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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018553
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】多孔質ガラス体の加熱装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/014 20060101AFI20230201BHJP
   C03B 8/04 20060101ALI20230201BHJP
   C03B 20/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
C03B8/04 P
C03B20/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122763
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】小倉 明
【テーマコード(参考)】
4G014
4G021
【Fターム(参考)】
4G014AH21
4G021CA13
(57)【要約】
【課題】 多孔質ガラス体を適切に加熱し得る多孔質ガラス体の加熱装置を提供する。
【解決手段】 多孔質ガラス体の加熱装置1は、多孔質ガラス体20を収容可能な内部空間31S、内部空間31Sに連通する給気口S1、及び給気口S1より上方において内部空間31Sに連通する排気口E1を有し、上下方向に延在する炉心管31と、給気口S1と排気口E1との間において炉心管31の外周面を囲う断熱部40と、炉心管31と断熱部40との間において断熱部40によって囲われ、多孔質ガラス体20を加熱するヒータ35と、給気口S1から内部空間31Sにガスを供給するガス供給部65と、を備え、ヒータ35によって多孔質ガラス体20を加熱する状態において、断熱部40のうちヒータ35の中心より上側における外周面から放出される熱量が、ヒータ35の中心より下側における外周面から放出される熱量以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ガラス体を収容可能な内部空間、前記内部空間に連通する給気口、及び前記給気口より上方において前記内部空間に連通する排気口を有し、上下方向に延在する炉心管と、
前記給気口と前記排気口との間において前記炉心管の外周面を囲う断熱部と、
前記炉心管と前記断熱部との間において前記断熱部によって囲われ、前記多孔質ガラス体を加熱するヒータと、
前記給気口から前記内部空間にガスを供給するガス供給部と、
を備え、
前記ヒータによって前記多孔質ガラス体を加熱する状態において、前記断熱部のうち前記ヒータの中心より上側における外周面から放出される熱量が、前記ヒータの前記中心より下側における外周面から放出される熱量以下である
ことを特徴とする多孔質ガラス体の加熱装置。
【請求項2】
前記断熱部は、前記ヒータを囲う中央断熱部と、前記中央断熱部の上端から前記炉心管に沿って延在し前記炉心管の外周面を囲う上側断熱部と、前記中央断熱部の上端から前記炉心管に沿って延在し前記炉心管の外周面を囲う下側断熱部とから成り、
前記炉心管の径方向における前記上側断熱部の厚みは、前記下側断熱部の厚みより大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の多孔質ガラス体の加熱装置。
【請求項3】
前記上側断熱部及び前記下側断熱部は円筒状であり、
前記上側断熱部及び前記下側断熱部のそれぞれの外径と内径とは、延在方向において一定であり、
前記ヒータの中心から前記上側断熱部の下端までの距離と前記ヒータの中心から前記下側断熱部の上端までの距離が同じであり、
前記上側断熱部の長さは、前記下側断熱部の長さと同じであり、
前記上側断熱部の熱伝導率は、前記下側断熱部の熱伝導率と同じであり、
前記上側断熱部及び前記下側断熱部の容積の合計に対する前記下側断熱部の容積の比は、0.36より大きく、0.49以下である
ことを特徴とする請求項2に記載の多孔質ガラス体の加熱装置。
【請求項4】
前記上側断熱部における前記中央断熱部側の厚みは、前記上側断熱部における前記中央断熱部側と反対側の厚みより大きい
ことを特徴とする請求項2に記載の多孔質ガラス体の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス体の加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造に用いる光ファイバ用母材を製造する方法として、OVD法(Outside Vapor Deposition method)やVAD法(Vapor Phase Axial Deposition method)等を用いてガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成し、当該多孔質ガラス体を加熱して脱水及び焼結させる方法が知られている。
【0003】
下記特許文献1には、多孔質ガラス体を加熱して脱水処理や焼結処理を行う多孔質ガラス体の加熱装置が開示されている。この加熱装置は、上下方向に延在し多孔質ガラス体を収容可能な炉心管と、炉心管の外側に配置されて多孔質ガラス体を加熱するヒータと、炉心管の外周面の一部及びヒータを囲う炉体と、を備える。また、この加熱装置は、炉体の上方において炉心管の外周面を囲う上側断熱部と、炉体の下方において炉心管の外周面を囲う下側断熱部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-339024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の加熱装置では、炉体、上側断熱部、及び下側断熱部が炉心管の外周面を囲っており、これら部材から成る部位によって炉心管からの放熱を抑制している。また、この加熱装置では、炉心管の底部に設けられる給気口から炉心管内に脱水用のガスが供給され、当該ガスは、上端部の開口から排気される。このため、炉心管内では、ガスが下側から上側に流れる。このガスの流れに起因してヒータによる熱は下側から上側に向かって輸送され、炉心管内の温度は、ヒータを基準とする上側が下側より高温となる傾向にある。しかし、この加熱装置では、このような熱の偏りが考慮されておらず、炉心管からの放熱を抑制している上記の部位は、ヒータの中心を基準として上下に概ね対称である。このため、この部位のうちヒータの中心より上側における外周面から放出される熱量は、下側における外周面から放出される熱量より大きい。つまり、炉心管における高温となる上側の部位から放出される熱量が多い。このため、炉心管からの放熱を抑制する部材には、多孔質ガラス体を適切に加熱するための改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、多孔質ガラス体を適切に加熱し得る多孔質ガラス体の加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の達成のため、本発明の多孔質ガラス体の加熱装置は、多孔質ガラス体を収容可能な内部空間、前記内部空間に連通する給気口、及び前記給気口より上方において前記収容間に連通する排気口を有し、上下方向に延在する炉心管と、前記給気口と前記排気口との間において前記炉心管の外周面を囲う断熱部と、前記炉心管と前記断熱部との間において前記断熱部によって囲われ、前記多孔質ガラス体を加熱するヒータと、前記給気口から前記内部空間にガスを供給するガス供給部と、を備え、前記ヒータによって前記多孔質ガラス体を加熱する状態において、前記断熱部のうち前記ヒータの中心より上側における外周面から放出される熱量が、前記ヒータの前記中心より下側における外周面から放出される熱量以下であることを特徴とするものである。
【0008】
この多孔質ガラス体の加熱装置では、上記のように、給気口から内部空間にガスが供給されるため、内部空間のうち給気口と当該給気口より上方に位置する排気口との間では、ガスが下方から上方に向かって流れる。このようなガスの流れが生じている部位の炉心管の外周面を断熱部が囲う。このため、内部空間のうち断熱部によって囲われる部位では、ヒータを基準とする上側が下側より高温となる。しかし、上記のように、断熱部のうちヒータの中心より上側における外周面から放出される熱量が、下側における外周面から放出される熱量以下である。このため、炉心管の外周面から放出される熱量が上記特許文献1と同じであっても、上記特許文献1の加熱装置と比べて、炉心管のうちヒータより上側における外周面から放出される熱量を低減し得、所定の温度以上となる高温領域を広くし得る。従って、この多孔質ガラス体の加熱装置によれば、多孔質ガラス体を適切に加熱し得る。
【0009】
前記断熱部は、前記ヒータを囲う中央断熱部と、前記中央断熱部の上端から前記炉心管に沿って延在し前記炉心管の外周面を囲う上側断熱部と、前記中央断熱部の下端から前記炉心管に沿って延在し前記炉心管の外周面を囲う下側断熱部とから成り、前記炉心管の径方向における前記上側断熱部の厚みは、前記下側断熱部の厚みより大きいこととしてもよい。
【0010】
このような構成によれば、上側断熱部の熱伝導率が下側断熱部の熱伝導率と同じであっても、上記の高温領域を広くし易い。
【0011】
この場合、前記上側断熱部及び前記下側断熱部は円筒状であり、前記上側断熱部及び前記下側断熱部のそれぞれの外径と内径とは、延在方向において一定であり、前記ヒータの中心から前記上側断熱部の下端までの距離と前記ヒータの中心から前記下側断熱部の上端までの距離が同じであり、前記上側断熱部の長さは、前記下側断熱部の長さと同じであり、前記上側断熱部の熱伝導率は、前記下側断熱部の熱伝導率と同じであり、前記上側断熱部及び前記下側断熱部の容積の合計に対する前記下側断熱部の容積の比は、0.36より大きく、0.49以下であることとしてもよい。
【0012】
本発明者は、上記の比が上記の範囲であることによって、光ファイバ用母材の一部となる多孔質ガラス体を加熱する際の一般的な条件において、装置が大型化することを抑制しつつ上側断熱部及び下側断熱部から放出される熱量の合計が少なくなるようにし得ることを見出した。このため、この多孔質ガラス体の加熱装置によれば、装置が大型化することを抑制しつつ炉心管からの放熱量を低減し得る。
【0013】
或いは、前記上側断熱部における前記中央断熱部側の厚みは、前記上側断熱部における前記中央断熱部側と反対側の厚みより大きいこととしてもよい。
【0014】
炉心管における上側断熱部によって囲われる部位では、中央断熱部側の温度が中央断熱部側と反対側の温度より高くなる。このため、このような構成にすることで、上側断熱部における中央断熱部側の厚みが中央断熱部側と反対側の厚みより小さい場合と比べて、高温領域を広くし易い。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、多孔質ガラス体を適切に加熱し得る多孔質ガラス体の加熱装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る多孔質ガラス体の加熱装置を概略的に示す図である。
図2】炉心管の内部空間の温度と当該炉心管の延在方向に沿った位置との関係の一例を示すグラフである。
図3】断熱部の外周面から放出される熱量に関するグラフである。
図4】測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る多孔質ガラス体の加熱装置が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができる。なお、以下で参照する図面では、理解を容易にするために、各部材の寸法を変えて示す場合がある。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る多孔質ガラス体の加熱装置を概略的に示す図である。図1に示すように、本実施形態の多孔質ガラス体の加熱装置1は、加熱炉30と、昇降部60と、ガス供給部65と、を主な構成として備え、多孔質ガラス体20を加熱して、当該多孔質ガラス体20の脱水及び焼結をするように構成される。図1に例示される多孔質ガラス体20は、光ファイバのコアを形成するためのコアガラスロッドとなる多孔質ガラス体である。しかし、多孔質ガラス体は、特に制限されるものではなく、例えば、コアを囲うクラッドを形成するためのクラッドガラス体となるものであってもよい。
【0019】
本実施形態の加熱炉30は、炉心管31と、断熱部40と、ヒータ35と、を主な構成として備える。
【0020】
炉心管31は、上下方向に延在する筒状部材であり、内部空間31Sに多孔質ガラス体20を収容可能である。炉心管31の内径及び外径は、延在方向において概ね一定である。炉心管31の下側の開口は下側蓋部32によって塞がれ、上側の開口は上側蓋部33によって塞がれる。本実施形態では、炉心管31と下側蓋部32とが一体に形成されているが、炉心管31と下側蓋部32とが別体に形成されてもよい。上側蓋部33には、多孔質ガラス体20を吊り下げるための支持棒22を挿入する貫通孔が形成されている。支持棒22の下端には接続部23が設けられ、多孔質ガラス体20が堆積されたガラスロッド24がこの接続部23に接続されている。また、炉心管31には、内部空間31Sに連通する給気口S1と当該給気口S1より上方において内部空間31Sに連通する排気口E1が形成されている。本実施形態では、給気口S1は炉心管31の下端部近傍に形成され、排気口E1は炉心管31の上端部近傍に形成されている。炉心管31、下側蓋部32、及び上側蓋部33を構成する材料として、例えば、石英、カーボン等が挙げられる。
【0021】
断熱部40は給気口S1と排気口E1との間において炉心管31の外周面を囲うように構成され、ヒータ35は炉心管31と断熱部40との間において断熱部40によって囲われる。
【0022】
本実施形態の断熱部40は、中央断熱部41と、下側断熱部51と、上側断熱部52とから成る。
【0023】
本実施形態の中央断熱部41は、筐体42と内部断熱部43とから成り、概ね上下対称の構成とされる。本実施形態の筐体42は、上下方向に延在する円筒状の周壁42aと当該周壁42aの上方側の開口を塞ぐ上壁42bと周壁42aの下方側の開口を塞ぐ下壁42cとによって、概ね上下対称の中空の箱状に形成される。また、本実施形態の筐体42は、冷却機能を有する。具体的には、周壁42a、上壁42b、及び下壁42cのそれぞれの内部には、図示しない流路が形成されており、当該流路を図示しない冷却水供給部から供給される冷却水が流れる。流路に冷却水が流れることによって筐体42が冷却され、熱による筐体42の損傷が抑制される。なお、筐体42は冷却機能を有さなくてもよい。上壁42b及び下壁42cのそれぞれの中心部には、上下方向に貫通する貫通孔が形成されており、当該貫通孔に炉心管31が挿入される。炉心管31の上端部及び下端部のそれぞれは、筐体42から突出しており、筐体42は上下方向における炉心管31の中央部を囲い、炉心管31と筐体42とによって囲われる空間が形成されている。
【0024】
内部断熱部43は、断熱材から構成され、炉心管31と筐体42とによって囲われる空間において、炉心管31を囲う筒状に形成される。本実施形態では、内部断熱部43の内周面に環状の窪み部44が形成されている。上下方向における窪み部44の中心は、上下方向における中央断熱部41の中心と概ね一致しており、内部断熱部43の形状は窪み部44の中心を基準として概ね上下対称の形状である。このため、本実施形態の中央断熱部41は、窪み部44を基準として概ね上下対称の構成である。内部断熱部43の外周面は周壁42aに接し、内周面における窪み部44以外の部位は炉心管31に接し、上端面は上壁42bに接し、下端面は下壁42cに接している。なお、内部断熱部43と筐体42とが離隔していてもよく、内部断熱部43と炉心管31とが離隔していてもよい。この場合、これら部材間の隙間は、例えば2mm以下であることが好ましい。また、内部断熱部43の内周面には窪み部44が形成されなくてもよい。また、内部断熱部43の熱伝導率は、長さ方向及び径方向において一定とされる。内部断熱部43を構成する材料として、例えば、カーボン等が挙げられる。
【0025】
本実施形態のヒータ35は、リング状に形成されており、内部断熱部43の窪み部44内に配置されて炉心管31を囲っている。上下方向におけるヒータ35の中心は、上下方向における窪み部44の中心と一致している。このため、上記の中央断熱部41は、ヒータ35の中心を基準として上下対称の構成である。なお、図1には、ヒータ35の上下方向の中心を通り水平方向に延びる破線DLが示されている。ヒータ35が発熱することで炉心管31が加熱され、炉心管31の内部空間31Sに収容される多孔質ガラス体20が加熱される。このようなヒータ35は、炉心管31と断熱部40における中央断熱部41との間に位置し、当該中央断熱部41の内部断熱部43によって囲われている。このため、内部断熱部43によって、ヒータ35の熱を効果的に炉心管31に伝達することができる。また、炉心管31における内部断熱部43によって囲われる部位から熱が放出されることが抑制される。なお、ヒータ35は、複数の加熱部に分割されて構成され、これら複数の加熱部が炉心管31を囲うように不連続に窪み部44内に配置されてもよい。また、内部断熱部43が窪み部44を有さない場合には、炉心管31の外周面と内部断熱部43と間に配置される。ヒータ35として、例えばカーボン製のヒータが挙げられる。
【0026】
下側断熱部51は、断熱材から構成され、中央断熱部41の下端から炉心管31に沿って延在して炉心管31の外周面を囲う筒状に形成される。このため、炉心管31における下側断熱部51によって囲われる部位から熱が放出されることが抑制される。本実施形態では、下側断熱部51は、長さ方向において外径及び内径が一定の円筒状に形成される。また、下側断熱部51の内周面は炉心管31に接し、上端は中央断熱部41の上端に接している。なお、下側断熱部51と炉心管31とは離隔していてもよい。この場合、下側断熱部51と炉心管31との隙間は、例えば2mm以下であることが好ましい。また、本実施形態では、下側断熱部51の下端は、炉心管31の下端より上方に位置している。また、下側断熱部51の熱伝導率は、長さ方向及び径方向において一定とされる。下側断熱部51を構成する材料として、例えば、多孔質のセラミックが挙げられる。
【0027】
上側断熱部52は、断熱材から構成され、中央断熱部41の上端から炉心管31に沿って延在して炉心管31の外周面を囲う筒状に形成される。このため、炉心管31における上側断熱部52によって囲われる部位から熱が放出されることが抑制される。本実施形態の上側断熱部52の形状は、下側断熱部51の形状において外径のみを大きくした円筒形状とされる。このため、上側断熱部52の外径及び内径は長さ方向において一定であり、上側断熱部52の内径は下側断熱部51の内径と同じあり、上側断熱部52の長さは下側断熱部51の長さと同じであり、上側断熱部52の径方向の厚みは下側断熱部51の径方向の厚みより大きい。また、上側断熱部52の熱伝導率は、長さ方向及び径方向において一定であり、下側断熱部51の熱伝導率と同じとされる。また、上側断熱部52の内周面は炉心管31に接し、上端は中央断熱部41の上端に接している。なお、上側断熱部52と炉心管31とは離隔していてもよい。この場合、上側断熱部52と炉心管31との隙間は、例えば2mm以下であることが好ましい。また、本実施形態では、ヒータ35の中心から上側断熱部52の下端までの距離とヒータ35の中心から下側断熱部51の上端までの距離が同じである。なお、この距離は、上下方向における距離である。また、上側断熱部52の上端は炉心管31の上端より下方に位置している。下側断熱部51を構成する材料として、例えば、多孔質のセラミックが挙げられる。
【0028】
このような中央断熱部41、下側断熱部51、及び上側断熱部52から成る本実施形態の断熱部40の上下方向における中心は、上下方向における窪み部44の中心であり、断熱部40の中心がヒータ35の中心と概ね一致している。
【0029】
昇降部60は、把持する支持棒22を昇降して多孔質ガラス体20を上下に移動するように構成される。昇降部60の構成は特に制限されるものではない。
【0030】
ガス供給部65は、給気口S1に接続される配管66を介して内部空間31Sに、塩素系ガスを含むガスを供給する。内部空間31Sに供給されるガスは、排気口E1から排気管67に排気される。上下方向における給気口S1と排気口E1との距離は、多孔質ガラス体20の上下方向の長さより大きい。本実施形態では、ガスは塩素系ガス及び不活性ガスの混合ガスとされ、塩素系ガスとして、例えば、塩素、SiCl、塩化チオニル(SOCl2)等が挙げられ、不活性ガスとして、例えば、He、Ne、Ar、N2等が挙げられる。
【0031】
次に、多孔質ガラス体の加熱装置1を用いた多孔質ガラス体20の加熱方法について説明する。
【0032】
まず、多孔質ガラス体20を準備する。多孔質ガラス体20は、OVD法やVAD法などのスート法によって形成することができる。本実施形態では、VAD法によって、準備したガラスロッド24の一端部から当該ガラスロッド24の軸方向に沿うようにガラス微粒子を堆積させて、多孔質ガラス体20を得る。
【0033】
次に、多孔質ガラス体20を加熱して脱水処理を行う。得られた多孔質ガラス体20を支持棒22に吊り下げ、当該多孔質ガラス体20を炉心管31の内部空間31Sに収容させる。また、ガス供給部65によって、給気口S1からガスを内部空間31Sに供給し、当該内部空間31Sにガスを充填するとともに、内部空間31Sのガスを排気口E1から排気管67へ排気する。このため、内部空間31Sのうち給気口S1と排気口E1との間では、下方から上方に向かうガスの流れが生じている。
【0034】
このようにガスが供給されている状態で、ヒータ35を発熱させて炉心管31を加熱する。図2は、炉心管31の内部空間31Sの温度と当該炉心管31の延在方向に沿った位置との関係の一例を示すグラフであり、多孔質ガラス体20を脱水処理する際の温度と位置との関係を示すグラフである。なお、図2のグラフの縦軸は、炉心管31の上端を基準とした延在方向における位置である。また、位置p1は上側断熱部52の上端であり、位置p2は上側断熱部52の下端であり、位置p3はヒータ35の中心であり、位置p4は下側断熱部51の上端であり、位置p5は下側断熱部51の下端である。図2に示すように、内部空間31Sの温度は、ヒータ35の中心付近で最も高く、ヒータ35から離れるにつれて低くなる。また、内部空間31Sの温度は、ヒータ35を基準とする上側が下側より高温となっている。このような熱の偏りは、ガス供給部65から供給されるガスの流れに起因している。
【0035】
このように炉心管31が加熱されている状態で、昇降部60によって多孔質ガラス体20の全体がヒータ35を横切るように、多孔質ガラス体20を所定の速度で上方から下方へ移動させる。このため、多孔質ガラス体20がヒータ35によって加熱される。この加熱により、ガス供給部65からのガスに含まれる塩素系ガスによって、多孔質ガラス体20の表面におけるOH基や表面に付着した水分が除去される。なお、多孔質ガラス体20がヒータ35を複数回横切るように、多孔質ガラス体20を上下方向に往復移動させてもよい。また、加熱温度は、多孔質ガラス体20の焼結温度より低い温度でかつ多孔質ガラス体20から水分を除去できる温度であればよく、例えば、1000℃以上1200℃以下であることが好ましい。なお、この加熱温度は、内部空間31Sにおけるヒータ35近傍での温度である。加熱温度が1000℃以上であることによって、多孔質ガラス体20から水分を除去する時間を短縮し得、加熱温度が1200℃以下であることによって、多孔質ガラス体20が軟化することを十分に抑制し得る。
【0036】
次に、多孔質ガラス体20を加熱して焼結処理を行う。本実施形態では、上記の脱水処理と連続して行う。昇降部60によって、多孔質ガラス体20をヒータ35より上方に位置させる。内部空間31Sにおけるヒータ35近傍での温度が、多孔質ガラス体20が焼結して透明ガラス化する温度、例えば、1300℃以上1600℃以下となるようにヒータ35を発熱させる。この際、脱水処理と同様に、内部空間31Sには、ガス供給部65によってガスが供給されている。この際の内部空間31Sの温度は、脱水処理のときと同様に、ヒータ35の中心付近で最も高く、ヒータ35から離れるにつれて低くなっており、ヒータ35を基準とする上側が下側より高温となっている。この状態で、昇降部60によって多孔質ガラス体20の全体がヒータ35を横切るように、多孔質ガラス体20を所定の速度で上方から下方へ移動させる。このため、多孔質ガラス体20がヒータ35によって加熱されて焼結する。なお、多孔質ガラス体20がヒータ35を複数回横切るように、多孔質ガラス体20を上下方向に往復移動させてもよい。このようにして、多孔質ガラス体20が透明ガラス化され、光ファイバのコアを形成するためのコアガラスロッドとなる。
【0037】
このようにして得られたコアガラスロッドから光ファイバを形成するための光ファイバ用母材を製造することができる。例えば、得られたコアガラスロッドにOVD法によってガラス微粒子を堆積させて光ファイバのクラッドを形成するためのクラッドガラス体となる多孔質ガラス体を形成する。次に、上記の脱水処理及び焼結処理と同様に、当該多孔質ガラス体を加熱して脱水処理及び焼結処理を行う。コアガラスロッドはこの加熱によってほとんど変化することなく光ファイバのコアとなるコアガラス体となり、多孔質ガラス体は透明ガラス化されて光ファイバのクラッドとなるクラッドガラス体となる。そして、コアガラス体と当該コアガラス体の外周面がクラッドガラス体によって囲われた光ファイバ用母材を得ることができる。この光ファイバ用母材を加熱して線引きすることで、コアの外周がクラッドによって囲われた光ファイバを得ることができる。
【0038】
ここで、上記のように、多孔質ガラス体の加熱装置1における炉心管31は断熱部40によって囲われている。このため、ヒータ35によって多孔質ガラス体20を加熱する脱水及び焼結処理を行う状態において、炉心管31のうち断熱部40によって囲われている部位の外周面から放出される熱は断熱部40を介して放出される。この断熱部40のうちヒータ35の中心より上側における外周面は、中央断熱部41におけるヒータ35の中心より上側における外周面の全体と、上側断熱部52の外周面の全体とから成る。一方、断熱部40のうちヒータ35の中心より下側における外周面は、中央断熱部41におけるヒータ35の中心より下側における外周面の全体と、下側断熱部51の外周面の全体とから成る。本実施形態では、上側断熱部52の外径を下側断熱部51の外径より大きくすることで、上側断熱部52の断熱性能を下側断熱部51の断熱性能より高くしている。そして、断熱部40のうちヒータ35の中心より上側における外周面から放出される熱量を、ヒータ35の中心より下側における外周面から放出される熱量以下にしている。なお、本実施形態では、断熱部40の中央断熱部41は、ヒータ35の中心を基準として概ね上下対称の構成である。また、上側断熱部52が囲う炉心管31の外周面の範囲と下側断熱部51が囲う炉心管31の外周面の範囲は、ヒータ35の中心を基準として概ね上下対称である。しかし、図2に示すように、炉心管31の内部空間31Sにおけるヒータ35より上側は、下側より高温である。このため、このような熱の偏りも考慮したうえで、断熱部40の外周面から放出される熱量が上記のようになるように、中央断熱部41、下側断熱部51、及び上側断熱部52の上下方向の長さ、これらの外径が調節されている。
【0039】
なお、本実施形態では、断熱部40に冷却機能を有する筐体42が含まれる。このように断熱部40に冷却機能を有する部材が含まれる場合、断熱部40のうちヒータ35の中心より上側における外周面から放出される熱量には、当該外周面から放出される熱量と、冷却機能を有する部材のうちヒータ35の中心より上側における部位から冷却機能によって放出される熱量とが含まれるものとする。このため、本実施形態では、断熱部40のうちヒータ35の中心より上側における外周面から放出される熱量には、筐体42のうちヒータ35の中心より上側における部位から冷却機能によって放出される熱量が含まれる。また、断熱部40のうちヒータ35の中心より下側における外周面から放出される熱量には、上側における外周面から放出される熱量と同様に、筐体42のうちヒータ35の中心より下側における部位から冷却機能によって放出される熱量が含まれる。
【0040】
本実施形態の断熱部40における内部断熱部43、下側断熱部51、及び上側断熱部52は、冷却機能を有さない円筒状の部材である。このような円筒状の部材において内周面から外周面へ伝わって当該外周面から放出される熱量Qは、フーリエの法則により、以下の式(1)で表すことができる。
なお、T(x)は部材の一端を基準とした延在方向における位置xでの内周面の温度と外周面の温度との差、Din(x)は位置xでの内径、Dout(x)は位置xでの外径、k(x)は位置xでの径方向における熱伝導率の平均値、Lは部材の長さである。ここで、下側断熱部51の上端面及び内部断熱部43の下端面は、冷却機能を有する筐体42の下壁42cに接し、上側断熱部52の下端面及び内部断熱部43の上端面は、筐体42の上壁42bに接している。このため、下側断熱部51の上端面、内部断熱部43の下端面及び上端面、上側断熱部52の下端面から筐体42の冷却機能に熱が放出される。しかし、上記のような脱水及び焼結処理を行う状態では、このように放出される熱量は、それぞれの部材の外周面から放出される熱量に比べて無視できる程度に小さい。このため、内部断熱部43、下側断熱部51、及び上側断熱部52のそれぞれの外周面から放出される熱量は、概ね上記の式(1)で近似できる。ここで、下側断熱部51及び上側断熱部52の外周面は、断熱部40の外周面の一部であり、以下では、下側断熱部51及び上側断熱部52の外周面から放出される熱量について詳細に説明する。
【0041】
本実施形態では、上記のように、炉心管31の外径は長さ方向において一定であり、下側断熱部51及び上側断熱部52の内周面は炉心管31に接している。また、下側断熱部51及び上側断熱部52の外径は延在方向において一定であり、下側断熱部51の長さは、上側断熱部52の長さと同じであり、下側断熱部51の熱伝導率は、上側断熱部52の熱伝導率と同じである。このため、下側断熱部51における内周面の温度と外周面の温度との差をΔT、上側断熱部52における内周面の温度と外周面の温度との差をΔT、炉心管31の外径をD、下側断熱部51の外径をD、上側断熱部52の外径をD、下側断熱部51及び上側断熱部52の熱伝導率をk、下側断熱部51及び上側断熱部52の長さをLとすると、下側断熱部51の外周面から放出される熱量Qは、以下の式(2)で表され、上側断熱部52の外周面から放出される熱量Qは、以下の式(3)で表される。
また、下側断熱部51の断面積Aは、以下の式(4)で表され、上側断熱部52の断面積Aは、以下の式(5)で表される。
また、断面積Aと断面積A2との合計をA、下側断熱部51及び上側断熱部52の容積の合計に対する下側断熱部51の容積の比をβとすると、断面積Aは、以下の式(6)で表され、断面積Aは、以下の式(7)で表される。
そして、上記の式(4)及び式(6)に基づいて、下側断熱部51の外径Dは、以下の式(8)で表され、上記の式(5)及び式(7)に基づいて、上側断熱部52の外径Dは、以下の式(9)で表される。
【0042】
ここで、ΔTに対するΔTの比をα、炉心管31の外径を直径とする円の面積をA0とすると、上記の式(2)及び式(8)に基づいて、熱量Qは、以下の式(10)で表され、上記の式(3)及び式(9)に基づいて、熱量Qは、以下の式(11)で表され、熱量Qと熱量Qとの合計の熱量Qは、以下の式(12)で表される。
面積Aに対するAの比をCとすると、上記の式(12)におけるβに依存する部分f(α,β)は、以下の式(13)で表される。
【0043】
図3は、断熱部の外周面から放出される熱量に関するグラフである。具体的には、図3のグラフは、f(α,β)と比βとの関係を示すグラフの一例であり、比Cを1とし、比αを1.5、2、3、5とする際のそれぞれにおけるf(α,β)と比βとの関係を示すグラフである。下側断熱部51及び上側断熱部52の両方が存在するものとすると、比βの範囲は、ゼロより大きく、1未満となる。そして、図3のグラフから、f(α,β)はこの範囲で最小値となり、比αが大きくなるほどf(α,β)が最小となる比βの値が小さくなることが分かる。なお、図3には、f(α,β)が最小となる位置に丸い印が付されている。
【0044】
ここで、上記のように、内部空間31Sに供給されるガスの流れに起因して、内部空間31Sのうち断熱部40によって囲われる部位では、ヒータ35を基準とする上側が下側より高温となる。比αが1より大きいという条件をf(α,β)に適用する場合、f(α,β)が最小値となる比βは、0.5未満となる。これにより、下側断熱部51の外周面から放出される熱量Qと上側断熱部52の外周面から放出される熱量Qとの合計の熱量Qを最小とする最適な比βが存在し、比αが大きいほど熱量Qが最小となる比βを小さくすべきという指針が得られる。
【0045】
上記の比αは、炉心管31の外径D、炉心管31の内部空間31Sに供給されるガスの種類、当該ガスの流量、加熱温度等の条件によって変化する。そこで、以下に示す4つの条件a,b,c,dにおいて、炉心管31の外周面の温度と断熱部40の外周面の温度との差を測定した。その結果を図4に示す。条件aでは、ガスの種類はヘリウムであり、ガスの流量は3SLMであり、内部空間31Sにおけるヒータ35の近傍の温度が概ね1400℃である。条件bでは、ガスの種類はヘリウムであり、ガスの流量は3SLMであり、内部空間31Sにおけるヒータ35の近傍の温度が1100℃である。条件cでは、ガスの種類はヘリウムであり、ガスの流量は3SLMであり、内部空間31Sにおけるヒータ35の近傍の温度が概ね1400℃である。条件dでは、ガスの種類はヘリウムであり、ガスの流量は3SLMであり、内部空間31Sにおけるヒータ35の近傍の温度が概ね1000℃である。これらの条件は、光ファイバ用母材の一部となる多孔質ガラス体を加熱する際の一般的な条件である。また、これらの条件では、下側断熱部51の外径Dと上側断熱部52の外径Dとは500mmであった。
【0046】
図4のグラフにおいて、横軸はヒータ35の中心を基準とする上下方向の相対位置であり、1.0は下側断熱部51の下端であり、-1.0は上側断熱部52の上端である。また、0.2付近が中央断熱部41の下端であり、-0.2付近が中央断熱部41の上端である。また、縦軸は、炉心管31の外周面の温度と断熱部40の外周面の温度との差であるが、当該差の値は、最大値で割ることによって正規化された値である。図3に示される結果から、下側断熱部51の外周面の温度の平均値に対する上側断熱部52の外周面の温度の平均値の比を、上記の比αとして算出した。条件aでの比αは2.4であり、条件bでの比αは1.6であり、条件cでの比αは1.9であり、条件dでの比αは1.1であった。このため、光ファイバ用母材の一部となる多孔質ガラス体を加熱する一般的な条件において、αは1.1以上、2.4以下であることが分かった。
【0047】
ここで、上記の比Cは、炉心管31の外径を直径とする円の面積Aに対する、下側断熱部51の断面積Aと上側断熱部52の断面積A2との合計Aの比である。このため、Cが大きくなるほど下側断熱部51や上側断熱部52が大きくなり、多孔質ガラス体の加熱装置1が大きくなる。このため、装置が大型化することを抑制する観点では、Cは30以下であることが好ましい。そして、上記の式(13)で示されるf(α,β)において、比Cが30以下、比αが1.1以上、2.4以下である制限を与えた際に、f(α,β)が最小値となる比βが0.36より大きく、0.49以下であることを得た。このようにして、本発明者は、この比βがこの範囲であることによって、光ファイバ用母材の一部となる多孔質ガラス体を加熱する際の一般的な条件において、装置が大型化することを抑制しつつ上側断熱部52及び下側断熱部51から放出される熱量の合計が少なくなるようにし得ることを見出した。そして、本実施形態の多孔質ガラス体の加熱装置1では、上記の比βが上記の範囲となるように、下側断熱部51及び上側断熱部52の外径D,Dが設定されている。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の多孔質ガラス体の加熱装置1は、上下方向に延在する炉心管31と、断熱部40と、ヒータ35と、ガス供給部65と、を備える。炉心管31は、多孔質ガラス体20を収容可能な内部空間31S、当該内部空間31Sに連通する給気口S1、及び当該給気口S1より上方において内部空間31Sに連通する排気口E1を有する。断熱部40は、給気口S1と排気口E1との間において炉心管31の外周面を囲う。ヒータ35は、炉心管31と断熱部40との間において断熱部40によって囲われ、多孔質ガラス体20を加熱する。ガス供給部65は、給気口S1から内部空間31Sにガスを供給する。このガスによって、ヒータ35によって多孔質ガラス体20を加熱する状態において、内部空間31Sのうち断熱部40によって囲われる部位では、ヒータ35を基準とする上側が下側より高温となる。しかし、この状態において、断熱部40のうちヒータ35の中心より上側における外周面から放出される熱量が、ヒータ35の中心より下側における外周面から放出される熱量以下である。一方、前述の特許文献1の加熱装置では、上記の断熱部40に対応する部位である炉体、上側断熱部、及び下側断熱部からなる部位のうちヒータの中心より上側における外周面から放出される熱量は、下側における外周面から放出される熱量より大きい。このため、炉心管31の外周面から放出される熱量が前述の特許文献1と同じであっても、この特許文献1の加熱装置と比べて、炉心管31のうちヒータ35より上側における外周面から放出される熱量を低減し得、その結果、所定の温度以上となる高温領域を広くし得る。従って、本実施形態の多孔質ガラス体の加熱装置1によれば、多孔質ガラス体を適切に加熱し得る。なお、所定の温度としては、例えば、内部空間31Sにおける最高温度の0.9倍の温度が挙げられる。
【0049】
また、本実施形態では、断熱部40は、ヒータ35を囲う中央断熱部41と、中央断熱部41の上端から炉心管31に沿って延在し炉心管31の外周面を囲う上側断熱部52と、中央断熱部41の下端から炉心管31に沿って延在し炉心管31の外周面を囲う下側断熱部51とから成る。炉心管31の径方向における上側断熱部52の厚みは、下側断熱部51の厚みより大きい。このため、上側断熱部52の熱伝導率が下側断熱部51の熱伝導率と同じであっても、上記の高温領域を広くし易い。
【0050】
また、本実施形態の多孔質ガラス体の加熱装置1では、上側断熱部52及び下側断熱部51は円筒状であり、上側断熱部52及び下側断熱部51の外径は、延在方向において一定であり、ヒータ35の中心から上側断熱部52の下端までの距離とヒータ35の中心から下側断熱部51の上端までの距離が同じであり、上側断熱部52の長さは、下側断熱部51の長さと同じであり、上側断熱部52の熱伝導率は、下側断熱部51の熱伝導率と同じである。また、上記の比βは0.36より大きく、0.49以下である。従って、本実施形態の多孔質ガラス体の加熱装置1によれば、装置が大型化することを抑制しつつ炉心管31からの放熱量を低減し得る。
【0051】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
例えば、上記実施形態では、下側断熱部51及び上側断熱部52の形状が長さ方向において外径及び内径が一定の円筒形状である断熱部40を例に説明した。しかし、ヒータ35によって多孔質ガラス体20を加熱する状態において、断熱部40のうちヒータ35の中心より上側における外周面から放出される熱量が、ヒータ35の中心より下側における外周面から放出される熱量以下であればよく、下側断熱部51及び上側断熱部52の形状は制限されるものではない。例えば、下側断熱部51の外径及び内径、上側断熱部52の外径及び内径は、長さ方向において一定でなくてもよく、上側断熱部52及び下側断熱部51の厚みが長さ方向において一定でなくてもよい。図示による説明は省略するが、例えば、上側断熱部52における中央断熱部41側の厚みは、上側断熱部52における中央断熱部41側と反対側の厚みより大きくてもよい。この場合、上側断熱部52の厚みが中央断熱部41に近くづくにつれて段階的に大きくなってもよく、徐々に大きくなってもよい。図2に示すように、炉心管31における上側断熱部52によって囲われる部位では、中央断熱部41側の温度が中央断熱部41側と反対側の温度より高くなる。このため、このような構成にすることで、上側断熱部52における中央断熱部41側の厚みが中央断熱部41側と反対側の厚みより小さい場合と比べて、高温領域を広くし易い。
【0053】
また、上記実施形態では、下側断熱部51及び上側断熱部52の熱伝導率は、長さ方向及び径方向において一定とされたが、この2つの方向の少なくとも一方において変化してもよい。また、上記実施形態では、上側断熱部52の長さと下側断熱部51の長さとは同じとされたが、異なっていてもよい。また、上記実施形態では、ヒータ35の中心から上側断熱部52の下端までの距離とヒータ35の中心から下側断熱部51の上端までの距離が同じであった。しかし、これらの距離は異なっていてもよく、中央断熱部41の構成は、ヒータ35の中心を基準として上下対称の構成でなくてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、筐体42と内部断熱部43とから成る中央断熱部41を例に説明した。しかし、中央断熱部41はヒータ35を囲っていればよく、例えば、筐体42がない構成とされてもよい。また、上記実施形態では、炉心管31の外周面の一部を囲う断熱部40を例に説明した。しかし、断熱部40は給気口S1と排気口E1との間において炉心管31の外周面を囲っていればよい。例えば、給気口S1が下側蓋部32に形成され、排気口E1が上側蓋部33に形成される場合には、断熱部40は炉心管31の外周面の全体を囲っていてもよい。また、多孔質ガラス体の加熱装置1は、断熱部40とは別に、当該断熱部40より上方や下方において炉心管31の外周面を囲う別の断熱部を更に有していてもよく、断熱部40と別の断熱部とが互いに接続されてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、塩素系ガスを含むガスを供給するガス供給部65を例に説明した。しかし、ガス供給部65は、供給するガスを塩素系ガスを含むガスと不活性ガスのみとに変更できる構成とされもよい。この場合、例えば、ガス供給部65は、多孔質ガラス体20を脱水処理する際に塩素系ガスを含むガスを内部空間31Sに供給し、多孔質ガラス体20を焼結処理する際に不活性ガスのみを内部空間31Sに供給する。また、多孔質ガラス体の加熱装置1は、多孔質ガラス体20の脱水処理のみをするものであってもよく、多孔質ガラス体20の焼結処理のみをするものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、多孔質ガラス体を適切に加熱し得る多孔質ガラス体の加熱装置が提供され、光ファイバ通信等の分野で利用することが期待される。
【符号の説明】
【0057】
1・・・多孔質ガラス体の加熱装置
20・・・多孔質ガラス体
31・・・炉心管
35・・・ヒータ
40・・・断熱部
41・・・中央断熱部
51・・・下側断熱部
52・・・上側断熱部

図1
図2
図3
図4