(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184534
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物、及び熱伝導性部材
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231221BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20231221BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20231221BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231221BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20231221BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L83/04
C08K5/10
C08K3/013
H01M10/653
C08J3/20 B CFH
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023175221
(22)【出願日】2023-10-10
(62)【分割の表示】P 2023502606の分割
【原出願日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2021181478
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】北田 学
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊輝
(57)【要約】
【課題】保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制でき、かつ使用時の取り扱い性に優れる熱伝導性組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含み、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される粘度η3との粘度比(η1/η3)が10超である、熱伝導性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含み、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される粘度η3との粘度比(η1/η3)が10超である、熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記液状高分子が、オルガノポリシロキサンである請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記液状高分子が、付加反応硬化型シリコーンである請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記液状高分子が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンである請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記液状高分子が、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンである請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
前記構造粘性付与剤が、25℃で固体のエステル化合物である請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記構造粘性付与剤が、融点が25℃超120℃以下のエステル化合物である請求項1~6のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
前記構造粘性付与剤の含有量が、前記液状高分子100質量部に対して0.5~20質量部である、請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
さらに相溶化剤を含有する、請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
前記相溶化剤が、25℃で液体のエステル化合物である請求項9に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
前記25℃で液体のエステル化合物が、炭素数12~28のモノエステルである請求項10に記載の熱伝導性組成物。
【請求項12】
前記相溶化剤の含有量が、前記液状高分子100質量部に対して50質量部以下である請求項9~11のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項13】
前記相溶化剤の含有量が、構造粘性付与剤の含有量の2倍以上5倍以下である、請求項9~12のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項14】
前記液状高分子100質量部に対する前記構造粘性付与剤の含有量が、下記式(1)で表されるX質量部以上である請求項9~13のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
X(質量部)=0.5+w×0.2・・・(式1)
(式1において、wは液状高分子100質量部に対する相溶化剤の含有量(質量部)を表す)
【請求項15】
請求項4に記載の熱伝導性組成物からなる第1剤と、請求項5に記載の熱伝導性組成物からなる第2剤とで構成される2液硬化型熱伝導性材料。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の熱伝導性組成物が、容器に充填されている熱伝導性組成物の供給形態。
【請求項17】
請求項4に記載の熱伝導性組成物からなる第1剤が充填されている第1容器と、請求項5に記載の熱伝導性組成物からなる第2剤が充填されている第2容器と、で構成される2液硬化型熱伝導性材料の供給形態。
【請求項18】
請求項1~14のいずれかに記載の熱伝導性組成物、または請求項15記載の2液硬化型熱伝導性材料の硬化物である熱伝導性部材。
【請求項19】
請求項18に記載の熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、前記複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、前記間隙材がモジュール筐体の内部に配置されるバッテリモジュール。
【請求項20】
液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
前記混合物を冷却することで、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η3との粘度比(η1/η3)を10超に調整する工程と、
を実行することを特徴とする熱伝導性組成物の製造方法。
【請求項21】
液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を容器に充填する工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
前記混合物を冷却することで、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η3との粘度比(η1/η3)を10超に調整する工程と、
を実行することを特徴とする熱伝導性組成物の供給形態の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物、及び熱伝導性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性組成物を、発熱体と放熱体の間に充填し、その後、硬化することで形成される硬化物は、発熱体が発する熱を放熱体に伝える熱伝導性部材として使用されている。熱伝導性組成物は、流動性があるため、発熱体と放熱体の間の任意の隙間を埋めることができる。そのため、形成される熱伝導性部材は、発熱体と放熱体の隙間が一定でなくても確実にその隙間を埋めることができ、熱伝導性の間隙材として利用されている。
例えば、特許文献1に開示されるように、熱伝導性部材を間隙材としてバッテリモジュールに使用されることが知られている。熱伝導性部材は、発熱体であるバッテリセルと放熱体であるモジュール筐体の間に配置されて、バッテリセルの熱を外部に放熱する役割を果たす。また、バッテリセルとバッテリセルの間に配置されこれらを固定して、離間状態を保持することにも利用されている。
【0003】
熱伝導性部材を形成するための熱伝導性組成物としては、オルガノポリシロキサンと熱伝導性充填材を含むものが多く用いられている。一般に、放熱性を高めるためには、熱伝導性充填材の含有量を多くする必要があるが、熱伝導性充填材の含有量を多くしてしまうと、熱伝導性組成物の粘度が高くなるため、取り扱い性が悪化する。例えば、熱伝導性組成物の粘度が高くなると、ディスペンサー等により吐出することが困難になる場合がある。あるいは発熱体と放熱体の間に熱伝導性組成物を塗布して形成した塗布物を圧縮する作業において、荷重が大きくなるなど、取り扱い性が悪化することがある。そのため、熱伝導性組成物の粘度を低減する検討が種々なされている。一方で熱伝導性組成物の粘度を低下させると、長期保存時に熱伝導性充填材が沈降する問題が生じることがある。
このような問題を改善する方法として、特許文献2では、液状のオルガノポリシロキサン、特定の一般式で規定されたオルガノポリシロキサン、及び熱伝導性充填剤を含有する熱伝導性シリコーングリース組成物において、シリカ系充填剤を配合することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/173860号
【特許文献2】特開2012-7057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリカ系充填材の添加では、優れた取り扱い性を確保した上での熱伝導性充填材の沈降抑制作用が十分ではなく、より改善が求められていた。
そこで本発明の課題は、液状高分子と熱伝導性充填材を含む熱伝導性組成物において、保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制でき、かつ使用時の取り扱い性に優れる熱伝導性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含み、レオメーターにおいて測定される特定条件下での粘度比が一定以上である熱伝導性組成物により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[39]を提供する。
【0007】
[1]液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含み、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される粘度η3との粘度比(η1/η3)が10超である、熱伝導性組成物。
[2]前記液状高分子が、オルガノポリシロキサンである上記[1]に記載の熱伝導性組成物。
[3]前記液状高分子が、付加反応硬化型シリコーンである上記[1]又は[2]に記載の熱伝導性組成物。
[4]前記液状高分子が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンである上記[1]に記載の熱伝導性組成物。
[5]前記液状高分子が、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンである上記[1]に記載の熱伝導性組成物。
[6]前記構造粘性付与剤が、25℃で固体のエステル化合物である上記[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[7]前記構造粘性付与剤が、融点が25℃超120℃以下のエステル化合物である上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[8]前記構造粘性付与剤の含有量が、前記液状高分子100質量部に対して0.5~20質量部である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[9]さらに相溶化剤を含有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[10]前記相溶化剤が、25℃で液体のエステル化合物である上記[9]に記載の熱伝導性組成物。
[11]前記25℃で液体のエステル化合物が、炭素数12~28のモノエステルである上記[10]に記載の熱伝導性組成物。
[12]前記相溶化剤の含有量が、前記液状高分子100質量部に対して50質量部以下である上記[9]~[11]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[13]前記相溶化剤の含有量が、構造粘性付与剤の含有量の2倍以上5倍以下である、上記[9]~[12]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[14]前記液状高分子100質量部に対する前記構造粘性付与剤の含有量が、下記式(1)で表されるX質量部以上である上記[9]~[13]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
X(質量部)=0.5+w×0.2・・・(式1)
(式1において、wは液状高分子100質量部に対する相溶化剤の含有量(質量部)を表す)
[15]上記[4]に記載の熱伝導性組成物からなる第1剤と、上記[5]に記載の熱伝導性組成物からなる第2剤とで構成される2液硬化型熱伝導性材料。
[16]上記[1]~[14]のいずれかに記載の熱伝導性組成物が、容器に充填されている熱伝導性組成物の供給形態。
[17]上記[4]に記載の熱伝導性組成物からなる第1剤が充填されている第1容器と、上記[5]に記載の熱伝導性組成物からなる第2剤が充填されている第2容器と、で構成される2液硬化型熱伝導性材料の供給形態。
[18]上記[1]~[14]のいずれかに記載の熱伝導性組成物、または上記[15]記載の2液硬化型熱伝導性材料の硬化物である熱伝導性部材。
[19]上記[18]に記載の熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、前記複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、前記間隙材がモジュール筐体の内部に配置されるバッテリモジュール。
[20]液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含む混合物を調製する工程と、前記混合物を加熱する工程と、前記混合物を冷却することで、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η3との粘度比(η1/η3)を10超にする調整する工程と、を実行することを特徴とする熱伝導性組成物の製造方法。
[21]液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含む混合物を調製する工程と、前記混合物を容器に充填する工程と、前記混合物を加熱する工程と、前記混合物を冷却することで、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η3との粘度比(η1/η3)を10超にする調整する工程と、を実行することを特徴とする熱伝導性組成物の供給形態の製造方法。
[22]前記混合物を容器に充填した後に、前記混合物を加熱する工程と、前記混合物を冷却することで、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η3との粘度比(η1/η3)を10超にする調整する工程と、を実行する上記[21]記載の熱伝導性組成物の供給形態の製造方法。
[23]前記混合物を容器に充填した後に、前記混合物を加熱する上記[21]記載の熱伝導性組成物の供給形態の製造方法。
[24]液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含み、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される粘度η3との粘度比(η1/η3)が10超である、熱伝導性組成物が、容器に充填されている熱伝導性組成物の供給形態。
[25]前記液状高分子が、オルガノポリシロキサンである上記[24]に記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[26]前記液状高分子が、付加反応硬化型シリコーンである上記[24]又は[25]に記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[27]前記液状高分子が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンである上記[24]に記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[28]前記液状高分子が、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンである上記[24]に記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[29]前記構造粘性付与剤が、25℃で固体のエステル化合物である上記[24]~[28]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[30]前記構造粘性付与剤が、融点が25℃超120℃以下のエステル化合物である上記[24]~[29]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[31]前記構造粘性付与剤の含有量が、前記液状高分子100質量部に対して0.5~20質量部である、上記[24]~[30]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[32]さらに相溶化剤を含有する、上記[24]~[31]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[33]前記相溶化剤が、25℃で液体のエステル化合物である上記[32]に記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[34]前記25℃で液体のエステル化合物が、炭素数12~28のモノエステルである上記[33]に記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[35]前記相溶化剤の含有量が、前記液状高分子100質量部に対して50質量部以下である上記[32]~[34]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[36]前記相溶化剤の含有量が、構造粘性付与剤の含有量の2倍以上5倍以下である、上記[32]~[35]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態。
[37]前記液状高分子100質量部に対する前記構造粘性付与剤の含有量が、下記式(1)で表されるX質量部以上である上記[32]~[36]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態。
X(質量部)=0.5+w×0.2・・・(式1)(式1において、wは液状高分子100質量部に対する相溶化剤の含有量(質量部)を表す)
[38]上記[24]~[37]のいずれかに記載の熱伝導性組成物の供給形態から吐出された熱伝導性組成物の硬化物である熱伝導性部材。
[39]上記[38]に記載の熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、前記複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、前記間隙材がモジュール筐体の内部に配置されるバッテリモジュール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制でき、かつ使用時の取り扱い性に優れる熱伝導性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】バッテリモジュールの代表的構成を示す斜視図である。
【
図2】バッテリモジュールが有するバッテリセルの代表的構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱伝導性組成物]
以下、本発明の熱伝導性組成物について詳しく説明する。
本発明の熱伝導性組成物は、液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含み、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される粘度η3との粘度比(η1/η3)が10超である、熱伝導性組成物である。
【0011】
<粘度比>
本発明の熱伝導性組成物は、レオメーターにより測定される粘度比(η1/η3)が10超である。粘度比(η1/η3)が10以下であると、熱伝導性組成物を保管する際に、熱伝導性充填材が沈降しやすくなり、使用時において取り扱い性が悪化しやすくなる。
保管時の熱伝導性充填材の沈降を抑制し、かつ使用時の取り扱い性を向上させる観点から、熱伝導性組成物のレオメーターにより測定される粘度比(η1/η3)は、好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上である。粘度比(η1/η3)の上限値は特に限定されないが、例えば100である。
また、前記粘度比(η1/η3)は、10超100以下であることが好ましく、15~100であることがより好ましく。20~100であることがさらに好ましい。
粘度比(η1/η3)の調整は詳しくは後述するが、熱伝導性組成物が構造粘性付与剤を含み、且つ加熱冷却処理を経ることで後述する凝集力によるゆるやかな結合(内部構造)が形成されることで、レオメーターにより測定される前記粘度比(η1/η3)が10超となる。
なお、本明細書において、「~」で示す範囲は、「~」の前後に記載されている所定の数値以上から所定の数値以下までの範囲であることを意味する。
【0012】
粘度比(η1/η3)を上記のとおり調整することにより、熱伝導性組成物保管時の熱伝導性充填材の沈降を抑制し、かつ使用時の取り扱い性を向上させることができる理由は定かではないが、次のように推定される。
粘度η1及び粘度η3は共に低せん断速度領域の粘度を表している。熱伝導性組成物の粘度比(η1/η3)が10超である場合は、低せん断速度領域のせん断速度の変化に対する粘度の変化が大きくなる。言い換えると、せん断速度(横軸)と粘度(縦軸)の関係を表すグラフの傾きが大きくなる。このことは、保存時、すなわちせん断速度が極めて小さい状態においては、熱伝導性組成物の粘度が大きくなることを意味し、そのため熱伝導性充填材の沈降が抑制されると考えられる。そして、保存時後に使用する際には、例えば熱伝導性組成物のディスペンサーによる塗布や、塗布物の圧縮などが行われるため、せん断速度が相対的に高い状態となる。この際、せん断速度の増加とともに、熱伝導性組成物の粘度が効果的に減少していくため、取り扱い性に優れるものと考えられる。
【0013】
本発明においては、粘度比(η1/η3)を上記のとおり調整することが重要であるため、粘度η1及び粘度η3の個別の値については特に制限されないが、熱伝導性充填材の沈降抑制の観点から、粘度η1は、例えば3000(Pa・s)以上、好ましくは5000(Pa・s)以上、より好ましくは10000(Pa・s)以上、さらに好ましくは20000(Pa・s)以上である。粘度η1の上限は特に限定されないが、例えば100000(Pa・s)である。
また、前記粘度η1は、例えば3000~100000(Pa・s)であることが好ましく、5000~100000(Pa・s)であることがより好ましく、10000~100000(Pa・s)であることがさらに好ましく、20000~100000(Pa・s)であることが特に好ましい。
【0014】
さらに、熱伝導性組成物のレオメーターにより測定温度25℃、せん断速度2.52(1/s)の条件で測定される粘度を粘度η2とした場合に、粘度比(η1/η2)は、取り扱い性向上の観点から、好ましくは50以上、より好ましくは80以上、さらに好ましくは100以上である。
粘度η2は、取り扱い性向上の観点から、好ましくは350(Pa・s)以下であり、より好ましくは250(Pa・s)以下であり、さらに好ましくは150(Pa・s)以下である。粘度η2の下限は特に限定されないが、例えば50である。
【0015】
熱伝導性組成物の粘度η1、粘度η2、及び粘度η3は、25℃においてレオメーターにより測定される値である。レオメーターで測定する際には、測定治具に試料をセットする際のせん断の影響を除いて評価する観点から、熱伝導性組成物を加熱した後、室温(25℃)に冷却して測定することとする。この際、加熱温度は、構造粘性付与剤の融点以上の温度とし、好ましくは融点+50℃以下とするとよい。加熱温度は、例えば35~170℃の範囲で適宜設定すればよい。なお、レオメーターの測定条件の詳細は、実施例で説明する。
熱伝導性組成物の粘度η1、粘度η2、及び粘度η3、粘度比(η1/η3)、粘度比(η1/η2)などは、後述する構造粘性付与剤及び熱伝導性充填材の種類及び量などにより調整することができる。
【0016】
<液状高分子>
本発明の熱伝導性組成物は、液状高分子を含有する。液状高分子は、室温(25℃)で液状の高分子であり、例えば、シリコーンゴム、ポリウレタン樹脂などの高分子マトリクスを得るための原料を挙げることができる。
液状高分子としては、反応性基を有しない非反応型の化合物であってもよいし、反応性基を有する反応型の化合物であってもよい。反応基としては、例えば、アルケニル基、ヒドロシリル基、水酸基、イソシアネート基などが挙げられる。
【0017】
液状高分子としては、例えば、オルガノポリシロキサン、ポリオール、ポリイソシアネートなどが挙げられる。液状高分子は、単一の成分でもよいし2以上の成分の混合物でもよい。中でも、液状高分子としては、オルガノポリシロキサンが好ましい。液状高分子として、オルガノポリシロキサンを用いると、熱伝導性充填材の充填率を高めやすくなり、熱伝導性組成物から形成される熱伝導性部材の熱伝導性を向上させやすくなる。
【0018】
オルガノポリシロキサンとしては、例えば、反応性基を有するオルガノポリシロキサンであってもよいし、反応性基を有しないオルガノポリシロキサンであってもよいが、反応性基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
反応性基を有するオルガノポリシロキサンは、架橋構造の形成が可能な反応性基を有するオルガノポリシロキサンであり、例えば、付加反応硬化型シリコーン、ラジカル反応硬化型シリコーン、縮合反応硬化型シリコーン、紫外線又は電子線硬化型シリコーン、及び湿気硬化型シリコーンなどが挙げられる。これらの中でも、反応性基を有するオルガノポリシロキサンは、付加反応硬化型シリコーンが好ましい。すなわち、本発明の液状高分子は、付加反応硬化型シリコーンであることが好ましい。
【0019】
付加反応硬化型シリコーンとしては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン(主剤)とハイドロジェンオルガノポリシロキサン(硬化剤)とを含むものがより好ましい。
また、本発明における液状高分子として、付加反応硬化型を構成する主剤及び硬化剤のいずれか一方を含むものであってもよい。より詳細には、熱伝導性組成物に含まれる液状高分子は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンであってもよいし、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンであってもよいし、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンの両方を含むものであってもよい。
【0020】
本発明の熱伝導性組成物を用いて、2液硬化型熱伝導性材料とすることも好ましい。
例えば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び構造粘性付与剤を含み、粘度比(η1/η3)が10超である熱伝導性組成物からなる第1剤と、ハイドロジェンオルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び構造粘性付与剤を含み、粘度比(η1/η3)が10超である熱伝導性組成物からなる第2剤とで構成される2液硬化型熱伝導性材料とすることができる。第1剤及び第2剤は使用時に混合し反応させて、シリコーンゴムからなる高分子マトリックスを有する熱伝導性部材となる。
該2液硬化型熱伝導性材料は、第1剤及び第2剤のそれぞれにおいて、保存時に熱伝導性充填材が沈降しにくく、かつ使用時において第1剤及び第2剤の取り扱い性が良好となる。
なお、上記した2液硬化型熱伝導性材料において使用される液状高分子は、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン以外のものでもよく、第1剤及び第2剤を混合することで相互に反応する液状高分子を、第1剤及び第2剤それぞれ含ませていてもよい。例えば、上記した第1剤に含まれるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの代わりにポリオールを用い、かつ上記した第2剤に含まれるハイドロジェンオルガノポリシロキサンの代わりにポリイソシアネートを用いてもよい。この場合、第1剤及び第2剤を混合し反応させることで、ポリウレタン樹脂からなる高分子マトリクスを有する熱伝導性部材となる。
【0021】
<構造粘性付与剤>
本発明の熱伝導性組成物は、構造粘性付与剤を含有する。構造粘性付与剤は、室温(25℃)で固体の化合物であり、これを液状高分子に配合し特定条件下に置くことにより粘度を高めることができる。詳細には、構造粘性付与剤は、液状高分子に配合した混合物を、加熱及び冷却することにより、加熱前の状態と比較して低せん断領域の粘度を高めることが可能な機能を有する。なお、構造粘性付与剤の融点は、好ましくは25℃超であり、より好ましくは30℃以上であり、さらに好ましくは40℃以上である。また、構造粘性付与剤の融点は、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは75℃以下である。また、構造粘性付与剤の融点は、好ましくは25℃超120℃以下であり、より好ましくは30℃以上80℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上75℃以下である。
液状状高分子と構造粘性付与剤を室温で混合して、構造粘性付与剤の融点以上に加熱し、室温まで冷却することにより、液状高分子と構造粘性付与剤との混合物中においてゆるやかな結合(内部構造)が形成される。該ゆるやかな結合は、構造粘性付与剤の凝集力により形成され、重力では破壊されない。そのため、保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制できると考えられる。そして、使用時には、混合物に一定以上のせん断がかかるため、上記ゆるやかな結合が破壊され、低粘度化して、塗布性、圧縮性などの作業性が向上する。
換言すれば、前記内部構造は、構造粘性付与剤が凝集力によって形成している構造であり、それにより低せん断領域の粘度を高められている。なお、ここで、凝集力は、同種の構造の化合物が互いくっついて相互に引き付け合う作用を意味する。また、このゆるやかな結合は、融点以上に加熱された状態から冷却される過程で形成される。またさらに、ゆるやかな結合はせん断応力により破壊される。従って、前記ゆるやかな結合は、冷却後せん断応力が生じると破壊され、また加熱冷却処理により再び形成させることができる。
また、上記機能を発現するためには、構造粘性付与剤を加熱して液状にした際に一定の時間、液状高分子と分離しないことが好ましい。具体的には、後述の相溶性試験において2相分離しない程度の親和性を備える化合物であることが好ましい。
【0022】
本発明の熱伝導性組成物は、構造粘性付与剤を含有することにより、上記した粘度あるいは粘度比に調整しやすくなる。
構造粘性付与剤としては、上記した機能を有するものが特に制限なく使用できる。構造粘性付与剤の具体例としては、液状高分子がオルガノポリシロキサンであるとき、構造粘性付与剤は25℃で固体のエステル化合物(以下、エステル化合物Xともいう)、または25℃で固体のアルコール化合物が好ましい。
エステル化合物Xの融点は、好ましくは25℃超であり、より好ましくは30℃以上であり、さらに好ましくは40℃以上である。また、エステル化合物Xの融点は、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは75℃以下である。
また、エステル化合物Xの融点は、好ましくは25℃超120℃以下であり、より好ましくは30℃以上80℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上75℃以下である。
構造化粘性付与剤が、このような融点を有するエステル化合物Xであると、粘度比(η1/η3)を上記した所望の範囲に調整しやすくなり、保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制でき、かつ使用時の取り扱い性に優れる熱伝導性組成物を得やすくなる。
【0023】
エステル化合物Xは、エステル基を有する化合物であり、エステル基を1つ有するモノエステルであってもよいし、ジエステルなどエステル基を2以上有するものであってもよいが、モノエステル又はジエステルであることが好ましい。
エステル化合物Xの炭素数は、エステル化合物Xが25℃で固体であれば特に制限されるものではないが、例えば20以上、好ましくは25以上、より好ましくは30以上であり、そして好ましくは150以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは50以下である。
また、エステル化合物Xの炭素数は、例えば20~150であることが好ましく、25~100であることがより好ましく、30~50であることがさらに好ましい。
【0024】
エステル化合物Xは、脂肪酸とアルコールとのエステルであることが好ましい。
脂肪酸の炭素数は、好ましくは2~30であり、より好ましくは10~24である。なお、脂肪酸の炭素数はカルボキシル基のカルボニル炭素を含む総炭素数を意味することとする。
アルコールは、水酸基を1つ有するアルコールであってもよいし、水酸基を2以上有するアルコールであってもよい。アルコールの炭素数は、好ましくは2~30であり、より好ましくは4~24である。
エステル化合物Xとしては、ミリスチン酸セチル、ペンタエリスリトールジステアレート、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ミリスチル、ベヘニル酸ベヘニル、グリセリンモノステアリルエステル、エチレングリコールジステアリルエステルなどが好ましい。エステル化合物Xは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
構造粘性付与剤として25℃で固体のアルコール化合物を用いるとき、アルコール化合物の融点は、好ましくは25℃超であり、より好ましくは30℃以上であり、さらに好ましくは40℃以上である。また、アルコール化合物の融点は、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは75℃以下である。
また、アルコール化合物の融点は、好ましくは25℃超120℃以下であり、より好ましくは30℃以上80℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上75℃以下である。
構造化粘性付与剤が、このような融点を有するアルコール化合物であると、粘度比(η1/η3)を上記した所望の範囲に調整しやすくなり、保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制でき、かつ使用時の取り扱い性に優れる熱伝導性組成物を得やすくなる。
【0026】
アルコール化合物は、ヒドロキシ基を有する化合物であり、ヒドロキシ基を1つ有するモノアルコールであってもよいし、ジアルコールなどヒドロキシ基を2以上有するものであってもよいが、モノアルコールであることが好ましい。
アルコール化合物の炭素数は、アルコール化合物が25℃で固体であれば特に制限されるものではないが、例えば14以上、好ましくは16以上、より好ましくは18以上であり、そして好ましくは40以下、より好ましくは36以下、さらに好ましくは30以下である。
また、アルコール化合物の炭素数は、例えば14~40であることが好ましく、16~36であることがより好ましく、18~30であることがさらに好ましい。
アルコール化合物としては、ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、ヘンエイコサノール、ベヘニルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール、モンタニルアルコール、ミリシルアルコール、1-ドトリアコンタノール、ゲジルアルコールなどが好ましい。アルコール化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
構造粘性付与剤について、前記エステル化合物Xと前記アルコール化合物とでは、保管安定性に優れる観点から、エステル化合物Xが好ましい。
【0027】
熱伝導性組成物における構造粘性付与剤の含有量は、液状高分子100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは3質量部以上であり、さらに好ましくは6質量部以上であり、そして好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下である。
また、熱伝導性組成物における構造粘性付与剤の含有量は、液状高分子100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部であり、より好ましくは3~20質量部であり、さらに好ましくは6~20質量部である。
熱伝導性組成物における構造粘性付与剤の含有量は、後述する相溶化剤の含有量に応じて調整することが好ましい。具体的には、液状高分子100質量部に対する構造粘性付与剤の含有量は、下記式(1)で表されるX質量部以上であることが好ましい。
X(質量部)=0.5+w×0.2・・・(式1)
(式1において、wは液状高分子100質量部に対する相溶化剤の含有量(質量部)を表す)
構造粘性付与剤の含有量を上記のとおり調整することにより、熱伝導性組成物の粘度比(η1/η3)を上記した所望の範囲に調整しやすくなり、保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制でき、かつ使用時の取り扱い性に優れる熱伝導性組成物を得やすくなる。
【0028】
<相溶化剤>
本発明の熱伝導性組成物は、相溶化剤を含むことが好ましい。相溶化剤を含むことにより、熱伝導性組成物の粘度(特に高せん断速度における粘度η2)が低下し、塗布性・圧縮性などが向上し、取り扱い性が良好になる。
相溶化剤としては、室温(25℃)で液状高分子と相溶する化合物であれば、特に限定されないが25℃で液体のエステル化合物(以下エステル化合物Yともいう)であることが好ましい。
エステル化合物Yを用いて熱伝導性組成物を低粘度化する方法は、ジメチルシリコーンオイルなどの可塑剤を多く使用して粘度を低下させる方法とは異なり、加熱による発生する低分子シロキサンの量を抑制できる。低分子シロキサンが発生すると、電気的な不具合が生じることがある。一方で、通常はエステル化合物Yを熱伝導性組成物に含有させると、保存時に熱伝導性充填材がより沈降しやすくなるが、本発明のように粘度比(η1/η3)を調整することにより、エステル化合物Yを含有する場合であっても、熱伝導性充填材の沈降を抑制することができる。
【0029】
エステル化合物Yとしては、エステル基を1つ有するモノエステルであってもよいし、ジエステルなどエステル基を2以上有するものであってもよいが、熱伝導性組成物の粘度を低下させる観点、及び耐熱性を維持する観点から、モノエステルであることが好ましい。
エステル化合物Yの炭素数は12~28であることが好ましく、特に炭素数12~28のモノエステルが好ましい。エステル化合物の炭素数が12以上であると、熱伝導性組成物の一定の耐熱性を確保することができる。またエステル化合物の炭素数が28以下であると、オルガノポリシロキサンなどの液状高分子との相溶性が向上し、熱伝導性組成物の粘度が低下しやすくなる。熱伝導性組成物の耐熱性向上の観点、及び液状高分子との相溶性を高めて熱伝導性組成物の粘度を低下させる観点から、エステル化合物の炭素数は、好ましくは13以上であり、より好ましくは17以上であり、そして好ましくは26以下であり、より好ましくは24以下であり、さらに好ましくは22以下である。
また、エステル化合物の炭素数は、好ましくは13~26であり、より好ましくは17~24であり、そして好ましくは17~22である。
【0030】
熱伝導性組成物の粘度を低下させる観点、及び耐熱性向上の観点から、エステル化合物は、脂肪酸とアルコールとのエステルであることが好ましく、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
(式(1)において、R
1及びR
2はアルキル基であり、R
1及びR
2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基である。)
【0031】
式(1)において、R1及びR2はアルキル基であり、R1及びR2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基である。本発明のエステル化合物は炭素数が12~28であるため、式(1)におけるR1及びR2の合計の炭素数は11~27となる。
式(1)においてR1及びR2は、それぞれアルキル基であり、直鎖状のアルキル基であってよいし、分岐状のアルキル基であってもよい。
R1及びR2の少なくともいずれかは炭素数10以上のアルキル基であり、R1及びR2のいずれか一方のみが炭素数10以上のアルキル基であることが好ましい。これにより、エステル基の極性の影響が小さくなり、オルガノポリシロキサンなどの液状高分子と相溶しやすくなる。また、エステル化合物の液状高分子との相溶性向上の観点から、R1及びR2はいずれも炭素数18以下のアルキル基であることが好ましい。
【0032】
R1は、好ましくは炭素数10以上のアルキル基であり、より好ましくは炭素数11以上のアルキル基であり、そして好ましくは炭素数15以下のアルキル基である。
R2は、好ましくは炭素数2以上のアルキル基であり、より好ましくは炭素数3以上のアルキル基であり、そして好ましくは炭素数16以下のアルキル基であり、より好ましくは炭素数12以下のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数8以下のアルキル基である。
また、R1は、好ましくは炭素数10~15のアルキル基であり、より好ましくは炭素数11~15以上のアルキル基である。R2は、好ましくは炭素数2~16のアルキル基であり、より好ましくは炭素数3~12のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数3~8のアルキル基である。
R1及びR2がこのような炭素数のアルキル基であると、熱伝導性組成物の粘度を低下させつつ、耐熱性を向上させやすくなる。
【0033】
エステル化合物Yとしては、ラウリン酸オクチル、ラウリン酸1-メチルヘプチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸1-メチルヘプチル、パルミチン酸イソプロピルなどが好ましく、ラウリン酸1-メチルヘプチルがより好ましい。
【0034】
熱伝導性組成物に相溶化剤を含有させる場合は、相溶化剤の含有量は、保存時の熱伝導性充填材の沈降を抑制する観点から、液状高分子100質量部に対して80質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましく、そして取り扱い性向上の観点から、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。
また、相溶化剤の含有量は液状高分子100質量部に対して5~80質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましく、10~40質量部であることがさらに好ましい。
また、相溶化剤の含有量は構造粘性付与剤の含有量の1.5倍以上であることが好ましく、1.8倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましく、また、相溶化剤の含有量は構造粘性付与剤の含有量の20倍以下であることが好ましく、12倍以下であることがより好ましく、5倍以下であることがさらに好ましい。
さらに、粘度比(η1/η3)を上記のとおり一定範囲に調整する観点、及び粘度η2を低下させる観点などから、相溶化剤の含有量は構造粘性付与剤の含有量の1.5倍以上20倍以下であることが好ましく、1.8倍以上12倍以下であることがより好ましく、2倍以上5倍以下であることがさらに好ましい。
【0035】
<熱伝導性充填材>
本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性充填材を含有する。熱伝導性充填材を含有することにより、熱伝導性組成物及び該熱伝導性組成物から得られる熱伝導性部材の熱伝導性が向上する。
熱伝導性充填材としては、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、熱伝導性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
熱伝導性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛、ダイヤモンドなどが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、熱伝導性充填材としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムが好ましく、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムを併用することが好ましい。
【0036】
熱伝導性充填材の平均粒径の平均粒径は0.1~200μmであることが好ましく、0.3~100μmであることがより好ましく、0.5~70μmであることがさらに好ましい。
熱伝導性充填材は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下の小粒径熱伝導性充填材と、平均粒径が5μm超200μm以下の大粒径熱伝導性充填材を併用することが好ましい。平均粒径の異なる熱伝導性充填材を使用することにより、充填率を高めることができる。
なお、熱伝導性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の熱伝導性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0037】
熱伝導性充填材の含有量は、液状高分子100質量部に対して、好ましくは150~3000質量部、より好ましくは300~2000質量部、さらに好ましくは600~1600質量部である。
熱伝導性充填材の含有量を上記下限値以上とすることで、一定の熱伝導性を熱伝導性組成物および熱伝導性部材に付与できる。熱伝導性充填材の含有量を上記上限値以下とすることで、熱伝導性充填材を適切に分散できる。また、熱伝導性組成物の粘度が必要以上に高くなったりすることも防止できる。
【0038】
<ケイ素化合物>
本発明の熱伝導性組成物は、アルコキシシラン化合物及びアルコキシシロキサン化合物からなる群から選択される少なくとも一種のケイ素化合物を含んでもよい。このようなケイ素化合物を含有することで、熱伝導性組成物の粘度が低下しやすくなる。
【0039】
アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、n-デシルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、熱伝導性組成物の粘度低減の観点から、n-デシルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシランが好ましく、n-デシルトリメトキシシランがより好ましい。
【0040】
アルコキシシロキサン化合物としては、例えば、メチルメトキシシロキサンオリゴマー、メチルフェニルメトキシシロキサンオリゴマー、メチルエポキシメトキシシロキサンオリゴマー、メチルメルカプトメトキシシロキサンオリゴマー、及びメチルアクリロイルメトキシシロキサンオリゴマーなどが挙げられる。
【0041】
ケイ素化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。
熱伝導性組成物にケイ素化合物を使用する場合、ケイ素化合物の含有量は、液状高分子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、そして好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。また、熱伝導性組成物にケイ素化合物を使用する場合、ケイ素化合物の含有量は、液状高分子100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.5~3質量部であり、そしてさらに好ましくは0.5~2質量部である。ケイ素化合物の含有量はこれら下限値以上であると、熱伝導性組成物の粘度が低下しやすくなる。一方、ケイ素化合物の含有量がこれら上限値以下であると、熱伝導性組成物の耐熱性の低下を抑制できる。
【0042】
<シリコーンオイル>
本発明の熱伝導性組成物は、粘度を低下させる観点からシリコーンオイルを含有してもよい。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイルが挙げられる。
なお、低粘度のシリコーンオイルは多量に配合すると低分子シロキサンが発生しやすくなるため、シリコーンオイルの配合量は、液状高分子100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは0質量部である。ここで、低粘度のシリコーンオイルとは、例えば25℃における粘度が50cs以下のシリコーンオイル、25℃における粘度が30cs以下のシリコーンオイル、又は25℃における粘度が20cs以下のシリコーンオイルである。
特に、25℃における粘度が20cs以下のシリコーンオイルは、含有しないことが好ましい。これにより、低分子シロキサンの発生を抑制しやすくなる。なお、シリコーンオイルの粘度は、アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、サンプルの温度をペルチェプレートにて25℃に調整し、φ50mmで1°角度のコーンプレートを用い、せん断速度10(1/sec)の条件で測定される。
【0043】
本発明の熱伝導性組成物中には、種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、触媒、難燃剤、酸化防止剤、着色剤などが挙げられる。
【0044】
(熱伝導性組成物の製造方法)
本発明の熱伝導性組成物の製造方法は、液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含む混合物を調製する工程と、前記混合物を加熱する工程と、前記混合物を冷却する工程を備える。前記混合物を冷却する工程は、混合物を冷却することで、レオメーターにより測定温度25℃、せん断速度0.00252(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η1と、測定温度25℃、せん断速度0.05432(1/s)の条件で測定される前記混合物の粘度η3との粘度比(η1/η3)を10超に調整する工程である。すなわち、本発明の熱伝導性組成物の製造方法は、液状高分子、熱伝導性充填材、構造粘性付与剤、及び必要に応じて配合される添加剤を混合して混合物を調製する工程、前記混合物を加熱する工程、及び前記混合物を冷却する工程をこの順に備える。このような工程を経ることにより、粘度比(η1/η3)を上記したとおりに調整された本発明の熱伝導性組成物が得られる。
【0045】
また、後述する熱伝導性組成物の供給形態の製造方法は、上記した熱伝導性組成物の製造方法において、液状高分子と熱伝導性充填材と構造粘性付与剤とを含む混合物を調製する工程の後に、混合物を容器に充填する工程を設けるとよい。上記した混合物を加熱する工程及び混合物を冷却する工程は、混合物を容器に充填した後に行うことが好ましい。
【0046】
混合物を調製する工程は、公知の混合方法を適宜採用すればよく、例えば公知のニーダー、混練ロール、ミキサーなどを使用して混合するとよい。
混合物を加熱する工程における加熱温度は、構造粘性付与剤が融解する温度以上であればよく、例えば構造粘性付与剤の融点以上の温度であり、融点+10℃~融点+50℃である。また、前記加温温度の上限は特に限定されないが、構造粘性付与剤の熱劣化を抑制する観点から、例えば200℃以下であることが好ましく、また揮発成分を含む場合には可能な範囲で低い温度とすることが好ましく、例えば100℃以下が好ましく、80℃以下が特に好ましい。加熱時間は特に制限されないが、混合物の容量に応じて全体が加温される時間に設定する。例えば5~1000分であり、好ましくは10~500分である。加熱時間がこれら下限値以上であると、混合物の内部まで充分に加温されやすくなる。加熱時間がこれら上限値以下であると、混合物が揮発性物質を含む場合に、該揮発性物質の一部が揮発することを抑制できる。
混合物を冷却する工程では、上記加熱後の混合物を室温(25℃)まで冷却する。冷却方法は特に限定されず、冷却器を用いて冷却する方法であってもよいし、自然冷却する方法であってもよい。
なお、相溶化剤を混合することで、構造粘性付与剤が融解する温度を低下させることができる。したがって、加熱温度を低くしたい場合には、相溶化剤を混合することが好ましい。
【0047】
(2液硬化型熱伝導性材料)
本発明においては、保存安定性の観点などから、熱伝導性組成物を用いて2液硬化型熱伝導性材料とすることが好ましい。
具体的には、上記したとおり、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び構造粘性付与剤を含み、粘度比(η1/η3)が10超である熱伝導性組成物からなる第1剤と、ハイドロジェンオルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び構造粘性付与剤を含み、粘度比(η1/η3)が10超である熱伝導性組成物からなる第2剤とから構成される2液硬化型熱伝導性材料が好ましい。
第1剤と第2剤の質量比(第2剤/第1剤)は、1又は1に近い値であることが好ましく、具体的には0.9~1.1が好ましく、0.95~1.05がより好ましい。このように、第1剤と第2剤の質量比を1又は1に近い値とすることで、第1剤と第2剤との混合物の調製が容易になる。
【0048】
付加反応触媒は第1剤に含有され、第2剤には含有されないことが好ましい。そうすることで、第1剤と第2剤とは混合前は保存安定性に優れ、混合後には反応が促進され、速やかに硬化するものとすることができ、硬化により得られる熱伝導性部材の各種物性を良好にできる。その要因は定かではないが、白金触媒などの付加反応触媒が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの付加反応部位である、アルケニル基に配位した状態となり、硬化が進行しやすいためと推定される。
【0049】
また、第2剤は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを含有することが好ましい。第2剤が硬化剤であるハイドロジェンオルガノポリシロキサンに加えてアルケニル基含有オルガノポリシロキサンも含有することで、両者の混合物を作製する際の第1剤に対する第2剤の質量比および粘度比を1又は1に近い値に調整しやすくなる。一方で、第1剤には、硬化剤であるハイドロジェンオルガノポリシロキサンが含有されないとよい。
【0050】
上記第1剤及び第2剤は、シリンジやカートリッジ、ペール缶やドラム缶等の容器に分けて保管することが好ましい。具体的には、第1剤が導入された第1のシリンジ、及び第2剤が導入された第2のシリンジとして保管されることが好ましい。この場合、第1のシリンジ及び第2のシリンジを並列させて、2液並列タイプのシリンジとするとよい。なお、カートリッジを用いる場合は、第1剤及び第2剤は、第1剤が導入された第1のカートリッジ、及び第2剤が導入された第2のカートリッジとして保管されることが好ましい。この場合も、第1のカートリッジ及び第2のカートリッジを並列させて、2液並列タイプのカートリッジとするとよい。さらに、ペール缶やドラム缶を用いる場合は、第1剤及び第2剤は、第1剤が導入された第1のペール缶またはドラム缶、及び第2剤が導入された第2のペール缶またはドラム缶として保管されることが好ましい。
上記のとおり、本発明の熱伝導性組成物は、混合物を調製する工程、混合物を加熱する工程、及び前記混合物を冷却する工程を経て調製される。そのため、例えば、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び構造粘性付与剤を含む混合物を調製し、該混合物を第1のシリンジに導入して、加熱工程及び冷却工程を経て、第1剤が導入された第1のシリンジが得られる。同様に、ハイドロジェンオルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及び構造粘性付与剤を含む混合物を調製し、該混合物を第2のシリンジに導入して、加熱工程及び冷却工程を経て、第2剤が導入された第2のシリンジが得られる。
第1のシリンジ及び第2のシリンジに導入されている第1剤及び第2剤は、それぞれ熱伝導性充填材の沈降が抑制されており、保存状態に優れている。使用する際には、第1のシリンジ及び第2のシリンジのそれぞれから、第1剤及び第2剤を吐出して、スタティックミキサーなどにより混合し、硬化させることにより熱伝導性部材を形成させることができる。第1剤及び第2剤を吐出する際には、一定のせん断力が生じるため、第1剤及び第2剤の粘度が低下して、容易に吐出することができる。さらに、吐出により形成された塗布物は圧縮が容易であり、作業性にも優れる。例えば、発熱体と放熱体の間に、第1剤及び第2剤の混合物を吐出し、一定の厚さの塗布物を形成させた後、該塗布物を小さい荷重で薄く引き伸ばす作業などが容易になる。
【0051】
[供給形態]
本発明においては、上記した熱伝導性組成物が、容器に充填されている熱伝導性組成物の供給形態を提供することもできる。また、本発明においては、上記した第1剤が充填されている第1容器と、上記した第2剤が充填されている第2容器とで構成される2液硬化型熱伝導性材料の供給形態も提供できる。容器としては、例えば、上記したとおり、シリンジ、カートリッジ、ペール缶、ドラム缶等が挙げられる。該供給形態によれば、容器内に熱伝導性組成物を保存している際には、熱伝導性組成物に含まれる熱伝導性充填材の沈降を抑制でき、かつ、該供給形態から熱伝導性組成物を吐出等により取り出した際の作業性にも優れる。
【0052】
[熱伝導性部材]
本発明は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材と、融点が25℃超の構造化粘性付与剤とを含む熱伝導性部材も提供することができる。熱伝導性部材は、上記した熱伝導性組成物の硬化物、又は上記した2液硬化型熱伝導性材料の硬化物である。
高分子マトリックスとしては、シリコーンゴム、ポリウレタン樹脂などが挙げられ、中でもシリコーンゴムが好ましい。
熱伝導性充填材の種類については、上記した通りである。
構造粘性付与剤の融点は25℃超120℃以下のエステル化合物Xであることが好ましく、エステル化合物Xについては上述したとおりである。高分子マトリックスに対する熱伝導性充填材の量は、上記した液状高分子に対する熱伝導性充填材の量と同様であり、高分子マトリックスに対する構造粘性付与剤の量は、上記した液状高分子に対する構造粘性付与剤の量と同様である。
【0053】
熱伝導性部材は、上記した熱伝導性組成物又は2液硬化型熱伝導性材料により得られる。熱伝導性組成物に含まれる液状高分子が、反応性基を有する反応型の化合物であれば、熱伝導性組成物を硬化させることで熱伝導性部材が得られる。2液硬化型熱伝導性材料の場合は、上記したように第1剤及び第2剤を混合し、硬化させることにより熱伝導性部材が得られる。
本発明の熱伝導性部材は、構造粘性付与剤を用いていることにより、原料である熱伝導性組成物の取り扱い性が優れるため、熱伝導性部材形成時の作業性が良好となる。また、原料である熱伝導性組成物は、保存時の熱伝導性充填材の沈降が抑制されており、組成が均一となっている。そのため、形成された熱伝導性部材の組成も均一であり、物性のバラつきが少なくなる。
【0054】
熱伝導性部材の熱伝導率は、1.0W/m・K以上であることが好ましく、1.5W/m・K以上であることがより好ましく、2.0W/m・K以上であることがさらに好ましい。これら下限値以上とすることで、熱伝導性が良好となる。そのため、例えばバッテリセルモジュールの間隙材として使用する場合には、バッテリセルから発生する熱を、間隙材を経由して、モジュール筐体に効率的に伝えることができ、バッテリセルの温度の過度の上昇を抑えることができる。熱伝導性部材の熱伝導率は、高ければ高いほどよいが、実用的には、例えば15W/m・K以下である。なお熱伝導率はASTM D5470に準拠して測定される。
【0055】
[バッテリモジュール]
本発明の熱伝導性部材の用途は特に限定されないが、以下のようにバッテリモジュールにおける間隙材として使用することができる。
本発明に係るバッテリモジュールは、熱伝導性部材からなる間隙材と、複数のバッテリセルと、前記複数のバッテリセルを格納するモジュール筐体とを備え、前記間隙材は、モジュール筐体の内部に配置される。
熱伝導性部材からなる間隙材は、バッテリセル相互間、及びバッテリセルとモジュール筐体間に充填されており、充填されている間隙材は、バッテリセル、及びモジュール筐体に密着する。これにより、バッテリセル間の間隙材は、バッテリセル相互間の離間状態を保持する機能を有している。また、バッテリセルとモジュール筐体との間の間隙材は、バッテリセルとモジュール筐体の双方に密着し、バッテリセルで発生する熱をモジュール筐体に伝える機能を有している。
【0056】
図1は、バッテリモジュールの具体的な構成を示す。
図2は各バッテリセルの具体的な構成を示す。
図1で示すように、バッテリモジュール10の内部には、複数のバッテリセル11が配置される。各バッテリセル11は、可撓性の外装フィルム内にラミネートして封入したものであり、全体的な形状は、高さや幅の大きさに比べて厚さが薄い偏平体である。こうしたバッテリセル11は、
図2で示すように、正極11aと負極11bが外部に表れ、偏平面の中央部11cは圧着された端部11dよりも肉厚に形成されている。
【0057】
図1に示すように、各バッテリセル11は、その偏平面同士が対向するように配置されている。
図1の構成において、間隙材13は、モジュール筐体12の内部に格納される、複数のバッテリセル11の全体を覆うようには充填されていない。間隙材13は、モジュール筐体12の内部の一部分(底側部分)に存在する間隙を満たすように充填されている。間隙材13は、バッテリセル11相互間、および、バッテリセル11とモジュール筐体12の間に充填され、この部分のバッテリセル11の表面、および、モジュール筐体12の内面と密着されている。
【0058】
バッテリセル11相互の間に充填される間隙材13は、双方のバッテリセル11の表面に接着されているが、間隙材13自体は、適度の弾性と柔軟性を有しており、バッテリセル11相互の間隔を変位する外力が印加されても、外力による歪み変形を緩和することができる。したがって、間隙材13は、バッテリセル11相互間の離間状態を保持する機能を有している。
バッテリセル11とモジュール筐体12の内面との間の間隙に充填されている間隙材13も、バッテリセル11の表面と、モジュール筐体12の内面に、密に接着されている。その結果、バッテリセル11の内部で発生する熱は、バッテリセル11の表面に接着している間隙材13を経由して、該間隙材13の他の面により密着されているモジュール筐体12の内面へと伝えられる。
【0059】
バッテリモジール10内への間隙材13の形成は、一般的なディスペンサーを用いて、液状の熱伝導性組成物又は2液硬化型熱伝導性材料を塗布した後、塗布物を硬化させることで行うとよい。2液硬化型熱伝導性材料の場合は、例えば、上記した第1のシリンジ及び第2のシリンジ(あるいは第1のカートリッジ及び第2のカートリッジ)をディスペンサーにセットして、ディスペンサーによる塗布を行うとよい。
2液硬化型熱伝導性材料は、保管が容易であるとともに、使用直前に混合すればディスペンサーで塗布する作業時には硬化し難く、塗布後は速やかに硬化させることができる。また、ディスペンサーでの塗布は、バッテリモジュール10の筐体12内の比較的奥深くまで充填させることができる点でも好ましい。
【0060】
バッテリセル11を覆う間隙材13は、バッテリセル11の一方側において、各バッテリセル11の20~100%覆うことが好ましく、20~40%覆うことがより好ましい。20%以上とすることで、バッテリセル11を安定的に保持することができる。また、発熱量が大きいバッテリセルを十分に覆うことで、放熱効率が良好となる。一方で、100%以下とすることで、バッテリセル11から発生する熱の放熱を効率的に行うことができる。また、40%以下とすることで重量増大や、作業性の悪化等も防げる。また、放熱効率を良好にするために、バッテリセル11の電極11a,11bがある側を間隙材13で覆うことが好ましく、電極11a,11bの全体を間隙材13で覆うことがより好ましい。
【0061】
以上のとおり、バッテリモジュール10は、バッテリセル11から発生した熱を、間隙材13を経由して、モジュール筐体12に逃がすことができる。
間隙材13は、複数のバッテリモジュール10を内部に備えるバッテリパックに使用することも好ましい。バッテリパックは、一般には、複数のバッテリモジュール10と、該複数のバッテリモジュール10を収容するバッテリパックの筐体とを備える。該バッテリパックにおいて、バッテリモジュール10とバッテリパック筐体との間に間隙材13を設けることができる。これにより、上記のとおりモジュール筐体12に逃がした熱をさらに、バッテリパックの筐体に逃がすことができ、効果的な放熱が可能となる。
また、間隙材13に本発明の熱伝導性部材を用いているので、間隙材13を形成させる際の作業性に優れる。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0063】
[粘度]
実施例1~33および比較例1~4について熱伝導性組成物である第1剤及び第2剤の粘度を以下のとおり測定した。
第1剤及び第2剤のそれぞれをサンプルとしてレオメーターにより種々のせん断速度における粘度を測定した。アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、サンプルの温度をペルチェプレートにて各構造粘性付与剤の融点以上である85℃に調整し5分経過させた後、25℃まで冷却して10分放置した。その後、φ25mmのパラレルプレートを用い、連続的にせん断速度を変化させながら粘度測定を行った。そして、せん断速度0.00252(1/s)、0.0054(1/s)、0.0117(1/s)、0.0252(1/s)、0.05432(1/s)、0.117(1/s)、0.252(1/s)、0.543(1/s)、1.17(1/s)、2.52(1/s)、5.43(1/s)、11.7(1/s)の条件での各粘度、粘度比(η1/η3)、及び、粘度比(η1/η2)を求めた。
【0064】
[粘度2]
比較例5~9について、熱伝導性組成物である第1剤及び第2剤の粘度を以下のとおり測定した。第1剤及び第2剤のそれぞれをサンプルとしてレオメーターにより種々のせん断速度における粘度を測定した。アントンパール社製のレオメーターMCR-302eを用いて、サンプルの温度をペルチェプレートにて25℃にして10分放置した。その後、φ25mmのパラレルプレートを用い、連続的にせん断速度を変化させながら粘度測定を行った。そして、せん断速度0.00252(1/s)、0.0054(1/s)、0.0117(1/s)、0.0252(1/s)、0.05432(1/s)、0.117(1/s)、0.252(1/s)、0.543(1/s)、1.17(1/s)、2.52(1/s)、5.43(1/s)、11.7(1/s)の条件での各粘度、粘度比(η1/η3)、及び、粘度比(η1/η2)を求めた。
【0065】
[沈降抑制評価]
実施例1~33、比較例1~4についての沈降抑制評価を次のように行った。
第1剤及び第2剤のそれぞれについて、以下のとおり沈降抑制評価を行った。
15ccの透明な容器(直径24mmの円柱形状)に各試料を10cc入れ、それぞれ構造粘性付与剤の融点+10℃で30分加熱した。続いて25℃雰囲気下で試料の温度が25℃になるまで自然冷却してから30日間放置した後の試料の状態を確認した。
(評価基準)
5 見た目に変化がない。
4 表面の縁に液状成分がわずかに滲んでいた。
3 表面に液状成分がわずかに滲んでいるが、傾けても液状成分が流れなかった。
2 表面に液状成分がわずかに滲んでおり、傾けると液状成分が流れた。
1 側面から見て液状成分が分離していた。
【0066】
[沈降抑制評価2]
比較例5~9についての沈降抑制評価を次のように行った。
第1剤及び第2剤のそれぞれについて、以下のとおり沈降抑制評価を行った。
15ccの透明な容器(直径24mmの円柱形状)に各試料を10cc入れた。続いて25℃雰囲気下で30日間放置した後の試料の状態を確認した。
(評価基準)
5 見た目に変化がない。
4 表面の縁に液状成分がわずかに滲んでいた。
3 表面に液状成分がわずかに滲んでいるが、傾けても液状成分が流れなかった。
2 表面に液状成分がわずかに滲んでおり、傾けると液状成分が流れた。
1 側面から見て液状成分が分離していた。
【0067】
[圧縮性評価(圧縮性)]
実施例1~33、比較例1~4についての圧縮性評価を次のように行った。
表に記載の第1剤の原料と、第2剤の原料それぞれを、2液並列タイプの25ccシリンジである第1のシリンジ及び第2のシリンジに16.4ccずつ導入した。次いで、第1剤及び第2剤を各構造粘性付与剤の融点+10℃に加熱し15分経過させた後、25℃まで冷却して10分放置した。
その後、スタティックミキサーを使用してアルミ板状に2.5ccのサンプル(第1剤と第2剤との混合物(質量比1:1))を吐出した。続いて、吐出物を40mmΦの押し子(圧縮試験用治具)によって、圧縮速度60mm/minで圧縮し、治具間のギャップが0.665mmまで圧縮されたときの荷重値を読み取り、これを圧縮荷重とした。圧縮試験を行うときの温度は25℃とした。圧縮荷重の値に基づいて、以下の基準で圧縮性を評価した。
(評価基準)
5 100N未満
4 100N以上175N未満
3 175N以上250N未満
2 250N以上350N未満
1 350N以上
【0068】
[圧縮性評価2(圧縮性2)]
比較例5~9についての圧縮性評価を次のように行った。
表に記載の第1剤の原料と、第2剤の原料それぞれを、2液並列タイプの25ccシリンジである第1のシリンジ及び第2のシリンジに16.4ccずつ導入し、25℃で10分放置した。
その後、スタティックミキサーを使用してアルミ板状に2.5ccのサンプル(第1剤と第2剤との混合物(質量比1:1))を吐出した。続いて、吐出物を40mmΦの押し子(圧縮試験用治具)によって、圧縮速度60mm/minで圧縮し、治具間のギャップが0.665mmまで圧縮されたときの荷重値を読み取り、これを圧縮荷重とした。圧縮試験を行うときの温度は25℃とした。圧縮荷重の値に基づいて、以下の基準で圧縮性を評価した。
(評価基準)
5 100N未満
4 100N以上175N未満
3 175N以上250N未満
2 250N以上350N未満
1 350N以上
【0069】
[総合評価]
各実施例及び比較例について、沈降抑制評価と圧縮性の評価の平均値を総合評価とした。
具体的には、以下の式に基づいて総合評価の値を算出した。
総合評価=(第1剤の沈降抑制評価+第2剤の沈降抑制評価+圧縮性評価×2)/4
【0070】
[相溶性試験]
各構造粘性付与剤について、液状高分子であるオルガノポリシロキサンとの相溶性の評価を行った。具体的には、試験1として実施例で用いたシリコーンA剤10gと構造粘性付与剤2gとをポリプロピレン製容器に入れて、80℃の恒温槽内に15分間放置した。その後恒温槽内から取り出した直後(10秒以内)に混合物を攪拌して、25℃の環境下で自然冷却しながら、前記恒温槽から取り出してから1分後の状態を観察した。
続いて、実施例で用いたシリコーンA剤5gと、相溶化剤4gと、構造粘性付与剤1gとについて、同様の試験2を行った。
A:試験1および試験2において混合物は透明な状態であった。
B:試験1において混合物は白濁していたが、試験2では透明であった。
C:試験1および試験2において混合物は白濁していた。
D:試験1および試験2において2相分離していた。
【0071】
各実施例及び比較例では、以下の各成分を使用した。
<液状高分子>
・シリコーンA剤・・アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及び微量の付加反応触媒(白金触媒)を含む。25℃における粘度400cs。
・シリコーンB剤・・アルケニル基含有オルガノポリシロキサン及びハイドロジェンオルガノポリシロキサンを含む。25℃における粘度300cs。
【0072】
<構造粘性付与剤(25℃で固体のエステル化合物X)>
エステル化合物Xの融点測定はアルミセルに20mg秤量した後、島津製作所のDSC-60を用いて窒素流通下で25℃から90℃まで昇温速度10℃/minで行った。
・ミリスチン酸セチル 融点56℃、炭素数30、相溶性試験結果B
・ペンタエリスリトールジステアレート 融点55℃、炭素数41、相溶性試験結果C
・ミリスチン酸ミリスチル 融点46℃、炭素数28、相溶性試験結果A
・ステアリン酸ミリスチル 融点57℃、炭素数32、相溶性試験結果B
・ベヘニル酸ベヘニル 融点75℃、炭素数44、相溶性試験結果C
・グリセリンモノステアリル 融点50℃、炭素数21、相溶性試験結果C
・エチレングリコールジステアリル 融点60℃、炭素数38、相溶性試験結果B
【0073】
<構造粘性付与剤(25℃で固体のアルコール化合物、他)>
化合物の融点測定はエステル化合物Xと同じ方法で行った。
・ベヘニルアルコール 融点67℃、炭素数22、相溶性試験結果B
・ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコールコポリマー(PEG-PPG-PEGコポリマー) 融点56℃、相溶性試験結果D
【0074】
<熱伝導性充填材>
・酸化アルミニウム 球状、平均粒径12μm
・酸化アルミニウム 球状、平均粒径45μm
・水酸化アルミニウム 不定形、平均粒径1μm
・水酸化アルミニウム 不定形、平均粒径10μm
・水酸化アルミニウム 不定形、平均粒径90μm
【0075】
<相溶化剤(25℃で液体のエステル化合物Y)>
エステル化合物Y・・ラウリン酸1-メチルヘプチル 融点 -10℃以下
【0076】
<ケイ素化合物>
n-デシルトリメトキシシラン
【0077】
<チキソ性付与剤>
ヒュームドシリカ・・平均粒径10nm
【0078】
[実施例1~33、比較例1~9]
表1~9に示す配合で第1剤及び第2剤を調製し、上記した粘度、沈降抑制評価及び圧縮性評価を行った。結果を表1~9に示した。なお、上記したとおり、比較例5~9については、粘度の評価として「粘度2」を、沈降抑制評価として「沈降抑制評価2」を、圧縮性評価として「圧縮性評価2」を実施した。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
各実施例の結果より、粘度比(η1/η3)が10超であることを満足する本発明の熱伝導性組成物(第1剤及び第2剤)は、保管時の熱伝導性充填材の沈降を抑制しやすく、かつ圧縮性が良好であることにより取り扱い性にも優れることが分かった。
また、相溶化剤として用いた化合物はエステル化合物であるため、シリコーンオイルなどを用いて低粘度化させる手法と比較し、低分子シロキサンの発生が抑制することができる。
一方で、比較例1は、構造化粘性付与剤を使用せず、ヒュームドシリカを使用した例であるが、粘度比(η1/η3)が3.8~3.9と小さく、沈降抑制評価及び圧縮性の評価に基づく総合評価の結果がいずれの実施例よりも悪い結果となった。
比較例2~4は、構造粘性付与剤としてPEG-PPG-PEGコポリマーを用いて例であるが、PEG-PPG-PEGコポリマーはオルガノポリシロキサンとの相溶性が悪く、粘度比(η1/η3)が7.3~9.9と小さく、沈降抑制評価及び総合評価の結果が悪い結果となった。
比較例5~9は、実施例で使用している構造粘性付与剤を含む熱伝導性組成物(第1剤及び第2剤)を加熱工程及び冷却工程を経ないで調製した例であるが、粘度比(η1/η3)が3.4~8.8と小さく、総合評価の結果が悪い結果となった。