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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184460
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】空気酸化型染毛剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20231221BHJP
   A61Q 5/10 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q5/10
A61K8/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087235
(22)【出願日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022098494
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113274
【氏名又は名称】ホーユー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】楠見 真実
(72)【発明者】
【氏名】安永 芽生
(72)【発明者】
【氏名】水野 紗也
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB082
4C083AB311
4C083AB312
4C083AB352
4C083AC012
4C083AC072
4C083AC122
4C083AC171
4C083AC182
4C083AC352
4C083AC482
4C083AC532
4C083AC692
4C083AC732
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD042
4C083AD132
4C083AD162
4C083AD642
4C083BB21
4C083BB43
4C083CC36
4C083EE26
(57)【要約】
【課題】使用前におけるメラニン前駆体の高分子化を防止すると共に、その各剤を同時塗りすることで十分な染毛力を得る複数剤式の空気酸化型染毛剤を提供する。
【解決手段】本発明の空気酸化型染毛剤は、(A):メラニン前駆体及び(B):還元剤を含有する酸性の剤と(C):アルカリ剤を含有するアルカリ性の剤を含んで構成され、かつ、いずれか1以上の剤が(D):ノニオン性又はアニオン性の直接染料を含有し、各剤を毛髪に同時塗りする複数剤式の染毛剤であって、各剤の混合時に総アルカリ度が3.0ml/g以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分及び(B)成分を含有する酸性の剤と下記(C)成分を含有するアルカリ性の剤を含んで構成され、かつ、いずれか1以上の剤が下記(D)成分を含有し、各剤を毛髪に同時塗りする複数剤式の染毛剤であって、各剤の混合時に総アルカリ度が3.0ml/g以下である空気酸化型染毛剤。
(A)メラニン前駆体
(B)還元剤
(C)アルカリ剤
(D)ノニオン性又はアニオン性の直接染料
【請求項2】
前記(A)成分が5,6-ジヒドロキシインドリン、5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上である請求項1に記載の空気酸化型染毛剤。
【請求項3】
前記(C)成分には炭酸塩及び/又は重炭酸塩が含まれる請求項1に記載の空気酸化型染毛剤。
【請求項4】
前記空気酸化型染毛剤が更に下記(E)成分を含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の空気酸化型染毛剤。
(E)メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールもしくはこれらの塩から選ばれる1種以上、及び/又はオクタノール/水分配係数(Log Pow)が水よりも小さい溶剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪色素であるメラニンの前駆体を酸化染料として用い、空気酸化によりこれを重合・発色させる空気酸化型染毛剤に関し、より具体的には、複数剤式であって各剤を毛髪に同時塗りする空気酸化型染毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
5,6-ジヒドロキシインドール、5,6-ジヒドロキシインドリン等はメラニン前駆体と呼ばれ、空気酸化により重合・発色してメラニンとなる。この点を利用して、酸化剤を配合しない空気酸化型染毛剤が提供されている。
【0003】
特許文献1は、所定の一般式で示すインドリン誘導体又はその塩及びアミン又はその塩を必須成分とする一剤式の空気酸化型染毛剤組成物を開示する。組成物のpHを8.5~11の範囲内に調整することにより、染毛力に優れ赤味のない黒色に染毛できる一剤式の染毛剤組成物を提供できる、としている。
【0004】
特許文献2は、5,6-ジヒドロキシインドール又はその塩類及びアスコルビン酸又はその塩類を含有するpH3~8のa剤と、アルカリ剤等を含有しpH8~11のb剤とを備えた空気酸化型の2剤型染毛剤を開示する。この2剤型染毛剤は使用時において、まずa剤を毛髪に適用してしばらく放置した後、これを拭き取ってb剤を毛髪に適用する「2度塗り」方式である。
【0005】
以上の特許文献1、2から示唆されるように、メラニン前駆体の酸化重合反応には一定のpH依存性があるとされており、一般的にpH8~11程度の範囲が好ましいと考えられている。
【0006】
一方、特許文献3は所定の一般式で示す5,6-ジヒドロキシインドール、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸等のメラニン前駆体の他に、一定の還元剤及び金属塩等を必須成分とする一剤式の空気酸化型染毛剤組成物を開示する。そして、メラニン前駆体と上記還元剤や金属塩等により、カプラーを使用することなく、染め上がりの色味を変化させることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-322037号公報
【特許文献2】特開2018-52833号公報
【特許文献3】特開2007-326810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載の空気酸化型染毛剤は1剤式であるため、使用時の操作が比較的簡便である。しかし、メラニン前駆体が予めアルカリ性の剤に含有されているため、その剤にアスコルビン酸等の還元剤を配合するとしても、保管時(使用前)にメラニン前駆体の酸化重合反応がある程度進行し、高分子化する恐れがある。高分子化したメラニンは毛髪中へ浸透しないため、染毛処理後の水洗い等により毛髪から脱落し易く、染毛力が劣る。
【0009】
これに対して、例えば特許文献2に記載の空気酸化型染毛剤のように2剤式に構成し、メラニン前駆体を酸性の剤に含有させれば、使用前におけるメラニン前駆体の重合反応(高分子化)を回避できる。そして使用時には、酸性の剤を毛髪に適用して処理した後、この酸性の剤を毛髪表面から拭き取って、別途準備しておいたアルカリ性の剤を毛髪に適用すれば、メラニン前駆体の酸化重合反応を起こすことができる。
【0010】
しかし、特許文献2に記載の2剤型空気酸化型染毛剤は塗布→拭き取り→塗布の「2度塗り」であって、手間の点でも、所用時間の点でも、使用者にとって負担が大きい。敢えて面倒な2度塗り方式を採用する理由として、以下の事情が推測される。
【0011】
即ち、特許文献2に記載のa剤とb剤とを予め混合してから毛髪に同時塗りすると、メラニン前駆体が毛髪中へ十分に浸透する前に、その酸化重合反応による高分子化が進行し、毛髪中に十分に浸透した状態においてメラニンを形成することができない。そのため、染毛力が不十分となる。a剤とb剤とを予め混合せずに頭髪に順次適用し頭髪上で混合する場合でも、結果的にa剤とb剤の同時塗り状態となるので、上記同様の結果を来たすと考えられる。換言すれば、特許文献2に記載の2剤型空気酸化型染毛剤は特許文献1に記載の一剤式染毛剤における「使用前のメラニン前駆体の高分子化」と言う不具合を回避しているが、反面、十分な染毛力を得るために不便な2度塗りを余儀なくされている。
【0012】
そこで本発明は、空気酸化型染毛剤を複数剤式に構成し、使用前におけるメラニン前駆体の高分子化を防止すると共に、その各剤を毛髪に同時塗りしても満足な染毛力が得られるようにすることを、解決すべき技術的課題とする。また、空気酸化型染毛剤におけるカラーバリエーションを多彩とすることも、併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明は、下記(A)成分及び(B)成分を含有する酸性の剤と下記(C)成分を含有するアルカリ性の剤を含んで構成され、かつ、いずれか1以上の剤が下記(D)成分を含有し、各剤を毛髪に同時塗りする複数剤式の染毛剤であって、各剤の混合時に総アルカリ度が3.0ml/g以下である空気酸化型染毛剤である。
【0014】
(A)メラニン前駆体
(B)還元剤
(C)アルカリ剤
(D)ノニオン性又はアニオン性の直接染料
上記の第1発明において「総アルカリ度」とは、試料中の酸消費成分量あるいは試料中のアルカリ由来の遊離[OH]量を意味するパラメーターであって、具体的には試料である各剤の混合液1gを0.1Nの塩酸で中和滴定したときに要した塩酸のmL単位の量を言う。なお、各剤の混合物が、アルカリ剤の種類により、又は2種以上のアルカリ剤の配合により、複数の中和点を示す場合があるが、このような場合の総アルカリ度とは、最後の中和点までに消費した上記塩酸のmL単位の量を言う。また、「同時塗り」とは、酸性の剤とアルカリ性の剤が一緒に毛髪に適用された状態とすることを言い、そのためには、この両剤を予め混合して毛髪に適用しても良く、混合せずに両剤を順不同で毛髪に適用しても良い。特許文献2に記載の発明との基本的な相違点は、アルカリ性の剤(b剤)の適用前に酸性の剤(a剤)を拭き取らない点である。
【0015】
また、「複数剤式の染毛剤」には、(A)成分及び(B)成分を含有する酸性の剤と(C)成分を含有するアルカリ性の剤からなり、このいずれか1以上の剤が(D)成分を含有する2剤式の染毛剤の他、毛髪への同時塗りの際に前記2剤式染毛剤と共に混合される、(D)成分を含有し又は含有しない他の1又は2以上の剤を含む複数剤式の染毛剤も含まれる。毛髪への適用の際に、上記した酸性の剤やアルカリ性の剤と同時塗りする必要のない付加的な剤は、第1発明の染毛剤の構成要素であっても良く、なくても良い。(A)成分であるメラニン前駆体には、次の第2発明で列挙する5,6-ジヒドロキシインドリンや5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸以外の、例えば5,6-ジヒドロキシインドールや5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸など、空気酸化により酸化重合されて発色する性質を保持した各種のメラニン前駆体やその誘導体、その塩等が包含される。
【0016】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明では、前記第1発明に係る空気酸化型染毛剤において、(A)成分が5,6-ジヒドロキシインドリン、5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上である。
【0017】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明では、前記第1発明又は第2発明に係る空気酸化型染毛剤において、(C)成分には炭酸塩及び/又は重炭酸塩が含まれる。
【0018】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明では、前記第1発明~第3発明のいずれかに係る空気酸化型染毛剤が更に下記(E)成分を含有する。なお、水のオクタノール/水分配係数(Log Pow)は-1.38である。
【0019】
(E)メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールもしくはこれらの塩から選ばれる1種以上又はオクタノール/水分配係数(Log Pow)が水よりも小さい溶剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、使用前におけるメラニン前駆体の高分子化を防止すると共に、その各剤を同時塗りすることで十分な染毛力を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施形態を、その最良の形態を含めて説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施形態によって限定されない。
〔空気酸化型染毛剤〕
本発明の空気酸化型染毛剤は、毛髪色素であるメラニンの前駆体を用い、これを空気酸化により重合・発色させる。この染毛剤は少なくとも(A)成分であるメラニン前駆体及び(B)成分である還元剤を含有する酸性の剤と、(C)成分であるアルカリ剤を含有するアルカリ性の剤とを含む2剤式以上の複数剤式に構成される。そして染毛剤を構成するいずれか1以上の剤が(D)成分である直接染料を含有する。少なくとも、上記酸性の剤とアルカリ性の剤、及び(D)成分を含有する剤は、「同時塗り」方式で、混合後に毛髪に適用され、又は混合せずに毛髪に順次適用される。
【0022】
染毛剤は通常は2剤式であるが、例えば、(A)~(D)成分のいずれも含有しない適宜な組成の第3剤を任意の構成要素として付加した3剤式等の多剤式としても良い。2剤式の染毛剤におけるアルカリ性の剤と酸性の剤との混合比は適宜に設定されるものであり、各剤の混合時に総アルカリ度が3.0ml/g以下、好ましくはpHが8~11の範囲内となることを前提に、例えばアルカリ性の剤:酸性の剤=1:5~5:1の範囲内で任意に設定しても良く、具体的には例えば1:1、1:1.5、1.5:1等の混合比としても良い。
【0023】
各剤の剤型は限定されないが、水を基材とする液状の剤型が好ましい。各剤の内の一部の剤を粉末状又は顆粒状をすることもできる。液状の剤型としては、限定はされないが、可溶化物(溶液状)、乳化液状、ゲル状、クリーム状等が例示される。特に乳化液状、クリーム状が好ましい。エアゾール式でクリーム状に吐出し又は噴射剤と共に泡状で吐出して使用することも好ましい。
【0024】
エアゾール式の空気酸化型染毛剤とする場合、エアゾール容器としては、酸性の剤の充填容器とアルカリ性の剤の充填容器を備え、酸性の剤とアルカリ性の剤を同時に吐出できるものであることが好ましい。エアゾール容器の吐出機構としては例えば、ジメチルエーテル、液化石油ガス、窒素ガス等の噴射剤を充填し、噴射剤の圧力によってステムから内容物(酸性の剤、アルカリ性の剤)を吐出可能な1対のエアゾール缶と、これらのエアゾール缶を連結する部材と、1対のエアゾール缶のステムを外部から同時に押圧するための操作部材と、ステムから排出された内容物を外部へ吐出する吐出部材を備えるものが例示される。更には、噴射剤を充填した1個のエアゾール缶の内部に酸性の剤とアルカリ性の剤をそれぞれ充填した2個の内袋をステム付きで収容し、これらの内袋が常に同一の吐出圧を受けるように構成した分離充填同一加圧型の二重構造エアゾール容器も例示される。
【0025】
〔pH及び総アルカリ度〕
本発明の空気酸化型染毛剤は、各剤の混合時(使用時)において総アルカリ度が3.0ml/g以下である。好ましくは各剤の混合時においてpH8~11の範囲内、より好ましくはpH9~10の範囲内である。本発明の空気酸化型染毛剤の各剤混合時におけるpHは、各剤混合物を水で10%に希釈した直後に測定した値である。測定方法としては、HОRIBA社製pH-METER F-22等のpHメーターを用いて測定することができる。混合時にpHが8~11の範囲内であると、pHが低過ぎることによる空気酸化型染毛剤の染毛性能の低下や、pHが高過ぎることによる(D)成分の溶解性の低下が起こり難く、ひいては空気酸化型染毛剤の保管時や、エアゾール式で用いる空気酸化型染毛剤のエアゾール容器への充填時に、(D)成分の析出が起こり難い。
【0026】
酸性の剤は、含有するメラニン前駆体の保存安定性の見地から、pH3~7程度、より好ましくは3~5程度とされる。アルカリ性の剤は、各剤の混合時に染毛剤のpHが8~11の範囲内となるように調整されることが好ましい。
【0027】
染毛剤は、高い染毛力を実現する見地から、各剤の混合時に総アルカリ度を3.0ml/g以下とする必要があり、更に好ましくは2.5ml/g以下、特に好ましくは2.0ml/g以下とする。一方、総アルカリ度の低い側の値は限定されないが、好ましくは各剤の混合時に0.4ml/g以上、更に好ましくは0.8ml/g以上、特に好ましくは1.2ml/g以上とする。
【0028】
各剤の混合時においてpH8~11の範囲内とし、かつ総アルカリ度3.0ml/g以下とするための効果的な手段が、(B)成分であるアルカリ剤として後述の炭酸塩及び/又は重炭酸塩を用いることである。
【0029】
〔酸性の剤に固有の含有成分〕
((A)成分)
酸性の剤は(A)成分であるメラニン前駆体と(B)成分である還元剤を含有する。メラニン前駆体の種類は限定されないが、5,6-ジヒドロキシインドール、5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸、5,6-ジヒドロキシインドリン、5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上が好ましく、5,6-ジヒドロキシインドリン、5,6-ジヒドロキシインドリン-2-カルボン酸及びこれらの塩から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0030】
上記の塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩等が例示されるが、中でも塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩又は乳酸塩が好ましい。
【0031】
(A)成分の含有量は限定されないが、各剤混合時において0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上が更に好ましい。また、各剤混合時において2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。(A)成分の含有量が各剤混合時に0.001質量%以上であると染毛力に優れ、2.0質量以下であると毛髪外で(A)成分が重合してしまう割合が低くなり、(A)成分の配合量に応じた染毛効果が得られ易くなる。
【0032】
((B)成分)
酸性の剤は、(A)成分の保存安定性を高めるために(B)還元剤を含有する。還元剤としては、アスコルビン酸、亜硫酸、L-システイン、チオグリコール酸及びそれらの塩等を使用できる。酸性の剤における還元剤の含有量は限定されないが、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上が特に好ましい。また、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。
【0033】
(酸性の剤におけるその他の成分)
酸性の剤は、また、そのpHを3~7程度とするためのpH調整剤を含有することができる。pH調整剤としては、塩酸、オルトリン酸、リン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸等の各種の酸を使用できる。その他、水酸化ナトリウム、アンモニア、アルキルアミン等のアルカリも適宜に使用することができる。
【0034】
なお、本発明の染毛剤は、酸性の剤において過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化ナトリウム、硫酸塩の過酸化水素付加物、過硫酸アンモニウム等の酸化剤を含有しない。仮に酸化剤を含有するとしても、その含有量は酸性の剤における1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0035】
〔アルカリ性の剤に固有の含有成分〕
((C)成分)
アルカリ性の剤は(C)成分であるアルカリ剤を含有する。アルカリ剤の種類は限定されないが、アンモニアの他に、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸マグネシウム、炭酸グアニジン等の炭酸塩、更に炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)等の重炭酸塩を好ましく用いることができる。また、これらの電解質アルカリ剤ではカウンターイオン種によって染毛力が異なる点からアンモニウム塩よりも金属塩が好ましく、金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が好ましく、特にナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。
【0036】
(C)成分の含有量は限定されないが、メラニン前駆体の重合を確保する点からは、剤の混合時において好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上である。一方、染毛時の毛髪ダメージを低減する点からは、剤の混合時において好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、特に好ましくは1.8質量%以下である。
【0037】
アルカリ剤として、例えばアンモニアと共に炭酸塩及び/又は重炭酸塩を併用すると、「第3発明の効果」欄で前記した理由から、特に優れた染毛力、毛髪の損傷防止効果、及びアンモニア臭の抑制効果を得る。
【0038】
アルカリ剤の好ましい実施形態として、28%アンモニア水等のアンモニアと炭酸ナトリウムの併用、アンモニア、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)の併用、アンモニアと炭酸水素アンモニウムの併用、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの併用等を例示できる。炭酸塩や炭酸水素塩の含有量は限定されないが、各剤の混合時に0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上が特に好ましい。一方、1.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下が特に好ましい。
【0039】
アンモニア、炭酸塩、炭酸水素塩(重炭酸塩)以外のアルカリ剤として、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、アミノメチルプロパノール、イソプロピルアミン等のアルカノールアミンが例示される。ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸塩も例示される。各種のメタケイ酸塩、リン酸塩、塩基性アミノ酸、水酸化物等も例示される。
【0040】
〔その他の重要成分〕
((D)成分)
複数剤式の空気酸化型染毛剤は、(D)成分として、ノニオン性又はアニオン性の直接染料を含有する。カチオン性の直接染料は、(A)メラニン前駆体であるインドリンとイオンコンプレックスを形成する可能性から余り好ましくはないが、使用可能である。
【0041】
ノニオン性であるニトロ染料又はHC染料としては、4-ニトロ-o-フェニレンジアミン、2-ニトロ-p-フェニレンジアミン、2-アミノ-4-ニトロフェノール、2-アミノ-5-ニトロフェノール、3-ニトローp-ヒドロキシエチルアミノフェノール、ピクラミン酸、ピクリン酸、及びそれらの塩、HC Blue No.2、HC Blue No.4、HC Blue No.5、HC Blue No.6、HC Blue No.8、HC Blue No.9、HC Blue No.10、HC Blue No.11、HC Blue No.12、HC Blue No.13、HC Blue No.14、HC Brown No.1、HC Brown No.2、HC Green No.1、HC Orange No.1、HC Orange No.2、HC Orange No.3、HC Orange No.5、HC Red No.1、HC Red No.3、HC Red No.7、HC Red No.8、HC Red No.9、HC Red No.10、HC Red No.11、HC Red No.13、HC Red No.14、HC Violet No.1、HC Violet No.2、HC Yellow No.2、HC Yellow No.4、HC Yellow No.5、HC Yellow No.6、HC Yellow No.7、HC Yellow No.8、HC Yellow No.9、HC Yellow No.10、HC Yellow No.11、HC Yellow No.12、HC Yellow No.13、HC Yellow No.14、HC Yellow No.15等が挙げられる。
【0042】
更にノニオン性である分散染料としては、Disperse Black 9、Disperse Blue 1、Disperse Blue 3、Disperse Blue 7、Disperse Brown 4、Disperse Orange 3、Disperse Red 11、Disperse Red 15、Disperse Red 17、Disperse Violet 1、Disperse Violet 4、Disperse Violet 15等が挙げられる。
【0043】
アニオン性である酸性染料としては、赤色2号、赤色3号、赤色102号、赤色104号の(1)、赤色105号の(1)、赤色106号、赤色201号、赤色227号、赤色230号の(1)、赤色230号の(2)、赤色231号、赤色232号、赤色401号、赤色502号、赤色503号、赤色504号、赤色506号、黄色4号、黄色5号、黄色202号の(1)、黄色202号の(2)、黄色203号、黄色402号、黄色403号の(1)、黄色406号、黄色407号、橙色205号、橙色207号、橙色402号、緑色3号、緑色204号、緑色205号、緑色401号、緑色402号、紫色401号、青色1号、青色2号、青色202号、青色203号、青色205号、褐色201号、黒色401号、アシッドブルー1、アシッドブルー3、アシッドブルー62、アシッドブラック52、アシッドブラウン13、アシッドグリーン50、アシッドオレンジ6、アシッドレッド14、アシッドレッド35、アシッドレッド73、アシッドレッド184、ブリリアントブラック1等が挙げられる。
【0044】
(D)成分は、安定性の見地から、一般的には酸性の剤に含有させることが好ましい。一方、本発明では酸性の剤が(A)メラニン前駆体と共に(B)還元剤を含有しているために(D)成分が不安定化する懸念がある。その意味では、(D)成分はアルカリ性の剤に含有させることが好ましい。
【0045】
従って、例えば、酸性の剤における(B)還元剤の含有量が相対的に少ない場合は、(D)成分は酸性の剤に好ましく含有され得る。この場合の(D)成分としては耐還元剤性に優れたHC Blue 15、HC Blue 16、2-Amino-6-Chloro-4-Nitrophenol、HC Yellow 4、HC Yellow 2、HC Red 13、N, N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-ニトロ-p-フェニレンジアミン、HC Blue 2、HC Blue 11等が例示され、特にHC Blue 15、HC Yellow 4、HC Yellow 2、HC Red 13、3-ニトローp-ヒドロキシエチルアミノフェノールが好ましい。
【0046】
一方、還元剤による(D)成分の不安定化を懸念する場合には、(D)成分はアルカリ性の剤に好ましく含有され得る。この場合の(D)成分としては、耐アルカリ剤性に優れたHC Red 13、HC Yellow 4、HC Yellow 2、2-Amino-6-Chloro-4-Nitrophenol、HC Blue 15、HC Blue 16、HC Blue 2、HC Blue 11、N, N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-ニトロ-p-フェニレンジアミン、赤色106号、赤色27号、橙色205号等が例示され、特にHC Red 13、HC Yellow 4、HC Yellow 2、HC Blue 16、HC Blue 2、3-ニトローp-ヒドロキシエチルアミノフェノールが好ましい。
【0047】
空気酸化型染毛剤における(D)成分の含有量は適宜に決定すれば良く、限定されないが、各剤の混合時に0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。一方、0.5質量%以下が好ましく、0.4質量%以下がより好ましい。
【0048】
(D)成分の含有量が過剰に多い場合には、空気酸化型染毛剤の保管時や、エアゾール式で用いる空気酸化型染毛剤のエアゾール容器への充填時に、(D)成分の析出があり得る。(D)成分の析出が起こると予定外の染毛色となったり、エアゾール容器の内部構造に目詰まりを起こすという不具合が懸念される。これに対し、アルカリ性条件下において溶解度が上がる(D)成分を、アルカリ性の剤に配合することでその析出を抑制することができる。そのような(D)成分としては、3-ニトローp-ヒドロキシエチルアミノフェノールが好ましい。
【0049】
((E)成分)
空気酸化型染毛剤には、更に(E)成分として、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールもしくはこれらの塩から選ばれる1種以上、及び/又はオクタノール/水分配係数(Log Pow)が水よりも小さい溶剤を適量配合することができる。
【0050】
オクタノール/水分配係数(Log Pow)とは、周知のように式Log[PO]/[PW](式中、[PO]はオクタノール相中の溶剤のモル数を示し、[PW]は水相中の溶剤のモル数を示す)で表され、オクタノール相と水相とに対する試料分子の分配係数を意味する。オクタノール/水分配係数(Log Pow)が水よりも小さい溶剤として、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG100, PEG200, PEG400, PEG600, PEG1000, PEG1540等)、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等を例示できる。
【0051】
(E)成分を空気酸化型染毛剤に含有させると、(D)成分であるノニオン性又はアニオン性の直接染料の析出を抑制することができる。(E)成分を(D)成分と同じ剤に含有させると、空気酸化型染毛剤の保管時から(D)成分の析出抑制効果が得られる。また、エアゾール式で用いる空気酸化型染毛剤のエアゾール容器への充填時に、(D)成分の析出を抑制することができる。この溶剤のLog Powは-1.5~-6.0の範囲内が特に好ましく、-1.5~-3.2の範囲内がとりわけ好ましい。具体的には、グリセリン(Log Pow=-1.65)、PEG 400(Log Pow=-3.12)が例示される。
【0052】
空気酸化型染毛剤における(E)成分の含有量は限定されないが、(D)成分を含有する剤中に、あるいは空気酸化型染毛剤の各剤の混合時に0.5質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。一方、20質量%以下が好ましく、17質量%以下がより好ましく、15質量%以下が特に好ましい。(E)成分の含有量が0.5質量%以上であると、(D)成分の析出が有効に抑制される。
【0053】
〔空気酸化型染毛剤の任意成分〕
本発明の空気酸化型染毛剤を構成する酸性の剤、アルカリ性の剤、あるいはその他の剤はそれぞれ、(E)成分以外の溶剤、高級アルコール、界面活性剤、油性成分等を任意に含有することができる。
【0054】
(E)成分以外の溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、メチルセロソルブ、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等が挙げられる。
【0055】
高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール(セタノール)、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール等が例示される。
【0056】
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。但し、カチオン性界面活性剤は(A)メラニン前駆体であるインドリンとのイオンコンプレックス形成の懸念から、余り好ましくはない。
【0057】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(以下、「POE」と言う)セチルエーテル、POEステアリルエーテル、モノオレイン酸POEソルビタン、POEメチルグルコシド等が例示され、カチオン性界面活性剤としてはアルキルトリメチルアンモニウム又はその塩、ジアルキルジメチルアンモニウム又はその塩、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等が例示され、アニオン性界面活性剤としてはアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等が例示され、両性界面活性剤としてはラウラミドプロピルベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等が例示される。
【0058】
なお、ノニオン性界面活性剤の内、POE付加型のノニオン性界面活性剤は、本発明の染毛剤の染毛力を向上させる。そのエチレンオキサイドの付加モル数は100以下が好ましく、50以下が更に好ましい。
【0059】
油性成分としては、ロウ類、炭化水素、植物油、動物油、エステル油、脂肪酸、シリコーン類が挙げられる。
ロウ類としては、ミツロウ、ラノリン、キャンデリラロウ、カルナウバロウが例示される。炭化水素としてはパラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、軽質流動イソパラフィン、流動パラフィンが例示される。植物油としてはアボカド油、オリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油、ツバキ油、大豆油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油が例示され、動物油としてはミンク油、いわし油、たら肝油、羊脂、牛脂、豚脂、卵黄油等が例示される。
【0060】
エステル油としては、アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、オクタン酸セチル等が例示される。脂肪酸としてはラウリン酸、ミリスチン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸等が例示される。シリコーン類としては、ジメチルポリシロキサン(INCI名:ジメチコン)、ヒドロキシ末端基を有するジメチルポリシロキサン(INCI名:ジメチコノール)、メチルフェニルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン等が例示される。
【0061】
本発明の空気酸化型染毛剤には、上記の任意成分以外に、安息香酸ナトリウム等の防腐剤、エタノール等の有機溶剤、ソルビトール、マルトース等の糖類、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム液、塩化ジアリルジメチルアンモニウム・ヒドロキシエチルセルロース等のカチオン化水溶性高分子、ヒドロキシエタンジホスホン酸四ナトリウム液等のキレート剤、塩化ナトリウム等の無機塩、育毛成分、植物抽出物、生薬抽出物、アミノ酸・ペプチド、尿素、ビタミン類、香料、紫外線吸収剤等を任意に含有することができる。
【0062】
本実施形態の空気酸化型染毛剤の効果について説明する。
(1)(第1発明の効果)
第1発明によれば、空気酸化型染毛剤を複数剤式に構成し、その内の酸性の剤が(A)成分であるメラニン前駆体を含有するので、使用前の保管時においてメラニン前駆体が酸化重合して高分子化する恐れがなく、メラニン前駆体の保存安定性が高い。従って染毛剤の染毛力が低下する恐れがない。
【0063】
また、酸性の剤は(B)還元剤も含有するので、メラニン前駆体の保存安定性が一層高い。そして染毛剤を構成するいずれか1以上の剤が(D)成分である直接染料を含有するので、染毛剤におけるカラーバリエーションを多彩とすることができる。しかも、(D)成分はノニオン性又はアニオン性の直接染料であるため、保管時あるいは各剤の混合時に還元剤やアルカリ剤と共存するにも関わらず、不安定化しない。
【0064】
次に、染毛剤の使用時に酸性の剤をアルカリ性の剤等の他の剤と同時塗りし、総アルカリ度を3.0ml/g以下とすると、特許文献2に関して前記したような「低分子量のメラニン前駆体が毛髪中へ十分に浸透する前に酸化重合反応による高分子化が進行し、染毛力に直結しない」と言う問題は起こらない。
【0065】
即ち、アルカリ性の剤に用いるアルカリ剤として、例えばアンモニアと共に炭酸塩や重炭酸塩を使い分けると、混合時のpHと総アルカリ度を別途に調節できる。そのような実施例の試行を通じて、本願発明者は、第1にメラニン前駆体の酸化重合反応が、pH依存性と言うより、本質的には各剤混合時の総アルカリ度(アルカリ由来の遊離[OH]量)に依存することを突き止めた。第2に各剤混合時の総アルカリ度を3.0ml/g以下に調整しておくと、メラニン前駆体の酸化重合反応が有効に遅延して、メラニン前駆体の毛髪への浸透後に起こることを突き止めた。
【0066】
本発明の空気酸化型染毛剤による上記の染毛力効果は、1剤式である特許文献1の空気酸化型染毛剤や、2剤式であって第1剤(酸性の剤)と第2剤(アルカリ性の剤)とを混合することなく「2度塗り」する特許文献2の空気酸化型染毛剤からは、開示・示唆されない。
【0067】
なお、各剤の混合時にpHが8~11程度の範囲内であれば、染毛後の毛髪ダメージを抑制する上で有効であり、好ましい。
(2)(第2発明の効果)
メラニン前駆体としては第2発明に規定する2種類のメラニン前駆体やその塩が好ましく例示される。
【0068】
(3)(第3発明の効果)
(C)成分であるアルカリ剤は、炭酸塩及び/又は重炭酸塩を含むことが好ましい。炭酸Na等の炭酸塩は反応系の総アルカリ度とpHを上げ、重炭酸Na等の重炭酸塩は反応系のアルカリ度を上げ、pHを下げる作用があるため、例えばアンモニアとの併用により、各剤混合時のpHと総アルカリ度の調節に便宜である。更に、結果的にアンモニア臭を抑制する効果も得る。
【0069】
(4)(第4発明の効果)
空気酸化型染毛剤に(E)成分を含有させると、空気酸化型染毛剤の保管時において、あるいはエアゾール式で用いる空気酸化型染毛剤のエアゾール容器への充填前、充填後又は充填時において、(D)成分の析出を抑制することができる。
【実施例0070】
以下に本発明の実施例を、対応する比較例と共に説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施例、比較例によって限定されない。
〔空気酸化型染毛剤の調製〕
末尾の表1~表4に示す実施例1~29及び比較例1~5に係る2剤式空気酸化型染毛剤の酸性の剤、アルカリ性の剤を、いずれも常法に従ってクリーム状に調製した。各実施例及び各比較例に係る酸性の剤及びアルカリ性の剤の組成中、「共通ベース」と表記したものは、いずれも別表(即ち、表5)に示す組成のベースである。
【0071】
表1~4に示す各成分中、本発明の(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分又は(E)成分に該当するものは、それぞれ成分名の左側欄外に「A」、「B」、「C」、「D」又は「E」と表記した。(D)成分に対する比較用の成分については、成分名の左側欄外に「d」と表記した。成分名欄における「ジヒドロキシインドリンHBr」はジヒドロキシインドリンの臭化水素酸塩を示す。各成分についての表1~5中の数値は、酸性の剤中又はアルカリ性の剤中における当該成分の質量%単位の含有量を示す。
【0072】
次に、各実施例、各比較例に係る酸性の剤及びアルカリ性の剤は、表1~4に示す「混合比」の欄に示すように、全て使用時に1:1の質量比で混合して毛髪に適用されたものである。各実施例、各比較例に係る酸性の剤及びアルカリ性の剤の混合時、それらの混合剤の一部を用いて総アルカリ度(ml/g)とpHを測定した。それらの測定結果を表1~表4の「混合時総アルカリ度〔ml/g〕」、「混合時pH」の欄に示す。
【0073】
〔空気酸化型染毛剤の評価〕
(染毛力の評価)
各実施例、各比較例に係る酸性の剤及びアルカリ性の剤を、評価の直前に1:1の質量比でそれぞれ混合してクリーム状の染毛剤組成物とし、これらの染毛剤組成物の各1gを、刷毛を用いて長さ10cmの白色毛束サンプル1gに均一に塗布した。塗布後の毛束サンプルを30℃の恒温槽中で10分間放置した後、水洗いした。水洗い後の毛束サンプルを温風で乾燥し、評価用毛束サンプルを得た。
【0074】
各実施例、各比較例に係る評価用毛束サンプルの染毛状態について、訓練を受けた専門のパネリスト10名が目視にて、以下5段階の評価基準のポイントに基づき、染毛力をポイントで評価した。各パネリストは評価に当たり、5段階の評価基準を具体的に示す染毛毛束サンプル見本を参照した。各実施例、各比較例ごとに10名のパネリストの評価点の平均値をとり、小数点以下の数値がある場合はこれを四捨五入して、評価点を決めた。各実施例、各比較例の評価結果を表1~4の「染毛力」の欄に示す。
【0075】
5:染毛力が非常に高い。
4:染毛力が高い。
3:染毛力がやや高い。
【0076】
2:染毛力が低い。
1:染毛力が非常に低い。
(染毛力安定性の評価)
各実施例、各比較例に係る前記酸性の剤及びアルカリ性の剤の各30gを、それぞれ4号規格ビンに充填して50℃の恒温槽で2週間保管した。そして、この保管後の各例ごとの酸性の剤とアルカリ性の剤を1:1の質量比で混合してなる各染毛剤組成物1gを用いて、前記「染毛力の評価」の項に記載の通りに染毛処理に供した。これらの染毛処理で得た毛束サンプルを「安定性評価毛束サンプル」と言う。
【0077】
一方、これとタイミングを合わせて調製した、各実施例、各比較例に係る酸性の剤及びアルカリ性の剤を1:1の質量比でそれぞれ混合して染毛剤組成物とし、これらの染毛剤組成物の各1gを、前記「染毛力の評価」の項に記載の通りに染毛処理に供した。これらの染毛処理で得た毛束サンプルを「基準毛束サンプル」と言う。
【0078】
各実施例、各比較例に係る安定性評価毛束サンプル及び基準毛束サンプルについて、訓練を受けた専門のパネリスト10名が目視にて対比観察を行い、安定性評価毛束サンプルに基準毛束サンプルと同等の染毛効果が認められた場合には「〇」、安定性評価毛束サンプルでは、基準毛束サンプルとの対比で染毛力が低下し、又は異なる色調に変化していた場合には「×」と評価した。そして、以下の評価基準に従い、各実施例、各比較例に係る染毛剤組成物の染毛力安定性を評価した。各実施例、各比較例の評価結果を表1~4の「染毛力安定性」の欄に示す。
【0079】
5:〇と評価したパネリストが9~10名であった。
4:〇と評価したパネリストが7~8名であった。
3:〇と評価したパネリストが5~6名であった。
【0080】
2:〇と評価したパネリストが3~4名であった。
1:〇と評価したパネリストが2名以下であった。
(染料析出の評価)
前記「染毛力安定性の評価」における各実施例、各比較例に係る5℃の恒温槽での2週間保管後の酸性の剤及びアルカリ性の剤について、その各1gを取り出し、クリームの析出物の有無を目視観察した。そして、以下の評価基準に従い、各実施例、各比較例に係る染毛剤組成物における染料析出を評価した。各実施例、各比較例の評価結果を表1~4の「染料析出」の欄に示す。
【0081】
〇:析出物は見られない。
△:析出物が僅かに見られる。
×:析出物が多く見られる。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、空気酸化型染毛剤を複数剤式に構成し、使用前におけるメラニン前駆体の高分子化を防止すると共に、その各剤を毛髪に同時塗りしても満足な染毛力が得られる。