器
94 : 屋根
95 : 温水
161 : 外側管
162 : 内側管
163 : 封止部
164 : 封止空間
165 : 集熱部
166 : 伝熱フィン
167 : ヒートパイプ
168 : 作動液
169 : 密閉部
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図14C
図15
図16A
図16B
図16C