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  • 特開-改善された耐摩耗性コーティング 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184411
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】改善された耐摩耗性コーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/10 20160101AFI20231221BHJP
   C23C 4/129 20160101ALI20231221BHJP
   C23C 4/067 20160101ALI20231221BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231221BHJP
   H01M 4/58 20100101ALN20231221BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20231221BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20231221BHJP
【FI】
C23C4/10
C23C4/129
C23C4/067
H01M4/36 Z
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015090
(22)【出願日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】63/353,217
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/066,064
(32)【優先日】2022-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500092413
【氏名又は名称】プラクスエア エス.ティ.テクノロジー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アダム、ジェイ.、スミス
(72)【発明者】
【氏名】ダーミン、ワン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル、エス.、ブレナン
(72)【発明者】
【氏名】アールディ、エス.、クレイマン
【テーマコード(参考)】
4K031
5H050
【Fターム(参考)】
4K031AA02
4K031AA06
4K031AB02
4K031CB14
4K031CB45
4K031DA01
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050FA17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】過酷な微細摩耗条件を伴う新たな用途に対する、改善された耐摩耗性コーティングを提供する。
【解決手段】研磨微細粒子の所定の平均サイズに対する新規の耐摩耗係数(R)に基づく、改善された耐摩耗性コーティングが提供される。改善された耐摩耗性コーティングは、改善された耐摩耗性及び硬度を示しながら、最小の酸化物含有量及び最小の気孔率を示す。改善された耐摩耗性コーティングは、改変された溶射プロセスの一部として、硬質相、及び約0.5μm~30μmの範囲の粉末粒子サイズに由来する金属結合剤からなる複合材料から作製される。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細研磨粒子を含有する電池電極材料の生成に使用するための改善されたコーティング付き物品であって、前記改善されたコーティング付き物品が、
物品であって、前記微細研磨粒子と接触するように適合された物品と、
前記物品の表面上の耐摩耗性コーティングであって、前記コーティングの総重量に基づいて、83~94重量%の割合で炭化物系材料の1つ以上の硬質相を含み、残部が金属結合剤である、耐摩耗性コーティングと、を含み、
前記耐摩耗性コーティングは、前記改善されたコーティング付き物品と接触するように適合される前記微細研磨粒子の大部分が前記硬質相の上に位置し、それによって前記微細研磨粒子と前記金属結合剤との接触を低減又は最小化することを確実にする、(R)として指定される耐摩耗係数を有し、前記耐摩耗係数(R)が、前記微細研磨粒子の平均サイズと前記金属結合剤の平均自由行程との比として定義される、改善されたコーティング付き物品。
【請求項2】
前記耐摩耗係数(R)が、約0.5~15ミクロンの範囲の前記微細研磨粒子の対応する平均サイズに対して、約1~約65の範囲の値を有する、請求項1に記載の改善されたコーティング付き物品。
【請求項3】
前記耐摩耗性コーティングが、約0.5~約30ミクロンの範囲の粒子サイズを有する溶射粉末を使用する溶射高速プロセスに由来する、請求項1に記載の改善されたコーティング付き物品。
【請求項4】
前記耐摩耗性コーティングが、燃料と酸素及び不活性ガスとの混合物を使用する改変された高速溶射プロセスによって生成される、請求項3に記載の改善されたコーティング付き物品。
【請求項5】
約2.5体積%未満の酸化物含有量を更に含む、請求項1に記載の改善されたコーティング付き物品。
【請求項6】
約1体積%未満の気孔率を更に含む、請求項1に記載の改善されたコーティング付き物品。
【請求項7】
約950HV300g以上のビッカース硬度を更に含む、請求項1に記載の改善されたコーティング付き物品。
【請求項8】
前記炭化物系材料が、WC、CrC、(W,Cr)C、TiC、VC、NbC、BC、及びSiCからなる群から選択される、請求項1に記載の改善されたコーティング付き物品。
【請求項9】
約1体積%未満の気孔率及び約2.5体積%未満の酸化物含有量を有する強化された耐摩耗性コーティングであって、前記コーティングが、約0.5~約30ミクロンの範囲の微細粉末粒子を使用して、燃料及び酸素と1つ以上の不活性ガスとの混合物を使用する改変された高速溶射プロセスによって溶射され、更に前記コーティングが、硬質相及び金属結合剤を含み、それによって前記コーティングが、(R)として指定される耐摩耗係数を有し、前記耐摩耗係数(R)が、微細研磨粒子の平均サイズと前記金属結合剤の平均自由行程との比として定義され、前記耐摩耗係数(R)が、約0.5~15ミクロンの範囲の前記微細研磨粒子の対応する平均サイズに対して、約1~約65の範囲の値を有する、強化された耐摩耗性コーティング。
【請求項10】
約950HV300g以上のビッカース硬度を更に含む、請求項9に記載の強化された耐摩耗性コーティング。
【請求項11】
前記硬質相が、WC、CrC、(W,Cr)C、TiC、VC、NbC、BC、SiC、及びダイヤモンドからなる群から選択され、更に前記金属結合剤が、Co、CoCr、Ni、NiCr、Mo、Fe、FeCrAl、FeCr、FeB、FeAl、TiAl、及びTiからなる群から選択される、請求項9に記載の強化された耐摩耗性コーティング。
【請求項12】
微細研磨粒子に対する保護に好適な強化された耐摩耗性コーティングであって、前記耐摩耗性コーティングが、約1体積%未満の気孔率及び約2.5体積%未満の酸化物含有量を有し、前記耐摩耗性コーティングが、硬質相及び金属結合剤を含み、前記コーティングが、前記研磨微細粒子の平均サイズと前記金属結合剤の平均自由行程との比として定義される、(R)として指定される耐摩耗係数で前記金属結合剤の摩耗を実質的に低減するように構成され、前記耐摩耗係数が、約1~約65の範囲の値を有し、
ただし、前記研磨微細粒子の平均サイズが約0.5である場合、前記耐摩耗係数(R)が約1~約3の範囲であり、
ただし、前記研磨微細粒子の平均サイズが約0.75である場合、前記耐摩耗係数(R)が約2~約4の範囲であり、
ただし、前記研磨微細粒子の平均サイズが約1ミクロンである場合、前記耐摩耗係数(R)が約3~約5の範囲であり、
ただし、前記研磨微細粒子の平均サイズが約2~約3ミクロンの範囲である場合、前記耐摩耗係数(R)が約6~約14の範囲であり、
ただし、前記研磨微細粒子の平均サイズが約4~約7ミクロンの範囲である場合、前記耐摩耗係数(R)が約13~約30の範囲であり、
ただし、前記研磨微細粒子の平均サイズが約8~約15ミクロンの範囲である場合、前記耐摩耗係数(R)が約25~約65の範囲である、強化された耐摩耗性コーティング。
【請求項13】
前記研磨微細粒子が、電池電極材料である、請求項12に記載の耐摩耗性コーティング。
【請求項14】
前記コーティングが、約950HV300g以上のビッカース硬度を更に含む、請求項12に記載の耐摩耗性コーティング。
【請求項15】
前記硬質相が、WC、CrC、(W,Cr)C、TiC、VC、NbC、BC、SiC、及びダイヤモンドからなる群から選択され、更に前記金属結合剤が、Co、CoCr、Ni、NiCr、Mo、Fe、FeCrAl、FeCr、FeB、FeAl、TiAl、及びTiからなる群から選択される、請求項12に記載の耐摩耗性コーティング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年6月17日に出願された米国仮特許出願第63/353,217号に対する優先権の利益を主張し、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、改善された耐摩耗性溶射コーティングに関する。特に、得られたコーティング構造は、微細研磨粒子の実質的な部分が結合剤を侵食して除去することができないように、金属結合剤の低減された平均自由行程と組み合わせて、酸化物含有量及び気孔率が実質的に存在しない。
【背景技術】
【0003】
炭化タングステン(Tungsten Carbide、WC)系溶射コーティングは、好適な耐摩耗性を示すことが知られている。このようなコーティングは、摩耗条件が問題となる航空並びに石油及びガスなどの工業用途に広く使用されている。しかしながら、更により過酷な微細摩耗条件を提示する新しい用途が出現しており、これによって従来のWC系溶射コーティングは、より微細な摩耗粒子に対して満足な性能を提供し得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過酷な微細摩耗条件を伴う新たな用途に対する従来のWC系溶射コーティングの不十分さを考慮すると、改善された耐摩耗性コーティングに対する満たされていない必要性が存在する。
【0005】
本発明は、種々の組み合わせで以下の態様のいずれかを含んでよく、また、書面による説明において以下に記載される本発明のいずれかの他の態様を含んでよい。
【0006】
本開示の他の態様、特徴及び実施形態は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲から、より完全に明らかとなるであろう。
【0007】
第1の態様では、微細研磨粒子を含有する電池電極材料の生成に使用するための改善されたコーティング付き物品であって、改善されたコーティング付き物品が、物品であって、微細研磨粒子と接触するように適合された物品と、当該物品の表面上の耐摩耗性コーティングであって、コーティングの総重量に基づいて、83~94重量%の割合で炭化物系材料の1つ以上の硬質相を含み、残部が金属結合剤である、耐摩耗性コーティングと、を含み、耐摩耗性コーティングは、改善されたコーティング付き物品と接触するように適合される微細研磨粒子の大部分が硬質相の上に位置し、それによって微細研磨粒子と金属結合剤との接触を低減又は最小化することを確実にする、(R)として指定される耐摩耗係数を有し、当該耐摩耗係数(R)が、微細研磨粒子の平均サイズと金属結合剤の平均自由行程との比として定義される、改善されたコーティング付き物品。
【0008】
第2の態様では、約1体積%未満の気孔率及び約2.5体積%未満の酸化物含有量を有する強化された耐摩耗性コーティングであって、当該コーティングが、約0.5~約30ミクロンの範囲の微細粉末粒子を使用して、燃料及び酸素と1つ以上の不活性ガスとの混合物を使用する改変された高速溶射プロセスによって溶射され、更に当該コーティングが、硬質相及び金属結合剤を含み、それによって当該コーティングが、(R)として指定された耐摩耗係数を有し、当該耐摩耗係数(R)が、微細研磨粒子の平均サイズと金属結合剤の平均自由行程との比として定義され、当該耐摩耗係数(R)が、約0.5~15ミクロンの範囲の微細研磨粒子の対応する平均サイズに対して、約1~約65の範囲の値を有する、強化された耐摩耗性コーティング。
【0009】
第3の態様では、微細研磨粒子に対する保護に好適な強化された耐摩耗性コーティングであって、当該耐摩耗性コーティングが、約1体積%未満の気孔率及び約2.5体積%未満の酸化物含有量を有し、当該耐摩耗性コーティングが、硬質相及び金属結合剤を含み、当該コーティングが、研磨微細粒子の平均サイズと金属結合剤の平均自由行程との比として定義される、(R)として指定される耐摩耗係数で金属結合剤の摩耗損失を実質的に低減するように構成され、当該耐摩耗係数が、約1~約65の範囲の値を有し、ただし、研磨微細粒子の平均サイズが約0.5である場合、耐摩耗係数(R)が約1~約3の範囲であり、ただし、研磨微細粒子の平均サイズが約0.75である場合、耐摩耗係数(R)が約2~約4の範囲であり、ただし、研磨微細粒子の平均サイズが約1ミクロンである場合、耐摩耗係数(R)が約3~約5の範囲であり、ただし、研磨微細粒子の平均サイズが約2~約3ミクロンの範囲である場合、耐摩耗係数(R)が約6~約14の範囲であり、ただし、研磨微細粒子の平均サイズが約4~約7ミクロンの範囲である場合、耐摩耗係数(R)が約13~約30の範囲であり、ただし、研磨微細粒子の平均サイズが約8~約15ミクロンの範囲である場合、耐摩耗係数(R)が約25~約65の範囲である、強化された耐摩耗性コーティング。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の目的及び利点は、全体を通して同じ番号が同じ特徴を示す添付図面と関連して、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより良く理解される。
図1A図1Aは、急速な摩耗及び侵食を受ける従来の耐摩耗性コーティングの図解である。
図1B図1Bは、強化された耐微細研磨粒子及び耐浸食性が可能な本発明の原理による改善された耐摩耗性コーティングの図解である。
図2図2は、実施例1に記載されるような本発明の原理による改善された耐摩耗性コーティングの500倍の倍率での光学顕微鏡写真である。
図3図3は、実施例2に記載されるような本発明の原理による改善された耐摩耗性コーティングの500倍の倍率での光学顕微鏡写真である。
図4図4は、比較例1に記載されるような従来の耐摩耗性コーティングの500倍の倍率での光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態の様々な要素の関連性及び機能は、以下の詳細な記載によってより良好に理解される。詳細な説明は、本開示の範囲内のものとして様々な置換及び組み合わせの特徴、態様、及び実施形態を想到している。したがって、本開示は、これらの特定の特徴、態様、及び実施形態のそのような組み合わせ及び置換のうちのいずれか、又はそれらのうちの選択された1つ以上を備えるように、それらからなるように、又はそれらから本質的になるように指定され得る。
【0012】
値の範囲がパラメータを記載する場合、その範囲内又は範囲を画定する全てのサブ範囲、点値、及び終点は、本明細書に明示的に開示される。それらの特性、寸法、及び比の範囲終点間の全ての物理的特性、寸法、並びに比の範囲及びサブ範囲(点値及び終点を含む)は、本明細書に明示的に開示されていると見なされる。
【0013】
本明細書及び全体を通して、他に表現がない限り、全てのパーセンテージは、コーティングの総体積に基づく体積パーセンテージである。
【0014】
本明細書及び全体を通して使用される「電池電極材料」とは、LiCoO、Li(NiCoMn)O、Li(NiCoAl)O、LiMnO、及びLiFePOを含むがこれに限定されない、最終電池電極材料の加工及び製造に関与する前駆体及び原材料を含む任意の材料を意味する。
【0015】
本明細書及び全体を通して使用される「金属結合剤」とは、同じコーティング中の硬質相と比較して軟質である耐摩耗性コーティング中の相を意味する。
【0016】
本明細書及び全体を通して使用される「微細研磨粒子」とは、レーザー回折によって測定される約0.5um~約15umのメジアンサイズ範囲を有する比較的小さい直径の研磨粒子を参照することが意図され、これは、典型的には、電池電極材料の調製及び製造などであるがこれらに限定されない用途において使用される。
【0017】
本明細書及び全体を通して使用される「物品」とは、ブレード及び容器などの混合装置構成要素、スロットダイ、グラビアローラ、カレンダーローラ、並びに本発明の改善された耐摩耗性コーティングなどの保護コーティングを必要とする部品又は構成要素の任意の他の表面を含むが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書及び全体を通して使用される「平均サイズ」とは、レーザー回折として既知である標準的な技法によって測定され得るようなメジアンサイズを有する粒子を意味する。
【0019】
本明細書及び全体を通して使用される「Ra」とは、粗さプロファイル縦座標の絶対値の算術平均を意味する。
【0020】
本明細書及び全体を通して使用される「Rmax」とは、評価長さ内の最大単一粗さ深さを意味する。
【0021】
図面は、本発明を例示する目的のためであり、縮尺どおりに描かれることを意図するものではない。実施形態は、類似要素が同様の数字によって参照される図面を参照して記載される。新規の耐摩耗性コーティングの様々な態様をより良好に示すために、特定の特徴が図面の各々において意図的に省略され得る。実施形態は、例としてのみ記載され、本発明は、図面内に示される実施形態に限定されない。
【0022】
従来の耐摩耗性コーティングを使用して、電池電極材料などの様々な材料及び物品を生成する多くの用途において、微細研磨粒子と接触させ得る。しかしながら、従来の耐摩耗性コーティングは、微細研磨粒子と接触すると、急速に摩耗し得る。本発明者らは、従来の耐摩耗性コーティングの高い摩耗は、一般に、コーティング内の金属結合剤の優先的な摩耗に起因することを認識した。金属結合剤は、微細研磨粒子と接触する結果として、摩耗及び浸食による摩耗損失を受けやすい可能性がある。特に、金属結合剤の平均自由行程は、十分に大きく、望ましくないことに、金属結合剤と接触し得る微細研磨粒子の量がより多くなる。この現象を更に示すために、図1Aは、金属結合剤10内に分散された硬質炭化物粒子11を含む従来の耐摩耗性炭化物コーティング20の図解を示す。硬質炭化物粒子11は、比較的小さい微細研磨粒子12aの有意な部分を収容し得る金属結合剤10の平均自由行程を可能にするのに十分な程度に離間されている。従来の耐摩耗性コーティング20の金属結合剤10と典型的に接触し得る微細研磨粒子12aの大きな割合に起因して、金属結合剤10は、急速に除去され、それによってコーティング20の許容できないほど高い摩耗及び浸食による材料損失を引き起こし得る。
【0023】
したがって、本発明者らは、改善された耐摩耗性コーティングの必要性を認識した。本発明は、微細研磨粒子を様々なフィルム及び材料に加工する間に微細研磨粒子と接触する物品の様々な表面上の摩耗及び浸食摩耗に対して効果的に保護するための、図1Aに図解されるものなどの従来の耐摩耗性コーティングの不良の結果として出現したものである。本発明者らは、耐摩耗性コーティング中の硬質相の間の距離を意図的に低減させることによって、微細研磨粒子の金属結合剤との接触を低減又は最小化することが可能となることを見出した。その結果、硬質相が微細研磨粒子による摩耗を有意に受けないために、強化された耐摩耗性及び耐浸食性となる。図1Bは、微細研磨粒子に対する保護に好適な改善された耐摩耗性炭化物コーティング20’の図解を示す。硬質炭化物粒子11’間の距離は、より大きな割合の微細研磨粒子12a’が硬質炭化物粒子11’の上に位置することを可能にするために、図1Aのものと比較して低減される。隣接又は近接する硬質炭化物粒子11’の低減された粒子間隔によって、金属結合剤10’のより小さい平均自由行程が作成され、それによって図1Aの従来の耐摩耗性コーティングと比較して、微細研磨粒子12a’が金属結合剤10’と接触することが困難になる。正味の効果は、金属結合剤10’中の微細研磨粒子の実質的な低減又は排除であり、これは、急速な金属結合剤除去によるコーティング20’の有意に低減された摩耗につながる。その結果、様々な加工工程中に微細研磨粒子12a’に遭遇するコーティング付き物品の寿命の延長が達成される。コーティング20’の急速な摩耗に起因する物品の表面の再コーティング又は修理の必要性は、実質的に低減する。硬質相間の低減された間隔は、単位体積当たりより多くの硬質相をコーティングに充填し、それによって硬質相の総体積割合を増加させることによって達成され得る。あるいは、又はそれに加えて、低減された間隔は、より小さい粒子サイズの硬質相の使用によって達成され得る。
【0024】
本発明の原理によれば、本発明の改善された耐摩耗性コーティングは、従来の耐摩耗性コーティングと比較して最適化された耐摩耗性及び耐浸食性をもたらす。本発明の改善された耐摩耗性コーティングは、微細研磨粒子の平均サイズ(典型的には、ミクロン、μmの単位で表される)と、金属結合剤の平均自由行程(典型的には、ミクロン、μmの単位で表される)との比として定義される、(R)として指定される特定の耐摩耗係数を示すように配合される。図1A及び1Bに示されるような平均自由行程は、様々な矢印によって示されるように、軟質相結合剤(10、10’)に埋め込まれた近接する硬質相粒子(11、11’)の縁部間の距離の平均を表す。平均自由行程は、好ましくは、国立衛生研究所(National Institute of Health)によって独自に開発され、https://imagej.net/software/fiji//においてアクセス可能である、ImageJに基づくオープンソース画像分析ソフトウェアであるFiji Imageソフトウェアを使用して計算される。ソフトウェアは、画像が白黒画像に変換された後、相間のx及びy方向の直線距離を測定するために使用され得る。耐摩耗係数(R)は、無次元であり、改善された耐摩耗性コーティングの配合における本発明の意味のある新規の設計基準である。R値は、コーティングが所与のサイズの特定の微細研磨粒子と接触することから生じる摩耗及び浸食に対するコーティングの予期される性能の信頼できる尺度である。R値の範囲は、特定の用途のためのコーティングと接触している微細研磨粒子の所与の平均サイズについて提供される。
【0025】
本発明の一実施形態では、物品は、微細研磨粒子から電池電極材料を作製するために、改善された耐摩耗性コーティングを用いてコーティングされる。耐摩耗性コーティングは、好ましくは、コーティングの総重量に基づいて、約83~94重量%の割合で炭化物系材料を含み、残部は金属結合剤である。耐摩耗性コーティングは、硬質炭化物系粒子及び金属結合剤を含む。物品は、好ましくは、微細研磨粒子と接触して、微細研磨粒子をフィルムに圧縮して、特定の化学組成の電池電極材料を作成するカレンダーロールである。このような用途における耐摩耗係数(R)は、約0.5~15ミクロンの範囲の微細研磨粒子の対応する平均サイズに対して、約1~約65の範囲の値を有する。具体的には、コーティングは、以下の表1に示すように、研磨粒子の特定の平均サイズに対してR最小値及びR最大値を示すように設計又は調整される。
【0026】
【表1】
【0027】
0.5ミクロンのサイズ(すなわち、平均サイズ)を有する微細研磨粒子の場合、コーティングは、約1~約3の範囲のR値を有するように配合される。約0.75ミクロンのサイズを有する微細研磨粒子の場合、コーティングは、約2~約4の範囲のR値を有するように配合される。約1ミクロンのサイズを有する微細研磨粒子の場合、コーティングは、約3~約5の範囲のR値を有するように配合される。約2~3ミクロンのサイズを有する微細研磨粒子の場合、コーティングは、約6~約14の範囲のR値を有するように配合される。約4~7ミクロンのサイズを有する微細研磨粒子の場合、コーティングは、約12.5~約30の範囲のR値を有するように配合される。約8~15ミクロンのサイズを有する微細研磨粒子の場合、コーティングは、約25~約65の範囲のR値を有するように配合される。
【0028】
この方式で、金属結合剤の平均自由行程は、カレンダーロールと接触する微細研磨粒子の平均サイズに基づいて決定される。表1に示されるような所定のR値は、コーティング付き物品(例えば、コーティング付きカレンダーロール)と接触する微細研磨粒子の大部分がコーティングの硬質相の上に位置することを可能にし、それによって微細研磨粒子の金属結合剤との接触を低減又は最小化する。その結果、コーティング付きカレンダーロールの寿命が延び、それによってカレンダーロールの交換が少なくなる。他の有益性としては、元のコーティング付きカレンダーロールの表面粗さ及びプロファイル変化が少ないことが挙げられる。結果として、電池電極材料の品質は、より長い期間にわたって一定であり、したがって、生産量を改善し、品質不適合を低減する。
【0029】
任意の好適な種類の化学組成物が、微細研磨粒子に使用され得る。一実施形態では、微細研磨粒子は、リチウムイオンを含み、電池電極材料を作成する。
【0030】
表1は、電池電極材料を作製するための用途の1つの特定の例を表し、本発明の原理は、他の用途において材料及びフィルムを作製するために利用される任意の微細研磨粒子に対する保護のためのコーティングを配合することに適用可能であることを理解されたい。
【0031】
耐摩耗性コーティングの硬質相は、WC、CrC、(W,Cr)C、TiC、VC、NbC、BC、SiC、ダイヤモンド、又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない任意の炭化物系材料を含み得、金属結合剤は、Co、CoCr、Ni、NiCr、Mo、Fe、FeCrAl、FeCr、FeB、FeAl、TiAl、Ti、又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない任意の金属系材料を含み得る。硬質相と金属結合剤との任意の組み合わせが考えられる。代替の実施形態では、硬質相は、様々な窒化物などの非炭化物系材料を含み得る。硬質相は、コーティングの総重量に基づいて、83~94重量%を含む任意の好適な量の割合であり得る。
【0032】
優れた摩耗及び浸食摩耗に加えて、本発明のコーティングは、最小の気孔率及び最小の酸化物含有量を示す。一実施形態では、コーティングは、コーティングの総体積に基づいて、約2.5体積%未満、より好ましくは約1体積%未満、及び最も好ましくは約0.5体積%未満の酸化物含有量を示す。気孔率は、コーティングの総体積に基づいて、約1体積%未満、より好ましくは約0.5体積%未満、及び最も好ましくは約0.3体積%未満である。酸化物及び気孔率の低減又は排除は、コーティング付き物品の表面仕上げにおける局所的欠陥の低減又は排除をもたらし得る。加えて、酸化物及び気孔率の欠如は、コーティングの硬度及び延性を改善するのにも役立つ。コーティング硬度は、好ましくは約950HV300g以上、より好ましくは約1200HV300g超、最も好ましくは約1350HV300g超のビッカース硬度であることを特徴とする。
【0033】
コーティングの改善された耐摩耗性は、改変された高速溶射プロセスから作成され得る。粉末供給原料は、約0.5~約30ミクロンの範囲の微粒子からなり、これは、従来の溶射プロセスでの使用には実用的ではない。好ましくは、改善された耐摩耗性コーティングは、本出願人の米国特許出願公開第2020/048753号(その詳細は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、酸素と予備混合するために不活性ガスを使用する改変された高速酸素燃料(high velocity oxygen fuel、「HVOF」)プロセスを使用して形成される。
【0034】
改善された耐摩耗性コーティングを検証するために、いくつかの実験を実行した。本発明の原理に従って、特定の試験コーティングを、使用される研磨試験媒体に基づいて、Rとして指定される耐摩耗係数を作成するために、低減された粒子間隔で調製した。本発明のコーティングを、本出願人の米国特許出願公開第2020/048753号に記載されている改変されたHVOFプロセスを使用して調製した。
【0035】
試験コーティングの結合剤平均自由行程を、画像解析ソフトウェアFuji(ImageJ)を使用して測定した。このソフトウェアは、画像が白黒に変換された後、金属結合剤の平均直線距離を測定することが可能であった。平均直線距離から平均自由行程を計算し、5ミクロンの平均サイズを有するアルミナ角粉末の微細研磨媒体の試験使用に基づいてR値を決定した。
【0036】
摩耗性能評価は、回転湿式ホイール研磨試験を利用することにより本出願人が実施した。この試験は、主にASTM G105規格に基づき、以下の改変を加えた:(i)直径約216mm、幅12.7mmである変性ゴムホイールの利用、(ii)50RPMでの3000回転のホイール回転、(iii)5ミクロンのアルミナ角粉末の研磨媒体、(iv)1200gのアルミナ粉末(+/-2g)及び700gの脱イオン水(+/-2g)を混合することによって調製された試験スラリー、及び(v)試験前に約20~約40μm(Ra)の表面仕上げに研磨されたコーティング付き試料。試験片を試験スラリー中の微細研磨媒体に曝した。コーティング付き試料の面を変性ゴムホイールに対して押し付け、試験スラリー中の微細研磨粒子によって研磨して、コーティングの摩耗をシミュレートした。5ミクロンのアルミナ角粉末を使用して、より過酷な微細摩耗条件をシミュレートした。試験は、変性ゴムホイールを使用して、3000回転で行った。試料を、0.0001gの精度レベルを有するデジタル重量計上での試験の前後に秤量し、結果を、コーティング材料の比重の使用を通して容積損失に変換した。
【0037】
Mahr S2パーソメータを使用して、資料の開始粗さ及び最終粗さを測定した。粗さプロファイルを評価し、Ra及びRmax値によって特徴付けた。
【0038】
実施例1
94重量%のWC及び6重量%のCoの割合を有する本発明の炭化物系コーティングを調製し、上記のように試験した。コーティングを、0.30ミクロンの平均自由行程を有すると決定した。摩耗試験前のコーティング付き試験片は、光学顕微鏡分析に基づいて、最小の気孔率及び最小の酸化物含有量を示すことが観察された。図2は、500倍の倍率でのコーティングの光学顕微鏡写真を示す。図2において、コーティング酸化物及びコーティング気孔率は観察されなかった。硬度を、1500HV300gであると測定した。図2のコーティングに(上記のような)摩耗試験を実施し、コーティングの耐摩耗係数(R)を、コーティングの、5ミクロンのアルミナ角粉末の微細研磨媒体との接触に基づいて、16.7であると決定した。回転湿式ホイール研磨試験によって、1000回転当たり0.122mmの材料の体積損失を有する摩耗痕が明らかになった。試験によって、表1に示されるようなR値に従って調製されたコーティングが、従来の耐摩耗性コーティングと比較して低減した量のコーティング損失を示すことが確認された。摩耗痕の表面粗さは、微細摩耗試験後にわずか0.019μmのRa及びわずか0.433μmのRmaxだけが増加することが測定された。
【0039】
実施例2
86重量%のWC、10重量%のCo、及び4重量%のCrの割合を有する本発明の炭化物系コーティングを調製し、上記のように試験した。コーティングを、0.253ミクロンの平均自由行程を有すると決定した。摩耗試験前のコーティング付き試験片は、光学顕微鏡分析に基づいて、最小の気孔率及び最小の酸化物含有量を示すことが観察された。図3は、500倍の倍率でのコーティングの光学顕微鏡写真を示す。図3において、コーティング酸化物及びコーティング気孔率は観察されなかった。硬度を、1400HV300gであると測定した。図3のコーティングに(上記のような)摩耗試験を実施し、コーティングの耐摩耗係数(R)を、コーティングの、5ミクロンのアルミナ角粉末の微細研磨媒体との接触に基づいて、19.8であると決定した。回転湿式ホイール研磨試験によって、1000回転当たり0.134mmの材料の体積損失を有する摩耗痕が明らかになった。試験によって、表1に示されるようなR値に従って調製されたコーティングが、従来の耐摩耗性コーティングと比較して減少した量のコーティング損失を示すことが確認された。摩耗痕の表面粗さは、微細摩耗試験後にわずか0.023μmのRa及びわずか0.403μmのRmaxだけが増加することが測定された。
【0040】
実施例1及び2の両方は、R値が、表1に示されるように、コーティングが所与のサイズの特定の微細研磨粒子と接触することから生じる摩耗及び浸食に対する、強化された配合コーティングの予期される性能の信頼できる尺度であることを検証した。
【0041】
比較例1
86重量%のWC、10重量%のCo、及び4重量%のCrの割合を有する炭化物系コーティングを、予備混合無しの従来のHVOFプロセスを使用して調製し、上記のように試験した。コーティングを、0.566ミクロンの平均自由行程を有すると決定し、これは、実施例1及び2で測定されたものよりも有意に高かった。摩耗試験前のコーティング付き試験片は、光学顕微鏡分析に基づいて、実質的な気孔率を示し、かつ実質的な酸化物含有量を示すことが観察された。図4は、500倍の倍率でのコーティングの光学顕微鏡写真を示す。多数の孔の存在によって示されるように、図4において実質的なコーティング気孔率が観察された。多数の「ストリンガ」の存在によって示されるように、実質的なコーティング酸化物が観察された。硬度を、1300HV300gであると測定した。図4のコーティングに(上記のような)微細摩耗試験を実施し、コーティングの耐摩耗係数(R)を、コーティングの、5ミクロンのアルミナ角粉末の微細研磨媒体との接触に基づいて、8.8であると決定した。回転湿式ホイール研磨試験によって、1000回転当たり0.183mmの材料の体積損失を有する摩耗痕が明らかになった。試験によって、表1のR値の範囲に従って調製されなかったコーティングが、実施例1及び2のコーティングと比較して、コーティング損失量の有意な増加を示すことが確認された。摩耗痕の表面粗さは、微細摩耗試験後に0.119μmのRa及び2.41μmのRmaxが増加することが測定され、これは、実施例1及び2のコーティングで遭遇したものよりも有意に高い損傷を示した。
【0042】
試験データによって、12.5の最小R値以上である一方で30の最大R値以下である耐摩耗係数(R)を有する耐摩耗性コーティングであって、4~7ミクロンの研磨粒子サイズと接触する、コーティングを生成することが、必要な範囲内のR値を有さない従来の耐摩耗性コーティングと比較して、実質的に低減された気孔率、実質的に低減された酸化物、及び実質的に低減された材料の摩耗損失を有する改善された耐摩耗性コーティングを生成し得ることが確認された。
【0043】
本発明の特定の実施形態と見なされるものを示し、説明してきたが、当然ながら、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態又は詳細の様々な修正及び変更を容易に行うことができることが理解されるであろう。したがって、本発明は、本明細書において示され、説明される正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書において開示され、以下に特許請求される本発明の全範囲に満たないいかなるものにも限定されないことを意図する。
図1A
図1B
図2
図3
図4