(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018500
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】窒化チタン膜を形成する方法、及び窒化チタン膜を形成する装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/34 20060101AFI20230201BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20230201BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20230201BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C23C16/34
C23C16/02
H01L21/285 C
H01L21/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122677
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 健介
(72)【発明者】
【氏名】藤川 朝香
(72)【発明者】
【氏名】高橋 毅
【テーマコード(参考)】
4K030
4M104
【Fターム(参考)】
4K030AA02
4K030AA03
4K030AA06
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA18
4K030BA18
4K030BA38
4K030BB01
4K030DA02
4K030DA04
4K030FA10
4K030LA15
4M104BB30
4M104BB37
4M104DD22
4M104DD23
4M104DD44
4M104DD45
4M104DD79
4M104GG16
4M104HH16
(57)【要約】
【課題】窒化チタン膜のボイドの形成を抑制する技術を提供すること。
【解決手段】基板に窒化チタン膜を形成する方法において、親水性を変化させることが可能な下地膜が表面に形成された基板に対して、前記下地膜の親水性を変化させる処理を行う工程と、前記親水性を変化させる処理が行われた後の前記下地膜の上面に、気相成長により窒化チタン膜を形成する工程と、を含む。これにより、親水性を変化させることが可能な下地膜の上に形成される窒化チタン膜の特性を制御することができる。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に窒化チタン膜を形成する方法において、
親水性を変化させることが可能な下地膜が表面に形成された基板に対して、前記下地膜の親水性を変化させる処理を行う工程と、
前記親水性を変化させる処理が行われた後の前記下地膜の上面に、気相成長により窒化チタン膜を形成する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記親水性を変化させる処理は、前記下地膜の親水性を向上させる親水化処理である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記親水化処理は、前記下地膜の表面の元素をヒドロキシ基により終端する処理である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記親水化処理は、APM(Ammonia-Hydrogen Peroxide Mixture)液を用いた前記基板表面の液処理である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記親水化処理は、フッ素含有ガスまたは水素を含むエッチングガスを用いた前記基板表面のドライエッチング処理である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記親水性を変化させる処理は、前記下地膜の親水性を低下させる疎水化処理である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記疎水化処理は、前記下地膜の表面の元素をシリル基により終端する処理である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記疎水化処理は、TMSDMA(N-(Trimethylsilyl)dimethylamine)を用いた前記基板表面の液処理である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記窒化チタン膜を形成する工程では、前記基板に対してチタンを含有する成分を含む原料ガスを供給し、当該基板の表面に前記成分を吸着させる処理と、次いで、前記基板に対して前記成分を窒化させるための反応ガスを供給し、前記基板の表面に窒化チタンの薄膜を形成する処理と、を繰り返し実行する、請求項1ないし8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記下地膜は酸化ケイ素膜である、請求項1ないし9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
基板に窒化チタン膜を形成する装置において、
親水性を変化させることが可能な下地膜が表面に形成された基板に対して、前記下地膜の親水性を変化させる処理を行う親水性調節部と、
前記親水性を変化させる処理が行われた後の前記下地膜の上面に、気相成長により窒化チタン膜を形成する成膜部と、を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化チタン膜を形成する方法、及び窒化チタン膜を形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造において、窒化チタン(TiN)膜は、種々の用途に用いられている。このTiN膜は、例えば成膜ガスとして、チタン(Ti)を含む原料ガス(例:四塩化チタン(TiCl4)ガス)と、窒素(N)を含む反応ガス(例:アンモニア(NH3)ガス)とを用いて成膜される。
【0003】
ここで特許文献1には、マグネトロンスパッタリング法によりTiN膜を成膜するにあたり、磁場を調整してプラズマ密度を変化させることにより、TiN膜を(111)と(200)に配向させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、親水性を変化させることが可能な下地膜の上に形成される窒化チタン膜の特性を制御する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、基板に窒化チタン膜を形成する方法において、
親水性を変化させることが可能な下地膜が表面に形成された基板に対して、前記下地膜の親水性を変化させる処理を行う工程と、
前記親水性を変化させる処理が行われた後の前記下地膜の上面に、気相成長により窒化チタン膜を形成する工程と、を含む方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、親水性を変化させることが可能な下地膜の上に形成される窒化チタン膜の特性を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】凹部へのTiN膜の埋め込み構造を示す模式図である。
【
図3】(111)方向と対向するように見たTiN結晶である。
【
図4】(200)方向と対向するように見たTiN結晶である。
【
図5】(220)方向と対向するように見たTiN結晶である。
【
図6】本開示に係るウエハの処理の流れを示す説明図である。
【
図9】TiN膜の成膜シーケンスの一例を示す図である。
【
図10】本開示に係る成膜システムの平面図である。
【
図11】XRDのピーク強度比とボイド比率との関係を示すグラフである。
【
図12】下地膜の接触角とXRDのピーク強度比との関係を示すグラフである。
【
図13】XRDの測定結果を示す回折スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の窒化チタン(以下、「TiN」ともいう)膜を形成する手法に関する具体的な技術内容を説明する前に、TiN膜を用いて製造されるデバイスの構成例、及びその課題について説明する。
本開示の手法により形成されるTiN膜は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)のワード線である配線層を成すものである。例えば
図1(a)に示すように、TiN8は、ウエハの一面側に形成された下地膜である酸化ケイ素(SiO)膜81に形成された溝状の凹部82に埋め込まれる。例えばTiN膜は、後述のALD(Atomic Layer Deposition)法により成膜され、凹部82の内部においては、当該凹部82の底部や側壁の内面に夫々堆積しながら多結晶構造のTiNが成長し、凹部82への埋め込みが進行する。
【0010】
SiO膜81は、絶縁膜として用いられ、凹部82は、その深さDが80~200nm、開口幅Wが10~20nm程度であって、前記深さDと開口幅Wとの比D/Wが5~20程度の大きさに形成されている。
一般に、ワード線の凹部82は、ビアホールを形成する凹部と比較してアスペクト比が小さく、従来配線材料として用いられているタングステンと比較して、TiNを埋め込むことにより抵抗値を低くすることができる。
【0011】
DRAMの製造工程では、凹部82に埋め込まれるTiN膜を成膜した後、不純物の拡散等の目的で、不活性ガス雰囲気下で750~1000℃程度の温度で加熱するアニール処理が実施される。一方、凹部82に埋め込まれたTiN8には小さな空隙である小さなボイド83が形成される場合がある。このボイド83は、成膜後に実施されるアニール処理によって追加形成されてしまう場合があることも分かってきた(
図1(b))。
このように配線層として用いられるTiN膜中に多数のボイド83が発生すると、電流の流れが悪くなり、TiN配線層の比抵抗が上昇する要因となって、デバイス動作に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0012】
ここでアニール処理により形成されるボイド83は、TiN8中のグレイン(crystal grain:結晶粒)が加熱によって成長し、隣接するグレイン同士の間に微小な隙間が生成することによって発生すると推察される。またTiCl4中の塩素のように不純物を含有する原料ガスを用いてTiN膜を成膜する場合には、グレイン同士の不安定な界面に不純物が凝集することにより、ボイド83の形成を促進しているのではないかと推察している。このモデルによれば、安定した界面を有するグレインの割合を増やすことができれば、ボイド83の発生を抑制することが可能となると期待できる。
【0013】
グレイン同士の界面の安定性に関し、発明者らはTiNの結晶構造に着目した。
図2に示すように、チタン91と窒素92との2種類の原子を含むTiNの結晶9は、面心立方格子構造となっている。このTiNは、ミラー指数を用いて表現すると、
図3に示す(111)方向に成長する結晶面、
図4に示す(200)方向に成長する結晶面、
図5に示す(220)方向に成長する結晶面の3種類の結晶面を有している。なお、
図3~
図5に示す図は、各結晶方向と対向する向きから見た結晶面を模式的に示している。また、便宜上、上述の各結晶方向に成長する結晶面を「(111)の結晶面」などとも記載する。
【0014】
発明者らが行った分子動力学的(MD;Molecular Dynamics)シミュレーションによると、(111)方向、(220)方向の結晶面で各々接するグレインの界面(以下、「(111)/(220)界面」とも記載する)は、ダングリングボンド(未結合手)が相対的に少ない(界面間の原子結合数が相対的に多い)ことが分かった。一方、(111)方向、(200)方向の結晶面で各々接するグレインの界面(以下、「(111)/(200)界面」とも記載する)、および(220)方向、(200)方向の結晶面で各々接するグレインの界面(以下、「(220)/(200)界面」とも記載する)は、ダングリングボンドが相対的に多い(界面間の原子結合数が相対的に少ない)ことが分かった。
【0015】
上述の事前シミュレーションの結果によれば、(111)/(200)界面および(220)/(200)界面は、(111)/(220)界面と比較して不安定であることが分かった。そして、ダングリングボンドが多く、不安定な(111)/(200)界面および(220)/(200)界面には、Clなどの不純物が凝集しやすく、ボイド83が形成される原因となるのではないかと予想される。
この点を言い替えると、TiN8内における(111)/(220)界面の割合を増やし(200)界面の割合を減らすことができれば、ボイド83の形成を抑えることが可能となる。すなわち(111)および(220)面を持つグレインを多くし、(200)面を持つグレインを少なくすることによりボイド83の形成を抑えることができる。このことは、
図11を用いて説明する、後述の予備実験の結果でもサポートされている。
【0016】
一方、発明者らは、TiN8内におけるTiNのグレインの界面を制御する手法として、下地膜(
図1の例ではSiO膜81)の親水性に着目した。即ち、下地膜に対して親水性を変化させることにより、TiN8中の界面の結晶構造を制御することが可能となることを新たに見出した。例えばSiO膜81は、表面の未結合手に結合させる化学種を変化させることにより、親水性を制御することができる。
【0017】
本開示に係るTiN膜の成膜法は、
図6に示すように、下地膜であるSiO膜81の親水性を変化させる処理を行い(工程P1)、次いで当該処理が行われた後のSiO膜81の上面にTiN膜を成膜する(工程P2)。工程P1の処理は、SiO膜81の親水性を向上させる親水化処理であってもよいし、SiO膜81の親水性を低下させる疎水化処理であってもよい。
【0018】
このとき後述の実験結果に示すように、SiO膜81に対して親水化処理を行った場合には、ボイド83の形成の要因となる(200)面を持つグレインを低減できることを見出した。
そこで以下、
図7~
図9を参照しながら、下地膜の親水化処理を行うことにより、TiN膜におけるボイドの形成を抑制する手法について説明する。
【0019】
図7は、SiO膜81が形成されたウエハWに対し、親水化処理を行う親水性調節装置3の構成例を示している。親水性調節装置3は、表面にSiO膜81が形成されたウエハWに対して公知のAPM(Ammonia-Hydrogen Peroxide Mixture)液を供給することにより、SiO膜81の親水化処理を行う枚葉式の液処理装置として構成されている。
【0020】
親水性調節装置3は、ウエハWに対してAPM液を供給する液処理、DIW(Deionized Water)によるリンス洗浄、振切乾燥の各処理が実行される密閉された処理空間を形成するアウターチャンバー31と、アウターチャンバー31内に設けられ、ウエハWをほぼ水平に保持した状態で回転させるウエハ保持機構33と、ウエハ保持機構33に保持されたウエハWの上面側に処理液を供給するノズルアーム34と、ウエハ保持機構33を取り囲むようにアウターチャンバー31内に設けられ、回転するウエハWから周囲に飛散した処理液を受けるためのインナーカップ32とを備えている。
【0021】
アウターチャンバー31の底面には、DIWなどの排水を排出するための排水ライン36と、アウターチャンバー31内の雰囲気を排気するための排気ライン37とが接続されている。アウターチャンバー31の側壁面には、既述のゲートバルブ29によって開閉され、ウエハWの搬入出が行われる不図示の搬入出口が設けられている。
ウエハ保持機構33は、ウエハWを水平に保持する円板状のステージと、ステージの下面側中央部に接続された回転軸とを備える。回転軸の下端部には、ウエハ保持機構33を回転させるための回転駆動部331が設けられている。
【0022】
ノズルアーム34は、先端部に処理液の供給用のノズルを備えており、不図示の駆動機構によってウエハ保持機構33に保持されたウエハWの中央部の上方位置と、例えばインナーカップ32よりも外方側の領域に設けられた待機位置との間で前記ノズルを移動させることができる。
インナーカップ32は、不図示の昇降機構により、ウエハ保持機構33に保持されたウエハWを取り囲む処理位置と、この処理位置の下方へ退避した退避位置との間を昇降するように構成されている。インナーカップ32は、処理位置にて、回転するウエハWの表面から飛散した処理液を受け止めて、その底面側に接続された排液ライン35を介してこれらの処理液を外部へ排出する役割を果たす。
【0023】
次にノズルアーム34に対して処理液を供給する機構について説明する。ノズルアーム34に設けられたノズルは処理液供給ライン38に接続されており、この処理液供給ライン38には切替バルブ392を介してDIW供給ライン301aとAPM供給ライン301bとに分岐している。
APM供給ライン301bの上流側にはAPM供給部302が接続され、このAPM供給部302からは、ウエハW表面のSiO膜81を親水化する処理液であり、アンモニアと過酸化水素水との混合液であるAPM液が供給される。
【0024】
処理液供給ライン38から分岐したもう一方側のDIW供給ライン301aは、親水化処理後、ウエハWに残存するAPM液をリンス洗浄するための処理液であるDIWを供給するためのDIW供給部301が設けられている。
処理液供給ライン38には流量調節部391が介設されており、APM供給部302から供給されたAPM液や、DIW供給部301から供給されたDIWの供給流量を調節することができる。
【0025】
次に、親水化処理された後のSiO膜81の上面側に、気相成長法であるALD法によりTiN膜を形成する成膜装置4の構成例について説明する。
成膜装置4は、ウエハWを収容し、真空雰囲気下で成膜処理を行うための処理容器40を備え、この処理容器40の側面には、既述のゲートバルブ29により開閉自在に構成された搬入出口41が形成されている。
【0026】
処理容器40の側壁の上部には、例えば円環状の排気ダクト43が配置されている。さらにこの排気ダクト43の上面には、処理容器40の上部開口を塞ぐように天板44が設けられている。処理容器40は、排気ダクト43の排気口431に接続された真空排気路45を介し、例えば真空ポンプよりなる真空排気部46に接続される。真空排気路45には、処理容器40内の圧力調節を行うAPC(Auto pressure Controller)バルブ47が介設されている。
【0027】
処理容器40の内部には、ウエハWを水平に支持する載置台5が設けられている。この載置台5には、ウエハWを加熱するためのヒーター51が埋設されている。また載置台5は、昇降機構54により昇降自在に構成されている。なお
図8中、ウエハWの受け渡し位置に移動した載置台5を一点鎖線にて示してある。同図中、符号55は、ウエハWの受け渡し用の支持ピンを指し、支持ピンは昇降機構56により昇降自在に構成される。また符号52は、支持ピン55用の貫通孔、符号57及び58は、載置台5、支持ピン55の昇降動作に伴って伸縮するベローズを夫々指す。
【0028】
処理容器40には、載置台5と対向するように、処理容器40内に処理ガスを供給するためのシャワーヘッド6が設けられている。シャワーヘッド6は、その内部にガス拡散空間61を備えると共に、その下面は、多数のガス吐出孔63が形成されたシャワープレート62として構成される。ガス拡散空間61にはガス導入孔64を介して、ガス供給系7が接続されている。
【0029】
ガス供給系7は、処理容器40に、原料ガスを供給するための原料ガス供給部71と、反応ガスを供給するための反応ガス供給部72と、を備えている。
原料ガスは塩素(Cl)とチタン(Ti)とを含むチタン化合物を含有したガスであり、チタン化合物としては例えば四塩化チタン(TiCl4)が用いられる。また、反応ガスは、窒素(N)を含み、チタン化合物と反応して、窒化チタン(TiN)を形成する窒素化合物を含有したガスであり、窒素化合物としては例えばアンモニア(NH3)が用いられる。
【0030】
原料ガス供給部71は、原料ガスの供給を行うためのTiCl4ガス供給源74及びTiCl4ガス供給路741を含む。例えばガスTiCl4ガス供給路741には、上流側から流量調節部742、貯留タンク743及びバルブV1が介設される。また、反応ガス供給部72は、反応ガスの供給を行うためのNH3ガス供給源75及びNH3ガス供給路751を含む。例えばガスNH3ガス供給路751には、上流側から流量調節部752、貯留タンク753及びバルブV2が介設される。
【0031】
これらTiCl4ガス及びNH3ガスは、夫々貯留タンク743、753に一旦貯留されて、所定の圧力に昇圧された後、処理容器40内に供給される。貯留タンク743、753から処理容器40への夫々のガスの供給及び停止は、バルブV1、V2の開閉により行われる。
さらに、ガス供給系7は、処理容器40に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部を備え、不活性ガスとしては例えば窒素(N2)ガスが用いられる。この例における不活性ガス供給部は、N2ガス供給源77、78及びN2ガス供給路771、781を含むものである。
【0032】
本例では、原料ガス供給部71のN
2ガス供給源77から供給されるN
2ガスはTiCl
4ガス用のパージガスである。このN
2ガス供給源77はN
2ガス供給路771を介して、既述のTiCl
4ガス供給路741に設けられたバルブV1の下流側に接続される。また、反応ガス供給部72のN
2ガス供給源78から供給されるN
2ガスはNH
3ガス用のパージガスである。このN
2ガス供給源78は、N
2ガス供給路781を介して、NH
3ガス供給路751に設けられたバルブV2の下流側に接続される。
なお、
図8中、符号772、782は、各々、流量調節部を指し、符号V3、V4は夫々バルブを指している。
【0033】
以上に説明した構成を備える親水性調節装置3及び成膜装置4を用いてウエハWの処理を行う動作について説明する。初めに、ウエハWは、親水性調節装置3に搬送され、SiO膜81の親水化処理が行われる。即ち、ウエハ保持機構33にウエハWが受け渡されたら、ノズルアーム34のノズルがウエハWの中央部の上方側の位置まで移動する。しかる後、ウエハ保持機構33によりウエハWを回転させ、ノズルからのAPM液の供給を開始する。ウエハWに供給されたAPM液は、遠心力の影響によりウエハWの表面全体に広がる。
【0034】
APM液は、SiO膜81の表面におけるダングリングボンドをヒドロキシ基(OH基)で終端する作用を有する。こうしてSiO膜81(ウエハW)の表面に形成されたヒドロキシ基は、ウエハWの親水性を向上させる(工程P1)。なお、SiO膜81を親水化する作用のある処理液は、APM液に限定されるものではなく、HPM(Hydrochloric hydrogen Peroxide Mixture)を利用することもできる。
所定時間、APM液の供給を行ったら、ウエハWに供給する処理液をDIWに切り替えてリンス洗浄を行う。しかる後、ウエハWの回転を継続したままDIWの供給を停止し、残存している処理液を振り切ってウエハWを乾燥させ、親水化処理を終える。
【0035】
親水化処理後のウエハWは、親水性調節装置3から取り出され、成膜装置4に搬入される。成膜装置4においては、ALD法によるTiN膜の成膜が行われる(工程P2)。
図9に示すガス供給シーケンスは、成膜に用いられるTiCl
4ガス、NH
3ガス及びN
2ガスの処理容器40への供給タイミングを示している。
図9中、TiCl
4の下段のN
2は、N
2ガス供給源77から供給されるN
2ガス、NH
3の下段のN
2は、N
2ガス供給源78から供給されるN
2ガスを示している。
【0036】
処理容器40内に搬入されたウエハWは載置台5に載置され、ヒーター51によるウエハWの加熱を開始すると共に、処理容器40内に、N2ガス供給源77、78から夫々予め設定された流量でN2ガスを供給する。そして、真空排気部46により処理容器40内の真空排気を実施し、処理容器40内が目標圧力になるようにAPCバルブ47の開度を調節する。
【0037】
続いて、
図9のガス供給シーケンスに基づき、TiN膜を形成する工程を実施する。この工程は
図9中に示すステップS1~S4により構成される。
先ず、バルブV1を開いて原料ガスであるTiCl
4ガスを供給すると共に、N
2ガス供給源77、78から夫々予め設定された流量でN
2ガスを供給する(ステップS1)。この処理により、ウエハWの全面にTiを含有する成分であるTiCl
4が吸着する。
【0038】
次に、バルブV1を閉じてTiCl4ガスの供給を停止する一方、N2ガス供給源77、78からのN2ガスの供給を続ける。このようにして、N2ガスによるパージを行い、処理容器40内に残存するTiCl4ガスを除去する(ステップS2)。
【0039】
次いで、N2ガス供給源77、78からのN2ガスの供給を続けた状態で、バルブV2を開いて、反応ガスであるNH3ガスを供給する。この処理により、ウエハWに吸着されたTiCl4とNH3とが反応し、TiNの薄膜が形成される(ステップS3)。
続いて、バルブV2を閉じてNH3ガスの供給を停止する一方、N2ガス供給源77、78からのN2ガスの供給を続けて、N2ガスによるパージを行い、処理容器40内に残存するNH3ガスを除去する(ステップS4)。
【0040】
こうして、TiN膜を形成する工程では、処理容器40内に不活性ガスであるN2ガスの供給を行いながら、原料ガス及び反応ガスとを交互に供給して、ステップS1~S4を設定された回数繰り返して実施し、所望の厚さのTiN膜を形成する。
【0041】
TiN膜の形成を終えたら、成膜装置4からウエハWを搬出する。SiO膜81の上面に形成されたTiN膜は、後段のエッチング処理により不要な部分が除去され、凹部82にTiN8を埋め込んだ構造が得られる(
図1(a))。
【0042】
本開示に係る成膜法によれば、ウエハWの表面に形成されているSiO膜81に対して、親水性を変化させる処理の一例として親水化処理を行った後、TiN膜を形成している。この結果、後述の実験結果に示すように、ウエハWをアニール処理した際のTiN8内におけるボイド83の形成を抑制することができる。
【0043】
ここで親水化処理の内容は、
図7を用いて説明したAPM液による液処理の場合に限定されるものではない。例えば後述の実験結果に示すように、エッチングガスを用いたドライエッチングによって、TiN膜の下地膜の親水化処理を行ってもよい。エッチングガスの例としては、フッ素を含有するフッ素含有ガスである三フッ化窒素(NF
3)ガスと窒素ガスとの混合ガスや、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスを例示することができる。
【0044】
ドライエッチングによる親水化処理を行う場合には、
図7を用いて説明した液処理による親水化処理を行う親水化処理装置3に替えて、プラズマ化して活性化させたエッチングガスを用いてドライエッチングを行う構成の親水化処理装置を設ける場合を例示できる。
【0045】
この場合には、例えば
図8に示す構成の処理モジュール(成膜装置4)について、TiNを成膜するための原料ガス及び反応ガスに替えて、ガス供給系7からエッチングガスを供給することにより、エッチング装置を構成する場合を例示できる。また、このエッチング装置内に対向して配置されたシャワーヘッド6と載置台5との一方側を接地し、他方側にプラズマ化用の高周波電源を接続して、容量結合を利用した平行平板型のプラズマモジュールを構成してもよい。プラズマ形成の手法としては、このほか、誘導結合アンテナを用いてプラズマを発生させる構成を採用してもよいし、マイクロ波アンテナから処理ガスにマイクロ波を供給してプラズマを発生させる構成を採用してもよい。誘導結合アンテナやマイクロ波アンテナは、例えばシャワーヘッド6の上面側に配置される。
【0046】
また、上述のエッチング装置及び成膜装置4を構成する処理モジュールは、いずれも真空雰囲気下でウエハWの処理が行われる。そこで、これらの処理モジュールを共通の真空搬送室に接続することにより、
図6に示した一連の工程P1、P2を共通の装置内で実施するとこができる。
【0047】
図10に示す成膜システム1は、処理モジュールとして既述のエッチング装置30及び成膜装置4を備えたマルチチャンバーシステムとして構成されている。
図10に示す成膜システム1においては、処理対象の複数枚のウエハWを収容したキャリアCが、成膜装置1のロードポート21に搬送される。ウエハWは、搬送アーム25によってキャリアCから取り出され、常圧搬送室22を介してアライメント室26に搬入される。ウエハWは、アライメント室26にてアライメントが行われた後、ロードロック室23を介して、真空搬送室24に搬入される。
【0048】
続いてウエハWは、搬送アーム28によりエッチング装置30にて既述のドライエッチングによる下地膜の親水化処理が実施され(工程P1)、次いで、成膜装置4にて親水化処理後の下地膜の上面側にTiN膜が形成される(工程P2)。
図8に示す成膜システム1は、本開示の基板に窒化チタン膜を形成する装置に相当し、エッチング装置30は親水性調節部、成膜装置4は成膜部に相当している。
【0049】
また、ここでTiN膜の成膜にあたって、ウエハWに供給されるTiを含む原料ガスは、TiCl4ガスに限定されない。例えば四臭化チタン(TiBr4)や四ヨウ化チタン(TiI4)でもよい。さらに例えばTDMAT(テトラキスジメチルアミノチタン)などの有機系の原料ガスであってもよい。また、成膜されるTiN膜の膜質向上のために、SiH4、SiH2Cl2などのSi含有ガスを原料ガスに添加してもよい。
さらには、親水化処理を行うことにより親水性を向上させることが可能であり、TiN膜の下面側に形成される下地膜(絶縁膜)についてもSiO膜81に限定されるものではない。例えばSiN膜やアルミナ膜、ポリシリコン膜、アモルファスシリコン膜であってもよい。
【0050】
また、本開示の手法を適用可能なTiN膜の気相成長法は、ALD法に限定されない。原料ガスと反応ガスとの連続供給を行うCVD(Chemical Vapor Deposition)であってもよい。この場合においても、下地膜に対して親水化処理を行ってからTiN膜の形成を行うことにより、親水化処理を行わない場合と比較して、ボイド83の形成されにくいTiN膜を得ることができる。
【0051】
さらには、液処理を行う装置の構成について、
図7を用いて説明した枚葉式以外に、APM液が貯留された水槽に多数枚のウエハWを浸漬させて液処理を行うバッチ式の液処理装置を用いてもよい。また、TiN膜の形成を行う装置の構成についても、多数枚のウエハWを保持したボートを加熱炉内に収容して成膜処理を行うバッチ式の成膜装置を用いてもよい。または、回転テーブル上に複数のウエハWを配置して、回転軸の周りにウエハWを公転させ、互いに区画された複数の処理空間を通過させて原料ガスの吸着と、反応ガスによるTiNの薄膜の形成とを繰り返し行うセミバッチ式の成膜装置を用いてもよい。
【0052】
上述の各実施の形態では、
図6に示す下地膜の親水性を変化させる処理(工程P1)について、下地膜の親水性を向上させる親水化処理を実施する適用例について説明した。
一方で既述のように、工程P1にて実施する処理は、親水性を低下させる疎水化処理であってもよい。発明者らは、工程P1として下地膜(例えば既述のSiO膜81)に対する疎水化処理を行った後、工程P2として、当該下地膜の上面にTiN膜を形成すると、TiN膜中の不純物量(塩素、酸素、ケイ素など)を増やしたり、ラフネスを減少させたりすることができることを見出した。ラフネスの小さなTiN膜は、例えばTiN/W積層構造でバリア膜として用いる場合に配線抵抗を下げることができる。
【0053】
例えば液処理による疎水化処理を行う場合には、処理液としてTMSDMA(N-(Trimethylsilyl)dimethylamine)を用いる場合を例示できる。TMSDMAは、下地膜の表面におけるダングリングボンドをケイ素と炭化水素とを含むシリル基で終端する作用を有するシリル化剤の1つである。
【0054】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【実施例0055】
(実験1)
予備実験として、(111)、(200)の各方向に成長した結晶面の含有比率を変化させた場合のTiN膜中のボイド83の含有量の変化を調べた。
A.実験条件
平坦なウエハWの表面にSiO膜81を成膜し、その上にTiN膜を成膜する際のガス流量およびガス供給時間を変化させ、上述の結晶面の含有比率が異なるTiN膜を成膜した。その後、このウエハWを不活性ガス雰囲気下、750℃でアニール処理した後、TiN膜中のボイド83の含有比率(ボイド比率[vol%])を求めた。各結晶面の含有量は、X線回折法(XRD;X-ray Diffraction Method)による各結晶方向のピーク強度から求めた。また、ボイド比率は透過電子顕微鏡(TEM)画像の画像解析により求めた。
【0056】
B.実験結果
図10に実験の結果を示す。
図10の横軸は、XRD分析の結果における(111)、(200)の各方向のピーク強度の比を示している。
図11の結果によれば、(111)方向に成長する結晶面の割合が小さくなるほど、ボイド比率が大きくなる傾向がみられる。一方、同結晶面の割合が大きくなっていくに連れてボイド比率が小さくなる。従って、TiN膜を構成するグレインにおいて、不安定な(200)の結晶面の界面を減らし、安定な(111)の界面を増やすことにより、ボイド83の形成を抑制することができるといえる。
【0057】
(実験2)
親水化処理がTiN膜中のグレインの結晶面割合に及ぼす影響を調べた。
A.実験条件
(実施例1)表面にSiO膜81の下地膜が形成されたウエハWに対し、APM液を用いた親水化処理を行った後、
図8、
図9を用いて説明したALD法によりTiN膜を形成した。親水化処理後のSiO膜81について、接触角計を用いて接触角測定を行った。また成膜されたTiN膜について、XRD分析を行った。
(実施例2)NF
3ガスとN
2ガスとの混合ガスをエッチングガスとして用い、プラズマエッチングにより親水化処理を行った点を除き、実施例1と同様の手法によりSiO膜81及びTiN膜の分析を行った。
(実施例3)H
2ガスとN
2ガスとの混合ガスをエッチングガスとして用い、プラズマエッチングにより親水化処理を行った点を除き、実施例1と同様の手法によりSiO膜81及びTiN膜の分析を行った。
(実施例4)SiO膜81の表面を疎水化処理するための処理液(シリル化剤)であるTMSDMAを用いて液処理を行った点を除き、実施例1と同様の手法によりSiO膜81及びTiN膜の分析を行った。
(参照例)SiO膜81の親水化処理を行っていない点を除き、実施例1と同様の手法によりSiO膜81及びTiN膜の分析を行った。
【0058】
B.実験結果
各実施例、参照例の結果を
図12及び表1に示す。また、実施例1、例4、参照例に係るXRDスペクトルを
図13に示す。
図12の横軸は、各SiO膜81の接触角を示し、縦軸は各TiN膜をXRD分析した結果における(111)/(200)、(220)/(200)の各ピーク強度比を示している。また、表1は各ピーク強度比、接触角の値に加え、親水化処理/疎水化処理後の下地膜の表面状態(ダングリングボンドの終端状態)を併記してある。なお、表1は、上から下に向けて接触角の小さい順に各実施例等を並べてある。さらに
図13の横軸は、回折角度2θを示し、縦軸は検出されたX線強度を示している。
【0059】
【0060】
図12及び表1に示す結果によれば、親水化処理によりSiO膜81の接触角が大きくなるに従い、(200)方向に成長する結晶面に対し、(111)、(220)の各方向に成長する結晶面の割合が増加している。この結果、TiN膜を構成するグレインにおいて、不安定な(200)の結晶面の界面を減らすことができているといえる。一方、SiO膜81が疎水化処理された実施例4においては、処理を行っていない参照例と比べても(111)、(220)の各方向に成長する結晶面の割合が減少している。このことは、既述のようにTiN膜中の不純物量を増やしたり、ラフネスの小さなTiN膜を形成可能であることを示し、TiN/W積層構造で配線抵抗を下げる目的で利用することができる。
【0061】
上述の実施例1と実施例4との対比は、
図13のXRDスペクトルにも端的に表れ、(111)方向のピーク強度は、実施例4よりも実施例1の方が大きくなっている。一方、(200)方向のピーク強度は、実施例4よりも実施例1の方が小さくなっている。
SiO膜81の親水性が高くなる(接触角が小さくなる)に応じて、安定な(111)の結晶面の割合が高くなる理由は不明である。一方で、親水処理は下地膜(SiO膜81)上に形成されるTiN膜の結晶構造を制御するうえで有効な操作手法であることが確認できた。