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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018477
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】電界計測方法及び電界センサ
(51)【国際特許分類】
   G01J 1/02 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
G01J1/02 K
G01J1/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122635
(22)【出願日】2021-07-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「感度と速度を極めた中赤外画像診断による革新的プラズマの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 優貴
(72)【発明者】
【氏名】塩田 達俊
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮介
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AA04
2G065AB04
2G065AB09
2G065AB14
2G065BA01
2G065BB06
(57)【要約】
【課題】実用に足る計測精度で計測電界の空間分布を取得することのできる電界計測方法及び電界センサを提供する。
【解決手段】非線形光学効果を利用して被計測部が発する電界を計測対象電界として求める電界計測方法であって、入射レーザの強度が所定の強度下限値以上であって且つ強度上限値以下となるように、入射レーザのビーム径、パルス幅、パルスエネルギ、及び波長、並びに集光領域への集光における焦点距離から成る群から選択される1又は2以上のパラメータを調節し、強度下限値は前記被計測部に照射された入射レーザが非線形光に変換される効率としての変換効率を一定値以上とする観点から定められ、強度上限値は計測空間中のプラズマの発生を抑制する観点から定められる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非線形光学効果を利用して被計測部が発する電界を計測対象電界として求める電界計測方法であって、
前記被計測部に照射するための入射レーザを、前記被計測部が配置されるとともに前記入射レーザの進行方向に略直交して所定長さに亘って延在する集光領域に集光させ、
前記被計測部から発せられる透過光から計測対象の非線形光を抽出し、
抽出した前記非線形光の強度に基づいて前記計測対象電界を演算し、
前記入射レーザの強度が所定の強度下限値以上であって且つ強度上限値以下となる第1強度条件を満たすように、計測パラメータを調節し、
前記強度下限値は、前記被計測部に照射された前記入射レーザが前記非線形光に変換される効率としての変換効率を一定値以上とする観点から定められ、
前記強度上限値は、計測空間中のプラズマの発生を抑制する観点から定められる、
電界計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電界計測方法であって、
さらに、前記集光領域への集光に係る集光角及び前記入射レーザの強度に基づいて規定される第2強度条件を設定し、
前記入射レーザの強度が前記第2強度条件を満たすように、前記計測パラメータを調節し、
前記第2強度条件を、
前記第1強度条件を満たし且つ前記入射レーザのレイリー長が一定値以下となる前記集光角及び前記入射レーザの強度の関係として定める、
電界計測方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電界計測方法であって、
前記入射レーザの強度が前記第1強度条件を満たすか否かの判断に、前記集光領域への集光に用いる集光要素を通過した後の前記進行方向に直交する面の単位面積当たりの該入射レーザの電力を用い、
前記第2強度条件を規定する前記入射レーザの強度として、前記電力の前記面における積分値を用いる、
電界計測方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の電界計測方法であって、
前記計測パラメータは、
前記入射レーザのビーム径、パルス幅、パルスエネルギ、及び波長、並びに前記集光領域への集光における焦点距離から成る群から選択される1又は2以上のパラメータを含む、
電界計測方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電界計測方法であって、
前記ビーム径は、前記集光領域への集光に用いる集光要素に入射する直前の位置において検出又は推定される、
電界計測方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載の電界計測方法であって、
さらに、前記非線形光を複数の偏光方向に分割し、
前記複数の偏光方向に対応した前記計測対象電界を求める、
電界計測方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の電界計測方法であって、
前記入射レーザは、超短パルスレーザである
電界計測方法。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の電界計測方法であって、
前記非線形光として第2次高調波を抽出し、
前記入射レーザの強度及び前記第2次高調波の強度から前記計測対象電界を演算する、
電界計測方法。
【請求項9】
非線形光学効果を利用して被計測部が発する電界を計測対象電界として求める電界センサであって、
前記被計測部に照射するための入射レーザを発するレーザ発振装置と、
前記レーザ発振装置から発せられる前記入射レーザを、前記被計測部が配置される集光領域に集光させる集光要素と、
前記被計測部から発せられる透過光から計測対象の非線形光を抽出する抽出装置と、
抽出した前記非線形光の強度に基づいて前記計測対象電界を演算する演算装置と、を備え、
前記入射レーザの強度が所定の強度下限値以上であって且つ強度上限値以下となる第1強度条件を満たすように、計測パラメータが調節され、
前記強度下限値は、前記被計測部に照射された前記入射レーザが前記非線形光に変換される効率としての変換効率を一定値以上とする観点から定められ、
前記強度上限値は、計測空間中のプラズマの発生を抑制する観点から定められる、
電界センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界計測方法及び電界センサに関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学効果を利用して、計測対象物の電界を計測する電界計測方法が知られている(特許文献1,2)。特に、近年では、CARS(Coherent Anti-stokes Raman Scattering)型及びE-FISH(Electric Field Induced Second Harmonic generation)型などの短パルスレーザ(波長:800nm以下)を利用する電界計測方法が普及している(非特許文献1,2)。この種の電界センサでは、短パルスレーザで雰囲気ガスに非線形光学効果を誘起し、その結果生じる応答を信号として検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-88840号公報
【特許文献2】特開2020-118498号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】CARS(Coherent Anti-stokes Raman Scattering):T. Ito, K. Kobayashi, U. Czarnetzki and Satoshi Hamaguchi:“Rapid formation of electric field profiles in repetitively pulsed high-voltage high-pressure nanosecond discharges”, J. Phys. D: Appl. Phys. 43 (2010) 062001
【非特許文献2】E-FISH(Electric Field Induced Second Harmonic generation):A. Dogariu, B. M. Goldberg, S. O'Byrne and R. B. Miles: “Species-Independent Femtosecond Localized Electric Field Measurement”, Phys. Rev. Applied 7 (2017) 024024
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来の電界計測方法においては、目的の非線形光の検出効率を高めるべく(非線形光学効果の発現確率を向上させるべく)、入射レーザを計測対象に対して強く集光させる、又は入射レーザのパルス時間幅を短くすることで単位時間及び単位空間当たりに入射するフォトン数密度を高くすることが要求される。しかしながら、この種の電界計測方法においては、入射レーザが空間を伝播している過程において自己収縮又は自己拡散が生じて、所望の集光状態が得られないことがある。特に、短パルスレーザのように時間的にも空間的にもエネルギー密度の高い入射レーザを用いると、単位時間当たりに入射するフォトン数密度が高くなるため、自己収縮又は自己拡散がより生じ易くなる。このため、実用に足る計測精度を確保するための所望の集光状態が得られないという問題がある。
【0006】
このような事情に鑑み、本発明の目的は、実用に足る計測精度で計測電界の空間分布を取得することのできる電界計測方法及び電界センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、非線形光学効果を利用して被計測部が発する電界を計測対象電界として求める電界計測方法が提供される。この電界計測方法では、被計測部に照射するための入射レーザを被計測部が配置されるとともに入射レーザの進行方向に略直交して所定長さに亘って延在する集光領域に集光させ、被計測部から発せられる透過光から計測対象の非線形光を抽出し、抽出した非線形光の強度に基づいて計測対象電界を演算する。そして、入射レーザの強度が所定の強度下限値以上であって且つ強度上限値以下となるように、入射レーザのビーム径、パルス幅、パルスエネルギ、及び波長、並びに集光領域への集光における焦点距離から成る群から選択される1又は2以上のパラメータを調節する。特に、強度下限値は、被計測部に照射された入射レーザが非線形光に変換される効率としての変換効率を一定値以上とする観点から定められる。また、強度上限値は、計測空間中のプラズマの発生を抑制する観点から定められる。
【0008】
また、本発明の他の態様によれば、非線形光学効果を利用して被計測部が発する電界を計測対象電界として求める電界センサが提供される。この電界センサは、被計測部に照射するための入射レーザを発するレーザ発振装置と、レーザ発振装置から発せられる入射レーザを被計測部が配置される集光領域に集光させる集光要素と、被計測部から発せられる透過光から計測対象の非線形光を抽出する抽出装置と、抽出した非線形光の強度に基づいて計測対象電界を演算する演算装置と、を備える。そして、この電界センサでは、入射レーザの強度が所定の強度下限値以上であって且つ強度上限値以下となるように、入射レーザのビーム径、パルス幅、パルスエネルギ、及び波長、並びに集光領域への集光における焦点距離から成る群から選択される1又は2以上のパラメータが調節される。特に、強度下限値は、被計測部に照射された入射レーザが非線形光に変換される効率としての変換効率を一定値以上とする観点から定められる。また、強度上限値は、計測空間中のプラズマの発生を抑制する観点から定められる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実用に足る計測精度で計測電界の空間分布を取得することのできる電界計測方法及び電界センサが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態による電界センサの全体構成を説明する図である。
図2】計測/演算装置の構成を説明するブロック図である。
図3】計測ステージの側面視図(y-z平面図)である。
図4】計測ステージの平面図(z-x平面図)である。
図5】計測ステージの要部斜視図である。
図6】高分解能領域を示す図である。
図7】実施例の電界センサによる奥行き分解能を示す図である。
図8】実施例2の電界センサによる奥行き分解能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る電界センサ10の構成を説明する図である。本実施形態の電界センサ10は、所定のレーザ発生源から発生されるパルスレーザ(以下、「入射レーザIL」とも称する)を集光させて被計測物Oに照射し、被計測物Oを透過する光(以下、「透過光TL」とも称する)に含まれる被計測物Oから励起される光(以下、「非線形光EL」とも称する)の強度を検出し、当該強度に基づいて被計測物Oが発する電界を求めるセンサである。
【0013】
なお、以下で説明する本実施形態の電界センサ10としては、被計測物Oに入射レーザILの照射を、大気雰囲気の計測空間で行い且つ被計測物Oに静電場を印加する環境下で実行するE-FISH型電界センサを想定する。しかしながら、本実施形態の電界センサ10の構成は、E-FISH型に限られず、CARS型などの非線形光学効果を利用する他のタイプのセンサにおいても、適宜修正を行いつつ適用することが可能である。
【0014】
また、本実施形態では、入射レーザIL又は非線形光ELが進行する方向(光軸方向)に沿った座標軸をz軸、入射レーザILを集光させる後述の集光領域Fに沿った方向の座標軸をy軸、並びにy軸及びz軸に直交する方向に沿った座標軸をx軸と定義する。
【0015】
図示のように、本実施形態の電界センサ10は、主として、レーザ発振装置20と、レンズセット22と、計測ステージ24と、フィルタセット26と、計測/演算装置28と、を備えている。
【0016】
レーザ発振装置20は、所定波長のレーザパルスを入射レーザILとして出力する。具体的に、レーザ発振装置20は、ナノ秒パルスレーザ(nsパルスレーザ)、ピコ秒パルスレーザ(psパルスレーザ)、又はフェムト秒パルスレーザ(fsパルスレーザ)等の短パルスレーザ(特に、超短パルスレーザ或いは極短パルスレーザ)、より詳細にはfsパルスレーザを入射レーザILとして出力する。また、レーザ発振装置20は、入射レーザILの波長λIL、パルス幅(pulse duration)pdIL、及びパルスエネルギEpIL[J]を任意に調節できるよう構成される。
【0017】
レンズセット22は、レーザ発振装置20から発振された入射レーザILをコリメートしつつ、計測ステージ24内の集光領域Fに好適に集光させるための光学機器により構成される。より具体的に、本実施形態のレンズセット22は、レーザ発振装置20から順に配置された球面凹レンズ22a、球面凸レンズ22b、及びシリンドリカルレンズ22cにより構成される。特に、シリンドリカルレンズ22cは、入射レーザILを、焦点距離fに応じた所定の位置z(後述するビームウェスト位置z0)においてy軸方向に所定長さに亘って延在する線状の領域(以下、「集光領域F」とも称する)に集光する集光要素として機能する。
【0018】
計測ステージ24は、計測対象である被計測物Oが設置される部分である。また、計測ステージ24には、被計測物Oにy軸の正方向から負方向に向かう電場(以下、「計測用電場」とも称する)を印加するための電極25(図3参照)が設けられている。すなわち、被計測物Oには、計測用電場が印加された状態で入射レーザILが照射される。
【0019】
フィルタセット26は、入射レーザILの照射に応じて、透過光TLから計測対象の波長成分を持つ非線形光ELを抽出するための各種フィルタを含む。特に、本実施形態のフィルタセット26は、所定値以上の長波長成分をカットするショートパスフィルタ26a、長波長成分のカット後に所定値以下の短波長成分をカットするロングパスフィルタ26b、及び短波長成分のカット後に所定周波数範囲(すなわち所定波長範囲)以外の成分をカットするバンドパスフィルタ26cにより構成される。
【0020】
より具体的に、例えば、ショートパスフィルタ26aとしては、700nm~900nmの波長成分を反射し、350nm~700nmの波長成分を透過する光学フィルタが用いられる。また、ロングパスフィルタ26bとしては、400nm以上の波長成分のみを透過する紫外カットフィルターが用いられる。さらに、バンドパスフィルタ26cとしては、透過光TLに含まれる入射レーザILの周波数の2倍の周波数成分(すなわち、波長λILの1/2の波長成分)を透過してその他の周波数成分をカットする狭域帯バンドパスフィルタが用いられる。したがって、フィルタセット26により、主として、透過光TLに含まれる非線形光EL、より詳細には入射レーザILの波長λILの1/2の波長λSHGを持つ第2次高調波(SHG:Second Harmonic Generation)ISHGが抽出されることとなる。
【0021】
なお、本実施形態において、第2次高調波ISHGとは、非線形光ELの内、入射レーザILの被計測物Oへの照射に伴い、3次の非線形光学効果(被計測物Oが波長λILの光子を2つ吸収し、波長λIL/2で2倍のエネルギーを持つ光子を一つ放出する効果)が誘起されることで生じる成分である。
【0022】
計測/演算装置28は、主として、フィルタセット26でフィルタリングされた透過光TLの信号及び入射レーザILの信号を入力として、計測対象である被計測物Oが持つ電界(以下、「計測対象電界E」とも称する)を求める装置である。
【0023】
図2は、計測/演算装置28の構成を説明するブロック図である。図示のように、計測/演算装置28は、入射レーザILの強度IILを取得するレーザ強度取得器28aと、非線形光ELに含まれるSHGの強度(以下、「SHG強度I(2ω)」とも称する)を抽出するSHG強度抽出器28bと、取得した入射レーザILの強度IIL及び抽出したSHG強度I(2ω)に基づいて、計測対象電界Eを演算する電界演算器28cと、を備える。
【0024】
レーザ強度取得器28aは、入射レーザILの強度IIL、特に入射レーザILが最も集光されている位置(すなわち、集光領域Fの位置)における強度IIL(以下、「最大入射レーザ強度I(ω) probe」とも称する)或いはこれと同一とみなすことができる程度に近い値の強度IILを検出又は推定するように構成される。
【0025】
特に、本実施形態において、レーザ強度取得器28aは、入射レーザILの強度IIL(特に最大入射レーザ強度I(ω) probe)を、計測空間中において入射レーザILの進行方向(z軸方向)に直交する面(x-y平面)の断面の単位面積[cm2]における入射レーザILの電力[W]として求める。すなわち、本実施形態の入射レーザILの強度IILは、当該入射レーザILにより生じる光電界の大きさと同一視し得る物理量である。
【0026】
SHG強度抽出器28bは、フィルタセット26からの非線形光ELを分光する分光器、分光された非線形光ELの強度スペクトルを得るための光電子増倍管からなるCCDイメージングセンサ、及び得られた強度スペクトルからSHG強度I(2ω)を求める演算器などにより構成される。
【0027】
そして、電界演算器28cは、最大入射レーザ強度I(ω) probe及びSHG強度I(2ω)に基づいて、以下の式(1)から計測対象電界Eを演算する。
【0028】
【数1】
【0029】
式中の「A」は較正定数、「N」は計測空間(特に大気雰囲気)中の分子の数密度、「ω」は入射レーザILの角周波数、及び「χ(3) i,j,k,l(-2ω,0,ω,ω)」は3次の非線形感受率テンソルを表す。なお、較正定数A、数密度N、及び3次の非線形感受率テンソルχ(3) i,j,k,l(-2ω,0,ω,ω)は、予め定めても良いし、計測環境などに応じて適宜定めても良い。
【0030】
以上説明した構成を有する電界センサ10における計測のさらなる詳細について説明する。なお、以下の説明で用いる各パラメータの意義を次のように定義する。
・「ビーム径D」:入射レーザILの空間分布の内、光軸rに対して実質上計測結果に影響をもたらす強度IILをとる範囲(特にx-y平面上の範囲)の大きさ。
・「スポットサイズw(z)」:光軸r上の位置zにおいて、入射レーザILの強度IILに対して所定の割合(例えば1/e倍又は1/e2倍)以上となるビーム領域の大きさ(特にビーム領域のx軸方向における長さ)。
・「ビームウェスト位置z0」:入射レーザILが最も集光する光軸r上の位置z(すなわち、集光領域Fの位置)。
・「ビームウェスト径w0」:ビームウェスト位置z0におけるスポットサイズw(z0)。
・「レイリー範囲z(Ra)」:ビーム(入射レーザIL又は透過光TL)の断面積がビームウェスト位置z0における断面積の2倍以下となるz軸上の範囲。
・「レイリー長Zr」:z軸上におけるビームウェスト位置z0からレイリー範囲z(Ra)の端までの長さ。
・「集光角θ」:ビームウェスト位置z0(集光領域F)を起点として、光軸rとビーム領域の外縁領域とのなす角。すなわち、集光角θは、シリンドリカルレンズ22cを通過した後の入射レーザILの集光領域Fの集光し易さを示す物理量である。
【0031】
なお、本実施形態においては、後述する図5に示すように、集光要素であるシリンドリカルレンズ22cを通過した後の入射レーザILの分布は、x-z平面に沿って略同一の形状(より詳細には集光領域Fを頂点とする三角形)となる。すなわち、本実施形態では、当該三角形の頂点の角度(すなわち、一次元の角度)の大きさが入射レーザILの集光領域Fの集光し易さに直結するため、これを集光角θとして用いる。一方で、集光後の入射レーザILの分布の形状によっては、一次元の角度のみで入射レーザILの集光領域Fの集光し易さを表すことが難しい場合には、集光角θを適切な立体角として定義しても良い。
【0032】
図3は計測ステージ24の側面視図(y-z平面図)であり、図4は計測ステージ24の平面図(z-x平面図)であり、図5は計測ステージ24の要部斜視図である。なお、図5においては図面の簡略化のため、被計測物O及び電極25は省略している。
【0033】
図示のように、入射レーザILはシリンドリカルレンズ22cで集光されて被計測物Oに照射される。そして、被計測物Oから発せられる非線形光ELを含む透過光TLはフィルタセット26に向かって出射される。
【0034】
上述した、本実施形態の電界センサ10を用いた電界計測方法では、シリンドリカルレンズ22cにより入射レーザILが集光領域Fに集光される。このため、被計測物Oの計測対象電界Eを、集光領域Fが延在する方向(y軸方向)の空間分布(以下、単に「電界空間分布」とも称する)として求めることができる。
【0035】
特に、本実施形態では、入射レーザILの強度IILに対して第1の条件(以下、「第1強度条件」とも称する)を課すことにより、上述した電界空間分布の計測において実用に足りる計測精度を実現することができる。さらに、入射レーザILの強度IILに対して上記第1の条件を満たすことを前提として第2の条件(以下、「第2強度条件」)を課すことにより、電界空間分布の計測において高い奥行き分解能(計測時において識別可能なz軸方向の領域の短さ)を実現することができる。以下、第1強度条件及び第2強度条件の詳細について説明する。
【0036】
[第1強度条件]
本発明者らは、電界空間分布の計測において実用に足りる計測精度が得られない主な要因が、入射レーザILの自己拡散に起因した変換効率の低下、又は入射レーザILの自己収縮に起因した計測空間中の原子又は分子の電離(プラズマ)の発生にある点を見出している。そして、本発明者らは、鋭意研鑽の結果、これらの計測精度を低下させる要因となる自己拡散又は自己収縮の発生は、計測空間中における入射レーザILの強度IILの分布と強く相関することを見出した。
【0037】
したがって、本実施形態における第1強度条件を、強度IILが、変換効率を維持する観点から定まる強度下限値Ilo以上であって、且つプラズマの発生を抑制する観点から定まる強度上限値Iul以下の範囲に含まれる条件として定める。そして、この第1強度条件が満たされるように計測パラメータを調節する。
【0038】
なお、強度下限値Iloは、実用上許容される計測精度を実現できる程度の変換効率に達しているか否かを判断する基準となる強度IILの最小値として、実験等により予め定められる。ここで、上記式(1)を参照すれば理解されるように、検出対象であるSHG強度I(2ω)は、入射レーザILの強度IIL(特に最大入射レーザ強度I(ω) probe)、計測対象電界E、及び雰囲気ガスの種類及び状態(圧力又は温度)に依存する。このため、計測対象電界Eをある一定値として雰囲気ガスの種類及び状態が定まれば、強度下限値Iloを許容される最小の検出感度に応じた入射レーザILの強度IILの下限として定めることができる。強度下限値Iloは、例えば、1010[J/(s・cm2)]~1011[J/(s・cm2)]の範囲に設定される。
【0039】
また、強度上限値Iulは、入射レーザILの空間伝播に起因したプラズマの発生を実用上の計測精度を維持できる範囲に抑える強度IILの最大値として、実験等により予め定められる。特に、強度上限値Iulは、プラズマ発光を生じる最大入射レーザ強度I(ω) probeの値として定められる。なお、強度上限値Iulの具体的な値については、雰囲気ガスの種類及び状態などの必要なパラメータに応じて適宜定めることができる。強度上限値Iulは、例えば1013[J/(s・cm2)]~1015[J/(s・cm2)]の範囲に設定される。
【0040】
また、第1強度条件を満たすか否かの判断に用いる入射レーザILの強度IILとしては、上述の最大入射レーザ強度I(ω) probeと同一視できる程度にこれと近い値を用いることが好ましい。より具体的には、ビームウェスト位置z0(集光領域Fの位置)に近い位置における強度IILを推定又は検出するように設けられたセンサ類(図示せず)で取得される値を用いることが好ましい。
【0041】
計測パラメータは、入射レーザILの強度IILの変化に影響を与え得るパラメータであって、電界計測方法を実行するための電界センサ10に含まれる各装置のアレンジ及び/又は各装置の制御パラメータの操作(出力の操作など)により調節可能な任意の1又は複数のパラメータである。
【0042】
特に、本実施形態の計測パラメータは、入射レーザILのビーム径D、パルス幅pdIL、パルスエネルギEpIL、及び波長λIL、並びに焦点距離fから成る群から選択される1又は2以上のパラメータを含む。
【0043】
より具体的に、本実施形態では、入射レーザILの強度IILを、強度上限値Iulを超えない範囲で、ビーム径Dを大きくする、パルス幅pdILを小さくする、パルスエネルギEpILを大きくする、波長λILを短くする、及び/又は焦点距離fを小さくすることで具体的に定めることができる。
【0044】
一方、入射レーザILの強度IILを、強度下限値Iloを下回らない範囲で、ビーム径Dを小さくする、パルス幅pdILを大きくする、パルスエネルギEpILを小さくする、波長λILを長くする、及び/又は焦点距離fを大きくする。
【0045】
ここで、計測パラメータとしても用いるビーム径Dは、集光要素であるシリンドリカルレンズ22cに入射する直前(本実施形態では、球面凸レンズ22bとシリンドリカルレンズ22cの間の位置)の位置において検出又は推定される値であることが好ましい。特に、ビーム径Dは、入射レーザILの断面形状の大きさ(入射レーザILのx-y平面における広がりの程度)に相関する任意の値を用いることができる。例えば、入射レーザILの断面形状が四角形などの多角形である場合にはその一辺の長さ、対角線の長さ、及び面積などをビーム径Dとすることができる。また、入射レーザILの断面形状が円形である場合にはその直径、周長、及び面積などをビーム径Dとしても良い。特に、上記第1強度条件を実現する観点から好ましいビーム径Dは、例えば0.1[mm]~50[mm]の範囲から選択される。
【0046】
また、ビーム径Dの調節を、最終的に入射レーザILを集光させるシリンドリカルレンズ22cの前に任意の光学機器(本実施形態の球面凹レンズ22a及び球面凸レンズ22bに代替する、或いはこれと併用する光学機器)を配置すること、及び/又はレーザ発振装置20による入射レーザILの出射面の面積を調整することにより行うことも可能である。
【0047】
さらに、計測パラメータとしても用いるパルス幅pdIL、パルスエネルギEpIL、及び波長λILは、レーザ発振装置20の仕様の選択、及び当該レーザ発振装置20に対する出力設定などの操作によって適宜所望の値に調整される。なお、入射レーザILの波長λILの調節を、所定のフィルタ要素を設けることで行っても良い。特に、上記第1強度条件を実現する観点から好ましいパルス幅pdILは、例えば10[f・s]~1[n・s]の範囲から選択される。また、好ましいパルスエネルギEpILは、例えば0.1[mJ]~1[J]の範囲から選択される。さらに、好ましい波長λILは、例えば0.8[μm]~5[μm]の範囲から選択される。
【0048】
また、計測パラメータとして用いる焦点距離fは、レンズセット22(特に、本実施形態ではシリンドリカルレンズ22c)の構造(厚さ、材質、又は曲率半径など)に応じて定まる、レンズセット22の入射光の出射面から結像位置(ビームウェスト位置z0)までの距離として定められる。特に、上記第1強度条件を実現する観点から好ましい焦点距離fは、例えば10[mm]~1000[mm]の範囲から選択される。
【0049】
上記のように、入射レーザILの強度IILが第1強度条件を満たすように計測パラメータを調節することによって、特に短パルスレーザ(特に、超短パルス又は極短パルスのレーザ)のような高強度の入射レーザILを用いた場合であっても、電界空間分布の計測において実用に足りる計測精度を実現することができる。
【0050】
[第2強度条件]
本発明者らは、上記第1強度条件を満たすことで電界空間分布の計測において実用に足りる計測精度を実現した上で、さらに強度IILに対してより厳しい第2強度条件を課すことで、当該計測における奥行き分解能をより改善させることができるという思想に至っている。以下、その詳細を説明する。
【0051】
先ず、入射レーザILが理想的なガウシアンビーム(光軸rを中心とした強度分布が近似的にガウス分布となる電磁波)の特性にしたがうと仮定すると、レイリー長Zrはビームウェスト径w0又は集光角θ、及び入射レーザILの波長λILに基づいて、以下の式(2)により定まる。
【0052】
【数2】
【0053】
また、ビームウェスト径w0は、以下の式(3)により表される。
【0054】
【数3】
なお、式(3)中の「NA」は開口数を意味する。
【0055】
このため、理論的には、入射レーザILは上記式(2)及び式(3)で表される特性に応じた挙動をとる。すなわち、上記計測パラメータ、式(2)又は式(3)に含まれるビーム径D、波長λIL、又は焦点距離fを適宜調節することで、レイリー長Zrの短さ(奥行き分解能の高さ)を適切に制御することができる。
【0056】
一方で、上述のように、高強度の入射レーザILを使用するなどに起因したプラズマの発生等の非線形効果が生じると、入射レーザILの集光特性は式(2)及び式(3)に従わなくなる。このため、式(2)又は式(3)に基づく計測パラメータの調節のみでは、レイリー長Zrを所望の値に調節することが難しくなる。その結果、奥行き分解能を向上させることは難しい。
【0057】
これに対して、本発明者らは、鋭意研鑽の結果、入射レーザILの強度IILがさらに第2強度条件を満たす場合に、レイリー長Zrの制御に影響を与える非線形効果の発生を抑制して奥行き分解能を向上させることができるという思想に想到した。
【0058】
具体的に、本実施形態の第2強度条件は、集光角θ及び入射レーザILの強度ピークPLの2つの変数とすることで画定される2次元閉領域(以下、「高分解能領域R」とも称する。)として定められる。なお、本実施形態の強度ピークPL([J/s])は、強度IIL[J/(s・cm2)]を、z軸方向に直交する面における広がり領域上で積分した値の最大ピーク高さ(例えば、尖頭値)である。
【0059】
図6は、高分解能領域Rを示す図である。図示のように、高分解能領域Rは、集光角θがその最小値及び最大値の範囲で変動する場合において、奥行き分解能を改善させる観点から許容される強度IILの範囲を、第1強度条件を満たす観点から定まる強度IILの範囲に比べてより限定するように定められる。以下でより具体的に説明する。
【0060】
図5に示すように入射レーザILがシリンドリカルレンズ22cに入射する場合、集光角θを固定すると、焦点位置(ビームウェスト位置z0)におけるビーム広がり領域の面積はH×w0となる。このため、上記式(2)及び式(3)を用いれば、レイリー長Zrが一定値以下となる集光角θ及び最大入射レーザ強度I(ω) probeの関係を以下の式(4)のように定めることができる。
【0061】
【数4】
【0062】
ここで、式(4)の最大入射レーザ強度I(ω) probeに、上記第1強度条件に係る強度下限値Iloを適用すれば、集光角θに応じた強度ピークPLの下限値が定まる(図6の曲線C1)。一方、式(4)の最大入射レーザ強度I(ω) probeに、上記第1強度条件に係る強度上限値Iulを適用すれば、集光角θに応じた強度ピークPLの上限値が定まる(図6の曲線C2)。すなわち、この曲線C1と曲線C2の間の高分解能領域Rは、上記第1強度条件及び上記第2強度条件の双方を満たす強度IILの範囲(より詳細には強度ピークPLの範囲)を規定することとなる。したがって、強度ピークPLが高分解能領域Rに含まれるように計測パラメータを調節することで、計測において必要な精度を確保しつつ奥行き分解能をより改善することができる。
【0063】
なお、計測パラメータを調節するための具体的な手段は、上述の図1及び図2を参照して説明した具体的な態様に限定されるものではなく、本技術分野において知られている任意の手段により代替可能である。
【0064】
以上説明した本実施形態による電界計測方法の作用効果について説明する。
【0065】
本実施形態では、非線形光学効果を利用して被計測部(被計測物O)が発する電界を計測対象電界Eとして求める電界計測方法が提供される。この電界計測方法は、被計測物Oに照射するための入射レーザILを、被計測物Oが配置されるとともに入射レーザILの進行方向に略直交して(y軸方向に沿って)所定長さに亘って延在する集光領域Fに集光させ、被計測物Oから発せられる透過光TLから計測対象の非線形光ELを抽出し、抽出した非線形光ELの強度(特に、SHG強度I(2ω))に基づいて計測対象電界Eを演算する。
【0066】
特に、この電界計測方法では、入射レーザILの強度IILが所定の強度下限値Ilo以上であって且つ強度上限値Iul以下となる第1強度条件を満たすように、計測パラメータを調節する。さらに、強度下限値Iloは、被計測物Oに照射された入射レーザILが非線形光ELに変換される効率としての変換効率を一定値以上とする観点から定められる値である。また、強度上限値Iulは、計測空間中のプラズマの発生を抑制する観点から定められる値である。
【0067】
これにより、入射レーザILが計測空間中を伝播する過程において、入射レーザILの集光状態の予測を困難にする自己収縮又は自己拡散といった非線形光学的な現象が発生しても、計測対象電界E(特にその空間分布)を高精度に計測することができる。特に、高強度の入射レーザILを用いた場合であっても、実用に足る計測精度を確保することができる。
【0068】
さらに、本実施形態の電界計測方法では、前記集光領域Fへの集光に係る集光角θ及び入射レーザILの強度IILに基づいて規定される第2強度条件を設定し、入射レーザILの強度IILが第2強度条件を満たすように、計測パラメータを調節する。第2強度条件を、第1強度条件を満たし且つ入射レーザILのレイリー長Zrが一定値以下となる集光角θ及び入射レーザILの強度IIL(強度ピークPL)の関係として定める(高分解能領域R)。
【0069】
これにより、計測対象電界Eの計測において、実用に足る計測精度を確保した上で、奥行き分解能をより向上させることができる。
【0070】
また、入射レーザILの強度IILが第1強度条件を満たすか否かの判断に、集光領域Fへの集光に用いる集光要素(特にシリンドリカルレンズ22c)を通過した後の進行方向(z軸方向)に直交する面の単位面積当たりの該入射レーザILの電力(すなわち、最大入射レーザ強度I(ω) probe)を用いる。また、第2強度条件を規定する入射レーザILの強度IILとして、上記の面における入射レーザILの電力の積分値(強度ピークPL)を用いる。
【0071】
これにより、第1強度条件及び第2強度条件を満たすかのそれぞれの判断に用いる強度IILに関するパラメータとして、計測精度をより向上させる観点から好ましい具体的な態様が実現されることとなる。
【0072】
特に、入射レーザILの強度IILが第1強度条件を満たすか否かの判断に、最大入射レーザ強度I(ω) probeにできるだけ近い値を用いることで、上記強度上限値Iulの比較における精度(実際の計測空間中のプラズマの発生の有無の判断の精度)をより向上させることができる。結果として、計測精度がさらに向上する。
【0073】
なお、計測パラメータは、入射レーザILのビーム径D、パルス幅pdIL、パルスエネルギEpIL、及び波長λIL、並びに焦点距離fから成る群から選択される1又は2以上のパラメータを含む。
【0074】
これにより、第1強度条件及び第2強度条件を満たすための上記入射レーザILの強度IILの調節に好ましい具体的な計測パラメータが提供されることとなる。
【0075】
また、入射レーザILのビーム径Dは、集光要素(特にシリンドリカルレンズ22c)に入射する直前の位置において検出又は推定される。
【0076】
これにより、入射レーザILのビーム径Dを、計測系を構成する具体的な構成に基づいて現実の計測に用いるより具体化された計測パラメータとすることができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、パルス幅pdIL、パルスエネルギEpIL、及び波長λILを、入射レーザILを発振するレーザ発振装置20の操作により調節する。
【0078】
これにより、第1強度条件及び/又は高分解能領域Rを満たすためのパルス幅pdIL、パルスエネルギEpIL、及び波長λILを調節する具体的な構成が実現される。
【0079】
特に、入射レーザILとして、超短パルスレーザ(或いは極短パルスレーザ)を採用することが好ましい。これにより、計測における入射レーザILに係る所望の変換効率をより確実に実現することができる。
【0080】
また、本実施形態の電界計測方法では、上記非線形光ELとして第2次高調波ISHGを抽出し、第2次高調波ISHGの強度(SHG強度I(2ω))から計測対象電界Eを演算する。
【0081】
これにより、比較的高い信号強度が得られる第2次高調波ISHGを検出して計測対象電界Eを計測する前提において、実用に足る計測精度を実現しつつ高い奥行き分解能を実現することができる。
【0082】
さらに、本実施形態では、非線形光学効果を利用して被計測部(被計測物O)が発する電界を計測対象電界Eとして求める電界センサ10が提供される。
【0083】
特に、この電界センサ10は、被計測物Oに照射するための入射レーザILを発するレーザ発振装置20と、レーザ発振装置20から発せられる入射レーザILを、被計測物Oが配置される集光領域Fに集光させる集光要素(特にシリンドリカルレンズ22c)と、被計測物Oから発せられる透過光TLから計測対象の非線形光ELを抽出する抽出装置(SHG強度抽出器28b)と、抽出した非線形光ELの強度(特に、SHG強度I(2ω))に基づいて計測対象電界Eを演算する演算装置(電界演算器28c)と、を備える。
【0084】
そして、この電界センサ10では、入射レーザILの強度IILが所定の強度下限値Ilo以上であって且つ強度上限値Iul以下となる第1強度条件を満たすように、計測パラメータを調節する。さらに、強度下限値Iloは、被計測物Oに照射された入射レーザILが非線形光ELに変換される効率としての変換効率を一定値以上とする観点から定められる値である。また、強度上限値Iulは、計測空間中のプラズマの発生を抑制する観点から定められる値である。
【0085】
これにより、実用に足る計測対象電界Eの計測精度を実現する電界計測方法の実行に適した構成の電界センサ10が提供されることとなる。
【0086】
なお、上述した本実施形態の電界計測方法及び電界センサ10は、医療における細胞の分析、落雷などの自然現象の分析、及び半導体エッチングなどの精密加工における加工精度のモニタリングなど種々の分野において、既存のセンサ(特に高フォトン数密度のレーザ源を用いるタイプのセンサ)を用いた計測が難しかったケースにおいても、好適に適用することが可能である。
【実施例0087】
以下、実施例1及び実施例2により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
下記の装置及び計測条件に基づく電界計測方法に関して、計測精度を評価した。
【0089】
[装置構成]
・レーザ発振装置20:PHAROS PH2-SP-1mJ (Light Conversion社製)
・レンズセット22(22a:凹シリンドリカルレンズ(f=-20mm)、22b及び22c:凸球面レンズ(f=80mm))
・フィルタセット26(26a:#84-714(Edmund社製)、26b:#65-132(Edmund社製)、26c:#39-349(Edmund社製))
【0090】
・計測/演算装置28:istar DH320T-18F-03-LP(Andor社製)
【0091】
[計測パラメータの設定]
集光領域F付近の入射レーザILの強度IILの推定値(≒最大入射レーザ強度I(ω) probe)が第1強度条件を満たすように計測パラメータを調節した。具体的に調節した計測パラメータは以下の通りである。
【0092】
・パルス幅:190fs
・パルスエネルギ0.5mJ
・入射レーザの波長λIL:1030nm
・ビーム径D:5mm
・焦点距離f:80mm
【0093】
[計測精度の評価]
上記条件の下、入射レーザILの被計測物Oに対する位置zごとの透過率T(z)を測定した。一方で、以下の式(5)及び式(6)に基づいて、電界計測における透過率T(z)の理想値を定めた。
【0094】
【数5】
【0095】
【数6】
【0096】
なお、式中の「β」は2光子吸収係数、「I0(t)」は最大入射レーザ強度I(ω) probeの時間プロファイル、「L」は被計測物Oの厚み(z軸方向に沿った長さ)、及び「z」はz軸における被計測物Oの位置をそれぞれ表す。
【0097】
図7のグラフのプロットは、実施例1による透過率T(z)の実測値を示す。なお、図7の実線は実施例1の計測パラメータの下における透過率T(z)を式(5)及び式(6)から生成した近似曲線である。
【0098】
さらに、当該近似曲線に基づくレイリー長zrを算出し、その2倍(2zr)を奥行き分解能の高さを表す指標として求めた。その結果、奥行き分解能2zrは400μmであった。
【0099】
(実施例2)
下記の装置及び計測条件に基づく電界計測方法に関して、計測精度及び奥行き分解能を評価した。
【0100】
[装置構成]
レンズセット22(22a:凸球面レンズf=-40mm、22b:凸球面レンズf=150mm、22c::凸シリンドリカルレンズf=80mm)を用いた以外は実施例1と同一とした。
【0101】
[計測パラメータの設定]
(1)実施例1と同一の計測パラメータを前提として、予め実験等で得られる適切な集光角θを設定した。具体的に、集光角θを0.25[rad]と設定した。
【0102】
(2)図6に示す集光角θ-強度IILテーブル(第2計測条件を定めるテーブル)を参照して、設定した集光角θから、強度ピークPLが高分解能領域Rに含まれるように、計測パラメータを調節した。具体的に調節した計測パラメータは以下の通りである。
【0103】
・パルス幅:190fs
・パルスエネルギ0.1mJ
・入射レーザの波長λIL:1030nm
・ビーム径D:20mm
・焦点距離f:80mm
【0104】
[計測精度の評価]
実施例1と同様に計測精度の評価を行った。
【0105】
図8のグラフのプロットは、実施例2による透過率T(z)の実測値を表す。なお、図8の実線は実施例2の計測パラメータの下における透過率T(z)を式(5)及び式(6)から生成した近似曲線である。また、図8に示すように、実施例2の実測値は、概ね、透過率T(z)の近似曲線に沿っている。当該実測値から奥行き分解能2zrを求めた。奥行き分解能2zrは46μmであった。
【0106】
[結果及び考察]
図7及び図8に示すように、第1強度条件を満たす実施例1及び2では、概ね、それぞれの透過率T(z)の理想値の曲線に沿っている。すなわち、実施例1又は2の計測方法であれば、少なくとも、電界空間分布の計測において実用に足る計測精度が確保されるものと考えられる。
【0107】
さらに、第2強度条件を満たす実施例2では、実施例1と比較して奥行き分解能が顕著に向上している。これは、実施例2が第2強度条件を満たすことに依るものと考えられる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0109】
例えば、上記電界センサ10において、計測対象の非線形光ELを複数の偏光方向(例えば、y軸方向とz軸方向)に分ける偏光スプリッターなどを配置し、計測/演算装置28が偏光スプリッターにより複数の方向に分けられた非線形光ELに基づいて当該複数の偏光方向に対応する計測対象電界Eを求める構成を採用しても良い。
【符号の説明】
【0110】
10 電界センサ
20 レーザ発振装置
22c シリンドリカルレンズ
28 計測/演算装置
28a レーザ強度取得器
28b SHG強度抽出器
28c 電界演算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8