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特開2023-184424二酸化炭素の回収方法及び二酸化炭素の回収システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184424
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】二酸化炭素の回収方法及び二酸化炭素の回収システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/62 20060101AFI20231221BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20231221BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20231221BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20231221BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20231221BHJP
【FI】
B01D53/62 ZAB
B01D53/82
B01D53/96
B01D53/14 100
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036820
(22)【出願日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2022097744
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】大岩 正人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 優一
(72)【発明者】
【氏名】原田 知典
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002BA03
4D002BA12
4D002CA07
4D002DA11
4D002DA21
4D002DA31
4D002DA32
4D002DA41
4D002DA46
4D002DA70
4D002EA06
4D002EA08
4D002GA02
4D002GA03
4D002GB01
4D002GB11
4D002GB20
4D002HA08
4D020AA03
4D020BA03
4D020BA06
4D020BA08
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB01
4D020BB07
4D020BC01
4D020CA05
4D020CC06
4D020CC09
4D020DA01
4D020DA02
4D020DB01
4D020DB06
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC08
4G146JC28
4G146JC36
(57)【要約】
【課題】より少ないエネルギーで吸収体から吸収済みの二酸化炭素を脱離して回収できる、二酸化炭素の回収方法及びシステムを提供する。
【解決手段】二酸化炭素の回収方法は、二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第一吸収体を準備する工程(a)と、太陽光集熱部材が受光した太陽光を熱に変換する工程(b)と、前記工程(b)で得られた熱に由来する熱エネルギーを、前記第一吸収体に対して供給する工程(c)と、前記工程(c)を経て前記第一吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する工程(d)と、を有する。
【選択図】 図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第一吸収体を準備する工程(a)と、
太陽光集熱部材が受光した太陽光を熱に変換する工程(b)と、
前記工程(b)で得られた熱に由来する熱エネルギーを、前記第一吸収体に対して供給する工程(c)と、
前記工程(c)を経て前記第一吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する工程(d)と、を有することを特徴とする、二酸化炭素の回収方法。
【請求項2】
前記工程(c)は、前記工程(b)で得られた熱によって加熱された伝熱媒体を介して前記熱エネルギーを前記第一吸収体に供給する工程であることを特徴とする、請求項1に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項3】
前記工程(c)は、前記第一吸収体が内部に配置された反応槽の内部空間に、前記工程(b)によって得られた前記熱エネルギーで加熱された大気からなる前記伝熱媒体を導入する工程を含むことを特徴とする、請求項2に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項4】
前記工程(c)の実行中に、前記反応槽の前記内部空間の温度を計測して、前記温度が所定値以上である場合に、前記内部空間に対して前記伝熱媒体よりも低温の大気からなる冷却ガスを導入することを特徴とする、請求項3に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項5】
前記工程(a)は、
二酸化炭素を吸収する前の吸収体である第二吸収体を準備する工程(a1)と、
前記第二吸収体を前記反応槽の内部に配置した後に、前記反応槽の前記内部空間に二酸化炭素を含む処理対象ガスを導入して前記第二吸収体に二酸化炭素を吸収させる工程(a2)とを含むことを特徴とする、請求項3又は4に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項6】
前記工程(a1)は、表面に細孔を有する多孔性物質からなる固体材料の前記細孔に対して、塩基性材料からなり二酸化炭素吸収性を示す二酸化炭素吸収液を担持させることで、前記第二吸収体を得る工程を含むことを特徴とする、請求項5に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項7】
前記工程(a1)は、前記固体材料の前記細孔に前記二酸化炭素吸収液を担持させる前に、前記細孔に対して、プラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする、請求項6に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項8】
前記工程(c)は、前記第一吸収体が内部に配置された反応槽の外側を通流する前記伝熱媒体と、前記第一吸収体との間で熱交換を行う工程であって、
前記工程(c)の実行中に、前記反応槽の内部空間に対して、前記内部空間よりも二酸化炭素濃度が低い気体からなる脱離促進ガスを導入することを特徴とする、請求項2に記載の二酸化炭素の回収方法。
【請求項9】
二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第一吸収体と、
前記第一吸収体が内部に位置する反応槽と、
前記第一吸収体に対して熱エネルギーを供給する伝熱媒体を前記反応槽の内部に導入する導入ポートと、
受光した太陽光を熱に変換する太陽光集熱部材を含み、前記伝熱媒体の通流方向に関して前記第一吸収体よりも前段に配置されて、前記伝熱媒体を加熱する熱源と、
前記第一吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する回収ポートとを備えることを特徴とする、二酸化炭素の回収システム。
【請求項10】
前記熱源と前記導入ポートとを連絡する第一流路を備え、
前記熱源は、前記反応槽の外側の位置において、前記第一流路を通流する前記伝熱媒体を加熱する構成であることを特徴とする、請求項9に記載の二酸化炭素の回収システム。
【請求項11】
二酸化炭素を含む処理対象ガスとしての大気を前記反応槽の内部に導く第二流路と、
前記第二流路の開度を調整して前記第二流路を通流する大気の流量を制御可能な第一バルブとを備えることを特徴とする、請求項10に記載の二酸化炭素の回収システム。
【請求項12】
前記反応槽の内部空間の温度を計測する温度計を備え、
前記第一バルブは、前記温度計の計測値に基づいて前記第二流路の開度が調整されることを特徴とする、請求項11に記載の二酸化炭素の回収システム。
【請求項13】
前記第一流路の開度を調整して前記第一流路を通流する前記伝熱媒体の流量を制御可能な第二バルブを備えることを特徴とする、請求項11に記載の二酸化炭素の回収システム。
【請求項14】
前記回収ポートから回収された二酸化炭素を含む回収ガスが通流する第三流路と、
前記伝熱媒体の通流方向に関して前記第一吸収体よりも前段に配置されて、前記伝熱媒体と前記第三流路を通流する前記回収ガスとの間で熱交換を行う熱交換機を備えることを特徴とする、請求項9~13のいずれか一項に記載の二酸化炭素の回収システム。
【請求項15】
前記吸収体は固体状を呈することを特徴とする、請求項9~13のいずれか一項に記載の二酸化炭素の回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収性を示す吸収体を介して二酸化炭素を回収する方法及びその方法の利用に適したシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素濃度を低下させるために、大気中の二酸化炭素を直接吸収したり、化石燃料の燃焼排ガス等に含有される二酸化炭素を分離して回収する技術が検討されている。
【0003】
二酸化炭素の回収においては、二酸化炭素を吸収体に吸収させ、吸収済みの二酸化炭素を当該吸収体から脱離させる方法が提案されている。例えば、下記、特許文献1には、アミンを吸収材として含む溶液を用いて、燃焼排ガスから二酸化炭素を分離し、その後、当該溶液を加熱することで、二酸化炭素を脱離させて回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-245339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、二酸化炭素の吸収体から、吸収済みの二酸化炭素を脱離させて回収するには、加熱などのエネルギーの投入が必要とされている。この脱離のためのエネルギーが大きいと、二酸化炭素回収のコストが大きくなる。吸収体で二酸化炭素を吸収した後、当該吸収体で吸収された二酸化炭素を低エネルギーで脱離して回収することができなければ、二酸化炭素の排出量を総合的に削減することが困難となる。例えば、二酸化炭素の脱離に多大な電力を消費すると、この電力を生成するために二酸化炭素を放出することになるためである。また、二酸化炭素が吸収された後の吸収体の取扱いの問題も生じ得る。
【0006】
一方で、上述したように、二酸化炭素を吸収済みの吸収体から二酸化炭素を脱離回収する際に高いエネルギーが必要である場合には、システムの運転に伴うランニングコストが懸念となる。この点は、二酸化炭素を回収するシステムの導入及び普及にとって足かせとなる。現時点において、地球温暖化問題は世界的に解決すべき問題の一つとされている。地球温暖化の主要因の一つとされている二酸化炭素の排出量を低下させ、ひいては大気中の二酸化炭素濃度を低下させることは、喫緊の課題といえる。
【0007】
以上を踏まえると、二酸化炭素を吸収体で吸収した後に、低コスト、低エネルギーの下で吸収体から二酸化炭素を脱離・回収させることのできるシステムを実現することは、大気中の二酸化炭素濃度を低下させる動きを促進する上で、重要であると考えられる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、より少ないエネルギーで吸収体から吸収済みの二酸化炭素を脱離して回収できる、二酸化炭素の回収方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、二酸化炭素の回収方法は、
二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第一吸収体を準備する工程(a)と、
太陽光集熱部材が受光した太陽光を熱に変換する工程(b)と、
前記工程(b)で得られた熱に由来する熱エネルギーを、前記第一吸収体に対して供給する工程(c)と、
前記工程(c)を経て前記第一吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する工程(d)と、を有することを特徴とする。
【0010】
本明細書において「回収」とは、吸収体から脱離した二酸化炭素を、吸収体が配置されている領域から他の領域に移送することを意味する。例えば、ボンベ等の貯留槽に二酸化炭素を貯留しても構わないし、配管を介して二酸化炭素の利用施設に送り込むものとしても構わない。前記利用施設としては、例えば植物工場等が挙げられる。
【0011】
また、本明細書において、「第一吸収体」とは、二酸化炭素吸収性を示す吸収体が二酸化炭素を吸収した状態を指す。加えて、後述する「第二吸収体」とは、二酸化炭素吸収性を示す吸収体が、二酸化炭素を吸収する前の状態を指す。なお、当該第二吸収体には、吸収体が二酸化炭素を吸収して第一吸収体となった後に、熱エネルギーの供給を受けて当該二酸化炭素を脱離した状態も含まれる。
【0012】
前述の通り、二酸化炭素を吸収済みの第一吸収体から、当該二酸化炭素を脱離させるには、第一吸収体に対する熱エネルギーの供給が必要である。つまり、二酸化炭素の回収に要するエネルギーを低減するには、この熱エネルギーの供給で消費されるエネルギーを低減することが肝要である。これに鑑みて、本発明では、受光した太陽光を熱に変換する太陽光集熱部材を利用して、当該熱由来の熱エネルギーを第一吸収体に対して供給する。熱エネルギーの供給に太陽光由来の熱を利用することで、当該熱エネルギーの供給で消費されるエネルギーを低減することができる。なお、具体的な実施態様については、「発明を実施するための形態」で後述される。
【0013】
なお、加熱に必要なエネルギーを低減するという観点から、加熱用のヒータ等をいわゆる太陽光発電システムによって駆動する方法も想定される。しかし、現状、太陽光発電システムにおいて、太陽光を吸収する太陽光パネルが利用可能な光の波長範囲には課題がある。特に、太陽光における赤外線の割合は半分以上を占めるが、太陽光パネルは、可視光と一部の紫外線を利用するにとどまる。加えて、太陽光パネルの変換効率、及びヒータ等の投入電力に対する熱効率の影響もあるため、当該方法は、太陽光を有効に利用できるとはいえない。一方で、本発明では、後述するように、特に赤外線を有効に利用できるため、利用可能な光の波長範囲は広域にわたり、例えば太陽光発電システムと比較して、より効率的に太陽光を利用できる。
【0014】
前記工程(c)は、前記工程(b)で得られた熱によって加熱された伝熱媒体を介して前記熱エネルギーを前記第一吸収体に供給する工程であっても構わない。
【0015】
上記方法によれば、伝熱媒体を利用することで、例えば太陽光集熱部材に対する第一吸収体の位置に関わらず、太陽光集熱部材が太陽光から変換した熱を第一吸収体に対して効率的に供給することができる。
【0016】
また、前記工程(c)は、前記第一吸収体が内部に配置された反応槽の内部空間に、前記工程(b)によって得られた前記熱エネルギーで加熱された大気からなる前記伝熱媒体を導入する工程を含んでも構わない。
【0017】
太陽光由来の熱で加熱された大気が第一吸収体に接触させることで、第一吸収体に対して熱エネルギーを供給できる。第一吸収体は、当該大気から熱の供給を受けて、吸収済みの二酸化炭素を脱離する。
【0018】
ところで、二酸化炭素の脱離反応が進む第一吸収体の近傍では、二酸化炭素濃度が局所的に高くなる。二酸化炭素の脱離反応を効率的に進めるには、第一吸収体の近傍の二酸化炭素濃度を低くすることが好ましい。これは、二酸化炭素の脱離反応において、生成(脱離)側の系の二酸化炭素濃度を低くすることで、反応系を生成側に進みやすくするためである。大気中の二酸化炭素濃度は400ppm程度であり、二酸化炭素の脱離反応が進む第一吸収体近傍の空間よりも低濃度である。したがって、伝熱媒体として大気を反応槽の内部空間に導入することによって、熱の供給と同時に第一吸収体の近傍の二酸化炭素濃度を低くすることができ、効率的に第一吸収体から二酸化炭素を脱離することが可能である。つまり、加熱された大気は、伝熱媒体の機能だけでなく、二酸化炭素の脱離を促進する脱離促進ガスとしても機能する。
【0019】
前記工程(c)は、前記第一吸収体が内部に配置された反応槽の外側を通流する前記伝熱媒体と、前記第一吸収体との間で熱交換を行う工程であって、
前記工程(c)の実行中に、前記反応槽の内部空間に対して、前記内部空間よりも二酸化炭素濃度が低い気体からなる脱離促進ガスを導入しても構わない。
【0020】
伝熱媒体は、反応槽の外側を通流することで、第一吸収体と熱交換を行っても構わない。当該熱交換によって、第一吸収体に対して熱が供給され、第一吸収体から吸収済みの二酸化炭素が脱離される。この場合、伝熱媒体としては大気、水などの流体が利用できる。
【0021】
なお、この際、前述したように二酸化炭素の脱離反応を効率的に進める観点から、二酸化炭素濃度が低い脱離促進ガスを反応槽の内部空間に導入することが好適である。脱離促進ガスとしては窒素ガス、又は大気が利用できる。なお。調達に要するエネルギー及びコストの観点からは大気が好ましい。
【0022】
前記工程(c)の実行中に、前記反応槽の前記内部空間の温度を計測して、前記温度が所定値以上である場合に、前記内部空間に対して前記伝熱媒体よりも低温の大気からなる冷却ガスを導入しても構わない。
【0023】
前述の通り、第一吸収体に対して熱を供給することで、吸収済みの二酸化炭素を回収できる。この際、第一吸収体が配置された反応槽の内部空間の温度を計測して、この温度が所定値以上である場合には、伝熱媒体より低温の大気を導入することで第一吸収体を冷却することが好ましい。ここで、所定値とは、第一吸収体を構成する二酸化炭素吸収材の沸点などの熱耐性を考慮して決定される値である。上記方法によれば、第一吸収体が高温となった場合でも、第一吸収体を構成する二酸化炭素吸収材に対する熱影響を低減できる。
【0024】
前記工程(a)は、
二酸化炭素を吸収する前の吸収体である第二吸収体を準備する工程(a1)と、
前記第二吸収体を前記反応槽の内部に配置した後に、前記反応槽の前記内部空間に二酸化炭素を含む処理対象ガスを導入して前記第二吸収体に二酸化炭素を吸収させる工程(a2)とを含んでも構わない。
【0025】
第二吸収体は、反応槽内で処理対象ガスが含む二酸化炭素を吸収し、第一吸収体となる(吸収工程)。ここで、吸収済みの二酸化炭素を第一吸収体から脱離する工程が、吸収工程が行われた反応槽とは別の場所で行われる場合には、第一吸収体を移送するためのエネルギーが必要となる。これに対し、上記方法によれば、吸収工程と脱離工程が、同一の反応槽で行われるため、第一吸収体の移送等に要するエネルギーが抑制され、好適である。
【0026】
また、前記工程(a1)は、表面に細孔を有する多孔性物質からなる固体材料の前記細孔に対して、塩基性材料からなり二酸化炭素吸収性を示す二酸化炭素吸収液を担持させることで、前記第二吸収体を得る工程を含んでも構わない。
【0027】
本明細書において、「細孔」とは口径が数nm~数十μm程度の微細な孔を意味し、「多孔性物質」とは表面上に無数の細孔を有する物質を指す。
【0028】
多孔性物質が有する細孔に二酸化炭素吸収液を担持させることにより、二酸化炭素の吸収体として利用できる。また、当該細孔に二酸化炭素吸収液を担持させることで、処理対象ガスに含まれた二酸化炭素と当該二酸化炭素吸収液が接触する面積を大きくすることができ、効率的に二酸化炭素の吸収が行われる。多孔性物質の比表面積は、10m2/g以上であることが好ましく、50m2/g以上であることがより好ましい。なお、多孔性物質の比表面積は、例えばJIS Z 8830(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じた方法で測定することができる。
【0029】
多孔性物質として利用可能な材料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス材料、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネートなどのエンジニアリングプラスチック材料、活性炭などの炭素材料が挙げられる。なお、多孔性物質の形状は特に限定されない。多孔性物質の形状の例としては、粒状、板状、管状、ハニカム状、ペレット状などが挙げられる。
【0030】
二酸化炭素吸収液は、例えば二酸化炭素吸収性を示すアミン系材料などの二酸化炭素吸収材を、水、ポリエチレングリコール(PEG)、又はジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒に分散させて調整される。これらの溶媒は複数種類を組み合わせても構わない。また、二酸化炭素吸収液の粘度を低下させて、前記細孔に二酸化炭素吸収液が入り込みやすくするために、例えばメタノール等のアルコールを二酸化炭素吸収液に追加し、前記多孔性物質に含浸させた後に当該アルコールを蒸発させても構わない。
【0031】
二酸化炭素の脱離時に供給される熱エネルギーにおいて、溶媒の温度上昇に消費されるエネルギーを低減し、熱エネルギーの利用効率を高める観点から、二酸化炭素吸収液の濃度が高いことが好ましい。一方で、例えば、吸収体として二酸化炭素吸収液をそのまま用いる場合には、二酸化炭素吸収液の濃度を高めると、粘度が高くなって取り扱いが困難になるという事情があり、当該濃度を高めるには一定の制約がある。特に、粘性が高い材料では、二酸化炭素吸収液の濃度は1%~10%程度となる。これに対し、二酸化炭素吸収液を固体材料に担持させることで、二酸化炭素吸収液の濃度が高い場合でも(例えば数十%)、容易に取り扱いが可能である。つまり、固体状の吸収体を用いることで、二酸化炭素吸収液の濃度を高められる結果、熱エネルギーの利用効率を高められる。吸収体の準備については、「発明を実施するための形態」の項で詳述される。
【0032】
二酸化炭素吸収材としては、例えばアミン系材料が利用できる。アミン系材料とは、一級、二級又は三級のアミノ基を1つ以上有するアミン化合物をいう。アミン化合物は、二酸化炭素吸収性を有するものであれば特に制限はなく、一種又は混合物として使用することが可能である。
【0033】
アミン系材料に含有させることが可能なアミン化合物として、例えば、モノエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、フェニルエチルアミン等の一級アミン類、ジエタノールアミン、2-メチルアミノエタノール、2-エチルアミノエタノール等の二級アミン類、エチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、オルト-キシリレンジアミン、メタ-キシリレンジアミン、パラ-キシリレンジアミン等のジアミン類、ジエチレントリアミン等のトリアミン類、ベンジルアミン、パラ-メトキシベンジルアミン、パラ-トリフルオロメチルベンジルアミン等のベンジルアミン類が挙げられる。
【0034】
以下、アミン系材料(R12NH)の水溶液を例にとり、二酸化炭素の吸収及び脱離について説明する。ここで、R1はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。また、R2は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。これらの官能基は置換基を有していてもよい。
【0035】
アミン系材料が二酸化炭素を吸収する反応として、主に下記(1)~(3)式が存在する。
12NH + CO2 + H2O → R12NH2 + + HCO3 - ・・・・(1)
2(R12NH)aq + CO2 → R12NH2 + + R12NCOO- ・・・・(2)
12NH + CO2 → R12NCOOH ・・・・(3)
【0036】
このように二酸化炭素を吸収した吸収体に対し、熱供給によってエネルギーを与え、(1)~(3)式に代表される反応の逆反応を起こすことによって、吸収済みの二酸化炭素を脱離することができる。なお、二酸化炭素吸収材の溶媒に水を選択しない場合においては、(3)式の反応が主たる反応となる。
【0037】
二酸化炭素を吸収した後、熱の供給によって二酸化炭素の脱離反応を起こす二酸化炭素吸収材であれば、上記と同様の議論が可能である。つまり、二酸化炭素吸収材はアミン系材料に限定されるものではない。他の二酸化炭素吸収材として、例えば、塩基性を示す酸化物、典型的にはアルカリ金属、ニオブ又はタンタルを含む酸化物が挙げられる。
【0038】
また、前記工程(a1)は、前記固体材料の前記細孔に前記二酸化炭素吸収液を担持させる前に、前記細孔に対して、プラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射する工程を含んでも構わない。
【0039】
上記方法によれば、二酸化炭素吸収液に対する細孔表面のぬれ性が向上し、当該細孔に対してより好適に二酸化炭素吸収液を担持させることができる。より詳細には、細孔に対してプラズマガスを吹き付けた場合には、雰囲気中の窒素分子又は酸素分子がプラズマ化され、プラズマ化した活性種が細孔の表面に親水性の官能基(水酸基、カルボニル基又はカルボキシ基等)を形成する。紫外線の照射による場合には、紫外線によって雰囲気中にラジカル(大気中の場合は主に酸素ラジカル)が生成される。また、同時に紫外線の照射によって細孔表面を構成する分子間の結合が切断され、当該切断箇所に対してラジカルが反応する結果、細孔表面に親水性の官能基が形成される。
【0040】
本発明に係る二酸化炭素の回収システムは、
二酸化炭素を吸収済みの吸収体である第一吸収体と、
前記第一吸収体が内部に位置する反応槽と、
前記第一吸収体に対して熱エネルギーを供給する伝熱媒体を前記反応槽の内部に導入する導入ポートと、
受光した太陽光を熱に変換する太陽光集熱部材を含み、前記伝熱媒体の通流方向に関して前記第一吸収体よりも前段に配置されて、前記伝熱媒体を加熱する熱源と、
前記第一吸収体から脱離した二酸化炭素を回収する回収ポートとを備えることを特徴とする。
【0041】
吸収済み二酸化炭素を第一吸収体から脱離する点については、上述した回収方法と同様の議論が可能である。すなわち、熱源において太陽光由来の熱で加熱された伝熱媒体が導入ポートから反応槽内に導入されて、第一吸収体に接触することで、第一吸収体に対して熱エネルギーが供給される。
【0042】
また、前記二酸化炭素の回収システムにおいて、
前記回収ポートから回収された二酸化炭素を含む回収ガスが通流する第三流路と、
前記伝熱媒体の通流方向に関して前記第一吸収体よりも前段に配置されて、前記伝熱媒体と前記第三流路を通流する前記回収ガスとの間で熱交換を行う熱交換機を備えても構わない。
【0043】
第一吸収体は、熱の供給によって二酸化炭素を脱離する。このため、脱離された二酸化炭素を含む回収ガスは、比較的高温となっている。したがって、この回収ガスと伝熱媒体との間で熱交換を行って、回収ガスが有する熱エネルギーを二酸化炭素の脱離に利用することで、エネルギーの利用効率が向上する。
【0044】
前記二酸化炭素の回収システムは、
前記熱源と前記導入ポートとを連絡する第一流路を備え、
前記熱源は、前記反応槽の外側の位置において、前記第一流路を通流する前記伝熱媒体を加熱する構成とされても構わない。
【0045】
また、前記二酸化の回収システムは、
二酸化炭素を含む処理対象ガスとしての大気を前記反応槽の内部に導く第二流路と、
前記第二流路の開度を調整して前記第二流路を通流する大気の流量を制御可能な第一バルブとを備えても構わない。
【0046】
吸収済みの二酸化炭素を脱離する脱離工程においては、熱源によって加熱された伝熱媒体が、第一流路を介して反応槽に導入される。また、二酸化炭素を脱離した状態の第二吸収体に二酸化炭素を吸収させる吸収工程においては、処理対象ガスとしての大気が第二流路を介して反応槽に対して導入される。すなわち、上記構成によれば、二酸化炭素の吸収工程と脱離工程が、同一の反応槽で行うことができるため、吸収体の移送等に要するエネルギーが抑制される結果、より少ないエネルギーで二酸化炭素の回収を行うことができる。
【0047】
前記二酸化炭素の回収システムにおいて、
前記反応槽の内部空間の温度を計測する温度計を備え、
前記第一バルブは、前記温度計の計測値に基づいて前記第二流路の開度が調整されても構わない。
【0048】
前述の通り、第一吸収体を構成する二酸化炭素吸収材に対する熱影響を低減することが好ましい。上記構成によれば、脱離のための熱の供給によって、第一吸収体が高温となった場合でも、第二流路から伝熱媒体よりも低温の処理対象ガスとしての大気を導入することで、第一吸収体を冷却することができる。
【0049】
なお、前記二酸化炭素の回収システムは、
前記第一流路の開度を調整して前記第一流路を通流する前記伝熱媒体としての大気の流量を制御可能な第二バルブを備えても構わない。
【0050】
また、前記二酸化炭素の回収システムにおいて、前記吸収体は固体状を呈しても構わない。吸収体の構成については前述した議論と同様である。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、より少ないエネルギーで吸収済みの二酸化炭素を吸収体から脱離できる、二酸化炭素の回収方法及びシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1A】二酸化炭素の回収システムの第一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図1B図1Aに係る回収システムにおいて、図1Aとは別の場面を示す図面である。
図2図1Aの回収システムを異なる方向に見た図面である。
図3】本発明に係る回収方法の一例を示すフロー図である。
図4A】二酸化炭素吸収液を担持する基材の構造を模式的に示す断面図である。
図4B】第二吸収体の構造を模式的に示す断面図である。
図4C】第二吸収体の構造の別の例を模式的に示す断面図である。
図5】本検証で用いた実験系の概念図である。
図6】本検証で用いたハロゲンランプのスペクトルである。
図7】本検証での二酸化炭素の脱離結果を示すグラフである。
図8】回収システムの第二実施形態の構成を模式的に示す図面である。
図9】第二実施形態に係る反応槽の構造を模式的に示す断面図である。
図10図9に係る反応槽において、図9とは別の場面を示す図面である。
図11】第二実施形態に係る熱源の構造を模式的に示す断面図である。
図12図11に係る熱源をZ方向から見た際の図面である。
図13】回収システムの別実施形態の構成を模式的に示す図面である。
図14図13に係る回収システムにおいて、図13とは別の場面を示す図面である。
図15】回収システムの別構成例を模式的に示す図面である。
図16A図15における熱源の構成を模式的に示す斜視図である。
図16B図16Aの熱源をX方向から見た際の断面図である。
図17図1Bに倣って回収システムの別実施形態の構成を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明に係る二酸化炭素の回収方法及び回収システムの実施形態について、以下において図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0054】
[第一実施形態]
図1A及び図1Bは本発明に係る二酸化炭素の回収システム(以下、単に「回収システム」という。)の第一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。図1Aは、大気などの処理対象ガスG1が含む二酸化炭素を吸収する工程(後述する工程S2)が実行される場面に対応し、図1Bは、吸収済みの二酸化炭素を脱離する工程(後述する工程S4)が実行される場面に対応する。
【0055】
また、図2は、図1Aの回収システムを異なる方向に見た図面である。図1A図1B及び図2を参照して、回収システム1の構成について説明した後、回収システム1によって実行される二酸化炭素の回収方法について説明する。
【0056】
以下の各図では、互いに直交するX方向、Y方向及びZ方向からなる、X-Y-Z座標系が適宜併記されている。典型的には、Z方向は鉛直方向である。この定義を基に説明すると、図2は、図1Aに係る回収システムをZ方向から見た図面に対応する。なお、後述するように、図2では、反応槽2の構成の一部の図示が省略されている。
【0057】
図1Aに示すように、回収システム1は、反応槽2と、反応槽2の内部に位置し、二酸化炭素吸収性を示す吸収体3と、吸収体3に熱エネルギーを供給する熱源4とを備える。
【0058】
吸収体3は、前述したように、二酸化炭素を吸収する性質と、熱H1の供給によって吸収済みの二酸化炭素を脱離する性質とを有する二酸化炭素吸収材を含んで構成される。吸収体3は、例えば表面に細孔を有する粒状の多孔性物質からなり、当該細孔に二酸化炭素吸収材が担持されてなる。
【0059】
反応槽2は、吸収体3と、熱源4としての太陽光集熱部材15(以下、単に「集熱部材15」という。)と、集熱部材15の熱H1を効率的に吸収体3に伝達するための伝熱部材19を内部に収容する。また、反応槽2は、集熱部材15が太陽光C2を受光可能な様に+Z側に石英ガラスなどのガラス材料で構成された透光部20を有する(図1Bも参照)。
【0060】
本実施形態では、図2に示すように、板状を呈する伝熱部材19が、X方向に関して複数配置される。また、伝熱部材19は、集熱部材15の熱を吸収体3に効率的に伝達する観点から、+Z側において連結され、集熱部材15に対して直接的に配置されている(図1B参照)。なお、図2では、図示の便宜上、透光部20と、集熱部材15と、伝熱部材19の連結部分の図示が省略されている。
【0061】
本実施形態では、熱源4が反応槽2の内部に配置された例が示されているが、第二実施形態の項で後述するように、熱源4の配置はこの例に限られない。
【0062】
次に、回収システム1によって実行可能な、吸収済み二酸化炭素の回収方法(以下、単に「回収方法」という。)の一例について説明する。
【0063】
図3は、本発明に係る回収方法の一例を示すフロー図である。この回収方法1aは、二酸化炭素を吸収する前の状態である吸収体(以下、便宜上「第二吸収体3a」と称する。)を準備する工程S1と、第二吸収体3aに二酸化炭素を吸収させて、二酸化炭素を吸収済みの状態である吸収体(以下、便宜上「第一吸収体3b」と称する。)を準備する工程S2と、太陽光C2を熱H1に変換する工程S3と、工程S3で得た熱を第一吸収体3bに供給する工程S4と、S4の実行によって第一吸収体3bから脱離した二酸化炭素を含むガス(以下、便宜上、「回収ガスG2」という。)を回収する工程S5を含む。
【0064】
なお、工程S4及び工程S5の実行によって、第一吸収体3bは吸収済みの二酸化炭素を脱離した後、第二吸収体3aとなる。つまり、回収方法1aは、工程S5の実行後に工程S2以降の工程を繰り返すことができる。
【0065】
(工程S1:第二吸収体の準備)
まず、二酸化炭素を吸収する前の状態である吸収体(第二吸収体3a)が準備される。例えば第二吸収体3aは、表面に細孔を有する多孔性物質からなる基材に対し、アミン系材料を含む二酸化炭素吸収液が担持されて準備される。
【0066】
二酸化炭素吸収液は、アミン系材料をPEG等の溶媒に分散させて調整される。一例として、溶媒をPEGとした際の、溶媒とアミン系材料の比率は1:1である。なお、アミン系材料の粘度等に応じて、二酸化炭素吸収液に対して、メタノールなどのアルコールを添加しても構わない。例えばメタノールを混合することにより、PEGとアミン系材料が混合された二酸化炭素吸収液の粘度を低下させることができる。
【0067】
図4Aは、基材10の構造を模式的に示す断面図である。図4Aに示すように、基材10は、表面に無数の細孔11を有する固体材料である。そして、この基材10に対して、アミン系材料が分散された二酸化炭素吸収液が接触されて、細孔11に二酸化炭素吸収液が担持される。図4Bは、上記操作を経て準備された第二吸収体3aの構造を模式的に示す断面図である。例えば、細孔11の口径D2は15nm以下とされる。なお、図4A及び図4Bでは、図示の便宜上、基材10の粒子径D1に対して、口径D2が誇張されている。
【0068】
また、図4Cは、図4Bに倣って、口径D2が比較的大きい場合(例えば数μm程度)の第二吸収体3aの構造を模式的に示す断面図である。口径D2は、例えば、細孔11に担持される二酸化炭素吸収液12の表面張力や、二酸化炭素の吸収能力に応じて適宜設計される。なお。担持された二酸化炭素吸収液12が、細孔11から剥がれ落ちることを抑制する観点から、口径D2は、0.1μm以下であることが好ましい。
【0069】
また、二酸化炭素吸収液12にメタノールなどのアルコールを加えることで、二酸化炭素吸収液12の粘度が下げられる結果、二酸化炭素吸収液12を細孔11に好適に入り込ませることができる。この場合には、基材10に二酸化炭素吸収液12を担持させた後、基材10を加熱して、アルコールを蒸発させることが好ましい。例えば、メタノールが用いられた際の加熱条件は、60℃程度である。なお、アルコールを蒸発させる際は、基材10は、例えば60kPa程度の減圧雰囲気に置かれることが好ましい。
【0070】
また、基材10に二酸化炭素吸収液12を担持させる前に、基材10に対して、プラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射してもよい。これにより、基材10に含まれる細孔11の表面の親水性を向上させることができ、二酸化炭素吸収液12を好適に担持させることができる。なお、これらの細孔表面の親水化処理に関しては、後段の[検証]の項で詳述される。
【0071】
上記の操作を経て得られた第二吸収体3aは、反応槽2の内部に投入される(図1A参照)。
【0072】
このように、第二吸収体3aを準備する工程S1が、工程(a1)に対応する。
【0073】
(工程S2:二酸化炭素の吸収工程)
図1Aに示すように、第二吸収体3aが内部に位置する反応槽2に対して、導入口5から二酸化炭素を含む処理対象ガスG1を導入し、第二吸収体3aに接触させる。図2では、反応槽2内で処理対象ガスG1が通流する態様が模式的に示されている。これにより、第二吸収体3aは、処理対象ガスG1中の二酸化炭素を吸収し、二酸化炭素を吸収済みの第一吸収体3bが得られる。なお、理解を容易にする観点から、各図面において、二酸化炭素を吸収済みの第一吸収体3bに対してハッチングが施されている(図1B等参照)。二酸化炭素の吸収によって、二酸化炭素濃度が低下した処理対象ガスG1は、排出口6を介して例えば外空間に排出される。
【0074】
なお、後述するように、反応槽2に対しては太陽光C2の照射が想定される(工程S3)。一方で、第二吸収体3aによる二酸化炭素の吸収を効率的に行う観点からは、反応槽2内の雰囲気を低温とすることが好ましい。このため、工程S2においては、図示しない任意の遮蔽部材によって、反応槽2に照射される太陽光C2を遮蔽するものとしても構わない。また、例えば夜間などの太陽光C2の照射が無い、又は少ない時間帯に工程S2を実行するものとしても構わない。
【0075】
処理対象ガスG1の例としては、大気や工場などからの排気ガスが挙げられる。特に処理対象ガスG1が排気ガスである場合には、反応槽2に導入する前に、処理対象ガスG1を冷却したり、処理対象ガスG1に含まれる、二酸化炭素の吸収を阻害する物質をスクリーニングする等の前処理が行われても構わない。
【0076】
このように、第二吸収体3aに対して二酸化炭素を吸収させて、第一吸収体3bを準備する工程S2が、工程(a)に対応する。
【0077】
(工程S3:太陽光を熱に変換する)
前述した通り、吸収済み二酸化炭素を第一吸収体3bから脱離させるためにはエネルギーが必要である。このため、第一吸収体3bに対し、熱H1の供給が行われる。本発明に係る回収方法は、熱H1の供給に消費されるエネルギーを低減するために、太陽光C2を変換して熱H1を得る。
【0078】
図1Bに示すように、熱源4は、反応槽2の鉛直上方(+Z側)に配置された集熱部材15で構成される。集熱部材15は、透光部20から取り込まれた太陽光C2を吸収して加熱される。例えば、集熱部材15は、太陽光C2を効率的に吸収する観点から、典型的には黒色のコーティングが施された、アルミニウム、銅等の金属で構成される。また、集熱部材15は、光に対して高い吸収率を示す、グラファイトなどの黒体材料でコーティングされても構わない。
【0079】
図1Bの例では、透光部20は、石英ガラスなどのガラス材料で構成された複数の透明部材21で構成される。また、これらの透明部材21の間には、減圧された低圧空間22が形成されている。低圧空間22の圧力は、例えば10kPa以下であり、典型的にはほぼ0気圧付近である。低圧空間22は、集熱部材15が変換した熱H1が、+Z側に伝わりにくくする観点で設けられているが、本発明は、低圧空間22が形成されるか否かに限定されない。
【0080】
この太陽光C2を熱H1に変換する工程S3が、工程(b)に対応する。
【0081】
(工程S4:第一吸収体に熱を供給する)
上記工程S3によって得られた熱H1を、第一吸収体3bに供給する。図1Bに示すように、反応槽2は、集熱部材15の熱H1を第一吸収体3bに対して効率的に供給するための伝熱部材19を有する。典型的には、伝熱部材19は、集熱部材15に対して直接的に配置され、集熱部材15の熱によって加熱される。伝熱部材19としては例えば、アルミニウム、銅、セラミックスなどの熱伝達率が高い材料が利用できる。なお、伝熱部材19は集熱部材15と同じ材料で一体に構成されてもよい。
【0082】
図1Bに示すように、高温となった伝熱部材19が放射する熱H1が第一吸収体3bに供給されて、第一吸収体3bが加熱される。すなわち、本実施形態では、太陽光C2を熱H1に変換する工程S3及び第一吸収体3bに熱H1を供給する工程S4は自動的に実行される。
【0083】
また、前述した通り、二酸化炭素の脱離反応を効率的に進めるには、第一吸収体3bの近傍の二酸化炭素濃度を低くすることが好ましい。このため、図1Bに示すように、熱H1の供給と同時に、大気や窒素ガスなどの脱離促進ガスB1を導入口5から反応槽2の内部に導入しても構わない。
【0084】
なお、工程S4においては、熱H1を第一吸収体3bに供給するために、流体からなる伝熱媒体を用いてもよく、この構成は後段の第二実施形態で詳述される。
【0085】
このように、第一吸収体3bに熱H1を供給する工程S4が、工程(c)に対応する。
【0086】
(工程S5:脱離した二酸化炭素を回収する)
工程S4によって脱離された二酸化炭素を含む回収ガスG2は、例えば、排出口6を介して図示しない配管を介して植物工場等の二酸化炭素利用施設に送られる。つまり、排出口6が「回収ポート」に対応する。ただし、本発明において、回収ガスG2の送出先は限定されない。
【0087】
このように、二酸化炭素を回収する工程S5が、工程(d)に対応する。
【0088】
[検証1]
上述した工程S1~S5を経て、二酸化炭素を効率的に回収できる点につき、実施例を参照して説明する。具体的には、図1A図1B及び図2を参照して述べた構成を用いて、処理対象ガスG1としての大気から二酸化炭素を回収する検証が行われた。
【0089】
図5は、図1Bに倣って、本検証で用いた実験系を模式的に示す断面図である。図5では、工程S3~工程S5の実行場面が図示されている。本実験系に係る反応槽2は、図1A等を参照して述べたのと共通の構成を有するため、既述の説明については適宜省略する。本検証で用いた反応槽2の内部の寸法は、長さ(X方向)が5cm、幅(Y方向)が2cm、高さ(Z方向)が0.7cmである。
【0090】
集熱部材15として、寸法が長さ5cm、幅2cm、高さ0.2cmであり、黒体材料でコーティングされたアルミニウム製の板状部材が、高さ0.5cmの位置に設置された。
【0091】
本検証では、二酸化炭素吸収材としてジアミン類に分類されるアミン系材料が用いられ、その溶媒としてPEGが用いられた。つまり、二酸化炭素吸収液12は、溶媒とするPEGとの体積比が1:1として調整されたジアミン溶液である。
【0092】
ジアミン溶液を担持する固体材料としては、富士シリシア製の粒状のシリカが用いられた。このシリカは、平均粒径が1~5mmであり、比表面積が100~200m2/gである。
【0093】
まず、固体材料1gあたりに対して、ジアミン溶液の重量が数十wt%となるよう秤量し、当該ジアミン溶液にメタノールを一定の割合で添加し、混合液を調整した。そして、この混合液に固体材料1gを投入して攪拌した。攪拌は、50kPaの減圧雰囲気で、50℃程度で加熱しながら行われた。このように、ジアミン溶液を固体材料に含浸させた後、減圧雰囲気下で加熱してメタノールを蒸発させることで、第二吸収体3aを得た。
【0094】
なお、本検証では、第二吸収体3aの調整中に吸収された二酸化炭素を脱離させる観点から、メタノールを蒸発させる処理を行った後、窒素ガス(純度99.9%)を0.5L/分で通流させながら、第二吸収体3aを数時間70℃で加熱した。その後、第二吸収体3aの重量を秤量することで、固体材料に対するアミン系材料の担持量を見積もったところ、18wt%であった。
【0095】
上記の操作を経て得られた第二吸収体3aを数g、反応槽2の内部に配置した。そして、処理対象ガスG1として、大気(二酸化炭素濃度は約400pm)を反応槽2に7.5mL/分の流量で数十時間導入し、二酸化炭素を吸収済みの第一吸収体3bを得た(工程S2)。
【0096】
二酸化炭素が第二吸収体3aに吸収されるため、第二吸収体3aと接触した後の処理対象ガスG1の二酸化炭素濃度は低下する。その後、第二吸収体3aによる二酸化炭素の吸収が終了すると(第一吸収体3b)、反応槽2を通過した処理対象ガスG1の二酸化炭素濃度は、反応槽2に導入される前の状態と同程度となる。したがって、本検証では、排出口6の後段で測定した処理対象ガスG1の二酸化炭素濃度が400ppmとなった時点で、第二吸収体3aが十分に二酸化炭素を吸収したと判断した。
【0097】
また、本検証では、太陽光C2を模擬して、ハロゲンランプ30を用いて集熱部材15に対して光L1を照射した(図5参照)。図6に、本検証で用いたハロゲンランプ30のスペクトルを示す。図6に示すように、本検証で用いたハロゲンランプ30は、1000nm近傍に発光強度が最大となるピーク強度を有し、500nm~2000nmの範囲で、ピーク強度に対して40%以上の光強度を示す。なお、本検証では、ハロゲンランプ30に対する投入電力は50Wとされた。
【0098】
また、ハロゲンランプ30を点灯させて、吸収済み二酸化炭素の脱離を行う際、反応槽2に対して、7.5mL/分の流量で脱離促進ガスB1としての大気を通流させた。
【0099】
図7は、本検証の二酸化炭素の脱離結果を示すグラフである。図7では、横軸にハロゲンランプ30の点灯からの経過時間が示され、縦軸に排出口6の位置で測定された二酸化炭素濃度が示されている。
【0100】
図7に示すように、回収ガスG2の二酸化炭素濃度は、典型的な大気の二酸化炭素濃度である400ppm(0.04%)を上回った。これは第一吸収体3bが、光L1の照射によって加熱された集熱部材15から、熱H1の供給を受けて二酸化炭素を脱離したことによる。また、回収ガスG2の二酸化炭素濃度は、最大で約9600ppm(0.96%)に到達した。これは、大気に比べると24倍の二酸化炭素濃度である。この点からも、本検証では、第一吸収体3bから二酸化炭素の脱離が好適に行われたといえる。
【0101】
このように、少なくとも波長500nm~2000nmの範囲の光L1が熱H1に変換され、二酸化炭素の脱離に供されたことが本検証から明らかである。一方で、太陽光C2は特に波長500nmから波長2500nmにかけての強度が大きいことが知られている。つまり、本検証では、ハロゲンランプ30からの光L1が用いられたが、光L1を太陽光C2に置き換えた場合でも、同様に二酸化炭素の脱離が好適に行えることが理解できる。
【0102】
また、本検証では、二酸化炭素吸収材としてジアミン類のアミン系材料が用いられたが、熱エネルギーの供給によって、二酸化炭素の脱離反応を起こす二酸化炭素吸収材であれば、上記と同様の議論が可能である。
【0103】
[検証2]
上述したように、第二吸収体3aを準備する工程S1において、基材10に二酸化炭素吸収液12を担持させる前に、基材10に対してプラズマガスを吹き付けるか又は紫外線を照射してもよい。この基材10に対する紫外線の照射による効果について検証を行ったので、以下において説明する。
【0104】
具体的には、検証1で上述したのと同様の方法で第二吸収体3aを調整する際、混合液に投入する前に、固体材料に対してXeエキシマランプを用いてピーク波長172nm近傍の紫外線を照射した。紫外線の照射は、放射照度が数十mW/cm2とされ、数秒間行われた。
【0105】
その後は、再び検証1で上述したのと同様に、メタノールの蒸発、加熱等の処理を経て、第二吸収体3aの重量を秤量し、固体材料に対するアミン系材料の担持量を見積もった。紫外線を照射していない、検証1で得られた前記担持量との対比結果を下記表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1によれば、固体材料に対して紫外線を照射することで、固体材料におけるアミン系材料の担持量が、紫外線の照射が無い場合(検証1)の約1.2倍となった。これは、紫外線の照射によって、固体材料の細孔表面に親水性の官能基が形成された結果、アミン系材料を含む二酸化炭素吸収液に対する細孔表面のぬれ性が向上したためと考えられる。
【0108】
固体材料における二酸化炭素吸収材の担持量を増加させることで、吸収体の二酸化炭素吸収能力を高められる。また、細孔表面の二酸化炭素吸収液に対するぬれ性が向上される結果、二酸化炭素の吸収工程及び脱離工程に係る操作を繰り返した際に(図3参照)、細孔表面からの二酸化炭素吸収液の剥がれ落ちが抑制されると推察される。つまり、固体材料に対する紫外線の照射を行った後に、二酸化炭素吸収液を担持させることで、二酸化炭素の回収が繰り返し行われた場合でも、二酸化炭素吸収液の剥がれ落ちによる吸収体の劣化が抑制される。これにより、回収システム全体を見た時の二酸化炭素の回収能力の維持が期待できる。
【0109】
固体材料の細孔に対してプラズマガスを吹き付けることによっても、細孔表面に親水性の官能基を形成できる。つまり、本検証の結果に基づけば、プラズマガスの吹き付けによっても、細孔表面を親水化し、固体材料における二酸化炭素吸収材の担持量を増加できることが推察される。
【0110】
上記の通り、本発明によれば、太陽光C2を熱H1に変換することで、従来の方法と比較して、投入エネルギー量を低下させながらも二酸化炭素の回収効率を高めることが可能となる。このことは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」にも大きく貢献するものである。
【0111】
[第二実施形態]
以下、本発明に係る二酸化炭素の回収システムの第二実施形態について、第一実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0112】
上記第一実施形態では、熱源4が反応槽2の内部に配置されたが、熱源4は反応槽2の外側において反応槽2とは独立した位置に配置することも可能である。つまり、本実施形態では、熱源4によって加熱された伝熱媒体が、反応槽2の内部に導入され、反応槽2内部の第一吸収体3bに対して熱H1を供給する。
【0113】
図8は、回収システム1の第二実施形態の構成を模式的に示す図面であり、一部の構成要素がブロック図にて示されている。図8に示すように、本実施形態に係る回収システム1は、反応槽2と、熱源4と、熱源4と反応槽2を連絡する第一流路31と、処理対象ガスG1を反応槽2に導入する第二流路32と、処理対象ガスG1等の通流方向に関して反応槽2の後段に位置する第三流路33を備える。なお、図8では、工程S4(図3参照)の場面が図示されており、伝熱媒体A1としての大気が第一流路31から反応槽2に導入される場面が描かれている。
【0114】
本実施形態では、図示しない送風ファンなどの通流機構によって反応槽2に送り込まれる大気が伝熱媒体A1として利用される。また、本実施形態では、処理対象ガスG1は大気である。このため、回収システム1は、第二流路32を通流する大気の流量を制御可能な第一バルブV1と、第一流路31を通流する大気の流量を制御可能な第二バルブV2と、各バルブ(V1,V2)の開閉状態を制御する制御部8を備える。図8では、第一バルブV1が閉状態とされ、第二バルブV2が開状態とされており、バルブの開閉状態を模式的に表現するために、各バルブの配管に対する位置が異なるように描かれている。
【0115】
また、反応槽2は、反応槽2の内部空間の温度を計測する温度計9を有する。制御部8は、後述するように、温度計9からの反応槽2内の温度情報d0に基づいて、各バルブ(V1,V2)に対して、バルブの開度を調整する信号(d1,d2)を送信可能である。
【0116】
以下、本実施形態の構成について、図9図12を参照しつつ説明する。図9及び図10は、反応槽2の構造を模式的に示す断面図であり、図9が工程S2の場面に対応し、図10が工程S4の場面に対応する(図3参照)。また、図11及び図12は熱源4の構造を模式的に示す断面図であり、図12図2に倣って、図11に係る熱源4をZ方向から見た際の図面である。
【0117】
図9に示すように、反応槽2の内部には、前述した工程S1を経て準備された第二吸収体3aが配置される。そして、第二バルブV2が閉状態、第一バルブV1が開状態とされて、処理対象ガスG1としての大気が導入口5bを介して反応槽2に導入される。第二吸収体3aが、処理対象ガスG1に含まれる二酸化炭素を吸収することで、第一吸収体3bが得られる(工程S2)。
【0118】
次に、熱源4によって、工程S3が実行される。図11に示すように、熱源4は、加熱槽4aと、加熱槽4aの鉛直上方(+Z側)に配置された集熱部材15と、集熱部材15に直接的に配置された伝熱部材19と、太陽光C2を内部に取り込むための透光部20を有する。なお、図12では、図示の便宜上、透光部20、集熱部材15、及び伝熱部材19の一部が省略されて示されている。熱源4は、第一実施形態に係る反応槽2と共通の構造を有するため、共通部分についての説明は簡略化される。
【0119】
図11に示すように、伝熱媒体A1としての大気が、導入口5を介して加熱槽4aの内部に導入される。そして、集熱部材15が太陽光C2を変換した熱H1によって高温となった伝熱部材19に、伝熱媒体A1が接触し、加熱される。その後、伝熱媒体A1は排出口6から排出され、第一流路31を介して反応槽2に送り込まれる。なお、透光部20については第一実施形態と同様の議論が可能である。
【0120】
伝熱部材19と伝熱媒体A1が接触する面積を増やす観点から、伝熱部材19は、図12に示すように、例えば板状の部材で構成されて、その主面が伝熱媒体A1の通流方向に関して略垂直になるように配置されても構わない。同様の観点から、Y方向に関して加熱槽4aの内壁と伝熱部材19の間に位置し、伝熱媒体A1が通過する通流部25が、X方向(通流方向)に見た際に伝熱媒体A1の通流方向に関して後段に位置する伝熱部材19の主面に重なる構成とされても構わない。なお、ここでいう「主面」とは、板状の伝熱部材19が有する面のうち、他の面よりも遥かに面積の大きい面を指す。
【0121】
熱源4によって加熱された伝熱媒体A1としての大気が、図10に示すように、導入口5aを介して第一吸収体3bが位置する反応槽2内部に導入される。この導入口5aが「導入ポート」に対応する。この際、典型的には第二バルブV2が開状態とされ、第一バルブV1が閉状態とされる。このように、第一吸収体3bに対して高温の伝熱媒体A1が接触されて、第一吸収体3bに対して熱H1が供給される(工程S4)。
【0122】
熱H1の供給によって第一吸収体3bから脱離した二酸化炭素を含む回収ガスG2は、排出口6aを介して回収される(工程S5)。つまり、この排出口6aは「回収ポート」に対応する
【0123】
なお、本実施形態では、伝熱媒体A1として大気が利用されるため、伝熱媒体A1を反応槽2内部に導入することによって、第一吸収体3b近傍の二酸化炭素濃度を低くすることができる。つまり、伝熱媒体A1としての大気は、二酸化炭素の脱離を促進する脱離促進ガスB1としての機能も奏する。
【0124】
伝熱媒体A1としての大気によって、第一吸収体3bを加熱することで、吸収済みの二酸化炭素が脱離されるが、吸収体3を繰り返し利用する観点から(図3参照)、第一吸収体3bに対する熱影響が低減されることが好ましい。このため、制御部8は、温度計9からの温度情報d0を受信して、反応槽2内の温度が所定値以上である場合には、第一バルブV1に対して開度を調整する信号d1を送信する。第一バルブV1の開度を調整することで、伝熱媒体A1より低温の大気が導入可能なため、反応槽2内の温度を低下させ、第一吸収体3bに対する熱影響を低減できる。つまり、この場合の大気は「冷却ガス」に対応する。また、反応槽2内の温度の冷却を促進する観点から、第二バルブV2に対して信号d2を送信して、第二バルブV2の開度を調整しても構わない。なお、所定値は、例えば、100℃以下とされてもよく、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは60℃以下である。
【0125】
なお、本実施形態では、制御部8が温度計9からの温度情報d0に基づいて、各バルブ(V1,V2)の開度を調整し、工程S4における反応槽2内の温度を低下させる例を説明した。しかし、制御部8は、例えばV2が開状態とされた累積時間が予め設定された時間に到達した場合に、所定の時間、第一バルブV1を開状態として第二バルブV2を閉状態とする制御を行うものとしても構わない。
【0126】
本実施形態では反応槽2に導入される伝熱媒体A1を加熱する構成を示したが、図1を参照して述べたように、反応槽2内に配置されて、伝熱媒体A1及び第一吸収体3bを加熱する熱源4の構成を併用しても構わない。
【0127】
[別実施形態]
〈1〉 図13及び図14は、回収システム1の別実施形態の構成を模式的に示す図面であり、構成の一部がブロック図で示されている。図13は、工程S2が実行される場面に対応し、図14は、工程S4及び工程S5が実行される場面に対応する。
【0128】
本実施形態は、伝熱媒体A1としての大気と、反応槽2から回収された二酸化炭素を含む回収ガスG2との間で熱交換を行う熱交換機36を備える(図14参照)。また、回収システム1は、第三流路33から分岐され、反応槽2を通流した後の処理対象ガスG1が通流する第四流路34と(図13参照)、第四流路34に配置された第四バルブV4を有する。なお、反応槽2及び熱源4の構成については、図9図12を参照して述べたのと同様の議論が可能である。
【0129】
図13に示すように、工程S2の実行場面では、第二流路32に配置された第一バルブV1及び第四バルブV4が開状態とされて、図示しないファンなどの通流機構によって反応槽2内に処理対象ガスG1が導入される。反応槽2内で、第二吸収体3aによって二酸化炭素が吸収された処理対象ガスG1は、第四流路34を介して例えば外空間に排出される。
【0130】
図14に示すように、工程S4及び工程S5の実行場面では、伝熱媒体A1としての大気が通流する第一流路31に配置された第二バルブV2と、回収ガスG2が通流する第三流路33に配置された第三バルブV3が開状態とされる。本実施形態では、図14に示すように、伝熱媒体A1として、植物工場35で植物が生育される空間(以下、便宜上、「生育空間35a」という。)における大気を利用する。さらに、反応槽2内の第一吸収体3bから脱離された二酸化炭素を含む回収ガスG2は、生育空間35aで利用可能である。回収ガスG2は、第一吸収体3bを加熱することで脱離された二酸化炭素を含むため、伝熱媒体A1としての大気よりも高い温度を有する。したがって、回収ガスG2と伝熱媒体A1としての大気との間で熱交換を行うことが好ましい。
【0131】
なお、植物工場35では、植物固有の概日リズム(サーカディアンリズム)に合わせて生育用の照明を点灯又は消灯することが想定される。つまり、当該照明が点灯される間は、植物の光合成により、生育空間35aの二酸化炭素濃度が低下する。したがって、前述した脱離促進ガスB1としての効果を高める観点から、生育空間35aにおける大気を伝熱媒体A1として利用することが好ましい。なお、植物の呼吸等によって、生育空間35aの二酸化炭素濃度が高い場合(典型的には生育用の照明が消灯される間)には、例えば外空間などの別の空間の大気を伝熱媒体A1として利用しても構わない。
【0132】
〈2〉 上記第二実施形態では、工程S4において、伝熱媒体A1としての大気が反応槽2の内部空間に導入されるものとした。しかし、図15に示すように、反応槽2の外側を通流する伝熱媒体A1と、第一吸収体3bが内部に位置する反応槽2との間で熱交換を行っても構わない。図15は、回収システム1の別構成例の一部を模式的に示す図面である。また、図16Aは、図15における熱源4の構成を模式的に示す斜視図であり、図16Bは、図16Aの熱源4をX方向から見た際の断面図である。なお、図16A及び図16Bでは、伝熱媒体A1の通流方向がX方向とされている。
【0133】
図16Aに係る熱源4は、例えば図16Bに示すようにL字型の断面形状を有し、その内部に伝熱媒体A1としての水が収容されている。熱源4は、外壁面の一部に平板状の集熱部材15を有し、集熱部材15が太陽光C2を吸収することで加熱され、高温の水(以下、「温水」と記載する)を生成する。集熱部材15が効率的に太陽光C2を受光出来るように、熱源4は架台41等の傾斜面に配置されるのが典型的である。温水は、流路40を通流するように構成され、伝熱媒体A1としての温水と、反応槽2との間で熱交換を行うことで、反応槽2内の第一吸収体3bに対して熱H1を供給することができる。
【0134】
なお、この際、反応槽2内の二酸化炭素濃度を低下させ、第一吸収体3bからの吸収済み二酸化炭素の脱離を促進する観点から、例えば第二流路32から脱離促進ガスB1としての大気を反応槽2内に導入しても構わない(図15参照)。
【0135】
〈3〉 また、図15では、流路40を通流する伝熱媒体A1としての温水と、反応槽2との間で熱交換を行う例を説明した。しかし、当該温水と、図8及び図10を参照して述べた第一流路31を通流する伝熱媒体A1としての大気との間で熱交換を行っても構わない。つまり、当該熱交換によって高温となった大気が反応槽2に導入されることで、第一吸収体3bに熱H1が供給され(図10参照)、吸収済み二酸化炭素の脱離が行われる。
【0136】
〈4〉 上記実施形態は適宜組み合わせて実現できる。例えば、図8又は図15に係る反応槽2の内部に、追加的に熱源4が配置されても構わない。当該反応槽2の構成としては、例えば図1を参照して述べた構成が利用できる。
【0137】
〈5〉 上記においては、吸収体3が粒状であるものとして説明したが、前述したように吸収体3の形状はこれに限られず、例えば板状であっても構わない。
【0138】
〈6〉 上記においては、吸収体3は、固体状を呈するものとして説明したが、液状の二酸化炭素吸収液を吸収体3として利用することもできる。図17は、図1Bに倣って回収システム1の別実施形態を模式的に示す図面である。図17に示すように、液状を呈する吸収体3に対して、集熱部材15の熱H1によって高温となる伝熱部材19を直接的に配置することで、吸収体3に対する熱H1の供給が可能である。なお、液状の吸収体3に二酸化炭素を吸収させる場合には(工程S2)、大気などの処理対象ガスG1を導入口5から導入し、吸収体3に対してバブリングさせても構わない。
【符号の説明】
【0139】
1 : 回収システム
1a : 回収方法
2 : 反応槽
3 : 吸収体
3a : 第二吸収体
3b : 第一吸収体
4 : 熱源
4a : 加熱槽
5,5a,5b : 導入口
6,6a : 排出口
8 : 制御部
9 : 温度計
10 : 基材
11 : 細孔
12 : 二酸化炭素吸収液
15 : 太陽光集熱部材
19 : 伝熱部材
20 : 透光部
21 : 透明部材
22 : 低圧空間
25 : 通流部
30 : ハロゲンランプ
31,32,33,34,40 : 流路
35 : 植物工場
35a : 生育空間
36 : 熱交換機
41 : 架台
A1 : 伝熱媒体
B1 : 脱離促進ガス
C1 : 太陽
C2 : 太陽光
G1 : 処理対象ガス
G2 : 回収ガス
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17