(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018628
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法及びその応用
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20230201BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20230201BHJP
G01N 30/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C02F3/12 P
G01N27/62 V ZAB
C02F3/12 V
G01N30/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004687
(22)【出願日】2022-01-14
(31)【優先権主張番号】202110849711.6
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】胡海冬
(72)【発明者】
【氏名】劉采風
(72)【発明者】
【氏名】任洪強
(72)【発明者】
【氏名】王▲じん▼豊
(72)【発明者】
【氏名】呉兵
【テーマコード(参考)】
2G041
4D028
【Fターム(参考)】
2G041AA09
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA06
2G041GA05
2G041HA01
2G041LA08
4D028AA08
4D028AB00
4D028CC02
4D028CE01
4D028CE03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法及びその応用を提供する。
【解決手段】方法は下記のステップを含む。
(1)下水サンプルが含む溶解性有機窒素を集中する。
(2)下水サンプルが含む溶解性有機窒素の分子成分を測定する。
(3)ステップ(2)における水素炭素比が少なくとも1.5である溶解性有機窒素分子の相対強度の和
を算出する。
(4)ステップ(3)で求めた数値により下水の溶解性有機窒素の生分解可能性を評価する。
この方法は検出速度が速く、操作が簡単であり、同時に分子構造に関する情報を提供し、有機窒素を含む下水処理プロセスの選択に対する指導に用いることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法であって、
(1)下水サンプルが含む溶解性有機窒素を集中するステップと、
(2)下水サンプルが含む溶解性有機窒素の分子成分を測定するステップと、
(3)ステップ(2)における水素炭素比が少なくとも1.5である溶解性有機窒素分子の相対強度の和
を算出するステップと、
(4)
数値により下水の溶解性有機窒素の生分解可能性を評価するステップと
を含むことを特徴とする下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法。
【請求項2】
ステップ(1)は、固相抽出コラムで下水サンプルが含む溶解性有機窒素を集中し、前記の集中するステップがコラム活性化、サンプル入れ、コラムすすぎ、コラム乾燥及びコラム溶出を含み、
コラム活性化の過程に相次ぎにコラムの体積の2~3倍に当たるメタノール及びコラムの体積の3~6倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)を使用し、
サンプル入れの過程に下水サンプルの流速を0.5~3.0mL/minに制御し、
コラムすすぎの過程にコラムの体積の3~6倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)を使用し、
コラム乾燥の過程に窒素ガスで乾燥するまで固相抽出コラムを吹き、
コラム溶出の過程にコラムの体積1~3倍に当たるメタノールを使用し、流速を0.5~1.5mL/minに制御し、
固相抽出を行うまで下水サンプルが0.45μmのろ過膜でろ過され、塩酸でpH=2に調節されることが必要であり、
ステップ(2)の分析検出を行うまで、集中サンプルにある溶解性有機炭素の濃度が50mg/Lでなければならない
ことを特徴とする請求項1に記載の下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法。
【請求項3】
前記のステップ(2)では、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析で下水サンプルが含む溶解性有機窒素の分子成分を測定することを特徴とする請求項1に記載の下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法。
【請求項4】
前記のフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析でテスト分析を行う機器のパラメーターとして、スキャンモードが陰イオン・フルスペクトルスキャン、イオン化源がエレクトロスプレーイオン化源、サンプル入れの速度が120~180μL/h、分極電圧が2.5~3.0kV、イオンの累積時間が0.001~0.3s、質量採集範囲が150~1000Da、サンプリングポイント数が2~4M、マススペクトルのスキャン重ね回数が200~500回であることを特徴とする請求項3に記載の下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法。
【請求項5】
ステップ(3)に記載の
計算を行うまで各下水サンプルの溶解性有機窒素分子の応答ピークに対するデータ前処理及びデータ前処理が行われた有機窒素分子の応答ピーク強度に対するデータの標準化処理を行い、前記のデータ前処理として、データ処理プログラムで信号対雑音比が6以上にある有機窒素の応答ピークをスクリーニングし、その質量電荷比により計算を行い、分子式とマッチングし、
前記の分子式は、質量誤差範囲が±1ppm、C原子数が2~50、H原子数が2~120、且つ
であり、O原子数が0~30、且つ
であり、N原子の個数が1~4、
にあり、且つN/Cが0.5までであり、S原子の個数が0~2、
にあり、且つS/Cが0.2までであり、P原子の個数が0~2にあり、P/Cが0.1までであり、且つ
にあり、等価二重結合の数DBEが整数であり、且つ少なくとも0にあり、式が
であるという条件を満たす必要があり、
前記のデータの標準化処理として、式
で各応答ピークの相対強度RI
iを算出し、
I
iは各分子式の応答ピークの絶対強度、
はこのサンプルにおけるすべての分子式の応答ピークの絶対強度の和である
ことを特徴とする請求項1に記載の下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法。
【請求項6】
ステップ(4)で
数値により下水の溶解性有機窒素の生分解可能性を評価する方法は、
が45%以上にある場合、下水にある溶解性有機窒素の生分解可能性が良く、
が35~45%にある場合、下水にある溶解性有機窒素の生分解が可能であり、
が20~35%にある場合、下水にある溶解性有機窒素が生分解し難く、
が20%以下にある場合、下水にある溶解性有機窒素が生分解に適さないとする
ことを特徴とする請求項1に記載の下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法。
【請求項7】
有機窒素を含む下水の処理プロセスに応用され、具体的には、
が45%以上にある場合は生物法で、
が35~45%にある場合は生物強化法で、
が20~35%にある場合は物理的及び化学的前処理後に生物または生物強化法で、
が20%以下にある場合は化学的、または物理的及び化学的方法で有機窒素を含む下水を処理することを特徴とする請求項6に記載の方法の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水処理分野に属する。具体的には、下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法及びその応用関わる。
【背景技術】
【0002】
皮なめし、捺染及び製薬などの工業生産の過程に有機窒素を含む下水が発生するが、下水にある有機窒素汚染物は成分が複雑であり、濃度が高いので、処理し難い。下水生物処理技術は消耗が少なく、コストが低いので、今まで有機窒素を含む下水を処理するためのメインプロセスである。有機窒素を含む下水処理の生物段の下水に含む溶解性有機窒素は下水に含む全窒素が標準に達成しない重要な原因の一つである。また、生物段下水に含む溶解性有機物は膜汚染及び窒素系消毒副産物などにつながり、重大に下水の後継ぎの深い処理及びリサイクルを妨害するものである。よって、有機窒素を含む下水処理プロセスを選択するまで下水の溶解性有機窒素の生分解可能性を考慮しなければいけない。
【0003】
従来、主に静置培養法で溶解性有機窒素の生分解可能性を測定し、汚泥混合液を接種物として下水サンプルと混合させてインキュベータに設置して培養する。溶解性有機窒素の生分解可能性は培養の過程に消耗された溶解性有機窒素が全溶解性有機窒素濃度を占めるパーセントで表示される。上記の方法によると、実験者が複数の前実験で汚泥混合液の接種量を取得し、培養の過程に適切な温度、栄養元素及びpHなどの条件が必要であり、且つ有機窒素の濃度が測定し難い。全体的に、この方法は培養周期(14~28日)が長く、操作技術に対する要求が高いので、下水サンプルが含む溶解性有機窒素の生分解可能性に関する快速判断に達成できなく、短い期間に適切な処理プロセスを確定し難い。
【0004】
出願番号CN201210325754.5の中国発明特許は、水を含む溶解性有機窒素の生物有効性を研究するための方法及び装置を開示した。その装置は主にろ過装置、溶解性有機窒素抽出装置及び藻類生長システムを含み、一体型装置であるが、ろ過膜、温度センサー、光センサー及びオンラインpH・溶解性有機窒素モニタリング機器などが必要であるので、価格が高い上、藻類生長システムにおける水サンプルの窒素含有量の変化に対する測定により溶解性有機窒素の生物有効性を確定し、テストの過程が煩雑であり、長い期間が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は下水に含む溶解性有機窒素の生分解可能性に関する快速的、簡単な評価方法、並びに下水に含む溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価及び該当する処理プロセスの選択に技術上の支援を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法は具体的なステップは次のとおりである。
【0007】
(1)下水サンプルが含む溶解性有機窒素を集中する
【0008】
(2)下水サンプルが含む溶解性有機窒素の分子成分を測定する。
【0009】
(3)ステップ(2)における水素炭素比が少なくとも1.5である溶解性有機窒素分子の相対強度の和
を算出する。
【0010】
(4)
数値により下水の溶解性有機窒素の生分解可能性を評価する。
【0011】
更に、前記の解決策によると、ステップ(1)で固相抽出コラムで下水サンプルが含む溶解性有機窒素を集中し、前記の集中の過程がコラム活性化、サンプル入れ、コラムすすぎ、コラム乾燥及びコラム溶出を含み、コラム活性化の過程に相次ぎにコラムの体積の2~3倍に当たるメタノール、コラム体積の3~5倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)を使用し、サンプル入れの過程に下水サンプルの流速を0.5~3.0mL/minに制御し、コラムすすぎの過程にコラムの体積の3~6倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)を使用し、コラム乾燥の過程に窒素ガスで乾燥するまで固相抽出コラムを吹き、コラム溶出の過程にコラムの体積の1~3倍に当たるメタノールを使用し、流速を0.5~1.5mL/minに制御し、固相抽出を行うまで下水サンプルが0.45μmのろ過膜でろ過され、塩酸でpH=2に調節されることが必要であり、分析・検出を行うまで集中サンプルにある溶解性有機炭素の濃度が50mg/Lでなければいけない。
【0012】
更に、前記の解決策によると、前記のステップ(2)では、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析で下水サンプルが含む溶解性有機窒素の分子成分を測定する。フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析は超高解像度のマススペクトルであり、溶解性有機窒素分子成分を測定する精度が高い。
【0013】
更に、前記のフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析でテスト分析を行う機器のパラメーターとして、スキャンモードが陰イオン・フルスペクトルスキャン、イオン化源がエレクトロスプレー(ESI)イオン化源であり、サンプル入れの速度が120~180μL/h、分極電圧が2.5~3.0kV、イオンの累積時間が0.001~0.3s、質量採集範囲が150~1000Da、サンプリングポイント数が2~4M、マススペクトルスキャンの重ね回数が信号対雑音比の向上のための200~500回にある。
【0014】
更に、前記の解決策によると、ステップ(3)に記載の
計算を行うまで各下水サンプルの溶解性有機窒素分子の応答ピークに対するデータ前処理及び前処理が行われた有機窒素分子の応答ピークの強度に対するデータの標準化が必要である。
【0015】
前記のデータ前処理として、データ処理プログラムで信号対雑音比が6以上にある有機窒素の応答ピークをスクリーニングし、その質量電荷比により計算を行い、分子式とマッチングする。
【0016】
分子式は次の条件を満たすことが必要である。質量誤差範囲が±1ppm、炭素(C)原子数が2~50、水素(H)原子数が2~120にあり、且つ
であり、酸素(O)原子数が0~30にあり、且つ
であり、窒素(N)原子の個数が1~4にあり、
にあり、且つN/Cが0.5までであり、硫黄(S)原子の個数が0~2にあり、
にあり、且つS/Cが0.2までであり、リン(P)原子の個数が0~2にあり、P/Cが0.1までであり、且つ
であり、等価二重結合の数(DBE)が整数であり、且つ少なくとも0にあり、式が
である。
【0017】
データ前処理が行われると、各サンプルの総応答ピークの強度が等しくなり、サンプルの間の比較が便利になり、下水にある溶解性有機窒素の更に正確な分子成分を取得できる。
【0018】
前記のデータの標準化処理として、
により各応答ピークの相対強度(RIi)を算出する。その中、I
iは各分子式の応答ピークの絶対強度、
はこのサンプルにおけるすべての分子式の応答ピークの絶対強度の和である。
【0019】
データの標準化処理を行って各サンプルの総応答ピーク強度が等しくなり、サンプルの間の比較が便利になるようにする。
【0020】
更に、前記の解決策によると、ステップ(4)で
による数値により下水の溶解性有機窒素の生分解可能性を評価する方法は次のとおりである。
【0021】
下水サンプルにおける水素炭素比が少なくとも1.5であり、溶解性有機窒素分子式の相対強度の和
が45%以上にある場合、下水にある溶解性有機窒素の生分解可能性が良い。
【0022】
この割合が35~45%にある場合、下水にある溶解性有機窒素の生分解が可能であり、この割合が20~35%にある場合、下水にある溶解性有機窒素が生分解し難く、この割合が20%以下にある場合、下水にある溶解性有機窒素が生分解に適さない。
【0023】
本発明はこの下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法の応用も提供し、有機窒素を含む下水の処理プロセスに応用されると、具体的に、次のとおりとなる。
【0024】
が45%以上にある場合、下水にある溶解性有機窒素の生分解可能性が良いので、生物法で有機窒素を含む下水を処理したほうがいい。
【0025】
が35~45%にある場合、下水にある溶解性有機窒素の生分解が可能であるので、生物強化法で有機窒素を含む下水を処理したほうがいい。
【0026】
が20~35%にある場合、下水にある溶解性有機窒素が生分解し難いので、物理的及び化学的前処理で下水にある溶解性有機窒素の生分解可能性を向上させてから生物または生物強化法で処理を行ったほうがいい。
【0027】
が20%以下にある場合、下水にある溶解性有機窒素が生分解に適さないので、化学的、または物理的及び化学的方法で有機窒素を含む下水を処理したほうがいい。
【0028】
更に、
が20~35%にある場合、前記の物理的及び化学的処理方法は化学酸化及び電気触媒作用などを含む。
【発明の効果】
【0029】
(1)本発明による下水の溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価方法は快速、簡単であり、テスト周期が短く、テスト及び分析の全部が1日までに完了でき、微生物培養が不要である。
【0030】
(2)本発明による有機窒素の生分解可能性に関する評価方法は有機窒素を含む下水処理プロセスの選択に対する指導に用いられることができると同時に、下水の溶解性有機窒素の分子構造に関する情報も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の下水の溶解性有機窒素の生分解可能性により処理プロセスの選択を指導するためのフローチャート。
【
図2】本発明で測定した種類の異なる下水サンプルにおける水素炭素比が少なくとも1.5である溶解性有機窒素分子の相対強度の和の比率グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に具体的な実施例と結び合わせて本発明について更に詳細に説明するが、本発明はそれに限るものではない。
【実施例0033】
ある捺染会社の下水でサンプルにおける溶解性有機窒素の生分解可能性に関する評価を行う場合、下水のCOD濃度平均値が527mg/L、全窒素濃度平均値が74mg/L、有機窒素濃度平均値が45mg/L、全リン濃度平均値が3.8mg/Lである。評価ステップの詳細は次のとおりである。
【0034】
(1)固相抽出コラムで捺染下水サンプルが含む溶解性有機窒素を集中し、集中の過程がコラム活性化、サンプル入れ、コラムすすぎ、コラム乾燥及びコラム溶出を含み、コラム活性化の過程に相次ぎにコラムの体積の2倍に当たるメタノール、コラムの体積の4倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)で固相抽出コラムの活性化を行い、サンプル入れの過程に下水サンプルの流速を3.0mL/minに制御し、コラムすすぎの過程にコラムの体積の4倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)で固相抽出コラムをすすぎ、コラム乾燥の過程に窒素ガスで乾燥するまで固相抽出コラムを吹き、コラム溶出の過程にコラムの体積の2倍に当たるメタノールで1.0mL/minの流速で溶出を行い、分析・検出を行うまで濃度が50mg/L以上となるようにサンプルにある溶解性有機炭素を集中する。
【0035】
(2)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析で捺染下水サンプルが含む溶解性有機窒素の分子成分を測定し、機器のパラメーターとして、スキャンモードが陰イオン・フルスペクトルスキャン、イオン化源がエレクトロスプレー(ESI)イオン化源、サンプル入れの速度が140μL/h、分極電圧が2.5kV、イオンの累積時間が0.006s、質量採集範囲が150~800Da、サンプリングポイント数が4M、マススペクトルスキャンの重ね回数が300回である。
【0036】
(3)捺染下水サンプルの溶解性有機窒素分子の応答ピークに対するデータ前処理及びデータ前処理が行われた有機窒素分子の応答ピーク強度に対するデータの標準化処理を行う。
【0037】
データ処理プログラムで信号対雑音比が6以上にある有機窒素の応答ピークをスクリーニングし、その質量電荷比により計算を行い、分子式とマッチングする。分子式は次の条件を満たすものである。質量誤差範囲が±1ppm、炭素(C)原子数が2~50、水素(H)原子数が2~120にあり、且つ
であり、酸素(O)原子数が0~30にあり、且つ
であり、窒素(N)原子の個数が1~4にあり、
にあり、且つN/Cが0.5までであり、硫黄(S)原子の個数が0~2にあり、
にあり、且つS/Cが0.2までであり、リン原子(P)の個数が0~2にあり、P/Cが0.1までであり、且つ
にあり、等価二重結合の数(DBE)が整数であり、且つ少なくとも0にあり、式が
である。
【0038】
前記のデータの標準化として、式
により各応答ピークの相対強度(RIi)を算出する。その中、I
iは各分子式の応答ピークの絶対強度、
はこのサンプルにおけるすべての分子式の応答ピークの絶対強度の和である。
【0039】
次に下水サンプルにおける水素炭素比が少なくとも1.5である溶解性有機窒素分子の相対強度の和
を算出する。
【0040】
(4)この捺染下水サンプルにおける水素炭素比が少なくとも1.5である溶解性有機窒素分子の相対強度の和
が24.3%(
図2)であるので、下水に含む溶解性有機窒素が生分解し難い。
【0041】
この捺染下水サンプルが含む溶解性有機窒素の
が20~35%にあるので、
図1の推奨により物理的及び化学的処理をしてから生物または生物強化法で処理する。下水BOD
5/COD値に応じて適切なプロセスを選択する。
ある製薬工場の生産下水でサンプルに含む溶解性有機窒素に対する生分解可能性評価を行うと、サンプルのCOD濃度平均値が2668mg/L、全窒素濃度平均値が574mg/L、有機窒素濃度平均値が305mg/L、全リン濃度平均値が6.1mg/Lである。評価ステップの詳細は次のとおりである。
(1)固相抽出コラムで製薬下水サンプルが含む溶解性有機窒素を集中し、集中の過程がコラム活性化、サンプル入れ、コラムすすぎ、コラム乾燥及びコラム溶出を含み、コラム活性化の過程に相次ぎにコラムの体積の2倍に当たるメタノール、コラム体積の6倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)で固相抽出コラムの活性化を行い、サンプル入れの過程に下水サンプルの流速を2.0mL/minに制御し、コラムすすぎの過程にコラム体積の6倍に当たる塩酸及び酸化された超純水(pH=2)で固相抽出コラムをすすぎ、コラム乾燥の過程に窒素ガスで乾燥するまで固相抽出コラムを吹き、コラム溶出の過程にコラムの体積の2倍に当たるメタノールで0.5mL/minの流速で溶出を行い、分析・検出を行うまで濃度が50mg/L以上となるようにサンプルにある溶解性有機炭素を集中する。
(2)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析で製薬下水サンプルが含む溶解性有機窒素の分子成分を測定する。機器のパラメーターとして、スキャンモードが陰イオン・フルスペクトルスキャン、イオン化源がエレクトロスプレー(ESI)イオン化源、サンプル入れの速度が180μL/h、分極電圧が3.0kV、イオンの累積時間が0.3sであり、質量採集範囲が200~900Daにあり、サンプリングポイント数が4M、マススペクトルスキャンの重ね回数が500回である。
(3)製薬下水サンプルの溶解性有機窒素分子の応答ピークに対するデータ前処理及びデータ前処理が行われた有機窒素分子の応答ピーク強度に対するデータの標準化処理を行う。