(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184448
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】接着シート
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20231221BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20231221BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20231221BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231221BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20231221BHJP
C09J 201/02 20060101ALI20231221BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L21/78 M
H01L21/78 Q
C09J7/30
C09J11/04
C09J163/00
C09J201/02
C09J133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023081708
(22)【出願日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2022098313
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】谷口 愁斗
(72)【発明者】
【氏名】市川 智昭
(72)【発明者】
【氏名】下田 麻由
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F047
5F063
【Fターム(参考)】
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5F047AA11
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(57)【要約】 (修正有)
【課題】金属粒子を多く含みつつ、被着体に接着された後の接着強度が比較的高い接着シートを提供する。
【解決手段】接着シート10と、接着シート10の一方の面に重なったダイシングテープ20とを備えるダイシングダイボンドフィルム1において、接着シート10は、金属粒子と、グリシジル基を含有する構成単位及びニトリル基を含有する構成単位を分子中に有する高分子化合物と、を含み、金属粒子を80質量%以上含み、高分子化合物の質量平均分子量Mwが、3万以上80万以下である。なお、ダイシングテープ20は、基材層21と、該基材層21に重なり且つ接着シート10にも重なる粘着剤層22とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子と、グリシジル基を含有する構成単位及びニトリル基を含有する構成単位を分子中に有する高分子化合物と、を含み、
前記金属粒子を80質量%以上含み、
前記高分子化合物の質量平均分子量Mwが、3万以上80万以下である、接着シート。
【請求項2】
前記高分子化合物は、前記グリシジル基を含有する構成単位と前記ニトリル基を含有する構成単位とを分子中に有するアクリル樹脂である、請求項1に記載の接着シート。
【請求項3】
前記アクリル樹脂は、ヒドロキシ基及びカルボキシ基のうち少なくとも一方を含有する構成単位を分子中にさらに有する、請求項2に記載の接着シート。
【請求項4】
前記高分子化合物のガラス転移点Tgは、-10℃以上30℃以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項5】
120℃における溶融粘度が、1000kPa・s以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項6】
硬化後の接着強度が15MPa以上である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項7】
硬化後の接着強度に対する、リフロー後の接着強度の維持率が、70%以上である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着シート。
【請求項8】
エポキシ樹脂の含有率が5質量%未満である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体装置を製造するときに使用される接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、パワーダイオード又はパワートランジスタなどのパワー半導体素子を備える半導体装置が知られている。また、この種の半導体装置を製造するために使用されるダイシングダイボンドフィルムが知られている。この種のダイシングダイボンドフィルムは、例えば、ダイシングテープと、該ダイシングテープに積層され且つ半導体ウエハに接着されることとなる接着シートと、を備える。ダイシングテープは、基材層と、接着シートに接している粘着剤層とを有する。この種のダイシングダイボンドフィルムは、半導体装置の製造において、例えば下記のように使用される。
【0003】
半導体装置を製造する方法は、一般的に、高集積の電子回路によってウエハの片面側に回路面を形成する前工程と、回路面が形成されたウエハからチップを切り出して組立てを行う後工程とを備える。例えば、比較的大きい電力で使用されるパワー半導体素子を含む半導体装置を製造する場合、後工程では、以下のような各工程を実施できる。
【0004】
後工程は、例えば、ダイシングテープに重なった接着シートに、回路面が形成された半導体ウエハの回路面とは反対側の面を貼り付けて半導体ウエハを固定するマウント工程と、ダイシングソー等によって半導体ウエハ及び接着シートをともに切断して小片化するダイシング工程と、半導体ウエハが小片化されてなる半導体チップ同士の間隔を広げるエキスパンド工程と、ダイシングテープの粘着剤層に貼り付けられた接着シートの小片を半導体チップとともに粘着剤層から剥離するピックアップ工程と、接着シートの小片が貼り付いた状態の半導体チップ(ダイ)を接着シートの小片を介して被着体に接着させるダイボンド工程と、被着体に接着した接着シートの小片を熱硬化処理するキュアリング工程と、を有する。パワー半導体素子を備える半導体装置は、例えばこれらの工程を経て製造される。
【0005】
上記のような半導体装置の製造方法で使用されるダイシングダイボンドフィルムとしては、例えば銀被覆銅系フィラーと、銀フィラーとを含有する接着シートを備え、前記銀被覆銅系フィラーは、フレーク状であり、且つ、平均長径が0.7μm以上であり、前記銀フィラーは、一次粒径が500nm以下である、ダイシングダイボンドフィルムが知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載のダイシングダイボンドフィルムの接着シートは、金属粒子として、上記のごとき特定の銀被覆銅系フィラーと特定の銀フィラーとを含むことから、熱伝導性が向上され、また、被着体に接着された後の剥離抑制性能が向上されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、接着シートの熱伝導性は、金属粒子の含有割合を高めることによって向上させることができる。しかしながら、金属粒子自体は接着性に乏しいため、金属粒子の含有割合が高まると、接着シートを被着体に接着した後の接着強度が低くなる。よって、接着シートの熱伝導性を高めるために金属粒子を多く配合すると、接着シートを被着体に接着した後の接着強度が低くなるという問題がある。
【0008】
しかしながら、熱伝導性を高めるべく金属粒子を多く含みつつ、被着体に接着された後の接着強度が比較的高い接着シートについては、未だ十分に検討されているとはいえない。
【0009】
そこで、本発明は、金属粒子を多く含みつつ、被着体に接着された後の接着強度が比較的高い接着シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明に係る接着シートは、金属粒子と、グリシジル基を含有する構成単位及びニトリル基を含有する構成単位を分子中に有する高分子化合物と、を含み、
前記金属粒子を80質量%以上含み、
前記高分子化合物の質量平均分子量Mwが、3万以上80万以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る接着シートは、金属粒子を多く含みつつ、被着体に接着された後の接着強度が比較的高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態のダイシングダイボンドフィルムを厚さ方向に切断した模式断面図。
【
図2】半導体装置の製造方法におけるマウント工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図3】半導体装置の製造方法におけるダイシング工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図4】半導体装置の製造方法におけるエキスパンド工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図5】半導体装置の製造方法におけるピックアップ工程の様子を模式的に表す断面図。
【
図6】半導体装置の製造方法におけるダイボンド工程の様子を模式的に表す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る接着シートの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
本実施形態の接着シート10は、例えば、ダイシングダイボンドフィルム1を構成する部材である。ダイシングダイボンドフィルム1は、
図1に示すように、本実施形態の接着シート10と、接着シート10の一方の面に重なったダイシングテープ20とを備える。なお、ダイシングテープ20は、基材層21と、該基材層21に重なり且つ接着シート10にも重なる粘着剤層22とを備える。
【0015】
接着シート10は、例えば半導体装置の製造において、回路基板又は半導体チップなどの被着体に接着されることとなる。
なお、図面における図は模式図であり、実物における縦横の長さ比と必ずしも同じではない。
【0016】
<ダイシングダイボンドフィルムの接着シート>
本実施形態において、接着シート10は、少なくとも、金属粒子と、グリシジル基を含有する構成単位及びニトリル基を含有する構成単位を分子中に有する高分子化合物(以下、架橋性基含有高分子化合物とも称する)とを含む。
接着シート10において、金属粒子の含有率は80質量%以上であり、上記高分子化合物の質量平均分子量Mwが、3万以上80万以下である。
斯かる構成により、本実施形態の接着シート10は、金属粒子を多く含みつつ、被着体に接着された後の硬化後において比較的高い接着強度を有することができる。
【0017】
接着シート10の厚さは、1μm以上であってもよく、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。また、接着シート10の厚さは、150μm以下であってもよく、100μm以下であってもよく、80μm以下であってもよい。接着シート10の厚さがより薄いことにより、接着シート10の熱伝導性をより良好にできる。なお、接着シート10が積層体である場合、上記の厚さは、積層体の総厚さである。
【0018】
接着シート10は、例えば
図1に示すように、単層構造を有してもよい。本明細書において、単層とは、同じ組成物で形成された層のみを有することである。同じ組成物で形成された層が複数積層された形態も単層である。
一方、接着シート10は、例えば、2種以上の異なる組成物でそれぞれ形成された層が積層された多層構造を有してもよい。接着シート10が多層構造を有する場合、接着シート10を構成する少なくとも1層(好ましくは被着体と接着されることとなる層)が、80質量%以上の金属粒子と、上記の架橋性基含有高分子化合物とを少なくとも含んでいればよい。
【0019】
上述したように、接着シート10における金属粒子の含有率は、80質量%以上である。金属粒子の含有率が80質量%以上であるため、接着シート10の熱伝導性及び導電性が良好である。接着シート10は、上記の金属粒子を85質量%以上含んでもよく、90質量%以上含んでもよい。これにより、接着シート10の熱伝導性をより良好にできる。また、上記の金属粒子を97質量%以下含んでもよい。
【0020】
上記の金属粒子は、少なくとも金属元素を含む。金属粒子は、導電性である。金属粒子の形状は、特に限定されず、例えば球状、板状、針状などである。上記の金属粒子の形状は、球状であることが好ましい。金属粒子の形状が球状であることにより、接着シート10中に金属粒子がより高密度で充填され得る。
【0021】
上記の金属粒子としては、例えば、金属及び金属酸化物のうち少なくとも一方のみで形成された粒子、又は、金属と金属以外の材料とを含む複合粒子などが挙げられる。
金属及び金属酸化物のうち少なくとも一方のみで形成された粒子は、金属元素を含んでいればよく、例えば金属粒子の表面の少なくとも一部が金属酸化物で覆われた状態であってもよい。金属のみで形成された粒子は、複数種の金属で形成されていてもよく、単一種の金属で形成されていてもよい。複数種の金属で形成された粒子としては、例えば、ニッケル粒子、銅粒子、銀粒子、又はアルミニウム粒子などで形成された中核部と、中核部の表面の少なくとも一部を覆う表層部とを有する粒子が挙げられる。表層部の材質としては、例えば金又は銀などが採用される。
複合粒子としては、例えば、樹脂粒子等で形成された中核部と、中核部の表面の少なくとも一部を覆いニッケル若しくは金等の金属で形成された表層部とを有する粒子が挙げられる。中核部は、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素材料で形成されてもよい。なお、複合粒子としては、金属粒子が脂肪酸によって表面処理されたもの等を採用できる。
【0022】
なお、上記の金属粒子として、1種のみが採用されてもよく、2種以上が組み合わされて採用されてもよい。
【0023】
上記の金属粒子は、焼結処理によって焼結される焼結性金属粒子であることが好ましい。焼結性金属粒子は、各粒子の表層部の少なくとも一部が金属で形成され且つその金属の融点以下の温度で加熱したときに互いに固着する粒子である。上記の金属粒子が焼結性金属粒子であることにより、接着シート10に対して熱硬化処理を施すことによって、焼結性金属粒子の少なくとも一部を焼結させることができる。そのため、接着シート10の内部に熱伝達経路がより形成されやすくなる。特に、厚さ方向の熱伝達経路が形成されやすくなる。これにより、接着シート10の放熱性を比較的高くすることができる。焼結性金属粒子としては、少なくとも表層部が金、銀、又は銅の少なくともいずれかの金属で形成された粒子が好ましい。
【0024】
上記の金属粒子の平均粒径は、1nm以上10μm以下であってもよい。斯かる平均粒径は、10nm以上であってもよい。上記の金属粒子の平均粒径がより大きいことによって、粒子同士の凝集がより抑えられるため、接着シート10中で金属粒子をより分散させやすくなるという利点がある。また、斯かる平均粒径は、5μm以下であってもよい。上記の金属粒子の平均粒径がより小さいことによって、上述した熱伝達経路がより多く形成され得る。
【0025】
上述したように、本実施形態の接着シート10は、グリシジル基を含有する構成単位及びニトリル基を含有する構成単位を分子中に有する架橋性基含有高分子化合物を含む。本実施形態の接着シート10が架橋性基含有高分子化合物を含むため、硬化後の接着シート10が良好な接着強度を有する。
【0026】
上記架橋性基含有高分子化合物の質量平均分子量(Mw)は、3万以上80万以下である。斯かる質量平均分子量(Mw)は、70万以下であってもよく、60万以下であってもよく、50万以下であってもよく、30万以下であってもよい。
上記架橋性基含有高分子化合物の質量平均分子量(Mw)は、分子量が比較的小さく80万以下であるため、被着体に接着された後の接着シート10の接着強度が比較的高くなり得る。
【0027】
上記の質量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定される。具体的な測定条件は、以下の通りである。
測定装置:HLC-8120GPC(製品名、東ソー社製)
カラム:TSKgel GMH-H(S)×2(品番、東ソー社製)
流量:0.5ml/min
注入量:100μL
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
注入試料濃度:0.1重量%
検出器:示差屈折計
検量線作成のための標準物質:ポリスチレン
【0028】
上記架橋性基含有高分子化合物としては、市販されている製品を採用できる。市販製品のうち、上述した範囲の質量平均分子量(Mw)を有する架橋性基含有高分子化合物を適宜選択して採用することができる。
【0029】
上記架橋性基含有高分子化合物のガラス転移点Tgは、-18℃以上30℃以下であってもよい。斯かるガラス転移点Tgは、-15℃以上であってもよく、-10℃以上であってもよく、-5℃以上であってもよい。また、斯かるガラス転移点Tgは、15℃以下であってもよく、10℃以下であってもよく、5℃以下であってもよい。
上記架橋性基含有高分子化合物のガラス転移点Tgが-10℃以上(より好ましくは-5℃以上)であることによって、被着体に接着された後の接着シート10の接着強度がより高くなり得る。
【0030】
上記のガラス転移点Tgは、動的粘弾性測定の結果から求められる。具体的な測定条件は、以下の通りである。
(動的粘弾性測定条件)
・装置:動的粘弾性測定装置
(例えば、レオメトリックサイエンティフィック社製「機器名:RSAIII」)
・測定モード:引張り
・測定周波数:1Hz
・測定温度範囲:-40℃から285℃へ昇温
・昇温速度:10℃/min
上記の測定条件で、経時的に貯蔵弾性率E’及び損失弾性率E”を測定する。そして、損失正接(tanδ=E”/E’)がピーク形状を示したピーク頂点での温度をガラス転移点Tgとする。
【0031】
上記架橋性基含有高分子化合物としては、市販されている製品を採用できる。よって、市販製品のうち上記のガラス転移点Tgが比較的高い製品を選択することもでき、また、上記のガラス転移点Tgが比較的低い製品を選択することもできる。
なお、上記のガラス転移点Tgは、例えば、上記架橋性基含有高分子化合物の分子量をより小さくすることによって低下させることができる。一方、例えば、上記架橋性基含有高分子化合物の分子量をより大きくすることによってことによって、上記のガラス転移点Tgをより高くすることができる。
【0032】
上記の架橋性基含有高分子化合物としては、例えば、エポキシ化アクリロニトリル-ジエン共重合ゴム、又は、少なくとも(メタ)アクリロニトリルとグリシジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体である架橋性アクリル樹脂などが挙げられる。
【0033】
エポキシ化アクリロニトリル-ジエン共重合ゴムとしては、例えば、(メタ)アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体であるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ニトリルクロロプレンゴム、ニトリルイソプレンゴムの各エポキシ化誘導体などが挙げられる。
本実施形態では、上記の架橋性基含有高分子化合物は、熱可塑性樹脂の1種である。
【0034】
上記の架橋性基含有高分子化合物は、上記の架橋性アクリル樹脂(分子中にニトリル基とグリシジル基とを少なくとも有するアクリル樹脂)であることが好ましい。接着シート10が、架橋性基含有高分子化合物として上記の架橋性アクリル樹脂を含むことにより、接着シート10が適度な柔軟性を有することができる。また、架橋性アクリル樹脂を重合するときのモノマーの種類の変更によって、接着シート10の弾性率を比較的容易に調整できる。
【0035】
上記の架橋性アクリル樹脂は、(メタ)アクリロニトリルモノマーと、グリシジル(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー[アルキル(メタ)アクリレートモノマー]とが少なくとも共重合した高分子化合物である。
なお、本明細書において「(メタ)アクリル酸」との表記は、メタクリル酸及びアクリル酸のうちの少なくとも一方を表し、「(メタ)アクリレート」との表記は、メタクリレート(メタクリル酸エステル)及びアクリレート(アクリル酸エステル)のうちの少なくとも一方を表す。「(メタ)アクリル」という用語も同様である。
【0036】
上記の架橋性アクリル樹脂は、側鎖にグリシジル基を有することが好ましい。上記の架橋性アクリル樹脂は、側鎖の末端にグリシジル基を有してもよい。なお、上記の架橋性アクリル樹脂は、主鎖の両端のうち少なくとも一方にグリシジル基を有してもよい。
【0037】
上記の架橋性アクリル樹脂は、熱硬化処理によって架橋反応を起こす架橋性基であってグリシジル基以外の架橋性基をさらに有してもよい。斯かる架橋性基としては、例えば、活性水素を有する架橋性基が挙げられる。
【0038】
活性水素を有する架橋性基としては、例えば、ヒドロキシ基又はカルボキシ基などが挙げられる。これらの架橋性基は、エポキシ基と架橋反応を起こすことができる。例えば、ヒドロキシ基又はカルボキシ基の少なくとも一方を分子中に有する上記の架橋性アクリル樹脂は、上記の架橋性アクリル樹脂の分子間で、又は、エポキシ基を分子中に有する他の化合物(例えば、エポキシ樹脂など)との間で架橋反応を起こすことができる。
【0039】
上記の架橋性アクリル樹脂の総構成単位に占める、グリシジル基含有モノマーの構成単位の含有割合は、所定範囲内であることが好ましい。グリシジル基含有モノマーの構成単位の含有割合が高くなることにより、接着シート10が熱硬化処理されるときの架橋反応をより十分に進行させることができる。一方、上記の含有割合が低くなることにより、熱硬化処理後の接着シート10の弾性率がより低くなり、熱硬化処理に伴う接着シート10の反りをより抑制できる。
なお、グリシジル基含有モノマーの構成単位の含有割合の指標としては、後述するエポキシ価を採用できる。
【0040】
上記の架橋性アクリル樹脂は、例えばラジカル重合開始剤を用いた一般的な重合方法によって合成できる。又は、上記の架橋性アクリル樹脂として、市販品を用いることができる。
【0041】
上記の架橋性アクリル樹脂は、分子中の構成単位のうち、アルキル(メタ)アクリレートモノマーの構成単位を質量割合で最も多く含むことが好ましい。当該アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、アルキル基(炭化水素基)の炭素数が2以上18以下のC2~C18アルキル(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。
なお、構成単位とは、架橋性アクリル樹脂を重合するときのモノマー(例えばブチルアクリレート、アクリロニトリルなど)が重合した後の各モノマー由来の構造である。以下同様である。
【0042】
アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、例えば、飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマー、飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマー、又は、飽和環状アルキル(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。
【0043】
飽和直鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、又は、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、直鎖状アルキル基部分の炭素数は、2以上8以下であることが好ましい。
飽和分岐鎖状アルキル(メタ)アクリレートモノマーとしては、イソヘプチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、又は、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、アルキル基部分は、iso構造、sec構造、neo構造、又は、tert構造のいずれかを有してもよい。
【0044】
上記の架橋性アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと共重合可能なグリシジル基含有モノマーに由来する構成単位を含む。換言すると、上記の架橋性アクリル樹脂は、少なくともアルキル(メタ)アクリレートモノマーとグリシジル基含有モノマーとニトリル基含有モノマーとが共重合したアクリル樹脂である。さらに換言すると、上記の架橋性アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーの構成単位と、グリシジル基含有モノマーの構成単位と、ニトリル基含有モノマーの構成単位とがランダムな順序でつながった構成を有する。
【0045】
グリシジル基含有(メタ)アクリルモノマー以外の活性水素基を含有する架橋性基含有モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマー、ヒドロキシ基(水酸基)含有(メタ)アクリルモノマー、スルホン酸基含有(メタ)アクリルモノマー、又は、リン酸基含有(メタ)アクリルモノマー等の官能基含有モノマー等が挙げられる。なお、上記架橋性基含有モノマーは、分子中にエーテル基又はエステル基などを有してもよい。
【0046】
上記架橋性アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリレート(特に、アルキル部分の炭素数が1以上4以下のC1~C4アルキル(メタ)アクリレート)と、(メタ)アクリロニトリルモノマーと、グリシジル基含有(メタ)アクリルモノマーと、カルボキシ基含有又はヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーと、の共重合体であることが好ましい。
上記架橋性アクリル樹脂が、分子中にグリシジル基と、カルボキシ基又はヒドロキシ基の少なくとも一方とを有することにより、上記架橋性アクリル樹脂は、互いに架橋反応できたり、上記金属粒子の表面官能基と反応できたりするため、接着シート10の強度が向上し得る。
【0047】
上記架橋性アクリル樹脂のエポキシ価は、0.01[eq/100g]以上0.50[eq/100g]以下であってもよく、0.10[eq/100g]以下であってもよい。斯かるエポキシ価は、JIS K7236:2001 によって求められるエポキシ当量(1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量)から計算した換算値である。
【0048】
(メタ)アクリロニトリルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリルモノマー、又は、メタクリロニトリルモノマーなどが挙げられる。
【0049】
グリシジル基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、又は、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどが挙げられる。なお、グリシジル基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
【0050】
上記架橋性アクリル樹脂がカルボキシ基を分子中に含有する場合、上記架橋性アクリル樹脂の酸価は、0.1[mg/KOH]以上5.0[mg/KOH]以下であってもよい。斯かる酸価は、JIS K0070-1992(電位差滴定方法)に準じて、以下の測定方法によって求められる。
(1)ジエチルエーテル及びエタノールを体積比で4:1(ジエチルエーテルの体積:エタノールの体積)に混合した混合溶剤にフェノールフタレイン溶液を指示薬として加える。その後、0.1mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液(滴定液)を用いて、該指示薬を含む混合溶剤を中和する。これにより、滴定液である0.1mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液のファクターfを求める。
(2)約5gの試料(上記架橋性アクリル樹脂)を秤量してビーカに入れた後、上記の混合溶剤をビーカに加え、加温及び撹拌しながら、試料を混合溶剤に溶解させる。
(3)0.1mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液(滴定液)を用いて、試料が溶解した混合溶剤の電位差滴定を行う。そして、次の式(1)に従って試料(上記架橋性アクリル樹脂)の酸価を求める。
【数1】
【0051】
カルボキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、又は、モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)サクシネートモノマーなどが挙げられる。なお、カルボキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
【0052】
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートモノマー、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートモノマー、又は、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートモノマーなどが挙げられる。なお、ヒドロキシ基は、モノマー構造の末端部分に配置されていてもよく、末端部分以外の炭化水素に結合していてもよい。
【0053】
本実施形態の接着シート10は、熱硬化性樹脂を含んでもよい。本実施形態の接着シート10における熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂など)の含有率は、5質量%未満(0質量%を包含する)であってもよく、3質量%未満(0質量%を包含する)であってもよい。熱硬化性樹脂の含有率が5質量%未満であることにより、接着シート10が硬化するときの収縮をより抑制できる。
【0054】
上記の熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、又は、グリシジルアミン型の各エポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、室温において液状であってもよく、固形状であってもよい。
【0055】
本実施形態の接着シート10は、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含んでもよい。斯かる熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、硬化性シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0056】
フェノール樹脂は、上記の架橋性アクリル樹脂の反応対象化合物になり得る。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、又は、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂など)、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂、又は、フェノールキシリレン樹脂等が挙げられる。
フェノール樹脂の水酸基当量[g/eq]は、例えば、90以上220以下であってもよい。
接着シート10の弾性率が適度に低くなり得るという点で、フェノール樹脂としては、水酸基当量が比較的大きいビフェニルアラルキル型フェノール樹脂が好ましい。
上記フェノール樹脂としては、1種のみ、又は、2種以上が採用される。
【0057】
接着シート10は、上述した成分以外の成分を含んでもよい。例えば、接着シート10は、上記の架橋性アクリル樹脂以外の熱可塑性樹脂をさらに含んでもよい。また、接着シート10は、必要に応じて、例えば、硬化触媒、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤、染料等をさらに含んでもよい。
【0058】
接着シート10にさらに含まれ得る熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ポリアミド樹脂や6,6-ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又は、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0059】
接着シート10に含まれるポリマー成分の総量(詳しくは、金属粒子、シランカップリング剤、及び触媒を除いたポリマー成分の総量)に占める上記の架橋性基含有高分子化合物の質量割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。斯かる質量割合は、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよい。
【0060】
接着シート10において、金属粒子100質量部に対する、上記のポリマー成分の総量(上記の架橋性基含有高分子化合物及び熱硬化性樹脂などの総量)は、5質量部以上15質量部以下であってもよい。
【0061】
本実施形態において、硬化前の接着シート10の120℃における溶融粘度は、1000[kPa・s]以下であってもよく、500[kPa・s]以下であってもよく、300[kPa・s]以下であってもよく、170[kPa・s]以下であってもよい。なお、溶融粘度は、100[kPa・s]以上であってもよい。
上記の溶融粘度は、後述する硬化処理を接着シート10に施す前に測定される。
【0062】
上記の溶融粘度は、以下の測定法によって測定される。具体的な測定条件は、以下の通りである。
(硬化前の接着シートの溶融粘度の測定条件)
測定機器:レオメータ
(例えば、ThermoSCIENTFIC HAAKE MARS III)
温度:120℃
治具:パラレルプレート直径8mm、ギャップ250μm、せん断速度1/秒)
【0063】
上記の溶融粘度は、例えば、接着シート10に含まれる上記の架橋性アクリル樹脂の含有率を下げるか、又は、フェノール樹脂の含有率を高めることによって小さくすることができる。一方、例えば、接着シート10に含まれる上記の架橋性アクリル樹脂の含有率を高めるか、又は、フェノール樹脂の含有率を低下させることによって、上記の溶融粘度を大きくすることができる。
【0064】
本実施形態において、硬化前の接着シート10の30℃における貯蔵弾性率G’は、0.1MPa以上6.0MPa以下であってもよい。
【0065】
上記の貯蔵弾性率G’は、後述する硬化処理を接着シート10に施す前に測定される。上記の貯蔵弾性率G’は、上述した動的粘弾性測定の測定条件に従って貯蔵弾性率を測定することで求められる。
【0066】
上記の貯蔵弾性率G’は、例えば、接着シート10に含まれる金属粒子の含有率を変えることなどによって、調整できる。
【0067】
本実施形態において、硬化後の接着シート10と、被着体との間の接着強度は、より大きいことが好ましく、例えば15MPa以上であってもよい。なお、斯かる接着強度は、例えば100MPa以下であってもよく、50MPa以下であってもよい。
上記の接着強度は、150℃、荷重1MPa、1秒間という条件で接着シート10が被着体に貼り付けられた後、接着シート10を室温から200℃まで30分間で昇温した後、200℃で1時間(陽圧0.5MPa)の硬化処理を施した後に測定される。上記の接着強度の測定では、被着体として、シリコンベアウエハ(シリコンチップ)を採用する。
【0068】
上記の接着強度は、以下の測定法によって測定される。具体的には、せん断試験機によって、被着体から接着シート10をせん断剥離したときの剥離強度を測定する。測定装置として、例えば製品名「Dage4000」(ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製)を用いることができる。せん断剥離の条件は、測定速度200μm/秒、測定ギャップ80μm、温度25℃である。
【0069】
上記の接着強度は、例えば、接着シート10に含まれる上記の架橋性基含有高分子化合物(上記の架橋性アクリル樹脂など)の分子量を小さくすることによって、大きくすることができる。又は、例えば、接着シート10に含まれる上記の架橋性基含有高分子化合物(上記の架橋性アクリル樹脂など)のガラス転移点Tgがより高いことによって、上記の接着強度がより大きくなり得る。
【0070】
本実施形態において、硬化後の接着シート10の被着体との接着強度に対する、リフロー後における接着シート10の被着体との接着強度の維持率が、70%以上であってもよい。なお、斯かる維持率は、99%以下であってもよい。
なお、接着シート10が上記のごとく硬化処理された後、接着シート10に対してさらに120~180℃の予備加熱処理を90秒間実施し、さらに260℃で10秒間の加熱処理を実施した後に、リフロー後の接着シート10の接着強度が測定される。斯かる接着強度の具体的な測定方法は、上述した方法と同様である。
【0071】
リフロー後の接着シート10の接着強度は、例えば、接着シート10に含まれる上記の架橋性基含有高分子化合物(上記の架橋性アクリル樹脂など)の分子量を小さくすることによって、大きくすることができる。又は、例えば、接着シート10に含まれる上記の架橋性基含有高分子化合物(上記の架橋性アクリル樹脂など)のガラス転移点Tgがより高いことによって、上記の接着強度がより大きくなり得る。
【0072】
本実施形態において、硬化後の接着シート10の熱伝導率は、例えば1[W/m・K]以上であってもよい。斯かる熱伝導率は、接着シート10の厚さ方向における熱伝導率である。
【0073】
次に、上述した接着シート10に貼り合わされたダイシングテープ20について詳しく説明する。
【0074】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1が使用される前又は使用中に、活性エネルギー線(例えば紫外線)が照射されることによって、ダイシングテープ20の粘着剤層22が硬化される。例えば、接着シート10と粘着剤層22とを積層させる前に、紫外線等が少なくとも粘着剤層22に照射される。紫外線等の照射によって粘着剤層22が硬化することによって、粘着剤層22の粘着力を適度に下げることができる。これにより、後述するピックアップ工程において、粘着剤層22から接着シート10(半導体ウエハが接着した状態)を比較的容易に剥離させることができる。
【0075】
<ダイシングダイボンドフィルムのダイシングテープ>
上記のダイシングテープ20は、通常、長尺シートであり、使用されるまで巻回された状態で保管される。本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、割断処理されるシリコンウエハよりも、ひと回り大きい内径を有する円環状の枠に張られ、カットされて使用される。
【0076】
上記のダイシングテープ20は、基材層21と、該基材層21に重なった粘着剤層22とを備える。
【0077】
[ダイシングテープの基材層]
基材層21は、単層構造であってもよく、積層構造(例えば3層構造)を有してもよい。基材層21の厚さ(総厚さ)は、80μm以上150μm以下であってもよい。
【0078】
基材層21の各層は、例えば、金属箔、紙や布などの繊維シート、ゴムシート、樹脂フィルムなどである。
基材層21を構成する繊維シートとしては、紙、織布、不織布などが挙げられる。
樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体等のエチレンの共重合体;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリアクリレート;ポリ塩化ビニル(PVC);ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド(PPS);脂肪族ポリアミド、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリアミド;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリ塩化ビニリデン;ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体);セルロース又はセルロース誘導体;含シリコーン高分子;又は、含フッ素高分子などが挙げられる。これらは、1種が単独で又は2種以上が組み合わされて使用され得る。
【0079】
基材層21は、樹脂フィルムなどの高分子材料で構成されていることが好ましい。
基材層21が樹脂フィルムを有する場合、樹脂フィルムが延伸処理等を施され、伸び率などの変形性が制御されていてもよい。
基材層21の表面には、粘着剤層22との密着性を高めるために、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、若しくはイオン化放射線処理等の化学的方法、又は、物理的方法による酸化処理等が採用され得る。また、アンカーコーティング剤、プライマー、若しくは接着剤等のコーティング剤によるコーティング処理が施されていてもよい。
【0080】
基材層21の背面側(粘着剤層22が重なっていない側)には、剥離性を付与するために、例えば、シリコーン系樹脂やフッ素系樹脂等の離型剤(剥離剤)などによって離型処理が施されていてもよい。
基材層21は、背面側から紫外線等の活性エネルギー線を粘着剤層22へ与えることが可能となる点で、光透過性(紫外線透過性)の樹脂フィルム等であることが好ましい。
【0081】
[ダイシングテープの粘着剤層]
本実施形態において、粘着剤層22は、例えば、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位を分子中に少なくとも含有するアクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを含む。
【0082】
粘着剤層22は、5μm以上40μm以下の厚さを有してもよい。粘着剤層22の形状および大きさは、通常、基材層21の形状および大きさと同じである。
【0083】
本実施形態において、粘着剤層22に含まれる上記のアクリルポリマーは、分子中に、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位と、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位と、を少なくとも有する。構成単位は、アクリルポリマーの主鎖を構成する単位である。上記のアクリルポリマーにおける各側鎖は、主鎖を構成する各構成単位に含まれる。
【0084】
粘着剤層22に含まれるアクリルポリマーにおいて、上記の構成単位は、1H-NMR、13C-NMRなどのNMR分析、熱分解GC/MS分析、及び、赤外分光法などによって確認できる。なお、アクリルポリマーにおける上記の構成単位のモル割合は、アクリルポリマーを重合するときの配合量(仕込量)から算出されてもよい。
【0085】
上記のアルキル(メタ)アクリレートの構成単位は、アルキル(メタ)アクリレートモノマーに由来する。換言すると、アルキル(メタ)アクリレートモノマーが重合反応したあとの分子構造が、アルキル(メタ)アクリレートの構成単位である。「アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分を表す。
アルキル(メタ)アクリレートの構成単位におけるアルキル部分の炭化水素は、飽和炭化水素であってもよく、不飽和炭化水素であってもよい。炭化水素部分の炭素数は、6以上であってもよく、8以上であってもよい。また、炭化水素部分の炭素数は、10以下であってもよい。
【0086】
上記のアクリルポリマーの構成単位のうち、アルキル部分の炭素数が8以上のアルキル(メタ)アクリレートの構成単位の割合が分子中においてモル換算で最も高いことが好ましく、分岐鎖状のアルキル部分の炭素数が8以上のアルキル(メタ)アクリレートの構成単位の割合が分子中においてモル換算で最も高いことがより好ましい。これにより、後述するピックアップ工程におけるピックアップ性能(粘着剤層22から接着シート10及び半導体チップを比較的容易に剥離できる性能)を保ちつつ、ダイシング工程における、いわゆるチップフライ現象(後に詳述)をより十分に抑制できると考えられる。チップフライ現象は、半導体ウエハ及び接着シート10を切断して小片化したときに、小片化された接着シート10と半導体チップとが粘着剤層22から意図せず剥離してしまう現象である。換言すると、アルキル部分の炭素数が8以上のアルキル(メタ)アクリレートの構成単位の割合が分子中で最も高い上記のアクリルポリマーを、粘着剤層22が含むことによって、接着シート10が面方向のいずれかの方向で粘着剤層22から剥離されることがより抑えられつつ、接着シート10が粘着剤層22から面に垂直な方向では比較的剥離されやすくなり得る。
【0087】
アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-またはiso-ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレートなどの各構成単位が挙げられる。
【0088】
粘着剤層22に含まれる上記のアクリルポリマーは、複素環(ヘテロ環)構造を含有する(メタ)アクリレートの構成単位を分子中にさらに有することが好ましい。窒素(N)又は酸素(O)などの分極部位を上記のアクリルポリマーが分子中に有することによって、上記のアクリルポリマーの凝集性がより高まる。従って、上記のアクリルポリマーを含む粘着剤層22と接着シート10との間の剥離力をより高めることができる。また、粘着剤層22を接着シート10から剥離したときに、粘着剤層22の一部が脱離して接着シート10の剥離面に付着してしまう現象(糊残り)をより抑制できる。上記の複素環(ヘテロ環)構造としては、窒素(N)又は酸素(O)の少なくとも一方を含有する構造が好ましい。複素環(ヘテロ環)構造を分子中に含有する(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリンなどが挙げられる。
【0089】
上記のアクリルポリマーは、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有し、斯かる構成単位の水酸基が、イソシアネート基と容易に反応する。
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有するアクリルポリマーと、イソシアネート化合物とを粘着剤層22に共存させておくことによって、粘着剤層22を適度に硬化させることができる。そのため、アクリルポリマーが十分にゲル化できる。よって、粘着剤層22は、形状を維持しつつ粘着性能を発揮できる。
【0090】
水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位であることが好ましい。「C2~C4アルキル」という表記は、(メタ)アクリル酸に対してエステル結合した炭化水素部分の炭素数を表す。換言すると、水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリルモノマーは、(メタ)アクリル酸と、炭素数2以上4以下のアルコール(通常、2価アルコール)とがエステル結合したモノマーを示す。
C2~C4アルキルの炭化水素部分は、通常、飽和炭化水素である。例えば、C2~C4アルキルの炭化水素部分は、直鎖状飽和炭化水素、又は、分岐鎖状飽和炭化水素である。C2~C4アルキルの炭化水素部分は、酸素(O)や窒素(N)などを含有する極性基を含まないことが好ましい。
【0091】
水酸基含有C2~C4アルキル(メタ)アクリレートの構成単位としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、又は、ヒドロキシn-ブチル(メタ)アクリレート若しくはヒドロキシiso-ブチル(メタ)アクリレートといったヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの各構成単位が挙げられる。なお、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの構成単位において、水酸基(-OH基)は、炭化水素部分の末端の炭素(C)に結合していてもよく、炭化水素部分の末端以外の炭素(C)に結合していてもよい。
【0092】
上記のアクリルポリマーは、側鎖に重合性不飽和二重結合を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含む。
上記のアクリルポリマーが、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を含むことによって、ピックアップ工程の前に、粘着剤層22を、活性エネルギー線(紫外線等)の照射によって硬化させることができる。詳しくは、紫外線等の活性エネルギー線の照射によって、光重合開始剤からラジカルを発生させ、このラジカルの作用によって、アクリルポリマー同士を架橋反応させることができる。これによって、照射前における粘着剤層22の粘着力を、照射によって低下させることができる。そして、接着シート10を粘着剤層22から良好に剥離させることができる。
なお、活性エネルギー線としては、紫外線、放射線、電子線が採用される。
【0093】
重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、具体的には、上述した水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位における水酸基に、イソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーのイソシアネート基がウレタン結合した分子構造を有してもよい。
【0094】
重合性基を有する重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位は、重合処理の後に、調製され得る。例えば、アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーとの共重合の後に、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部における水酸基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応させることによって、上記の重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を得ることができる。
【0095】
上記のイソシアネート基含有(メタ)アクリルモノマーは、分子中にイソシアネート基を1つ有し且つ(メタ)アクリロイル基を1つ有することが好ましい。斯かるモノマーとしては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが挙げられる。
【0096】
本実施形態におけるダイシングテープ20の粘着剤層22は、さらにイソシアネート化合物を含む。イソシアネート化合物の一部は、ウレタン化反応などによって反応した後の状態であってもよい。
イソシアネート化合物は、分子中に複数のイソシアネート基を有する。イソシアネート化合物が分子中に複数のイソシアネート基を有することによって、粘着剤層22におけるアクリルポリマー間の架橋反応を進行させることができる。詳しくは、イソシアネート化合物の一方のイソシアネート基をアクリルポリマーの水酸基と反応させ、他方のイソシアネート基を別のアクリルポリマーの水酸基と反応させることで、イソシアネート化合物を介した架橋反応を進行させることができる。
【0097】
イソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、芳香脂肪族ジイソシアネートなどのジイソシアネートが挙げられる。
【0098】
さらに、イソシアネート化合物としては、例えば、ジイソシアネートの二量体や三量体等の重合ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネートが挙げられる。
【0099】
加えて、イソシアネート化合物としては、例えば、上述したイソシアネート化合物の過剰量と、活性水素含有化合物とを反応させたポリイソシアネートが挙げられる。活性水素含有化合物としては、活性水素含有低分子量化合物、活性水素含有高分子量化合物などが挙げられる。
なお、イソシアネート化合物としては、アロファネート化ポリイソシアネート、ビウレット化ポリイソシアネート等も用いることができる。
上記のイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0100】
上記のイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネートと活性水素含有低分子量化合物との反応物が好ましい。芳香族ジイソシアネートの反応物は、イソシアネート基の反応速度が比較的遅いため、斯かる反応物を含む粘着剤層22は、過度に硬化してしまうことが抑制される。上記のイソシアネート化合物としては、分子中にイソシアネート基を3つ以上有するものが好ましい。
【0101】
粘着剤層22に含まれる重合開始剤は、加えられた熱や光のエネルギーによって重合反応を開始できる化合物である。粘着剤層22が重合開始剤を含むことによって、粘着剤層22に熱エネルギーや光エネルギーを与えたときに、アクリルポリマー間における架橋反応を進行させることができる。詳しくは、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位を有するアクリルポリマー間において、重合性基同士の重合反応を開始させて、粘着剤層22を硬化させることができる。これにより、粘着剤層22の粘着力を低下させ、ピックアップ工程において、硬化した粘着剤層22から接着シート10を容易に剥離させることができる。
重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤又は熱重合開始剤などが採用される。重合開始剤としては、一般的な市販製品を使用できる。
【0102】
粘着剤層22は、上述した成分以外のその他の成分をさらに含み得る。その他の成分としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、又は軽剥離化剤等が挙げられる。その他の成分の種類および使用量は、目的に応じて、適切に選択され得る。
【0103】
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1は、使用される前の状態において、接着シート10の一方の面(接着シート10が粘着剤層22と重なっていない面)を覆うはく離ライナーを備えてもよい。はく離ライナーは、接着シート10を保護するために用いられ、接着シート10に被着体(例えば半導体ウエハW)を貼り付ける直前に剥離される。
はく離ライナーとしては、例えば、シリコーン系の剥離剤、長鎖アルキル系の剥離剤、フッ素系の剥離剤、硫化モリブデン等の剥離剤によって表面処理された、プラスチックフィルム又は紙等を用いることができる。
このはく離ライナーは、接着シート10を支持するための支持材として利用できる。はく離ライナーは、粘着剤層22に接着シート10を重ねるときに、好適に使用される。詳しくは、はく離ライナーと接着シート10とが積層された状態で接着シート10を粘着剤層22に重ね、重ねた後にはく離ライナーを剥がす(転写する)ことによって、粘着剤層22に接着シート10を重ねることができる。
【0104】
続いて、本実施形態の接着シート10、及び、ダイシングダイボンドフィルム1の製造方法について説明する。
【0105】
<ダイシングダイボンドフィルムの製造方法>
本実施形態のダイシングダイボンドフィルム1の製造方法は、
接着シート10を作製する工程と、
ダイシングテープ20を作製する工程と、
製造された接着シート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程とを備える。
【0106】
[接着シートを作製する工程]
接着シート10を作製する工程は、
接着シート10を形成するための樹脂組成物を調製する樹脂組成物調製工程と、
樹脂組成物から接着シート10を形成する接着シート形成工程と、を有する。
【0107】
樹脂組成物調製工程では、例えば、金属粒子、上記の架橋性アクリル樹脂、及び、溶媒などを混合して、各樹脂を溶媒に溶解させることによって、樹脂組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。なお、配合する樹脂としては、市販されている製品を用いることができる。
【0108】
接着シート形成工程では、例えば、上記のごとく調製した樹脂組成物を、はく離ライナーに塗布する。塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。次に、必要に応じて、脱溶媒処理や硬化処理等によって、塗布した組成物を固化させて、接着シート10を形成する。
【0109】
[ダイシングテープを作製する工程]
ダイシングテープ20を作製する工程は、
アクリルポリマーを合成する合成工程と、
上述したアクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤と、溶媒と、目的に応じて適宜追加するその他の成分と、を含む粘着剤組成物から溶媒を揮発させて粘着剤層22を作製する粘着剤層作製工程と、
基材層21を作製する基材層作製工程と、
粘着剤層22と基材層21とを貼り合わせることによって、基材層21と粘着剤層22とを積層させる積層工程と、を備える。
【0110】
合成工程では、例えば、炭化水素部分の炭素数が7以上9以下のC7~C9アルキル(メタ)アクリレートモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーと、をラジカル重合させることによって、アクリルポリマー中間体を合成する。
ラジカル重合は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、上記の各モノマーを溶媒に溶解させて加熱しながら撹拌し、重合開始剤を添加することによって、アクリルポリマー中間体を合成できる。アクリルポリマーの分子量を調整するために、連鎖移動剤の存在下において重合を行ってもよい。
次に、アクリルポリマー中間体に含まれる、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部の水酸基と、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基とを、ウレタン化反応によって結合させる。これにより、水酸基含有(メタ)アクリレートの構成単位の一部が、重合性基含有(メタ)アクリレートの構成単位となる。
ウレタン化反応は、一般的な方法によって行うことができる。例えば、溶媒及びウレタン化触媒の存在下において、加熱しながらアクリルポリマー中間体とイソシアネート基含有重合性モノマーとを撹拌する。これにより、アクリルポリマー中間体の水酸基の一部に、イソシアネート基含有重合性モノマーのイソシアネート基をウレタン結合させることができる。
【0111】
粘着剤層作製工程では、例えば、アクリルポリマーと、イソシアネート化合物と、重合開始剤とを溶媒に溶解させて、粘着剤組成物を調製する。溶媒の量を変化させることによって、組成物の粘度を調整することができる。次に、粘着剤組成物をはく離ライナーに塗布する。塗布方法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、又は、グラビア塗工等の一般的な塗布方法が採用される。塗布した組成物に、脱溶媒処理や固化処理等を施すことによって、塗布した粘着剤組成物を固化させて、粘着剤層22を作製する。
【0112】
基材層作製工程では、一般的な方法によって製膜して基材層21を作製できる。製膜する方法としては、例えば、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、又は、ドライラミネート法等が挙げられる。共押出し成形法を採用してもよい。なお、基材層21として、市販されているフィルム等を用いてもよい。
【0113】
積層工程では、はく離ライナーに重なった状態の粘着剤層22と基材層21とを重ねて積層させる。なお、はく離ライナーは、使用前まで粘着剤層22に重なった状態であってもよい。
なお、架橋剤とアクリルポリマーとの反応を促進するため、また、架橋剤と基材層21の表面部分との反応を促進するために、積層工程の後に、50℃環境下で、48時間のエージング処理工程を実施してもよい。
【0114】
これら工程によって、ダイシングテープ20を製造することができる。
【0115】
[接着シート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程]
接着シート10とダイシングテープ20とを重ね合わせる工程では、上記のごとく製造したダイシングテープ20の粘着剤層22に接着シート10を貼り付ける。
【0116】
斯かる貼り付けでは、ダイシングテープ20の粘着剤層22、及び、接着シート10からそれぞれはく離ライナーを剥離し、接着シート10と粘着剤層22とが直接接触するように、両者を貼り合わせる。例えば、圧着することによって貼り合わせることができる。貼り合わせるときの温度は、特に限定されず、例えば、30℃以上50℃以下である。貼り合わせるときの線圧は、特に限定されないが、好ましくは0.1kgf/cm以上20kgf/cm以下である。
なお、上記の貼り付けの前又は後に、ダイシングテープ20の粘着剤層22に紫外線等を照射することで、粘着剤層22を硬化させてもよい。これにより、粘着剤層22の粘着力を適度に低下させて、粘着剤層22の保存安定性を向上させることができ、従って、半導体チップをピックアップするときのピックアップ性をより良好にできる。なお、上記の貼り付けの後において紫外線等の照射で粘着剤層22を硬化させる場合、ダイシングダイボンドフィルム1を使用して半導体装置などを製造する過程において、例えばピックアップ工程(後述)の前に、紫外線等の照射によって粘着剤層22を硬化させることができる。
【0117】
例えば上記のごとく製造される半導体装置は、例えば整流ダイオード、パワートランジスタといった電力制御用の用途で使用される。このような用途で使用される半導体装置は、例えば10μm以上500μm以下の厚さの半導体チップ、及び、例えば1μm以上100μm以下の厚さの接着シート10を有する。
【0118】
上述した工程を経て、上記のごとく製造されたダイシングダイボンドフィルム1は、例えば、半導体装置(半導体集積回路)を製造するための補助用具として使用される。以下、ダイシングダイボンドフィルム1の使用の具体例について説明する。
【0119】
<半導体装置を製造するときのダイシングダイボンドフィルムの使用方法>
半導体装置を製造する方法は、一般的に、回路面が形成された半導体ウエハからチップを切り出して組立てを行う工程を備える。
この工程は、例えば、半導体ウエハの一面(例えば、回路面とは反対側の面)を接着シート10に貼り付けて、ダイシングテープ20に半導体ウエハを固定するマウント工程と、半導体ウエハ及び接着シート10を分割して小片化するダイシング工程と、ダイシングテープ20を引き延ばすことによって、半導体ウエハが小片化された隣り合うチップの間隔を広げるエキスパンド工程(必要に応じて実施)と、接着シート10と粘着剤層22との間を剥離して接着シート10が貼り付いた状態で半導体チップ(ダイ)を取り出すピックアップ工程と、半導体チップ(ダイ)に貼り付いた接着シート10を被着体に接着させるダイボンド工程と、被着体に接着した接着シート10を硬化させるキュアリング工程と、半導体チップ(ダイ)における電子回路の電極と被着体とをワイヤによって電気的に接続するワイヤボンディング工程と、被着体上の半導体チップ(ダイ)及びワイヤを熱硬化性樹脂によって封止する封止工程と、を有する。これらの工程を実施するときに、本実施形態のダイシングテープ20(ダイシングダイボンドフィルム1)が製造補助用具として使用される。
【0120】
マウント工程では、
図2に示すように、半導体ウエハWをダイシングテープ20に固定する。詳しくは、ダイシングテープ20の粘着剤層22にダイシングリングRを取り付けつつ、露出した接着シート10の面に半導体ウエハWを貼り付ける。
【0121】
ダイシング工程では、例えば
図3に示すように、ダイシングソーSなどによって、接着シート10および半導体ウエハWを切断して小片化し、小片化された接着シート10’と半導体チップXとをダイシングテープ20の上で作製する。
【0122】
必要に応じて実施されるエキスパンド工程では、
図4に示すように、半導体ウエハWが小片化されてなる隣り合う半導体チップ(ダイ)Xの間隔を広げる。詳しくは、エキスパンド装置が備える突き上げ部材Uを、ダイシングダイボンドフィルム1の下側から突き上げることによって、ダイシングダイボンドフィルム1を面方向に広げるように引き延ばす。これにより、隣り合う半導体チップXをフィルム面の面方向に引き離して、カーフ(間隔)を広げる。
【0123】
ピックアップ工程では、
図5に示すように、接着シートの小片10’が貼り付いた状態の半導体チップXをダイシングテープ20の粘着剤層22から剥離する。詳しくは、ピン部材Pを上昇させて、ピックアップ対象の半導体チップX及び接着シートの小片10’を、ダイシングテープ20を介して突き上げる。突き上げられた半導体チップX及び接着シートの小片10’を吸着治具Jによって保持する。
【0124】
ダイボンド工程では、
図6に示すように、接着シートの小片10’が貼り付いた状態の半導体チップXを被着体Zに接着させる。被着体Zは、例えば、リードフレーム、TABフィルム、基板、又は半導体チップ等であってもよい。基板としては、例えば、半導体チップをマウントし、半導体チップと電気的に接続して使用される回路基板が挙げられる。
【0125】
キュアリング工程では、接着シートの小片10’に含まれる架橋性基含有高分子化合物におけるグリシジル基の反応活性を高めて接着シート10の硬化を進行させるために、例えば80℃以上225℃以下の温度で加熱処理(硬化処理)を行う。
【0126】
ワイヤボンディング工程では、半導体チップX(ダイ)と被着体Zとを加熱しつつ、ワイヤで接続する。
【0127】
封止工程では、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂によって半導体チップX(ダイ)と接着シートの小片10’とを封止する。封止工程では、熱硬化性樹脂Mの硬化反応を進行させるために、例えば150℃以上200℃以下の温度で加熱処理を行う。
【0128】
なお、製造される半導体装置がソルダーペーストを含む場合、封止工程の後に、リフロー処理を実施してもよい。一般的に、リフロー処理によって、被着体に対する接着シートの接着強度は低下し得る。これに対して、本実施形態の接着シートは、リフロー処理が施されても、接着強度を比較的高く維持できる。
【0129】
リフロー処理後の接着シートの接着強度の維持率は、リフロー処理直前のシリコン基板に対する接着シートの接着強度と、リフロー処理直後のシリコン基板に対する接着シートの接着強度とから、算出される。
リフロー処理直前まで、接着シートに対しては、接着処理及び硬化処理を実施する。接着処理における接着条件は、150℃、荷重1MPa、1秒間である。その後の硬化処理における硬化条件は、室温から200℃までの昇温時間が30分間、さらに200℃で1時間(陽圧0.5MPa)である。続くリフロー処理では、120~180℃の予備加熱処理を90秒間実施し、その後、260℃で10秒間の加熱処理を実施する。
【0130】
本実施形態の接着シート10は、上述したようにダイシングダイボンドフィルム1の構成部材(ダイボンドシート)として使用されてもよいが、本実施形態の接着シート10の用途は、上記の例に限定されない。
本実施形態の接着シート10は、例えば、フリップチップ型半導体裏面用シートの用途、半導体装置とヒートシンクとの間の接着用シートの用途、PoPパッケージ(PackageonPackageパッケージ)のパッケージ間接着用シートの用途、又は、LEDチップ用の接着用シートの用途などにおいて使用できる。なお、フリップチップ型半導体裏面用シートは、フリップチップ接続された半導体チップの裏面(フリップチップ接続面とは反対側の面)に貼り付けられて使用される。
【0131】
本実施形態の接着シートは上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の接着シートに限定されるものではない。
即ち、一般的な接着シートにおいて用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【0132】
本明細書によって開示される事項は、以下のものを含む。
(1)
金属粒子と、グリシジル基を含有する構成単位及びニトリル基を含有する構成単位を分子中に有する高分子化合物と、を含み、
前記金属粒子を80質量%以上含み、
前記高分子化合物の質量平均分子量Mwが、3万以上80万以下である、接着シート。
(2)
前記高分子化合物は、前記グリシジル基を含有する構成単位と前記ニトリル基を含有する構成単位とを分子中に有するアクリル樹脂である、上記(1)に記載の接着シート。
(3)
前記アクリル樹脂は、ヒドロキシ基及びカルボキシ基のうち少なくとも一方を含有する構成単位を分子中にさらに有する、上記(2)に記載の接着シート。
(4)
前記高分子化合物のガラス転移点Tgは、-10℃以上30℃以下である、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の接着シート。
(5)
エポキシ樹脂の含有率が5質量%未満である、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の接着シート。
(6)
ポリマー成分の総量に占める、前記高分子化合物の質量割合は、50質量%以上90質量%以下である、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の接着シート。
(7)
エポキシ樹脂の含有率が5質量%未満(0質量%を包含)である、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の接着シート。
(8)
120℃における溶融粘度が、1000[kPa・s]以下である、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の接着シート。
(9)
30℃における貯蔵弾性率G’が、1Hzの測定周波数で測定されたときに0.1[MPa]以上6.0[MPa]以下である、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の接着シート。
(10)
硬化後の接着強度が15MPa以上である、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の接着シート。
(11)
硬化後の接着強度に対する、リフロー後の接着強度の維持率が、70%以上である、上記(1)乃至(10)のいずれかに記載の接着シート。
【実施例0133】
次に、実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、以下の実施例は本発明をさらに詳しく説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0134】
以下のようにして、接着シートを製造した。
【0135】
<接着シートの原材料>
使用した各材料の詳細及び配合量は、以下の通りである。
(A)金属粒子
(A-1):銀(Ag)で被覆された銅(Cu)粒子
製品名「AOP-TCY-2」DOWAエレクトロニクス社製
(A-2):銀(Ag)粒子
製品名「AG-2-8F」DOWAエレクトロニクス社製
(B)架橋性アクリル樹脂溶液
(B-1):
少なくともアルキル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体
製品名「NDIP-7503」 根上工業社製
(固形分50質量%、ガラス転移温度:-0.1℃、質量平均分子量15万、エポキシ価:0.09[eq/100g])
(B-2):
少なくともアルキル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体
製品名「PND-011」 根上工業社製
(固形分:32質量%、ガラス転移温度:3.4℃、質量平均分子量:21.9万、エポキシ価:0.063[eq/100g])
(B-3):
少なくともアルキル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体
製品名「PND-012」 根上工業社製
(固形分:37.5質量%、ガラス転移温度:-1.4℃、質量平均分子量:14.5万、エポキシ価:0.063[eq/100g])
(B-4):
少なくともC2~C4アルキル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸の共重合体
製品名「1HM-2154」 大成ファインケミカル社製
(固形分:34.2質量%、ガラス転移温度:-0.2℃、質量平均分子量:5.3万、酸価:0.5、エポキシ価:0.05[eq/100g])
(B-5):
少なくともC2~C4アルキル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸の共重合体
製品名「1HM-2160」 大成ファインケミカル社製
(固形分:46.6質量%、ガラス転移温度:0℃、質量平均分子量:11万、酸価:1.3、エポキシ価:0.06[eq/100g])
(B’-1):
少なくともアルキル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリロニトリル/(メタ)アクリル酸の共重合体(グリシジル基を有しない)
製品名「テイサンレジンSG-70LN」 ナガセケムテックス社製
(固形分12.5質量%、ガラス転移温度:-13℃、質量平均分子量90万、酸価5mg/KOH)
(B’-2):
少なくともアルキル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリロニトリルの共重合体(グリシジル基を有しない)
製品名「AC-019」 根上工業社製
(固形分:20質量%、ガラス転移温度:-15℃、質量平均分子量:100万、酸価:0mg/KOH)
・フェノール樹脂
(ビフェニル型フェノール樹脂 フェノール性水酸基当量202g/eq)
製品名「MEHC-7851SS」明和化成社製
・エポキシ樹脂
*固体エポキシ樹脂
(クレゾールノボラック型多官能エポキシ樹脂 エポキシ当量200g/eq)
製品名「EPICLON N-665-EXP-S」DIC社製
*液状エポキシ樹脂
(脂肪族変性ビスフェノール型エポキシ樹脂 エポキシ当量180g/eq)
製品名「jER YL980」三菱ケミカル社製
・シランカップリング剤(アルコキシシラン化合物)
ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
製品名「XIAMETER OFS-6920」東レ・ダウコーニング社製
・触媒
テトラフェニルホスホニウムテトラメチルフェニルボレート
製品名「TPP-MK」北興化学工業社製
・溶媒:メチルエチルケトン(MEK)
【0136】
<接着シートの製造>
(実施例1~5)
表1に示す配合組成により、以下のようにして接着シートを作製した。具体的には、ハイブリッドミキサー(製品名「HM-500」キーエンス社製)を用いて、各材料を含む混合物を3分間撹拌して、ワニスを調製した。このワニスをはく離ライナー(製品名「MRA38」三菱ケミカル社製)の片面に塗布した。その後、温度100℃で2分間乾燥処理を実施し、厚さ30μmの接着シートを製造した。
【0137】
(比較例1、2)
表1に示す配合組成に従って、上記と同様にして各接着シートを製造した。
【0138】
各実施例及び各比較例を製造するときの接着シートの配合組成を表1に示す。また、製造した接着シートにおける各構成成分の含有率[質量%]を表2に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
また、上記のごとく製造した各接着シートの物性及び性能を以下のようにしてそれぞれ評価した。それらの結果を表2に示す。
【0142】
[物性:接着シートの溶融粘度]
上述した方法によって接着シートの溶融粘度を測定した。なお、硬化処理を施す前の溶融粘度を測定した。
【0143】
[物性:接着シートの弾性率]
上述した方法によって接着シートの貯蔵弾性率G’を測定した。なお、硬化処理を施す前の貯蔵弾性率G’を測定した。
【0144】
<被着体と接着シートとの間の接着強度>
硬化処理後の接着シートの接着強度、及び、リフロー処理後の接着シートの接着強度をそれぞれ測定した。
硬化処理は、以下のようにして実施した。詳しくは、シリコンチップ(3mm×3mmの矩形状 500μm厚さ)に25μm厚さの接着シートが貼り付いた状態で、銅基板に接着シートを接着した。接着条件は、150℃、荷重1MPa、1秒間であった。その後、200℃、陽圧0.5MPa、1時間(昇温時間1時間)の硬化処理条件で接着シートを硬化させた。
硬化処理の後、せん断試験機(製品名「Dage4000」 ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製)を用いて、接着シートとシリコンチップとの間のせん断接着強度を測定した。せん断の条件は、測定速度200μm/秒、測定ギャップ80μm、ステージ温度25℃とした。
さらに、85℃×85%RH×168時間の吸湿処理の後、120~180℃の予備加熱処理を90秒間実施し、その後、260℃で10秒間の加熱処理を実施(リフロー処理)した。そして、上記と同様の方法によって、接着シートとシリコンチップとの間のせん断接着強度を測定した。
なお、硬化処理後の接着シートの接着強度に対する、リフロー処理後の接着シートの接着強度を算出した。この算出値を接着強度の維持率(%)とした。
【0145】
上記の評価結果から把握されるように、実施例の接着シートを被着体に接着した後の硬化後の接着強度は、金属粒子の含有率が80質量%以上でありながら、比較的高かった。また、実施例の接着シートは、比較例の接着シートに比べ、リフロー後の接着強度の低下率が小さかった(リフロー後において接着強度の維持率が高かった)。
また、硬化前における実施例の接着シートの120℃における溶融粘度は、いずれも300[kPa・s]以下であり、適度に低かった。
本発明の接着シートは、例えばダイシングダイボンドフィルムの構成部材として使用される。本発明の接着シートは、例えば、半導体装置を製造するときの補助用具として、好適に使用される。