(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023018692
(43)【公開日】2023-02-09
(54)【発明の名称】希釈型潤滑剤
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20230202BHJP
C10M 131/04 20060101ALI20230202BHJP
C10M 133/48 20060101ALI20230202BHJP
C10M 135/34 20060101ALI20230202BHJP
C10M 129/12 20060101ALI20230202BHJP
C10M 107/50 20060101ALI20230202BHJP
C10M 105/50 20060101ALI20230202BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230202BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230202BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20230202BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M131/04
C10M133/48
C10M135/34
C10M129/12
C10M107/50
C10M105/50
C10N30:06
C10N30:00 A
C10N40:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021122847
(22)【出願日】2021-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】井出 優希
(72)【発明者】
【氏名】用田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 洋介
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB05C
4H104BD02C
4H104BE31C
4H104BG18C
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104LA03
4H104LA11
4H104PA01
(57)【要約】
【課題】溶解性、潤滑性及び視認性に優れる低GWP溶剤を用いた希釈型潤滑剤を提供することが目的である。
【解決手段】本発明における希釈型潤滑剤は、基油と、蛍光剤と、フッ素系溶剤と、を含有し、前記フッ素系溶剤は、前記基油及び前記蛍光剤を溶解可能であり、ハイドロクロロフルオロオレフィンを含むことを特徴とする。本発明では、前記フッ素系溶剤のGWPは、30未満であることが好ましい。前記蛍光剤は、オキサゾール系、或いはクマリン系を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、蛍光剤と、フッ素系溶剤と、を含有し、
前記フッ素系溶剤は、前記基油及び前記蛍光剤を溶解可能であり、ハイドロクロロフルオロオレフィンを含むことを特徴とする希釈型潤滑剤。
【請求項2】
前記フッ素系溶剤のGWPは、30未満であることを特徴とする請求項1に記載の希釈型潤滑剤。
【請求項3】
前記蛍光剤は、オキサゾール系、或いはクマリン系を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の希釈型潤滑剤。
【請求項4】
前記基油は、合成炭化水素油、シリコーン油、及びフッ素油のうち少なくともいずれか1種を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の希釈型潤滑剤。
【請求項5】
前記基油と前記フッ素系溶剤とを足して100質量%としたとき、前記フッ素系溶剤は、60質量%以上99.5質量%以下の範囲で含まれることを特徴とする請求項4に記載の希釈型潤滑剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低GWP溶剤を用いた希釈型潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基油を溶剤で希釈した希釈型潤滑剤が知られている。これにより、基油の使用量が少なくて済みコスト低減につながる。希釈型潤滑剤を部材に塗布した後、溶剤が蒸発すると、薄い潤滑性被膜が形成される。この潤滑性被膜は基油の潤滑特性を備えるものの、非常に薄いために視認性が悪い。このため、特許文献1に記載の発明では、蛍光剤を添加しており、これにより、視認性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、地球温暖化への懸念の高まりから、溶媒の地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential)は、低いことが好ましい。特許文献1に記載の発明では、低GWP溶媒として、ハイドロフルオロエーテル(HFE)やハイドロフルオロカーボン(HFC)を挙げているが(特許文献1の段落[0039]参照)、更なる低GWP溶媒が求められる。
【0005】
また、HFEやHFCに代わる低GWP溶媒を用いた際、基油或いは蛍光剤の溶解性が低下し、溶け残りが懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、溶解性、潤滑性及び視認性に優れる低GWP溶剤を用いた希釈型潤滑剤を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における希釈型潤滑剤は、基油と、蛍光剤と、フッ素系溶剤と、を含有し、前記フッ素系溶剤は、前記基油及び前記蛍光剤を溶解可能であり、ハイドロクロロフルオロオレフィンを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明では、前記フッ素系溶剤のGWPは、30未満であることが好ましい。
本発明では、前記蛍光剤は、オキサゾール系、或いはクマリン系を含むことが好ましい。
【0009】
本発明では、前記基油は、合成炭化水素油、シリコーン油、及びフッ素油のうち少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。
【0010】
本発明では、前記基油と前記フッ素系溶剤とを足して100質量%としたとき、前記フッ素系溶剤は、60質量%以上99.5質量%以下の範囲で含まれることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の希釈型潤滑剤によれば、フッ素系溶剤に、ハイドロクロロフルオロオレフィンを用いることで、HFEやHFCよりも低GWPを実現できるとともに、優れた溶解性、及び潤滑性を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態(以下、「実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、「~」の表記は、下限値及び上限値の双方を範囲として含む。
【0013】
<本実施形態に至る経緯>
従来、家電製品や機械装置等の摺動部に用いられた希釈型潤滑剤は、基油や固体成分を溶剤で希釈したものである。溶剤は、フッ素系溶剤であり、例えば、ハイドロフルオロエーテル(HFE)やハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)が使用される。
【0014】
しかしながら、これらフッ素系溶剤のGWP(100年値)は、低くても56程度であり、更に低いGWPが求められた。また不燃性であることが必要である。更には、フッ素系溶剤により、基油や固体成分が適切に溶解されて、溶剤蒸発後に基油や固体成分の均一な薄膜が生成されることにより、優れた潤滑性が得られなければならない。
【0015】
そこで、本発明者らは、基油と、蛍光剤と、フッ素系溶剤とを含有する希釈型潤滑剤について鋭意研究を重ねた結果、フッ素系溶剤に、ハイドロクロロフルオロオレフィンを用いることで、低GWP、優れた溶解性及び潤滑性を実現できるに至った。
【0016】
<本実施形態の希釈型潤滑剤>
本実施形態における希釈型潤滑剤は、基油と、蛍光剤と、フッ素系溶剤と、を含有し、フッ素系溶剤は、基油及び蛍光剤を溶解可能であり、ハイドロクロロフルオロオレフィンを含むことを特徴とする。
【0017】
このように、本実施形態の希釈型潤滑剤に適用するフッ素系溶剤は、ハイドロクロロフルオロオレフィンであるから、不燃性であり、低GWPである。このため、環境負荷を低減することができる。
【0018】
本実施形態の希釈型潤滑剤は、フッ素系溶剤により、基油及び蛍光剤を溶解でき溶け残りを抑制できる。具体的には、フッ素系溶剤の選定や配合により、基油及び蛍光剤を適切に溶解することができる。また、希釈型潤滑剤では、基油の使用量が少なくて済みコスト低減につながる。
【0019】
また、本実施形態の希釈型潤滑剤は、蛍光剤を含む。これにより、希釈型潤滑剤を、部材表面に塗布し、溶剤が蒸発した薄い潤滑性被膜において、UV照射により発光し、良好な視認性を得ることができる。
【0020】
(フッ素系溶剤)
本実施形態に使用されるフッ素系溶剤は、基油及び蛍光剤を溶解可能なハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)を含む。本実施形態に適用できるハイドロクロロフルオロオレフィンは、セレフィン(登録商標)1233Z(本町化学工業社製)、或いは、アモレア(登録商標)AS-300(AGC社製)であることが好ましい。
【0021】
セレフィン 1233Zの化学式は、CF3CH=CHCl(1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)であり、アモレア AS-300の化学式は、CHF2CF=CHCl(1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン)である。
【0022】
本実施形態では、フッ素系溶剤のGWP(100年値)は、30未満であることが好ましく、10未満であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましく、1以下であることが更により好ましい。なお、本明細書に記載のGWPは全て100年値である。本実施形態のフッ素系溶剤のGWPは、HFE(例えば、GWPは、56~1000程度)やHFC(例えば、GWPは、136~2000程度)よりも低く、環境負荷を効果的に低減できる。
【0023】
フッ素系溶剤は、ハイドロクロロフルオロオレフィン以外の溶剤を含んでいてもよく、ハイドロクロロフルオロオレフィンと、ハイドロクロロフルオロオレフィン以外の溶剤とを合わせたGWPが30未満であればよい。セレフィン 1233Z及び、アモレア AS-300は、いずれもGWPが1以下であり、極めて低いGWPを有している。なお、ハイドロクロロフルオロオレフィン以外の溶剤のGWPが30以上であっても、ハイドロクロロフルオロオレフィンと混合したことで、フッ素系溶剤のGWPを30未満にできれば、本実施形態の範囲に含まれる。
【0024】
(基油)
本実施形態に使用される基油は、合成炭化水素油、シリコーン油、及びフッ素油のうち少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。限定するものではないが、例えば、合成炭化水素油としては、スペクトラシン4(エクソンモービル社製)、ルーカントHC-10(三井化学社製)、シリコーン油としては、KF96-20CS(信越化学工業社製)、KF50-100CS(信越化学工業社製)、フッ素油としては、FOMBLIN(登録商標)Y06(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)、FOMBLIN M03(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)、DEMNUM(登録商標) S-65(ダイキン工業社製)、KRYTOX(登録商標) GPL103(ケマーズ社製)を適用することができる。また、基油の動粘度は限定しないが、40℃粘度が500mm2/s以下であることが好ましく、100mm2/s以下であることがより好ましく、50mm2/s以下であることが更に好ましい。薄膜潤滑膜は低荷重条件で使用することが多く、低粘度の油を用いることで、優れた潤滑性および溶剤への溶解性を両立することができる。
【0025】
本実施形態では、基油とフッ素系溶剤とを足して100質量%としたとき、フッ素系溶剤は、60質量%以上99.5質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、70質量%以上99.5質量%以下の範囲で含まれることがより好ましく、80質量%以上99質量%以下の範囲で含まれることが更に好ましい。これにより、基油をフッ素系溶剤に適切に溶解させることができる。
【0026】
(蛍光剤)
本実施形態に使用される蛍光剤は、オキサゾール系、或いはクマリン系を含むことが好ましい。オキサゾール系、及びクマリン系の両方を含んでいてもよい。
【0027】
限定するものではないが、オキサゾール系、及びクマリン系の蛍光剤としては、以下の表1に示す蛍光剤A~蛍光剤Dを使用することが好ましい。
【0028】
【0029】
上記の蛍光剤A~Dから2種以上選択することもできる。また、限定するものではないが、蛍光剤とフッ素系溶剤とを足して100質量%としたとき、フッ素系溶剤は、95.00質量%以上99.99質量%以下の範囲で含まれることが好ましく、99.00質量%以上99.99質量%以下の範囲で含まれることがより好ましく、99.50質量%以上99.99質量%以下の範囲で含まれることが更に好ましく、99.80質量%以上99.99質量%以下の範囲で含まれることが更により好ましい。
【0030】
(その他の添加物)
その他の添加剤としては、当該技術分野で既知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、極圧剤、固体潤滑剤、耐摩耗剤、増粘剤、油性剤、摩耗防止剤、構造安定剤、着色剤、洗浄分散剤、色相安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、或いは、界面活性剤等を含むことができる。これら添加剤を1種又は2種以上含むことができる。また、固体潤滑剤として、金属石けんや非石けんを添加することができる。限定するものではないが、金属石けんの例として、リチウム石けんや、カルシウム石けん、非石けんの例として、ウレア化合物や、PTFE、シリカなどを挙げることができる。また、これらを分散する目的で、フッ素化アクリル系ポリマーや、界面活性剤を添加することができる。
なお、本実施形態の希釈型潤滑剤は、基油と、蛍光剤と、フッ素系溶剤のみで構成することができる。
【0031】
<溶解性>
本実施形態では、ハイドロクロロフルオロオレフィンを含む低GWPのフッ素系溶剤を用いた際、基油及び蛍光剤の双方を適切に溶解できたことを実験により確認している。すなわち、本実施形態では、希釈型潤滑剤中に、基油及び蛍光剤の溶け残りが生じることを抑制できる。
【0032】
例えば、従来、フッ素系溶剤として使用したHFEを用いて、蛍光剤の溶解性を確認すると、表1に示す蛍光剤Bや蛍光剤Cは適切に溶解せずに一部溶け残りが生じたが、フッ素系溶剤にセレフィン 1233Zやアモレア AS-300を使用すると、蛍光剤A~蛍光剤Dのいずれに対しても溶解が可能である。また、合成炭化水素油、シリコーン油、及びフッ素油のうち少なくともいずれか1種を含む基油に対しても、フッ素系溶剤にセレフィン 1233Zやアモレア AS-300を使用することで適切に溶解が可能である。
【0033】
<潤滑性>
本実施形態の希釈型潤滑剤によれば、優れた潤滑性を得ることができる。潤滑性は、例えば、往復摺動試験による摩擦係数により評価することができる。例えば、静止摩擦係数μsは、0.3以下であり、0.25以下であることが好ましい。また、動摩擦係数μkは、0.1以下であり、0.07以下であることが好ましく、0.06以下であることがより好ましい。
【0034】
なお、摩擦係数は、蛍光剤の種類によっては、その添加により低下したことから、蛍光剤は潤滑性の向上に寄与しているものと考えられる。その傾向は、オキサゾール系に見られ、特に、蛍光剤B(1,2-ビス(5-メチル-2-ベンゾオキサゾリル)エチレン)の添加が好ましい。
【0035】
<用途>
限定するものではないが、本実施形態の希釈型潤滑剤は、家電製品や機械装置等の摺動部に適用される。摺動部の材質は、例えば、金属、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール等である。これら材質の潤滑目的で、本実施形態の希釈型潤滑剤を適用することができる。
所定の部材の表面に希釈型潤滑剤を塗布した後、溶剤の蒸発により、薄い潤滑性被膜を形成することができる。
<希釈型潤滑剤の製造方法>
本実施形態の希釈型潤滑剤の製造方法としては、溶剤、蛍光剤及び基油を含む希釈型潤滑剤を超音波洗浄機に静置し、或いは、混合、撹拌することができる。前者の場合、1分程度から10分程度静置し、その後、手で振るなどして混合し、この操作を数回繰り返すことが好ましい。また、後者の場合は、例えば、ディスパーにて撹拌することができる。
【実施例0036】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0037】
<蛍光剤への溶解性実験>
表2に示す配合による実施例1~実施例8の試料を用意した。実験で使用した蛍光剤A~蛍光剤Dは、表1に示した通りである。フッ素系溶剤には、セレフィン 1233Z、或いは、アモレア AS-300を使用した。実験では、蛍光剤A~蛍光剤Dのいずれか1種と、セレフィン 1233Z及び、アモレア AS-300のいずれか1種を配合して100質量%とした。
【0038】
実験では、各蛍光剤A~Dをセレフィン 1233Z或いは、アモレア AS-300に添加した試料を、超音波洗浄機(EYELA製「ULTRASONIC CLEANER MUS-40D」)にて10分間静置した。その後、試料を超音波洗浄機から取り出して手で振って混合させた。この操作を3回繰り返し、その後、蛍光剤A~Dの溶け残りの有無を確認した。溶け残りの有無は、目視で行った。その実験結果を以下の表2に示した。
【0039】
【0040】
表2に示すように、実施例1~実施例8のいずれにおいても、蛍光剤が溶解していることを確認できた。このように、フッ素系溶剤にセレフィン 1233Z或いは、アモレア AS-300を用いることで、いずれの蛍光剤A~Dも溶かすことができるとわかった。なお、蛍光剤の添加量は、0.01質量%~0.1質量%程度であることが好ましいとわかった。
【0041】
次に、表3に示す配合による比較例1~比較例4の試料を用意した。実験で使用した蛍光剤A~蛍光剤Dは、表1に示した通りである。フッ素系溶剤には、Novec(登録商標) 7100(3M社製)を使用した。実験では、蛍光剤A~蛍光剤Dのいずれか1種と、Novec 7100(3M社製)を配合して100質量%とした。その実験結果を以下の表3に示した。
【0042】
実験では、各蛍光剤A~Dを、Novec 7100(3M社製)に添加した試料を、超音波洗浄機(EYELA製「ULTRASONIC CLEANER MUS-40D」)にて10分間静置した。その後、試料を超音波洗浄機から取り出して手で振って混合させた。この操作を3回繰り返し、その後、蛍光剤A~Dの溶け残りの有無を確認した。溶け残りの有無は、目視で行った。その実験結果を以下の表3に示した。
【0043】
【0044】
表3に示すように、フッ素系溶剤にNovec 7100(3M社製)を用いた場合、蛍光剤Bや蛍光剤Cに溶け残りが生じた。また、比較例1や比較例4では、蛍光剤Aや蛍光剤Dを用いており、この場合は、蛍光剤の溶解を確認できた。しかしながら、Novec 7100(3M社製)のGWPは、297程度と高く、実施例に使用したセレフィン 1233Z及び、アモレア AS-300はいずれもGWPが1未満であった。
このように、表2及び表3から、低GWP溶剤にて蛍光剤を溶解できることがわかった。
【0045】
<基油への溶解性実験>
表4に示す配合による実施例9~実施例18の試料を用意した。実験で使用した基油は、スペクトラシン4(エクソンモービル社製)、KF96-20CS(信越化学工業社製)、FOMBLIN(登録商標)Y06(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)であった。実験では、上記3つの基油のいずれか1種と、セレフィン 1233Z及び、アモレア AS-300のいずれか1種を配合して100質量%とした。
【0046】
実験では、各基油をセレフィン 1233Z或いは、アモレア AS-300に添加した試料を、超音波洗浄機(EYELA製「ULTRASONIC CLEANER MUS-40D」)にて1分間静置した。その後、基油の溶け残りの有無を確認した。溶け残りの有無は、目視で行った。その実験結果を以下の表4に示した。
【0047】
【0048】
表4に示すように、実施例9~実施例18のいずれにおいても、基油が溶解していることを確認できた。このように、フッ素系溶剤にセレフィン 1233Z或いは、アモレア AS-300を用いることで、いずれの基油も溶かすことができるとわかった。なお、基油の添加量は、1質量%~20質量%程度であることが好ましいとわかった。
【0049】
次に、表5に示す配合による比較例5~比較例8の試料を用意した。実験で使用した基油は、スペクトラシン4(エクソンモービル社製)、KF96-20CS(信越化学工業社製)、FOMBLIN(登録商標)Y06(ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン社製)であった。実験では、上記3つの基油のいずれか1種と、Novec 7100(3M社製)を配合して100質量%とした。
【0050】
実験では、各基油を、Novec 7100(3M社製)に添加した試料を、超音波洗浄機(EYELA製「ULTRASONIC CLEANER MUS-40D」)にて1分間静置した。その後、基油の溶け残りの有無を確認した。溶け残りの有無は、目視で行った。その実験結果を以下の表5に示した。
【0051】
【0052】
表5に示すように、フッ素系溶剤にNovec 7100(3M社製)を用いた場合、スペクトラシン4やKF96-20CSに溶け残りが生じた。FOMBLIN Y06は溶解したが、Novec 7100(3M社製)のGWPは、実施例で使用したセレフィン 1233Zや、アモレア AS-300に比べて非常に高い。
このように、表4及び表5から、低GWP溶剤にて基油を溶解できることがわかった。
【0053】
<潤滑性、蛍光視認性に関する実験>
次に、表6に示す配合による実施例19~実施例24の試料を用意した。実験では、表6に示す基油及び蛍光剤を、セレフィン 1233Z、或いは、アモレア AS-300に添加した試料を、超音波洗浄機(EYELA製「ULTRASONIC CLEANER MUS-40D」)にて10分間静置した。その後、試料を超音波洗浄機から取り出して手で振って混合させた。この操作を3回繰り返した。なお、表6に示すように、基油、蛍光剤及びフッ素系溶剤を合わせて100質量%となるように配合した。
潤滑性に関する実験には、静・動摩擦測定機(型式:TL201Tt、トリニティ-ラボ社製)を用いた。実験の条件は以下の通りである。
試験片(固定側):ポリアセタール球
試験片(摺動側):SPCC鋼板
荷重:500g
試験温度:25℃
摺動速度:10mm/sec
摺動幅:10mm
摺動回数:200回
【0054】
実験では、試験片(固定側)と試験片(摺動側)との間に、実施例19~実施例24の希釈型潤滑剤を塗布し、5分後、上記の条件に基づいて往復摺動試験を行い、静止摩擦係数μs及び動摩擦係数μkを測定した。
また、各試料に対し、UVを照射して発光状態(視認性)を調べた。その実験結果が表6に示されている。
【0055】
【0056】
表6に示すように、実施例19~実施例24の静止摩擦係数μsは、0.05~0.25程度であることがわかった。また、動摩擦係数μkは、0.025~0.06程度であることがわかった。これら摩擦係数は、試験片の間に希釈型潤滑剤を塗布せずに往復摺動試験をした場合に比べて大幅に低減することがわかった。また、実施例19~実施例24の静止摩擦係数μs及び動摩擦係数μkは、実際の製品に求められる摺動特性を満足し得る値であり、良好な潤滑性が得られることがわかった。
また、各実施例の希釈型潤滑剤に対してUV照射をし蛍光による視認性を確認したところ、全ての実施例で発光しており、良好な視認性を得ることができた。
【0057】
次に、表7に示す配合による比較例9~比較例11の試料を用意した。実験では、表7に示す基油を、セレフィン 1233Z、或いは、アモレア AS-300に添加した試料を、超音波洗浄機(EYELA製「ULTRASONIC CLEANER MUS-40D」)にて10分間静置した。その後、試料を超音波洗浄機から取り出して手で振って混合させた。この操作を3回繰り返した。表7に示すように、基油、とフッ素系溶剤を合わせて100質量%となるように配合した。
【0058】
比較例9~比較例11に関しては、蛍光剤を添加しなかった。また、下記の表7に示すように、潤滑性試験に関しては、試験片間に、希釈型潤滑剤を塗布せずに往復摺動試験を行った試料(blank)も併せて表示した。
【0059】
【0060】
表7に示すように、比較例9~比較例11の往復摺動試験は、いずれも静止摩擦係数μs及び動摩擦係数μkが低く、良好な潤滑性を得ることができたが、いずれの比較例も蛍光剤を添加しておらず、UV照射による視認性が悪いことがわかった。
【0061】
表6の実施例と、表7のblankとを対比すると、本実施例の希釈型潤滑剤を塗布することで、良好な視認性をとともに、潤滑性を十分に改善できることがわかった。また、蛍光剤の種類によっては、潤滑性の改善にも寄与するものと考えられる。例えば蛍光剤Bを添加した場合は、静止摩擦係数μs及び動摩擦係数μkがともに、蛍光剤を添加しない場合よりも改善されることがわかった。また、蛍光剤Dに関しても、蛍光剤を添加しない場合と比較して、静止摩擦係数μsが多少大きい結果が得られたが、動摩擦係数μkはほぼ同じであった。
本発明の希釈型潤滑剤によれば、HFEやHFCよりも低GWPを実現できるとともに、優れた溶解性、及び潤滑性を維持することができる。これにより、環境負荷を低減でき、家電製品や機械装置等の摺動部などに好ましく適用できる。