(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018533
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】アンビルロールおよびロータリーカッター
(51)【国際特許分類】
C22C 32/00 20060101AFI20230201BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20230201BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20230201BHJP
B22F 5/00 20060101ALI20230201BHJP
B26F 1/44 20060101ALI20230201BHJP
B26F 1/38 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C22C32/00 Z
C22C30/00
C22C1/05 A
B22F5/00 E
B26F1/44 H
B26F1/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122731
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 修司
(72)【発明者】
【氏名】真島 克弥
(72)【発明者】
【氏名】辻 康範
(72)【発明者】
【氏名】吉原 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】松尾 繁
【テーマコード(参考)】
3C060
4K018
【Fターム(参考)】
3C060BA03
3C060BB05
3C060BB18
3C060BB20
3C060BD03
3C060BE08
3C060BG06
4K018AB02
4K018AB03
4K018AD20
4K018BA04
4K018BB04
4K018BC11
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA31
4K018DA32
4K018HA01
4K018HA03
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】安価で長寿命なアンビルロールおよびロータリーカッターを得る。
【解決手段】切断刃21を有するカッターロール2と、ロールの円周方向に平滑な刃受け部31である円周面34を有するアンビルロール3とを有するロータリーカッター1において、少なくとも円周面34は、元素ごとの質量比が、Ti:20~45%、Mo:10~40%、W:10~35%、C:5~15%、Co:10~40%、CoとNi合計で25~40%となるように原料を配合し、それらを混合して混合粉を得、この混合粉をプレス成形してプレス体を得、このプレス体を焼結して得られるサーメットからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールの円周方向に平滑な刃受け部である円周面を有し、
少なくとも前記円周面はサーメットの焼結体からなり、
前記サーメットが元素の質量比で、
Ti(チタン) 20~45%
Mo(モリブデン) 10~40%
W (タングステン) 10~35%
C (炭素) 5~15%
Co(コバルト) 10~40%
Co+Ni(ニッケル)15~40%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、
それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、
混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、
プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメットである
アンビルロール。
【請求項2】
切断刃を有するカッターロールと、
ロールの円周方向に平滑な刃受け部である円周面を有し、少なくとも前記円周面はサーメットの焼結体からなり、
前記サーメットが元素の質量比で、
Ti(チタン) 20~45%
Mo(モリブデン) 10~40%
W (タングステン) 10~35%
C (炭素) 5~15%
Co(コバルト) 10~40%
Co+Ni(ニッケル)15~40%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、
それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、
混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、
プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメット焼結体であるアンビルロールとを有し、
前記カッターロールの切断刃と前記アンビルロールの円周面に挟まれた被切断物であるワークを、前記2つのロールの回転運動により所望の切断刃パターンに切断するロータリーカッター。
【請求項3】
前記カッターロールの切断刃が超硬合金からなる、請求項2に記載のロータリーカッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切断刃を有するカッターロールと、刃受け部を有するアンビルロールとを有し、両者間に挟まれた被切断物である帯状のワークを所望の切断刃パターンに切断するロータリーカッターに関する。また、アンビルロールに関する。
【背景技術】
【0002】
切断・打抜装置の一種として、切断刃を有するカッターロールと、前記切断刃の刃受けに当たるアンビルロールとを有し、両者間に挟まれた被切断物である帯状のワークを、所望の切断刃のパターン形状に切断するロータリーカッターが知られている。ロータリーカッターの切断刃及びアンビルロールの刃受け部には、耐摩耗性向上のため硬質材料が用いられている。
【0003】
特許文献1には、特定のヤング率を有する超硬合金やサーメットをアンビルロールの刃受け部とすることで、切断刃刃先のチッピングと耐摩耗性の両立を図れることが記載されている。
【0004】
特許文献2から特許文献5には、カッターロールの切断刃の刃先部やアンビルロールにTi基合金等のサーメットを用いてもよい旨記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6209300号公報
【特許文献2】特開平11-188699号公報
【特許文献3】特開平11-188698号公報
【特許文献4】特開平11-188700号公報
【特許文献5】特表2018-535103号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】河端,藤村,千徳「紛体および粉末冶金」第29巻第1号(1980),30-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1から特許文献5に記載があるアンビルロールについては、総じてアンビルロールの摩耗を少なくできることや、カッターロールの切断刃の刃先を欠損させないことが課題と位置づけられており、その課題の解決を図れるアンビルロールの材質が超硬合金やサーメットであると記載されている。
一方で、サーメットの材質そのものについては、記載がないか、一般的に「サーメット」と呼ばれる材料の範囲がそのまま記載されており、アンビルロールに最適なサーメットの組成については明記されていない。
例えば、特許文献1では、サーメットについては、「硬質材に含まれるサーメットとしては、金属成分としてMo、Ni及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、セラミックス成分として炭化物及び窒化物の少なくとも一方を含むものが挙げられる。炭化物としては、例えばTiCが挙げられる。窒化物としては、例えばTiNが挙げられる。サーメットに含まれる金属は、Mo、Ni及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む合金であってもよい」と一般的なサーメットの組成が示されているのみである。特許文献5にも、硬さやヤング率などの基本的な特性が、大まかな組成とあわせて記載されているに過ぎない。
【0008】
これらの先行技術文献は、アンビルロールの表面には広い範囲のサーメットでも適用できるように示唆するが、発明者らは、アンビルロール表面として適しているサーメットは限られた組成であることを見出した。また、カッターロールの切断刃の刃先に超硬合金を用いた場合に特に適するアンビルロールを見出した。
本願では、アンビルロールの少なくとも刃受け部に、特定の組成を有するサーメット焼結体を用いることで、安価で長寿命なアンビルロールおよびロータリーカッターを得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
ロールの円周方向に平滑な刃受け部である円周面を有し、
少なくとも前記円周面はサーメットの焼結体からなり、
前記サーメット焼結体が元素の質量比で、
Ti(チタン) 20~45%
Mo(モリブデン) 10~40%
W (タングステン) 10~35%
C (炭素) 5~15%
Co(コバルト) 10~40%
Co+Ni(ニッケル)15~40%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、
それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、
混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、
プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメットであるアンビルロールとすることで、前期課題を解決した。
【0010】
また、
切断刃を有するカッターロールと、
ロールの円周方向に平滑な刃受け部である円周面を有し、少なくとも前記刃受け部はサーメットの焼結体からなり、
前記サーメットが元素の質量比で、
Ti(チタン) 20~45%
Mo(モリブデン) 10~40%
W (タングステン) 10~35%
C (炭素) 5~15%
Co(コバルト) 10~40%
Co+Ni(ニッケル)15~40%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、
それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、
混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、
プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメット焼結体であるアンビルロールとを有し、前記カッターロールの切断刃と前記アンビルロールの円周面に挟まれた被切断物であるワークを、前記2つのロールの回転運動により所望の切断刃パターンに切断するロータリーカッターとすることで、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下の効果を奏する。
(1)アンビルロールの刃受け部の摩耗を、超硬合金製のアンビルロールと同程度の摩耗に抑えられる。
(2)超硬合金製のアンビルロールよりも著しく軽量で、鉄鋼材と同程度か、それ以下の重量とできる。
(3)超硬合金製のアンビルロールよりも製造費用を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】本発明のアンビルロール円周面に用いるサーメット焼結体の模式図
【
図5】本発明のアンビルロール円周面に用いるサーメット焼結体の組織写真の一例
【
図8】超硬合金アンビルロールの刃受け部表面の写真(試験後)
【
図9】比較試料のアンビルロールの刃受け部表面の写真(試験後)
【
図10】本発明のアンビルローの刃受け部表面の写真(試験後)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のロータリーカッターは、以下の要領にて実施できる。
(1)全体の構成
図1に示すように、ロータリーカッター1はカッターロール2とアンビルロール3の2つのロールを有する。
カッターロール2は、円周面に切断刃21を有し、切断刃21は円周方向にワークAを切断したい所望形状のパターンを有している。切断刃は
図6に示すように、略三角形状とするのが一般的である。
アンビルロール3は、その円周面に、切断刃21の刃受け部となる円筒状のサーメットからなる刃受け部31を有している。
2つのロールは、一般にフレームに設けられたベアリングに中心軸を挿入固定し、回転可能に固定される。2つのロールの円周面が接した状態で、一方または両方のロールをモーター等で回転させることにより、2つのロールは互いに反対方向に回転する。この際にはシリンダ等で2つのロールを近接させる方向に荷重を加えてもよい。
カッターロールの切断刃とアンビルロールの刃受け部は、隙間なく、あるいは若干の隙間を持って連続的に回転する。両者間に帯状の切断したいワークAを通すことで、ワークは切断刃と刃受け部により、切断刃のパターンに押切られた上で排出される。
【0014】
(2)カッターロールについて
図2に示すように、カッターロール2は、円筒または円柱形状のロールを用いる。カッターロール2は回転中心となる中心軸23と、アンビルロール3と直接またはワークを介してアンビルロールの刃受け部と接する切断刃を有する円周面24を有する。
切断刃21は、被切断物であるワークAを切断や打ち抜きしたいパターンとする。切断刃21には超硬合金を用いてもよい。超硬合金は硬さが焼入鋼と比較して著しく高く、切断刃の再研磨やロールの交換頻度を下げることができ、生産性に寄与する。また、切断刃21は、コスト面やワーク切断の難易度を考慮して、焼入鋼を用いてもよい。
円周面24の端部には、切断刃21の後述する「突出量」を調整しやすいように、円周面24よりもアンビルロール側に突き出したガイドリング22を有していてもよい。
円周面24に超硬合金製を用いた場合は、切断刃21が硬質であり、アンビルロール3の円周面34と狭い面積で直接またはワークAを介して接触するために、高速切断や長時間の連続稼働しようとする場合は、アンビルロールにも高い耐摩耗性を要求する。
【0015】
(3)アンビルロールについて
図3に示すように、アンビルロール3は、円筒状または円柱状(
図3は円柱状の場合を示す)であり、その刃受け部31は平滑で、カッターロールの切断刃21の刃先と直接またはワークAを介して接触する。中心軸33については有していてもよいし、他に固定手段があれば有していない構造とすることもできる。
少なくとも、アンビルロール3の刃受け部31は、サーメットであり、そのサーメットは元素の質量比で、
Ti(チタン) 20~45%
Mo(モリブデン) 10~40%
W (タングステン) 10~35%
C (炭素) 5~15%
Co(コバルト) 10~40%
Co+Ni(ニッケル)15~40%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップ、混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップ、プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップを経て得られるサーメットである。
同組成のサーメットであっても、溶射等によるコーティング面のみを刃受け部31として形成した場合は、切断刃21との接触により剥離が生じる可能性が高く、焼結体を用いる必要がある。
【0016】
サーメットの組成は、前記の範囲とする必要がある。
サーメットは、
図4に示すように、コア相81、リム相82および金属相84を有する組織が望ましい。
成分別には、C(炭素)は、5~15%であることにより、焼結性が改善し微細なコア相とリム相から成る硬質相を形成する。Cが5%未満であると、十分な体積のコア相およびリム相が生成されず耐摩耗性が低下する。一方、Cを15%より多く添加した場合には、遊離炭素相が発生し、機械的特性(強度・硬さ・耐衝撃性)が大幅に低下する。
Moは10~45%、Wは10~35%、の範囲で混合する。コア相を形成するTiCNと、金属相を形成するCo、Niとの濡れ性は悪いが、Mo
2CやWCを添加することにより生成されるリム相により、コア相とリム相から成る硬質相の濡れ性を改善することができる。これにより材料の焼結性が上がり、機械的特性(耐チッピング性、耐摩耗性)を向上させることができる。
MoとWを合わせて20~45%にすることで、WとCo、MoとCo、またはWとMoとCoの合金を形成しなくなり、耐衝撃性が向上し、使用時のアンビルロール円周面(刃受け部)の面荒れを防ぐことができる。
CoとNiは合計で15~40%である。この範囲よりも金属量が少ない場合には、耐衝撃性が不十分となり、アンビルロール円周面(刃受け部)が荒れやすくなる。逆に40%よりも多い場合には耐摩耗性が低下し、アンビルロールの寿命を十分に伸ばすことができない。
また、Coは10~40%とする。Coをこの範囲にすることで、アンビルロール円周面(刃受け部)の機械的特性を向上させ、長寿命化することができる。
【0017】
前記組成のサーメットを得るためには、例えば以下の手段を用いる。
すなわち、元素ごとの質量比が、
Ti:20~45%
Mo:10~40%
W:10~35%
C:5~15%
Co:15~40%
CoとNi合計で25~40%
となるように、TiまたはTi化合物、MoまたはMo化合物、WまたはW化合物、CoまたはCo化合物、NiまたはNi化合物および炭素から任意に選択される粉末を原料とし、それらを湿式または乾式にて混合し、混合粉を得るステップと、
混合粉を50~300MPaの圧力でプレス成形してプレス体を得るステップと、
プレス体を1300~1700℃、真空、還元、不活性ガス、水素または窒素のいずれかの雰囲気下で焼結するステップである。
【0018】
湿式混合の場合には、溶媒としてエタノールのような揮発性溶剤を使用し、スラリーは、真空静置乾燥、あるいは噴霧乾燥などにより乾燥させる。このとき、原料混合後のコア相およびリム相を形成する粒子の粒径は、2μm以下、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.6μm以下とすることが望ましい。後の焼結工程で、焼結の進行に伴って粒径は大きくなるが、2μm以下とすることで適切な焼結条件であれば焼結体の硬質相の平均粒径を3μm以下とすることが可能である。また1.0μm以下とすることで、焼結温度を下げることが可能で、微粒化により耐摩耗性をより向上させることができる。さらに0.6μm以下とすることで、より低温で焼結が可能で、あわせて耐摩耗性をさらに向上させることができる。
得られた微粒粉末に、成形バインダーとなる樹脂成分を混合し造粒を行う。造粒にはスプレードライを用いてもよい。
造粒した粉末は、金型プレス機、または静水圧プレス機により50~300MPaでプレス成形を行う。プレス成形後、プレス体に600~1000℃の真空またはガス雰囲気中で脱脂・仮焼結の処理を施し、中間加工を行う。なお、中間加工が容易である場合は、仮焼結を行わずにプレス体のまま中間加工を行ってもよい。
次に仮焼結体またはプレス体を焼結する。焼結条件は1300~1700℃の真空またはガス雰囲気中で行う。脱脂・仮焼結と本焼結は連続して行ってもよい。さらに、必要に応じて熱間水圧プレスを行い、焼結体を完成させる。
最後に、円筒研削盤や内面研削盤等の機械加工、あるいは電気加工により最終形状に仕上げ、円筒状のサーメット焼結体を得る。この焼結体は、目的とするアンビルロールの少なくとも円周面を形成する。
【0019】
(アンビルロール円周面に用いるサーメットの組織)
本発明に用いるサーメットは、
図4にその断面組織8を模式的に示しているように、Ti(C,N)を主成分とするコア相81と、コア相81の周囲を覆うように存在し、(Ti,Mo,W)(C,N)を主成分とするリム相82と、金属相83の3相を有し、断面組織観察でのコア相とリム相から成る硬質相の平均粒径が3μm未満とすることが望ましい。
コア相とリム相からなる硬質相の平均粒径を3μm未満にすることで、機械的特性と耐衝撃性が向上するため、切断刃の刃先との接触などによる衝撃が加わった際に破壊しにくい。特に、硬質相の平均粒径を1.5μm以下とすることで、さらに硬さが向上し、耐摩耗性も向上する。
コア相は、TiCNを主成分とする硬質相であり、高い硬さを有する。
リム相はコア相の周囲を覆うように存在し、(Ti
,Mo,W)(C,N)を主成分とする。
図5に示すように、リム相には相対的にMo成分とW成分とが多い相と、相対的にTiが多い相の2相を有していてもよい。リム相が2相である場合には、リム相の硬さが向上し、より耐摩耗性が高くなる。
【0020】
本実施形態に係るアンビルロール円周面を構成するサーメットは、比重9以下である。部材の比重が9を超えると、中心軸のたわみの発生、駆動装置側への負荷増大、装置の大型化の対応ができなくなるなどの悪影響が生じる。比重が8以下になると、鉄鋼材料と同等の扱いができ、さらに比重が7.5以下になると鉄鋼材料より軽くなり、装置設計の自由度を上げることができる。
【0021】
上記特徴を持つサーメットは耐衝撃性が超硬合金と同等に高い値でありながらも、比重が鉄鋼材料と同等、耐摩耗性は超硬合金と同等で、超硬合金よりも安価に製造ができる。安価であるのは、超硬合金に主成分として使用されるWC(炭化タングステン)の体積あたりのコストが高いためである。
【0022】
従来のアンビルロールは、焼入鋼等の鉄鋼材料で製造されるか、超硬合金で製造されるか、あるいは、サーメットで製造されている。このうち、サーメットについては実用化されていない。一般に、サーメットは切削工具用途の目的で開発された材料であり、硬さは非常に高いが、その分耐衝撃性は低い。そのため、アンビルロール円周面に用いた場合には、断続的な切断刃の刃先との接触、ロール振動や、イレギュラーな衝撃にさらされると、早期に小規模(数~数10μm程度)な多数の剥離や面粗れが接触部分に生じ、切断不良を招く。そのため、寿命を長くすることは困難である。一方で、前記組成範囲内のサーメットは、金属(Co、Ni)量が一般的なサーメットよりも高く、これらの不具合を避けた上で長寿命が実現できる。
【0023】
アンビルロール3の円周面34は、少なくとも0.5mmの厚さで前記サーメットの焼結体で形成することが好ましい。0.5mm未満であると、切断刃の刃先による局部的な圧縮により、破壊するおそれがある。厚さは、アンビルロールの大きさにもよるが、50~150mm程度とすることもできる。
【0024】
中心軸33は、焼入鋼とすることが望ましい。中心軸33と前記円筒状のサーメット31とは、焼き嵌め、冷やし嵌め、拡散接合、接着等の公知の手段にて接合して一体化できる。
【0025】
以下実施例により、本発明をより詳細に説明する。
【実施例0026】
まず、表1の実施例1に示す原料粉末を、エタノールを溶媒としてアトライタにより粉砕混合した。得られたスラリーを真空中で乾燥させ、バインダーとなるパラフィンを混合したのちプレス成形によりプレス体を作製した。なお、表2には表1の組成を元素別に分解した組成の質量%を示す。
このプレス体を大気圧水素雰囲気下800℃で仮焼結を行い、更に真空雰囲気にて1400℃にて本焼結を行うことにより、本発明のアンビルロールおよびロータリーカッターに用いるサーメットを得た。
実施例1により得られたサーメットは、平均粒径が1.2μmであった。
実施例2以降の実施例及び比較例は、1300~1500℃の範囲内で最も高い密度が得られる最低温度で焼結した。他の条件は実施例1と同条件である。
また、実施例および比較例(ただし、超硬およびSKD11を除く)において、コア相とリム相から成る硬質相の平均粒径は、2.5μm未満であった。
【0027】
サーメット組織全体の元素組成比率は、原料組成との乖離が大きく、また原料組成と焼結後のサーメットの成分比率の決定係数が低く、正確に定量することができなかった。参考までに表3に実施例1のサーメットについて、EPMAおよびEDXによる定量分析結果を示すが、原料組成との乖離が確認できる。この理由として、各構成元素同士の固溶体形成による格子状態の変化が影響していることが考えられる。上記非特許文献1にあるように、過去の研究においてもサーメット材料の合金組成の定量化が困難なことが知られており、正確な定量は難しい。
このように本発明において、当該物をその構造または特性により直接特定することは不可能であるか、またはおよそ非実際的であり、本発明には、いわゆる「不可能・非実際的事情」が存在する。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
続いて作製したサーメットの機械特性の評価を、以下に示す測定方法により実施した。また、比較材として、超硬合金とSKDでも同様の試験を行った。測定結果を表4に示す。
【0032】
【0033】
耐摩耗試験は、以下の方法にて行った。
まず、ロータリーカッターに用いる2つのロールを用意した。
一つは直径が150mmのカッターロールであり、切断刃は円周方向に直線状(同心円)のパターンを有している。切断刃を含むカッターロールの外周部は超硬合金(CIS019D規格にてVF-30に分類)で形成され、切断刃の断面は
図6に示すような先端部に50μmの平坦面61を有する略三角形状とした。中心軸を含むカッターロールの内部は焼入鋼として、前記超硬合金とは焼嵌めにて固定した。ロールの端部には、ガイドリングを設けた。
【0034】
アンビルロールは、その刃受け部を表1、表2に記載の各サーメット、比較試料としてのSKD11材および超硬合金(CIS019D規格にてVF-30に分類)として、円筒状の焼結体を得てそれを用いた。刃受け部である円周面34は、#2000の砥石を用いて円筒研削盤にて平滑面を得た。ロールの中心軸を含む円筒状のサーメットの内側は焼入鋼で形成し、両者を焼嵌めにて固定した。
【0035】
2つのロールを、図示しないフレームに設けられたベアリングに中心軸を挿入固定し、回転可能に固定した。また、図示しないモーターでカッターロールを回転させた。ガイドリングとアンビルロールの円周面は接しており、中心軸に2本のロールが近づく方向に図示しないシリンダにてベアリング部より加圧した。これにより、アンビルロールには、カッターロールの回転がガイドリングを通じて伝え、カッターロールとは反対方向に回転する。また、ワークの切断に必要な荷重を得られる。
シリンダによる荷重は、切断刃の刃先の突出量(無加圧状態の刃先とアンビルが接する位置をゼロ点とし、離れる方向を-(μm)、干渉する方向を+(μm)で表現する)を+5μmと設定した。この際のシリンダ荷重は400kgfであった。
【0036】
この状態で、両ロールの回転を周速20m/分とし、5時間連続的に回転稼働させ、その後にアンビルロール円周面で、切断刃の刃先と接触した箇所を観察した。
【0037】
まず、表面に微細な(あるいはそれ以上の)剥離がないかどうかを観察した。観察の結果、比較例4、5、13には微細な剥離が見られ、それ以外の試料は剥離が見られなかった。
比較例4は、Wを含んでおらず、サーメット組織の粒界の強度が十分でなく、微細な剥離が生じたと考えられる。
図9に多数の剥離を起点として摩耗が広がったアンビルロール円周面の写真を示す。
比較例5および13は十分量のMoが入っておらず、コア相、リム相と金属相(Co相)との濡れ性が十分でなく、衝撃に弱い組織であったと考えられる。
【0038】
剥離の観察にて、剥離が起こっていなかった実施例1~5、比較例1~3、比較例6~12、比較例14および比較例15については、引き続き摩耗量の評価を行った。
評価は、アンビルロール円周面の切断刃の刃先の接していない部分を基準とし、接した部分がどの程度摩耗しているかを、レーザー顕微鏡を使って測定することで行った。測定は、
図7に示すように、円周面34(摩耗していない箇所)から、最も深く入った箇所の深さを測定値とした。
まず、比較試料である超硬合金を測定し、その結果は平均摩耗深さ1.2μmであった。また、超硬合金の摩耗の形態は、
図8に示すように、刃先の接触した部分(黒っぽい帯状の部分)中に、摩耗がやや深い部分(白色部)が点在する形態であった。この深さを基準とし、
A 超硬合金と同等、または同等以上 :摩耗深さ ~1.4μm以下
B 超硬合金よりやや劣る :摩耗深さ 1.4μm超2.4μm以下
C 超硬合金より劣る :摩耗深さ 2.4μm超
の3段階に評価した。
【0039】
実施例1~実施例5については、いずれも超硬合金と同等以上の摩耗深さ(A)であり、特に実施例1については超硬合金よりも10%程度摩耗深さが小さい結果となった。摩耗の形態は、
図10に示すように、超硬合金とほぼ同様であり、白色部の面積も同等以下であった。また、いずれの実施例のサーメットの比重も8以下であった。実施例2~5についても、超硬合金とほぼ同等の摩耗深さであった。
【0040】
比較例3および比較例6は、Wの量が少ないために、サーメット組織の粒界の強度が十分でなく、消耗が増加したと考えられる(B)。
【0041】
比較例7~比較例11は、Coの一部または全部をNiに置き換えた試料である。NiはCoと比較していずれも硬さ、耐摩耗性が劣る傾向を示した。金属相としてNiは用いてもよいが、Coを一定量以上含む必要があり、Coが少ない場合これらの試料はいずれも、耐摩耗性が超硬合金と比較してやや劣っていた(B)。
【0042】
比較例1、比較例2、比較例12および比較例14は、摩耗深さは超硬合金よりもやや劣っていた(B)。これらは、いずれも実施例よりもMoの量が低い試料であり、硬さは実施例と同等にもかかわらず、Moの量が低いことにより断続的な荷重には摩耗しやすい形態であったと考えられる。比較例15はMoを含まない試料であり、摩耗深さは超硬合金よりも劣っていた(C)。
比較例3もWとMoが入れ替わっているが、摩耗深さは明らかに劣っており、WとMoいずれも十分な量を有していなければ、十分な耐摩耗性は得られないことが分かった(B)。