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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023184776
(43)【公開日】2023-12-28
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20231221BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231221BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C09K5/04 F
C09K5/04 A
C09K3/00 111B
C09K3/30 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023193026
(22)【出願日】2023-11-13
(62)【分割の表示】P 2022188200の分割
【原出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2021191866
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加留部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 龍王
(72)【発明者】
【氏名】午坊 健司
(72)【発明者】
【氏名】仲上 翼
(72)【発明者】
【氏名】土屋 立美
(57)【要約】
【課題】フルオロエチレンからのフッ化水素が抑制された組成物を提供すること。
【解決手段】フルオロエチレンと、炭素数6以下のエポキサイドとを含む、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロエチレンと、炭素数6以下のエポキサイドとを含む、組成物。
【請求項2】
前記エポキサイドの含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~50000質量ppmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フルオロエチレンがフッ素原子を2個以上有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
酸素の含有量が、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~5000モルppmである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
水の含有量が、前記フルオロエチレンの質量を基準として0.1~100質量ppmである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
熱移動媒体、発泡剤又は噴射剤である、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロエチレンは、熱移動媒体をはじめとする各種用途に使用されており、今後もその需要はより高まると考えられている。
【0003】
一方で、フルオロエチレンに酸素が混入すると、徐々に分解してフッ化水素が生成する可能性がある。生成したフッ化水素は、冷凍機油の劣化を引き起こし、ひいては機器又は容器の腐食又は破損の要因となることがある。これを防止するため、酸素の混入を抑制する工夫や、フルオロエチレンに添加する冷凍機油に酸捕捉剤を加える工夫が行われている。
【0004】
特許文献1には、重合禁止剤を含有させたフルオロエチレン含有組成物が開示されている。また、特許文献2には、冷凍機油に酸化防止剤を含有させる態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-14594号公報
【特許文献2】国際公開第2020/017522号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような事情に鑑み、本開示の目的とするところは、フルオロエチレンからのフッ化水素生成が抑制された組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フルオロエチレンに、炭素数6以下のエポキサイドを共存させることにより、フッ化水素の生成を抑制できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本開示を完成するに至った。
【0008】
即ち、本開示は、以下の組成物を提供する。
項1.
フルオロエチレンと、炭素数6以下のエポキサイドとを含む、組成物。
項2.
前記エポキサイドの含有量は、前記フルオロエチレンの質量を基準として1~50000質量ppmである、項1に記載の組成物。
項3.
前記フルオロエチレンがフッ素原子を2個以上有する、項1又は2に記載の組成物。
項4.
さらに酸素を含み、酸素の含有量が、前記フルオロエチレンのモル数を基準として1~5000モルppmである、項1~3の何れかに記載の組成物。
項5.
さらに水を含み、水の含有量が、前記フルオロエチレンの質量を基準として0.1~100質量ppmである、項1~4の何れかに記載の組成物。
項6.
熱移動媒体、発泡剤又は噴射剤である、項1~5の何れかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本開示の組成物は、フッ化水素の生成が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0011】
本開示の組成物は、フルオロエチレンと、炭素数6以下のエポキサイドとを含む。
【0012】
本開示の組成物に含まれるフルオロエチレンとしては、特に限定されない。フルオロエチレン中のフッ素数については、2個以上であることが好ましく、2個又は3個であることがより好ましく、2個であることが特に好ましい。
【0013】
フルオロエチレンは、安定性がより向上しやすいという観点から、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましく、1,2-ジフルオロエチレンであることがさらに好ましい。
【0014】
ここで、1,2-ジフルオロエチレンには二種類の異性体(E体、Z体)が存在し、具体的には、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及びシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))の二種類が存在する。本開示のフルオロエチレン組成物において、フルオロエチレンが1,2-ジフルオロエチレンである場合、いずれか一方の異性体のみであってもよいし、両方の異性体の混合物であってもよい。つまり、本開示の組成物において、フルオロエチレンが1,2-ジフルオロエチレンである場合、1,2-ジフルオロエチレンは、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(E))及び/又はシス-1,2-ジフルオロエチレン(HFO-1132(Z))とすることができる。
【0015】
フルオロエチレンが1,2-ジフルオロエチレンである場合、1,2-ジフルオロエチレンは、E体であることが好ましい。具体的に1,2-ジフルオロエチレンは、E体を50質量%以上含むことが好ましく、55質量%以上含むことがより好ましく、60質量%以上含むことがさらに好ましく、70質量%以上含むことが特に好ましい。
【0016】
本明細書において、「1,2-ジフルオロエチレン」又は「HFO-1132」なる表記は、E体の1,2-ジフルオロエチレン、Z体の1,2-ジフルオロエチレン、及び、E体及びZ体の1,2-ジフルオロエチレンの混合物のすべてを包含する。また、本明細書では、必要に応じて、E体単体の1,2-ジフルオロエチレンを「1,2-ジフルオロエチレン(E)」又は「HFO-1132(E)」と表記し、Z体単体の1,2-ジフルオロエチレンを「1,2-ジフルオロエチレン(Z)」又は「HFO-1132(Z)」と表記し、E体及びZ体の1,2-ジフルオロエチレンの混合物を「1,2-ジフルオロエチレン(E,Z)」又は「HFO-1132(E,Z)」と表記する。
【0017】
本開示の組成物において、フルオロエチレンの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法によってフルオロエチレンを製造することができる。本開示の組成物に含まれるフルオロエチレンが1,2-ジフルオロエチレンである場合、1,1,2-トリフルオロエタンの脱フッ化水素反応、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンを水素化する反応、1,2-ジクロロジフルオルエチレンを水添分解する方法、あるいは、1-
クロロ-1,2-ジフルオロエタンの脱塩化水素反応によって、1,2-ジフルオロエチレンを製造することができる。
【0018】
本開示の組成物に含まれるエポキサイドは、炭素数6以下であり、炭素数3以下であることが好ましく、炭素数2のエポキサイドであることがより好ましい。当該エポキサイドの含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として1質量ppm以上とすることが好ましく、5質量ppm以上とすることがより好ましく、50質量ppm以上とすることがさらに好ましい。これにより、フッ化水素の生成を抑制する効果が得られやすく、フッ化水素の生成に伴う機器や組成物の劣化を効果的に抑制できる。
【0019】
また、当該エポキサイドの含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として50000質量ppm以下とすることが好ましく、5000質量ppm以下とすることがより好ましく、500質量ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0020】
エポキサイドの含有量がフルオロエチレンの質量を基準として50000質量ppm以下とすることにより、エポキサイドによる副反応による組成物の劣化を抑制すると共に、フルオロエチレンの物性の変化を防止することができる。
【0021】
本開示の組成物に含まれるフルオロエチレン及びそのエポキサイドの含有量は、ガスクロマトグラフィー等の公知の分析方法により特定することができる。
【0022】
本開示の組成物に含まれるフルオロエチレンのエポキサイドの製造方法は特に限定されず、公知の方法を広く採用することが可能である。例えば、当該フルオロエチレンを液相または気相中で酸化剤と接触させることにより、得ることができる。
【0023】
酸化剤としては、当該技術分野において使用される公知の酸化剤を広く使用することができ、特に限定はない。具体的には、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩といった塩素化合物、臭素酸塩、亜臭素酸塩、次亜臭素酸塩といった臭素化合物、酸素などが挙げられる。
【0024】
本開示の組成物に酸素が含まれる場合、酸素の含有量は、フルオロエチレンのモル数を基準として1モルppm以上であることが好ましく、3モルppm以上であることがより好ましく、5モルppm以上であることがさらに好ましい。酸素含有量をフルオロエチレンのモル数を基準として1モルppm以上とすることによりフルオロエチレンからエポキサイドを生成させることができるという利点がある。
【0025】
また、本開示の組成物に含まれる酸素の含有量は、フルオロエチレンのモル数を基準として、5000モルppm以下であることが好ましく、3000モルppm以下であることがより好ましく、1000モルppm以下であることがさらに好ましい。酸素含有量をフルオロエチレンのモル数を基準として5000モルppm以下とすることにより、分解反応や重合反応といったエポキサイドの生成以外の望まない副反応を抑止できるという利点がある。
【0026】
本開示の組成物中の酸素の含有量は、市販のガスクロマトグラフもしくは酸素濃度計により、気相の酸素の含有量を測定し、この測定値から液相中の酸素の含有量を換算することで酸素の含有量を定量できる。
【0027】
本開示の組成物に水が含まれる場合、水の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として0.1質量ppm以上であることが好ましく、1質量ppm以上であることがより好ましく、2質量ppm以上であることがさらに好ましい。
【0028】
また、本開示の組成物に含まれる水の含有量は、フルオロエチレンの質量を基準として、100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、20質量ppm以下であることがさらに好ましい。水の含有量をフルオロエチレンの質量を基準として100質量ppm以下とすることにより副反応等による酸又は固形物の発生を抑制し、組成物の安定性を確保することができる。
【0029】
本開示の組成物中の水の含有量は、市販のカールフィッシャー水分測定装置を用いた滴定等、公知の方法により測定することができる。
【0030】
本開示の組成物においては、上記した炭素数6以下のエポキサイドがフッ化水素を捕捉するため、フッ化水素の生成を抑制することができる。また、本開示の組成物において、本開示の組成物に含まれるエポキサイドが、本開示の組成物に含まれるフルオロエチレンのエポキサイドであった場合、フルオロエチレンとエポキサイドとは構造が類似していることから沸点が近く、組成物の取扱性が優れる。
【0031】
本開示の組成物は、その効果又は目的を損なわない範囲内で、上記した以外の物質を含んでもよい。例えば、フルオロエチレンの製造時に混入し得る不純物を含んでもよい。かかる不純物として、例えば、フルオロエチレンが1,2-ジフルオロエチレンである場合、フルオロエチレン、トリフルオロエチレン、1,1,1-トリフルオロエタン、プロピレン、アセチレン、ジフルオロメタン、トリフルオロメタン、フルオロメタン、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、フルオロエタン(HFC-161)、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロエタン(HCFC-133b)、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133)、1,1-ジクロロ-2,2,2-トリフルオロエタン(HCFC-123)、1-クロロ-1,2-ジフルオロエタン(HCFC-142a)、1,2-ジフルオロエタン(HFC-152)、クロロジフルオロメタン(HCFC-22)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)、ペンタフルオロエタン(HFC-125)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、フルオロエチレン(HFO-1141)、3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1-クロロ-2,2-ジフルオロエチレン(HCFO-1122)、1-クロロ-1,2-ジフルオロエチレン(HCO-1122a)及びエチレン等からなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0032】
本開示の組成物が前記不純物を含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、フルオロエチレンの質量を基準として、前記不純物が0.1質量ppm以上であってもよい。また、前記不純物が10000質量ppm以下含まれていることが好ましい。
【0033】
本開示の組成物は、フルオロエチレン以外に冷媒の機能を有する成分としてその他の成分を含んでいても良い。かかる成分として、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、1,1,2-トリフルオロエチレン(HFO-1123)、1,1-ジフルオロエチレン(HFO-1132a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC-134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC-152a)、ジフルオロメタン(HFC-32)、ヨードトリフルオロメタン、二酸化炭素、プロパン、ブタン、及びイソブタンが挙げられる。本開示の組成物
がこれらの成分を含む場合、冷媒の機能を有する成分の総量を100質量%として、その他の成分の含有量は、当該その他の成分の合計で3~97質量%であることが好ましく、30~90質量%であることがより好ましい。
【0034】
本開示の組成物を熱移動媒体として使用する場合、本開示の組成物の効果を阻害しない範囲内で、さらに潤滑油を含有することができる。かかる潤滑油としては特に限定されず、例えば、冷媒等に使用される公知の潤滑油を広く採用することができる。
【0035】
尚、本明細書において冷媒には、ISO817(国際標準化機構)で定められた、冷媒の種類を表すRで始まる冷媒番号(ASHRAE番号)が付された化合物が少なくとも含まれ、さらに
冷媒番号が未だ付されていないとしても、それらと同等の冷媒としての特性を有するものが含まれるものとする。冷媒は、化合物の構造の面で、「フルオロカーボン系化合物」と「非フルオロカーボン系化合物」とに大別される。「フルオロカーボン系化合物」には、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)及びハイド
ロフルオロカーボン(HFC)が含まれるものとする。
【0036】
本開示の組成物中における冷媒の含有率は、50質量%以上であることが好ましい。組成物中の冷媒の上限値については手特に制限はなく、例えば100質量%とすることができる。
【0037】
また、本開示の組成物に含まれる冷媒中のフルオロエチレンの含有率は、冷媒100質量%中にフルオロエチレンが3~100質量%とすることが好ましく、5~70質量%とすることがより好ましく、10~50質量%とすることがさらに好ましい。
【0038】
具体的な潤滑油としては、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル及びポリビニルエーテルからなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。ポリアルキレングリコール(PAG)としては、たとえば、日本サン石油株式会社製「SUNICEP56」等が挙げられる。また、ポリオールエステル(POE)としては、たとえばENEOS株式会社製「Ze-GLESRBシリーズ」等が挙げられる。ポリビニルエーテル(PVE)としては、例えば出光興産株式会社製「ダフニーハーメチックオイル FVC-Dシリーズ」等が挙げられる。
【0039】
潤滑油は、本開示の組成物の全量を100質量%としたときに、好ましくは1~50質量%、より好ましくは10~40質量%含むことができる。しかしながら、冷凍機のオイルタンクの仕様により異なるため、特にこの範囲に限定されるものではない。
【0040】
本開示の組成物は、その効果及び目的を阻害しない範囲内で、上記した潤滑油の酸化防止剤を含んでもよい。かかる酸化防止剤として、具体的には、2,6-ジ-tert-ブチル-p-ク
レゾール、4-ヒドロキシ-3-t-ブチルアニソール、トリエチルアミン、4-t-ブチルピロカ
テコール、及びα-メチルスチレン、フタル酸水素カリウムを例示することができる。これらは一種のみを単独で使用してもよいし、複数種の混合物を使用してもよい。当該酸化防止剤の含有量は、使用する潤滑油量に応じて適宜設定すればよい。
【0041】
本開示の組成物は、上記以外にも、他の添加剤をさらに含むことができる。本開示の組成物が他の添加剤を含む場合、他の添加剤の含有量は、冷媒の機能を有する成分の質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。
【0042】
本開示の組成物を調製する方法は特に限定されない。例えば、フルオロエチレンとそのエポキサイドと水とを所定の配合割合で混合させることにより、フルオロエチレン組成物
を調製することができる。この混合において、適宜、前述の潤滑油及び/又は他の添加剤を配合することもできる。また、組成物に空気や酸素を吹き込むことにより、組成物中の酸素量を所望の範囲に調節することができる。
【0043】
フルオロエチレン又はそのエポキサイドの製造において、前記不純物がフルオロエチレン又はそのエポキサイドに混在することがあるが、この不純物は事前に適宜の方法で除去してから組成物を調製してもよいし、不純物を除去せずにそのまま組成物に使用することもできる。
【0044】
本開示の組成物は、各種用途に使用することができ、熱移動媒体、発泡剤、噴射剤等に用いることができる。かかる熱移動媒体、発泡剤、噴射剤等は、フッ化水素の生成が抑制されて劣化が少ないため、長期にわたって品質が維持される。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0046】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0047】
<評価方法>
(フルオロエチレンの安定性試験)
以下のように安定性試験を行った。片側を溶封済みのガラス製チューブ(ID8mmΦ× OD12mmΦ×L 300mm) に、1,2-ジフルオロエチレンの添加量が8.
9mmolとなるように加えた。1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイド、酸素、及び水はあらかじめ所定量加えておいた。その後チューブを溶封により密閉状態とした。このチューブを175℃の雰囲気下の恒温槽内に静置させ、この状態で2週間保持した。その後、恒温槽からチューブを取り出して冷却し、外観を確認するとともにチューブ内のガス中の酸分の分析を行うことで、フルオロエチレンの安定性を評価した。
【0048】
フルオロエチレンの安定性試験において、ガス中の酸分の分析は次のような方法で行った。上記冷却後のチューブを、液体窒素を用いて、チューブ内に滞留するガスを完全に凝固させた。その後、チューブを開封し、徐々に解凍してガスをテドラーバッグに回収した。このテドラーバッグに純水5gを注入し、回収ガスとよく接触させながら酸分を純水に抽出するようにした。抽出液をイオンクロマトグラフィーにて検出して、フッ化物イオン(F)の含有量(質量ppm)を測定して得られたフッ化物イオンの量を生成したフッ化水素の量とした。
【0049】
(実施例1)
1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを1,2-ジフルオロエチレンに対し125質量ppm、酸素100モルppmを加えることにより、上記のフルオロエチレンの安定性試験を実施した。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素の生成は見られなかった。
【0050】
(実施例2)
1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを1,2-ジフルオロエチレンに対し125質量ppm、酸素500モルppmをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンに対し35質量ppm生成していることがわかった。
【0051】
(実施例3)
1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを1,2-ジフルオロエチレンに対し70質量ppm、酸素500モルppmをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンに対し49質量ppm生成していることがわかった。
【0052】
(比較例1)
1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを加えず、1,2-ジフルオロエチレンに対し酸素500モルppmのみをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンに対し67質量ppm生成していることがわかった。
【0053】
(実施例4)
1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを1,2-ジフルオロエチレンに対し125質量ppm、酸素500モルppm、水200質量ppmをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンに対し56質量ppm生成していることがわかった。
【0054】
(実施例5)
1,2-ジフルオロエチレンの代わりに1,1,2-トリフルオロエチレンを用い、1,1,2-トリフルオロエチレンのエポキサイドを1,1,2-トリフルオロエチレンに
対し50質量ppm、酸素100モルppmをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,1,2-トリフルオロエチレンに対し5質量ppm生成していることがわかった。
【0055】
(比較例2)
1,2-ジフルオロエチレンの代わりに1,2-ジフルオロエチレン23質量%及び2
,3,3,3-テトラフルオロプロペン77質量%からなる混合冷媒を用い、酸素500モルppmをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペン混合冷媒に対し200質量ppm生成していることがわかった。
【0056】
(実施例6)
1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを1,2-ジフルオロエチレンに対し125質量ppm、フタル酸水素カリウム100質量ppm、酸素500モルppmをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンに対し32質量ppm生成していることがわかった。
【0057】
(実施例7)
1,2-ジフルオロエチレンの代わりに1、2-ジフルオロエチレン23質量%及び2
,3,3,3-テトラフルオロプロペン77質量%からなる混合冷媒を用い、1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを混合冷媒に対し30質量ppm、酸素500モルppmをあらかじめ加えた他は実施例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペン混合冷媒に対し160質量ppm生成しているこ
とがわかった。
【0058】
(実施例8)
1,2-ジフルオロエチレンの代わりに1、2-ジフルオロエチレン23質量%及び2
,3,3,3-テトラフルオロプロペン77質量%からなる混合冷媒を用い、1,2-ジフルオロエチレンのエポキサイドを混合冷媒に対し30質量ppm、フタル酸水素カリウムを混合冷媒に対し100質量ppm、酸素500モルppmをあらかじめ加えた他は実施
例1と同様にして評価をおこなった。恒温槽からチューブを取り出してガスの分析を行ったところ、フッ化水素は1,2-ジフルオロエチレンと2,3,3,3-テトラフルオロプロペン混合冷媒に対し5質量ppm生成していることがわかった。
【0059】
【表1】