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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184469
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】テレフタル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/09 20060101AFI20231221BHJP
   C07C 51/42 20060101ALI20231221BHJP
   C07C 63/26 20060101ALI20231221BHJP
   C12P 7/44 20060101ALI20231221BHJP
   B01D 9/02 20060101ALI20231221BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C07C51/09
C07C51/42
C07C63/26 G
C12P7/44
B01D9/02 601G
B01D9/02 602E
B01D61/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095233
(22)【出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022096984
(32)【優先日】2022-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 篤生
(72)【発明者】
【氏名】栗原 宏征
【テーマコード(参考)】
4B064
4D006
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AD21
4B064CA06
4B064CB03
4B064CC24
4B064CE06
4B064DA16
4D006GA07
4D006HA01
4D006HA41
4D006KA12
4D006KB14
4D006KD17
4D006KE15R
4D006MA22
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC11
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC39
4D006MC45
4D006MC49
4D006MC54
4D006MC62
4D006PA01
4D006PB12
4D006PB34
4D006PC80
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC46
4H006AC91
4H006AD19
4H006BA69
4H006BC16
4H006BJ50
4H006BN10
4H006BS30
(57)【要約】
【課題】
着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルをケミカルリサイクルする際に副生する着色物質を簡便かつ高効率に除去し、高品質なテレフタル酸を製造する技術を提供する。
【解決手段】
以下の工程(a)および(b)を含む、テレフタル酸の製造方法。
(a)着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルを加水分解する工程
(b)工程(a)で得られた加水分解物を、細孔径が0.005μm以上0.45μm未満の分離膜に通じて濾過し、非透過液側に着色物質を除去し、透過液としてテレフタル酸を含む水溶液を得る工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)および(b)を含む、テレフタル酸の製造方法。
(a)着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルを加水分解する工程
(b)工程(a)で得られた加水分解物を、細孔径が0.005μm以上0.45μm未満の分離膜に通じて濾過し、非透過液側に着色物質を除去し、透過液としてテレフタル酸を含む水溶液を得る工程
【請求項2】
前記分離膜の細孔径が0.01μm以上0.30μm以下である、請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)で除去される着色物質が水溶性着色物質を含む、請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)で除去される着色物質がアゾ染料由来の着色物質である、請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項5】
前記工程(a)がテレフタル酸系ポリエステルを酵素またはアルカリ処理により加水分解する工程である、請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項6】
前記工程(a)がテレフタル酸系ポリエステルをpH7以上で加水分解する工程である、請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記工程(b)で得られた透過液を晶析してテレフタル酸を析出させる工程(c)を含む、請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項8】
以下の工程(A)および(B)を含む、ポリエチレンテレフタレート原料の製造方法。
(A)着色物質を含有するポリエチレンテレフタレートを加水分解する工程
(B)工程(A)で得られた加水分解物を、細孔径が0.005μm以上0.45μm未満の分離膜に通じて濾過し、非透過液側に着色物質を除去し、透過液としてテレフタル酸およびエチレングリコールを含む水溶液を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのテレフタル酸系ポリエステルの加水分解物等からテレフタル酸を回収する工程を含むテレフタル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」とも記載する)に代表されるテレフタル酸系ポリエステルは繊維、フィルム、樹脂成形品等として広く用いられている。一方で、これらの製品の製造工程で発生する糸繊維、フィルム片、樹脂片等のポリエステル屑(製造工程ロス)、および、使用済みペットボトルや衣服等の廃棄された成形品の再利用が、製造コストや環境問題の面から望まれている。
【0003】
テレフタル酸系ポリエステルのケミカルリサイクルはPETを中心に開発が進んでおり、PETに対してエチレングリコ―ルやメタノールを添加し、熱化学反応によってビス-(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、または、ジメチルテレフタレート(DMT)を生産する解重合法と、PETをテレフタル酸とエチレングリコールに分解する加水分解法が存在する。解重合法は原料となるPETに対して、多量のエチレングリコールやメタノールなどの解重合反応のための有機溶媒が必要であることに対して、加水分解を用いた方法では、溶媒が水であるため環境負荷が小さい特徴がある。さらに、酵素を用いた方法では、温和な水系でポリエステル特異的に分解反応が進むため、反応副生物が少なく、精製負荷が少ないという利点を有している。
【0004】
テレフタル酸系ポリエステルのポストコンシューマー製品をケミカルリサイクルする場合、前述の方法で得られる加水分解物には、テレフタル酸系ポリエステルを構成するモノマーの他に、製品由来の着色物質が含まれてしまうため、そのままポリエステル原料として再利用することはできず、着色物質を除去することが必要である。加水分解物に含まれる着色物質の除去方法としては、加水分解物をフィルタープレスにより固液分離し、不溶性の着色物質を含む固形分を除去した水溶液を活性炭処理することで水溶性の着色物質を除去する方法(非特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Singh et al.,Joule(2021)Vol.5,1-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルのケミカルリサイクルでは着色物質を除去することが求められるが、従来の加水分解物からの着色物質の除去方法は、加水分解工程後に固液分離によって着色物質を含む固形分を除去する工程と、活性炭によって水溶性の着色物質を除去する工程が必要であったため、工程が煩雑となりコスト的にも課題となっていた。そこで、本発明では、着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルをケミカルリサイクルする際に副生する着色物質を簡便かつ高効率に除去し、高品質なテレフタル酸を製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前述の課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルの加水分解物を、特定の細孔径を有する分離膜に通じて濾過することで、分離膜の非透過液側に着色物質を含む固形分だけでなく水溶性の着色物質も阻止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(8)から構成される。
(1)以下の工程(a)および(b)を含む、テレフタル酸の製造方法。
(a)着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルを加水分解する工程
(b)工程(a)で得られた加水分解物を細孔径が0.005μm以上0.45μm未満の分離膜に通じて濾過し、非透過液側に着色物質を除去し、透過液としてテレフタル酸を含む水溶液を得る工程
(2)前記分離膜の細孔径が0.01μm以上0.30μm以下である、(1)に記載のテレフタル酸の製造方法。
(3)前記工程(b)で除去される着色物質が水溶性着色物質である、(1)または(2)に記載のテレフタル酸の製造方法。
(4)前記工程(b)で除去される着色物質がアゾ染料由来の着色物質である、(1)~(3)のいずれかに記載のテレフタル酸の製造方法。
(5)前記工程(a)がテレフタル酸系ポリエステルを酵素またはアルカリ処理により加水分解する工程である、(1)~(4)のいずれかに記載のテレフタル酸の製造方法。
(6)前記工程(a)がテレフタル酸系ポリエステルをpH7以上で加水分解する工程である、(1)~(5)のいずれかに記載のテレフタル酸の製造方法。
(7)さらに、前記工程(b)で得られた透過液を晶析してテレフタル酸を析出させる工程(c)を含む、(1)~(6)のいずれかに記載のテレフタル酸の製造方法。
(8)以下の工程(A)および(B)を含む、ポリエチレンテレフタレート原料の製造方法。
(A)着色物質を含有するポリエチレンテレフタレートを加水分解する工程
(B)工程(A)で得られた加水分解物を細孔径が0.005μm以上0.45μm未満の分離膜に通じて濾過し、非透過液側に着色物質を除去し、透過液としてテレフタル酸およびエチレングリコールを含む水溶液を得る工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステルの加水分解物を、特定の細孔径を持つ分離膜で濾過することにより、固形着色物質と可溶性の着色物質を同時に非透過側に除去し、高純度に精製されたテレフタル酸を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明は、本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も、本発明の範疇に属し得る。
【0011】
本発明において工程は、他と区別して認識できる工程のみを意味するものではなく、他の操作と組み合わされたもの、実際上の複数の工程に分散されているもの、この工程中に他の工程要素が含まれているもの、および1つの工程で複数の工程の操作を合わせて実施できるもの、が発明の趣旨に合致する限り本発明の範疇に属し得る。
【0012】
テレフタル酸系ポリエステルとは、その基本となる繰返し単位としてテレフタル酸単位を含むポリエステルを示す。非常に一般的には、テレフタル酸系ポリエステルは、ジオール(またはグリコール)モノマーの、テレフタル酸(またはテレフタル酸ジメチル)モノマーとの重縮合の結果である。具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタレート共重合PET(PET/I)、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合PET(PETG)、スピログリコール共重合PET、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が挙げられ、好ましい具体例として、ポリエチレンテレフタラート(PET)が挙げられる。
【0013】
テレフタル酸とは、特に限定されない限り、イオン化していない状態のテレフタル酸とテレフタル酸塩の両方を包含する。テレフタル酸塩の具体例としては、テレフタル酸二リチウム、テレフタル酸二ナトリウム、テレフタル酸二カリウム等が挙げられ、好ましい具体例としてはテレフタル酸二ナトリウムが挙げられる。
【0014】
着色物質を含有するテレフタル酸系ポリエステル(以下、単に「着色ポリエステル」とも記載する。)とは、染料、顔料などの着色物質を含有することで着色したテレフタル酸系ポリエステルを意味し、繊維、衣料品、ボトル、フィルム等に成形された成形品であってもよい。着色物質は特に限定されないが、例えば、分散染料などがポリエステルの染色に好ましく使用される。分散染料としては、アゾ系、アントラキノン系、縮合系などが挙げられる。これらの分類は、当業者には一般的であり、今田邦彦著、「染色技術者のための染料化学(その8)」、機会繊維学会誌(2003)などに詳しい。なお、本発明では、後述するとおり着色物質としてアゾ系染料由来の着色物質が好適に除去できることから、アゾ系染料を含有する着色ポリエステルであることが好ましい。
【0015】
本実施形態のテレフタル酸の製造方法は、着色ポリエステルの加水分解工程(工程(a))と、加水分解物の膜分離工程(工程(b))を有する。本発明はこれら以外の工程を行うことを制限するものではなく、必要に応じで別な工程を前後に付け加えてよい。
【0016】
以下、各工程について説明する。
【0017】
工程(a):着色ポリエステルの加水分解工程
本工程では、着色ポリエステルを原料として加水分解し、テレフタル酸とジオール(またはグリコール)を含む加水分解物を得る。
【0018】
着色ポリエステルの加水分解の方法は特に限定されないが、アルカリ処理による方法(アルカリ加水分解)、超臨界水、亜臨界水を用いた方法や酵素を用いた方法が挙げられる。アルカリ加水分解を用いた方法は、KARAYANNIDIS G.P.et al.,Advances in Polymer Technology,21,250-259(2002)に記載されており、アルカリの具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。亜臨界水を用いた方法は、Sato O.et al.,CATALYSIS TODAY,111,297-301(2006)に記載されている。超臨界水を用いた方法は、阿尻雅文著、「超臨界水を反応溶媒とするPETの高速分解・テレフタル酸回収」、化学工学論文集、23巻(1997)4号等に記載されている。酵素を用いた方法は、Singh A.et al.,Joule,5,1-25(2021)などに記載されている。これらの方法の中でも、酵素を用いた方法またはアルカリ加水分解は、本発明の膜分離による着色物質の除去効果が高いため好ましく採用される。また、酵素を用いた方法は、ポリエステル特異的に反応が進むため、副生物が少なく環境性にも優れているため、本発明においてより好ましく採用される。
【0019】
酵素は、テレフタル酸系ポリエステル分解活性を有する物であれば特に限定されず、数種類の酵素を同時に使用しても良い。酵素の具体例として、CAS番号:9001-62-1に該当するリパーゼやEC番号3.1.1.―.(Carboxylic ester hydrolase)として分類・定義されている、PETase(具体例として、GenBank:GAP38373.1として登録されているもの。)、Cut190(具体例として、GenBank:AB728484.1として登録されているもの。)、LCC(具体例として、GenBank:HQ704839.1として登録されているもの。)などが挙げられる。
【0020】
加水分解中のpHは、テレフタル酸系のポリエステルの分解率が高い方が、工程(b)における膜分離を行った際に、透過液として回収できるテレフタル酸の量が多くなるため好ましい。具体的には、加水分解中のpHを7以上で行うことが好ましい。
【0021】
加水分解物には、テレフタル酸系ポリエステルに由来するテレフタル酸およびジオール(グリコール)が含まれる。なお、加水分解は緩衝液中で実施してもよく、この際に中和にアルカリ性物質を使用する場合、加水分解物に含まれるテレフタル酸はテレフタル酸塩として存在する。
【0022】
また、加水分解物には上記のほかに、未分解の着色ポリエステル、着色物質、塩、その他賦形剤や滑剤、金属、など、テレフタル酸系ポリエステル原料に由来する含まれる化合物が含まれうる。
【0023】
加水分解物は、加水分解物に含まれるテレフタル酸の溶解度が高くなるようなpHに調整することが好ましく、具体的には、pHは7.0以上が好ましく、8.0以上がより好ましい。加水分解物のpHの上限は特に制限はないが、12以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0024】
工程(b):加水分解物の膜分離工程
工程(a)で得られた加水分解物を分離膜に通じて濾過を行う。これによって非透過液側に着色物質を阻止することができ、透過液として着色物質が除去されたテレフタル酸を含む水溶液を得ることができる。
【0025】
膜分離工程では、加水分解物を直接分離膜に通じて濾過してもよく、また、加水分解物を遠心分離やフィルタープレスなどの固液分離処理をして得られる加水分解物の液成分を分離膜に通じて濾過してもよいが、後述するとおり、本発明の課題を解決するという観点では、加水分解物を直接膜分離工程に供することで十分に加水分解物に含まれる着色物質を除去することができることから、本発明では加水分解物を直接膜分離工程に供することが好ましい。なお、流路のつまりなどを防止するために、加水分解物の固形分と液成分を分離させることなく金属メッシュやデプスフィルターで粗濾過を行うことは、前述の固液分離処理には該当せず、本発明においては、加水分解物を粗濾過した直後に分離膜に通じる工程も、加水分解物を直接分離膜に通じる工程とみなす。
【0026】
膜分離工程で使用する分離膜とは、工程(a)で得られた加水分解物に含まれる着色物質を阻止することができ、かつ、テレフタル酸を透過することができる、細孔径が0.005μm以上0.45μm未満の分離膜である。着色物質の阻止性とテレフタル酸の透過性のバランスの観点から、分離膜の細孔径は、好ましくは0.01μm以上0.45μm未満、より好ましくは0.01μm以上0.30μm以下、さらに好ましくは0.01μm以上0.22μm以下、特に好ましくは0.01μm以上0.05μm以下である。
【0027】
なお、分離膜の細孔径は、分離膜メーカーが公称している値でよく、公称している値が明らかでない場合は実測値でよい。分離膜の細孔径の実測値は、特許第5716325号公報やWO2012/043347号に記載されている方法で求めることができる。具体的には、分離膜を液体窒素で冷却し、応力を加え割断する。次に該断面を電子顕微鏡で観察し、得られた電子顕微鏡画像をフーリエ変換し、波数を横軸に強度を縦軸にプロットした際の極大値波数を求め、その逆数から細孔径を算出する方法によって得ることができる。このとき、電子顕微鏡画像の画像サイズは孔径の5倍以上100倍以下の長さを一辺とする正方形とする。
【0028】
分離膜の材質としては、例えばセルロース系、ポリエーテルスルホン(PES)、芳香族ポリアミド(PA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリスルホン(PS)、ポリフッ化ビニルデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、セラミックス、金属などを用いることができる。これらのうち、不溶性固形分の除去性がよいことから、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリフッ化ビニルデン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、特にポリフッ化ビニルデンが好ましい。分離膜の具体例としては、“マイクローザ”MF膜モジュール(材質:PE、PS、PVDF)(旭化成株式会社)、“マイクローザ”UF膜モジュール(材質:PAN、PS)(旭化成株式会社)、“トレフィル”外圧式中空糸MF膜モジュール(材質:PAN、PVDF)(東レ株式会社)、“トレフィル”外圧式中空糸UF膜モジュール(材質:PAN、PVDF)(東レ株式会社)、“Toray UF”(材質:PVDF)(東レ株式会社)“HFUG-2020AN”(材質:PVDF)(東レ株式会社)、“デュラセップ”(材質:PES)(東洋紡績株式会社)、“ステラポアー”(材質:PE、PVDF)(三菱ケミカル株式会社)、“AstroPore”(材質:PP、PE、PTFE)(富士フイルム株式会社)、中空糸モジュールFW50、FZ50、FN20(材質:セルロース系)(ダイセン・メンブレン・システムズ)、“モルセップ”(材質:セルロース系)(ダイセン・メンブレン・システムズ)、“マイクロセップ”(材質:PES)(Pall Corporation)、“ナノセップ”(材質:PES、PA、PP)(Pall Corporation)、“Millipore Express”(材質:PES)(メルク)、”Durapore“(材質:PVDF)(メルク)が挙げられる。
【0029】
膜分離の方法は特に限定されず、当業者に周知の全量濾過またはクロスフロー濾過によって実施することができる。全量濾過とは、膜面に供給された濾過対象液を循環することなく全量を濾過する方式で、デッドエンド濾過とも言われる。これに対してクロスフロー濾過とは、濾過対象液を濾過対象液の貯槽へ一部循環させることにより、濾過対象液が膜面に平行に流れるように濾過する方式である。全量濾過方式では、膜表面にすべてが蓄積されるのに対し、クロスフロー濾過方式では、分離膜と平行なクロスフロー流れの剪断力により分離膜表面の堆積物を除去する効果が期待でき、濁質濃度の高い対象液の処理に好ましく用いられる。一方、クロスフロー濾過方式は、濾過対象液を循環するためのエネルギーが全量濾過方式よりも余分に必要になるためにエネルギー面では全量濾過方式の方が有利になる。
【0030】
分離膜の形状としては、中空糸膜や平膜等が挙げられるが、濾過後の膜を洗浄の際に逆圧式洗浄などを行う場合は、外圧式の中空糸膜が好ましい。
【0031】
膜分離工程後には、流路や膜表面に溜まった固形分などを逆洗などの洗浄作業で除去しても良い。これらの操作は、必須な作業ではなく、加水分解物の性状、使用する分離膜、プロセスに合わせて行えばよく、本発明を特に限定するものではない。
【0032】
着色物質とは、可視光領域に吸収または反射をもつ物質を指し、個体か液体であるかは問わない。可視光領域に吸収または反射を持つかどうかは、分光光度計または分光測色計を用いて、380nmから780nmの範囲の波長の吸収または反射を測定すればよい。
【0033】
分離膜の非透過液には着色ポリエステル由来の着色物質を含むことを特徴とする。着色ポリエステル由来の着色物質には、着色ポリエステル由来の着色物質だけでなく、工程(a)の過程で生じた着色物質も該当する。
【0034】
一般に、着色ポリエステルに含まれる着色物質の大部分が疎水性の物質であるため、着色ポリエステルの加水分解物において、大部分の着色物質は固形分(以下、固形着色物質とも記載する。)として存在するが、加水分解物を遠心分離などの固液分離によって固形分を取り除いた後の可溶性画分にも水溶性着色物質が存在する。加水分解物の可溶性画分は着色ポリエステルのケミカルリサイクルで回収するべき原料モノマーが含まれており、可溶性画分から水溶性着色物質と原料モノマーを分離する必要性がある。
【0035】
従来の加水分解物に含まれる着色物質の除去方法では、固液分離によって固形着色物質を除去する工程と、活性炭によって水溶性着色物質を除去する工程が必要であったが、本発明では、実施例にて例示されるとおり、加水分解物の膜分離工程によって、固形着色物質および水溶性着色物質を一度に除去することができる。一般にポリエステルの着色に使用される着色物質の分子量と、分離膜の細孔径を考慮すると、着色ポリエステル由来の水溶性着色物質は分離膜によって阻止されるレベルの高分子の物質ではなく、着色ポリエステル由来の水溶性着色物質が分離膜の非透過液側に阻止されることは当業者にとって予想外の結果であるといえる。
【0036】
本発明によれば、着色物質のうち分散染料由来の着色物質が特に効果的に除去される。分散染料とは、英国染料染色学会と米国繊維化学技術・染色技術協会が定める、カラーインデックス(Colour Index International)においてC.I.DISPERSEに分類される化合物を指す。また、分散染料の中でも、アゾ染料由来の着色物質を効果的に除去することができる。
【0037】
アゾ染料は、染色の過程でアゾ結合を化学構造に有する化合物が生じるタイプのアゾ染料または、もともとアゾ結合を化学構造に有する化合物を含む染料に分類することができる。
【0038】
染色工程によりアゾ結合を化学構造に有する化合物が生じるアゾ染料は、分散顕色染料または顕色系分散染料とも呼ばれるものであり、ベース類および顕色剤をカップリングさせる染色工程によってアゾ結合を化学構造に有する化合物を生じさせる染料である。ベース類はカラーインデックスにおいて、Azoic Diazo Componentと分類され、また、顕色剤はAzoic Coupling Componentと分類される。上記の分類は一般的な呼称であり、特に本発明におけるアゾ染料を限定するものではない。Azoic Coupling Componentの具体例としては、3-Hydroxy-N-o-tolyl-2-naphthamide(C.I.Azoic Coupling Component 18)、4’-Chloro-3-hydroxy-2-naphthanilide(Azoic Coupling Component 10)等が挙げられ、Azoic Diazo Componentの具体例としては、4-メトキシ-2-ニトロアニリン(Azoic Diazo Component 1)、2-メトキシ-4-ニトロアニリン(Azoic Diazo Component 5)、2-メトキシ-5-ニトロアニリン(Azoic Diazo Component 13)等が挙げられ、本発明では、これらの中でも2-メトキシ-4-ニトロアニリン(Azoic Diazo Component 5)を効果的に除去することができる。
【0039】
アゾ結合を化学構造に有する化合物を含む染料の例としては、C.I.DISPERSE ORANGE 30、C.I.DISPERSE RED 73、C.I.DISPERSE Blue 165、C.I.DISPERSE Blue 79、C.I.DISPERSE Black 1等が挙げられる。
【0040】
また、アゾ染料にはアゾ結合が還元的に分解されてアミン化合物となるものがあることが知られている。これらのアミン化合物も着色物質であれば、アゾ染料由来の着色物質に該当する。アゾ染料由来の着色物質の具体例としては、ビフェニル-4-イルアミン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、o-アミノアゾトルエン、4-クロロアニリンなどが挙げられる。アミン化合物がアゾ染料由来であるかどうかは、加水分解に供した着色ポリエステルから染料を抽出し、抽出物をアミンに還元分解し、分解物を質量分析機などで分析することで、当該アミン化合物が確認できれば良く、具体的には、N.Sugaya et al.,Yakugaku zasshi,137(1),95-109(2017)等に記載されている方法により確認できる。
【0041】
膜分離処理の透過液として得られる、脱色したテレフタル酸を含む水溶液は、そのままの状態でテレフタル酸として使用できる。特に、本発明に供する着色ポリエステルとしてポリエチレンテレフタラートを使用する、前述の加水分解物の膜分離処理の透過液として、脱色したテレフタル酸およびエチレングリコールを含む水溶液を得ることができ、当該水溶液はそのままポリエチレンテレフタレート原料として使用することができる。
【0042】
膜分離処理によって着色物質が除去されたかどうかを確認する方法としては、固形着色物質が除去されたかどうかは、分光光度計などで膜分離処理の透過液のOD600を測定することで透過液に固形分が含まれているかどうかにより確認することができる。また、水溶性着色物質が除去されたかどうかは、分光光度計などで透過液の380nmから780nmの範囲の吸収スペクトルを測定することで確認することができる。本発明によれば、OD600が0.008以下、好ましくは0.001以下、より好ましくは0.000の透過液を得ることができ、また、380nmから780nmの範囲の吸収スペクトルが0.3以下、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.000の透過液を得ることができる。
【0043】
工程(c):テレフタル酸晶析
工程(b)で得られる膜分離処理の透過液として回収されるテレフタル酸を含む水溶液は、前述のとおりそのままの状態でテレフタル酸として使用することができるが、当業者に公知の方法によりテレフタル酸を含む水溶液からテレフタル酸を回収する工程に供してもよい。テレフタル酸を含む水溶液からテレフタル酸を回収する方法としては、テレフタル酸を晶析により析出させる(以下、「テレフタル酸晶析」という。)が好ましく適用される。具体的には、テレフタル酸を含有する水溶液に酸を添加してpHをテレフタル酸の溶解度が低下するまで下げることで、高純度のテレフタル酸を析出させることができる。また、テレフタル酸晶析では、テレフタル酸2ナトリウム塩として晶析させることが好ましく、その場合、テレフタル酸2ナトリウム塩を含む水溶液のpHを6以下、好ましくは5以下、より好ましくは4以下まで下げることでテレフタル酸2ナトリウムの溶解度を下げることができる。晶析によって固形分として析出したテレフタル酸は、当業者が一般的に使用する固液分離法等を用いて回収することができる。
【0044】
テレフタル酸晶析で回収されるテレフタル酸の純度をさらに向上させたい場合は、再度晶析を行うか、晶析前にテレフタル酸を含む水溶液をナノ濾過膜に通じて濾過する工程に供すればよい。また、晶析によりテレフタル酸を回収したあとの水溶液には、着色ポリエステルの加水分解によって生じるジオール(またはグリコール)が含まれている。ジオール(またはグリコール)は、ジオール(またはグリコール)を含む水溶液を蒸留することにより分離回収することが可能である。また、蒸溜に先立ち、ジオール(またはグリコール)を含む水溶液を逆浸透膜に通じて非透過液側にジオール(またはグリコール)を阻止することによりジオール(またはグリコール)を含む水溶液を濃縮することで、蒸留に必要な熱エネルギーが削減され、より経済的となる。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明の内容を更に具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(参考例1)着色ポリエステルの前処理
着色物質を含むテレフタル酸系ポリエステルとして、紫色に着色されたPET繊維である“ドライEX”(株式会社ファーストリテイリング)を使用した。着色ポリエステルを280℃で加熱し融解した後に水冷をした。凝固した着色ポリエステルを液体窒素下でブレンダー(WB-1、大阪ケミカル株式会社)により粉砕した。粉砕後の着色ポリエステルを0.5mmの篩に掛け、通過物を加水分解用の基質として用いた。
【0047】
(参考例2)着色ポリエステル分解酵素の調製
以下、ポリエステル分解酵素の取得方法を記載するが、酵素の発現に使用する宿主やベクターなどは特に限定されるものではなく、大腸菌を用いた異種遺伝子の発現方法や試薬の調製方法は当業者には明らかである。
【0048】
着色ポリエステルの加水分解に用いる酵素は、V.Tournier et al.,Nature(2020),Vol580,216-219に記載されているLCCの変異酵素であるICCGを用いた。上記文献に記載されている酵素の遺伝子配列をAZENTA社の遺伝子合成サービスにより取得し、“pCOLD1”(タカラバイオ株式会社)のSac1、Pst1制限酵素サイトに導入した。作成したプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に導入した。形質転換体をタカラバイオのホームページに記載の「目的遺伝子の発現方法」に従い培養し、酵素が発現した大腸菌を含む培養液を得た。
【0049】
遠心分離によって形質転換体を回収し、“TALON METAL Affinity Resin”(タカラバイオ株式会社)および“HisTALON Buffer Set”(タカラバイオ株式会社)を用いて、マニュアルに記載の手法に従って酵素の抽出と精製を行った。精製した酵素を“Vivaspin”10k(ザルトリウス)を用いて、pH8.0、50mMのリン酸ナトリウム緩衝液への置換と濃縮を行った。得られたPET分解酵素を含む溶液をICCG酵素液と表記する。
【0050】
(参考例3)テレフタル酸の測定方法
テレフタル酸は、下記のHPLCにて分析した。
装置:日立高速液体クロマトグラフ LaChrom Eite(株式会社日立製作所)
検出:吸収240nm
分離カラム:Synergi 2.5μ Hydro-RP 100A 100×3.00mm 2.5micron(Phenomenex)
カラムオーブン:40℃
移動相:0.1%リン酸/アセトニトリル グラジエント。
【0051】
(参考例4)エチレングリコールの測定方法
エチレングリコールは、下記のHPLCにて分析した。
装置:Shimazu “Prominence-RID”(株式会社島津製作所)
検出:示差屈折率
検出器温度:40℃
分離カラム:“SHODEX”SH1011(昭和電工株式会社)
カラムオーブン:65℃
移動相:5mM 硫酸。
【0052】
(参考例5)着色ポリエステルの酵素による加水分解工程(pH7.0)
1M、pH7.0のリン酸緩衝液1mLに参考例1で作成した着色ポリエステルの基質を0.03g添加した。そこに、PETの分解活性が報告されている市販のリパーゼ(以下HiCと呼称、Novozymes社製、“Novozym 51032”、CAS番号:9001-62-1)、または、参考例2で得られたICCG酵素液を、タンパク質の終濃度が3mg/g-基質となるように添加した。良く混合した後、70℃で9時間静置して加水分解反応を行った。反応後に10000rpmで遠心分離を行い、上清に含まれているテレフタル酸の濃度を参考例3に記載の方法で測定した。テレフタル酸の濃度は、HiCを添加したもので0.9g/L、ICCG酵素液を添加したもので5.5g/Lであった。
【0053】
(参考例6)着色ポリエステルの酵素による加水分解工程(pH8.0)
1M、pH8.0のリン酸緩衝液1mLを用いる以外は参考例5と同じ方法で着色ポリエステルを加水分解したところ、テレフタル酸の濃度は、HiCを添加したもので1.3g/L、ICCG酵素液を添加したもので6.2g/Lであった。
【0054】
(実施例1)
(1)着色ポリエステルの酵素による加水分解工程
100mMのpH8.0リン酸ナトリウム緩衝液に対して、参考例1で用意した着色ポリエステルの基質を20wt%になるように添加した。その後、参考例2で準備したICCG酵素液をタンパク質の終濃度が3mg/g-基質となるように添加し、その後、100mLまで緩衝液でメスアップした。
【0055】
加水分解反応はジャーファーメンター(BCC-25、エイブル株式会社)を用いて、72℃、攪拌速度120rpm、2Mの水酸化ナトリウムでpHを8.0に維持しながら行った。9時間後に反応を停止、加水分解物を回収した。加水分解物を10000rpmで5分間遠心分離し、上清に含まれるテレフタル酸およびエチレングリコールの濃度を参考例3および4の方法で測定した。テレフタル酸濃度は85.4g/L、エチレングリコールは29.6g/Lであった。加水分解物に含まれる固形着色物質は、分光光度計(Ultrospec 3300 pro、Amersham)を用いてOD600の値として測定した。また、水溶性着色物質は、分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定し、極大吸収が見られた410nmの吸収値によって測定した。測定の結果、OD600は7.2、410nmの吸収は1.2となった。
【0056】
(2)加水分解物の膜分離工程
工程(1)で得られた加水分解物を分離膜として、細孔径0.22μmのPVDF平膜“Durapore”が使用されているシリンジフィルター、“MILLEX”(ミリポア)で全量濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は0.008、410nmの吸収は0.30となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は82.8g/L、エチレングリコールは29.5g/Lであった。
【0057】
(実施例2)
実施例1の工程(2)の分離膜を、“トレフィル”外圧式中空糸MF膜モジュール(東レ株式会社)に使用されている、PVDF製、細孔径0.05μmの中空糸膜に変更し、実施例1の工程(1)で得られた加水分解物をクロスフロー濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は0.001、410nmの吸収は0.05となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は83.1g/L、エチレングリコールは30.4g/Lであった。
【0058】
(実施例3)
実施例1の工程(2)の分離膜を“トレフィル”外圧式中空糸UF膜モジュール(東レ株式会社)に使用されている、PVDF製、細孔径0.01μmの中空糸膜に変更し、加水分解物をクロスフロー濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は0.000、410nmの吸収は0.00となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は82.7g/L、エチレングリコールは29.9g/Lであった。
【0059】
(比較例1)
実施例1の工程(2)の代わりに加水分解物を3000xgで5分間、遠心分離した。得られた上清のOD600は5.6、410nmの吸収は0.81となった。上清に含まれるテレフタル酸濃度は83.0g/L、エチレングリコールは27.8g/Lであった。
【0060】
(比較例2)
実施例1の工程(2)の代わりに加水分解物を限外濾過に供した。限外濾過膜として分画分子量50kDaのセルロース膜“アミコンウルトラ”(ミリポア)を用いて全量濾過した。限外濾過は8000xgから10000xgで行ったが、固形分がつまってしまい濾液を回収出来なかった。同様に限外濾過膜として分画分子量10kDaのPES膜“ビバフロー”50(ザルトリウス)を用いて、平膜によるクロスフロー濾過も行ったが、流路および膜のつまりを引き起こした。なお、いずれの限外濾過膜も、本明細書に記載の細孔径の測定方法で求めることができる細孔径の下限値(0.005μm)未満であった。
【0061】
(比較例3)
実施例1の工程(2)の分離膜を、細孔径0.45μmのPVDF膜“Durapore”が使用されているシリンジフィルター、“MILLEX”(ミリポア)に変更し、実施例1の工程(1)で得られた加水分解物を全量濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は0.031、410nmの吸収は0.83となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は84.1g/L、エチレングリコールは26.9g/Lであった。
【0062】
以上の結果を表1にまとめる。着色物質を含有するPETの加水分解物を特定の細孔径を持つ分離膜に通じて濾過することで、固形着色物質と水溶性着色物質を非透過側に除去し、透過側にテレフタル酸とエチレングリコールを回収できることが示された。
【0063】
【表1】
【0064】
(実施例4)
膜分離によって除去された水溶性着色物質を同定するために、水溶性着色物質を含むサンプルと水溶性着色物質が除去されたサンプルの比較分析を行った。水溶性着色物質が含まれているサンプルとして比較例1の遠心上清、水溶性着色物質が取り除かれたサンプルとして実施例2および3で得られた透過液をLC-MS/MSによって分析した(分析委託先:株式会社東レリサーチセンター)。分析の結果、正イオン検出において、m/z 169.06の分子量関連イオンを持つピークが実施例2および3のサンプルで大幅に減少していた。当該イオンを[MH]由来とすると、水溶性着色物質は推定分子量168(推定組成式C)であると考えられ、また、400~410nmの吸収を持つことが同時に確認できた。
【0065】
上記の組成式および吸収を持つ着色物質としてはアゾ染料である4-メトキシ-2-ニトロアニリン(Azoic Diazo Component 1)、2-メトキシ-4-ニトロアニリン(Azoic Diazo Component 5)、2-メトキシ-5-ニトロアニリン(Azoic Diazo Component 13)、5-メトキシ-2-ニトロアニリン、2-メトキシ-6-ニトロアニリン由来の着色物質が考えられ、これら物質の内、2-メトキシ-4-ニトロアニリンの標品(東京化成工業株式会社)とリテンションタイムが一致した。
【0066】
(実施例5)
(1)着色ポリエステルのアルカリ加水分解工程
耐熱ガラス容器に100mLの5M水酸化ナトリウム水溶液と参考例1で用意した着色ポリエステルの基質を1g添加した。混合後の溶液のpHは11であった。
【0067】
加水分解反応はオートクレーブ(TOMY社製、BS-325)を用いて、120℃、10分行った。加水分解物を10000rpmで5分間遠心分離し、上清に含まれるテレフタル酸およびエチレングリコールの濃度を参考例3および4の方法で測定した。テレフタル酸濃度は4.4g/L、エチレングリコールは1.2g/Lであった。加水分解物に含まれる固形着色物質は、分光光度計(Ultrospec 3300 pro、Amersham)を用いてOD600の値として測定した。また、水溶性着色物質は、分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定し、極大吸収が見られた410nmの吸収値によって測定した。測定の結果、OD600は3.4、410nmの吸収は0.258となった。
【0068】
(2)加水分解物の膜分離工程
工程(1)で得られた加水分解物を分離膜として、細孔径0.22μmのPVDF平膜“Durapore”が使用されているシリンジフィルター、“MILLEX”(ミリポア)で全量濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は0.004、410nmの吸収は0.13となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は4.2g/L、エチレングリコールは1.1g/Lであった。
【0069】
(実施例6)
実施例5の工程(2)の分離膜を、“トレフィル”外圧式中空糸MF膜モジュール(東レ株式会社)に使用されている、PVDF製、細孔径0.05μmの中空糸膜に変更し、実施例5の工程(1)で得られた加水分解物をクロスフロー濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は0.001、410nmの吸収は0.08となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は4.3g/L、エチレングリコールは1.0g/Lであった。
【0070】
(実施例7)
実施例5の工程(2)の分離膜を“トレフィル”外圧式中空糸UF膜モジュール(東レ株式会社)に使用されている、PVDF製、細孔径0.01μmの中空糸膜に変更し、加水分解物をクロスフロー濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は0.000、410nmの吸収は0.07となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は4.2g/L、エチレングリコールは1.2g/Lであった。
【0071】
(比較例4)
実施例5の工程(2)の代わりに加水分解物を3000xgで5分間、遠心分離した。得られた上清のOD600は5.180、410nmの吸収は0.25となった。上清に含まれるテレフタル酸濃度は4.4g/L、エチレングリコールは1.2g/Lであった。
【0072】
(比較例5)
実施例5の工程(2)の代わりに加水分解物を限外濾過に供した。限外濾過膜として分画分子量50kDaのセルロース膜“アミコンウルトラ”(ミリポア)を用いて全量濾過した。限外濾過は8000xgから10000xgで行ったが、固形分がつまってしまい濾液を回収出来なかった。
【0073】
同様に限外濾過膜として分画分子量10kDaのPES膜“ビバフロー”50(ザルトリウス)を用いて、平膜によるクロスフロー濾過も行ったが、流路および膜のつまりを引き起こした。なお、いずれの限外濾過膜の細孔径も、本明細書に記載の細孔径の測定方法で求めることができる細孔径の下限値(0.005μm)未満であった。
【0074】
(比較例6)
実施例5の工程(2)の分離膜を、細孔径0.45μmのPVDF膜“Durapore”が使用されているシリンジフィルター、“MILLEX”(ミリポア)に変更し、実施例5の工程(1)で得られた加水分解物を全量濾過し、透過液を回収した。得られた透過液のOD600は4.100、410nmの吸収は0.27となった。透過液に含まれるテレフタル酸濃度は4.4g/L、エチレングリコールは1.2g/Lであった。
【0075】
以上の結果を表2にまとめる。酵素による加水分解と同様に、アルカリ加水分解であっても、加水分解物を特定の細孔径を持つ分離膜に通じて濾過することで、固形着色物質と水溶性着色物質を非透過側に除去し、透過側にテレフタル酸とエチレングリコールを回収できることが示された。
【0076】
【表2】