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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184662
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】イストラデフィリン製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/522 20060101AFI20231221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K31/522
A61P43/00 111
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/24
A61P19/10
A61P11/06
A61K9/20
A61K47/38
A61K47/26
A61K47/32
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190309
(22)【出願日】2023-11-07
(62)【分割の表示】P 2019090744の分割
【原出願日】2019-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】林田 一希
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊
(72)【発明者】
【氏名】片山 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡本 康伸
(57)【要約】
【課題】イストラデフィリンの溶出性が改善された新規の製剤を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る経口固形製剤は、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩と、モル置換度が3のヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルと、を含んでいる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩と、モル置換度が3のヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルと、を含んでいる、経口固形製剤。
【請求項2】
前記モル置換度が3のヒドロキシプロピルセルロースおよび/または前記ショ糖脂肪酸エステルは、溶出性改善剤として含まれている、請求項1に記載の経口固形製剤。
【請求項3】
口腔内崩壊錠である、請求項1または2に記載の経口固形製剤。
【請求項4】
前記イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩の粒子径(D50)は、21~100μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の経口固形製剤。
【請求項5】
クロスポビドンを含んでいる、請求項1~4のいずれか1項に記載の経口固形製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩を含む顆粒に関する。また、本発明は、前記顆粒を含む経口固形製剤に関する。さらに、本発明は、前記経口固形製剤の製造方法、および前記経口固形製剤における溶出性の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イストラデフィリンは、アデノシンA受容体拮抗作用を有し、それ故、アデノシンA受容体亢進に基づく疾患、例えば、パーキンソン病、老人性認知症、うつ病、喘息、骨粗鬆症等の治療等において有用である。
【0003】
イストラデフィリンは、水に対して溶解性が低いという特徴を有する。水に対する溶解性が低い薬物は、消化管内での溶解性の低さと溶解速度の遅さから、一般に、バイオアベイラビリティが低いと言われている。イストラデフィリンに関しても、溶解性、溶解速度等の向上、バイオアベイラビリティの改善等が望まれている。
【0004】
そこで、上記の観点から、イストラデフィリンを含む種々の製剤が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、0.5~20μmの平均粒径を有し、結晶化度が40%以上であるイストラデフィリン微細結晶を含む固体医薬製剤が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、イストラデフィリンまたはその薬理学的に許容される塩と、結晶セルロースとを含有する固形製剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4606326号公報
【特許文献2】特許第4673745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1および2に記載されたようなイストラデフィリンを含む製剤においては、当該製剤からのイストラデフィリンの溶出性に関して、改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明の一態様は、イストラデフィリンの溶出性が改善された新規の製剤を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、イストラデフィリンを含む製剤において、特定量のヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含ませることにより、前記製剤からのイストラデフィリンの溶出性が改善されることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の一態様は、以下の構成を包含する。
<1>イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩と、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルと、を含む顆粒であり、
当該顆粒中に、合計5.0質量%以上のヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、顆粒。
<2><1>に記載の顆粒を含むことを特徴とする、経口固形製剤。
<3>錠剤であることを特徴とする、<2>に記載の経口固形製剤。
<4>イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩を含む経口固形製剤の製造方法であり、
イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩に、少なくともヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを混合して、前記ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを合計5.0質量%以上含む混合物を得る工程を含むことを特徴とする、方法。
<5>イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩を含む経口固形製剤からのイストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩の溶出性を改善する方法であって、
前記経口固形製剤において、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含ませることを特徴とする、方法。
<6>イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩と、ヒドロキシプロピルセルロースと、ショ糖脂肪酸エステルと、を含む、経口固形製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩の溶出性が改善された新規の製剤を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩の溶出性を改善する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る実施例における、溶出試験の結果を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る実施例における、溶出試験の結果を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る実施例における、溶出試験の結果を示す図である。
図4】比較例における、溶出試験の結果を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る実施例および比較例における、溶出試験の結果を示す図である。
図6】比較例における、溶出試験の結果を示す図である。
図7】比較例における、溶出試験の結果を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る実施例および比較例における、溶出試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。
【0014】
なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0015】
〔1.概要〕
本発明の一実施形態に係る顆粒(以下、「本発明の顆粒」と称する。)は、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩(以下、単に「イストラデフィリン」と称する場合がある。)と、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルと、を含む顆粒であり、当該顆粒中に、合計5.0質量%以上のヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含むことを特徴とする。また、本発明の一実施形態に係る経口固形製剤(以下、「本発明の製剤」と称する。)は、上記の顆粒を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明者らは、イストラデフィリンを含む製剤、とりわけ、溶出性の観点からイストラデフィリンと共に含まれる成分について詳細に検討を行った結果、以下の知見を得ることに成功した。
・イストラデフィリンと共に、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含ませることにより、イストラデフィリンを含む顆粒および錠剤からのイストラデフィリンの溶出性が改善される。
【0017】
ヒドロキシプロピルセルロースやショ糖脂肪酸エステルが、イストラデフィリンの溶出性に関連していることは、これまでに全く知られていなかった。したがって、本発明者らが得た上記知見は、極めて驚くべきことである。
【0018】
このように、本発明の顆粒(または製剤)は、上記の知見に基づく有利な効果を奏することから、有用な新規のイストラデフィリンまたは薬学的に許容されるその塩を含む製剤を提供することができる。
【0019】
〔2.本発明の顆粒〕
本発明の顆粒は、有効成分として、イストラデフィリンまたは薬学的に許容されるその塩を含む。イストラデフィリンは、下記の式(1)で表される化合物であり、一般に、(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンと呼ばれる。
【0020】
【化1】
【0021】
本明細書において、「薬学的に許容される塩」とは、医学的に、過度の毒性、刺激、アレルギー反応等がなく、ヒトまたはその他の哺乳動物の組織と接触させて使用するのに適した塩を意味する。
【0022】
イストラデフィリンの薬学的に許容される塩は、当該技術分野において周知であり、任意のものが使用可能である。イストラデフィリンの薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;亜鉛塩;アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩;モルホリン、ピペリジン、リジン、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の付加塩等が挙げられる。
【0023】
また、イストラデフィリンとしては、結晶または非晶質のものをいずれも使用でき、またその粒度も特に限定されない。例えば、本発明の一実施形態において、イストラデフィリンの粒子径(D50)は、例えば、21~100μmであることが好ましく、21~40μmであることがより好ましい。上記の粒子径(D50)の測定方法としては、レーザー回折式粒度分布測定法が挙げられ、具体例としては、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マスターサイザー3000、マルバーン社製)を用いる方法等が挙げられる。
【0024】
本発明の顆粒は、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含む。本発明の顆粒がヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含むことにより、上記顆粒が適用された経口固形製剤からのイストラデフィリンの溶出性が改善されるという効果を奏する。
【0025】
なお、本明細書における「ヒドロキシプロピルセルロース」は、モル置換度3の一般的なヒドロキシプロピルセルロースを意味し、モル置換度0.2~0.4の「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」とは明確に区別される。すなわち、本明細書において「ヒドロキシプロピルセルロース」と、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとは異なる。
【0026】
本発明の顆粒に含まれるショ糖脂肪酸エステルは、医薬において使用可能なグレードであれば、特に限定されない。ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。好ましくは、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、および/またはショ糖ラウリン酸エステルが用いられ、より好ましくは、ショ糖ステアリン酸エステルが用いられる。
【0027】
本発明の一実施形態において、本発明の顆粒に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量は、顆粒の質量を基準として、例えば、合計5.0質量%以上であり、好ましくは、合計7.0質量%以上であり、より好ましくは、合計11.0質量%以上である。本発明の顆粒に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量が上記範囲であると、十分な溶出性の確保という利点を有する。また、本発明の顆粒に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量の上限は、例えば、合計50質量%以下であり、好ましくは、合計40質量%以下であり、より好ましくは、合計25質量%以下である。本発明の顆粒に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量が上記上限値を超えると、溶出性の改善効果が飽和する。
【0028】
本発明の一実施形態において、本発明の顆粒に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量は、例えば、2.5~25mgであり、好ましくは、3.5~17.5mgであり、より好ましくは、5.5~15.0mgである。
【0029】
本発明の一実施形態において、本発明の顆粒に含まれるイストラデフィリンの量は、顆粒の質量を基準として、例えば、1.0~80質量%であり、好ましくは、10~70質量%であり、より好ましくは、25~60質量%である。
【0030】
本発明の一実施形態において、ヒドロキシプロピルセルロースおよびショ糖脂肪酸エステルは、それぞれ、結合剤および界面活性剤として添加される。
【0031】
本発明の顆粒は、上記以外の成分として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、着色剤等を含んでいてもよい。
【0032】
賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、D-マンニトール、乳糖、白糖、コーンスターチ(トウモロコシデンプン)、リン酸カルシウム、ソルビット、結晶セルロース等が挙げられる。好ましくは、D-マンニトールが用いられる。
【0033】
結合剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒプロメロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、N-ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、またはこれらの重合体の組み合わせ、アルファー化デンプン、ゼラチン、カンテン、アラビアゴム等が挙げられる。
【0034】
崩壊剤としては、特に限定されないが、例えば、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、バレイショデンプン等が挙げられる。好ましくは、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが用いられる。
【0035】
着色剤としては、特に限定されないが、例えば、黄色を呈する着色剤(例えば、黄色三二酸化鉄、黄酸化鉄、食用黄色4号アルミニウムレーキ、ベンガラ等)、赤色を呈する着色剤(例えば、三二酸化鉄、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色102号等)、黒色を呈する着色剤(例えば、黒酸化鉄、カーボンブラック、薬用炭等)、カラメル等が挙げられる。好ましくは、酸化鉄、カラメルが用いられ、より好ましくは、黄色三二酸化鉄が用いられる。
【0036】
前記各添加剤の含有率は、特に限定されることなく、従来公知の技術に基づいて、適宜設定され得る。
【0037】
本発明の一実施形態において、本発明の顆粒は、表面がコーティング剤でコーティングされたものであってもよい。コーティング剤としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン、タルク、珪酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールとアクリル酸とメタクリル酸メチルとの共重合体等を含むものが挙げられる。好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、酸化チタン等がコーティング剤の成分として用いられる。
【0038】
本発明の一実施形態において、本発明の顆粒は、イストラデフィリンを、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルと、必要に応じてその他の添加剤と共に造粒し、得られた造粒物(素顆粒)を、必要に応じてコーティング剤でコーティングして製造することが可能である。造粒方法は、特に限定されることなく、従来公知の技術を適用可能であり、例えば、流動層造粒法、撹拌造粒法、押出造粒法等を適用できる。
【0039】
本発明の顆粒における水分含量(乾燥減量)は、特に限定されないが、5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0040】
〔3.本発明の製剤〕
本発明の一実施形態において、〔2.本発明の顆粒〕に記載の顆粒を含むことを特徴とする経口固形製剤(以下、「本発明の製剤」と称する。)を提供する。
【0041】
本発明の製剤は、イストラデフィリンと共に、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含む顆粒を含む。したがって、上記製剤からのイストラデフィリンの溶出性が改善されるという効果を奏する。
【0042】
本明細書において、経口固形製剤は、経口で投与されるように成形された薬剤であれば特に限定されないが、例えば、錠剤(口腔内崩壊錠を含む)、カプセル剤、顆粒剤、散剤、ドライシロップ等が挙げられる。本発明の製剤は、好ましくは、錠剤である。
【0043】
本発明の一実施形態において、本発明の製剤に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量は、製剤の質量を基準として、例えば、合計1.8質量%以上であり、好ましくは、合計2.5質量%以上であり、より好ましくは、合計3.9質量%以上である。本発明の製剤に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量が上記範囲であると、十分な溶出性の確保という利点を有する。また、本発明の製剤に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量の上限は、例えば、合計18.0質量%以下であり、好ましくは、合計12.5質量%以下であり、より好ましくは、合計10.0質量%以下である。本発明の製剤に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量が上記上限値を超えると、溶出性の改善効果が飽和する。
【0044】
本発明の一実施形態において、本発明の製剤に含まれるヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルの量は、例えば、2.5~25mgであり、好ましくは、3.5~17.5mgであり、より好ましくは、5.5~12.5mgである。
【0045】
本発明の一実施形態において、本発明の製剤に含まれるイストラデフィリンの量は、製剤の質量を基準として、例えば、1.0~50.0質量%であり、好ましくは、5.0~30.0質量%であり、より好ましくは、10.0~20.0質量%である。
【0046】
本発明の製剤は、上記顆粒の他に、製剤の種類や形態に合わせて種々の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、着色剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0047】
賦形剤、結合剤、崩壊剤および着色剤としては、例えば、〔2.本発明の顆粒〕に記載したものが用いられる。
【0048】
滑沢剤としては、特に限定されないが、例えば、カルナウバロウ、含水二酸化ケイ素、含水無晶形酸化ケイ素、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、酸化マグネシウム、重質無水ケイ酸、ショ糖脂肪酸エステル、水酸化アルミニウムゲル、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、セタノール、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、無水ケイ酸水加物、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。好ましくは、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
【0049】
前記添加剤の含有率は、特に限定されることなく、従来公知の技術に基づいて、適宜設定され得る。
【0050】
本発明の一実施形態において、本発明の製剤が錠剤、顆粒剤等である場合、当該錠剤、顆粒剤等の外側にさらにフィルムコーティングを設けてもよい。フィルムコーティングに用いられるコーティング剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク、珪酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールとアクリル酸とメタクリル酸メチルとの共重合体等が挙げられる。好ましくは、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、タルク等が用いられる。
【0051】
本発明の一実施形態において、本発明の製剤は、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩と、ヒドロキシプロピルセルロースと、ショ糖脂肪酸エステルと、を含む経口固形製剤である。
【0052】
本発明の製剤の成形は、特に限定されることなく、どのような形状も採用することができる。本発明の製剤が錠剤である場合、例えば、円形、楕円形、球形、棒状型、ドーナツ型の形状等であり得る。また、本発明の製剤が錠剤である場合、単層錠、積層錠、有核錠等であってもよい。
【0053】
本発明の製剤における水分含量(乾燥減量)は、特に限定されないが、10%以下であることが好ましく、3%以下であることが好ましい。
【0054】
また、本発明の製剤が錠剤である場合、その硬度は、特に限定されないが、例えば、20~150N程度であることが好ましく、40~100N程度あることがより好ましい。〔4.その他〕
本発明の一実施形態において、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩を含む経口固形製剤の製造方法であり、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩に、少なくともヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを混合して、前記ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを合計5.0質量%以上含む混合物を得る工程を含むことを特徴とする方法(以下、「本発明の製造方法」と称する。)を提供する。
【0055】
本発明の製造方法において、「混合物」は、イストラデフィリンと、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルとが混合された状態のものであれば特に限定されない。混合物としては、例えば、イストラデフィリンと、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルとが混じり合った組成物、前記組成物を造粒した顆粒等が挙げられる。なお、必要に応じて、「混合物」には、その他の添加剤が混合されていてもよい。
【0056】
本発明の製造方法は、例えば、造粒物の製造工程、および混合打錠工程を含み得る。例えば、実施例に記載の方法により、イストラデフィリンを含む造粒物(A粒)およびイストラデフィリンを含まない別の造粒物(B粒)を製造する。次いで、得られたA粒およびB粒を混合し、滑沢剤を添加して打錠することにより、本発明の製剤(錠剤)を得ることができる。その他、本発明の製造方法には、イストラデフィリンと、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルとが混じり合った組成物(混合物)を直接打錠して、錠剤を得ることも含まれる。
【0057】
本発明の製造方法において、各構成要素(例えば、「イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩」、「経口固形製剤」、「ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステル」等)の説明は、〔2.本発明の顆粒〕および〔3.本発明の製剤〕に記載したものが援用される。
【0058】
また、本発明の一実施形態において、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩を含む経口固形製剤からのイストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩の溶出性を改善する方法であって、前記経口固形製剤において、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを含ませることを特徴とする方法(以下、「本発明の溶出性改善方法」と称する。)を提供する。
【0059】
本発明の安定化方法において、各構成要素(例えば、「イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩」、「経口固形製剤」、「ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステル」等)の説明は、〔2.本発明の顆粒〕および〔3.本発明の製剤〕に記載したものが援用される。
【0060】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0061】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0062】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における評価を、以下の方法で行った。
【0063】
(溶出試験)
第17改正日本薬局方の溶出試験法(パドル法/即放性製剤)に準じ、試験液としてpH6.8(ポリソルベート1%)900mLを用いて溶出試験を実施した。詳細は以下の通りである。
【0064】
溶出試験装置に上記試験液を入れた容器をセットした後、試料を投入して、50rpmの回転速度で装置を作動させ、規定された時間(5分、15分、30分、60分、120分)毎に試験液を採取した。
【0065】
採取した試験液中のイストラデフィリン量を、紫外・可視吸光光度法(UV)により測定し、表示量(表1、3、4に記載のイストラデフィリン量)に対する百分率を溶出率(%)として求めた。
【0066】
なお、上記試料としては、実施例1~7および比較例1の場合は錠剤1個を用い、実施例8~11および比較例2~6の場合は練合品50mgを用いた。
【0067】
(崩壊試験)
第17改正日本薬局方の崩壊試験法(即崩性製剤)に準じて、補助盤なしで崩壊性試験を実施し、錠剤が崩壊したときの崩壊時間を測定した。
【0068】
〔実施例1〕
(A粒の製造)
イストラデフィリン、D-マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-L」)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社製の「サーフホープ(登録商標)J1816」/ショ糖ステアリン酸エステル)、および黄色三二酸化鉄を精製水と共に混合して造粒した。得られた造粒物を、解砕し、乾燥した後、整粒し、A粒とした。
【0069】
(B粒の製造)
D-マンニトール、エチルセルロース、トウモロコシデンプン、クロスポビドン、軽質無水ケイ酸、および黄色三二酸化鉄を精製水と共に混合して造粒し、乾燥後、整粒し、B粒とした。
【0070】
(混合・打錠)
上記A粒、上記B粒、アスパルテームおよび軽質無水ケイ酸を混合した。得られた混合物にステアリン酸マグネシウムを加え混合し、打錠末とした。前記打錠末を直径7.0mmの円形状の杵を用いて打錠し、錠剤(口腔内崩壊錠)を得た。
【0071】
なお、各成分の分量については、表1を参照のこと。
【0072】
〔実施例2〕
D-マンニトールの量を17.74mgに変更し、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-L」)の量を2.5mgに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、錠剤を得た。
【0073】
〔実施例3〕
D-マンニトールの量を16.74mgに変更し、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-L」)の量を3.5mgに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、錠剤を得た。
【0074】
〔実施例4〕
ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-L」)をヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-SSL」)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、錠剤を得た。
【0075】
〔実施例5〕
D-マンニトールの量を16.74mgに変更し、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-SSL」)の量を3.5mgに変更した以外は、実施例4と同様の方法により、錠剤を得た。
【0076】
〔実施例6〕
D-マンニトールの量を15.24mgに変更し、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-SSL」)の量を5mgに変更した以外は、実施例4と同様の方法により、錠剤を得た。
【0077】
〔実施例7〕
D-マンニトールの量を19.74mgに変更し、ショ糖脂肪酸エステルを除いた以外は、実施例2と同様の方法により、錠剤を得た。
【0078】
なお、上記実施例2~7の各成分量の詳細については、表1を参照のこと。
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1~7で製造した錠剤の錠厚、硬度および崩壊時間は、それぞれ、表2に示す通りであった。
【0081】
【表2】
【0082】
〔比較例1〕
(B粒の製造)
D-マンニトール、エチルセルロース、トウモロコシデンプン、クロスポビドン、軽質無水ケイ酸、および黄色三二酸化鉄を精製水と共に混合して造粒し、乾燥後、整粒し、B粒とした。
【0083】
(混合・打錠)
イストラデフィリンおよび上記B粒を混合し、得られた混合物にステアリン酸マグネシウムをさらに混合して打錠末とした。この打錠末を打錠し、錠剤を得た。
【0084】
なお、各成分の分量については、表3を参照のこと。
【0085】
【表3】
【0086】
〔比較例2〕
イストラデフィリンおよびD-マンニトールを乳鉢に投入し、そこへ水を適量添加し、練合した。得られた練合品を真空乾燥し、30M篩で篩過し、練合品の試料を調製した。
【0087】
なお、各成分の分量については、表4を参照のこと。
【0088】
〔実施例8〕
D-マンニトールの量を27.5mgに変更し、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-L」)2.5mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0089】
〔実施例9〕
D-マンニトールの量を27.5mgに変更し、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-SSL」)2.5mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0090】
〔実施例10〕
D-マンニトールの量を29mgに変更し、ショ糖脂肪酸エステル1mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0091】
〔実施例11〕
D-マンニトールの量を28mgに変更し、ショ糖脂肪酸エステル2mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0092】
〔比較例3〕
D-マンニトールの量を29mgに変更し、ラウリル硫酸ナトリウム1mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0093】
〔比較例4〕
D-マンニトールの量を28mgに変更し、ラウリル硫酸ナトリウム2mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0094】
〔比較例5〕
D-マンニトールの量を29mgに変更し、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール1mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0095】
〔比較例6〕
D-マンニトールの量を28mgに変更し、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール2mgを追加した以外は、比較例2と同様の方法により、練合品の試料を調製した。
【0096】
なお、上記実施例8~11および比較例3~6の各成分量の詳細については、表4を参照のこと。
【0097】
【表4】
【0098】
〔結果〕
上記実施例1~7および比較例1で製造した錠剤、ならびに実施例8~11および比較例2~6で調製した練合品の試料について、イストラデフィリンの溶出試験を行った結果を図1~8に示す。
【0099】
錠剤を用いた実験例により、以下の結果を得た。すなわち、比較例1により、ヒドロキシプロピルセルロースおよびショ糖脂肪酸エステルのいずれも含まない錠剤は、溶出率が低いことが分かった(図4)。
【0100】
また、実施例1~6と比較例1との比較により、ヒドロキシプロピルセルロースおよびショ糖脂肪酸エステルを含む錠剤は、ヒドロキシプロピルセルロースおよびショ糖脂肪酸エステルのいずれも含まない錠剤と比べて、溶出率が高いことが分かった(図1、2および4)。
【0101】
さらに、実施例7と比較例1との比較により、ヒドロキシプロピルセルロースのみを含む(ショ糖脂肪酸エステルを含まない)錠剤は、ヒドロキシプロピルセルロースおよびショ糖脂肪酸エステルのいずれも含まない錠剤と比べて、溶出率が高いことが分かった(図3および4)。
【0102】
また、練合品の試料を用いた実験例により、以下の結果を得た。すなわち、実施例8~11と比較例2との比較により、ヒドロキシプロピルセルロースまたはショ糖脂肪酸エステルのいずれかを含む練合品の試料は、ヒドロキシプロピルセルロースおよびショ糖脂肪酸エステルのいずれも含まない練合品の試料と比べて、溶出率が高いことが分かった(図5および8)。
【0103】
また、実施例10~11と比較例3~6との比較により、界面活性剤の中でもショ糖脂肪酸エステルを用いた場合に、溶出率が高くなることが分かった(図6~8)。
【0104】
以上の結果より、イストラデフィリンと共に、ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはショ糖脂肪酸エステルを顆粒または練合品(混合物)に含ませることにより、当該顆粒または練合品(混合物)からのイストラデフィリンの溶出率が高まる(溶出性が改善される)ことが示された。また、前記顆粒を含む錠剤とすることにより、当該錠剤からのイストラデフィリンの溶出率が高まる(溶出性が改善される)ことが示された。
【0105】
[処方例1]
A粒の製造工程において酸化チタンおよびヒドロキシプロピルセルロースを入れること、混合打錠工程においてD-マンニトールを入れないこと、各成分の分量を表5に記載した量に変更したこと、および(A粒の製造)を以下に記載した方法に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、錠剤を得る。
【0106】
(A粒の製造)
イストラデフィリン、D-マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-SSL」)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ショ糖脂肪酸エステル(三菱ケミカルフーズ株式会社製の「サーフホープ(登録商標)J1816」/ショ糖ステアリン酸エステル)、および黄色三二酸化鉄を精製水と共に混合して造粒する。得られた造粒物を、解砕し、乾燥した後、整粒し、A粒とする。酸化チタンおよびヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製の「HPC-SSL」)を精製水に溶解させた液を、A粒にスプレーして、コーティングする。
【0107】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の錠剤は、イストラデフィリンまたはその薬学的に許容される塩の溶出性が改善されているため、イストラデフィリンの新規製剤として(例えば、パーキンソン病、老人性認知症、うつ病、喘息、骨粗鬆症等の治療等において)、好適に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8