(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184463
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20231221BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20231221BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B7/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092979
(22)【出願日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2022097141
(32)【優先日】2022-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正田 亮
(72)【発明者】
【氏名】西山 碩芳
(72)【発明者】
【氏名】今井 美穂
(72)【発明者】
【氏名】今井 順平
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
【Fターム(参考)】
4F100AA34D
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK51D
4F100AK52B
4F100BA03
4F100BA05
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4F100CB00G
4F100EH66C
4F100GB07
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4F100JD08
4F100JG01A
4F100JG01E
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4F100JL13B
4F100JN06E
4F100YY00A
4F100YY00D
5E321AA21
5E321BB21
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】本発明は、反射型の電磁波吸収体に用いられる誘電体層の複素誘電率虚部に着目し、抵抗層のシート抵抗が変化し、または電磁波が斜め入射した場合であっても優れた反射減衰量を維持することを可能とする技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の電磁波吸収体は、抵抗層と、誘電体層と、反射層を順に備える積層体であり、前記誘電体層は少なくとも一種の誘電性化合物と、樹脂成分とを含有し、複素誘電率の実部が10以上15以下であり、虚部が1.0以上1.5以下であり、前記抵抗層のシート抵抗が600Ω/□以上2500Ω/□以下であり、反射角度θが30°から70°における電磁波の反射減衰量が25dB以上である。また前記電磁波吸収体は建装材に適用可能である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗層と、誘電体層と、反射層を順に備える積層体であり、
前記誘電体層は少なくとも一種の誘電性化合物と、樹脂成分とを含有し、複素誘電率の実部が10以上15以下であり、虚部が1.0以上1.5以下であり、
前記抵抗層のシート抵抗が600Ω/□以上2500Ω/□以下であり、
反射角度θが30°から70°における電磁波の反射減衰量が25dB以上である、電磁波吸収体。
【請求項2】
前記積層体が、前記抵抗層と、バリア接着層と、バリア層と、前記誘電体層と、前記反射層を順に備える、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記積層体が、前記抵抗層と、前記バリア接着層と、前記バリア層と、接着層と、前記誘電体層と、接着層と、前記反射層を順に備える、請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記抵抗層のシート抵抗R(Ω/□)と、前記誘電体層の複素誘電率の虚部ε
“と、前記反射角度θ(°)が式1の関係である、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【数1】
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体を備える、建装材。
【請求項6】
内壁の少なくとも一部が請求項5に記載の建装材で覆われている部屋と、前記部屋内に配置された発信器とを備え、前記建装材の表面法線と、前記発信機から入射する電磁波のなす角度が30°から60°である、通信安定室。
【請求項7】
請求項6に記載の通信安定室と、
前記通信安定室内に配置された無線通信装置と、を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速な情報量の増加や移動体の高速化、自動運転、IoT(Internet of Things)の実用化に向け、各々に対応できる通信、レーダー、セキュリティ用のスキャナ等の需要が益々高まっている。これに伴い5G、ミリ波、テラヘルツ波を活用した次世代の電磁波を用いた高速無線通信方式に関する技術が急速に進んでいる。
【0003】
電磁波を利用した製品は、他の電子機器から発生する電磁波と干渉し、誤作動を引き起こすことがある。これを防止するための手段としてλ/4型と称される反射型の電磁波吸収体が知られている。
特許文献1では、モリブデンを含む抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層をこの順で有する積層体をλ/4型電波吸収体とすることで、優れた耐久性を発揮するλ/4型電波吸収体が開示されている。
特許文献2では、インピーダンス整合膜が、金属元素と、非金属元素とを含み、10~200nmの厚みを有し、酸素原子の原子数基準の含有率が50%未満であることで、高温環境に曝されたときにインピーダンス整合の観点からシート抵抗の変化を抑制することを可能にした電波吸収体用インピーダンス整合膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-115578号公報
【特許文献2】特開2020-167414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁波吸収体は、高温高湿な環境下での信頼性試験の時間経過に伴い電磁波吸収体に含まれる抵抗層のシート抵抗自体に変化が生じ、電磁波吸収体の反射減衰量の低下の原因となる。また、特に屋内の通信安定化の為、電磁波吸収体を実装する場面では、電磁波が電磁波吸収体に対し正面の法線方向に沿って垂直に入射する場面は少なく、斜めの角度で入射する傾向があり、入射角度の変化に伴い良好な反射減衰量を与えるシート抵抗の値も変化する課題があった。前記従来の特許文献には係るシート抵抗の変化の下で良好な反射減衰特性を得る課題や解決手段に関する開示はない。
そこで本発明は、反射型の電磁波吸収体に用いられる誘電体層の複素誘電率虚部に着目し、抵抗層のシート抵抗が変化し、または電磁波が斜め入射した場合であっても優れた反射減衰量を維持することを可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の電磁波吸収体の一つは、抵抗層と、誘電体層と、反射層を順に備える積層体であり、前記誘電体層は少なくとも一種の誘電性化合物と、樹脂成分とを含有し、複素誘電率の実部が10以上15以下であり、虚部が1.0以上1.5以下であり、前記抵抗層のシート抵抗が600Ω/□以上2500Ω/□以下であり、反射角度θが30°から70°における電磁波の反射減衰量が25dB以上であるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、抵抗層のシート抵抗が変化し、または電磁波が斜め入射した場合であっても優れた反射減衰量を維持することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第一実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、第二実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、第三実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、第四実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施例1に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例2に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例4に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例5に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例6に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例7に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例8に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例9に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例10に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例11に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図16】
図16は、実施例12に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例13に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図18】
図18は、実施例14に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例15に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例16に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図21】
図21は、比較例1に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図22】
図22は、比較例2に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図23】
図23は、比較例3に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
【
図24】
図24は、誘電体層の複素誘電率虚部と反射減衰量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0010】
本開示において、電磁波吸収体における電磁波が入射する側の表面から空気(外側)に向けた法線方向を基準線にして、入射波の入射方向のなす角度を入射角度(°)、反射波の反射方向のなす角度を反射角度(°)という。特に断りのない限り前記基準線から時計回りを正方向、反時計回りを負方向とする。所定の電磁波に関する入射角と反射角は等しい。
【0011】
<電磁波吸収体>
[第一実施形態]
以下、第一実施形態に係る電磁波吸収体について説明する。
図1は、第一実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。この図に示す電磁波吸収体10はフィルム状又はシート状であり、抵抗層1と、誘電体層2と、反射層3とをこの順に備える積層体である。なお、フィルム状の電磁波吸収体10は、例えば、全体の厚さが24~250μmである。他方、シート状の電磁波吸収体10は、例えば、全体の厚さが0.25~7.1mmである。
【0012】
(抵抗層)
抵抗層1は外側から入射してきた電磁波を誘電体層2へと至らしめるための層である。すなわち、抵抗層1は、インピーダンスマッチングをするための層である。
【0013】
電磁波吸収体が空気(インピーダンス:377Ω/□)中で使用され、複素誘電率の虚部が0.1以下であるような誘電体層の場合、抵抗層1のシート抵抗は、例えば、反射減衰量を10dB以上得る為に、200Ω/□以上800Ω/□以下の範囲に設定される。
これに対し本実施形態によれば、誘電体層の複素誘電率の実部を10以上15以下、虚部を1.0以上1.5以下とすることで、600Ω/□以上2500Ω/□以下の範囲に対しても、30°~70°の入射角/反射角にたいして高い反射減衰を得ることができる為、安定した製造が可能となり、かつ信頼性試験の際に抵抗層のシート抵抗が増加しても従来よりも高い反射減衰量の電磁波吸収体が得られる。
ここで、信頼性試験は、JIS規格、ISO規格、ASTM規格に記載のある、高温試験、低温試験、高温高湿試験、ヒートサイクル試験、光照射試験、曲げ試験、衝撃試験、などが挙げられる。特に、85℃85%RHで行われる高温高湿試験は、他の試験に比べシート抵抗が大きく増加する。
【0014】
発明者は後述するシミュレーションによる具体的な数値を用いて、抵抗層1のシート抵抗Rが式1を満たすと、反射減衰量25dB以上の電磁波吸収体が得られることを帰納的に見出した。
【数1】
ここで、ε
“は誘電体層2における複素誘電率の虚部であり、θ(°)は、入射角度・反射角度である。
【0015】
抵抗層1は、導電性を有する無機材料や有機材料を含有する。導電性を有する無機材料としては、例えば、ナノ粒子及びナノワイヤーが挙げられる。ナノ粒子及びナノワイヤーの材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、カーボンナノチューブ、グラフェン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-Au及びNiが挙げられる。導電性を有する有機材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体及びポリピロール誘導体が挙げられる。抵抗層1は、特に柔軟性、成膜性、安定性、シート抵抗の観点から、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含む導電性ポリマーが好ましい。抵抗層1は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PPS)との混合物(PEDOT/PSS)を含むものであってもよい。
【0016】
抵抗層1のシート抵抗値は、導電性材料の体積抵抗率ρ(Ω・m)、導電性材料の厚さt(m)とすると、導電性材料のシート抵抗σ=ρ/tで与えられる。したがって、導電性を有する無機材料や有機材料の選定、膜厚の調節によって適宜設定することができる。抵抗層1が無機材料で構成される場合、抵抗層1の厚さ(膜厚)は、0.1nm~100nmの範囲内とすることが好ましく、1nm~50nmの範囲内とすることがより好ましい。膜厚が0.1nm以上であると、均一な膜を形成しやすく、抵抗層1としての機能をより十分に果たすことができる傾向がある。一方、膜厚が100nm以下であると、十分なフレキシビリティを保持することができ、製膜後に折り曲げ、引張などの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができ且つ基材への熱による損傷や収縮を抑える傾向がある。抵抗層1が有機材料で構成される場合、抵抗層1の厚さ(膜厚)は、0.1~2.0μmの範囲内とすることが好ましい。特にシート抵抗範囲が450Ω/□以上の場合であっても、体積抵抗率が8.0×10-5~4.0×10-3Ω・mとすることで、膜厚を0.15~0.5μm、さらに0.15~0.2μmとすることができ、信頼性試験の際のシート抵抗変化を抑制することができ、反射減衰量10dB以上の電磁波吸収体を得る事が出来る。一方、膜厚が2.0μm以下であると、十分な柔軟性を保持させることができ、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じることをより確実に防ぐことができる傾向がある。
【0017】
製膜方法として、ドライコーティング方法とウェットコーティング方法が挙げられる。
【0018】
ドライコーティング方法は、主に抵抗加熱や誘導加熱、イオンビーム(EB)を用いた真空蒸着方式や、スパッタリング方式、等が挙げられる。抵抗加熱方式は、材料をセラミック製のるつぼに入れ、るつぼを取り巻くヒーターに電圧を印加させることで電流を流し、真空中でるつぼを加熱することで開口部から無機材料を蒸発させ、基材に付着させることで製膜する。材料と基材間距離、ヒーターに印加する電圧、電流を制御することで製膜速度を調整し、バッチ製膜であればシャッターの開閉時間やロール製膜であればライン速度などで製膜時間を制御することで、膜厚を制御する。イオンビームは、真空中でフィラメントに電流を流す事で電子を放出させ、電磁レンズで放出した電子を材料に直接当てることで、無機材料を加熱、蒸発させ、基材に付着させることで製膜する。蒸発させる為に、大きな熱量が必要な無機材料や大きな製膜レートが必要な場合に用いられる。材料と基材間距離、電流でフィラメントから発生させる電子量と電磁レンズで材料の照射位置や範囲(しぼり)を制御し、製膜速度を調整し、前記同様シャッターの開閉時間やライン速度で製膜時間を制御し、膜厚を制御する。スパッタリング方式は、無機材料からなるターゲット上に、主にArなどの希ガスを導入し、電圧を印加することでArをプラズマ化させ、プラズマ化したArを電圧で加速させターゲットに衝突させることで、材料を物理的に弾き飛ばし(スパッタリング)、基材に付着させることで製膜する。真空蒸着方式では製膜できない無機材料もスパッタリング方式であれば製膜可能な場合がある。ターゲットと基材間距離や、ターゲットに印加する電力、Arガス圧、を制御し、製膜速度を調整し、前記同様シャッターの開閉時間やライン速度で製膜時間を制御し、膜厚を制御する。主に無機材料を製膜する際に用いられる。
【0019】
ウェットコーティング方法は、主に材料を基材に塗布する方法で、常温常圧下で固体の材料は、適宜溶媒に溶解、又は分散によりインキ化し、塗工した後、乾燥により溶媒を除去し製膜する。塗布方法はダイコート、マイクログラビアコート、ロッドグラビアコート、グラビアコート、等が挙げられる。共通してインキの固形分とダイコートであればダイヘッド開口部のギャップ、基材、コーターヘッド間のギャップ、マイクログラビアコートとロッドグラビアコート、グラビアコートであれば、版の線数、深さ、版回転比、を制御し基材にインキを塗工、乾燥し膜厚を製膜する。主に有機材料と一部の無機分散材料を製膜する際に用いられる。
【0020】
抵抗層1のシート抵抗値は例えばロレスターGP MCP-T610(商品名、株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて測定することができる。
【0021】
(誘電体層)
誘電体層2は、入射する電磁波と反射した電磁波を干渉により相殺させるために位相を調整する層である。誘電体層2は、簡単には以下の式で表される条件を満たすように厚さ等が設定されている。
d=λ/(4(ε‘)1/2)
式中、λは抑制すべき電磁波の波長(単位:m)を示し、ε‘は誘電体層2を構成する材料の複素誘電率の実部、dは誘電体層2の厚さ(単位:m)を示す。入射する電磁波の位相と反射した電磁波の位相がπずれることで反射減衰が得られる。
【0022】
発明者は、後述するように、抵抗層のシート抵抗と誘電体層の複素誘電率の実部を一定にして、虚部を増加させると、所定の入射角度・反射角度での反射減衰量が概ね増大する傾向を見出した。このことはシート抵抗が変化する場合でも、虚部に着目することで斜め入射の場合の良好な反射減衰特性を維持する設計を可能にする。
【0023】
誘電体層2を構成する樹脂組成物は、少なくとも一種の誘電性化合物と、樹脂成分とを含有する。樹脂組成物における誘電性化合物の選択及びその含有量に応じて、誘電体層2の複素誘電率虚部及び実部を調整することができる。樹脂組成物100体積部に対し、誘電性化合物の含有量は、好ましくは10~300体積部であり、より好ましくは25~100体積部である。樹脂組成物100質量部に対し、誘電性化合物の含有量は、好ましくは10~900質量部であり、より好ましくは25~100質量部である。樹脂組成物における誘電性化合物の含有量が下限値以上であることで、誘電体層2の複素誘電率虚部を0.5以上にできる傾向にあり、配合比を増加させることで複素誘電率の虚部を増加させることができる。他方、上限値以下であることで、ウエットコーテイング法又は押出し成形によって誘電体層2を効率的に製造する傾向にある。
例えば、樹脂組成物をウレタン樹脂、誘電性化合物をチタン酸バリウムとした場合、ウレタン樹脂100体積部に対しチタン酸バリウム22体積部、即ちウレタン樹脂100質量部に対し、チタン酸バリウム132質量部の場合、複素誘電率の虚部は0.5となる。またウレタン樹脂100体積部に対しチタン酸バリウム30体積部、即ちウレタン樹脂100質量部に対し、チタン酸バリウム180質量部の場合、複素誘電率の虚部は1.0となる。またウレタン樹脂100体積部に対しチタン酸バリウム35体積部、即ちウレタン樹脂100質量部に対し、チタン酸バリウム210質量部の場合、複素誘電率の虚部は1.5となる。
また、誘電性化合物の含有量を増加させることで耐延焼性を増加させることもできる。
【0024】
誘電性化合物として、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ネオジウム酸バリウム(Ba3Nd9.3Ti18O54)、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、フォルステライト(Mg2SiO4)、酸化アルミニウム(Al2O3)、ニオブ酸マグネシウム酸バリウム(Ba(Mg1/3Nb2/3)O3)などの金属化合物やカーボンが挙げられる。
特にチタン酸バリウムとカーボンは複素誘電率の虚部を大きく増加させることができるため、好ましい。
また、金属化合物とカーボンを混合してもよい。混合により、複素誘電率虚部の増加に加え、耐延焼性を向上させることができる。
【0025】
誘電性化合物の態様は粉末(例えば、ナノ粒子)であることが好ましい。粒形は0.3~1μmであると、大きな複素誘電率の実部や虚部が得られ、含有量を増加させてもフィルムが破断することなく形状を維持することができ、ウエットコーティング法又は押出し成形によって誘電体層2を効率的に製造できる。
【0026】
樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メタクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、クリブタル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルホルマール、フェノール樹脂、ユリア樹脂及びポリクロロブレン樹脂が挙げられる。
樹脂成分の溶解度パラメータ(SP値)は高いほど、誘電性化合物混合時に複素誘電率虚部を大きくできる。誘電性化合物の複素誘電率虚部を0.5以上とする為の樹脂成分のSP値は好ましくは8以上であり、より好ましくは9以上であり、更に好ましくは10以上である。
樹脂成分の複素誘電率実部は10~15であり、好ましくは10~12であり、より好ましくは12~13であり、更に好ましくは13~15である。
【0027】
樹脂組成物は粘着性を有することが好ましい。これにより、反射層3の表面に対して誘電体層2を効率的に貼り付けることができる。かかる材料として、例えば、シリコーン粘着剤、アクリル粘着剤及びウレタン粘着剤が挙げられる。これらの材料を上記樹脂成分として使用してもよいし、これらの材料で構成される粘着層を誘電体層2の少なくとも一方の面上に形成してもよい。樹脂組成物自体又は粘着層のステンレス304鋼板に対する粘着力は、好ましくは1.0N/25mm以上であり、3.0~10.0N/25mm又は10.0~15.0N/25mmであってもよい。
【0028】
(反射層)
反射層3は、誘電体層2から入射してきた電磁波を反射させ、誘電体層2へと至らしめるための層である。反射層3の厚さは、例えば、0.1nm~1mmであり、0.1nm~10μmの薄膜又は0.01~0.2mmの箔、0.2mm~1mmの板であってもよい。
【0029】
反射層3は、導電性を有する無機材料や有機材料を含有する。導電性を有する無機材料としては、例えば、ナノ粒子及びナノワイヤーが挙げられる。ナノ粒子及びナノワイヤーの材料としては、例えば、酸化ンジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛アルミニウム(AZO)、カーボンナノチューブ、グラフェン、Ag、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、Ag-Cu、Cu-Au及びNiが挙げられる。導電性を有する有機材料としては、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリアニリン誘導体及びポリピロール誘導体が挙げられる。また導電性を有する無機材料や有機材料を基材上に製膜してもよい。特に柔軟性、成膜性、安定性、シート抵抗、低コストの観点から、PETフィルムと、その表面に蒸着されたアルミニウム層とを備える積層フィルム(Al蒸着PETフィルム)を反射層として用いることが好ましい。反射層3のシート抵抗は、100Ω/□以下であってよい。
【0030】
電磁波吸収体10の最大反射減衰量は、10dB以上、20dB以上、又は30dB以上であってよい。
【0031】
[第二実施形態]
以下、第二実施形態に係る電磁波吸収体について説明する。以下で説明がない点については、不整合が生じない限り、第一実施形態に係る電磁波吸収体と同様である。
図2は、第二実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。この図に示す電磁波吸収体20は、保護層4と、抵抗層1と、誘電体層2と、反射層3とをこの順に備える積層体である。
【0032】
(保護層4)
保護層4は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;ポリプロピレン及びシクロオレフィン等のポリオレフィン;ポリカーボネート;並びにトリアセチルセルロース、エチレンテトラフルオロエチレン;ポリクロロテトラフルオロエチレン;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、等が挙げられるが、これらに限定されない。保護層4は、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム又はポリオレフィンフィルムであることが好ましく、ポリエステルフィルム又はポリアミドフィルムであることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)であることが更に好ましい。PETフィルムは、加工適性及び密着性の観点から望ましい。また、PETフィルムは、ガスバリア性の観点から、二軸延伸PETフィルムであることが好ましい。更に前述したPETフィルムにコーティング膜や蒸着膜を形成したバリアフィルムでも良い。
【0033】
保護層4の厚さは、例えば、11~13μm、49~51μm、74~76μm、又は95~110μmであってもよい。
【0034】
抵抗層1は、保護層4上に形成してもよく、保護層4が最表面にあってもよく、抵抗層1が最表面にあってもよい。保護層4が最表面にあると水蒸気や酸素等、外部環境による抵抗層1のシート抵抗増加を抑制することができる。
【0035】
保護層4の表面には、木目調やタイルなど意匠性のあるデザインが形成されていてもよい。
【0036】
以上、第一実施形態及び第二実施形態に係る電磁波吸収体について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、電磁波吸収体20において、保護層4と、抵抗層1との間に、下地層を設けてよい。これにより、電磁波吸収体は、保護層及び抵抗層の密着性が向上し、また、保護層の塗工性が向上する傾向にある。また、電磁波吸収体20において、保護層4の抵抗層1と接する表面とは反対側の表面にオーバーコート層が設けられていてもよい。これにより、マイグレーションが抑制される傾向にあり、また、保護層4を保護できる。
【0037】
[第三実施形態]
以下、第三実施形態に係る電磁波吸収体について説明する。以下で説明がない点については、不整合が生じない限り、第一、第二実施形態に係る電磁波吸収体と同様である。
図3は、第三実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。この図に示す電磁波吸収体30は、保護層4と、抵抗層1と、バリア接着層5と、バリア層6と、誘電体層2と、反射層3とをこの順に備える積層体である。バリア接着層5とバリア層6を備える事によって、誘電体層2による抵抗層1の抵抗増加を抑制し、反射減衰量が大きく帯域幅が広い電磁波吸収体が得られる。
【0038】
(バリア接着層)
バリア接着層5は、抵抗層1の抵抗を上昇させることなく、バリア層6と密着させる為の層である。
【0039】
バリア接着層5の厚さは、吸収周波数と密着力に応じ適宜されることが好ましい。即ち、0.5μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上25μm以下であることがより好ましい。この厚さが0.5μm以上であると十分な密着力が得られ、100μm以下であると電磁波吸収体の総厚を薄くすることができる。
【0040】
バリア接着層5は、例えば、アクリル系接着剤や粘着剤、シリコーン系接着剤や粘着剤、ポリオレフィン系接着剤や粘着剤、ウレタン系接着剤や粘着剤、又はポリビニルエーテル系接着剤や粘着剤等が挙げられる。このうち、シリコーン系粘着剤は、透明性、耐湿熱性が高く、信頼性試験下においても密着力を低下させることなく、かつ抵抗層1の抵抗上昇が小さい為、好ましい。バリア接着層5のシート抵抗値は十分に高いことが好ましく、例えば、1.0×106Ω/□以上であることが好ましい。バリア接着層5のシート抵抗値が1.0×106Ω/□以上であることで、抵抗層1から入射してきた電磁波がバリア
接着層5の表面で反射することを抑制することができる。
【0041】
(バリア層)
バリア層6は、誘電体層2による抵抗層1の抵抗増加を抑制させる為の層である。バリア層6のシート抵抗値は十分に高いことが好ましく、例えば、1.0×106Ω/□以上であることが好ましい。バリア層6のシート抵抗値が1.0×106Ω/□以上であることで、抵抗層1から入射してきた電磁波がバリア層6の表面で反射することを抑制することができる。
【0042】
バリア層6の酸素透過度は、好ましくは4.0×102cc/m2・day・atm以下であり、より好ましくは1.0×101cc/m2・day・atm以下であり、更に好ましくは1.0×10-1cc/m2・day・atm以下である。酸素透過度は、JIS K7126-2に記載の方法に準拠し、温度30℃、相対湿度70%の条件下で測定される値を意味する。
【0043】
バリア層6の水蒸気透過度は、好ましくは1.0×102g/m2・day以下であり、より好ましくは1.0×101g/m2・day以下であり、更に好ましくは2.0×10-1g/m2・day以下である。水蒸気透過度は、JIS K7129Bに記載の方法に準拠し、温度40℃、相対湿度90%の条件下で測定される値を意味する。
【0044】
バリア層6の厚さは、吸収周波数と酸素透過度、水蒸気透過度に応じ適宜されることが好ましいが、3μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上25μm以下であることがより好ましい。この厚さが3μm以上であると加工が容易であり、100μm以下であると電磁波抑制体の総厚を薄くすることができる。なお、バリア層6は、必要に応じて、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤及び滑り剤等の添加剤を含んでいてもよい。バリア層の表面は、コロナ処理、フレーム処理及びプラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0045】
バリア層6は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;ポリプロピレン及びシクロオレフィン等のポリオレフィン;ポリカーボネート;並びにトリアセチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。バリア層6は、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム又はポリオレフィンフィルムであることが好ましく、ポリエステルフィルム又はポリアミドフィルムであることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)であることが更に好ましい。PETフィルムは、加工適性及び密着性の観点から望ましい。また、PETフィルムは、ガスバリア性の観点から、二軸延伸PETフィルムであることが好ましい。
【0046】
バリア層6は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン等のポリアミド;ポリプロピレン及びシクロオレフィン等のポリオレフィン;ポリカーボネート;並びにトリアセチルセルロース等の基材フィルム上に蒸着層とバリア性被覆層とをこの順序で含む積層構造であってもよい。バリア性被覆層は蒸着層を覆うように設けられている。バリア性被覆層は、後工程での二次的な各種損傷を防止するとともに、高いバリア性を付与するために設けられるものである。バリア性被覆層の厚さは、50~2000nmであることが好ましく、100~1000nmであることがより好ましい。バリア性被覆層の厚さが50nm以上であると、膜形成がしやすくなる傾向があり、他方、2000nm以下であると、割れ又はカールを抑制できる傾向がある。
【0047】
バリア性被覆層は、シロキサン結合を含んでいてもよい。シロキサン結合を含む化合物は、例えば、シラン化合物を用い、シラノール基を反応させて形成されることが好ましい。このようなシラン化合物としては、下記式2で表される化合物が挙げられる。
R1n(OR2)4-nSi …(式2)
[式中、nは0~3の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
上記式2で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、及びジメチルジエトキシシラン等が挙げられる。窒素を含むポリシラザンを使用してもよい。
【0048】
バリア性被覆層には、他の金属原子からなる前駆体から作られる材料を使用してもよい。Ti原子を含む化合物としては、例えば、下記式3で表される化合物が挙げられる。
R1n(OR2)4-nTi …(式3)
[式中、nは0~3の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
上記式3で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、及びテトラブトキシチタニウム等が挙げられる。
【0049】
Al原子を含む化合物としては、例えば、下記式4で表される化合物が挙げられる。
R1m(OR2)3-mAl …(式4)
[式中、mは0~2の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
上記式4で表される化合物としては、例えば、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、及びトリブトキシアルミニウム等が挙げられる。
【0050】
Zr原子を含む化合物としては、例えば、下記式5で表される化合物が挙げられる。
R1n(OR2)4-nZr …(式5)
[式中、nは0~3の整数を示し、R1及びR2はそれぞれ独立に炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示す。]
上記式5で表される化合物としては、例えば、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、及びテトラブトキシジルコニウム等が挙げられる。
【0051】
バリア性被覆層は、大気中で形成することもできる。バリア性被覆層を大気中で形成する場合は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルアルコールのような極性を持つ化合物、ポリ塩化ビニリデン等の塩素を含む化合物、及びSi原子を含む化合物、Ti原子を含む化合物、Al原子を含む化合物、Zr原子を含む化合物等を含有する塗布液を蒸着層上に塗布し、乾燥硬化させることで形成することができる。バリア性被覆層を大気中で形成する際の塗布液の塗布方法としては、具体的には、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、及びダイコーター等による塗布方法が挙げられる。上記塗布液は塗布後、硬化される。硬化方法としては、特に限定されないが、紫外線硬化及び熱硬化等が挙げられる。
紫外線硬化の場合、塗布液は重合開始剤及び二重結合を有する化合物を含んでいてもよい。また必要に応じて、加熱エージングがされてもよい。
【0052】
バリア性被覆層を大気中で形成する別の方法として、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムなどの無機酸化物の粒子同士が、リン化合物に由来するリン原子を介して脱水縮合することで得られる反応生成物をバリア性被覆層とする方法を用いることもできる。具体的には、無機酸化物の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と、無機酸化物と反応可能なリン化合物の部位(例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子や、リン原子に直接結合した酸素原子)とが、縮合反応を起こし、結合する。反応生成物は、例えば、無機酸化物とリン化合物とを含む塗布液を蒸着層の表面に塗布し、形成した塗膜を熱処理することにより、無機酸化物の粒子同士が、リン化合物に由来するリン原子を介して結合する反応を進行させることで得られる。熱処理の温度の下限は、110℃以上であり、120℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることが更に好ましい。熱処理温度が低いと、十分な反応速度を得ることが難しくなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材の種類などによって異なるが、220℃以下であり、190℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気中、窒素雰囲気下、又はアルゴン雰囲気下などで実施することができる。
【0053】
バリア性被覆層を大気中で形成する場合は、凝集等しない限り、上記塗布液は更に樹脂を含んでいてもよい。上記樹脂としては、具体的にはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。上記塗布液は、これらの樹脂のうち、塗布液中の他の材料との相溶性が高い樹脂を含むことが好ましい。上記塗布液は、更に、フィラー、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、並びに、シランカップリング剤及びチタンキレート剤等を必要に応じて含んでいてもよい。
【0054】
[第四実施形態]
以下、第四実施形態に係る電磁波吸収体について説明する。以下で説明がない点については、不整合が生じない限り、第一~第三実施形態に係る電磁波吸収体と同様である。
図4は、第四実施形態に係る反射型の電磁波吸収体を模式的に示す断面図である。この図に示す電磁波吸収体40は、保護層4と、抵抗層1と、バリア接着層5と、バリア層6と、接着層7と、誘電体層2と、接着層7と、反射層3とをこの順に備える積層体である。
【0055】
(接着層)
接着層7は、誘電体層2に接着性、粘着性が無い場合、バリア層6と反射層3と密着させる為の層である。
【0056】
接着層7の厚さは、吸収周波数と密着力に応じ適宜されることが好ましい。即ち0.5μm以上100μm以下であることが好ましく、3μm以上25μm以下であることがより好ましい。この厚さが0.5μm以上であると十分な密着力が得られ、100μm以下であると電磁波抑制体の総厚を薄くすることができる。
【0057】
接着層7は、例えば、アクリル系接着剤や粘着剤、エポキシ系接着剤や粘着剤、シリコーン系接着剤や粘着剤、ポリオレフィン系接着剤や粘着剤、ウレタン系接着剤や粘着剤、又はポリビニルエーテル系接着剤や粘着剤等が挙げられる。
【0058】
<電磁波吸収体の製造方法>
[第一実施形態]
以下、第一実施形態に係る電磁波吸収体10の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、溶融した状態の熱可塑性樹脂を含む組成物を押出すことで誘電体層2を形成する工程を備える。
【0059】
抵抗層1の製膜方法は、抵抗層1を構成する材質によって適宜選択されることが好ましい。例えば、材質が有機材料であれば、ウェットコーテイング法が好ましく、材質が無機材料であればドライコーテイング法が好ましい。ウエットコーティング法としては、例えば、ダイコーター、マイクログラビアコーター、キスリバースコーター及びリップコーターが挙げられる。ドライコーティング法としては、例えば、抵抗加熱蒸着、イオンビーム(EB)法及びスパッタリング法が挙げられる。抵抗層1は、誘電体層2の表面状に直接形成してよい。
【0060】
熱可塑性樹脂としては、誘電体層2を構成する有機材料として例示した樹脂のうち、熱可塑性樹脂であるものを用いてよい。
【0061】
電磁波吸収体10は、抵抗層1と、反射層3と、を誘電体層2により貼り合わせることで製造されてもよく、抵抗層1及び誘電体層2を備える積層体と、反射層3と、を積層体の誘電体層2及び反射層3が対向するように貼り合わせることで製造されてもよい。
【0062】
[第二実施形態]
以下、第二実施形態に係る電磁波吸収体20の製造方法について説明する。以下で説明がない点については、不整合が生じない限り、第一実施形態に係る電磁波吸収体10の製造方法と同様である。
【0063】
抵抗層1の製膜方法は、抵抗層1を構成する材質によって適宜選択されることが好ましい。例えば、材質が有機材料であれば、ウェットコーテイング法が好ましく、材質が無機材料であればドライコーテイング法が好ましい。ウエットコーティング法としては、例えば、ダイコーター、マイクログラビアコーター、キスリバースコーター及びリップコーターが挙げられる。ドライコーティング法としては、例えば、抵抗加熱蒸着、イオンビーム(EB)法及びスパッタリング法が挙げられる。抵抗層1は、保護層4の表面上に直接形成してよい。
【0064】
誘電体層2は、ウェットコーティングにより形成される。ウェットコーティングは、誘電体層2を構成する材料が分散した分散液を基材上に塗工して塗膜を形成し、塗膜を乾燥させることで行われてよい。ウェットコーティングの方法としては、グラビアコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、コンマコーテイング及びナイフコーティングなどが挙げられ、分散液の塗工及び塗膜の乾燥という操作が1回であっても十分な厚さの誘電体層が形成できる傾向にあることから、コンマコーティング、ナイフコーティング及びロールコーティングであることが好ましい。誘電体層2は、抵抗層1の表面上に直接形成してもよいし、反射層3の表面上に直接形成してもよいし、一時的に誘電体層2に用いる材料に対し離形性のある材料が表面に形成された離形フィルム上に形成した後、誘電体層2と、反射層3をラミネート法で貼合し、離形フィルムを剥離し、保護層4の表面上に形成された抵抗層1と貼合してもよい。
【0065】
ウェットコーティングにおいて、分散液の塗工及び塗膜の乾燥という操作は、1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0066】
[第三実施形態]
以下、第三実施形態に係る電磁波吸収体30の製造方法について説明する。以下で説明がない点については、不整合が生じない限り、第一、第二実施形態に係る電磁波吸収体10、20の製造方法と同様である。本実施形態に係る製造方法は、ウェットコーティングにより誘電体層2を形成する工程を備える。
【0067】
第一実施形態と同様の方法で作製した抵抗層1とバリア層6をバリア接着層5で貼合する。貼合方法は例えば、バリア層6の表面にグラビアコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、コンマコーティング及びナイフコーティングなどのウェットコーティング法で塗工及び塗膜の乾燥を行い形成したバリア接着層5に、抵抗層1をラミネートロールで直接貼合するドライラミネート法、または、前記ドライラミネート法でシリコーンやフッ素樹脂で形成された離形フィルムを一方の面に一時的に貼合した後、離形フィルムを剥がし、バリア接着層5に抵抗層1をラミネート法で貼合する方法がある。
【0068】
更に、反射層3上に、接着、粘着性を有する誘電体層2で、抵抗層1、バリア接着層5、バリア層6の順に備える積層体のバリア層6上に、同様のドライラミネート法で貼合する。
【0069】
[第四実施形態]
以下、第四実施形態に係る電磁波吸収体40の製造方法について説明する。以下で説明がない点については、不整合が生じない限り、第一~第三の実施形態に係る電磁波吸収体10、20、30の製造方法と同様である。本実施形態に係る製造方法は、溶融した状態の熱可塑性樹脂を含む組成物を押出すことで誘電体層2を形成する工程を備える。
【0070】
反射層3にグラビアコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、コンマコーティング及びナイフコーティングなどのウェットコーティング法で塗工及び塗膜の乾燥を行い接着層7を形成し、第一実施形態と同様の方法で作製した誘電体層2をドライラミネート法で貼合した。
【0071】
次に、第三実施形態と同様の方法で作製した抵抗層1、バリア接着層5、バリア層6を順に備える積層体のバリア層6の表面に、グラビアコーティング、ロールコーティング、ダイコーティング、コンマコーティング及びナイフコーティングなどのウェットコーティング法で塗工及び塗膜の乾燥を行い接着層7を形成し、誘電体層2、接着層7、反射層3を順に備える積層体の誘電体層2の表面を、ドライラミネート法で貼合する。
【0072】
<実施例>
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
<反射減衰特性のシミュレーション>
実施例1~16、及び比較例1~3に関しては、反射減衰特性をシミュレーションで導き出し、誘電体層の複素誘電率虚部が反射減衰特性に与える影響などを評価した。シミュレーションソフトは、λ/4型電波吸収体における反射減衰特性を導出する理論とアルゴリズム(「電波吸収体入門」、橋本修著、森北出版、1997年、58~62、128~134頁参照)に基づいて内製したものを使用した。シミュレーションでは、層構成を電磁波の入射側から順に、保護層、抵抗層、バリア接着層、バリア層、接着層、誘電体層、接着層、反射層(支持体PET、Al蒸着層(短絡))とした。
【0074】
<特性評価>
実施例及び比較例について、電磁波吸収体を構成する積層体の各層における厚みや複素誘電率や入射・反射角度の設定値と反射減衰特性をシミュレーションで評価した結果を表1に示した。反射減衰特性は、反射減衰量が最大になるときの周波数(GHz)と最大減衰量(dB)を、電磁波吸収体を作製した当初(初期)の値で示している。
【表1】
↑は同上であることを表す。
【0075】
図5は、実施例1に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
図6~
図20も実施例2~16に関し実施例1と同様であるので説明を省略する。また
図21は、比較例1に係る電磁波吸収体の反射減衰特性を示すグラフである。
図22、
図23も比較例2、3に関し比較例1と同様であるので説明を省略する。
実施例及び比較例から明らかなように、誘電体層の複素誘電率の実部が10以上15以下であり、虚部が1.0以上1.5以下であり、抵抗層のシート抵抗範囲が600Ω/□以上2500Ω/□以下である電磁波吸収体に対し、入射・反射角度が30°から70°における電磁波の反射減衰量が25dB以上の良好な特性を有することが見出された。
【0076】
誘電体層の複素誘電率の虚部の反射減衰特性に与える影響について、実施例12と実施例16のシミュレーションを例にとって説明する。
図24は、誘電体層の複素誘電率虚部と反射減衰量の関係を示すグラフである。
図24(a)は、抵抗層のシート抵抗が2500Ω/□、誘電体層の複素誘電率実部が15、虚部が0.5の場合の電磁波の反射減衰量の等高線を、横軸を周波数、縦軸を入射・反射角度として表したものである。
図24(b)は、虚部を1.5にした場合の同様の反射減衰特性を表したものである。虚部が増加すると、概ね反射減衰量の等高線の高さが上がり、すそ野が広がる傾向が見出された。すなわち所定の入射角度・反射角度での反射減衰量が概ね増大し、所定の反射減衰量が得られる入射角度・反射角度の範囲が概ね広がる傾向があることが分かる。
【0077】
さらに発明者は、実施例によるシミュレーション結果から得られた具体的な数値を用いて、抵抗層のシート抵抗Rが式1を満たすと、反射減衰量25dB以上の電磁波吸収体が得られることを帰納的に見出した。
【数2】
ここで、ε
“は誘電体層における複素誘電率の虚部であり、θ(°)は、入射角度・反射角度である。
【0078】
<適用事例>
第一~第四実施形態に係る電磁波吸収体10、20、30、40は、様々な物品に適用可能である。物品の具体例として、建装材(例えば、鏡面化粧板、フロアシート及び化粧フィルム)や産業資材(例えば、路面部材、ガードレール、道路標識及び防音壁)が挙げられる。第一~第四実施形態に係る電磁波吸収体10、20、30、40を建装材に適用することで、例えば、オフィスビルや集合住宅で、5G、6Gなどの電磁波を用いた高速無線通信を使用する場合であっても、良好な反射減衰量を実現することで5G、6G本来の通信速度を維持できる。具体的には、内壁の少なくとも一部が第一~第四実施形態に係る電磁波吸収体10、20、30、40を備えた前記建装材で覆われている部屋と、前記部屋内に配置された発信器とを備え、前記建装材の表面法線 と、前記発信機から入射する電磁波のなす角度が30°から60°である通信安定室であれば係る効果を期待できる。ただし前記角度範囲の入射波を受ける建装材表面は部分的に存在するものでもよい。また前記通信安定室と当該通信安定室内に配置された無線通信装置とを備えるシステムであれば、同様の効果を期待できるとともに、直接波のみを受信することができ、S/N比が高い安定したシステムを構築することができる。さらには前記通信安定室または前記システムが形成する空間で良好な反射減衰量が実現された通信安定空間を提供することも可能である。この他例えば、第一~第四実施形態に係る電磁波吸収体10、20、30、40を産業資材に適用することで、電磁波の散乱やノイズを抑制することができ、自動運転の安全性向上に寄与できる。
【0079】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0080】
本発明の内容となり得る項目を以下に述べる、ただしこれに限られるものではない。
(項目1)
抵抗層と、誘電体層と、反射層を順に備える積層体であり、
前記誘電体層は少なくとも一種の誘電性化合物と、樹脂成分とを含有し、複素誘電率の実部が10以上15以下であり、虚部が1.0以上1.5以下であり、
前記抵抗層のシート抵抗が600Ω/□以上2500Ω/□以下であり、
反射角度θが30°から70°における電磁波の反射減衰量が25dB以上である、電磁波吸収体。
(項目2)
前記積層体が、前記抵抗層と、バリア接着層と、バリア層と、前記誘電体層と、前記反射層を順に備える、項目1に記載の電磁波吸収体。
(項目3)
前記積層体が、前記抵抗層と、前記バリア接着層と、前記バリア層と、接着層と、前記誘電体層と、接着層と、前記反射層を順に備える、項目2に記載の電磁波吸収体。
(項目4)
前記抵抗層のシート抵抗R(Ω/□)と、前記誘電体層の複素誘電率の虚部ε
“と、前記反射角度θ(°)が式1の関係である、項目1~3のいずれか一つに記載の電磁波吸収体。
【数3】
(項目5)
項目1~4のいずれか一つに記載の電磁波吸収体を備える、建装材。
(項目6)
内壁の少なくとも一部が項目5に記載の建装材で覆われている部屋と、前記部屋内に配置された発信器とを備え、前記建装材の表面法線と、前記発信機から入射する電磁波のなす角度が30°から60°である、通信安定室。
(項目7)
項目6に記載の通信安定室と、
前記通信安定室内に配置された無線通信装置と、を備えるシステム。
【符号の説明】
【0081】
1…抵抗層、2…誘電体層、3…反射層、4…保護層
5…バリア接着層、6…バリア層、7…接着層
10、20、30、40…電磁波吸収体