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特開2023-184390コイル部品、送電装置、受電装置、電力伝送システム、及び電力伝送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184390
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】コイル部品、送電装置、受電装置、電力伝送システム、及び電力伝送方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/14 20060101AFI20231221BHJP
   H02J 50/70 20160101ALI20231221BHJP
   H02J 50/10 20160101ALI20231221BHJP
   B60L 53/122 20190101ALN20231221BHJP
   B60L 5/00 20060101ALN20231221BHJP
   B60M 7/00 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
H01F38/14
H02J50/70
H02J50/10
B60L53/122
B60L5/00 B
B60M7/00 X
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022170138
(22)【出願日】2022-10-24
(62)【分割の表示】P 2022098132の分割
【原出願日】2022-06-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】岡部 将人
【テーマコード(参考)】
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5H105AA17
5H105BA09
5H105BB05
5H105CC19
5H105DD10
5H105DD12
5H105EE15
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC26
5H125FF15
(57)【要約】
【課題】大型化及び重量増加を抑制しつつ、性能を向上できるコイル部品を提供する。
【解決手段】一実施の形態に係るコイル部品10では、第1平面コイル11と、第1平面コイル11に重ねられた第2平面コイル12と、第1平面コイル11における第2平面コイル12と対面する面の反対の面を覆う部分を含み、磁性を有する保持体30と、保持体30における第1平面コイル11と対面する面の反対の面と対面するように配置される磁気シールド部材20と、を備える。第1平面コイル11と第2平面コイル12は、直列に接続される。そして、第2平面コイル12の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1平面コイルと、
前記第1平面コイルと重ねられた第2平面コイルと、
前記第1平面コイルにおける前記第2平面コイルと対面する面の反対の面を覆う部分を含み、磁性を有する保持体と、
前記保持体の前記覆う部分における前記第1平面コイルと対面する面の反対の面と対面するように配置される磁気シールド部材と、
を備え、
前記第1平面コイルと前記第2平面コイルは、直列に接続され、
前記第2平面コイルの厚さは、0.15mm以上0.35mm以下である、コイル部品。
【請求項2】
前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルは、79KHz以上90KHz以下の交流電流を供給されるか、又は、79KHz以上90KHz以下の交流磁界を供給されるようになっている、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記第1平面コイルの厚さは、0.1mm以上1.0mm以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記第1平面コイルと前記第2平面コイルは隙間を空けて重なり、
前記隙間は、0.5mm以上1.5mm以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記保持体は、前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとが隙間を空けて重なる状態で前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとを一体的に保持し、
前記保持体は、前記第1平面コイルの側面を覆う部分と、前記隙間を充填する部分とをさらに含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記保持体は、樹脂と、前記樹脂に保持された磁性体粒子とを含む、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記保持体の比透磁率は、5.0以上である、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記保持体は、前記第2平面コイルから突出する壁部を含む、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記磁気シールド部材は、プレート状のフェライトを含む、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記磁気シールド部材の比透磁率は、500以上である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルはそれぞれ、それぞれの中心軸線に直交する方向に配列された複数のターン部を含み、
前記第1平面コイルの前記複数のターン部のいずれかと、前記第2平面コイルの前記複数のターン部のいずれかとは、前記第1平面コイルの軸方向で部分的に重なり、前記第1平面コイルの軸方向で重なる前記第1平面コイルのターン部の一部と前記第2平面コイルのターン部の一部とは、互いに平行に延びる、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記第1平面コイルの材質と前記第2平面コイルの材質は、同じである、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項13】
前記第1平面コイルのターン数及び前記第2平面コイルのターン数は、4以上12以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項14】
前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルは、一辺が800mmの正方形に収まるサイズである、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項15】
前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとの間に配置される偶数個の他の平面コイルをさらに備え、
前記第1平面コイル、前記他の平面コイル、及び前記第2平面コイルは直列に接続され、
前記他の平面コイルにおける前記第1平面コイルに接続される平面コイル及び当該平面コイルと異なる平面コイルのうちの少なくとも前記異なる平面コイルの厚さは、0.15mm以上0.35mm以下である、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項16】
前記他の平面コイルのうちの前記第1平面コイルに接続される平面コイルの厚さも、0.15mm以上0.35mm以下である、請求項15に記載のコイル部品。
【請求項17】
請求項1に記載のコイル部品を備える、送電装置。
【請求項18】
79KHz以上90KHz以下の交流電流を前記コイル部品に供給する高周波電流供給部をさらに備える、請求項17に記載の送電装置。
【請求項19】
請求項1に記載のコイル部品を備える、受電装置。
【請求項20】
前記コイル部品で電磁誘導により生じる79KHz以上90KHz以下の交流電流を直流電流に変換する変換部をさらに備える、請求項19に記載の受電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイル部品、送電装置、受電装置、電力伝送システム、及び電力伝送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触で電力を伝送するワイヤレス電力伝送システムが普及しつつある。
【0003】
電力を非接触で伝送する場合、コイルを含む共振回路に高周波の電流が流される。この場合、コイルにおいて表皮効果が生じ得る。表皮効果は、交流抵抗を増大させ、発熱による電力消費量の増加を招く。そのため、表皮効果は、伝送効率を低下させる原因になる。
【0004】
コイルとしてリッツ線を用いた場合、表皮効果が抑制される。ただし、リッツ線は、多数のエナメル線を撚り合わせて形成されるため、製造コストが高く且つ製造に手間がかかる。一方で、渦巻形状且つ板状で、導線断面が矩形状の平面コイルを採用する技術も知られている(特許文献1参照)。このような平面コイルによれば、コイルのサイズによらず製造効率の向上が図れる。そのため、平面コイルは、コイルのサイズが大きくなり得る例えば電気自動車用の大電力のワイヤレス電力伝送システムに適している。
【0005】
電気自動車用のワイヤレス電力伝送システムでは、送電装置が駐車場などの路面に設置され、受電装置が電気自動車に設置される。例えば電気自動車の用途で上記平面コイルを用いた場合には、送電装置及び受電装置のいずれにおいても特に高さ寸法を抑制できる。そのため、上記平面コイルは、スペースの制約が厳しく課される例えば車両分野において有益に機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-47614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
送電装置や受電装置などのコイルを組み込む装置では、一般に大型化及び重量の抑制が望まれる。この場合、大型化及び重量増加を抑制しつつ伝送性能が良好であれば一層望ましい。
【0008】
本開示の課題は、大型化及び重量増加を抑制しつつ、性能を向上できるコイル部品、送電装置、受電装置、電力伝送システム、及び高効率の電力伝送方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の実施の形態は、以下[1]~[22]に関連する。
【0010】
[1] 第1平面コイルと、前記第1平面コイルと重ねられた第2平面コイルと、前記第1平面コイルにおける前記第2平面コイルと対面する面の反対の面を覆う部分を含み、磁性を有する保持体と、前記保持体における前記第1平面コイルと対面する面の反対の面と対面するように配置される磁気シールド部材と、を備え、前記第1平面コイルと前記第2平面コイルは、直列に接続され、前記第2平面コイルの厚さは、0.15mm以上0.35mm以下である、コイル部品。
【0011】
[2] 前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルは、79KHz以上90KHz以下の交流電流を供給されるか、又は、79KHz以上90KHz以下の交流磁界を供給されるようになっている、[1]に記載のコイル部品。
【0012】
[3] 前記第1平面コイルの厚さは、0.1mm以上1.0mm以下である、[1]又は[2]に記載のコイル部品。
【0013】
[4] 前記第1平面コイルと前記第2平面コイルは隙間を空けて重なり、前記隙間は、0.5mm以上1.5mm以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載のコイル部品。
【0014】
[5] 前記保持体は、前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとが隙間を空けて重なる状態で前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとを一体的に保持し、前記保持体は、前記第1平面コイルの側面を覆う部分と、前記隙間を充填する部分とをさらに含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載のコイル部品。
【0015】
[6] 前記保持体は、樹脂と、前記樹脂に保持された磁性体粒子とを含む、[1]~[5]のいずれかに記載のコイル部品。
【0016】
[7] 前記保持体の比透磁率は、5.0以上である、[1]~[6]のいずれかに記載のコイル部品。
【0017】
[8] 前記保持体は、前記第2平面コイルから突出する壁部を含む、[1]~[7]のいずれかに記載のコイル部品。
【0018】
[9] 前記磁気シールド部材は、プレート状のフェライトを含む、[1]~[8]のいずれかに記載のコイル部品。
【0019】
[10] 前記磁気シールド部材の比透磁率は、500以上である、[1]~[9]のいずれかに記載のコイル部品。
【0020】
[11] 前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルはそれぞれ、それぞれの中心軸線に直交する方向に配列された複数のターン部を含み、前記第1平面コイルの前記複数のターン部のいずれかと、前記第2平面コイルの前記複数のターン部のいずれかとは、前記第1平面コイルの軸方向で部分的に重なり、前記第1平面コイルの軸方向で重なる前記第1平面コイルのターン部の一部と前記第2平面コイルのターン部の一部とは、互いに平行に延びる、[1]~[10]のいずれかに記載のコイル部品。
【0021】
[12] 前記第1平面コイルの材質と前記第2平面コイルの材質は、同じである、[1]~[11]のいずれかに記載のコイル部品。
【0022】
[13] 前記第1平面コイルのターン数及び前記第2平面コイルのターン数は、4以上12以下である、[1]~[12]のいずれかに記載のコイル部品。
【0023】
[14] 前記第1平面コイル及び前記第2平面コイルは、一辺が800mmの正方形に収まるサイズである、[1]~[13]のいずれかに記載のコイル部品。
【0024】
[15] 前記第1平面コイルと前記第2平面コイルとの間に配置される偶数個の他の平面コイルをさらに備え、前記第1平面コイル、前記他の平面コイル、及び前記第2平面コイルは直列に接続され、前記他の平面コイルにおける前記第1平面コイルに接続される平面コイル及び当該平面コイルと異なる平面コイルのうちの少なくとも前記異なる平面コイルの厚さは、0.15mm以上0.35mm以下である、[1]~[14]のいずれかに記載のコイル部品。
【0025】
[16] 前記他の平面コイルのうちの前記第1平面コイルに接続される平面コイルの厚さも、0.15mm以上0.35mm以下である、[15]に記載のコイル部品。
【0026】
[17] [1]~[16]のいずれかに記載のコイル部品を備える、送電装置。
【0027】
[18] 79KHz以上90KHz以下の交流電流を前記コイル部品に供給する高周波電流供給部をさらに備える、[17]に記載の送電装置。
【0028】
[19] [1]~[16]のいずれかに記載のコイル部品を備える、受電装置。
【0029】
[20] 前記コイル部品で電磁誘導により生じる79KHz以上90KHz以下の交流電流を直流電流に変換する変換部をさらに備える、[19]に記載の受電装置。
【0030】
[21] 送電装置と、受電装置とを備え、前記送電装置及び前記受電装置のうちの少なくともいずれかが、[1]~[16]のいずれかに記載のコイル部品を備える、電力伝送システム。
【0031】
[22] [1]~[16]のいずれに記載のコイル部品を備える送電装置における前記コイル部品に、79KHz以上90KHz以下の交流電流を供給する工程と、前記送電装置で生じる磁界を受電装置で受信する工程と、を備える電力伝送方法。
【発明の効果】
【0032】
本開示によれば、大型化及び重量増加を抑制しつつ、性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】一実施の形態に係るコイル部品が適用されるワイヤレス電力伝送システムを概略的に示す図である。
図2】一実施の形態に係るコイル部品の斜視図である。
図3図2に示すコイル部品の分解斜視図である。
図4図2のIV-IV線に沿うコイル部品の断面を俯瞰した斜視図である。
図5図2のIV-IV線に沿うコイル部品の断面図である。
図6】コイル部品の性能評価に関するシミュレーション結果を示すグラフを示す図である。
図7】コイル部品の性能評価に関するシミュレーション結果を示すグラフを示す図である。
図8】コイル部品の性能評価に関するシミュレーション結果を示すグラフを示す図である。
図9】他の実施の形態に係るコイル部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しながら一実施の形態について説明する。
【0035】
なお、本明細書において、「シート」、「フィルム」、「板」などの用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば「シート」は、フィルムや板とも呼ばれ得るような部材も含む概念である。
【0036】
図1は、一実施の形態に係るコイル部品10が適用されるワイヤレス電力伝送システムSを概略的に示す。まず、ワイヤレス電力伝送システムS(以下、電力伝送システムSと略す。)について図1を参照しつつ説明する。
【0037】
<ワイヤレス電力伝送システム>
電力伝送システムSは、送電装置1と、受電装置2とを備える。送電装置1は、コイル部品10と、高周波電流供給部1Aとを含む。送電装置1におけるコイル部品10は、送電コイルとして機能する。高周波電流供給部1Aは、送電コイルとしてのコイル部品10に高周波電流を供給する。
【0038】
受電装置2は、コイル部品10と、変換部2Aとを含む。受電装置2におけるコイル部品10は、受電コイルとして機能する。変換部2Aは、コイル部品10で生じる高周波電流を整形する。変換部2Aは、高周波電流を直流電流に変換する整流回路などを有する。変換部2Aは、例えば複数のダイオードを含む全波整流回路と、平滑化コンデンサーと、を備えて構成されてもよい。
【0039】
本実施の形態では、送電装置1及び受電装置2のそれぞれがコイル部品10を含む。ただし、送電装置1及び受電装置2のうちの一方のみにコイル部品10が用いられ、他方には異なる形式のコイル部品が用いられてもよい。
【0040】
送電装置1から受電装置2にワイヤレス(非接触)で電力を伝送する際には、送電装置1が、高周波電流供給部1Aから送電コイルとしてのコイル部品10に所定の周波数の高周波電流を供給する。この際、コイル部品10には、電磁誘導により磁界が生じる。そして、この磁界の影響で、受電装置2では、受電コイルとしてのコイル部品10に高周波電流が生じる。すなわち、受電装置2は磁界を受信して電磁誘導により高周波電流を通流させる。変換部2Aは、この高周波電流を直流電流に変換し、変換した直流電流を例えば図示しないバッテリに供給する。
【0041】
一例として、以下で説明する実施の形態にかかるコイル部品10は、75KHz以上100KHz以下の交流電流を供給されるか、又は、75KHz以上100KHz以下の交流磁界を供給される場合に、性能が向上するように作製されている。詳しくは、コイル部品10は、79KHz以上90KHz以下の交流電流、特に85KHzの交流電流を供給されるか、又は、79KHz以上90KHz以下の交流磁界、特に85KHzの交流磁界を供給される場合に、特に性能が向上するように作製されている。したがって、高周波電流供給部1Aは、コイル部品10にとって望ましい交流電流に対応するように、一例として、75KHz以上100KHz以下の交流電流、又は79KHz以上90KHz以下の交流電流、又は85KHzの交流電流を供給してもよい。また、変換部2Aは、交流磁界を供給された際に電磁誘導により生じる75KHz~100KHzの交流電流、又は79KHz以上90KHz以下の交流電流、又は85KHzの交流電流を、直流電流に変換するようになっていてもよい。
【0042】
図1に示す電力伝送システムSは、電力伝送方式として、磁界共鳴方式を採用している。ただし、本実施の形態に係るコイル部品10は、電磁誘導方式の電力伝送システムで用いられてもよい。また、電力伝送システムSは、電気自動車にワイヤレスで電力を伝送するシステムとして構成される。この場合、送電装置1は、道路、駐車場などに設置される。受電装置2は、電気自動車に設置される。
【0043】
ただし、電力伝送システムSの用途は、電気自動車への電力伝送に限られるものではない。例えば、電力伝送システムSは、ドローンなどの飛行体、ロボットへの電力伝送に用いられてもよい。また、電力伝送システムSは、海中における潜水艇や、探査ロボットへの電力伝送に用いられてもよい。また、コイル部品10の用途は、ワイヤレス電力伝送システムに限られない。例えば、コイル部品10は、トランス、DC-DCコンバータ、アンテナなどに用いられてもよい。
【0044】
<コイル部品>
以下、コイル部品10について説明する。図2は、コイル部品10の斜視図である。図3は、コイル部品10の分解斜視図である。図4は、図2のIV-IV線に沿うコイル部品10の断面を俯瞰した斜視図である。図5は、図2のIV-IV線に沿うコイル部品10の断面図である。
【0045】
図2乃至図5に示すように、コイル部品10は、第1平面コイル11と、第2平面コイル12と、磁気シールド部材20と、保持体30と、第1接続端子51と、第2接続端子52と、を備えている。図3では、保持体30が説明の便宜のために第1層31と、第2層32と、第3層33と、壁部34とに分割されて示されている。ただし、実際は、図5に示すように、第1層31と、第2層32と、第3層33と、壁部34はつなぎ目無く一体的に形成される。
【0046】
第1平面コイル11と第2平面コイル12は直列に接続され、隙間を空けて重なっている。保持体30は、第1平面コイル11における第2平面コイル12と対面する面の反対の面を覆う部分(図3及び図5に示す第1層31の一部)を含む。磁気シールド部材20は、保持体30(正確には、保持体30の前記覆う部分)における第1平面コイル11と対面する面の反対の面と対面するように配置される。磁気シールド部材20も、第1平面コイル11における第2平面コイル12と対面する面の反対の面を覆う部分を含む。詳しくは、磁気シールド部材20は、第1平面コイル11における第2平面コイル12と対面する面の反対の面を、保持体30における第1層31を介して覆う部分を含む。なお、保持体30を構成する第1層31、第2層32、第3層33及び壁部34についての詳細は後述する。
【0047】
(第1平面コイル及び第2平面コイル)
第1平面コイル11は渦巻形状であり、導電材料から形成される。本実施の形態では、第1平面コイル11が銅から形成されるが、第1平面コイル11は導電材料であればよく、アルミニウムなどから形成されてもよい。また、第1平面コイル11は板状であり、図4及び図5に示すように、第1平面コイル11が渦巻形状に周回する方向に直交する方向での第1平面コイル11の断面形状は、矩形状である。
【0048】
図2及び図3に示す符号C1は、第1平面コイル11の渦巻形状の中心を通る第1平面コイル11の第1中心軸線を示している。以下、第1平面コイル11の軸方向と言う場合、その方向は、第1中心軸線C1上を延びる方向又は第1中心軸線C1に平行な方向を意味する。また、第1中心軸線C1に直交する方向を第1平面コイル11の径方向と言う。
【0049】
第1平面コイル11は、複数のターン部11nにより渦巻形状をなす導電体11Eを有する。第1平面コイル11の複数のターン部11nは、渦巻形状の第1中心軸線C1に直交する方向に配列される。詳しくは、当該複数のターン部11nは、渦巻形状の第1中心軸線C1から径方向の外方に向かって第1中心軸線C1から次第に離れるように接続される。そして、これにより渦巻形状が形成される。
【0050】
ターン部11nは、基本的には線状の導体部分が環状をなさずに第1中心軸線C1の周りを360度周回する形状である。いわゆる平面コイルである場合には、ターン部11nの両端部は、径方向にずれる。複数のターン部11nでは、或るターン部11nの径方向の外方の端部に他のターン部11nの径方向の内方の端部が接続し、他のターン部11nが第1中心軸線C1から離れるように延びていく。
【0051】
以下では、複数のターン部11nのうちの第1中心軸線C1に最も近いものを、ターン部111と称す場合がある。また、ターン部111に接続するターン部を、ターン部112と称す場合がある。本実施の形態では、複数のターン部11nが、7個のターン部111~117で構成される。以下において複数のターン部11nのそれぞれに共通となる事項を説明する際には、基本的に、ターン部11nと称す。
【0052】
本実施の形態では、ターン部11nが矩形状をなすように周回する。ただし、ターン部11nは、円形をなすように周回する形状でもよい。なお、本明細書及び本開示で言う渦巻形状とは、螺旋状に巻いた平面曲線の形を意味する。ここで言う平面曲線には、図示のような折れ線状に曲がりつつ繰り返し周回する平面パターンも含む。また、言い換えると、渦巻形状は、第1平面コイル11の第1中心軸線C1の周りを、次第に外側に位置するように周回する形状である。
【0053】
第1中心軸線C1に最も近いターン部111の径方向の内方の端部(第1中心軸線C1に近い端部)は、第2平面コイル12と電気的に接続される。図2及び図3に示す接続配線部14は導電体であり、ターン部111と第2平面コイル12とを直列に電気的に接続する。図示の接続配線部14は、一例として第2平面コイル12と一体に形成されている。接続配線部14は、ターン部111に超音波接続などにより接続されてもよい。一方で、複数のターン部11nのうちの第1中心軸線C1から最も離れるターン部117の径方向の外方の端部(第1中心軸線C1から離れる方の端部)は、第1接続端子51と接続している。
【0054】
ここで、第1平面コイル11(ターン部11n)の径方向の内方とは、当該径方向において第1中心軸線C1に近づく方向を意味する。また、第1平面コイル11(ターン部11n)の径方向の外方とは、当該径方向において第1中心軸線C1から離れる方向を意味する。また、第1中心軸線C1は、本実施の形態では次のようにして定められる。まず、最内周のターン部111の径方向の内方の端部から最内周のターン部111と相似の形状の線状の仮想ターン部を径方向の内方に渦巻形状をなすように順次描画していく。そして、直径1cm内に収まる仮想ターン部が描画できるまで描画を継続する。そして、直径1cm内に収まる仮想ターン部の径方向の内方の領域を、渦巻形状の周方向及び径方向に直交する方向に通過する線が、第1中心軸線C1として定められる。
【0055】
本実施の形態における第1平面コイル11は、一例として銅板から渦巻形状に打ち抜かれて形成される。ただし、第1平面コイル11は、銅箔を渦巻形状にエッチングすることでも形成され得る。
【0056】
第1平面コイル11の厚さ(導電体11Eの厚さ)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下でもよい。また、第1平面コイル11の半径(第1中心軸線C1から径方向で最も離れた部分までの距離)は80mm以上でもよく、80mm以上450mm以下でもよい。また、断面形状が矩形となる第1平面コイル11(導電体11E)のアスペクト比は、第1平面コイル11(導電体11E)の径方向幅(径方向での幅)を第1平面コイル11(導電体11E)の厚さで割ることにより定められる。第1平面コイル11(導電体11E)のアスペクト比は、2以上12以下でもよいし、3以上10以下でもよい。
【0057】
磁界共鳴方式で電気自動車に電力を伝送する場合、10KHzから200KHz、特に75KHz以上100KHz以下、さらに79KHzから90KHzの高周波電流の周波数帯で、1Kw以上、望ましくは5Kw以上の電力を伝送可能とすることが望ましい。この場合、銅で形成される第1平面コイル11の厚さは、0.2mm以上であることが好ましい。また、第1平面コイル11の厚さが大き過ぎると重量が増加し、例えば車載に望ましくない。そのため、第1平面コイル11の厚さは、例えば2.0mm以下でもよいし、1.5mm以下でもよいし、1.0mm以下でもよい。また、電気自動車に電力を伝送する場合、過剰に大きいことは望まれず、サイズを制限されることがある。この観点で、第1平面コイル11及び後述の第2平面コイル12も、詳しくは第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eは、一辺が800mmの正方形に収まるサイズで形成されることが好ましい。
【0058】
また、第1平面コイル11の線幅(導電体11Eの線幅)、すなわち各ターン部11nの径方向幅(径方向での幅)は、特に限られない。ただし、例えば79KHzから90KHzの高周波電流の周波数帯で、1Kw以上、望ましくは5Kw以上の電力を伝送可能とすることを考慮すると、ターン部11nの径方向幅は、2mm以上20mm以下でもよく、2mm以上16mm以下、2mm以上12mm以下、2mm以上8mm以下でもよい。また、第1平面コイル11のターン数は、4以上12以下でもよいが、特に限られない。
【0059】
つづいて、第2平面コイル12も渦巻形状であり、本実施の形態では、第2平面コイル12が銅から形成される。第2平面コイル12の材質は特に限られないが、第1平面コイル11と同じ材質である。また、第2平面コイル12も板状であり、図4及び図5に示すように、第2平面コイル12が渦巻形状に周回する方向に直交する方向での第2平面コイル12の断面形状は、矩形状である。
【0060】
図2及び図3に示す符号C2は、第2平面コイル12の渦巻形状の中心を通る第2平面コイル12の第2中心軸線を示している。以下、第2平面コイル12の軸方向と言う場合、その方向は、第2中心軸線C2上を延びる方向又は第2中心軸線C2に平行な方向を意味する。また、第2中心軸線C2に直交する方向を第2平面コイル12の径方向と言う。
【0061】
本実施の形態では、第2平面コイル12が第1平面コイル11と同軸になるように配置されている。つまり、第1平面コイル11の第1中心軸線C1と第2平面コイル12の第2中心軸線C2とが一致する、言い換えると、同一直線上に位置する。ただし、第1平面コイル11と第2平面コイル12は、第1平面コイル11の第1中心軸線C1と第2平面コイル12の第2中心軸線C2とが互いに平行になるように重なってもよい。すなわち、第1平面コイル11と第2平面コイル12は同軸でなくてもよい。
【0062】
第2平面コイル12も、複数のターン部12nにより渦巻形状をなす導電体12Eを有する。第2平面コイル12の複数のターン部12nは、渦巻形状の第2中心軸線C2に直交する方向に配列される。
【0063】
複数のターン部12nの接続態様や、位置に応じた呼称(ターン部121など)は、第1平面コイル11のターン部11nと同様である。本実施の形態では、第1平面コイル11のターン数と第2平面コイル12のターン数とが同じであり、複数のターン部12nは、7個のターン部121~127で構成される。また、ターン部12nは、ターン部11nと同様に矩形状をなすように周回する。なお、ターン部11nは、円形をなすように周回する形状でもよい。また、第1平面コイル11のターン数と第2平面コイル12のターン数とは異なってもよい。また、例えばターン部12nが矩形状となり、ターン部12nが円形状となる態様でもよい。
【0064】
また、図4に示すように、本実施の形態では、第1平面コイル11の複数のターン部11nのいずれかと、第2平面コイル12の複数のターン部12nのいずれかとが、第1平面コイル11の軸方向で部分的に重なっている。そして、第1平面コイル11の軸方向で重なる第1平面コイル11のターン部11nの一部と第2平面コイル12のターン部12nの一部とは、それぞれが周回する方向が沿う状態で互いに平行に延びる。周回する方向が沿う状態とは、第1平面コイル11が周回する方向と、第2平面コイル12が周回する方向とが、点で交差するのではなく、同一線上で一定距離重なる状態を意味する。
【0065】
以上のように互いに重なり且つ互いに平行に延びる第1平面コイル11のターン部11nの一部の長さと第2平面コイル12のターン部12nの一部の長さは、それぞれの全長の1/2以上でもよく、3/4以上でもよい。本件発明者は、第1平面コイル11と第2平面コイル12とが互い平行に延びつつ重なる割合が多いほど、渦電流損失が抑制され得ることを知見している。
【0066】
また、上述したように第1中心軸線C1に最も近いターン部111の径方向の内方の端部は、第2平面コイル12と電気的に接続される。詳しくは、ターン部111の径方向の内方の端部は、第2平面コイル12におけるターン部121の内方の端部に接続配線部14を介して接続される。ここで、第1平面コイル11と第2平面コイル12とが接続された際、第1平面コイル11が第2平面コイル12に接続されない端部(ターン部117の径方向の外方の端部)から第2平面コイル12に接続される端部まで周回する方向は、第2平面コイル12が第1平面コイル11に接続される端部から第1平面コイル11に接続されない端部(ターン部127の径方向の外方の端部)まで周回する方向と同じになる。これにより、電気抵抗が増大することが抑制される。
【0067】
複数のターン部12nのうちの第2中心軸線C2から最も離れるターン部127の径方向の外方の端部は、第2接続端子52と接続している。なお、第2平面コイル12(ターン部12n)の径方向の内方及び外方が意味する方向は、上述した第1平面コイル11の径方向の内方及び外方の場合と同様に定められる。また、第2中心軸線C2の位置の決め方も、第1中心軸線C1の場合と同様に定められる。また、本実施の形態における第2平面コイル12も、一例として銅板から渦巻形状に打ち抜かれて形成される。ただし、第2平面コイル12は、銅箔を渦巻形状にエッチングすることでも形成され得る。
【0068】
本実施の形態では、第2平面コイル12の厚さ(導電体12Eの厚さ)が、第1平面コイル11の厚さよりも小さい。そして、第2平面コイル12の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下になっている。
【0069】
本件発明者は、磁気シールド部材20及び保持体30上に第1平面コイル11と第2平面コイル12とが重ねられる場合に、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによって、所定の周波数帯での使用におけるコイル部品10の性能が顕著に向上する現象が生じることを知見した。そのため、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にしている。上記所定の周波数帯は、通電する交流電流の周波数帯であり、具体的には75KHz以上100KHz以下であり、79KHz以上90KHz以下のときにコイル部品10の性能が極めて顕著に向上する。なお、75KHz以上100KHz以下とは異なる周波数帯での使用時には、第2平面コイル12の好ましい厚さは変化する。
【0070】
また、第2平面コイル12の半径(第2中心軸線C2から径方向で最も離れた部分までの距離)は、第1平面コイル11の場合と同様に、80mm以上でもよく、80mm以上450mm以下でもよい。また、断面形状が矩形となる第2平面コイル12(導電体12E)のアスペクト比は、第1平面コイル11の場合と同様に、2以上12以下でもよいし、3以上10以下でもよい。また、第2平面コイル12の線幅(導電体12Eの線幅)、すなわち各ターン部12nの径方向幅(径方向での幅)は、2mm以上20mm以下でもよく、2mm以上16mm以下、2mm以上12mm以下、2mm以上8mm以下でもよい。また、第2平面コイル12のターン数は、4以上12以下でもよいが、特に限られない。
【0071】
また、第1平面コイル11と第2平面コイル12は隙間を空けて重なっている。この隙間は、0.5mm以上1.5mm以下でもよい。隙間は特に限られるものではないが、隙間が小さすぎると、電流を供給した際に第1平面コイル11及び第2平面コイル12で生じる渦電流損失が大きくなる傾向がある。また、隙間が大きくなり過ぎると、コイル部品10の薄型化が損なわれる。
【0072】
なお、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによって、所定の周波数帯での使用におけるコイル部品10の性能が顕著に向上する現象は、少なくとも、以上に例示したターン部11n,12nの径方向幅(2mm~20mm)及び第1平面コイル11、第2平面コイル12のターン数(4~12)などを前提とする条件において生じることを本件発明者は実験やシミュレーションを通して確認している。ただし、本開示は、実施の形態で例示される条件に限られない。すなわち、例えば第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによって、所定の周波数帯での使用におけるコイル部品10の性能が顕著に向上する現象は、寸法やターン数などに限られずに生じ得る。
【0073】
(磁気シールド部材)
磁気シールド部材20は、磁気の透過及び/又は漏れ磁界の抑制のために設けられる。磁気シールド部材20は、第1平面コイル11、第2平面コイル12及び保持体30とは別体のシート状の部材である。磁気シールド部材20が、第1平面コイル11、第2平面コイル12及び保持体30と別体であるとは、磁気シールド部材20が、これら第1平面コイル11、第2平面コイル12及び保持体30に一体化されていないことを意味する。ただし、磁気シールド部材20と保持体30とが接着層などを介して接合されてもよい。磁気シールド部材20は、平面視で第1平面コイル11及び第2平面コイル12を包含する大きさに形成されている。磁気シールド部材20は、第1平面コイル11、第2平面コイル12及び保持体30と重なり、このうちの保持体30と直接的に接する。
【0074】
本実施の形態における磁気シールド部材20は磁性を有し、磁性体を含む又は磁性体でなる。コイル部品10では、第1平面コイル11及び第2平面コイル12に電流が供給された際に磁界が生じる。このようなコイル部品10で生じる磁界は、第1平面コイル11及び第2平面コイル12の各中心軸線C1,C2に対して全方向に広がるように生じる。この際、磁気シールド部材20は磁性を有することで、広がろうとする磁束線を各中心軸線C1,C2側に配向できる。また、コイル部品10は車両に設置され得るが、この際、コイル部品10で生じる磁界が他の車両部品側に流れると、車両部品に悪影響が生じる場合がある。このような場合に、磁気シールド部材20は電流の発生に寄与しない漏れ磁界を抑制できる。
【0075】
磁気シールド部材20は好ましくは軟磁性体又はナノ結晶磁性体を含む。より具体的には、磁気シールド部材20はフェライトを含む、好ましくはソフトフェライトを含む。本実施の形態では、磁気シールド部材20が、プレート状のフェライトを含む。より詳しくは、磁気シールド部材20は、複数のプレート状のフェライトをシート状に配列して構成されている。
【0076】
磁気シールド部材20の比透磁率は、500以上でもよく、1000以上でもよい。磁気シールド部材20の比透磁率は、500以上3000以下でもよいし、1000以上3000以下でもよい。なお、本明細書における比透磁率は、周波数85KHzで、環境温度23度で測定した際の値である。
【0077】
(保持体)
図4及び図5に示すように、保持体30は、第1平面コイル11と第2平面コイル12とを一体的に保持する。そして、保持体30は、第1平面コイル11における第2平面コイル12と対面する面111A及び当該面111Aの反対の面111Bを覆い、且つ第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間を充填している。そして、保持体30は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間を充填することで第2平面コイル12における第1平面コイル11と対面する面121Bを覆う。
【0078】
一方で、保持体30は、第2平面コイル12における第1平面コイル11と対面する面121Bの反対の面121Aを覆っていない。また、保持体30は、第2平面コイル12から第2平面コイル12の軸方向に突出する壁部34を含む。壁部34は、第2平面コイル12の軸方向で見た場合に螺旋形状であり、第2平面コイル12に沿って延びている。
【0079】
図3では、上述したように保持体30が説明の便宜のために第1層31と、第2層32と、第3層33と、壁部34とに分割されて示されている。本実施の形態では、保持体30が、実際上は、つなぎ目無く一体的に形成される第1層31と、第2層32と、第3層33と、壁部34とを含む。
【0080】
第1層31、第2層32及び第3層33は、第1平面コイル11及び第2平面コイル12の軸方向で見た場合に、第1平面コイル11及び第2平面コイル12の全体を包含する大きさに形成されている。第1層31は、第1平面コイル11における第2平面コイル12と対面する面111Aの反対の面111Bと、第1平面コイル11の側面とを覆う部分である。そして、第1層31は、磁気シールド部材20と接する部分である。第2層32は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間に介在する部分である。すなわち、第2層32は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間を充填する部分である。第3層33は、第2平面コイル12の側面を覆う部分である。言い換えると、第3層33は、第2平面コイル12の側面の全体を径方向の内方及び外方から覆う部分である。そして、第3層33における第2層32と接続する面の反対面は、第2平面コイル12の面121Aと面一になっている。そして、壁部34は、第2平面コイル12の面121Aと面一になる第3層33の面から突出している。
【0081】
保持体30は全体として磁性を有し、すなわち、第1層31、第2層32、第3層33及び壁部34のそれぞれは磁性を有する。保持体30は、磁性により渦電流損失や漏れ磁束を抑制したり、結合係数を高くしたりすることにより、コイル性能の向上を図る。保持体30の比透磁率は、2.0以上であることが好ましく、2.0以上10.0以下でもよい。保持体30の比透磁率は、5.0以上であることがより好ましく、5.0以上10.0以下でもよい。保持体30の比透磁率は特に限られないが、大き過ぎると保持体30の柔軟性や強度が不所望に損なわれる場合がある。したがって、保持体30の比透磁率は200以下でもよい。
【0082】
また、保持体30は壁部34を備えることにより、コイル性能を効果的に向上できる。壁部34の高さは特に限られるものではないが、例えば0.5mm以上でもよく、1.0mm以上でもよい。壁部34の高さは高い程、渦電流損失の抑制効果が高くなり且つ結合係数を高くなる傾向がある。一方で、壁部34は、高くなる程、根元を起点として破損しやすくなる傾向がある。そこで、壁部34の高さは、例えば10mm以下にしてもよい。なお、壁部34は設けられなくてもよい。
【0083】
本実施の形態における保持体30は、一例として、樹脂と、磁性体で構成される複数又は無数の磁性体粒子と、を含む。磁性体粒子は、保持材料としての樹脂に保持される。
【0084】
磁性体粒子は、フェライト特に軟磁性材料のフェライト、ナノ結晶磁性体、ケイ素鋼、電磁軟鉄、及びアモルファス金属のうちのいずれか又は二種以上から形成されてもよい。保持材料としての樹脂は、ガラス繊維強化ポリアミドでもよい。すなわち、当該樹脂は、熱可塑性樹脂(熱可塑性材料)としてのポリアミドと、ガラス繊維とを含む材料から形成されてもよい。ただし、保持体30の形成材料は特に限られるものではない。
【0085】
(接続端子)
図2及び図3に示すように、第1接続端子51は、第1平面コイル11におけるターン部117の径方向の外方の端部に接続されている。第2接続端子52は、第2平面コイル12におけるターン部127の径方向の外方の端部に接続されている。第1接続端子51及び第2接続端子52は、例えば高周波電流供給部1A又は変換部2Aとの接続の際に用いられ得る。第1接続端子51とターン部117との接続及び第2接続端子52とターン部127との接続は、超音波接合で行われてもよい。ただし、その接続手法は限られず、例えば導電性接着剤による接続が採用されてもよい。
【0086】
<コイル部品10の性能評価シミュレーション>
以下、本実施の形態にかかるコイル部品10において第1平面コイル11の厚さ及び第2平面コイル12の厚さに複数の値を設定することによって行ったQ値の算出シミュレーションについて説明する。シミュレーションは、ムラタソフトウェア株式会社製のFemtet(登録商標)で行った。
【0087】
シミュレーションの条件は、以下の2つのパターン(1)及び(2)の通りである。
(1)上述の実施の形態におけるコイル部品10において第1平面コイル11の厚さ及び第2平面コイル12の厚さに複数の値を設定して、それぞれに対応するQ値を算出した。
(2)上述の実施の形態におけるコイル部品10において保持体30における壁部34を形成せずに、第1平面コイル11の厚さ及び第2平面コイル12の厚さに複数の値を設定して、それぞれに対応するQ値を算出した。
【0088】
パターン(1)、(2)において共通する条件は、以下の通りである。
・供給する高周波電流は、40Aであり、周波数は、85KHzである。
・銅で形成される第1平面コイル11及び第2平面コイル12の電気伝導率は、6.45×10[S/m]である。
・磁気シールド部材20の比透磁率は、3000であり、保持体30の比透磁率は、5.0である。
図2に示すIV-IV線の方向における第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eの幅は200mmであり、IV-IV線に直交する方向での第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eの幅は、200mmである。
【0089】
上記シミュレーション(1)の結果を以下の表1に示す。表1の左側の縦欄には、第1平面コイル11の厚さの複数の値が示されている。表1の上部側の横欄には、第2平面コイル12の厚さの複数の値が示されている。そして、表中には、第1平面コイル11の厚さと第2平面コイル12の厚さの組合せに対応するQ値が示されている。なお、左側の縦欄における「*1」マークが付いた箇所は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間の寸法が1.0mmであることを示す。「*1」マークが付いていない箇所は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間の寸法が0.5mmである。
【0090】
【表1】
【0091】
上述したように、本件発明者は、磁気シールド部材20及び保持体30上に第1平面コイル11と第2平面コイル12とが重ねられる場合に、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによって、所定の周波数帯での使用におけるコイル部品10の性能が顕著に向上する現象が生じることを知見した。詳しくは、所定の周波数帯での使用において、第1平面コイル11に重なる第2平面コイルの厚さが0.15mm以上0.35mm以下の間のいずれかに設定されたときに、コイル部品10のQ値の極大値が生じることを知見した。上記所定の周波数帯は、具体的には75KHz以上100KHz以下の周波数帯であり、79KHz以上90KHz以下である場合に確実にコイル部品10の性能が向上する。
【0092】
表1で示すシミュレーション結果では、例えば、第1平面コイル11の厚さを0.5mmで固定し、第1平面コイル11と第2平面コイル12との隙間を0.5mmで固定した場合、第2平面コイル12の厚さが0.5mmから小さくなるにつれて、Q値が増加する傾向が生じ、0.15mm以下でQ値が低下する傾向が生じている。そして、第2平面コイル12の厚さが0.2~0.275mmとなる条件の間に、Q値の極大値が生じていることが理解できる。図6は、当該条件でのシミュレーション結果を示すグラフを示す図である。図6には、厚さに対応するQ値がプロットされている。図6を参照すると、0.2~0.275mmの間にQ値の極大値が生じる設定があることが見受けられる。
また、表1の結果を検討すると、第2平面コイル12の厚さが0.2~0.3mmとなる条件の間においては、第1平面コイル11の厚さと無関係に、高いQ値(170~210程度)が得られている。ここで、第2平面コイル12の厚さを0.3mmから20%程度増加させた場合又は0.2mmから20%程度減少させた場合でも、シミュレーションの結果を考慮すると、望ましい性能が得られると推認される。具体的には、第2平面コイル12の厚さが0.15mmのときのQ値は160.4であり、高い値になっている。また、第2平面コイル12の厚さが過剰に小さくなると、Q値が低下することが見受けられる。このような低下傾向、製造や取り扱いの観点を考慮すると、第2平面コイル12の厚さは、0.15mm以上であることが好ましいと推認される。
【0093】
以上のようなシミュレーションの結果は、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによって、所定の周波数帯での使用におけるコイル部品10の性能が顕著に向上することを裏付けている。なお、第2平面コイル12の厚さは0.20mm以上0.275mm以下でもよいし、0.225mm以上0.275mm以下でもよい。これらの場合、より確実にコイル性能を高めることができる。
【0094】
また、「第1平面コイル11の厚さが0.5mmで、第2平面コイル12の厚さが0.5mmで、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間が1.0mm」の場合のQ値は、204.8である。これに対して、「第1平面コイル11の厚さが0.5mmで、第2平面コイル12の厚さが0.5mmで、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間が0.5mm」の場合のQ値は、196.1である。この結果からは、隙間が大きいほど、性能が向上する傾向が存在すると推認される。隙間が小さくなると性能が下がる現象は、近接効果の影響により渦電流損失が増加することが原因と推認される。ただし、隙間が大きくなり過ぎると、薄型化が阻害される。そのため、隙間の望ましい値は、例えば0.5mm以上1.5mmでもよい。
【0095】
また、表1で示したシミュレーションにおいて第2平面コイル12の厚さを0.25mmに固定して、第1平面コイル11の厚さを変えた場合には、Q値は第1平面コイル11の厚さが厚い方が大きくなる傾向がある。これは、銅厚(第1平面コイル11の厚さ)が大きいほど抵抗が低くなるためと考えられるが、厚さ1mmくらいで飽和になり、それ以上厚くしても大幅な改善は見られなかった。一方で、第1平面コイル11の厚さは0.25mm程度に薄くしても、第1平面コイルを0.5mm程度に厚くした場合のいずれの条件と比較しても、十分に大きなQ値が得られている。このことから、第1平面コイル11の厚さに関しては、0.1mm程度でも高いQ値が得られると推認される。したがって、第1平面コイル11の厚さは、コイル部品の重量や経済性を考慮して、適宜設定されれば良いが、0.1mm以上の厚さを有することが望ましい。
【0096】
続いて、上記シミュレーション(2)の結果を以下の表2に示す。表2には、表1と同様に厚さとQ値との関係が示されている。
【0097】
【表2】
【0098】
表2で示すシミュレーション結果では、例えば、第1平面コイル11の厚さを0.5mmで固定し、第1平面コイル11と第2平面コイル12との隙間を0.5mmで固定した場合、第2平面コイル12の厚さが小さくなるにつれて、Q値が増加している。そして、第2平面コイル12の厚さが0.2~0.3mmとなる条件の間に、Q値の極大値が生じていることが理解できる。また、第2平面コイル12の厚さが0.2~0.3mmとなる条件の間においては、第1平面コイル11の厚さと無関係に、高いQ値(115以上)が得られている。ここで、第2平面コイル12の厚さを0.3mmから20%程度増加させた場合又は0.2mmから20%程度減少させた場合でも、シミュレーションの結果を考慮すると、望ましい性能が得られると推認される。
【0099】
以上のようなシミュレーションの結果も、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによって、所定の周波数帯での使用におけるコイル部品10の性能が顕著に向上することを裏付けている。
【0100】
また、以下の表3は、上述の(1)のシミュレーション条件において、供給する電流の周波数を、85KHzから79KHzと90KHzとに変更した場合のシミュレーション結果を示している。
【0101】
【表3】
【0102】
表3のシミュレーション結果からは、供給する電流の周波数が79KHz及び90KHzの場合においても、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることにより、コイル部品10の性能が顕著に向上することを確認できる。
【0103】
以下、他のシミュレーションについて説明する。本シミュレーションでは、上述の実施の形態におけるコイル部品10において第1平面コイル11の厚さ及び第2平面コイル12の厚さに複数の値を設定して、それぞれに対応するQ値を算出した。
【0104】
本シミュレーションでは、図2に示すIV-IV線の方向における第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eの幅は326mmであり、IV-IV線に直交する方向での第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eの幅は、326mmである。これ以外の条件は、上述のシミュレーションと同じである。そして、第1平面コイル11の厚さを0.5mmで固定し、第2平面コイル12の厚さが0.5mm、0.35mm、0.25mm、0.2mmの場合のQ値をシミュレーションした。シミュレーション結果は、以下の表4の通りである。
【0105】
【表4】
【0106】
表4に示すシミュレーション結果からも、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによりコイル部品10の性能を顕著に向上できることが確認及び推認できる。
【0107】
次に、さらに他のシミュレーションについて説明する。本シミュレーションでは、表1及び表2に結果を示したシミュレーションと同様に、以下の2つのパターン(1)及び(2)でシミュレーションを行った。
(1)上述の実施の形態におけるコイル部品10において第1平面コイル11の厚さ及び第2平面コイル12の厚さに複数の値を設定して、それぞれに対応するQ値を算出した。
(2)上述の実施の形態におけるコイル部品10において保持体30における壁部34を形成せずに、第1平面コイル11の厚さ及び第2平面コイル12の厚さに複数の値を設定して、それぞれに対応するQ値を算出した。
ただし、本シミュレーションでは、図2に示すIV-IV線の方向における第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eの幅は470mmであり、IV-IV線に直交する方向での第1平面コイル11の導電体11E及び第2平面コイル12の導電体12Eの幅は、570mmである。そして、これ以外の具体的な条件は、上述のシミュレーションと同じである。
【0108】
そして、パターン(1)について、第1平面コイル11の厚さを0.5mmで固定し、第2平面コイル12の厚さが0.5mm、0.35mm、0.25mm、0.15mmの場合のQ値をシミュレーションした。パターン(1)のシミュレーション結果は、以下の表5の通りである。パターン(2)については、第1平面コイル11の厚さを0.5mmで固定し、第2平面コイル12の厚さが0.5mm、0.30mm、0.25mm、0.15mmの場合のQ値をシミュレーションした。パターン(2)のシミュレーション結果は、以下の表6の通りである。そして、パターン(1)のシミュレーション結果は、図7に示され、パターン(2)のシミュレーション結果は、図8に示される。
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
以上のシミュレーション結果からも、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下にすることによりコイル部品10の性能を顕著に向上できることが確認及び推認できる。そして、図7及び図8に示すように、第2平面コイル12の厚さが0.2mm以上0.3mm以下となるときにQ値の極大値が生じることが推認される。
【0112】
<コイル部品の用途>
本実施の形態に係るコイル部品10は、上述したワイヤレス電力伝送システムSの送電装置1における送電コイルとして用いることができ、受電装置2における受電コイルとして用いることができる。
【0113】
送電コイルとしてコイル部品10を用いる場合、第1接続端子51及び第2接続端子52が図1で示したような高周波電流供給部1A又は交流電源に接続される。高周波電流がコイル部品10に供給されると、電流を、第1接続端子51から第1平面コイル11及び第2平面コイル12に流した後、第2接続端子52から高周波電流供給部1A又は交流電源に流すことができる。また、電流を、第2接続端子52から第2平面コイル12及び第1平面コイル11に流した後、第1接続端子51から高周波電流供給部1A又は交流電源に流すことができる。これにより、平面コイル11の中心軸線に沿う磁力線を含む磁界を発生させることができる。
【0114】
一方で、受電コイルとしてコイル部品10を用いる場合、第1平面コイル11及び第2平面コイル12の内側を通過するように磁力線を含む磁界を受けることで、第1平面コイル11及び第2平面コイル12に高周波電流を発生させることができる。そして、この高周波電流を、第1接続端子51又は第2接続端子52から外部の装置に供給できる。
【0115】
また、コイル部品10は、トランス、アンテナなどでも用いることができる。例えばトランスにおける一次側コイルとしてコイル部品10が機能する場合には、第1接続端子51及び第2接続端子52が交流電源に接続される。そして、高周波電流を供給されることで、平面コイル11の中央側から鉄心に磁束を供給できる。
【0116】
以上に説明した本実施の形態にかかるコイル部品10は、第1平面コイル11と、第1平面コイル11に重ねられた第2平面コイル12と、第1平面コイル11における第2平面コイル12と対面する面の反対の面を覆う部分を含み、磁性を有する保持体30と、保持体30の前記覆う部分における第1平面コイル11と対面する面の反対の面と対面するように配置される磁気シールド部材20と、を備えている。そして、第1平面コイル11と第2平面コイル12は、直列に接続され、第2平面コイル12の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下である。
【0117】
このような本実施の形態にかかるコイル部品10によれば、大型化及び重量増加を抑制しつつ、性能を向上できるようになる。一般的に考えると、コイルの厚さが大きい程、コイルにおいて高いインダクタンスが得られる傾向が生じると推認される。しかしながら、磁性を有する部材上に平面コイルが直列接続の状態で重なる構成においては必ずしもそのような傾向が生じるわけではないことを本件発明者は鋭意研究により知見した。そして、本件発明者は、磁気シールド部材20及び保持体30上に第1平面コイル11と第2平面コイル12とがこの順で重ねられる構成において所定の周波数帯における交流電流また交流磁界を供給する場合には、第1平面コイル11の厚さとは無関係に、第2平面コイル12の厚さが0.15mm以上0.35mm以下の間になるときに、Q値の極大値が生じることについて知見した。この知見により、例えば厚さが0.5mmの第2平面コイル12を使用した場合よりも、厚さが0.25mmの第2平面コイル12を使用したほうがコイル部品10の性能を向上できることが判明した。
【0118】
すなわち、このような知見に基づくコイル部品10では、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下に設定することにより、第2平面コイル12の薄型化が可能となる。そして、所定の周波数帯での使用においてコイル部品10の性能を可及的に向上できる。これにより、コイル部品10の全体のサイズの大型化及び重量増加を抑制しつつ、コイル部品10の性能を向上できる。磁気シールド部材20及び保持体30上に第1平面コイル11と第2平面コイル12とがこの順で重ねられる構成において所定の周波数帯における交流電流また交流磁界を供給した場合に、第1平面コイル11の厚さとは無関係に、第2平面コイル12の厚さが0.15mm以上0.35mm以下の間においてQ値の極大値が生じるという現象は、技術常識から予測し難い現象である。このような現象に基づき創案された上記コイル部品は、コイル部品の性能向上に大きく貢献する顕著な効果を奏するものであると確信する。
【0119】
詳しくは、本件発明者は、第1平面コイル11及び第2平面コイル12に75KHz以上100KHz以下であって、特に79KHz以上90KHz以下の交流電流を供給するか、又は、75KHz以上100KHz以下であって、特に79KHz以上90KHz以下の交流磁界を供給する場合に、第1平面コイル11の厚さとは無関係に、第2平面コイル12の厚さが0.15mm以上0.35mm以下の間になるときにQ値の極大値が生じることを見出した。すなわち、第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下に設定する構成は、所定の周波数帯における交流電流また交流磁界として、75KHz以上100KHz以下、特に79KHz以上90KHz以下の交流電流を供給されるか、又は、75KHz以上100KHz以下、特に79KHz以上90KHz以下の交流磁界を供給される場合に、顕著に性能を向上させる。
【0120】
また、以上のように第2平面コイル12の厚さを0.15mm以上0.35mm以下に設定する場合には、第1平面コイル11の厚さが、0.1mm以上1.0mm以下であることが好ましい。この構成では、例えば比較的大電力の非接触電力伝送において要求される性能を充足しながら、コイル部品10を極めて薄く且つ軽量に形成できる。したがって、極めて実用性に優れたコイル部品10を提供できる。
【0121】
また、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間の隙間は、0.5mm以上1.5mm以下でもよい。この構成によれば、薄型化を阻害することなく、コイル部品10の性能を効果的に向上できる。
【0122】
また、本実施の形態では、保持体30が、樹脂と、樹脂に保持された磁性体粒子とを含む。この場合、樹脂と第1平面コイル11及び第2平面コイル12との接合強度が向上し得るため、第1平面コイル11と第2平面コイル12とを安定した状態で一体化できる。
【0123】
また、保持体30の比透磁率は5.0以上でもよい。この場合、保持体30の透磁性によりコイル部品の性能を向上させることができる。また、保持体30の比透磁率は、10.0以下でもよい。この場合には、保持体30の強度を適正に確保し且つ保持体30と各平面コイル11,12との結合状態を強固にできる。
【0124】
また、本実施の形態における保持体30は、第2平面コイル12から突出する壁部34を含む。この構成では、コイル部品10から送出する又は他のコイル部品から受け取る磁束の伝送効率を効果的に向上できる。
【0125】
また、本実施の形態では、第1平面コイル11の複数のターン部11nのいずれかと、第2平面コイル12の複数のターン部12nのいずれかとが、第1平面コイル11の軸方向で部分的に重なる。そして、第1平面コイル11の軸方向で重なる第1平面コイル11のターン部11nの一部と第2平面コイル12のターン部12nの一部とは、互いに平行に延びる。この構成では、コイル部品10の性能を効果的に向上できる。本構成によるコイル性能の向上は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間で生じ得る渦電流損失などが抑制されることにより生じると推認される。
【0126】
本件発明者は、例えば第2平面コイル12の厚さが0.15mm以上0.35mm以下の間においてQ値の極大点が生じるという現象は、コイルの表皮厚さと関連しており、コイルの表皮厚さに応じて、Q値の極大値が生じる寸法条件が変動することを見出した。表皮厚さδは、以下の式で求められる。
【0127】
δ=1/√π・f・μr・μ0・σ
f:周波数、μr:コイルの透磁率、μ0:自由空間の透磁率、σ:コイルの導電率
【0128】
表皮厚さδは、通電させる交流電流の周波数によって変化する。交流電流の周波数が75KHz以上100KHz以下である場合、表皮厚さδは、0.19~0.21mm程度になる。そして、本件発明者は、表皮厚さδが、0.19~0.21mmである場合、第2平面コイル12の厚さがこの値に一致するか又は近くなる場合に、Q値が顕著に向上するものと推認している。
【0129】
以下、他の実施の形態にかかるコイル部品10’について図9を参照しつつ説明する。図9は、コイル部品10’の断面図である。上述の実施の形態と同様の構成部分には同一の符号を付して、説明を省略する。
【0130】
コイル部品10’は、第1平面コイル11と第2平面コイル12との間に配置される偶数個の他の平面コイル201,202をさらに備える。本実施の形態では、偶数個の他の平面コイル201,202が、第3平面コイル201と、第4平面コイル202とで構成される。ただし、偶数個の他の平面コイルは、4個、6個などの平面コイルで構成されてもよい。
【0131】
そして、第1平面コイル11、他の平面コイル201,202、及び第2平面コイル12は直列に接続される。そして、他の平面コイル201,202における第1平面コイル11に接続される第3平面コイル201及びこれと異なる第4平面コイル202のうちの少なくとも第4平面コイル202の厚さは、0.15mm以上0.35mm以下である。本実施の形態では、第3平面コイル201の厚さも、0.15mm以上0.35mm以下である。さらに、第2平面コイル12の厚さと、第3平面コイル201の厚さと、第4平面コイル202の厚さとが同じである。なお、第1平面コイル11のサイズは上述の実施形態と同様の範囲であり、例えば厚さは、例えば0.2mm以上1.0mm以下でもよい。また、第3平面コイル201の厚さを、0.15mm以上0.35mm以下から外れる値にする場合には、第3平面コイル201の厚さは、1.0mm以下でもよく、第1平面コイル11の厚さと同じでもよい。
【0132】
本実施の形態に係るコイル部品10’によっても、大型化及び重量増加を抑制しつつ、性能を向上できる。より詳しくは、第1平面コイル11、他の平面コイル201,202及び第2平面コイル12に75KHz以上100KHz以下であって、特に79KHz以上90KHz以下の交流電流を供給するか、又は、75KHz以上100KHz以下であって、特に79KHz以上90KHz以下の交流磁界を供給する場合において、コイル部品10’の性能を顕著に向上させることができる。
【0133】
コイル部品10’において、第1平面コイル11の厚さを0.5mm、第3平面コイル201の厚さを0.25mm、第4平面コイル202の厚さを0.25mm、第2平面コイル12の厚さを0.25mmとして、表1で示したシミュレーションの条件と同じ条件でQ値をシミュレーションしたところ、Q値は、227であった。
また、第1平面コイル11の厚さを0.5mm、第3平面コイル201の厚さを0.50mm、第4平面コイル202の厚さを0.25mm、第2平面コイル12の厚さを0.25mmとしてQ値をシミュレーションしたところ、Q値は、202であった。
これらに対して、4つの全ての平面コイルの厚さを0.5mmとしてQ値をシミュレーションしたところ、Q値は、101であった。
【0134】
以上のようなシミュレーション結果では、平面コイルを偶数個で重ね且つ通電される電流が75KHz以上100KHz以下であって、特に79KHz以上90KHz以下の場合には、少なくとも磁性体(20,30)に最も近い第1平面コイル11以外の平面コイルの厚さを、0.25mmにすることにより、コイル性能を向上させることができることが確認できる。シミュレーションの結果は省略するが、本件発明者らは、本実施の形態の構成においては、第1平面コイル11以外の平面コイルの厚さが0.15mm以上0.35mm以下の範囲の0.25mmと異なる値であっても、コイル性能を向上させることができることを確認している。
【0135】
以上、本開示の実施の形態を説明したが、上述の実施の形態には種々の変更を加えてもよい。このような変形例も、本開示の技術的範囲に含まれ得る。
【符号の説明】
【0136】
S…電力伝送システム
1…送電装置
1A…高周波電流供給部
2…受電装置
2A…変換部
10…コイル部品
11…第1平面コイル
11n…ターン部
11E…導電体
12…第2平面コイル
12n…ターン部
12E…導電体
14…接続配線部
20…磁気シールド部材
30…保持体
31…第1層
32…第2層
33…第3層
34…壁部
C1…第1中心軸線
C2…第2中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9