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特開2023-184611歯車用材料保持装置および歯車用材料取り付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184611
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】歯車用材料保持装置および歯車用材料取り付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23F 23/06 20060101AFI20231221BHJP
   B23B 31/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B23F23/06
B23B31/02 610D
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185236
(22)【出願日】2023-10-30
(62)【分割の表示】P 2021505041の分割
【原出願日】2020-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】519091993
【氏名又は名称】楠橋 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(72)【発明者】
【氏名】楠橋 達也
(57)【要約】
【課題】歯車用材料の中央部の孔の中心位置に工作機械の回転軸を正確に合わせて取り付けることができ、着脱を容易にする。
【解決手段】
中央部に円形穴を有する歯車用材料を工作機械に回転可能に保持する装置であり、歯車用材料の円形穴の側壁に接する中空円筒状部を有する保持部材と、保持部材の中空円筒状部に挿入される引っ張り棒とを有し、保持部材の中空円筒状部の端部には長さ方向に沿った複数の切り込みによって分割された分割部が形成されており、
引っ張り棒の端部には、先端に向かって外径が大きくなるようなテーパ部が形成され、保持部材は工作機械に対して着脱自在に取り付けられるようになっており、引っ張り棒は保持部材に対して長さ方向に沿って前後動できるようになっており、引っ張り棒のテーパ部が保持部材の分割部に進入することによって保持部材の分割部が拡大して歯車用材料の円形穴の側壁に押し当てられるようになっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に円形穴を有する歯車用材料を工作機械に回転可能に保持するための装置であり、
歯車用材料の円形穴の側壁に接する中空円筒状部を有する保持部材と、
保持部材の中空円筒状部に挿入される引っ張り棒とを有し、
保持部材の中空円筒状部の端部には長さ方向に沿った複数の切り込みによって分割された分割部が形成されており、
引っ張り棒の端部には、先端に向かって外径が大きくなるようなテーパ部が形成されており、
保持部材は工作機械に対して着脱自在に取り付けられるようになっており、
引っ張り棒は保持部材に対して長さ方向に沿って前後動できるようになっており、
引っ張り棒のテーパ部が保持部材の分割部に進入することによって保持部材の分割部が拡大して歯車用材料の円形穴の側壁に押し当てられるようになした歯車用材料保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯車を製造する際に、歯車の材料を工作機械に取り付けるための保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車を製造するためには、中心部に孔を有する円盤状の部材に、様々な加工を行う。例えば、前加工としては円盤状の粗部材の外表面を切削して精密な形状に仕上げたり、かさ歯車のための円錐状の外形を形成するなどの他に、歯切りと呼ばれる工程などがある。これらの工程では、いずれも旋盤などの工作機械の回転部に歯車用材料を取り付け、歯車を回転させながら必要な加工を行う。
【0003】
歯車用材料を工作機械に取り付けるためには、通常は特許文献1のように複数の爪によって外側から歯車用材料を把持するチャックが使用される。また、特許文献2や特許文献3には、歯車用材料の上面および下面に接する部材で挟み付けることによって歯車用材料を工作機械に取り付けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5-16017号公開実用新案公報
【特許文献2】特開2005-262354号公開特許公報
【特許文献3】特開2004-42183号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のようにチャックで歯車用材料の外側面を把持すると、そのチャックが接している部分やその付近ではバイトなどを当てることができず、加工することができない。したがって、外側面の全周に渡って加工する場合は、爪の位置をずらしてチャックをやり直しながら、チャックで隠れていない部分を順次加工しなければならない。また、はすば歯車やねじ歯車のように軸方向に対して傾いた歯すじの場合、1本の歯すじがチャックの間に収まらない場合は、そもそも歯すじを形成できない。
【0006】
特許文献2や特許文献3の発明では、歯車用材料の上面および下面に接する部材で挟み付けるので、歯車用材料の側面は開放されている。しかし、これらは非常に複雑な構造であり、高価である。作成しようとする歯車も種類が多ければ、それに合わせて多種の装置が必要となり、コストが上昇する。また、歯車用材料の着脱のためには、歯車用材料の上面に接する部材も着脱せねばならず、作業に時間がかかる。スパイラルベベルギアなどのように円錐台状の形状を有する歯車の場合は、上下から挟み込むことが難しく、挟み込むことができても円錐台の部分の加工が困難となる。
【0007】
さらに、特許文献1~3の発明では、歯車用材料の中心軸を正確に合わせることが難しい。特に初期の工程においては歯車用材料の中央部の孔の中心位置と外周の位置が正確に一致していない場合もある。この場合、特許文献1のように外側面を把持して回転させながら加工すれば、仕上がった製品の軸中心は外周の中心位置からずれたままになる。
【0008】
この発明は、歯車用材料の中央部の孔の中心位置に工作機械の回転軸を正確に合わせて取り付けることができ、しかも着脱が容易な歯車用材料保持装置および歯車用材料取り付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明の歯車用材料保持装置は、中央部に円形穴を有する歯車用材料を工作機械に回転可能に保持するための装置であり、歯車用材料の円形穴の側壁に接する中空円筒状部を有する保持部材と、保持部材の中空円筒状部に挿入される引っ張り棒とを有し、保持部材の中空円筒状部の端部には長さ方向に沿った複数の切り込みによって分割された分割部が形成されており、
引っ張り棒の端部には、先端に向かって外径が大きくなるようなテーパ部が形成されており、保持部材は工作機械に対して着脱自在に取り付けられるようになっており、引っ張り棒は保持部材に対して長さ方向に沿って前後動できるようになっており、引っ張り棒のテーパ部が保持部材の分割部に進入することによって保持部材の分割部が拡大して歯車用材料の円形穴の側壁に押し当てられるようになっている。あるいは、中央部に円形穴を有する歯車用材料を保持するための装置であり、工作機械に接続される工作機械接続部材と、歯車用材料の円形穴の側壁に接する中空円筒状部を有する保持部材と、保持部材の中空円筒状部に挿入される引っ張り棒とを有し、保持部材の中空円筒状部の端部には長さ方向に沿った複数の切り込みによって分割された分割部が形成されており、引っ張り棒の端部には、先端に向かって外径が大きくなるようなテーパ部が形成されており、保持部材は工作機械接続部材に対して着脱自在に取り付けられるようになっており、引っ張り棒は保持部材に対して長さ方向に沿って前後動できるようになっており、引っ張り棒のテーパ部が保持部材の分割部に進入することによって保持部材の分割部が拡大して歯車用材料の円形穴の側壁に押し当てられるようになっている。
【0010】
この発明の歯車用材料取り付け方法は、上述の歯車用材料保持装置を工作機械に設置し、歯車用材料の円形穴を歯車用材料の中空円筒状部にはめ込み、引っ張り棒を保持部材に対して長さ方向に移動させて引っ張り棒のテーパ部を保持部材の分割部に進入させ、分割部を拡大させて歯車用材料の円形穴の側壁に押し当てることによって、歯車用材料を工作機械に取り付ける。
【発明の効果】
【0011】
この発明の歯車用材料保持装置および歯車用材料取り付け方法は、歯車用材料を工作機械に簡単に着脱でき、しかも、歯車用材料の中央部の孔の中心位置に工作機械の回転軸を正確に合わせて取り付け、精密な加工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】歯車用材料保持装置を示す断面図である。
図2】工作機械接続部材を示す断面図である。
図3】同平面図である。
図4】保持部材を示す断面図である。
図5】同正面図である。
図6】同平面図である。
図7】引っ張り棒を示す正面図である。
図8】同平面図である。
図9】保持部材の中空円筒状部を示す拡大断面図である。
図10】焼き入れの領域を示す断面図である。
図11】歯車用材料取り付け方法の例を示す断面図である。
図12】歯車用材料保持装置の第2の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1は歯車用材料保持装置を示す断面図である。歯車用材料保持装置1は、中央部に円形穴x1を有する歯車用材料xを保持するための装置である。工作機械yに接続される工作機械接続部材2と、保持部材3と、引っ張り棒4とを有する。車用材料保持装置1はさまざまな形状の歯車用の材料に適用でき、たとえば平歯車用の円筒状のもの以外にも、傘歯車用の材料のように円錐台状の形状を有するものなどにも適用できる。本例では、スパイラルベベルギア用の歯車用材料を示す。このような形状では、最大径の側面部分が小さく、従来のチャックで外から把持することは難しく、また、上下から挟み込むと上部の円錐台状の部分の加工ができなくなる。
【0014】
図2は工作機械接続部材を示す断面図、図3は同平面図である。本発明において使用する工作機械は、歯車の製造や前処理に使用される各種の一般的な工作機械が対象になり得る。これらの工作機械は、モータなどの駆動源(図示せず)によって駆動されて回転運動する部材yを有し、チャックなど歯車用材料を保持する部材を取り付ける部分が設けられている。本例であれば、上向きに開いた円錐台形状の窪みが形成されており、ここに工作機械接続部材2を固定する。工作機械自体にこのような適切な形状の回転部がない時は、適宜作成して元の工作機械の回転部と置き換えてもよい。
【0015】
工作機械接続部材2の外形は工作機械の回転部に装着できる形状に形成されている。外側側面にはテーパ状になった部分があり、この面が工作機械の円錐台形状の窪みの面に接する。また、この工作機械接続部材2の中央部は中心軸に沿って中空部が形成されている。特に上端部付近において中空部は、上向きに開いた円錐状の窪みになっている。そして、外側側面のテーパ状の面および中央部の円錐状の窪みの面は、全面に渡って研磨仕上げを行うことが好ましい。研磨仕上げを行うことによって、工作機械および後述の保持部材との接続が良好になり、加工のために工作機械を回転させたときにバックラッシュが少なくなる。こうして、より精密な加工が実現できる。
【0016】
次に、保持部材3について説明する。図4は保持部材を示す断面図、図5は同正面図、図6は同平面図である。保持部材3も中心部が中空になった形状である。基部は、外形が概ね円錐台の形状であり、工作機械接続部材2の窪み部に係合するテーパ面になっている。本例では、挿入を容易にするために下端部の外周により強いテーパ角が形成されている。
【0017】
保持部材3の上部には、中空円筒状部5が形成されている。その外形は保持しようとする対象の歯車用材料の円形穴の形に対応するが、それよりも若干小さくなっている。そして、中空円筒状部5の少なくとも先端部には長さ方向に沿った複数の切り込み6によって分割された分割部が形成されている。切り込みの数、すなわち分割数は3以上6以下であることが好ましく、特に図6に示すように4つの切り込み6によって4等分することが好ましい。また、切り込み6の深さは、引っ張り棒4の先端部が下降した時に、適切なたわみが生じるように、すなわち、分割部が外向きに開くようにたわむことで歯車用材料の円形穴の内壁面に接し、しかも、十分な強さで内壁面に押し付けられるように設定されていればよい。この条件が満たされるなら、切り込み6は中空円筒状部5の上端部付近のみでもよいが、本例では中空円筒状部5の全長に渡って設けられている。
【0018】
中空円筒状部5の上端部の内壁面には、上に向いて肉厚が薄くなるようなテーパ面が形成されている。
【0019】
図7は引っ張り棒を示す正面図、図8は同平面図である。引っ張り棒4は下部が丸棒状の部材であり、その部分の外径は保持部材3の中空穴の径よりも小さくなっていて、保持部材3の中空穴の中に挿入しても、保持部材3の内壁との間に隙間が生じるようになっている。
【0020】
引っ張り棒4の上部は、先端に向かって外径が大きくなるようなテーパ部が形成されている。このテーパ角は中空円筒状部5の上端部の内壁面のテーパ角と概ね一致している。後述の通り、このテーパ部があることによって、引っ張り棒4が下降した時に中空円筒状部5の分割部を押し広げる。ここでは、少ない移動量によって分割部を大きく広げることができるようにするために、大きなテーパ角を設けており、たとえば、軸方向に対して75°に設定されている。また、上端面では径は中空円筒状部5の内径よりも大きくなっている。
【0021】
引っ張り棒4の下端部にはおねじ部が形成されている。また、上面にはドライバーや六角レンチなどの締結工具の先端が挿入される工具挿入穴7が形成されている。本例では、プラスドライバー用の十字穴が設けられている。
【0022】
引っ張り棒4の下方には棒状の連結部材8が設けられている。連結部材8の上端部の中心にはめねじ部が設けられている。このめねじ部に引っ張り棒4のおねじ部を係合させるとことによって、連結部材8と引っ張り棒4が連結される。このとき、連結部材8の上端と保持部材の下端の間には隙間が形成されている。
【0023】
さらに連結部材8の下端部にもおねじ部のような係合部が形成されていて、駆動部材9と連結できるようになっている。ここで、駆動部材9は油圧装置などの駆動源によって、引っ張り棒4や連結部材8を軸方向に沿って前後動させる部材であり、さらに、工作機械の本体に対して引っ張り棒4や連結部材8を回転自在に支持する。このような駆動部材9は多くの工作機械に装備されていることが多く、その場合はそれを使用すればよい。また、適当な駆動部材が備わっていない場合は、別途作成して取り付けてもいよい。また、連結部材8は少し短めに設定し、駆動部材9との間に隙間ができるようにし、接続時にはワッシャ状のスペーサー10で調整するようにしてもよい。
【0024】
歯車用材料保持装置1の主要な部材である工作機械接続部材、保持部材および引っ張り棒は、強度のある素材で作られる。金属材料のうちでも、強度が高く、しかも入手性の良い鋼材が好ましい。特に、保持部材3および引っ張り棒4には、クロムモリブデン鋼が適している。本例では、JIS G4053 機械構造用合金鋼鋼材においてSCM415で分類されているものを使用している。これは、焼き入れを行うのに適した素材であり、本例では浸炭焼き入れを施している。
【0025】
そして、工作機械接続部材2、保持部材3や引っ張り棒4には、焼き入れを施すことが好ましい。図10は、焼き入れを行う箇所を示している。
引っ張り棒4のテーパ部Q1および中空円筒状部5のテーパ面Q2に焼き入れを施すことは、特に好ましい。この部分は、強い力で相互に押し当てられるので、摩耗が進行しやすい。焼き入れを施すことによって、摩耗を抑制し、長期の寿命を実現でき、また、形状の精度が保たれることによって、歯車用材料を正確に保持できる。
また、分割部5では、先端のテーパ面Q2以外の部分も全て焼き入れを施してもよい。この場合、まず円筒状の部材を作成してから、焼き入れを施し、その後に長さ方向に沿った切り込みを行うことが好ましい。円筒の形状の時に焼き入れを施すことによって、焼き入れにおける変形を小さくし、正確な形状を得ることができる。この焼き入れによって、分割部5の強度と剛性が向上し、耐久性が増すとともに、引っ張り棒4の上下動による分割部5の開閉により適した弾性も得られる。
保持部材3の中空円筒状部5の外面Q3およびこれに続く基部Q4の面にも焼き入れを施すことが好ましい。この部分を強化することによって、正確な形状を維持し、歯車用材料を正確に固定できる。
保持部材3の基部で、テーパー状になった部分Q5、および、これと係合する工作機械接続部材2の中空部の円錐状の窪みの部分Q6にも切り込みを行うことが好ましい。この部分も相互に接触するので、強化して摩耗を抑制するとともに、正確な位置関係と係合が保たれる。
なお、保持部材3と工作機械接続部材2のはめあい公差は、JISのH8以上とすることが好ましい。これによって、工作時において振れの小さい正確な回転を歯車用材料に与えることができ、精度の高い歯車を得ることができる。
【0026】
ついで、歯車用材料保持装置の作用と歯車用材料取り付け方法について説明する。まず、歯車用材料保持装置1を組み立てる。歯車用材料保持装置1は工作機械接続部材2、保持部材3、引っ張り棒4の部分に分かれており、本例ではさらに連結部材8も含んでいる。保持部材3は使用対象となりうる歯車用材料xの形状、特に円形穴x1の内径や深さなどに対応して、複数の種類のものを用意しておき、その中からそのときの歯車用材料xにあった保持部材を選択することができる。また、引っ張り棒4や連結部材8も同様に複数の種類のものを用意しておくことができる。このように、それぞれの部分の部材を組み合わせることによって、歯車用材料保持装置1の全てを交換することなく、一部のみを交換することによって多種の歯車を製造することができる。
【0027】
歯車用材料保持装置1を工作機械の回転部yに取り付け、連結部材8を駆動部材9に接続する。そして、歯車用材料xを保持部材に取り付ける。図9は保持部材の中空円筒状部を示す拡大断面図である。図9(a)に示すように引っ張り棒4を上側の位置にする。このとき、引っ張り棒4の上端部は中空円筒状部5の上端部から離れているか、あるいは弱く接している状態である。中空円筒状部5の分割部は拡張されておらず、歯車用材料xの円形穴x1を中空円筒状部5にはめ込むことができる。
【0028】
ついで、駆動部材9を作動させて引っ張り棒4を下向きに引き下げる。図9(b)に示すように引っ張り棒4の上端部は下降し、これにより中空円筒状部5の分割部の上端部に外向きの力を加える。分割部の上端部は外向きにたわみながら押し広げられ、歯車用材料xの円形穴x1の内側面x2に押し当てられる。こうして、歯車用材料xは保持部材3に強固に固定される。このとき、円形穴x1の中心位置は保持部材3の中心軸の位置に正確に合う。また、引っ張り棒4の上端部は引っ張り棒4の上端部に対して下向きの力も加える。これによって、歯車用材料保持装置1は工作機械の回転部yに強固に固定される。
【0029】
以上、歯車用材料xの取り付けは歯車用材料xの円形穴x1を中空円筒状部5にはめ込み、駆動部材9で引っ張り棒4を引き下げるだけで実施できる。歯車用材料xの取り付けが完了すれば、工作機械の回転部yを回転させ、前加工や歯切りなど必要な加工処理を行うことができる。歯車用材料xの外周は完全に開放されており、加工作業を妨げるものはない。本例のスパイラルベベルギア用の歯車用材料など複雑な形状を持つ場合でも、簡単かつ確実に固定でき、全ての外表面を自由に加工できる。円形穴x1の内径が中空円筒状部5の外形に対応していれば、どのような外形状の歯車用材料でも保持できる。
【0030】
前加工を行う場合、歯車用材料xの外形の仕上がりは粗く、外周の中心位置と円形穴の中心位置が一致していない場合も考えられる。この発明の歯車用材料保持装置および歯車用材料取り付け方法によれば、工作機械の回転部yの回転中心は円形穴x1の中心位置に一致する。したがって、最終製品となる歯車は、歯面が中心軸を中心に正確に回転する。
【0031】
必要な加工処理が終われば工作機械の回転部yの回転を停止する。駆動部材9を作動させて引っ張り棒4を上向きに移動させ、図9(a)に示す状態に戻す。分割部の上端部は縮小し、歯車用材料xの円形穴x1の内側面x2から離れる。こうして、加工処理後の歯車用材料xは簡単に取り外すことができる。
【0032】
以上、駆動部材9の作動による引っ張り棒4の上下動により、保持部材は工作機械接続部材に対して着脱できる。ドライバーやスパナなどの工具を使う必要もない。
【0033】
コンピュータ制御の工作機械では、駆動部材9の作動も自動制御できるようになっている。したがって、駆動部材9の上下動を自動制御することにより、歯車用材料xの取り付けおよび取り外しも自動化でき、作業を自動化・高速化でき、安全性も向上できる。
【0034】
図11は、歯車用材料取り付け方法の例を示す断面図である。歯車用材料によっては、中心穴の内部にも加工を行うことがある。特に、中心部に外に向て開いた形状のザグリ加工を施す場合がある。この場合、切削刃を中心部に進入させながら、ザグリ加工を行う。図11では、ザグリを行うべき部分をハッチングで示している。本例では、引っ張り棒の先端部および保持部材の空円筒状部の先端は、そのザグリ深さよりも深い所に位置するように、その形状が設定されている。この位置で、歯車用材料を保持する。これによって、引っ張り棒や保持部材は切削刃と干渉しないので、ザグリ加工を安全かつ容易に行うことができる。
【0035】
図12は、歯車用材料保持装置の第2の例を示す断面図である。本例では、図1に示す例と異なって、保持部材3は工作機械の回転部yに直接取り付けられる。工作機械によっては、図1に示すような工作機械接続部材2を接続するのに適した回転部yを備えていないものもある。このような場合、図1に示すような回転部yを作成して、元の回転部と置き換えることも考えられるが、本例では図12に示すように、保持部材3を取り付けるための中空部が、中央部おいて中心軸に沿って形成されていて、その上端部付近において中空部は、上向きに開いた円錐状の窪みになっている。これは、図1の例の工作機械接続部材2の中央部に設けられている円錐状の窪みに相当する。この円錐状の窪みに保持部材3を装着することによって、保持部材3を工作機械に対して回転可能に取り付けることができる。
【符号の説明】
【0036】
1.歯車用材料保持装置
2.工作機械接続部材
3.保持部材
4.引っ張り棒
5.中空円筒状部
6.切り込み
8.連結部材
9.駆動部材
x.歯車用材料
x1.円形穴
x2.円形穴の内壁
y.工作機械の回転部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12