(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184587
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ねじ継手、ねじ継手付き鋼管、構造体、構造体の構築方法、地すべり抑止杭、地すべり抑止杭の施工方法、ねじ継手の設計方法、ねじ継手の製造方法、ねじ継手付き鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20231221BHJP
F16L 15/00 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
E02D5/24 103
F16L15/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182999
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2021133146の分割
【原出願日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020148738
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】大場 雄登
(57)【要約】
【課題】ショルダー部がタッチしない不完全接合状態であっても圧縮側のねじ部が外れることなく継手鋼材の全塑性荷重を十分に活かすことができるねじ継手を提供する。また、このようなねじ継手を前提としたねじ継手付き鋼管、構造体、構造体の構築方法、地すべり抑止杭、地すべり抑止杭の施工方法、ねじ継手の設計方法、ねじ継手の製造方法、ねじ継手付き鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るねじ継手1は、鋼管3の端部にあって鋼管3同士を接合するねじ継手1であって、テーパねじからなる雄ねじ5を有する雄側筒体7と、テーパねじからなる雌ねじ9を有する雌側筒体11とを備え、雄ねじ5と雌ねじ9におけるねじ山のスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が0度~+8度の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手であって、
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、
テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体と、を備え、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が0度~+8度の範囲内にあるねじ継手。
【請求項2】
前記雄側筒体と前記雌側筒体における全てのねじ山及びこれに対応するねじ底のピッチが同じである請求項1に記載のねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のねじ継手における雄側筒体と雌側筒体を、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で備えるねじ継手付き鋼管。
(1)前記雄側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に設ける態様
(2)前記雌側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に設ける態様
(3)前記雄側筒体と前記雌側筒体を、前記鋼管の一端と他端に設ける態様
【請求項4】
請求項1又は2に記載のねじ継手と、該ねじ継手で連結された複数の鋼管とを備える構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の構造体の構築方法であって、連結対象となるねじ継手付き鋼管の一方の回転を拘束した状態で、他方のねじ継手付き鋼管のねじ継手を、前記一方のねじ継手付き鋼管のねじ継手に位置合わせして回転嵌合する構造体の構築方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のねじ継手と、該ねじ継手で連結された複数の鋼管とを備える地すべり抑止杭。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のねじ継手を端部に取り付けた鋼管を用いた地すべり抑止杭の施工方法であって、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で施工する地すべり抑止杭の施工方法。
(1)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、掘削した孔に前記鋼管の頭が突出するように吊下げて、前記ねじ継手により順次回転接合して自重挿入し、所定の本数の継杭が完了した後、前記鋼管の周面と地盤との隙間に充填材を充填して地盤に密着させる工程とを備えた態様
(2)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、前記鋼管を前記ねじ継手により必要長さ接合する鋼管接合工程と、接合された鋼管を孔に挿入し、前記鋼管の周面と地盤との隙間に充填材を充填して地盤に密着させる工程とを備えた態様
(3)既に施工済みの杭あるいは反力部材によって反力を取りながら、前記鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程と、地中に貫入した鋼管の頭部に前記鋼管を回転接合する工程と、回転接合した鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程とを備えた態様
【請求項8】
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の設計方法であって、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度を、0度~+8度の範囲内で設定するねじ継手の設計方法。
【請求項9】
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の設計方法であって、
鋼材全塑性荷重に対する載荷荷重の比と、設定ねじ鉛直角度との関係を、摩擦係数ごとに予め求めておき、設計に際して設定した摩擦係数において前記比が1.0以上になる設定ねじ鉛直角度を、前記雄側筒体と前記雌側筒体におけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度として設定するねじ継手の設計方法。
【請求項10】
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の製造方法であって、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度を、0度~+8度の範囲内で形成するねじ継手の製造方法。
【請求項11】
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の製造方法であって、
鋼材全塑性荷重に対する載荷荷重の比と、設定ねじ鉛直角度との関係を、摩擦係数ごとに予め求めておき、予め設定された摩擦係数において前記比が1.0以上になる設定ねじ鉛直角度を、前記雄側筒体と前記雌側筒体におけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度として形成するねじ継手の製造方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のねじ継手における雄側筒体と雌側筒体を、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で取り付けるねじ継手付き鋼管の製造方法。
(1)前記雄側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に取り付ける態様
(2)前記雌側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に取り付ける態様
(3)前記雄側筒体と前記雌側筒体を、前記鋼管の一端と他端に取り付ける態様
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地すべり地帯に設置される地すべり抑止用鋼管杭(略して「地すべり抑止杭」)に用いられるねじ継手、該ねじ継手付き鋼管、構造体、構造体の構築方法、地すべり抑止杭、ねじ継手の設計方法、ねじ継手の製造方法、ねじ継手付き鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地すべり抑止用鋼管杭(以下、省略して「地すべり抑止杭」とする)は、地すべり地帯に設置されるもので、その施工場所は重機等の搬入が困難な急傾斜地であることが多い。そのため、打撃により杭を打ち込むことができず、オーガーなどによりプレボーリングした孔に杭を建て込むことが行われている。ところで、地すべり抑止杭の全長は、現地の状況によって相違するが、一般に20~30mに達する場合が多い。しかし、輸送等の制限があるため、5~8m程度の鋼管杭を現場で継杭しながら施工するのが通常である。
【0003】
この継杭作業は不安定な環境下で行われるため、迅速かつ確実な作業が強く求められる。また、地すべり崩壊面は、どの地層面で起こるかを予測することが難しいため、地すべり抑止杭は、継杭のための継手部を含むほぼ全長にわたって、どの部分でも設計上必要な強度以上の断面諸性能を有していなければならないことが多い。
【0004】
このため、従来、地すべり抑止杭の継杭は、現場での溶接作業によって行われている。しかしながら、このような作業環境が悪い場所での現場溶接は、次のような問題がある。
(1)現在の慣用サイズの鋼管は肉厚が厚いため、1か所の溶接に時間がかかる。
(2)作業環境が悪いため溶接品質が落ち易く、継手強度の確保が容易でない。
(3)労働条件が悪いため、優れた溶接技能者を確保しにくい。
(4)現場溶接では溶接品質を確保することが困難なため、高張力鋼を使用しにくい。
【0005】
このようなことから、現場継杭作業を前提とする地すべり抑止杭においては、次のような要件をすべて満すことが要求される。
(1)継杭作業が容易で、かつ作業時間が短いこと。
(2)鋼管杭どうしの継手部の品質が作業環境及び技量に影響されることなく、良好に確保されること。
(3)継手部の強度が鋼管杭本体(以下、杭本体という)と同等以上であること。
(4)継手部の外径が杭本体より大きくならないこと。
(5)杭本体が高張力鋼の場合でも適用できること。
【0006】
上記のような要件に対応する、地すべり抑止杭の継手として、端部に雌ねじ継手部を有する杭本体と、端部にこの雌ねじ継手部の外径と実質的に同じ外径の雄ねじ継手部を有する杭本体とを備え、雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部は数回転でねじ込みが完了するように設定された傾斜及びねじ山高さとねじ山間隔を有するテーパ状のねじ継手からなり、雌ねじ継手部及び雄ねじ継手部のねじ終点部における断面係数と材料強度の積が杭本体の断面係数と材料強度の積より大きくなるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
また、雄ねじ及び雌ねじはテーパねじであり、ねじ山形状が台形状で、かつ2条~3条の多条ねじとした地すべり抑止鋼管杭継手が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-82738号公報
【特許文献2】特開平10-252056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地すべり抑止杭のねじ継手には高い耐力が求められる一方で足場の悪い施工現場において人力での回転接合を行う必要がある。そして、ねじ継手はショルダー部がタッチするまでねじ込むことを基本としているが、上記のような施工現場での接合のため、完全にねじを締め切れずショルダー部がタッチせずに隙間が2mm程度生じてしまうことがある。
【0009】
この場合、牽引工具等を用いて完全接合状態とすることで隙間が生じないようにすることもできるが、非常に手間がかかる。そのため、牽引工具等を用いて完全接合状態にすることを前提とするなら一般的な現場溶接接合に対するねじ継手の優位性が減殺されてしまう。
【0010】
また、一般的にねじ継手は圧縮荷重に対してショルダー部とねじ部で抵抗し、引張荷重に対してねじ部で抵抗するよう設計される。このため、完全にねじを締め切っていない不完全接合状態で曲げ荷重による圧縮荷重がねじ継手に作用すると、ショルダー部が圧縮荷重を伝達せず、ねじ部のみで荷重に抵抗することとなる。この結果、継手鋼材の全塑性荷重を十分に活かせないまま、圧縮側のねじ部が外れてしまいねじ継手の破壊に至ることがある。
【0011】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、ショルダー部がタッチしない不完全接合状態であっても圧縮側のねじ部が外れることなく継手鋼材の全塑性荷重を十分に活かすことができるねじ継手を提供することを目的としている。
また、このようなねじ継手を前提としたねじ継手付き鋼管、構造体、構造体の構築方法、地すべり抑止杭、地すべり抑止杭の施工方法、ねじ継手の設計方法、ねじ継手の製造方法、ねじ継手付き鋼管の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明に係るねじ継手は、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手であって、テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを備え、前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が0度~+8度の範囲内にあるものである。
【0013】
[2]また、上記[1]に記載のものにおいて、前記雄側筒体と前記雌側筒体における全てのねじ山及びこれに対応するねじ底のピッチが同じであるものである。
【0014】
[3]また、本発明に係るねじ継手付き鋼管は、上記[1]又は[2]に記載のねじ継手における雄側筒体と雌側筒体を、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で備えるものである。
(1)前記雄側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に設ける態様
(2)前記雌側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に設ける態様
(3)前記雄側筒体と前記雌側筒体を、前記鋼管の一端と他端に設ける態様
【0015】
[4]また、本発明に係る構造体は、上記[1]又は[2]に記載のねじ継手と、該ねじ継手で連結された複数の鋼管とを備えたものである。
【0016】
[5]また、本発明に係る構造体の構築方法は、上記[4]の構造体の構築方法であって、連結対象となるねじ継手付き鋼管の一方の回転を拘束した状態で、他方のねじ継手付き鋼管のねじ継手を、前記一方のねじ継手付き鋼管のねじ継手に位置合わせして回転嵌合するものである。
【0017】
[6]また、本発明に係る地すべり抑止杭は、上記[1]又は[2]に記載のねじ継手と、該ねじ継手で連結された複数の鋼管とを備えたものである。
【0018】
[7]また、本発明に係る地すべり抑止杭の施工方法は、上記[1]又は[2]に記載のねじ継手を端部に取り付けた鋼管を用いた地すべり抑止杭の施工方法であって、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で施工するものである。
(1)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、掘削した孔に前記鋼管の頭が突出するように吊下げて、前記ねじ継手により順次回転接合して自重挿入し、所定の本数の継杭が完了した後、前記鋼管の周面と地盤との隙間に充填材を充填して地盤に密着させる工程とを備えた態様
(2)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、前記鋼管を前記ねじ継手により必要長さ接合する鋼管接合工程と、接合された鋼管を孔に挿入し、前記鋼管の周面と地盤との隙間に充填材を充填して地盤に密着させる工程とを備えた態様
(3)既に施工済みの杭あるいは反力部材によって反力を取りながら、前記鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程と、地中に貫入した鋼管の頭部に前記鋼管を回転接合する工程と、回転接合した鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程とを備えた態様
【0019】
[8]また、本発明に係るねじ継手の設計方法は、テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の設計方法であって、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度を、0度~+8度の範囲内で設定するものである。
【0020】
[9]また、本発明に係るねじ継手の設計方法は、テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の設計方法であって、
鋼材全塑性荷重に対する載荷荷重の比と、設定ねじ鉛直角度との関係を、摩擦係数ごとに予め求めておき、設計に際して設定した摩擦係数において前記比が1.0以上になる設定ねじ鉛直角度を、前記雄側筒体と前記雌側筒体におけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度として設定するものである。
【0021】
[10]また、本発明に係るねじ継手の製造方法は、テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の製造方法であって、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度を、0度~+8度の範囲内で形成するものである。
【0022】
[11]また、本発明に係るねじ継手の製造方法は、テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の製造方法であって、
鋼材全塑性荷重に対する載荷荷重の比と、設定ねじ鉛直角度との関係を、摩擦係数ごとに予め求めておき、予め設定された摩擦係数において前記比が1.0以上になる設定ねじ鉛直角度を、前記雄側筒体と前記雌側筒体におけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度として形成するものである。
【0023】
[12]また、本発明に係るねじ継手付き鋼管の製造方法は、上記[1]又は[2]に記載のねじ継手における雄側筒体と雌側筒体を、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で取り付けるものである。
(1)前記雄側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に取り付ける態様
(2)前記雌側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に取り付ける態様
(3)前記雄側筒体と前記雌側筒体を、前記鋼管の一端と他端に取り付ける態様
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るねじ継手は、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するものであって、テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを備え、前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が0度~+8度の範囲内にあることにより、曲げによる圧縮荷重がねじ継手に作用した場合に、ショルダー部の隙間が2mm程度あるような完全に締め切っていない不完全接合状態であっても、圧縮側のねじ部のみで十分な荷重伝達ができ、圧縮側のねじ部が外れることなくねじ継手鋼材の全塑性荷重を十分に活かすことができる。そのため足場の悪い施工現場において人力での回転接合を行う必要がある地すべり抑止杭に用いられるねじ継手において、労力のかかる牽引工具による締め切りや厳密な施工管理を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るねじ継手の説明図である。
【
図2】
図1のねじ継手を用いた地すべり抑止杭に曲げ荷重が作用した際の、ねじ継手を含む全体の挙動を説明する説明図である。
【
図3】
図2の状態におけるねじ継手の挙動を説明する説明図である。
【
図4】スタビング面もしくはロード面における鋼管軸直角方向に対する傾斜角度(設定ねじ鉛直角度)とスタビング面間もしくはロード面間の摩擦係数との関係を示す図である。
【
図5】従来例におけるねじ継手の挙動を説明する説明図である。
【
図6】傾斜角度の検討における鋼材全塑性荷重を説明する説明図である。
【
図7】傾斜角度の検討における解析結果を示す図である(その1)。
【
図8】傾斜角度の検討における解析結果を示す図である(その2)。
【
図9】傾斜角度の検討における解析結果を示す図である(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施の形態に係るねじ継手1は、
図1(a)に示すように、鋼管3の(軸方向)端部にあって鋼管3同士を接合するものであって、テーパねじ(taper thread)からなる雄ねじ5を有する雄側筒体7と、テーパねじ(taper thread)からなる雌ねじ9を有する雌側筒体11とを備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0027】
本実施の形態のねじ継手1は、複数の鋼管3を連結することで構成される構造体の一例として地すべり抑止用鋼管杭(以下、省略して「地すべり抑止杭」とする)を例示し、この鋼管3の接合手段として適用したものである。地すべり抑止杭の場合、杭本体となる鋼管3の直径φは216mm以上である。上限は特に規定はないが、近年の傾向を踏まえると、鋼管の直径φは2500mm以下である。
図1(a)に示す状態は、非締め切り状態、すなわち雌側筒体11の先端11aが雄側筒体7のショルダー部7aに接触していない(ショルダータッチしていないともいう)状態を示している。
【0028】
雄側筒体7と雌側筒体11は、
図1(a)に示すように、下杭及び上杭となる鋼管3の外径と実質的に等しい外径を有するリング体にねじ加工したものであり、雄側筒体7が上杭の下端に雌側筒体11が下杭の上端にそれぞれ取り付けられている。本実施の形態の場合、鋼管端部への雄側筒体または雌側筒体の取り付けは、溶接により接合されることで行われている。
【0029】
ここで、雄側筒体7と雌側筒体11は、鋼管3と同じ鋼種としても良い。ただし、同じ鋼種を用いて雄側筒体7と雌側筒体11の強度を高くしたい場合には厚さが必要となり、鋼管3に対する張り出し幅が大きくなる。その結果、施工性や荷重伝達性能を落とす場合がある。そこで、厚さをあまり厚くしたくない場合には、雄側筒体7と雌側筒体11の鋼種として、鋼管3の鋼種の降伏強度を上回る鋼種を選択することで張り出し幅を減らすことができる。
例えば、一般的な地すべり抑止杭においては、鋼管3の鋼種としては、SKK490材相当(規格降伏強度が315N/mm2)またはSM570材相当(規格降伏強度が板厚16mm以下で460 N/mm2、板厚16mm越え40mm以下で450N/mm2、板厚40mm越え75mm以下で430N/mm2)の鋼種が用いられる。そこで、雄側筒体7の鋼種及び/又は雌側筒体11の鋼種にHITEN780材相当(規格降伏強度が685N/mm2)の鋼種を用いれば、強度を高くしつつ雄側筒体7と雌側筒体11の厚さを減らすことができ、鋼管3に対する張り出し幅を抑えることができる。
【0030】
雄側筒体7に形成された雄ねじ5と雌側筒体11に形成された雌ねじ9は、どちらもテーパねじである。雄ねじ5と雌ねじ9は、雄側筒体7と雌側筒体11を近づける方向に回転することで接合する。
図1(a)では雄側筒体7を上側とし、雌側筒体11を下側としているが、上下を反対にしても良い。前述のショルダー部7aは、雄側筒体7のテーパねじの終端に雌側筒体11の先端11aが接触できるよう、段状となっている。
【0031】
図1(a)における点線の丸部分の拡大図を
図1(b)に示す。
図1(b)においては、雄ねじ5と雌ねじ9は台形ねじ(trapezoidal thread)、角ねじ(square thread)またはのこ歯ねじ(buttress thread)のいずれかであることが好ましい。また、雄ねじ5のねじ山は頂部51と、それに繋がる2つの側面5a(後述のスタビング面5a),5b(後述のロード面5b)とを備えている。さらに、雄ねじ5のねじ山の側面5aと一方の隣のねじ山の側面5bとはねじ底52でつながっている。雄ねじ5ねじ山の側面5bと他方の隣の側面5aとは、ねじ底52でつながっている。同様に、雌ねじ9は、ねじ山に頭頂91とそれに繋がる2つの側面9b(後述のロード面9b),9a(後述のスタビング面9a)とを備えている。さらに、雌ねじ9のねじ山の側面9aと一方の隣のねじ山の側面9bとはねじ底92でつながっている。雌ねじ9のねじ山の側面9bと他方の隣の側面9aとは、ねじ底92でつながっている。
【0032】
また、
図1(a)に示したPはねじ山のピッチを示している。このねじ山のピッチPとは、ある1条における雄ねじ5のねじ山頂部51の端から次の1条の雄ねじ5のねじ山頂部51の始まる位置までの鋼管軸方向の距離、あるいは、ある1条の雌ねじ9のねじ山頂部91の端から次の1条のねじ山頂部91の始まる位置までの鋼管軸方向の距離である。同様に、ねじ底のピッチとは、ある1条における雄ねじ5のねじ山頂部51に対応するねじ底92の端から、次の1条の雄ねじ5のねじ山頂部51に対応するねじ底92の始まる位置までの、鋼管軸方向の距離である。または、ある1条の雌ねじ9のねじ山頂部91に対応するねじ底52の端から、次の1条のねじ山頂部91に対応するねじ底52の始まる位置までの、鋼管軸方向の距離である。1条ねじの場合には、ピッチは、1回転したときにねじが進む距離を意味する。これに対して、多条ねじにおいては、ねじの条数によって1回転したときの進む距離が異なることから、一定の距離としてのピッチを定義できない。このため、本明細書では上記のように定義している。
【0033】
また、
図1(a)に示したhはねじ高さを示している。ここで、ねじ高さhとは、雄ねじ5のねじ山頂部51からねじ底52までの距離(テーパの勾配軸21に直交する勾配軸直交軸23方向の距離)、または、雌ねじ9のねじ山頂部91からねじ底92までの距離(テーパの勾配軸21に直交する勾配軸直交軸23方向の距離)である。
【0034】
本実施の形態に係るねじ継手1においては、雄側筒体7に形成された雄ねじ5と雌側筒体11に形成された雌ねじ9におけるねじ山のスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度αが0度~+8度に設定されている。
ここで、傾斜角度αについて説明する。
図1(b)に示すように、鋼管軸25に直交方向の軸を鋼管直交軸27とすれば、傾斜角度αは、ねじ継手1を鋼管軸方向の断面にした状態(
図1の状態)において、雄ねじ5と雌ねじ9におけるねじ山のスタビング面5a、9aが、同断面上にある鋼管直交軸27と成す角度である。
ここで、図示はしていないが、ねじ山のロード面5b、9bの傾斜角度も同様に定義することができる。すなわち、鋼管軸25に直交方向の軸を鋼管直交軸27とすれば、ねじ山のロード面5b、9bの傾斜角度は、ねじ継手1を鋼管軸方向の断面にした状態(
図1(a)の状態)において、雄ねじ5と雌ねじ9におけるねじ山のロード面5b、9bが、同断面上にある鋼管直交軸27と成す角度である。
【0035】
以下、ねじ山のスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度αをこのように設定している理由を、
図2~
図4に基づいて説明する。
なお、本明細書において、ねじ山のスタビング面5a、9a及びロード面5b、9bに設定された鋼管軸直角方向66に対する傾斜角度αを、設定ねじ鉛直角度という場合がある。
【0036】
図2は、非締め切り状態の地すべり抑止杭に曲げ荷重が作用した際の、ねじ継手1を含む鋼管杭全体の挙動を示し、
図3は
図2の状態におけるねじ継手1の挙動を示している。
まず、ねじ山のロード面5b、9bとスタビング面5a、9aについて、雄ねじ山を例に挙げて説明する。
雄ねじ5のねじ山のロード面5bとは、雄ねじ5のねじ山における両側面(フランク)のうち、雄側筒体7の基端側(鋼管3が接合される側)にある面である。同様に、雌ねじ9のねじ山のロード面9bとは、雌ねじ9のねじ山における両側面(フランク)のうち、雌側筒体11の基端側(鋼管3が接合される側)にある面である。雄ねじ5と雌ねじ9とを回転嵌合して接続した後に、ねじ継手1が引張荷重を受けたとき、雄ねじ5のねじ山のロード面5bと雌ねじ9のねじ山のロード面9bとが接触する。
【0037】
また、雄ねじ5のねじ山のスタビング面5aとは、雄ねじ5のねじ山における両側面(フランク)のうち、雄側筒体7の先端11a側にある面である。同様に、雌ねじ9のねじ山のスタビング面9aとは、雌ねじ9のねじ山における両側面(フランク)のうち、雌側筒体11の先端11a側にある面である。雄側筒体7を雌側筒体11に預けて回転嵌合する際には、雄ねじ5のねじ山のスタビング面5aは、雌ねじ9のスタビング面9aと接触する。つまり、端的に言うと、ねじ継手1はスタビング面5a、9aで圧縮力を伝達し、ロード面5b、9bで引張力を伝達するような構造となる。
なお、ねじ山のスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度αに対し、ねじ山の頂部51、91に対して根元の幅が広がる方向の角度を+(プラス)の角度とし、狭まる方向の角度を-(マイナス)の角度と表記する。
【0038】
前述したように本実施の形態では、ねじ山のスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が0度~+8度に設定されている(
図3の一部拡大図参照)。
ねじ山のスタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度を上記のように設定することで、ねじ継手1において曲げ荷重が作用した際に圧縮力が働く側(
図3において上側が圧縮、下側が引張)で、ねじ山の接触面が滑り出しにくくなる。これにより、
図3に示すように、雄ねじ5のスタビング面5aが滑って外れることなく、十分な荷重伝達ができる状態になる。
【0039】
ここで、スタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度とねじの滑り難さとの関係について、
図4に基づいて説明する。
図4は、クーロンの摩擦法則(F=μN:Fは摩擦力、μは固体間の摩擦係数、Nは垂直力)と、スタビング面5a、9aもしくはロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度と摩擦係数との関係を示したものである。
縦軸は設定ねじ鉛直角度(°)を、横軸は、接触したスタビング面5aとスタビング面9aとの間(略して、「スタビング面間」と呼ぶこともある)、もしくは接触したロード面5bとロード面9bとの間(略して、「ロード面間」と呼ぶこともある)の摩擦係数(無次元量)を示している。
図4中の直線は、上記のクーロンの摩擦法則から導き出した式で、設定ねじ鉛直角度をαとし静止摩擦係数をμとした場合の関係を示しており、下記の式(1)となる。
α=tan
-1(μ)・・・(1)
なお、αは接触したスタビング面5a、9aもしくは接触したロード面5b、9bの鋼管軸直角方向に対する角度で、正負は前述した定義の通りである。式(1)によれば、特定の設定ねじ鉛直角度αにおけるスタビング面間もしくはロード面間の摩擦係数が静止摩擦係数μよりも小さくなると、スタビング面同士もしくはロード面同士が滑り出す。つまり、設定ねじ鉛直角度αが式(1)以下となる領域の条件であれば滑り出さない。
言い換えると、スタビング面5a、9aまたはロード面5b、9bにおいて、
図4中で設定ねじ鉛直角度αが式(1)以下となるハッチング領域はねじが「滑らない範囲」を示している。また、図中において設定ねじ鉛直角度αが式(1)より上となるハッチングされていない領域は、ねじが「滑る範囲」を示している。
【0040】
図4から分かる通り、スタビング面間もしくはロード面間の摩擦係数が同じであれば、設定ねじ鉛直角度αが小さいほど、すなわちスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が小さいほど、スタビング面5a、9aが滑りにくくなることが分かる。
そして、後述の[傾斜角度の検討]で示す発明者の検討により、スタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度を0度~+8度に設定することで、鋼材の全塑性荷重に至るまで滑りが発生しないことが分かった。本発明はかかる知見に基づいて設定ねじ鉛直角度を0度~+8度に設定している。
【0041】
図5は、特許文献2に記載のねじ継手13におけるスタビング面15a、17a(特許文献2では、ねじ挿入面13、23が該当する。)の角度が鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が+20度~+45度である従来のねじ継手13に、
図2に示した曲げ荷重が作用したときの挙動を示している。
特許文献2のねじ継手13では、曲げ荷重が作用した際に圧縮力が働く図中上側のねじ部において、ねじ部の摩擦力を越える力が働くことで、
図5に示すように、雄ねじ15のスタビング面15aに滑りが生じてねじが外れてしまう。
【0042】
以上のように、本実施の形態のねじ継手1においては、スタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度(設定ねじ鉛直角度)を0度~+8度に設定した。これにより、鋼管3の曲げによる圧縮荷重が継手に作用した場合に、ショルダー部7aの隙間が2mm程度あるような完全に締め切っていない不完全接合状態であるねじ継手1であっても、圧縮側のねじ部のみで十分な荷重伝達ができる。その結果、圧縮側のねじ部が外れることなく継手鋼材の全塑性荷重を十分に活かすことができる。
そのため、地すべり抑止杭に用いられるねじ継手1において、特に好適である。その理由は、地すべり抑止杭に用いられるねじ継手1では、足場の悪い施工現場において人力での回転接合を行う場合が多く、その場合、労力のかかる牽引工具による締め切りや厳密な施工管理を省略することができるからである。
【0043】
本実施の形態のねじ継手1を地すべり抑止杭に適用した際の具体的な施工方法として、以下3つが考えられる。
(a)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、掘削した孔に本発明のねじ継手1を取り付けた鋼管の頭が突出するように吊下げて、ねじ継手1により順次回転接合して自重挿入し、所定の本数の継杭が完了した後、鋼管周面と地盤との隙間に充填材(例えば、グラウト、モルタル等)を充填して地盤に密着させる。
(b)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、本発明のねじ継手1を取り付けた鋼管をねじ継手1により必要長さ接合する鋼管接合工程と、接合された鋼管を孔にクレーン等で挿入し、鋼管周面と地盤との隙間に充填材(例えば、グラウト、モルタル等)を充填して地盤に密着させる。
(c)既に施工済みの杭あるいは反力部材によって反力を取りながら、本発明のねじ継手1を取り付けた鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程と、地中に貫入した杭頭部に本発明のねじ継手1を取り付けた鋼管を回転接合する工程と、回転接合した鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程とを備えたもの。
【0044】
もちろん、本発明は地すべり抑止杭以外の杭または鋼管に対しても利用できる。より具体的には、支持杭、摩擦杭、鋼管矢板、斜杭または構造物の一部である鋼管などにも利用できる。これらの用途に使用した場合でも、既に説明した効果、すなわち、鋼管3の曲げによる圧縮荷重が継手に作用した場合に、ショルダー部7aの隙間が2mm程度あるような完全に締め切っていない不完全接合状態であるねじ継手1であっても、圧縮側のねじ部のみで十分な荷重伝達ができるという効果を得ることができる。
【0045】
ここで一般的にテーパねじ継手が用いられる油井管用のねじ継手について説明する。油井管の場合、最大径が240mmと小さいので、少ないトルクで回転し接合させることができる。また、管内の内容物を漏れなく輸送する目的のため、シール性への要求が高い。その結果、ねじを締めきった状態、すなわち雌側筒体11の先端11aが雄側筒体7のショルダー部7aに接触している(ショルダータッチしているともいう)状態で使用される。そのため、接続された油井管に曲げ荷重が作用した際には、圧縮力をショルダー部で伝達が可能である。さらに、外部から何らかの荷重がかかる構造部材でないことから、高い強度が求められるわけでもない。以上の事情と、シール性を高める観点から、小さなトルクで回転するようスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度は+30°~+60°とされる。一方で、構造部材として用いられるねじ継手では、想定される最大径は2500mm程度のため、回転させるのに非常の大きなトルクを必要とし、接合難易度が高い。また、構造部材であるため、ねじ山にも高い強度が求められ、スタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度は大きい方が望ましい。そして、油井管程のシール性は求められていない。そこで、従来のテーパねじ継手(特に油井管の技術)をそのまま構造部材用途に適用した場合、雌側筒体11の先端11aが雄側筒体7のショルダー部7aに完全に接触していない非締め切り状態での使用が要求される。
言い換えれば、構造部材としてのねじ山の強度を確保しつつ、非締め切り状態でも圧縮側のねじ部が外れることのないねじ継手であることが、本発明にかかるねじ継手の非常に顕著な効果である。
【0046】
なお、特許文献2において、ねじ挿入面角度(設定ねじ鉛直角度)を+20度より小さくすると、ねじ切り加工時の切削抵抗が大きくなるため、1パスでの切削量を減少させなければならず、加工効率が低下すると記載されている。
しかしながら、本発明を適用することでねじ部の荷重伝達効率が上がり、ねじ山数やねじ山高さを減らすことが可能になり、1パスでの切削量の減少が大きな問題となることはない。
また、特許文献2には、継ぎ杭作業の際に上杭と下杭の芯合わせが容易でなくなり、ねじ締結性が低下するとも記載されているが、対象構造物は上杭と下杭の外径が同じである場合には、4方向で位置を確認することができるので芯合わせが大きな問題となることはない。
【0047】
本発明は、テーパねじを対象としているが、テーパねじならば1条ねじのみならず多条ねじの場合も同様に適用可能である。
【0048】
なお、雄側筒体7と雌側筒体11における全てのねじ山及びこれに対応するねじ底のピッチを同じに設定することが好ましい。
このように設定することで、ねじ継手1に荷重が作用した際に、軸方向で全てのねじ山が均等に当接して荷重伝達できる。
【0049】
なお、ねじ継手1を有する構造体として、例えば地すべり抑止杭を構築するには、連結対象となるねじ継手付き鋼管の一方の回転を拘束した状態で、他方のねじ継手鋼管のねじ継手1を、前記一方のねじ継手付き鋼管のねじ継手1に位置合わせして回転嵌合するようにすればよい。
【0050】
また、ねじ継手1を設計するには、以下のような設計方法となる。
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の設計方法であって、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度を、0度~+8度の範囲内で設定するねじ継手の設計方法。
【0051】
また、ねじ継手1を製造するには、以下のような製造方法となる。
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の製造方法であって、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度を、0度~+8度の範囲内で形成するねじ継手の製造方法。
【0052】
また、ねじ継手1における雄側筒体7と雌側筒体11を備えるねじ継手付き鋼管を製造するには、本発明に係るねじ継手における雄側筒体と雌側筒体を、鋼管の一端と他端に取り付けるようにすればよい。
【0053】
[傾斜角度の検討]
本発明では、上述したように、ねじ山のスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度の最適範囲として、0度~+8度としているが、これはFEM解析結果に基づくものであり、以下このFEM解析について説明する。
解析モデルは、鋼管外径508mmで板厚23mm、筒体外径508mm、載荷点間距離は1200mmとした3次元4点曲げ(
図2参照)モデルで、鋼管3に取り付けられた雄側筒体7ともう一方の鋼管3に取り付けられた雌側筒体11が接合された状態で等曲げ区間となる中央部にねじ継手1を配置し、曲げ荷重による耐力を確認するモデルとなっている。
【0054】
また非締め切り状態を考慮するため、雄側筒体7と雌側筒体11の初期配置をショルダー部7aと雌側筒体11の先端11aとの隙間が2mmとなる状態とした。さらに接触状態を考慮するため、雄側筒体7と雌側筒体11には接触判定が可能となる接触条件を与え、接触部となるスタビング面5aと9a、ロード面5bと9bには下記で設定したスタビング面間およびロード面間の摩擦係数を用いた。鋼材の弾塑性挙動を考慮した接触解析弾塑性モデルとなっている。
【0055】
解析に用いたスタビング面間およびロード面間の摩擦係数は、滑る条件下(例えば潤滑油を塗布した条件下)における鋼材間の一般的な摩擦係数である0.1とした。
【0056】
また、ロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度は0度とした。
一般的にロード面の設定ねじ鉛直角度は0度の場合が、荷重伝達力が高いと言われてい
る。設定ねじ鉛直角度がマイナスの場合には一般的にフックねじと呼ばれる形状で、ねじ部の滑りを抑制できるが、ねじ山の根元幅(ねじ山の側面5a,9aと側面5b,9bの
根根元の幅)が小さくなることからねじ部の剛性が下がり、変形しやすい。このため、高耐力が要求される構造部材(特に、地すべり抑止杭、地すべり抑止用壁、土留め壁、基礎用鋼管杭、鋼管矢板、および鋼管柱)には適用が難しい。一方でプラスの場合には一般的に台形ねじと呼ばれる形状で、ねじ部の剛性が高く変形しにくいが、ねじ部の滑りが生じやすくなる。
【0057】
すなわち、ロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度を0度としたのは、ロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度が+10度等であれば引張側で外れやすい条件となるが、ロード面
5b、9bの設定ねじ鉛直角度を0度とすることで、構造体としてのねじ継手1において
最も引張荷重伝達力が高く、相対的に圧縮側で外れやすい条件となるからである。
【0058】
このような条件下で圧縮側のねじ部の外れが生じず、鋼材全塑性荷重を発揮できるスタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度を規定することで、ロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度に関係なく圧縮側のねじ外れを抑制できるスタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度を規定することができる。
なお、鋼材全塑性荷重とは、
図6に示すように、継手の弱点部となる雄ねじ5における最も根元側のねじ底中央部における断面(
図6の破線の四角で囲んだ部分参照)を等価した仮想鋼管19を想定した場合の塑性断面係数と鋼材降伏応力を基に計算した値である。
【0059】
本検討では、ロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度は鋼管軸直角方向66に対し0度とし、スタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度を0度、+5度、+6度、+8度、+10度の5ケースとして実施した。
なお、ロード面の設定ねじ鉛直角度の場合と同様に、スタビング面の設定ねじ鉛直角度がマイナスの場合には一般的にフックねじと呼ばれる形状で、ねじ部の滑りを抑制できる。しかし、ねじ山の根元幅が小さくなることからねじ部の剛性が下がり、変形しやすいため、高耐力が要求される構造部材には適用が難しい。故に、検討からは除外した。
【0060】
図7にロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度が0度で、スタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度が0度の場合の解析結果を示す。
図7の縦軸は鋼材の全塑性荷重で解析により求められた荷重を割ることで無次元化した荷重比(載荷荷重/鋼材全塑性荷重)であり、横軸が支間中央部変位(mm)である。
【0061】
図7より、スタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度が0度の場合には、荷重比が1.12を超えたところで、低下していることが読み取れる。すなわち、スタビング面5a、9
aの設定ねじ鉛直角度が0度の場合には、鋼材全塑性荷重ではねじ部が外れることがないことを示しており、鋼材全塑性荷重を発揮できることがわかる。ここで、荷重比が低下する直前の最大値(
図7中の逆黒色三角印▼の箇所)を最大荷重比と呼んでおく。
図7から、設定ねじ鉛直角度が0度の場合の最大荷重比は1.12となる。
【0062】
同様の解析をスタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度が+5度、+6度、+8度、+10度の場合についても実施し、
図7と同様の解析結果を得て、設定ねじ鉛直角度毎の最大荷重比を求めた。スタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度が0度の場合を含め、設定ねじ鉛直角度毎の最大荷重比の結果をまとめて
図8のグラフに示す。
図8の縦軸は、
図7の縦軸と同じ荷重比(載荷荷重/鋼材全塑性荷重)であり、横軸は設定ねじ鉛直角度(°)である。
【0063】
図8のグラフには、解析結果を回帰分析した結果である点線を付している。この回帰分析の結果から、設定ねじ鉛直角度が8度以下であれば荷重比(載荷荷重/鋼材全塑性荷重)が1以上、つまり圧縮側のねじ部が外れることなく、鋼材全塑性荷重を活かすことができることが読み取れる。一方で8度超の場合は、鋼荷重比が1未満となり、鋼材全塑性荷重に達する前に圧縮側のねじ部が外れ、鋼材全塑性荷重を活かすことができないことが読み取れる。
【0064】
以上の解析結果から、本発明において規定する設定ねじ鉛直角度として8度以下が妥当であることが実証されている。
【0065】
上記の検討は、スタビング面間およびロード面間の摩擦係数を0.1とした場合である。これは、継手を形成する鋼材間の摩擦係数が約0.45であり、これに潤滑油を塗布して滑る条件下では0.1~0.2となることから、最も厳しい条件として0.1を用いたものである。
したがって、一般的なねじ継手においては、上記の結果が妥当する。
【0066】
もっとも、
図4に示されるように、スタビング面間もしくはロード面間の摩擦係数が小さくなるにしたがって、滑り出す設定ねじ鉛直角度は小さくなる。このため、発明者は念のためにスタビング面間およびロード面間の摩擦係数を0.06とした場合について、ロード面5b、9bの設定ねじ鉛直角度を0度、スタビング面5a、9aの設定ねじ鉛直角度を0度、+3度、+4度、+8度、+10度とした5ケースについて解析を実施した。
解析結果を
図9に示す。
図9には、上述したスタビング面間およびロード面間の摩擦係数を0.1とした場合も併せて記載している。
【0067】
図9のグラフから、スタビング面間およびロード面間の摩擦係数を0.06とした場合には、圧縮側のねじ部が外れることなく、鋼材全塑性荷重を活かすことができるためには、設定ねじ鉛直角度を3度以下に設定することになることが分かる。
【0068】
このことから、スタビング面間の摩擦係数が特殊な場合においてねじ継手1を設計するには、スタビング面間の摩擦係数を考慮して設計することがより好ましく、この場合の設計方法としては、以下のような設計方法となる。
テーパねじからなる雄ねじ5を有する雄側筒体7と、テーパねじからなる雌ねじ9を有する雌側筒体11とを有し、鋼管3の端部にあって鋼管3同士を接合するねじ継手の設計方法であって、
鋼材全塑性荷重に対する載荷荷重の比と、設定ねじ鉛直角度との関係を、スタビング面間の摩擦係数ごとに予め求めておき、設計に際して設定したスタビング面間の摩擦係数において前記比が1.0以上になる設定ねじ鉛直角度を、雄側筒体7と雌側筒体11におけるねじ山のスタビング面5a、9aの鋼管軸直角方向に対する傾斜角度として設定するねじ継手の設計方法。
【0069】
また、スタビング面間の摩擦係数が特殊な場合において、ねじ継手1を製造するには、スタビング面間の摩擦係数を考慮してねじ継手を形成することがより好ましく、この場合の製造方法としては、以下のような製造方法となる。
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体とを有し、鋼管の端部にあって前記鋼管同士を接合するねじ継手の製造方法であって、
載荷荷重と鋼材全塑性荷重との比と、設定ねじ鉛直角度との関係を、スタビング面間の摩擦係数ごとに予め求めておき、予め設定されたスタビング面間の摩擦係数において前記比が1.0以上になる設定ねじ鉛直角度を、前記雄側筒体と前記雌側筒体におけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度として形成するねじ継手の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、ショルダー部がタッチしない不完全接合状態であっても圧縮側のねじ部が外れることなく継手鋼材の全塑性荷重を十分に活かすことができるねじ継手を提供することができる。また、本発明によれば、このようなねじ継手を前提としたねじ継手付き鋼管、構造体、構造体の構築方法、地すべり抑止杭、地すべり抑止杭の施工方法、ねじ継手の設計方法、ねじ継手の製造方法、ねじ継手付き鋼管の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 ねじ継手
3 鋼管
5 雄ねじ
5a スタビング面
5b ロード面
51 頂部
52 ねじ底
7 雄側筒体
7a ショルダー部
9 雌ねじ
9a スタビング面
9b ロード面
91 頂部
92 ねじ底
11 雌側筒体
11a 先端
13 ねじ継手(特許文献2)
15 雄ねじ
15a スタビング面
15b ロード面
17 雌ねじ
17a スタビング面
17b ロード面
19 仮想鋼管
21 テーパの勾配軸
23 勾配軸直交軸
25 鋼管軸
27 鋼管直交軸
P ねじ山のピッチ
h ねじ高さ
α 傾斜角度、設定ねじ鉛直角度(スタビング面に対するまたはロード面に対する)
【手続補正書】
【提出日】2023-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地すべり抑止杭、地すべり抑止用壁、土留め壁、基礎用鋼管杭、鋼管矢板、および鋼管柱を構成する鋼管の端部に取り付けられ、前記鋼管よりも強度の高い鋼種で形成されて前記鋼管同士を接合するねじ継手であって、
テーパねじからなる雄ねじを有する雄側筒体と、
テーパねじからなる雌ねじを有する雌側筒体と、を備え、
前記雄ねじと前記雌ねじにおけるねじ山のスタビング面の鋼管軸直角方向に対する傾斜角度が0度~+3度の範囲内にあるねじ継手。
【請求項2】
前記雄側筒体と前記雌側筒体における全てのねじ山及びこれに対応するねじ底のピッチが同じである請求項1に記載のねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のねじ継手における雄側筒体と雌側筒体を、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で備えるねじ継手付き鋼管。
(1)前記雄側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に設ける態様
(2)前記雌側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に設ける態様
(3)前記雄側筒体と前記雌側筒体を、前記鋼管の一端と他端に設ける態様
【請求項4】
請求項1又は2に記載のねじ継手と、該ねじ継手で連結された複数の鋼管とを備える地すべり抑止杭、地すべり抑止用壁、土留め壁、基礎用鋼管杭、鋼管矢板、または鋼管柱。
【請求項5】
請求項4に記載の地すべり抑止杭、地すべり抑止用壁、土留め壁、基礎用鋼管杭、鋼管矢板、または鋼管柱の構築方法であって、連結対象となるねじ継手付き鋼管の一方の回転を拘束した状態で、他方のねじ継手付き鋼管のねじ継手を、前記一方のねじ継手付き鋼管のねじ継手に位置合わせして回転嵌合する地すべり抑止杭、地すべり抑止用壁、土留め壁、基礎用鋼管杭、鋼管矢板、または鋼管柱の構築方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のねじ継手を端部に取り付けた鋼管を用いた地すべり抑止杭の施工方法であって、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で施工する地すべり抑止杭の施工方法。
(1)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、掘削した孔に前記鋼管の頭が突出するように吊下げて、前記ねじ継手により順次回転接合して自重挿入し、所定の本数の継杭が完了した後、前記鋼管の周面と地盤との隙間に充填材を充填して地盤に密着させる工程とを備えた態様
(2)地盤に杭を挿入する孔を必要な長さの全長に亘って掘削する孔掘削工程と、前記鋼管を前記ねじ継手により必要長さ接合する鋼管接合工程と、接合された鋼管を孔に挿入し、前記鋼管の周面と地盤との隙間に充填材を充填して地盤に密着させる工程とを備えた態様
(3)既に施工済みの杭あるいは反力部材によって反力を取りながら、前記鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程と、地中に貫入した鋼管の頭部に前記鋼管を回転接合する工程と、回転接合した鋼管を回転圧入により地中に貫入する工程とを備えた態様
【請求項7】
請求項1又は2に記載のねじ継手における雄側筒体と雌側筒体を、次の(1)から(3)のいずれか1つの態様で取り付けるねじ継手付き鋼管の製造方法。
(1)前記雄側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に取り付ける態様
(2)前記雌側筒体を、前記鋼管の少なくとも一端に取り付ける態様
(3)前記雄側筒体と前記雌側筒体を、前記鋼管の一端と他端に取り付ける態様