(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018666
(43)【公開日】2023-02-08
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230201BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
F16F15/02 A
F16F15/02 M
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118471
(22)【出願日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2021122236
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 英樹
(72)【発明者】
【氏名】青崎 義宏
(72)【発明者】
【氏名】窪川 稔
【テーマコード(参考)】
3J048
4B029
【Fターム(参考)】
3J048AA02
3J048AC07
3J048AD01
3J048BC02
3J048EA13
4B029AA27
4B029BB01
4B029BB20
4B029DG01
(57)【要約】
【課題】振動方向に応じた制振の制御性を向上することできる制振装置を提供すること。
【解決手段】制振装置は、アクティブ制御可能な複数のアクチュエータと、前記複数のアクチュエータの制御に基づいて、複数方向の制振を可能とする制御部とを備え、前記制御部は、縦揺れ、横揺れおよび傾きが低減されるように、前記複数のアクチュエータを制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブ制御可能な複数のアクチュエータと、
前記複数のアクチュエータの制御に基づいて、複数方向の制振を可能とする制御部と、を備える制振装置。
【請求項2】
前記制御部は、縦揺れおよび横揺れが低減されるように、前記複数のアクチュエータを制御する請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記制御部は、傾きが低減されるように、前記複数のアクチュエータを制御する請求項1に記載の制振装置。
【請求項4】
前記アクチュエータは、
ジンバル機構の回転軸にモータが搭載されたN(Nは正の整数)個の傾斜用アクチュエータと、
ボールねじを使用したM(Mは正の整数)個の電動アクチュエータと、
を含む請求項1に記載の制振装置。
【請求項5】
プレートと、
前記プレートを傾き可能に支持する枠と、をさらに備え、
前記傾斜用アクチュエータは、
第1軸の周りに前記プレートを傾ける前記第1ジンバル機構の回転軸に第1モータが搭載された第1傾斜用アクチュエータと、
第2軸の周りに前記枠を傾ける前記第2ジンバル機構の回転軸に第2モータが搭載された第2傾斜用アクチュエータと、を含み、
前記電動アクチュエータは、
第3軸の方向に前記枠を直動運動させる第1ボールねじを使用した第1電動アクチュエータと、
前記第1電動アクチュエータと離間して設けられ、前記第3軸の方向に前記枠を直動運動させる第2ボールねじを使用した第2電動アクチュエータと、を含む請求項4に記載の制振装置。
【請求項6】
前記アクチュエータは、ジンバル機構の回転軸にモータが搭載されたN(Nは2以上の正の整数)個の傾斜用アクチュエータを含む請求項1に記載の制振装置。
【請求項7】
プレートと、
前記プレートを傾き可能に支持する枠と、をさらに備え、
前記傾斜用アクチュエータは、
第1軸の周りに前記プレートを傾ける前記第1ジンバル機構の回転軸に第1モータが搭載された第1傾斜用アクチュエータと、
第2軸の周りに前記枠を傾ける前記第2ジンバル機構の回転軸に第2モータが搭載された第2傾斜用アクチュエータと、
を含む請求項6に記載の制振装置。
【請求項8】
前記アクチュエータは、ボールねじを使用したM(Mは3以上の整数)個の電動アクチュエータを備える請求項1に記載の制振装置。
【請求項9】
プレートをさらに備え、
前記電動アクチュエータは、
前記プレートの法線方向に前記プレートを直動運動させる第1ボールねじを使用した第1電動アクチュエータと、
前記第1電動アクチュエータと離間して設けられ、前記プレートの法線方向に前記プレートを直動運動させる第2ボールねじを使用した第2電動アクチュエータと、
前記第1電動アクチュエータおよび前記第2電動アクチュエータと離間して設けられ、前記プレートの法線方向に前記プレートを直動運動させる第3ボールねじを使用した第3電動アクチュエータと、
を含む請求項8に記載の制振装置。
【請求項10】
前記アクチュエータの運動エネルギーを回生エネルギーに変換する回生制御部をさらに備える請求項1に記載の制振装置。
【請求項11】
前記回生制御部は、前記アクチュエータの内部抵抗を調整する機能を持ち、回生による前記アクチュエータの逆作動力を可変とすることで、フルアクティブ制振、パッシブ制振およびセミアクティブ制振を切替可能である請求項10に記載の制振装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記制振装置により制振される制振対象の動特性および前記プレートの傾斜時の過渡特性に基づいて、前記第1傾斜用アクチュエータ及び前記第2傾斜用アクチュエータを制御する請求項5または7に記載の制振装置。
【請求項13】
前記制振装置により制振される制振対象の共振周波数周辺の帯域を免振できる免振テーブルをさらに備える請求項1に記載の制振装置。
【請求項14】
前記ジンバル機構の回転軸に搭載されたモータはサーボモータである請求項4または6に記載の制振装置。
【請求項15】
前記ジンバル機構の回転軸に、ねじりコイルばねとロータリダンパの少なくとも一方を取付けた請求項14に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移植用臓器または細胞などの生体由来物や、メッセンジャーRNAワクチンなどは、衝撃や振動によってダメージを受けやすく、それらの搬送時に衝撃や振動が及ばないようにすることが望まれる。
【0003】
特許文献1には、ケースの内底面から2本のアームが立設され、これには、2軸ジンバル機構部が取り付けられ、内側フレームは、有底筒状を有し、その底部には当該筒の深さ方向への衝撃を緩和する衝撃緩和機構が設けられ、衝撃緩和機構は、内側フレームとは別体の載置板と、その下面と内側フレームの底壁との間に介挿されたコイルバネとで構成され、内側フレームの側壁は、コンテナボックスの装着時に密に接触し、コンテナボックスの横方向への移動を規制する構成が開示されている。
特許文献2には、搬送用ケースと、その内部底壁面に立設されたアームと、装着部およびスウィング機構と、搬送用ケースの外側壁面に対し着脱自在の温調ボックスと、温調ボックスに設けられたヒータとを有し、装着部は、生体由来物が収納された収納容器の装着を受け入れ、ウィング機構は、アームに対し、装着部を揺動自在に支持し、温調ボックスのヒータは、バッテリから電力供給を受けて、温調ボックスが搬送用ケースに装着された 状態で、搬送用ケース内の温度調整を実行する構成が開示されている。
特許文献3には、断熱機能を備えたケース本体内に、バッテリ及び試験管を水平状態で収容保持するヒータ備えた試験管保持容器を内蔵すると共に、その試験管保持容器の開閉自在な蓋体大小二分割して夫々独立して開閉可能とし、更にケース本体内の温度を調節する温度調節機構を装備した構成が開示されている。
特許文献4には、ロボットアームの先端に取り付けられたエンドエフェクタの振動を取得する取得部と、エンドエフェクタを加振するアクチュエータと、取得部によって取得された振動に応じて、エンドエフェクタの振動が低減するようにアクチュエータを制御する制御部と、を備える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-47018号公報
【特許文献2】国際公開第2010/013419号
【特許文献3】実開平5-53616号公報
【特許文献4】特開2018-1370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に開示の技術では、パッシブ機構によって制振が行われるため、振動方向に応じて制振をアクティブに制御できなかった。また、特許文献4に開示の技術では、エンドエフェクタにアクチュエータが取り付けられ、1次元に延びるリンク列の基端側から伝わる振動しか低減できなかった。
そこで、本発明は、振動方向に応じた制振の制御性を向上させることが可能な制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る制振装置は、アクティブ制御可能な複数のアクチュエータと、前記複数のアクチュエータの制御に基づいて、複数方向の制振を可能とする制御部と、を備える。
【0007】
これにより、制振可能な方向を多軸化しつつ、振動の周波数に応じて制振制御を実行することが可能となる。このため、振動方向に応じた制振の制御性を向上させることが可能となるとともに、制振可能な振動の周波数帯域を拡大させることができ、制振精度を向上させることができる。
【0008】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記制御部は、縦揺れおよび横揺れが低減されるように、前記複数のアクチュエータを制御する。
【0009】
これにより、制振対象の搬送時の安定性を向上させることができ、制振対象の搬送時のダメージを低減することができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記制御部は、傾きが低減されるように、前記複数のアクチュエータを制御する。
【0011】
これにより、制振対象の搬送時に制振対象を水平に保つことができ、制振対象の転倒や液こぼれなどを防止することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記アクチュエータは、ジンバル機構の回転軸にモータが搭載されたN(Nは正の整数)個の傾斜用アクチュエータと、ボールねじを使用したM(Mは正の整数)個の電動アクチュエータとを備える。
【0013】
これにより、制振対象の縦揺れおよび横揺れだけでなく傾きも低減することができ、搬送時の様々の状況に対応しつつ、制振対象の搬送時の安定性を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る制振装置は、プレートと、前記プレートを傾き可能に支持する枠とをさらに備え、前記傾斜アクチュエータは、第1軸の周りに前記プレートを傾ける前記第1ジンバル機構の回転軸に第1モータが搭載された第1傾斜用アクチュエータと、第2軸の周りに前記枠を傾ける前記第2ジンバル機構の回転軸に第2モータが搭載された第2傾斜用アクチュエータと、を含み、前記電動アクチュエータは、第3軸の方向に前記枠を直動運動させる第1ボールねじを使用した第1電動アクチュエータと、前記第1電動アクチュエータと離間して設けられ、前記第3軸の方向に前記枠を直動運動させる第2ボールねじを使用した第2電動アクチュエータと、を含む。
【0015】
これにより、プレートの周囲に傾斜用アクチュエータを配置し、プレート下に電動アクチュエータを配置しつつ、制振対象の縦揺れおよび横揺れとともに、傾きも低減することができる。このため、制振対象をプレート上に配置するためのスペースを確保することが可能となるとともに、搬送時の様々の状況に対応しつつ、制振対象の搬送時の安定性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記アクチュエータは、ジンバル機構の回転軸にモータが搭載されたN(Nは2以上の正の整数)個の傾斜用アクチュエータを備える。
【0017】
これにより、制振装置の高さの増大を抑制しつつ、制振対象の横揺れだけでなく傾きも低減することができる。このため、制振装置の設置に必要なスペースの増大を抑制しつつ、制振対象の搬送時の安定性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る制振装置は、プレートと、前記プレートを傾き可能に支持する枠と、をさらに備え、前記傾斜アクチュエータは、第1軸の周りに前記プレートを傾ける前記第1ジンバル機構の回転軸に第1モータが搭載された第1傾斜用アクチュエータと、第2軸の周りに前記枠を傾ける前記第2ジンバル機構の回転軸に第2モータが搭載された第2傾斜用アクチュエータと、を含む。
【0019】
これにより、プレートの周囲に傾斜用アクチュエータを配置しつつ、制振対象の横揺れだけでなく傾きも低減することができる。このため、制振対象をプレート上に配置するためのスペースを確保することが可能となるとともに、制振装置の設置に必要なスペースの増大を抑制しつつ、制振対象の搬送時の安定性を向上させることができる。
【0020】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記アクチュエータは、ボールねじを使用したM(Mは3以上の整数)個の電動アクチュエータを備える。
【0021】
これにより、1種類の複数の電動アクチュエータを用いることで、制振対象の縦揺れおよび横揺れだけでなく傾きも低減することができる。このため、搬送時の様々の状況に対応しつつ、制振対象の搬送時の安定性を向上させることが可能となるとともに、複数種類の電動アクチュエータを用いた場合に比べて、生産管理の煩雑性を低下させることができる。
【0022】
また、本発明の一態様に係る制振装置は、プレートをさらに備え、前記電動アクチュエータは、前記プレートの法線方向に前記プレートを直動運動させる第1ボールねじを使用した第1電動アクチュエータと、前記第1電動アクチュエータと離間して設けられ、前記プレートの法線方向に前記プレートを直動運動させる第2ボールねじを使用した第2電動アクチュエータと、前記第1電動アクチュエータおよび前記第2電動アクチュエータと離間して設けられ、前記プレートの法線方向に前記プレートを直動運動させる第3ボールねじを使用した第3電動アクチュエータと、を含む。
【0023】
これにより、プレート下に電動アクチュエータを配置しつつ、制振対象の縦揺れおよび横揺れとともに、傾きも低減することができる。このため、制振装置の設置に必要なスペースの増大を抑制しつつ、制振対象をプレート上に配置するためのスペースを確保することが可能となるとともに、搬送時の様々の状況に対応しつつ、制振対象の搬送時の安定性を向上させることができる。
【0024】
また、本発明の一態様に係る制振装置は、前記アクチュエータの運動エネルギーを回生エネルギーに変換する回生制御部をさらに備える。
【0025】
これにより、アクチュエータの制御中またはアクチュエータをオフしたときに無駄に消費されるエネルギーを活用することができ、エネルギー効率を向上させることができる。
【0026】
また、本発明の一態様に係る制振装置によれば、前記回生制御部は、前記アクチュエータの内部抵抗を可変する機能を持ち、回生による前記アクチュエータの逆作動力を可変とすることで、フルアクティブ制振、パッシブ制振およびセミアクティブ制振を切替可能である。
【0027】
これにより、アクチュエータから生じる回生エネルギーの活用を可能としつつ、アクティブ制御可能なアクチュエータをパッシブダンパおよびセミアクティブサスペンションとして動作させることができる。このため、部品点数を減らせることでコンパクト化、軽量化および低コスト化を図ることが可能となるとともに、エネルギー効率を向上させことができる。
前記制御部は、前記制振装置により制振される制振対象の動特性および前記プレートの傾斜時の過渡特性に基づいて、前記第1傾斜用アクチュエータ及び前記第2傾斜用アクチュエータを制御してもよい。
前記制振装置は、前記制振装置により制振される制振対象の共振周波数周辺の帯域を免振できる免振テーブルをさらに備えてもよい。
前記ジンバル機構の回転軸に搭載されたモータは、好ましくは、サーボモータである。
前記ジンバル機構の回転軸に、ねじりコイルばねとロータリダンパの少なくとも一方を取付けてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一つの態様によれば、振動方向に応じた制振の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る制振装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る制振機構の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の電動アクチュエータの構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は、対象物に加速度が加わった状態の一例を示す側面図である。
【
図5】
図5は、対象物に加速度が加わった状態のその他の例を示す側面図である。
【
図6】
図6は、走行面が傾斜しているときの対象物の状態を示す側面図である。
【
図7】
図7は、
図1の制御部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る制振機構の構成を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る制振機構の構成を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態において対象物に作用する加速度を説明する図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態で採用する制御ブロックを示す図である。
【
図12】
図12は、第4実施形態の変形例に係る制振機構の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。
【0031】
第1実施形態
図1は、第1実施形態に係る制振装置11の構成を示すブロック図である。
図1において、制振装置11は、センサ21、制振機構24A、回生制御装置25、制御部26および蓄電デバイス27を備える。制振機構24Aは、傾斜用アクチュエータK、電動アクチュエータDおよびパッシブ機構Bを備える。制御部26は、制振制御装置22およびECU(Electronic Control Unit)23を備える。
【0032】
対象物13は、制振機構24Aにて保持される。対象物13は、制振装置11により制振処理が行われる物体(制振対象)である。対象物13は、例えば、移植用臓器または細胞などの生体由来物や、メッセンジャーRNAワクチンである。対象物13は、例えば、ウェディングケーキまたは出前用ラーメンなどの食品であってもよい。搬送装置12は、制振機構24Aにて保持された対象物13を搬送する。搬送装置12は、例えば、トラック、バイク、自転車、鉄道、船舶、台車(自律走行装置を含む)またはドローンである。電源14は、制振装置11に電力を供給する。電源14は、例えば、バッテリである。
【0033】
制振装置11は、制振機構24Aをアクティブ制御し、複数方向の制振を可能とする。制振機構24Aは、対象物13を制振しながら対象物13を保持する。制振機構24Aは、アクティブ制御可能な複数のアクチュエータを備える。例えば、制振機構24Aは、複数のアクチュエータとして、傾斜用アクチュエータKおよび電動アクチュエータDを備えることができる。傾斜用アクチュエータKは、制御部26によるアクティブ制御に基づいて対象物13の横揺れおよび傾きを低減する。傾斜用アクチュエータKは、ジンバル機構と、ジンバル機構の回転軸に搭載されたモータを備えることができる。電動アクチュエータDは、制御部26によるアクティブ制御に基づいて対象物13の縦揺れを低減する。電動アクチュエータDは、回転運動を直動運動に変換するボールねじと、回転運動を発生させるモータを備えることができる。なお、モータは、例えば、サーボモータを用いることができる。パッシブ機構Bは、外界からの振動に対してパッシブ的に対象物13を制振する。パッシブ機構Bは、例えば、バネまたはダンパである。
【0034】
センサ21は、対象物13または制振機構24Aの運動に関する物理量を検出する。センサ21は、例えば、角度センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ、トルクセンサまたは変位計であり、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0035】
制御部26は、制振機構24Aに設けられた複数のアクチュエータの制御することにより、複数方向の制振を可能とする。制御部26は、対象物13の縦揺れ、横揺れおよび傾きが低減されるように、複数のアクチュエータを制御することができる。また、制御部26は、制振対象となる対象物13の種類によって、制振周波数を変更してもよい。制振周波数は、対象物13のタメージが大きな振動周波数に設定することができる。制御部26は、例えば、スカイフック理論などの制振制御方法を用いてもよい。
【0036】
制振制御装置22は、センサ21による検出値に基づいて、傾斜用アクチュエータKおよび電動アクチュエータDを制御する。ECU23は、制振制御装置22からの指令に基づいて傾斜用アクチュエータKおよび電動アクチュエータDを駆動する。ECU23は、傾斜用アクチュエータKおよび電動アクチュエータDを駆動するドライバまたはインバータを備えていてもよい。
【0037】
回生制御装置25は、アクチュエータの運動エネルギーを回生エネルギーに変換する。回生制御装置25は、回生エネルギーを蓄電デバイス27に蓄積することができる。また、回生制御装置25は、回生エネルギーを傾斜用アクチュエータKおよび電動アクチュエータDの電源として供給することができる。また、回生制御装置25は、アクチュエータの内部抵抗を変更(調整)する機能を持ち、回生によるアクチュエータの逆作動力を調整可能とすることで、フルアクティブ制振、パッシブ制振およびセミアクティブ制振を切り替えることができる。
【0038】
蓄電デバイス27は、回生制御装置25から供給された回生エネルギーを蓄電することができる。また、蓄電デバイス27は、蓄電した回生エネルギーを電源14に供給することができる。蓄電デバイス27は、例えば、2次電池である。
【0039】
ここで、制振装置11は、複数のアクチュエータの制御に基づいて、複数方向の制振を可能とすることにより、制振可能な方向を多軸化しつつ、振動の周波数に応じて制振制御を実行することが可能となる。このため、振動方向に応じた制振の制御性を向上させることが可能となるとともに、制振可能な振動の周波数帯域を拡大させることができ、制振精度を向上させることができる。例えば、対象物13の搬送時の強風、悪路、カーブ、段差、坂および加減速などの様々な搬送環境に対応しつつ、対象物13のダメージを抑制することができる。
【0040】
また、電動アクチュエータDを制振装置11に搭載することで、縦揺れをフルアクティブに制振制御することができる。電動アクチュエータDにボールねじを採用することで、滑りねじまたはローラねじを採用した場合に比べて、応答性・逆作動性・動力伝達効率・制振精度を向上させることができる。
【0041】
また、電動アクチュエータDにサーボモータを採用することで、油圧式を採用した場合に比べて、制振装置11のコンパクト化を図ることが可能となるとともに、メンテナンス性を向上させることができる。
【0042】
また、ジンバル機構の回転軸にサーボモータを取付けた傾斜用アクチュエータKを制振装置11に搭載することで、傾きおよび横揺れもフルアクティブに制振制御することができる。ジンバル機構の回転軸にねじりコイルばねまたはロータリダンパを取付け、制振効果を向上させることもできる。
【0043】
また、制振装置11は、制振対象の振動が発生していないときは、電動アクチュエータDをサーボオフすることができる。その際、電動アクチュエータDにボールねじを採用することで、逆作動性を向上させることができ、ばねおよびダンパ等の本来のパッシブ制振効果を得ることができる。制振装置11は、制振対象の振動が発生していないときは、傾斜用アクチュエータKについても同様にサーボオフすることもできる。
【0044】
また、回生制御装置25を制振装置11に搭載することで、電動アクチュエータDおよび傾斜用アクチュエータKの振動によるエネルギーを吸収でき、搬送装置12に還元することができる。電動アクチュエータDにボールねじを採用することで、逆作動性を向上させることができ、エネルギー回収効率を向上させ、省エネルギー化を図ることができる。
【0045】
また、回生制御装置25は、回生抵抗を制御することで電動アクチュエータDの逆作動方向の抵抗力を制御することができる。また、その抵抗力はサーボモータの回転角速度に依存するため、パッシブダンパおよびセミアクティブサスペンションのような振る舞いを実現することができる。従って、制振装置11に搭載されているダンパ(パッシブ機構B)として機能することも可能(ダンパを省略することも可能)であり、制振装置11の軽量化および低コスト化を図ることができる。傾斜用アクチュエータKにロータリダンパ等を付加した場合についても同様のシステムを構築することができる。
【0046】
制振装置11は、例えば、再生医療分野における生細胞の搬送時に好適に利用することができる。再生医療分野では、他家細胞に比べ患者本人の細胞を用いることで免疫拒絶の恐れがない自家細胞を使用する治療が増え続けると予想される。
【0047】
自家細胞は、クリニックで患者から採取し、それを培養して検査を行う。このため、細胞加工施設および検査会社を経て再度クリニックへ搬送され、搬送回数が他家細胞に比べ多い。現状では、細胞を凍結させ凍結細胞として搬送することが多いが、凍結細胞は解凍の必要があり、培養するのに2~4週間必要となる。これに対し、生細胞での搬送は、培養の時間を各段に短縮でき非常に効率的である。また、幹細胞に対し細胞塊や臓器のような高度な細胞になると、凍結搬送が困難になるため、生細胞搬送の必要性が今後高まると予想される。
【0048】
細胞の性能や生存率に影響を与えるパラメータとして温度と振動が挙げられる。温度については各所で研究・検証がなされているが、振動による影響については定量化されていない。しかし、振動が細胞の機能維持および生存率に影響を及ぼすことは明らかであり、凍結細胞より生細胞、特に高度な細胞になるほど影響は大きく、搬送には注意が必要とされる。また、細胞の種類により影響を受ける周波数領域は異なると予想され、その周波数の振動に対する制振は必須となると思われる。
【0049】
論文(The sensitivity of human mesenchymal stem cells to vibration and cold storage conditions representative of cold transportation Authors:N. I. Nikolaev, Y. Liu, H. Hussein and D. J. Williams)によると、低温保存(2~8℃)と振動(10~50Hz)によるヒト間葉系幹細胞の影響調査では、25Hzでの振動において大きく細胞生存率が低くなる。つまり、制振装置11は、ヒト間葉系幹細胞において、25Hzの振動に対しては精度良い制振を行い、それ以外では制御しないという使い分けをしてもよく、さらに細胞によって制振周波数を変化させることもできる。
【0050】
このような使い分けによって、制振装置11は、常にフルアクティブ制振する必要がなく、必要な場合のみフルアクティブ制振すればよいので、省エネルギー化を図ることができる。なお、振動には、有害な振動と、有害ではない振動がある。例えば、培養液の攪拌等によって細胞を活発にさせるような有益な振動および周波数帯も存在する。このため、制振装置11は、フルアクティブ制御に基づく制振だけでなく加振の機能も備えてもよく、対象物13に有益な振動を付与可能であってもよい。
【0051】
なお、
図1の例では、ECU23と制振機構24Aとの間に回生制御装置25を設けたが、回生制御機能をECU23に持たせてもよい。ECU23が回生制御機能を持てば、制御部26とは別に回生制御装置25を設ける必要がなくなり、制振装置11のコンパクト化を図ることができる。つまり、回生制御部25は制御部26内に設けてもよい。
【0052】
図2は、第1実施形態に係る制振機構24Aの構成を示す斜視図である。
図2において、制振機構24Aは、3次元空間において互いに直交する第1軸X、第2軸Yおよび第3軸Zのそれぞれの方向に対して制振動作可能である。第1軸Xおよび第2軸Yの方向の揺れを横揺れ、第3軸Zの方向の揺れを縦揺れと言うことがある。制振機構24Aは、土台1、基台2、枠3、プレート4、電動アクチュエータD1、D2および傾斜用アクチュエータK1~K4を備える。符号40はプレート4の上面を指している。なお、第1軸をX軸と称し、第2軸をY軸と称し、第3軸をZ軸と称してもよい。
【0053】
土台1は、
図1の搬送装置12上に設置可能である。土台1は、軽量化を図るため、枠状である。土台1上には、ばねA1~A4を介して基台2が設置される。ばねA1~A4は、土台1上の4隅に配置し、基台2の4隅を下から支持することができる。なお、ばねA1~A4は縦揺れを吸収し、電動アクチュエータD1、D2の制振動作を補助することができる。なお、土台1およびばねA1~A4はなくてもよい。
【0054】
基台2上には、電動アクチュエータD1、D2が直立した状態で離間して設置される。電動アクチュエータD1、D2は、ボールねじのねじ軸を第3軸Zの方向に直動運動させることで、縦揺れを吸収することができる。基台2は、軽量化を図るため、枠状である。電動アクチュエータD1、D2は、基台2の対向する2辺2a、2bの中央に配置することができる。各電動アクチュエータD1、D2には、ばねB1、B2が直立した状態で付加される。各ばねB1、B2は、各電動アクチュエータD1、D2を螺旋状に取り巻くように配置してもよい。
【0055】
電動アクチュエータD1、D2上には、傾斜用アクチュエータK1、K2を介して枠3が設置される。ここで、傾斜用アクチュエータK1、K2は、第1軸Xの周りに枠3を傾けることができる。傾斜用アクチュエータK1、K2は、枠3の対向する2辺3a、3bの外側の中央に配置することができる。各傾斜用アクチュエータK1、K2は、ジンバル機構J1、J2およびモータM1、M2を備える。各ジンバル機構J1、J2の回転軸R1、R2には、モータM1、M2が搭載(接続)される。各回転軸R1、R2は、第1軸Xの方向に枠3に挿入され、枠3に固定される。各傾斜用アクチュエータK1、K2は、支持部材F1、F2を介して電動アクチュエータD1、D2上に固定される。各支持部材F1、F2は、各ジンバル機構J1、J2の外周面を取り巻くようにして各ジンバル機構J1、J2を電動アクチュエータD1、D2上に固定することができる。
【0056】
枠3の内側には、傾斜用アクチュエータK3、K4を介してプレート4が設置される。プレート4の法線方向は第3軸Zの方向に設定することができる。ここで、傾斜用アクチュエータK3、K4は、第2軸Yの周りに枠3を傾けることができる。傾斜用アクチュエータK3、K4は、枠3の対向する2辺3c、3dの外側の中央に配置することができる。各傾斜用アクチュエータK3、K4は、ジンバル機構J3、J4およびモータM3、M4を備える。各ジンバル機構J3、J4の回転軸R3、R4には、モータM3、M4が搭載(接続)される。各回転軸R3、R4は、第2軸Yの方向に枠3を貫通してプレート4の側面4c、4dに挿入され、プレート4に固定される。
【0057】
なお、土台1、基台2、枠3およびプレート4の材料は、強度を確保するため、アルミニウムなどの金属またはジュラルミンなどの合金であってもよいし、軽量化を図るため、樹脂であってもよいし、これらを組み合わせてもよい。
【0058】
図1の対象物13を搬送する場合、制振機構24Aは搬送装置12上に設置され、対象物13はプレート4上に置かれる。
図1のセンサ21は、プレート4または対象物13の運動に関する物理量を検出する。
図1のセンサ21は、土台1の運動に関する物理量も合わせて検出してもよい。運動に関する物理量は、例えば、速度、角速度、加速度、変位、距離およびトルクなどである。
【0059】
そして、対象物13の搬送時において、制御部26は、センサ21の検出値に基づいてモータM1~M4を制御し、プレート4に加わる回転力および遠心力が打ち消される方向にトルクが印加されるとともに、搬送装置12の傾斜に対してプレート4が水平に保たれるようにジンバル機構J1~J4の回転軸R1~R4を回転させる。制御部26は、各傾斜用アクチュエータK1~K4をフルアクティブ制御することにより、制振対象に加わる回転力だけではなく、搬送装置12の傾斜およびカーブ等の曲線部の走行時の遠心力についても制振制御可能である。また、制御部26は、センサ21の検出値に基づいて電動アクチュエータD1、D2を制御し、対象物13にかかる垂直方向の振動加速度が打ち消される方向に推力を発生させる。
【0060】
これにより、プレート4の周囲に傾斜用アクチュエータK1~K4を配置し、プレート4下に電動アクチュエータD1、D2を配置しつつ、対象物13の縦揺れおよび横揺れとともに、傾きも低減することができる。このため、対象物13をプレート4上に配置するためのスペースを確保することが可能となるとともに、搬送時の様々の状況に対応しつつ、対象物13の搬送時の安定性を向上させることができる。
【0061】
例えば、制御部26は、第1軸Xの方向の横揺れを制振する場合、その横揺れが吸収されるようにモータM3、M4を協調制御することができる。モータM3、M4の協調制御では、第1軸Xの方向の横揺れが吸収されるように、同一の回転数で同一の角度だけモータM3、M4を同時に回転させることができる。
また、制御部26は、第2軸Yの方向の横揺れを制振する場合、その横揺れが吸収されるようにモータM1、M2を協調制御することができる。モータM1、M2の協調制御では、第2軸Yの方向の横揺れが吸収されるように、同一の回転数で同一の角度だけモータM1、M2を同時に回転させることができる。
【0062】
また、制御部26は、第3軸Zの方向の縦揺れを制振する場合、その縦揺れが吸収されるように電動アクチュエータD1、D2を協調制御することができる。電動アクチュエータD1、D2の協調制御では、第3軸Zの方向の縦揺れが吸収されるように、同一の速度で同一の変位だけ電動アクチュエータD1、D2を同時に直動運動させることができる。
【0063】
また、回生制御装置25は、振動により逆作動したモータM1~M4および電動アクチュエータD1、D2の回転エネルギー(振動エネルギー)を回生エネルギーに変換し蓄積する。なお、回生動作は、制御部26が制振制御を行っている場合でも可能であるし、制御部26が制振制御を行っていない場合でも可能である。エネルギーを蓄える蓄積箇所は、搬送装置12のバッテリでもよいし、バッテリを別途用意しサーボモータ駆動用に還元してもよい。また、回生制御装置25は、回生抵抗を利用し、傾斜用アクチュエータK1~K4および電動アクチュエータD1、D2にダンピング効果を持たせてもよく、ダンパの代替として運用してもよい。
【0064】
なお、ねじりコイルばねまたはロータリダンパ等を回転軸R1~R4に取付けることでばね・マス・ダンパ系を構築し、制振効果を向上させることもできる。サーボオフ時にはパッシブ制振を行えるようにもなる。また、電動アクチュエータD1、D2の出力軸にばねB1、B2を組み込み、サーボオフ時にダンパ機能を持たせることにより、1つのアクチュエータで、ばね・ダンパ・フルアクティブ制御の3機能を補うことができる。このような構成により、制振装置11の部品点数の削減、コンパクト化およびコストダウンを図ることが可能となるとともに、回生抵抗の制御によりセミアクティブダンパの代替とすることもできる。
【0065】
なお、
図2では、各傾斜用アクチュエータK1~K4にモータM1~M4を設けた例について示したが、傾斜用アクチュエータK1、K2のいずれか一方のモータM1、M2はなくてもよいし、傾斜用アクチュエータK3、K4のいずれか一方のモータM3、M4はなくてもよい。
【0066】
また、
図2では、制振機構24Aは、4個の傾斜用アクチュエータK1~K4と2個の電動アクチュエータD1、D2を備える例を示したが、制振機構24Aは、N(Nは正の整数)個の傾斜用アクチュエータと、M(Mは正の整数)個の電動アクチュエータを備えてもよい。
【0067】
また、制御部26は、電動アクチュエータD1、D2を同一の速度で同一の変位だけ同時に直動運動させることで、第3軸Zの方向の縦揺れを吸収させることができる。制御部26は、電動アクチュエータD1、D2の直動運動の速度または変位を互いに異ならせることで、第3軸Zの方向の縦揺れだけでなく第1軸Xの方向の横揺れも吸収できるようにしてもよい。制振機構24Aの枠3、ジンバル機構J3、J4およびモータM3、M4はなくてもよい。
【0068】
図3は、
図1の電動アクチュエータDの構成を示す断面図である。電動アクチュエータDは、
図2の電動アクチュエータD1、D2として用いることができる。
図3において、電動アクチュエータDは、回転運動を直動運動に変換し、軸方向に軸力を出力する。電動アクチュエータDは、ねじ軸51、ナット52、出力軸53およびコッタ54を備える。ねじ軸51およびナット52は、直動装置を構成するボールねじとして用いることができる。ねじ軸51は、モータ65などの駆動源から発生された回転力に基づいて回転運動を行う。ナット52は、ねじ軸51の回転運動をねじ軸51の軸方向の直線運動に変換する。出力軸53は、ナット52で変換された直線運動に基づいて軸力を出力する。出力軸53の形状は、例えば、円筒状である。出力軸53の内周面は、ナット52の外周面に沿うように構成することができる。ナット52は、ねじ軸51の外周面と出力軸53の内周面との間に設けることができる。
【0069】
コッタ54は、出力軸53をナット52に結合する結合部材として用いられる。コッタ54は、ねじ軸51の軸方向と直交する方向に出力軸53を貫通してナット52に対して抜き差し可能である。コッタ54は、ナット52に挿入された場合、出力軸53側に突出した状態でナット52にて支持される。コッタ54は、ナット52から出力軸53への軸力伝達部材として用いることができる。
【0070】
ねじ軸51は、ねじ溝51mを備える。ねじ溝51mは、ねじ軸51の外周面に螺旋状に設けられる。ナット52は、ねじ溝52mを備える。ねじ溝52mは、ねじ溝51mに対向するようにナット52の内周面に螺旋状に設けられる。ねじ溝51m、2mは、ねじ軸51とナット52との間に螺旋状のボール転動路を形成する。
【0071】
ねじ軸51、ナット52、出力軸53およびコッタ54の材料は、剛体であれば特に限定されるものでなく、例えば、鉄またはアルミニウム合金などの金属でもよく、セラミックなどの非金属であってもよい。各ねじ溝51m、52mの断面形状は、例えば、円弧上であってもよいし、ゴシックアーク状であってもよい。
【0072】
電動アクチュエータDは、軸受55をさらに備える。軸受55は、出力軸53を内包するハウジングに対して直線運動自在に出力軸53を支持する。軸受55は、例えば、滑り軸受である。軸受55は、出力軸53の外周面に固定することができる。軸受55の材料は、例えば、樹脂である。
【0073】
ねじ軸51の一端は、ギア63に接続される。ギア63は、軸受61を介して回転自在にハウジング62に支持されるとともに、ギア固定ナット64にて軸方向に固定されている。軸受61は、例えば、アンギュラ玉軸受である。ギア63は、減速段66を介してモータ65に接続される。モータ65の巻線は、
図1のECU23に接続される。
【0074】
モータ65から発生された回転力は、減速段66を介して減速された後、ギア63を介してねじ軸51に入力され、ねじ軸51が回転される。ねじ軸51が回転すると、ねじ軸51とナット52との間のボールが不図示のボール循環器を介してボール転動路を循環しつつ、ナット52が直動運動する。そして、ナット52の直動運動に基づく軸力は、コッタ54を介して出力軸53に伝達され、出力軸53を介して出力される。そして、
図1のプレート4は、出力軸53を介して出力される軸力に基づいて、垂直方向に直動運動することができる。
【0075】
図4は、対象物13に加速度が加わった状態の一例を示す側面図である。なお、
図4では、
図2のプレート4上に対象物13が置かれているときのジンバル機構J3の部分を拡大して示した。搬送装置12は水平面を走行しているとする。
【0076】
図4において、対象物13に加速度FAが加わった時、回転軸R3には対象物13の重心から回転軸R3までの距離と加速度の積に相当するトルクFBが回転軸R3に加わる。制御部26は、そのトルクFBを加速度センサ、トルクセンサまたはジャイロセンサ等で算出し、そのトルクFBが打ち消される方向のトルクがかかるように、モータM3、M4を制御する。
【0077】
図5は、対象物13に加速度が加わった状態のその他の例を示す側面図である。なお、
図5では、
図2のプレート4上に対象物13が置かれているときのジンバル機構J3の部分を拡大して示した。搬送装置12は水平面を走行しているとする。
【0078】
図5において、対象物13に加速度FCが加わったものとする。センサ21は、対象物13に加わった加速度FCを検出する。そして、制御部26は、対象物13に加わる重力FDと加速度FCにより発生する力の合力FEが垂直方向と成す角度Pだけプレート4を傾ける。制御部26は、合力FEに垂直になるようにプレート4を傾斜させることで対象物13に対して横向きにかかるような加速度をなくすことができ、培養液などのこぼれを防止することができる。
【0079】
図6は、搬送装置12の走行面5が傾斜しているときの対象物13の状態を示す側面図である。なお、
図6では、
図2のプレート4上に対象物13が置かれているときのジンバル機構J3の部分を拡大して示した。
【0080】
図6において、
図1の搬送装置12は傾斜面(走行面5)を走行している。センサ21は、走行面5の傾斜角を検出する。そして、制御部26は、モータM3、M4を制御し、走行面5の傾斜角と同じ角度だけプレート4を傾斜させることで、プレート4を水平に維持することができる。
【0081】
図7は、
図1の制御部26のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図7において、制御部26は、プロセッサ101、通信制御デバイス102、通信インタフェース103、主記憶デバイス104、補助記憶デバイス105および入出力インタフェース107を備える。プロセッサ101、通信制御デバイス102、通信インタフェース103、主記憶デバイス104、補助記憶デバイス105および入出力インタフェース107は、内部バス106を介して相互に接続されている。主記憶デバイス104および補助記憶デバイス105は、プロセッサ101からアクセス可能である。
【0082】
また、制御部26の外部には、インバータ111およびセンサ112が設けられている。インバータ111およびセンサ112は、入出力インタフェース107を介して内部バス106に接続される。
【0083】
インバータ111は、プロセッサ101からの指令に基づいて、モータの駆動電流を生成する。インバータ111は、例えば、モータをPWM(Pulse Width Modulation)制御することができる。センサ112は、例えば、角度センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ、トルクセンサまたは変位計であり、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0084】
プロセッサ101は、制御部26全体の動作制御を司るハードウェアである。プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)を含んでよい。また、プロセッサ101はGPU(Graphics Processing Unit)を含んでもよい。プロセッサ101は、シングルコアプロセッサであってもよいし、マルチコアプロセッサであってもよい。プロセッサ101は、処理の一部を行うアクセラレータなどのハードウェア回路(例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)またはASIC(Application Specific Integrated Circuit))を備えていてもよい。プロセッサ101は、ニューラルネットワークとして動作してもよい。
【0085】
主記憶デバイス104は、例えば、SRAM(Static Random Access Memory)またはDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの半導体メモリから構成することができる。主記憶デバイス104には、プロセッサ101が実行するプログラムを格納したり、プロセッサ101がプログラムを実行するためのワークエリアを設けたりすることができる。
【0086】
補助記憶デバイス105は、大容量の記憶容量を備える記憶デバイスであり、例えば、ハードディスク装置またはSSD(Solid State Drive)である。補助記憶デバイス105は、各種プログラムの実行ファイルおよびプログラムの実行に用いられるデータを保持することができる。補助記憶デバイス105には、制振プログラム105Aを格納することができる。制振プログラム105Aは、制御部26にインストール可能なソフトウェアであってもよいし、制御部26にファームウェアとして組み込まれていてもよい。
【0087】
通信制御デバイス102は、外部との通信を制御する機能を備えるハードウェアである。通信制御デバイス102は、通信インタフェース103を介してネットワーク109に接続される。ネットワーク109は、インターネットまたはWAN(Wide Area Network)であってもよい。また、ネットワーク109は、WiFiまたはイーサネット(登録商標)などのLAN(Local Area Network)であってもよい。また、ネットワーク109は、インターネットとWANとLANが混在していてもよい。
【0088】
入出力インタフェース107は、センサ112から入力されるデータをプロセッサ101が処理可能なデータ形式に変換したり、プロセッサ101から出力されるデータをインバータ111が処理可能な信号形式に変換したりする。
【0089】
プロセッサ101が制振プログラム105Aを主記憶デバイス104に読み出し、制振プログラム105Aを実行することにより、
図2の傾斜用アクチュエータK1~K4および電動アクチュエータD1、D2をアクティブ制御し、制振対象の縦揺れ、横揺れおよび傾きを低減することができる。
【0090】
なお、制振プログラム105Aの実行は、複数のプロセッサやコンピュータに分担させてもよい。あるいは、プロセッサ101は、ネットワーク109を介してクラウドコンピュータなどに制振プログラム105Aの全部または一部の実行を指示し、その実行結果を受け取るようにしてもよい。
上記したように、本実施形態によれば、振動方向に応じた制振の制御性を向上させることができる。
なお、電動アクチュエータD1、D2は、制振機構24Aから取り外し可能であってもよい。例えば、縦揺れの制振が必要ない場合などに、電動アクチュエータD1、D2は、制振機構24Aから取り外してもよい。
【0091】
第2実施形態
本発明の第2実施形態について、
図8を用いて説明する。第1実施形態と同様な構成には同じ符号を付けて、詳細な説明を省略する。
図8は、第2実施形態に係る制振機構24Bの構成を示す斜視図である。
第2実施形態の制振機構24Bは、第1実施形態(
図2)の制振機構24Aと比較すると、電動アクチュエータD1、D2を有していない。第2実施形態では、基台2上に、電動アクチュエータD1、D2を介在させることなく、傾斜用アクチュエータK1、K2を介して枠3が設置される。また、各傾斜用アクチュエータK1、K2は、支持部材F1、F2を介して基台2上に固定される。
【0092】
電動アクチュエータD1、D2は、縦揺れの制振が必要ない場合などには不要となる。電動アクチュエータD1、D2を有さない制振機構24Bは、
図1の制振機構24Aと比べて、小型且つ軽量となる。制振機構24Bは小型であるので、制振機構24Bの設置に必要なスペースを減少させることが可能となる。
【0093】
第3実施形態
本発明の第3実施形態について、
図9を用いて説明する。第1実施形態と同様な構成には同じ符号を付けて、詳細な説明を省略する。
図9は、第3実施形態に係る制振機構24Cの構成を示す斜視図である。
第2実施形態の制振機構24Cは、第1実施形態(
図2)の制振機構24Aの枠3、プレート4、電動アクチュエータD1、D2および傾斜用アクチュエータK1~K4の代わりにプレート4´および電動アクチュエータD1~D3を有している。
【0094】
図9に示したように、基台2上には、電動アクチュエータD1~D3が直立した状態で離間して設置される。電動アクチュエータD1~D3は、ボールねじのねじ軸を第3軸Zの方向に直動運動させることで、縦揺れ、横揺れおよび傾きを吸収することができる。電動アクチュエータD1~D3は、基台2の辺2bの両端および辺2aの中央に配置されている。各電動アクチュエータD1~D3には、ばねB1~B3が直立した状態で付加される。各ばねB1~B3は、各電動アクチュエータD1~D3を螺旋状に取り巻くように配置してもよい。
【0095】
電動アクチュエータD1~D3上には、プレート4´が設置される。ここで、プレート4´の法線方向は第3軸Zの方向に設定することができる。電動アクチュエータD1~D3は、プレート4´の下面42を3か所で支持することができる。
【0096】
図1の対象物13を搬送する場合、制振機構24Cは搬送装置12上に設置され、対象物13はプレート4´上に置かれる。
図1のセンサ21は、プレート4´または対象物13の運動に関する物理量を検出する。
【0097】
そして、対象物13の搬送時において、制御部26は、センサ21の検出値に基づいて電動アクチュエータD1~D3を制御し、プレート4´に加わる回転力および遠心力が打ち消されるとともに、搬送装置12の傾斜に対してプレート4が水平に保たれるように電動アクチュエータD1~D3を直動運動させる。また、制御部26は、センサ21の検出値に基づいて電動アクチュエータD1~D3を制御し、対象物13にかかる垂直方向の振動加速度が打ち消される方向に推力を発生させる。
【0098】
これにより、プレート4´下に電動アクチュエータD1~D3を配置しつつ、対象物13の縦揺れおよび横揺れとともに、傾きも低減することができる。このため、制振機構24Cの設置に必要なスペースの増大を抑制しつつ、対象物13をプレート4´上に配置するためのスペースを確保することが可能となるとともに、搬送時の様々の状況に対応しつつ、対象物13の搬送時の安定性を向上させることができる。プレート4´の上面41の面積は、プレート4の上面40の面積より大きい。
【0099】
例えば、制御部26は、第1軸Xの方向の横揺れを制振する場合、その横揺れが吸収されるように電動アクチュエータD1~D3を協調制御することができる。また、制御部26は、第2軸Yの方向の横揺れを制振する場合、その横揺れが吸収されるように電動アクチュエータD1~D3を協調制御することができる。また、制御部26は、第3軸Zの方向の縦揺れを制振する場合、その縦揺れが吸収されるように電動アクチュエータD1~D3を協調制御することができる。制御部26は、プレート4´の横揺れ、揺れおよび傾きが同時に吸収されるようにするために、電動アクチュエータD1~D3の操作量を個別に設定し、電動アクチュエータD1~D3の直動運動の速度または変位を互いに異ならせることができる。例えば、電動アクチュエータD2側に下り傾斜がある走行面上でプレート4´の縦揺れを吸収するものとする。この場合、制御部26は、電動アクチュエータD2の出力軸の突出量を電動アクチュエータD1、D3の出力軸の突出量を大きくした状態で、プレート4´の縦揺れに合わせて電動アクチュエータD1~D3を直動運動させることにより、プレート4´を水平に維持しつつ、プレート4´の縦揺れを低減させることができる。
【0100】
なお、
図9では、制振機構24Cは、3個の電動アクチュエータD1~D3を備える例を示したが、4個以上の電動アクチュエータを備えてもよい。
【0101】
第4実施形態
本発明の第4実施形態について、
図10及び
図11を用いて説明する。第1実施形態と同様な構成には同じ符号を付けて、詳細な説明を省略する。
図10に示すように、本実施形態の対象物13Aは、縦長の物体である。対象物13Aの重心Gはプレート4の回転軸R3から大きく離れている。
図10のような場合、対象物13Aの動特性およびプレート傾斜時の過渡特性を考慮して、プレート4を傾斜させる制御を行うことが好ましい。対象物13Aの動特性およびプレート傾斜時の過渡特性を考慮せずに制御を行うと、次のような事象が発生する可能性がある。
<対象物13Aの動特性を考慮しない場合>
対象物13Aの共振周波数で対象物13Aに加速度aが作用すると、対象物13Aの揺れがプレート4の目標傾斜角より大きくなり対象物13Aが倒れてしまう可能性がある。<プレート傾斜時の過渡特性を考慮しない場合>
大きな周波数(高周波)で加速度が対象物13Aに作用すると、プレート4を傾斜させる際の角加速度も大きくなるのでプレート4の回転中心軸R3に対して対象物重心Gの接線方向に大きな力が加わる。また、重心Gと回転軸R3の間の距離(重心距離r)が大きいほどこの力は大きくなる。これを考慮して傾斜角度を算出しないと対象物13Aは倒れてしまう。
【0102】
本実施形態では、このような事象を発生させない制振を行う。
図10は、プレート4を傾斜させた際に、対象物13Aに加わる加速度を示している。対象物13Aには外力による加速度aと、重力加速度gと、傾斜時の角加速度による加速度(θを2度微分したもの)が作用している。本実施形態では、対象物13Aに対して水平方向に上記した加速度を成分分解したとき、当該水平方向成分の合計がゼロとなるように目標傾斜角を算出して制御(制振)を行う。つまり、式(1)に示した計算式を満たすように制御を行う。
【数1】
…(1)
【0103】
θは微小として式(1)を線形近似すると、式(2)のようになる。
【数2】
…(2)
【0104】
式(2)をラプラス変換しθについて解くことで目標傾斜角θ
refを算出する。また、制御精度を高めるため、対象物13Aの粘性係数dを導入する。粘性係数dは実機で調整するパラメータである。
【数3】
…(3)
【0105】
式(3)を見ると右辺の第2項は二次遅れ系の伝達関数となっており、これが対象物13Aの動特性であることが分かる。このとき、対象物13Aの共振周波数f[Hz]は式(4)のようになる。
【数4】
…(4)
【0106】
式(3)及び(4)は、外力の加速度aの周波数が共振周波数f付近になると対象物13Aの揺れが大きくなるので傾斜角も大きくしなければならないことを示している。また、共振周波数fを超えるような高周波で加速度が作用すると、プレート4の角加速度も大きくなっていくため傾斜角を小さくする必要があることも式(3)から分かる。
【0107】
以上のような特性を踏まえると、目標傾斜角に対してモータ角度をフィードバック制御する場合、制御ブロックは
図11のようになることが好ましい。本実施形態では、制御部26が
図11に示した制御ブロックを採用して、傾斜用アクチュエータKの動作を制御する。よって、制振対象物13Aの重心Gがプレート4の回転軸R3から大きく離れている場合であっても、制振対象物13Aの動特性およびプレート傾斜時の過渡特性を考慮し,傾斜用アクチュエータKの制御を実行することができる。その結果、本実施形態の制振装置は、高い制振効果を発揮することができる。
【0108】
変形例1
なお、対象物13Aの共振周波数fを機械的に避けたい場合は、
図12に示すように、制振機構24Aに、共振周波数f周辺の帯域を免振できる免振テーブル120を組み合わせてもよい。この場合、想定される共振周波数fは数Hz程度である。
図12では、免振テーブル120を土台1の下に設けている。
また、制御部26の制御帯域が小さい場合、免振テーブル120を設置すれば、搬送装置12の急発進や急停止で起こる急激な速度変化や衝突などで起こる衝撃加速度のような高周波帯域もカットできるため、制振効果を向上することができる。この場合、制御に用いる加速度は免振後の加速度である。よって、外力による加速度を検知するセンサ21は免振テーブル120の上面に設置する。
【0109】
上記したように、変形例1によれば、第1実施形態の制振装置11に免振テーブル120を追加することで、制振対象物13Aの共振周波数や高周波な加速度を免振しながら縦揺れ及び横揺れをフルアクティブに制振できる。
【0110】
変形例2
傾斜用アクチュエータKの構成は上記したものに限定されない。例えば、ジンバル機構J1~J4の回転軸R1~R4に設けられたモータM1~M4として、サーボモータを採用してよい。つまり、回転軸R1~R4にサーボモータを取り付けて回転角度をフルアクティブに制御してもよい。また、回転軸R1~R4にねじりコイルばねやロータリダンパ等を取付けもよい。回転軸R1~R4にねじりコイルばねやロータリダンパ等を取付けることで、ばね・マス・ダンパ系を構築し,制振効果を向上させることができる。また、サーボオフ時にはパッシブ制振を行うことができる。
【0111】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0112】
11 制振装置、12 搬送装置、13 対象物、14 電源、21 センサ、22 制振制御装置、23 ECU、24A 制振機構、25 回生制御装置、26 制御部、27 蓄電デバイス、K 傾斜用アクチュエータ、D 電動アクチュエータ、B パッシブ機構