(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184700
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】乳酸菌発酵物を利用した毛髪ダメージ軽減剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/99 20170101AFI20231221BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K8/99
A61Q5/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191186
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2019175607の分割
【原出願日】2019-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 俊方
(72)【発明者】
【氏名】松本 崇
(57)【要約】
【課題】毛髪ダメージを軽減する効果に優れた天然由来素材を提供する。
【解決手段】乳成分等を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物を、毛髪ダメージ軽減剤の有効成分として用いる。この毛髪ダメージ軽減剤は、洗髪やパーマ処理等によりダメージを受けた毛髪を回復させる効果に優れている。よって、毛髪ダメージ回復用組成物の配合成分等として好適に用いられる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌発酵物を有効成分とする、毛髪ダメージ軽減剤。
【請求項2】
前記乳酸菌発酵物として、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものを用いる、請求項1記載の毛髪ダメージ軽減剤。
【請求項3】
前記乳酸菌発酵物として、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものから得られる上清を分子量20000Da以下に分画した低分子画分を用いる、請求項1又は2記載の毛髪ダメージ軽減剤。
【請求項4】
前記乳酸菌発酵物の該乳酸菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルスに属する乳酸菌である、請求項1~3のいずれか1項に記載の毛髪ダメージ軽減剤。
【請求項5】
前記乳酸菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株(FERM BP-10879)である、請求項4記載の毛髪ダメージ軽減剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の毛髪ダメージ軽減剤を含有する毛髪用組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の毛髪ダメージ軽減剤の、毛髪用組成物の調製のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のダメージから毛髪を保護する効果を有する毛髪ダメージ軽減剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シャンプー等による洗髪、ドライヤー等による乾燥、パーマ処理、染毛処理、外出したときの紫外線等、それらの外来刺激に対する毛髪ダメージからの保護を企図した毛髪用化粧料が種々開発されている。このような化粧料は、日頃、日常的に使用されることも多いので、有効成分としては天然由来素材等であって頭皮や毛髪に対する刺激の少ないものが望まれている。
【0003】
一方、本出願人は、乳成分等を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物が、ペントシジン等の終末糖化産物の生成阻害に有効であることを明らかにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、乳成分等を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物について、毛髪に対する作用効果は明らかではなかった。
【0006】
本発明の目的は、毛髪ダメージを軽減する効果に優れた天然由来素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明者らが鋭意研究したところ、乳成分等を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物には、洗髪やパーマ処理等によるダメージから毛髪を保護する作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 乳酸菌発酵物を有効成分とする、毛髪ダメージ軽減剤。
[2] 前記乳酸菌発酵物として、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものを用いる、上記[1]記載の毛髪ダメージ軽減剤。
[3] 前記乳酸菌発酵物として、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものから得られる上清を分子量20000Da以下に分画した低分子画分を用いる、上記[1]又は[2]記載の毛髪ダメージ軽減剤。
[4] 前記乳酸菌発酵物の該乳酸菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルスに属する乳酸菌である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の毛髪ダメージ軽減剤。
[5] 前記乳酸菌が、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株(FERM BP-10879) である、上記[4]記載の毛髪ダメージ軽減剤。
[6] 上記[1]~[5]のいずれかに記載の毛髪ダメージ軽減剤を含有する毛髪用組成物。
[7] 上記[1]~[5]のいずれかに記載の毛髪ダメージ軽減剤の、毛髪用組成物の調製のための使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明の毛髪ダメージ軽減剤によれば、乳成分等を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物を有効成分とするので、毛髪用組成物の配合成分等として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験例1において毛髪の光沢度を測定した結果を示す図表であり、
図1(a)は単回の試験群における結果をグラフにして示す図表であり、
図1(b)は連用の試験群における結果をグラフにして示す図表であり、
図1(c)は測定の数値データを示す図表である。
【
図2】試験例1において毛髪の摩擦強度を測定した結果を示す図表であり、
図2(a)は単回の試験群における結果をグラフにして示す図表であり、
図2(b)は連用の試験群における結果をグラフにして示す図表であり、
図2(c)は測定の数値データを示す図表である。
【
図3】試験例1において毛髪の引っ張り強度を測定した結果を示す図表であり、
図3(a)は単回の試験群における結果をグラフにして示す図表であり、
図3(b)は連用の試験群における結果をグラフにして示す図表であり、
図3(c)は測定の数値データを示す図表である。
【
図4】試験例2において水を毛髪表面に滴下したときの接触角を測定した結果を示す図表であり、
図4(a)は結果をグラフにして示す図表であり、
図4(b)は測定の数値データを示す図表である。
【
図5】試験例2において各試験群について取得した画像の一例を示す図表である。
【
図6】試験例3において各試験群について毛髪表面のキューティクルの状態を調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、乳酸菌発酵物を、毛髪ダメージ軽減剤の有効成分として用いる。乳酸菌発酵物は、乳酸菌で発酵可能な発酵原料を発酵させて得られるものをいい、乳酸菌の菌体を含有していてもよく、含有していなくてもよい。例えば、乳酸菌による発酵原料の発酵後にろ過等により乳酸菌の菌体を除去した上清等であってもよい。
【0012】
発酵原料としては、乳酸菌で発酵可能なものであれば特に限定されず、例えば、牛乳、人乳、山羊乳等の獣乳、クリーム、脱脂粉乳等の動物由来の原料や、アロエ、豆乳等の植物由来の原料等が挙げられる。これらのなかでも牛乳、人乳、山羊乳等の獣乳、クリーム、脱脂粉乳等の乳成分を含有する発酵原料を使用することが特に好ましい。また、これら発酵原料は、ろ過や遠心分離処理、溶媒による溶解や希釈処理、ミキサー等による粉砕処理、アミラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ、プロテアーゼ等による酵素処理、溶媒による抽出処理等、原料に前処理を施してから発酵に用いてもよい。
【0013】
また、発酵に用いられる乳酸菌も特に限定されず、例えば、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・クリスパータス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・アミロボラス、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・ブフネリ、ラクトバチルス・ファーメンタム、ラクトバチルス・マリ、ラクトバチルス・パラブフネリ、ラクトバチルス・パラカゼイ、ラクトバチルス・ペントサス、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ビチュリヌス、ラクトバチルス・ゼアエ等のラクトバチルス属、ラクトコッカス・ラクティス等のラクトコッカス属、ロイコノストック・メセンテロイデス、ロイコノストック・カルノサム、ロイコノストック・シトレウム、ロイコノストック・ゲリダム、ロイコノストック・ラクティス等のロイコノストック属、ペディオコッカス・ペントサセウス等のペディオコッカス属、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム等のエンテロコッカス属、ワイセラ・コンフューサ、ワイセラ・パラメセンテロイデス、ワイセラ・ビリデスセンス等のワイセラ属、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属等の乳酸菌が挙げられる。これらの乳酸菌は1種または2種以上を用いてもよい。
【0014】
発酵条件も特に限定されず、例えば、発酵原料中に乳酸菌を0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%の濃度で含有せしめて、これを20~45℃、好ましくは25~42℃で1~96時間、好ましくは3~96時間発酵させればよい。また、例えば、静置、攪拌、振盪、通気等の他の条件についても、発酵に適した方法を適宜選択して行えばよい。
【0015】
更に、上記発酵の際には、発酵原料に、例えば、酵母エキス、クロレラエキス、ビタミン類、タンパク分解物、アミノ酸類、ミネラル類、塩類、界面活性剤、脂肪酸、金属類等を含有せしめてもよい。
【0016】
上記のようにして、発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物については、得られる乳酸菌の菌体を含んだまま、あるいはその菌体を除去したものを、そのまま用いることもできるが、更に、公知のろ過、透析、沈殿、遠心分離等の精製、分離処理や、更に、溶媒等による抽出処理、加熱処理をしたものを用いてもよい。また、凍結乾燥や濃縮乾固を施すこともできる。
【0017】
本発明の好ましい態様においては、乳酸菌発酵物を得るための発酵原料として、乳成分を含有する発酵原料を用いる。なかでも、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものから得られる上清が好ましく、特に、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものから得られる上清の低分子画分が好ましい。
【0018】
以下、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物について、更に説明する。
【0019】
乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたもの(以下、「乳酸菌発酵物(乳成分)」ということがある。)に用いられる乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス等のストレプトコッカス属、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタラム等のラクトバチルス属等の乳酸菌が好ましい。これらの乳酸菌の中でもストレプトコッカス属の乳酸菌が好ましく、ストレプトコッカス・サーモフィルスがより好ましい。また、その中でもストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株(FERM BP-10879、寄託日:2006年8月18日)、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2085株(FERM BP-10880、寄託日:2006年8月18日)、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2021株(FERM BP-7537、寄託日:平成8年(1996年)11月1日)、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2059株(FERM BP-10878、寄託日:2006年8月18日)、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2001株(FERM BP-7538、寄託日:平成13年(2001年)1月31日)等が好ましく、ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株(FERM BP-10879、寄託日:2006年8月18日)が特に好ましい。なお、これらの乳酸菌は1種または2種以上を用いてもよい。また、上記寄託番号の乳酸菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305-8566))に寄託されていたが、平成25年4月1日より独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番地8 120号室(郵便番号292-0818))に承継されている。
【0020】
乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させるには、公知の一般生育用の培養条件に従えばよく、例えば、乳成分が1~20質量%となるように乳成分含有培地を調製し、これに乳酸菌を0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%で接種し、20℃~45℃、好ましくは37℃~42℃で、1時間~48時間、好ましくは4時間~30時間培養すればよい。また、例えば、静置、攪拌、振盪、通気等の他の条件についても、発酵に適した方法を適宜選択して行えばよい。
【0021】
更に、乳成分含有培地には、乳酸菌の栄養源を補う目的で一般的に用いられる成分を、適宜配合してもよい。このような成分としては、酵母エキス、クロレラエキス、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類や、各種ペプチド類を含むタンパク分解物、アミノ酸類、カルシウム、マグネシウム等の塩類、ポリソルベート80等の界面活性剤、オレイン酸等の脂肪酸、カルシウム、マグネシウム、マンガン等の金属類が挙げられる。
【0022】
このようにして得られる乳酸菌発酵物(乳成分)は、公知のろ過、透析、沈殿、遠心分離等の精製、分離処理や、更に、溶媒等による抽出処理、加熱処理、凍結乾燥や濃縮乾固を施すこともできる。
【0023】
上記のようにして、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させて得られる乳酸菌発酵物については、得られる乳酸菌の菌体を含んだまま、あるいはその菌体を除去したものを、そのまま用いることもできるが、更に、公知のろ過、透析、沈殿、遠心分離等の精製、分離処理や、更に、溶媒等による抽出処理、加熱処理をしたものを用いてもよい。また、凍結乾燥や濃縮乾固を施すこともできる。
【0024】
また、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものから得られる上清(以下、「乳酸菌発酵物(乳成分)上清」ということがある。)は、上記のようにして得られる乳酸菌発酵物(乳成分)から遠心分離、ろ過等、常法に従って固形物を除去することにより得ることができる。
【0025】
また、乳成分を含有する発酵原料を乳酸菌で発酵させたものから得られる上清の低分子画分(以下、「乳酸菌発酵物(乳成分)上清の低分子画分」ということがある。)は、上記乳酸菌発酵物(乳成分)上清の分子量20,000Da以下の画分をさす。分子量20,000Da以下の画分は、乳酸菌発酵物(乳成分)上清に限外ろ過、ゲルろ過、透析等の処理を行うことにより得ることができる。
【0026】
以上のとおり説明した、本発明に係る乳酸菌発酵物は、毛髪ダメージを軽減する作用効果に優れている。ここで、本明細書において「毛髪ダメージ」とは、通常の当業者に理解される意味と異なるものではなく、例えば、シャンプー等による洗髪、ドライヤー等による乾燥、パーマ処理、染毛処理、外出したときの紫外線等、それらの外来刺激に対する毛髪ダメージを含む意味である。また、「軽減剤」とは、それを適用しない場合に比べて毛髪の状態を良好にさせるためのものであることを含む意味であり、あるいは、その適用によりダメージを受ける前の状態より更に優れた状態にさせるためのものであることを含む意味である。
【0027】
本発明に係る乳酸菌発酵物は、毛髪ダメージ軽減の用途で、それをそのまま用いることができるが、望ましい利用形態としては、種々の製品形態で調製された毛髪用組成物に含有せしめるのがよい。いくつかの態様においては、そのような毛髪用製品は、他の製剤的素材と組み合わせて調製されてもよい。他の製剤的素材としては、例えば、水、アルコール類、油成分、界面活性剤、防腐剤、香料、色素、保湿剤、増粘剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、発泡剤、紫外線吸収・散乱剤、粉体、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌剤、植物抽出物、海藻抽出物、各種薬剤等を挙げることができる。いくつかの態様においては、本発明に係る乳酸菌発酵物は、そのような毛髪用製品を製造する添加素材の形態であってもよい。
【0028】
本発明に係る乳酸菌発酵物を含有せしめる毛髪用組成物としては、具体的には、例えば、シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアリキッド、ヘアクリーム、ヘアミルク等の毛髪用製品が挙げられる。乳酸菌発酵物の含有量は、特に限定されるわけではなく、所望する製品形態等によって適宜設定すればよいが、製品組成物中に占める乳酸菌発酵物の質量(乾燥固形分)割合にして0.00001~15質量%であることが好ましく、0.00004~9質量%であることがより好ましく、0.0002~3質量%であることが更により好ましい。
【0029】
なお、本発明に係る乳酸菌発酵物を含有せしめる毛髪用組成物は、本発明のいくつかの態様において、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で定義されている医薬品、医薬部外品、又は化粧品に属するものであってもよい。
【実施例0030】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
[調製例1]
以下のようにして乳酸菌発酵物を得た。
【0032】
ストレプトコッカス・サーモフィルスYIT2084株(FERM BP-10879)の-80℃保存菌株を、2mL試験管中の10g/Lのラクトースを含むM-17培地(Difco社製)中に1白金耳植菌し、40℃で一晩静置培養した。次に、この培養物を、2mLの10質量%脱脂粉乳水溶液(Difco社製)中に1質量%となるよう植菌した後、40℃で一晩静置培養を行い、前培養とした。前培養物を本培養培地(3質量%脱脂粉乳水溶液)100mLに1質量%で植菌し、40℃で24時間静置培養した。培養後の菌液を、4℃、8,000×gで15分間遠心分離し、沈殿物を除去した。得られた沈殿物除去液(上清)を、分画分子量20,000Daの遠心分離方式限外濾過フィルター(商品名「セントリカットミニV-20」倉敷紡績社製)を用い、4℃、3,000×gで1時間限外ろ過を行って、低分子画分を10mL得た。この低分子画分中には、乾燥固形分が2%(20,000μg/mL)含まれていた。また、この乳酸菌発酵物(乳成分)上清の低分子画分の平均分子量は300Da程度であった。
【0033】
なお、平均分子量は、上記低分子画分を50mM塩化ナトリウム溶液に溶解後、下記条件でHPLCを行うことにより測定された値である。
【0034】
(HPLC条件)
装置:Waters-600E
検出器:ISIRI-980
カラム:ShodexSUGARKS-804
カラム温度:80℃
移動相:50mM NaCl
流速:1mL/分
注入量:10μL
【0035】
<試験例1>
調製例1で得られた乳酸菌発酵物について、毛髪ダメージに対する影響を調べた。そのために、まず、毛束製品である人毛黒髪(100%)根本揃え(商品名「BS-B3A」株式会社ビューラックス製)を使用して、40℃に調温した温水(水道水)で5分間洗髪し、洗髪後の毛束を乾いたタオルに60秒間挟んで余分な水分を除き(タオルドライ)、評価用のダメージ毛髪とした。
【0036】
乳酸菌発酵物又は精製水を容器に入れ、その容器内で洗髪処理後の毛束を10分間浸すことにより、それぞれの被験液に暴露させた。次いで、毛髪から約15cmの距離から温風ドライヤーで10分間乾燥させた。また、タオルドライ処理後の毛束を、何も処理しないで、そのまま同様に温風ドライヤーで10分間乾燥させた未処理群を設けた。
【0037】
更に、また、洗髪から温風ドライヤーまでの処理を単回行う試験群(以下、「単回」ということがある。)と、7日間にわたって1日1回、計7回実施した試験群(以下、「連用」という場合がある。)を設けた。
【0038】
(1)光沢度
毛髪の光沢度は、グロッシーメーター MPA-5(インテグラル株式会社)を用いて測定した。具体的には、毛束の長さ方向の真ん中付近に位置する部分及びその近隣の2箇所、計3箇所に装置に備わるプローブを押し当て、プローブから照射される光源に対する反射を自動測定した。測定は1毛束あたり3回ずつ行い、平均値を採用した。また、Student t検定による有意差検定を行った。なお、光沢度は、毛髪のツヤに関係する指標であるといえる。
【0039】
(2)摩擦強度
毛髪の摩擦強度は、デジタルフォースゲージ ZP-20N(株式会社イマダ)を用いて測定した。具体的には、装置に備わるコームを先端に装着させて、毛束の毛髪の根元部分から先端部分にかけて梳かし、その際の抵抗力(≒摩擦力)を測定した。測定は1毛束あたり3回ずつ行い、平均値を採用した。また、Student t検定による有意差検定を行った。なお、摩擦強度は、毛髪の櫛どおりに関係する指標であるといえる。
【0040】
(3)引っ張り強度
毛髪の引っ張り強度は、デジタルフォースゲージ ZP-20N(株式会社イマダ)を用いて測定した。具体的には、毛束のなかから任意の毛髪3本を採取して、装置に備わるアタッチメント両端に毛髪をセットし、モーターで0.08cm/秒の速度で引っ張り、毛髪が破断する際の力(N)を測定した。測定は1毛束あたり3回ずつ行い、平均値を採用した。また、Student t検定による有意差検定を行った。なお、引っ張り強度は、毛髪のコシに関係する指標であるといえる。
【0041】
【0042】
図1(a)に示されるように、単回の試験群では、精製水での処理により測定値1.73であったのに比べて、乳酸菌発酵物での処理により測定値2.45であり、また、
図1(b)に示されるように、連用の試験群では、精製水での処理により測定値1.99であったのに比べて、乳酸菌発酵物での処理により測定値2.86であり、単回及び連用のいずれにおいても精製水と比べて乳酸菌発酵物での処理により毛髪光沢度が高くなった。更に、未処理の場合の測定値2.05(単回)又は測定値2.13(連用)と比べても、乳酸菌発酵物での処理により毛髪光沢度が有意に高かった(ツヤが向上した)(単回及び連用の試験群において、ともに、p<0.01)。
【0043】
【0044】
図2(a)に示されるように、単回の試験群では、精製水での処理により測定値25.34であったのに比べて、乳酸菌発酵物での処理により測定値13.56であり、また、
図2(b)に示されるように、連用の試験群では、精製水での処理により測定値25.99であったのに比べて、乳酸菌発酵物での処理により測定値10.94であり、単回及び連用のいずれにおいても精製水と比べて乳酸菌発酵物での処理により毛髪摩擦強度が低くなった。また、単回及び連用のいずれにおいても未処理の場合と比べて、精製水での処理により毛髪摩擦強度が有意に高かったところ(櫛通りが低下したところ)(単回及び連用の試験群において、ともに、p<0.01)、乳酸菌発酵物での処理では、有意な差はみられず、未処理の場合と同等の櫛通りが維持されていた。更に乳酸菌発酵物での連用の試験群においては、未処理の場合と比べて毛髪摩擦強度の低下傾向(櫛通りの向上傾向)がみられた。
【0045】
【0046】
図3(a)に示されるように、単回の試験群では、精製水での処理により測定値0.72であったのに比べて、乳酸菌発酵物での処理により測定値1.10であり、また、
図3(b)に示されるように、連用の試験群では、精製水での処理により測定値0.79であったのに比べて、乳酸菌発酵物での処理により測定値1.31であり、単回及び連用のいずれにおいても精製水と比べて乳酸菌発酵物での処理により毛髪引っ張り強度が高くなった。更に、連用の試験群では、未処理の場合の測定値1.06と比べても、乳酸菌発酵物での処理により毛髪引っ張り強度が有意に高かった(コシが向上した)(単連用の試験群においてp<0.01)。
【0047】
<試験例2>
調製例1で得られた乳酸菌発酵物を使用して、毛髪ダメージに対する影響を調べた。そのために、まず、人毛黒髪(同一人物)(商品名「BS-PGM」株式会社ビューラックス製)を使用して、一定量の毛束を作製し、その毛束をラウリル硫酸ナトリウム(SLS: sodium lauryl sulfate)の0.5%水溶液に30分間浸漬後、精製水で洗浄し乾燥させた。次で、常法のパーマ剤処理を行った。回収した毛髪をよくすすぎ、冷風ドライヤーにて乾燥させたものを評価用のダメージ毛髪とした。
【0048】
乳酸菌発酵物又は精製水を容器に入れ、その容器内でパーマ剤処理後の毛束を10分間浸すことにより、それぞれの被験液に暴露させた。次いで、冷風ドライヤーで乾燥させた。また、パーマ剤処理後の毛束を、何も処理しないで、そのまま同様に冷風ドライヤーで乾燥させた未処理群を設けた。
【0049】
以上の処理を施したそれぞれの試験群の毛束のなかから、無作為に毛髪を採取して、スライドガラス上に表面が水平になるように固定した。毛髪表面に対して水を2μL滴下し20秒後の接触角を、測定装置「DropMasterDMo-501」(協和界面科学株式会社)にて測定すると共に画像を取得した。測定は1毛束あたり3回ずつ行い、平均値を採用した。得られた結果は、Student t検定を用いて有意差検定を行った。
【0050】
図4に接触角の測定値の結果示す。また、
図5には、それぞれの試験群について、取得した画像の一例を示す。
【0051】
図4、5に示されるように、精製水での処理群の接触角(98.6°)は、未処理群の接触角(103.2°)に比べて減少し、毛髪の表面がより親水性になる傾向がみられた。一方、乳酸菌発酵物での処理群の接触角(110.7°)は、未処理群の接触角(103.2°)に比べて増加し、毛髪の表面がより撥水性になる傾向がみられた。これは傷んだキューティクルが回復したためと考えられた。
【0052】
<試験例3>
カラー等の履歴の無い人毛1gを、室温で10%炭酸水素ナトリウム水溶液に1時間浸漬後、精製水で洗浄、乾燥し、ダメージ処理後の毛髪検体を得た。また、そのダメージ毛髪を調製例1で得られた乳酸菌発酵物に10分間浸漬後、精製水で洗浄、乾燥して、乳酸菌発酵物での処理後の毛髪検体を得た。
【0053】
処理前の検体、ダメージ処理後の検体、乳酸菌発酵物での処理後の検体について、それぞれマイクロスコープにて観察し、毛髪表面のキューティクルの状態を確認した。
【0054】
その結果、
図6に示されるように、健常毛ではキューティクルがきれいに揃って閉じているが、ダメージ毛では白くめくれてしまっていた。一方、調製例1で得られた乳酸菌発酵物で処理することで、キューティクルの改善がみられた。