IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184602
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20231221BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20231221BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B29C55/12
C08G63/183
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184152
(22)【出願日】2023-10-26
(62)【分割の表示】P 2020572160の分割
【原出願日】2020-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2019024307
(32)【優先日】2019-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】春田 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】多保田 規
(57)【要約】
【課題】 アンチモン含有量が極めて少なく衛生性に優れ、また異物も少なく、優れた透明性、耐熱性を有するとともに、印刷性、加工性、生産性が良好な二軸延伸ポリエステルフィルムを提供する事。
【解決手段】 下記要件(1)~(5)を満たし、包装用又はラベル用に用いられることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
(1)フィルム中のアンチモンの含有量が10ppm以下
(2)フィルム中のリンの含有量が25ppm以上75ppm以下
(3)フィルムの極限粘度が0.51dl/g以上0.70dl/g以下
(4)フィルム1000平方メートル当りで1mm以上の欠点数が1.0個以下
(5)フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるグリコール全成分100モル%中、エチレングリコールを80モル%以上含む
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)~(5)を満たし、包装用又はラベル用に用いられることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
(1)フィルム中のアンチモンの含有量が10ppm以下
(2)フィルム中のリンの含有量が25ppm以上75ppm以下
(3)フィルムの極限粘度が0.51dl/g以上0.70dl/g以下
(4)フィルム1000平方メートル当りで1mm以上の欠点数が1.0個以下
(5)フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるグリコール全成分100モル%中、エチレングリコールを80モル%以上含む
【請求項2】
重合触媒として、アルミニウム化合物から選択される少なくとも1種、及び リン化合
物から選択される少なくとも1種をポリエステル樹脂中に含有することを特徴とするポリ
エステル原料を用いた請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムのヘイズが1%以上8%以下である請求項1又は2のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
150℃・15分の条件で測定したタテ方向の熱収縮率が0.8%以上3%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
連続接触式厚み計で1m長にわたり測定したタテ方向とヨコ方向の厚み斑の値が、共に1%以上10%以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生性に優れ、印刷性、加工性、生産性が良好な二軸延伸ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性や機械物性に優れた熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂は、プラスチックフィルム、エレクトロニクス、エネルギー、包装材料、自動車等の非常に多岐な分野で利用されている。プラスチックフィルムのなかでも、二軸延伸PETフィルムは機械特性強度、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、光学特性などとコストのバランスに優れることから,工業用,包装用分野において幅広く用いられている。
【0003】
工業用フィルムの分野では、優れた透明性を有することから液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)向けの機能フィルムとして用いることができる。また耐加水分解性を付与したPETフィルムは太陽電池バックシート用フィルムとしても利用されており、機能性フィルム、ベースフィルムとして様々な目的で使われている。
【0004】
包装用フィルムの分野では、食品包装用、ガスバリアフィルム用途として利用されている。特に、ガスバリア性に優れるフィルムは、食品、医薬品、電子部品等の気密性を要求される包装材料、または、ガス遮断材料として使用され、近年需要が高まっている。
【0005】
しかし包装用フィルムでは 食品へ直接接触するので衛生性の点から、ポリエステルフィルムの異物が少ないことが望ましい。またポリエステルの原料を生産(重合)する工程で使用されるアンチモン触媒は 発癌性の可能性がある為、ポリエステルフィルムへアンチモンは極力少ないか、または含まれていない事が望ましい。
【0006】
従来、例えば特許文献1、2に記載されているように、アンチモン触媒を使用しないポリエステル原料がある。しかし、フィルム中の異物数を低下させる方法や望まれているフィルム特性については記されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3461175号公報
【特許文献2】特許3506236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、アンチモン含有量が極めて少なく、また異物も少なく、優れた透明性、耐熱性を有するとともに、印刷加工適正及び印刷外観にも優れる二軸延伸ポリエステルフィルムおよびこのフィルムを巻き取ってなるフィルムロールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決してなる本発明は、以下の構成からなる。
1.下記要件(1)~(4)を満たすことを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
(1)フィルム中のアンチモンの含有量が10ppm以下
(2)フィルム中のリンの含有量が25ppm以上75ppm以下
(3)フィルムの極限粘度が0.51dl/g以上0.70dl/g以下
(4)フィルム1000平方メートル当りで1mm以上の欠点数が1.0個以下
2.重合触媒として、アルミニウム化合物から選択される少なくとも1種、及び リン化合物から選択される少なくとも1種をポリエステル樹脂中に含有することを特徴とするポリエステル原料を用いた1.に記載のポリエステルフィルム。
3.フィルムのヘイズが1%以上8%以下である1.又は2.のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
4.150℃・15分の条件で測定したタテ方向の熱収縮率が0.8%以上3%以下であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
5.連続接触式厚み計で1m長にわたり測定したタテ方向とヨコ方向の厚み斑の値が、共に1%以上10%以下であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
6.前記1.~5.のいずれかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを1層以上使用してなる包装袋。
7.前記1.~5.のいずれかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを1層以上使用してなるラベル。
8.原料ポリエステル樹脂の極限粘度とポリエステルフィルムの極限粘度の差が0.06dl/g以下となるように、原料ポリエステル樹脂を溶融押出しし、次いで冷却固化して未延伸フィルムを得た後に、該未延伸フィルムを二軸延伸し、次いで熱固定処理を行うことを特徴とする、1.~5.のいずれかに記載の二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アンチモン含有量が極めて少なく、また異物も少なく、優れた透明性、耐熱性を有するとともに、印刷加工適正及び印刷外観にも優れる二軸延伸ポリエステルフィルムおよびこのフィルムを巻き取ってなるフィルムロールの製造方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施の形態に限定して解釈されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ、発明の要旨を逸脱しない範囲においての種々の変更は当然あり得る。
【0012】
(原料ポリエステル樹脂)
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を構成成分とする。ここで、ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレングリコール由来成分およびテレフタル酸由来成分を主たる構成成分として含有する。「主たる構成成分」とは、ポリエステルを構成するジカルボン酸全成分100モル%中、テレフタル酸が80モル%以上であり、グリコール全成分100モル%中、エチレングリコールが80モル%以上である。
【0013】
本発明の目的を阻害しない範囲であれば、他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を共重合させても良い。他のジカルボン酸成分およびグリコール成分の共重合量は、全ジカルボン酸成分あるいは全グリコール成分に対して、それぞれ20モル%未満であり、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることが特に好ましい。
上記の他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の脂環族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0014】
上記の他のグリコール成分としては、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,10-デカンジオール、ジメチロールトリシクロデカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールC、ビスフ
ェノールZ、ビスフェノールAP、4,4’-ビフェノールのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる
【0015】
このようなポリエチレンテレフタレート系樹脂の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて他のジカルボン酸成分およびグリコール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のグリコール成分を含む)とをエステル交換反応させた後に重縮合反応を行うエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0016】
ポリエステル樹脂としてペットボトルを再生利用したリサイクル樹脂や、バイオマス由来のモノマー成分を含むポリエステル樹脂も使用することが可能である。
【0017】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの構成成分として、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、及び上記以外のポリエステルなどの他の樹脂を含んでも良いが、二軸延伸ポリエステルフィルムの機械特性、耐熱性の点で、他の樹脂の含有量はポリエステルフィルムの全樹脂成分に対して30質量%以下、さらには20質量%以下、またさらには10質量%以下、特には5質量%以下であることが好ましく、0質量%(ポリエステルフィルムを構成する全樹脂成分が実質的にポリエチレンテレフタレート系樹脂)であることが最も好ましい。
【0018】
また、前記ポリエチレンテレフタレート系樹脂の固有粘度は、0.57~0.76dl/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.60~0.73dl/gであり、さらに好ましくは0.63~0.7dl/gである。固有粘度が0.57dl/gよりも低いと、ポリエステルフィルムを生産途中でフィルムが裂けやすくなり(所謂破断が発生)、0.76dl/gより高いと濾圧上昇が大きくなって高精度濾過が困難となり、フィルタを介して樹脂を押出すことが困難となりやすい。
また、前記ポリエステルフィルムの樹脂の固有粘度は、0.51~0.70dl/gの範囲が好ましく、より好ましくは0.56~0.68dl/gであり、さらに好ましくは0.59~0.65dl/gである。固有粘度が0.51dl/gよりも低いと、ポリエステルフィルムが印刷等の加工工程で裂けやすくなり、固有粘度が0.76dl/gよりも高いと、機械的特性を向上する効果が飽和状態になりやすい。
【0019】
(重合触媒)
次に、本発明に使用する原料ポリエステル樹脂を製造する際に使用する重合触媒について説明する。本発明に用いられる重合触媒は、エステル化を促進させる能力を有することを特徴とする重合触媒である。本発明においては、後述するように従来使用されている三酸化アンチモン等のアンチモン化合物の重合触媒はできるだけ使用しないことが好ましい。このような重合触媒としては、アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも1種と、リン系化合物から選択される少なくとも1種を含む重合触媒が好ましい。
【0020】
本発明に使用する原料ポリエステル樹脂を合成する際に、使用する重合触媒を構成するアルミニウム化合物としては、公知のアルミニウム化合物が限定なく使用できる。
【0021】
アルミニウム化合物としては、具体的には、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネート、シュウ酸アルミニウムなどの有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でも酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートがより好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム及び水酸化塩化アルミニウムがさらに好ましく、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウムが最も好ましい。
【0022】
本発明にかかる重合触媒に用いられるアルミニウム化合物の使用量は、アルミニウム原子として、得られるポリエステル樹脂の全質量に対して1~80ppm残留するようにすることが好ましく、より好ましくは2~60ppmであり、更に好ましくは3~50ppmであり、特に好ましくは5~40ppmであり、最も好ましくは10~30ppmである。
上記を下回ると触媒活性不良となる可能性があり、上記を超えるとアルミニウム系異物生成を引き起こす可能性がある。
アルミニウム化合物は、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれても、使用量のほぼ100%が残留するので、使用量が残留量になると考えてよい。
【0023】
重合触媒に用いられるリン化合物は、特に限定されないが、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましく、これらの中でもホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0024】
これらのリン化合物のうち、同一分子内にフェノール部を有するリン化合物が好ましい。フェノール構造を有するリン化合物であれば特に限定はされないが、同一分子内にフェノール部を有する、ホスホン酸系化合物、ホスフィン酸系化合物からなる群より選ばれる一種または二種以上の化合物を用いると触媒活性の向上効果が大きく好ましい。これらの中でも、一種または二種以上の同一分子内にフェノール部を有するホスホン酸系化合物を用いると触媒活性の向上効果が特に大きく好ましい。
【0025】
また、同一分子内にフェノール部を有するリン化合物としては、下記一般式(化1)、(化2)で表される化合物などが挙げられる。
【0026】
【化1】
【0027】
【化2】
【0028】
(式(化1)~(化2)中、Rはフェノール部を含む炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基およびフェノール部を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。Rは、水素、炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはハロゲン基またはアルコキシル基またはアミノ基などの置換基を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。R、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1~50の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基などの置換基を含む炭素数1~50の炭化水素基を表す。ただし、炭化水素基は分岐構造やシクロヘキシル等の脂環構造やフェニルやナフチル等の芳香環構造を含んでいてもよい。RとRの末端どうしは結合していてもよい。)
【0029】
前記の同一分子内にフェノール部を有するリン化合物としては、例えば、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジメチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジエチル、p-ヒドロキシフェニルホスホン酸ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸メチル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン酸フェニル、p-ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸、p-ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸メチル、p-ヒドロキシフェニルフェニルホスフィン酸フェニル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸メチル、p-ヒドロキシフェニルホスフィン酸フェニルなどが挙げられる。その他、下記一般式(化3)で表されるリン化合物を挙げることができる。
【0030】
【化3】
【0031】
式(化3)中、X、Xは、それぞれ、水素、炭素数1~4のアルキル基、または1価以上の金属を表す。
また、Xは、金属が2価以上であって、Xが存在しなくても良い。さらには、リン化合物に対して金属の余剰の価数に相当するアニオンが配置されていても良い。
金属としては、Li、Na、K、Ca、Mg、Alが好ましい。
【0032】
これらの同一分子内にフェノール部を有するリン化合物をポリエステルの重合時に添加することによってアルミニウム化合物の触媒活性が向上するとともに、重合した共重合ポリエステル樹脂の熱安定性も向上する。
【0033】
上記の中でも、重縮合触媒として使用することが好ましいリン化合物は、化学式(化4)、化学式(化5)で表される化合物から選ばれる少なくとも一種のリン化合物である。
【0034】
【化4】
【0035】
【化5】
【0036】
上記の化学式(化4)で示される化合物としては、Irganox1222(ビーエーエスエフ社製)が市販されている。また、化学式(化5)にて示される化合物としては、Irganox1425(ビーエーエスエフ社製)が市販されており、使用可能である。
【0037】
本発明にかかる重合触媒に用いられるリン化合物の使用量は、リン原子として、得られる原料ポリエステル樹脂の全質量に対して10~100ppm残留するようにすることが好ましく、より好ましくは15~90ppmであり、更に好ましくは20~80ppmであり、特に好ましくは25~70ppmであり、最も好ましくは30~60ppmである。
上記の上下限を超える量のリン原子が残存する場合は、重合活性を低下させる可能性がある。
リン化合物は、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれる際、その条件により、使用量の約10~30%が系外に除去される。そこで、実際は、数回の試行実験を行い、リン化合物のポリエステル中への残留率を見極めた上で、使用量を決める必要がある。
【0038】
また、上記のリン化合物を使用することで、樹脂の耐熱性を向上させることができる。原因は定かではないが、リン化合物中のヒンダートフェノール部分によりポリエステル樹脂の耐熱性を向上させていると考えられる。
【0039】
リン化合物の残留量が10ppmより少なくなると、上記の耐熱性向上の効果が薄れ、結果として、本発明のポリエステル樹脂の耐熱性、着色改善効果が見られなくなることがある。
【0040】
本発明の効果を損なわない範囲で、触媒活性をさらに向上させるために、アンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物等の金属含有重縮合触媒を併用しても良い。その場合、アンチモン化合物は、得られる共重合ポリエステル樹脂の質量に対して、アンチモン原子として10ppm以下が好ましく、ゲルマニウム化合物は、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、ゲルマニウム原子として10ppm以下が好ましく、チタン化合物は、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、チタン原子として3ppm以下であることが好ましく、スズ化合物は、得られるポリエステル樹脂の質量に対して、スズ原子として3ppm以下が好ましい。本発明の目的からは、これらアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物等の金属含有重縮合触媒は、極力使用しないことが好ましい。
【0041】
本発明においてアルミニウム化合物に加えて少量のアルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物から選択される少なくとも1種を第2金属含有成分として共存させても良い。かかる第2金属含有成分を触媒系に共存させることは、ジエチレングリコールの生成を抑制する効果に加えて触媒活性を高め、従って反応速度をより高めた触媒成分が得られ、生産性向上に有効である。アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物を併用添加する場合、その使用量(mol%)は、ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分のモル数に対して、好ましくは、1×10-5~0.01mol%である。アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらの化合物は、ポリエステル重合時に減圧環境下に置かれても、使用量のほぼ100%が残留するので、使用量が残留量になると考えてよい。
【0042】
本発明に係る重合触媒は、重縮合反応のみならずエステル化反応およびエステル交換反応にも触媒活性を有する。テレフタル酸ジメチルなどのジカルボン酸のアルキルエステルとエチレングリコールなどのグリコールとのエステル交換反応は、通常亜鉛などのエステル交換触媒の存在下で行われるが、これらの触媒の代わりに本発明の触媒を用いることもできる。また、本発明に係る重合触媒は、溶融重合のみならず固相重合や溶液重合においても触媒活性を有する。
【0043】
本発明で用いるポリエステルの重合触媒は、重合反応の任意の段階で反応系に添加することができる。例えば、エステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階、重縮合反応の開始直前、あるいは重縮合反応途中の任意の段階で、反応系への添加することができる。特に、本発明に係るアルミニウム化合物およびリン化合物の添加は重縮合反応の開始直前に添加することが好ましい。
【0044】
(二軸延伸ポリエステル系フィルムの好ましい製造方法)
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、1層、2層、3層、あるいは4層以上の積層構造であってもよい。2層構造以上の場合においては、各層は上述のようにポリエチレンテレフタレート系樹脂、及び無機粒子、さらにはポリエチレンテレフタレート系樹脂以外の樹脂を構成成分とするが、互いに隣接する各層のいずれかの構成成分の種類又は含有量は異なるものとすることが好ましい。
A層からなる単層構造の場合には、本発明におけるA層は二軸延伸ポリエステルフィルム全体となる。
A層を含む2層構造の場合には、本発明におけるA層はいずれか一方あるいは両方の層となる。A層を含む3層構造の場合には、本発明におけるA層はいずれかの1層あるいは両側表層の2層となる。
【0045】
特に、3層構造の場合は、内部層に無機粒子がなくても、表層部のみの添加粒子量を制御することでフィルムの表面粗さを制御することができ、フィルム中に無機粒子の含有量をより少なくすることができ、好ましい。これは、無機粒子とポリエステル樹脂との境界に出来るボイド(空隙)を介して、におい成分が抜け、保香性が低下する点を改善することにもつながるためである。
さらに内層部にフィルム表面の特性に悪影響を与えない範囲で、製膜工程で発生するエッジ部分をトリミングした回収原料、あるいは他の製膜工程のリサイクル原料などを適時混合して使用することが容易となり、コスト的にも優位である。
【0046】
前記の無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどを使用することができる。無機粒子の平均粒径は、コールターカウンターにて測定したときに0.05~3.0μmの範囲内であることが好ましい。フィルム中の無機粒子含有率の下限は好ましくは0.01重量%であり、より好ましくは0.015重量%であり、さらに好ましくは0.02重量%である。0.01重量%未満であると滑り性が低下することがある。上限は好ましくは1重量%であり、より好ましくは0.2重量%であり、さらに好ましくは0.1重量%である。1重量%を超えると透明性が低下することがあり、あまり好ましくない。
【0047】
ポリエステルに無機粒子を含有せしめる方法としては、例えばジオール成分であるエチレングリコールに無機粒子を所定の割合にてスラリーの形で分散せしめ、このエチレングリコールスラリーをポリエステル重合完結前の任意段階で添加することが挙げられる。
ここで、粒子を添加する際には、例えば、粒子の合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルを一旦乾燥させることなく添加すると粒子の分散性が良好であり、粗大突起の発生を抑制でき好ましい。
また、粒子の水スラリーを直接、所定のポリエステルペレットと混同し、ベント方式の2軸混練押出機に供給しポリエステルに練り込む方法も有効である。
【0048】
本発明では 押出機の樹脂温度を樹脂の融点+2℃以上、樹脂の融点+6℃以下で押出すことが好ましい。押出し温度が融点+2℃未満であると樹脂が溶融せず未溶融物が吐出され、それが異物となるので好ましくない。また融点+6℃より高い温度で押し出すと、樹脂が熱劣化して異物発生の原因となるので好ましくない。
【0049】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂をTダイで押出しした後に急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂をTダイより回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
またTダイには、溶融樹脂の昇華物(オリゴマー等)が付着しやすく、付着物が落ちると未延伸シートにつき、フィルムの異物となり好ましくない。その為 Tダイには昇華物が落下し難いように粘着性のあるシートをあらかじめ貼っておく、また冷却ロールに異物が付着しても未延伸シートに転写しないようにクリーナーで稼働中も掃除をすることが好ましい。
【0050】
さらに、得られた未延伸フィルムを、二軸延伸し次いで熱固定処理及び熱弛緩処理を行う。以下のような長手方向および幅方向の延伸条件、熱固定条件、熱弛緩条件等の製膜条件を適宜組み合わせることで後述する好ましいフィルム特性が達成可能となる。以下に詳細に説明する。
【0051】
延伸方法は同時二軸延伸でも逐次二軸延伸でも可能であるが、製膜速度が速く生産性が高いという点からは逐次二軸延伸が好ましい。以下では、最初に縦延伸、次に横延伸を実施する縦延伸-横延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする横延伸-縦延伸であっても構わない。
【0052】
長手(縦)方向(以下、MDと略す場合がある)の延伸温度としては、ボーイングの低減の点から、(Tg+15)~(Tg+55)℃、延伸倍率としては3.3~4.7倍に延伸することが好ましい。延伸温度が(Tg+55)℃よりも高く、または3.3倍より低い場合、ボーイングが低減されるものの、長手方向よりも幅方向の分子配向が大きくなりすぎるため、配向バランスが崩れ好ましくない。また、得られる二軸延伸ポリエステルフィルムの平面性も悪化するため好ましくない。一方、(Tg+15)℃よりも低く、または4.7倍よりも高い場合、収縮応力が増加し、ボーイングが増加するため好ましくない。
【0053】
また、長手方向の延伸において、一段階での延伸でなく、複数のロール間で多段階に延伸する方法では、延伸速度を制御しながら徐々に長手方向に延伸されるため、フィルム幅方向での物性差を低減させることができる。効果や設備面、コストの点から二段~五段延伸が好ましい。
【0054】
幅(横)方向(以下、TDと略す場合がある)に延伸する場合、未延伸フィルムをフィルムの両端をクリップで把持して加熱することができるテンター装置に導き、熱風によりフィルムを所定の温度まで加熱した後、長手方向に搬送しながらクリップ間の距離を広げることでフィルムを幅方向に延伸する。
また幅方向の延伸温度がTg+5℃未満であると、延伸時に破断が生じやすくなり、好ましくない。またTg+40℃より高いと、均一な幅方向の延伸ができなくなり、幅方向の厚み斑が大きくなるため、フィルムロールの硬さのばらつきが大きくなり好ましくない。より好ましくはTg+8℃以上Tg+37℃以下であり、更に好ましくはTg+11℃以上Tg+34℃以下である。
幅方向の延伸倍率は特に規定は無いが、2倍以上6倍以下が好ましい。延伸倍率が2倍未満であると、物質収支的に高い収率が得られにくい上に、力学強度が低下するほか、幅方向の厚み斑により、フィルムロールの硬さのばらつきが生じ好ましくない。また延伸倍率が6倍を上回ると、延伸製膜時に破断しやすくなり好ましくない。
【0055】
TD延伸後の熱固定温度(熱処理温度)としては、220~245℃が好ましい。熱固定温度が245℃よりも高い場合、ボーイングが増加するため好ましくない。一方、220℃よりも小さい場合、長手方向および幅方向ともに熱収縮率が高くなり、蒸着加工時の熱寸法安定性が悪くなるため好ましくない。またTD延伸後の熱固定温度が245℃を超える場合、ボーイングが増加するため好ましくない。
【0056】
熱弛緩処理工程では、フィルムが熱緩和により収縮されるまでの間、幅方向の拘束力が減少して自重により弛んでしまったり、また、随伴気流によってフィルムが膨らんでしまうことがあるため、フィルムが非常に上下に変動し易い状況下にある。このため、この熱弛緩工程では、フィルムの搬送状態により、得られる二軸延伸ポリエステルフィルムの配向角や斜め熱収縮率差の変化量が大きく変動する。軽減させる方法としては、例えば、上下部のノズルから吹き出す風速を適宜調整することで、フィルムが平行になるように保つことが挙げられる。幅方向の熱弛緩率としては、4~8%が好ましい。熱緩和率が4%未満の場合、得られる二軸延伸ポリエステルフィルムの幅方向の熱収縮率が高くなり、蒸着加工時の寸法安定性が悪くなるため好ましくない。一方、熱緩和率が8%より大きい場合、ボーイングの増加や弛みなどが生じて、幅方向の厚み斑が大きくなるため、フィルムロールの硬さのばらつきが大きくなり好ましくない。
【0057】
上記の方法で延伸製膜されたフィルムは、ワインダー装置により巻き取られ、マスターロールが作製される。そのマスターロールは、その後のスリット工程において、フィルム長手方向にテンションを掛けながら、さらに、ロールの上からコンタクトロールによる圧力(以下、面圧)を掛けながら、任意の幅にスリットされ、製品フィルムロールとして巻き取られる。
【0058】
(二軸延伸ポリエステルフィルムの構成および特性)
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは フィルム中のアンチモンの含有量が10ppm以下であることが好ましい。アンチモンは発癌性が懸念される物質なので、量が少なければ少ないほど好ましく、5ppmであると好ましく、0ppmであるとより好ましい。本発明で使用している原料樹脂のアンチモンは0ppmであることが好ましいが、生産時に混入する可能性があり10ppm以下とした。
【0059】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは 1000平方メートル当り(例えばフィルム幅500mm、フィルム巻長2000m当たり)で1mm以上のサイズの欠点数が1個以下であることが好ましい。このように1000平方メートル(m)の大面積当たりにおける1mm以上のサイズの欠点数を1個以下にまで低減することにより、印刷性が非常に良好となる。異物による欠点数が多いと、印刷でインキ抜けが生じて好ましくない。1mm以上のサイズの欠点数は少なければ少ないほど好ましく、0.5個以下がより好ましく、0.3個以下がさらに好ましく、0.1個以下が特に好ましく、0個が最も好ましい。本発明では、予期せぬトラブル時に異物が混入する可能性があり1個以下とした。
【0060】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムはポリエステル樹脂の極限粘度とポリエステルフィルムの極限粘度の差が0.06dl/g以下であると好ましい。前記の極限粘度の差は、ポリエステル樹脂を溶融押出しする際の劣化の程度の指標となる。0.06dl/gより高いと、押出機内で樹脂が劣化して異物の原因となるので好ましくない。また極限粘度差は 好ましくは0dl/gであるが、実質上溶融する為、0dl/gにすることは難しい。0.05dl/g以下が好ましく、0.04dl/g以下であるとより好ましい。
極限粘度の差を上記のように制御する為、本発明では、押出機の樹脂温度を樹脂の融点+2℃以上、樹脂の融点+6℃以下で押出すことが好ましい。押出し温度が融点+2℃未満であると樹脂が溶融せず未溶融物が吐出され、それが異物となるので好ましくない。また融点+6℃より高い温度で押し出すと、樹脂が熱劣化して異物となるので好ましくない。
【0061】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは ヘイズが1%以上8%以下であることが好ましい。8%より高いと、フィルムの透明性が損なうので好ましくない。ヘイズが低いのは好ましいが、本発明では滑り性を付与する為、ヘイズの下限は1%だったのでそのようにした。ヘイズは7%以下だと好ましく、6%以下だとより好ましい。
【0062】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは 150℃・15分の条件で測定した熱収縮率のタテ方向が0.8%以上3%以下であることが好ましい。熱収縮率のタテが3%より高いと印刷後の工程で乾燥する際 フィルムが収縮し印刷図柄のズレ等が生じ好ましくない。0.8%未満で問題は無いが、本発明の生産方法では0.8%が下限だった為 0.8%以下とした。熱収縮率のタテ方向の上限は2.5%以下だと好ましく、2%以下だとより好ましい。
熱収縮率=(熱収縮前のフィルム長さー熱収縮後のフィルム長さ)÷熱収縮前のフ
ィルム長さ×100(%) 式(1)
【0063】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの1m長にわたり測定した時のタテ方向とヨコ方向の厚み斑は フィルムタテ方向とヨコ方向の厚み斑が共に1%以上10%以下であることが好ましい。厚み斑が10%より大きくなると、印刷等の加工時にシワによる印刷抜けや蛇行が生じて好ましくない。フィルムタテ方向とヨコ方向の厚み斑は低いほうが好ましいが、本発明においては1%程度が厚み斑の下限である。なお、タテ方向とヨコ方向の厚み斑は8%以下だとより好ましく、6%以下であるとさらに好ましい。
【0064】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの厚みは特に規定しないが、2μm以上300μm以下であることが好ましい。厚み2μm未満であると、フィルムの腰感が不足し、印刷等の加工にシワが入り易くなり、また腰感不足で袋やラベルにする際の工程で不具合が生じ易くなるので好ましくない。厚みが厚い分には問題無いが、環境やコスト対応として、薄肉化による減容化と逆行するので300μmより厚いと好ましくない。厚みは4μm以上250μm以下であるとより好ましく、6μm以上200μm以下であるとさらに好ましい。
【0065】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムの製品ロールの幅は特に規定しないが、300mm以上5000mm以下であることが好ましい。幅300mm未満であると、印刷や加工での効率が落ちるので好ましくない。幅が広い分には問題無いが、印刷や加工工程において、あまりに幅が広いとハンドリングが大掛かりとなるので、幅5000mmより長いのは好ましくない。フィルムロールの幅は400mm以上4500mm以下であるとより好ましく、500mm以上4000mm以下であるとさらに好ましい。
【実施例0066】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例、比較例で使用した原料の組成、実施例、比較例におけるフィルムの延伸方式、製造条件を、それぞれ表に示す。
【0067】
また、フィルムの評価方法は下記の通りである。
[Tg(ガラス転移点)、Tm(融点)]
示差走査熱量分析装置(セイコー電子工業株式会社製、DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgをサンプルパンに入れ、パンのふたをし、窒素ガス雰囲気下で-40℃から300℃に10℃/分の昇温速度で昇温して測定した。Tg(℃)とTm(℃)はJIS-K7121-1987に基づいて求めた。
【0068】
[極限粘度 (IV)]
ポリエステル0.2gをフェノール/1,1,2,2-テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/gである。
【0069】
[ポリエステルフィルム中の各種原子の含有量]
以下に示す方法で定量した。
【0070】
(a)アンチモン原子
試料1gを硫酸/過酸化水素水の混合液で湿式分解させた。次いで、亜硝酸ナトリウムを加えてSb原子をSb5+とし、ブリリアングリーンを添加してSbとの青色錯体を生成させた。この錯体をトルエンで抽出後、吸光光度計(島津製作所製、UV-150-02)を用いて、波長625nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線から、試料中のSb原子の量を比色定量した。
【0071】
(b)リン原子
試料1gを、炭酸ナトリウム共存下で乾式灰化分解させる方法、あるいは硫酸/硝酸/過塩素酸の混合液または硫酸/過酸化水素水の混合液で湿式分解させる方法によってリン化合物を正リン酸とした。次いで、1モル/Lの硫酸溶液中においてモリブデン酸塩を反応させてリンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元してヘテロポリ青を生成させた。吸光光度計(島津製作所製、UV-150-02)により波長830nmにおける吸光度を測定した。予め作成した検量線から、試料中のリン原子の量を定量した。
【0072】
(c)アルミニウム原子
試料0.1gを6M塩酸溶液に溶解させ一日放置した後、純水で希釈し1.2M塩酸測定用溶液とした。調製した溶液試料を高周波プラズマ発光分析により求めた。
【0073】
[欠点数]
幅800mm、巻長10000m(8000平方メートル)のフィルムロールを、巻返し機を用いて巻返した。巻返す際 FUTEC社製の欠点検知機(型式 F MAX MR)を用いて欠点数を調査した。そしてタテ方向 または ヨコ方向のどちらか1つの方向で1mm以上のサイズの欠点数を求めた。全ての欠点数から式(1)により、1000平方メートル当りの欠点数を求めた。
1000平方メートル当りの欠点数=全ての欠点数÷8 (式1)
【0074】
[印刷]
欠点検査をした800mm、巻長10000m(8000平方メートル)のフィルムロールを、グラビア印刷機(東谷鉄工所社製)を使用して速度100m/minで網点5%でグラビア印刷を実施した。このときのインキは、グラビア印刷インキ(東洋インキ社製:商品名ファインスターR92墨)であり、希釈溶剤(東洋インキ社製:商品名SL302)で77:23の比率で混合したものを用いた。得られた印刷サンプルを巻返し機を用いて巻返した。巻返す際 FUTEC社製の欠点検知機(型式 F MAX MR)を用いて印刷抜け数を調査した。そしてタテ方向 または ヨコ方向のどちらか1つの方向で1mm以上のサイズの印刷抜け数を求めた。全ての印刷抜け数から式(2)により、1000平方メートル当りの欠点数を求めた。
1000平方メートル当りの印刷抜け数=全ての欠点数÷8 (式2)
【0075】
[熱収縮率]
ヨコ方向に幅10mm、タテ方向に220mmのサイズにサンプリングして、タテ方向に200mmの間隔に標線をマークして、標線の間隔を測定(L 0)した後、そのフィルムを紙の間に挟み、150℃の温度に制御した熱風オーブンに入れ、30分処理した後、取り出した後、標線の間隔を測定(L)して、式(3)から熱収縮率を求めた。実施する。他は、JIS-C-2318に準拠して行った。
熱収縮率(%)={(L 0-L)/L 0}×100 (式3)
【0076】
[ヘイズ]
JIS K 7105に準じて23℃で測定した。ヘイズメータ(日本電色工業株式会社製、300A)を用いて測定した。なお、測定は2回行い、その平均値を求めた。
【0077】
[厚み斑]
フィルムを測定方向に1m×幅方向に40mmの短冊状にサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、5(m/分)の速度でフィルム試料を連続的に厚みを測定した。下式4からフィルムの厚みムラを算出した。
厚み斑=(最大厚みー最小厚み)÷平均厚み×100(%) (式4)
【0078】
<重合触媒溶液の調製>
(リン化合物のエチレングリコール溶液)
窒素導入管、冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、エチレングリコール2.0リットルを加えた後、窒素雰囲気下200rpmで攪拌しながら、リン化合物として化学式(4)で表されるIrganox1222(ビーエーエスエフ社製)200gを加えた。さらに2.0リットルのエチレングリコールを追加した後、ジャケット温度の設定を196℃に変更して昇温し、内温が185℃以上になった時点から60分間還流下で攪拌した。その後加熱を止め、直ちに溶液を熱源から取り去り、窒素雰囲気下を保ったまま、30分以内に120℃以下まで冷却した。
【0079】
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液)
冷却管を備えたフラスコに、常温常圧下、純水5.0リットルを加えた後、200rpmで攪拌しながら、塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート)200gを純水とのスラリーとして加えた。さらに、全体として10.0リットルとなるよう純水を追加して、常温常圧で12時間攪拌した。その後、ジャケット温度の設定を100.5℃に変更して昇温し、内温が95℃以上になった時点から3時間還流下で攪拌した。攪拌を止め、室温まで放冷した。その際、未溶解粒子が見られた場合は、溶液をガラスフィルター(3G)にてろ過してアルミニウム化合物の水溶液を得た。
続いて、蒸留装置を備えたフラスコに、常温常圧下、前記アルミニウム化合物の水溶液2.0リットルとエチレングリコール2.0リットルを仕込み、200rpmで30分間攪拌後、均一な水/エチレングリコール混合溶液を得た。次いで、ジャケット温度の設定を110℃に変更して昇温し、該溶液から水を留去した。留出した水の量が2.0リットルになった時点で加熱を止め、室温まで放冷することでアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を得た。
【0080】
以下において、「部」は「質量部」を表す。
攪拌機、温度計、溜出用冷却機を装備した反応缶にテレフタル酸2130部、エチレングリコール1955部、トリエチルアミン0.7部を添加して0.35MPaの加圧下、220℃から250℃まで徐々に昇温し、溜出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。続いて、前記の重合触媒溶液を、リン化合物のエチレングリコール溶液およびアルミニウム化合物のエチレングリコール混合溶液をポリエステル樹脂中のジカルボン酸成分に対して、リン原子として0.047モル%を、アルミニウム原子として0.021モル%となるように添加した後、1時間かけて1.3kPaまで減圧初期重合を行うとともに270℃まで上昇し、さらに0.13kPa以下で後期重合を行い、ポリエステル1を得た。
【0081】
前記のポリエステル1の製造方法において、下記の通り一部変更してポリエステル2及び3を製造した。各ポリエステルの組成および物性について表1に示す。
実施例および比較例に用いたポリエステルは以下の通りである。
・ポリエステル1:ポリエチレンテレフタレート(IV 0.73 dl/g)
・ポリエステル2:上記ポリエステル1の製造の際に、滑剤としてSiO(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して8,000ppmの割合で添加したポリエチレンテレフタレート(IV 0.73 dl/g)
・ポリエステル3:上記ポリエステル1の製造の際に、アルミニウムの代わりにアンチモン触媒を0.084モル%となるように添加した (IV 0.73 dl / g)
【0082】
【表1】
【0083】
〔実施例1〕
上記したポリエステル1とポリエステル2とを重量比97:3で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を270℃で溶融させて、260℃まで冷却してTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが220μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約80m/minであった。未延伸フィルムのTgは75℃、Tmは256℃であった。またTダイには、高融点ポリイミドで作られた粘着シートを張り付け、溶融樹脂の揮発物を落下させないようにした。また冷却ロール上に落下した異物を除去する為、UV照射型のクリーナーを用いた。
得られた未延伸シートを115℃に加熱し、一段目を1.24倍、二段目を1.4倍、3段目を2.6倍とした三段延伸にて、全延伸倍率4.5倍で長手方向に延伸した。引き続き、温度140℃、延伸倍率4.3倍にて幅方向に延伸し、243℃で熱固定し、幅方向に5%熱弛緩処理させた。次いで該当延伸後のフィルムの両端部を裁断除去後、コロナ放電処理を経てワインダーでロール状に巻取ることで、厚み12μm、幅8mの二軸延伸ポリエステルフィルムのマスターロールを作製した。
得られたフィルムの特性を上記の方法により評価した。また欠点数の評価は 幅800mm、巻長10000mにスリットして得られたロールで上記の方法で評価を行った。フィルムの製造方法を表2に、評価結果を表3に示す。衛生性を確保できる十分に低いアンチモン量であり、欠点数が少ない印刷外観に優れた良好なフィルムであった。
【0084】
〔実施例2〕
ポリエステル1とポリエステル2とを重量比99.5:0.5で混合して押出機に投入した以外は実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリエステルフィルムロールを得た。フィルムの製造方法を表2に、評価結果を表3に示す。実施例1より透明性に優れた良好な品位のフィルムであった。また印刷抜けも少なく良好であった。
【0085】
〔実施例3〕
ポリエステル1とポリエステル2とポリエステル3を重量比96.5:3:0.5で混合して押出機に投入した以外は実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリエステルフィルムロールを得た。フィルムの製造方法を表2に、評価結果を表3に示す。実施例1より若干アンチモン量が増え、欠点数は若干増加したものの十分に少ない欠点数であり、良好な品位のフィルムであった。
【0086】
〔比較例1〕
ポリエステル3とポリエステル2を重量比97:3で混合して押出機に投入した。それ以外は実施例1と同じ方法で二軸延伸ポリエステルフィルムロールを得た。フィルムの製造方法を表2に、評価結果を表3に示す。実施例1よりアンチモン量が増え、欠点数が増加し、品位に劣るフィルムであった。また印刷抜けも実施例1より多くて劣る結果となった。
【0087】
〔比較例2〕
ポリエステル1とポリエステル2とポリエステル3を重量比48.5:3:48.5で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させて、270℃まで冷却してTダイから押出した以外は、実施例1と同様の方法によって二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。フィルムの製造方法を表2に、評価結果を表3に示す。評価の結果、極限粘度の低下が大きく、欠点数も増え、品位に劣る二軸延伸ポリエステルフィルムであった。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは アンチモンの量が極めて少なく、かつ印刷性、加工性、生産性が良好な二軸延伸ポリエステルフィルムなので、衛生性に優れた食品包装袋、ラベルに適したフィルムである。