(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184680
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】フルオロエチレンを含む組成物及び該組成物の安定化方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
C09K5/04 F ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190743
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2022035171の分割
【原出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加留部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍王
(72)【発明者】
【氏名】午坊 健司
(72)【発明者】
【氏名】仲上 翼
(57)【要約】
【課題】酸の生成が抑制された、フルオロエチレンを含む組成物を提供すること。
【解決手段】冷媒及び酸化防止剤を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmであり、前記冷媒と酸化防止剤との合計質量が組成物全体100質量%中の95質量%以上である、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒及び酸化防止剤を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmであり、前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が、組成物全体100質量%中の95質量%以上である、組成物。
【請求項2】
冷凍機油の含有量が、前記フルオロエチレンの質量を基準として0~30000質量ppmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酸化防止剤は、フェノール類、アルキルカテコール類、ベンゾキノン類、フェノチアジン類、テルペン類、テルペノイド類及びフタル酸塩類からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記酸化防止剤は、ジブチルヒドロキシトルエン、ミルセン、ピネン及びリモネンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
さらに酸素を含み、前記酸素の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として5000質量ppm以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
冷媒及び酸化防止剤を共存させることにより組成物を得る工程を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmであり、
前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が前記組成物全体100質量%中の95質量%以上である、フルオロエチレンを含む組成物の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フルオロエチレンを含む組成物及び該組成物の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランス-1,2-ジフルオロエチレン(以下、単に「HFO-1132(E)」ともいう。)を
はじめとするフルオロエチレンは、熱移動媒体をはじめとする各種用途に使用されており、今後もその需要は高まると考えられている。
【0003】
フルオロエチレンを含む組成物におけるフッ化水素の生成を抑制するための方法として、種々の方法が検討されている。特許文献1及び2には、酸捕捉剤又は酸化防止剤を組成物中に含有させる方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献3~5には、組成物中に含まれる酸素量を制限したり、組成物中に酸素を除去するための除去剤を含有させたりする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/017522号明細書
【特許文献2】特開2021-14594号公報
【特許文献3】特開2021-1167号公報
【特許文献4】特開2021-1326号公報
【特許文献5】特開2021-1722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような事情に鑑み、本開示の目的とするところは、酸の生成が抑制された、フルオロエチレンを含む組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化防止剤を含有することにより、フルオロエチレンを含む組成物について酸の生成を抑制できることを見出した。本開示者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本開示を完成するに至った。
【0008】
即ち、本開示は、以下のフルオロエチレンを含む組成物及び該組成物の安定化方法を提供する。
項1.
冷媒及び酸化防止剤を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmであり、前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が組成物全体100質量%中の95質量%以上である、組成物。
項2.
冷凍機油の含有量が、前記フルオロエチレンの質量を基準として0~30000質量ppmである、項1に記載の組成物。
項3.
前記酸化防止剤は、フェノール類、アルキルカテコール類、ベンゾキノン類、フェノチアジン類、テルペン類、テルペノイド類、及びフタル酸塩類からなる群より選択される少
なくとも一種である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
前記酸化防止剤は、ジブチルヒドロキシトルエン、ミルセン、ピネン、及びリモネンからなる群より選択される少なくとも一種である、項3に記載の組成物。
項5.
さらに酸素を含み、前記酸素の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として5000質量ppm以下である、項1~4の何れかに記載の組成物。
項6.
冷媒及び酸化防止剤を共存させることにより組成物を得る工程を含み、
前記冷媒はフルオロエチレンを含み、
前記酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmであり、
前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が前記組成物全体100質量%中の95質量%以上である、フルオロエチレンを含む組成物の安定化方法。
項7.
前記酸化防止剤は、ジブチルヒドロキシトルエン及びテルペン類からなる群より選択される少なくとも一種である、項6に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
以上にしてなる本開示に係る組成物は、フルオロエチレンを含む一方で、酸の生成を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0011】
(1.フルオロエチレンを含む組成物)
本開示の組成物は、冷媒及び酸化防止剤を含み、前記冷媒には、フルオロエチレンが含まれる。前記酸化防止剤の含有量が、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmであり、前記フルオロエチレンと前記酸化防止剤とその他の冷媒の機能を有する成分の合計質量が、前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が、組成物全体のうち95質量%以上である。前記フルオロエチレンと前記酸化防止剤とその他の冷媒の機能を有する成分の合計質量の組成物全体に占める割合は、97質量%以上とすることが好ましく、99質量%以上とすることがより好ましい。冷媒と酸化防止剤との合計質量の上限値としては特に限定はなく、例えば組成物全体100質量%中に100質量%とすることが好ましく、99.9質量%とすることがより好ましい。
【0012】
尚、本明細書において冷媒には、ISO817(国際標準化機構)で定められた、冷媒の種類を表すRで始まる冷媒番号(ASHRAE番号)が付された化合物が少なくとも含まれ、さらに
冷媒番号が未だ付されていないとしても、それらと同等の冷媒としての特性を有するものが含まれる。冷媒は、化合物の構造の面で、「フルオロカーボン系化合物」と「非フルオロカーボン系化合物」とに大別される。「フルオロカーボン系化合物」には、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)及びハイドロフルオロ
カーボン(HFC)が含まれる。
【0013】
フルオロエチレンを含む組成物は、長期間の使用環境、又は保存環境において、共存する酸素の存在により徐々に分解してフッ化水素が生成する場合がある。その結果、フルオロエチレンを含む組成物中にフッ化水素が混入すると、機器をいためる要因となる可能性
がある。
【0014】
フルオロエチレンとしては、公知のフルオロエチレンを広く採用することが可能であり、特に限定はない。トリフルオロエチレン、ジフルオロエチレン、及びモノフルオロエチレンのいずれでも好適に使用可能である。これらの中でも、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))、シス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、及びフルオロエチレン(HFO-1141)を使用
することが好ましく、HFO-1132(E)を使用することが特に好ましい。
【0015】
本開示の組成物中における冷凍機油の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として30000質量ppm以下であることが好ましく、10000質量ppm以下であることがより好ましく、5000質量ppm以下であることがさらに好ましく、全く含まない(0質量ppm)であることが最も好ましい。冷凍機油の含有量が、フルオロエチレンの質量を基準として30000質量ppm以下であることにより、組成物中のフッ化水素が生成しにくくなり、組成物の酸性化に伴う劣化を抑制できる。
【0016】
酸化防止剤は、当該技術分野において使用される公知の酸化防止剤を広く使用することができ、特に限定はない。具体的には、ラジカルを捕捉して分解反応を抑制する効果があると推定されるフェノール類、アルキルカテコール類、ベンゾキノン類、フェノチアジン類、テルペン類、テルペノイド類、フタル酸塩類といった酸化防止剤を使用することができる。中でも、ジブチルヒドロキシトルエン(別名:ブチル化ヒドロキシトルエン。以下、単にBHTともいう。)、ヒドロキノンのようなフェノール類、又は、ミルセン、ピネン、リモネンといったテルペン類を使用することが好ましい。
【0017】
酸化防止剤の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、1質量ppm以上であり、10質量ppm以上とすることが好ましく、100質量ppm以上とすることがより好ましい。酸化防止剤がフルオロエチレンの質量を基準として1質量ppm以上とすることにより、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制することができる。
【0018】
また、酸化防止剤の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、20000質量ppm以下であり、10000質量ppm以下とすることが好ましく、2000質量ppm以下とすることがより好ましい。酸化防止剤がフルオロエチレンの質量を基準として20000質量ppm以下とすることにより、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けることができる。
【0019】
尚、本開示の組成物中のフルオロエチレン及び酸化防止剤の含有量は、フルオロエチレンの液相を一定量サンプリングし、そこに含まれる酸化防止剤の含有量をガスクロマトグラフやNMRなどの分析手法で測定することができる。酸化防止剤が固体のため前述した分析手法で測定できない場合、サンプリングした液相を蒸発させて残渣である酸化防止剤の重量を測定することで含有量の算出が可能である。
【0020】
本開示の組成物は、さらに酸素を含んでもよい。酸素の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、5000質量ppm以下とすることが好ましく、3000質量ppm以下とすることがより好ましく、1000質量ppm以下とすることがさらに好ましい。本開示の組成物に酸素の含有量を、フルオロエチレンの質量を基準として5000質量ppm以下とすることにより、フルオロエチレンの分解反応又は重合反応を抑制するとともに、組成物中のフッ化水素の生成を抑制することにより、組成物の劣化を抑えることができる。
【0021】
本開示の組成物中の酸素の含有量は、市販のガスクロマトグラフ又は酸素濃度計により
、気相の酸素の含有量を測定し、この測定値から液相中の酸素の含有量を換算することで酸素の含有量を定量できる。
【0022】
本開示の組成物は、さらに水を含んでもよい。
【0023】
また、本開示の組成物に含まれる水の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、100質量ppm以下とすることが好ましく、50質量ppm以下とすることがより好ましく、20質量ppm以下であることがさらに好ましい。水の含有量をフルオロエチレンの質量を基準として100質量ppm以下とすることにより副反応等による固形物の発生を抑制し、組成物の安定性を確保することができる。
【0024】
本開示の組成物中の水の含有量は、市販のカールフィッシャー水分測定装置により測定することができ、通常、検出限界は、0.1質量ppmである。
【0025】
本開示の組成物は、その効果又は目的を損なわない範囲内で、上記した以外の物質として、追加的化合物を含んでもよい。追加的化合物は、例えば、フッ化水素、1,1,1-トリフルオロエタン、プロピレン、アセチレン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、フルオロメタン、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-133b)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133)、1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123)、1-クロロ-1,2-ジフルオロエタン(HCFC-142a)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)、クロロジフルオロメタン(HCFC-22)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)及びエチレン等からなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0026】
本開示の組成物が前記追加的化合物を含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、フルオロエチレンの質量を基準として、前記追加的化合物が0.1質量ppm以上10000質量ppm以下含まれていることが好ましい。
【0027】
本開示の組成物を熱移送媒体として使用する場合、フルオロエチレン以外に冷媒の機能を有する成分をさらに含んでいても良い。かかる成分として、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、ジフルオロメタン(HFC-32)、ヨードトリフルオロメタン、二酸化炭素、プロパン、ブタン、及びイソブタンが挙げられる。本開示の組成物がこれらの成分を含む場合、冷媒の機能を有する成分の総量を100質量%として、その他の成分の含有量は、当該その他の成分の合計で3~97質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましい。
【0028】
本開示の組成物を熱移動媒体として使用する場合、さらに潤滑油を含有することができる。かかる潤滑油としては特に限定されず、例えば、冷媒等に使用される公知の潤滑油を
広く採用することができる。
【0029】
具体的な潤滑油としては、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル及びポリビニルエーテルからなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。ポリアルキレングリコール(PAG)としては、たとえば、日本サン石油株式会社製「SUNICEP56」等が挙げられる。また、ポリオールエステル(POE)としては、たとえばENEOS株式会社製「Ze-GLESRB32」等が挙げられる。ポリビニルエーテル(PVE)としては、たとえば出光興産株式会社製「ダフニーハーメチックオイル FVC-Dシリーズ」等が挙げられる。
【0030】
潤滑油は、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、極圧剤、酸捕捉剤、酸素捕捉剤、銅不活性化剤、防錆剤、油性剤及び消泡剤からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0031】
本開示の組成物は、上記以外にも、他の添加剤あるいは不可避的に含まれる元素又は化合物等の成分(以下、「その他成分」という)をさらに含むことができる。本開示の組成物がその他成分を含む場合、その他成分の含有量は、フルオロエチレンの質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。
【0032】
本開示の組成物を調製する方法は特に限定されない。例えば、フルオロエチレンと酸化防止剤とを所定の配合割合で混合させることにより、調製することができる。この混合において、適宜、前述の潤滑油及び/又は他の添加剤を配合することもできる。また、組成物に空気や酸素を吹き込むことにより、組成物中の酸素量を所望の範囲に調節することができる。
【0033】
フルオロエチレンの製造において、水及び酸素が当該フルオロエチレンに混在する場合、水及び酸素が混在したフルオロエチレンを、そのまま本開示の組成物として使用することもできる。この場合、さらに水を追加又は除去するなどして組成物中の水分量を調節することも可能である。水を除去するにあたっては公知の方法を広く採用でき、例えば、吸着剤を使用した乾燥方法を挙げることができる。
【0034】
本開示の組成物の製造において、前記その他成分が本開示の組成物に混在することがあるが、その他成分は事前に適宜の方法で除去してから組成物を調製してもよいし、その他成分を除去せずにそのまま組成物に使用することもできる。
【0035】
本開示の組成物は、各種用途に使用することができ、熱移動媒体、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、消火剤等に用いることができる。かかる熱移動媒体、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、消火剤等は、フッ化水素の生成が抑制されて劣化が少ないため、長期にわたって品質が維持される。
【0036】
(2.フルオロエチレンを含む組成物の安定化方法)
本開示は、フルオロエチレンを含む組成物の安定化方法に係る発明を包含する。
【0037】
本開示のフルオロエチレンを含む組成物の安定化方法は、フルオロエチレンを含む冷媒と、酸化防止剤とを共存させることにより組成物を得る工程を含む。ここで、前記組成物中の酸化防止剤の含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~20000質量ppmとする。また、前記冷媒と前記酸化防止剤との合計質量が、前記組成物全体のうち95質量%以上である。これらを共存させる方法としては特に限定はなく、例えばこれらを混合すればよい。前記フルオロエチレンと前記酸化防止剤とその他の冷媒の機能を有
する成分の合計質量が組成物全体に占める割合は、97質量%以上とすることが好ましく、99質量%以上とすることがより好ましい。冷媒と酸化防止剤との合計質量の上限値としては特に限定はなく、例えば組成物全体100質量%中に100質量%とすることが好ましく、99.9質量%とすることがより好ましい。
【0038】
フルオロエチレンは、上記したものと同様のものと使用すればよい。
【0039】
酸化防止剤の添加量は、フルオロエチレンの質量を基準として、1質量ppm以上であり、10質量ppm以上とすることが好ましく、100質量ppm以上とすることがより好ましい。酸化防止剤の量をフルオロエチレンの質量を基準として1質量ppm以上とすることにより、フルオロエチレンの分解及び酸の発生を抑制することができる。
【0040】
また、酸化防止剤の添加量は、フルオロエチレンの質量を基準として、20000質量ppm以下であり、10000質量ppm以下とすることが好ましく、2000質量ppm以下とすることがより好ましい。酸化防止剤がフルオロエチレンの質量を基準として20000質量ppm以下とすることにより、不必要な量の酸化防止剤の添加を避けることができる。
【0041】
酸化防止剤と、フルオロエチレンとを共存させる系内には、冷凍機油が実質的に含まれないことが好ましい。冷凍機油の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として30000質量ppm以下とすることが好ましく、5000質量ppm以下とすることがより好ましく、1000質量ppm以下とすることがさらに好ましく、全く含まない(0質量ppm)とすることが最も好ましい。冷凍機油の含有量を、フルオロエチレンの質量を基準として30000質量ppm以下とすることにより、系内でのフッ化水素の生成を抑え、フルオロエチレンの劣化を抑制することができる。
【0042】
酸化防止剤及び冷凍機油に関しても、上記したものと同様のものを使用することができる。
【0043】
酸化防止剤と冷媒(さらに、任意に冷凍機油)とを共存させる系内には、さらに酸素が含まれていてもよい。酸素の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、5000質量ppm以下とすることが好ましく、3000質量ppm以下とすることがより好ましく、1000質量ppm以下とすることがさらに好ましい。冷媒及び酸化防止剤が共存する系内における酸素の含有量がフルオロエチレンの質量を基準として5000質量ppm以下とすることにより、当該フルオロエチレンの分解反応及び重合反応を抑制するとともに、組成物中のフッ化水素の生成を抑制し、組成物の劣化を抑えることができる。
【0044】
酸化防止剤とフルオロエチレン(さらに、任意に冷凍機油)とを共存させる系内には、さらに水が含まれていてもよい。
【0045】
また、酸化防止剤とフルオロエチレン(さらに、任意に冷凍機油)とを共存させる系内に含まれる水の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以下であることがさらに好ましい。水の含有量を、フルオロエチレンの質量を基準として100質量ppm以下とすることにより副反応等による固形物の発生を抑制し、フルオロエチレンの安定性を確保することができる。
【0046】
酸化防止剤とフルオロエチレン(さらに、任意に冷凍機油)とを共存させる系は、本開示の安定化方法の効果又は目的を損なわない範囲内で、上記した以外の物質を含んでもよい。かかる物質としては、上記した本開示の組成物と同様のものを使用可能であり、同様
の含有量で含むことができる。
【0047】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示はこうした例に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0048】
以下、実施例に基づき、本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示がこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
片側を溶封済みのガラス製チューブ(ID8mmΦ × OD12mmΦ×L 300m
m)に、BHTを0.466μmol入れ、さらに1,2-ジフルオロエチレンの添加量が8.9mmolとなるように加えた。次いで1,2-ジフルオロエチレンに対し酸素100質量ppmを加えた。その後チューブを溶封により密閉状態とした。このチューブを175℃の雰囲気下の恒温槽内に静置させ、この状態で2週間保持した。その後、恒温槽からチューブを取り出し、液体窒素を用いて、チューブ内に滞留するガスを完全に凝固させた。その後、チューブを開封し、徐々に解凍してガスをテドラーバッグに回収した。このテドラーバッグに純水5gを注入し、回収ガスとよく接触させながら酸分を純水に抽出するようにした。抽出液をイオンクロマトグラフィーにて検出して、フッ化物イオン(F-)の含有量(質量ppm)を測定して得られたフッ化物イオンの量を生成したフッ化水素の量とした。その結果、フッ化水素の生成量は1ppm以下であった。
【0050】
(比較例1)
BHTを入れなかった他は実施例1と同様にして評価をおこなった。試験後、チューブ内のガスの分析を行ったところ、フッ化水素の生成量は67ppmであった。
【0051】
(比較例2)
片側を溶封済みのガラス製チューブ(ID8mmΦ × OD12mmΦ×L 300m
m)に、BHTを約2質量%含むポリオールエステル系冷凍機油を1.2g入れた。さらに1,2-ジフルオロエチレンの添加量が8.9mmolとなるように加えた。次いで1,2-ジフルオロエチレンに対し酸素100質量ppmを加えた。ここにはBHTが109μmol存在しており、1,2-ジフルオロエチレンに対する冷凍機油は210質量%存在していることになる。その後チューブを溶封により密閉状態とした。このチューブを175℃の雰囲気下の恒温槽内に静置させ、この状態で2週間保持した。その後、恒温槽からチューブを取り出して実施例1と同様の手法にてガスの分析を行ったところ、BHTが過剰に存在するにもかかわらず、フッ化水素の生成量は11ppmであった。