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特開2023-184454正極活物質、正極スラリー組成物およびリチウム二次電池
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  • 特開-正極活物質、正極スラリー組成物およびリチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184454
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】正極活物質、正極スラリー組成物およびリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231221BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231221BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231221BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20231221BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20231221BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/1391
H01M4/131
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085015
(22)【出願日】2023-05-24
(31)【優先権主張番号】10-2022-0073305
(32)【優先日】2022-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100189474
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 修
(72)【発明者】
【氏名】ジョ ミン ス
(72)【発明者】
【氏名】コン ボ ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ムン ホ
(72)【発明者】
【氏名】ソー ジュン ウォン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050HA02
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】一次粒子内の任意の遷移金属の濃度が異なる領域を局部的に形成して、リチウムイオンおよび/または電荷移動の効率性を高めた正極活物質を提供すること。
【解決方法】リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質であって、前記一次粒子は、遷移金属としてNi、Co、MnおよびAlから選択される少なくとも1つを含むリチウム複合酸化物であり、前記一次粒子に存在する任意の遷移金属の平均原子比率をaというとき、前記二次粒子は、前記一次粒子内に前記任意の遷移金属の平均原子比率がaより大きい第1領域と前記任意の遷移金属の平均原子比率がa以下である第2領域とが共存する一次粒子を含む、正極活物質である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質であって、
前記一次粒子は、遷移金属としてNi、Co、MnおよびAlから選択される少なくとも1つを含むリチウム複合酸化物であり、
前記一次粒子に存在する任意の遷移金属の平均原子比率をaというとき、
前記二次粒子は、
前記一次粒子内に前記任意の遷移金属の平均原子比率がaより大きい第1領域と前記任意の遷移金属の平均原子比率がa以下である第2領域とが共存する一次粒子を含む、正極活物質。
【請求項2】
前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子内で前記第1領域および前記第2領域から選択される少なくとも1つの領域は、前記一次粒子内に局部的に存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子内で前記第1領域および前記第2領域から選択される少なくとも1つの領域は、前記一次粒子内に複数存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子内で前記第1領域および前記第2領域から選択される少なくとも1つの領域は、前記二次粒子の表面から中心に向かう方向に沿って延在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記一次粒子内で前記第1領域の延長方向に対して垂直に交差する方向に沿って測定された長さを前記一次粒子の幅というとき、前記第1領域の幅は、前記一次粒子の幅より小さい、請求項4に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子は、前記二次粒子の表面部に局部的に存在する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記一次粒子は、少なくともNiおよびCoを含むリチウム複合酸化物であり、
前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子に存在するNiの平均原子比率をa1、Coの平均原子比率をa2というとき、
前記第1領域内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、
前記第1領域内のCoの平均原子比率b2は、a2より大きい、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記一次粒子は、少なくともNiおよびMnを含むリチウム複合酸化物であり、
前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子に存在するNiの平均原子比率をa1、Mnの平均原子比率をa3というとき、
前記第1領域内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、
前記第1領域内のMnの平均原子比率b3は、a3より大きい、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記一次粒子は、ドーピング金属をさらに含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記一次粒子および前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含み、
前記コーティング層は、下記の化学式で表される少なくとも1つの酸化物を含む、請求項1に記載の正極活物質。
[化学式2]
Li
(ここで、
Aは、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、 V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選択される少なくとも1つであり、
0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である。)
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の正極活物質、導電材およびバインダーを含む、正極スラリー組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の正極スラリー組成物を集電体にコートして形成された正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質および前記正極活物質が含まれた正極を使用するリチウム二次電池に関する。より具体的には、本発明は、一次粒子内の任意の遷移金属の濃度が異なる領域を局部的に形成して、リチウムイオンおよび/または電荷移動の効率性および構造的安定性を高めた正極活物質、正極スラリー組成物および前記正極活物質が含まれた正極を使用するリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池は、正極と負極に電気化学反応が可能な物質を使用することによって電力を貯蔵するものである。このような電池のうち代表的な例としては、正極および負極においてリチウムイオンがインターカレーション/デインターカレーションされる際の化学電位(chemical potential)の差によって電気エネルギーを貯蔵するリチウム二次電池がある。
【0003】
前記リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な物質を正極活物質と負極活物質として使用し、前記正極と負極の間に有機電解液またはポリマー電解液を充填させて製造する。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物が使用されており、その例として、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiMnOなどの複合酸化物が研究されている。
【0005】
前記正極活物質のうちLiCoOは、寿命特性および充放電効率に優れていて、最も多く使用されているが、原料として使用されるコバルトの資源的限界に起因して高価であるから、価格競争力に限界があるという短所を有している。
【0006】
LiMnO、LiMnなどのリチウムマンガン酸化物は、熱的安全性に優れ、価格が安いという長所があるが、容量が小さく、高温特性が悪いという問題点がある。また、LiNiO系正極活物質は、高い放電容量の電池特性を示しているが、Liと遷移金属間のカチオンミキシング(cation mixing)問題に起因して合成が難しく、それによって、レート(rate)特性に大きな問題点がある。
【0007】
また、このようなカチオンミキシングの深化程度に応じて多量のLi副産物が発生し、これらのLi副産物の大部分は、LiOHおよびLiCOの化合物からなるので、正極ペーストの製造時にゲル(gel)化する問題点と、電極の製造後に充放電の進行によるガス発生の原因となる。残留するLiCOは、セルのスウェリング現象を増加させてサイクルを減少させるだけでなく、バッテリーが膨らむ原因となる。
【0008】
なお、最近では、正極活物質としてNi、Co、Mnおよび/またはAlが複合化されたリチウム系複合酸化物が開発されてきた。一般的に、このようなリチウム系複合酸化物は、LiNiO系正極活物質と同様に、Ni含有量が増加するほどエネルギー密度が高くなり、出力特性が向上する利点があるが、一方、抵抗特性が増加する問題を伴う。これによって、Ni、Co、Mnおよび/またはAlが複合化されたリチウム系複合酸化物において、LiNiOの優れた可逆容量は維持しながらも、抵抗特性および寿命特性の低下を防止できる正極活物質の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許公開第10-2015-0069334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
リチウム二次電池の市場では、電気自動車用リチウム二次電池の成長が市場の牽引役としての役割をしている中で、リチウム二次電池に使用される正極材の需要も、持続的に変化している。
【0011】
例えば、従来、安全性の確保などの観点から、LFPを使用したリチウム二次電池が主に使用されてきたが、最近になって、LFPに比べて重量当たりのエネルギー容量が大きいニッケル系リチウム複合酸化物の使用が拡大する傾向にある。
【0012】
このような正極材の動向に符合して、本発明は、自動車用セルの高容量化の実現のためのhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物および/または前記リチウム複合酸化物を含む正極活物質を提供することを目的とする。ただし、公知のhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物の場合、Niの含有量が増加するほど抵抗が高くなり、これによって、寿命が劣化する問題がある。
【0013】
このように、リチウム複合酸化物内のNiの含有量が増加するにつれて抵抗が高くなる現象の原因の1つは、リチウム複合酸化物内、特にリチウム複合酸化物の表面におけるリチウムイオンおよび/または電荷の移動が不十分ためであると思われる。
【0014】
また、Ni含有量が増加するほどリチウム複合酸化物の構造的不安定性が高まることにより、リチウム二次電池の充放電中にリチウム複合酸化物の結晶構造が変化または崩壊する可能性が高くなる。その上、リチウム複合酸化物の構造的不安定性は、副反応を引き起こすことができ、これによって、正極活物質の非可逆的な容量損失がもたらされる。
【0015】
これによって、本発明は、一次粒子内の任意の遷移金属の濃度が異なる領域を局部的に形成して、リチウムイオンおよび/または電荷移動の効率性を高めた正極活物質を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、一次粒子内の任意の遷移金属の濃度が異なる領域を局部的に形成することによって、構造的安定性が向上した正極活物質を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明の他の目的は、本願において定義された正極活物質を含む正極スラリー組成物を提供することにある。
【0018】
また、本発明のさらに他の目的は、本願において定義された正極スラリー組成物を集電体にコートして形成された正極を含むリチウム二次電池を提供することにある。
【0019】
本発明の目的は、以上で言及した目的に制限されず、言及されていない本発明の他の目的および長所は、下記の説明により理解することができ、本発明の実施例によりさらに明らかに理解することができる。また、本発明の目的および長所は、特許請求範囲に示した手段およびその組み合わせにより実現することができることを容易に知ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様によれば、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウム二次電池用正極活物質が提供される。
【0021】
ここで、前記一次粒子は、遷移金属としてNi、Co、MnおよびAlから選択される少なくとも1つを含むリチウム複合酸化物である。
【0022】
具体的には、前記リチウム複合酸化物は、NiおよびCoを含むか、NiおよびMnを含むか、NiおよびAlを含むか、Ni、CoおよびMnを含むか、Ni、CoおよびAlを含むか、Ni、Co、MnおよびAlを含んでもよい。また、前記リチウム複合酸化物は、前記遷移金属以外のドーピング金属をさらに含んでもよい。
【0023】
前記二次粒子は、前記一次粒子が複数個凝集して形成された凝集体であって、バルクまたはバルク粒子とも称する。前記二次粒子は、相対的に前記二次粒子の中心に近い領域に対応する中心部と、前記二次粒子の外周面に近い領域に対応する表面部とに区切られ得る。
【0024】
簡単に言えば、前記二次粒子の平均半径を基準として、前記二次粒子の中心から前記平均半径の半分以内の距離と定義される領域を中心部と称し、前記二次粒子の外周面から前記平均半径の半分以内の距離と定義される領域を表面部として称することができる。
【0025】
一実施例において、前記一次粒子に存在する任意の遷移金属の平均原子比率をaというとき、前記二次粒子は、前記一次粒子内の前記任意の遷移金属の平均原子比率がaより大きい第1領域と、前記任意の遷移金属の平均原子比率がa以下である第2領域とが共存する一次粒子を含んでもよい。前記二次粒子が前記第1領域と前記第2領域とが共存する一次粒子を含むというのは、前記二次粒子が前記第1領域と前記第2領域に区分される濃度変化領域が存在しない一次粒子を含むこともできることを意味する。
【0026】
また、一実施例において、一次粒子がNiおよびCoを主に含むリチウム複合酸化物であるとき、前記一次粒子全体に存在するCoの平均原子比率をa2というとき、前記二次粒子は、前記一次粒子内のCoの平均原子比率がa2より大きい第1領域と、前記Coの平均原子比率がa2以下である第2領域とが共存する一次粒子を含んでもよい。
また、一実施例において、一次粒子がNiおよびMnを主に含むリチウム複合酸化物であるとき、前記一次粒子全体に存在するMnの平均原子比率をa3というとき、前記二次粒子は、前記一次粒子内のMnの平均原子比率がa3より大きい第1領域と、前記Mnの平均原子比率がa3以下である第2領域とが共存する一次粒子を含んでもよい。
【0027】
前記一次粒子内の前記第1領域と前記第2領域が存在するか否かは、断面TEM像を通じて確認することができる。また、断面TEM像以外に、前記一次粒子内の任意の遷移金属の濃度変化を観察できる公知の様々な手段により確認することもできる。
【0028】
前述したように、前記一次粒子内に前記第1領域と前記第2領域とが共存する場合、前記第1領域および前記第2領域から選択される少なくとも1つの領域は、前記一次粒子内に局部的に存在することによって、前記第1領域と前記第2領域におけるリチウムイオンおよび/または電荷移動の差を実現することができる。このようなリチウムイオンおよび/または電荷移動の差は、リチウムイオンおよび/または電荷移動経路の形成に寄与することができる。
【0029】
一実施例において、前記一次粒子は、少なくともNiおよびCoを含むリチウム複合酸化物であってもよい。ここで、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子に存在するNiの平均原子比率をa1、Coの平均原子比率をa2というとき、前記第1領域内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、前記第1領域内のCoの平均原子比率b2は、a2より大きくてもよい。
【0030】
他の実施例において、前記一次粒子は、少なくともNiおよびMnを含むリチウム複合酸化物であってもよい。ここで、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子に存在するNiの平均原子比率をa1、Mnの平均原子比率をa3というとき、前記第1領域内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、前記第1領域内のMnの平均原子比率b3は、a3より大きくてもよい。
【0031】
本発明の他の態様によれば、本願に定義された正極活物質、導電材およびバインダーを含む正極スラリー組成物が提供される。
【0032】
本発明のさらに他の態様によれば、本願に定義された正極スラリー組成物を集電体にコートして形成された正極を含むリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、正極活物質を構成する一次粒子内に任意の遷移金属の濃度が異なる領域を局部的に形成することによって、リチウムイオンおよび/または電荷移動の効率性が向上することができる。このようなリチウムイオンおよび/または電荷移動の効率性の向上は、前記正極活物質を使用したリチウム二次電池の電気化学的特性の向上に寄与することができる。
【0034】
これによって、正極活物質を構成する主な遷移金属中のNiの含有量が増加するにつれて正極活物質の抵抗が増加する現象を防止または緩和することによって、繰り返された充放電による正極活物質の劣化を遅延させることができる。
【0035】
また、Ni含有量が増加するほどリチウム複合酸化物の構造的不安定性が高まることにより、リチウム二次電池の充放電中にリチウム複合酸化物の結晶構造が変化または崩壊する可能性が高くなり。その上、リチウム複合酸化物の構造的不安定性は、副反応を引き起こすことができ、これによって、正極活物質の非可逆的な容量損失がもたらされる。
【0036】
しかしながら、本発明によれば、正極活物質を構成する一次粒子内の任意の遷移金属の濃度が異なる領域を局部的に形成することによって、high-Niタイプのリチウム複合酸化物の充放電中に結晶構造の変化に対する緩衝効果を提供することができ、これを通じて、リチウム複合酸化物の構造的安定性を向上させることができる。
【0037】
上述した効果とともに、本発明の具体的な効果は、以下発明を実施するための具体的な事項を説明して共に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施例による正極活物質を構成する一次粒子内に存在する第1領域と第2領域を説明するための概略図である。
図2】本発明の一実施例による正極活物質を構成する一次粒子内に存在する第1領域と第2領域を説明するための別の概略図である。
図3】本発明の実施例1による正極活物質(二次粒子)の断面TEM像およびEDX mapping結果を示す図である。
図4図3に示されたCoに対するEDX mapping画像のうち一次粒子内のCoの濃度を測定した位置を表記した図である。
図5】本発明の実施例3による正極活物質(二次粒子)の断面TEM像およびEDX mapping結果を示す図である。
図6図5に示された断面TEM像のうち一次粒子内のMnの濃度を測定した位置を表記した図である。
図7】比較例1による正極活物質(二次粒子)の断面TEM像およびEDX mapping結果を示す図である。
図8】比較例2による正極活物質(二次粒子)の断面TEM像およびEDX mapping結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明をより容易に理解するため、便宜上、特定用語を本願に定義する。本願において特に定義しない限り、本発明で用いられた科学用語及び技術用語は、当技術分野における通常の知識を有する者にとって一般的に理解される意味を有する。また、文脈上、特に指定しない限り、単数形態の用語は、それの複数形態も含むものであり、複数形態の用語は、それの単数形態も含むものと理解すべきである。
【0040】
以下、本発明による正極活物質および前記正極活物質を含む正極を使用するリチウム二次電池についてより詳細に説明する。
【0041】
正極活物質
本発明の一態様によれば、リチウムイオンの可逆的なインターカレーション/デインターカレーションが可能な一次粒子および前記一次粒子が凝集した二次粒子を含む正極活物質が提供される。
【0042】
ここで、前記一次粒子は、単一の粒子(single particle)を意味する。また、前記一次粒子は、1つの結晶粒(grain or crystallite)を意味し得る。前記一次粒子は、単結晶(single crystal)構造を有することができる。
【0043】
前記二次粒子は、複数の一次粒子が凝集して形成された凝集体を意味する。また、前記二次粒子は、バルクまたはバルク粒子として称することができる。
【0044】
前記一次粒子の平均粒径は、0.05μm~5μm、好ましくは、0.1μm~3μm範囲内に存在することによって、本発明の様々な実施例による正極活物質を使用して製造された正極の最適密度を実現することができる。また、二次粒子の平均粒径は、凝集した一次粒子の数によって変わり得るが、一般的に、3μm~20μmであってもよい。
【0045】
前記二次粒子は、相対的に前記二次粒子の中心に近い領域に対応する中心部と、前記二次粒子の外周面に近い領域に対応する表面部とに区切られ得る。
【0046】
本願において別段の定義がない場合、前記二次粒子の平均半径を基準として、前記二次粒子の中心から前記平均半径の半分以内の距離と定義される領域を中心部と称し、前記二次粒子の外周面から前記平均半径の半分以内の距離と定義される領域を表面部と称することができる。
【0047】
前記二次粒子を構成する前記一次粒子の間には、空隙および/または結晶粒界(grain boundary)が存在してもよい。
【0048】
例えば、前記一次粒子は、前記二次粒子の内部で隣接する一次粒子から離隔して内部空隙を形成することができる。この際、前記内部空隙は、閉鎖空隙(closed pore)および/または開放空隙(opened pore)であってもよい。
【0049】
また、前記一次粒子は、隣接する一次粒子と互いに接することにより形成される境界である結晶粒界を定義することができる。すなわち、前記結晶粒界は、互いに隣接する一次粒子が接して形成される境界であって、前記結晶粒界は、前記一次粒子に含まれるものと解釈できない。したがって、前記結晶粒界に沿って前記一次粒子と異なる金属酸化物が存在し、前記金属酸化物内の遷移金属の濃度と前記一次粒子内の遷移金属の濃度が異なっていても、前記一次粒子内の任意の遷移金属に対する濃度変化が存在する複数の領域が存在すると解釈できない。
【0050】
なお、前記二次粒子の表面部に存在する前記一次粒子のうち外部に露出した面は、前記二次粒子の表面(外周面)を形成する。
【0051】
ここで、前記一次粒子は、遷移金属としてNi、Co、MnおよびAlから選択される少なくとも1つを含むリチウム複合酸化物である。
【0052】
具体的には、前記リチウム複合酸化物は、NiおよびCoを含むか、NiおよびMnを含むか、NiおよびAlを含むか、Ni、CoおよびMnを含むか、Ni、CoおよびAlを含むか、Ni、Co、MnおよびAlを含んでもよい。
【0053】
一実施例において、前記一次粒子は、下記の化学式1で表されるリチウム複合酸化物として定義することができる。また、下記の化学式1で表されるリチウム複合酸化物の凝集体である前記二次粒子の平均組成も、下記の化学式1で表され得る。
【0054】
[化学式1]
LiNi1-(x+y+z)CoM1M2
(ここで、
M1は、MnおよびAlから選択される少なくとも1つであり、
M2は、Na、K、Mg、Ca、Ba、Mn、B、Ce、Hf、Ta、Cr、F、Al、Cr、V、Ti、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W、P、Sr、Ge、Nd、GdおよびCuから選択される少なくとも1つであり、
M1とM2は、互いに異なっており、
0.5≦w≦1.5、0≦x≦0.40、0≦y≦0.40、0.001≦z≦0.30である。)
【0055】
前記リチウム複合酸化物は、前記遷移金属以外のドーピング金属をさらに含んでもよい。前記ドーピング金属は、前記化学式1ではM2で表示され、アルカリ金属、アルカリ土類金属および/またはM1以外の金属元素であってもよい。
【0056】
なお、本願に定義された正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物は、遷移金属中のNiの含有量が相対的に多いhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物であってもよい。この場合、化学式1で表されるリチウム複合酸化物のうちNiのモル分率は、60%、好ましくは、70%、より好ましくは、80%以上であってもよい。
【0057】
本願に定義された正極活物質は、任意の遷移金属の濃度が異なる複数の領域が局部的に形成された一次粒子を含むことによって、リチウムイオンおよび/または電荷移動の効率性が向上することができる。これを通じて、前記リチウム複合酸化物のうちNiの含有量が増加するにつれて正極活物質の抵抗が増加する現象を防止または緩和することが可能である。
【0058】
図1および図2は、本発明の一実施例による正極活物質を構成する一次粒子内に存在する第1領域と第2領域を説明するための概略図である。
【0059】
前記一次粒子100に存在する任意の遷移金属の平均原子比率をaというとき、前記二次粒子は、前記一次粒子100内に前記任意の遷移金属の平均原子比率がaより大きい第1領域110と前記任意の遷移金属の平均原子比率がa以下である第2領域120とが共存する一次粒子100を含んでもよい。
【0060】
前記二次粒子が前記第1領域110と前記第2領域120とが共存する一次粒子100を含むというのは、前記二次粒子が前記第1領域110と前記第2領域120に区分される濃度変化領域が存在しない一次粒子100を含むこともできることを意味する。
【0061】
前記一次粒子100内に前記第1領域110と前記第2領域120が存在するか否かは、断面TEM像を通じて確認することができる。また、断面TEM像以外に、前記一次粒子内の任意の遷移金属の濃度変化を観察できる公知の様々な手段(例えば、EDX mapping、line scanning、EP-EDS(Energy Profiling-Energy Dispersive X-Ray Spectroscopy)分析など)により確認することもできる。
【0062】
例えば、前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として任意の遷移金属に対するEDX mappingを行った場合、前記遷移金属の濃度が相対的に高い前記第1領域110で検出強度が強く検出されることによって、前記遷移金属の濃度が相対的に小さい前記第2領域120と区別が可能になることがある。
【0063】
前述したように、前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域110と前記第2領域120が共存する前記一次粒子100内で前記第1領域110および前記第2領域120から選択される少なくとも1つの領域は、局部的に存在することによって、前記第1領域110と前記第2領域120におけるリチウムイオンおよび/または電荷移動の差を実現することができる。このようなリチウムイオンおよび/または電荷移動の差は、リチウムイオンおよび/または電荷移動経路の形成に寄与することができる。
【0064】
また、前記一次粒子100内で前記第1領域110および前記第2領域120から選択される少なくとも1つの領域が局部的に存在することによって、充放電中に結晶構造の変化に対する緩衝効果を提供することができる。
【0065】
前記一次粒子100の表面に近い領域に前記第1領域110が存在すると仮定するとき、EDX mappingなどで示される前記第1領域110の輝点は、少なくとも前記一次粒子100の表面部または前記一次粒子100の表面部の内側に存在し、前記第1領域110の輝点は、隣接する一次粒子100が互いに接して形成された結晶粒界に存在しない。
【0066】
前記第1領域110および/または前記第2領域120が前記一次粒子100内に局部的に存在するというのは、任意の遷移金属が前記一次粒子100内に全体的に勾配を示さないことを意味する。
【0067】
例えば、仮に、前記二次粒子の表面部12から前記二次粒子の中心部11に向かって任意の遷移金属の濃度が連続的に減少する勾配(傾斜勾配)が形成された場合、前記二次粒子の表面部12および中心部11、特に前記二次粒子の表面部12に存在する前記一次粒子100内には、前記二次粒子の表面部12から前記二次粒子の中心部11に向かう方向に沿って前記遷移金属の濃度が連続的に減少する勾配が存在するだけであり、前記第1領域110および/または前記第2領域120が前記一次粒子100内に局部的に存在することが観察されない。
【0068】
また、仮に、前記一次粒子100の表面部から一次粒子100の中心部に向かって任意の遷移金属の濃度が連続的に減少する勾配(傾斜勾配)が形成された場合にも、前記第1領域110および/または前記第2領域120が前記一次粒子100内に局部的に存在することが観察されない。
【0069】
なお、前述した一次粒子および/または二次粒子の表面部から中心部に向かう方向に任意の遷移金属の濃度の勾配を形成するためには、一般的に前駆体および/またはリチウム複合酸化物に対するコーティング工程を介した任意の遷移金属の傾斜固溶を誘導しなければならない。
【0070】
しかしながら、前記傾斜固溶を介しては、前記一次粒子100内に前記第1領域110および/または前記第2領域120が局部的に存在するようにすることができない。例えば、本願による正極活物質は、製造工程中に行われる熱処理時に、主な遷移金属の拡散速度の差を考慮して設計された前駆体を使用することによって、前記一次粒子100内に前記第1領域110および/または前記第2領域120が局部的に存在するようにすることができる。
【0071】
したがって、一次粒子および/または二次粒子に対する一般的な傾斜固溶とは異なって本願に定義された正極活物質は、前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域110および前記第2領域120とが共存する前記一次粒子100内で前記第1領域110および前記第2領域120から選択される少なくとも1つの領域、特に前記第1領域110が複数存在するようにすることができる。
【0072】
前記一次粒子100内に前記第1領域110および/または前記第2領域120が複数存在することにより、前記第1領域110と前記第2領域120におけるリチウムイオンおよび/または電荷移動の差に起因するリチウムイオンおよび/または電荷移動経路を多方面で形成することができる。
【0073】
一実施例において、前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100内で前記第1領域110および前記第2領域120から選択される少なくとも1つの領域、特に前記第1領域110は、前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向に沿って延びることができる。
【0074】
ここで、「前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向に延びる」という文章は、前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向と正確に一致する方向に延びることを意味し得る。
【0075】
また、「前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向に延びる」という文章は、前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向に大きくずれない方向に延びることを意味し得る。この場合、図2に示されたように、前記第1領域110の延長方向と前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向は、所定の夾角(例えば、±40°)を形成することができる。
【0076】
図2に示された一次粒子100の長辺の延長方向が前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向a→a′に沿って配向されている。この際、前記一次粒子100は、図2に示された例とは異なって、前記一次粒子100の長辺の延長方向が前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向は、所定の夾角(例えば、±40°)を形成するように配向されることもできる。
【0077】
図2には、前記一次粒子100内に局部的に存在する前記第1領域110は、前記二次粒子の表面12から中心11に向かう方向a→a′に対して所定の夾角(例えば、±40°)を形成した方向b→b′に沿って延びた例示が示されている。
【0078】
この際、前記一次粒子100内で前記第1領域110の延長方向b→b′に対して垂直に交差する方向c→c′に沿って測定された長さが前記一次粒子100の幅wと定義するとき、前記第1領域の幅w1は、前記一次粒子100の幅wより小さくてもよい。より具体的には、前記第1領域110が存在する区間内で前記第1領域110の延長方向b→b′に対して垂直に交差する方向c→c′に沿って測定された前記一次粒子100の幅wの平均値は、前記第1領域の幅w1の平均値より大きくてもよい。
【0079】
また、前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記二次粒子の表面部12内に存在する全一次粒子のうち前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100の割合は、前記二次粒子の中心部11内に存在する全一次粒子のうち前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100の割合より大きくてもよい。
【0080】
他の例において、前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100は、前記二次粒子の表面部12に局部的に存在してもよい。
【0081】
このように、前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100が前記二次粒子の表面部12に主に存在するようにすることによって、特に前記二次粒子の表面におけるリチウムイオンおよび/または電荷の移動が不十分なhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物の電気化学的特性を改善することが可能である。もし前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100が前記二次粒子の中心部11に主に存在したり、前記二次粒子の中心部11および表面部12に均一に存在する場合、前記二次粒子の内部における十分なリチウムイオン交換効果を実現しにくい。
【0082】
一実施例において、前記一次粒子100は、少なくともNiおよびCoを含むリチウム複合酸化物であってもよい。
【0083】
ここで、前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100に存在するNiの平均原子比率をa1、Coの平均原子比率をa2というとき、前記第1領域110内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、前記第1領域110内のCoの平均原子比率b2は、a2より大きくてもよい。
【0084】
反対に、前記第2領域120内のNiの平均原子比率b1は、a1より大きく、前記第2領域120内のCoの平均原子比率b2は、a2以下であってもよい。
【0085】
前記一次粒子100がMnをさらに含むリチウム複合酸化物であり、前記一次粒子に存在するMnの平均原子比率をa3というとき、前記第1領域110および前記第2領域120内のMnの平均原子比率b3は、a3とほぼ類似しているか、前記第1領域110および前記第2領域120内のNiおよび/またはCoの濃度偏差より少ない偏差を示すことができる。
【0086】
他の実施例において、前記一次粒子100は、少なくともNiおよびMnを含むリチウム複合酸化物であってもよい。
【0087】
ここで、前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100に存在するNiの平均原子比率をa1、Mnの平均原子比率をa3というとき、前記第1領域110内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、前記第1領域110内のMnの平均原子比率b3は、a3より大きくてもよい。
【0088】
反対に、前記第2領域120内のNiの平均原子比率b1は、a1より大きく、前記第2領域120内のMnの平均原子比率b3は、a3以下であってもよい。
【0089】
前記一次粒子100がCoをさらに含むリチウム複合酸化物であり、前記一次粒子に存在するCoの平均原子比率をa2というとき、前記第1領域110および前記第2領域120内のCoの平均原子比率b2は、a2とほぼ類似しているか、前記第1領域110および前記第2領域120内のNiおよび/またはMnの濃度偏差より少ない偏差を示すことができる。他の例において、前記一次粒子100内でCoは、Niと類似のパターンの濃度変化を示すことができ、これによって、前記第1領域110内のCoの平均原子比率b2は、a2以下であり、前記第2領域120内のCoの平均原子比率b2は、a2より大きくてもよい。
【0090】
さらに、本願に定義された正極活物質は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含んでもよい。前記一次粒子の表面は、隣接する一次粒子が互いに接することにより定義される結晶粒界を称することができる。
【0091】
例えば、前記コーティング層は、前記一次粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在してもよい。特に、前記コーティング層は、前記二次粒子の最外郭に存在する前記一次粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在してもよい。
【0092】
これによって、前記コーティング層は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面を連続的または不連続的にコートする層として存在してもよい。前記コーティング層が不連続的に存在する場合、アイランド(island)形態として存在してもよい。
【0093】
前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面をカバーするコーティング層は、表面におけるリチウムイオンおよび/または電荷の移動が不十分なhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物の電気化学的特性を改善するのに寄与することができる。また、前記二次粒子の表面に近く存在する前記第1領域110および前記第2領域120が共存する前記一次粒子100により形成されたリチウムイオンおよび/または電荷移動経路に向かってリチウムイオンおよび/または電荷の移動を促進することができる。
【0094】
また、前記コーティング層は、前記一次粒子および/または前記一次粒子が凝集して形成された前記二次粒子と境界を形成しない固溶体形態として存在することもできる。
【0095】
前記コーティング層は、下記の化学式2で表される少なくとも1つの酸化物を含んでもよい。すなわち、前記コーティング層は、下記の化学式2で表される酸化物が存在する領域と定義することができる。
【0096】
[化学式2]
Li
(ここで、
Aは、Ni、Mn、Co、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、W、 V、Ba、Ta、Sn、Hf、Ce、GdおよびNdから選択される少なくとも1つであり、
0≦a≦10、0≦b≦8、2≦c≦13である。)
【0097】
また、前記コーティング層は、1つの層内に異種の酸化物が同時に存在したり、前記の化学式2で表される異種の酸化物がそれぞれ別個の層に存在する形態であってもよい。
【0098】
前記の化学式2で表される酸化物は、前記の化学式1で表される一次粒子と物理的および/または化学的に結合した状態であってもよい。また、前記酸化物は、前記の化学式1で表される一次粒子と固溶体を形成した状態で存在することもできる。
【0099】
本実施例による正極活物質は、前記一次粒子(例えば、前記一次粒子間の界面)および/または前記一次粒子が凝集して形成された二次粒子の表面のうち少なくとも一部をカバーするコーティング層を含むことによって、構造的安定性を高めることができ。また、このような正極活物質をリチウム二次電池に使用する場合、正極活物質の高温貯蔵安定性および寿命特性が向上することができる。また、前記酸化物は、前記正極活物質内の残留リチウムを低減させると同時に、リチウムイオンの移動経路(pathway)として作用することによって、リチウム二次電池の効率特性を向上させるのに影響を与えることができる。
【0100】
また、場合によって、前記酸化物は、前記一次粒子および/または前記二次粒子の表面のうち少なくとも一部だけでなく、前記二次粒子の内部に形成された内部空隙にも存在してもよい。
【0101】
前記酸化物は、リチウムとAで表される元素が複合化された酸化物であるか、Aの酸化物であって、前記酸化物は、例えば、LiCo、Li、LiZr、LiTi、LiNi、Li、Co、W、Zr、TiまたはBなどであってもよいが、上述した例は、理解を助けるために便宜上記載したものに過ぎず、本願において定義された前記酸化物は、上述した例に制限されない。
【0102】
他の実施例において、前記酸化物は、リチウムとAで表される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物であるか、リチウムとAで表される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物をさらに含んでもよい。リチウムとAで表される少なくとも2種の元素が複合化された酸化物は、例えば、Li(Co/Al)、Li(Co/Mg)、Li(Co/Ba)、Li(W/Ti)、Li(W/Zr)、Li(W/Ti/Zr)、Li(W/Ti/B)などであってもよいが、必ずこれらに制限されるものではない。
【0103】
ここで、前記酸化物は、前記二次粒子の表面部から前記二次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことができる。これによって、前記酸化物の濃度は、前記二次粒子の最表面から前記二次粒子の中心部に向かって減少することができる。
【0104】
この際、前記二次粒子の表面部から前記二次粒子の中心部に向かって前記一次粒子により形成された結晶粒界に沿って前記酸化物が拡散することにより、前記酸化物の濃度勾配が形成されてもよい。
【0105】
上述したように、前記酸化物が前記二次粒子の表面部から前記二次粒子の中心部に向かって減少する濃度勾配を示すことによって、前記正極活物質の表面に存在する残留リチウムを効果的に減少させて、未反応の残留リチウムによる副反応をあらかじめ防止することができる。また、前記酸化物により前記正極活物質の表面内側領域における結晶性が低下することを防止することができる。また、電気化学反応中に前記酸化物により正極活物質の全体的な構造が崩壊することを防止することができる。
【0106】
さらに、前記コーティング層は、前記の化学式2で表される少なくとも1つの酸化物を含む第1酸化物層と、前記の化学式2で表される少なくとも1つの酸化物を含み、前記第1酸化物層に含まれた酸化物と異なる酸化物を含む第2酸化物層と、を含んでもよい。
【0107】
例えば、前記第1酸化物層は、前記二次粒子の最外郭に存在する前記一次粒子の露出した表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在してもよく、前記第2酸化物層は、前記第1酸化物層によりカバーされていない前記一次粒子の露出した表面および前記第1酸化物層の表面のうち少なくとも一部をカバーするように存在してもよい。
【0108】
リチウム二次電池
本発明のさらに他の態様によれば、正極集電体および前記正極集電体上に形成された正極活物質層を含む正極を提供することができる。ここで、前記正極活物質層は、本発明の様々な実施例による正極活物質を含んでもよい。したがって、正極活物質は、前述したものと同一なので、便宜上具体的な説明を省略し、以下では、残りの前述しない構成のみについて説明する。
【0109】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素又はアルミニウムやステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが用いられてもよい。また、前記正極集電体は、通常3~500μmの厚さを有してもよく、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布などの様々な形態で使用されてもよい。
【0110】
正極スラリー組成物は、前記正極活物質とともに導電材及び必要に応じて選択的にバインダーを含むことが好ましく、前記正極活物質は、前記正極スラリー組成物を前記正極集電体に塗布して製造されてもよい。
【0111】
このとき、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80~99wt%、より具体的には、85~98.5wt%の含量で含まれてもよい。前記含量範囲に含まれるとき、優れた容量特性を示すことができるが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0112】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれてもよい。
【0113】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着及び正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれてもよい。
【0114】
前記正極は、前記正極活物質を用いることを除いては、通常の正極製造方法によって製造されてもよい。具体的には、前記正極活物質及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した正極スラリー組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することにより製造してもよい。
【0115】
前記溶媒としては、当該技術分野で一般的に使用される溶媒であってよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材及びバインダーを溶解又は分散させ、その後、正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を持たせる程度であれば十分である。
【0116】
また、他の実施例において、前記正極は、前記正極スラリー組成物を別途の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネーションすることによって製造されてもよい。
【0117】
また、本発明のさらに他の態様によれば、前述の正極を含む電気化学素子が提供されてもよい。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的には、リチウム二次電池であってもよい。
【0118】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極、前記正極と対向して位置する負極、及び前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ及び電解質を含んでもよい。ここで、前記正極は、前述の通りであるので、便宜上、具体的な説明を省略し、以下では、前述しない残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0119】
前記リチウム二次電池は、前記正極、前記負極及び前記セパレータの電極組立体を収納する電池容器及び前記電池容器を封止する封止部材を選択的にさらに含んでもよい。
【0120】
前記負極は、負極集電体及び前記負極集電体上に位置する負極活物質層を含んでもよい。
【0121】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有してもよく、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもできる。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布などの様々な形態で使用されてもよい。
【0122】
前記負極活物質層は、前記負極活物質とともに導電材及び必要に応じて選択的にバインダーとを含む負極スラリー組成物を前記負極集電体に塗布して製造されてもよい。
【0123】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物が使用されてもよい。具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などのリチウムと合金化が可能な金属質化合物、SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープ可能な金属酸化物、またはSi-C複合体またはSn-C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物が使用されてもよい。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶炭素及び高結晶性炭素などがすべて用いられてもよい。低結晶性炭素としては、軟化炭素(soft carbon)及び硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては無定形、板状、鱗片状、球状又は繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0124】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量を基準に80~99wt%で含まれてもよい。
【0125】
前記バインダーは、導電材、活物質及び集電体間の結合に助力する成分として、通常、負極活物質層の全重量を基準に0.1~10wt%で添加されてもよい。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化-EPDM、スチレン-ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの多様な共重合体などが挙げられる。
【0126】
前記導電材は、負極活物質の導電性をさらに向上させるための成分として、負極活物質層の全重量を基準に10重量%以下、好ましくは、5重量%以下で添加されてもよい。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリフェニレン誘導体などの導電性材料などが用いられてもよい。
【0127】
一実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した負極スラリー組成物を塗布して乾燥することにより製造されるか、または前記負極スラリー組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることにより製造されてもよい。
【0128】
また、他の実施例において、前記負極活物質層は、負極集電体上に負極活物質、及び選択的にバインダー及び導電材を溶媒中に溶解又は分散させて製造した負極スラリー組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極スラリー組成物を別途の支持体上にキャスティングした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネーションすることにより製造されてもよい。
【0129】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離してリチウムイオンの移動通路を提供するもので、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に電解質のイオン移動に対して低抵抗であるとともに電解液含湿能力に優れていることが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体及びエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が用いられてもよい。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するため、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されてもよく、選択的に単層または多層構造として使用されてもよい。
【0130】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0131】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含んでもよい。
【0132】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たすものであれば、特に制限なく使用されてもよい。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ-ブチロラクトン(γ-butyrolactone)、ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)などのエステル系溶媒、ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒、シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒、ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒、ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒、R-CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい。)などのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3-ジオキソランなどのジオキソラン類、またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されてもよい。これらの中でもカーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の線状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート又はジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して使用すると電解液の性能が優秀になりうる。
【0133】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池において使用されるリチウムイオンを提供できる化合物であれば、特に制限なく使用されてもよい。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO)、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが使用されてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0M範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動しうる。
【0134】
前記電解質には、前記電解質構成成分の他に、電池の寿命特性向上、電池容量の減少抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤がさらに1種以上含まれてもよい。このとき、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5重量%で含まれてもよい。
【0135】
前記のように本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性及び寿命特性を安定的に示すため、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、及びハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0136】
本発明によるリチウム二次電池の外形は、特に制限がないが、缶を用いた円筒状、角状、ポーチ(pouch)状またはコイン(coin)状などであってもよい。また、リチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用できるだけでなく、複数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用されてもよい。
【0137】
本発明のさらに他の態様によれば、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール及び/又はこれを含む電池パックを提供しうる。
【0138】
前記電池モジュールまたは前記電池パックは、パワーツール(Power Tool)と、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、及びプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車と、または電力貯蔵用システムのいずれか1つ以上の中大型デバイスの電源として利用できる。
【実施例0139】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範疇がこれらの実施例によって制限されるとは解釈されない。
【0140】
製造例1.一次粒子内にCo偏在領域が存在する正極活物質の製造
(1)実施例1
(a)公知の共沈法(co-precipitation method)を用いて表面部にCoが高濃度で存在する水酸化物前駆体を合成した。
【0141】
具体的には、Ni:Co:Mnが90:2:8のモル比で存在するように、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが混合された第1前駆体水溶液を使用してNi0.90Co0.02Mn0.08(OH)の平均組成を有するコアを形成した。前記コアは、最終的に収得される前駆体の平均直径に対して88~98%の直径を有するように形成した。
【0142】
前記コアの形成が完了した後、Ni:Co:Mnが55:43.5:1.5のモル比で存在するように、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが混合された第2前駆体水溶液を使用して前記コアの表面にNi0.55Co0.435Mn0.015(OH)の平均組成を有するシェルを形成した。
【0143】
(b)前記工程(a)で合成した水酸化物前駆体とLiOH(Li/(Ni+Co+Mn)mol ratio=1.03)を混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、700℃まで1分当たり2℃で昇温し、700℃で10時間熱処理して、正極活物質を収得した。
【0144】
前記工程(b)で収得した正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物は、Coの濃度が異なる領域が局部的に形成された一次粒子が存在した。
【0145】
(2)実施例2
前記工程(b)後、前記リチウム複合酸化物と0.3mol%Al、0.3mol%TiOおよび0.3mol%ZrOを混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、1分当たり2℃で700℃まで昇温した後、10時間熱処理を行って、前記リチウム複合酸化物の表面をAl、TiおよびZrでコートしたことを除いて、実施例1と同一に正極活物質を製造した。
【0146】
(3)比較例1
第2前駆体水溶液を使用してコアの表面にシェルを形成しないことを除いて、実施例1と同一に正極活物質を製造した。
【0147】
製造例2.一次粒子内にMn偏在領域が存在する正極活物質の製造
(1)実施例3
(a)公知の共沈法(co-precipitation method)を用いて表面部にMnが高濃度で存在する水酸化物前駆体を合成した。
【0148】
具体的には、Ni:Co:Mnが90:8:2のモル比で存在するように、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが混合された第1前駆体水溶液を使用してNi0.90Co0.08Mn0.02(OH)の平均組成を有するコアを形成した。前記コアは、最終的に収得される前駆体の平均直径に対して85~98%の直径を有するように形成した。
【0149】
前記コアの形成が完了した後、Ni:Co:Mnが55:1.5:43.5のモル比で存在するように、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンが混合された第2前駆体水溶液を使用して前記コアの表面にNi0.55Co0.015Mn0.435(OH)の平均組成を有するシェルを形成した。
【0150】
(b)前記工程(a)で合成した水酸化物前駆体とLiOH(Li/(Ni+Co+Mn)mol ratio=1.03)を混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、700℃まで1分当たり2℃で昇温し、700℃で10時間熱処理して、正極活物質を収得した。
【0151】
前記工程(b)で収得した正極活物質に含まれたリチウム複合酸化物は、Mnの濃度が異なる領域が局部的に形成された一次粒子が存在した。
【0152】
(2)実施例4
前記工程(b)後、前記リチウム複合酸化物と0.3mol%Al、0.3mol%TiOおよび0.3mol%ZrOを混合した後、焼成炉でO雰囲気を維持しつつ、1分当たり2℃で700℃まで昇温した後、10時間熱処理を行って前記リチウム複合酸化物の表面をAl、TiおよびZrでコートしたことを除いて、実施例3と同一に正極活物質を製造した。
【0153】
(3)比較例2
第2前駆体水溶液を使用してコアの表面にシェルを形成しないことを除いて、実施例3と同一に正極活物質を製造した。
【0154】
製造例3.リチウム二次電池の製造
製造例1および製造例2によって製造されたそれぞれの正極活物質92wt%、人造黒鉛4wt%、PVDFバインダー4wt%をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)30gに分散させて、正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さ15μmのアルミニウム薄膜に均一に塗布し、135℃で真空乾燥して、リチウム二次電池用正極を製造した。
【0155】
前記正極に対してリチウムホイルを対電極(counter electrode)とし、多孔性ポリエチレン膜(Celgard 2300、厚さ:25μm)をセパレータとし、エチレンカーボネートおよびエチルメチルカーボネートが3:7の体積比で混合された溶媒にLiPFが1.15Mの濃度で存在する電解液を使用してコイン電池を製造した。
【0156】
実験例1.正極活物質のEDX mapping分析
実施例1、実施例3、比較例1および比較例2による正極活物質(二次粒子)それぞれをFIB(Ga-ion source)を利用して断面処理した後、断面TEM像を得た。次に、前記断面TEM像に対するNi、CoおよびMnのEDX mappingを通じて一次粒子内のNi、CoおよびMnの分布を確認した。
【0157】
実施例1による正極活物質に対する図3および図4を参照すると、一次粒子内のNiおよびCoに対する濃度変化領域が存在することを確認することができる。
【0158】
例えば、図4を基準として、一次粒子内に相対的に明るい領域が存在し、前記領域は、他の領域に比べてCoの密集度が高い領域に該当する。Coの密集度が高い領域においてCoの平均原子比率b2は、一次粒子内のCoの平均原子比率a2より大きい。
【0159】
ここで、他の領域に比べてCoの密集度が高い領域を第1領域といい、前記第1領域以外の領域を第2領域と定義し、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子に存在するNiの平均原子比率をa1、Coの平均原子比率をa2というとき、前記第1領域内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、前記第1領域内のCoの平均原子比率b2は、a2より大きい。一方、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子内でMnの偏在は、NiおよびCoに比べて僅かであることを確認することができる。
【0160】
また、図3を参照すると、断面TEM像を基準として、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子内で前記第1領域および前記第2領域から選択される少なくとも1つの領域は、前記一次粒子内に局部的に存在することを確認することができる。また、一部の一次粒子内では、前記第1領域および前記第2領域から選択される少なくとも1つの領域は、前記一次粒子内に複数存在することを確認することができる。
【0161】
特に、前記二次粒子に対する断面TEM像を基準として、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子は、前記二次粒子の表面部に局部的に存在することを確認することができる。前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子が前記二次粒子の表面部に局部的に存在することにより、大部分の副反応が起こる二次粒子の表面部における安定性を向上させることができる。
【0162】
図3に示されたCoに対するEDX mapping画像について図4を参照すると、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子内で前記第1領域および前記第2領域から選択される少なくとも1つの領域は、前記二次粒子の表面から中心に向かう方向に沿って延在し、前記一次粒子内で前記第1領域の延長方向に対して垂直に交差する方向に沿って測定された長さを前記一次粒子の幅というとき、前記第1領域の幅は、前記一次粒子の幅より小さいことを確認することができる。
【0163】
一次粒子内に前述した形態の濃度変化領域が形成されることにより、前記二次粒子の表面におけるリチウムイオンおよび/または電荷の移動が不十分なhigh-Niタイプのリチウム複合酸化物の電気化学的特性を改善すると同時に、一次粒子の結晶構造の安定性を向上させることが可能である。
【0164】
下記の表1には、一次粒子内のNiおよびCoの平均原子比率と図4に表記された位置でNiおよびCoの原子比率を測定した結果を示した。
【0165】
【表1】
【0166】
すなわち、図3図4および表1の結果を通じて、一次粒子内のCoの濃度が相対的に高い濃度変化領域が局部的に存在することを確認することができる。
【0167】
同様に、実施例3による正極活物質に対する図5および図6を参照すると、一次粒子内のNiおよびMnに対する濃度変化領域が存在することを確認することができる。
【0168】
例えば、図5で、Mnに対するEDX mapping結果を基準として、一次粒子内に相対的に明るい領域が存在し、前記領域は、他の領域に比べてMnの密集度が高い領域に該当する。Mnの密集度が高い領域においてMnの平均原子比率b3は、一次粒子内のMnの平均原子比率a3より大きい。
【0169】
ここで、他の領域に比べてMnの密集度が高い領域を第1領域といい、前記第1領域以外の領域を第2領域と定義し、前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子に存在するNiの平均原子比率をa1、Mnの平均原子比率をa3というとき、前記第1領域内のNiの平均原子比率b1は、a1以下であり、前記第1領域内のMnの平均原子比率b3は、a3より大きい。
【0170】
前記第1領域および前記第2領域が共存する前記一次粒子内でCoの偏在は、Niと類似の形態で発現したことを確認することができる。
【0171】
また、図5を参照すると、実施例1と同様に、前記第1領域および/または前記第2領域が前記一次粒子内に局部的に存在し、一部の一次粒子内では、前記第1領域および/または前記第2領域が複数存在することを確認することができる。その他、前記濃度変化領域の形態は、実施例1と類似に形成されたことを確認することができる。
【0172】
下記の表2には、一次粒子内のNiおよびMnの平均原子比率と図6に表記された位置でNiおよびMnの原子比率を測定した結果を示した。
【0173】
【表2】
【0174】
なお、比較例1および比較例2による正極活物質に対する図7および図8を参照すると、一次粒子内の任意の遷移金属元素に対する偏在現象、すなわち一次粒子内に濃度変化領域が存在しないことを確認することができる。
【0175】
また、別に添付してはいないが、実施例1および実施例3による正極活物質に対する表面コーティング処理を伴った実施例2および実施例4による正極活物質も、表面コーティングおよびこれによるコーティング元素の勾配が存在することとは別様に、実施例1および実施例3と類似の形態の一次粒子内に濃度変化領域が形成されたことを確認することができた。
【0176】
実験例2.リチウム二次電池の電気化学的特性の評価
製造例2で製造されたリチウム二次電池(コインセル)に対して電気化学分析装置(Toyo、Toscat-3100)を利用して25℃、電圧範囲3.0V~4.4V、0.1Cの放電率を適用して充放電実験を実施して、充電および放電容量を測定した。
【0177】
また、同じリチウム二次電池に対して45℃、3.0V~4.4Vの駆動電圧の範囲内で1C/1Cの条件で50回充放電を実施した後、初期容量に対して50サイクル目の放電容量の割合(サイクル容量維持率;capacity retention)を測定した。
【0178】
前記測定結果は、下記の表3に示した。
【0179】
【表3】
【0180】
表3の結果を参照すると、Ni0.90Co0.02Mn0.08(OH)の平均組成を有するコアの表面にNi0.55Co0.435Mn0.015(OH)の平均組成を有するシェルを形成した前駆体を使用した実施例1、実施例2および比較例1を参照すると、一次粒子内のCoに対する偏在現象、すなわち一次粒子内のCoの濃度変化領域が存在しない比較例1より実施例1および実施例3の容量、充放電効率および寿命維持率に優れていることを確認することができる。
【0181】
同様に、Ni0.90Co0.08Mn0.02(OH)の平均組成を有するコアの表面にNi0.55Co0.015Mn0.435(OH)の平均組成を有するシェルを形成した前駆体を使用した実施例3、実施例4および比較例2を参照すると、一次粒子内のMnに対する偏在現象が存在しない比較例2より、実施例2および実施例4の容量、充放電効率および寿命維持率に優れていることを確認することができる。
【0182】
前記結果を通じて、一次粒子内に任意の遷移金属の濃度が異なる領域が局部的に形成される場合、正極活物質を使用したリチウム二次電池の容量および充放電効率を向上させることが可能であることを確認することができる。
【0183】
また、正極活物質を使用したリチウム二次電池の寿命維持率が増加することは、一次粒子内に任意の遷移金属の濃度が異なる領域が局部的に形成されることにより、繰り返された充放電によるリチウム複合酸化物の結晶構造の安定性の低下が緩和されたためであると予想される。
【0184】
実験例3.リチウム二次電池のインピーダンス(EIS;Electrochemical Impedence Spectroscopy)特性の評価
電気化学インピーダンス分光法(EIS;Electrochemical Impedance Spectroscopy)を利用して製造例2で製造されたリチウム二次電池(コインセル)の1C条件で充電後、抵抗を周波数(10kHz~0.01Hz)の範囲内で測定した。
【0185】
前記インピーダンス分光法による抵抗測定から得られるNyquist plotで50サイクル目のRct(電荷移動抵抗)値は、下記の表4に示した。
【0186】
【表4】
【0187】
表4の結果を参照すると、Ni0.90Co0.02Mn0.08(OH)の平均組成を有するコアの表面にNi0.55Co0.435Mn0.015(OH)の平均組成を有するシェルを形成した前駆体を使用した実施例1、実施例2および比較例1を参照すると、一次粒子内のCoに対する偏在現象、すなわち一次粒子内のCoの濃度変化領域が存在しない比較例1よりも実施例1および実施例2のインピーダンス特性が優れていることを確認することができる。
【0188】
同様に、Ni0.90Co0.08Mn0.02(OH)の平均組成を有するコアの表面にNi0.55Co0.015Mn0.435(OH)の平均組成を有するシェルを形成した前駆体を使用した実施例3、実施例4および比較例2を参照すると、一次粒子内のMnに対する偏在現象が存在しない比較例2よりも実施例3および実施例4のインピーダンス特性が優れていることを確認することができる。
【0189】
前記結果を通じて、一次粒子内に任意の遷移金属の濃度が異なる領域が局部的に形成される場合、リチウム複合酸化物を構成する主な遷移金属中のNiの含有量が増加するにつれて抵抗が増加する現象を防止または緩和することが可能であるという点を確認することができる。
【0190】
以上、本発明の実施例について説明したが、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば特許請求の範囲に記載された本発明の思想から逸脱しない範囲内で、構成要素の付加、変更、削除又は追加などにより本発明を多様に修正及び変更させることができ、これも本発明の権利範囲内に含まれるといえる。
【符号の説明】
【0191】
11・・・中心部
12・・・表面部
100・・・一次粒子
110・・・第1領域
120・・・第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8