(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184715
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】製鋼スラグの膨張抑制処理方法、製鋼スラグの利用方法および低f‐CaO含有スラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
C04B5/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191482
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2020150587の分割
【原出願日】2020-09-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 宣裕
(57)【要約】
【課題】低コストかつ短時間で処理を行うことができる製鋼スラグの膨張抑制処理方法を提供すること。
【解決手段】製鋼スラグの膨張抑制処理方法は、f‐CaOを含む製鋼スラグを、ポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に浸漬する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
f‐CaOを含む製鋼スラグを、ポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に浸漬する工程を含む、製鋼スラグの膨張抑制処理方法。
【請求項2】
前記ポリオール化合物は、ジオール化合物およびトリオール化合物から選択される1つ以上を含む、請求項1に記載の製鋼スラグの膨張抑制処理方法。
【請求項3】
前記トリオール化合物は、グリセリンを含む、請求項2に記載の製鋼スラグの膨張抑制処理方法。
【請求項4】
前記ジオール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールから選択される1つ以上を含む、請求項2に記載の製鋼スラグの膨張抑制処理方法。
【請求項5】
前記ポリオール化合物と水との混合物において、前記混合物に対する前記ポリオール化合物の質量比は0.2以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製鋼スラグの膨張抑制処理方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法で膨張抑制処理された製鋼スラグを路盤材として用いる、製鋼スラグの利用方法。
【請求項7】
f‐CaOを含む製鋼スラグを、ポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に浸漬する工程と、
浸漬工程後において低f‐CaO含有スラグを得る工程とを含む、低f‐CaO含有スラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、f‐CaOを含む製鋼スラグの膨張抑制処理方法および当該方法で膨張抑制処理された製鋼スラグの利用方法、ならびに低f‐CaO含有スラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼スラグは、高炉から副生される高炉スラグと、製鋼工程で副生される転炉系スラグや電気炉系スラグのような製鋼スラグとに区別される。副産物の有効利用や天然資源の保存・維持の観点から、このような鉄鋼スラグを、セメント原料、コンクリート用細骨材、路盤材、土工資材等へ利用することが注目されている。特に、路盤材や土工資材の用途には、製鋼スラグが利用される。
【0003】
製鋼スラグは、未反応石灰(以下、単に「f‐CaO」とも称する)や未反応酸化マグネシウム(以下、単に「f‐MgO」とも称する)等を含む場合があり、これらは水と反応して体積膨張を起こす性質を有する。そのため、例えば製鋼スラグをそのまま路盤材に適用すると、路盤材上に敷設したアスファルトが隆起したり、亀裂が生じる場合がある。従って、路盤材等の用途で製鋼スラグを使用する場合には、膨張抑制処理を施した製鋼スラグを用いる必要がある。
【0004】
製鋼スラグの膨張抑制処理方法は、数多く開発されている。代表的には、製鋼スラグの水和反応を予め促進させておくエージング処理方法として、長期間大気に暴露する方法(大気エージング)、水蒸気に暴露する方法(蒸気エージング)および加圧水蒸気中に暴露する方法(加圧蒸気エージング)が存在する。具体的には、例えば、特許文献1には、所定粒度に破砕された、山積み状態の製鋼スラグを、水分を含有する高温度のガスの吹込みによって加熱しながら、大気中で48時間以上暴露することを特徴とする製鋼スラグのエージング処理方法が記載されている。また、特許文献2には、粒径25mm以下のものが80%以上となるように破砕した常温の製鋼スラグを圧力容器に装入し、該圧力容器を密閉して容器内に加圧水蒸気を供給して容器およびスラグを加熱することによって凝縮した熱水を排出しつつ圧力容器内を昇温・昇圧し、次いで容器内を2~10kg/cm2Gの圧力の飽和水蒸気雰囲気に1~5時間保持した後、圧力容器内を大気圧まで減圧して製鋼スラグを排出することを特徴とする製鋼スラグのエージング方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-101441号公報
【特許文献2】特開平8-165151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法によると、多量の水蒸気を含む高温ガスを使用するため高コストであり、かつ、エージング処理に長時間を要する。また、特許文献2の方法によっても、加圧のための装置および多量の加圧水蒸気が使用されるため、より高コストとなってしまうことが明らかである。さらに、処理時間についても、製鋼スラグのエージング処理の際の昇温および昇圧時間ならびに加圧保持時間を加算すると、まだ十分に短縮されているとは言い難い。
【0007】
このように、特にコスト面および処理時間の観点から、より効率的な新たな製鋼スラグの膨張抑制処理方法が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、低コストかつ短時間で処理を行うことができる製鋼スラグの膨張抑制処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
【0010】
本発明の第一の局面に係る製鋼スラグの膨張抑制処理方法は、f‐CaOを含む製鋼スラグを、ポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に浸漬する工程を含む。
【0011】
前述の製鋼スラグの膨張抑制処理方法において、前記ポリオール化合物は、ジオール化合物およびトリオール化合物から選択される1つ以上を含むことが好ましい。
【0012】
前述の製鋼スラグの膨張抑制処理方法において、前記トリオール化合物は、グリセリンを含むことが好ましい。
【0013】
前述の製鋼スラグの膨張抑制処理方法において、前記ジオール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールから選択される1つ以上を含むことが好ましい。
【0014】
前述の製鋼スラグの膨張抑制処理方法において、前記ポリオール化合物と水との混合物において、前記水に対する前記ポリオール化合物の質量比は0.2以上であることがより好ましい。
【0015】
本発明の第二の局面に係る製鋼スラグの利用方法は、前述の第一の局面に係る方法で膨張抑制処理された製鋼スラグを路盤材として用いる。
【0016】
本発明の第三の局面に係る低f‐CaO含有スラグの製造方法は、f‐CaOを含む製鋼スラグを、ポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に浸漬する工程と、浸漬工程後において低f‐CaO含有スラグを得る工程とを含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低コストかつ短時間で処理を行うことができる製鋼スラグの膨張抑制処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、水蒸気または加圧水蒸気を用いない、より効率的な製鋼スラグの膨張抑制処理方法について様々な研究を重ね、製鋼スラグ中のf‐CaOのみを効率よく選択的に抽出する方法に着目し、本発明を完成した。詳細には、例えばグリセリンまたはエチレングリコールと水とを含む溶媒を用いることにより、水のみの溶媒を用いた場合と比較して、製鋼スラグ中のf‐CaOを約1時間程度の短時間で最大で約7~8倍程度抽出できることが分かった。加えて、その際、一般的な製鋼スラグに含有されるf‐CaOのほぼ全量を抽出できていたことが分かった。さらに、製鋼スラグはf‐CaO以外にもf‐MgO等のように膨張源となる他の鉱物も多く含むが、f‐CaOのみを選択的に抽出することにより、スラグの膨張率を効率よく十分低下できることが分かった。
【0019】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0020】
<製鋼スラグの膨張抑制処理方法>
本実施形態における製鋼スラグの膨張抑制処理方法は、f‐CaOを含む製鋼スラグを、ポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に浸漬する工程(以下、「浸漬工程」または「浸漬処理」とも称する)を含む。
【0021】
本実施形態における膨張抑制処理方法によると、従来のような水蒸気または加圧水蒸気を利用するのではなく、ポリオール化合物を含む溶媒を用いる浸漬処理を行うため、製鋼スラグ中のf‐CaOを効率よく選択的に抽出することができる。そのため、極めて短時間で製鋼スラグの膨張率を効率的かつ安定的に低下させることができる。
【0022】
加えて、ポリオール化合物を含む溶媒は、必要に応じて水を加え、二酸化炭素に曝露することによって、使用後の溶媒から抽出したカルシウムに二酸化炭素を固定化し、炭酸カルシウムとして回収することができる。カルシウムを取り除いた溶媒は、繰り返し溶媒として再利用することができる。従って、例えば製鋼スラグ中のf‐CaOの質量比が高い場合であっても、カルシウムを回収しながら溶媒を繰り返し再利用することによって、溶媒を大量に追加しなくても、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、最も好ましくは検出限界以下までf‐CaOの含有質量を下げることができ、低コスト化が実現できる。
【0023】
まず、本実施形態における製鋼スラグの膨張抑制処理方法で用いる材料について説明する。
【0024】
本明細書において、「f‐CaO」とは、一般的に製鋼スラグに含まれる未反応のCaOおよび未反応のCa(OH)2を意味する。
【0025】
本明細書において、「製鋼スラグ」とは、予備処理工程、転炉、二次精錬工程等から副生される転炉系スラグや電気炉系スラグのような製鋼スラグを意味する。製鋼スラグの成分は、f‐CaOを含んでいれば特に限定されない。例えば、FeO、Fe2O3、Fe3O4、CaO、SiO2、MgO、Al2O3、MnO、P2O5、TiO2等の化合物が、β‐Ca2(SiO4)、Ca2Fe2O5、γ-Ca2(SiO4)、2CaO・MgO・2SiO2、2CaO・Al2O3・SiO2等の成分として鉱物の状態で凝固して含まれ得る。また、f‐MgOも含んでいても構わない。
【0026】
本実施形態における膨張抑制処理方法の処理対象に用いられる製鋼スラグ中のf‐CaOの質量比も特に限定されない。当該処理対象に用いられる製鋼スラグは、その全質量に対し、f‐CaOを、例えば、上限値としては20質量%、好ましくは15質量%、より好ましくは10質量%含有し、下限値としては1.0質量%、好ましくは0.5質量%、より好ましくは0.2質量%含有する。
【0027】
本実施形態における膨張抑制処理前および膨張抑制処理後(または浸漬処理前および浸漬処理後)の製鋼スラグの成分、ならびに後述する低f‐CaO含有スラグの成分は、後述する実施例の方法と同様の方法によって測定することができる。すなわち、X線回折装置を用いて分析したスペクトルから各成分を同定し、各成分の定量解析を行うことにより値を得ることができる。
【0028】
本明細書において、「ポリオール化合物」とは、製鋼スラグ中のf‐CaOと反応可能である複数のアルコール性水酸基(脂肪族炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(‐OH)で置換した基)を有する有機化合物をいう。本実施形態における処理方法で使用されるポリオール化合物の純度(質量%)は、特に限定されないが、浸漬工程におけるf‐CaOの抽出効率の観点からは、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がさらに好ましく、99.5質量%以上がよりさらに好ましい。あるいは、低コスト化および廃棄物低減を重視する場合には、製鋼スラグ中のf‐CaOを抽出可能であれば、高純度ではない副産物由来のポリオール化合物を使用してもよい。
【0029】
ポリオール化合物は、好ましくは、ジオール化合物およびトリオール化合物から選択される1つ以上を含む。これは、ジオール化合物およびトリオール化合物は、常温常圧で通常液体であるため、製鋼スラグを浸漬し易く、かつ、水との混合物を容易に製造できるためである。
【0030】
なお、「ジオール化合物」とは2個の前述したアルコール性水酸基を有する有機化合物をいい、「トリオール化合物」とは3個の前述したアルコール性水酸基を有する有機化合物をいう。
【0031】
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ジエタノールアミン等を挙げることができる。これらのうち、好ましくは、ジオール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールから選択される1つ以上を含む。
【0032】
より好ましくは、ジオール化合物は、エチレングリコール(例えば富士フィルム和光純薬製の市販品の試薬において、密度:1.11g/cm3)を含む。エチレングリコールを用いることによって、膨張抑制処理後の製鋼スラグの膨張率をより顕著に低下させることができる。これは、エチレングリコールに対するカルシウムの溶解度が水と比べて10倍以上であるとの理由だけでなく、エチレングリコールの製鋼スラグ中のf‐CaOに対する高い選択溶解作用によって、製鋼スラグの膨張率を極めて効率的に低下できるためである。
【0033】
トリオール化合物は、好ましくは、グリセリン(例えば富士フィルム和光純薬製の試薬において、密度:1.26g/cm3)を含む。グリセリンを用いることによって、膨張抑制処理後の製鋼スラグの膨張率を顕著に低下させることができる。これも、グリセリンに対するカルシウムの溶解度が水と比べて10倍以上であるとの理由だけでなく、グリセリンの製鋼スラグ中のf‐CaOに対する高い選択溶解作用によって、製鋼スラグの膨張率を極めて効率的に低下できるためである。さらに、グリセリンは、バイオ燃料製造過程等の副生成物として生成することから産業副産物の有効利用および入手容易性の観点から、エチレングリコールよりもさらに好ましい。
【0034】
ポリオール化合物と水との混合物に用いられる水としては、例えば純水でよい。
【0035】
次いで、本実施形態における製鋼スラグの膨張抑制処理方法について説明する。なお、本実施形態における膨張抑制処理方法では、浸漬工程後、必要に応じて、ろ過、相分離、粉砕、乾燥等の当業者に公知である任意の工程をさらに含んでも構わない。
【0036】
浸漬工程の具体的手法は当業者に公知である任意の手法を用いればよく、特に限定されない。例えば、容器内に適当な大きさに粉砕したf‐CaOを含む製鋼スラグを入れ、次いでポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物を添加することにより、浸漬を行えばよい。浸漬処理後の製鋼スラグを後述するような路盤材としての用途に利用する場合には、当該浸漬前の粉砕の際に、粉砕粒径を好ましくは40mm以下、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは10mm以下、よりさらに好ましくは2mm以下にしておくとよい。これにより、浸漬後において製鋼スラグを再破砕しなくても路盤材用途に供することができる。なお、浸漬処理後の製鋼スラグは、必要に応じてろ過、相分離、さらなる粉砕、洗浄、乾燥等の処理を施しても構わない。なお、前述したように、カルシウムを回収することにより溶媒は再利用することができるため、浸漬工程の回数は2回以上でも構わない。
【0037】
浸漬時間は、特に限定されず、浸漬処理前の製鋼スラグ中のf‐CaOの質量比、浸漬処理前の製鋼スラグの形状、溶媒中のポリオール化合物の質量比、溶媒の添加量、浸漬工程を行う回数等の要素を考慮しながら、所望する膨張率の製鋼スラグが得られるように適宜調整すればよい。例えば、一般的な製鋼スラグ中のf‐CaOを1回の浸漬工程で1%以下まで抽出させる場合、浸漬時間は、上限値としては10時間、好ましくは5時間に設定することができ、また、下限値としては0.5時間、好ましくは0.1時間まで短縮することができる。
【0038】
浸漬時の温度は特に限定されず、使用する溶媒のポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に適した温度に設定すると好ましい。
【0039】
浸漬時の製鋼スラグ全質量に対する溶媒としてのポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物の質量比(体積比)、すなわち添加量は、特に限定されない。具体的には、添加量は、浸漬処理前の製鋼スラグ中のf‐CaOの質量比、浸漬処理前の製鋼スラグの形状、溶媒中のポリオール化合物の質量比、浸漬時間、浸漬工程を行う回数等の要素を考慮しながら、所望する膨張率の製鋼スラグが得られるように適宜調整すればよい。あるいは、例えば、処理対象である製鋼スラグの全量が十分浸漬する量に設定しても構わない。
【0040】
溶媒としてポリオール化合物と水との混合物を用いる場合、混合物に対するポリオール化合物の質量比は、浸漬処理前の製鋼スラグ中のf‐CaOの質量比、浸漬処理前の製鋼スラグの形状、溶媒の添加量、浸漬時間、浸漬工程を行う回数等の要素を考慮しながら、所望する膨張率の製鋼スラグが得られるように適宜調整すればよい。具体的には、例えば、当該混合物に対するポリオール化合物の質量比は、0.2以上であると好ましい。当該質量比を0.2以上とすることによって、1回または複数回の浸漬工程において一般的な製鋼スラグ中のf‐CaOを十分量または検出限界以下まで抽出することができる。当該ポリオール化合物の質量比の上限値は特に限定されないが、低コスト化の観点からは1.0未満であることが好ましい。
【0041】
当該ポリオール化合物の質量比は、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上であり、よりさらに好ましくは0.7以上である。当該ポリオール化合物の質量比をより高めることによって、1回の浸漬工程において製鋼スラグ中のf‐CaOをより十分量抽出することができる。また、当該ポリオール化合物の質量比は、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下である。当該ポリオール化合物の質量比をより低くすることによって、低コスト化に繋がる。換言すると、ポリオール化合物の質量比が低い場合には、溶媒を再利用して複数回浸漬および抽出を行うことによりf‐CaOの質量比を低下させればよい。
【0042】
さらに、浸漬工程において、より短時間で膨張率を低下させるとの観点から、後の実施例で述べるように振とう機等を用いて振とう浸漬処理を行うと好ましい。あるいは、撹拌機等を用いて攪拌浸漬処理を行ってもかまわない。または、固液界面で流れが生じるようなスラグ充填層への液体の流通浸漬処理やスラグ充填層の液体への浸漬処理を行ってもかまわない。
【0043】
本実施形態における製鋼スラグの膨張抑制処理方法によると、膨張抑制処理後の製鋼スラグは、例えば、JIS A 5015:2018(道路用鉄鋼スラグ)に準じて測定される水浸膨張率が、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.7%以下、よりさらに好ましくは0.5%以下である。当該水浸膨張率の下限値は特に限定されないが、例えば0.01%以上である。
【0044】
本実施形態における製鋼スラグの膨張抑制処理方法によると、膨張抑制処理後の製鋼スラグのf‐CaOの質量比を、例えば、膨張抑制処理後の製鋼スラグの全質量に対して、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは検出限界以下にすることができる。当該膨張抑制処理後の製鋼スラグに含まれる他の成分は、特に限定されず、当該膨張抑制処理前の製鋼スラグの成分と概ね変化がなくても構わない。
【0045】
<製鋼スラグの利用方法>
本実施形態における製鋼スラグの利用方法は、前述の実施形態における方法で膨張抑制処理された製鋼スラグを路盤材として用いることを含む。
【0046】
本実施形態では、前述の実施形態における方法で膨張抑制処理された製鋼スラグを、粉砕、篩等の当業者に公知である任意の手法を用いて所望の粒度等に調整し、路盤材(道路用材料)として用いる。なお、路盤材の用途で用いられるため、当該膨張抑制処理された製鋼スラグは、JIS A 5015:2018(道路用鉄鋼スラグ)に規定されている水浸膨張率1.0%以下の条件を満たす。製鋼スラグの水浸膨張率は、前述したように、浸漬処理前の製鋼スラグ中のf‐CaOの質量比、浸漬処理前の製鋼スラグの形状、溶媒中のポリオール化合物の質量比、溶媒の添加量、浸漬時間、浸漬工程を行う回数等の要素を考慮しながら適宜調整等することによって、1.0%以下に制御することができる。
【0047】
<低f‐CaO含有スラグの製造方法>
本実施形態における低f‐CaO含有スラグの製造方法は、f‐CaOを含む製鋼スラグを、ポリオール化合物またはポリオール化合物と水との混合物に浸漬する工程と、浸漬工程後において低f‐CaO含有スラグを得る工程とを含む。
【0048】
本実施形態では、前述した実施形態における製鋼スラグの膨張抑制処理方法の浸漬工程と同様の工程を行った後に、低f‐CaO含有スラグを得る工程を含む。なお、浸漬工程後、必要に応じてろ過、相分離、粉砕、乾燥等の当業者に公知である任意の手法をさらに施した後に、低f‐CaO含有スラグを得ても構わない。
【0049】
前述したように、浸漬処理前の製鋼スラグ中のf‐CaOの質量比、浸漬処理前の製鋼スラグの形状、溶媒中のポリオール化合物の質量比、溶媒の添加量、浸漬時間、浸漬工程を行う回数等の要素を考慮しながら適宜調整等することによって、所望する低f‐CaO含有量のスラグを製造することができる。
【0050】
本実施形態における製造方法によって得られる低f‐CaO含有スラグのf‐CaO質量比は、例えば、スラグの全質量に対して、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは検出限界以下である。当該低f‐CaO含有スラグに含まれる他の成分としては、特に限定されないが、例えば、FeO、Fe2O3、Fe3O4、CaO、SiO2、MgO、Al2O3、MnO、P2O5、TiO2等の化合物が、β‐Ca2(SiO4)、Ca2Fe2O5、γ-Ca2(SiO4)、2CaO・MgO・2SiO2、2CaO・Al2O3・SiO2等の成分として鉱物の状態で凝固して含まれ得る。また、f‐MgOが含まれていても構わない。
【0051】
本実施形態における方法によって製造される低f‐CaO含有スラグは、顕著に膨張率が低いため、そのまま、あるいは必要に応じて粉砕、篩等の処理を行った後、路盤材、セメント原料、コンクリート用細骨材、土工資材等に好適に利用される。具体的には、製造された低f‐CaO含有スラグは、JIS A 5015:2018(道路用鉄鋼スラグ)に準じて測定される水浸膨張率が、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.7%以下、よりさらに好ましくは0.5%以下である。当該水浸膨張率の下限値は特に限定されないが、例えば0.01%以上である。
【実施例0052】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0053】
本実施例では、処理サンプルとして、以下の表1に示す製鋼スラグA1を用いた。ここで、本実施例におけるf‐CaOは、(未反応の)CaOおよび(未反応の)Ca(OH)2とした。以下の表1に示す通り、製鋼スラグA1は、CaOおよびCa(OH)2を含んでいる。なお、各成分の質量%の数値の小数点以下は切り捨てて記載している。
【0054】
【0055】
上記表1の製鋼スラグA1の各成分は、X線回折装置を用いて分析した。分析条件の詳細を以下に示す。得られたスペクトルから、各成分を同定し、リートベルト解析法によって各成分の定量解析を行った。なお、リートベルト解析法に用いたソフトウェアとしてMDI社製「JADE PRO」を用いた。
<分析条件>
分析装置:水平型X線回折装置「SmartLab」(株式会社リガク製)
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメーターを使用(Kα)
ターゲット出力:45kV-200mA
走査方法:θ/2θ(集中法)
スリット:発散2/3°、散乱2/3°、受光0.6mm
モノクロメーター受光スリット:0.8mm
走査速度:2.0°/min
サンプリング幅:0.02°
測定角度(2θ):5°~90°
【0056】
本実施例では、サンプルである製鋼スラグA1を浸漬するための溶媒として、以下の表2に示す、溶媒B1、溶媒B2および溶媒C1をそれぞれ組み合わせて混合して用いた。具体的には、溶媒B1はグリセリン(富士フィルム和光純薬製の試薬(純度:min99.5質量%、密度:1.26g/cm3))であり、溶媒B2はエチレングリコール(富士フィルム和光純薬製の試薬(純度:min99.5質量%、密度:1.11g/cm3))であり、溶媒C1は超純水製造装置(メルクミリポア社製のEliX(登録商標)Essential10(UV)およびMilli-Q(登録商標)Reference)を用いて製造した純水である。
【0057】
【0058】
(実施例1)
実施例1では、容器内に、粒径約2mm未満に粉砕した40gの製鋼スラグA1および合計400mLの溶媒B1と溶媒C1との混合液を添加して、当該容器を密閉した。溶媒B1と溶媒C1との混合液の溶媒比(体積比)は、後の表3に浸漬処理の条件および膨張率の測定結果と共にまとめて示す。その後、密閉した容器を、振とう機(予め振とう回数を毎分約200回、振とう幅を4cm以上5cm以下に調整した振とう機)を用いて、1時間振とう浸漬処理を行った。振とう浸漬処理後、フィルターでろ過してろ液を取り除き、製鋼スラグA2(溶媒B1+溶媒C1浸漬処理後)を得た。
【0059】
次いで、実施例1における製鋼スラグA2の膨張率を測定した。製鋼スラグA2を、目開き250μmの篩を用いて、篩下から粒径250μm未満の製鋼スラグA1を得た。得られた粒径250μm未満の製鋼スラグA2を、内径Φ20.5mm×高さ100mmの容器に約8g入れ、3KNにて加圧成形を行った後、80℃の水槽において96時間浸漬した。膨張率は、加圧成形した試料上面に設置した円板の変位差をレーザー変位計で測定し、その変位から算出した。実施例1における膨張率の測定結果は、後の表3に示す。
【0060】
さらに、実施例1で得られた製鋼スラグA2の各成分を、浸漬処理前と同様に、X線回折装置を用いて分析した。分析条件、成分同定および成分定量解析等の詳細な方法は、浸漬処理前の製鋼スラグA1をサンプルとした方法と同じである。製鋼スラグA2の各成分の測定結果は、後の表4に示す。
【0061】
(実施例2)
実施例2では、溶媒として溶媒B2と溶媒C1との混合液を添加したこと以外は実施例1と同様の方法で処理を行い、製鋼スラグA3(溶媒B2+溶媒C1浸漬処理後)を得て、膨張率のみ測定した。実施例2における溶媒B2と溶媒C1との混合液の溶媒比(体積比)、浸漬処理の処理条件および膨張率の測定結果は、後の表3にまとめて示す。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、溶媒を添加せず振とう浸漬処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法で膨張率を測定した。比較例1における処理条件および膨張率の測定結果は、後の表3にまとめて示す。比較例1では浸漬処理を行っていないため、その成分は浸漬処理前の製鋼スラグA1の成分と同じである。比較のために、実施例1の製鋼スラグA2の成分と共に、後の表4に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
<考察>
上記表3の実施例1および2の結果から分かる通り、溶媒B1または溶媒B2と溶媒C1との混合液で浸漬処理を行うことによって、製鋼スラグの膨張率を低減可能であり、製鋼スラグA2(溶媒B1+溶媒C1浸漬処理後)および製鋼スラグA3(溶媒B2+溶媒C1浸漬処理後)は1.0%を十分に下回る低膨張率を達成していた。また、表4に示す通り、浸漬処理を行った製鋼スラグのf-CaOは浸漬処理前の1%以下の量まで低減されており、処理時間は1時間の短時間にも関わらず、製鋼スラグ中のf‐CaOが効率よく選択的に抽出され、従来の方法と比べて顕著に短い時間で製鋼スラグの膨張抑制が可能となっていることが分かる。さらに、溶媒B1または溶媒B2の混合液、すなわちグリセリンまたはエチレングリコールの混合液は、使用後にカルシウムを回収することにより、再利用することができるため、コストを大幅に削減することができる。加えて、実施例1および2の結果から、グリセリンやエチレングリコールだけでなく、溶媒として他のポリオール化合物を含ませて用いた場合でも同様に製鋼スラグ中のf‐CaOに対する選択溶解作用を高めることができ、製鋼スラグの膨張率が顕著に低下し得ると考えられる。
【0066】
また、従来の蒸気エージングまたは加圧蒸気エージング等の方法によると、大量の製鋼スラグを同時に処理することが多いため、f‐CaOの水和反応の速度に差が生じ、処理ムラが生じる場合がある。実施例1および2の方法によると、対象の製鋼スラグからf‐CaO自体を抽出するという手法を用いるため、所望する値まで製鋼スラグの膨張率を安定的に下げることができる。
【0067】
今回開示された実施形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
前記ジオール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールから選択される1つ以上を含む、請求項2に記載の製鋼スラグの膨張抑制処理方法。
前記ポリオール化合物と水との混合物において、前記混合物に対する前記ポリオール化合物の質量比は0.2以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の製鋼スラグの膨張抑制処理方法。