(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184594
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】シングルモード光ファイバおよびシングルモード光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20231221BHJP
G02B 6/028 20060101ALI20231221BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20231221BHJP
C03B 37/027 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G02B6/036
G02B6/028
G02B6/02 401
G02B6/02 356
C03B37/027 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183510
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2019134350の分割
【原出願日】2019-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 希一郎
(57)【要約】
【課題】分散特性が良好であり、かつ、伝送損失および耐水素特性が良好なシングルモード光ファイバおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】屈折率分布10における、コア領域2の面積Cに対する境界11より外側のスソ引き部31の面積Tの比であるT/Cが、4%以上30%以下であり、境界11はコア領域2の中心Oから第一クラッド領域3の外周部12までの間で、屈折率の変化量の絶対値が最大となる位置で定義され、面積Cはコア領域2の中心から境界11までの範囲で、第一クラッド領域3の屈折率直線Lとコア領域2の平均屈折率nmの直線との間の面積で定義され、面積Tは境界11から外周部12までの範囲で、屈折率が屈折率直線Lより大きい範囲の、屈折率直線Lと屈折率分布10の曲線10aとの間の面積で定義され、屈折率直線Lは境界11から外周部12までの範囲を三分割した中央部3Mの範囲の、一部または全部の屈折率のみを平均した値または直線近似線で定義される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大屈折率がn1であるコア領域と、
前記コア領域の外周側に設けられ、屈折率が前記n1より小さい屈折率を有する第一クラッド領域と、
前記第一クラッド領域の外周側に設けられ、前記第一クラッド領域の外周部の屈折率より大きい屈折率を有する第二クラッド領域と、を備え、
前記コア領域と前記第一クラッド領域との境界において、屈折率が連続的に変化する屈折率分布となるシングルモード光ファイバであって、
前記屈折率分布における、前記コア領域の面積Cに対する前記境界より外側のスソ引き部の面積Tの比であるT/Cが、4%以上30%以下であり、
前記境界は、前記屈折率分布における、前記コア領域の中心から前記第一クラッド領域の外周部までの間で、屈折率の径方向における変化量の絶対値が最大となる位置で定義され、
前記コア領域の面積Cは、前記屈折率分布における、径方向が前記コア領域の中心から前記境界までの範囲で、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記コア領域の平均屈折率の直線との間の面積で定義され、
前記スソ引き部の面積Tは、前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲で、屈折率が前記第一クラッド領域の屈折率直線より大きい範囲の、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記屈折率分布の曲線との間の面積で定義され、
前記第一クラッド領域の屈折率直線は、前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲を三分割した中央部の範囲の、全部の屈折率のみを平均した値で定義され、
前記屈折率分布が、前記中央部の範囲において、前記第一クラッド領域の外周部に近くなるにつれて屈折率が小さくなるように傾斜した領域を含む、
シングルモード光ファイバ。
【請求項2】
前記T/Cが6%以上20%以下である、請求項1に記載のシングルモード光ファイバ。
【請求項3】
前記コア領域の中心の屈折率n2が前記n1より小さい、請求項1または請求項2に記載のシングルモード光ファイバ。
【請求項4】
最大屈折率がn1であるコア領域と、前記コア領域の外周側に設けられ屈折率が前記n1より小さい屈折率を有する第一クラッド領域と、前記第一クラッド領域の外周側に設けられ前記第一クラッド領域の外周部の屈折率より大きい屈折率を有する第二クラッド領域と、を備え、前記コア領域と前記第一クラッド領域との境界において屈折率が連続的に変化する屈折率分布を持つシングルモード光ファイバの製造方法であって、
前記コア領域と前記第一クラッド領域とを備えたコア母材を作成する工程と、
前記コア母材の屈折率分布を測定して良否判定を行う工程と、
前記良否判定で良品であると判定された前記コア母材の外周側に前記第二クラッド領域を形成して光ファイバ母材を作成する工程と、
前記光ファイバ母材を線引きしてシングルモード光ファイバを製造する工程と、
を有し、
前記良否判定を行う工程は、
前記屈折率分布における、前記コア領域の面積Cと前記境界より外側のスソ引き部の面積Tとの比であるT/Cが4%以上30%以下である前記コア母材を良品であると判定するステップを含み、
前記境界は、
前記屈折率分布における、前記コア領域の中心から前記第一クラッド領域の外周部までの間で、屈折率の径方向における変化量の絶対値が最大となる位置で定義し、
前記コア領域の面積Cは、
前記屈折率分布における、径方向が前記コア領域の中心から前記境界までの範囲で、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記コア領域の平均屈折率の直線との間の面積で定義し、
前記スソ引き部の面積Tは、
前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲で、屈折率が前記第一クラッド領域の屈折率直線より大きい範囲の、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記屈折率分布の曲線との間の面積で定義し、
前記第一クラッド領域の屈折率直線は、
前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲を三分割した中央部の範囲の、一部または全部の屈折率のみを平均した値または直線近似線で定義し、
前記屈折率分布が、前記中央部の範囲において、前記第一クラッド領域の外周部に近くなるにつれて屈折率が小さくなるように傾斜した領域を含む、
シングルモード光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シングルモード光ファイバおよびシングルモード光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、シングルモード光ファイバ母材の製造方法及びその製造装置が記載されている。特許文献3には、シングルモード光ファイバおよびその製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-61830号公報
【特許文献2】特開平9-263418号公報
【特許文献3】国際公開2000/26709号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シングルモード光ファイバのコア領域とクラッド領域の境界部分は、コア領域からクラッド領域に向かって屈折率が連続的に変化する屈折率分布を有している。上記の境界部分には、屈折率分布が裾広がり状となっている部分が存在しており、この領域はスソ引き部(或いはスソダレなど)と呼ばれている。
上記のスソ引き部の面積が大きいと、光ファイバを伝送する光パワーがスソ引き部の影響を受けて、零分散波長が伝送波長より大きくなり、分散特性が悪くなるといった問題がある。
一方、上記のスソ引き部の面積が小さすぎると、コア領域とクラッド領域の材質の粘度差により線引き後において光ファイバ内部のひずみが残り、伝送損失の増加を招いたり、ガラス欠陥が増えて耐水素特性の悪化を招いたりするおそれがある。
【0005】
上記の問題は、スソ引き部の面積をTとし、コア領域の面積をCとした場合、両者の面積の比であるT/Cの値を適正な範囲内とすれば、解決できると考えられる。スソ引き部の面積Tは、例えば上記特許文献1、2に記載されているように決めることができる。具体的には、特許文献1、2においては、屈折率分布におけるクラッド部分のうち、水平になっている部分の屈折率をクラッドの屈折率とし、その値の水平線と、コアとクラッドとの界面と、屈折率曲線と、で囲まれた範囲の面積をスソ引き部の面積Tとしている。ところが、上記特許文献1、2のように、スソ引き部の面積Tを決めて、T/Cの値を適正範囲としても、分散特性が悪化する場合がある。その原因は、スソ引き部の面積Tの決め方に次のような問題がある。
【0006】
上記特許文献1、2のスソ引き部の面積Tの決め方では、屈折率分布におけるクラッド部分に水平になっている部分がない場合、クラッドの屈折率を決めにくい。また、上記の決め方で求めたスソ引き部の面積Tは、屈折率分布におけるクラッド部分の水平になっている部分がクラッドの外周部に近い場合は、数値が大きく算出される。ところが、上記の決め方で求めたスソ引き部の面積Tの数値が大きい場合であっても、必ずしも分散特性を悪化させるものではない場合がある。
【0007】
本開示は、分散特性が良好であり、かつ、伝送損失および耐水素特性が良好な、シングルモード光ファイバおよびシングルモード光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るシングルモード光ファイバは、最大屈折率がn1であるコア領域と、
前記コア領域の外周側に設けられ、屈折率が前記n1より小さい屈折率を有する第一クラッド領域と、
前記第一クラッド領域の外周側に設けられ、前記第一クラッド領域の外周部の屈折率より大きい屈折率を有する第二クラッド領域と、を備え、
前記コア領域と前記第一クラッド領域との境界において、屈折率が連続的に変化する屈折率分布となるシングルモード光ファイバであって、
前記屈折率分布における、前記コア領域の面積Cに対する前記境界より外側のスソ引き部の面積Tの比であるT/Cが、4%以上30%以下であり、
前記境界は、前記屈折率分布における、前記コア領域の中心から前記第一クラッド領域の外周部までの間で、屈折率の径方向における変化量の絶対値が最大となる位置で定義され、
前記コア領域の面積Cは、前記屈折率分布における、径方向が前記コア領域の中心から前記境界までの範囲で、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記コア領域の平均屈折率の直線との間の面積で定義され、
前記スソ引き部の面積Tは、前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲で、屈折率が前記第一クラッド領域の屈折率直線より大きい範囲の、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記屈折率分布の曲線との間の面積で定義され、
前記第一クラッド領域の屈折率直線は、前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲を三分割した中央部の範囲の、一部または全部の屈折率のみを平均した値または直線近似線で定義される。
【0009】
本開示の一態様に係るシングルモード光ファイバの製造方法は、最大屈折率がn1であるコア領域と、前記コア領域の外周側に設けられ屈折率が前記n1より小さい屈折率を有する第一クラッド領域と、前記第一クラッド領域の外周側に設けられ前記第一クラッド領域の外周部の屈折率より大きい屈折率を有する第二クラッド領域と、を備え、前記コア領域と前記第一クラッド領域との境界において屈折率が連続的に変化する屈折率分布を持つシングルモード光ファイバの製造方法であって、
前記コア領域と前記第一クラッド領域とを備えたコア母材を作成する工程と、
前記コア母材の屈折率分布を測定して良否判定を行う工程と、
前記良否判定で良品であると判定された前記コア母材の外周側に前記第二クラッド領域を形成して光ファイバ母材を作成する工程と、
前記光ファイバ母材を線引きしてシングルモード光ファイバを製造する工程と、
を有し、
前記良否判定を行う工程は、
前記屈折率分布における、前記コア領域の面積Cと前記境界より外側のスソ引き部の面積Tとの比であるT/Cで判定を行うステップを含み、
前記境界は、
前記屈折率分布における、前記コア領域の中心から前記第一クラッド領域の外周部までの間で、屈折率の径方向における変化量の絶対値が最大となる位置で定義し、
前記コア領域の面積Cは、
前記屈折率分布における、径方向が前記コア領域の中心から前記境界までの範囲で、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記コア領域の平均屈折率の直線との間の面積で定義し、
前記スソ引き部の面積Tは、
前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲で、屈折率が前記第一クラッド領域の屈折率直線より大きい範囲の、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記屈折率分布の曲線との間の面積で定義し、
前記第一クラッド領域の屈折率直線は、
前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲を三分割した中央部の範囲の、一部または全部の屈折率のみを平均した値または直線近似線で定義する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、分散特性が良好であり、かつ、伝送損失および耐水素特性が良好な、シングルモード光ファイバおよびシングルモード光ファイバの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係るシングルモード光ファイバの断面構造と屈折率分布を示す模式図である。
【
図2】
図1の屈折率分布における、スソ引き部の面積Tとコア領域面積Cの定義を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係るシングルモード光ファイバは、
(1)最大屈折率がn1であるコア領域と、
前記コア領域の外周側に設けられ、屈折率が前記n1より小さい屈折率を有する第一クラッド領域と、
前記第一クラッド領域の外周側に設けられ、前記第一クラッド領域の外周部の屈折率より大きい屈折率を有する第二クラッド領域と、を備え、
前記コア領域と前記第一クラッド領域との境界において、屈折率が連続的に変化する屈折率分布となるシングルモード光ファイバであって、
前記屈折率分布における、前記コア領域の面積Cに対する前記境界より外側のスソ引き部の面積Tの比であるT/Cが、4%以上30%以下であり、
前記境界は、前記屈折率分布における、前記コア領域の中心から前記第一クラッド領域の外周部までの間で、屈折率の径方向における変化量の絶対値が最大となる位置で定義され、
前記コア領域の面積Cは、前記屈折率分布における、径方向が前記コア領域の中心から前記境界までの範囲で、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記コア領域の平均屈折率の直線との間の面積で定義され、
前記スソ引き部の面積Tは、前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲で、屈折率が前記第一クラッド領域の屈折率直線より大きい範囲の、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記屈折率分布の曲線との間の面積で定義され、
前記第一クラッド領域の屈折率直線は、前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲を三分割した中央部の範囲の、一部または全部の屈折率のみを平均した値または直線近似線で定義される。
上記構成のシングルモード光ファイバによれば、クラッドが第一クラッド領域と第二クラッド領域とで構成されたシングルモード光ファイバにおいて、上記のようにコア領域の面積Cとスソ引き部の面積Tとを定義することにより、スソ引き量と分散特性の関係がずれにくくなり、分散特性を適正な値にすることが容易になる。すなわち、上記のコア領域の面積Cとスソ引き部の面積Tの定義によれば、屈折率分布における第一クラッド領域に水平になっている部分がない場合でも、クラッドの屈折率を決めやすく、また、屈折率分布における第一クラッド領域の水平になっている部分が第一クラッド領域の外周部に近い場合であって、数値が大きく算出されてしまうことがない。
そして、T/Cの範囲が4%以上であるので、スソ引き部の面積が小さすぎず、コアとクラッドとの材質の粘度差によるシングルモード光ファイバの内部のひずみが抑えられ、伝送損失の増加や耐水素特性の悪化を防ぐことができる。
また、T/Cの範囲が30%以下であるので、スソ引き部の面積が大きすぎず、光ファイバを伝送する光パワーに対するスソ引き部の影響が少なく、零分散波長が伝送波長に近い値となり、分散特性を良好にすることができる。
【0013】
(2)前記T/Cが6%以上20%以下であってもよい。
T/Cを6%以上20%以下の範囲内とすることで、伝送損失の増加や耐水素特性の悪化をさらに確実に防ぐと共に、さらに分散特性を良好にすることができる。
【0014】
(3)前記コア領域の中心の屈折率n2が前記n1より小さくてもよい。
コア領域の中心部の屈折率が低い方が、コア領域の中心がコア部の最大屈折率となる屈折率分布と比較すると、分散特性が良好となるので、分散特性をさらに良好にすることができる。
【0015】
本開示の一態様に係るシングルモード光ファイバの製造方法は、
(4)最大屈折率がn1であるコア領域と、前記コア領域の外周側に設けられ屈折率が前記n1より小さい屈折率を有する第一クラッド領域と、前記第一クラッド領域の外周側に設けられ前記第一クラッド領域の外周部の屈折率より大きい屈折率を有する第二クラッド領域と、を備え、前記コア領域と前記第一クラッド領域との境界において屈折率が連続的に変化する屈折率分布を持つシングルモード光ファイバの製造方法であって、
前記コア領域と前記第一クラッド領域とを備えたコア母材を作成する工程と、
前記コア母材の屈折率分布を測定して良否判定を行う工程と、
前記良否判定で良品であると判定された前記コア母材の外周側に前記第二クラッド領域を形成して光ファイバ母材を作成する工程と、
前記光ファイバ母材を線引きしてシングルモード光ファイバを製造する工程と、
を有し、
前記良否判定を行う工程は、
前記屈折率分布における、前記コア領域の面積Cと前記境界より外側のスソ引き部の面積Tとの比であるT/Cで判定を行うステップを含み、
前記境界は、
前記屈折率分布における、前記コア領域の中心から前記第一クラッド領域の外周部までの間で、屈折率の径方向における変化量の絶対値が最大となる位置で定義し、
前記コア領域の面積Cは、
前記屈折率分布における、径方向が前記コア領域の中心から前記境界までの範囲で、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記コア領域の平均屈折率の直線との間の面積で定義し、
前記スソ引き部の面積Tは、
前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲で、屈折率が前記第一クラッド領域の屈折率直線より大きい範囲の、前記第一クラッド領域の屈折率直線と前記屈折率分布の曲線との間の面積で定義し、
前記第一クラッド領域の屈折率直線は、
前記屈折率分布における、径方向が前記境界から前記第一クラッド領域の外周部までの範囲を三分割した中央部の範囲の、一部または全部の屈折率のみを平均した値または直線近似線で定義する。
上記のシングルモード光ファイバの製造方法によれば、コア母材の屈折率分布における、コア領域の面積Cに対するスソ引き部の面積Tの比であるT/Cで良否判定を行っている。この良否判定では、コア領域の面積Cとスソ引き部の面積Tとを前述のように定義しているので、スソ引き量と分散特性の関係がずれにくく、適正なスソ引き量で製造を管理することができ、コア母材の良否を上記T/Cの値により、正確に判定することができる。
そして、良否判定で良品と判定されたコア母材を用いることで、分散特性、伝送損失および耐水素特性が良好なシングルモード光ファイバを製造することができる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係るシングルモード光ファイバおよびシングルモード光ファイバの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0017】
図1は、本実施形態に係るシングルモード光ファイバ1の断面構造と屈折率分布10を示す模式図である。
図2は、
図1の屈折率分布10の右半分を示した図であり、スソ引き部31の面積Tとコア領域の面積Cの定義を説明する図である。
【0018】
図1に示すように、シングルモード光ファイバ1は、コア領域2と、第一クラッド領域3と、第二クラッド領域4と、を備えている。そして、シングルモード光ファイバ1における屈折率分布10は、コア領域2と第一クラッド領域3との境界11において、屈折率が連続的に変化する屈折率分布となっている。
【0019】
図2に示すように、コア領域2は、最大屈折率がn1となっている。また、コア領域2の中心Oの屈折率n2は、n1よりも小さい屈折率となっている。また、第一クラッド領域3の屈折率はn1よりも小さくなっており、コア領域2と第一クラッド領域3との境界11は、コア領域2の中心Oから第一クラッド領域3の外周部12までの間で、屈折率の径方向における変化量の絶対値が最大となる位置と定義した。
【0020】
ところで、例えば特許文献1、2のような従来技術では、屈折率分布におけるクラッド部分のうち、水平になっている部分の屈折率をクラッドの屈折率とし、その値の水平線と、コアとクラッドとの界面と、屈折率曲線と、で囲まれた範囲の面積をスソ引き部の面積としていた。
しかしながら、本実施形態に係るシングルモード光ファイバ1の屈折率分布10のように、屈折率分布におけるクラッド部分に水平になっている部分がない場合は、上記従来技術ではクラッドの屈折率を決めにくい。また、屈折率分布におけるクラッド部分の水平になっている部分がクラッドの外周部に近い場合は、上記従来技術では、スソ引き部の面積が過度に大きくなり、コア部の面積に対するスソ引き部の面積の比が大きい場合でも分散特性が悪くならない。
したがって、上記従来技術によって決められたスソ引き部の面積を用いた場合、シングルモード光ファイバの特性評価を適正に行うことができなかった。
【0021】
本発明は、上記の従来技術における問題を解決することができる、スソ引き部の面積の決め方を、本発明者が見出したものである。
このため、本実施形態に係るシングルモード光ファイバ1では、スソ引き部31の面積Tは、屈折率分布10における、径方向が境界11から第一クラッド領域3の外周部12までの範囲で、屈折率が第一クラッド領域3の屈折率直線Lより大きい範囲の、屈折率直線Lと屈折率分布10の曲線10aとの間の面積で定義した。
ここで、屈折率直線Lは、屈折率分布10における第一クラッド領域3の部分に水平部分が無くても決めることができ、かつ、スソ引き部の面積が過度に大きくならないように次のように定義した。
すなわち、屈折率直線Lは、屈折率分布10における、径方向が境界11から第一クラッド領域3の外周部12までの範囲を三分割した中央部3Mの範囲の一部または全部の屈折率に対する直線近似線とした。なお、上記中央部3Mの範囲の一部または全部の屈折率のみを平均し、その平均値を通る水平線を上記屈折率直線Lの替わりとしてもよい。
【0022】
また、屈折率分布10におけるコア領域2の部分は、第一クラッド領域3との境界11に近い部分にピークができるなど、一定でない場合があり、コア領域2の平均屈折率nmをコア領域2の上限とした。
これにより、コア領域の面積Cは、屈折率分布10における、径方向がコア領域2の中心Oから境界11までの範囲で、第一クラッド領域3の屈折率直線Lとコア領域2の平均屈折率nmの直線との間の面積で定義した。
【0023】
本実施形態は、以上のように、コア領域2の面積Cおよびスソ引き部31の面積Tを定義した上で、その面積比であるT/Cを、シングルモード光ファイバ1の良否の判定を行うものとした。そして、本実施形態に係るシングルモード光ファイバ1は、T/Cが、4%以上30%以下であるものとした。そして、さらに好ましいシングルモード光ファイバ1は、T/Cが6%以上20%以下であるものとした。
【0024】
本実施形態に係るシングルモード光ファイバ1によれば、クラッドを第一クラッド領域3と第二クラッド領域4とに分けて構成されたシングルモード光ファイバ1において、上記のようにコア領域2の面積Cとスソ引き部31の面積Tとを定義することにより、スソ引き量と分散特性の関係がずれにくくなり、分散特性を適正な値にすることが容易になる。すなわち、上記のコア領域2の面積Cとスソ引き部31の面積Tの定義によれば、屈折率分布10における第一クラッド領域3に水平になっている部分がない場合でも、クラッドの屈折率を決めやすく、また、屈折率分布10における第一クラッド領域3の水平になっている部分が第一クラッド領域3の外周部12に近い場合であって、数値が大きく算出されてしまうことがない。
【0025】
また、T/Cの範囲が4%以上であるので、スソ引き部31の面積Tが小さすぎず、コアとクラッドとの材質の粘度差によるシングルモード光ファイバ1の内部のひずみが抑えられ、伝送損失の増加や耐水素特性の悪化を防ぐことができる。
また、T/Cの範囲が30%以下であるので、スソ引き部31の面積Tが大きすぎず、光ファイバを伝送する光パワーに対するスソ引き部31の影響が少なく、零分散波長が伝送波長に近い値となり、分散特性を良好にすることができる。
さらに、T/Cを6%以上20%以下の範囲内とすることで、伝送損失の増加や耐水素特性の悪化をさらに確実に防ぐと共に、さらに分散特性を良好にすることができる。
【0026】
また、シングルモード光ファイバ1は、コア領域2の中心Oの屈折率n2が最大屈折率n1よりも小さい屈折率となっている。コア領域2の中心Oの屈折率が低い方が、コア領域2の中心Oがコア部の最大屈折率となる屈折率分布と比較すると、分散特性が良好となるので、分散特性をさらに良好にすることができる。
【0027】
次に、本実施形態に係るシングルモード光ファイバ1の製造方法について説明する。
(コア母材を作成する工程)
まず、VAD法またはOVD法などによって、コア領域2とコア領域2の外周側に設けられた第一クラッド領域3とを備えた多孔質の母材を形成し、この多孔質の母材を焼結して透明なコア母材を作成する。
【0028】
(良否判定を行う工程)
次に、作成されたコア母材に対して、例えばプリフォームアナライザを用いて、屈折率分布を測定する。プリフォームアナライザとは、光ファイバの母材に対して、側面からレーザ光を透過させてレーザ光の屈折角を測定することで屈折率分布を測定する装置などである。
なお、コア母材の屈折率分布における、コア領域2の面積C、第一クラッド領域3の屈折率直線L、スソ引き部31の面積T、境界11等の定義は、
図2のシングルモード光ファイバ1の屈折率分布10で説明したものと同様に定義できるので、その説明を省略する。
【0029】
(良否判定を行う工程のステップ)
良否判定を行う工程では、屈折率分布10における、コア領域2の面積Cと境界11より外側のスソ引き部31の面積Tとの比であるT/Cで、コア母材に対して良否判定を行う。
上記の良否判定は、T/Cが、4%以上30%以下であるコア母材を良品と判定する。なお、T/Cが6%以上20%以下であるコア母材を良品と判定してもよい。
【0030】
次に、良否判定を行うステップで、良品であると判定されたコア母材に対して、その外周側に第二クラッド領域4を形成して光ファイバ母材を作成する。
そして、上記のように作成された光ファイバ母材を線引きして、シングルモード光ファイバ1を製造する。
【0031】
本実施形態に係るシングルモード光ファイバ1の製造方法によれば、コア母材の屈折率分布10における、コア領域2の面積Cに対するスソ引き部31の面積Tの比であるT/Cで良否判定を行っている。この良否判定では、コア領域2の面積Cとスソ引き部31の面積Tとを前述のように定義しているので、スソ引き量と分散特性の関係がずれにくく、適正なスソ引き量で製造を管理することができ、コア母材の良否を上記T/Cの値により、正確に判定することができる。
そして、良否判定で、上記T/Cが4%以上30%以下であるコア母材を良品と判定し、この良品のコア母材を用いることで、分散特性、伝送損失および耐水素特性が良好なシングルモード光ファイバ1を製造することができる。さらに、上記T/Cが6%以上20%以下であるコア母材を良品と判定し、この良品のコア母材を用いることで、分散特性、伝送損失および耐水素特性がさらに良好なシングルモード光ファイバ1を製造することができる。
なお、上記T/Cの値は、VAD法またはOVD法などによって、コア領域2とコア領域2の外周側に設けられた第一クラッド領域3とを備えた多孔質の母材を形成する際の製造条件で変化する。一例を挙げれば、例えば、多孔質の母材のコア領域2に対応する部分を形成するバーナに供給するガス流量を調整して、多孔質の母材のコア領域2に対応する部分のかさ密度を小さくするとT/Cの値は大きくなり、かさ密度を大きくするとT/Cの値は小さくなる。
また、この多孔質の母材を焼結して透明なコア母材を作成する際の、製造条件でもT/Cの値は変化する。例えば、多孔質の母材を脱水してから透明化を行う際に、脱水にかける時間を長くするとT/Cの値が大きくなり、短くするとT/Cの値が小さくなる。
【0032】
(実施例)
本実施形態における定義のT/Cの値が異なるシングルモード光ファイバを製造し、それぞれカットオフ波長λc、モードフィールド径MFDおよび零分散波長を測定し、伝送損失および耐水素特性の評価を行った。その結果を表1に示す。例2~6は本開示の実施例、例1、7は比較例である。
なお、いずれの例も屈折率分布10における第一クラッド領域3に水平部分はなく、T/Cを算出する際の第一クラッド領域3の屈折率直線Lは、屈折率分布10における、第一クラッド領域3を三分割した中央部3Mの範囲の、全部の屈折率を平均した値とした。
【表1】
【0033】
表1における伝送損失および耐水素特性の評価結果は、Aが良好、Sがさらに良好、Bが良くない結果である。
表1の結果に示すように、本実施形態における定義のT/Cの値でシングルモード光ファイバの評価を行った結果、T/Cが40%のシングルモード光ファイバ(比較例の例7)は、零分散波長が1326nmであった。すなわち、T/Cが40%のシングルモード光ファイバは、零分散波長が1.3μm帯の伝送波長よりも長波長側にシフトしており、分散特性が悪化するため好ましくない。これに対して、実施例のシングルモード光ファイバは、零分散波長が1.3μm帯の伝送波長に近い値であるので、分散特性を良好にできる。
また、伝送損失および耐水素特性の結果は、例1はB、例2はA、例3~7は、Sであった。
上記の結果から、本実施形態における定義のT/Cを、4%以上30%以下とすることで、伝送損失の増加と耐水素特性の悪化を防ぐと共に、分散特性を良好にすることができることがわかった。
さらに、T/Cを6%以上20%以下とすることで、伝送損失の増加と耐水素特性の悪化をさらに確実に防ぐと共に、さらに分散特性を良好にすることができることがわかった。
【符号の説明】
【0034】
1 シングルモード光ファイバ
2 コア領域
3 第一クラッド領域
3M 第一クラッド領域の中央部
4 第二クラッド領域
10 屈折率分布
10a 屈折率分布の曲線
11 境界
12 第一クラッド領域の外周部
31 スソ引き部
n1 コア領域の最大屈折率
n2 コア領域の中心の屈折率
nm コア領域の平均屈折率
C コア領域の面積
L 第一クラッド領域の屈折率直線
T スソ引き部の面積