(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184412
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】バッテリーケース
(51)【国際特許分類】
H01M 50/231 20210101AFI20231221BHJP
H01M 50/249 20210101ALI20231221BHJP
H01M 50/271 20210101ALI20231221BHJP
H01M 50/227 20210101ALI20231221BHJP
H01M 50/233 20210101ALI20231221BHJP
H01M 50/242 20210101ALI20231221BHJP
【FI】
H01M50/231
H01M50/249
H01M50/271 B
H01M50/227
H01M50/233
H01M50/242
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023015895
(22)【出願日】2023-02-06
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2022097735
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】樋貝 和彦
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA01
5H040AA03
5H040AA07
5H040AS07
5H040AT06
5H040AY05
5H040CC05
5H040LL06
5H040LL10
5H040NN01
(57)【要約】
【課題】大幅な重量アップや製造コストアップ、車両構造の変更を必要とせず、従来以上の剛性・強度を備え、さらには制振性にも優れるバッテリーケースを提供する。
【解決手段】本発明に係るバッテリーケース1は、バッテリーケースロア3とバッテリーケースアッパ5とを備えたものであって、バッテリーケースロア3は、ケース底部15、ケース底部15の周縁に立設されたケース前後縦壁部17及びケース左右縦壁部19と、ケース前後縦壁部17及びケース左右縦壁部19の上端に外向きに形成され、バッテリーケースアッパ5と接合するケースフランジ部21とを有し、少なくとも、ケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19及びケース底部15のいずれかの内面及び/又は外面に樹脂25が貼付又は塗布されると共に、樹脂25を覆うように配設された補強板27が樹脂25と接着されていることを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフロア下に搭載されてバッテリーを格納する矩形状のバッテリーケースロアと該バッテリーケースロアの上面を覆うように配設されるバッテリーケースアッパとを備えたバッテリーケースであって、
前記バッテリーケースロアは、ケース底部、該ケース底部の周縁に立設されたケース前後縦壁部及びケース左右縦壁部と、該ケース前後縦壁部及び該ケース左右縦壁部の上端に外向きに形成され、前記バッテリーケースアッパと接合するケースフランジ部とを有し、
少なくとも、前記ケース前後縦壁部、前記ケース左右縦壁部及び前記ケース底部、のいずれかの内面及び/又は外面に樹脂が貼付又は塗布されると共に、該樹脂を覆うように配設された補強板が前記樹脂と接着されていることを特徴とするバッテリーケース。
【請求項2】
少なくとも、前記ケース左右縦壁部の上端に形成された前記ケースフランジ部のバッテリーケースアッパと反対面に樹脂が貼付又は塗布されると共に、該樹脂を覆うように配設された補強板が前記樹脂と接着されていることを特徴とする請求項1に記載のバッテリーケース。
【請求項3】
車体のフロア下に搭載されてバッテリーを格納する矩形状のバッテリーケースロアと該バッテリーケースロアの上面を覆うように配設されるバッテリーケースアッパとを備えたバッテリーケースであって、
前記バッテリーケースロアは、ケース底部、該ケース底部の周縁に立設されたケース前後縦壁部及びケース左右縦壁部と、該ケース前後縦壁部及び該ケース左右縦壁部の上端に外向きに形成され、前記バッテリーケースアッパと接合するケースフランジ部とを有し、
少なくとも、前記ケース左右縦壁部の上端に形成された前記ケースフランジ部のバッテリーケースアッパと反対面に樹脂が貼付又は塗布されると共に、該樹脂を覆うように配設された補強板が前記樹脂と接着されていることを特徴とするバッテリーケース。
【請求項4】
前記樹脂の厚みが0.1~5mm、前記補強板の厚みが0.15~1.0mmであって、前記樹脂と前記バッテリーケースロア及び前記補強板との接着強度が5MPa以上、であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のバッテリーケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車のバッテリーケースに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車のバッテリーケースは、車両衝突時に内部のバッテリーパックの損傷を防止するため、非常に強靭な構造とする必要がある。そのため、バッテリーケース本体の内側や外側にはバッテリーケースクロスメンバーが多数設置され、バッテリーケースの剛性を向上させている。
また、自動車のフロア(フロアパネル)上には一般的にフロアクロスメンバーが設けられているので、このフロアクロスメンバーを高強度化して側突時の荷重をできる限りフロアクロスメンバーに伝達するようにすれば、バッテリーケースへの入力荷重を低減できる。
【0003】
上述したフロアクロスメンバーやバッテリーケースクロスメンバーは、高強度ハイテン材によるハット断面部品やアルミ押出し材などからなる部品であり、車両幅方向や長さ方向に複数設置されている。バッテリーケース保護の目的でこれらの部品を増加すると、バッテリーを配置するためのスペースが減少し、バッテリー搭載量が低下する。
また、部品数の増加によって車両重量が増加し、航続距離低下の原因となる。
そこで、バッテリーケースを保護するための最適な構造が従来より検討されている。
【0004】
バッテリーケースに関わる先行文献として、例えば特許文献1に開示される「電動車両用バッテリーケース」がある。「電動車両用バッテリーケース」では、有底枠体であるバスタブ形状のトレイとトップカバーによってバッテリーの収容部がシールされることにより、高いシール性を確保できるとしている。また、トレイの全周を囲むように配置されたフレームにより、高い衝突強度を確保できるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、複数本のリインフォースと、隣り合うリインフォースを連結する複数の補強部材とを備えた「バッテリーケース用ロアトレー」が開示されている。「バッテリーケース用ロアトレー」では、隣り合うリインフォースの間の領域に押圧力が作用した際、その押圧力は補強部材を介して複数のリインフォースに分散して伝わるので1本のリインフォースに伝わる応力が低減される。これにより、リインフォースが座屈変形しにくくなるので、トレー本体の変形を防止できるとしている。
さらに、特許文献3には、外周壁と、外周壁を補強するリインフォースと、底板とを備えた「電池ケース」が開示されている。この「電池ケース」では、路面からの負荷に対する耐久性を高めるために、底板を、金属板の上板および下板で発泡樹脂製(発泡材)の中間材を挟んだサンドイッチパネルとしている。そして、外周壁及びリインフォースにより構成される電池モジュールの囲繞壁(いにょうへき)との関係で、中間材の発泡倍率を変更し、底板の剛性を確保した上で軽量化できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-041783号公報
【特許文献2】特開2020-053132号公報
【特許文献3】特開2019-091633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、十分な強度や密閉性を確保できるものであるが、必要な強度を保つためにはトレイに接合されたフレームが多数必要となるため、トレイの表面積に対してバッテリーを収容できる面積が著しく制限されてしまう。またフレームは金属製であるため、重量が増加し電費が低下してしまう。
【0008】
特許文献2は、金属製であれば強度に問題なくトレー本体の変形を防止することが可能であるが、鉄製である場合は重量増加が著しく、軽量化のために軽金属を用いればコストがかかる。また、樹脂製である場合は軽量化が可能である反面、強度的に軟弱となるため、トレー本体の変形を防ぐには樹脂厚を厚くするか、トレー本体を補強する必要があり、重量アップ、コストアップの課題があった。
特許文献3は、電池ケースの底板をサンドイッチパネルとして、路面からの負荷に対する耐久性を確保するものである。しかし、サンドイッチパネルの発泡樹脂には発泡ガスを内包する発泡体が存在するので、発泡樹脂における樹脂自体の有効断面積は小さく、発泡樹脂は剪断凝集破壊強度が低い。このため、サンドイッチパネルに大きな曲げ変形が生じて発泡樹脂層に剪断力が加わると、発泡樹脂層内部で破壊する凝集破壊(cohesive failure)が生じやすい。これ故、路面から電池ケースの底板に曲げ変形を生じさせるほどの大きな負荷が加わる場合、耐久性を確保できない。特に、電池ケースの底板に大きな曲げ変形を生じさせる車両側面からのポール衝突(車両側突)に対しては脆弱であり、電池ケースの剛性を向上させる効果は、ほとんど期待できない。そのため、車両側突に対する電池ケースの剛性を確保するためには、金属製の外周壁と、外周壁を補強する金属製のリインフォースが多数必要であり、電池ケース全体の軽量化に課題があった。発泡倍率を低下させてこれら課題を解決する方法はあるが、重量が著しく増加する課題もある。また、発泡樹脂は発泡ガスを内包する空隙の存在により熱伝導率が低く、バッテリーケースの放熱性に課題があった。さらに、部分的に発泡倍率の異なる発泡樹脂からなるサンドイッチパネルの製造には、発泡樹脂の注入と発泡させるための焼付けを繰り返し行う必要があり、生産性にも課題があった。
【0009】
上記のように、車両側突時のバッテリーケースの変形を防止する技術開示は多くあるが、大幅な重量アップや製造コストアップを伴ったり、車両設計に影響を与えたりするという問題を抱えていた。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、大幅な重量アップや製造コストアップ、車両構造の変更を必要とせず、従来以上の剛性・強度を備え、さらには制振性にも優れるバッテリーケースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係るバッテリーケースは、車体のフロア下に搭載されてバッテリーを格納する矩形状のバッテリーケースロアと該バッテリーケースロアの上面を覆うように配設されるバッテリーケースアッパとを備えたものであって、前記バッテリーケースロアは、ケース底部、該ケース底部の周縁に立設されたケース前後縦壁部及びケース左右縦壁部と、該ケース前後縦壁部及び該ケース左右縦壁部の上端に外向きに形成され、前記バッテリーケースアッパと接合するケースフランジ部とを有し、少なくとも、前記ケース前後縦壁部、前記ケース左右縦壁部及び前記ケース底部、のいずれかの内面及び/又は外面に樹脂が貼付又は塗布されると共に、該樹脂を覆うように配設された補強板が前記樹脂と接着されていることを特徴とするものである。
【0012】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、少なくとも、前記ケース左右縦壁部の上端に形成された前記ケースフランジ部のバッテリーケースアッパと反対面に樹脂が貼付又は塗布されると共に、該樹脂を覆うように配設された補強板が前記樹脂と接着されていることを特徴とするものである。
【0013】
(3)また、本発明に係るバッテリーケースは、車体のフロア下に搭載されてバッテリーを格納する矩形状のバッテリーケースロアと該バッテリーケースロアの上面を覆うように配設されるバッテリーケースアッパとを備えたものであって、前記バッテリーケースロアは、ケース底部、該ケース底部の周縁に立設されたケース前後縦壁部及びケース左右縦壁部と、該ケース前後縦壁部及び該ケース左右縦壁部の上端に外向きに形成され、前記バッテリーケースアッパと接合するケースフランジ部とを有し、少なくとも、前記ケース左右縦壁部の上端に形成された前記ケースフランジ部のバッテリーケースアッパと反対面に樹脂が貼付又は塗布されると共に、該樹脂を覆うように配設された補強板が前記樹脂と接着されていることを特徴とするものである。
【0014】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記樹脂の厚みが0.1~5mm、前記補強板の厚みが0.15~1.0mmであって、前記樹脂と前記バッテリーケースロア及び前記補強板との接着強度が5MPa以上、であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のバッテリーケースにおいては、少なくとも、ケース前後縦壁部、ケース左右縦壁部、及びケース底部、のいずれかの内面及び/又は外面に樹脂と補強板を設けることにより、バッテリーケースの剛性が向上する。
また、少なくとも、ケース左右縦壁部の上端に形成されたケースフランジ部のバッテリーケースアッパと反対面に樹脂及び補強板を設けることにより、ケースフランジ部の衝突エネルギー吸収性能が向上し、ケースの縦壁部や底部に入力する荷重を低減できる。
上記のように、バッテリーケース本体の剛性・強度を高める、又は、バッテリーケース本体に入力する荷重を低減することにより、側面衝突時のバッテリーケースの変形を防止できる。また、これによってバッテリーケースクロスメンバの肉薄化や設置本数の低減が可能となり、軽量化に寄与し、制振性にも優れている。
さらに、本発明はバッテリーケースの外観をほとんど変化させないので、バッテリー搭載容積を低下させることもなく、車両設計に影響を与えることもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るバッテリーケースを説明する図である。
図1(a)はバッテリーケースロアの斜視図、
図1(b)~
図1(e)は
図1(a)のA平面による断面図であって樹脂及び補強板の配置例を示すものである。
【
図2】バッテリーケースの全体構成を説明する図である。
【
図3】バッテリーケース及び周辺部品の車幅方向における断面図であり、
図1の例における樹脂と補強板の適用位置を示す図である。
【
図4】従来のバッテリーケースロアにおけるケース前後縦壁部の面剛性を評価するためのモデル(従来モデル)と、
図1のバッテリーケースロアのケース前後縦壁部の面剛性を評価するためのモデル(発明モデル)を説明する図である。
【
図5】
図4の従来モデルと発明モデルの面剛性を評価した結果を示すグラフである。
【
図6】側面衝突時のバッテリーケースロアの変形状態を説明する図である。
【
図7】実施の形態1に係るバッテリーケースの他の態様1を説明する図である。
図7(a)はバッテリーケースロアの斜視図、
図7(b)~
図7(e)は
図7(a)のB平面による断面図であって樹脂及び補強板の配置例を示すものである。
【
図8】バッテリーケース及び周辺部品の車幅方向における断面図であり、
図7の例における樹脂と補強板の適用位置を示す図である。
【
図9】実施の形態1に係るバッテリーケースの他の態様2を説明する図である。
図9(a)はバッテリーケースロアの斜視図、
図9(b)、
図9(c)は
図9(a)のC平面による断面図であって樹脂及び補強板の配置例を示すものである。
【
図10】バッテリーケース及び周辺部品の車幅方向における断面図であり、
図9の例における樹脂と補強板の適用位置を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態2に係るバッテリーケースを説明する図である。
図11(a)はバッテリーケースロアの斜視図、
図11(b)は
図11(a)のD平面による断面図であって樹脂及び補強板の配置例を示すものである。
【
図12】バッテリーケース及び周辺部品の車幅方向における断面図であり、
図11の例における樹脂と補強板の適用位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態1]
まず、本実施の形態に係るバッテリーケース1の全体構成及びバッテリーケース1を車体に搭載するときの配置例を
図2、
図3に示す。なお、
図2及び以降説明する図において、矢印FRの向きが車体の前方、矢印UPの向きが車体の上方を示している。
【0018】
本実施の形態に係るバッテリーケース1は、
図2、
図3に示すように、バッテリーケースロア3とバッテリーケースアッパ5とを備えてなり、車体のフロア7の下に搭載される。フロア7の車体幅方向の両端部には、車体前後方向に延びるように配置された一対のサイドシル9が接合されている。バッテリーケース1は、断面L字状の固定部品11を介してサイドシル9に固定される。
【0019】
フロア7の上面には、上記一対のサイドシル9に亘るようにフロアクロスメンバ13が設けられている。
フロアクロスメンバ13は、バッテリーケース1の上方を車幅方向に横切るように設けられており、両端部がサイドシル9に接合されている。
図3に示すように、フロアクロスメンバ13はバッテリーケース1の上方において、バッテリーケース1よりも車幅方向両側に突出して設けられている。これにより、側面衝突時の荷重はバッテリーケース1より先にフロアクロスメンバ13に入力され、バッテリーケース1に入力する荷重が低減される。
以下、バッテリーケース1の各構成について詳細に説明する。
【0020】
<バッテリーケースロア>
バッテリーケースロア3は、矩形状のケース底部15及びケース底部15の周縁に立設された側壁により構成された金属製(例えば鋼板製)の有底枠体であって、電気自動車のバッテリーを格納するものである。ここで、上記側壁のうち、車両前後方向に対向する一対の側壁をケース前後縦壁部17、車両幅方向に対向する一対の側壁をケース左右縦壁部19とする。
ケース前後縦壁部17及びケース左右縦壁部19の上端には、バッテリーケースロア3とバッテリーケースアッパ5とを接合するためのケースフランジ部21が外向きに形成されている。
【0021】
バッテリーケースロア3の内部には、補剛部材であるバッテリーケースクロスメンバ23がケース左右縦壁部19に亘るように設けられており、バッテリーケースロア3の剛性を向上させている。
【0022】
そして、バッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17(
図3のグレーで示す範囲)には、樹脂が所定の強度で貼付又は塗布されると共に、樹脂を覆うように補強板が配設されている。この点について
図1を用いて詳しく説明する。
【0023】
図1(a)はバッテリーケースロア3の斜視図であり、ケース前後縦壁部17をグレーで示している。
図1(b)~
図1(e)に、ケース前後縦壁部17に樹脂25及び補強板27を設ける際の配置例を示す。
樹脂25は、
図1(b)、
図1(c)のようにケース前後縦壁部17の外面に設けてもよいし、
図1(d)、
図1(e)のようにケース前後縦壁部17の内面に設けてもよい。
また樹脂25は、予め成形されたもの(射出成形樹脂部品)をケース前後縦壁部17に貼付してもよいし、成形前の樹脂25をケース前後縦壁部17に塗布して焼付することによって形成してもよい。
【0024】
樹脂25の厚みの下限は、樹脂25を塗布して形成する場合には均一に塗布可能な0.1mm程度、フィルム状の樹脂25を貼付する場合には20μm程度となる。
また、樹脂25の厚みの上限は、コストの観点から5mm程度とするのが好ましい。
なお、バッテリーケースの軽量化と剛性向上の観点に基づく樹脂厚の決定方法については後述する。
【0025】
樹脂25を覆うように設けられた補強板27は、樹脂25と所定の強度で接着されており、ケース前後縦壁部17より樹脂25が剥離するのを防止し、後述するように樹脂25と協働してケース前後縦壁部17の面剛性を向上するものである。ケース前後縦壁部17の面剛性が向上することより、バッテリーケースロア3の剛性が向上する。なお、面剛性については後述する。
補強板27は、
図1(b)、
図1(d)のように上端と下端をスポット溶接によってケース前後縦壁部17に固定してもよいし、
図1(c)、
図1(e)のように下端側はケース底部15に固定するようにしてもよい。下端をケース底部15に固定すると樹脂を接着できる範囲を広くできる。
【0026】
樹脂25と補強板27による面剛性向上の効果は、補強板27の素材の引張強度に大きくは依存しないため、補強板27の引張強度はバッテリーケースロア3の素材より低くてもよく、製造コスト低減の観点から、引張強度270MPa級~590MPa級でよい。また、補強板27は、樹脂25がバッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17から剥離するのを防止すればよいので、補強板27の板厚はバッテリーケースロア3の素材の板厚よりも薄肉でよい。例えば、軽量化及び製造コスト低減の観点から、板厚0.15~1mmの鋼板がよい。
【0027】
引張強度270MPa級~590MPa級としたのは、270MPa級が通常使用される鋼板において最も引張強度が低く、590MPa級を越えるとコストが大きく上昇するためである。この範囲の中では、特にJIS規格SPCC等の普通鋼と呼ばれる安価な一般的な冷間圧延鋼板やめっき鋼板のグレードである270MPa級(いわゆる、軟鋼)がコスト面から好ましい。また、板厚0.15~1mmとしたのは、0.15mm未満では製造コストが上昇し、1mmを超えると軽量化効果が低下するためである。
【0028】
従来の一般的なバッテリーケースは金属板のみで構成されていたため、強度及び剛性を高めるには、金属板の板厚を厚くする必要があり、重量が増加していた。
この点、本実施の形態のバッテリーケース1は、ケース前後縦壁部17に樹脂25と補強板27を設けたことで見かけの板厚が厚くなるが、金属よりも低密度の樹脂25を用いているので、従来のように金属板の板厚を厚くする場合に比べて重量増加しにくい。
【0029】
そして、金属製であるバッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17と補強板27とで樹脂25を挟んだサンドイッチ構造(3層の積層構造)としたことにより、ケース前後縦壁部17の面剛性が向上する。ここで、面剛性とは、ケース前後縦壁部17における曲げ変形に対する耐力、即ち、ケース前後縦壁部17の端部から面内方向に入力する荷重に対し、座屈変形せずに耐えられる最大荷重である。この点について、
図4、
図5に基づいて説明する。
【0030】
図4に、従来のバッテリーケースロアのケース前後縦壁部17の面剛性を評価するための従来モデル、本実施の形態のバッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17の面剛性を評価するための発明モデルを示す。従来モデルは鋼板のみから構成されたモデルであり、発明モデルはケース前後縦壁部17と補強板27とで樹脂25を挟んだサンドイッチ構造のモデルである。
図4において
図1と対応する部分には同一の符号を付す。
【0031】
従来モデルのように鋼板のみから構成される場合の面剛性は、一般的に材料のヤング率Eと、断面2次モーメントIとの積EIで与えられる。
これに対し、発明モデルのようにサンドイッチ構造となっている場合の面剛性EIは、下記式(1)を用いて求めることができる。
【0032】
【0033】
上記式(1)において、Lは積層材の幅、iは材料、nは層の数、Eiは材料iのヤング率、hiはi=1の材料から材料iの層までの厚み、λはi=1の材料の表面から積層材の中立面までの距離である。
【0034】
図4の従来モデルと発明モデルを略同一の重量とした場合の面剛性EIの違いを比較したのでその結果を
図5に示す。
図5は、従来モデルのケース前後縦壁部の厚みを1.2t(総厚み1.2t)とし、本発明モデルのケース前後縦壁部の厚みを0.6t、樹脂の厚みを1.5t、補強板の厚みを0.3t(総厚み2.4t)とし、それぞれの面剛性EIを式(1)を用いて算出したものである。
図5における両モデルの重量比は、従来モデルの重量を基準(1.00)としたとき、発明モデルは0.97であった。
【0035】
図5に示されるように、発明モデルの面剛性(1.65×10
-7GPa・m
4)は従来モデル(0.31×10
-7GPa・m
4)の5.3倍に向上した。このように、ケース前後縦壁部17の板厚を従来モデルよりも薄くしつつ、金属よりも低密度でヤング率の低い樹脂と、補強板27を設けることで、当該部位の総厚みを従来モデルよりも厚くすることで、従来モデルと同程度の重量でも面剛性を著しく上昇できる。ここで、耐力を表す指標を、例えば後述する式(2)により求められる座屈荷重とする場合、座屈荷重は面剛性(E×I)に比例するので、曲げ変形に対する耐力も面剛性に比例して上昇する。
【0036】
次に、バッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17の面剛性を向上させることで、バッテリーケース1の剛性が向上する点について、
図6を用いて説明する。
図6は、車体の側面がポール29に衝突した場合におけるバッテリーケースロア3の変形状態を説明する図であり、
図6(a)はポール29に衝突する前の状態を平面視した図、
図6(b)はポール29が衝突した後の状態を平面視した図である。なお、実際の車体ではバッテリーケースロア3の上側にバッテリーケースアッパー5やフロア7、フロアクロスメンバ13等の他の部品が存在するが、
図6ではこれらの部品の図示を省略している。
【0037】
図6(b)に示すように車体の左側面がポール29に衝突すると、バッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19、ケース底部15には図中の湾曲した矢印に示すように曲げモーメントが働く。例えばケース前後縦壁部17に働く曲げモーメントは、図中の黒塗矢印に示すようにケース前後縦壁部17の内面側が圧縮、外面側が引張するような曲げ変形を生じさせる。したがって、ケース前後縦壁部17に樹脂25及び補強板27を設けてケース前後縦壁部17の面剛性を向上させることで、上記のような曲げ変形に対する耐力が向上し、側面衝突時においてもケース前後縦壁部17が座屈変形することなく形状を維持できる。これにより、バッテリーケース1自体の剛性、強度が高まり、変形を防止することができる。
【0038】
なお、ケース前後縦壁部17と樹脂25と補強板27とが一体となって荷重を受けることで面剛性が効果的に向上するので、ケース前後縦壁部17と樹脂25、及び、樹脂25と補強板27は所定の強度で接着されている必要がある。この点について具体例をあげて説明する。
【0039】
ケース前後縦壁部17の板厚を1.0mm、樹脂25の厚みを1.0mm、補強板27の板厚を0.6mmとした場合、ケース前後縦壁部17と樹脂25、樹脂25と補強板27とがそれぞれ接着されていれば、面剛性EIは2.72×10-7GPa・m4となる。なお、上記面剛性は鉄のヤング率を206GPa、樹脂25のヤング率を2GPaとして算出した。
ここで、樹脂25と補強板27が接着されていない場合には、接着されているケース前後縦壁部17と樹脂25の面剛性EIは0.19×10-7GPa・m4、補強板27単体の面剛性EIは0.04×10-7GPa・m4である。よって全体としての面剛性はこれらを合計した0.23×10-7GPa・m4となるが、樹脂25と補強板27が接着されている場合と比べて著しく低下する。
したがって、ケース前後縦壁部17と樹脂25と補強板27が一体で荷重を受けられるよう、ケース前後縦壁部17と樹脂25が十分な強度で接着され、かつ、樹脂25と補強板27が十分な強度で接着されていることが重要である。
【0040】
なお、接着強度としては、例えば5MPa以上が好ましい。接着強度が5MPa以上あれば、ケース前後縦壁部17に曲げ変形が生じた場合にも、90°程度までの曲げ変形であればケース前後縦壁部17から樹脂25が剥離しない。ここで、上記接着強度の測定は、JIS K 6850の「接着剤-剛性被着材の引張せん断 接着強さ試験方法」に基づいて実施し、金属板と樹脂との界面に作用する接着面に平行な最大せん断応力又は平均せん断応力を接着強度とすることができる。なお、JIS K 6850により測定される接着強度(引張せん断接着強さ)は、界面剥離(樹脂と被着材料の接合界面での破壊)と凝集破壊(樹脂の内部での破壊)の破壊モードを区別していない。そのため、界面剥離と凝集破壊のいずれが生じた場合でも、そのときの応力を接着強度として評価される。それ故、例えば発泡樹脂のように小さい荷重で凝集破壊する樹脂の場合、接着強度として5Mpaを確保することができない。そこで、本発明における樹脂としては、凝集破壊しにくい例えば、エポキシ、変性エポキシ、ウレタン、変性ウレタン、アクリル、変性アクリルのいずれかが好ましい。
【0041】
<樹脂厚の決定方法>
本発明はバッテリーケース1の樹脂25の厚みを限定するものではないが、樹脂25が薄すぎるとケース前後縦壁部17の面剛性向上の効果が低くなり、厚すぎると軽量化の効果が低くなる場合がある。よって、両者のバランスを考慮して樹脂厚を決定するのが好ましい。以下に、そのような樹脂厚の決定方法の一例について説明する。
【0042】
まず、検討のベースとなるような金属製のバッテリーケースロア3を用意し、重量と、ケース前後縦壁部17の面剛性を求める。以下、このバッテリーケースロア3を≪ベース≫という。
次に、上記≪ベース≫よりも板厚が薄い金属製のバッテリーケースロア3を2つ用意する。以下、このバッテリーケースロア3を≪サンプルA≫≪サンプルB≫という。≪サンプルA≫と≪サンプルB≫の板厚は同じものとする。
【0043】
まず、≪サンプルA≫に対し、例えば
図1(b)のように、ケース前後縦壁部17に樹脂25と補強板27を設ける。このとき、ケース前後縦壁部17の面剛性が≪ベース≫の面剛性と同程度になるように樹脂厚を調整する。これにより≪サンプルA≫は、≪ベース≫と同程度の面剛性を確保しつつ、金属よりも低密度の樹脂25を用いることによる軽量化の効果を最大化したものとなる。
【0044】
また、≪サンプルB≫に対し、ケース前後縦壁部17に≪サンプルA≫と同様の配置で樹脂25と補強板27を設ける。このとき、樹脂25と補強板27を含めた≪サンプルB≫の重量が≪ベース≫の重量と同程度になるように樹脂厚を調整する。≪サンプルB≫は、≪ベース≫と同程度の重量となるまで低密度の樹脂25の樹脂厚を厚くすることで、面剛性向上の効果を最大化したものとなる。
【0045】
≪ベース≫よりも面剛性を低下させずに最大限軽量化できる≪サンプルA≫の樹脂厚を下限値とし、≪ベース≫よりも重量を増加させずに最大限面剛性を向上できる≪サンプルB≫の樹脂厚を上限値として樹脂厚を決定するとよい。上記範囲内で樹脂厚を設定することにより、軽量化と面剛性向上の二つの効果を奏することができるので好ましい。
【0046】
上記はバッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17に樹脂25及び補強板27を設ける例を用いて説明したが、本発明はその限りではない。
図6で説明したように、ケース左右縦壁部19、ケース底部15にも曲げモーメントが働いて曲げ変形が生じるので、ケース左右縦壁部19、ケース底部15の面剛性を向上させて曲げ変形に対する耐力を高めるようにしてもよい。このような本実施の形態の他の態様について、以下説明する。
【0047】
ケース左右縦壁部19に樹脂25及び補強板27を設ける場合の適用位置を
図7(a)及び
図8にグレーで示す。また、その場合の樹脂25と補強板27の配置例を
図7(b)~
図7(e)に示す。
この場合も、
図1の例と同様に、ケース左右縦壁部19の内面又は外面に樹脂25を貼付又は塗布すると共に、樹脂25を覆うように補強板27を配設することにより、ケース左右縦壁部19の面剛性を向上させることができる。
【0048】
また、ケース底部15に樹脂25及び補強板27を設ける場合の適用位置を
図9(a)及び
図10にグレーで示す。また、その場合の樹脂25と補強板27の配置例を
図9(b)、
図9(c)に示す。
この場合も、他の例と同様に、ケース底部15の内面又は外面に樹脂25を貼付又は塗布すると共に、樹脂25を覆うように補強板27を配設することにより、ケース底部15の面剛性を向上させることができる。
これらの他の態様においても、好適な樹脂25の厚みや補強板27の板厚及び引張強度、接着強度などについては前述した実施の形態と同様である。
【0049】
以上のように、本実施の形態によれば、バッテリーケースロア3の剛性が向上して側面衝突時のバッテリーケース1の変形が従来よりも抑制されると共にバッテリーケース1の軽量化も可能である。
また、バッテリーケース1自体の剛性が向上することで、バッテリーケース1の補剛部材であるバッテリーケースクロスメンバ23を肉薄化したり設置本数を低減することにより、さらなる軽量化も期待できる。
また、本実施の形態は、バッテリーケース1の外観をほとんど変化させないので、車両設計の自由度を低下させることもなく、バッテリー搭載容積を低下させるものでもない。
なお、本実施の形態は、制振性も向上させることができる。この点については、後述の実施例1で具体的に説明する。
【0050】
上記の実施の形態ではバッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19及びケース底部15の内面又は外面のいずれかに樹脂25及び補強板27が設けられた例を示したが、本発明はこれに限らない。ケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19及びケース底部15の内面及び外面にそれぞれ樹脂25及び補強板27が設けられたものでもよい。また、少なくともケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19及びケース底部15のいずれか一つに樹脂25及び補強板27が設けられていればよいが、いずれか二つ又は全てに樹脂25及び補強板27が設けられたものでもよい。
【0051】
[実施の形態2]
上述した実施の形態1はバッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19、ケース底部15に樹脂25及び補強板27を設けることにより、当該部位の面剛性を高めてバッテリーケース1の剛性を向上させ、変形を防止するものであった。
本実施の形態では、バッテリーケースロア3のケースフランジ部21に樹脂25及び補強板27を設けることによりケースフランジ部21の衝突エネルギー吸収性能(EA)を向上させ、バッテリーケース1の変形を防止する例について説明する。
【0052】
本実施の形態のバッテリーケース31は、実施の形態1で説明したものと同様の部材によって構成されたものであって、樹脂25及び補強板27を設ける位置のみが異なるものである。したがって、各部材については実施の形態1と同一の符号を付して説明を省略し、本実施の形態で樹脂25及び補強板27を設ける位置について
図11、
図12に基づいて説明する。
【0053】
本実施の形態のバッテリーケース31は、バッテリーケースロア3のケースフランジ部21(
図11(a)及び
図12のグレーで示す部分)に樹脂25及び補強板27を設けたものである。具体的には、
図11(b)に示すように、ケースフランジ部21の下面(バッテリーケースアッパと反対面)に樹脂25が貼付又は塗布されると共に、樹脂25を覆うように配設された補強板27が樹脂25と接着されている。
【0054】
なお、ケースフランジ部21の上面はバッテリーケースアッパー5のフランジ部と接合される部位であるので(
図12参照)、ケースフランジ部21の上面に樹脂25や補強板27を設けるとバッテリーケース1の気密性が低下する場合がある。したがって、ケースフランジ部21に樹脂25及び補強板27を設ける場合にはケースフランジ部21の下面にのみ設けるものとする。
また、ケースフランジ部21の下面に樹脂25を設けた場合にも、樹脂25を覆う補強板27の端部をケースフランジ部21の下面から上面に回り込ませて上面でスポット溶接してしまうと上記気密性の観点で望ましくない。したがって
図11(b)のように、ケースフランジ部21の下面やケース左右縦壁部19に補強板27の端部を固定するのがよい。
【0055】
上記のようにケースフランジ部21に樹脂25及び補強板27を設けることにより、側面衝突時におけるケースフランジ部21の衝突エネルギー吸収性能を向上させることができる。この点について以下詳細に説明する。
【0056】
ケースフランジ部21はバッテリーケースアッパ5とバッテリーケースロア3を接合するのに用いる部位であると共に、
図6(b)に示したように、車両の側面が衝突した際に軸圧壊し、該軸圧壊によって衝突エネルギーを吸収する機能も有する。具体的には、衝突荷重が入力した際にケースフランジ部21が蛇腹状に座屈変形を繰り返して軸圧壊することで衝突エネルギーを吸収する。
この軸圧壊の過程で座屈変形した曲がり部分に割れが生じると、衝突エネルギーの吸収効果が著しく低減する。そのため、軸圧壊する際にケースフランジ部21が破断しないようにすることで、ケースフランジ部21の衝突エネルギー吸収性能を向上させることができる。
【0057】
この点、本実施の形態のバッテリーケース31はケースフランジ部21の下面に樹脂を接着しているので、ケースフランジ部21が蛇腹形状に座屈変形する際、蛇腹形状の曲がり部分において金属板と金属板との間に樹脂が挟まれる。これにより、曲がり部分の曲げ半径が大きくなり、割れが生じにくくなる。
【0058】
なお、ケースフランジ部21はバッテリーケースロア3の縁全周に亘って形成されているが、側面衝突の際に軸圧壊が生じやすいのはケース左右縦壁部19の上端に形成された部分である(
図6(b)参照)。したがって、少なくともケース左右縦壁部19の上端に形成されたケースフランジ部21の下面に樹脂25及び補強板27を設ければ、側面衝突時の衝突エネルギー吸収性能を向上できる。
【0059】
なお、実施の形態1では、樹脂25の接着強度を5MPa以上とすることで、90°程度の曲げ半径までなら樹脂が剥離しにくくなることを説明したが、本実施の形態では軸圧壊する部位に樹脂を設けるのでさらに高い接着強度とするのが好ましい。
例えば樹脂25とケースフランジ部21、及び、樹脂25と補強板27との接着強度が10MPa以上であれば、ケースフランジ部21が軸圧壊する際にも樹脂25が剥離しにくくなり効果的である。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、ケースフランジ部21の下面に樹脂25及び補強板27を設けることにより、ケースフランジ部21の衝突エネルギー吸収性能を向上できる。ケースフランジ部21の衝突エネルギー吸収性能が向上することで、バッテリーケースロア3の他の部位に入力する荷重が低減し、バッテリーケース31の変形を防止できる。
これにより、実施の形態1と同様に、バッテリーケース31やバッテリーケースクロスメンバ23の肉薄化が可能となり、軽量化も期待できる。
また、本実施の形態もバッテリーケース31の外観をほとんど変化させないので、車両設計の自由度を低下させることもなく、バッテリー搭載容積を低下させるものでもない。
さらに、本実施の形態は、制振性も向上させることができる。この点については、後述の実施例2で具体的に説明する。
【0061】
なお、樹脂25及び補強板27は、実施の形態1で説明した部位と実施の形態2で説明した部位の両方に設けるようにしてもよい。即ち、バッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19及びケース底部15の内面又は外面の少なくともいずれかに樹脂25及び補強板27を設け、かつ、ケースフランジ部21の下面にも樹脂25及び補強板27を設けてもよい。
これにより、バッテリーケースロア3の前後縦壁部等に入力する荷重を低減するとともに、バッテリーケースロア3の剛性も向上できるので、バッテリーケースの変形をさらに防止できる。
【実施例0062】
実施の形態1で説明したバッテリーケース1の作用効果を評価する具体的な検討を行ったので、その結果について説明する。
本実施例においては、剛性(変形を開始するまでの耐力)を評価する指標として、ケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19又はケース底部15に樹脂と補強板を適用した場合の面剛性を算出した(発明例1~5)。また、従来のバッテリーケースの剛性と比較するため、鋼板のみで構成されたバッテリーケースの面剛性についても算出し、比較した(比較例1)。
【0063】
また、上記発明例及び比較例の振動特性を評価するため、100×300mm(うち発明例の場合の樹脂範囲は100×250mm)の試験体を用意し、インパクトハンマによる打撃振動試験を実施した。打撃振動試験では、吊り下げた試験体の厚板(バッテリーケースに相当する部材)における樹脂を設けない側のエッジ付近に加速度センサーを取り付け、その反対側(樹脂を設ける側)エッジ付近をインパクトハンマで打撃加振した。そして、インパクトハンマから得られる加振力と加速度センサーで計測した加速度をFFTアナライザに取り込み、Accelerance(m/s2/N)の周波数応答関数を算出した。ここで、周波数応答関数は、5回の打撃試験結果の平均化処理により求めた。
【0064】
発明例及び比較例の詳細と、上記算出した面剛性及び打撃振動試験の結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1の「重量」は、「補強位置」に示す部位に「樹脂・補強板の配置」に示す配置で樹脂及び補強板を設けた場合のバッテリーケースロア3全体の重量である。
「面剛性」は、前述した式(1)で示した計算式に基づいて算出したものである。
また、「制振」は、打撃振動試験によって得られた周波数200HzにおけるAcceleranceの値である。
【0067】
比較例1は鋼板のみからなる構造のものであり、引張強度が440MPa、板厚1.4mmの鋼板を用いてバッテリーケースロア3を構成したものである。
表1に示すように、比較例1では重量が31.7kg、各部位の面剛性が0.5×10-7GPa・m4、打撃試験で得られた200HzにおけるAcceleranceは300m/s2/Nであった。
【0068】
発明例1は引張強度が440MPa、板厚1.0mmの鋼板を用いてバッテリーケースロア3を構成し、
図1(b)に示したように、ケース前後縦壁部17に厚さ2mmの樹脂25と引張強度が270MPa、板厚0.4mmの鋼板である補強板27を設けたものである。
この場合、重量は24.0kgであり、ケース前後縦壁部17の面剛性は4.6×10
-7GPa・m
4、打撃試験で得られた200HzにおけるAcceleranceは3m/s
2/Nであった。本例は比較例1に比べて重量が7.7kg軽量化(軽量化率24.3%)されつつ、ケース前後縦壁部17の面剛性は9.2倍向上し、振動を1/100に抑制することができた。
【0069】
発明例2は
図1(e)に示したように樹脂25及び補強板27を設けたものであり、その他の条件は発明例1と同じである。
この場合、重量は24.2kgであり、ケース前後縦壁部17の面剛性は4.6×10
-7GPa・m
4、打撃試験で得られた200HzにおけるAcceleranceは3m/s
2/Nであった。本例は比較例1に比べて重量が7.5kg軽量化(軽量化率23.7%)されつつ、ケース前後縦壁部17の面剛性は9.2倍向上し、振動を1/100に抑制することができた。
【0070】
発明例3は引張強度が440MPa、板厚1.0mmの鋼板を用いてバッテリーケースロア3を構成し、
図7(c)に示したように、ケース左右縦壁部19に厚さ1mmの樹脂25と引張強度が270MPa、板厚0.4mmの鋼板である補強板27を設けたものである。
この場合、重量は24.2kgであり、ケース左右縦壁部19の面剛性は1.9×10
-7GPa・m
4、打撃試験で得られた200HzにおけるAcceleranceは5m/s
2/Nであった。本例は比較例1に比べて重量が7.5kg軽量化(軽量化率23.7%)されつつ、ケース左右縦壁部19の面剛性は3.9倍向上し、振動を1/60に抑制することができた。
【0071】
発明例4は
図7(d)に示したように樹脂25及び補強板27を設けたものであり、その他の条件は発明例3と同じである。
この場合、重量は24.5kgであり、ケース左右縦壁部19の面剛性は1.9×10
-7GPa・m
4、打撃試験で得られた200HzにおけるAcceleranceは5m/s
2/Nであった。本例は比較例1に比べて重量が7.2kg軽量化(軽量化率22.7%)されつつ、ケース左右縦壁部19の面剛性は3.9倍向上し、振動を1/60に抑制することができた。
【0072】
発明例5は引張強度が440MPa、板厚0.8mmの鋼板を用いてバッテリーケースロア3を構成し、
図9(d)に示したように、ケース底部15に厚さ2mmの樹脂25と引張強度が270MPa、板厚0.2mmの鋼板である補強板27を設けたものである。
この場合、重量は28.2kgであり、ケース底部15の面剛性は2.2×10
-7GPa・m
4、打撃試験で得られた200HzにおけるAcceleranceは7m/s
2/Nであった。本例は比較例1に比べて重量が3.5kg軽量化(軽量化率11.0%)されつつ、ケース底部の面剛性は4.5倍向上し、振動を1/43に抑制することができた。
【0073】
上述したように、発明例1~5は、比較例1よりも軽量化するとともに、樹脂25及び補強板27を設けた部位の面剛性及び制振性が大きく向上した。バッテリーケースロア3のケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19、ケース底部15の少なくともいずれかの面剛性が向上すればバッテリーケースロア3自体の剛性が向上するので、バッテリーケース1の変形を抑制できる。
上述したように、発明例6、7は、比較例2よりも軽量化するとともに、樹脂25及び補強板27を設けた部位の面剛性、座屈荷重及び制振性が大きく向上した。バッテリーケースロア3のケースフランジ部21の座屈荷重が向上すればケースフランジ部21のエネルギー吸収性能が向上するので、バッテリーケースロア3の他の部位に入力する荷重を低減することができ、バッテリーケースの変形を抑制できる。
また、ケースフランジ部21に加えてケース前後縦壁部17、ケース左右縦壁部19、ケース底部15の少なくともいずれかに樹脂25及び補強板27を設けることで、バッテリーケースロア3自体の剛性も向上するので、バッテリーケースの変形をさらに抑制できる。