(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018662
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】醸造酢の製造方法および該方法に使用するための酢酸発酵助剤
(51)【国際特許分類】
C12J 1/00 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
C12J1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022115124
(22)【出願日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021122312
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克紀
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128BC03
4B128BC10
4B128BL12
4B128BL15
4B128BL22
4B128BL26
4B128BL30
4B128BL39
4B128BP11
4B128BP20
4B128BX01
4B128BX08
(57)【要約】
【課題】 製造の際の二酸化炭素の激しい発生を抑えることができ、かつ酸味酸臭が抑えられた醸造酢の製造方法および該方法に使用するための酢酸発酵助剤を提供すること。
【解決手段】
本発明の醸造酢の製造方法は、(a)醸造酢原料を混合して発酵用調製液を調製する工程、および(b)該発酵用調製液を酢酸発酵する工程を包含する。ここで、酢酸発酵する工程(b)中、発酵用調製液にはアルカリ性素材が複数回に分けて添加される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
醸造酢の製造方法であって、
(a)醸造酢原料から発酵用調製液を調製する工程、および
(b)該発酵用調製液を酢酸発酵する工程
を包含し、
該酢酸発酵する工程(b)中、該発酵用調製液にアルカリ性素材が複数回に分けて添加される、方法。
【請求項2】
前記アルカリ性素材がアルカリ性食品素材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ性食品素材が、石灰藻およびドロマイトからなる群から選択される少なくとも1種の素材である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ性食品素材が紅藻である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発酵用調製液への前記アルカリ性素材の添加が、該発酵用調製液の前記調製工程(a)の完了後、少なくとも6時間の時間間隔を空けて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記発酵用調製液への前記アルカリ性素材の2回目以降の添加が、先の添加より6時間から120時間の時間間隔を空けて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記発酵用調製液への前記アルカリ性素材の添加が、合計で2回から30回に分けて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記醸造酢が3.0から6.5のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
醸造酢の製造のために使用される酢酸発酵助剤であって、有効成分として石灰藻およびドロマイトからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ性食品素材を含有する、助剤。
【請求項10】
200ppmから1500ppmのマグネシウム含量を有する、醸造酢。
【請求項11】
さらに、3500ppmから17000ppmのカルシウム含量を有する、請求項10に記載の醸造酢。
【請求項12】
3500ppmから17000ppmのカルシウム含量を有する、醸造酢。
【請求項13】
醸造酢の製造方法であって、
(a)醸造酢原料から発酵用調製液を調製する工程、および
(b)該発酵用調製液を酢酸発酵する工程
を包含し、
該酢酸発酵する工程(b)が、該発酵用調製液にアルカリ性素材を添加して、マグネシウム含量を200ppmから1500ppmに調製することにより行われる、方法。
【請求項14】
醸造酢の製造方法であって、
(a)醸造酢原料から発酵用調製液を調製する工程、および
(b)該発酵用調製液を酢酸発酵する工程
を包含し、
該酢酸発酵する工程(b)が、該発酵用調製液にアルカリ性素材を添加して、カルシウム含量を3500ppmから17000ppmに調製することにより行われる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造酢の製造方法および該方法に使用するための酢酸発酵助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
醸造酢は酸味や旨味を付与する調味料や食品の保存性向上に幅広く使用されているが、それ単独ではpHが低く、強い酸味酸臭を有している。このため、低濃度でも食品に使用すると、強い酸味酸臭が付与され、得られる加工食品の味質や芳香に悪影響を及ぼすことがある。
【0003】
一方、近年では、醸造発酵後に得られた醸造酢に炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどの食品用アルカリ性化成品を添加して強制的に中和またはpHの上昇を行うことにより、酸味酸臭が低減された醸造酢が提供されている。
【0004】
しかし、醸造発酵後の醸造酢に対して、当該アルカリ性化成品を一気に添加すると、中和反応により二酸化炭素が発泡を伴って激しく発生しすることがある。これにより得られる醸造酢のpHのコントロールが容易ではなく、アルカリ性化成品は慎重な添加が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、製造の際の二酸化炭素の激しい発生を抑えることができ、かつ酸味酸臭が抑えられた醸造酢の製造方法および該方法に使用するための酢酸発酵助剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、醸造酢の製造方法であって、
(a)醸造酢原料から発酵用調製液を調製する工程、および
(b)該発酵用調製液を酢酸発酵する工程
を包含し、
該酢酸発酵する工程(b)中、該発酵用調製液にアルカリ性素材が複数回に分けて添加される、方法である。
【0007】
1つの実施形態では、上記アルカリ性素材がアルカリ性食品素材である。
【0008】
さらなる実施形態では、上記アルカリ性食品素材は、石灰藻およびドロマイトからなる群から選択される少なくとも1種の素材である。
【0009】
またさらなる実施形態では、上記アルカリ性食品素材は紅藻である。
【0010】
1つの実施形態では、上記発酵用調製液への上記アルカリ性素材の添加は、該発酵用調製液の上記調製工程(a)の完了後、少なくとも6時間の時間間隔を空けて行われる。
【0011】
1つの実施形態では、上記発酵用調製液への上記アルカリ性素材の2回目以降の添加は、先の添加より6時間から120時間の時間間隔を空けて行われる。
【0012】
1つの実施形態では、上記発酵用調製液への上記アルカリ性素材の添加は、合計で2回から30回に分けて行われる。
【0013】
1つの実施形態では、上記醸造酢は3.0から6.5のpHを有する。
【0014】
本発明はまた、200ppmから1500ppmのマグネシウム含量を有する、醸造酢である。
【0015】
1つの実施形態では、本発明の醸造酢はさらに、3500ppmから17000ppmのカルシウム含量を有する。
【0016】
本発明はまた、3500ppmから17000ppmのカルシウム含量を有する、醸造酢である。
【0017】
本発明はまた、醸造酢の製造方法であって、
(a)醸造酢原料から発酵用調製液を調製する工程、および
(b)該発酵用調製液を酢酸発酵する工程
を包含し、
該酢酸発酵する工程(b)が、該発酵用調製液にアルカリ性素材を添加して、マグネシウム含量を200ppmから1500ppmに調製することにより行われる、方法である。
【0018】
本発明はまた、醸造酢の製造方法であって、
(a)醸造酢原料から発酵用調製液を調製する工程、および
(b)該発酵用調製液を酢酸発酵する工程
を包含し、
該酢酸発酵する工程(b)が、該発酵用調製液にアルカリ性素材を添加して、カルシウム含量を3500ppmから17000ppmに調製することにより行われる、方法である。
【0019】
本発明はまた、醸造酢の製造のために使用される酢酸発酵助剤であって、有効成分として紅藻、木灰汁およびドロマイトからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ性食品素材を含有する、助剤である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、酸味酸臭が低減された醸造酢を簡便に製造することができる。本発明の方法により得られた醸造酢は、酸味酸臭が低減されており、様々な加工食品に添加可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の醸造酢の製造方法では、まず醸造酢原料から発酵用調製液が調製される。
【0022】
本明細書中に用いられる用語「醸造酢」とは、醸造酢の日本農林規格(昭和五十四年六月八日農林水産省告第八百一号)に規定される醸造酢である。醸造酢の具体的な例としては、穀物酢、果実酢、米酢、米黒酢、リンゴ酢、およびブドウ酢が挙げられる。
【0023】
醸造酢原料は、醸造酢の製造に使用される材料であり、例えば、植物性材料単独、あるいは当該植物性材料とアルコールおよび/または糖類との組み合わせから構成される。植物性材料の例としては、穀類(例えば米;麦;酒粕などの加工品;等)、果実(例えば、ブドウ;リンゴ;これらの搾汁;等)、野菜(例えば、ニンジン;イモ;これらの搾汁;等)、その他の農作物(例えば、サトウキビおよびその搾汁等)、ハチミツ、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
醸造酢原料が、植物性材料単独で構成される場合、当該植物性材料は必要に応じて麹菌により糖化された後、酵母によりアルコール発酵したもろみの状態で使用され得る。醸造酢原料が植物性材料とアルコールおよび/または糖類との組み合わせから構成される場合、醸造酢原料として使用されるアルコールはエタノールであり、醸造酢原料として使用される糖類はグルコースおよび/または砂糖である。
【0025】
発酵用調製液は、上記醸造酢原料に加え、必要に応じて水(例えば純水、イオン交換水、蒸留水、RO水、水道水、地下水)、穀類の糖化液、食塩、アミノ酸等が含まれていてもよい。
【0026】
本発明において、発酵用調製液に含まれる醸造酢原料の各成分、水等の含有量は特に限定されず、例えば一般的な醸造酢の製造に採用される含有量に基づいて当業者によって適宜選択され得る。
【0027】
次いで、発酵用調製液は酢酸発酵される。酢酸発酵は、発酵用調製液に酢酸菌が接種されるか、あるいは発酵用調製液に酢酸菌を含む別の酢酸発酵液を加え、これを発酵することにより行われる。
【0028】
酢酸発酵に使用される酢酸菌は、一般的な醸造酢の製造に使用され得る酢酸菌であれば特に制限されない。酢酸菌としては、例えば、米酢発酵菌、他のビネガー発酵菌等の酢酸を生成する菌が挙げられる。酢酸菌のより具体的な例としては、Acetobacter aceti、Acetobacter pasteurianus、Komagataeibacter medellinensis等が挙げられる。
【0029】
酢酸発酵にあたり発酵用調製液には所定の温度が付与される。酢酸発酵に付与される温度としては、好ましくは25℃~40℃、より好ましくは30℃~35℃である。発酵用調製液がこのような温度範囲内に設定されていることにより、当該調製液中の酢酸発酵を効果的に進めることができる。
【0030】
酢酸発酵により上記発酵用調製液内には酢酸が生成され、徐々にその濃度が上昇し、調製液のpHは低下する。ここで、仮に調製液内におけるpHの低下を放置すると、最終的に得られる酢酸発酵液には、高濃度の酢酸が含有されることにより酸味酸臭が増大する。こうした酢酸発酵液は醸造酢の一種ではあるが、種々の加工食品に対する調味料や食品の保存性向上に使用するには、余りにも酸味酸臭が強すぎるものとなる。
【0031】
本発明においては、こうした酢酸発酵の際の発酵用調製液に生成された酢酸に基づく当該酸味酸臭を低減するために、酢酸発酵助剤としてアルカリ性素材が発酵用調製液に添加される。
【0032】
アルカリ性素材の例としては、アルカリ性化成品およびアルカリ性食品素材、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
アルカリ性化成品は、食品工業において従来より使用される化成品であって、それ自体が水中に溶解することによりアルカリ性水溶液を調製し得るものである。アルカリ性化成品の例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムおよび水酸化ナトリウムならびにそれらの組み合わせが挙げられる。食品工業における汎用性に優れているとの理由から、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウム、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0034】
アルカリ性食品素材は、それ自体を例えば水中に添加するとアルカリ性の水溶液を調製し得る材料であって、それ自体が加工食品等の食品素材となり得るものをいう。アルカリ性食品素材の例としては、石灰藻、木灰汁およびドロマイト、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。アルカリ性食品素材は、石灰藻およびドロマイト、ならびにそれらの組み合わせが好ましい。
【0035】
石灰藻は、塩水からミネラルを吸収し、そのミネラルを炭酸塩として濃縮し得る藻類であり、明瞭な1分類群に存在するのではなく、いくつかの植物門の中に散在するものである。海藻類における石灰藻は、海藻全体の5~6%を占め、緑藻、褐藻、紅藻にまたがる100属以上が該当するが、ほとんどの種は熱帯域を中心に分布している。このような石灰藻は、カルシウムを含むミネラル類を多量に含有しているため、例えばミネラル補給の目的で食品原料に使用されている。本発明においては、入手が容易であり、かつ後述の酢酸発酵助剤として有効に機能し得るとの理由から、石灰藻のうち紅藻がさらに好ましい。
【0036】
紅藻(Lithothamniom calcareum)は、紅色植物門真正紅藻網サンゴモ目サンゴモ科イシモ属に属し、食品原料として入手が容易である。本発明において、紅藻は、発酵用調製液への段階的な(すなわち、複数回に分けた)添加が容易になるという理由から、予め乾燥かつ所定の粒度に粉砕したパウダーの形態のものが使用される。紅藻パウダーもまた一般に食品原料として使用されているものである。
【0037】
木灰汁は、藁灰や木灰を水に浸して得られる上澄みから構成されるアルカリ性の液であり、主成分として炭酸カリウムを含有する。本発明において、木灰汁は、例えば、植物性食品や動物性商品のアク抜き、あくまきと呼ばれるちまきの原料、かん水の代わりとして沖縄そばに使用されるものである。
【0038】
ドロマイトは、苦灰石、白雲石とも呼ばれ.カルシウムとマグネシウムとの複炭酸塩CaMg(CO3)2を主成分として含有する。一般に生体のカルシウムの吸収にはマグネシウムが不可欠とされており、ドロマイトは当該吸収に適したカルシウムおよびマグネシウム含量を有する。この点で機能性食品素材等にも使用されている材料である。
【0039】
アルカリ性素材は、上記酢酸発酵における発酵用調製液内に生成された酢酸を適度に(または部分的に)中和し、調製液のpHが著しく低下することを防止できる。これにより、最終的に得られる酢酸発酵液(醸造酢)の酸味酸臭を抑え、醸造酢を調味料や食品の保存性向上のために幅広い食品への利用が可能となる。この点で、アルカリ性食品素材は、醸造酢の製造のために使用される酢酸発酵助剤として機能し得る。
【0040】
1つの実施形態では、上記発酵用調製液内へのアルカリ性素材の添加は、例えば複数回に分けて行われ得る。
【0041】
添加の回数は、例えば、製造される醸造酢に最終的に求められるpHや、酢酸発酵に採用される発行条件等によって変動するため必ずしも限定さなれいが、例えば2回以上、好ましくは2回~30回、より好ましくは4回~10回である。上記酢酸発酵における発酵用調製液内へのアルカリ性素材の添加が単回(1回)のみで行われると、最終的に得られる酢酸発酵液(醸造酢)のpHを所望の範囲内に微調整することが困難となる。それにより、例えば、醸造酢として使用するには不適となる高濃度の酢酸の存在により酸味酸臭が残存し、それにより醸造酢特有の旨味を付与することができないものとなる、あるいは酢酸濃度が略一定に保持された酢酸発酵液を安定的に製造することができない等の支障を来すことがある。上記酢酸発酵における発酵用調製液内へのアルカリ性食品素材の添加が30回を超えると、添加作業が煩雑となり、最終的に得られる酢酸発酵液の製造効率が悪化することがある。
【0042】
なお、発酵用調製液の調製が完了した直後では、まだ酢酸が実質的に生成されていないか、あるいは酢酸発酵による酢酸の生成が始まったばかりの段階にある。このような段階では、当該調製液の調製が完了した直後は、アルカリ性素材の添加によって生成した酢酸の中和を促すよりも、酢酸発酵を進めて発酵用調製液内の酢酸の生成を優先的に行うことが望ましい。このため、上記発酵用調製液内へのアルカリ性素材の添加は、上記発酵用調製液の調製が完了した後、例えば少なくとも6時間、6時間~72時間、72時間~120時間の時間間隔を空けて行われる。
【0043】
本発明においては、発酵用調製液へのアルカリ性素材の添加が段階的(すなわち、所定の時間間隔を空けて間欠的)に行われることが好ましい。発酵用調製液へのアルカリ性素材の段階的な添加により、当該添加が行われていない時間では、発酵用調製液内の酢酸発酵により酢酸の生成が優先的に行われ、当該添加が行われる際に、アルカリ性素材によって生成した酢酸の適度な中和が行われるからである。これにより、発酵用調製液のpH調整を細かく制御できるとともに、アルカリ性素材の大量添加に伴う二酸化炭素の急激な発泡を回避できる。こうした段階的な添加を目的として、本発明では、発酵用調製液へのアルカリ性素材の2回目以降の添加は、例えば、少なくとも6時間、6時間~72時間、72時間~120時間の時間間隔を空けて行われてもよい。このような添加と次の添加との間に設定される時間間隔のそれぞれは同一であっても異なるものであってもよい。
【0044】
さらに、本発明において、発酵用調製液へのアルカリ性素材の添加は、酢酸発酵中の発酵用調製液のpHを定期的にモニタリングすることにより行われてもよい。例えば、特定のpH目標値を有する醸造酢が所望される場合、酢酸発酵中の発酵用調製液は、定期的にpHが当業者に周知の手段を用いて測定される。ここで、当該発酵用調製液のpHが当該目標値を下回る場合、発酵用調製液に上記アルカリ性素材が添加される。そして、その後も定期的にpHをモニタリングすることにより、発酵用調製液のpHが当該目標値の近傍に達しているかどうかの判断が行われ、さらなるアルカリ性素材の添加または酢酸発酵の継続が行われる。本発明において上記目標値として設定可能なpHは、好ましくは3.0~6.5であり、より好ましくは4.0~5.5である。
【0045】
あるいは、1つの実施形態では、上記発酵用調製液内へのアルカリ性素材の添加は、酢酸発酵を通じて発酵用調製液内のマグネシウム含量が所定濃度に調製されるまで行われてもよい。
【0046】
例えば、上記のようにアルカリ性素材を複数回に分けて添加すると、発酵用調製液中のマグネシウム含量が当該添加毎に増加する。本発明においては、発酵用調製液内のマグネシウム含量が好ましくは200ppm~1500ppm、より好ましくは300ppm~1000ppmになるまで当該アルカリ性素材が添加される。アルカリ性素材の添加による酢酸発酵を通じて、発酵用調製液内のマグネシウム含量が上記範囲内にあることにより、酢酸濃度が略一定に保持された酢酸発酵液を安定的に製造することができる。なお、上記マグネシウム含量は、例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて測定され得る。
【0047】
あるいは、1つの実施形態では、上記発酵用調製液内へのアルカリ性素材の添加は、酢酸発酵を通じて発酵用調製液内のカルシウム含量が所定濃度に調製されるまで行われてもよい。
【0048】
例えば、上記のようにアルカリ性素材を複数回に分けて添加すると、発酵用調製液中のカルシウム含量が当該添加毎に増加する。本発明においては、発酵用調製液内のカルシウム含量が好ましくは3500ppm~17000ppm、より好ましくは5000ppm~14000ppmになるまで当該アルカリ性素材が添加される。アルカリ性素材の添加による酢酸発酵を通じて、発酵用調製液内のカルシウム含量が上記範囲内にあることにより、酢酸濃度が略一定に保持された酢酸発酵液を安定的に製造することができる。なお、上記カルシウム含量は、例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて測定され得る。
【0049】
酢酸発酵後、発酵用調製液(培養液)は、必要に応じて当業者に周知の手段を用いて遠心分離および/または濾過が行われ、醸造酢が取り出される。
【0050】
取り出された醸造酢には、必要に応じて他の成分が添加されてもよい。他の成分の例としては、食塩、糖類、および調味料、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
糖類の例としては、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、デキストリン、シクロデキストリン、オリゴ糖などが挙げられる。
【0052】
調味料の例としては、アミノ酸類、核酸類および有機酸類(酢酸、酢酸ナトリウムを除く)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0053】
醸造酢に含まれる上記他の成分の含有量は特に限定されず、適切な含有量が当業者によって適宜選択され得る。
【0054】
このような醸造酢は、上記アルカリ性素材を添加して製造したことに起因して特有の成分組成を有する。具体的には、本発明の醸造酢は、好ましくは200ppm~1500ppm、より好ましくは300ppm~1000ppmのマグネシウム含量を有する。あるいは、またはこれに加えて、本発明の醸造酢は、好ましくは3500ppm~17000ppm、より好ましくは5000ppm~14000ppmのカルシウム含量を有する。
【0055】
こうした醸造酢は様々な加工食品に添加される。この添加のタイミングについては、当業者によって食品製造における任意の段階、加工食品の調理中および/または調理後などが選択され得る。醸造酢の添加は、このような任意の段階で、例えば、溶解させる、混和させる、練り込む、まぶす、水溶液に調製したものを噴霧する等によって行われる。
【0056】
添加され得る加工食品としては、必ずしも限定されないが、惣菜類(例えば、ハンバーグ、サラダ、卵焼き、鶏唐揚げ、鶏照焼き、フライ食品、和え物、煮物)、水産練製品(例えば、蒲鉾、竹輪)、畜肉製品(例えば、ハム、ソーセージ、ウインナー)、パン・ケーキ類、菓子類(例えば、和菓子、洋菓子)、麺類(例えば、生麺、茹麺、乾麺)、調味料類(例えば、ソース、醤油、マヨネーズ、ケチャップ)が例示される。加工食品は、上記例示に関する調理前の原料、および調理または加工後の中間製品(例えば、惣菜半製品)の両方を包含する。
【0057】
このようにして、酸味酸臭を抑えた醸造酢を簡便に製造することができる。本発明により得られた醸造酢は、酸味酸臭が抑制され、例えば、添加される加工食品に醸造酢の旨味を付与することができ、および/または食品の保存性向上に利用することができる。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
(実施例1:紅藻パウダーで段階的に中和した醸造酢の作製)
表1に示す配合比率にて前培養液200gを作製しオートクレーブにかけた。室温まで冷却した後、冷凍保管していた酢酸菌(Acetobacter pasteurianus;独立行政法人 製品評価技術基盤機構より入手)を接種し、35℃にて一晩振盪培養して酢酸菌の前培養液を得た。
【0060】
【0061】
次いで、表2に示す配合比率にて酢酸発酵液350gを作製し、外気温33℃で静置して、酢酸発酵を開始させた。発酵の間、2日毎に生成した酢酸を高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)(アジレント・テクノロジー株式会社製)で定量し、かつこの酢酸発酵液に少量の紅藻パウダー(セティ株式会社製)を溶解させて、pH5.0に調整した。
【0062】
【0063】
発酵開始から10日目に、この酢酸発酵液にエタノール2w/w%量を追加投入した。その後も2日毎にLC-MSによる酢酸の定量を継続し、酢酸濃度が6w/v%に達した時点で発酵を終了とした。最終的に酢酸発酵液を遠心分離および濾過し、pH5.0の醸造酢(E1)(280g)を得た。
【0064】
(実施例2:木灰汁で段階的に中和した醸造酢の作製)
紅藻パウダーの代わりに市販の木灰汁のパウダー品を用いたこと以外は実施例1と同様にして酢酸菌の前培養液を作製し、LC-MSによる酢酸の定量を継続しつつ酢酸発酵液の酢酸発酵を行って、酢酸濃度が6w/v%に達した時点で発酵を終了し、遠心分離および濾過することによりpH5.0の醸造酢(E2)(300g)を得た。
【0065】
(実施例3:予め紅藻パウダーを含有する酢酸発酵液を用いて紅藻パウダーで段階的に中和した醸造酢の作製)
実施例1と同様にして酢酸菌の前培養液を得た。
【0066】
次いで、表3に示す配合比率にて酢酸発酵液350gを作製したこと以外は実施例1と同様にして酢酸菌の前培養液を作製し、LC-MSによる酢酸の定量を継続しつつ酢酸発酵液の酢酸発酵を行って、酢酸濃度が6w/v%に達した時点で発酵を終了し、遠心分離および濾過することによりpH5.0の醸造酢(E3)(280g)を得た。
【0067】
【0068】
(比較例1:中和操作を行わない醸造酢の作製)
紅藻パウダーを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして酢酸菌の前培養液を作製し、LC-MSによる酢酸の定量を継続しつつ酢酸発酵液の酢酸発酵を行って、酢酸濃度が6w/v%に達した時点で発酵を終了した。得られた発酵液を遠心分離および濾過することによりpH2.6の醸造酢(C1)(320g)を得た。
【0069】
(比較例2:酢酸発酵終了後に紅藻パウダーで中和した醸造酢の作製)
紅藻パウダーを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして酢酸菌の前培養液を作製し、LC-MSによる酢酸の定量を継続しつつ酢酸発酵液の酢酸発酵を行って、酢酸濃度が6w/v%に達した時点で発酵を終了した。次いで、得られた発酵液に紅藻パウダー(セティ株式会社製)を溶解させて、pH5.0に調整した。その後、これを遠心分離および濾過することによりpH5.0の醸造酢(C2)(270g)を得た。
【0070】
(得られた醸造酢の官能評価(1))
実施例1~3および比較例1~2で作製した醸造酢(E1)~(E3)、(C1)および(C2)を酢酸濃度が0.5w/v%になるまでイオン交換水で希釈した。希釈した醸造酢について、醸造酢の酸味、酸臭、甘味、旨味、塩味、および苦味についての官能評価を行った。評価方法としては、比較例1で作製した醸造酢(C1)の各項目の結果が3点であったと設定し、比較例1の結果と対比してそれぞれの味が、やや強い場合は4点、強い場合は5点とした。また、比較例1の結果と対比して、それぞれの味がやや弱い場合は2点、弱い場合は1点とすることにより5段階評価を行った。この官能評価を研究員8名がそれぞれ行って、各結果の平均値(小数点以下を四捨五入)を算出した。得られた結果を表4に示す。
【0071】
【0072】
表4に示すように、中和を行わなかった通常の醸造酢である比較例1の醸造酢(C1)と、実施例1~3で得られた醸造酢(E1)~(E3)とを比較すると、実施例1~3の醸造酢(E1)~(E3)は、酸味および酸臭がほとんど感じられず、一方で旨味と甘味が強く感じられた。また比較例2で得られた醸造酢(C2)と実施例1~3で得られた醸造酢(E1)~(E3)とを比較すると、比較例2の醸造酢(C2)は酸味および酸臭は実施例1~3の醸造酢(E1)~(E3)と同様にほとんど感じられなかったが、旨味や甘味が少なく、苦味が著しく強く感じられた。
【0073】
実施例1~3で得られた醸造酢(E1)~(E3)は、比較例1および2の醸造酢(C1)および(C2)よりも酸味、酸臭、苦味を抑えつつ、旨味と甘味が強いものであった。
【0074】
(実施例4:紅藻パウダーで段階的に中和した醸造酢の作製)
紅藻パウダーの添加量を変えて調整するpHを3.9に変更し、かつ追加投入するエタノール量を合計で6w/w%となるように変更したこと以外は実施例1と同様にしてLC-MSによる酢酸の定量を継続し、酢酸濃度が10w/v%に達した時点で発酵を終了とした。最終的に酢酸発酵液を遠心分離および濾過し、pH3.9の醸造酢(E4)(280g)を得た。
【0075】
この醸造酢(E4)に含まれるマグネシウム含量およびカルシウム含量を、高周波誘導結合プラズマ発酵分光装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製PS3500DD II)を用いてそれぞれ測定した。結果を表5に示す。
【0076】
(実施例5:紅藻パウダーで段階的に中和した醸造酢の作製)
紅藻パウダーの添加量を実施例4よりも増加させて調整するpHを4.1に変更し、かつ追加投入するエタノール量を合計で6w/w%となるように変更したこと以外は実施例1と同様にしてLC-MSによる酢酸の定量を継続し、酢酸濃度が10w/v%に達した時点で発酵を終了とした。最終的に酢酸発酵液を遠心分離および濾過し、pH4.1の醸造酢(E5)(280g)を得た。この醸造酢(E5)に含まれるマグネシウム含量およびカルシウム含量を、上記高周波誘導結合プラズマ発酵分光装置を用いてそれぞれ測定した。結果を表5に示す。
【0077】
(実施例6:紅藻パウダーで段階的に中和した醸造酢の作製)
紅藻パウダーの添加量を実施例5よりも増加させて調整するpHを4.3に変更し、かつ追加投入するエタノール量を合計で6w/w%となるように変更したこと以外は実施例1と同様にしてLC-MSによる酢酸の定量を継続し、酢酸濃度が10w/v%に達した時点で発酵を終了とした。最終的に酢酸発酵液を遠心分離および濾過し、pH4.3の醸造酢(E6)(280g)を得た。この醸造酢(E6)に含まれるマグネシウム含量およびカルシウム含量を、上記高周波誘導結合プラズマ発酵分光装置を用いてそれぞれ測定した。結果を表5に示す。
【0078】
(比較例3:中和操作を行わない醸造酢の作製)
紅藻パウダーを添加なかったこと以外は実施例4と同様にして酢酸菌の前培養液を作製し、LC-MSによる酢酸の定量を継続しつつ酢酸発酵液の酢酸発酵を行って、酢酸濃度が10w/v%に達した時点で発酵を終了した。得られた発酵液を遠心分離および濾過することによりpH2.3の醸造酢(C3)(280g)を得た。この醸造酢(C3)に含まれるマグネシウム含量およびカルシウム含量を、上記高周波誘導結合プラズマ発酵分光装置を用いてそれぞれ測定した。結果を表5に示す。
【0079】
【0080】
表5に示すように、実施例4~6で得られた醸造酢(E4)~(E6)はいずれも、比較例3で得られた醸造酢(C3)と比較して、マグネシウム含量およびカルシウム含量の両方が格段に高いものであったことがわかる。また、実施例4~6で得られた醸造酢(E4)~(E6)を比較すると、紅藻パウダーの添加量を増加させて調整するpHを高めることにより、得られる醸造酢中のマグネシウム含量およびカルシウム含量のいずれもが増加する傾向にあることがわかる。
【0081】
(得られた醸造酢の官能評価(2))
実施例4~6および比較例3で作製した醸造酢(E4)~(E6)、および(C3)を酢酸濃度が0.5w/v%になるまでイオン交換水で希釈した。希釈した醸造酢について、醸造酢の酸味、酸臭、甘味、旨味、塩味、および苦味についての官能評価を行った。評価方法としては、比較例3で作製した醸造酢(C3)の各項目の結果が3点であったと設定し、比較例3の結果と対比してそれぞれの味が、やや強い場合は4点、強い場合は5点とした。また、比較例3の結果と対比して、それぞれの味がやや弱い場合は2点、弱い場合は1点とすることにより5段階評価を行った。この官能評価を研究員8名がそれぞれ行って、各結果の平均値(小数点以下を四捨五入)を算出した。得られた結果を表6に示す。
【0082】
【0083】
表6に示すように、中和を行わなかった比較例3の醸造酢(C3)と、実施例4~6で得られた醸造酢(E4)~(E6)とを比較すると、実施例4~6の醸造酢(E4)~(E6)は、酸味および酸臭がほとんど感じられなかった。