(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018584
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】プレーナーコイル装置
(51)【国際特許分類】
H01F 27/29 20060101AFI20230201BHJP
H01F 30/10 20060101ALI20230201BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
H01F27/29 J
H01F30/10 D
H01F30/10 G
H01F30/10 F
H01F30/10 T
H01F17/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122800
(22)【出願日】2021-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 修平
(72)【発明者】
【氏名】植村 良輔
(72)【発明者】
【氏名】地代所 俊彦
【テーマコード(参考)】
5E070
【Fターム(参考)】
5E070AA11
5E070AB02
5E070BA08
5E070CB13
5E070DB02
5E070EB01
(57)【要約】
【課題】はんだ付け部の再溶融を防止して、プレーナーコイル装置の品質を向上させる。
【解決手段】
本発明の一実施形態によれば、積層した複数の基板と、基板の少なくとも2つにはんだ付けされたピン端子と、を有するコイルを備え、ピン端子により連結された基板の間隔が、積層した複数の基板の2層分の厚さ以上、又は、2mm以上である、プレーナーコイル装置が提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層した複数の基板と、前記基板の少なくとも2つにはんだ付けされたピン端子と、を有するコイルを備え、
前記ピン端子により連結された前記基板の間隔が、前記積層した複数の基板の2層分の厚さ以上である、
プレーナーコイル装置。
【請求項2】
前記ピン端子により連結された前記基板の間隔が、前記積層した複数の基板の3層分の厚さ以上である、
請求項1に記載のプレーナーコイル装置。
【請求項3】
積層した複数の基板と、前記基板の少なくとも2つにはんだ付けされたピン端子と、を有するコイルを備え、
前記ピン端子により連結された前記基板の間隔が2mm以上である、
プレーナーコイル装置。
【請求項4】
前記ピン端子により連結された前記基板の間隔が3mm以上である、
請求項3に記載のプレーナーコイル装置。
【請求項5】
前記基板が、
一次側パターンコイルが形成された一次側基板と、
二次側パターンコイルが形成された複数の二次側基板と、を含み、
少なくとも1つの前記二次側基板において、前記二次側パターンコイルに接続されたスルーホールが該二次側基板に平行な第1方向における一端部に設けられ、
少なくとも1つの前記二次側基板において、前記二次側パターンコイルに接続されたスルーホールが前記第1方向における他端部に設けられた、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のプレーナーコイル装置。
【請求項6】
前記基板が、複数の前記一次側基板を含み、
少なくとも1つの前記一次側基板において、前記一次側パターンコイルに接続されたスルーホールが前記第1方向における一端部に設けられ、
少なくとも1つの前記一次側基板において、前記一次側パターンコイルに接続されたスルーホールが前記第1方向における他端部に設けられた、
請求項5に記載のプレーナーコイル装置。
【請求項7】
前記基板の前記第1方向における一端部又は他端部の一部が延長して、スルーホールが設けられたタブ状の接続部が形成され、
前記ピン端子により連結された基板が、前記基板に垂直なZ方向において向かい合う前記接続部を有する、
請求項5又は請求項6に記載のプレーナーコイル装置。
【請求項8】
前記接続部の少なくとも一つに、該接続部が形成された前記基板内の回路に接続されていないダミーのスルーホールが設けられた、
請求項7に記載のプレーナーコイル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレーナーコイル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パターンコイル(配線板の導体パターンによって形成されたコイル)が形成された配線板を積層して組み立てられるプレーナートランスが知られている。このようなプレーナートランスの一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載のプレーナートランスでは、コイルを構成する基板がピン端子にはんだ付けされ、ピン端子を介して連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているようなプレーナートランスは、基板を最上層に載せてピン端子にはんだ付けするという工程を1層目から順次繰り返すことによって形成される。しかし、1つのピン端子により連結される基板の間隔が狭いため、上層の基板をはんだ付けする際に、ピン端子を介して伝わる熱によって、先にはんだ付けした下層の基板とのはんだ付け部が再溶融して、はんだ付け部の品質の劣化やばらつきが生じるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、はんだ付け部の再溶融を抑制して、プレーナーコイル装置の品質を向上させる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、積層した複数の基板と、基板の少なくとも2つにはんだ付けされたピン端子と、を有するコイルを備え、ピン端子により連結された基板の間隔が、積層した複数の基板の2層分の厚さ以上である、プレーナーコイル装置が提供される。
【0008】
上記のプレーナーコイル装置において、ピン端子により連結された基板の間隔が、積層した複数の基板の3層分の厚さ以上である構成としてもよい。
【0009】
本発明の別の一実施形態によれば、積層した複数の基板と、基板の少なくとも2つにはんだ付けされたピン端子と、を有するコイルを備え、ピン端子により連結された基板の間隔が2mm以上であるプレーナーコイル装置が提供される。
【0010】
上記のプレーナーコイル装置において、ピン端子により連結された基板の間隔が3mm以上である構成としてもよい。
【0011】
上記のプレーナーコイル装置において、基板が、一次側パターンコイルが形成された一次側基板と、二次側パターンコイルが形成された複数の二次側基板と、を含み、少なくとも1つの二次側基板において、二次側パターンコイルに接続されたスルーホールが二次側基板に平行な第1方向における一端部に設けられ、少なくとも1つの二次側基板において、二次側パターンコイルに接続されたスルーホールが第1方向における他端部に設けられた構成としてもよい。
【0012】
上記のプレーナーコイル装置において、基板が、複数の一次側基板を含み、少なくとも1つの一次側基板において、一次側パターンコイルに接続されたスルーホールが第1方向における一端部に設けられ、少なくとも1つの一次側基板において、一次側パターンコイルに接続されたスルーホールが第1方向における他端部に設けられた構成としてもよい。
【0013】
上記のプレーナーコイル装置において、基板の第1方向における一端部又は他端部の一部が延長して、スルーホールが設けられたタブ状の接続部が形成され、ピン端子により連結された基板が、基板に垂直なZ方向において向かい合う接続部を有する構成としてもよい。
【0014】
上記のプレーナーコイル装置において、基接続部の少なくとも一つに、接続部が形成された基板内の回路に接続されていないダミーのスルーホールが設けられた構成としてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、はんだ付け部の再溶融が抑制され、プレーナーコイル装置の品質向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプレーナートランスの外観図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るプレーナートランスの分解図である。
【
図3】ピン端子13とスルーホール114の位置関係を説明する図である。
【
図5】測定実験の試験体のコイルを構成する基板の平面図である。
【
図6】測定1(基板タイプ2Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
【
図7】測定2(基板タイプ4Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
【
図8】測定3(基板タイプ6Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
【
図9】測定4(基板タイプ8Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
【
図10】同じピン端子にはんだ付けする基板の間隔と到達温度との関係を表したグラフである。
【
図11】プレーナートランスの参考例の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、同一の又は対応する事項には、同一の又は対応する符号を付して、重複する説明を省略する。また、各図において、符号が共通する事項が複数表示される場合は、必ずしもそれら複数の表示の全てに符号を付けず、当該複数の表示の一部について符号の付加を適宜省略する。
【0018】
図1及び
図2は、それぞれ本発明の一実施形態に係るプレーナートランス1(コイル装置)の外観図及び分解図である。
【0019】
以下の説明において、
図1における左下から右上に向かう方向をX方向(第1方向)、右下から左上へ向かう方向をY方向(第2方向)、下から上へ向かう方向をZ方向(第3方向)と定義する。X方向、Y方向及びZ方向は、互いに直交する方向である。なおプレーナートランス1は、X方向、Y方向、Z方向及びそれらの中間の方向のいずれの方向を鉛直に向けた状態で使用してもよい。また、以下の説明において、説明の便宜上、X方向を幅方向又は左右方向、Y方向を奥行方向又は前後方向、Z方向を高さ方向又は上下方向と呼ぶ場合がある。
【0020】
プレーナートランス1(コイル装置)は、コイル10とコア20を備えている。本実施形態のコア20は、EER形フェライト磁心であるが、別の形状(例えば、EI形、EE形、PQ形等)や別の材質(例えば、積層磁心、圧粉磁心、アモルファス金属磁心、磁性体の粒子を含む樹脂から形成されたメタルコンポジット磁心等)の磁心を使用してもよい。コア20は、同一形状の一対のハーフコア21の中脚21a及び一対の外側脚21bの端面同士を接合することによって組み立てられている。
【0021】
図2に示されるように、コイル10は、パターンコイル112(一次側パターンコイル112P、二次側パターンコイル112S)を含む導体パターンが形成されたプリント配線板であるプリントコイル基板11(以下「基板11」と略記する。)を厚さ方向(Z方向)に積層した積層プリントコイル基板(以下「積層基板」と略記する。)である。本実施形態の基板11は印刷技術によって導体パターンが形成されたプリント配線板であるが、別の方法(例えば、導体の薄板から打ち抜いた導体パターンを絶縁体の基板に接着等により貼り付ける方法)により導体パターンが形成された配線板を基板11として使用してもよい。また、本実施形態では、電流容量を大きくするために、基板11には導体厚が100μm以上の厚銅基板が使用されているが、導体厚が100μm未満の一般的なプリント配線板を使用してもよい。なお、本実施形態の基板11の導体厚は200μmである。
【0022】
なお、基板11には、パターンコイル112や後述するスルーホール114のランド114rの他にも、各種の導体パターン(例えばパターンコイル112とランド114rとを結ぶリード部等)が形成されているが、説明の便宜上、各図において、パターンコイル112及びランド114rのみを図示し、その他の導体パターンの図示は省略する。
【0023】
基板11及び絶縁シート12の中央部には、コア20の中脚21aを通す貫通穴111及び貫通穴121がそれぞれ形成されている。また、基板11及び絶縁シート12のY方向両端部の中央部には、コア20の外側脚21bを収容する切欠部115及び切欠部125が形成されている
【0024】
図2に示されるように、コイル10は、交互に積み重ねられた複数の基板11及び複数の絶縁シート12と、複数の基板11を連結するZ方向に伸びる複数のピン端子13を備えている。
【0025】
基板11には、一次側パターンコイル112Pが形成された4枚の一次側基板11P1、11P4、11P5、11P8(以下「一次側基板11Pn」と表記する。)と二次側パターンコイル112Sが形成された4枚の二次側基板11S2、11S3、11S6、11S7(以下「二次側基板11Sm」と表記する。)が含まれる。本実施形態のコイル10は、これら8枚の基板11と9枚の絶縁シート12が厚さ方向(Z方向)に交互に積み重ねられたものである。絶縁シート12によって、隣接する基板11間又は基板11とコア20との間の電気的絶縁が確保されている。
【0026】
基板11の幅方向における一端部又は両端部の奥行方向における一部が延長し、タブ状の接続部113(113LB1、113RB1、113LF2、113RF3、113RB4、113LB5、113LF6、113RF7、113LB8、113RB8)が形成されている。接続部113には、ピン端子13を接続するためのスルーホール114が設けられている。ピン端子13は、スルーホール114にはんだ付けされる。
【0027】
なお、「接続部113LB8」の符号「113LB8」のうち、下3文字「LB8」は、各接続部113に固有の識別符号である。識別符号「LB8」のうち、英文字「L」は基板11の左端部に形成されたものであることを示し、英文字「B」は基板11の後ろ側(背面側)に形成されたものであることを示し、数字「8」は層番号が8(すなわち、下から8枚目の第8層)の基板11に形成されたものであることを示す。また、「接続部113RF7」の識別符号「RF7」のうち、英文字「R」は基板11の右端部に形成されたものであることを示し、英文字「F」は基板の前側(正面側)に形成されたものであることを示し、数字「7」は層番号が7の基板11に形成されたものであることを示す。
【0028】
すなわち、接続部113の下3文字の識別符号(LB8、RF7等)のうち英文字の2文字(LB、LF、RB、RF)が、接続部113の基板内における位置を示す接続部ロケーション符号となっている。接続部ロケーション符号が共通する接続部113は、X方向及びY方向における位置が共通し、上下に向かい合う(言い換えれば、平面視において互いに重なる)位置関係となる。また、接続部ロケーション符号が異なる接続部113は、平面視において互いに重ならない位置関係となる。
【0029】
図3は、ピン端子13とスルーホール114の位置関係を説明する図である。また、表1は、ピン端子13と各基板11に設けられた接続部113及びスルーホール114の位置関係を表した符号表である。
【0030】
【0031】
コイル10は、11本のピン端子13(13a、13b、13c、13d、13e、13f、13g、13h、13i、13j、13k)を備えている。コイル10の左端部には、5本のピン端子13a、13b、13c、13d、13eが、この順で後ろから前へ1列に並び、コイル10の右端部には、6本のピン端子13f、13g、13h、13i、13j、13kが、この順で後ろから前へ1列に並ぶ。なお、ピン端子13bとピン端子13cの間隔は、各列の他の隣接するピン端子13の間隔の2倍になっている。「ピン端子13a」の符号「13a」のうちの英文字「a」は、各ピン端子13に固有の識別符号であると共に、ピン端子13の位置を示す端子ロケーション符号となっている。
【0032】
第8層の一次側基板11P8の接続部113LB8には2つのスルーホール114a8、114b8が形成され、接続部113RB8には3つのスルーホール114f8、114g8、114h8が形成されている。なお、「スルーホール114a8」の符号「114a8」のうち、下2文字「a8」は、各スルーホール114に固有の識別符号である。識別符号「a8」のうち、英文字「a」は、上述した端子ロケーション符号であり、ピン端子13aに対応する位置に形成されたものであることを示す。数字「8」は、層番号が8(すなわち、下から8枚目の第8層)の基板11に形成されたものであることを示す。端子ロケーション符号が共通するスルーホール114はZ方向に並んで形成され、これらに同じ端子ロケーション符号のピン端子13が通され、はんだ付けされている。
【0033】
なお、コイル10の組み立てにおいては、最下層の第1層(又は、最上層の第8層)から順に、基板11を載せる工程と、一番上の基板11をピン端子13の列にはんだ付けする工程とが、1層ずつ交互に繰り返される。
【0034】
表1において、各ピン端子13に対応する(すなわち、共通の端子ロケーション符号が与えられた)スルーホール114は同じ列に現われる。例えば、ピン端子13aは、表1において縦に並ぶスルーホール114a1、114a5、114a8に対応する。同様に、接続部ロケーション符号(LB、LF、RB、RF)が共通する接続部113も、表1の同じ列に現われる。
【0035】
表1に示されるように、接続部ロケーション符号が共通する(すなわち、Z方向に並ぶ)接続部113をもつ基板11の間には、その接続部ロケーション符号の接続部113をもたない基板11と絶縁シート12が2層以上配置されている。言い換えれば、上下に並ぶ接続部113の間には、基板11と絶縁シート12を2層積層した厚さ(例えば、2~3mm)以上の間隔が空けられている。
【0036】
すなわち、各ピン端子13において、各基板11との接続点(はんだ付け部)の間隔が積層基板の2層分の厚さ以上となっている。これにより、各ピン端子13上の接続点間に十分な放熱距離が確保され、上層のスルーホール114(例えば、第8層のスルーホール114a8)にピン端子13をはんだ付けする際に、ピン端子13を介して伝わる熱によって、先にはんだ付けした下層のスルーホール114(例えば、第5層のスルーホール114a5)とのはんだ付け部が再溶融することが防止される。これによって、はんだ付け部の品質の劣化やばらつきが抑制される。
【0037】
また、各ピン端子13に接続する基板11の間隔が狭い場合、はんだを盛り過ぎると、下層のはんだ付け部に上層の基板11が接触して、上層の基板11が浮き上がることがある。そのため、はんだ量の精密な管理が必要になる。本実施形態のように、各ピン端子13に接続する基板11(具体的には、接続部113)の間隔を積層基板の2層分の厚さ(すなわち、2~3mm)以上とすることにより、はんだ量の精密な管理を行わなくても基板11の浮き上がりを防ぐことが可能になる。
【0038】
第1層(最下層)の一次側基板11P1には、5つのスルーホール114が設けられているが、電気的には接続部113RB1に設けられた3つのスルーホール114f1、114g1、114h1のみが使用されている。接続部113LB1に設けられた2つのスルーホール114a1、114b1は、基板11P1内の回路(一次側パターンコイル112P等)に接続されていないダミーのスルーホール114となっている。第8層(最上層)の一次側基板11P8についても同様に、電気的には接続部113RB8に設けられた3つのスルーホール114f8、114g8、114h8のみが使用され、接続部113LB8に設けられた2つのスルーホール114a8、114b8は、基板11P8内の回路に接続されていないダミーのスルーホール114となっている。このように、電気的には使用されないダミーの接続部113及びスルーホール114を設けてピン端子13に固定することにより、コイル10の剛性が高くなり、反り(曲げ)変形が抑制されて、耐振動・衝撃性が向上する。
【0039】
本実施形態では、一次側基板11Pnの接続部113が後ろ側に配置され(すなわち、接続部113の接続部ロケーション符号がLB又はRBとなっていて)、二次側基板11Smの接続部113が前側に配置されている(すなわち、接続部113の接続部ロケーション符号がLF又はRFとなっている)。すなわち、基板11間の一次側の配線と二次側の配線が前後に振り分けられている。
【0040】
本実施形態では、最下層の基板11P1及び最上層の基板11P8には、幅方向の両端部に接続部113が形成され、中間層の基板11S2、11S3、11P4、11P5、11S6、11S7には幅方向の一端部のみに接続部113が形成されている。最下層及び最上層の基板11に複数の接続部113を設けることにより、コイル10の剛性を効果的に高めることができる。なお、1枚の基板11に2つの接続部113を設ける場合は、基板11の本体部分(接続部113を除いた部分)を間に挟んで、幅方向両端部に一つずつ設けることにより、2つの接続部113の間に十分な絶縁距離を確保することが容易になる。なお、2つの接続部113を対角方向に並べて(接続部ロケーション符号がLBとRF、又は、LFとRBの位置関係で)配置してもよい。また、接続部113間に十分な絶縁距離を確保できる場合は、2つの接続部113を前後方向に並べて配置してもよく、基板11の四隅に4つの接続部113を設けても良い。また、中間層の基板11に複数の接続部113を設けてもよい。
【0041】
<測定実験>
ピン端子を介して基板が連結した積層基板について、基板にピン端子をはんだ付けする際の、同じピン端子にはんだ付けされた他の基板のはんだ付け部の温度変化を調べる実験を行った。
【0042】
図4は、実験に使用した試験体であるプレーナートランス200の正面図である。プレーナートランス200は、積層プリントコイル基板であるコイル210及びコア220から構成されている。コイル210は、絶縁シートを介してパターンコイルの巻き数が異なる基板211(211A、211B)を交互に8層積層したものである。なお、
図4における符号「211A/Ln」及び「211B/Ln」(但し、nは正の整数。)のうちの下3文字「/Ln」は、基板211の層番号が第n層であることを表す識別符号である。層番号が偶数の基板211Aは左側のピン端子213Aに接続され、層番号が奇数の基板211Bは右側のピン端子213Bに接続される。
【0043】
実験は、各基板211A、211Bのパターンコイルの巻き数が異なる2種類の試験体D1、D2について行った。表2は、試験体D1、D2の構成表である。試験体D1は、層番号が偶数の基板211Aにパターンコイルの巻き数が2の基板タイプ2Tを使用し、層番号が奇数の基板211Bにパターンコイルの巻き数が4の基板タイプ4Tを使用したものである。また、試験体D2は、基板211Aに巻き数が6の基板タイプ6Tを使用し、基板211Bに巻き数が8の基板タイプ8Tを使用したものである。
【0044】
【0045】
図5(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ基板タイプ2T、4T、6T、8Tの基板211の平面図である。基板タイプ2T(4T、6T、8T)には、両面にそれぞれ1ターン(2ターン、3ターン、4ターン)のパターンコイル112が形成され、パターンコイル112の巻き数の合計が2ターン(4ターン、6ターン、8ターン)となっている。両面のパターンコイル112は連結されて、1つのコイルを構成している。各基板タイプとも、導体パターンの厚さ(パターン厚)は200μmである。パターンコイル112の旋回部112aの幅Wは、基板タイプ2Tが8.8mm、基板タイプ4Tが4.1mm、基板タイプ6Tが2.5mm、基板タイプ8Tが1.7mmである。なお、ランド114rにつながるパターンコイル112の端部112bの幅は、旋回部112aの幅Wよりも(より具体的には、ランド114rの直径よりも)狭くなる。端部112bの断面積を旋回部112aと揃えるために、端部112bのパターン厚が旋回部112aよりも厚く形成されている。更に、旋回部112aと端部112bの幅が大きく異なる(例えば、旋回部112aの幅Wが端部112bの幅の2倍以上ある)基板タイプ2T、4Tにおいては、端部112bが複数に分岐され、複数のランド114rに接続されている。基板タイプ2T、4Tにおいては、端部112bのパターン厚を厚くする構成と、端部112bを複数に分岐して複数のランド114rに接続させる構成の両方が採用されているが、後者のみにより端部112bの断面積を調整してもよい。
【0046】
各試験体D1、D2とも、第1層211B/L1と第3層211B/L3との基板間隔(第1層211B/L1の上面と第3層211B/L3の下面との距離)及び第2層211A/L2と第4層211A/L4との基板間隔は1mmであり、第1層211B/L1と第5層211B/L5との基板間隔及び第2層211A/L2と第6層211A/L6との基板間隔は3mmであり、第1層211B/L1と第7層211B/L7との基板間隔及び第2層211A/L2と第8層211A/L8との基板間隔は5mmである。
【0047】
表3は、測定条件表である。層番号が偶数の基板211A(基板タイプ2T、6T)については、第2層211A/L2(基板211Aの最下層)とピン端子213Aとのはんだ付け部の温度を熱電対により連続的に測定しながら、第4層211A/L4、第6層211A/L6、第8層211A/L8について、同じピン端子213Aへのはんだ付けを順次行った。層番号が奇数の基板211B(基板タイプ4T、8T)については、第1層211B/L1(基板211Bの最下層)とピン端子213Bとのはんだ付け部の温度を熱電対により連続的に測定しながら、第3層211B/L3、第5層211B/L5、第7層211B/L7について、同じピン端子213Aへのはんだ付けを順次行った。はんだ付け(加熱)は30秒間継続した。加熱の継続時間は、1箇所のはんだ付けに通常要する時間よりも十分に長い時間に設定されている。はんだ付けに使用したはんだの融点は220℃であり、380℃に加熱したはんだごてを使用してはんだ付けを行った。
【0048】
【0049】
図6-9に、測定結果を示す。
図6は、測定1(基板タイプ2Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
図7は、測定2(基板タイプ4Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
図8は、測定3(基板タイプ6Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
図9は、測定4(基板タイプ8Tに関する測定)の結果を表すグラフである。
【0050】
はんだ付けを始めると、時間の経過と共に測定箇所の温度が上昇するが、昇温速度は徐々に低下した。温度を測定する基板211(測定箇所)とはんだ付けを行う基板211(加熱箇所)との間隔が大きくなるほど、温度上昇幅が小さくなった。また、パターンコイルの巻き数が増えるほど、温度上昇幅が大きくなった。これは、パターンコイルの巻き数が増えると、導体パターンの幅Wすなわち断面積が小さくなるため、はんだ付け部から導体パターンに逃げる熱量が減少し、ピン端子213を介して測定箇所に伝わる熱量が増えることによるものと考えられる。
【0051】
最も温度上昇幅が大きい基板タイプ8Tでは、第3層211B/L3をはんだ付けしたときに、第1層211B/L1のはんだ付け部の温度がはんだの融点220℃を超えて226℃に到達した。基板タイプ6Tでも、第4層211A/L4をはんだ付けしたときに、第2層211A/L2のはんだ付け部の温度がはんだの融点220℃に近い211℃に到達した。
【0052】
一方、第5層211B/L5、第6層211A/L6、第7層211B/L7、第8層211A/L8をはんだ付けしたときには、測定箇所(第1層211B/L1又は第2層211A/L2)の温度が200℃を超えることはなかった。
【0053】
すなわち、同じピン端子213にはんだ付けする基板211の間隔を積層基板の1層分(1mm)にすると、再溶融が生じ得ることが確認された。また、いずれの基板タイプにおいても、同じピン端子213にはんだ付けする基板211の間隔を積層基板の3層分の厚さ(3mm)以上にすると、再溶融が生じる温度には到達しないことが確認された。
【0054】
図10は、同じピン端子213にはんだ付けする基板211の間隔と到達温度との関係を表したグラフである。縦軸の到達温度は、加熱開始から30秒後の温度である。破線は最小二乗法による近似直線である。同じピン端子213にはんだ付けする基板211の間隔を積層基板の2層分の厚さ(2mm)にした場合、基板タイプ8Tでは、到達温度が209℃近くまで上昇するが、融点よりも10℃以上低い温度に収まるため、再溶融が生じることはない。また、基板タイプ2T、4T、6Tでは、到達温度は200℃未満に抑えられる。従って、同じピン端子213にはんだ付けする基板211の間隔が積層基板の2層分の厚さ(2mm)以上であれば、再溶融が生じないことが確認された。
【0055】
<参考例との比較>
次に、上記の実施形態に係るプレーナートランス1の特徴を、
図11に示す参考例のプレーナートランスRと比較して説明する。
【0056】
プレーナートランスRのコイル910では、一次側基板911Pと二次側基板911Sとが絶縁シートを介して交互に積層されている。また、一次側基板911Pがピン端子913Pに接続され、二次側基板911Sがピン端子913Sに接続されている。
【0057】
一次側と二次側との間には比較的に長い絶縁距離を空ける必要がある。そのため、比較例のプレーナートランスRでは、コア920を間に挟んで、コイル911の幅方向(X方向)一端側に一次側のピン端子913Pが配置され、他端側に二次側のピン端子913Sが配置されている。しかし、二次側は多出力であるため、端子数が多い。従って、他端側に二次側のピン端子を集めた場合、ピン端子間に十分な間隔を空けると、コイル910の幅が広くなり、プレーナートランスRが大型化してしまう。
【0058】
本発明の実施形態に係るプレーナートランス1では、二次側のピン端子13を左右両側に分けて配置することにより、コイル10の幅を広げなくても、端子数の多い二次側のピン端子13を十分な間隔を空けて配置することが可能になっている。
【0059】
また、本発明の実施形態に係るプレーナートランス1では、一次側のピン端子13も左右両側に分配し、一次側と二次側の合計10本のピン端子13を4つのロケーション(LB、LF、RB、RF)に分けて配置することにより、各ピン端子13に接続する基板11を2層分以上の間隔を空けて配置することが可能になっている。これにより、はんだ付け部の再溶融による品質の劣化やばらつきを低減することが可能になる。
【0060】
以上が本発明の一実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、様々な変形が可能である。例えば本明細書中に例示的に明示された実施形態等の構成及び/又は本明細書中の記載から当業者に自明な実施形態等の構成を適宜組み合わせた構成も本願の実施形態に含まれる。
【0061】
上記の実施形態では、各ピン端子13に接続される基板11の最小間隔が積層基板の2層分の厚さとなっているが、当該最小間隔を積層基板の3層分の厚さ(3~4.5mm)以上としてもよい。
【0062】
上記の実施形態では、コイル10を構成する全ての基板11がパターンコイル112を有するコイル基板であるが、コイル10を構成する基板にパターンコイル112が形成されていない基板が含まれていてもよい。
【0063】
上記の実施形態では、全てのピン端子13が2枚以上の基板11にはんだ付けされているが、一部のピン端子13が1枚の基板11のみにはんだ付けされた構成としてもよい。
【0064】
上記の実施形態では、1つの二次側基板11Smに単一の(すなわち、一系統の)二次側パターンコイル112Sが形成されているが、例えば二次側基板11Smの両面にそれぞれ互いに系統の異なる二次側パターンコイル112Sを設けてもよい。この場合、二次側基板11Smの一面に形成された二次側パターンコイル112Sと連絡するスルーホール114を二次側基板11SmのX方向における一端部(例えば右端部)に設け、他面に形成された二次側パターンコイル112Sと連絡するスルーホール114をX方向における他端部(例えば左端部)に設けた構成としてもよい。
【0065】
あるいは、二次側基板11Smの一面に形成された二次側パターンコイル112Sと連絡するスルーホール114を二次側基板11SmのX方向における一端部のY方向における一端側(例えば右前側)に設け、他面に形成された二次側パターンコイル112Sと連絡するスルーホール114を二次側基板11SmのX方向における一端部のY方向における他端側(例えば右後ろ側)に設け、Y方向(例えば前後)にスルーホール114を振り分ける構成としてもよい。
【0066】
また、上記の測定実験に使用したプレーナートランス200と同様に、一系統のパターンコイル112が基板11の両面に分けて形成された構成としてもよい。
【0067】
上記の実施形態のコイル装置はプレーナートランスであるが、リアクトル、チョークコイル、電動機用コイル、発電機用コイル等の他の各種のコイル装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 プレーナートランス
10 コイル
11 基板
113 接続部
114 スルーホール
12 絶縁シート
20 コア