(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184695
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ヒト化T細胞補助受容体を発現するマウス
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231221BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20231221BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231221BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231221BHJP
A01K 67/027 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/705
C12N5/0783
C12N5/10
A01K67/027
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191033
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2022094953の分割
【原出願日】2014-02-20
(31)【優先権主張番号】61/766,762
(32)【優先日】2013-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/890,915
(32)【優先日】2013-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】リン マクドナルド
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェイ. マーフィー
(72)【発明者】
【氏名】ナクシン ツー
(72)【発明者】
【氏名】ベラ ボロニナ
(72)【発明者】
【氏名】ケイガン ギュラー
(57)【要約】
【課題】ヒト化T細胞補助受容体を発現するマウスを提供すること。
【解決手段】本発明は、キメラヒト/非ヒトT細胞補助受容体ポリペプチド(例えば、CD4、CD8α、CD8β)を発現する遺伝子改変非ヒト動物、ならびに当該ポリペプチドを含む胚、細胞、および組織を提供する。前記遺伝子改変動物を作出するための構築物およびそれを作出する方法も提供される。種々の実施形態では、本明細書では、キメラヒト/非ヒトT細胞補助受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
げっ歯類CD8αポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに作動可能に連結されている配列番号59に記載のアミノ酸配列を含む、キメラヒト/げっ歯類CD8αポリペプチド。
【請求項2】
前記げっ歯類がラットである、請求項1に記載のキメラヒト/げっ歯類CD8αポリペプチド。
【請求項3】
前記げっ歯類がマウスである、請求項1に記載のキメラヒト/げっ歯類CD8αポリペプチド。
【請求項4】
げっ歯類CD8βポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインに作動可能に連結されている配列番号58に記載のアミノ酸配列を含む、キメラヒト/げっ歯類CD8βポリペプチド。
【請求項5】
前記げっ歯類がラットである、請求項4に記載のキメラヒト/げっ歯類CD8βポリペプチド。
【請求項6】
前記げっ歯類がマウスである、請求項4に記載のキメラヒト/げっ歯類CD8βポリペプチド。
【請求項7】
キメラヒト/マウス核酸分子であって、5’から3’までに、
(i)機能的なキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、配列番号58に記載のアミノ酸配列を含み、5’から3’までに、
(a)マウスCD8β遺伝子のエクソン1を含むヌクレオチド配列、
(b)ヒトCD8β遺伝子のエクソン2及びヒトCD8β遺伝子のエクソン3を含むヌクレオチド配列、及び
(c)前記マウスCD8β遺伝子のエクソン4、前記マウスCD8β遺伝子のエクソン5、及び前記マウスCD8β遺伝子のエクソン6を含むヌクレオチド配列
を作動可能に連結的に含む、前記機能的なキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、並びに/又は
(ii)機能的なキメラヒト/マウスCD8αポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、配列番号59に記載のアミノ酸配列を含み、5’から3’までに、
(a)マウスCD8αシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(b)ヒトCD8α Ig V様ドメインをコードするヌクレオチド配列、及び
(c)前記マウスCD8α遺伝子のエクソン3、前記マウスCD8α遺伝子のエクソン4、及び前記マウスCD8α遺伝子のエクソン5を含むヌクレオチド配列
を作動可能に連結的に含む、前記機能的なキメラヒト/マウスCD8αポリペプチドをコードするヌクレオチド配列
を含む、キメラヒト/マウス核酸分子。
【請求項8】
(i)前記機能的なキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドが、配列番号53に記載の配列を含み、及び/又は、
(ii)前記機能的なキメラヒト/マウスCD8αポリペプチドが、配列番号54に記載の配列を含む、
請求項7に記載のキメラヒト/マウス核酸分子。
【請求項9】
(i)前記機能的なキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、マウスCD8βプロモーター配列に作動可能に連結されており、及び/又は
(ii)前記機能的なキメラヒト/マウスCD8αポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が、マウスCD8αプロモーター配列に作動可能に連結されている、
請求項7又は8に記載のキメラヒト/マウス核酸分子。
【請求項10】
HLAクラスI制限免疫応答を生じるために、請求項7~9のいずれか一項に記載のキメラヒト/マウス核酸分子を含むマウスT細胞の使用であって、
前記T細胞が、前記機能的なキメラヒト/マウスCD8βポリペプチド、及び/又は前記機能的なキメラヒト/マウスCD8αポリペプチドを発現する、使用。
【請求項11】
(i)前記機能的なキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドが、配列番号53に記載の配列を含み、及び/又は、
(ii)前記機能的なキメラヒト/マウスCD8αポリペプチドが、配列番号54に記載の配列を含む、
請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2013年10月15日に出願された米国仮特許出願第61/890,915号および2013年2月20日に出願された米国仮特許出願第61/766,762号に対する利益を、35 U.S.C. §119(e)の下に主張し、これらの出願はその全体が参考として本明細書に援用される。
【0002】
配列表
本明細書では、2014年2月20日に「2010794-0441_ST25」という名称のascii.txtファイルとして電子形式で提出された配列表に言及する。この.txtファイルは2014年2月13日に作成されたものであり、サイズは47kbである。
【0003】
発明の分野
本発明は、ヒト化T細胞補助受容体を発現するように遺伝子操作された非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)に関する。本発明は、ヒト化CD4またはCD8補助受容体を発現するように遺伝子操作された非ヒト動物、ならびに当該補助受容体を発現する胚、組織、および細胞に関する。本発明は、さらに、ヒト化CD4補助受容体およびヒト化主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)IIを同時発現するように工学的に操作された非ヒト動物に関する。本発明は、さらに、ヒト化CD8補助受容体およびヒト化MHC Iを同時発現するように工学的に操作された非ヒト動物に関する。ヒト化T細胞補助受容体(例えば、ヒト化CD4またはCD8)を発現する遺伝子操作された動物を作出するための方法も提供される。ヒト治療薬を開発するためにヒト化T細胞補助受容体を発現する遺伝子操作された動物を使用するための方法も提供される。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
適応免疫応答では、外来抗原がBリンパ球上の受容体分子(例えば、免疫グロブリン)およびTリンパ球上の受容体分子(例えばT細胞受容体すなわちTCR)によって認識される。これらの外来抗原は、一般的に主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子と称される特殊化されたタンパク質によって、細胞の表面上にペプチド断片として提示される。T細胞媒介性応答の間、MHC分子により提示される抗原はT細胞受容体によって認識される。しかし、有効な免疫応答のためには、MHC-抗原複合体のT細胞受容体認識を超えるものが必要である。T細胞補助受容体分子(例えば、CD4またはCD8)がMHCの不変部分に結合することも必要である。
【0005】
T細胞にはヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞を含めたいくつかの種類がある。ヘルパーT細胞は補助受容体CD4を発現し、そしてMHC II分子に結合した抗原を認識する。CD4+T細胞は、免疫系における他のエフェクター細胞を活性化する、例えば、MHC II発現B細胞を活性化して抗体を産生させる、MHC II発現マクロファージを活性化して病原体を破壊するなどである。CD4およびT細胞受容体の同じMHC
IIに提示された外来抗原への結合により、その抗原に対するT細胞の感受性が著しく高くなる。
【0006】
対照的に、細胞傷害性T細胞(CTL)は、補助受容体CD8を発現し、MHC I分子に結合した外来抗原を認識する。CTLは、それ自体の膜に結合したTCRによって認識されるMHC I結合ペプチドを担持するいかなる細胞をも死滅させるように特殊化されている。細胞により通常は存在しない細胞タンパク質に由来するペプチド(例えば、ウイルス、腫瘍、または他の非自己起源のもの)がディスプレイされる場合、そのようなペプチドはCTLによって認識され、それによりCTLが活性化し、そのペプチドをディスプレイしている細胞を死滅させる。CD4と同様に、CD8の会合により、MHC Iに提示された抗原に対するCTLの感受性がより高くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
寛容機構に起因して、全ての抗原によりT細胞活性化が惹起されるとは限らない。しかし、いくつかの疾患(例えば、がん、自己免疫疾患)では、自己タンパク質に由来するペプチドは免疫系の細胞構成成分の標的になり、それにより、そのようなペプチドを提示している細胞の破壊がもたらされる。臨床的に重要な抗原(例えば、種々の型のがんに関連する抗原)の認識に関しては著しく前進している。しかし、ヒトT細胞における適切な応答を惹起するペプチドの同定および選択を改善するためには、特に臨床的に重要な抗原のペプチドに関しては、依然として、ヒト免疫系の態様を模倣するin vivo系およびin vitro系が必要である。したがって、ヒト免疫系の構成成分をディスプレイすることができる生物系(例えば、遺伝子改変非ヒト動物および細胞)が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
細胞性免疫応答において機能するヒトまたはヒト化分子を発現する非ヒト細胞を含む非ヒト動物が提供される。ヒトまたはヒト化T細胞補助受容体(例えば、CD4および/またはCD8)タンパク質をコードするヒト化げっ歯類遺伝子座も提供される。ヒトまたはヒト化T細胞補助受容体(例えば、CD4および/またはCD8)タンパク質を発現するヒト化げっ歯類細胞も提供される。1種または複数種のヒトまたはヒト化免疫系分子を発現するヒト化げっ歯類細胞を含むin vivo系およびin vitro系が提供される。
【0009】
本明細書では、ゲノム内にヒトまたはヒト化T細胞補助受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物が提供される。種々の実施形態では、本明細書では、キメラヒト/非ヒトT細胞補助受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物が提供される。一実施形態では、ヌクレオチド配列は内在性T細胞補助受容体遺伝子座に存在する。一実施形態では、キメラT細胞補助受容体ポリペプチドのヒト部分は、ヒトT細胞補助受容体の細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含み、非ヒト動物は機能的なキメラT細胞補助受容体ポリペプチドを発現する。一実施形態では、キメラT細胞補助受容体ポリペプチドの非ヒト部分は、非ヒトT細胞補助受容体の少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含み、非ヒト動物は機能的なキメラT細胞補助受容体ポリペプチドを発現する。本発明の一態様では、キメラT細胞補助受容体ポリペプチドは非ヒト動物のT細胞上にのみ発現し、例えば、非ヒト動物のB細胞上で発現されない。一態様では、動物は、その内在性非ヒトT細胞補助受容体遺伝子座に由来する機能的な非ヒトT細胞補助受容体を発現しない。本発明の一態様では、キメラT細胞補助受容体ポリペプチドは、非ヒト動物の生殖細胞系列に含まれる。一態様では、動物は、内在性T細胞補助受容体遺伝子座にキメラT細胞補助受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の1つまたは2つのコピーを含み、したがって、動物は、キメラT細胞補助受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列についてヘテロ接合性であってもホモ接合性であってもよい。
【0010】
一実施形態では、T細胞補助受容体はCD4である。したがって、一態様では、本発明は、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物を提供する。一実施形態では、ヌクレオチド配列は内在性CD4遺伝子座に存在する。一実施形態では、動物は、げっ歯類、例えばマウスまたはラットである。したがって、一実施形態では、内在性CD4遺伝子座にキメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、当該キメラCD4ポリペプチドのヒト部分がヒトCD4ポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含み、当該キメラCD4ポリペプチドのマウス部分がマウスCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子改変マウスであって、機能的なキメラヒト/マウスCD4を発現するマウスが提供される。一実施形態では、本明細書では、内在性CD4遺伝子座にキメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、当該キメラポリペプチドのヒト部分がヒトCD4ポリペプチドのドメインD1~D3の全てまたは実質的に全てを少なくとも含み、当該キメラポリペプチドのマウス部分がマウスCD4の少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子改変マウスであって、機能的なキメラヒト/マウスCD4を発現するマウスが提供される。一態様では、マウスは、その内在性マウスCD4遺伝子座に由来する機能的な内在性マウスCD4を発現しない。一実施形態では、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、内在性マウスプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している。したがって、一実施形態では、マウスは、B細胞またはCD8系列のT細胞上でキメラCD4タンパク質を発現しない。一実施形態では、キメラCD4タンパク質のヒト部分は、配列番号57に記載のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドは配列番号4に記載されている。
【0011】
一態様では、本明細書に記載のキメラCD4ポリペプチドを含む遺伝子改変非ヒト動物、例えば遺伝子改変マウスは、ヒトまたはヒト化MHC IIタンパク質をさらに含み、MHC IIタンパク質は、ヒトMHC IIαポリペプチドの細胞外ドメインおよびヒトMHC IIβポリペプチドの細胞外ドメインを含む。一態様では、動物は、ヒト化MHC IIタンパク質を含む。一実施形態では、動物はマウスであり、マウスは、内在性MHC II遺伝子座に、(1)キメラヒト/マウスMHC IIαポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、このMHC IIαポリペプチドのヒト部分が、ヒトMHC IIαの細胞外ドメインならびに内在性マウスMHC IIαポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むヌクレオチド配列、および(2)キメラヒト/マウスMHC IIβポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であって、このMHC
IIβポリペプチドのヒト部分が、ヒトMHC IIβの細胞外ドメインならびに内在性マウスMHC IIβポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むヌクレオチド配列を含む。キメラヒト/非ヒトMHC II、例えばヒト/マウスMHC IIをコードするヌクレオチド配列(複数可)を含む遺伝子改変非ヒト動物、例えばマウスは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第13/661,116号および同第13/793,935号においてより詳細に記載されている。一実施形態では、ヒト化CD4および/またはMHC IIタンパク質を発現する動物は、それぞれCD4遺伝子座および/またはMHC II遺伝子座における内在性非ヒト、例えばマウスCD4遺伝子および/またはMHC II遺伝子の一部を置き換えることによって作製される。
【0012】
したがって、非ヒト動物、例えば、げっ歯類、例えばマウスのCD4遺伝子座を、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドを発現するように改変する方法であって、内在性CD4遺伝子座において、内在性非ヒト、例えばマウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をキメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で置き換えるステップを含む方法も提供される。一実施形態では、キメラヒト/非ヒト、例えば、ヒト/げっ歯類、例えば、ヒト/マウスCD4ポリペプチドは、ヒトCD4ポリペプチドのドメインD1~D3の全てまたは実質的に全てを少なくとも含み、内在性非ヒト、例えば、げっ歯類、例えばマウスCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。一実施形態では、発現するキメラヒト/マウスCD4は配列番号4に記載されている。
【0013】
別の実施形態では、T細胞補助受容体はCD8である。したがって、一態様では、本発明は、キメラヒト/非ヒトCD8ポリペプチド、例えばキメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(複数可)を含む遺伝子改変非ヒト動物を提供する。一実施形態では、ヌクレオチド配列は内在性CD8遺伝子座に存在する。一実施形態では、動物は、げっ歯類、例えばマウスまたはラットである。したがって、一実施形態では、内在性CD8遺伝子座(例えば、内在性CD8αおよび/またはCD8β遺伝子座)に、キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列およびキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列を含み、この第1のヌクレオチド配列が、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびにマウスCD8αポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含み、この第2のヌクレオチド配列が、ヒトCD8βポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびにマウスCD8βポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含む、遺伝子改変マウスであって、機能的なキメラヒト/マウスCD8タンパク質を発現するマウスが提供される。一態様では、マウスは、その内在性マウスCD8遺伝子座に由来する機能的な内在性マウスCD8ポリペプチドを発現しない。一実施形態では、第1のヌクレオチド配列は内在性マウスCD8αプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結しており、第2のヌクレオチド配列は内在性マウスCD8βプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している。したがって、一実施形態では、マウスは、B細胞またはCD4系列のT細胞上でキメラCD8タンパク質を発現しない。一実施形態では、キメラCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドの免疫グロブリンV様ドメインを含む。一実施形態では、キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドのヒト部分は、配列番号59に記載のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、キメラヒト/マウスCD8βポリペプチドのヒト部分は、配列番号58に記載のアミノ酸配列を含む。一実施形態では、キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドは配列番号54に記載されており、キメラヒト/マウスCD8βポリペプチドは配列番号53に記載されている。
【0014】
一態様では、本明細書に記載のキメラCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドを含む遺伝子改変非ヒト動物、例えば遺伝子改変マウスは、ヒトまたはヒト化MHC Iタンパク質をさらに含み、このMHC Iタンパク質は、ヒトMHC Iポリペプチドの細胞外ドメインを含む。一態様では、動物は、ヒト化MHC I複合体を含む。したがって、動物は、ヒト化MHC Iタンパク質およびヒトまたはヒト化β2ミクログロブリンポリペプチドを含み得る。一実施形態では、動物はマウスであり、このマウスは、内在性MHC I遺伝子座にキメラヒト/マウスMHC Iポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、MHC Iポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC Iポリペプチドの細胞外ドメインならびに内在性マウスMHC Iポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含み、動物はまた、内在性β2ミクログロブリン遺伝子座に、ヒトまたはヒト化β2ミクログロブリンをコードするヌクレオチド配列も含む。キメラヒト/非ヒト、例えば、ヒト/マウスMHC Iおよびβ2ミクログロブリンをコードするヌクレオチド配列(複数可)を含む遺伝子改変非ヒト動物、例えばマウスは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第13/661,159号および同第13/793,812号においてより詳細に記載されている。一実施形態では、ヒト化CD8、MHC I、および/またはβ2ミクログロブリンタンパク質(複数可)を発現する動物は、それぞれCD8遺伝子座、MHC I遺伝子座および/またはβ2ミクログロブリン遺伝子座における内在性非ヒト、例えばマウスCD8遺伝子、MHC I遺伝子、および/またはβ2ミクログロブリン遺伝子の一部を置き換えることによって作製される。
【0015】
したがって、非ヒト動物、例えば、げっ歯類、例えばマウスのCD8遺伝子座を、キメラヒト/マウスCD8ポリペプチドを発現するように改変する方法であって、内在性CD8遺伝子座において、内在性非ヒト、例えばマウスCD8ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をキメラヒト/マウスCD8ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で置き換えるステップを含む方法も提供される。一態様では、CD8ポリペプチドは、CD8α、CD8β、およびこれらの組合せからなる群から選択される。一実施形態では、キメラヒト/非ヒト、例えば、ヒト/げっ歯類、例えば、ヒト/マウスCD8ポリペプチド(CD8αおよび/またはCD8β)は、ヒトCD8ポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびに内在性非ヒト、例えば、げっ歯類、例えばマウスCD8ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。
【0016】
本明細書では、本明細書に記載の非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)に由来する細胞、例えばT細胞も提供される。本明細書に記載の非ヒト動物に由来する組織および胚も提供される。
【0017】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
キメラヒト/非ヒトT細胞補助受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、
該キメラポリペプチドの非ヒト部分が、非ヒトT細胞補助受容体の少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子改変非ヒト動物であって、
キメラT細胞補助受容体ポリペプチドを発現する非ヒト動物。
(項目2)
前記ヌクレオチド配列が内在性T細胞補助受容体遺伝子座に存在する、項目1に記載の動物。
(項目3)
内在性遺伝子座に由来する機能的な内在性非ヒトT細胞補助受容体を発現しない、項目1に記載の動物。
(項目4)
前記キメラT細胞補助受容体ポリペプチドが前記非ヒト動物のB細胞上で発現されない、項目1に記載の動物。
(項目5)
前記T細胞補助受容体遺伝子座がCD4遺伝子座であり、前記T細胞補助受容体ポリペプチドがCD4である、項目1に記載の動物。
(項目6)
前記キメラCD4ポリペプチドがB細胞またはCD8系列のT細胞上で発現されない、項目5に記載の動物。
(項目7)
前記キメラT細胞補助受容体遺伝子座がCD8遺伝子座であり、前記T細胞補助受容体ポリペプチドがCD8α、CD8β、またはこれらの組合せから選択されるCD8ポリペプチドである、項目1に記載の動物。
(項目8)
CD8αポリペプチドおよびCD8βポリペプチドを含むキメラヒト/非ヒトCD8タンパク質を発現する、項目7に記載の動物。
(項目9)
前記キメラCD8タンパク質がB細胞またはCD4系列のT細胞上で発現されない、項目8に記載の動物。
(項目10)
げっ歯類である、項目1に記載の動物。
(項目11)
マウスである、項目10に記載の動物。
(項目12)
キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、
前記キメラポリペプチドのヒト部分が、
図1に記載されているヒトCD4ポリペプチドのドメインを少なくとも含み、
前記キメラポリペプチドのマウス部分が、マウスCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子改変マウスであって、
キメラヒト/マウスCD4を発現するマウス。
(項目13)
前記ヒト部分が、前記ヒトCD4ポリペプチドの細胞外ドメインを含む、項目12に記載のマウス。
(項目14)
前記ヌクレオチド配列が内在性CD4遺伝子座に存在する、項目12に記載のマウス。(項目15)
内在性マウスCD4遺伝子座に由来する機能的な内在性マウスCD4を発現しない、項目12に記載のマウス。
(項目16)
前記ヌクレオチド配列がマウスプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している、項目12に記載のマウス。
(項目17)
前記キメラCD4タンパク質がB細胞またはCD8系列のT細胞上で発現されない、項目12に記載のマウス。
(項目18)
ヒトまたはヒト化MHC IIタンパク質をさらに含み、該MHC IIタンパク質が、ヒトMHC IIαポリペプチドの細胞外ドメインおよびヒトMHC IIβポリペプチドの細胞外ドメインを含む、項目12に記載のマウス。
(項目19)
前記ヌクレオチド配列が前記マウスの生殖細胞系列に含まれる、項目12に記載のマウス。
(項目20)
マウスのCD4遺伝子座を、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドを発現するように改変する方法であって、マウスの内在性CD4遺伝子座において、内在性マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をキメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で置き換えるステップを含む方法。
(項目21)
前記キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドのヒト部分が、
図1に記載されているヒトCD4ポリペプチドのドメインを少なくとも含み、内在性マウスCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記ヒト部分が、前記ヒトCD4ポリペプチドの細胞外ドメインを含む、項目20に記載の方法。
(項目23)
キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列およびキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列を含み、該第1のヌクレオチド配列が、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインならびにマウスCD8αポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含み、
該第2のヌクレオチド配列が、ヒトCD8βポリペプチドの細胞外ドメインならびにマウスCD8βポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含む、遺伝子改変マウスであって、
キメラヒト/マウスCD8タンパク質を発現するマウス。
(項目24)
前記第1のヌクレオチド配列および前記第2のヌクレオチド配列が、それぞれ内在性CD8α遺伝子座および内在性CD8β遺伝子座に存在する、項目23に記載のマウス。
(項目25)
内在性CD8遺伝子座に由来する機能的な内在性CD8タンパク質を発現しない、項目23に記載のマウス。
(項目26)
前記キメラヒト/マウスCD8タンパク質がB細胞またはCD4系列のT細胞上で発現されない、項目23に記載のマウス。
(項目27)
前記第1のヌクレオチド配列がマウスCD8αプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結しており、前記第2のヌクレオチド配列がマウスCD8βプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している、項目23に記載のマウス。
(項目28)
ヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドをさらに含み、該MHC IポリペプチドがヒトMHC Iポリペプチドの細胞外ドメインを含む、項目23に記載のマウス。
(項目29)
ヒトまたはヒト化β2ミクログロブリンポリペプチドをさらに含む、項目28に記載のマウス。
(項目30)
前記第1のヌクレオチド配列および前記第2のヌクレオチド配列が前記マウスの生殖細胞系列に含まれる、項目23に記載のマウス。
(項目31)
マウスのCD8遺伝子座を、キメラヒト/マウスCD8ポリペプチドを発現するように改変する方法であって、マウスの内在性CD8遺伝子座において、内在性マウスCD8ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をキメラヒト/マウスCD8ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で置き換えるステップを含む方法。
(項目32)
前記CD8ポリペプチドがCD8α、CD8β、またはこれらの組合せから選択される、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記キメラヒト/マウスCD8ポリペプチドが、ヒトCD8ポリペプチドの細胞外ドメインならびに内在性マウスCD8ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、項目31に記載の方法。
(項目34)
キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、
該キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドが、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインならびにマウスCD8αポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子操作されたマウスであって、
キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドを発現するマウス。
(項目35)
前記ヌクレオチド配列が内在性マウスCD8遺伝子座に存在する、項目34に記載のマウス。
(項目36)
内在性CD8遺伝子座に由来する機能的な内在性CD8αポリペプチドを発現しない、項目34に記載のマウス。
(項目37)
前記ヌクレオチド配列がマウスCD8αプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している、項目34に記載のマウス。
(項目38)
キメラヒト/マウスCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、
該キメラヒト/マウスCD8βポリペプチドが、ヒトCD8βポリペプチドの細胞外ドメインならびにマウスCD8βポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子操作されたマウスであって、
キメラヒト/マウスCD8βポリペプチドを発現するマウス。
(項目39)
前記ヌクレオチド配列が内在性マウスCD8遺伝子座に存在する、項目38に記載のマウス。
(項目40)
内在性CD8遺伝子座に由来する機能的な内在性CD8βポリペプチドを発現しない、項目38に記載のマウス。
(項目41)
前記ヌクレオチド配列がマウスCD8βプロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している、項目38に記載のマウス。
そうではないと指定があるまたは文脈から明らかである場合を除き、本明細書に記載されている実施形態および態様はいずれも、互いと併せて使用することができる。以下の詳細な説明の検討から他の実施形態が当業者に明らかになるであろう。以下の詳細な説明は、本発明の種々の実施形態の例示的な表示を含み、これは特許請求された本発明を限定するものではない。添付図は本明細書の一部を構成し、その説明と共に、単に実施形態を例示するものとして機能し、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、ヒト化CD4遺伝子座を作製するための方法の図示(縮尺不定)である。シグナルペプチドのすぐ後ろから始まるマウスエクソン3~6の配列を、まずシグナルペプチドの下流のヒトエクソン3の配列で置き換え(上)、その後、制限消化/ライゲーションによってヒトエクソン4~6をヒトエクソン3の下流に挿入した。
【0019】
【
図2】
図2は、WTマウスまたはヒトCD4についてヘテロ接合性であるマウス(1766HET)に由来する脾細胞の抗ヒトCD4抗体および抗マウスCD4抗体を用いたFACS分析(A);およびWTマウスに由来するT細胞と、1766HETマウスに由来するT細胞と、JurkatヒトCD4T細胞のFACS分析を示すグラフである。
【0020】
【
図3】
図3は、マウスCD8βエクソン2~3をヒトCD8βエクソン2~3で置き換えることによってヒト化CD8b遺伝子座(MAID1737)を作製するための方法の図示(縮尺不定)である。マウスエクソン配列が黒塗りの四角で表されており、ヒトエクソン配列が斜線の入った四角で表されている。
【0021】
【
図4】
図4は、マウスエクソン1およびエクソン2の一部を、エクソン1の開始点にあるマウスリーダー配列は保持しながらヒトエクソン2~3で置き換えることによってヒト化CD8a遺伝子座(MAID1738)を作製するための方法の図示(縮尺不定)である。マウスエクソン配列が黒塗りの四角で表されており、ヒトエクソン配列が斜線の入った四角で表されている。
【0022】
【
図5】
図5は、ヒト化CD8bおよびCD8a遺伝子をコードする配列を含むヒト化遺伝子座を作製するための逐次的なターゲティング方法の図示(縮尺不定)である。マウスエクソン配列が黒塗りの四角で表されており、ヒトエクソン配列が斜線の入った四角で表されている。
【0023】
【
図6】
図6は、WTマウス、または、選択カセットを除去した、ヒトCD8bおよびCD8aの両方についてヘテロ接合性であるマウス(1739Het、1740Het)のいずれか由来の脾細胞のマウスCD8b抗体、マウスCD8a抗体、ヒトCD8b抗体、またはヒトCD8a抗体のいずれかを用いたFACS分析を示す図である。
【0024】
【
図7】
図7は、WTマウスまたは1739HET/1740HET(CD8bおよびCD8aの両方についてヘテロ接合性であるマウス)マウスのいずれかから得た胸腺細胞のマウスCD8b、マウスCD8a、ヒトCD8b、ヒトCD8a、またはCD4のいずれかを用いたFACS分析を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本発明は、ヒト化T細胞補助受容体ポリペプチドを発現する遺伝子改変非ヒト動物(例えばマウス、ラット、ウサギなど);当該ポリペプチドを含む胚、細胞、および組織;それらを作出する方法;ならびにそれらの使用方法を提供する。別段の定義のない限り、本明細書で使用される全ての用語および句は、それに反することが明示されているまたはその用語もしくは句が使用される文脈から明らかである場合を除き、その用語および句が当技術分野において得ている意味を包含する。
【0026】
「保存的」という用語は、保存的アミノ酸置換について記載するために使用される場合、アミノ酸残基の、化学的性質(例えば、電荷または疎水性)が類似した側鎖R基を有する別のアミノ酸残基での置換を含む。保存的アミノ酸置換は、保存的置換をコードするヌクレオチドの変化が導入されるようにヌクレオチド配列を改変することによって実現することができる。一般に、保存的アミノ酸置換により、タンパク質の目的の機能的性質、例えば、CD4またはCD8の、それぞれMHC IIまたはMHC Iに結合する能力は実質的に変化せず、また、MHCに提示された抗原に対するTCRの感度が増大する。化学的性質が類似した側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、脂肪族側鎖、例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンなど;脂肪族ヒドロキシル側鎖、例えばセリンおよびトレオニンなど;アミドを含有する側鎖、例えばアスパラギンおよびグルタミンなど;芳香族側鎖、例えばフェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンなど;塩基性側鎖、例えばリシン、アルギニン、およびヒスチジンなど;酸性側鎖、例えばアスパラギン酸およびグルタミン酸など、ならびに、硫黄を含有する側鎖、例えばシステインおよびメチオニンなどが挙げられる。保存的アミノ酸置換群としては、例えば、バリン/ロイシン/イソロイシン、フェニルアラニン/チロシン、リシン/アルギニン、アラニン/バリン、グルタミン酸/アスパラギン酸、およびアスパラギン/グルタミンが挙げられる。一部の実施形態では、保存的アミノ酸置換は、例えばアラニンスキャニング変異誘発で使用されるように、タンパク質内の任意のネイティブな残基のアラニンでの置換であってよい。一部の実施形態では、保存的置換は、参照により本明細書に組み込まれるGonnetら((1992年)Exhaustive Matching of the Entire Protein Sequence Database、Science 256巻:1443~45頁)に開示されているPAM250対数尤度行列において正の値を有するように成される。一部の実施形態では、置換は、置換がPAM250対数尤度行列において負ではない値を有する、中程度に保存的な置換である。
【0027】
したがって、ヒト化T細胞補助受容体ポリペプチド(例えば、CD4またはCD8ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列をゲノム内に含み(例えば、内在性遺伝子座において)、当該ポリペプチドが本明細書に記載のアミノ酸配列(複数可)の保存的アミノ酸置換を含む遺伝子改変非ヒト動物も本発明に包含される。
【0028】
本明細書に記載のヒト化T細胞補助受容体ポリペプチドをコードする核酸残基に加えて、遺伝暗号の縮重に起因して他の核酸が本発明のポリペプチドをコードし得ることが当業者には理解されよう。したがって、保存的アミノ酸置換を伴うT細胞補助受容体ポリペプチド(例えば、CD4またはCD8ポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列をゲノム内に含む遺伝子改変非ヒト動物に加えて、遺伝暗号の縮重に起因して本明細書に記載のものとは異なるヌクレオチド配列をゲノム内に含む非ヒト動物も提供される。
【0029】
「同一性」という用語は、配列に関連して使用される場合、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列同一性を測定するために使用することができる当技術分野で公知のいくつかの異なるアルゴリズムによって決定される同一性を包含する。本明細書に記載の一部の実施形態では、オープンギャップペナルティ(open gap penalty)10.0、伸長ギャップペナルティ(extend gap penalty)0.1を使用し、Gonnet類似度マトリックス(MacVector(商標)10.0.2、MacVector Inc.、2008年)を使用したClustalW v.1.83(slow)アラインメントを使用して同一性を決定する。配列の同一性に関して比較される配列の長さは特定の配列に左右される。種々の実施形態では、同一性は、成熟タンパク質のN末端からC末端までの配列を比較することによって決定する。種々の実施形態では、キメラヒト/非ヒト配列とヒト配列を比較する場合、ヒト配列とキメラヒト/非ヒト配列のヒト部分との間の同一性のレベルを確認するために、キメラヒト/非ヒト配列のヒト部分を比較に使用する(非ヒト部分は使用しない)(例えばキメラヒト/マウスタンパク質のヒト外部ドメインとヒトタンパク質のヒト外部ドメインとを比較する)。
【0030】
「相同性」または「相同な」という用語は、配列、例えばヌクレオチド配列またはアミノ酸配列に関しては、最適にアラインメントおよび比較すると、例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸の少なくとも約75%、例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸の少なくとも約80%、例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸の少なくとも約90~95%、例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸の97%超が同一である2つの配列を意味する。最適な遺伝子ターゲティングのためには、ターゲティング構築物は内在性DNA配列と相同なアーム(すなわち、「相同性アーム」)を含有すべきであり、それにより、ターゲティング構築物と標的とされる内在性配列との間で相同組換えが起こり得ることが当業者には理解されよう。
【0031】
「作動可能に連結した」という用語は、そのように記載されている構成成分が、それらの意図された様式で機能することを可能にする関係にある、近位を指す。そのように、適切な転写調節が保持されるように、タンパク質をコードする核酸配列を調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列など)に作動可能に連結することができる。さらに、細胞内のタンパク質の適切なフォールディング、プロセシング、ターゲティング、発現、および他の機能的性質を保持するために、本発明のキメラタンパク質またはヒト化タンパク質の種々の部分を作動可能に連結することができる。別段の指定のない限り、本発明のキメラタンパク質またはヒト化タンパク質の種々のドメインは、互いに作動可能に連結している。
【0032】
「置き換え」という用語は、遺伝子の置き換えに関しては、内在性遺伝子座に外因性遺伝物質を配置し、それにより内在性遺伝子の全部または一部をオルソロガスなまたは相同な核酸配列で置き換えることを指す。下記の実施例において実証されている通り、マウスCD4またはCD8(CD8αおよび/またはCD8β)ポリペプチドの一部をコードする内在性遺伝子座の核酸配列を、それぞれヒトCD4またはCD8(CD8αおよび/またはCD8β)ポリペプチドの一部をコードするヌクレオチド配列で置き換えた。
【0033】
「機能的」とは、本明細書で使用される場合、例えば、機能的なポリペプチドに関しては、ネイティブなタンパク質に通常付随する少なくとも1つの生物活性を保持するポリペプチドを指す。例えば、本発明の一部の実施形態では、内在性遺伝子座における置き換え(例えば、内在性非ヒトCD4またはCD8遺伝子座における置き換え)により、機能的な内在性ポリペプチドを発現することができない遺伝子座がもたらされる。
【0034】
遺伝子改変CD4非ヒト動物、例えば、動物の種類;動物の系統;細胞型;スクリーニング、検出および他の方法;使用方法などに関する下記のいくつかの態様は、遺伝子操作されたCD8動物に適用可能である。
遺伝子改変CD4動物
【0035】
種々の実施形態では、本発明は、一般に、ゲノム内、例えば、内在性CD4遺伝子座にヒト化CD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、したがって、ヒト化CD4ポリペプチドを発現する遺伝子改変非ヒト動物を提供する。
【0036】
ヒトCD4遺伝子は第12染色体に局在しており、10エクソンを含有すると考えられている。CD4遺伝子は、遺伝子のエクソン2およびエクソン3によりコードされるアミノ末端疎水性シグナル配列を有するタンパク質をコードする。当該タンパク質は、一般にD1~D4ドメインと称される4つの免疫グロブリン様ドメインを含む。Maddonら(1987年)Structure and expression of the human and mouse T4 genes、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84巻:9155~59頁。D1ドメインはエクソン3(シグナルペプチドの下流の配列)およびエクソン4によりコードされ、D2、D3、およびD4はそれぞれ別々のエクソン-それぞれエクソン5、エクソン6、およびエクソン7によりコードされると考えられている。Littman(1987年)The Structure of CD4 and CD8 Genes、Ann. Rev. Immunol. 5巻:561~84頁;Hannaら(1994年)Specific Expression of the Human CD4 Gene in Mature CD4+CD8- and Immature CD4+CD8+ T cells and in Macrophages of Transgenic Mice、Mol.
Cell. Biol. 14巻(2号):1084~94頁;Maddonら、上記。T細胞と抗原提示細胞が接触する領域などのタンパク質濃度が高い領域では、分子は対立するD4ドメイン間の相互作用を通じてホモ二量体化する傾向がある。Zamoyska(1998年)CD4 and CD8: modulators of T cell receptor recognition of antigen and of
immune responses? Curr. Opin. Immunol. 10巻:82~87頁;Wuら(1997年)Dimeric association
and segmental variability in the structure of human CD4、Nature 387巻:527頁;Moldovanら(2002年)CD4 Dimers Constitute the Functional Component Required for T Cell Activation、J. Immunol. 169巻:6261~68頁。
【0037】
CD4のD1ドメインは免疫グロブリン可変(V)ドメインと似ており、D2ドメインの一部と共に、MHC IIに結合すると考えられている。Huangら(1997年)Analysis of the contact sites on the CD4
Molecule with Class II MHC Molecule、J. Immunol. 158巻:216~25頁。今度は、MHC IIが、MHC II
α2ドメインとMHC II β2ドメインの間の接合部にある疎水性間隙においてT細胞補助受容体CD4と相互作用する。WangおよびReinherz(2002年)Structural Basis of T Cell Recognition of Peptides Bound to MHC Molecules、Molecular Immunology、38巻:1039~49頁。
【0038】
CD4補助受容体のドメインD3およびドメインD4は、これらの2つのドメインを置換するとCD4のTCRと結合する能力が抑止されるので、TCR-CD3複合体と相互作用すると考えられている。Vignaliら(1996年)The Two Membrane Proximal Domains of CD4 Interact with the T Cell Receptor、J. Exp. Med. 183巻:2097~2107頁。CD4分子は二量体として存在し、分子のD4ドメイン内の残基がCD4二量体化に関与すると考えられている。Moldovanら(2002年)CD4 Dimers Constitute the Functional Components Required for T Cell Activation、J.
Immunol. 169巻:6261~68頁。
【0039】
CD4遺伝子のエクソン8は膜貫通ドメインをコードし、遺伝子の残部は細胞質ドメインをコードする。CD4細胞質ドメインは多くの別個の機能を有する。例えば、CD4の細胞質ドメインによりチロシンキナーゼLckが動員される。LckはCD4およびCD8の細胞質ドメインと会合するSrcファミリーキナーゼであり、補助受容体とTCRの同じMHCへの同時結合により、TCR複合体のCD3およびζ鎖のチロシンのリン酸化が増加し、今度は、T細胞活性化において役割を果たす他の因子が動員される。Itanoおよび共同研究者は、トランスジェニックマウスにおけるCD8細胞外ドメインおよびCD4細胞質尾部を含むハイブリッドタンパク質の発現を設計し試験することにより、CD4の細胞質尾部により、CD4+CD8+T細胞からCD4+系列への分化も促進されることを提唱した。Itanoら(1996年)The Cytoplasmic Domain of CD4 Promotes the Development of CD4 Lineage T Cells、J. Exp. Med. 183巻:731~41頁。ハイブリッドタンパク質の発現により、MHC Iに特異的なCD4系列T細胞の発生が導かれた。同文献。
【0040】
CD4補助受容体は、HIVウイルスに対する主要な受容体であると思われ、CD4+T細胞の枯渇は疾患の進行の指標になっている。CD4の細胞質尾部は、HIVに誘導されるアポトーシスにおいてCD4+T細胞へのアポトーシスシグナルの送達に必須であると思われる。特に、CD4とLckの相互作用により、これらの細胞におけるHIVに誘導されるアポトーシスが強化されることが示された。Corbeilら(1996年)HIV-induced Apoptosis Requires the CD4 Receptor Cytoplasmic Tail and Is Accelerated by Interaction of CD4 with p56lck、J. Exp. Med. 183巻:39~48頁。
【0041】
T細胞は胸腺において発生し、未成熟CD4-/CD8-(ダブルネガティブまたはDN)胸腺細胞からCD4+/CD8+(ダブルポジティブまたはDP)胸腺細胞まで進行し、最終的には、正の選択を受けてCD4+またはCD8+(シングルポジティブまたはSP)T細胞のいずれかになる。MHC I制限TCRを通じてシグナルを受け取るDP胸腺細胞はCD8+T細胞に分化し、MHC II制限TCRを通じてシグナルを受け取るDP胸腺細胞はCD4+T細胞に分化する。DP細胞が受け取る、そのCD4+T細胞またはCD8+T細胞への分化を導くきっかけは多数の研究の対象となっている。CD4/CD8系列選択の種々のモデルが提唱されており、Singerら(2008年)Lineage fate and intense debate: myths, models and mechanisms of CD4- versus CD8- lineage choice、Nat. Rev. Immunol. 8巻:788~801頁に概説されている。
【0042】
正の選択の結果としての特定のT細胞補助受容体の非活性化は転写調節の産物である。CD4に関しては、CD4のエクソン1の13kb上流に位置するエンハンサーにより、CD4+T細胞およびCD8+T細胞におけるCD4発現が上方制御されることが示されている。Killeenら(1993年)Regulated expression of human CD4 rescues helper T cell development in mice lacking expression of endogenous CD4、EMBO J. 12巻:1547~53頁。マウスCD4遺伝子の第1のイントロン内に位置するシス作用性転写サイレンサーは、CD4+T細胞以外の細胞におけるCD4の発現をサイレンシングするように機能する。Siuら(1994年)A transcriptional silencer control the developmental expression of the CD4 gene、EMBO J. 13巻:3570~3579頁。
【0043】
以前に開発されたヒトCD4を発現するトランスジェニックマウスのいくつかの系統ではCD4系列選択を制御する重要な転写調節因子(例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど)が欠けているので、これらのマウスでは正常なT細胞系列の発生を再現することができず、また、CD4を発現するCD4+T細胞以外の免疫細胞が産生された。例えば、Lawら(1994年)Human CD4 Restores Normal T Cell Development and Function in Mice Deficient in CD4、J. Exp. Med. 179巻:1233~42頁(CD4 expression in CD8+ T cells and B cells);Fuggerら(1994年)Expression of HLA-DR4 and human CD4 transgenes in mice
determines the variable region β-chain T-cell repertoire and mediates an HLA-D-restricted immune response、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91巻:6151~55頁(CD4 expressed
on all CD3+ thymocytes and B cells)を参照されたい。したがって、一実施形態では、動物に正常なT細胞の発生および系列選択を受けることができるT細胞を産生させるために、内在性マウスプロモーターおよび他の調節エレメントを保持する遺伝子改変動物を開発することには利点があり得る。
【0044】
したがって、種々の実施形態では、本発明は、例えば、内在性T細胞補助受容体遺伝子座(例えば、CD4遺伝子座)に、キメラヒト/非ヒトT細胞補助受容体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物を提供する。一実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトT細胞補助受容体の細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。一実施形態では、キメラポリペプチドの非ヒト部分は、非ヒトT細胞補助受容体の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。一実施形態では、非ヒト動物は機能的なキメラT細胞補助受容体ポリペプチドを発現する。したがって、一態様では、本発明は、内在性CD4遺伝子座にキメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、当該キメラポリペプチドのヒト部分がヒトCD4の細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含み、非ヒト部分が非ヒトCD4の少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子改変非ヒト動物であって、機能的なキメラCD4ポリペプチドを発現する動物を提供する。一態様では、非ヒト動物は、ヒト化CD4ポリペプチド、すなわちキメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドのみを発現し、その内在性CD4遺伝子座に由来する機能的な内在性非ヒトCD4タンパク質を発現しない。
【0045】
一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD4ポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。別の実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドは、ヒトCD4ポリペプチドのMHC II結合性ドメイン(例えば、D1ドメインおよびD2ドメインの実質的な部分)の全てまたは実質的に全てを少なくとも含み、一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD4ポリペプチドのD1ドメイン、D2ドメイン、およびD3ドメインの全てまたは実質的に全てを含み、さらに別の実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドのヒト部分は、CD4の免疫グロブリン様ドメイン、例えば、D1、D2、D3、およびD4と称されるドメインの全てまたは実質的に全てを含む。さらに別の実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドのヒト部分は、そのヒト部分に、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4配列および/またはT細胞受容体の細胞外部分の全てまたは実質的に全てを含む。さらに別の実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドのヒト部分は、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4の細胞外部分および/またはT細胞受容体の可変ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。したがって、一実施形態では、キメラCD4ポリペプチドのヒト部分をコードするヌクレオチド配列は、ヒトCD4のドメインD1~D2のコード配列の全てまたは実質的に全て(例えば、ヒトCD4遺伝子のエクソン3の一部およびエクソン4~5)を含み、別の実施形態では、キメラCD4ポリペプチドのヒト部分をコードするヌクレオチド配列は、ヒトCD4のD1~D3のコード配列の全てまたは実質的に全て(例えば、ヒトCD4のエクソン3の一部およびエクソン4~6)を含む。したがって、一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4をコードするヌクレオチド配列は、ヒトCD4のD1~D3ドメインの全てまたは実質的に全てをコードするヌクレオチド配列を含む。別の実施形態では、キメラCD4ポリペプチドのヒト部分をコードするヌクレオチド配列は、ヒトCD4遺伝子のD1~D4ドメインのコード配列を含む。別の実施形態では、ヌクレオチド配列は、マウスCD4シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列、例えばマウス遺伝子のエクソン2~3の一部によりコードされる領域を含み得る。別の実施形態では、ヌクレオチド配列は、ヒトCD4シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得る。一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドは、配列番号4に記載のアミノ酸配列を含み、当該キメラポリペプチドのヒト部分はおよそ配列番号4のアミノ酸27~319にわたる(配列番号57に別に記載されている)。
【0046】
一実施形態では、非ヒト動物はキメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチド配列を発現する。一実施形態では、キメラCD4配列のヒト部分は、1つまたは複数の保存的改変または非保存的改変を含む。
【0047】
一態様では、ヒトCD4配列を発現する非ヒト動物であって、ヒトCD4配列が、ヒトCD4配列と少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である非ヒト動物が提供される。特定の実施形態では、ヒトCD4配列は、実施例に記載のヒトCD4配列と少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。一実施形態では、ヒトCD4配列は、1つまたは複数の保存的置換を含む。一実施形態では、ヒトCD4配列は、1つまたは複数の非保存的置換を含む。
【0048】
一部の実施形態では、キメラCD4の一部、例えばヒト部分は、本明細書で示されている配列の実質的に全て(例えば、本明細書で示されているタンパク質ドメインの実質的に全て)を含み得る。実質的に全ての配列は、一般に、タンパク質の特定の部分(例えば、特定の機能的なドメインなど)を表すと考えられるアミノ酸の85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。機能的なドメインの境界は使用するアラインメントおよびドメイン予測方法に応じてわずかに変動し得ることが当業者には理解されよう。
【0049】
一態様では、キメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドの非ヒト部分は、非ヒトCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。CD4細胞質ドメインが果たす重要な機能に起因して、遺伝子操作された動物内に内在性非ヒト(例えばマウス)配列が保持されることにより、適切な細胞内シグナル伝達および補助受容体の他の機能の保存が確実になる。一実施形態では、非ヒト動物はマウスであり、非ヒトCD4ポリペプチドはマウスCD4ポリペプチドである。実施例には特定のマウスCD4配列が記載されているが、それに由来する任意の適切な配列、例えば保存的/非保存的アミノ酸置換を含む配列が本明細書に包含される。一実施形態では、キメラCD4補助受容体の非ヒト部分は、ヒト化されていない内在性CD4の任意の配列を含む。
【0050】
本明細書に記載の非ヒト動物は、その内在性遺伝子座にキメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、これにより、内在性CD4遺伝子の一部がヒトCD4ポリペプチドの一部をコードするヌクレオチド配列で置き換えられる。一実施形態では、そのような置き換えは、例えば非ヒトCD4の細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てをコードする内在性ヌクレオチド配列、例えば非ヒトCD4の少なくとも第1の免疫グロブリン様ドメイン(すなわち、D1)の全てまたは実質的に全てをコードする配列(例えば、非ヒトCD4のドメインD1~D2の全てまたは実質的に全てをコードする配列、例えば、非ヒトCD4のドメインD1~D3の全てまたは実質的に全てをコードする配列、例えば、非ヒトCD4のドメインD1~D4の全てまたは実質的に全てをコードする配列)の、それをコードするヒトヌクレオチド配列での置き換えである。一実施形態では、置き換えにより、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4配列および/またはT細胞受容体の細胞外部分を含むキメラタンパク質がもたらされる。さらに別の実施形態では、置き換えにより、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4配列および/またはT細胞受容体の可変ドメインを含むキメラタンパク質がもたらされる。一実施形態では、置き換えは、非ヒトCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードするCD4配列の置き換えを含まない。したがって、一態様では、非ヒト動物は、内在性非ヒトCD4遺伝子座に由来するキメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドを発現する。さらに別の実施形態では、置き換えにより、配列番号4に記載されているポリペプチド配列を含むタンパク質がもたらされる。
【0051】
一実施形態では、本明細書に記載のキメラヒト/非ヒトCD4遺伝子座(例えばキメラヒト/げっ歯類CD4遺伝子座、例えばキメラヒト/マウスCD4遺伝子座)のヌクレオチド配列が提供される。一態様では、キメラヒト/非ヒト(例えば、ヒト/げっ歯類、例えば、ヒト/マウス)CD4配列は内在性非ヒト(例えば、げっ歯類、例えばマウス)CD4遺伝子座に位置するので、第1のCD4エクソンの上流に位置するCD4エンハンサーエレメントを保持する。一実施形態では、内在性非ヒト(例えば、げっ歯類、例えばマウス)CD4遺伝子座における置き換えは、例えば、CD4ポリペプチドのD1をコードするエクソン3の一部、およびD1の残部およびD2~D3をコードするエクソン4~6の置き換えを含み、したがって、一態様では、キメラCD4遺伝子座には、非ヒト(例えばマウス)CD4遺伝子のイントロン1に位置するシス作用性サイレンサーが保持される。したがって、一実施形態では、キメラ遺伝子座には、内在性非ヒト(例えば、げっ歯類、例えばマウス)CD4プロモーターおよび調節エレメントが保持される。別の実施形態では、キメラ遺伝子座は、ヒトプロモーターおよび調節エレメントを、それらにより適切なCD4発現、CD4+T細胞の発生、CD4系列選択、および補助受容体機能が可能になる限りでは、含有してよい。したがって、一部の態様では、本発明の動物は、T細胞の適切な系列選択および発生が変更されない遺伝子改変を含む。一態様では、本発明の動物(例えば、げっ歯類、例えばマウス)は、通常CD4を発現する細胞以外の免疫細胞上でキメラCD4ポリペプチドを発現しない。一態様では、動物は、B細胞またはCD8+SP T細胞上でCD4を発現しない。一実施形態では、置き換えにより、CD4発現の適切な空間的調節および時間的調節を可能にするエレメントの保持がもたらされる。
【0052】
本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ(例えば、雌ウシ、雄ウシ、スイギュウ)、シカ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、フェレット、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)からなる群から選択することができる。適切な遺伝子改変可能なES細胞が容易に入手可能でない非ヒト動物については、遺伝子改変を含む非ヒト動物を作出するために他の方法が使用される。そのような方法としては、例えば、非ES細胞ゲノム(例えば、線維芽細胞または人工多能性細胞)を改変すること、および核移植を使用して、改変されたゲノムを適切な細胞、例えば卵母細胞に移植すること、および改変された細胞(例えば、改変された卵母細胞)を非ヒト動物において適切な条件下で熟させて胚を形成することが挙げられる。
【0053】
一態様では、非ヒト動物は哺乳動物である。一態様では、非ヒト動物は、例えばDipodoidea上科またはMuroidea上科の小さな哺乳動物である。一実施形態では、遺伝子改変動物はげっ歯類である。一実施形態では、げっ歯類は、マウス、ラット、およびハムスターから選択される。一実施形態では、げっ歯類は、Muroidea上科から選択される。一実施形態では、遺伝子改変動物は、Calomyscidae(例えばマウス様ハムスター(mouse-like hamster))、Cricetidae(例えば、ハムスター、新世界ラットおよび新世界マウス(New World rats and mice)、ハタネズミ)、Muridae(真性マウスおよび真性ラット(true mice and rats)、スナネズミ、トゲマウス、タテガミネズミ)、Nesomyidae(キノボリマウス(climbing mice)、イワマウス(rock mice)、オジロハムスターモドキ(with-tailed rat)、マダガスカルラットおよびマダガスカルマウス(Malagasy rats and mice))、Platacanthomyidae(例えば、トゲヤマネ)、およびSpalacidae(例えば、メクラネズミ(mole rate)、タケネズミ、およびモグラネズミ)から選択される科の動物である。特定の実施形態では、遺伝子改変げっ歯類は、真性マウスまたは真性ラット(Muridae科)、スナネズミ、トゲマウス、およびタテガミネズミから選択される。一実施形態では、遺伝子改変マウスはMuridae科のメンバーである。一実施形態では、動物はげっ歯類である。特定の実施形態では、げっ歯類はマウスおよびラットから選択される。一実施形態では、非ヒト動物はマウスである。
【0054】
特定の実施形態では、非ヒト動物は、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、およびC57BL/Olaから選択されるC57BL系統のマウスであるげっ歯類である。別の実施形態では、マウスは、129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2である系統からなる群から選択される129系統である(例えば、Festingら(1999年)Revised nomenclature for strain 129 mice、Mammalian Genome 10巻:836頁を参照されたい、Auerbachら(2000年)Establishment and Chimera Analysis
of 129/SvEv- and C57BL/6-Derived Mouse Embryonic Stem Cell Linesも参照されたい)。特定の実施形態では、遺伝子改変マウスは、上述の129系統と上述のC57BL/6系統の混合である。別の特定の実施形態では、マウスは、上述の129系統の混合、または上述のBL/6系統の混合である。特定の実施形態では、混合の129系統は、129S6(129/SvEvTac)系統である。別の実施形態では、マウスは、BALB系統、例えば、BALB/c系統である。さらに別の実施形態では、マウスは、BALB系統と別の上述の系統の混合である。
【0055】
一実施形態では、非ヒト動物はラットである。一実施形態では、ラットは、ウィスターラット、LEA系統、スプラーグドーリー系統、フィッシャー系統、F344、F6、およびDark Agoutiから選択される。一実施形態では、ラット系統は、ウィスター、LEA、スプラーグドーリー、フィッシャー、F344、F6、およびDark Agoutiからなる群から選択される2種以上の系統の混合である。
【0056】
したがって、一実施形態では、本発明は、ゲノム内、例えば内在性CD4遺伝子座に、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、当該キメラポリペプチドのマウス部分がマウスCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子改変マウスであって、キメラヒト/マウスCD4を発現するマウスを提供する。一実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD4ポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを少なくとも含む。一実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD4タンパク質の少なくともD1ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。一実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD4タンパク質のD1~D2ドメインの全てまたは実質的に全てを少なくとも含む、例えば、ヒトCD4タンパク質のD1~D3ドメインの全てまたは実質的に全てを少なくとも含む、例えば、ヒトCD4タンパク質のD1~D4ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。したがって、一実施形態では、マウスは、内在性CD4遺伝子座に、ヒトCD4遺伝子のエクソン4、エクソン5、およびエクソン6の全てまたは実質的に全てを少なくとも含むヌクレオチド配列、例えば、ヒトCD4のD1ドメインの一部をコードするヒトCD4遺伝子のエクソン3の配列およびヒトCD4遺伝子のエクソン4~6を含むヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、マウスは、内在性CD4遺伝子座に、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4配列および/またはT細胞受容体の細胞外部分を含むキメラヒト/マウスCD4を含む。別の実施形態では、マウスは、内在性CD4遺伝子座に、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4配列および/またはT細胞受容体の可変ドメインを含むキメラヒト/マウスCD4を含む。一実施形態では、ヌクレオチド配列は、マウスCD4シグナルペプチドをコードする配列を含む。一実施形態では、マウスは、マウスCD4細胞外ドメインをコードするヌクレオチド配列の、ヒトCD4細胞外ドメインをコードするヌクレオチド配列での置き換えを含む。別の実施形態では、マウスは、少なくともマウスCD4 D1ドメインの全てまたは実質的に全てをコードするヌクレオチド配列、例えば、少なくともマウスCD4 D1~D2ドメインの全てまたは実質的に全てをコードするヌクレオチド配列、例えば、少なくともマウスCD4 D1~D3ドメインの全てまたは実質的に全てをコードするヌクレオチド配列の、それをコードするヒトヌクレオチド配列での置き換えを含む。一実施形態では、マウスは、その内在性マウスCD4遺伝子座に由来する機能的な内在性マウスCD4を発現しない。一実施形態では、本明細書に記載のマウスは、マウスの生殖細胞系列内にキメラヒト/マウスCD4ヌクレオチド配列を含む。一実施形態では、マウスはヒト化されていない任意の内在性配列を保持し、例えばマウスが、D1~D3ドメインの全てまたは実質的に全てをコードするヌクレオチド配列の置き換えを含む実施形態では、マウスは、マウスCD4 D4ドメインをコードする内在性ヌクレオチド配列ならびにマウスCD4の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードするヌクレオチド配列を保持する。
【0057】
一態様では、キメラヒト/マウスCD4タンパク質を発現するマウスは、マウスCD4プロモーター配列および調節配列を保持する。例えば、キメラヒト/マウスCD4をコードするマウス内のヌクレオチド配列は、内在性マウスCD4プロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している。一態様では、本発明の遺伝子操作された動物内に保持されるこれらのマウス調節配列は、T細胞の発生の間の適切な段階でキメラタンパク質の発現を調節する配列を含む。したがって、一態様では、マウスは、B細胞またはCD8系列のT細胞上でキメラCD4を発現しない。一態様では、マウスは、同様に、通常内在性CD4を発現しないいかなる細胞型、例えば、いかなる免疫細胞型上でもキメラCD4を発現しない。
【0058】
種々の実施形態では、本明細書に記載の通りキメラCD4遺伝子座に由来する機能的なキメラCD4タンパク質を発現する非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)は、細胞表面上、例えばT細胞表面上にキメラタンパク質をディスプレイする。一実施形態では、非ヒト動物は、ヒトにおいて観察されるものと同じ細胞分布で、細胞表面上にキメラCD4タンパク質を発現する。一態様では、本発明のCD4タンパク質は、第2の細胞、例えば抗原提示細胞(APC)の表面上に発現するMHC IIタンパク質と相互作用することができる。
【0059】
一実施形態では、本発明の非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウス)は、ヒトまたはヒト化MHC IIタンパク質をコードするヌクレオチド配列をさらに含み、したがって、動物のT細胞の表面上に発現するキメラCD4タンパク質は、第2の細胞、例えば抗原提示細胞の表面上に発現するヒトまたはヒト化MHC IIと相互作用することができる。一実施形態では、MHC IIタンパク質は、ヒトMHC IIαポリペプチドの細胞外ドメインおよびヒトMHC IIβポリペプチドの細胞外ドメインを含む。ヒトまたはヒト化MHC IIポリペプチドを発現する遺伝子改変動物の例は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる2012年10月26日出願の米国特許出願第13/661,116号、および2013年3月11日出願の米国特許出願第13/793,935号に記載されている。したがって、一実施形態では、本明細書に記載のキメラCD4タンパク質を含む動物は、ヒト化MHC IIタンパク質をさらに含んでよく、当該ヒト化MHC IIタンパク質は、(1)ヒトMHC IIα細胞外ドメインならびに内在性の、例えばマウスMHC IIの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むヒト化MHC IIαポリペプチドであって、ヒトMHC IIαのα1ドメインおよびα2ドメインを含むヒトMHC IIα細胞外ドメイン、および(2)ヒトMHC IIβ細胞外ドメインならびに内在性の、例えばマウスMHC IIの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むヒト化MHC IIβポリペプチドであって、ヒトMHC IIβのβ1ドメインおよびβ2ドメインを含むヒトMHC IIβ細胞外ドメインを含む。一態様では、ヒト化MHC IIαポリペプチドとヒト化MHC IIβポリペプチドはどちらも、それぞれ内在性MHC IIα遺伝子座および内在性MHC IIβ遺伝子座に位置するヌクレオチド配列によりコードされ、一態様では、動物は、機能的な内在性MHC IIαポリペプチドおよび内在性MHC IIβポリペプチドを発現しない。したがって、動物によって発現するMHC IIは、キメラヒト/非ヒト、例えば、ヒト/げっ歯類(例えば、ヒト/マウス)MHC IIタンパク質であってよい。キメラMHC IIタンパク質のヒト部分は、HLA-DR、HLA-DQ、およびHLA-DPからなる群から選択されるヒトHLAクラスIIタンパク質、例えば、HLA-DR4、HLA-DR2、HLA-DQ2.5、HLA-DQ8、またはヒト集団内に存在する任意の他のHLAクラスII分子由来のものであってよい。動物がマウスである実施形態では、キメラMHC IIポリペプチドの非ヒト(すなわち、マウス)部分は、H-2EおよびH-2Aから選択されるマウスMHC IIタンパク質由来のものであってよい。一態様では米国特許出願第13/661,116号および同第13/793,935号に記載のキメラヒト/非ヒトCD4およびヒト化MHC IIを含む非ヒト動物は、本明細書に記載のキメラCD4遺伝子座を含む動物とヒト化MHC II遺伝子座を含む動物を掛け合わせることによって作製することができる。動物は、例えば、内在性CD4遺伝子座における置き換えのために、ヒト化MHC II遺伝子座を含む動物のES細胞にキメラCD4をコードするヌクレオチド配列を導入すること、またはキメラCD4遺伝子座を含む動物のES細胞にヒト化MHC IIをコードするヌクレオチド配列を導入することによって作製することもできる。
【0060】
一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD4とヒトまたはヒト化MHC IIの両方を含む遺伝子改変非ヒト動物(例えばマウス)は、これらのタンパク質をコードする遺伝子の1つまたは2つのコピーを含んでよく、したがって、動物は、それぞれキメラCD4およびMHC II(すなわち、MHC IIαおよび/またはMHC IIβ)をコードする遺伝子についてヘテロ接合性であってもホモ接合性であってもよい。
【0061】
遺伝子操作された非ヒト動物に加えて、非ヒト胚(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラットの胚)であって、本明細書に記載の非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)に由来するドナーES細胞を含む胚も提供される。一態様では、胚は、キメラCD4遺伝子を含むESドナー細胞、および宿主胚細胞を含む。
【0062】
本明細書に記載の非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)に由来し、キメラCD4タンパク質を発現する組織も提供される。
【0063】
さらに、本明細書に記載の非ヒト動物から単離された非ヒト細胞が提供される。一実施形態では、細胞はES細胞である。一実施形態では、細胞はT細胞、例えばCD4+T細胞である。一実施形態では、細胞はヘルパーT細胞(TH細胞)である。一実施形態では、TH細胞はエフェクターTH細胞、例えばTH1細胞またはTH2細胞である。
【0064】
本明細書に記載の非ヒト動物の染色体またはその断片を含む非ヒト細胞も提供される。一実施形態では、非ヒト細胞は、本明細書に記載の非ヒト動物の核を含む。一実施形態では、非ヒト細胞は、核移植の結果として染色体またはその断片を含む。
【0065】
一態様では、本明細書に記載のキメラCD4ポリペプチドをコードする遺伝子を含む非ヒト人工多能性細胞が提供される。一実施形態では、人工多能性細胞は、本明細書に記載の非ヒト動物に由来する。
【0066】
一態様では、本明細書に記載の非ヒト動物の細胞に由来するハイブリドーマまたはクアドローマが提供される。一実施形態では、非ヒト動物はマウスまたはラットである。
【0067】
一態様では、表面上にキメラCD4タンパク質を担持するT細胞およびキメラCD4に結合する第2の細胞を含むin vitro調製物が提供される。一実施形態では、第2の細胞は、MHC IIポリペプチド、例えばキメラヒト/非ヒトMHC IIタンパク質を発現する細胞、例えばAPCである。一実施形態では、第1の細胞の表面上のキメラCD4は、第2の細胞の表面上のキメラMHC IIと相互作用する。一実施形態では、キメラCD4タンパク質は、内在性細胞質ゾルの分子、例えば内在性細胞質ゾルシグナル伝達分子(例えば、内在性Lckなど)との相互作用を保持する。
【0068】
本明細書に記載の遺伝子操作された非ヒト動物(例えば遺伝子操作されたげっ歯類、例えばマウスまたはラット)を作出するための方法も提供される。一実施形態では、遺伝子操作された非ヒト動物を作出するための方法により、内在性CD4遺伝子座にキメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む動物がもたらされる。一部の実施形態では、当該方法では、実施例に記載の通り、VELOCIGENE(登録商標)技術、ES細胞への構築物の導入、およびVELOCIMOUSE(登録商標)技術を使用したマウス胚への標的ES細胞クローンの導入を使用して作出されたターゲティング構築物を利用する。
【0069】
一実施形態では、本発明は、本明細書に記載のキメラヒト/非ヒトCD4ポリペプチドを発現する非ヒト動物のCD4遺伝子座を改変する方法を含む。一実施形態では、本発明は、マウスのCD4遺伝子座を、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドを発現するように改変する方法であって、マウスの内在性CD4遺伝子座において、内在性マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をキメラヒト/マウスCD4ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で置き換えるステップを含む方法を提供する。当該方法の一態様では、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドは、ヒトCD4ポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、および内在性マウスCD4ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。当該方法の別の態様では、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドは、ヒトCD4ポリペプチドのD1~D2ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。さらに別の実施形態では、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドは、ヒトCD4ポリペプチドのD1~D3ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。さらに別の実施形態では、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドは、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4および/またはT細胞受容体の細胞外ドメインのアミノ酸配列の全てまたは実質的に全てを含む。さらに別の実施形態では、キメラヒト/マウスCD4ポリペプチドは、MHC IIとの相互作用に関与するヒトCD4および/またはT細胞受容体の可変ドメインのアミノ酸配列の全てまたは実質的に全てを含む。
【0070】
したがって、本明細書に記載の遺伝子改変動物を作製するためのヌクレオチド構築物も提供される。一態様では、ヌクレオチド配列は、5’および3’相同性アーム、ヒトCD4遺伝子配列(例えば、ヒトCD4細胞外ドメイン遺伝子配列、例えば、ヒトCD4のドメインD1~D2の全てまたは実質的に全ての遺伝子配列、例えば、ヒトCD4のドメインD1~D3および/またはD2~D3の全てまたは実質的に全ての遺伝子配列、例えば、ヒトCD4のドメインD1~D4の全てまたは実質的に全ての遺伝子配列)を含むDNA断片、ならびに組換え部位と隣接する選択カセットを含む。一実施形態では、ヒトCD4遺伝子配列は、ヒトCD4のイントロンおよびエクソンを含むゲノム配列である。一実施形態では、相同性アームは、非ヒト(例えばマウス)CD4ゲノム配列と相同である。本発明の例示的な構築物は
図1、下の図に示されている。
【0071】
選択カセットは、目的の構築物に組み込まれた細胞(例えば、ES細胞)の選択を容易にするためにターゲティング構築物に挿入されるヌクレオチド配列である。いくつかの適切な選択カセットが当技術分野で公知である。一般に、選択カセットにより、特定の抗生物質(例えば、Neo、Hyg、Pur、CM、SPECなど)の存在下での正の選択が可能になる。さらに、選択カセットは、リコンビナーゼ酵素で処理した際に選択カセットの欠失を可能にする組換え部位と隣接していてよい。一般に使用される組換え部位は、それぞれCre酵素およびFlp酵素によって認識されるloxPおよびFrtであるが、他のものが当技術分野で公知である。選択カセットは、構築物のコード領域の外側のどこにでも位置してよい。一実施形態では、選択カセットは、ヒトCD4配列のエクソン3とエクソン4の間に位置する。
【0072】
遺伝子ターゲティングが完了したら、ES細胞または遺伝子改変非ヒト動物をスクリーニングして、目的の外因性のヌクレオチド配列が上首尾に組み入れられたことまたは外因性のポリペプチドが発現することを確認する。多数の技法が当業者に公知であり、それらとして(これだけに限定されないが)、サザンブロット法、ロングPCR、定量的PCR(例えば、TAQMAN(登録商標)を使用したリアルタイムPCR)、蛍光in situハイブリダイゼーション、ノーザンブロット法、フローサイトメトリー、ウエスタン分析、免疫細胞化学的検査、免疫組織化学的検査などが挙げられる。1つの例では、目的の遺伝子改変を担持する非ヒト動物(例えばマウス)は、Valenzuelaら(2003年)High-throughput engineering of the mouse genome coupled with high-resolution
expression analysis、Nature Biotech. 21巻(6号):652~659頁に記載の対立遺伝子アッセイの改変を使用して、マウス対立遺伝子喪失および/またはヒト対立遺伝子獲得についてスクリーニングすることによって同定することができる。遺伝子改変動物における特定のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を同定する他のアッセイは、当業者に公知である。
【0073】
一態様では、単一細胞において、本明細書に記載のヌクレオチド構築物からキメラCD4タンパク質を発現させるステップを含む、キメラヒト/非ヒトCD4分子を作出するための方法が提供される。一実施形態では、ヌクレオチド構築物はウイルスベクターであり、特定の実施形態では、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。一実施形態では、細胞は、ウイルス核酸配列(例えば、PERC.6(商標)細胞)を発現するCHO、COS、293、HeLa、および網膜細胞から選択される。
【0074】
一態様では、キメラCD4タンパク質を発現する細胞が提供される。一実施形態では、細胞は、本明細書に記載のキメラCD4配列を含む発現ベクターを含む。一実施形態では、細胞は、ウイルス核酸配列(例えば、PERC.6(商標)細胞)を発現するCHO、COS、293、HeLa、および網膜細胞から選択される。
【0075】
本明細書に記載の非ヒト動物により産生されるキメラCD4分子も提供され、一実施形態では、キメラCD4分子は、ヒトCD4タンパク質の細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびに非ヒトCD4タンパク質、例えばマウスCD4タンパク質由来の少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインのアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、本明細書に記載の非ヒト動物により産生されるキメラCD4分子であって、ヒトCD4のD1ドメインの少なくとも全てまたは実質的に全て、例えば、ヒトCD4のD1~D2ドメインの少なくとも全てまたは実質的に全て、例えば、ヒトCD4のD1~D3ドメインの少なくとも全てまたは実質的に全てのアミノ酸配列、例えば、MHC IIおよび/またはTCRの細胞外ドメインの結合に関与するヒトCD4のアミノ酸配列、例えば、MHC IIおよび/またはTCRの可変ドメインの結合に関与するヒトCD4のアミノ酸配列を含み、当該タンパク質の残部(例えば、膜貫通ドメイン、細胞質ドメイン、細胞外ドメインのヒト化されていない任意の部分)が内在性非ヒトタンパク質配列に由来するキメラCD4分子が提供される。
【0076】
上記の種々の実施形態は、キメラCD4タンパク質を発現する動物、ならびに当該タンパク質を含む細胞および組織と関連して、下記のキメラヒト/非ヒトCD8を発現する非ヒト動物、または他の重要なキメラヒト/非ヒトT細胞補助受容体を発現する動物が記載されている実施形態に適用可能である。
【0077】
遺伝子改変CD8動物
種々の実施形態では、本発明は、一般に、ゲノム内、例えば内在性CD8遺伝子座に、ヒト化CD8ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、したがって、ヒト化CD8ポリペプチドを発現する遺伝子改変非ヒト動物を提供する。種々の実施形態では、本発明は、ゲノム内、例えば内在性CD8遺伝子座に、ヒト化CD8αポリペプチドをコードするヌクレオチド配列および/またはヒト化CD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む非ヒト動物を提供する。したがって、本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、ヒト化CD8αおよび/またはヒト化CD8βポリペプチド(複数可)を発現する。
【0078】
ヒトCD8タンパク質は、一般には、細胞表面上に2つのポリペプチド、CD8αおよびCD8βのヘテロ二量体として発現するが、ジスルフィド連結したホモ二量体およびホモ多量体も検出されている(例えば、CD8ααを発現するNK細胞および腸のγδT細胞)。ヒトCD8αおよびCD8βをコードする遺伝子は、第2染色体において互いの極めて近傍に位置する。Nakayamaら(1992年)Recent Duplication of the Two Human CD8 β-chain genes、J. Immunol. 148巻:1919~27頁。CD8αタンパク質は、リーダーペプチド、免疫グロブリンV様領域、ヒンジ領域、膜貫通ドメインおよび細胞質尾部を含有する。Normentら(1989年)Alternatively Spliced mRNA Encodes a Secreted Form of Human CD8α. Characterization of the Human CD8α
gene、J. Immunol. 142巻:3312~19頁。CD8α遺伝子のエクソン/イントロンは
図4および
図5に概略的に示されている。
【0079】
ヒトCD8β遺伝子は、第2染色体上のCD8α遺伝子の上流にある。CD8β遺伝子の代替スプライシングによって作製される多数のアイソフォームが報告されており、1つのアイソフォームは、膜貫通ドメインを欠き、分泌タンパク質を生成することが予測される。Normentら(1988年)A second subunit of CD8
is expressed in human T cells、EMBO J. 7巻:3433~39頁。CD8β遺伝子のエクソン/イントロンは
図3および
図5に概略的に示されている。
【0080】
膜に結合したCD8βタンパク質は、N末端シグナル配列、その後に免疫グロブリンV様ドメイン、短い細胞外ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、および細胞質尾部を含有する。Littman(1987年)The structure of CD4 and CD8 genes、Ann Rev. Immunol. 5巻:561~84頁を参照されたい。ヒンジ領域は、コンフォメーションが維持され、プロテアーゼによる切断からタンパク質が保護されると考えられている、広範囲にわたるグリコシル化の部位である。Leahy(1995年)A structural view of CD4 and CD8、FASEB J. 9巻:17~25頁。
【0081】
CD8タンパク質は、一般に細胞傷害性T細胞上に発現し、MHC I分子と相互作用する。相互作用は、MHC Iのα3ドメインとCD8の結合によって媒介される。MHCクラスIへのCD8の結合はTCRのMHCクラスIへの結合の約100分の1であるが、CD8の結合により、TCRの結合の親和性が増強される。Wooldridgeら(2010年)MHC Class I Molecules with Superenhanced CD8 Binding Properties Bypass the Requirement for Cognate TCR Recognition and Nonspecifically Activate CTL、J. Immunol. 184巻:3357~3366頁。
【0082】
MHCクラスI分子へのCD8の結合は種特異的であり、CD8のマウスホモログ、Lyt-2は、α3ドメインにおいてH-2Dd分子に結合するが、HLA-A分子には結合しないことが示された。Connollyら(1988年)The Lyt-2 Molecule Recognizes Residues in the Class I α3 Domain in Allogeneic Cytotoxic T Cell Responses、J. Exp. Med. 168巻:325~341頁。示差的な結合は、おそらくヒトとマウスの間で保存的ではないCD8上のCDR様決定因子(CDR1様およびCDR2様)に起因するものであった。Sandersら(1991年)Mutations in CD8 that Affect Interactions with HLA Class I and Monoclonal Anti-CD8 Antibodies、J. Exp. Med. 174巻:371~379頁;Vitielloら(1991年)Analysis of the HLA-restricted Influenza-specific Cytotoxic T Lymphocyte Response in Transgenic Mice
Carrying a Chimeric Human-Mouse Class I
Major Histocompatibility Complex、J. Exp. Med. 173巻:1007~1015頁、および、Gaoら(1997年)Crystal structure of the complex between human CD8αα and HLA-A2、Nature 387巻:630~634頁。CD8は、α3ドメインの保存的領域(223~229位)においてHLA-A2に結合することが報告されている。HLA-Aにおける単一の置換(V245A)により、CD8とHLA-Aの結合性が低下し、同時にT細胞媒介性溶解が大きく低下する。Salterら(1989年)、Polymorphism in the α3 domain of HLA-A molecules affects binding to CD8、Nature 338巻:345~348頁。一般に、HLA-A分子のα3ドメインにおける多型も、CD8との結合に影響を及ぼす。同文献。マウスでは、H-2Ddの残基227におけるアミノ酸置換により、マウスLyt-2とH-2Ddの結合が影響を受け、変異H-2Ddをトランスフェクトした細胞はCD8+T細胞によって溶解されなかった。Potterら(1989年)Substitution at residue 227 of H-2 class I molecules abrogates recognition by CD8-dependent、but not CD8-independent、cytotoxic T lymphocytes、Nature 337巻:73~75頁。したがって、ヒトまたはヒト化CD8の発現は、ヒトまたはヒト化MHC Iによって示される抗原に対するT細胞応答を試験するために有益であり得る。
【0083】
CD4と同様に、CD8の細胞質ドメインはチロシンキナーゼLckと相互作用し、それにより今度はT細胞活性化が導かれる。LckはCD8αの細胞質ドメインと相互作用するように見えるが、CD8β細胞質ドメインの変異または欠失によりCD8αに関連するLck活性が低下するので、この相互作用はCD8βの細胞質ドメインの存在によって調節されると思われる。Irieら(1998年)The cytoplasmic domain of CD8β Regulates Lck Kinase Activation and CD8 T cell Development、J. Immunol. 161巻:183~91頁。Lck活性の低下はT細胞の発生における欠陥に関連した。同文献。
【0084】
適切な細胞、例えば細胞傷害性T細胞でのCD8の発現は、CD8遺伝子座全体にわたって位置する種々のエンハンサーエレメントによってしっかりと調節される。例えば、CD8遺伝子座において、少なくとも4つのDNase I高感受性領域、調節因子の結合に関連することも多い領域が同定されている。Hosertら(1997年)A CD8
genomic fragment that directs subset-specific expression of CD8 in transgenic mice、J. Immunol. 158巻:4270~81頁。CD8遺伝子座においてこれらのDNase I高感受性領域が発見されてから、CD8遺伝子座全体にわたって広がる、DP、CD8 SP T細胞、またはγδTCRを発現している細胞を含めた種々の系列のT細胞におけるCD8αおよび/またはCD8βの発現を調節するエンハンサーエレメントが少なくとも5種同定されている。例えば、Kioussisら(2002年)Chromatin and CD4, CD8A, and CD8B gene expression during thymic differentiation、Nature Rev. 2巻:909~919頁およびOnline Erratum;Ellmeierら(1998年)Multiple Development
Stage-Specific Enhancers Regulate CD8 Expression in Developing Thymocytes and in Thymus-Independent T cells、Immunity 9巻:485~96頁を参照されたい。
【0085】
したがって、ヒトまたはヒト化CD4遺伝子改変動物について内在性CD4プロモーターおよび調節エレメントを保持することから得られる利点と同様に、一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化CD8の発現を制御する内在性マウスプロモーターおよび調節エレメントを保持する遺伝子改変非ヒト動物を開発することには利点があり得る。本明細書に記載の通りCD8αおよび/またはCD8βタンパク質をコードする内在性非ヒト配列の、ヒトまたはヒト化CD8αおよび/またはCD8βタンパク質をコードする配列での置き換えを含む遺伝子改変動物を創製することには特定の利点があり得る。
【0086】
種々の実施形態では、本発明は、ゲノム内、例えば内在性CD8遺伝子座に、キメラヒト/非ヒトCD8ポリペプチド(例えば、CD8αおよび/またはCD8βポリペプチド)をコードするヌクレオチド配列を少なくとも1つ含み、当該ポリペプチドのヒト部分がヒトCD8(例えば、CD8αおよび/またはCD8β)の細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含み、非ヒト部分が非ヒトCD8(例えば、CD8αおよび/またはCD8β)の少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む、遺伝子改変非ヒト動物であって、キメラCD8ポリペプチド(例えば、CD8αおよび/またはCD8βポリペプチド)を発現する動物を提供する。したがって、一実施形態では、本発明は、内在性非ヒトCD8遺伝子座に、キメラヒト/非ヒトCD8αポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列およびキメラヒト/非ヒトCD8βポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列を含み、第1のヌクレオチド配列が、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびに非ヒトCD8αポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含み、第2のヌクレオチド配列が、ヒトCD8βポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびに非ヒトCDβポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含む、遺伝子改変非ヒト動物であって、機能的なキメラヒト/非ヒトCD8タンパク質を発現する動物を提供する。一態様では、非ヒト動物は、内在性CD8遺伝子座に由来するヒト化CD8ポリペプチド(例えばキメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド)のみを発現し、対応する機能的な非ヒトCD8ポリペプチド(複数可)は発現しない。
【0087】
一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8αポリペプチドは、ヒト部分に、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。一実施形態では、キメラCD8αポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD8αポリペプチドのMHC I結合性ドメインを少なくとも含む。一実施形態では、キメラCD8αポリペプチドのヒト部分は、ヒトCD8αの免疫グロブリンV様ドメインの全てまたは実質的に全ての配列を少なくとも含む。一実施形態では、キメラCD8αポリペプチドのヒト部分をコードするヌクレオチド配列は、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインをコードするエクソンを少なくとも含む。一実施形態では、ヌクレオチド配列は、Ig V様ドメインをコードするエクソンを少なくとも含む。一実施形態では、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインは、膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインではないポリペプチドのドメインを包含する領域である。一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8αポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、非ヒト(例えば、げっ歯類、例えばマウス)CD8αシグナルペプチドをコードする配列を含む。あるいは、ヌクレオチド配列は、ヒトCD8αシグナル配列をコードする配列を含み得る。一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8αポリペプチドは、配列番号54に記載のアミノ酸配列を含み、キメラポリペプチドのヒト部分は配列番号54のアミノ酸28~179に記載されている(別途配列番号59に表されている)。
【0088】
同様に、一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8βポリペプチドは、ヒト部分に、ヒトCD8βポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てを含む。一実施形態では、キメラCD8βポリペプチドのヒト部分は、CD8βの免疫グロブリンV様ドメインの全てまたは実質的に全ての配列を含む。一実施形態では、キメラCD8βポリペプチドのヒト部分をコードするヌクレオチド配列は、ヒトCD8βポリペプチドの細胞外ドメインをコードするエクソンを少なくとも含む。一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8βポリペプチドのヒト部分は、CD8βのIgG V様ドメインをコードするエクソンを少なくとも含む。一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、非ヒト(例えば、げっ歯類、例えばマウス)CD8βシグナルペプチドをコードする配列を含む。あるいは、ヌクレオチド配列は、ヒトCD8βシグナル配列をコードする配列を含み得る。一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8βポリペプチドは、配列番号53に記載のアミノ酸配列を含み、キメラポリペプチドのヒト部分は、配列番号53のアミノ酸15~165に記載されている(別途配列番号58に表されている)。
【0089】
一実施形態では、非ヒト動物は、キメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドを発現する。一部の実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドのヒト部分は、1つまたは複数の保存的修飾または非保存的修飾(複数可)を含む。
【0090】
一態様では、ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド配列を発現する非ヒト動物であって、当該ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド配列が、それぞれヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド配列と少なくとも約85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である非ヒト動物が提供される。特定の実施形態では、ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド配列は、それぞれ実施例に記載のヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド配列と少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。一実施形態では、ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド配列は、1つまたは複数の保存的置換を含む。一実施形態では、ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチド配列は、1つまたは複数の非保存的置換を含む。
【0091】
一部の実施形態では、キメラCD8の一部、例えばヒト部分は、本明細書で示されている配列の実質的に全て(例えば、本明細書で示されているタンパク質ドメインの実質的に全て)を含み得る。実質的に全ての配列は、一般に、タンパク質の特定の部分(例えば、特定の機能的なドメインなど)を表すと考えられるアミノ酸の85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%を含む。機能的なドメインの境界は使用するアラインメントおよびドメイン予測方法に応じてわずかに変動し得ることが当業者には理解されよう。
【0092】
一態様では、キメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドの非ヒト部分は、それぞれ、非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドの少なくとも膜貫通および/または細胞質ドメインを含む。CD8細胞質ドメインが果たす重要な機能に起因して、遺伝子操作された動物内に内在性非ヒト(例えばマウス)配列が保持されることにより、適切な細胞内シグナル伝達および補助受容体の他の機能の保存が確実になる。一実施形態では、非ヒト動物はマウスであり、非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドは、それぞれマウスCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドである。実施例には特定のマウスCD8αおよびCD8β配列が記載されているが、それに由来する任意の適切な配列、例えば保存的/非保存的アミノ酸置換を含む配列が本明細書に包含される。一実施形態では、非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウス)は任意のヒト化されていない内在性配列を保持する。
【0093】
本明細書に記載の非ヒト動物は、内在性遺伝子座に、キメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得る。一態様では、これにより、内在性CD8α遺伝子の一部がヒトCD8αポリペプチドの一部をコードするヌクレオチド配列で置き換えられ、かつ/または内在性CD8β遺伝子の一部がヒトCD8βポリペプチドの一部をコードするヌクレオチド配列で置き換えられる。一実施形態では、そのような置き換えは、非ヒトCD8αおよび/またはCD8βの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てをコードする内在性ヌクレオチド配列の、それをコードするヒトヌクレオチド配列での置き換えである。一実施形態では、そのような置き換えは、非ヒトCD8αおよび/またはCD8βの免疫グロブリンV様ドメインの全てまたは実質的に全てを少なくともコードする配列の、それをコードするヒトヌクレオチド配列での置き換えである。一実施形態では、置き換えは、非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードするCD8αおよび/またはCD8β配列の置き換えを含まない。したがって、非ヒト動物は、内在性非ヒトCD8遺伝子座に由来するキメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドを発現する。さらに別の実施形態では、置き換えにより、それぞれ配列番号54および/または53に記載されているポリペプチド配列を含むCD8αおよび/またはCD8βタンパク質がもたらされる。
【0094】
一実施形態では、キメラヒト/非ヒトCD8遺伝子座(例えばキメラげっ歯類CD8遺伝子座、例えばキメラマウスCD8遺伝子座)のヌクレオチド配列が提供される。一態様では、キメラヒト/非ヒト(例えば、ヒト/げっ歯類、例えば、ヒト/マウス)CD8αおよび/またはCD8β配列はそれぞれの内在性非ヒト(例えば、げっ歯類、例えばマウス)CD8αおよび/またはCD8β遺伝子座に位置し、内在性CD8αおよび/またはCD8βプロモーターおよび調節エレメントを保持する。別の実施形態では、キメラ遺伝子座は、ヒトCD8αおよび/またはCD8βプロモーターおよび調節エレメントを、それらにより、適切なCD8αおよび/またはCD8βの発現(適切な空間的および時間的なタンパク質の発現)、CD8+T細胞の発生、CD8系列選択、および補助受容体機能が可能になる限りでは含有してよい。したがって、一態様では、本発明の動物は、T細胞の適切な系列選択および発生が変更されない遺伝子改変を含む。一態様では、本発明の動物(例えば、げっ歯類、例えばマウス)は、通常CD8を発現する細胞以外の免疫細胞ではキメラCD8タンパク質を発現せず、例えば、動物は、B細胞またはCD4+SP T細胞上でCD8を発現しない。一実施形態では、置き換えにより、CD8αおよび/またはCD8βの発現の適切な空間的調節および時間的調節を可能にするエレメントが保持される。
【0095】
本明細書に記載のヒトまたはヒト化CD8ポリペプチドを含む遺伝子改変非ヒト動物は、上のヒト化CD4動物に関する節に記載されている任意の動物から選択することができる。一実施形態では、非ヒト動物は、げっ歯類、例えば、ラットまたはマウスであってよい。
【0096】
したがって、一実施形態では、本発明は、ゲノム内、例えば内在性CD8遺伝子座に、キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドをコードする第1のヌクレオチド配列およびキメラヒト/マウスCD8βポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列を含む遺伝子改変マウスを提供する。一実施形態では、第1のヌクレオチド配列は、ヒトCD8αポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびにマウスCD8αポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含み、第2のヌクレオチド配列は、ヒトCD8βポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびにマウスCD8βポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインをコードする配列を含み、マウスは機能的なキメラヒト/マウスCD8タンパク質を発現する。一実施形態では、第1のヌクレオチド配列は、ヒトCD8αポリペプチドの少なくとも免疫グロブリンV様ドメインおよびマウスCD8αポリペプチドの免疫グロブリンV様ドメイン以外の配列をコードする配列を含み、第2のヌクレオチド配列は、ヒトCD8βポリペプチドの少なくとも免疫グロブリンV様ドメインおよびマウスCD8βポリペプチドの免疫グロブリンV様ドメイン以外の配列をコードする配列を含む。一実施形態では、第1のヌクレオチド配列は、ヒトCD8αポリペプチドの少なくともMHC I結合性ドメインを含む。一実施形態では、第1のヌクレオチド配列および第2のヌクレオチド配列は、それぞれ、少なくともヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドの細胞外ドメインをコードするエクソンを含む。一実施形態では、ヒトCD8αポリペプチドおよび/またはCD8βポリペプチドの細胞外ドメインは、ヒトCD8αポリペプチドおよび/またはCD8βポリペプチドの膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインではないドメインを包含する領域である。一実施形態では、ヒトCD8αポリペプチドのドメインは、
図4および
図5において概略的に示されている通りである。一実施形態では、ヒトCD8βポリペプチドのドメインは、
図3および
図5に概略的に示されている通りである。一実施形態では、キメラヒト/マウスCD8αポリペプチドおよび/またはCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、それぞれマウスCD8αおよび/またはCD8βシグナルペプチドをコードする配列を含む。あるいは、ヌクレオチド配列は、ヒトCD8αおよび/またはCD8βシグナル配列をコードする配列を含み得る。一実施形態では、マウスは、マウスCD8αおよび/またはCD8β細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てをコードするヌクレオチド配列の、それぞれヒトCD8αおよび/またはCD8β細胞外ドメインの全てまたは実質的に全てをコードするヌクレオチド配列での置き換えを含む。
【0097】
一実施形態では、マウスは、その内在性CD8遺伝子座に由来する機能的な内在性マウスCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドを発現しない。一実施形態では、本明細書に記載のマウスは、その生殖細胞系列内にキメラヒト/マウスCD8配列を含む。
【0098】
一態様では、キメラヒト/マウスCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドを発現するマウスは、マウスCD8αおよび/またはCD8βプロモーター配列および調節配列を保持する、例えばマウスにおいてキメラヒト/マウスCD8をコードするヌクレオチド配列は、内在性マウスCD8プロモーター配列および調節配列に作動可能に連結している。一態様では、マウスにおいて保持されるこれらの調節配列としては、T細胞の発生の適切な段階においてCD8タンパク質の発現を調節する配列が挙げられる。一態様では、遺伝子改変マウスは、B細胞もしくはCD4系列のT細胞、または通常内在性CD8を発現しない任意の細胞、例えば免疫細胞上でキメラCD8を発現しない。
【0099】
種々の実施形態では、本明細書に記載のキメラCD8遺伝子座に由来する機能的なキメラCD8タンパク質(例えば、CD8αβまたはCD8αα)を発現する非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)は、細胞表面上にキメラタンパク質をディスプレイする。一実施形態では、非ヒト動物は、細胞表面上にキメラCD8タンパク質をヒトにおいて観察されるものと同じ細胞分布で発現する。一態様では、本発明のCD8タンパク質は、第2の細胞の表面上に発現するMHC Iタンパク質と相互作用することができる。
【0100】
一実施形態では、本発明の非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウス)は、ヒトまたはヒト化MHC Iタンパク質をコードするヌクレオチド配列をさらに含み、したがって、動物のT細胞の表面上に発現するキメラCD8タンパク質は、第2の細胞、例えば抗原提示細胞の表面上に発現するヒトまたはヒト化MHC Iと相互作用することができる。一実施形態では、MHC Iタンパク質は、ヒトMHC Iポリペプチドの細胞外ドメインを含む。一実施形態では、動物は、ヒトまたはヒト化β-2ミクログロブリンポリペプチドをさらに含む。ヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドおよび/またはβ-2ミクログロブリンポリペプチドを発現する遺伝子改変動物の例は、どちらもそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、2012年10月26日出願の米国特許出願第13/661,159号、および2013年3月11日出願の米国特許出願第13/793,812号に記載されている。したがって、一実施形態では、本明細書に記載のキメラCD8タンパク質を含む動物は、ヒト化MHC I複合体をさらに含み得、当該ヒト化MHC
I複合体は、(1)例えば、ヒトMHC I細胞外ドメインならびに内在性(例えばマウス)MHC Iの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むヒト化MHC Iポリペプチド、例えば、ヒトMHC Iポリペプチドのα1ドメイン、α2ドメイン、およびα3ドメインを含むヒト化MHC Iポリペプチド、ならびに(2)ヒトまたはヒト化β2ミクログロブリンポリペプチドを含む(例えば、動物は、そのゲノム内に、ヒトβ2ミクログロブリンのエクソン2、エクソン3、およびエクソン4に示されているヌクレオチド配列を含む)。一態様では、ヒト化MHC Iおよびヒトまたはヒト化β2ミクログロブリンポリペプチドはどちらも、それぞれ内在性MHC I遺伝子座およびβ2ミクログロブリン遺伝子座に位置するヌクレオチド配列によりコードされる;一態様では、動物は、機能的な内在性MHC Iおよびβ2ミクログロブリンポリペプチドを発現しない。したがって、動物によって発現するMHC Iは、キメラヒト/非ヒト、例えば、ヒト/げっ歯類(例えば、ヒト/マウス)MHC Iポリペプチドであってよい。キメラMHC Iポリペプチドのヒト部分は、HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cからなる群から選択されるヒトHLAクラスIタンパク質、例えば、HLA-A2、HLA-B27、HLA-B7、HLA-Cw6、またはヒト集団内に存在する任意の他のHLAクラスI分子由来のものであってよい。動物がマウスである実施形態では、キメラMHC Iポリペプチドの非ヒト(すなわち、マウス)部分は、H-2D、H-2KおよびH-2Lから選択されるマウスMHC Iタンパク質由来のものであってよい。一態様では、本明細書に記載のキメラヒト/非ヒトCD8および米国特許出願第13/661,159号および同第13/793,812号に記載のヒト化MHC Iおよび/またはβ-2ミクログロブリンを含む非ヒト動物は、本明細書に記載のキメラCD8遺伝子座(例えばキメラCD8αおよび/またはCD8β遺伝子座)を含む動物とヒト化MHC Iおよび/またはβ-2ミクログロブリン遺伝子座を含む動物を掛け合わせることによって作製することができる。動物は、例えば、内在性CD8遺伝子座(例えばキメラCD8αおよび/またはCD8β遺伝子座)における置き換えのために、ヒト化MHC Iおよび/またはβ-2ミクログロブリン遺伝子座を含む動物のES細胞にキメラCD8(例えばキメラCD8αおよび/またはCD8β)をコードするヌクレオチド配列を導入することによって、またはキメラCD8遺伝子座(例えばキメラCD8αおよび/またはCD8β遺伝子座)を含む動物のES細胞に、ヒト化MHC Iおよび/またはβ-2ミクログロブリンをコードするヌクレオチド配列(複数可)を導入することによって作製することもできる。
【0101】
遺伝子操作された非ヒト動物に加えて、非ヒト胚(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラットの胚)も提供され、当該胚は、本明細書に記載の非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)に由来するドナーES細胞を含む。一態様では、胚は、キメラCD8遺伝子を含むESドナー細胞、および宿主胚細胞を含む。
【0102】
本明細書に記載の非ヒト動物(例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラット)に由来し、キメラCD8タンパク質を発現する組織も提供される。
【0103】
さらに、本明細書に記載の非ヒト動物から単離された非ヒト細胞が提供される。一実施形態では、細胞はES細胞である。一実施形態では、細胞は、T細胞、例えばCD8+T細胞である。一実施形態では、細胞は、細胞傷害性T細胞である。
【0104】
本明細書に記載の非ヒト動物の染色体またはその断片を含む非ヒト細胞も提供される。一実施形態では、非ヒト細胞は、本明細書に記載の非ヒト動物の核を含む。一実施形態では、非ヒト細胞は、核移植の結果として染色体またはその断片を含む。
【0105】
一態様では、本明細書に記載のキメラCD8ポリペプチド(例えば、CD8αおよび/またはCD8βポリペプチド)をコードする遺伝子を含む非ヒト人工多能性細胞が提供される。一実施形態では、人工多能性細胞は、本明細書に記載の非ヒト動物に由来する。
【0106】
一態様では、本明細書に記載の非ヒト動物の細胞に由来するハイブリドーマまたはクアドローマが提供される。一実施形態では、非ヒト動物はマウスまたはラットである。
【0107】
一態様では、表面上にキメラCD8タンパク質を担持するT細胞、およびキメラCD8に結合する第2の細胞を含むin vitro調製物が提供される。一実施形態では、第2の細胞は、MHC Iポリペプチド、例えばキメラヒト/非ヒトMHC Iタンパク質を発現する細胞である。一実施形態では、第1の細胞の表面上のキメラCD8は、第2の細胞の表面上のキメラMHC Iと相互作用する。一実施形態では、キメラCD8タンパク質は、内在性細胞質ゾルの分子、例えば内在性細胞質ゾルシグナル伝達分子(例えば、内在性Lckなど)との相互作用を保持する。
【0108】
本明細書では、本明細書に記載の遺伝子操作された非ヒト動物を作出するための方法も提供される。当該方法により、内在性CD8遺伝子座に、キメラヒト/非ヒトCD8αおよび/またはCD8βポリペプチドをコードするヌクレオチド配列(複数可)を含む動物がもたらされる。当該方法では、実施例に記載の通り、VELOCIGENE(登録商標)技術を使用して作出されたターゲティング構築物、ES細胞への構築物の導入、およびVELOCIMOUSE(登録商標)技術を使用したマウス胚への標的ES細胞クローンの導入を利用することができる。
【0109】
一実施形態では、本発明は、非ヒト動物のCD8遺伝子座を、本明細書に記載のキメラヒト/非ヒトCD8ポリペプチドを発現するように改変する方法を提供する。一態様では、マウスのCD8遺伝子座を、キメラヒト/マウスCD8ポリペプチドを発現するように改変する方法であって、マウスの内在性CD8遺伝子座において、内在性マウスCD8ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列をキメラヒト/マウスCD8ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列で置き換えるステップを含む方法が提供される。CD8ポリペプチドは、CD8α、CD8β、およびその組合せから選択することができる。一態様では、キメラポリペプチドは、ヒトCD8ポリペプチドの細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびに内在性マウスCD8ポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。
【0110】
したがって、本明細書に記載の遺伝子改変動物を作製するためのヌクレオチド構築物も提供される。一態様では、ヌクレオチド構築物の配列は、5’および3’相同性アーム、ヒトCD8αまたはCD8β配列を含むDNA断片、および組換え部位と隣接する選択カセットを含む。一部の実施形態では、ヒト配列は、ヒトCD8αまたはCD8βのイントロンおよびエクソン、例えば、それぞれヒトCD8αまたはCD8βの細胞外ドメインをコードするエクソンを含む。一実施形態では、相同性アームは、非ヒトCD8αまたはCD8β配列と相同である。CD8αおよびCD8βについての構築物の例はそれぞれ
図4および
図3に示されている。
【0111】
CD8αおよびCD8βをコードする遺伝子は染色体内で近くに局在化するので、2つの遺伝子を逐次的にターゲティングすることにより、上首尾のヒト化の機会が改善される。一実施形態では、ターゲティング戦略は、本明細書に記載のキメラCD8β構築物をES細胞に導入するステップ、標的ES細胞からマウスを作製するステップ、該マウスから遺伝子改変ES細胞を引き出すステップ、および本明細書に記載のキメラCD8α構築物を該遺伝子改変ES細胞に導入するステップを含む。別の実施形態では、ターゲティング戦略は、本明細書に記載のキメラCD8β構築物をES細胞に導入するステップ、キメラCD8β構築物が組み入れられた細胞を選択するステップ、本明細書に記載のキメラCD8α構築物を、キメラCD8β構築物が組み入れられ、それを有するES細胞に導入するステップ、およびキメラCD8βおよびCD8αの両方が組み入れられた細胞を選択するステップを含む。この実施形態の一態様では、選択するステップは、異なる選択マーカーを利用して実施する。代替の実施形態では、CD8αのヒト化を最初に実現することができる。遺伝子ターゲティングが完了したら、遺伝子改変非ヒト動物のES細胞をスクリーニングして、目的の外因性のヌクレオチド配列が上首尾に組み入れられたことまたは外因性のポリペプチドが発現することを、種々の方法(例えば、CD4のヒト化について上で記載されている方法、例えば、Valenzuelaら、上記に記載の対立遺伝子アッセイの改変)によって確認することができる。
【0112】
一態様では、キメラヒト/非ヒトCD8分子(例えば、CD8αおよび/またはCD8β)を作出するための方法であって、単一細胞において本明細書に記載のヌクレオチド構築物(複数可)からキメラCD8ポリペプチド(複数可)を発現させるステップを含む方法が提供される。一実施形態では、ヌクレオチド構築物はウイルスベクターであり、特定の実施形態では、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。一実施形態では、細胞は、ウイルス核酸配列(例えば、PERC.6(商標)細胞)を発現するCHO、COS、293、HeLa、および網膜細胞から選択される。
【0113】
一態様では、キメラCD8タンパク質を発現する細胞が提供される。一実施形態では、細胞は、本明細書に記載のキメラCD8配列(複数可)を含む発現ベクターを含む。一実施形態では、細胞は、ウイルス核酸配列(例えば、PERC.6(商標)細胞)を発現するCHO、COS、293、HeLa、および網膜細胞から選択される。
【0114】
本明細書に記載の非ヒト動物によって作製されるキメラCD8分子であって、ヒトCD8タンパク質(例えば、CD8αおよび/またはCD8β)由来の細胞外ドメインの全てまたは実質的に全て、ならびに非ヒトCD8タンパク質、例えばマウスCD8タンパク質由来の少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含むキメラCD8分子も提供される。例示的なキメラCD8αポリペプチドは配列番号54に記載されており、例示的なキメラCD8βタンパク質は配列番号53に記載されている。
【0115】
遺伝子改変CD4動物および遺伝子改変CD8動物の使用
ヒト化CD4およびMHC IIまたはヒト化CD8およびMHC Iのいずれかを含む遺伝子改変非ヒト動物、例えば、げっ歯類、例えばマウスまたはラットは、複合体の構成成分の実質的に全てがヒトのものまたはヒト化されたものであるので、ペプチドをT細胞(それぞれCD4+またはCD8+T細胞)にヒト様の様式で提示する。本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、ヒト化動物におけるヒト免疫系の機能を試験するため;例えば、ワクチン開発において使用するための、免疫応答を引き出す抗原および抗原エピトープ(例えばT細胞エピトープ、例えば、独特のヒトがんエピトープ)を同定するため;例えば、適応T細胞療法(adaptive T cell therapy)において使用するための、ヒト病原体またはがん抗原に対する高親和性T細胞(すなわち、ヒトMHC I複合体の状況で抗原に高い結合活性で結合するT細胞)を同定するため;ワクチン候補および他のワクチン戦略を評価するため;ヒト自己免疫を研究するため;ヒト感染症を研究するため;および他の点で、ヒトMHCおよびCD4/CD8発現に基づくよりよい治療戦略を考案するために使用することができる。
【0116】
したがって、種々の実施形態では、本発明の遺伝子操作された動物は、とりわけ、ヒトにおける免疫応答を開始させる抗原の能力を評価するため、および抗原の多様性を生じさせ、ヒトワクチン開発において使用することができる特定の抗原を同定するために有用である。
【0117】
一態様では、ペプチドによりヒトにおける細胞性免疫応答が惹起されるかどうかを決定するための方法であって、本明細書に記載の遺伝子改変非ヒト動物をペプチドに曝露するステップ、非ヒト動物に免疫応答を開始させるステップ、および本明細書に記載のキメラヒト/非ヒトMHC IまたはMHC II分子によって提示されたペプチドの配列に結合する非ヒト動物細胞(例えば、それぞれヒトCD8またはCD4を含むCD8+またはCD4+T細胞)を検出するステップを含む方法が提供される。一実施形態では、曝露後の非ヒト動物は、ペプチドに結合するMHCクラスI制限CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を含む。別の実施形態では、曝露後の非ヒト動物は、ペプチドに結合するMHC II制限CD4+T細胞を含む。
【0118】
一態様では、ヒトT細胞エピトープを同定するための方法であって、本明細書に記載の非ヒト動物を、推定T細胞エピトープを含む抗原に曝露するステップ、非ヒト動物に免疫応答を開始させるステップ、非ヒト動物から、エピトープに結合するMHCクラスI制限T細胞またはMHCクラスII制限T細胞を単離するステップ、および該T細胞が結合したエピトープを同定するステップを含む方法が提供される。
【0119】
一態様では、ヒトにおけるT細胞応答を生じさせる抗原を同定するための方法であって、推定抗原を本明細書に記載のマウスに曝露するステップ、マウスに免疫応答を生じさせるステップ、およびHLAクラスI制限分子またはクラスII制限分子が結合した抗原を同定するステップを含む方法が提供される。
【0120】
一態様では、推定抗原が、ヒト免疫系に曝露するとHLAクラスI制限免疫応答またはクラスII制限免疫応答を生じるエピトープを含有するかどうか決定するための方法であって、本明細書に記載のマウスを推定抗原に曝露するステップ、およびマウスにおける抗原特異的なHLAクラスI制限免疫応答またはHLAクラスII制限免疫応答を測定するステップを含む方法が提供される。
【0121】
さらに、本明細書に記載の遺伝子操作された非ヒト動物は、目的の抗原、例えば、腫瘍または別の疾患の抗原を認識するT細胞受容体、例えば、結合活性が高いT細胞受容体を同定するために有用であり得る。当該方法は、本明細書に記載の非ヒト動物を抗原に曝露するステップ、非ヒト動物に抗原に対する免疫応答を開始させるステップ、ヒトまたはヒト化MHC IまたはMHC IIによって提示される抗原に結合するT細胞受容体を含む非ヒト動物T細胞を単離するステップ、および該T細胞受容体の配列を決定するステップを含み得る。
【0122】
一実施形態では、推定ヒト治療薬によるT細胞活性化を決定するための方法であって、本明細書に記載の遺伝子改変動物を推定ヒト治療薬に曝露する(または、例えば、そのような動物のヒトまたはヒト化MHC II発現細胞またはMHC I発現細胞を推定治療薬のペプチド配列に曝露する)ステップ、ヒトまたはヒト化MHC/ペプチド複合体をディスプレイする遺伝子改変動物の細胞を、遺伝子改変動物の細胞に結合することができるキメラヒト/非ヒト(例えば、ヒト/マウス)CD4またはCD8を含むT細胞に曝露するステップ、および遺伝子改変動物のペプチドをディスプレイしている細胞によって誘導されるT細胞の活性化を測定するステップを含む方法が提供される。
【0123】
ヒト病原体または新生物から抗原および抗原エピトープを同定できることに加えて、本発明の遺伝子改変動物は、ヒト自己免疫疾患、例えば、1型糖尿病、多発性硬化症などに関連する自己抗原を同定するために使用することができる。また、本発明の遺伝子改変動物は、ヒト自己免疫疾患の種々の態様を研究するために使用すること、および自己免疫疾患モデルとして利用することもできる。
【0124】
本明細書に記載の遺伝子改変動物、すなわち、ヒトまたはヒト化T細胞補助受容体(例えばキメラヒト/非ヒトCD4またはCD8)を含み、任意選択で、ヒトまたはヒト化MHC IIまたはIタンパク質をさらに含む動物の他の使用は、本開示から明らかになるであろう。
【実施例0125】
本発明を以下の非限定的な実施例によりさらに例示する。これらの実施例は本発明の理解を補助するために記載されており、いかなる形でもその範囲を限定するものではなく、そのように解釈されるべきである。実施例には、当業者には周知であろう従来の方法(分子クローニング技法など)の詳細な説明は含まれない。別段の指定のない限り、部分は重量による部分であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏で示されており、圧力は大気または大気付近の圧力である。
【0126】
(実施例1)
遺伝子改変CD4マウスの構築および特徴付け
実施例1.1:キメラCD4遺伝子座の工学的操作
マウスCD4遺伝子座を、ヒト細菌人工染色体(BAC)DNAおよびマウス細菌人工染色体(BAC)DNAからVELOCIGENE(登録商標)技術(例えば、米国特許第6,586,251号、およびValenzuelaら(2003年)High-throughput engineering of the mouse genome
coupled with high-resolution expression
analysis. Nat. Biotech. 21巻(6号):652~659頁を参照されたい)を使用して独特のターゲティングベクターを構築することによって単一のステップでヒト化した。ターゲティングベクターを作製するために、細菌人工染色体(BAC)DNAを使用した一連の細菌相同組換え(BHR)、ならびに他の工学的操作ステップを行った。
【0127】
簡単に述べると、4つのDNA断片(1)マウスシグナルペプチド(マウスCD4遺伝子のエクソン2およびエクソン3によりコードされる)を含有する断片、(2)マウスシグナルペプチドの下流のヒトエクソン3を含有する断片、(3)Asc I部位およびPI-SceI部位が隣接するSPEC耐性カセットを含有する断片、および(4)マウスCD4エクソン6の約200bp下流で始まる160bpのマウスCD4イントロン6(エクソン6とエクソン7の間のイントロン)を含有する断片をインフュージョンライゲーション(infusion ligation)(Clonetech)によって接合した。生じたDNA断片は、5’から3’までに、マウスエクソン2、マウスイントロン2、シグナルペプチドを含有するマウスエクソン3の一部、ヒトシグナルペプチドの下流のヒトエクソン3、ヒトイントロン3の一部、SPECカセット、マウスイントロン6の一部を含有した。このDNA断片をBHRに使用して、マウスCD4 Ig様ドメイン1~3をコードするマウス配列が欠失するように、およびヒトCD4のエクソン3が導入されるように、マウスBACクローンBMQ391F08を改変した。BACのCMカセットでSPECカセットを置換し、それにより、第1のBACベクターがもたらされた(
図1、上の図)。
【0128】
ヒトBAC RP11-101F21をBHRにより、AscI-LoxP-PGK-neo-loxPカセットがヒトエクソン3の60bp下流に導入されるように、およびPI-SceI制限部位およびSPECカセットがエクソン6の約100bp下流に導入されるように改変し、これにより、第2のBACベクターがもたらされた(
図1、中央の図)。このステップの後に、AscI制限酵素およびPI-SceI制限酵素を用いた消化の後、第1のBACベクターおよび第2のBACベクターのBAC間ライゲーションを行って、CD4ターゲティングベクターを作製した(
図1、下の図)。マウス-ヒト配列およびヒト-マウス配列の上流および下流の接合部は、それぞれ以下の表1に列挙されており、また、配列表に記載されている。ヒトイントロン3-lox-neoカセット接合部(カセットの5’末端)にわたる配列は配列番号55に記載されており、lox-neoカセット-ヒトイントロン3接合部(カセットの3’末端)にわたる配列は配列番号56に記載されており、どちらの配列も、表1にも列挙されている。
図1に示されているpgk-neoカセットを含めたヒト化CD4片の完全な核酸配列は配列番号3に記載されている。pgk-neoカセットは配列番号3の残基307~2176にわたり、2つのlox部位は残基267~300および2182~2215に位置し、ヒト配列は残基1~234および2222~18263にわたる。完全ヒト化CD4タンパク質のアミノ酸配列は配列番号4に記載されており、ヒト配列はアミノ酸27~319にわたる(配列番号57に記載されている)。
【表1】
【0129】
ヒトCD4ターゲティングベクターを、NotIを用いて直線化し、F1H4マウスES細胞に電気穿孔により導入した。ヒト化CD4遺伝子座を担持する標的ES細胞を、対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら)の改変を使用した遺伝子型決定によって同定し、それによりネオマイシンカセットおよびヒトCD4遺伝子、ならびにマウスCD4遺伝子の1つのコピーの存在が検出された。このアッセイにおいて使用したプライマーおよびプローブは表2に示されており、また、配列表に記載されている。
【表2】
【0130】
ヒト化CD4遺伝子座を含有するES細胞にCreリコンビナーゼを発現するプラスミドを電気穿孔により導入することによってFloxedネオマイシン耐性カセットを除去した。
【0131】
耐性マーカーを有さないヒト化CD4遺伝子座を担持する標的ES細胞を遺伝子型決定によって同定し、それによりネオマイシンカセットの不在、ヒトCD4遺伝子の1つのコピーおよびマウスCD4遺伝子の1つのコピーの存在が検出された。
【0132】
上記の標的ES細胞をドナーES細胞として使用し、VELOCIMOUSE(登録商標)法(例えば、米国特許第7,294,754号、およびPoueymirouら(2007年)F0 generation mice that are essentially fully derived from the donor gene-targeted ES cells allowing immediate phenotypic analyses Nature Biotech. 25巻(1号):91~99頁を参照されたい)によって8細胞期マウス胚に導入した。キメラCD4遺伝子を独立に担持するVELOCIMICE(登録商標)(ドナーES細胞に完全に由来するF0マウス)を、対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら、上記)の改変を使用した遺伝子型決定によって同定し、それにより独特のヒトCD4遺伝子配列の存在が検出された。
【0133】
(実施例1.2)
遺伝子操作されたマウスにおけるキメラCD4の発現
WTまたはヘテロ接合性ヒト化CD4マウス(「1766HET」)由来の脾臓を、コラゲナーゼD(Roche Bioscience)を用いて灌流し、ACK溶解緩衝液を用いて赤血球を溶解させた。ヒトCD4またはマウスCD4の細胞表面での発現を、それぞれ抗ヒトCD4抗体または抗マウスCD4抗体のいずれかを使用したFACSによって分析した。
図2Aおよび
図2Bに示されている通り、本明細書に記載のヒト化CD4についてヘテロ接合性であるマウスから得られたT細胞の表面上でヒトCD4が発現された。
【0134】
(実施例2)
遺伝子改変CD8マウスの構築および特徴付け
CD8タンパク質は、ジスルフィド連結したホモ二量体(例えば、CD8αホモ二量体)もしくは2つのサブユニットのホモ多量体のいずれかとして、または2つのタンパク質、CD8α(CD8a)およびCD8β(CD8b)のヘテロ二量体として存在する。CD8αおよびCD8β遺伝子はゲノム内、例えば、マウス第6染色体上に共局在しており、これらは互いと約37kb離れて位置する。そのような近いつながりにより、掛け合わせによってCD8α遺伝子座とCD8β遺伝子座の両方にヒト化を含む遺伝子改変マウスを作製することが非常に難しいものになっている。したがって、まず1つの遺伝子、例えばCD8βを導入し、その後、第2の遺伝子、例えばCD8αを導入する逐次的なターゲティングが実施される。
【0135】
(実施例2.1)
キメラCD8β遺伝子座の工学的操作
マウスCD8b遺伝子座を、マウス細菌人工染色体(BAC)DNAから、VELOCIGENE(登録商標)技術(例えば、米国特許第6,586,251号、およびValenzuelaら(2003年)High-throughput engineering of the mouse genome coupled with high-resolution expression analysis. Nat. Biotech. 21巻(6号):652~659頁を参照されたい)を使用して独特のターゲティングベクターを構築することにより単一のステップでヒト化した。CD8ectoドメイン(イントロン1内の5’接合部からイントロン3内の3’接合部まで)をコードするマウスエクソン2~3の、相同なヒト配列での置き換えが含有されるように、BAC RP23-431M6由来のDNAをBHRによって改変して大きなターゲティングベクター(LTVEC)、MAID1737を作製した(
図3)。loxp-Ub-Hygカセットをイントロン3内の3’接合部に挿入した。生じたベクターの種々の接合部にあるヌクレオチド配列は表3に列挙されており、また、配列表に記載されている。ヒト化CD8βタンパク質の完全なアミノ酸配列は配列番号53に記載されており、ヒト配列はアミノ酸15~165にわたる(配列番号58に記載されている)。
【表3】
【0136】
ターゲティングベクターをF1H4マウスES細胞に電気穿孔により導入した(
図5、左側)。ヒト化CD8b遺伝子座を担持する標的ES細胞を、対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら)の改変を使用した遺伝子型決定によって同定し、それによりヒトCD8b遺伝子の存在が検出された。このアッセイにおいて使用したプライマーおよびプローブは表4に示されており、また、配列表に記載されている。
【表4】
【0137】
上記の標的ES細胞をドナーES細胞として使用し、VELOCIMOUSE(登録商標)法(例えば、米国特許第7,294,754号、およびPoueymirouら(2007年)F0 generation mice that are essentially fully derived from the donor gene-targeted ES cells allowing immediate phenotypic analyses Nature Biotech. 25巻(1号):91~99頁を参照されたい)によって8細胞期マウス胚に導入した。キメラCD8b遺伝子を独立に担持するVELOCIMICE(登録商標)(ドナーES細胞に完全に由来するF0マウス)を対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら、上記)の改変を使用した遺伝子型決定によって同定し、それにより独特のヒトCD8b遺伝子配列の存在が検出された。
【0138】
選択カセットは当業者に公知の方法によって除去することができる。例えば、ヒトCD8b遺伝子配列を含有するターゲティング構築物を挿入することによって導入した「loxed」ハイグロマイシンカセットを除去するために、キメラヒト/マウスCD8b遺伝子座を担持するES細胞に、Creを発現する構築物をトランスフェクトすることができる。ハイグロマイシンカセットは、任意選択で、Creリコンビナーゼを発現するマウスと掛け合わせることによって除去することができる。任意選択で、ハイグロマイシンカセットはマウス内に保持される。一実施形態では、カセットを欠失させてMAID1739を作製する。
【0139】
(実施例2.2)
キメラCD8α遺伝子座の工学的操作
マウスCD8a遺伝子座を、マウス細菌人工染色体(BAC)DNAから、VELOCIGENE(登録商標)技術(例えば、米国特許第6,586,251号およびValenzuelaら、上記を参照されたい)を使用して独特のターゲティングベクターを構築することにより単一のステップでヒト化した。CD8a ectoドメイン(マウスエクソン1内のAlaコドン27にある5’接合部からマウスイントロン2内の3’接合部まで)をコードするマウスエクソン1~2の、相同なヒト配列(ヒトエクソン2内の5’接合部からイントロン3内の3’接合部まで(
図4))での置き換えが含有されるように、BAC RP23-431M6由来のDNAをBHRによって改変して大きなターゲティングベクター(LTVEC)、MAID1738を作製した。これにより、エクソン1の開始点にあるマウスリーダー配列は保持される。lox2372-Ub-Neoカセットをヒト/マウスの配列の3’接合部に挿入した。生じたベクターの種々の接合部にあるヌクレオチド配列は表5に列挙されており、また、配列表に記載されている。ヒト化CD8αポリペプチドの完全なアミノ酸配列は配列番号54に記載されており、ヒト配列はアミノ酸28~179にわたる(配列番号59に記載されている)。
【表5】
【0140】
上記のヒト化CD8aターゲティングベクターを、ヒト化CD8b遺伝子座を含有するマウスES細胞に電気穿孔により導入して、ヒト化CD8bおよびCD8a遺伝子座を含む改変ES細胞を創製した(
図5)。ヒト化CD8a遺伝子座を担持する標的ES細胞を、対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら)の改変を使用した遺伝子型決定によって同定し、それによりヒトCD8a遺伝子の存在が検出された。このアッセイにおいて使用したプライマーおよびプローブは表6に示されており、また、配列表に記載されている。
【表6】
【0141】
上記の標的ES細胞をドナーES細胞として使用し、VELOCIMOUSE(登録商標)法(例えば、米国特許第7,294,754号およびPoueymirouら、上記を参照されたい)によって8細胞期マウス胚に導入した。キメラCD8b遺伝子およびキメラCD8a遺伝子を担持するVELOCIMICE(登録商標)(ドナーES細胞に完全に由来するF0マウス)を対立遺伝子アッセイ(Valenzuelaら、上記)の改変を使用した遺伝子型決定によって同定し、それにより独特のヒトCD8bおよびCD8a遺伝子配列の存在が検出された。
【0142】
あるいは、本明細書に記載のヒト化CD8aターゲティングベクターを、ヒト化CD8b遺伝子座を含有しないマウスES細胞に電気穿孔により導入して、ヒト化CD8a遺伝子座のみを含むマウスを作製する。
【0143】
CD8a遺伝子座内の選択カセットは、例えば、上の実施例2.1に記載の通り、当業者に公知の方法によって除去することができる。一実施形態では、選択カセットを欠失させてMAID1740マウスを作製する。
【0144】
(実施例2.3)
遺伝子操作されたマウスにおけるキメラCD8の発現
ヒト化CD8a遺伝子(MAID1740)およびCD8b遺伝子(MAID1739)の両方についてヘテロ接合性であるマウスを、ヒトCD8の発現について分析した。
【0145】
ヒトCD8aおよびCD8bの発現は、ヘテロ接合体の脾臓に由来するCD3+CD4-T細胞の表面上では明白に検出可能であったが、野生型動物では明白には検出可能でなかった(
図6)。
【0146】
ヒトCD8aおよびCD8bの発現は、ヘテロ接合性から得た胸腺細胞の表面上でも検出可能であったが、野生型動物では明白には検出可能でなかった(
図7)。
【0147】
均等物
当業者は、常套的な実験だけを使用して、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態の多くの均等物を理解する、または確認することができる。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0148】
全ての非特許文献、本出願全体を通して引用されている特許出願および特許の全内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。